(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146736
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】正極材料及びその調製方法、正極シート、リチウムイオン電池、及びリチウムイオン電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20241004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20241004BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/136
C01B25/45 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023215326
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】202310342978.5
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】莫 方杰
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA15
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050EA08
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】正極材料、その調製方法、及び正極シートを提供する。
【解決手段】正極材料は、リン酸マンガン鉄リチウムと、リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面を被覆する炭素とを含む。炭素は正極材料の総質量の1.4%~4.7%を占める。正極材料の調製方法は下記ステップを含む。炭素源、マンガン源、リチウム源、鉄源、ドーピング元素、及びリン源を混合して乾燥させた後に、第1段階温度で予備焼成及び予備融着を実行し、次いで、正極材料を得るために焼成を継続するため、温度を第2段階温度へ増加させる。正極シートを更に提供し、正極シートを調製するために原材料には上記の正極材料を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸マンガン鉄リチウムと、
前記リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面を被覆する炭素と
を含み、
前記リン酸マンガン鉄リチウムの化学式はLiaMnxFe1-x-yMyPO4であり、0.9≦a≦1.10、0≦x≦1.0、0≦y≦0.02、0.5≦x/(1-x-y)≦0.9であり、Mはドーピング元素であって、Ti、Mg、Ni、Co、Al、V、Cr、Zr、及びNbのうちの1つ以上から選択され、
前記炭素は前記正極材料の総質量の1.4%~4.7%を占める、
正極材料。
【請求項2】
前記炭素は前記リン酸マンガン鉄リチウムの前記粒子の前記表面を被覆し、内から外へ、前記リン酸マンガン鉄リチウムから成るコア体と、前記炭素と融合した前記リン酸マンガン鉄リチウムの融合層と、前記炭素から成る被覆層とが形成される、
請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記融合層と前記被覆層の厚さ比は(10~15):(5~10)である、
請求項2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記被覆層の表面から第1の深さでの前記炭素の割合は1.2%≦W1≦2.3%であり、前記第1の深さは前記融合層の範囲内にある、
請求項2に記載の正極材料。
【請求項5】
前記被覆層の表面から第1の深さでの前記炭素の割合は1.2%≦W1≦2.3%であり、前記第1の深さは前記融合層の範囲内にある、
請求項3に記載の正極材料。
【請求項6】
前記被覆層の表面から第2の深さでの前記炭素の割合は0.8%≦W2≦1.8%であり、前記第2の深さは前記融合層の範囲内にあり、前記第2の深さは前記第1の深さよりも深い
請求項4に記載の正極材料。
【請求項7】
前記被覆層の表面から第2の深さでの前記炭素の割合は0.8%≦W2≦1.8%であり、前記第2の深さは前記融合層の範囲内にあり、前記第2の深さは前記第1の深さよりも深い
請求項5に記載の正極材料。
【請求項8】
前記被覆層の前記表面から前記第1の深さでの前記炭素の前記割合と前記第2の深さでの前記炭素の前記割合との比率は1.05≦W1/W2≦1.8である、
請求項6に記載の正極材料。
【請求項9】
前記被覆層の前記表面から前記第1の深さでの前記炭素の前記割合と前記第2の深さでの前記炭素の前記割合との比率は1.05≦W1/W2≦1.8である、
請求項7に記載の正極材料。
