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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146757
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
H01T13/20 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016039
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2023057001
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】左▲高▼ 直輝
【テーマコード(参考)】
5G059
【Fターム(参考)】
5G059AA04
5G059AA10
5G059CC02
5G059DD04
5G059DD09
5G059DD11
5G059DD15
5G059DD19
5G059DD20
5G059DD21
(57)【要約】
【課題】中心電極の先端部の曲げ応力を低減できるスパークプラグを提供する。
【解決手段】スパークプラグは、先端から後端側へ向かって延びる軸孔が設けられた絶縁体と、絶縁体の軸孔に配置され軸線に沿って延びる中心電極と、を備え、中心電極は絶縁体の先端から突き出す先端部を含み、先端部は、軸線を含む断面において、絶縁体の先端に位置する根元と、根元の幅よりも幅が小さい電極先端と、を含む。断面に現出する先端部の根元と電極先端とを結ぶ外形線は、軸線に向かって凹む凹部を1つ以上含み、凹部のうち根元に最も近い後端凹部の曲率半径Rを、後端凹部と電極先端との間の軸線方向の距離Aで除した値R/Aは0.12以上である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端から後端側へ向かって延びる軸孔が設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の前記軸孔に配置され軸線に沿って延びる中心電極と、を備え、
前記中心電極は、前記絶縁体の前記先端から突き出す先端部を含むスパークプラグであって、
前記軸線を含む断面において、前記先端部は、前記軸線が延びる方向において前記絶縁体の前記先端に位置する根元と、前記根元よりも幅が小さい電極先端と、を含み、
前記断面に現出する前記先端部の前記根元と前記電極先端とを結ぶ外形線は、前記軸線に向かって凹む凹部を1つ以上含み、
前記凹部のうち前記根元に最も近い後端凹部の曲率半径Rを、前記後端凹部と前記電極先端との間の軸線方向の距離Aで除した値R/Aは0.12以上であるスパークプラグ。
【請求項2】
前記値R/Aは0.22以上である請求項1記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記後端凹部における前記軸線と垂直な方向の前記先端部の太さCは0.8mm以上である請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記距離Aは0.9mm以下であり、前記太さCは0.9mm以下である請求項3記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記太さCを前記距離Aで除した値C/Aは1.42以上である請求項3記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記先端部は、前記根元を含む母材と、
前記電極先端を含み貴金属を含有するチップと、
前記チップと前記母材との間に形成される溶融部と、を含み、
前記母材は、前記後端凹部を含み、
前記溶融部は、前記軸線の両側に位置する2つの前記外形線の間に連続している請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
前記先端部は、前記根元を含む第1部と、
前記第1部の先端側に隣接し前記第1部よりも細い第2部と、
前記電極先端を含み貴金属を含有するチップと、
前記チップと前記第2部との間に形成される溶融部と、を含み、
前記後端凹部は、前記第1部と前記第2部との境界に位置する請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
前記値R/Aは0.3以下である請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁体に中心電極が配置されたスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体の先端から中心電極の先端部が突き出たスパークプラグに係る先行技術は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-36856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術ではエンジンの燃焼圧力によって中心電極の先端部に中心電極を曲げようとする力が加わる。スパークプラグの耐久性等の向上のため、中心電極の先端部の曲げ応力は小さい方が好ましい。