(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146735
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】シリコン‐炭素複合材料、その製造方法、電気化学装置及び電子機器
(51)【国際特許分類】
C01B 32/00 20170101AFI20241004BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241004BHJP
C01B 33/029 20060101ALI20241004BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20241004BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20241004BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C01B32/00
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 A
H01M4/36 E
H01M4/36 C
C01B33/029
C01B33/02 Z
C01B32/05
C23C16/24
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023215325
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】202310340247.7
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】黄 鵬
(72)【発明者】
【氏名】李 若楠
(72)【発明者】
【氏名】孫 中貴
(72)【発明者】
【氏名】孫 化雨
【テーマコード(参考)】
4G072
4G146
4K030
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA02
4G072BB05
4G072GG02
4G072HH03
4G072HH07
4G072MM40
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4G072RR30
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4G072TT30
4G072UU30
4G146AA01
4G146AA15
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4G146AC04A
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4G146BA12
4G146BC09
4G146BC16
4K030AA03
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4K030AA09
4K030BA29
4K030CA01
4K030FA10
4K030JA11
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
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5H050FA17
5H050FA18
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA08
5H050HA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】非金属ドーピングの最適化によりシリコン-炭素複合材料の性能を向上させ、炭素基板上の活性サイトの不足や蒸着プロセス中のシリコンの吸着能力の不足の問題を解決するために、シリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、電気化学装置並びに電子機器を提供する。
【解決手段】シリコン‐炭素複合材料は、炭素基板と、炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、炭素基板にドープされた非金属元素とを含む。非金属元素と炭素元素とが形成する共有結合エネルギーは、180eV≦E1≦700eV又は130eV≦E2≦210eVである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素基板と、炭素基板の表面及び/又は前記炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、前記炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含む、シリコン-炭素複合材料であって、
前記非金属元素と炭素元素とは、共有結合を形成し、
前記シリコン-炭素複合材料は、以下の関係を満たし、
E1=[910.4ln(t1)-1997.7]±10 (I)、及び、
E2=[503.1ln(t2)-1586]±10 (II)
E1の範囲は180eV~700eVであり、E2の範囲は130eV~210eVであり、
式中、E1及びE2は、前記シリコン-炭素複合材料中の前記非金属元素と前記炭素元素とにより形成される共有結合エネルギーであり、t1及びt2は前記非金属元素の相対原子量である。
【請求項2】
前記非金属元素が、B、N、F、Cl、S、Pの少なくとも1つから選択される、請求項1に記載のシリコン-炭素複合材料。
【請求項3】
以下の条件(a)~(e)の少なくとも1つを満足する、請求項1に記載のシリコン-炭素複合材料、
(a) 前記シリコン-炭素複合材料中の前記非金属元素の質量百分率は0.001重量%~5重量%であり、
(b) 前記シリコン-炭素複合材料中のシリコン元素の質量百分率は10重量%~65重量%であり、
(c) 前記シリコン-炭素複合材料中の前記炭素元素の質量百分率は35重量%~90重量%であり、
(d) 前記シリコン-炭素複合材料のID/IG比は0.4~2であり、
(e) 前記シリコン-炭素複合材料は、以下の関係を満たす、R=[m×P/2.21]/[1- m×n/2.25] ×100%、Rは20%~70%である、式中、Rは利用可能な気孔率であり、mは前記シリコン-炭素複合材料中のg/cm3単位での真密度であり、n及びPはそれぞれ前記シリコン-炭素複合材料中の前記炭素元素と前記シリコン元素の重量%単位による質量百分率である。
【請求項4】
前記シリコン-炭素複合材料は、内核と、前記内核を覆う炭素被覆層とを含み、前記内核は、前記炭素基板と、前記炭素基板の前記表面及び/又は前記炭素基板の前記内部に付着した前記シリコン材料と、前記炭素基板にドープされた前記非金属元素と、を含み、前記非金属元素と前記炭素元素とは前記共有結合を形成する、請求項1に記載のシリコン-炭素複合材料。
【請求項5】
