(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146733
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】導体成形方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H02K15/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023213718
(22)【出願日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】202310336151.3
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】福地 遼介
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 幹人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 拓郎
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP13
5H615PP14
5H615QQ02
5H615QQ06
5H615QQ21
5H615SS04
(57)【要約】
【課題】コイルエンド部の頂点の幅方向の広がりを抑えることができ、より小径に巻回することが可能な導体成形方法を提供する。
【解決手段】導体線を折り返すことによって、山型状のコイルエンド部と、コイルエンド部の両端にそれぞれ接続される直線部と、を有する導体を成形する導体成形方法であって、導体線を、導体のコイルエンド部の頂点に対応する部位を支点として折り返す折り返し工程と、折り返し工程の開始後に、導体のコイルエンド部と直線部との境界部に対応する部位を支点として、折り返される一方側の導体線を、折り返される他方側の導体線に対して、直線部の延び方向に対して交差する方向に相対的に移動させ、頂点を境にして導体線を斜行させることによって、コイルエンド部を成形する斜行工程と、を備える。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体線を折り返すことによって、山型状のコイルエンド部と、前記コイルエンド部の両端にそれぞれ接続される直線部と、を有する導体を成形する導体成形方法であって、
前記導体線を、前記導体の前記コイルエンド部の頂点に対応する部位を支点として折り返す折り返し工程と、
前記折り返し工程の開始後に、前記導体の前記コイルエンド部と前記直線部との境界部に対応する部位を支点として、折り返される一方側の前記導体線を、折り返される他方側の前記導体線に対して、前記直線部の延び方向に対して交差する方向に相対的に移動させ、前記頂点を境にして前記導体線を斜行させることによって、前記コイルエンド部を成形する斜行工程と、を備える、導体成形方法。
【請求項2】
前記斜行工程を、前記折り返し工程の開始後に、折り返される一方側の前記導体線と折り返される他方側の前記導体線とが完全に重なり合わない状態で実行する、請求項1に記載の導体成形方法。
【請求項3】
一定の間隔で並列させた複数の前記導体線に対して、前記折り返し工程及び前記斜行工程を複数回ずつ順次繰り返すことによって、前記直線部の延び方向の両端部側にそれぞれ前記コイルエンド部を形成して、帯状の前記導体を成形する、請求項1又は2項に記載の導体成形方法。
【請求項4】
複数回の前記折り返し工程は、前記複数の導体線を、前回の前記折り返し工程の折り返し方向と反対方向に折り返す工程を少なくとも1回含む、請求項3に記載の導体成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、直線状の導体線を折り返すことによって、複数の直線部と、隣り合う直線部の両端同士を接続する山型状のコイルエンド部と、を有する導体を成形する導体成形方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記導体成形方法は、まず、直線状の導体線を斜めに折り曲げて斜行部を成形した後、その斜行部の中央を支点として導体線を180°折り返すことによって、山型状のコイルエンド部を成形している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、内燃機関を搭載せずに、回転電機のみを駆動源とする電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)が知られている。一般に、電気自動車には、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)に比較して小型の回転電機が搭載される。回転電機を小型化するためには、ステータを小径化することが必要であり、そのための対策が求められている。
【0006】
