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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146749
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】コイル成形装置及びコイル成形方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/085 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H02K15/085
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011244
(22)【出願日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】202310335925.0
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】落合 順也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英司
(72)【発明者】
【氏名】松本 豊
(72)【発明者】
【氏名】辻井 杜夢
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP12
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS09
5H615SS10
5H615SS11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】帯状コイルを案内する案内部材を分離可能にしても、分離に係る継ぎ目の部位でコイル導体が損傷を受けるおそれがないコイル成形装置及びコイル成形方法を提供する。
【解決手段】コイル巻取治具3と、コイル導体2aと接触して帯状コイル2を、コイル巻取治具の外周に沿う円弧状に案内する案内部材とを備え、コイル巻取治具は、櫛歯状溝15を外周側に有し、案内部材は、直状コイル導体を櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材19と、最外周の部位に案内された直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える案内部材20と、を有し、第1案内部材と第2案内部材とは、第2案内部材の手前の第1分離位置SP1と、第1案内部材の手前の第2分離位置とで分離自在であり、第1分離位置前後の過渡領域Trでは、帯状コイルが案内面部に接触しないように成形されたコイル成形装置。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直状部と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部と、を有する帯状コイルを、自己の外周側に回動して巻き取るコイル巻取治具と、前記コイル巻取治具の軸方向の両端近傍にそれぞれ配置され、前記側端部と自己の案内面部で接触しながら、前記帯状コイルを、前記コイル巻取治具の外周に沿う円弧状に案内する案内部材とを備えたコイル成形装置であって、
前記コイル巻取治具は、複数の前記直状部をそれぞれ挿入可能な半径方向に延びた複数の櫛歯状溝を前記外周側に有し、
前記案内部材は、前記直状部を前記コイル巻取治具の櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材と、前記第1案内部材によって前記最外周の部位に案内された前記直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材と、を有し、
前記第1案内部材と第2案内部材とは、前記第2案内部材の手前の第1分離位置と、前記第1案内部材の手前の第2分離位置とで分離自在であり、少なくとも、前記第1分離位置前後の過渡領域では、当該過渡領域の前後の領域におけるよりも、前記案内面部の、前記コイル巻取治具の回動中心軸からの距離が大きく、前記帯状コイルが前記案内面部に接触しないように成形されていることを特徴とするコイル成形装置。
【請求項2】
