IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-美観及び防汚性に優れた陶器 図1
  • 特開-美観及び防汚性に優れた陶器 図2
  • 特開-美観及び防汚性に優れた陶器 図3
  • 特開-美観及び防汚性に優れた陶器 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146702
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】美観及び防汚性に優れた陶器
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/86 20060101AFI20241004BHJP
   A47K 1/04 20060101ALI20241004BHJP
   E03D 11/02 20060101ALI20241004BHJP
   E03D 13/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C04B41/86 R
A47K1/04 H
E03D11/02 Z
E03D13/00
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023149915
(22)【出願日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2023059123
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】川上 克博
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亜希
(72)【発明者】
【氏名】小林 知貴
(72)【発明者】
【氏名】植木 京子
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA01
2D039AA04
2D039DB04
(57)【要約】
【課題】 美観が向上され、また、その表面に微細な汚れの付着を抑えることができる釉薬層を備えた陶器の提供。
【解決手段】 素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器において、釉薬層表面の比誘電率、誘電正接tanδ、又は表面抵抗率を制御する。このような陶器は、美観が向上され、また、その表面に微細な汚れの付着を抑えたれたものとなる。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である、衛生陶器。
【請求項2】
前記釉薬層の表面のL*が81以上94以下である、請求項1に記載の陶器。
【請求項3】
前記釉薬層の表面のa*が-0.4以上-0.1以下である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項4】
前記釉薬層の表面のb*が0.5以上1.8以下である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項5】
衛生陶器である、請求項1又は2に記載の陶器。
【請求項6】
陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法であって、
釉薬層を備えた陶器を用意し、
前記釉薬層の表面の比誘電率を測定・算出する工程を含んでなる、方法。
【請求項7】
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である場合、陶器の表面が美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は釉薬層を有する陶器に関し、詳しくは美観及び防汚性に優れた 陶器に関する。
【背景技術】
【0002】
衛生陶器、タイルなどの陶器には、近時、空間の美観要望の高まりにより、その外観には高い美観が求められてきている。さらに、スマートフォンの利用などトイレ空間の活用様式の変化に伴い、陶器に重量物が落とされるなど、陶器表面に傷がつく機会が増えている。
【0003】
衛生陶器や水まわりで用いられる陶器にあっては、汚れが付着し難い、あるいは付着した汚れを容易に除去できるといった、衛生面においても、より優れた性質を備えることが望まれる。また、衛生観念の向上やコロナ禍により、陶器表面における目に見えないレベルの汚れに対しても意識が向けられている。
【0004】
陶器の釉薬層表面に汚れが付着し難くし、または付着した汚れを容易に除去できるようにするため、一般的には、釉薬層表面の平滑度を高いレベルで制御することが行われている。しかし、釉薬層表面の物理的形状のみでは付着を防止できない可能性がある。例えば、ウイルスや、微細な汚れの場合、表面を平滑にしてもその付着を有効に防止できず、またその除去も必ずしも容易になるとは言えない。
