(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146754
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ワイピングクロス
(51)【国際特許分類】
G11B 5/84 20060101AFI20241004BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20241004BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20241004BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20241004BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20241004BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20241004BHJP
D03D 15/33 20210101ALI20241004BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20241004BHJP
D06M 11/38 20060101ALI20241004BHJP
B08B 1/14 20240101ALI20241004BHJP
【FI】
G11B5/84 Z
D01F8/14 C
D03D1/00 Z
D03D15/20 200
D03D15/283
D03D15/292
D03D15/33
D06M11/00 111
D06M11/38
B08B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013462
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023059306
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】樂家 信幸
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏
【テーマコード(参考)】
3B116
4L031
4L041
4L048
5D112
【Fターム(参考)】
3B116AA03
3B116AA46
3B116AB52
3B116BA08
4L031AA18
4L031AB01
4L031AB08
4L031AB21
4L031AB32
4L031BA11
4L031CA01
4L031DA05
4L041AA07
4L041BA02
4L041BA11
4L041BA33
4L041BD14
4L041CA12
4L041CA21
4L041DD01
4L041DD11
4L041EE06
4L041EE08
4L041EE15
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA27
4L048AA34
4L048AA35
4L048AB11
4L048AC19
4L048CA00
4L048DA24
4L048EB04
5D112AA05
5D112AA07
5D112AA24
5D112GA02
5D112GA13
(57)【要約】
【課題】 拭き取り時の摩擦によるパーティクルの増加を抑え、コンタミによる問題が発生せず、且つ拭き取り性も高く、拭き残しも少ない、メディア清掃用途に適したワイピングクロスを提供する。
【解決手段】 ポリアミドの極細繊維を用いた繊維構造物からなるワイピングクロスであって、前記ポリアミドの極細繊維の単糸繊度が0.7dtex以下であり、前記ワイピングクロス全体中におけるポリアミドの極細繊維の含有量が40質量%以上であり、直径0.1μm以上の気中パーティクル数の平均値が10個/cm2以下であるワイピングクロスである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドの極細繊維を用いた繊維構造物からなるワイピングクロスであって、前記ポリアミドの極細繊維の単糸繊度が0.7dtex以下であり、前記ワイピングクロス全体中におけるポリアミドの極細繊維の含有量が40質量%以上であり、直径0.1μm以上の気中パーティクル数の平均値が10個/cm2以下であるワイピングクロス。
【請求項2】
前記ポリアミドの極細繊維が、ポリアミド成分とアルカリ易溶性ポリエステル成分とからなる、実質的に艶消し剤を含有しない分割型複合繊維のアルカリ易溶性ポリエステル成分を溶解させて得られたポリアミド繊維であって、かつ繊維横断面形状が、異形断面形状である請求項1記載のワイピングクロス。