複数の直状部と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部と、を有する帯状コイルを、自己の外周側に回動して巻き取るコイル巻取治具と、前記コイル巻取治具の軸方向の両端近傍にそれぞれ配置され、前記側端部と自己の案内面部で接触しながら、前記帯状コイルを、前記コイル巻取治具の外周に沿う円弧状に案内する案内部材とを備えたコイル成形装置を用いて前記帯状コイルを成型するコイル成形方法であって、
前記コイル巻取治具として、複数の前記直状部をそれぞれ挿入可能な半径方向に延びた複数の櫛歯状溝を前記外周側に有するコイル巻取治具を適用し、
前記案内部材として、前記直状部を前記コイル巻取治具の櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材と、前記第1案内部によって前記最外周の部位に案内された前記直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材と、を有する案内部材を適用し、
前記第1案内部材および第2案内部材として、前記第2案内部材の手前の第1分離位置と、前記第1案内部材の手前の第2分離位置とで分離自在であり、少なくとも、前記第1分離位置前後の過渡領域では、当該過渡領域の前後の領域におけるよりも、前記案内面部の前記コイル巻取治具の回動中心軸からの距離が大きく、前記帯状コイルが前記案内面部に接触しないように成形されている部材を適用することを特徴とするコイル成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル成形装置及びコイル成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機のステータは、巻回状態の帯状コイルを有する。帯状コイルは、予め、ステータコアの内径よりも小径の略円筒状の巻回状態に成形され、ステータコアの内側に挿入される。巻回状態の帯状コイルは、ステータコアの内側で拡径され、帯状コイルの直状部をステータコアのスロットに挿入することによって装着される。
【0003】
従来、帯状コイルを、円柱状のコイル巻取治具に対して1ピッチずつ送り込みながらコイル巻取治具に巻き取ることによって、略円筒状の巻回状態に成形することが知られている(例えば、特許文献1参照)。コイル巻取治具にコイルを巻き取って巻回状態に成形する際、複数の直状部が位置ずれしないように精度よく巻き取ることが重要である。上記従来技術は、帯状コイルの搬送経路上のコイル巻取治具の直前の位置において、隣り合う直状部間に予備整列部材を挿入することによって、コイル巻取治具に巻き取られる直前の直状部の重ね合わせを揃えるようにしている。
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、帯状コイルをどのようにしてコイル巻取治具まで搬送して巻き取るのかについての具体的な開示はなく、特に、コイル巻取治具に巻き取るに際し、帯状コイルに対してコイル巻取治具の外周に沿うように円弧状に癖付けするための方途については別段の視点が示されない。この癖付けが良好に行われないと、帯状コイルは仕様どおりの巻回状態に到れず、品質不良を来すおそれがある。品質不良の発生は材料消費の増加を招来し、資源の無駄な消費につながる。また、計画した生産数量を達成するに要する製造装置の運転時間が延長され、電力消費が増加する。このため、ひいては、地球環境に悪影響を及ぼすこととなる。
【0005】
本件出願人は、上記事情に鑑み、帯状コイルをコイル巻取治具に巻き取るに際し、帯状コイルに対してコイル巻取治具の外周に沿うように的確に円弧状に癖付けして、所定の巻回状態に容易に成形することができる技術を開発し、日本国にて特許を取得している(特許文献2)。十分に円弧状に癖付けされた帯状コイルは、回転電機のステータコアのスロットに挿入されると、それ自体のスプリングバックにより、スロット内で帯状コイルの複数の線状導体がばらけずに整列した状態を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4953032号公報