上記従来技術では、導体線のコイルエンド部となる部位を斜行させて斜行部を折り曲げ成形した後に、その斜行部の中央を支点にして180°折り返してコイルエンド部を成形している。しかし、この方法では、成形後のコイルエンド部の頂点が幅広に形成されるため、この方法によって長尺な帯状コイルを成形した場合、帯状コイルの巻回時に、帯状コイルの長さ方向に隣接するコイルエンド部同士が干渉する。そのため、小径のステータコアに装着するために帯状コイルを小径に巻回することが困難である。
【0007】
本発明は、コイルエンド部の頂点の幅方向の広がりを抑えることができ、より小径に巻回することが可能な導体成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る導体成形方法は、導体線(例えば、後述の導体線1)を折り返すことによって、山型状のコイルエンド部(例えば、後述のコイルエンド部102)と、前記コイルエンド部の両端にそれぞれ接続される直線部(例えば、後述の直線部101)と、を有する導体(例えば、後述の導体100)を成形する導体成形方法であって、前記導体線を、前記導体の前記コイルエンド部の頂点(例えば、後述の頂点102b)に対応する部位を支点として折り返す折り返し工程と、前記折り返し工程の開始後に、前記導体の前記コイルエンド部と前記直線部との境界部(例えば、後述の境界部103)に対応する部位を支点として、折り返される一方側の前記導体線を、折り返される他方側の前記導体線に対して、前記直線部の延び方向(例えば、後述のY方向)に対して交差する方向(例えば、後述のX1方向)に相対的に移動させ、前記頂点を境にして前記導体線を斜行させることによって、前記コイルエンド部を成形する斜行工程と、を備える。
【0009】
(2) 上記(1)に記載の導体成形方法において、前記斜行工程を、前記折り返し工程の開始後に、折り返される一方側の前記導体線と折り返される他方側の前記導体線とが完全に重なり合わない状態で実行する。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の導体成形方法において、一定の間隔で並列させた複数の前記導体線に対して、前記折り返し工程及び前記斜行工程を複数回ずつ順次繰り返すことによって、前記直線部の延び方向の両端部側にそれぞれ前記コイルエンド部を形成して、帯状の前記導体(例えば、後述の帯状コイル)を成形する。
【0011】
(4) 上記(3)に記載の導体成形方法において、複数回の前記折り返し工程は、前記複数の導体線を、前回の前記折り返し工程の折り返し方向と反対方向に折り返す工程を少なくとも1回含む。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)によれば、導体線の折り返し工程を開始した後に、導体線を斜行させてコイルエンド部を成形するため、成形されるコイルエンド部の頂点の幅方向の広がりを抑制することができる。そのため、これによって成形される導体は、より小径に巻回することが可能である。
【0013】
上記(2)によれば、折り返し工程開始後の導体線同士が完全に重なり合う前に導体線を斜行させるため、斜行を開始する前に、折り返しの起点を形成するためのガイド治具を挿入することができる。
【0014】
上記(3)によれば、コイルエンド部の頂点の幅方向の広がりが抑制されて小径に巻回可能な帯状コイルが得られる。
【0015】
上記(4)によれば、巻回状態の帯状の導体の層替わり部において、層間の干渉を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態の導体成形方法によって成形される導体の一例を示す正面図である。
【
図2】導体が装着されたステータを示す平面図である。
【
図3】U字状の導体線の成形方法を説明する図である。
【
図6】本実施形態の導体成形方法を実施する導体成形装置の一例を示す斜視図である。
【
図8】導体線を把持する前の把持装置の一部を示す斜視図である。
【
図9】導体線を把持した後の把持装置の一部を示す斜視図である。
【
図10】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図13】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図14】導体線がガイド治具を挟んで折り曲げられた状態を示す側面図である。
【
図15】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図16】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図17】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図18】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図19】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図20】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図21】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図22】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図23】成形後の導体のコイルエンド部を示す拡大図である。