【請求項3】
前記繊維構造物が、前記ポリアミドの極細繊維を、少なくとも緯糸に用いてなる織物である請求項2記載のワイピングクロス。
【請求項4】
ポリアミド成分とアルカリ易溶性ポリエステル成分とからなる、実質的に艶消し剤を含有しない分割型複合繊維を、少なくとも緯糸に用いて織物を製織する工程と、得られた織物をアルカリ性溶液に浸漬することによりアルカリ易溶性ポリエステル成分を溶解させる工程とを有する、請求項1、2又は3記載のワイピングクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク等の磁気記録媒体におけるメディアの清掃用途に好適に用いられるワイピングクロスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク等の磁気記録媒体におけるメディアの清掃用途には、極細繊維からなる織物がワイピングテープとして多く用いられている。
【0003】
拭き取り方向(進行方向に対して垂直)となる緯糸には、主にポリエステル単独糸又はポリエステル/ポリアミド組成からなる複合繊維を化学的処理又は物理的処理によって分割された割繊糸が使用されている場合が殆どである。
【0004】
ポリエステルはポリアミドと比べて、優れた形態安定性、オリゴマー発生及び吸塵が少ない、染色釜における加工性が優れていることから、ワイピングテープにポリエステル繊維が好まれて使用され、ワイピングテープ中、ポリエステルが60質量%以上を占めているものが多い。
【0005】
ポリアミドは上記の点でポリエステルに劣るが、耐摩耗強度が強いためメディア拭き取り時の摩擦によるパーティクルの発生が少ない。パーティクルの発生が少ない点においてはポリアミドの使用も好ましいが、ポリアミドはオリゴマー等によるコンタミネーション(以下、コンタミと記す)が多い。コンタミが多いと拭き取りの際メディアを傷つけてしまうため、コンタミを減らす必要があった。
【0006】
コンタミを減らす手段として、酸化チタン等の艶消し剤を含まない繊維を緯糸または経糸に使用してワイピングテープとすることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、前記艶消し剤を含まない繊維として、長繊維糸または化学的割繊処理が施されていない割繊糸が使用されるとしているが、具体的に実施例で挙げられているのは割繊糸ではなく、長繊維糸であり、実施例に記載の長繊維糸は単糸繊度が太く、繊維断面も丸断面であるため、拭き取り性能が十分ではない。また、化学的割繊処理が施されていない割繊糸として、製織後の物理的割繊工程である熱処理によりその収縮率の違いから分割した割繊糸が挙げられている。物理的割繊処理により得られる割繊糸は割繊部で薄い剥離膜が発生し自己発塵が起こりクリーン度を悪化させてしまう。
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、拭き取り時の摩擦によるパーティクルの増加を抑え、コンタミによる問題が発生せず、且つ拭き取り性も高く、拭き残しも少ない、メディア清掃用途に適したワイピングクロスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、ポリアミドの極細繊維を用いた繊維構造物からなるワイピングクロスであって、前記ポリアミドの極細繊維の単糸繊度が0.7dtex以下であり、前記ワイピングクロス全体中におけるポリアミドの極細繊維の含有量が40質量%以上であり、直径0.1μm以上の気中パーティクル数の平均値が10個/cm2以下であるワイピングクロスによって達成される。
【0011】
また、前記ポリアミドの極細繊維が、ポリアミド成分とアルカリ易溶性ポリエステル成分とからなる、実質的に艶消し剤を含有しない分割型複合繊維のアルカリ易溶性ポリエステル樹脂を溶解させて得られたポリアミド繊維であって、該ポリアミド繊維の横断面形状が、異形断面形状であることが好ましい。
【0012】
また、前記繊維構造物が、前記ポリアミドの極細繊維を、少なくとも緯糸に用いてなる織物であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の目的は、ポリアミド成分とアルカリ易溶性ポリエステル成分とからなる、実質的に艶消し剤を含有しない分割型複合繊維を、少なくとも緯糸に用いて織物を製織する工程と、得られた織物をアルカリ性溶液に浸漬することによりアルカリ易溶性ポリエステル樹脂を溶解させる工程とを有する、前記ワイピングクロスの製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のワイピングクロスは、超微細なパーティクル量が極めて少ないことから、コンタミの発生がなく、更に、ポリアミド繊維を特定量以上含有することで、拭き取り時の摩擦によるパーティクル増加を抑え、また、単糸繊度が0.7dtex以下の極細のポリアミド繊維を用いていることで、拭き取り性も高く、拭き残しも少ない、メディア清掃用途に適したワイピングクロスである。
