(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146728
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】R-T-B系永久磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20241004BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
H01F1/057 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023200937
(22)【出願日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2023058424
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】粉川 育也
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】大川 和香子
【テーマコード(参考)】
5E040
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB11
5E040HB14
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN15
(57)【要約】
【課題】 残留磁束密度Br、保磁力Hcjおよび角形比Hk/Hcjが高いR-T-B系永久磁石を得る。
【解決手段】 コアおよびシェルからなる主相と、主相に隣接する粒界相と、を有するR-T-B系永久磁石である。シェルがTbを含有する。シェルの厚みが70nm以上である。シェルにおけるTb濃度の最大値が1.7at%以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアおよびシェルからなる主相と、前記主相に隣接する粒界相と、を有し、
前記シェルがTbを含有し、
前記シェルの厚みが70nm以上であり、
前記シェルにおけるTb濃度の最大値が1.7at%以上であるR-T-B系永久磁石。
【請求項2】
前記シェルにおけるTb濃度が、前記コアの近傍から前記粒界相の近傍に向かって漸増する請求項1に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項3】
前記シェルの内部で前記コアから前記粒界相に向かって10nm間隔でTb濃度の測定点を設定する場合に、前記粒界相に近い測定点ほどTb濃度が高く、かつ、隣り合う測定点間でのTb濃度の差が全て0.01at%以上0.50at%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項4】
前記シェルにおけるTb濃度の最大値を[Tbs]、前記粒界相におけるTb濃度の最大値を[Tbb]として、
1.0≦[Tbb]/[Tbs]≦1.5である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項5】
Tbの含有量が0.6質量%以上2.1質量%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項6】
遷移金属元素としてFe、または、FeおよびCoを含む請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項7】
前記粒界相がFeおよびCoから選択される1種以上を含有し、前記粒界相におけるFeおよびCoの合計濃度の最小値が65.0at%以下である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【請求項8】
角形比Hk/Hcjが97.0%以上である請求項1または2に記載のR-T-B系永久磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R-T-B系永久磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、希土類永久磁石材料の製造方法に関する発明が記載されている。焼結磁石体表面に希土類元素(特にDyおよび/またはTb)の化合物等を供給して熱処理を行うことにより高い残留磁束密度Brおよび保磁力Hcjを有する希土類永久磁石材料を提供できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、残留磁束密度Br、保磁力Hcjおよび角形比Hk/Hcjが高いR-T-B系永久磁石を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明のR-T-B系永久磁石は、コアおよびシェルからなる主相と、前記主相に隣接する粒界相と、を有し、
前記シェルがTbを含有し、
前記シェルの厚みが70nm以上であり、
前記シェルにおけるTb濃度の最大値が1.7at%以上である。
【0006】
前記シェルにおけるTb濃度が、前記コアの近傍から前記粒界相の近傍に向かって漸増してもよい。
【0007】
前記シェルの内部で前記コアから前記粒界相に向かって10nm間隔でTb濃度の測定点を設定する場合に、前記粒界相に近い測定点ほどTb濃度が高くてもよく、かつ、隣り合う測定点間でのTb濃度の差が全て0.01at%以上0.50at%以下であってもよい。
【0008】
前記シェルにおけるTb濃度の最大値を[Tbs]、前記粒界相におけるTb濃度の最大値を[Tbb]として、
1.0≦[Tbb]/[Tbs]≦1.5であってもよい。