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、中心電極の先端部の曲げ応力を低減できるスパークプラグの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の第1の態様は、先端から後端側へ向かって延びる軸孔が設けられた絶縁体と、絶縁体の軸孔に配置され軸線に沿って延びる中心電極と、を備え、中心電極は絶縁体の先端から突き出す先端部を含み、先端部は、軸線を含む断面において絶縁体の先端に位置する根元と、根元の幅よりも幅が小さい電極先端と、を含む。当該断面に現出する先端部の根元と電極先端とを結ぶ外形線は、軸線に向かって凹む凹部を1つ以上含み、凹部のうち根元に最も近い後端凹部の曲率半径Rを、電極先端と後端凹部との間の軸線方向の距離Aで除した値R/Aは0.12以上である。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、値R/Aは0.22以上である。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、後端凹部における軸線と垂直な方向の先端部の太さCは0.8mm以上である。
【0009】
第4の態様は、第3の態様において、距離Aは0.9mm以下であり、太さCは0.9mm以下である。
【0010】
第5の態様は、第3又は第4の態様において、太さCを距離Aで除した値C/Aは1.42以上である。
【0011】
第6の態様は、第1から第5の態様のいずれかにおいて、先端部は、根元を含む母材と、電極先端を含み貴金属を含有するチップと、チップと母材との間に形成される溶融部と、を含む。母材は後端凹部を含み、溶融部は、軸線の両側に位置する2つの外形線の間に連続している。
【0012】
第7の態様は、第1から第6の態様のいずれかにおいて、先端部は、根元を含む第1部と、第1部の先端側に隣接し第1部よりも細い第2部と、電極先端を含み貴金属を含有するチップと、チップと第2部との間に形成される溶融部と、を含む。後端凹部は、第1部と第2部との境界に位置する。
【0013】
第8の態様は、第1から第7の態様のいずれかにおいて、値R/Aは0.3以下である。
【発明の効果】
【0014】
先端部の外形線の凹部のうち先端部の根元に最も近い後端凹部の曲率半径Rを、後端凹部と電極先端との間の軸線方向の距離Aで除した値R/Aは0.12以上であるため先端部の曲げ応力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
図2】中心電極の先端部の断面図である。
図3図2のIIIで示す部分を拡大した後端凹部の断面図である。
図4】値R/Aと後端凹部の曲げ応力との関係を示す図である。
図5】距離Aと後端凹部の曲げ応力との関係を示す図である。
図6】値C/Aと後端凹部の曲げ応力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は一実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Oを境にして外形図と全断面図とを組み合わせた片側断面図である。図1では紙面下側をスパークプラグ10の後端側、紙面上側をスパークプラグ10の先端側という(図2及び図3においても同じ)。
【0017】
図1に示すようにスパークプラグ10は、絶縁体11と、絶縁体11に保持される中心電極14と、を備えている。絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等のセラミック製の略円筒状の部材である。絶縁体11は、絶縁体11の先端12から後端側へ向かって軸線Oに沿って延びる軸孔13が設けられている。
【0018】
中心電極14は、絶縁体11の軸孔13の中に配置された、軸線Oに沿って延びる棒状の導体である。中心電極14は、銅を主成分とする芯材が有底円筒状の金属に覆われている。芯材を省略することは可能である。中心電極14を構成する金属はNi基合金が例示される。中心電極14は、絶縁体11の先端12から突き出す先端部15を含む。先端部15は軸線O上に設けられている。
【0019】
中心電極14は、軸孔13の中で端子金具16と電気的に接続されている。端子金具16は、点火装置(図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)からなる。端子金具16は、先端側が軸孔13に挿入され、後端が絶縁体11から突き出た状態で、絶縁体11の後端側に固定されている。
【0020】
絶縁体11の外周に主体金具17が固定されている。主体金具17は金属材料(例えば低炭素鋼)からなる円筒状の部材である。主体金具17にはエンジン(図示せず)のプラグホールのめねじに結合するおねじ18が設けられている。絶縁体11の先端12は、おねじ18の先端部よりも先端側に位置する。おねじ18の先端部に接地電極19が接続されている。
【0021】
接地電極19は、主体金具17から軸線Oへ向かって延びる導体である。接地電極19は、銅を主成分とする芯材が埋め込まれている。芯材を省略することは可能である。本実施形態では接地電極19は、主体金具17から中心電極14の先端部15の先端側へ向かって屈曲している。