また、ポリアミド樹脂とアルカリ易溶性ポリエステル樹脂とからなる、実質的に艶消し剤を含有しない分割型複合繊維を、少なくとも緯糸に用いて織物とした後、アルカリ性溶液により、アルカリ易溶性ポリエステル樹脂を溶解することにより、ポリアミドやアルカリ易溶でないポリエステルに含まれているオリゴマーなどが除去されるため、ワイピングクロス中の自己発塵によるパーティクル数を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る極細繊維の横断面形状の一例を示す説明図。
【
図2】本発明に係る極細繊維の横断面形状の他の例を示す説明図。
【
図3】本発明に係る極細繊維の横断面形状の他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のワイピングクロスは、ポリアミドの極細繊維を用いた繊維構造物である。
【0018】
ワイピングクロスを構成する極細繊維は、単糸繊度が、0.7dtex以下のポリアミド繊維であることが必要である。また、その単糸繊度は、0.6dtex以下であることが好ましい。単糸繊度が0.7dtex以下であれば、得られるワイピングクロスはより柔軟性、緻密性に優れ、研磨性能や清掃性能に好適なものとなる。
【0019】
本発明のワイピングクロス全体中におけるポリアミドの極細繊維の含有量は、40質量%以上であることが必要である。含有量が40%以上であればメディア拭き取り時の摩擦によるパーティクルの発生が少ない。
【0020】
本発明のワイピングクロスは、ポリエステルを30%以上含有することが好ましい。経糸にポリエステル繊維又はポリエステルを含む複合繊維を使用することで、形態安定性が良くなり、ワイピングテープとして使用した時にテープ巾を維持しやすい。
【0021】
本発明のワイピングクロスは、直径0.1μm以上の気中パーティクル数の平均値が10以下である。10個/cm2以下であればメディアに傷がつきにくい。
【0022】
本発明のワイピングクロスは、ハードディスク等の製造工程に用いるなど、クリーンルーム内での精密機器の使用において、優れたワイピング性能を有するものである。ワイピングクロスの形態は、ひも状、テープ状、正方形等、所定の大きさ、形状にカットしたものとして使用すればよい。
【0023】
本発明における上記極細ポリアミド繊維は、ポリアミド成分とアルカリ易溶性ポリエステル成分とからなる分割型複合繊維を用い、アルカリ処理により分割型複合繊維を割繊することにより形成された繊維であることが好ましい。
【0024】
上記ポリアミド成分としては、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6等の脂肪族ポリアミドが挙げられる。
【0025】
また、上記ポリアミド成分として、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとからなるポリアミド樹脂組成物を用いてもよい。芳香族ポリアミドとしては、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを主要な構造単位とするポリアミド等が挙げられる。
上記ポリアミド樹脂組成物は、収縮性能が大きいため、アルカリ溶解処理又は熱水処理で良好な割繊性を示す。そして処理後の繊維構造物は、緻密性、嵩高性に富むことから、ハードディスクなどの研磨・清掃に適したワイピング性能を有する。
【0026】
具体的には、芳香族ポリアミドがメタキシリレンジアミンとアジピン酸とから得られる樹脂(ポリアミドMXD6)、脂肪族ポリアミドがεカプロラクタムから得られる樹脂(ポリアミド6)であるものが挙げられる。上記ポリアミドMXD6とポリアミド6の質量混合比率は35:65~70:30が好ましい。
【0027】
一方、上記アルカリ易溶性ポリエステル成分としては、ポリアルキレングリコール類、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分やアジピン酸を共重合したポリエステル成分である。
【0028】
特に、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであり、酸成分中に2.0~3.0モル%の金属スルホネート基含有イソフタル酸成分を含有し、平均分子量が1000~10000のポリアルキレングリコールをポリマー中に9~13質量%含有するポリエステルであることが好ましい。更に、含まれるDEGのモル%がグリコール成分中、4.7~5.7モル%であり、極限粘度の最大値[η]maxと最小値[η]minの比が1.0≦[η]max/[η]min≦1.02であるポリエステル成分が好適である。