【
図24】成形後の導体のコイルエンド部を示す平面図である。
【
図25】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図26】導体成形装置による導体成形方法を説明する図である。
【
図27】層変わり部を有する導体を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態の導体成形方法によって成形される導体100の一例を示す。導体100は、複数本の導体線1を使用して折り曲げ成形される。本実施形態の導体100は、6本の導体線1によって構成され、一方向(
図1におけるX方向)に長尺な帯状に成形される帯状コイルである。
【0018】
ここで、図中に示す方向について次のように定義する。X方向は、導体100の長さ方向である。このX方向は、導体100を構成する導体線1の幅方向に対応する。Y方向は、導体100の幅方向である。このY方向は、導体100の直線部101の延び方向に対応するとともに、導体線1の長さ方向に対応する。Z方向は、導体100の厚み方向である。このZ方向は、導体線1の厚み方向に対応する。各図中のX,Y,Z方向は、導体100におけるX,Y,Z方向にそれぞれ対応している。
【0019】
導体100は、長さ方向に一定の間隔で並列する複数の直線部101と、各直線部101の延び方向の両端部側に配置される複数のコイルエンド部102と、を有する。直線部101は、導体100の幅方向に沿って延びている。コイルエンド部102は、5本おきに配置される2本の直線部101,101の一方端部同士と他方端部同士とを、導体100の長さ方向に沿って交互に山型状に接続している。
【0020】
コイルエンド部102は、直線部101との境界部103から斜めに延びる傾斜部102aと、2本の直線部101,101にそれぞれ接続される傾斜部102a,102aの先端同士が接続された頂点102bと、を有する山型状に形成される。導体100において、それぞれ二重構造の導体線1,1の外側の導体線1の2本の脚部12,12によって形成される直線部101,101は、導体100の長さ方向に6本おきに配置され、内側の導体線1の2本の脚部12,12によって形成される直線部101,101は、導体100の長さ方向に5本おきに配置されている。
【0021】
導体100は、
図2に示すように、ステータコア31に装着されて、回転電機のステータ3を構成する。ステータコア31は、軸方向(
図2の紙面に対する垂直方向)に貫通する軸孔32に向けて放射状に突出する複数のティース33を有する。周方向に隣り合うティース33,33の間には、それぞれ軸孔32に向けて開口する複数のスロット34が形成される。導体100は、直線部101をスロット34内に順次挿入することによって、ステータコア31を複数周に亘って周回するように装着される。導体100のコイルエンド部102は、ステータコア31の軸方向の両外側に突出する。
【0022】
導体100を構成する導体線1は、導体100の長さ方向に亘って途切れることなく連続する連続線である。直線状の導体線1は、
図3に示すように、略中央部において引き出しツール300によって折り曲げ成形される。これによって、導体線1は、1つのU字部11と、一対の直線状の脚部12,12と、を有するU字状に成形される。
【0023】
導体線1は、
図4に示すように、複数本の平角線1aによってそれぞれ構成される。平角線1aは、略矩形の断面を有する銅線等の金属線である。平角線1aの表面は、図示しない樹脂製の絶縁被膜で覆われている。本実施形態の導体線1は、2本の平角線1a,1aが密接するように導体線1の幅方向に並列した分割線である。導体線1は、引き出しツール300によって、平角線1a,1aの並列方向である導体線1の幅方向に折り曲げられる。
【0024】
それぞれU字状に成形された導体線1は、
図5に示すように、U字部11を同一側に揃えた状態で、2本ずつ内側と外側とに二重に配置される。同様にして二重に配置された2本ずつの導体線1,1からなる3つの組は、12本の脚部12が一定の間隔で並列するように、幅方向にずらせて重ねられる。これによって、6本のU字状の導体線1からなる導体線群10が形成される。導体線群10は、
図6に示す導体成形装置200を用いて導体100に成形される。
【0025】
図6は、一実施形態に係る導体成形装置200の主要部の構成の概要を示している。導体成形装置200は、少なくとも4つの把持装置210A,210B,210C,210Dを備える。把持装置210A,210B,210C,210Dは、導体線群10の12本の脚部12を一度に把持及び把持解除可能に構成される。4つの把持装置210A,210B,210C,210Dの把持及び把持解除のための構成は同一であるため、
図7~
図9を参照して、1つの把持装置210の構成について説明する。
【0026】
図7に示すように、把持装置210は、導体線群10に配列される12本の脚部12に亘って長尺に形成される直方体状である。把持装置210は、把持装置210の長さ方向沿って延びる固定ブロック211と、12個の可動ブロック212と、を有する。
【0027】
図8及び
