(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146698
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成型体
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20241004BHJP
C08F 292/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
C08F292/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023142740
(22)【出願日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2023057169
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100140844
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正利
(72)【発明者】
【氏名】江口 望
【テーマコード(参考)】
4J011
4J026
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011JA08
4J011JB26
4J011PA03
4J011PA88
4J011PB04
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC07
4J026AC00
4J026BA10
4J026DB03
4J026DB13
4J026EA02
4J026EA04
4J026FA02
4J026GA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】疎水性繊維を塩化ビニル系樹脂中に分散しやすく、引張伸び率の低下を抑制した塩化ビニル系樹脂成型体を製造することができる塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成型体を提供する。
【解決手段】塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニル系モノマーを、繊維長が0.001μm~200μmの疎水性繊維の存在下で、懸濁重合する工程を有する、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成型体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニル系モノマーを、繊維長が0.001μm~200μmの疎水性繊維の存在下で、懸濁重合する工程を有する、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項2】
前記疎水性繊維は、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタラート繊維、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項3】
前記疎水性繊維がカーボンナノファイバーである、請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項4】
前記疎水性繊維の添加量が、前記塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、0.1~100質量部である、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項5】
前記カーボンナノファイバーのアスペクト比が、1~1000である、請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項6】
前記懸濁重合する工程は、分散剤を含む水性媒体中で行われる、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法によって得られた塩化ビニル系樹脂であって、
前記疎水性繊維の含有量が、前記塩化ビニル系モノマー100質量部に対して1~50質量部である、塩化ビニル系樹脂。
【請求項8】
前記疎水性繊維の包含度が50.0質量%~99.0質量%である、請求項7に記載の塩化ビニル系樹脂。
【請求項9】
請求項7に記載の塩化ビニル系樹脂からなる塩化ビニル系樹脂成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂を繊維状や針状、板状といったアスペクト比の高いフィラーで強化した樹脂組成物が広く知られている。塩化ビニル系樹脂にフィラーを充填させることで、機械的強度や耐熱性が改良される。
【0003】
しかし、これらのフィラーは一般に塩化ビニル系樹脂との接着性が乏しく、これらを充填すると樹脂成形体の機械的強度及び耐熱性は改良されるものの、引張伸び率の低下がみられることが多い。通常、フィラーを含有したポリ塩化ビニル系樹脂の成形体(以下、「フィラー含有ポリ塩化ビニル系樹脂成形体」という。)を作製する際には、ポリ塩化ビニル系樹脂粉体とフィラーを混合して塩化ビニル系樹脂組成物を作製した後、成型加工を行う。しかし、この方法では、フィラー含有ポリ塩化ビニル系樹脂成形体中で塩化ビニル系樹脂との相溶性が低いフィラーが凝集し、さらに引張伸び率を悪化させる。したがって、フィラーの塩化ビニル系樹脂中への分散性を向上させる目的で、ポリ塩化ビニル系樹脂を作製する懸濁重合時に予めフィラーとして無機物を樹脂中に導入させる方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、シランカップリング剤で処理した無機物の存在下で塩化ビニル系モノマーを重合し、無機物含有塩化ビニル系樹脂を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ポリ塩化ビニル系樹脂成形品の強度を向上させているが、引張特性の伸びについては比較例より低下しており、伸び(%)については、良好な結果が得られていなかった。
【0007】