炭素源、無機非金属源、及び造孔剤を均一に混合し、その後、高温熱処理により非金属ドープ炭素系材料を得る高温熱処理ステップと、
化学気相成長法を介してシリコン源と前記非金属ドープ炭素系材料とを反応させ、前記シリコン-炭素複合材料を得る化学気相成長ステップと、
を含むシリコン-炭素複合材料の製造方法であって、
前記シリコン-炭素複合材料は、炭素基板と、前記炭素基板の表面及び/又は前記炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、前記炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含み、前記非金属元素と炭素元素とは共有結合を形成し、
前記シリコン-炭素複合材料の製造方法は、以下の関係を満たし、
E1=[910.4ln(t1)-1997.7]±10 (I)、及び、
E2=[503.1ln(t2)-1586]±10 (II)、
E1の範囲は180eV~700eVであり、E2の範囲は130eV~210eVである、
式中、E1及びE2は、前記シリコン-炭素複合材料中の前記非金属元素と前記炭素元素とにより形成される共有結合エネルギーであり、t1及びt2は前記非金属元素の相対原子量である。
【請求項6】
前記シリコン-炭素複合材料を炭素コーティングするステップをさらに含む、請求項5に記載のシリコン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記化学気相成長の時間は、1時間~12時間である、請求項5に記載のシリコン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記炭素源と前記無機非金属源との質量比は、(80~99):(1~40)である、請求項5に記載のシリコン-炭素複合材料の製造方法。
【請求項9】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項1に記載のシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電気化学装置を備える電子機器。
【請求項11】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項2に記載のシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項12】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項3に記載のシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項13】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項4に記載のシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項14】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項5に記載の方法により得られたシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項15】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、 前記負極活物質は、請求項6に記載の方法により得られたシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項16】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項7に記載の方法により得られたシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項17】
負極シートを含む電気化学装置であって、前記負極シートは、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含み、前記負極活物質は、請求項8に記載の方法により得られたシリコン-炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の技術分野に関し、特に、シリコン‐炭素複合材料、その製造方法、電気化学装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウム電池の負極の商品化は、主に人造/天然黒鉛に基づいているが、理論的な比容量限界(372mAh/g)に近づいている。シリコンの理論的な比容量は4200mAh/gと高く、現在入手可能な黒鉛系負極材料の10倍以上であるため、リチウムの沈殿の隠れた危険性は発生しない可能性がある。シリコンは黒鉛負極材料に比べて安全であり、さらに、シリコン埋蔵量が豊富でコストも低いため、次世代リチウム電池の負極材料として最も期待されている。しかしながら、シリコン材料は充放電中にリチウム合金と反応するため、体積に重大な影響が生じる(膨張率は300%に達する可能性がある)。膨張効果により、負極表面でのSEI膜の破壊と形成が繰り返され、最終的にはサイクル性能とクーロン効率の低下につながるため、シリコン材料を適用する前に改質する必要がある。シリコン負極材料の改質には、主に、ナノ化、炭素コーティング、及びサイクル性能を向上させるシリコン-炭素複合材料を形成するためのその他の技術内容が含まれる。シリコンのナノ化は応力の解放に貢献する。粒子径が150nmより小さいと、体積効果が弱くなり、充放電過程でナノシリコンが膨張するが壊れにくいため、サイクル性能が向上する。ナノシリコンには、主に、ナノ粒子、ナノワイヤー、ナノシートが含まれているため、ナノシリコンは材料の構造安定性を向上させ、材料の体積膨張を緩衝し、材料の活性界面を増加させるために使用することができる。炭素コーティングは、シリコン粒子の導電性を改善し、レート性能を改善し、ナノシリコンの凝集を防ぐために使用することができる。完全な炭素コーティングは、シリコン材料と電解質の間の直接接触を減らし、SEI膜の過剰な成長を抑制し、界面を安定化し、クーロン効率を向上させることができる。
【0003】
