(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146700
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】チョコレート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/48 20060101AFI20241004BHJP
A23C 11/10 20210101ALI20241004BHJP
【FI】
A23G1/48
A23C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146991
(22)【出願日】2023-09-11
(62)【分割の表示】P 2023116423の分割
【原出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】田中 凌平
【テーマコード(参考)】
4B001
4B014
【Fターム(参考)】
4B001AC08
4B001AC20
4B001BC01
4B001EC01
4B001EC04
4B014GB01
4B014GG01
4B014GG06
4B014GG13
4B014GP02
4B014GP03
4B014GP23
4B014GY04
(57)【要約】
【課題】植物性ミルク素材を用いながら、穀物臭が少なく、コクのある味わいを有する、乳原料を用いた場合と変わらない、美味しいチョコレートを提供する。
【解決手段】植物性ミルク素材を5~30重量%含むチョコレートであって、湿式法によるレーザ回折・散乱方式で粒子径分布を測定したときの体積平均径が20μm以下、かつ、90%通過径が50μm以下であることを特徴とするチョコレート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性ミルク素材を5~30重量%含むチョコレートであって、湿式法によるレーザ回折・散乱方式で粒子径分布を測定したときの体積平均径が20μm以下、かつ、90%通過径が50μm以下であることを特徴とするチョコレート。
【請求項2】
前記体積平均径が15μm以下、かつ、前記90%通過径が40μm以下である請求項1に記載のチョコレート。
【請求項3】
前記体積平均径が10μm以下、かつ、前記90%通過径が20μm以下である請求項1に記載のチョコレート。
【請求項4】
前記植物性ミルク素材がオーツミルクパウダー又は豆乳パウダーである請求項1に記載のチョコレート。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のチョコレートの製造方法であって、前記植物性ミルク素材を他のチョコレート原料と混合した混合物を微粒化することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレート及びその製造方法に関し、特に植物性ミルクを使用したチョコレート及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、カカオの種子を発酵・焙煎したカカオマスを主原料とし、これに砂糖、ココアバター、粉乳などを混ぜて練り固めた菓子である。しかるに、近年では消費者の健康志向により、動物性の素材である粉乳などの乳原料を含まないチョコレートのニーズが高まりつつあり、乳原料の代わりに植物性のミルク素材である豆乳やオーツミルクなどを用いてチョコレートを製造することが提案されている(特許文献1、2)。また、必ずしも乳原料の代わりとして用いられているわけではないが、菓子組成物中に風味が許容可能であるブラン様材料を含む菓子組成物も提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/244835号
【特許文献2】中国特許出願公開第108477364号明細書
【特許文献3】特許第7217151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粉乳などの乳原料を豆乳やオーツミルクなどの植物性ミルク素材に代えた場合、植物素材由来の「穀物臭」がチョコレートの美味しさを阻害することがあり、また、乳原料を用いた場合に比べてコクのある味わいが出にくいという難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、植物性ミルク素材を5~30重量%含むチョコレートであって、湿式法によりレーザ回折・散乱方式で粒子径分布を測定したときの体積平均径が20μm以下、かつ、90%通過径が50μm以下であることを特徴とするチョコレートを提供することにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0006】
植物性ミルク素材を用いながら、穀物臭が少なく、コクのある味わいを有する、乳原料を用いた場合と変わらない、美味しいチョコレートが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
チョコレートを製造するには、主原料であるカカオマスに砂糖やココアバターやミルク素材を加えてよく混ぜ合わせることにより(混合工程)原料組成物を製造し、この原料組成物を更に細かくすりつぶして(微粒化工程)舌触りを滑らかにした後、これを練り上げて(精錬工程)香りを整え、更に、温度調節により(調温工程)ココアバターの結晶化を行い、振動を与えて気泡を除きながら型に流し込み、冷却して固めた後に型抜きすることにより、最終的な製品とするのが一般的である。
【0008】
上記混合、微粒化、精錬、調温の4工程は、良くも悪くもチョコレートの舌触りや香りを決める重要な工程であり、それぞれの工程において工夫の余地が多くあるが、植物性ミルク素材を用いて製造するチョコレートにおいて、穀物臭を低減し、コクのある味わいをもたせるには、微粒化工程後の組成物を構成する粒子の粒子径分布の調整、より具体的には、植物性ミルク素材を通常のチョコレート原料と共に混合し、微粒化工程を経て粒子径分布を調整することが鍵になることを、本発明者らは実験的に見出した。
【0009】