本発明は、上記のことに鑑み、疎水性繊維を塩化ビニル系樹脂中に分散しやすく、引張伸び率の低下を抑制した塩化ビニル系樹脂成形体を製造することができる塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題について検討を重ねた結果、以下のことを見出した。すなわち、塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニル系モノマーを、懸濁重合する際に、フィラーとして疎水性繊維を添加して重合を実施することにより、塩化ビニル系樹脂中への含有が簡便に可能でかつ、フィラーを塩化ビニル系樹脂に配合させる方法と比較して、同含有量で引張伸び率の高いポリ塩化ビニル系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]を提供するものである。
[1]塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニル系モノマーを、繊維長が0.001μm~200μmの疎水性繊維の存在下で、懸濁重合する工程を有する、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[2]前記疎水性繊維は、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタラート繊維、カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーから選ばれる1種以上である、[1]に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[3]前記疎水性繊維がカーボンナノファイバーである、[2]に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[4]前記疎水性繊維の添加量が、前記塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、0.1~100質量部である、[1]~[3]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[5]前記カーボンナノファイバーのアスペクト比が、1~1000である、[3]に記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[6]前記懸濁重合する工程は、分散剤を含む水性媒体中で行われる、[1]~[5]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法によって得られた塩化ビニル系樹脂であって、前記疎水性繊維の含有量が、前記塩化ビニル系モノマー100質量部に対して1~50質量部である、塩化ビニル系樹脂。
[8]前記疎水性繊維の包含度が50.0質量%~99.0質量%である、[7]に記載の塩化ビニル系樹脂。
[9][7]又は[8]に記載の塩化ビニル系樹脂からなる塩化ビニル系樹脂成型体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、疎水性繊維を塩化ビニル系樹脂中に分散しやすく、引張伸び率の低下を抑制した塩化ビニル系樹脂成型体を製造することができる塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、その方法によって得られた塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成型体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法、塩化ビニル系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂成形体の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されない。また、本明細書において、数値範囲を表す「~」はその前後の数値を含む範囲を意味する。
【0011】
本発明の本実施形態における塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法は、塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニル系モノマーを、繊維長が0.001μm~200μmの疎水性繊維の存在下で、懸濁重合する工程を有する。
塩化ビニルの重合時に、無機物のフィラーを添加することは知られているが、無機物は塩化ビニルモノマー中に分散しにくいため、塩化ビニル系樹脂中に取り込まれにくい。したがって、塩化ビニル系樹脂中への分散状態は十分でなく、物性の悪化が生じる場合がある。疎水性繊維は、メチル基や鎖状や環状のアルキル基やアリール基、ベンゼン環といった疎水性基を有していたり、黒鉛結晶構造をもつことによって、水との相溶性が低く、塩化ビニル系モノマーとの相溶性が高くなるため、塩化ビニル系モノマーへの分散が容易になる。疎水性繊維は、平均繊維長が0.001μm~200μmであることが好ましく、0.01μm~100μmであることがより好ましく、0.05μm~50μmであることがさらに好ましい。疎水性繊維の平均繊維長が、0.001μm未満であると、塩化ビニル系樹脂により作製された成形体の機械的強度が低下するため好ましくない。また、200μmを超えると、引張伸び率が低下するため好ましくない。
【0012】
本発明で使用される塩化ビニル系モノマーとしては、塩化ビニルモノマー単独又は塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニルモノマーが挙げられる。
塩化ビニルモノマーを主成分とする塩化ビニルモノマーとは、50質量%以上の塩化ビニルモノマーと、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの混合モノマーである。
【0013】
本発明における懸濁重合法で使用できる塩化ビニル系モノマーと共重合し得るモノマーは、塩化ビニル系モノマーと重合できるものであれば、特に限定するものではなく、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のアルキルビニルエステル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;エチレン、プロピレン等のα-モノオレフィン類;無水マレイン酸、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、スチレン、マレイミド類などが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
【0014】