シリコン-炭素複合材料の製造プロセスは複雑であり、標準化されたプロセスは存在しない。技術的な難しさは、主にシリコン材料のナノ化と炭素材料との配合調製プロセスにある。現在、一般的に用いられている製造方法としては、主に化学蒸着法、メカニカルボールミル法(mechanical ball milling method)、ゾルゲル法(sol-gel process)、高温熱分解法(high-temperature pyrolysis method)などが含まれ、工業生産に適しているのは前者2つである。メカニカルボールミル法は、サンドミルを使用して粒径ミクロンのシリコン粉末をナノシリコンスラリーに粉砕し、それを黒鉛と混合し、乾燥してシリコン-炭素複合材料を作製する。しかしながら、このプロセスにおけるナノシリコンの粉砕時間は長く、エネルギー消費量は高く、ナノシリコン粒子の凝集は深刻であり、プロセス経路は長い。化学気相成長法で作製されたシリコン-炭素複合材料は、成分が密接に結合しており、結合力が強いため、充放電時に活物質が脱落しにくい。サイクル安定性が良く、凝集が起こりにくい。しかしながら、従来技術で開示されている化学気相成長法によるシリコン‐炭素複合材料の製造方法では、静的蒸着法が用いられているため、粒子材料の凝集や塗布ムラが発生しやすく、材料の性能に影響を与える可能性がある。さらに、関連技術において化学気相成長法を使用してシリコン材料を作製する場合、ジクロロジメチルシラン(dichlorodimethylsilane)などの一部のシリコン源は、シリコン材料の形態を適切に調製及び調整するために金属触媒を導入する必要がある。しかしながら、金属触媒は通常の方法では完全に除去することが難しく、電池の性能や安全性に影響を与える可能性がある。
【0004】
また、現在入手可能なシリコン‐炭素複合材料は、シリコン材料の欠点である導電性やサイクル特性をある程度改善することができるものの、さまざまな分野で高まる電池性能への要求に応えることは依然として困難である。したがって、高性能リチウムイオン電池の負極材料の要求により好ましく応えるためには、材料組成やプロセスの観点から材料を改良する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術に見られる上述の欠点に鑑み、本発明は、非金属ドーピングの最適化によりシリコン-炭素複合材料の性能を向上させ、炭素基板上の活性サイトの不足や蒸着プロセス中のシリコンの吸着能力の不足の問題を解決するために、シリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、電気化学装置並びに電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記及び他の関連する目的を達成するために、本発明の第1の態様は、炭素基板と、炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含むシリコン‐炭素複合材料を提供する。非金属元素と炭素元素とは共有結合を形成する。
【0007】
シリコン-炭素複合材料は以下の関係を満たす。
E1=[910.4ln(t1)-1997.7]±10 (I)、及び、
E2=[503.1ln(t2)-1586]±10 (II)。
E1の範囲は180eV~700eVであり、E2の範囲は130eV~210eVであり、
式中、E1及びE2は、シリコン-炭素複合材料中の非金属元素と炭素元素とにより形成される共有結合エネルギーであり、t1及びt2は非金属元素の相対原子量である。
【0008】
さらに、非金属元素は、B、N、F、Cl、S、Pの少なくとも1つから選択される。
【0009】
さらに、非金属元素と炭素元素とにより形成される共有結合は、B‐C結合、N‐C結合、F‐C結合、Cl‐C結合、S‐C結合、及びP‐C結合の少なくとも1つから選択される。B-C結合の結合エネルギーの値域は188±10eVであり、N-C結合の結合エネルギーの値域は400±10eVであり、F-C結合の結合エネルギーの値域は685±10eVであり、Cl‐C結合の結合エネルギーの値域は200±10eVであり、S‐C結合の結合エネルギーの値域は168±10eVであり、P‐C結合の結合エネルギーの値域は134±10eVである。
【0010】
さらに、シリコン-炭素複合材料中の非金属元素の質量百分率は0.001重量%~5重量%であり、好ましくは0.001重量%~2重量%である。
【0011】
さらに、シリコン-炭素複合材料中のシリコン元素の質量百分率は10重量%~65重量%であり、好ましくは20重量%~65重量%である。
【0012】
さらに、シリコン-炭素複合材料, 炭素元素の質量百分率は35重量%~90重量%であり、好ましくは40重量%~80重量%である。
【0013】
さらに、シリコン-炭素複合材料のID/IG比は0.4~2であり、好ましくは0.4~1である。
【0014】
さらに、シリコン-炭素複合材料は、以下の関係を満たす。
R=[m×P/2.21]/[1- m×n/2.25] ×100%、
Rは20%~70%である。
式中、Rは利用可能な気孔率であり、mはシリコン-炭素複合材料中のg/cm3単位での真密度であり、n及びPはそれぞれ炭素被覆シリコン中の炭素元素とシリコン元素の重量%単位による質量百分率である。
【0015】
さらに、シリコン‐炭素複合材料の利用可能な気孔率(R)は、30%~60%である。
【0016】
さらに、シリコン‐炭素複合材料は、内核と、内核を覆う炭素被覆層とを含み、内核は、炭素基板と、炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、炭素基板にドープされた非金属元素と、を含み、非金属元素と炭素元素とが共有結合を形成する。
【0017】
本発明の第2の態様は、シリコン‐炭素複合材料の製造方法を提供し、以下のステップを含む。
【0018】
高温熱処理ステップでは、炭素源、無機非金属源、及び造孔剤を均一に混合し、その後、高温熱処理により非金属ドープ炭素系材料を得る。
【0019】
化学気相成長ステップでは、化学気相成長法を介してシリコン源を非金属ドープ炭素系材料と反応し、シリコン-炭素複合材料を得る。
【0020】
シリコン-炭素複合材料は、炭素基板と、炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含む。非金属元素と炭素元素とは共有結合を形成する。
【0021】
シリコン-炭素複合材料は以下の関係を満たす。
E1=[910.4ln(t1)-1997.7]±10 (I)、及び、
E2=[503.1ln(t2)-1586]±10 (II)。
E1の範囲は180eV~700eVであり、E2の範囲は130eV~210eVであり、
式中、E1及びE2は、シリコン-炭素複合材料中の非金属元素と炭素元素とにより形成される共有結合エネルギーであり、t1及びt2は非金属元素の相対原子量である。
【0022】
さらに、炭素源は、グルコース、スクロース、マルトース、キトサン、及び可溶性デンプンのうちの少なくとも1つから選択される。
【0023】
さらに、無機非金属源は、ホウ素源、窒素源、フッ素源、塩素源、硫黄源、及びリン源のうちの少なくとも1つから選択される。
【0024】
さらに、シリコン源は、モノシラン(SiH4)、ジシラン(H6Si2)、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、テトラメチルシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、メチルシリケート、及びエチルシリケートのうちの少なくとも1つから選択される。
【0025】
さらに、シリコン-炭素複合材料の製造方法は、以下の工程をさらに含む。シリコン-炭素複合材料に炭素コーティングを施す。