【0005】
陶器表面の電気的特性を制御する提案は、例えば、特開2001-123278号公報(特許文献1)に、釉薬層表面のゼータ電位と抗菌性の向上の提案がされている。また、特開平9-63379号公報(特許文献2)には、セラミック質のサンドの誘電率と、釉薬層の比誘電率との制御が開示されているが、その目的は懸垂がいし(絶縁器具)の絶縁破壊強度の向上である。さらに特開平9-328380号公報(特許文献3)には、釉薬の濃度を電気伝導度に基づいて測定しつつ、素地への釉薬付着量の調整を行う施釉方法の開示があるが、出来上がった釉薬層の性質には何ら触れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-123278号公報
【特許文献2】特開平9-63379号公報
【特許文献3】特開平9-328380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今般、陶器の釉薬層表面の電気的特性を制御することで、陶器の美観を向上させ、また、その表面への微細な汚れの付着を抑えることができるとの知見を得た。さらに釉薬層の電気的特性の制御は、釉薬原料の調製、その陶器素地への適用条件などの製造条件を適切に管理することで効率よく行うことができた。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0008】
したがって、本発明は美観及び防汚性に優れた陶器の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明による陶器は、その第1の態様によれば、陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満であることを特徴とするものである。
【0010】
本発明による陶器は、その第2の態様によれば、陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、釉薬層の表面の誘電正接tanδが、0.0040以上0.0065以下であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明による陶器は、その第3の態様によれば、陶器素地と、釉薬層とを少なくとも備えてなる陶器であって、釉薬層の表面の表面抵抗率が、4.0×1014Ω以上8.0×1014Ω以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明による陶器によれば、美観を向上させ、また、その表面に微細な汚れの付着を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】釉薬層の比誘電率を測定するため、電極を付した釉薬サンプルの模式図である。
図2】釉薬層の表面抵抗率を測定するため、電極を付した釉薬サンプルの模式図である。
図3】実施例1の釉薬層へ、アセチレンカーボンブラックを付着させた後、風速1.0m/sの雰囲気中に30分静置した後の表面を、デジタルマイクロスコープにより撮影した画像である。
図4】比較例1の釉薬層に、上記実施例1と同様の条件でアセチレンカーボンブラックを付着させる実験後の、釉薬層表面を、デジタルマイクロスコープにより表面を撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
陶器
本発明において、「陶器」とは、衛生陶器、タイルなど陶器素地に釉薬層が設けられた基本構成を備えた物を意味する。また、「衛生陶器」とは、バスルーム、トイレ空間、化粧室、洗面所、または台所などで用いられる陶器製品を意味する。具体的には、大便器、小便器、便器のサナ、便器タンク、洗面器、手洗い器などを意味する。
【0015】
釉薬
【0016】
本発明において釉薬は、珪砂、長石、石灰石などの天然鉱物粒子の混合物及び/又は非晶質釉薬に、乳濁剤を含み、さらに顔料を添加したものを使用できる。乳濁剤としては、ジルコン、酸化錫などが挙げられる。釉薬の組成は、たとえば、SiO:52~80重量部、Al:5~14重量部、CaO:6~17重量部、MgO:0.5~4.0重量部、ZnO:0.1~11重量部、KO:1~5重量部、NaO:0.5~2.5重量部、乳濁剤:0.1~15重量部、顔料:0.001~20重量部である。釉薬は、その他に糊剤、分散剤、防腐剤、抗菌剤などが含有されていてもよい。顔料としては、コバルト化合物、鉄化合物などが挙げられる。また、非晶質釉薬とは、上記のような天然鉱物粒子などの混合物からなる釉薬原料を高温で溶融し、ガラス化させた釉薬をいい、例えばフリット釉薬が好適に利用可能である。
【0017】