【0009】
Tbの含有量が0.6質量%以上2.1質量%以下であってもよい。
【0010】
遷移金属元素としてFe、または、FeおよびCoを含んでもよい。
【0011】
前記粒界相がFeおよびCoから選択される1種以上を含有してもよく、前記粒界相におけるFeおよびCoの合計濃度の最小値が65.0at%以下であってもよい。
【0012】
角形比Hk/Hcjが97.0%以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】主相および粒界相と、線分ABとの位置関係を示す概略図である。
【
図2】線分ABにおけるTbの濃度変化を示すグラフである。
【
図3】線分ABにおけるCuの濃度変化を示すグラフである。
【
図4】線分ABにおけるFeおよびCoの合計濃度変化、および、Ndの濃度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき説明する。
【0015】
<R-T-B系永久磁石>
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、R2T14B型結晶構造を有する結晶粒子を含む主相粒子を有する。さらに、隣り合う2つ以上の主相粒子によって形成される粒界を有する。
【0016】
R-T-B系永久磁石およびR2T14B型結晶構造において、Rは希土類元素、Tは遷移金属元素、Bはホウ素を表す。
【0017】
R-T-B系永久磁石およびR2T14B型結晶構造にRとして含まれる希土類元素はSc、Yおよびランタノイドであってもよい。Tとして含まれる遷移金属元素には希土類元素が含まれない。Tとして含まれる遷移金属元素が鉄族元素であってもよい。Tとして含まれる鉄族元素がFeおよびCoから選択される1種以上であってもよい。Tとして含まれる鉄族元素がFe、または、FeおよびCoであってもよい。Bとして含まれるホウ素の一部が炭素に置換されていてもよい。
【0018】
本実施形態では、希土類元素は重希土類元素と軽希土類元素とに分類される。重希土類元素とは、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのことをいう。軽希土類元素とは、重希土類元素以外の希土類元素のことをいう。鉄族元素とは、Fe、Co、Niのことをいう。
【0019】
以下、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石の磁石組成について示す。なお、R-T-B系永久磁石の測定方法には特に制限はない。例えば、XRFを用いることができる。
【0020】
R-T-B系永久磁石における希土類元素の含有量には特に制限はない。25.0質量%以上35.0質量%以下であってもよく、29.0質量%以上33.0質量%以下であってもよく、30.0質量%以上32.0質量%以下であってもよい。Rの含有量が25.0質量%以上であると、R-T-B系永久磁石の主相に含まれる結晶、すなわちR2T14B型結晶構造を有する結晶の生成が十分に行われやすい。また、軟磁性を持つα-Feなどの析出を抑制し、磁気特性の低下を抑制しやすくなる。Rの含有量が35.0質量%以下であると、R-T-B系永久磁石のBrが向上する傾向にある。
【0021】
重希土類元素の含有量には特に制限はない。例えば0.1質量%以上5.0質量%以下であってもよく、0.6質量%以上2.1質量%以下であってもよい。重希土類元素の種類には特に制限はないが、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は少なくともTbを含む。Tb以外の重希土類元素は含んでも含まなくてもよい。Tb以外の重希土類元素を含む場合には、例えばDyを含んでもよい。
【0022】
Tbの含有量には特に制限はない。例えば0.1質量%以上5.0質量%以下であってもよく、0.6質量%以上2.1質量%以下であってもよい。Tbが多い場合にはBrが低下しやすくなる。Tbが少ない場合にはHcjが低下しやすくなる。
【0023】
Tb以外の重希土類元素の含有量が合計で0質量%以上0.1質量%以下であってもよい。Tb以外の重希土類元素の含有量が合計で0.1質量%以下であることにより、Brが向上する傾向にある。
【0024】
軽希土類元素の含有量には特に制限はない。また、軽希土類元素の種類には特に制限はない。例えばNdおよびPrから選択される1種以上であってもよく、Ndであってもよい。
【0025】
Nd以外の軽希土類元素の含有量が合計で0質量%以上7.0質量%以下であってもよく、0質量%以上0.1質量%以下であってもよい。NdおよびPr以外の軽希土類元素の含有量が合計で0質量%以上0.1質量%以下であってもよい。
【0026】
R-T-B系永久磁石におけるホウ素の含有量には特に制限はない。0.50質量%以上1.50質量%以下であってもよく、0.85質量%以上1.05質量%以下であってもよい。ホウ素の含有量が0.50質量%以上であることによりHcjが向上する傾向にある。また、ホウ素の含有量が1.50質量%以下であることにより、Brが向上する傾向にある。
【0027】
R-T-B系永久磁石における炭素の含有量には特に制限はない。例えば0質量%以上0.10質量%以下であってもよい。
【0028】
R-T-B系永久磁石におけるCoの含有量には特に制限はない。0質量%以上4.00質量%以下であってもよく、0質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0質量%以上0.30質量%以下であってもよい。Coの含有量が多いほど原料コストが増大しやすい。Coの含有量が少ないほど耐食性が低下しやすい。