【0026】
さらに、化学気相成長の時間は、1時間~12時間であり、好ましくは2時間~12時間であり、より好ましくは3時間~12時間である。
【0027】
さらに、炭素源と無機非金属源との質量比は、(80~99):(1~40)であり、好ましくは(80~90):(10~20)である。
【0028】
本発明の第3の態様は、負極シートを含む電気化学装置を提供する。負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に配置された負極活物質層とを含む。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、第1の態様に係るシリコン-炭素複合材料及び/又は第2の態様に係る方法により得られたシリコン-炭素複合材料を含む。
【0029】
本発明の第4の態様は、本発明の第3の態様に係る電気化学装置を備えた電子機器を提供する。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明のシリコン-炭素複合材料及びその製造方法、電気化学装置並びに電子機器によれば、以下のような有益な効果を奏する。
【0031】
1. 本発明では、炭素基板上の活性サイトの不足と、蒸着プロセス中のシリコンの吸着能力の不足を考慮し、非金属元素のその場でドープを通して、化学気相成長プロセス中に炭素基板の活性サイトが増加することにより、シリコン粒子の成長が触媒される。したがって、シリコン-炭素複合材料中の炭素成分の最適化が向上し、シリコン-炭素複合材料の性能が向上する。さらに、多数の活性サイトの導入が触媒として機能し得るため、金属触媒の導入が回避され、電池の安全性と性能が確保される。さらに、非金属元素ドーピングを行わない化学気相成長プロセスと比較して、活性サイトの存在により、堆積プロセスにおけるシリコン源の利用可能率が向上し、コストが削減され得る。
【0032】
2.本発明では、ドーピングによって導入された非金属元素は、高温焼結中に炭素基板中に徐々に拡散し、炭素原子の一部を置換するため、置換ドーピングが形成される。このようにして、炭素材料中のキャリア(正孔)の濃度が効果的に増加するため、炭素材料の固有の導電性が向上し、粉体導電の効果がさらに高められる。炭素層は高い粉体導電性を得ると同時に、シリコン材料の体積膨張効果を制限し、シリコン系材料の高容量を最大限に活用できるようにする。
【0033】
3.本発明では、シリコン-炭素複合材料の製造方法のプロセスが単純であり、操作が容易であり、この方法は大規模かつ工業的な生産に適している。本発明により提供されるシリコン-炭素複合材料は、負極活物質層に塗布される負極活物質として使用し、負極シートとし、正極シート、セパレータ、電解質、及びその他のコンポーネントと実装して、リチウムイオン電池などの電気化学装置を形成するため、電気的性能が大幅に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実装方法を、特定の実施形態によって以下に説明する。当業者であれば、本明細書の開示内容から、本発明の他の利点及び効果を容易に理解することができる。本発明は、他の異なる特定の実装方法を通じて実装又は適用することもできる。本明細書の詳細は、本発明の精神から逸脱することなく、異なる観点及び用途に基づいて修正又は変更することもできる。
【0035】
本発明の一実施形態は、炭素基板と、 炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含むシリコン-炭素複合材料を提供する。非金属元素と炭素元素とは共有結合を形成する。
【0036】
シリコン-炭素複合材料は以下の関係を満たす:
E1=[910.4ln(t1)-1997.7]±10 (I)、及び、
E2=[503.1ln(t2)-1586]±10 (II)。
E1の範囲は180eV~700eVであり、E2の範囲は130eV~210eVであり、
式中、E1及びE2は、シリコン-炭素複合材料中の非金属元素と炭素元素とにより形成される共有結合エネルギーであり、t1及びt2は非金属元素の相対原子量である。
【0037】
いくつかの実施形態では、非金属元素が、B、N、F、Cl、S、Pの少なくとも1つから選択される。
【0038】
いくつかの実施形態では、非金属元素と炭素元素によって形成される共有結合は、B‐C結合、N‐C結合、F‐C結合、Cl‐C結合、S‐C結合、及びP‐C結合のうちの少なくとも1つから選択される。B-C結合の結合エネルギーの値域は188±10eVであり、N-C結合の結合エネルギーの値域は400±10eVであり、F-C結合の結合エネルギーの値域は685±10eVであり、Cl‐C結合の結合エネルギーの値域は200±10eVであり、S‐C結合の結合エネルギーの値域は168±10eVであり、P‐C結合の結合エネルギーの値域は134±10eVである。
【0039】
上記の実施形態では、蒸着プロセスにおける炭素基板上の活性サイトの不足と、蒸着プロセス中のシリコンの吸着能力の不足を考慮し、非金属元素のin situドーピングを介して、化学気相成長プロセス中に炭素基板の活性サイトが増加することにより、シリコン粒子の成長が触媒される。したがって、シリコン-炭素複合材料中の炭素成分の最適化が向上し、シリコン-炭素複合材料の性能が向上する。さらに、多数の活性サイトの導入が触媒として機能し得るため、金属触媒の導入が回避され、電池の安全性と性能が確保される。さらに、非金属元素ドーピングを行わない化学気相成長プロセスと比較して、活性サイトの存在により、堆積プロセスにおけるシリコン源の利用可能率が向上し、コストが削減され得る。いくつかの実施形態では、シリコン-炭素複合材料中の非金属元素の質量百分率は0.001重量%~5重量%であり、好ましくは0.001重量%~2重量%である。
【0040】
いくつかの実施形態では、シリコン-炭素複合材料中のシリコン元素の質量百分率は10重量%~65重量%であり、好ましくは20重量%~65重量%である。
【0041】
いくつかの実施形態では、シリコン-炭素複合材料中の炭素元素の質量百分率は35重量%~90重量%であり、好ましくは40重量%~80重量%である。
【0042】
いくつかの実施形態では、シリコン-炭素複合材料のID/IG比は0.4~2であり、好ましくは0.4~1である.
【0043】
いくつかの実施形態では、シリコン-炭素複合材料は、以下の関係を満たす。
R=[m×P/2.21]/[1- m×n/2.25] ×100%、
Rは20%~70%であり、好ましくは30%~60%である。
式中、Rは利用可能な気孔率であり、mはシリコン-炭素複合材料中のg/cm3単位での真密度であり、n及びPはそれぞれ炭素被覆シリコン中の炭素元素とシリコン元素の重量%単位による質量百分率である。
【0044】