本発明の第1の態様
本発明の第1の態様による陶器は、釉薬層の表面の比誘電率が5.5超過6.0未満とされる。このような釉薬層とされることで、陶器は、その美観に優れ、その表面に微細な汚れの付着を抑えることができる。ここで、微細な汚れとは、粒子の大きさとして、釉薬層表面の物理的形状のみでは付着を有効に又は容易に防止できない程度の大きさを意味し、例えばウイルスレベルから、300nm程度の大きさのものを意味する。本発明による陶器は、その美観に優れ、とりわけ光沢及び発色が向上し、また、微細な汚れの付着を防止し、あるいは一旦付着した微細な汚れも容易に除くことができる性質を備える。したがって、例えば、使用者から見える範囲の全面又は特に汚物が付着する機会の多い範囲を本発明による陶器とすることにより、美観に優れ、汚れ難い、大便器及び小便器を含む衛生陶器が得られる。
【0018】
ここで、陶器の釉薬層の比誘電率は、JIS C2138に準じて測定することができる。具体的には次の方法により測定される。まず、釉薬面を有した陶器試験片を用意する。試験片は、試験用に釉薬組成及び素地組成並びにその焼成温度を製品と同じくした条件で作成したものでもよく、あるいは、製品としての陶器から表面を維持したまま切り出して作成してもよい。ここで、試験片の厚さは1mmとする。この試験片は、釉薬層に加え素地を含み1mmとされてよい。次に、図1に示されるように、試験片10に、主電極11及び対電極12を付す。ここで主電極11及び対電極12はガードリングなしの円板電極であり、主電極11と対電極12とはその直径が異なり、かつ主電極11の厚さaは試験片の厚さhよりも十分小さいものとする。また、主電極11及び対電極12はAgからなるものとされ、Agペースト又はイオンスパッタリングによりAg層を形成する。そして、インピーダンス・アナライザにより試験片電極間の静電容量を測定し、比誘電率を、次の式により算出する。測定条件は、大気中雰囲気、室温で、周波数は1MHzとする。
【数1】
上記式において、Cは真空静電容量、Cは縁端静電容量、CX‘は電極間の静電容量の測定値、dは主電極直径、hは試料片の厚さ、εは試験片の比誘電率の近似値であり、そして、εが 「試験片の比誘電率」である。
【0019】
さらに、本発明の第1の態様によれば、陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法が提供され、この方法は、釉薬層を備えた陶器を用意し、釉薬層の表面の比誘電率を測定・算出することを特徴とし、好ましくは、釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である場合、陶器の表面美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する工程を含む。本発明による方法によれば、実際の陶器の評価に限らず、例えば、試験片を用意し、その電気特性を測定することで、最終製品の表面美観又は汚れ付着防止性を評価できることから、釉薬の組成や焼成条件などの設定を効率よく行い、製造の効率を向上させることができるとの利点も得られる。
【0020】
本発明の第2の態様
本発明の第2の態様による陶器は、釉薬層の表面の誘電正接tanδが、0.0040以上0.0065以下とされる。このような釉薬層とされることで、陶器は、その美観に優れ、その表面に微細な汚れの付着を抑えることができる。ここで、微細な汚れとは、粒子の大きさとして、釉薬層表面の物理的形状のみでは付着を有効に又は容易に防止できない程度の大きさを意味し、例えばウイルスレベルから、300nm程度の大きさのものを意味する。本発明による陶器は、その美観に優れ、とりわけ光沢及び発色が向上し、また、微細な汚れの付着を防止し、あるいは一旦付着した微細な汚れも容易に除くことができる性質を備える。したがって、例えば、使用者から見える範囲の全面又は特に汚物が付着する機会の多い範囲を本発明による陶器とすることにより、美観に優れ、汚れ難い、大便器及び小便器を含む衛生陶器が得られる。
【0021】
ここで、陶器の釉薬層の誘電正接tanδは、JIS C2141に則して測定することができる。具体的には前記第1の態様の場合と同様にして、試験片を用意し、それに電極を形成して、インピーダンス・アナライザにより測定する。すなわち、試験片は、試験用に釉薬組成及び素地組成並びにその焼成温度を製品と同じくした条件で作成したものでもよく、あるいは、製品としての陶器から表面を維持したまま切り出して作成してもよい。ここで、試験片の厚さは1mmとする。この試験片は、釉薬層に加え素地を含み1mmとされてよい。次に、図1に示されるように、試験片10に、主電極11及び対電極12を付す。ここで主電極11及び対電極12はガードリングなしの円板電極であり、主電極11と対電極12とはその直径が異なり、かつ主電極11の厚さaは試験片の厚さhよりも十分小さいものとする。また、主電極11及び対電極12はAgからなるものとされ、Agペースト又はイオンスパッタリングによりAg層を形成する。そして、インピーダンス・アナライザにより誘電正接tanδを測定する。測定条件は、大気中雰囲気、室温で、周波数は1MHzとする。