【0029】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、上記の元素以外の金属元素として、Ga、Cu、Alおよび/またはZrを含んでもよい。各元素の含有量には特に制限はない。
【0030】
R-T-B系永久磁石におけるGaの含有量は0質量%以上0.15質量%以下であってもよく、0質量%以上0.10質量%以下であってもよい。
【0031】
R-T-B系永久磁石におけるCuの含有量は0質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0質量%以上0.20質量%以下であってもよく、0質量%を上回り0.05質量%以下であってもよい。
【0032】
R-T-B系永久磁石におけるAlの含有量は0質量%以上0.40質量%以下であってもよく、0.25質量%以上0.40質量%以下であってもよい。
【0033】
R-T-B系永久磁石におけるZrの含有量は0質量%以上0.50質量%以下であってもよく、0質量%以上0.20質量%以下であってもよい。
【0034】
R-T-B系永久磁石は、上記の元素以外に酸素および窒素を含んでいてもよい。
【0035】
R-T-B系永久磁石における酸素の含有量は0質量%以上0.10質量%以下であってもよい。R-T-B系永久磁石における窒素の含有量は0質量%以上0.10質量%以下であってもよい。
【0036】
R-T-B系永久磁石におけるFeの含有量は、R-T-B系永久磁石の実質的な残部であってもよい。具体的には、その他の元素、すなわち、希土類元素、Fe、Co、B、C、Ga、Cu、Al、Zr、OおよびN以外の元素の含有量が合計で1.0質量%以下であってもよい。
【0037】
その他の元素の種類としては、Mn、Ca、Cl、S、F等の不可避的不純物が挙げられる。
【0038】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、
図1に示すように、コアおよびシェルからなる主相11と、主相11に隣接する粒界相13と、を有する。シェルがTbを含有する。粒界相13がFeおよびCoから選択される1種以上を含有する。シェルの厚みが70nm以上である。そして、シェルにおけるTb濃度の最大値が1.7at%以上である。
【0039】
粒界相13におけるFeおよびCoの合計濃度の最小値が65.0at%以下であってもよい。粒界相13における軽希土類元素の合計濃度の最大値が25.0at%以上であってもよい。
【0040】
粒界相13にFe、Co以外の遷移金属元素が含まれていてもよい。例えば、Cu、Zr、Mn、Ni等が含まれていてもよい。粒界相13に含まれる遷移金属元素の合計濃度に対するFeおよびCoの合計濃度の割合が原子数基準で90%以上であってもよい。
【0041】
本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、上記の特徴を有することにより、比較的少ない重希土類元素の使用量でBr、HcjおよびHk/Hcjを高くすることができる。
【0042】
シェルにおけるTb濃度が、コアの近傍から粒界相13の近傍に向かって漸増していてもよい。
【0043】
シェルにおけるTb濃度の最大値を[Tbs](at%)、粒界相13におけるTb濃度の最大値を[Tbb](at%)として、1.0≦[Tbb]/[Tbs]≦1.5であってもよい。
【0044】
コアにおけるTb濃度については特に制限はない。例えば、0at%以上2.0at%以下であってもよい。0.3at%以上、1.0at%以下であることが好ましい。コアにTbが0.3at%以上、1.0at%以下含まれると、後述する高温大気圧拡散工程における主相11の溶解が抑制される。主相11の溶解が抑制されるため、主相11のシェルが厚くなりすぎず、主相11のシェルにおけるTb濃度の最大値[Tbs]が高くなりやすい。主相11のシェルにおけるTb濃度の最大値[Tbs]が高くなることにより、R-T-B系永久磁石のHcjが高くなりやすい。
【0045】
以下、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石においてコアとシェルと粒界相13とを区別する方法、および、各種パラメータを測定する方法について記載する。なお、以下の説明では、粒界相13は希土類元素以外の遷移金属元素としてFeおよびCoから選択される1種以上を含み、希土類元素としてTbおよびNdのみを含むこととする。
【0046】
まず、R-T-B系永久磁石における測定範囲を設定する。測定範囲の設定方法については後述する。設定した測定範囲が含まれる位置でR-T-B系永久磁石を切断し、断面を得る。
【0047】
得られた断面において三次元アトムプローブ顕微鏡(Three Dimensional Atom Probe;3DAP)を用いて、当該測定範囲に含まれる主相11および主相11に隣接する粒界相13を選択する。
【0048】
次に、
図1に示すように、2個の主相11と、2個の主相11の間に存在する粒界相13と、を通過し、かつ、主相11と粒界相13との境界線と略垂直な線分ABを設定する。なお、
図1は線分ABの設定方法を説明するための模式図であり、実際の線分ABの長さと
図1に示す線分ABの長さとは必ずしも一致しない。
【0049】
次に、線分ABに沿ってTb濃度を線分析する。結果の一例を
図2に示す。
図2では点Aからの距離を横軸に示す。そして、Tb濃度を縦軸に示す。
【0050】
同時に、主相11、特にシェルに比較的含まれにくく、粒界相13に比較的含まれやすい元素(