【請求項10】
前記第1の深さは前記被覆層の前記表面から5nm~20nmの間の区間である、
請求項8に記載の正極材料。
【請求項11】
前記第1の深さは前記被覆層の前記表面から5nm~20nmの間の区間である、
請求項9に記載の正極材料。
【請求項12】
前記第2の深さは前記被覆層の前記表面から90nm~100nmの間の区間である、
請求項8に記載の正極材料。
【請求項13】
前記第2の深さは前記被覆層の前記表面から90nm~100nmの間の区間である、
請求項9に記載の正極材料。
【請求項14】
前記リン酸マンガン鉄リチウムの前記粒子が前記炭素で被覆された後の金属露出率Pmeは68%≦Pme≦88%であり、前記金属露出率Pme=nme/ntolであり、ここで、nmeは前記リン酸マンガン鉄リチウムの前記粒子の前記表面での全金属元素の総モル量であり、ntolは前記リン酸マンガン鉄リチウムの前記粒子の前記表面での全元素の総モル量である、
請求項1に記載の正極材料。
【請求項15】
炭素源、マンガン源、リチウム源、鉄源、ドーピング元素、及びリン源を混合して乾燥させた後に、第1段階温度で予備焼成及び予備融着を実行し、次いで、前記正極材料を得るために焼成を継続するため、前記第1段階温度を第2段階温度へ上昇させ、
(1)前記第1段階温度は300℃~500℃であり、予備焼成時間は10~20時間である、及び
(2)前記第2段階温度は500℃~650℃であり、焼成時間は10~20時間である、
という条件のうちの少なくとも1つを満たす、
正極材料を調製するための方法。
【請求項16】
(a)前記炭素源は、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、スクロースのうちの1つ以上から選択され
(b)前記マンガン源は、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンのうちの1つ以上である、
(c)前記鉄源は、硝酸鉄と塩化鉄のうちの1つ以上である、
(d)前記リン源は、リン酸二水素アンモニウムとリン酸水素二アンモニウムのうちの1つ以上である、
(e)前記ドーピング元素は、対応する前記ドーピング元素の硫酸塩、硝酸塩、又は塩化物塩から選択される、及び
(f)前記リチウム源は炭酸リチウムである、
という条件のうちの少なくとも1つを更に満たす、
請求項15に記載の正極材料を調製するための方法。
【請求項17】
請求項1に記載の正極材料を含む原材料を有する、
正極シート。
【請求項18】
請求項15に記載の調製方法を用いることにより得られる前記正極材料を含む原材料を有する、
正極シート。
【請求項19】
請求項17に記載の正極シートを有する、
リチウムイオン電池。
【請求項20】
請求項19に記載のリチウムイオン電池を有する、
リチウムイオン電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池の技術分野に関するものであり、特に、正極材料、その調製方法、及び正極シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は開発以来、高いエネルギー密度、安定した放電電圧、及び長い耐用年数といった利点のため、様々な技術分野で好まれている。なお、リチウムイオン電池は、特に現在世界中で人気のある新エネルギー自動車産業において、ポータブルエネルギー貯蔵ツールに一般的に採用されている。リチウムイオン電池の重要部分として、正極材料の選択はリチウムイオン電池の性能に直接影響する。正極材料は主に、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム等を含む。リン酸鉄リチウムは、良好な構造安定性、良好な熱安定性、良好な安全性能、良好なサイクル寿命、及び豊富な原料源という利点を備えており、このためエネルギー貯蔵電池や電気自動車用電池の分野でより一般的に採用されている。しかし、リン酸鉄リチウムの電圧プラトーは3.4V vs. Li/Li+にすぎず、これはリン酸鉄リチウムのエネルギー密度を制限する。リン酸マンガン鉄リチウムは、リン酸鉄リチウムと同一のオリビン構造を持ち、リン酸鉄リチウムよりも高い電圧プラトーを有する。
【0003】
ただし、リン酸マンガン鉄リチウムは導電性が劣り、充放電分極が高い。現在、主に炭素材料を被覆することによりリン酸マンガンリチウムの導電性は改変することで、リン酸マンガン鉄リチウムのレート特性を向上させ、分極を改善している。しかし、炭素被覆にはいくつかの重大な技術的課題が存在する。第1に、被覆の炭素含有量が高く、これは炭素の高い比表面積のために材料の圧縮を低減させる。第2に、被覆効率が制限され、材料が良好に保護されず、主な性能は高温サイクル寿命が制限されることを示す。このため、低い炭素含有量、良好な被覆効果、及び良好な安定性のリン酸マンガン鉄リチウム材料の調製は、電気化学デバイスの研究開発にとって非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