図9に示すように、固定ブロック211には、導体線群10の12本の脚部12を収容する12か所の溝211aが設けられている。12個の可動ブロック212は、固定ブロック211の溝211a内に、それぞれ脚部12を嵌合可能な隙間Gを残して、図中のX方向に沿って移動可能に収容されている。把持装置210は、図示しない駆動機構の駆動によって、溝211a内の全ての可動ブロック212を、
図8中の白抜き矢印の方向にそれぞれ同時に移動させる。これによって、把持装置210は、各隙間Gに嵌合する導体線群10の脚部12を、固定ブロック211と可動ブロック212との間でそれぞれ挟み付けて把持する。なお、把持装置210による脚部12の把持方向は、導体線1を構成する2本の平角線1a,1aの並列方向である。したがって、把持装置210は、導体線1の脚部12を、導体線1の幅方向に挟み付けて把持する。
【0028】
4つの把持装置210A,210B,210C,210Dは、導体線群10の厚み方向(Z方向)の同一面側に、導体線群10の長さ方向(Y方向)に間隔をおいて、互いに平行に配置される。
図6に示す導体成形装置200は、成形工程の初期位置を示している。このとき、把持装置210Aは、導体線群10の各U字部11の近傍に配置される。把持装置210Bは、把持装置210Aよりも導体線群10の各U字部11から遠い側に、把持装置210Aから所定の間隔をあけて配置される。把持装置210Cは、把持装置210Bよりも導体線群10の各U字部11から遠い側に、把持装置210Bから所定の間隔をあけて配置される。把持装置210Dは、把持装置210Cよりも導体線群10の各U字部11から遠い側に、把持装置210Cから所定の間隔をあけて配置される。
【0029】
図6に示すように、把持装置210Aの側縁E1と把持装置210Bの側縁E2との間、及び把持装置210Cの側縁E1と把持装置210Dの側縁E2との間は、いずれも等しい距離Lを有する。側縁E1,E2は、把持装置210A,210B,210C,210Dにおいて、脚部12を把持する面に平行に配置される2つ側縁である。把持装置210A,210B,210C,210Dにおいて、側縁E1は、導体線群10のU字部11に近い側の側縁であり、側縁E2は、導体線群10のU字部11に遠い側の側縁である。距離Lは、
図1に示す導体100の直線部101の延び方向の長さLと実質的に同一である。
【0030】
導体線群10における把持装置210Aの側縁E2と把持装置210Bの側縁E1との間の領域、及び把持装置210Cの側縁E1と把持装置210Dの側縁E2との間の領域は、それぞれ導体100の直線部101を形成するための直線部形成領域10Aを構成する。したがって、把持装置210A,210B及び把持装置210C,210Dは、それぞれ導体線群10における直線部形成領域10A内において、12本の脚部12を把持している。
図6に示す導体線群10の脚部12において、直線部形成領域10Aは白抜きで示されている。
【0031】
導体線群10における把持装置210Bの側縁E2と把持装置210Cの側縁E1との間の領域は、導体100のコイルエンド部102を形成するためのコイルエンド部形成領域10Bを構成する。
図6に示す導体線群10の脚部12において、コイルエンド部形成領域10Bはハッチングによって示されている。
【0032】
直線部形成領域10A及びコイルエンド部形成領域10Bは、導体線群10のU字部11側から、脚部12の長さ方向(Y方向)に沿って、交互に配置される。
【0033】
4つの把持装置210A,210B,210C,210Dのうち、導体線群10のU字部11に近い2つの把持装置210A,210Bは、図示しない回転機構部の駆動によって、距離Lを維持した状態で、
図6に示す仮想的な折り返し線220を軸として正逆方向に回転可能に設けられている。折り返し線220は、把持装置210Bと把持装置210Cとの間の中間位置に、
図6中のX方向に沿って設定される。この中間位置は、導体線群10の折り返し成形後にコイルエンド部102の頂点102bの位置に対応する位置である。折り返し線220は、脚部12の長さ方向に直交する方向であり、4つの把持装置210A,210B,210C,210Dの長さ方向に平行に配置される。導体線群10の脚部12を把持した把持装置210A,210Bが折り返し線220を軸として回転することによって、導体線群10は、把持装置210Bと把持装置210Cとの間のコイルエンド部形成領域10Bの中央で折り返される。これによって、折り返し工程が実行される。
【0034】
把持装置210A,210Bは、図示しない斜行機構部の駆動によって、把持装置210C,210Dに対して、距離Lを維持した状態で、
図6中のX方向に沿って相対的に平行移動可能に設けられている。本実施形態の導体成形装置200において、把持装置210C,210DはX方向に移動不能に設けられ、把持装置210A,210BがX方向に平行移動可能に設けられている。しかし、把持装置210A,210BはX方向に移動不能に設けられ、把持装置210C,210DがX方向に平行移動可能に設けられてもよい。また、把持装置210A,210Bと把持装置210C,210Dとが、それぞれ互いに反対方向に平行移動可能に設けられてもよい。導体線群10の脚部12を把持した把持装置210A,210Bが、把持装置210C,210Dに対して、X方向に平行移動することによって、把持装置210Bと把持装置210Cとの間の導体線群10のコイルエンド部形成領域10Bは、脚部12の長さ方向に対して斜めに傾斜するように折り曲げられる。これによって、斜行工程が実行される。