【0029】
本発明に使用される金属スルホネート基含有イソフタル酸成分は、5-金属スルホイソフタル酸ジメチル(以下、SIPMと称する)又はメチル基をエチレングリコールでエステル化させた化合物(以下、SIPEと称する)が採用される。SIPMを多量にスラリー槽へ投入するとスラリー物性を悪化させることがあるのでSIPEを採用するのが好ましい。SIPM又はSIPE中金属はナトリウム、カリウム、リチウムなどが用いられるが、最も好ましいのはナトリウムである。
SIPEの共重合率はポリマーの酸成分中2.0~3.0モル%とする好ましい。SIPEの共重合比率がこれより少ないと、十分なアルカリ溶解性を得ることが難しい傾向にある。一方、共重合比率がこれより多いと、溶融紡糸工程でのSIPEの電荷による増粘、ゲル化が発生し、操業性が著しく低下する傾向にある。
【0030】
また、ポリアルキレングリコールは一般式 HO(CnH2nO)mH(但し、n、mは正の整数)で表されるもので、n=2のポリエチレングリコール(以下PEGと称す)が汎用的で最も好ましい。
本発明に用いるポリアルキレングリコールの分子量は、1000~10000であることが好ましい。分子量が1000未満だと、溶融紡糸時に改質ポリエステルの加水分解反応が起こり易く、ポリエステルの耐熱性が不十分であり、ポリエステルペレット同士の融着や仮撚工程での白粉が発生する傾向にある。また、分子量が10000を超えると、重合反応性が乏しくなり、ポリエステルの分子鎖中にポリアルキレングリコールが共重合され難いのでポリエステルの耐酸化性が劣る傾向にある。
【0031】
ポリアルキレングリコールの共重合量は、ポリマーに対して9~13質量%とする必要がある。共重合量が9質量%未満であれば、アルカリ水溶解性能が十分得られない傾向にある。一方、13質量%を超えると、ポリマーの耐熱性、耐酸化性が悪くなる。
【0032】
上記ポリエステルの極限粘度は、極限粘度の最大値[η]maxと最小値[η]minの比が1.0≦[η]max/[η]min≦1.02である。[η]max/[η]minが上記範囲から外れると、溶融紡糸時の糸切れが多発し、紡糸濾過性が悪い為紡糸口金寿命が短くなる等、操業性に劣る傾向にある。
【0033】
また、本発明に使用するアルカリ易溶性ポリエステル成分は、グリコール成分中にジエチレングリコール(DEG)が4.7~5.7モル%含まれていることが好ましい。このDEGは重合中の副反応により生成する。4.7モル%未満であれば、アルカリ水溶解性能が劣る。また、5.7モル%を超えると、ポリマーの耐熱性、耐酸化性が劣り、溶融紡糸時の操業性が著しく悪くなる。
【0034】
また、上記ポリアミド成分及びアルカリ易溶性ポリエステル成分は、艶消し剤を含まないことが好ましい。艶消し剤とは、糸の光沢を抑えたり紡糸操業性等を良好にしたりするために通常添加する二酸化チタン、酸化ケイ素及び酸化アルミニウム等の無機粒子や有機粒子等のことである。また、ここで艶消し剤を含まないという意味は、糸の光沢を抑えたり紡糸操業性等を良好にしたりするために通常添加する二酸化チタン等の艶消し剤を積極的に添加しないという主旨である。艶消し剤を含んでいる場合、艶消し剤が拭き取り時の物理的外力により脱落し、磁気記録媒体等にスクラッチを生じさせるからである。
なお、製造・加工工程で、コンタミなどにより微量含有する場合もある。このような場合でも、一般的な灰分測定法による分析値がポリマー中50ppm未満であれば、ハードディスク研磨、清掃時に表面を傷付けることはない。
【0035】
上記成分を組み合わせた分割型複合繊維は、アルカリ溶解加工を施した際にポリエステル成分全部が溶解し、割繊される。更に、このようなアルカリ溶解加工工程による加熱又は別個に行われる熱処理によって加熱されることによって、ポリアミド成分が収縮し、高密度で嵩高いワイピングクロスとすることができる。
【0036】
上記分割型複合繊維の断面形状は、上記ポリアミド成分とアルカリ易溶性ポリエステル成分とが単一繊維の横断面において、一方の成分が他方の成分を完全に包含しない形状で、単一繊維の長手方向に沿って接合されている形であることが好ましい。具体的には、
図1、
図2のような放射状と放射状を補完する形状に接合された放射型分割型複合繊維、
図3のような中央円形状型分割型複合繊維等が例として挙げられる。
【0037】