関連技術の上述した欠点を鑑み、本発明の目的を以下に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の様態において、正極材料を提供する。その要として、リン酸マンガン鉄リチウムと、リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面を被覆する炭素とを含み、リン酸マンガン鉄リチウムの化学式はLiaMnxFe1-x-yMyPO4であり、ここで、0.9≦a≦1.10、0≦x≦1.0、0≦y≦0.02、0.5≦x/(1-x-y)≦0.9であり、Mはドーピング元素であって、Ti、Mg、Ni、Co、Al、V、Cr、Zr、及びNbのうちの1つ以上から選択され、炭素は正極材料の総質量の1.4%~4.7%を占める。
【0006】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、炭素はリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面を被覆し、内から外へ、リン酸マンガン鉄リチウムから成るコア体と、炭素と融合したリン酸マンガン鉄リチウムの融合層と、炭素から成る被覆層とが形成される。
【0007】
第1の様態を参照し、1つの実施において、融合層と被覆層の厚さ比は(10~15):(5~10)である。
【0008】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、被覆層の表面から第1の深さでの炭素の割合は1.2%≦W1≦2.3%であり、第1の深さは融合層の範囲内にある。
【0009】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、被覆層の表面から第2の深さでの炭素の割合は0.8%≦W2≦1.8%であり、第2の深さは融合層の範囲内にあり、第2の深さは第1の深さよりも深い。
【0010】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、被覆層の表面から第1の深さでの炭素の割合と第2の深さでの炭素の割合との比率は1.05≦W1/W2≦1.8である。
【0011】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、第1の深さは被覆層の表面から5nm~20nmの間の区間である。
【0012】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、第2の深さは被覆層の表面から90nm~100nmの間の区間である。
【0013】
第1の様態と組み合わせて、1つの実施において、リン酸マンガン鉄リチウムの粒子が炭素で被覆された後の金属露出率Pmeは68%≦Pme≦88%であり、金属露出率Pme=nme/ntolであり、ここで、nmeはリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面での全金属元素の総モル量であり、ntolはリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面での全元素の総モル量である。
【0014】
第2の様態において、正極材料を調製するための方法を提供する。正極材料調製の要は、炭素源、マンガン源、リチウム源、鉄源、ドーピング元素、及びリン源を混合して乾燥させた後に、第1段階温度で予備焼成及び予備融着を実行し、次いで、正極材料を得るために焼成を継続するため、温度を第2段階温度へ上昇させること、及び/又は、第1段階温度は300℃~500℃であり、予備焼成時間は10~20時間であること、及び/又は、第2段階温度は500℃~650℃であり、焼成時間は10~20時間であることである。
【0015】
第2の様態と組み合わせて、1つの実施において、炭素源は、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、スクロースのうちの1つ以上から選択される、及び/又は、マンガン源は、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンのうちの1つ以上である、及び/又は、鉄源は、硝酸鉄と塩化鉄のうちの1つ以上である、及び/又は、リン源は、リン酸二水素アンモニウムとリン酸水素二アンモニウムのうちの1つ以上である、及び/又は、ドーピング元素は、対応するドーピング元素の硫酸塩、硝酸塩、又は塩化物塩から選択される、及び/又は、リチウム源は炭酸リチウムである。
【0016】
第3の様態において、正極シートを提供する。その要は、調製用の原料に上述した第1の態様又は第2の態様のいずれかに説明した正極材料を含むことである。
【発明の効果】
【0017】
