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特開2024-146654密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁
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  • 特開-密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146654
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
E04B2/56 622L
E04B2/56 622B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023068114
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591155242
【氏名又は名称】鹿児島県
(72)【発明者】
【氏名】福留 重人
(72)【発明者】
【氏名】中原 亨
(72)【発明者】
【氏名】上薗 剛
(72)【発明者】
【氏名】南 晃
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002HA02
2E002HB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】せん断耐力が高く、かつ初期剛性、及び壁倍率を高めることができる制震板壁を提供する。
【解決手段】1対の柱に形成された縦溝間に落とし込み、下端部から上端部に向けて積層され、少なくとも2枚の摺接可能な板材から形成された落とし込み板壁において、上下に積層される板材の、下層に位置する第1の板材の上辺と、上層に位置する第2の板材の下辺は互いに異なる方向に傾斜する傾斜面を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の柱に形成された縦溝間に落とし込み、下端部から上端部に向けて積層され、少なくとも2枚の摺接可能な板材から形成された落とし込み板壁において、
上下に積層される前記板材の、下層に位置する第1の板材の上辺と、上層に位置する第2の板材の下辺は互いに異なる方向に傾斜する傾斜面を有する
密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁。
【請求項2】
前記板材の側面の断面は矩形状であって、前記柱に形成された縦溝は平面視での断面の形状はU字状である
請求項1記載の密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁。
【請求項3】
前記板材は厚み方向に表板材と裏板剤とを重ねて形成された合板層を有し、前記表板材と前記裏板材の上辺同士または前記表板材と前記裏板材の下辺同士は互いに異なる方向に傾斜する傾斜面を有する
請求項1または請求項2に記載の密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁。
【請求項4】
前記板材の前記傾斜面の傾斜角は水平軸に対し0.01~0.03radの範囲である請求項1または請求項2に記載の密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物に使用する密着接合と側面傾斜構造を有する落とし込み板壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
落とし込み板壁は、例えば特許文献1に示すように、板状の木材を複数枚、溝の設けられた柱と柱の間に落とし込みながら壁面を構成する工法である。係る落とし込み板壁によれば、断熱性能、調湿性能、変形追従性能等を有していることから、住宅、社寺建築、穀物倉庫などの耐力壁として用いられている。この板壁は構造材が仕上材を兼ねており、建設の工期短縮に有効であることから災害時の応急仮設住宅に採用された事例や、解体や移築が可能であることから復興住宅として再利用された事例が報告されている。
【0003】