【特許文献2】特許第7222007号公報号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、コイル巻取治具に巻き取られた帯状コイルを回転電機のステータコアのスロットに移し替えるに際しては、帯状コイルが巻回された状態のコイル巻取治具をコイル成形装置から取り外す。次いで、取り外したしコイル巻取治具をステータコア内に位置決めし、巻回された概略筒状の帯状コイルを拡径するようにしてステータコアのスロットに移し替える。このため、コイル巻取治具は、コイル成形装置に交換可能に装着される。コイル成形装置には、コイル巻取治具の軸方向の両端近傍にそれぞれ案内部材が配置される。案内部材の案内面が側端部に接触しながら、帯状コイルをコイル巻取治具の外周に沿う円弧状に案内して、コイル巻取治具の外周部にある櫛歯状溝に移していく。コイル巻取治具を案内部材と干渉せずにコイル成形装置から取り外せる構造をとるため、案内部材は分離自在な複数の部分で構成される。ところが、案内部材の分離に係る継ぎ目の部位では案内面に多少の段差が生じる。案内面に段差があると、帯状コイルの側端部に対する円滑な案内が阻害され、コイル導体の絶縁被膜が損傷を受けるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、帯状コイルを案内する案内部材を複数の部分に分離可能な形態の部材にしても、分離に係る継ぎ目の部位でコイル導体が損傷を受けるおそれがないコイル成形装置及びコイル成形方法を提供することを目的とする。帯状コイルを、不良品を出すことなく高い歩留まりで所定の巻回状態に加工することができれば、資源の無駄な消費を抑制し、製造装置の運転時間を抑えて、電力エネルギーを節約できるため、地球環境の保全に寄与することになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本開示のコイル成形装置(例えば、後述するコイル成形装置1)は、複数の直状部(例えば、後述する直状部6)と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部(例えば、後述する側端部7)と、を有する帯状コイル(例えば、後述する帯状コイル2)を、自己の外周側に回動して巻き取るコイル巻取治具(例えば、後述するコイル巻取治具3)と、前記コイル巻取治具の軸方向の両端近傍にそれぞれ配置され、前記側端部と自己の案内面部(例えば、後述する第1案内面部21、第2案内面部22)で接触しながら、前記帯状コイルを、前記コイル巻取治具の外周に沿う円弧状に案内する案内部材(例えば、後述する案内部材17)とを備え、前記コイル巻取治具は、複数の前記直状部をそれぞれ挿入可能な半径方向に延びた複数の櫛歯状溝(例えば、後述する櫛歯状溝15)を前記外周側に有し、前記案内部材は、前記直状部を前記コイル巻取治具の櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材(例えば、後述する第1案内部材19)と、前記第1案内部材によって前記最外周の部位に案内された前記直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材(例えば、後述する第2案内部材20)と、を有し、前記第1案内部材と第2案内部材とは、前記第2案内部材の手前の第1分離位置(例えば、後述する第1分離位置SP1)と、前記第1案内部材の手前の第2分離位置(例えば、後述する第2分離位置SP2)とで分離自在であり、少なくとも、前記第1分離位置前後の過渡領域(例えば、後述する過渡領域Tr)では、当該過渡領域の前後の領域におけるよりも、前記案内面部の、前記コイル巻取治具の回動中心軸からの距離が大きく、前記帯状コイルが前記案内面部に接触しないように成形された部材である。
【0010】
(2) 本開示のコイル成形方法は、複数の直状部(例えば、後述する直状部6)と、前記複数の直状部の両端それぞれに連なる側端部(例えば、後述する側端部7)と、を有する帯状コイル(例えば、後述する帯状コイル2)を、自己の外周側に回動して巻き取るコイル巻取治具(例えば、後述するコイル巻取治具3)と、前記コイル巻取治具の軸方向の両端近傍にそれぞれ配置され、前記側端部と自己の案内面部(例えば、後述する第1案内面部21、第2案内面部22)で接触しながら、前記帯状コイルを、前記コイル巻取治具の外周に沿う円弧状に案内する案内部材(例えば、後述する案内部材17)とを備えたコイル成形装置を用いて前記帯状コイルを成型するコイル成形方法であって、前記コイル巻取治具として、複数の前記直状部をそれぞれ挿入可能な半径方向に延びた複数の櫛歯状溝(例えば、後述する櫛歯状溝15)を前記外周側に有するコイル巻取治具を適用し、前記案内部材として、前記直状部を前記コイル巻取治具の櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材(例えば、後述する第1案内部材19)と、前記第1案内部材によって前記最外周の部位に案内された前記直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材(例えば、後述する第2案内部材20)と、を有する案内部材を適用し、