上述したように、本発明の正極材料及び電気化学デバイスは、次の有益な効果を少なくとも含む。正極材料の炭素含有量は1.4%~4.7%であり、これは一般的な正極材料の炭素含有量よりも低いが被覆効果は良好であり、そのような正極材料の電極シート及び電池における応用は、向上された電気的性能を呈することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明によるリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面上の炭素で被覆することにより形成された層構造を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施例1と比較例1及び2との間の45℃でのサイクル寿命曲線の比較を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施を特定の実施形態により以下に表す。当業者は、本明細書の開示する内容から本発明の利点及び効果を容易に理解することができる。本発明は他の異なる特定の実装方法により実施又は適用することもでき、本発明の精神から逸脱することなく、異なる観点及び応用に基づいて本明細書における詳細に対して様々な改変又は変更を行うことができる。好ましい実施形態は単に本発明を説明するためのものであり、本発明の保護範囲を限定するためのものではないことを理解されたい。
【0020】
用語「被覆」は、活物質の表面上で活物質を覆うことのできる均一で薄い層構造を形成するために他の材料を用いることを指す。また、用語「炭素被覆」は、活物質の表面上を炭素薄膜の層で被覆することを指し、活物質の表面に高強度、高導電性、高耐食性の炭化物層を形成する。
【0021】
本発明の1つの実施形態の一部は、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素とを含む正極材料を提供し、リン酸マンガン鉄リチウムの化学式はLiaMnxFe1-x-yMyPO4であり、ここで、0.9≦a≦1.10、0≦x≦1.0、0≦y≦0.02、0.5≦x/(1-x-y)≦0.9であり、Mはドーピング元素であって、Ti、Mg、Ni、Co、Al、V、Cr、Zr、Nbのうちの1つ以上から選択される。炭素はリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面を被覆し、炭素は正極材料の総質量の1.4%~4.7%を占める。
【0022】
図1を参照し、炭素はリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面を被覆し、内から外へ、リン酸マンガン鉄リチウムから成るコア体d1と、炭素と融合したリン酸マンガン鉄リチウムの融合層d2と、炭素から成る被覆層d3が形成される。融合層d2と被覆層d3の厚さ比は(10~15):(5~10)である。融合層の範囲内で、融合層中の炭素の割合は、厚さ方向に沿って、コア体を起点としてコア体から離れた距離へと漸増する。
【0023】
いくつかの実施形態において、炭素の割合は漸増し、具体的には、被覆層の表面から第1の深さでの炭素の割合は1.2%≦W1≦2.3%であり、第1の深さは融合層の範囲内に位置する。被覆層の表面から第2の深さでの炭素の割合は0.8%≦W2≦1.8%であり、第2の深さは融合層の範囲内に位置し、第2の深さは第1の深さよりも深い。ここでの炭素の割合は、エッチングXPS試験法により測定される特定深さ範囲中の局所的炭素含有量を指す。融合層中の炭素の分散の割合は、リン酸マンガン鉄リチウムの粒子内の炭素の浸透深さに反映される。炭素とリン酸マンガン鉄リチウムの融合効果が良好であるほど、電気的性能が高い。このため、融合層中の炭素含有量の分配を制御することにより、正極材料の電気的性能を制御可能である。
【0024】
被覆効果をより良好にしてサイクル寿命をより高くするため、いくつかの実施形態において、第1の深さ及び第2の深さの炭素割合の比率は更に限定される。具体的には、被覆層の表面から第1の深さでの炭素の割合と第2の深さでの炭素の割合の比率は1.05≦W1/W2≦1.8である。
【0025】
1つの特定の実施において、融合層d2と被覆層d3の厚さ比が(10~15):(5~10)であることに基づき、第1の深さは被覆層の表面から5nm~20nmの間の区間である。第2の深さは被覆層の表面から90nm~100nmの間の区間であることが好ましい。
【0026】