また、製材を建築物の構造用面材として使用することは、建築におけるCO2排出量抑制、炭素貯蔵量増加、シックハウス症候群対策等に効果があり、蓄積量が増加しているスギ材の有効活用手法として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-144621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、スギ板を用いた耐力壁は、水平荷重を受けた時の板材間のせん断耐力が低く、軸材との隙間により滑りが発生しやすいため、初期剛性が低い傾向がある。また、落とし込み板壁工法は板と柱との隙間による影響で初期剛性が低くなる事例もあるため、壁倍率が低く設定されている。壁倍率を高める対策として金具による板と柱の緊結や、桟による板の補強等が行われているが、解体や移築時における木材と金物の分別手間や、金具の孔や溝の欠き取り部に応力が集中した場合に生じる部材の脆性破壊等の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、落とし込み板壁工法における板材と柱の接合部の形状に関する検討を行い、水平荷重に対する耐力及び剛性の向上を試みた。
【0007】
板材の側面を交互に傾斜加工することにより、左右の水平力によって生じるせん断力を板材の横圧縮で抵抗させることで、板壁のせん断荷重に対する性能向上を図った。
【0008】
スギ製材のみで構成する構造用面材の性能を確保するために、板側面の実(さね)を圧縮して溝に差し込み後に復元させて緊結することで強度性能を向上させる手法等を試みた。板と柱の接合は、柱に加工した2列の丸溝に、板端部を加工した2列の突起部を落とし込む形式で、板と柱を密着させて接合することにより初期ガタの低減を図った。板材は、両端部の中央に溝を加工して2列の突起部を有する形状とした。柱は、面取カッターを用いて2列の丸溝を加工し、奥部が楕円形状の曲線部分で板側が直線部分の形状とした。板を落とし込む際に、板突起部を柱丸溝曲線部分にめり込ますことで、水平荷重に対する初期剛性の向上を図った。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、初期剛性が向上し、従来より高い壁倍率での強度計算が可能となる。また、金具や補強材に関わる施工や材料費の削減、建築期間の短縮化を図れ、解体や移設時に金具と木材を分別する手間が削減される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における落とし込み板壁の概要
図2】密着接合試験体における嵌合率の定義
図3】各嵌合率における板の寸法形状
図4】密着接合試験体の落込試験方法
図5】落込試験における荷重と変位の関係
図6】落込試験における性能の定義
図7】落込試験における嵌合率と性能の関係
図8】密着接合試験体の圧縮試験方法
図9】圧縮試験における荷重と変位の関係
図10】圧縮試験における性能の定義
図11】圧縮試験における嵌合率と性能の関係
図12】落込抵抗と圧縮性能の関係
図13】側面傾斜試験体における傾斜角の定義
図14】側面傾斜試験体のせん断試験方法
図15】せん断試験における荷重と変位の関係
図16】せん断試験における性能の定義
図17】せん断試験における傾斜角と性能の関係
図18】壁試験体の水平荷重試験方法
図19】壁試験体の水平荷重試験状況
図20】変位の測定方法
図21】水平荷重試験における加力スケジュール
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず図1を用いて本発明の制震板壁の全体的な構成について説明する。制震板壁は、一対の柱に形成された縦溝間に落とし込み、基端部から上端部に向けて互いにに摺接可能に積層された少なくとも2枚の板材から構成され、上下に位置する板材のうち、下層に位置する第1の板材の上辺と、該第1の板材の上層に位置する第2の板材の下辺とは、互いに異なる方向に傾斜する傾斜面を有する構成となっている。
以上の構成により、水平荷重に対する耐力の確保や初期剛性の向上に有効である。板材と軸材の接合部を密着構造にすることで初期の滑りを低減させ、剛性向上を図ることができる。密着接合の施工性を確認するために、図2に示すような柱丸溝の曲線部分と板突起部の重なる割合(以下、嵌合率)を0%、20%、40%、60%の4条件として落込試験を実施した。板の寸法形状を図3に示す。
落込試験は、図4に示す方法で柱を拘束して、板を柱の丸溝間に25mm落とし込んだ状態から板の幅方向に鉛直荷重を加えた。板全体が柱に落とし込まれた状態(変位25mm)まで一方向に加力し、荷重及び変位を測定した。
【0012】
図5に荷重変位曲線を示す。嵌合率が0%及び20%の場合、荷重の増加は緩やかであるが、嵌合率60%では急激に荷重が増加する傾向が見られた。図6に示す方法で落込抵抗及び面積を定義した。図7に落込試験における嵌合率と落込抵抗及び面積の関係を示す。落込抵抗及び面積は嵌合率60%で増加が顕著になった。
【0013】