前記第1案内部材および第2案内部材として、前記第2案内部材の手前の第1分離位置(例えば、後述する第1分離位置SP1)と、前記第1案内部材の手前の第2分離位置(例えば、後述する第2分離位置SP2)とで分離自在であり、少なくとも、前記第1分離位置前後の過渡領域(例えば、後述する過渡領域Tr)では、当該過渡領域の前後の領域におけるよりも、前記案内面部の、前記コイル巻取治具の回動中心軸からの距離が大きく、前記帯状コイルが前記案内面部に接触しないように成形された部材を適用する。
【発明の効果】
【0011】
(1)のコイル成形装置によれば、案内部材が、帯状コイルの直状部をコイル巻取治具の櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材と、第1案内部によって最外周の部位に案内された直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材と、を有し、第1案内部材と第2案内部材とは、第2案内部材の手前の第1分離位置と、第1案内部材の手前の第2分離位置とで分離自在であり、少なくとも、第1分離位置前後の過渡領域では、当該過渡領域の前後の領域におけるよりも、案内部材における案内面部のコイル巻取治具の回動中心軸からの距離が大きく、帯状コイルが案内面部に接触しないようにされた部材である。このため、帯状コイルを案内する案内部材を複数の部分に分離可能にしても、分離に係る継ぎ目の部位でコイル導体が損傷を受けるおそれがない。
【0012】
(2)のコイル成形方法では、案内部材として、帯状コイルの直状部をコイル巻取治具の櫛歯状溝における最外周の部位に案内する第1案内部材と、第1案内部によって最外周の部位に案内された直状部を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材と、を有する案内部材を適用し、第1案内部材および第2案内部材として、第2案内部材の手前の第1分離位置と、第1案内部材の手前の第2分離位置とで分離自在であり、少なくとも、第1分離位置前後の過渡領域では、当該過渡領域の前後の領域におけるよりも、案内部材における案内面部の、コイル巻取治具の回動中心軸からの距離が大きく、帯状コイルが案内面部に接触しない部材を適用する。このため、帯状コイルを案内する案内部材として複数の部分に分離可能な形態のものを適用しながらも、分離に係る継ぎ目の部位でコイル導体が損傷を受けるおそれがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示のコイル成形装置を示す側面図である。
図2図1のコイル成形装置で成形する帯状コイルを示す図である。
図3図1のコイル成形装置におけるコイル巻取治具を示す模式図である。
図4図3のコイル巻取治具に帯状コイルを巻き取った様子を示す模式図である。
図5図1のコイル成形装置における案内部材の過渡領域周りの構成を拡大して示す図である。
図6図5に示された部分における案内部材の形状と作用を説明するための模式図である。
図7図6の一部分を拡大して示す模式図である。
図8図1のコイル成形装置における案内部材を分離してコイル巻取治具を取り出す操作を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示のコイル成形装置について図面を参照して説明する。図1は、本開示のコイル成形装置1を示す側面図である。図2は、コイル成形装置1で成形する帯状コイル2を示す図である。図1では、帯状コイル2を除いた状態でのコイル成形装置1が示されている。コイル成形装置1で帯状コイル2を成型するに際しては、図2に示されるように、コイル成形装置1のコイル搬送機構4における搬送体5により帯状コイル2を把持した状態で、コイル搬送機構4の直線搬送区間S1から、この区間に続く旋回搬送区間S2にわたって帯状コイル2を搬送する過程で、帯状コイル2を円弧状に癖付けしながらコイル巻取治具3に巻き取らせる。図3に、コイル巻取治具3が模式的な斜視図として示され、図4に、コイル巻取治具3に帯状コイル2を巻き取った様子が模式的な斜視図として示されている。
【0015】