【0022】
さらに、本発明の第2の態様によれば、陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法が提供され、この方法は、釉薬層を備えた陶器を用意し、釉薬層の表面の誘電正接tanδを測定・算出することを特徴とし、好ましくは、釉薬層の表面の比誘電率が、0.0040以上0.0065以下である場合、陶器の表面美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する工程を含む。本発明による方法によれば、実際の陶器の評価に限らず、例えば、試験片を用意し、その電気特性を測定することで、最終製品の表面美観又は汚れ付着防止性を評価できることから、釉薬の組成や焼成条件などの設定を効率よく行い、製造の効率を向上させることができるとの利点も得られる。
【0023】
本発明の第3の態様
本発明の第3の態様による陶器は、釉薬層の表面の表面抵抗率が、4.0×1014Ω以上8.0×1014Ω以下とされる。このような釉薬層とされることで、陶器は、その美観に優れ、その表面に微細な汚れの付着を抑えることができる。ここで、微細な汚れとは、粒子の大きさとして、釉薬層表面の物理的形状のみでは付着を有効に又は容易に防止できない程度の大きさを意味し、例えばウイルスレベルから、300nm程度の大きさのものを意味する。本発明による陶器は、その美観に優れ、とりわけ光沢及び発色が向上し、また、微細な汚れの付着を防止し、あるいは一旦付着した微細な汚れも容易に除くことができる性質を備える。したがって、例えば、使用者から見える範囲の全面又は特に汚物が付着する機会の多い範囲を本発明による陶器とすることにより、美観に優れ、汚れ難い、大便器及び小便器を含む衛生陶器が得られる。
【0024】
ここで、陶器の釉薬層の表面抵抗率は、JIS C2141に則して測定することができる。具体的には次の方法により測定される。まず、釉薬面を有した陶器試験片を用意する。試験片は、試験用に釉薬組成及び素地組成、並びにその焼成温度を製品と同じくした条件で作成したものでもよく、あるいは、製品としての陶器から表面を維持したまま切り出して作成してもよい。ここで、試験片の厚さは1mmとする。この試験片は、釉薬層に加え素地を含み1mmとされてよい。次に、図2に示されるように、試験片20に主電極21、ガード電極22、さらに対電極23を付す。これら電極はAgからなるものとされ、Agペースト又はイオンスパッタリングによりAg層を形成する。試料片に直流電圧V(V)を印加し、1分間充電した後の電流I(mA)を測定して、試料片の表面抵抗Rを求め、表面抵抗率ρを算出する。測定条件は、大気中雰囲気、室温で、印加電圧は1000Vとする。
【数2】
上記式において、dは主電極直径(m)、dはガード電極直径(m)、Dmは電極の平均直径(m)、gは主電極とガード電極のすきま(m)である。
【0025】
さらに、本発明の第3の態様によれば、陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法が提供され、この方法は、釉薬層を備えた陶器を用意し、釉薬層の表面の表面抵抗率を測定・算出することを特徴とし、好ましくは、釉薬層の表面の比誘電率が、4.0以上8.0以下である場合、陶器の表面美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する工程を含む。本発明による方法によれば、実際の陶器の評価に限らず、例えば、試験片を用意し、その電気特性を測定することで、最終製品の表面美観又は汚れ付着防止性を評価できることから、釉薬の組成や焼成条件などの設定を効率よく行い、製造の効率を向上させることができるとの利点も得られる。
【0026】
釉薬層の好ましい特性
本発明による陶器が備える釉薬層の表面は、好ましくは以下のL*a*b*値をとる。すなわち、L*が81以上94以下であり、a*が-0.4以上-0.1以下であり、b*が0.5以上1.8以下である。上で述べた本発明の諸要件と組み合わせされることにより、陶器は優れた美観、特に良好な色外観を備えるものとなる。
【0027】
陶器素地
本発明において陶器素地は任意の原料から調製されてよく、例えば、珪砂、長石、石灰石、粘土などを原料として素地泥漿を調製し、これを成形し、焼成することにより得ることができる。
【0028】