なお、本願明細書において、カカオ豆とは、カカオ(学名テオブロマカカオ)の種子を発酵乾燥して得られたものをいう。カカオニブとは、カカオ豆からシェルを取り除いたものをいう。カカオマスとは、カカオニブを摩砕したものをいう。ココアバターとは、カカオ豆、カカオニブ又はカカオマスから得られた油脂をいう。また、本願明細書中、チョコレートは、全国チョコレート業公正取引協議会が定めるチョコレート類の表示に関する公正競争規約の規定に限定されず、カカオ豆由来成分を含む組成物全般を指す。
【0010】
また、本願明細書において、植物性ミルク素材とは、通常のミルクチョコレートに用いられる乳原料に代替可能な植物由来の原料であり、例えば、オーツミルクやライスミルクなどの穀物由来のもの、豆乳(調製豆乳も含む)などの豆由来のもの、アーモンドミルクなどのナッツ由来のものが挙げられる。そして、植物性ミルクは、これら植物の種実などを細かく砕き水で抽出して作られる。植物性ミルク素材の添加量は、製造するチョコレートのタイプ(ビタータイプかスイートタイプか)によって異なるが、一般に5~30重量%である。
【0011】
以下において、本発明者らが行った製造例を示し、各製造例で製造されたチョコレートについて行った、5人のパネラーによる官能試験の結果に基づいて、粒子径分布と官能試験による評価結果との関係について検討した結果を報告する。ここで、粒子径分布は所定の指標(代表値)を用いて特定することとするが、その指標の値が本発明の所定の範囲要件を満たす限り分布形状は問わず、単一ピークでも二峰性などの複数ピークでもよいと考える。なお、微粒化の方法は、以下の製造例に記載されるリファイナーに限定されず、所望の粒径を得られれば別の手段を用いることができる。また、以下の製造例においては、植物性ミルク素材としてオーツミルクパウダーを用いた場合と豆乳パウダーを用いた場合について検討しているが、他の植物性ミルク素材を用いた場合でも同様の結果が得られると考える。なお、カカオマスやココアバターを含む他の成分については全製造例で同一の原料及び含有量としている。
【0012】
(製造例1)
表1に示す組成のチョコレートを製造するため、まず初めに、オーツミルクパウダー(液状のオーツミルクをスプレードライ法にて粉末化したもの、オーツミルク固形分42%)15重量部、カカオマス18重量部、糖類(砂糖)43重量部に対して、脂肪分25~28%の組成物になるようにココアバターとその他の(ココアバター以外の)植物油脂を加え、ミキサー(HOBART社、Model:A120)にて混合することでひとまとまりのチョコレートの原料組成物を作製した。
【0013】
作製した原料組成物をリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質でなめらかな微細粉末状にすりつぶした。得られた微細粉末状原料組成物に残りのココアバターとその他の植物油脂、乳化剤0.5重量部、香料0.1重量部を加えて表1に示す組成に調整した後、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0014】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目につき、次の基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
<評価基準>
(ざらつきについて)
5:ざらつきを全く感じない
4:ざらつきを殆ど感じない
3:ざらつきをやや感じる
2:ざらつきを感じる
1:ざらつきをとても感じる
(穀物臭について)
5:穀物臭を感じない
4:穀物臭をやや感じる
3:穀物臭を感じる
2:穀物臭を強く感じる
1:穀物臭をとても強く感じる
(他の項目について)
5:乳原料を用いた場合と同等以上
4:乳原料を用いた場合と比べてほぼ遜色なし
3:乳原料を用いた場合との差が許容範囲内
2:乳原料を用いた場合との差が許容範囲を超える
1:乳原料を用いた場合との差があり過ぎて商品化は無理
【0015】
(製造例2)
表1に示すように、製造例1と同じ組成でチョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質でなめらかな微細粉末状にすりつぶした。但し、この製造例2では、製造例1よりリファイナーの圧力を弱めて微粒化工程を行った。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りの原料(製造例1と同じ)を加え、製造例1と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0016】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0017】
(製造例3)
表1に示すように、製造例1及び2と同じ組成でチョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質な微細粉末状にすりつぶした。但し、この製造例3では、製造例2よりも微粒化工程におけるリファイナーの圧力を更に弱めた。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りの原料(製造例1及び2と同じ)を加え、製造例1及び2と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0018】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1及び2と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0019】
(製造例4)