図2には、コイル搬送機構4の直線搬送区間S1において帯状コイル2が把持された状態が示される。帯状コイル2は、外表面に絶縁層を有する断面形状が略矩形状の導体線条体であるコイル導体2aにより構成され、所定の型巻コイルの成形処理により長尺な波型帯状を呈している。帯状コイル2は、複数の平行な直状部6と、複数の直状部6の両端それぞれに連なる側端部7とを有し、直状部6に直交する方向に帯状に延びている。直状部6は、図示しない回転電機のステータコアの内周に設けられるスロット内に挿入される部位であり、それぞれ同一方向に直線状をなし、一定の間隔で平行に延びている。側端部7は、直状部6の延び方向の両端部にそれぞれ連なる。
【0016】
側端部7それぞれは、2本の直状部6と2本の側端部7で形成されるループ形状における、隣り合う直状部6の一方端部同士と他方端部同士とを山型状に交互に連結する形態で、直状部6のピッチでずれて重なっている。側端部7は、帯状コイル2が回転電機のステータコアのスロットに装着された際に、スロットからステータコアの軸方向にそれぞれ突出するコイルエンド部を構成する。
【0017】
コイル搬送機構4は、搬送体5の移動によって帯状コイル2を搬送する。搬送体5は、概略矩形の板状をなす同一構造の複数の駒部材8がその厚み方向に沿って重ねて連結されて構成される。複数の駒部材8それぞれは、平行な一対の搬送レール9に案内されて、積層状に整列して移動する。一対の搬送レール9は、コイル搬送機構4の直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2を経て直線逆搬送区間S3にわたって設けられ、一定の幅寸法を有する板状の部材で構成される。
【0018】
搬送レール9は、図1における側面視で、直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2を経て直線逆搬送区間S3にわたる、横向きU字状の搬送経路を形成している。複数の駒部材8それぞれは、それらの上端面に第1把持爪10及び第2把持爪11が厚み方向に離隔して突設されている。搬送体5において、積層状に整列して隣り合う駒部材8相互の、一方の駒部材8の第1把持爪10と他方の駒部材8の第2把持爪11との間に、帯状コイル2の直状部6を把持する把持溝12が形成される。
【0019】
コイル搬送機構4は、搬送体5におけるこの把持溝12に直状部6を把持して、帯状コイル2を直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2へと搬送する。なお、複数の駒部材8それぞれは、それらの下端面近傍に、把持溝12の延び方向である幅方向の両側に突設された不図示のガイド突起を有する。駒部材8それぞれは、そのガイド突起が、一対の搬送レール9それぞれの対向面に搬送レール9の延び方向に沿って設けられた不図示のガイド溝に摺動可能に収容されて案内される。なお、図2では、帯状コイル2を部分的に表しているが、本開示の帯状コイル2は、コイル巻取治具3に複数回にわたり巻回される長さを有する。
【0020】
上述の、直線搬送区間S1、旋回搬送区間S2、直線逆搬送区間S3は、駒部材8の搬送における搬送区間の区分であるが、直線搬送区間S1および旋回搬送区間S2は、そのまま帯状コイル2の搬送経路の区分に対応している。直線搬送区間S1では、帯状コイル2を把持した駒部材8の連なりがコイル巻取治具3に向けて直線的に搬送される。直線搬送区間S1に続く旋回搬送区間S2では、駒部材8の連なりが円弧状に旋回搬送される過程で、後述する案内部材17によって、駒部材8に把持されていた帯状コイル2が、コイル巻取治具3に順次移されて巻き取られる。旋回搬送区間S2に続く直線逆搬送区間S3では、帯状コイル2を手放した後の駒部材8の連なりが、直線搬送区間S1とは逆向きに、直線状に搬送される。
【0021】
コイル搬送機構4のコイル巻取治具3が、図3および図4に示されている。コイル巻取治具3は、略円筒状の治具本体13と、治具本体13の外周に放射状に突出する複数の櫛歯部14と、周方向に隣り合う櫛歯部14の間に設けられる複数の櫛歯状溝15と、治具本体13の中心に開口する軸孔16と、を有する。櫛歯部14及び櫛歯状溝15は、治具本体13の軸方向の両端部にそれぞれ設けられる。治具本体13の一方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15と他方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15との周方向の位相は揃えられている。本開示のコイル巻取治具3は、治具本体13の軸方向の両端部に、それぞれ72個ずつの櫛歯状溝15を有する。この櫛歯状溝15の数は、帯状コイル2が装着される回転電機におけるステータコアのスロットの数に一致している。