【0022】
図2は中心電極14の先端部15の軸線Oを含む断面図である。先端部15は中心電極14のうち絶縁体11の先端12よりも先端側に位置する部分である。先端部15は、軸線O方向において絶縁体11の先端12に位置する根元20と、根元20の幅よりも幅が小さい電極先端21と、を含む。軸線Oは電極先端21の重心を通る。電極先端21の重心は、電極先端21の面を平面図形としたときの、周知の手段で算出される幾何中心である。
【0023】
本実施形態では先端部15は、電極先端21を含むチップ22と、根元20を含む母材23と、母材23とチップ22とが溶けてなる溶融部24と、を含む。チップ22はPt,Ir,Ru,Rh等の貴金属元素から選択される1種以上を含む。母材23はチップ22が溶接される金属材料である。本実施形態ではレーザ溶接によって溶融部24が作られている。抵抗溶接などによって溶融部24を設けることは当然可能である。
【0024】
本実施形態では先端部15は、根元20を含む第1部25と、第1部25の先端側に隣接する第2部28と、チップ22と、チップ22と第2部28とが溶けてなる溶融部24と、を含む。第2部28は第1部25よりも細い。第1部25及び第2部28は母材23を構成する金属材料である。第1部25及び第2部28は金属材料の塑性加工によって作られる。
【0025】
本実施形態では第1部25は、根元20を含む円柱部26と、円柱部26の先端側に隣接する円錐部27と、を含む。円柱部26は軸孔13にはまっている。円柱部26は軸線方向の全長に亘って略同一の太さの円柱状であり、円錐部27は先端側に向かうにつれて次第に細くなる円錐状である。円錐部27の先端側に第2部28が隣接している。第2部28は軸線方向の全長に亘って略同一の太さの円柱状である。第1部25と第2部28は塑性加工によって一体に成形されているが、これに限られるものではなく、溶接や拡散接合等によって第1部25と第2部28とを継ぎ合わすことは当然可能である。
【0026】
図2には先端部15の外形を表す2本の外形線29,30が、軸線Oを挟んで軸線Oの両側に現出している。外形線29,30は、先端部15の根元20と電極先端21とをそれぞれ結んでいる。外形線29,30は軸線Oに関して略対称なため、外形線29,30のうち片方の外形線30について説明し、外形線29の説明は省略する。
【0027】
外形線30は、根元20から電極先端21へ向かって順に、軸線Oから離れる方向へ突出する凸部31、軸線Oへ向かって凹む凹部32、軸線Oから離れる方向へ突出する凸部33、軸線Oへ向かって凹む凹部34がつながっている。凸部31は円柱部26と円錐部27とがつながる部分であり、凹部32は第1部25(円錐部27)と第2部28とがつながる部分である。凸部33は溶融部24の後端付近であり、凹部34は溶融部24とチップ22とがつながる部分である。
【0028】
溶融部24は、軸線Oの両側に位置する2つの外形線29,30の間に連続している。溶融部24が連続しているため、チップ22と溶融部24との間の界面35、及び、母材23と溶融部24との間の界面36が、外形線29と外形線30との間をつないでいる。凹部32は界面36と根元20との間に位置する。溶融部24が連続しているため、外形線29,30の間で溶融部24が離れているものに比べ、チップ22と母材23との間の溶融部24による接合面積を大きくできる。従ってチップ22の接合強度を大きくできる。
【0029】
凹部32,34のうち根元20に最も近い凹部32は、凹部32に比べて電極先端21からの距離が長い。従ってエンジン(図示せず)の燃焼圧力によって中心電極14(図1参照)を曲げようとする力が先端部15に加わったときの凹部32の曲げ応力は、凹部34の曲げ応力に比べて大きくなりやすい。そこで凹部32,34のうち根元20に最も近い凹部32(後端凹部)の曲率半径Rを、後端凹部32と電極先端21との間の軸線方向の距離Aで除した値R/Aを、先端部15の曲げ応力の指標とする。
【0030】
図3図2のIIIで示す部分を拡大した後端凹部32の断面図である。後端凹部32と電極先端21との間の距離Aが始まる後端凹部32側の起点37は、円錐部27の外形線の直線部分を先端側に延長した直線38と、第2部28の外形線の直線部分を後端側に延長した直線39と、が交わる点である。本実施形態では電極先端21(図2参照)と軸線Oとが直交しているため、距離Aが終わる電極先端21側の終点は、電極先端21の端40,41のどちらを選んでも良い。電極先端21と軸線Oとが斜めに交わるときは、電極先端21の端40,41のうち距離Aが長くなる方の端を距離Aの終点とする。
【0031】
後端凹部32の曲率半径Rは、外形線30と直線38とが離れる直前の点42、外形線30と直線39とが離れる直前の点43、及び、点42と点43との中間点44の3点を通る円弧45を一部とする円46の半径である。点42と中間点44との間の距離は、点43と中間点44との間の距離に等しい。外形線30のうち点42と点43との間の部分が変曲点を有しない滑らかな曲線(円弧)の場合、外形線30をなぞった曲線を円弧45とする。