図において、1、2は、それぞれポリアミド成分又はアルカリ易溶性ポリエステル成分を示す。すなわち、一方がポリアミド成分であれば、他方がアルカリ易溶ポリエステル成分である。本発明においては、1がアルカリ易溶性ポリエステル成分、2がポリアミド成分である分割型複合繊維を用いることが、ポリアミドの耐摩耗性をより発揮させる点で好適である。
【0038】
上記のように、本発明における極細ポリアミド繊維は、繊維横断面形状が異形断面形状であることが、メディア清掃時のワイピング性能の点で好適である。
【0039】
上記分割型複合繊維の総繊度は、紡糸可能な範囲で適宜決定すればよい。ワイピングクロスのワイピング性能に影響を及ぼす繊維の収縮性能の点から、総繊度が30~300dtexであることが好ましい。より好ましくは40~200dtex、特に好ましくは50~150dtexである。
【0040】
上記分割型複合繊維を用いた繊維構造物としては、糸条、織物、編物、不織布等を挙げることができ、なかでも織物が好ましい。ワイピングテープとして使用する場合でも、織物であれば経伸びしにくい。テープ使用時に経伸びすると正しくテープの巻き取りが出来ない。また、狭巾化によりワイピング面と接触させる際ワイピング面の拭き残しができる等の不具合が発生する。
【0041】
上記繊維構造物が織物である場合、織組織としては、平織、朱子織、斜文織等を挙げることができる。ワイピングクロスとしては、たとえば、平織、朱子織、斜文織が好ましい。より緻密な織物とすることができる点から、朱子織とすることが好ましい。
【0042】
また、繊維構造物が織物である場合、分割型複合繊維は、緯糸又は経糸あるいは経緯両方に用いることができる。
【0043】
この場合、経糸には、レギュラーポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維)又はポリアミド繊維を用いることが好ましい。
【0044】
特に、本発明のワイピングクロスをテープ状の形状で使用するにあたっては、極細のポリアミド繊維が緯糸であることが好ましい。拭き取り方向(進行方向に対して垂直)となる緯糸に、極細のポリアミド繊維を用いることが拭き取り性能が良好となる。よって、製織時は、上記分割型複合繊維を緯糸に用いることが好ましい。
【0045】
この場合、経糸には、レギュラーポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維)を用いることが好ましい。
【0046】
織物とする場合、下記式で算出する好適な仕上げカバーファクター(K)は、平織の場合、経1000以上、緯800以上が好ましく、朱子織の場合は、経1200以上が好ましく、より好ましくは1500以上、緯800以上が好ましく、より好ましくは1000以上が好ましい。
【0047】
【0048】
本発明の繊維構造物が編物である場合、経編、緯編のいずれであってもよい。具体的には、緯編組織が好ましく、ワイピングクロスとして使用する場合は、たとえばインターロック組織が好ましい。編物である本発明の繊維構造物をクリーンルームで使用するワイピングクロスとして使用する場合は、たとえばウェール数が70~100本/インチ、コース数70~100本/インチとすることが好ましい。またトリコットの場合は、28G程度を用いるのが好適である。また、フロント糸、バック糸、ミドル糸のすべてに上記分割型繊維を使用するものであっても、一部のみを分割型繊維とするものであってもよいが、少なくともフロントとバックに使用することがより好ましい。
【0049】
本発明のワイピングクロスは、上述した分割型複合繊維から繊維構造物を適宜常法により製造した後、アルカリ溶解処理を施すことによって、分割型複合繊維を割繊し、更に必要に応じて熱処理等を行うことによって得られたものであることが好ましい。
【0050】
アルカリ溶解処理により、ポリアミドやポリエステルに含まれているオリゴマーなどが、アルカリ水溶液によって除去されるため、ワイピングクロス中の自己発塵のパーティクル数が低減される。
【0051】
アルカリ溶解処理は、例えば、加熱したアルカリ性溶液中に本発明の分割型複合繊維を浸し、アルカリ易溶性ポリエステル成分を溶解させ、同時にポリアミド成分を収縮させることによって割繊させる方法である。その際に主にアルカリ易溶性ポリエステル成分に含まれているオリゴマーなどを由来とする自己発塵微粒子や低分子量物質が、アルカリ性溶液によって溶解除去されるため、該製品中の自己発塵粒子数を低減できる。
【0052】
アルカリ溶解処理の条件は、一般的にポリエステル繊維構造物の減量加工で実施されている方法でよく、例えば、0.5~5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を使用する方法を挙げることができる。より好ましくは1~3質量%、特に好ましくは、1~2質量%である。処理温度は85~100℃が好ましく、90~98℃がより好ましい。