落込試験終了後の、板を柱の丸溝間に落とし込んだ状態で、治具を用いて試験体が水平方向に移動しないように拘束し、図8に示す方法により板の長さ方向(繊維方向)に鉛直荷重を加えた。板端部が柱丸溝の最奥部に到達する位置(変位8mm程度)まで一方向に加力し、荷重及び変位を測定して密着接合による性能向上効果を確認した。
【0014】
荷重と変位の関係を嵌合率ごとに図9に示す。嵌合率が0%及び20%の場合、荷重の増加は緩やかであるが、嵌合率が40%及び60%では初期段階から荷重が増加する傾向が見られた。
板と柱の接合部の強度性能を検討するために、圧縮試験で得られた荷重変位曲線から、図10に示す方法で圧縮耐力及び初期剛性を定義した。圧縮試験における嵌合率と性能の関係を図11に示す。圧縮耐力は嵌合率の増加に伴い向上する傾向が見られた。また、初期剛性は嵌合率が0%及び20%の場合、低い数値を示したが、40%からは嵌合率の増加に伴い向上する傾向が見られた。これらのことから、圧縮力に対する接合性能を確保するためには嵌合率を40%以上に設定することが適切と思われる。
落込抵抗と圧縮試験で得られた性能の関係を図12に示す。落込抵抗は圧縮耐力及び初期剛性との相関が認められた。これらのことから、落込抵抗は圧縮性能を推定する指標として有効と思われる。
板と柱の密着接合試験体の圧縮試験においては、嵌合率が0%及び20%の場合、荷重の増加は緩やかであるが、嵌合率が40%及び60%では初期段階から荷重が増加する傾向が見られた。
【0015】
板の側面を傾斜させた形状に加工することで、板壁のせん断荷重に対する性能向上を図った。試験体は板を幅方向に3枚配置した構成で、中央の板と接する面に傾斜加工を施した形状とした。側面傾斜の効果確認を目的として、図13に示すような0rad、0.01rad、0.02rad、0.03radの4条件を設定し、せん断試験を実施した。試験体数は各条件20体とし、密度及び曲げヤング係数で割り振りを行った。せん断試験は、図14に示す方法で試験体を拘束した状態で、両側に配した板の下側端部を治具で支持し、中央に配した板の上側端部から長さ方向(繊維方向)に鉛直荷重を加えた。耐力壁の面内せん断試験における終局変形角時を想定した板のすべり量(変位7mm程度)まで一方向に加力し、荷重及び変位を測定した。
【0016】
せん断試験における荷重と変位の関係を傾斜角ごとに図15に示す。傾斜角が0radの場合、変位が増加しても荷重は上昇せずに一定の数値で推移する傾向が見られたが、傾斜角が0.01rad、0.02rad及び0.03radでは初期段階から荷重が増加する傾向が見られた。板の傾斜角の強度性能に及ぼす影響を検討するために、せん断試験で得られた荷重変位曲線から、図16に示す方法でせん断耐力及び二次剛性を定義した。せん断試験における傾斜角と性能の関係を図17に示す。せん断耐力及び二次剛性は傾斜角の増加に伴い向上する傾向が見られた。このことから板側面の傾斜加工は、せん断力に対する性能を確保するために有効と思われる
【0017】
壁試験体の水平荷重試験は図18に示す方法により治具で試験体を支持し、油圧アクチュエータ及び治具を用いて柱頭部に水平方向の力を加え、柱上部及び柱下部の水平変位ならびに柱脚部の鉛直変位を測定した。壁試験体の水平荷重試験状況を図19に示す。壁試験体の見かけの変形角が1/100rad、1/50rad、1/30rad、1/20radの正負変形時において3回の繰り返し加力を行った後、荷重が最大荷重の80%以下に減少するか、または変形角が1/15radに達するまで一方向に加力した。試験体数は各条件6体とし、密度及び曲げヤング係数で割り振りを行った。嵌合率40%の傾斜角0.02radについては材質との関係を把握するために10体を追加した。
【0018】
水平荷重試験における嵌合率と性能の関係を図20及び図21に示す。水平耐力、初期剛性及び面積は嵌合率の増加に伴い向上し、嵌合率40%及び傾斜角0.02radにおいて高い傾向が見られた。このことから、板と柱の密着接合及び板側面の傾斜加工が壁の水平荷重に対する性能向上に有効であることが示唆された。また、等価粘性減衰定数は嵌合率にかかわらず同等の数値を示しており、減衰性が接合条件の影響を受けにくいことを確認した。
【0019】
壁試験体の水平荷重試験においては、すべての試験体において、終局変形角の1/15radまで部材の破壊が発生せずに荷重が漸増する靱性的な挙動を示した。水平耐力、初期剛性及び面積は嵌合率の増加に伴い向上し、嵌合率40%及び傾斜角0.02radにおいて高い傾向が見られた。
図1
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