いくつかの実施形態では、炭素基材は、人造黒鉛、天然黒鉛、膨張黒鉛、鱗状黒鉛、多層グラフェン、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソカーボン微小球、多孔質炭素、及び中空炭素微小球のうちの少なくとも1つから選択される。
【0045】
いくつかの実施形態では、シリコン材料はSi及びSiOxのうちの少なくとも1つから選択され、シリコン材料はナノスケールである。シリコン材料の粒径は2nm~20nmであることが好ましい。
シリコン材料は、棒状及び/又は粒子状であり、球状、準球状、又は針状の粒子を含むが、これらに限定されない。本発明の別の実施形態では、シリコン‐炭素複合材料は、内核と、内核を覆う炭素被覆層とを含み、内核は、炭素基板、炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含む。非金属元素と炭素元素とは共有結合を形成する。
【0046】
本発明の一実施形態は、シリコン‐炭素複合材料の製造方法を提供し、以下のステップを含む。
【0047】
高温熱処理ステップでは、炭素源、無機非金属源、及び造孔剤を均一に混合し、その後、高温熱処理により非金属ドープ炭素系材料を得る。
【0048】
化学気相成長ステップでは、化学気相成長法を介してシリコン源が非金属ドープ炭素系材料と反応し、シリコン-炭素複合材料が得られる。
【0049】
シリコン-炭素複合材料は、炭素基板と、炭素基板の表面及び/又は炭素基板の内部に付着したシリコン材料と、 炭素基板上にドープされた非金属元素と、を含む。非金属元素と炭素元素とは共有結合を形成する。
【0050】
シリコン-炭素複合材料は、以下の関係を満たす。
E1=[910.4ln(t1)-1997.7]±10 (I)、及び、
E2=[503.1ln(t2)-1586]±10 (II)。
E1の範囲は180eV~700eVであり、E2の範囲は130eV~210eVである。
式中、E1及びE2は、シリコン-炭素複合材料中の非金属元素と炭素元素とにより形成される共有結合エネルギーであり、t1及びt2は非金属元素の相対原子量である。
【0051】
いくつかの実施形態では、非金属ドープ炭素系材料の調製方法は、以下のステップを含む。
【0052】
炭素源、無機非金属源及び造孔剤を溶媒に添加し、溶媒を均一に撹拌した後、溶媒を除去する。得られた固体を粉砕して粉末にし、得られた粉末中に炭素源、無機非金属源、及び造孔剤を均一に混合する。得られた粉末を高温熱処理することにより、非金属ドープ炭素系材料が得られる。
【0053】
いくつかの実施形態では、炭素源、無機非金属源、及び造孔剤は水溶性化合物であり、溶媒は水から選択される。非金属ドープ炭素系材料の製造方法は、以下のステップを含む。
【0054】
炭素源、無機非金属源、及び造孔剤を水に添加し、完全に溶解するまで撹拌し、均一で安定な溶液を形成する。この溶液を再加熱して再結晶化し、得られた固体を粉砕して粉末とし、得られた粉末中の炭素源、無機非金属源及び造孔剤を均一に混合する。得られた粉末を高温熱処理する。高温熱処理後、生成物を冷却し、粉砕し、ふるいにかけ、再結晶塩が溶解するまで水とともに撹拌し、次いで生成物を濾過、洗浄し、最後に乾燥して非金属ドープ炭素系材料を得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、加熱温度は90℃~110℃であり、加熱時間は10時間~24時間である。
【0056】
いくつかの実施形態では、炭素源は、グルコース、スクロース、マルトース、キトサン、及び可溶性デンプンのうちの少なくとも1つから選択される。無機非金属源は、ホウ素源、窒素源、フッ素源、塩素源、 硫黄源、及びリン源のうちの少なくとも1つから選択される。好ましくは、ホウ素源は、ホウ化チタン、窒化ホウ素、三塩化ホウ素、ホウ酸、三酸化二ホウ素、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、及びホウ酸ナトリウムのうちの少なくとも1つから選択される。窒素源は、アンモニア水、尿素、硫酸アンモニウムのうちの少なくとも1つから選択される。フッ素源は、フッ化水素酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムのうちの少なくとも1つから選択される。塩素源は、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化カルシウムのうちの少なくとも1つから選択される。硫黄源は、硫酸、硫化ナトリウム、チオ尿素、及びチオアセトアミドのうちの少なくとも1つから選択される。リン源は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一アンモニウム、及びリン酸二水素アンモニウムのうちの少なくとも1つから選択される。シリコン源は、モノシラン(SiH4)、ジシラン(H6Si2)、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、テトラメチルシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、メチルシリケート、及びエチルシリケートのうちの少なくとも1つから選択される。
【0057】
本発明の別の実施形態では、シリコン‐炭素複合材料の製造方法は、シリコン‐炭素複合材料上に炭素コーティングを行うステップをさらに含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、高温熱処理中の焼成温度は500℃~1000℃であり、焼成時間は1時間~5時間である。
【0059】
いくつかの実施形態では、化学気相成長の時間は、1時間~12時間であり、好ましくは2時間~12時間であり、より好ましくは3時間~12時間である。化学気相成長が長くなると、シリコン含有量が増加する可能性がある。
【0060】
いくつかの実施形態では、炭素源と無機非金属源との質量比は、(80~99):(1~40)であり、好ましくは(80~90):(10~20)である。炭素源と無機非金属源の比率を変えることにより、無機非金属のドーピング量を効果的に増加させることができ、無機非金属のドーピング量の増加によりシリコンの堆積効率をさらに向上させることができる。同じ条件下では、材料中の無機非金属含有量が増加するにつれて複合材料のシリコン含有量も増加し、それに応じて材料のID/IG値も増加する。これは、炭素材料の無秩序度が増加し、導電性が増加し、電池の直流抵抗(DCR)が減少することを示唆している。
【0061】
なお、上記実施形態で説明したシリコン-炭素複合材料は、上記実施形態で説明した方法により得ることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
本発明の一実施形態は、負極シートを提供する。負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に配置された負極活物質層とを含む。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、上述の実施形態に係るシリコン-炭素複合材料、及び/又は、上述の実施形態に係る方法により製造及び得られたシリコン-炭素複合材料を含む。いくつかの実施形態では、負極活物質は質量百分率で24%~45%のシリコン‐炭素複合材料を含む。