【0053】
更に、上記アルカリ溶解処理によって得られた繊維構造物に対して、熱処理を行うことが好ましい。このような熱処理によって繊維を収縮させることができ、織物を高密度化することができ、生地の表面積が増えて拭き取り性が向上する。熱処理条件は、例えば、湿熱条件下で120~150℃で、0.5~1時間程度で行うことができ、乾熱条件下であれば150℃~190℃で30秒~1分程度で行うことができる。上記熱処理は、染色処理と同時に行うものであってもよい。すなわち、染色のための熱処理によって繊維を収縮させるものであってもよい。
【0054】
本発明のワイピングクロスの製造方法においては、製織、製編等の工程を経て得られた生機に対して上述した各工程による処理を行うことによって、織物においては10~30%巾方向に、編物においては40~60%巾方向に収縮させることによって、最終の繊維構造物を得るものであることが好ましい。このような収縮率を得ることによって、優れたワイピング性を得るという点で好ましい。上記収縮率は、生機の状態での巾をW0、収縮後の巾をWとして、
100×{(W0-W)/(W0)}(%)
の式で計算できる。
【0055】
そして、クリーンルーム内で使用するハードディスク等などの精密な電子機器の研磨や清掃等に用いる場合は、ついで、得られた織物をクリーンルーム内で純水により洗浄し乾燥を行って、必要に応じて、適宜、所望の大きさにカットする。その後、必要に応じてクリーンルーム内で純水により洗浄して乾燥してワイピングクロスを得ることができる。得られたワイピングクロスを樹脂フィルム内で密封パックするとよい。この密封パックしたものを、ハードディスク等の製造工程等使用する際に、開封して、ワイピングクロスを使用することができる。
【0056】
上記のようにして得られた、本発明のワイピングクロスは、極細のポリアミド繊維を多く含有しており、また、直径0.1μm以上の気中パーティクル数の平均値が10個/cm2以下であることから、コンタミの発生がなく、優れたワイピング性を有するものである。
【実施例0057】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0058】
また、各評価方法は、下記の通りである。
【0059】
<ポリエステルの極限粘度>
極限粘度[η]は、フェノール/テトラクロロエタン=6/4(質量比)の混合溶剤中20℃にて自動粘度計を用いて常法により測定した。
【0060】
<ポリアミドの相対粘度>
相対粘度ηrelは、硫酸溶剤中20℃にてオズワルド粘度計を用いて常法により測定した。
【0061】
<気中パーティクル数の測定>
1cm幅のテープ状ワイピングクロスを長さ20cmにカットし、試料とした。Class100のクリーンルーム内で、表面パーティクル検出器(Pentagon Technologies社製 QIII Ultra(登録商標))の測定台に試料の両端を治具で固定して試料を載置し、試料表面の0.1μm以上、5μm以下のパーティクル総数を測定した。同一試料の異なる3箇所を測定して、その平均値を直径0.1μm以上の気中パーティクル数とした。なお、パーティクル総数の単位は個/cm2である。
【0062】
<メディア拭き取り評価>
円盤状のガラスメディアを1000~3000rpmで回転可能な装置に取り付け、それぞれワイピングクロスを150g/cm2の圧力で押し当てながら1分間回転させる試験を1000rpmと3000rpmの回転速度でそれぞれ行った。そのメディアをビジョンサイテック社製Micro-MAXを用いてメディア上に転写されたダストと見られる輝点の数を計測した。これらの作業は全てClass100のクリーンルーム内で行われた。
【0063】
(実施例1)
ポリアミド成分として、実質的に艶消し剤(酸化チタン)を含まない、相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)を使用した。一方、アルカリ易溶性ポリエステル成分として、実質的に艶消し剤を含まない、極限粘度0.77の共重合ポリエチレンテレフタレート(テレフタル酸とエチレングリコールを主体とし、SIPEを酸成分中2.3モル%、平均分子量8000のポリエチレングリコールを10質量%、DEGを5.5モル%含有)を使用した。
放射状に分岐するセグメント1と放射状部分を補充するセグメント2の容積比が3:7で、紡糸温度295℃、紡糸速度1050m/分で、アルカリ易溶性ポリエステル成分が放射状に分岐するセグメント1を構成し、ポリアミド成分が放射状部分を補充するセグメント2を構成するように溶融複合紡糸し、