本発明の好ましい態様によれば、陶器素地は、焼成時の全体の化学組成として、SiO:50~75wt%、Al:17~40wt%、KO+NaO:1~10wt%を含む。また、ガラス相25~70wt%、結晶相75~30wt%であることが好ましい。ガラス相を構成する主成分の化学組成は、ガラス相全体を100%として、SiO:50~80wt%、Al:10~40wt%、KO+NaO:4~12wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、素地全体を100%としてα-アルミナ0~60wt%、石英0~20wt%、ムライト2~20wt%であることが好ましい。結晶相を構成する主成分の鉱物組成は、α-アルミナを含まない素地材料(例えば、熔化質素地)であってよい。素地材料におけるSiO/Al比が1より大きいことが好ましい。
【0029】
陶器の製造方法
本発明による陶器は、陶器素地を用意し、これに釉薬スラリーを適用し、焼成することで製造されてよい。
【0030】
釉薬スラリーは、釉薬原料の50%粒径が好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下となるようにボールミルなどで粉砕することにより得ることができる。釉薬スラリーにあっては、ケイ砂などの石英原料の粒子径を他の釉薬原料とは別に制御することにより釉薬表面における石英の残存を抑制することができる。
【0031】
本発明の好ましい態様によれば、その製造条件を制御することで、上記要件を充足する陶器を効率よく製造される。まず、釉薬スラリーの粘度について、これを800~1200mPa・sとする。これにより、釉薬スラリーの沈殿、分離を有効に防止でき、結果として得られる釉薬層の電気的特性を効率よく制御できる。
【0032】
また、釉薬スラリーの陶器素地への施釉は好ましくはスプレーコーティング法により行われ、かつ、以下の条件下で実施されるのが望ましい。すなわち、施釉にあたり、陶器素地を25~35℃とし、釉薬水分浸透時間が25~35分となるようにする。さらに、施釉の際の釉薬スラリーの温度を、室温如何に関わらず、25~30℃に調整することが重要となる。つまりここでの温度管理は、生産場所の地理的又は季節的要因により変動する雰囲気温度の影響を受けないように温度制御することを意味する。
【0033】
また、陶器素地に釉薬スラリーを施釉した後の乾燥も適切に温度管理の下、行われることが好ましい。例えば、施釉後の乾燥は、25~30℃に調整された雰囲気で、2時間以上の時間なされる。施釉された釉薬における十分な水分浸透と粒子着肉化・固定化を通じ、本発明による陶器を製造することができる。
【0034】
本発明による陶器は、陶器素地及び釉薬の組成を考慮して、その焼成条件を適宜定め、製造されてよい。例えば、陶器素地に釉薬を適用した後、800~1300℃の温度で成形素地を焼結させ、かつ釉薬層を固着させることができる。
【実施例0035】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
陶器の製造
釉薬の用意
表1の実施例1乃至5及び比較例1乃至4の組成からなる釉薬原料2Kgと水1Kg及び球石4Kgを、容積6リットルの陶器製ポットに入れ、レーザー回折式粒度分布計を用いた粉砕後の着色性釉薬スラリーの粒度測定結果が、10μm以下が65%、50%平均粒径(D50)が6.0μm程度になるように、ボールミルにより粉砕を行い、釉薬を得た。実施例3~5並びに比較例1及び3については、別途平均粒子径19μm程度になるようにボールミルにより粉砕した珪砂を、その他の材料と混合し、釉薬を得た。すべての得られた釉薬の粘度について、これを800~1200mPa・sとした。
【0037】
【表1】
【0038】
陶器素地への釉薬の適用
陶器素地として、主たる組成がSiO:50~75wt%、Al:17~40wt%、KO+NaO:1~10wt%の範囲となるように、原料として、骨格形成材料であるセリサイト陶石およびカオリン陶石を38~75重量%、可塑性材料であるチャイナクレー(粉体)およびボールクレー(粉体)を8~45重量%、主焼結助剤である長石を8~20重量%、およびドロマイトを1~4重量%秤量し、水と解膠剤として珪酸ソーダを適量添加したものを一括してボールミルに入れ湿式粉砕し、陶器素地材料を得た。得られた陶器素地材料を、石膏型を用いた泥漿鋳込み成形法により成形し、成形体を得て、成形体を電気炉により焼成して陶器素地を得た。これに上記実施例及び比較例の釉薬をスプレーコーティング法により塗布した。ここで、陶器素地を25~35℃の温度に必要に応じて加温又は冷却しておき、また釉薬の温度も25~35℃の温度とし、さらに25~35℃の雰囲気温度で、釉薬をスプレーコーティングした。施釉後25~30℃に調整された雰囲気で、2時間以上の静置した後、焼成条件1100~1300℃、2~25時間として焼成することにより陶器を得た。