【0022】
治具本体13の一方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15と他方端部の櫛歯部14及び櫛歯状溝15との間の離隔距離は、帯状コイル2の直状部6の延び方向の長さに略等しい。したがって、帯状コイル2の直状部6は、治具本体13の一方端部の櫛歯状溝15と他方端部の櫛歯状溝15とに亘って収容可能である。
【0023】
コイル巻取治具3は、回転電機のステータコアの内側に挿入可能となるように、櫛歯部14の放射方向の長さによって規定されるコイル巻取治具3の外径が、ステータコアの内径以下となるように形成される。コイル巻取治具3は、コイル成形装置1の所定の部位に配置され、図示しないモータによって駆動され、軸孔16を中心にして、図1における側面視で時計方向に回転可能に設けられる。図4に示すように、帯状コイル2は、略円筒状の巻回状態に成形される。巻回状態の帯状コイル2は、その側端部7のコイル導体2aが櫛歯状溝15からその延び方向に突出する一方、直状部6のコイル導体2aが櫛歯状溝15内に収容されているため、位置ずれするおそれはない。したがって、帯状コイル2は、略円筒状の巻回状態を安定して保持することができる。本開示の帯状コイル2は、コイル巻取治具3の複数回の回転により、コイル巻取治具3に多重巻きされる。
【0024】
図1に、図5図6および図7を併せ参照して、案内部材17について詳細に説明する。図5は、図1における旋回搬送区間S2の終端近傍部分を拡大して示す図である。図6は、図5に示された部分における案内部材の形状と作用を説明するための模式図である。図7は、図6の一部分を拡大して示す模式図である。図5図6および図7において、図1との対応部には同一の符号が附されている。案内部材17は、帯状コイル2の搬送に係る直線搬送区間S1から旋回搬送区間S2に移行する旋回開始位置P1から、帯状コイル2を、次第に旋回半径方向内向きに向かう旋回軌跡を描くように案内して搬送する部材である。
【0025】
案内部材17は、図2の一対の搬送レール9の両外側に設けられた一対の板状の部材であり、コイル成形装置1を側面視した図1では、手前側の案内部材17が示される。図1における側面視にて奥側の案内部材17は手前側の案内部材17と同形同寸法で、かつ、面対称に配置される。このため、これ以降、案内部材17に関しては、図1に表された手前側の案内部材17について代表的に説明する。
【0026】
本開示のコイル成形装置1における案内部材17は、旋回搬送区間S2に対応する領域に配置された第1案内部材19の部分と、旋回搬送区間S2に時計回りに連なる領域に配置された第2案内部材20の部分とを含む。第1案内部材19は、旋回搬送区間S2の全域に対応して、図1における側面視で、コイル巻取治具3の外周近傍における左側の半円弧状の領域に配置される。
【0027】
第1案内部材19は、旋回搬送区間S2の旋回開始位置P1から終端位置P2までの区間における、側面視で時計回りに次第に旋回半径方向内向きに向かう曲線状の第1案内面部21を有する。第1案内面部21は、その一部または全部の領域で、帯状コイル2を、次第に旋回半径方向内向きに向かう旋回軌跡を描くように案内する。第1案内面部21は、旋回搬送区間S2を旋回搬送される過程の帯状コイル2を、摺接して押圧し、搬送体5側からコイル巻取治具3側に移す。
【0028】
詳細には、搬送体5における一連の複数の駒部材8間に形成された把持溝12それぞれに直状部6が把持されて搬送体5に把持された形態で旋回搬送中の帯状コイル2に対し、第1案内部材19が次のように作用する。第1案内部材19における側面視で時計回りに次第に旋回半径方向内向きに向かう曲線状の第1案内面部21が、側端部7のコイル導体2aを摺接して押圧する。第1案内面部21によるこの摺接と押圧で、直状部6のコイル導体2aが把持溝12から離脱してコイル巻取治具3側の櫛歯状溝15に次々に移される。これにより、帯状コイル2が搬送体5の駒部材8から離脱して、コイル巻取治具3側に巻き取られる。
【0029】