表1に示すように、オーツミルクの含有量を30重量部に増量し、その増量分に相当する分だけ糖類の含有量を減量したことを除き、製造例1と同じ組成でチョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質でなめらかな微細粉末状にすりつぶした。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りの原料(製造例1-3と同じ)を加え、製造例1-3と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0020】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1-3と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0021】
(製造例5)
表1に示すように、製造例4と同じ組成でチョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質な微細粉末状にすりつぶした。但し、この製造例5では、製造例4より微粒化工程の圧力を弱めた。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りの原料(製造例1-4と同じ)を加え、製造例1-4と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0022】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1-4と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0023】
(製造例6)
表1に示すように、オーツミルクパウダーを豆乳パウダー(豆乳固形分100%)に代えたことを除き、製造例1と同じ組成でチョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質でなめらかな微細粉末状にすりつぶした。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りの原料(製造例1-5と同じ)を加え、製造例1-5と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0024】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1-5と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0025】
(製造例7)
表1に示すように、製造例6と同じ組成でチョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質な微細粉末状にすりつぶした。但し、この製造例7では、製造例6より微粒化工程の圧力を弱めた。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りの原料(製造例1-6と同じ)を加え、製造例1-6と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行うことにより液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0026】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1-6と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0027】
(製造例8)
表1に示すチョコレートを製造するため、まず初めに、カカオマス18重量部、糖類(砂糖)43重量部に対して、脂肪分25~28%の組成物になるようにココアバターとその他の(ココアバター以外の)植物油脂を加え、ミキサー(HOBART社、Model:A120)にて混合することでひとまとまりのチョコレートの原料組成物を作製した。
【0028】
作製した原料組成物をリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質でなめらかな微細粉末状にすりつぶした。得られた微細粉末状原料組成物に残りのココアバターとその他の植物油脂、乳化剤0.5重量部、香料0.1重量部を加え、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行った後、オーツミルクパウダー15重量部を加えて混合することにより表1に示す組成に調整された液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0029】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目につき、製造例1-7と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0030】
(製造例9)
製造例8と同じ組成で(但し、微粒化工程後に加えるオーツミルクパウダーを豆乳パウダーに代えた点を除く)チョコレートの原料組成物を作製し、これをリファイナー(BUHLER社、Model:SDY-200)にて均質でなめらかな微細粉末状にすりつぶした。そして、得られた微細粉末状原料組成物に残りのココアバターとその他の植物油脂、乳化剤0.5重量部、香料0.1重量部を加え、製造例1-8と同様に、ミキサー(HOBART社、Model:A120)で精錬を行った後、豆乳パウダー15重量部を加えて混合することにより表1に示す組成に調整された液状の生地を作製し、作製した生地に対し、通常のチョコレートの製造方法と同様に、調温、充填、冷却、型抜を行ってチョコレートを製造した。
【0031】
製造したチョコレートから採取したサンプルについて、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製「MT3300EXII」)を用いて、イソプロピルアルコールを分散媒とした湿式測定を行った。分散液濃度は同装置で表示される測定濃度範囲に収まるように調整した。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。また、製造したチョコレートを訓練された5人のパネラーに試食させ、ざらつき、穀物臭、コク感、甘味、総合的な美味しさ(いずれも乳原料を用いた通常のチョコレートとの比較で判断)の5項目について製造例1-8と同じ基準で5段階に評価してもらい、5人のパネラーの評価の平均を評価値とした。結果を表3に示す。