本発明における懸濁重合法で使用できる疎水性繊維としては、具体的には、ポリプロピレン、ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリエチレンテレフタラート、アラミド、アセテート、ナイロン、ポリアクリル、ポリビニルホルマール、ポリ-p-ベンゾビスオキサゾールなどからなる高分子繊維や炭化ケイ素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維といった繊維状カーボン材料が挙げられ、これらの少なくとも一種が使用される。塩化ビニル系樹脂の成形体製品への実績や、経済性、機械的強度の向上などの観点から、高分子繊維や炭素繊維が好ましく、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタラート繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーがより好ましく、カーボンナノファイバーがさらに好ましい。
【0015】
疎水性繊維の添加量は、塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、0.1~100質量部であることが好ましく、0.5~50質量部であることがより好ましく、1~30質量部であることがさらに好ましい。上記下限値以上であることで、機械物性の向上を図ることができる。また、上記上限値以下であることで疎水性繊維同士の凝集を抑制することができ、懸濁重合が不安定になることを抑制することができる。
【0016】
上記繊維状カーボン材料は、予め表面処理が施されたものが好ましい。表面処理により、懸濁重合において、塩化ビニル系モノマーとの反応性や相溶性を向上させることができるため、塩化ビニル系樹脂と容易に混合され重合体の中に組み込まれ易くなる。また、表面処理を施すことで、繊維状カーボン材料の凝集の抑制、それに伴う耐衝撃性などの機械物性が改善できる。繊維状カーボン材料の表面処理は特に限定されるものではなく、酸化処理やサイジング処理、脂肪酸処理、カップリング処理脂などで表面処理することができる。必要に応じて、これらの形態を併用して表面処理してもよい。
【0017】
また、繊維状カーボン材料として、カーボンナノファイバーを使用する場合、カーボンナノファイバーのアスペクト比(平均繊維長/平均繊維幅)は、1~1000であることが好ましく、2.5~500であることがより好ましく、5~250であることがさらに好ましい。カーボンナノファイバーのアスペクト比を1以上とすることで、機械的強度の向上を図ることができる。また、アスペクト比を1000以下とすることで、疎水性繊維同士の凝集を抑制することができる。
【0018】
本発明における懸濁重合法の一例としては、まず、温度調整機及び攪拌機を備えた重合器内に、水、分散剤、上記の疎水性繊維及び、重合開始剤を投入する。その後、真空ポンプにより重合器内から空気を排除して真空雰囲気とする。次に、攪拌条件下で、塩化ビニルモノマー等の他の原料の全てを投入する。その後、反応容器内を昇温し、所望の重合温度で、材料の重合反応を進行させる。これらの手順を経ることによって、疎水性繊維と一体となった塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0019】
本発明における懸濁重合法の反応終了後には、例えば、未反応の塩化ビニルを有するビニルモノマーを除去してスラリー状にし、さらに、脱水及び乾燥を行うことにより、目的とする塩化ビニル系樹脂を得ることができる。
【0020】
本発明における懸濁重合法の重合時の温度は、特に限定されないが、工業的な製造に際し、その温度制御が容易な40℃~80℃の範囲が好ましい。
また、本発明における懸濁重合法の重合時間は、2~20時間であることが好ましい。
【0021】
本発明における懸濁重合法により得られた塩化ビニル系樹脂は、平均重合度が250~5,000であればよく、250~4,000であることが好ましく、300~3,000であることがより好ましく、400~2,000であることがさらに好ましい。平均重合度が上記範囲内であることで、成形時においては、適度な温度での加工性を確保することができ、使用時においては、疲労特性等の長期性能の低下を防止することができる。
なお、塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠して測定できる。
【0022】
本発明における懸濁重合法により得られた塩化ビニル系樹脂は、粒子状で製造されたものであることが好ましい。粒子状である塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、例えば、0.05~500μmであることが好ましく、0.1~450μmであることがより好ましく、0.15~400μmであることがさらに好ましい。塩化ビニル系樹脂が粒子状であり、平均粒子径が上記範囲内であることで、重合時の反応系が不安定になる等の不具合が生じず、乾燥時においてもハンドリング性を確保することができる。
なお、本明細書において平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて、観察した視野中の100個の粒子の一次粒子の大きさをそれぞれ測定したときの測定値の平均値である。平均粒子径は、上記粒子が球形である場合には粒子の直径の平均値を意味し、非球形である場合には粒子の長径の平均値を意味する。
【0023】
本発明における懸濁重合法の懸濁重合する工程は、分散剤を含む水性媒体中で行われることが好ましい。本発明における分散剤とは、塩化ビニル系モノマーを重合するに当たり、これを水系媒体に均一に安定して分散させる機能を持つものを意味し、乳化機能、増粘機能など各種の分散機能を同時に保有している場合もある。
【0024】