【0039】
比誘電率の算出
上記実施例及び比較例の釉薬を、陶器素地に塗布し、上記と同じ条件で焼成し、釉薬サンプルを作成した。これを厚さ1mm程度、直径20mm程度の大きさの円板状に切断し、比誘電率測定のための試料とした。この試料を、JIS C2138に準じて、図1に示されるように電極を付し、インピーダンス・アナライザ(インピーダンス・アナライザE4990A、キーサイトテクノロジー社製)による電極間の静電容量を測定し、前記した式(1)乃至(4)により誘電正接を算出した。測定条件は、周波数を1MHz、温度を室温、雰囲気を大気中で、電極はAgをスパッタリングにより形成した。その結果は、下記の表2に示されるとおりであった。
【0040】
誘電正接tanδの測定
比誘電率測定のために作成したサンプルを用いて、図1に示されるように電極を付し、インピーダンス・アナライザによる電極間の誘電正接tanδを測定した。測定条件は、周波数を1MHz、温度を室温、雰囲気を大気中で、電極はAgをスパッタリングにより形成した。その結果は、下記の表2に示されるとおりであった。
【0041】
表面抵抗率の算出
比誘電率測定のために作成したサンプルを用いて、JIS C2141に準じて、図2に示されるように電極を付し、試料に直圧電流1000Vを印加した際の1分間充電後の電流を抵抗率測定器により測定し、表面抵抗Rsを得た。なお、測定中、乾燥空気を300cc/minで雰囲気に流した。得られた表面抵抗Rsを前記した式(21)乃至(23)により表面抵抗率ρを算出した。その結果は、下記の表2に示されるとおりであった。
【0042】
汚れ付着防止性の評価:残留微粒子存在量(%)
タイルへ、1.5g/cmの荷重とともに粒径略21nmのアセチレンカーボンブラックを付着させた後、風速1.0m/sの雰囲気中に30分静置した。その後、デジタルマイクロスコープにより表面を撮影し、取得した画像から画像解析ソフトを用いて、表面に付着したカーボンブラックが占める面積比率を算出した。画像は1サンプルにつき4枚取得して、その画像から算出した面積の平均値(%)を得た。これを「残留微粒子存在量」とした。その結果は表2に示さるとおりであった。また、実施例1及び比較例1のデジタルマイクロスコープにより表面を撮影した画像を、図3及び図4に示す。
【0043】
物性評価試験
L*a*b*表色系の測定を、分光測色計により行いL*値、a*値及びb*値を得た。得られたL*値、a*値及びb*値は、表2に示されるとおりであった。
【0044】
色の評価
得られた陶器について、目視で外観を次のように評価した。すなわち、標準色との比較した色について、5点満点で点数化した。その結果は表2に記載のとおりであった。
【0045】
【表2】
【0046】
本発明の好ましい態様
本発明の好ましい態様は以下のとおりである。
本発明の第1の態様について、
(1) 素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である、衛生陶器。
(2) 前記釉薬層の表面のL*が81以上94以下である、(1)に記載の陶器。
(3) 前記釉薬層の表面のa*が-0.4以上-0.1以下である、(1)又は(2)に記載の陶器。
(4) 前記釉薬層の表面のb*が0.5以上1.8以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の陶器。
(5) 衛生陶器である、(1)~(4)のいずれかに記載の陶器。
(6) 陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法であって、
釉薬層を備えた陶器を用意し、
前記釉薬層の表面の比誘電率を測定・算出する工程を含んでなる、方法。
(7) 前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である場合、陶器の表面が美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する、(6)に記載の方法。
【0047】
本発明の第2の態様について、
(1) 素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記釉薬層の表面の誘電正接tanδが、0.0040以上0.0065以下である、衛生陶器。
(2) 前記釉薬層の表面のL*が81以上94以下である、(1)に記載の陶器。
(3) 前記釉薬層の表面のa*が-0.4以上-0.1以下である、(1)又は(2)に記載の陶器。
(4) 前記釉薬層の表面のb*が0.5以上1.8以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の陶器。
(5) 衛生陶器である、(1)~(4)のいずれかに記載の陶器。