図3ではCu)を選択し、線分ABに沿って当該元素の濃度を線分析する。結果の一例を
図3に示す。
図2と同様に
図3でも点Aからの距離を横軸に示す。そして、当該元素の濃度を縦軸に示す。さらに、線分ABに沿ってFe濃度、Co濃度および軽希土類元素の濃度(Nd濃度)を線分析する。結果の一例を
図4に示す。
図4では粒界相13およびその近傍における各元素の濃度を示す。
【0051】
図3より、シェルと粒界相13との境界を目視にて決定してもよい。
図3より、粒界相13からシェルに向かってCu濃度が急激に低下している。Cu濃度が概ね一定になった位置をシェルと粒界相13との境界とする。
図3より決定した境界の位置を破線で
図3に示す。そして、
図2において境界の位置を
図3と同一とする。
【0052】
図3ではCu濃度の変化からシェルと粒界相13との境界を決定しているが、Cu以外の元素を用いてシェルと粒界相13との境界を決定してもよく、各元素の濃度変化以外の事項を観察することでシェルと粒界相13との境界を決定してもよい。
【0053】
図2より、Tb濃度はシェルと粒界相13との境界から主相の内部に向かって減少し、境界から十分に離れた場所でTb濃度が概ね一定となる。当該Tb濃度が概ね一定となっている場所がコアである。境界から主相に向かってTb濃度が減少している箇所がシェルである。シェルにおけるTb濃度がコアの近傍から粒界相13の近傍に向かって漸増しているか否かはTb濃度の測定結果から目視により判断する。
図2では、シェルにおけるTb濃度がコアの近傍から粒界相13の近傍に向かって漸増している。コアとシェルとの境界は
図2より目視にて決定する。
【0054】
粒界相13において常にCu濃度が0.15at%以上となりシェルのうち粒界相13に接する部分においてCu濃度が0.15at%未満となるように、シェルと粒界相13との境界を決定してもよい。
【0055】
コアに含まれ、かつ、コアとシェルとの境界からの距離が100nm以上である部分をコアの内部としてもよい。後述する拡散処理前のコアの内部におけるTb濃度は、拡散処理前の基材のTb濃度と略等しい。拡散処理工程によってコアの内部までTbを拡散することは難しいため、拡散処理後のコアの内部におけるTb濃度も、拡散処理前の基材のTb濃度と略等しい。コアの内部ではTb濃度が概ね一定である。コアの内部におけるTb濃度は、3DAP、EPMAなどの方法によって測定することができる。そして、コアの内部におけるTb濃度から0.10at%以上、Tb濃度が増加している部分をシェルとするようにコアとシェルとの境界を決定してもよい。
【0056】
シェルに含まれ、かつ、シェルに接する粒界相13からの距離が1.0nm以上である部分をシェルの内部としてもよい。シェルの内部ではCu濃度が概ね一定である。
【0057】
シェルの内部でコアから粒界相13に向かって10nm間隔でTb濃度の測定点を設定する場合に、粒界相13に近い測定点ほどTb濃度が高くてもよい。さらに、隣り合う測定点間でのTb濃度の差が全て0.01at%以上0.50at%以下であってもよい。粒界相13に近い測定点ほどTbの濃度が高く、かつ、隣り合う測定点間でのTb濃度の差が全て0.01at%以上0.50at%以下である場合に、シェルにおけるTb濃度が、コアの近傍から粒界相13の近傍に向かって漸増するとしてもよい。
【0058】
Tb濃度の測定に3DAPを用いる場合には、1nm間隔で暫定測定点を設定してTb濃度を測定してもよい。そして、連続する10個の暫定測定点の平均位置を上記の測定点の位置としてもよく、当該連続する10個の暫定測定点の平均Tb濃度を当該測定点のTb濃度としてもよい。上記の方法で測定点の位置を設定し当該測定点のTb濃度を測定する場合には、測定ノイズによる影響を低減しやすくなり、隣り合う測定点間でのTb濃度の差に誤差が生じにくくなる。
【0059】
Cu以外の元素(粒界相13に比較的含まれやすい元素)を用いてシェルと粒界相13との境界を決定する場合には、上記の各境界の決定方法において、CuをCu以外の元素(粒界相13に比較的含まれやすい元素)に置き替えてもよい。
【0060】
そして、決定した粒界相13とシェルとの境界、および、シェルとコアとの境界より、主相11におけるシェルの厚み、コアのTb濃度、粒界相13におけるFeおよびCoの合計濃度の最小値、粒界相13におけるNd濃度の最大値、[Tbs]および[Tbb]を決定することができる。そして、[Tbb]/[Tbs]を算出することができる。
【0061】
以下、測定範囲の設定方法について説明する。測定範囲はR-T-B系永久磁石の任意の部分にあってもよい。また、測定範囲はR-T-B系永久磁石の表面から離れた部分にあってもよい。例えばR-T-B系永久磁石の表面から500μm以上、離れた部分であってもよい。
【0062】
R-T-B系永久磁石における上記の構成を有する主相11の含有割合には特に制限はない。}
【0063】
例えば、R-T-B系永久磁石に含まれる主相11に対して、上記の構成を有する主相11の含有割合が個数基準で80%以上であってもよい。
【0064】
例えば、R-T-B系永久磁石の表面から500μm以上、離れた部分に含まれる主相11に対して、上記の構成を有する主相11の含有割合が個数基準で65%以上であってもよい。
【0065】
例えば、R-T-B系永久磁石の表面の重心からR-T-B系永久磁石の重心に線分を引き、線分上に等間隔に数箇所の測定箇所を設定してそれぞれの測定箇所における主相11が上記の構成を有するか否かを確認してもよい。それぞれの測定箇所において上記の構成を有する主相11の含有割合が個数基準で80%以上であってもよい。