加えて、いくつかの実施形態において、正極材料の性能を向上させるため、炭素被覆の効果が更に要求される。具体的には、リン酸マンガン鉄リチウムの粒子が炭素で被覆された後の金属露出率Pmeは68%≦Pme≦88%であり、金属露出率Pme=nme/ntolであり、ここで、nmeはリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面での全金属元素の総モル量であり、金属元素は遷移金属元素を含み、ntolはリン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面での全元素の総モル量である。リン酸マンガン鉄リチウムの粒子の表面でのC、Fe、及びMnの含有量はEDS法により測定され、表面(Fe+Mn)のモル量は、金属露出率を得るため、表面C、Fe、及びMnの総モル量により除算されることに注意されたい。
【0027】
本発明の1つの実施形態の一部は、正極材料の調製方法を提供する。炭素源、マンガン源、リチウム源、鉄源、ドーピング元素、及びリン源を混合して乾燥させ、次いで予備融合のため10~20時間、300℃~500℃の温度で予備焼成する。次いで、温度を500~650℃に上昇させ、正極材料を得るために焼成を10~20時間継続する。
【0028】
予備焼成温度は炭素源の予備融合に非常に重要であり、予備焼成は炭素材料被覆の質を向上させ、浸透深さを増加させることに注意されたい。予備焼成温度が過度に低いと、炭素と他の原材料との間の融合効果が好ましいものでなくなり、予備焼成温度が過度に高いと、炭素源が事前に炭化してしまい、予備融合の効果が達成されない。両方の場合において、電気的性能が悪化する。焼成温度は炭素被覆効果にとって非常に重要である。焼成温度が過度に低いと、炭素源の亀裂が十分でなく、非晶質炭素被覆を完全に形成することができない。焼成温度が過度に高いと、炭素源が揮発してしまい、炭素源と主要材料との間の融合効果が悪化する。両方の場合において、電気的性能が悪化する。このため、適切な焼成温度を選択する必要がある。
【0029】
いくつかの実施形態において、炭素源は、グルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、スクロースのうちの1つ以上から選択される。炭素源はグルコース、フルクトース、ポリエチレングリコール、スクロースのうちの1つ以上に限定されず、他の有機炭素源が採用されてもよいことに注意されたい。無機炭素源と比較し、有機炭素源の予備融合効果はより良好である。
【0030】
いくつかの実施形態において、マンガン源は、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガンのうちの1つ以上である。
【0031】
いくつかの実施形態において、鉄源は、硝酸鉄と塩化鉄のうちの1つ以上である。
【0032】
いくつかの実施形態において、リン源は、リン酸二水素アンモニウムとリン酸水素二アンモニウムのうちの1つ以上である。
【0033】
いくつかの実施形態において、ドーピング元素は、対応するドーピング元素の硫酸塩、硝酸塩、又は塩化物塩から選択される。
【0034】
いくつかの実施形態において、リチウム源は炭酸リチウムである。
【0035】
本発明の1つの実施形態の一部は、正極シートを提供する。その原材料の調製には上記正極材料を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、正極シートの調製方法は、任意の実施形態の部分の正極材料を導電剤Super P及びバインダのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と97:1.5:1.5の重量比に基づいて混合することと、溶媒N-メチルピロリドン(NMP)を加え、正極スラリーを得るため混合物を攪拌して完全に混合させることと、正極スラリーを正極集電体のアルミ箔上に塗布し、乾燥、冷間プレス、スリット、及び他のプロセスにより最終的に正極シートを得ることとを含む。
【0037】
実施例1~8と比較例1~10
【0038】
I.表1中の様々な実施形態に基づき、正極材料の異なるパラメータを用いて調製した正極シートをそれぞれ同一の分離フィルム及び負極シートと積層し、分離の機能の役割を果たすよう分離フィルムを正極シートと負極シートの間となるようにした。次いで、アルミニウム-プラスチックフィルムで外側を覆い、乾燥の後、それぞれに同一の電解液を注入した。梱包、放置、及び化学処理の後、最終的にそれぞれ容量1Ahのソフトパック電池が完成した。
【0039】
表1:実施例1~8で採用した正極材料のパラメータ
【0040】
【0041】
II.表2中の比較例に基づき、正極材料の異なるパラメータを用いて作製した正極シートをそれぞれ同一の分離フィルム及び負極シートと積層し、分離の機能の役割を果たすよう分離フィルムを正極シートと負極シートの間となるようにした。次いで、アルミニウム-プラスチックフィルムで外側を覆い、乾燥の後、それぞれに同一の電解液を注入した。梱包、放置、及び化学処理の後、最終的にそれぞれ容量1Ahのソフトパック電池が完成した。
【0042】
表2:比較例1~10で採用した正極材料のパラメータ
【0043】
【0044】
III.試験方法:上記実施例及び比較例で得られた電池に対し、それぞれグラム容量試験、DCR試験、サイクル試験を実行した。