図2と同様の繊維横断面形状の未延伸糸を得た。そして、得られた未延伸糸をローラーヒーター85℃、プレートヒーター150℃、延伸倍率3.0倍で延伸し、84dtex/25fの分割型複合繊維を得た。
そして、この延伸糸を緯糸に用い、艶消し剤を含まないポリエチレンテレフタレートを用いて紡糸したレギュラーポリエステル繊維(極限粘度0.61、84dtex/36f)を経糸として用い、バックサテン織物を得た。得られた織物を、2質量%の水酸化ナトリウム水溶液(温度95℃)に、30分間浸漬しアルカリ溶解処理を行った。アルカリ溶解処理後、純水を用いて水洗することによって、分割、収縮処理を施し、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維は60dtex/200fであり、単糸繊度は0.29dtexであった。また、得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は40質量%であった。
得られたワイピングクロスを、緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0064】
(実施例2)
放射状に分岐するセグメント1と放射状部分を補充するセグメント2の容積比が3:7で、アルカリ易溶ポリエステル成分が放射状に分岐するセグメント1を構成し、ポリアミド成分が放射状部分を補充するセグメント2を構成するように溶融複合紡糸し、
図1と同様の繊維横断面形状の分割型複合繊維(84dtex/28f)を緯糸として用いた他は、実施例1と同様にして、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維は60dtex/112fであり、単糸繊度は0.53dtexであった。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は40質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0065】
(実施例3)
経糸として、実質的に艶消し剤を含まないレギュラーポリエステル繊維(極限粘度0.61、33dtex/12f)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は45質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0066】
(実施例4)
経糸として、芯が実質的に艶消し剤を含まないレギュラーポリエステル(極限粘度0.61)、鞘が実質的に艶消し剤を含まない相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)である芯鞘型複合繊維(56dtex/24f)を用いた他は、実施例1と同様にして、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミドの含有量は50質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状ワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0067】
(比較例1)
放射状に分岐するセグメント1と放射状部分を補充するセグメント2の容積比が3:7で、実質的に艶消し剤(酸化チタン)を含まない、相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)が放射状に分岐するセグメント1を構成し、実質的に艶消し剤を含まない極限粘度0.61のレギュラーポリエステルが放射状部分を補充するセグメント2を構成し、
図1と同様の繊維横断面形状の分割型複合繊維(56dtex/28f)を緯糸として用いた他は実施例1と同様にして、織物を得た。得られた織物を2質量%の水酸化ナトリウム水溶液(温度95℃)に20分間浸漬して分割処理を行った。分割処理後、純水を用いて水洗することによって、収縮処理を施し、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維の単糸繊度は0.60dtexであった。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は15質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0068】
(比較例2)
放射状に分岐するセグメント1と放射状部分を補充するセグメント2の容積比が3:7で、実質的に艶消し剤を含まない極限粘度0.61のレギュラーポリエステルが放射状に分岐するセグメント1を構成し、実質的に艶消し剤を含まない相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)が放射状部分を補充するセグメント2を構成し、