【0063】
本発明の一実施形態は、上記実施形態で説明した負極シートと、正極シート、セパレータ、及び電解質とを含む電気化学装置を提供する。
【0064】
本発明の実施形態における電気化学装置は、リチウムイオン電池又はナトリウムイオン電池などの任意の電気化学装置であるが、これらに限定されない。
【0065】
正極シートは、正極集電体と、正極集電体上に配置された正極活物質層とを含む。正極活物質層は、正極活物質を含む。
【0066】
正極活物質としては、一般にリチウム含有複合酸化物が挙げられ、具体的には、LiMnO2、LiFeO2、LiMn2O4、Li2FeSiO4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi5CO2Mn3O2、LizNi(1-x-y)CoxMyO2(ここで、0.01≦x≦0.20、0≦y≦0.20、0.97≦z≦1.20であり、MはMn、V、Mg、Mo、Nb及びAlのうちの少なくとも1つから選択される要素を示す)、LiFePO4、LizCO(1-x)MxO2(ここで、0≦x≦0.1、0.97≦z≦1.20であり、MはMn、Ni、V、Mg、Mo、Nb及びAlを含む群のうちの少なくとも1つから選択される要素を示す)が挙げられる。
【0067】
活物質には、通常、導電剤やバインダー等が添加される。必要に応じて、これらの物質の添加量は、正極活物質の総質量の1%~50%の範囲内で調整することができ、負極活物質の総質量の55%~76%の範囲で調整することができる。
【0068】
導電剤は、電極の充放電性能を良好にするために使用される試薬である。導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛材料、導電性カーボンブラック(スーパーP)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック材料、カーボン繊維、金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン粉末、アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、二酸化チタン、ポリフェニレン誘導体などの導電性金属酸化物が挙げられる。
【0069】
バインダーは、活物質と導電剤との結合を促進し、活物質と集電体との結合を促進する成分である。
バインダーは一般に、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、でん粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン・ブタジエンゴム、スチレンアクリルゴム、フッ素ゴム、各種共重合体などから選択されて良い。
【0070】
集電体は、電極活物質を支持する基材であり、通常、厚さ3ミクロン~500ミクロンの金属箔が用いられる。集電体の材質は、導電性が高く、二次電池の系内で化学反応を起こさない材質であれば特に限定されない。例えば、材料は、ニッケル、チタン、アルミニウム、ニッケル、銀、ステンレス、カーボンなどを表面処理して得られる箔材であっても良い。通常、集電体の表面は平滑であるが、正極活物質と集電体の密着性を向上させるために、表面に細線を形成しても良い。集電体は、箔の他、フィルム、メッシュ、多孔質、発泡体、不織布等の各種形態を単独又は組み合わせて採用しても良い。
【0071】
セパレータは、正極シートと負極シートとの間に配置され、通常、イオン透過性が高く、機械的強度が高い絶縁フィルムが用いられる。セパレータは、通常、厚さが9μm~18μmであり、孔径が5μm~300μmであり、空気透過率が180秒/100mL~380秒/100mLであり、気孔率が30%~50%である。セパレータとしては、耐薬品性、疎水性を有するポリプロピレンやガラス繊維などのオレフィン系ポリマーやポリエチレンからなるシートや不織布が用いられる。
【0072】
リチウムイオン電池に使用される電解液には、通常、非水溶媒、リチウム塩、添加剤が含まれる。
【0073】
ここで、非水溶媒は、当技術分野における従来の非水溶媒であって良く、好ましくはエステル溶媒であり、より好ましくはカーボネート溶媒である。具体的には、カーボネート溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)の少なくとも1つから選択されて良い。
【0074】
リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2(LiFSIと略記)、LiClO4、LiAsF6、LiB(C2O4)2(LiBOBと略記)、LiBF2(C2O4) (LiDFOBと略記)、LiN(SO2RF)2及びLiN(SO2F)(SO2RF)の少なくとも1つから選択されて良い。電解液中のリチウム塩の含有量は5%~20%であることが好ましい。
【0075】
添加剤は、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、ビニル硫酸塩(DTD)、硫酸ビニレン、1,3-プロパンスルトン(PS)、プロペンスルトン、及び1,4-ブタンスルトンの少なくとも1つから選択される。電解液中で使用される添加剤の典型的な量は、電解液の1%~4%であり、例えば2%である。
【0076】
いくつかの実施形態では、負極活物質は、シリコン‐炭素複合材料、黒鉛、導電性カーボンブラック、及びバインダーを含む。負極活物質は、1.6%~45%のシリコン-炭素複合材料、40%~88.2%の黒鉛、2%~8%の導電性カーボンブラック、及び2%~18%のバインダーを含むことが好ましい。負極活物質は、質量百分率で、24%~45%のシリコン-炭素複合材料、40%~63%の黒鉛、2%~8%の導電性カーボンブラック、2%~18%のバインダーを含むことがより好ましい。
【0077】
いくつかの実施形態では、上記の実施形態で説明された負極シートの製造方法は、以下のステップを含む。
【0078】
シリコン-炭素複合材料と黒鉛とを質量比(2~50):(98~50)で高速撹拌混合して、混合負極活物質粉末を調製する。次に、混合した負極活物質粉末を、適量の脱イオン水中で、導電性カーボンブラック及びバインダーと質量比(80~90):(2~8):(2~18)となるように十分に撹拌混合し、均一な負極スラリーが形成される。この負極スラリーを負極集電体銅箔の表面に塗布し、乾燥、冷間プレスすることにより負極シートが得られる。
【0079】
なお、本発明の上述の実施形態では、負極シートの製造プロセスにおける他のプロセス条件及びパラメータの詳細については詳細に記載されていないことに留意されたい。当業者であれば、一般的又は従来の技術手段及び当該技術分野における通常の知識と組み合わせて、上記の実施形態に記載の方法に従って負極シートを作製することができる。