【0066】
例えば、R-T-B系永久磁石の重心部、すなわち当該R-T-B系永久磁石と相似形であり、重心の位置が同一であり、体積が10%程度、例えば5%以上15%以下である部分に含まれる主相11に対して、上記の構成を有する主相11の含有割合が個数基準で55%以上であってもよい。
【0067】
<R-T-B系永久磁石の製造方法>
以下、R-T-B系永久磁石の製造方法について詳しく説明していくが、特記しない事項については、公知の方法を用いればよい。
【0068】
[原料粉末の準備工程]
原料粉末は、公知の方法により作製することができる。本実施形態では、主にR2T14B相からなる一種類の原料合金を用いる一合金法でR-T-B系永久磁石を製造するが、二種類の原料合金を用いる二合金法により製造してもよい。
【0069】
まず、本実施形態に係る原料合金の組成に対応する原料金属を準備し、当該原料金属から本実施形態に対応する原料合金を作製する。原料合金の作製方法に特に制限はない。例えば、ストリップキャスト法にて原料合金を作製することができる。
【0070】
原料合金(二合金法を用いる場合には主に主相となる原料合金)におけるTb量が多いほど、後述する粒界拡散において粒界相のTb濃度が主相のTb濃度よりも高くなりにくくなる。
【0071】
原料合金におけるTb量が多い場合には、拡散材による主相の溶解が抑制され、粒界相から主相へのTbの拡散が抑制される。
【0072】
拡散材による主相の溶解が抑制されることにより、拡散面付近の主相の極度な溶解が抑制される。拡散面付近の主相の極度な溶解が抑制されることにより、磁石中心までTbを拡散できる。
【0073】
粒界相から主相へのTbの拡散が抑制されることにより、[Tbb]/[Tbs]が小さくなりやすくなる。
【0074】
原料合金を作製した後に、作製した原料合金を粉砕する(粉砕工程)。粉砕工程は、2段階で実施してもよく、1段階で実施してもよい。粉砕の方法には特に限定はない。例えば、各種粉砕機を用いる方法で実施される。例えば、粉砕工程を粗粉砕工程および微粉砕工程の2段階で実施し、粗粉砕工程は例えば水素粉砕処理を行うことが可能である。具体的には、原料合金に対して室温で水素を吸蔵させた後に、Arガス雰囲気下で400℃以上650℃以下、0.5時間以上2時間以下で脱水素を行うことが可能である。また、微粉砕工程は、粗粉砕後の粉末に対して、例えば粉砕助剤としてオレイン酸アミド、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を添加したのちに、例えばジェットミル、湿式アトライター等を用いて行うことができる。得られる微粉砕粉末(原料粉末)の粒径には特に制限はない。例えば、粒径(D50)が1μm以上10μm以下の微粉砕粉末(原料粉末)となるように微粉砕を行うことができる。なお、水素吸蔵粉砕から後述する焼結工程までは、常に酸素濃度200ppm未満の低酸素雰囲気としてもよい。
【0075】
[成形工程]
成形工程では、粉砕工程により得られた微粉砕粉末(原料粉末)を所定の形状に成形する。成形方法には特に限定はないが、本実施形態では、微粉砕粉末(原料粉末)を金型内に充填し、磁場中で加圧する。
【0076】
成形時の加圧は、30MPa以上300MPa以下で行うことが好ましい。印加する磁場は、950kA/m以上1600kA/m以下であることが好ましい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場を併用することもできる。微粉砕粉末(原料粉末)を成形して得られる成形体の形状は特に限定されるものではなく、例えば直方体、平板状、柱状等、所望とするR-T-B系永久磁石の形状に応じて任意の形状とすることができる。
【0077】
[焼結工程]
焼結工程は、成形体を真空または不活性ガス雰囲気中で焼結し、焼結体を得る工程である。焼結温度は、組成、粉砕方法、粒度と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、成形体に対して、例えば、真空中または不活性ガスの存在下、1000℃以上1200℃以下、1時間以上10時間以下で加熱する処理を行うことにより焼結する。これにより、高密度の焼結体(永久磁石)が得られる。
【0078】
[時効処理工程]
時効処理工程は、焼結工程後の焼結体(永久磁石)に対して、焼結温度よりも低い温度で真空または不活性ガス雰囲気中で加熱することにより行う。時効処理の温度および時間には特に制限はないが、例えば450℃以上900℃以下で0.2時間以上3時間以下、行うことができる。なお、この時効処理工程は省略してもよい。
【0079】
また、時効処理工程は1段階で行ってもよく、2段階で行ってもよい。2段階で行う場合には、例えば1段階目を700℃以上900℃以下で0.2時間以上3時間以下とし、2段階目を450℃以上700℃以下で0.2時間以上3時間以下としてもよい。また、1段階目と2段階目とを連続して行ってもよく、1段階目の後に一度室温近傍まで冷却してから再加熱して2段階目を行ってもよい。
【0080】
[加工工程(粒界拡散前)]
必要に応じて、本実施形態に係る焼結体を所望の形状に加工する工程を有してもよい。加工方法は、例えば切断、研削などの形状加工や、バレル研磨などの面取り加工などが挙げられる。
【0081】
[拡散処理工程]