図1と同様の繊維横断面形状の分割型複合繊維(56dtex/28f)を緯糸として用いた他は実施例1と同様にして、織物を得た。得られた織物を2質量%の水酸化ナトリウム水溶液(温度95℃)に20分間浸漬して分割処理を行った。分割処理後、純水を用いて水洗することによって、収縮処理を施し、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維の単糸繊度は0.35dtexであった。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は35質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0069】
(比較例3)
放射状に分岐するセグメント1と放射状部分を補充するセグメント2の容積比が3:7で、実質的に艶消し剤を含まない相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)が放射状に分岐するセグメント1を構成し、艶消し剤を0.3質量%含有する極限粘度0.61のレギュラーポリエステルが放射状部分を補充するセグメント2を構成し、
図1と同様の繊維横断面形状の分割型複合繊維(56dtex/28f)を緯糸として用いた他は実施例1と同様にして、織物を得た。得られた織物を2質量%の水酸化ナトリウム水溶液(温度95℃)に20分間浸漬して分割処理を行った。分割処理後、純水を用いて水洗することによって、収縮処理を施し、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維の単糸繊度は0.60dtexであった。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は15質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0070】
(比較例4)
放射状に分岐するセグメント1と放射状部分を補充するセグメント2の容積比が3:7で、実質的に艶消し剤を含まない相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)が放射状に分岐するセグメント1を構成し、実質的に艶消し剤を含まない極限粘度0.61のレギュラーポリエステルが放射状部を補充するセグメント2を構成し、
図2と同様の繊維横断面形状の分割型複合繊維(56dtex/25f)を緯糸として用い、芯が実質的に艶消し剤を含まないレギュラーポリエステル成分(極限粘度0.61)、鞘が実質的に艶消し剤を含まない相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)である芯鞘型複合繊維(56dtex/24f)を経糸として用いた他は、実施例1と同様にして、織物を得た。得られた織物を2質量%の水酸化ナトリウム水溶液(温度95℃)に20分間浸漬して分割処理を行った。分割処理後、純水を用いて水洗することによって、収縮処理を施し、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維の単糸繊度は0.67dtexであった。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は15質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
結果を表1に併せて示す。
【0071】
(比較例5)
経糸として、実質的に艶消し剤を含まない極限粘度0.61のレギュラーポリエステル繊維(33dtex/12f)を用い、緯糸として実質的に艶消し剤を含まない相対粘度2.7のポリアミド6(宇部興産株式会社製)の単独糸(44dtex/36f)を用い、バックサテン織物を得た。純水を用いて織物を水洗することによって、収縮処理を施し、ワイピングクロスを得た。得られたワイピングクロスの緯糸中のポリアミド繊維の単糸繊度は1.22dtexであった。得られたワイピングクロス全体中におけるポリアミド繊維の含有量は40質量%であった。
得られたワイピングクロスを緯糸方向が幅方向となるようにヒートカットして1cm幅のテープ状のワイピングクロスとし、評価を行った。
【0072】
【0073】
実施例1~4のワイピングクロスは、直径0.1μm以上の気中パーティクルが少なく、また、拭き取り時の残パーティクルも少なく、拭き取り時のコンタミ増加が抑えられていた。一方、比較例1~4のワイピングクロスは、ポリエステル主体のワイピングテープであり、メディアの回転数が上がるとともにパーティクルが増え、拭き取りが十分ではなかった。