【0080】
本発明の一実施形態は、上記実施形態で説明した電気化学装置を備えた電子機器を提供する。
【0081】
本発明における本実施形態の電子装置は、ノートブックコンピュータ、ペン入力コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子ブックプレーヤー、携帯電話、ポータブルファックス、ポータブルコピー機、ポータブルプリンタ、ステレオヘッドホン、ビデオデッキ、液晶テレビ、ポータブルクリーナ、ポータブルCDプレーヤ、ミニディスク、トランシーバ、電子メモ帳、電卓、メモリーカード、ポータブルレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モータ、自動車、バイク、電動アシスト自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、フラッシュランプ、カメラ、大型家庭用蓄電池やリチウムイオンキャパシタなどの任意の電子装置であるが、これらに限定されない。なお、本発明により提供される電気化学装置は、上記の電子装置に適用できるだけでなく、エネルギー貯蔵発電所、海上輸送船、及び航空輸送機関にも適用可能であることに留意されたい。航空会社には、大気圏内の航空会社と大気圏外の航空会社が含まれる。
【0082】
なお、本発明の上記の実施形態では、リチウムイオン電池を実装する方法及びステップは詳細に説明されていないことに留意されたい。当業者は、一般的又は従来の技術手段及び当技術分野における一般知識に従って、正極シート、負極シート、電解質、及びセパレータを実装し、リチウムイオン電池を形成することができる。
【0083】
以下の具体的な例は、本発明を詳細に説明するために挙げられる。また、以下の実施例は本発明を具体的に説明するためにのみ使用され、本発明の保護範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことも理解されたい。本発明の上記内容に基づいて当業者によって行われるいくつかの本質的でない改良及び調整は、すべて本発明の保護範囲に属する。以下の実施例における具体的なプロセスパラメータなどは、適切な範囲の一例にすぎない。すなわち、当業者であれば本明細書の記載を通じて適切な範囲で選択することができ、以下に例示する具体的な数値に限定されるものではない。
【0084】
実施例1
【0085】
この実施例では、シリコン‐炭素複合材料を調製した。具体的な作製プロセスは以下の通りである。
【0086】
(a)グルコース(炭素源)とホウ酸(ホウ素源)を98%:2%の割合で秤量し、炭素源とホウ素源の合計量の10%の塩化ナトリウムを造孔剤として秤量した。造孔剤、炭素源、及びホウ素源をビーカーに溶解し、適量の脱イオン水を加え、1時間磁気撹拌して完全に溶解すると、透明で均一で安定した溶液が得られた。
【0087】
(b)上記の溶液を送風乾燥オーブンに移し、105℃に加熱し、完全に乾燥状態になるまで12時間焼き、再結晶したサンプルを粉砕し、ふるいにかけた。
【0088】
(c)薄化したサンプルをるつぼに移し、管状炉で高温熱処理を施した。熱処理の基本パラメータは、アルゴン保護雰囲気下で5℃min-1の速度で温度を650℃まで上昇させ、2時間保持し、その後、保護雰囲気下で室温まで自然冷却するというものであった。
【0089】
(d)熱処理したサンプルを粉砕し、ふるいにかけ、ビーカーに入れ、適量の脱イオン水を加え、再結晶塩が溶解するまで十分に撹拌し、吸引ろ過し、脱イオン水で数回洗浄して溶液中の塩化ナトリウムを除去した。洗浄後、サンプルを送風乾燥オーブン中で80℃で24時間乾燥し、乾燥終了後にホウ素ドープ多孔質炭素材料を得た。
【0090】
(e)前のステップで得られたサンプルをさらにシリコン堆積し、真空環境を形成する反応器にシリコン源ガスを流し、化学気相成長を3時間実施し、その結果、ナノシリコン粒子が炭素系材料に堆積された。
【0091】
(f)前のステップで得られたサンプルをさらに炭素でコーティングし、対応する反応器に炭素源ガスを流し、炭素を化学気相成長させた。堆積時間は2時間であり、その結果、複合材料は炭素層で均一に被覆された。
【0092】
実施例2
【0093】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、ステップ(a)におけるグルコース(炭素源)とホウ酸(ホウ素源)の比が99%:1%であったことを除き、実施例1と基本的に同様である。
【0094】
実施例3
【0095】
本実施例では、 シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、ステップ(e)における堆積時間を6時間としたことを除き、実施例1と基本的に同様である。
【0096】
実施例4
【0097】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、ステップ(a)において、グルコース(炭素源)とホウ酸(ホウ素源)の比が80%:20%であったことを除き、実施例1と基本的に同様である。
【0098】
実施例5
【0099】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、ステップ(a)において、グルコース(炭素源)とホウ酸(ホウ素源)の比が80%:40%であったことを除き、実施例4と基本的に同様である。
【0100】
実施例6
【0101】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、炭素源がスクロースであり、ドーパント源がヒドラジン(N2H4)であったことを除き、実施例1と基本的に同様である。
【0102】
比較例1
【0103】
この比較例では、シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、ステップ(a)ではホウ素源を添加せず、炭素源と造孔剤のみを保持したことを除き、実施例1と基本的に同様である。
【0104】
比較例2
【0105】
この比較例では、シリコン-炭素複合材料を調製したが、その調製プロセスは、ステップ(a)ではホウ素源を添加せず、炭素源と造孔剤のみを保持し、硝酸ニッケル又はニッケルコバルト鉄含有塩を触媒としてプロセス中に添加し、添加量は2%であったことを除き、実施例1と基本的に同様である。
【0106】
実施例7
【0107】
本実施例では、実施例1~6のシリコン-炭素複合材料及び比較例1~2のシリコン-炭素複合材料を用いて、具体的には以下の方法によりリチウムイオン電池を作製した。
【0108】
1.正極シートの作製
【0109】