分散剤としては、例えば、部分鹸化ポリ酢酸ビニル;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、ゼラチン、デンプンなどの水溶性高分子、ソルビタンモノラウレート,ソルビタンモノステアレート,グリセリントリステアレート、等の油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート,ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤などが挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。分散剤の添加量は、塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、10~20,000ppmであることが好ましく、50~17,500ppmであることがより好ましく、100~15,000ppmであることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の懸濁重合法に用いられる重合開始剤としては、一般に塩化ビニル系樹脂の重合に用いられている公知の油溶性ラジカル開始剤が使用され、例えば、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルネオヘキサノエート、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシ-2-ネオデカノエートなどのパーエステル化合物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジメトキシイソプロピルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物;デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシド、イソブチルパーオキシドなどのパーオキシド化合物;α,α′-アゾビスイソブチロニトリル、α,α-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、α,α′-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物などが挙げられ、これらの少なくとも1種が使用される。
重合開始剤の添加量は、塩化ビニル系モノマー100質量部に対して、10~20,000ppmであることが好ましく、50~17,500ppmであることがより好ましく、100~15,000ppmであることがさらに好ましい。
【0026】
なお、重合条件及び重合処方は上記に限定されず、重合調整剤、連鎖移動剤、帯電防止剤、架橋剤、安定剤、スケール防止剤、ゲル化改良剤を適宜添加されても何ら構わない。
【0027】
本発明の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法によれば、疎水性繊維を添加することで、塩化ビニル系樹脂中に疎水性繊維を効率よく導入することができる。また、同方法で得られた疎水性繊維を含有した塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂成形体は、疎水性繊維が均一に分散されているため、引張伸び率の低下抑制が可能になる。
【0028】
本発明の塩化ビニル系樹脂の懸濁重合方法よって得られた塩化ビニル系樹脂における疎水性繊維の含有量は、塩化ビニル系モノマー100質量部に対して1~50質量部である。
疎水性繊維の含有量が塩化ビニル系モノマー100質量部に対して1質量部未満であると、疎水性繊維を添加したことによる機械物性及び耐熱性の向上が見込めない。また、疎水性繊維の含有量が塩化ビニル系単量体100質量部に対して50質量部超であると、混錬加工性の低下が生じたり、成形条件によっては疎水性繊維の凹凸による表面外観性の悪化が生じたりする。上記観点から、疎水性繊維の含有量は、塩化ビニル系単量体100質量部に対して2~45質量部であることが好ましく、4~40質量部であることがより好ましく、6~35質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
また、塩化ビニル系樹脂中への疎水性繊維の包含度が50.0質量%~99.0質量%であることが好ましい。疎水性繊維の包含度が50.0質量%以上であることで、塩化ビニル系樹脂中に十分に疎水性繊維が取り込まれており、成型時の凝集を抑制することができる。また、疎水性繊維の包含度が99.0質量%以下である場合、疎水性繊維は、水中の分散性にも優れているため、重合時に粒度分布が安定する。上記観点から、疎水性繊維が含有されている塩化ビニル系樹脂中の疎水性繊維の包含度は、50.0質量%~99.0質量%であることが好ましく、55.0質量%~95.0質量%であることがより好ましく、60.0質量%~90.0質量%であることがさらに好ましい。なお、包含度の定義及び求め方は、後述の実施例に記載されるとおりである。
【実施例0030】
以下、本発明をさらに詳しく説明するために、実施例、比較例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0031】
<評価方法>
得られた塩化ビニル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルついて、下記の方法で評価を行った。
【0032】
<塩化ビニル系樹脂中の疎水性繊維量>
脱水乾燥させた各塩化ビニル系樹脂をるつぼ中にて強熱し、500℃下で有機分を完全に焼却後、残った灰分量より、塩化ビニル系樹脂中の疎水性繊維量(A)を算出した。
疎水性繊維量(A)=灰分(g)/加熱前の塩化ビニル系樹脂(g)
【0033】
<疎水性繊維の分散性の評価法(包含度)>
脱水乾燥後の塩化ビニル系樹脂粉体1gと比重1.5に調整した比重分離用SPT重液(ポリタングステン酸ナトリウム、SOMETU社製、SPT-1)40mlを円筒ロートに添加し、ガラス棒で攪拌後、さらに比重分離用SPT重液を10ml添加し、円筒ロートの側面やガラス棒に付着した試料を洗い流した。溶媒の揮発を防ぐために、ラップフィルムで蓋をして24時間静置後、円筒ロートの底のコックを開け、円筒ロートの下部に溜まった沈殿物を抜き出すことで分離し、以下の式により塩化ビニル系樹脂中に未包含の疎水性繊維量(B)を算出した。
未包含の疎水性繊維量(B)=沈殿物(g)/添加した塩化ビニル系樹脂(g)
包含度を以下の式を用いて算出した。
包含度(質量%)={1-(未包含の疎水性繊維量(B)/疎水性繊維量(A))}×100
【0034】
包含度が60.0質量%~90.0質量%である場合に「〇」と判定し、99.0質量%≧包含度>90.0質量%もしくは60.0質量%>包含度≧50.0質量%である場合を「△」、99.0%を超える場合や50.0%未満の場合に「×」と判定した。評価が「〇」及び「△」のものを合格とした。
【0035】
<引張伸び率>
塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルを用い、プラスチックの引張試験方法(JIS K 7113)に則り23℃にて、1号形試験片で引張試験を行い、引張伸び率を求めた。