【0032】
外形線30のうち点42と点43との間の部分が、円弧でなく、変曲点を有する線などの場合、外形線30をなぞると円弧にならないため、外形線30をなぞらずに、外形線30上または外形線30の近くに中間点44を定めた後、点42,43及び中間点44の3点を通る円弧45をひく。中間点44は、点42,43及び中間点44の3点を通る円弧45が、外形線30を代表する近似曲線となるような位置に定める。
【0033】
軸線Oの両側に2本の外形線29,30があるため、後端凹部32は外形線29,30の上にそれぞれ存在する。外形線29上の後端凹部32の曲率半径Rと、外形線30上の後端凹部32の曲率半径Rと、が異なる場合、小さい方の曲率半径Rを採用して値R/Aを求める。
【0034】
図2に戻って説明する。太さCは後端凹部32における軸線Oと垂直な方向の先端部15の太さである。本実施形態では太さCは第2部28の後端の直径に等しい。中心電極14を曲げようとする力が先端部15に加わったときの後端凹部32の曲げ応力は、後端凹部32の曲率半径Rが大きいほど小さくなり、距離Aが小さいほど小さくなる。後端凹部32の曲げ応力は、太さCが大きいほど小さくなる。すなわち後端凹部32の曲げ応力の低減には、値R/A及び太さCは大きい方が有利である。
【0035】
図4は値R/Aと後端凹部32の曲げ応力σとの関係を示す図である。図4は距離Aと太さCとが異なる表1に示すサンプルNo.1-5について、曲率半径Rを変えたときの曲げ応力σを計算し、横軸に値R/Aをとり、縦軸に曲げ応力σをとったグラフである。グラフに付した番号はサンプルNo.1-5の番号である。縦軸の目盛は曲げ応力の基準値を1とし、基準値と基準値の1/10の値とを示した。
【0036】
【表1】
【0037】
図4に示すように曲げ応力σは値R/Aが大きくなるにつれて小さくなり、曲げ応力σのグラフの接線の傾きは、値R/Aが大きくなるにつれて小さくなることが確認された。5つのサンプルのうちAが最も長く曲げ応力が最も大きいサンプルNo.1において、R/Aが0.12以上であると、R/A=0.045(R=0.14mm)のときの曲げ応力に対して66%以下にできることがわかった。サンプルNo.1-5においてR/Aが0.12以上であると、R/Aが0.12未満のときに比べ、グラフの傾きが緩やかになっていることから、R/Aが0.12以上であると後端凹部32の曲げ応力を低減できることが明らかになった。
【0038】
サンプルNo.1-5において、値R/Aが0.22以上のときのグラフの傾きが、R/Aが0.22未満のときのグラフの傾きよりもさらに緩やかになっていることから、R/Aは0.22以上がより好ましいことが明らかになった。
【0039】
距離Cは0.85mmであるが距離Aが異なるサンプルNo.1-3,5のグラフを比較すると、距離Aが短くなるNo.5,3,2,1の順に曲げ応力σが小さかった。従って後端凹部32の曲げ応力σの低減のため、距離Aは短い方が好ましいことが確認された。距離Aは2.13mm以下が好ましく、1.87mm以下がより好ましく、1.73mm以下がさらに好ましい。
【0040】
距離Aが共に1.73mmであるサンプルNo.4のグラフとNo.5のグラフとを比較すると、太さCが0.85mmのNo.5のグラフは、太さCが0.70mmのNo.4のグラフに比べて曲げ応力σが小さかった。従って後端凹部32の曲げ応力σの低減のために、後端凹部32における先端部15の太さCは大きい方が好ましく、特に0.80mm以上であることが好ましい。
【0041】
図5は距離Aと後端凹部32の曲げ応力σとの関係を示す図である。図5は距離Aが異なる表2に示すサンプルNo.6-11について、距離Aを変えたときの曲げ応力σを計算し、横軸に距離Aをとり、縦軸に曲げ応力σをとったグラフである。サンプルNo.6-11は太さCを0.85mmと一定にし、距離Aが0.8mm以下のサンプルNo.6-9は曲率半径Rを0.10mmとし、距離Aが0.9mm以上のサンプル10,11は曲率半径Rを0.14mmとした。縦軸の目盛は曲げ応力の比率を示した。
【0042】
【表2】
【0043】
図5に示すように曲げ応力σは、距離Aが短くなるにつれて小さくなることが確認された。曲げ応力σの低減のため、距離Aは1.00mm以下がより好ましく、0.90mm以下が特に好ましい。
【0044】
一方、太さCは小さい方が、火花放電によって生じた火炎核のエネルギーが先端部15に奪われにくくなり、火炎核が成長しやすくなるため、着火性が向上する。着火性の確保のため、太さCは0.90mm以下が好ましく、0.85mm以下がより好ましい。従って後端凹部32の曲げ応力σの低減と着火性の確保のため、距離Aは0.90mm以下が好ましく、太さCは0.90mm以下が好ましい。太さCは0.85mm以下がより好ましい。
【0045】
図6は太さCを距離Aで除した値C/Aと後端凹部32の曲げ応力σとの関係を示す図である。図6は距離Aと太さCとが異なる表3に示すサンプルNo.12-21について、距離Aと太さCとを変えたときの曲げ応力σを計算し、横軸に値C/Aをとり、縦軸に曲げ応力σをとったグラフである。距離Aが0.8mm以下のサンプルNo.12-19は曲率半径Rを0.10mmとし、距離Aが0.9mm以上のサンプル20,21は曲率半径Rを0.14mmとした。縦軸の目盛は曲げ応力の比率を示した。