三元系材料LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2を高速で撹拌混合し、混合正極活物質粉末材料を調製した。導電性カーボンブラック(スーパーP)、導電性カーボンチューブ(CNT)、窒素メチルピロリドン溶剤(NMP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を分散させ、質量比1:0.5:40:1で2時間高速撹拌して導電性スラリーを調製した。混合活物質粉末材料を導電性スラリーと高速で撹拌混合して、特定の粘度を有する正極スラリーを調製した。調製したスラリーをスクレーパーを用いてアルミ箔上に均一に塗布し、送風乾燥オーブンに入れ、120℃で20分間乾燥した。最後に、乾燥させた電極シートを圧延、切断して正極シートを作製した。
【0110】
2. 負極シートの作製
【0111】
準備したシリコン系材料とD50が10μmの黒鉛とを質量比40:60で高速撹拌混合して、負極活物質混合粉末材料を準備した。次に、この混合負極活物質粉末材料とスーパーPとPAA(ポリアクリル酸)とを、適量の脱イオン水中で質量比85:5:10の割合で十分に撹拌混合し、均一な負極スラリーを形成した。この負極スラリーを負極集電体銅箔の表面に塗布し、乾燥し、冷間プレスして負極シートを得た。
【0112】
3. 電解質の作製
【0113】
有機溶媒はエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)の混合物であり、EC、EMC、DECの体積比は20:20:60であった。水分含有量10ppm未満のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、十分に乾燥させたリチウム塩(LiPF6)を上記有機溶媒に溶解し、均一に混合して電解液を得た(LiPF6濃度は1mol/L)。
【0114】
4. セパレータの準備
【0115】
厚さ12μmのポリプロピレン製セパレータを選択した。
【0116】
5. バッテリーの作製
【0117】
上記で作製した正極シート、セパレータ及び負極シートを、正極シートと負極シートの間にセパレータが配置されるように順次積層して絶縁した。次いで、それをアルミニウムプラスチックフィルムで覆い、120℃の真空オーブンに移して乾燥させ、3.0g/Ahの電解液を注入した後に密封した。静置、熱間プレス、冷間プレス、成形、固定、選別及びその他のプロセスを経て、最終的に容量1Ahのパウチ型電池(すなわち、リチウムイオン電池)を得た。
【0118】
以下の方法に従って、実施例1~6のシリコン-炭素複合材料及び比較例1~2のシリコン-炭素複合材料の熱重量試験を具体的には次のように行なった。
【0119】
5mgのサンプルをサンプルチャンバーに入れ、空気雰囲気下で10℃/分の速度で1400℃まで加熱し、温度による質量変化曲線を収集した。
【0120】
以下の方法に従って、実施例7で実装されたリチウムイオン電池の電気的特性を、具体的には以下のように試験した。
【0121】
実装されたリチウムイオン電池を1Cの定電流で4.2Vまで充電し、4.2Vの定電圧で0.05Cまで充電して10分間放置した後、1Cの定電流で2.8Vまで放電し、10分間放置した。これを充放電のサイクルとし、このサイクルの放電容量を記録した。充放電プロセスを100サイクル繰り返し、各サイクルの放電容量を記録した。
【0122】
サイクル容量維持率(%)=100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100%。
【0123】
電池の質量エネルギー密度(Wh/kg)=初回放電エネルギー/電池質量。
【0124】
以下の方法に従って、実施例7で実装されたリチウムイオン電池のDCRを具体的には次のように試験した。
【0125】
実装されたリチウムイオン電池を50%SOCまで充電し、4Cの速度で30秒間放電し、初期放電電圧をV1として記録した。30秒間の放電後の電圧はV2であり、電流はIであり、DCRは次の式に従って計算された。
DCR=((V1-V2)/I.
【0126】
誘導結合プラズマ発光分光法(ICP‐OES)を用いて、実施例1~9および比較例1のシリコン‐炭素複合材料の元素分析および試験を行い、非金属元素(B/N)、シリコン、炭素の含有量を求めた。利用可能な気孔率(R)は式に従って計算され、ID/IGはラマン分光計の分析及び試験を通じて計算された。結果を表1に示す。
【表1】
【0127】
実施例2、実施例4、及び実施例1を比較すると、グルコース(炭素源)とホウ酸(ホウ素源)の比率を変えることにより、ホウ素のドーピング量を効果的に増加させることができ、ホウ素のドーピング量の増加はさらにシリコンの堆積効率を改善し得ることが分かる。同じ条件下では、材料中のホウ素含有量が増加するにつれて材料のシリコン含有量も増加し、それに応じて材料のID/IG値も増加する。これは、炭素材料の無秩序度が増加し、導電性が増加し、電池の直流抵抗(DCR)が減少することを示唆している。
【0128】
実施例3と実施例1を比較すると、堆積時間を長くするとシリコン含有量が増加することが分かる。
【0129】
実施例1と比較例1を比較すると、ホウ素をドーピングしない材料の堆積効率は、ドープした材料の堆積効率よりもはるかに低く、ドープした材料の電池サイクル性能及びDC抵抗(DCR)はより良好であることが分かる。これは、非金属元素のドーピングがシリコン粒子の成長を触媒し、シリコン-炭素複合材料及びその材料から作られた電池の性能を向上させ得ることを示唆している。
【0130】
実施例1と比較例2を比較すると、ホウ素ドープ触媒堆積効率は金属触媒のそれに近いが、電池サイクル安定性はより優れていることが分かる。これは、金属異物が電池の性能に与える影響によるものである一方で、金属には強い触媒活性と大きなシリコン粒子があり、その結果、サイクル中の電極材料の膨張に損傷が生じているためである。
【0131】
実施例1と実施例6を比較すると、実施例6のシリコン-炭素複合材料の方がシリコン含有量が高いことが分かる。これは、窒素ドーピングの触媒効率がホウ素ドーピングよりも高いことを示唆しており、非金属元素の種類の選択が炭素基板上の活性サイトの増加に影響を与えることを示している。これは、蒸着プロセス中のシリコンの吸着能力とシリコン源の利用可能率に影響する。
【産業上の利用可能性】
【0132】
さらに、本発明のシリコン-炭素複合材料、その製造方法、電気化学装置及びそれを備えた電子機器は、エレクトロニクス分野で利用することができ、産業上の利用可能性が高い。
【0133】
上述の実施形態は、本発明の原理及び効果を例示するものであり、本発明を限定するものではない。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、上述の実施形態を修正又は変更することができる。したがって、本発明に開示される精神及び技術的思想から逸脱することなく当業者によって行われるすべての同等の修正又は変更は、なおも本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【外国語明細書】