本実施形態では、さらにTbを拡散させる拡散処理工程を有する。拡散処理は、Tbを含む化合物等を焼結体の表面に付着させた後、熱処理を行うことにより、実施することができる。Tbを含む化合物の種類は任意である。例えば、Tbの水素化物が挙げられる。Tbを含む化合物を付着させる方法は任意である。例えばTbを含むスラリーを塗布することで付着させることができる。スラリーの塗布量とスラリーに含まれるTbの濃度とを制御することで、シェルの厚みおよびシェルにおけるTb濃度を制御することができる。なお、コアのTb濃度は粒界拡散工程の前後で実質的に変化しない。
【0082】
なお、Tbを付着させる方法には特に制限は無い。例えば、蒸着、スパッタリング、電着、スプレー塗布、刷毛塗り、ジェットディスペンサ、ノズル、スクリーン印刷、スキージ印刷、シート工法等を用いる方法がある。
【0083】
スラリーを塗布する場合、Tbを含む化合物は粒子状であることが好ましい。また、平均粒径は100nm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0084】
スラリーに用いる溶媒としては、Tbを含む化合物を溶解させずに均一に分散させ得るものが好ましい。例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン等が挙げられ、なかでもエタノールが好ましい。
【0085】
スラリー中のTbを含む化合物の含有量には特に制限はない。例えば、50質量%以上90質量%以下であってもよい。スラリーには、必要に応じてTb以外の成分をさらに含有させてもよい。例えば、Tb粒子の凝集を防ぐための分散剤等が挙げられる。
【0086】
上記の拡散処理工程を焼結体に対して行うことにより、焼結体全体の粒界にTbが拡散することになる。そして、主相においてTb濃度が高いシェルが形成され、コアおよびシェルからなる主相が得られる。
【0087】
本実施形態では、拡散処理工程を複数の段階に分けて行う。具体的には、低温減圧雰囲気での拡散処理と高温大気圧雰囲気での拡散処理とを繰り返すことにより行う。まず、室温から低温減圧雰囲気での拡散処理温度まで雰囲気中の温度を上昇させる。同時に、大気圧から低温減圧雰囲気での拡散処理圧力まで雰囲気中の圧力を低下させる。次に、低温減圧雰囲気で所定の保持時間、保持する。
【0088】
低温減圧雰囲気での拡散処理温度は、例えば500℃以上700℃以下としてもよい。低温減圧雰囲気での拡散処理圧力は、例えば0.1kPa以上20kPa以下としてもよい。低温減圧雰囲気での保持時間には特に制限はない。例えば3時間以上9時間以下としてもよい。
【0089】
次に、低温減圧雰囲気での拡散処理温度から高温大気圧雰囲気での拡散処理温度まで雰囲気中の温度を上昇させる。同時に、低温減圧雰囲気での拡散処理圧力から高温大気圧雰囲気での拡散処理圧力まで雰囲気中の圧力を上昇させる。次に、高温大気圧雰囲気で所定の保持時間、保持する。
【0090】
高温大気圧雰囲気での拡散処理温度は、例えば750℃以上1000℃以下としてもよい。高温大気圧雰囲気での拡散処理圧力は、例えば80kPa以上120kPa以下としてもよい。高温大気圧雰囲気での保持時間には特に制限はない。例えば3時間以上9時間以下としてもよい。
【0091】
拡散処理工程において最初に行う低温減圧雰囲気での拡散処理では、主相の溶解を抑制しつつ粒界および拡散材(Tbを含む化合物等)の溶解を促進させることができる。そのため、最初に行う低温減圧雰囲気での拡散処理では、R-T-B系永久磁石の拡散面(Tbを含む化合物を付着させた表面)近傍の主相内部にTbが拡散されにくい。そして、R-T-B系永久磁石の拡散面近傍の粒界相とR-T-B系永久磁石の内部の粒界相とでのTb濃度の差がTb拡散の駆動力となる。したがって、R-T-B系永久磁石の拡散面近傍の粒界相からR-T-B系永久磁石の内部の粒界相にTbが拡散されやすくなる。
【0092】
拡散処理工程において次に行う高温大気圧雰囲気での拡散処理では、主相のうち特に粒界相に隣接する部分の溶解が進行する。低温減圧雰囲気での拡散処理でR-T-B系永久磁石全体の粒界相に拡散されたTbが粒界相に隣接する主相に拡散する。その後の冷却時に、溶解した主相が溶解していない主相の表面に再析出する。その際に再析出する部分に含まれるTb量が多くなる。
【0093】
その結果、従来の拡散処理工程の拡散方法と比較して、R-T-B系永久磁石の特に磁石内部にTbを拡散させやすくなる。そして、R-T-B系永久磁石の内部において、主相に含まれるシェルを厚くし、かつ、シェルのTb濃度を高くすることができる。さらに、R-T-B系永久磁石の表面と内部とでの主相のTb濃度の差を低減しやすくなる。そのため、Br、HcjおよびHk/Hcjが高いR-T-B系永久磁石が得られる。
【0094】
特にHcjを高くできるのは、シェルのTb濃度が高いことにより磁化反転の起点となる主相外縁部の磁気異方性が高くなり、かつ、シェルが厚いことにより隣接する主相間での磁気分断が促進されるためであると考えられる。
【0095】
特にHk/Hcjを高くでき、特に97.0%以上とすることができるのは、磁石内部と磁石表面とで主相のTb濃度の差を低減し、磁石全体における磁気特性のバラツキを低減するためであると考えられる。
【0096】
以下、低温減圧雰囲気での拡散処理と高温大気圧雰囲気での拡散処理とを複数回、繰り返してもよい。低温減圧雰囲気での拡散処理と高温大気圧雰囲気での拡散処理とを複数回、繰り返す場合には、繰り返し回数に応じて拡散処理温度、拡散処理圧力、および/または、保持時間を適宜、変更してもよい。また、低温減圧雰囲気での拡散処理と高温大気圧雰囲気での拡散処理とを複数回、繰り返すことで、主相のシェルにおけるTb濃度が、主相のコアの近傍から主相に隣接する粒界相の近傍に向かって漸増しやすくなる。
【0097】