【0045】
1.グラム容量試験方法:2.5~4.2Vの範囲内にて、25℃において0.33Cで充放電を3サイクル実行し、第3サイクルの放電容量を正極材料の総質量で除算して、正極のグラム容量を取得した。
【0046】
2.DCR試験方法:25℃において0.33Cで充放電を3サイクル実行し、第3サイクルの放電容量はセルの容量の100%であり。次いで0.33Cでセルの容量を70%、即ち70%SOCに調整した。4Cの電流密度で放電を30s実行し、放電前後の電圧差を放電電流で除算した。結果は70%SOC DCRである。
【0047】
3.サイクル試験方法:2.5~4.2Vの範囲内にて、45℃において1Cで充放電を、残容量が初期容量の80%となるまで実行した。サイクル数は材料のサイクル寿命である。
【0048】
IV.試験結果
【0049】
様々な実施例の試験結果を表3に示す。
【0050】
表3:実施例1~8の試験結果
【0051】
【0052】
結果の説明:
【0053】
1.実施例1~8において、グラム容量は140mAh/gを超えた。DCR結果のほとんどは120よりも低く、少数が120を超えた。サイクル寿命は平均で800回以上に達し、ほとんどが900回を超え、いくつかは1000回を超えた。
【0054】
2.比較例1~3と実施例1~8との比較:
【0055】
図2は、実施例1と比較例1及び2との間の45℃におけるサイクル寿命曲線の比較を示す比較図である。実施例1の容量が安定的に減少するのに対し、比較例1及び2の容量は速度を増して減少した。
【0056】
比較例1及び3において、金属露出率Pme、第1の深さ(以降、W1)での炭素の割合、第2の深さ(以降、W2)での炭素の割合、及び第1の深さでの炭素の割合の第2の深さでの炭素の割合に対する比率(以降、W1/W2)は、本発明の好ましい範囲外である。グラム容量は130を超えず、DCRは140よりも高く、サイクル寿命は500回よりも低い。実施例1~8と比較し、様々なパラメータの試験結果間に大きな差があり、パラメータが好ましい範囲にある場合、性能は相当に最適化される。
【0057】
3.比較例4~5と実施例1~3との比較:
【0058】
比較例4又は5におけるW1又はW2が好ましい範囲に符合しないとき、金属露出率は比較的高く、炭素のリン酸マンガン鉄リチウム内への浸透が均一でないことを示す。また、グラム容量は140mAh/gよりも低く、DCRは130よりも高く、サイクル寿命は約600回のみである。実施例1~3と比較し、比較例4~5の試験結果は比較的劣る。
【0059】
4.比較例6と実施例3~5の比較:
【0060】
比較例6における金属露出率、W1及びW2が好ましい範囲内にあるが、W1/W2の比率が本発明の設定する値範囲外であるとき、炭素の浸透が均一でなく、グラム容量は140よりも低く、DCRは130よりも高く、サイクル寿命は700回よりも低いことを示している。全体的な性能が比較的劣る。実施例3~5において、W1/W2の比率を最適化することにより、グラム容量は140以上に増加し、DCRは約120であり、サイクル寿命は800回以上に維持され、大幅な向上を示している。他のパラメータが未変更のままで、本発明の設定する値範囲を採用したW1/W2の比率は、電池の性能を更に向上させることができる。
【0061】
5.比較例6と他の比較例との比較:
【0062】
比較例6のグラム容量、DCR、及びサイクル寿命は、全て他の比較例の結果よりも良好である。これは、本発明の設定する値範囲を採用することで、金属露出率、W1及びW2は電池の性能を更に向上させることができることを間接的に示す。
【0063】
6.比較例7~9と実施例6~8との比較:
【0064】
W1、W2、及びW1/W2の比率のうちの1つのみが好ましい範囲にあるとき、金属露出率は好ましい範囲を超え、炭素被覆効果が比較的劣り、グラム容量、DCR、サイクル寿命の性能が全て劣る。
【0065】
7.比較例4~9と比較例1~3、10との比較:
【0066】
比較例4~9における金属露出率、W1、W2、W1/W2の比率の間で、該4つのパラメータにおけるパラメータ条件のうちの少なくとも1つの値範囲が本発明の設定する値範囲を採用している。比較例1~3において、該4つのパラメータの値範囲は本発明の設定する値範囲外である。比較例4~9のグラム容量、DCR、サイクル寿命は全て比較例1~3、10よりも好ましい。金属露出率、W1、W2、W1/W2の比率の間で、該4つのパラメータのうちの少なくとも1つが本発明の設定する値範囲を採用する場合、電池の性能を向上させることが可能であることを示している。
【0067】
実施例9~11と比較例11~12との比較:
【0068】