【0035】
次に、導体成形装置200を用いて、導体線群10から導体100を成形する方法について、
図6、
図10~
図22を参照して説明する。
【0036】
まず、導体成形装置200は、
図6に示すように、導体線群10の12本の脚部12を、4つの把持装置210A,210B,210C,210Dによって把持する(把持工程)。その後、把持装置210A,210Bは、図示しない回転機構部の駆動によって、
図10に示すように、折り返し線220を軸としてR1方向に回転する。これによって、導体線群10においてU字部11に最も近いコイルエンド部形成領域10Bに対して、折り返し工程が開始される。
【0037】
図10には示されていないが、折り返し工程において、後述の斜行工程が開始される前に、
図11及び
図12に示すように、ガイド治具230が使用される。ガイド治具230は、
図12に示すように、側面から見て、約5°の角度で傾斜する略三角形の楔型に形成される。ガイド治具230は、折り返し線220を境にして折り返される一方側の導体線群10(把持装置210A,210Bによって把持される側の導体線群10)と他方側の導体線群10(把持装置210C,210Dによって把持される側の導体線群10)との間に挿入される。
【0038】
ガイド治具230の先端縁230aは、折り返し線220に沿って平行になるように配置される。ガイド治具230が配置されることによって、折り返し線220に沿う導体線群10の折り返し時に、先端縁230aに沿って各導体線1の脚部12の折り返しの起点が支持される。そのため、折り返し工程における回転時の支点P(
図12及び
図14参照)の位置が安定する。支点Pは、導体100のコイルエンド部102の頂点102bに対応する部位である。後工程で略U字状に折り曲げ成形されるコイルエンド部102の頂点102bを小径化できるため、厚みの小さい頂点102bを形成することができる。なお、ガイド治具230の先端縁230aは、各脚部12の折り返し動作が円滑に行われるようにするため、折り返し線220に対して、把持装置210C側に距離Dだけ僅かにずれている。
【0039】
折り返し工程の開始初期において、
図13に示すように、折り返し線220に沿って導体線群10が折り返される。そのため、折り返される一方側の導体線群10と他方側の導体線群10とは、ガイド治具230を挟んで、それぞれの同一の導体線1の脚部12同士が重なり合う方向に折り曲げられる(一次折り返し工程)。
【0040】
一次折り返し工程は、
図14に示すように、折り返される導体線群10を構成する導体1の脚部12が、ガイド治具230の上面230bに近接する程度で終了する。具体的には、把持装置210A,210Bは、
図6に示す状態から、折り返し線220を軸として150°回転して、導体線群10を折り返す。一次折り返し工程の終了後、ガイド治具230は、折り返された導体線群10の間から退避する。
図12において、ガイド治具230は、図示を省略している。また、
図13以降の各図において、4つの把持装置210A,210B,210C,210Dは、図示を省略する。
【0041】
一次折り返し工程の終了後、把持装置210A,210Bは、一次折り返し工程終了時の回転角度を維持した状態で、
図14に示すように、X1方向に平行移動する。X1方向は、導体線群10を構成する導体1の幅方向に沿う方向である。X1方向は、折り返し線220に平行である。
【0042】
把持装置210A,210Bの平行移動によって、コイルエンド部形成領域10Bの導体線群10を構成する導体線1の脚部12は、折り返し時の支点Pを境にして、傾斜方向が山型状に交差するように斜行する。これによって斜行工程が開始される。
【0043】
斜行工程が開始されることによって、各導体線1の脚部12によって、折り返しの支点Pを頂点102bとし、この頂点102bに対して斜めに交差する2本の傾斜部102a,102aを有するコイルエンド部102が成形される(一次斜行工程)。
【0044】
一次斜行工程において、脚部12は、コイルエンド部形成領域10Bを挟んで配置される把持装置210Bの側縁E2と把持装置210Cの側縁E1を支点にして斜行する。これらの支点は、コイルエンド部102と直線部101との境界部103に対応する部位である。但し、一次斜行工程によって成形されるコイルエンド部102において、頂点102bを境にした2本の傾斜部102a,102aの交差角度は、
図1に示す完成品の導体100のコイルエンド部102に比較して、未だ小さい状態である。
【0045】
一次斜行工程の終了後、
図16に示すように、把持装置210A,210Bは、把持装置210C,210Dに重なるように、折り返し線220を軸としてさらにR1方向に回転する。把持装置210A,210Bは、
図6に示す状態から、折り返し線220を軸として180°回転して、導体線群10を折り返す。これによって、導体線群10は完全に折り返される(二次折り返し工程)。