また、従来の拡散処理工程の拡散方法では拡散材により拡散材近傍の磁石表面付近の主相が溶解する。そのため、Tbが過剰に拡散材近傍の磁石表面付近にとどまってしまう。そして、拡散材近傍の磁石表面から磁石中心部までのTb拡散が滞ってしまう。磁石中心部の粒界相にTbが拡散しにくくなるため、磁石中心部の粒界相から主相へのTbの拡散性がさらに低下してしまう。その結果、磁石中心部の粒界相と磁石中心部の主相との比較では磁石中心部の粒界相により多くのTbが含まれやすくなり、[Tbb]/[Tbs]が1.5よりも高くなりやすい。そのため、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石と比較して保磁力および角形比が低くなりやすい。
【0098】
さらに、拡散処理工程における熱処理の後に、時効処理工程を行ってもよい。
【0099】
拡散処理工程の後にTbを付着させた面(拡散面)を研磨して残渣を除去してもよい。上記の方法によりTbを拡散させることで除去される残渣に含まれるTbを比較的、低減することができ、高価なTbを効率的に用いてR-T-B系永久磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0100】
以上、本発明のR-T-B系永久磁石の好適な実施形態について説明したが、本発明のR-T-B系永久磁石は上記の実施形態に制限されるものではない。本発明のR-T-B系永久磁石は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形、種々の組み合わせが可能である。
【0101】
さらに、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石を切断、分割して得られる磁石を用いることができる。
【0102】
具体的には、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、モータ、コンプレッサー、磁気センサー、スピーカ等の用途に好適に用いられる。
【0103】
また、本実施形態に係るR-T-B系永久磁石は、単独で用いてもよく、2個以上のR-T-B系永久磁石を必要に応じて結合させて用いてもよい。結合方法に特に制限はない。例えば、機械的に結合させる方法や樹脂モールドで結合させる方法がある。
【0104】
2個以上のR-T-B系永久磁石を結合させることで、大きなR-T-B系永久磁石を容易に製造することができる。2個以上のR-T-B系永久磁石を結合させた磁石は、特に大きなR-T-B系永久磁石が求められる用途、例えば、IPMモータ、風力発電機、大型モータ等に好ましく用いられる。
【実施例0105】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0106】
(Tb拡散前磁石作製工程)
原料金属として、Nd、Tb、電解鉄、低炭素フェロボロン合金を準備した。さらに、Al、Cu、Co、Zrを、純金属またはFeとの合金の形で準備した。
【0107】
前記原料金属に対し、ストリップキャスト法により、後述するTb拡散前の磁石の組成が表1に示す組成となるように原料合金を作製した。なお、Feの含有量をbal.と記載しているのは、Feの含有量が実質的な残部であることを示している。なお、全ての実施例および比較例において表1に示された元素以外の元素の含有量は1質量%以下であった。また、前記原料合金の合金厚みは0.2mm~0.6mmとした。
【0108】
表1に示された元素以外に含まれる元素としては、不可避的不純物等として、H、Si、Ca、La、Ce、Cr等が検出される場合がある。Siは主にフェロボロン原料および合金溶解時のるつぼから混入する。Ca、La、Ceは希土類の原料から混入する。また、Crは電解鉄から混入する可能性がある。
【0109】
次いで、前記原料合金に対して室温で1時間、水素ガスをフローさせて水素を吸蔵させた。次いで雰囲気をArガスに切り替え、450℃で1時間、脱水素処理を行い、原料合金を水素粉砕した。さらに、冷却後にふるいを用いて400μm以下の粒度の粉末とした。
【0110】
次いで、水素粉砕後の原料合金の粉末に対し、質量比で0.1%の潤滑剤(オレイン酸アミド)を粉砕助剤として添加し、混合した。
【0111】
次いで、衝突板式のジェットミル装置を用いて窒素気流中で微粉砕し、それぞれ平均粒径が4μm程度の微粉(原料粉末)を得た。なお、前記平均粒径は、レーザ回折式の粒度分布計で測定した平均粒径D50である。
【0112】
得られた微粉を磁界中で成形して成形体を作製した。このときの印加磁場は1200kA/mの静磁界である。また、成形時の加圧力は120MPaとした。なお、磁界印加方向と加圧方向とを直交させるようにした。この時点での成形体の密度を測定したところ、全ての成形体の密度が4.10Mg/m3以上4.25Mg/m3以下の範囲内であった。
【0113】
次に、前記成形体を焼結し、Tb拡散前磁石を得た。焼結条件は、1060℃で4時間保持とした。焼結雰囲気は真空中とした。このとき焼結密度は7.50Mg/m3以上7.55Mg/m3以下の範囲にあった。その後、Ar雰囲気、大気圧中で、第一時効温度T1=900℃で1時間の第一時効処理を行い、さらに、第二時効温度T2=500℃で1時間の第二時効処理を行った。
【0114】
得られた拡散前永久磁石の組成は蛍光X線分析で評価した。Bの含有量はICPで評価した。その結果、原料合金の組成と実質的に同一であることを確認した。そして、得られた拡散前永久磁石に対し、以下に示す処理を行った。
【0115】
(比較例1)
上記の工程により得られたTb拡散前磁石を、