第2案内部材20は、図1における側面視で、旋回搬送区間S2の終端位置P2から、コイル巻取治具3の右側の外周近傍における半円弧状の領域の全域にわたって、自己の第2案内面部22が位置するように配置される部材である。第2案内部材20は、右半円弧状の第2案内面部22を左端部とし、第2案内面部22からその背後側、即ち、図1における右側に一定の広がりを持ち、直線搬送区間S1および直線逆搬送区間S3と直交する直線状の部分を右端部20aとする板状の部材である。第2案内部材20の上端部と下端部は、搬送レール9における直線逆搬送区間S3と直線搬送区間S1との間の領域に位置する。
【0030】
第2案内面部22は、上述の第1案内部材19の第1案内面部21によって、搬送体5の駒部材8から離脱して、コイル巻取治具3側に巻き取られた帯状コイル2の側端部7のコイル導体2aに対し、摺接して押圧するように作用する。即ち、第2案内部材20の第2案内面部22は、第2案内部材20における側面視で時計回りに次第に旋回半径方向内向きに向かう曲線状の第2案内面部22が、コイル巻取治具3の回転に伴い、側端部7のコイル導体2aを摺接して押圧する。これにより、第1案内面部21によって搬送体5側からコイル巻取治具3の櫛歯状溝15における最外周の位置に移された順次の直状部6のコイル導体2aが、次の周回で重ねられたコイル導体2aを介して最外周から2番目の外周位置へと押圧されて、櫛歯状溝15に既定の深さまで入り込む。この結果、帯状コイル2は、直状部6のコイル導体2aが櫛歯状溝15に多重に重ねて押し込まれた正規の形態でコイル巻取治具3に巻き付けられる(図4)。
【0031】
上述のように、案内部材17は、第1案内部材19と第2案内部材20とを含んで構成される。第1案内部材19は、帯状コイル2の側端部7を案内することで直状部6をコイル巻取治具3の櫛歯状溝15における最外周の部位に案内する。第2案内部材20は、第1案内部材19によって櫛歯状溝15における最外周の部位に案内された直状部6を、当該最外周から2番目の外周位置に整える。
【0032】
第1案内部材19と第2案内部材20とは、帯状コイル2の側端部7に対する第1案内部材19による案内の終端部位直後であって第2案内部材20の手前の第1分離位置SP1と、直線搬送区間S1の終端部位直後であって第1案内部材19の手前の第2分離位置SP2とで分離自在である。
【0033】
第1分離位置SP1前後の、図6に示す過渡領域Trでは、過渡領域Trの前後の領域におけるよりも、第1案内面部21および第2案内面部22の、コイル巻取治具3の回動中心軸からの距離が大きく、帯状コイル2のコイル導体2aが、第1案内面部21および第2案内面部22に接触しないように成形されている。
【0034】
詳細には、第1案内面部21における過渡領域Trに該当する部分は、コイル導体2aの最外周部位が周回するときの移動軌跡Lmから退いた第1摺接回避部21aとして成形されている。また、第2案内面部22における過渡領域Trに該当する部分は、コイル導体2aの最外周部位が周回するときの移動軌跡Lmから退いた第2摺接回避部22aとして成形されている。
【0035】
第2案内部材20の下端近傍に、癖付け部材18が設けられる。癖付け部材18は、第2案内部材20の厚み方向(即ち、図1の紙面に垂直な方向)を自己の幅方向とし、第2案内部材20の右端部20a側から直線搬送区間S1の延長方向に延びた、平面視で矩形の板状部材である。癖付け部材18は、旋回開始位置P1を含む直線搬送区間S1と旋回搬送区間S2にまたがる領域で、搬送される帯状コイル2に対向して摺接する摺接面23を有する。図1において、摺接面23は、癖付け部材18の下面である。癖付け部材18は、帯状コイル2の搬送方向における端部24で、側端部7のコイル導体2aに接触し、接触部を力点としてコイル導体2aに曲げ応力を作用させて、帯状コイル2を円弧状に癖付けする。
【0036】
癖付け部材18における摺接面23とは反対側の面(上面)には、部分的に端部24に向けて厚み寸法が小さくなる、側面視で円弧状の凹面である矯正面25が形成されている。矯正面25は、コイル巻取治具3に巻き取られて回動する帯状コイル2における側端部7のコイル導体2aに、当該回動に関する外周側から摺接して、側端部7のコイル導体2aの姿勢を、対応する直状部6のコイル導体2aの延長方向から外周側にはみ出さないように矯正する。
【0037】