【0036】
(実施例1)
内容積100リットルの重合器(耐圧オートクレープ)に、脱イオン水45kgを入れた。さらに、塩化ビニル系単量体に対して、分散剤(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)3,000ppm、重合開始剤(t-ブチルパーオキシネオデカノエート)600ppm、疎水性繊維(カーボンナノファイバー、株式会社アルメディオ製、補強用カーボンナノファイバー、平均繊維長8.0μm、アスペクト比32)50,000ppmを投入した。次に、重合器内を45mmHgまで脱気した後、塩化ビニル系単量体を30kg仕込み、攪拌を開始した。
【0037】
重合温度は、57℃とし、重合終了までこの温度を保持した。重合転化率が95%に達した時に反応を終了し、重合器内の未反応単量体を回収した後、重合体をスラリー状で系外に取り出し、脱水乾燥した。得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂に対し、疎水性繊維量(A)を求めたところ0.042であることから、得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、カーボンナノファイバーを4.38質量部含有することが確認できた。また、上記の評価方法により、樹脂中へ分散性の評価、及び引張伸び率の評価を行った。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
疎水性繊維(カーボンナノファイバー、株式会社アルメディオ製、補強用カーボンナノファイバー、平均繊維長8.0μm、アスペクト比32)の添加量を150,000ppmに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価を行った。得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂に対し、疎水性繊維量(A)を求めたところ0.141であることから、得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、カーボンナノファイバーを16.41質量部含有することが確認できた。結果は表1に示す。
【0039】
(実施例3)
疎水性繊維(カーボンナノファイバー、株式会社アルメディオ製、補強用カーボンナノファイバー、平均繊維長8.0μm、アスペクト比32)の添加量を300,000ppmに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価を行った。得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂に対し、疎水性繊維量(A)を求めたところ0.248であることから、得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、カーボンナノファイバーを32.98質量部含有することが確認できた。結果は表1に示す。
【0040】
(実施例4)
疎水性繊維を、疎水性繊維(炭素繊維(ミルドファイバー)、三菱ケミカル株式会社製、K223HM、平均繊維長50μm、アスペクト比4.5)を用い、添加量を50,000ppmに変更した以外は、実施例1と同様な方法で、懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂に対し、実施例1と同様の評価を行った。得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂に対し、疎水性繊維量(A)を求めたところ0.048であることから、得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル樹脂100質量部に対して、炭素繊維(ミルドファイバー)を5.04質量部含有することが確認できた。結果は表1に示す。
【0041】
(比較例1)
重合時に疎水性繊維を添加しなかった以外は、実施例1と同様の方法で、懸濁重合を行った。得られた塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、疎水性繊維(カーボンナノファイバー、株式会社アルメディオ製、補強用カーボンナノファイバー、平均繊維長8.0μm、アスペクト比32)4.38質量部を添加し、混合した後、脱水乾燥した。得られた疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂に対し、上記の評価方法により、樹脂中へ分散性の評価、及び引張伸び率の評価を行った。結果は表1に示す。
【0042】
(比較例2)
疎水性繊維(カーボンナノファイバー、株式会社アルメディオ製、補強用カーボンナノファイバー、平均繊維長8.0μm、アスペクト比32)の添加量を16.41質量部とした以外は、比較例1と同様の方法で評価を実施した。結果は表1に示す。
【0043】
(比較例3)
疎水性繊維(カーボンナノファイバー、株式会社アルメディオ製、補強用カーボンナノファイバー、平均繊維長8.0μm、アスペクト比32)の添加量を32.98質量部とした以外は、比較例1と同様の方法で評価を実施した。結果は表1に示す。
【0044】
(比較例4)
疎水性繊維を、疎水性繊維(炭素繊維(ミルドファイバー)、三菱ケミカル株式会社製、K223HM、平均繊維長50μm、アスペクト比4.5)を用い、添加量を5.04質量部とした以外は、比較例1と同様の方法で評価を実施した。結果は表1に示す。
【0045】
<塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルの作製>
上記実施例1~4及び比較例1~4で製造した脱水乾燥後の疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂を用いて、表1に示す重量の疎水性繊維含有塩化ビニル系樹脂に対して、熱安定剤(日東化成株式会社製、TVS8570)2.5質量部、滑剤(ヘキストジャパン社製、WAX-OP)0.5質量部を攪拌混合し、ポリ塩化ビニル系樹脂コンパウンドを得た。得られたコンパウンドを6インチロ-ル成型機で185℃×巻き付き後2分間混練した後、厚さ1mmのシートとし、これをプレス成型機(圧力195℃予熱3分-加圧3分)によって、塩化ビニル系樹脂組成物成型サンプルを得た。
【0046】