図5に示す直方体となるように加工した。W=20mm、H=10mmである。Dについては、最終的に得られる永久磁石におけるDの長さが4mmとなる長さとした。配向方向はDと平行な方向とした。その後、Tb拡散前磁石のうち20mm×10mmの2面に対し、TbH
2粒子(D50=5μm)をエタノールに分散させたスラリーを塗布することでTbを付着させた。Tb拡散前磁石の質量に対するTbの付着量が合計で表1に示す割合となるようにした。
【0116】
前記スラリーを塗布後に拡散処理圧力を大気圧(100kPa)とし、Arをフローしながら拡散処理温度850℃で保持時間24時間の熱処理を実施し、Tbを粒界拡散させた。さらに、Ar雰囲気、大気圧中で、500℃で1時間の時効処理を行った。
【0117】
次に、拡散面である20mm×10mmの2面をそれぞれD方向に500μm削り取り、寸法がW=20mm、H=10mm、D=4mmである各試料の永久磁石(Tb拡散後磁石)を得た。
【0118】
得られた永久磁石におけるTbの含有量は蛍光X線分析装置(XRF)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0119】
得られた永久磁石について、BHトレーサーで温度RT(23℃)での磁気特性(Br、HcjおよびHk/Hcj)の評価を行った。本実験例では、Hcjは2000kA/m以上を良好とし、2300kA/m以上を更に良好とした。Hk/Hcjは97.0%以上を良好とした。
【0120】
さらに、得られたR-T-B系永久磁石1について、20mm×10mmの面の重心からD方向に2.0mm内側に位置する測定箇所3にある主相11について、3DAPを用いて原子の三次元分布像の取得を行った。そして、主相11がコアおよびシェルを有することを確認した。次に、3DAPを用いて
図1に示すように主相11および主相11に隣接する粒界相13を通過する線分ABを設定し、線分ABにおけるTb濃度、Cu濃度、Fe濃度、Co濃度およびNd濃度を線分析して
図2~
図4に類似するグラフを作成した。グラフの形状から目視にてコアにおけるTb濃度、シェルの厚み、粒界相におけるFeおよびCoの合計濃度の最小値、粒界相におけるNd濃度の最大値、[Tb
s]および[Tb
b]を決定し、[Tb
b]/[Tb
s]を算出した。結果を表1に示す。
【0121】
図2の破線は実施例1の粒界相に対応する破線であり、比較例1の粒界相に対応する破線ではない。しかし、比較例1の粒界相は当該破線で示される位置に近い位置にある。また、比較例1はCoを含まない。したがって、
図4に示される比較例1のFe+Coの濃度変化はFeの濃度変化と同一である。
【0122】
(実施例1~6)
実施例1~6は、拡散工程を多段階拡散とした点以外は比較例1と同条件で実施した。以下、実施例1~6の拡散工程を示す。
【0123】
前記スラリーを塗布後に、低温減圧雰囲気での拡散処理を行った。具体的には、拡散処理圧力1kPaとし、Arをフローしながら拡散処理温度600℃で保持時間6時間の熱処理を実施した。次に、高温大気圧雰囲気での拡散処理を行った。具体的には、拡散処理圧力を大気圧(100kPa)に、拡散処理温度を850℃(実施例5のみ870℃)に、それぞれ上昇させ、保持温度6時間の熱処理を実施した。次に、低温減圧雰囲気での拡散処理を行った。具体的には、拡散処理圧力1kPaとし、Arをフローしながら拡散処理温度600℃で保持時間6時間の熱処理を実施した。次に、高温大気圧雰囲気での拡散処理を行った。具体的には、拡散処理圧力を大気圧(100kPa)に、拡散処理温度を850℃(実施例5のみ870℃)に、それぞれ上昇させ、保持温度6時間の熱処理を実施した。さらに、Ar雰囲気、大気圧中で、500℃で1時間の時効処理を行った。結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
表1より、拡散工程を多段階拡散とした各実施例は、シェルの厚みが70nm以上、[Tbs]が1.7at%以上、粒界相におけるFeおよびCoの合計濃度の最小値が65.0at%以下となった。その結果、各実施例は良好なHcjおよびHk/Hcjを有していた。これに対し、Tb拡散前磁石がTbを含まず、かつ、拡散工程を多段階拡散としなかった比較例1はシェルの厚みおよび[Tbs]が小さすぎ、HcjおよびHk/Hcjが低下した。
【0126】
粒界相において常にCu濃度が0.15at%以上となりシェルのうち粒界相に接する部分においてCu濃度が0.15at%未満となるようにシェルと粒界相との境界を決定し、かつ、コアの内部におけるTb濃度から0.10at%以上、Tb濃度が増加している部分をシェルとするようにコアとシェルとの境界を決定する場合でも表1に示す試験結果に変化がないことを確認した。この時、コアの内部におけるTb濃度は、Tb拡散前磁石のTb濃度と等しくなると仮定して計算した。
【0127】
全ての実施例において、シェルの内部でコアから粒界相13に向かって10nm間隔でTb濃度の測定点を設定する場合に、粒界相13に近い測定点ほどTbの濃度が高く、かつ、隣り合う測定点間でのTb濃度の差が全て0.01at%以上0.50at%以下であることを確認した。すなわち、全ての実施例でシェルにおけるTb濃度が、コアの近傍から粒界相の近傍に向かって漸増することを確認した。
【0128】
他方、比較例1では、シェルの内部でコアから粒界相13に向かって10nm間隔でTb濃度の測定点を設定する場合に、隣り合う測定点間でのTb濃度の差が1at%程度である場合があることを確認した。すなわち、比較例1ではシェルにおけるTb濃度が、コアの近傍から粒界相の近傍に向かって漸増していないことを確認した。