次に、図8の模式図を参照して、コイル成形装置1において案内部材17を分離してコイル巻取治具3を取り出す操作について説明する。図8において、図1との対応部には同一の符号が簡略に附されている。図8の左側には、案内部材17における第1案内部材19と第2案内部材20とが分離されない状態が示されている。この状態では、第2案内部材20とコイル巻取治具3の外周に臨む部分とが、軸方向に重なる位置関係にある。このため、コイル巻取治具3を軸方向に移動させると、コイル巻取治具3の櫛歯部14が第2案内部材20と干渉して、コイル巻取治具3を取り出すことができない。上述のように、案内部材17は、図2の一対の搬送レール9の両外側に位置して一対設けられている。従って、コイル巻取治具3を軸方向の何れの向きに移動させようとしても、上記同様に、案内部材20と干渉する。
【0038】
図8の右側には、内部材17を構成する第1案内部材19と第2案内部材20とが、第1分離位置SP1と第2分離位置SP2とで分離された状態が示されている。このように第1案内部材19と第2案内部材20とが分離された状態では、コイル巻取治具3を軸方向に移動させても、櫛歯部14が第2案内部材20と干渉しない。この状態で、コイル巻取治具3を、図示にて軸方向手前側に移動させて、コイル成形装置1から取り出すことができる。
【0039】
次に、本開示のコイル成形方法について説明する。本開示のコイル成形方法は、複数の直状部6と、複数の直状部6の両端それぞれに連なる側端部7と、を有する帯状コイル2を、自己の外周側に回動して巻き取るコイル巻取治具3と、コイル巻取治具3の軸方向の両端近傍にそれぞれ配置され、側端部7と自己の案内面部21、22で接触しながら、帯状コイル2をコイル巻取治具3の外周に沿う円弧状に案内する案内部材17とを備えたコイル成形装置1を用いて帯状コイル2を成型するコイル成形方法である。
【0040】
本開示のコイル成形方法では、コイル巻取治具3として、複数の直状部6をそれぞれ挿入可能な半径方向に延びた複数の櫛歯状溝15を外周側に有するコイル巻取治具3を適用する。
【0041】
また、案内部材17として、直状部6をコイル巻取治具3の櫛歯状溝15における最外周の部位に案内する第1案内部材19と、第1案内部材19によって最外周の部位に案内された直状部6を、当該最外周から2番目の外周位置に整える第2案内部材20と、を有する案内部材17を適用する。
【0042】
さらに、第1案内部材19および第2案内部材20として、第2案内部材20の手前の第1分離位置SP1と、第1案内部材19の手前の第2分離位置SP2とで分離自在であり、少なくとも、第1分離位置SP1前後の過渡領域Trでは、当該過渡領域Trの前後の領域におけるよりも、案内面部21、22の記コイル巻取治具3の回動中心軸からの距離が大きく、帯状コイル2が案内面部21、22に接触しないように、第1摺接回避部21aおよび第2摺接回避部22aが成形された部材を適用する。
【0043】
本開示のコイル成形方法では、帯状コイル2を案内する案内部材17として複数の部分に分離可能な構造のものを適用しながらも、分離に係る継ぎ目の部位でコイル導体2aが損傷を受けるおそれがない。
【0044】
以上、本開示のコイル成形装置の一態様について説明したが、本開示の技術思想はこれに限られない。本開示の技術思想の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。例えば、上述の例では、案内部材として第1案内部材19と第2案内部材20との2つの部材に分割されるものを適用したが、これに替えた構成を採り得る。即ち、案内部材として3つ以上の部材に分割されるものを適用し、分割される部材の隣接部位である分割位置前後の過渡領域では、帯状コイルが案内面部に接触しないように部材を成形してもよい。
【符号の説明】
【0045】
Lm…移動軌跡
P1…旋回開始位置
P2…終端位置
S1…直線搬送区間
S2…旋回搬送区間
S3…直線逆搬送区間
SP1…第1分離位置
SP2…第2分離位置
Tr…過渡領域
1…コイル成形装置
2…帯状コイル
2a…コイル導体
3…コイル巻取治具
4…コイル搬送機構
5…搬送体
6…直状部
7…側端部
8…駒部材
9…搬送レール
10…第1把持爪
11…第2把持爪
12…把持溝
13…治具本体
14…櫛歯部
15…櫛歯状溝
16…軸孔
17…案内部材
18…癖付け部材
19…第1案内部材
20…第2案内部材
20a…右端部
21…第1案内面部
21a…第1摺接回避部
22…第2案内面部
22a…第2摺接回避部
23…摺接面
24…端部
25…矯正面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8