本発明の実施例及び比較例の一部は正極材料の調製方法を提供する。表4に示すパラメータ条件により、先ず、ポリエチレングリコール、硫酸マンガン、硝酸鉄、炭酸リチウム、ドーピング元素、及びリン酸二水素アンモニウムを混合して乾燥させ、次いで、予備融合のため10~20時間、第1の温度で予備焼成した。次いで、正極材料を得るため、温度を第2の温度へ上昇させて、焼成を10~20時間継続した。実施例1~8の電池作製方法に基づく容量1Ahのソフトパック電池を作製するため、調製した正極材料を用いた。上述した実施例及び比較例において得た電池にそれぞれグラム容量試験、DCR試験、サイクル試験を行った。結果を表4に示す。
【0069】
表4:正極材料中の炭素含有量、炭素被覆効果、及び電池性能に対する予備焼成の影響
【0070】
【0071】
結果は以下を示す。比較例11及び12において、予備焼成温度が300℃よりも低いか予備焼成を行わない場合、たとえ焼成温度が要件を満たしても、正極材料の炭素被覆効果は劣り、炭素含有量及び炭素の比率は本発明の要件を満たさず、電池のグラム容量は比較的低く、サイクル寿命は500回よりも低く、電池の全体的性能が比較的劣る。実施例9~11において、他の条件は未変更のままで、予備焼成温度に本発明の設定する値範囲を採用しつつ予備焼成温度を上昇させると、得られる正極材料は向上した炭素被覆効果を有し、炭素含有量及び炭素比率は全て本発明の設定する値を満たし、電池のグラム容量が向上し、サイクル寿命が800回以上、更には1000回以上に増加し、電池の全体的性能が向上する。
【0072】
実施例12~14と比較例13:
【0073】
本発明の実施例及び比較例の一部は正極材料の調製方法を提供する。表5に示すパラメータ条件により、先ず、炭素源、硫酸マンガン、塩化鉄、炭酸リチウム、ドーピング元素、及びリン酸二水素アンモニウムを混合して乾燥させ、次いで、予備融合のため10~20時間、第1の温度で予備焼成した。次いで、正極材料を得るため、温度を第2の温度へ上昇させて、焼成を10~20時間継続した。実施例1~8の電池作製方法に基づく容量1Ahのソフトパック電池を作製するため、調製した正極材料を用いた。上述した実施例及び比較例において得た電池にそれぞれグラム容量試験、DCR試験、サイクル試験を行った。結果を表5に示す。
【0074】
表5:正極材料の炭素含有量、炭素被覆効果、及び電池性能に対する有機炭素源及び無機炭素源の影響
【0075】
【0076】
結果は以下を示す。実施例12~14と比較例13との比較において、無機炭素源を用いることにより得られた正極材料において、炭素被覆及び炭素含有量に関するパラメータは本発明の設定する値範囲内となることができない。そして、電池の全体的性能は有機炭素源を使用して作製された電池よりも劣る。
【0077】
実施例15~17と比較例14:
【0078】
本発明の実施例及び比較例の一部は正極材料の調製方法を提供する。表6に示すパラメータ条件により、先ず、フルクトース、塩化マンガン、硝酸鉄、炭酸リチウム、ドーピング元素、及びリン酸二水素アンモニウムを混合して乾燥させ、次いで、予備融合のため10~20時間、第1の温度で予備焼成した。次いで、正極材料を得るため、温度を第2の温度へ上昇させて、焼成を10~20時間継続した。実施例1~8の電池作製方法に基づく容量1Ahのソフトパック電池を作製するため、調製した正極材料を用いた。上述した実施例及び比較例において得た電池にそれぞれグラム容量試験、DCR試験、サイクル試験を行った。結果を表6に示す。
【0079】
表6:正極材料の炭素含有量、炭素被覆効果、及び電池性能に対する焼成温度の影響
【0080】
【0081】
結果は以下を示す。実施例15~17を比較例14と比較し、焼成温度が本発明の設定する値範囲内にある場合、温度が高いほど電池性能がより良好となる。焼成温度に本発明の設定する値範囲を採用しない場合、電池性能が比較的劣る。
【産業上の利用可能性】
【0082】
更に、本発明の正極材料、その調製方法、それを含む正極シート、それを含むリチウムイオン電池、及びそれを含むリチウムイオン電池パックは、エレクトロニクス分野で利用可能であり、よって産業上の応用性が高い。
【0083】
上記の実施例の試験結果は、同一条件下での本発明の正極材料の明らかな利点を表すためのものにすぎず、電池試験の結果は本発明の正極材料により作製された電池の最適な試験結果を表すものではないことに注意されたい。
【0084】
上述した実施形態は、本発明の原理及び効果を例示するものであり、本発明を限定することを意図していない。当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、上述した実施形態を改変又は変更することが可能である。このため、本発明において開示される精神及び技術的思想から逸脱することなく当業者によって成される全ての均等な改変又は変更は、やはり本発明の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【符号の説明】
【0085】
1:コア体
2:融合層
3:被覆層
d2:融合層の厚さ
d3:被覆層の厚さ
【外国語明細書】