【0046】
二次折り返し工程が完了すると、導体線群10の最初のコイルエンド部形成領域10Bに対する折り返し工程が終了する。
【0047】
折り返し工程の終了後、把持装置210A,210Bは、二次折り返し工程終了時の回転角度を維持した状態で、
図17に示すように、一次斜行工程と同じX1方向に平行移動する。把持装置210A,210Bの平行移動によって、導体線群10を構成する導体線1に、
図1に示す完成品の導体100のコイルエンド部102と同一形状のコイルエンド部102がそれぞれ形成される(二次斜行工程)。
【0048】
二次斜行工程が完了すると、導体線群10の最初のコイルエンド部形成領域10Bに対する斜行工程が終了する。
【0049】
導体線群10の最初のコイルエンド部形成領域10Bに対する折り返し工程の開始後に、上記のとおり、一次折り返し工程、一次斜行工程、二次折り返し工程、及び二次斜行工程を順次実行した後、把持装置210A,210B,210C,210Dは、それぞれ導体線1の脚部12の把持を解除する。さらに、把持装置210A,210Bは、
図6に示す初期位置に復帰する。
【0050】
その後、導体線群10は、導体成形装置200の図示しない搬送機構部の駆動によって、
図18に示すように、Y1方向に所定距離だけ搬送される。Y1方向は、導体線群10を構成する導体1の長さ方向に沿う方向である。Y1方向は、折り返し線220に直交している。これによって、導体線群10は、前工程において把持装置210C,210Dに把持されていた直線部形成領域10A内の12本の脚部12が、初期位置に復帰した把持装置210A,210Bによって把持可能となる位置まで搬送される(搬送工程)。
【0051】
搬送工程の後は、
図19~
図22に示すように、導体線群10を新たに把持した把持装置210Bと把持装置210Cとの間のコイルエンド部形成領域10Bに対して、上記同様に、一次折り返し工程、一次斜行工程、二次折り返し工程、及び二次斜行工程が順次実行される。
【0052】
これによって成形されるコイルエンド部102は、
図23に示すように、導体100の長さ方向に整然と配列される。コイルエンド部102は、導体線10に対して折り返し工程を開始した後に、導体線10を斜行させることによって成形されるため、頂点102bにおける導体線1は、導体100の厚み方向に略U字状に折り曲げられている。そのため、従来のように、導体線10を斜行させた後に折り返す場合に比べて、
図24に示すコイルエンド部102の頂点102bの幅Wの広がりは抑制される。隣り合う頂点102b,102bの間隔を小さくすることができるため、従来よりも導体100を小径に巻回することが可能であり、小径のステータ3を構成することができる。
【0053】
導体線群10を構成する導体線1は、折り返し工程開始後に完全に重なり合う前に斜行工程によって斜めに成形されるため、コイルエンド部102の頂点102bの捻じれが抑制される。そのため、頂点102bの幅Wの広がりは効果的に抑制される。
【0054】
なお、導体100は、導体線群10を折り返すことによって形成されるため、導体100の厚み方向に2本ずつの直線部101,101が積層された2層構造を有する。この導体100がステータコア31に複数周に亘って巻回されると、ステータコア31の1周毎に、ステータコア31の径方向に層(ターン)が切り替わる層替わり部Taを有する。この場合、導体100における層替わり部Taにおける層間の干渉を避けるため、
図25及び
図26に示すように、導体100の層替わり部Taに対応する導体線群10のコイルエンド部形成領域10Bを、前回のコイルエンド部形成領域10Bの折り返し方向(R1方向)とは反対方向(R2方向)に折り返すことが好ましい。
【0055】
詳しくは、
図25に示すように、導体100の層替わり部Taに対応する導体線群10のコイルエンド部形成領域10Bが、折り返し可能な位置まで搬送された後、把持装置210A,210Bを、
図26に示すようにR2方向に回転させることによって、コイルエンド部形成領域10Bを、前回工程の反対方向に折り返す。このR2方向の回転によって、導体100の層替わり部Taに対応する導体線群10のコイルエンド部形成領域10Bが折り返される。その結果、
図27に示すように、各層替わり部Taにおいて、ステータコア31に装着される導体100の厚さ方向のオフセット方向が逆方向になる。
【0056】
図27は、ステータコア31に対して4周に亘って巻回される導体100の平面図を模式的に示している。導体100は、厚み方向に2本ずつの直線部101,101が積層されているため、1T~8Tの8ターン構成を有し、4か所の層変わり部Taを有する。各層変わり部Taでは、導体100のオフセット方向が逆方向になるため、ステータコア31への巻回時に、層変わり部Taにおいて段差が形成されることがない。そのため、導体100をさらに小径に巻回することが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 導体線
100 導体
101 直線部
102 コイルエンド部
102b 頂点
103 境界部
230 ガイド治具