【0046】
【表3】
【0047】
後端凹部32の曲げ応力σは、太さCが大きいほど小さくなり、距離Aが短いほど小さくなる。従って曲げ応力σの低減のため、値C/Aは大きい方が好ましい。図6に示すように値C/Aと曲げ応力σは反比例することが確認された。値C/Aが1.42以上であると曲げ応力σを十分に低減できることが確認された。
【0048】
なお、火花放電によって生じた火炎核のエネルギーを先端部15に奪われにくくするために、太さCは小さい方が好ましく、距離Aはある程度の長さが必要である。これらを考慮すると、後端凹部32の曲げ応力σの低減と着火性の確保のために値C/Aは1.42以上が好ましい。
【0049】
後端凹部32は、溶融部24の界面36と根元20との間の母材23に位置するため、溶融部24に後端凹部32が位置する場合に比べ、後端凹部32を作製するときに後端凹部32の曲率半径Rを制御しやすくできる。従って後端凹部32の曲げ応力σの管理を容易にできる。
【0050】
後端凹部32は、第1部25と、第1部25よりも細い第2部28と、の間の境界に位置し、第2部28とチップ22との間に溶融部24が介在するため、第2部28を有しない場合に比べ、第2部28からチップ22までの体積を小さくできる。第2部28からチップ22までの熱容量を小さくできるため、火花放電によって生じた火炎核のエネルギーが先端部15に奪われにくくなり、火炎核が成長しやすくなる。その結果、着火性が向上する。
【0051】
後端凹部32の曲げ応力を低減するために、後端凹部32の曲率半径Rは大きい方が好ましく、距離Aは短い方が好ましい。しかし後端凹部32の作製のしやすさを考慮すると曲率半径Rには最適な範囲がある。また、火花放電によって生じた火炎核のエネルギーを先端部15に奪われにくくするために、距離Aはある程度の長さが必要である。これらを考慮すると値R/Aは0.3以下が好ましい。
【0052】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0053】
実施形態では中心電極14の先端部15の根元20が、第1部25の円柱部26に位置する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。絶縁体11の先端12から突き出す中心電極14の長さを短くすることにより、第1部25の円錐部27に先端部15の根元20を設けることは当然可能である。この場合も先端部15の外形線29,30に含まれる凹部32,34のうち根元20に最も近い凹部32が後端凹部である。
【0054】
実施形態では中心電極14の母材23にチップ22が溶接されているが、必ずしもこれに限られるものではない。チップ22と溶融部24とを除去することは当然可能である。この場合、実施形態で説明した母材23の形状が、中心電極14の形状である。チップ22と溶融部24とが除去された場合、先端部15の外形線29,30に含まれる凹部32はそれぞれ1つであり、その凹部32が後端凹部である。耐火花消耗性などの向上のため、チップ22と溶融部24とを除去した中心電極14の先端部15の表面に、貴金属元素を含む被膜を設けることは当然可能である。
【0055】
実施形態では第2部28が円柱状の場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1部25の円錐部27と同様に、第2部28を円錐状にすることは当然可能である。
【0056】
第2部28を円錐状にする場合、第1部25の円錐部27に第2部28をつなげても良いし、第1部25の円錐部27を除去し、第2部28を円柱部26につなげても良い。第1部25の円錐部27に円錐状の第2部28をつなげる場合、第1部25と第2部28との間に凹部を設けるため、軸線Oを含む断面における第2部28の外形線と軸線Oとのなす角は、軸線Oを含む断面における円錐部27の外形線と軸線Oとのなす角よりも小さくする。第1部25の円錐部27を除去し、円錐状の第2部28を円柱部26につなげる場合、第1部25と第2部28との間に凹部を設けるため、第2部28の底面の直径は円柱部26の直径よりも小さくする。
【0057】
実施形態では円柱状の第2部28が第1部25の円錐部27につながっている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1部25の円錐部27を除去し、円柱状の第2部28を第1部25の円柱部26につなげても良い。この場合、第1部25と第2部28との間に凹部を設けるため、第2部28の直径は円柱部26の直径よりも小さくする。
【符号の説明】
【0058】
10 スパークプラグ
11 絶縁体
12 先端
13 軸孔
14 中心電極
15 先端部
20 根元
21 電極先端
22 チップ
23 母材
24 溶融部
25 第1部
28 第2部
29,30 外形線
32 後端凹部(凹部)
34 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6