【0032】
(製造例10-参考例)
製造例1-9で製造したチョコレートと粒子径分布を比較するため、精錬を行った後でオーツミルクパウダー又は豆乳パウダーを加えて混合することを行わなかった点を除き、製造例8や製造例9と同様の手順によりチョコレートを製造した。この製造例10のチョコレートの原料組成は、製造例1,2,3,6,7、8,9のチョコレートの原料組成から植物性ミルク原料を除いたものに相当する。そして、この製造例10で製造したチョコレートについても、製造例1-9と同様にして粒子径分布の測定を行った。得られた要約データ(粒子径分布を表す各種指標)を表2に示す。
【0033】
【0034】
【表2】
MV:体積平均径
MN:個数平均径
MA:面積平均径
CS:比表面積
10%:10%通過径
50%:50%通過径
90%:90%通過径
【0035】
【0036】
(各製造例の評価の検討)
表3に示される各製造例についての官能試験の評価結果は全て5段階評価となっており、その中央値は3(乳原料を用いた場合との差が許容範囲内)である。よって、評価値が3以上の場合をその製造例の当該項目については基準を超える良い結果と捉えた。
【0037】
以上の評価基準に照らすと、甘味については、一部の製造例で基準にわずかに達しない場合がある(最低評価は製造例6の2.6)ものの、ほぼ全部の製造例が基準をクリアーする良い結果を示しているといえる。このことは、甘味については植物性ミルク素材を用いても問題は少ないということを示していると思われる。
【0038】
次に、ざらつきについては、製造例3、5、7、8、9が際立って悪い結果となっており、これは体積平均径(MV)及び90%透過径(90%)の値が大きいことと強い正の相関を示している。このことは、ざらつきを抑えるには粒子径を全体的に小さくすることと特に大粒子の量を抑えることが有効であることを示していると思われる。
【0039】
次に、穀物臭については、製造例3、5、6、7、8、9が基準に達しない悪い結果となっている。これはざらつきの場合と比べて、製造例6が基準に達しない悪い結果になっていることを除くと、ほぼ同様の結果が得られていると考えられる。また、製造例6は基準には達しないものの製造例3、5、7、8、9に比べればよい結果となっており、豆乳の穀物臭がオーツミルクに比べて抑えにくいために基準には達しなかったが、粒子径を調整した効果は一応出ていると思われる。但し、この点を更に補足すると、使用した豆乳パウダーは豆乳100%であるのに対し、使用したオーツミルクパウダーはオーツミルク42%であり、オーツミルクの正味の含有量は表に示す量の半分以下であるから、実質的にはオーツミルクと豆乳とで穀物臭の強さにそれほど差がないともいえる。
【0040】
次に、コク感については、製造例3,5、7、8、9が基準に達しない悪い結果となっており、これはざらつきの場合と同じ結果を示している。
【0041】
最後に、全体としての美味しさ、具体的には、乳原料を用いて製造したチョコレートに遜色のない美味しさを示しているかどうかという点についても、製造例3、5、7、8、9が基準に達しない悪い結果となっており、これもざらつきやコク感の場合と同じ結果を示している。
【0042】
以上をまとめると、甘味については、植物性ミルク素材を用いても乳原料を用いた場合と比べてそれほど低下することはなく、一方、ざらつきや穀物臭を抑え、コク感を高めて乳原料を用いて製造したチョコレートに比べて遜色のない美味しさを実現するには、体積平均径(MV)と90%通過径(90%)を小さく抑えるように微粒子化することが効果的であるといえる。これに対し、個数平均径(MN)、面積平均径(MA)、10%通過径、50%通過径は、製造例3、5、7、8、9が悪い結果になっていることと相関を示さない場合がある。この理由としては、これらの指標では数値が小粒径側にシフトする傾向があるため、大粒径粒子の含有率が反映されにくいからだと思われる。これらの指標は個々の粒子の機能が個別に評価結果に影響を及ぼす場合には適していると思われるが、本発明のように微粒化されることが重要である(すなわち大粒径粒子の存在量を少なくしたい)場合には、指標としてあまり適していないともいえよう。以上のことから、本発明においては、体積平均径MVで全体的な微粒化の程度を規定し、90%通過径で大粒径粒子の存在率を規定することとした。具体的には、体積平均径は20μm以下、90%通過径は50μm以下とするのが効果的である。好ましくは、体積平均径は15μm以下、90%通過径は40μm以下とするのがよく、より好ましくは、体積平均径は10μm以下、90%通過径は20μm以下とするのがよい。なお、穀物臭の低減やコク感の向上、全体的な美味しさをさらに追求する観点から、さらに好ましくは、体積平均径は8μm以下、90%通過径は10μm以下とするのがよい。
【0043】
ところで、製造例8及び9は、精錬後に植物性ミルク素材を加えており、後から加えた成分が微粒化されないため、所望の粒子径分布が得られていない。よって、植物性ミルク素材は微粒化工程の前にチョコレート組成物に加えることが好ましいといえる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、それをまとめると次のとおりである。
(第1の形態)
植物性ミルク素材を5~30重量%含むチョコレートであって、湿式法によるレーザ回折・散乱方式で粒子径分布を測定したときの体積平均径が20μm以下、かつ、90%通過径が50μm以下であることを特徴とするチョコレート。
(第2の形態)
前記体積平均径が15μm以下、かつ、前記90%通過径が40μm以下である第1の形態のチョコレート。
(第3の形態)
前記体積平均径が10μm以下、かつ、前記90%通過径が20μm以下である第1の形態のチョコレート。
(第4の形態)
前記植物性ミルク素材がオーツミルクパウダー又は豆乳パウダーである第1~第3のいずれかの形態のチョコレート。
(第5の形態)
第1~第4のいずれかの形態のチョコレートの製造方法であって、前記植物性ミルク素材を他のチョコレート原料と混合した混合物を微粒化することを特徴とする方法。