(6) 陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法であって、
釉薬層を備えた陶器を用意し、
前記釉薬層の表面の誘電正接tanδを測定・算出する工程を含んでなる、方法。
(7) 前記釉薬層の表面の誘電正接tanδが、0.0040以上0.0065以下である場合、陶器の表面が美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する、(6)に記載の方法。
【0048】
本発明の第3の態様について、
(1) 素地と、釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記釉薬層の表面の表面抵抗率が、4.0×1014Ω以上8.0×1014Ω以下である、衛生陶器。
(2) 前記釉薬層の表面のL*が81以上94以下である、(1)に記載の陶器。
(3) 前記釉薬層の表面のa*が-0.4以上-0.1以下である、(1)又は(2)に記載の陶器。
(4) 前記釉薬層の表面のb*が0.5以上1.8以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の陶器。
(5) 衛生陶器である、請求項1又は2に記載の陶器。
(6) 陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法であって、
釉薬層を備えた陶器を用意し、
前記釉薬層の表面の表面抵抗率を測定・算出する工程を含んでなる、方法。
(7) 前記釉薬層の表面の表面抵抗率が、4.0×1014Ω以上8.0×1014Ω以下である場合、陶器の表面が美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する、(6)に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地と、乳濁剤としてジルコンを含む釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記釉薬層の釉薬組成が、SiO を52~80重量部、Al を5~14重量部、CaOを6~17重量部、MgOを0.5~4.0重量部、ZnOを3~11重量部、K Oを1~5重量部、及びNa Oを0.5~2.5重量部を少なくとも含むものであり、
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満であり、
前記釉薬層の表面のL*が86以上94以下、a*が-0.4以上-0.1以下、かつb*が0.5以上1.8以下であり、
前記釉薬層における残留微粒子存在量が1.4%以下であり、
ここで、前記残留微粒子存在量は、1.5g/cm の荷重とともに平均粒径21nmのアセチレンカーボンブラックを付着させた後、風速1.0m/sの雰囲気中に30分静置した後の、釉薬層表面に付着したカーボンブラックが占める面積比率である、陶器。
【請求項2】
衛生陶器である、請求項に記載の陶器。
【請求項3】
陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法であって、
釉薬層を備えた陶器を用意し、
前記釉薬層の表面の比誘電率を測定・算出する工程を含んでなる、方法。
【請求項4】
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である場合、陶器の表面が美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する、請求項3に記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地と、乳濁剤としてジルコンを含む釉薬層とを少なくとも備える陶器であって、
前記釉薬層の釉薬組成が、SiOを52~80重量部、Alを5~14重量部、CaOを6~17重量部、MgOを0.5~4.0重量部、ZnOを0.1~11重量部、KOを1~5重量部、及びNaOを0.5~2.5重量部を少なくとも含むものであり、
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満であり、
前記釉薬層の表面のL*が88以上94以下、a*が-0.4以上-0.1以下、かつb*が0.5以上1.8以下である、陶器。
【請求項2】
衛生陶器である、請求項1に記載の陶器。
【請求項3】
陶器の表面美観又は汚れ付着防止性の評価方法であって、
釉薬層を備えた陶器を用意し、
前記釉薬層の表面の比誘電率を測定・算出する工程を含んでなる、方法。
【請求項4】
前記釉薬層の表面の比誘電率が、5.5超過6.0未満である場合、陶器の表面が美観又は汚れ付着防止性に優れると評価する、請求項3に記載の方法。