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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146796
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20241004BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20241004BHJP
   C09D 11/107 20140101ALI20241004BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241004BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D11/30
C09D11/54
C09D11/107
B41J2/01 501
B41J2/01 123
B41M5/00 120
B41M5/00 134
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037155
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2023058991
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】関根 健二
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 啓史
(72)【発明者】
【氏名】永塚 由桂
(72)【発明者】
【氏名】酒井 恵
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC01
2C056HA44
2H186AB09
2H186AB12
2H186AB39
2H186AB44
2H186AB57
2H186AB64
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB22
2H186FB24
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
4J039AD10
4J039BB01
4J039BC09
4J039BC24
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE28
4J039CA07
4J039EA15
4J039EA36
4J039EA44
(57)【要約】
【課題】
循環安定性が良好であり、かつ印刷物の耐擦過性に優れる、各種の記録用、特にインクジェット用インク、そのインクジェット用インクを用いた印刷物の提供。
【解決手段】
有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲である、インク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲である、インク。
【請求項2】
前記バインダーが、構成モノマーとして(メタ)アクリル系モノマーを含む、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記バインダーが、構成モノマーとしてC1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含み、前記バインダー固形分の総質量に対して、前記C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの含有量が0.1~25質量%である、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記バインダーの酸価が5~150mgKOH/gである、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項5】
前記バインダーのTgが35~150℃である、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項6】
前記バインダーの重量平均分子量が30000から120000である、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項7】
前記有機溶剤の水-オクタノール分配係数が2.00以上3.50未満である、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項8】
前記有機溶剤として、C4-C12アルカンジオールを含む、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項9】
さらにワックスを含有し、前記ワックスの含有量が、インクの総質量に対して0.01~1.0質量%である、請求項1または請求項2に記載のインク。
【請求項10】
請求項1に記載のインク、及び、オーバーコート剤、を含み、前記オーバーコート剤が、有機溶剤とバインダーを含み、かつ、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲である、インクとオーバーコート剤のセット。
【請求項11】
請求項10に記載のインクとオーバーコート剤のセットにより画像形成された記録媒体。
【請求項12】
請求項1に記載のインクを用いて記録媒体に画像形成した後に、請求項10に記載のインクとオーバーコート剤のセットに含まれるオーバーコート剤で、該画像形成部の一部または全部を被覆する、記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクに関する。当該インクは、インクジェットプリンタを用いる記録方法(インクジェット記録方法)に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録装置は、商業印刷分野やオフィス印刷分野で使用する機会が増えている。商業印刷分野やオフィス印刷分野では、得られる画像の耐擦過性に優れるインクが求められている。
一方で、インクの変質および色材の沈降を防ぎ、インクの吐出安定性を向上させるため、インク循環式のインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置が、近年ますます用いられるようになっており、耐擦過性と循環安定性に優れたインクが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開公報WO2022/203041号
【特許文献2】特開2021-021042号公報
【特許文献3】特開2022―146196号公報
【特許文献4】特許第6560846号
【特許文献5】特許第6391721号
【特許文献6】特開2017-185716号公報
【特許文献7】特開2022-52563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、循環安定性が良好であり、かつ印刷物の耐擦過性に優れたインク、該インクジェット用インクを用いたインクジェット記録方法、該インクジェット用インクを備えるインクセット、該インクジェット用インク又は該インクセットと印刷メディアとを備えるインクメディアセット、該インクジェット用インク又は該インクセットの各インクジェット用インクが付着した印刷メディアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲である、インクが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち本発明は、以下の1)~9)に関する。
1)
有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲である、インク。
2)
前記バインダーが、構成モノマーとして(メタ)アクリル系モノマーを含む、1)に記載のインク。
3)
前記バインダーが、構成モノマーとしてC1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含み、前記バインダー固形分の総質量に対して、前記C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの含有量が0.1~25質量%である、1)または2)に記載のインク。
4)
前記バインダーの酸価が5~150mgKOH/gである、1)~3)のいずれか一項に記載のインク。
5)
前記バインダーのTgが35~150℃である、1)~4)のいずれか一項に記載のインク。
6)
前記バインダーの重量平均分子量が30000から120000である、1)~5)のいずれか一項に記載のインク。
7)
前記有機溶剤の水-オクタノール分配係数が2.00以上3.50未満である、1)~6)のいずれか一項に記載のインク。
8)
前記有機溶剤として、C4-C12アルカンジオールを含む、1)~7)のいずれか一項に記載のインク。
9)
さらにワックスを含有し、前記ワックスの含有量が、インクの総質量に対して0.01~1.0質量%である、1)~8)のいずれか一項に記載のインク。
10)
1)~9)のいずれか一項に記載のインク、及び、有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲であるオーバーコート剤、を含むインクとオーバーコート剤のセット。
11)
10)に記載のインクとオーバーコート剤のセットにより画像形成された記録媒体。
12)
1)~9)のいずれか一項に記載のインクを用いて記録媒体に画像形成した後に、10)に記載のオーバーコート剤で該画像形成部の一部または全部を被覆する、記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、循環安定性が良好であり、かつ印刷物の耐擦過性に優れたインクを提供できた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について詳細に説明する。
本明細書において、「C.I.」とは、「カラーインデックス」を意味する。また、本明細書においては、実施例等も含めて、「%」及び「部」については特に断りのない限り、いずれも質量基準で記載する。
【0009】
<インク>
本実施形態に係るインクは、有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲である。以下、本実施形態に係るインクに含有される成分について詳細に説明する。なお、以下に説明する各成分は、そのうちの1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0010】
<有機溶剤>
上記インクは、必須成分として有機溶剤を含む。有機溶剤の水-オクタノール分配係数は、2.00以上3.50未満であることが好ましく、より好ましくは2.40~3.00である。本明細書において「水-オクタノール分配係数」とは、Perkin Elmer社製のChemDraw Professional ver.16.0を用いて計算したClogP値を意味する。このようにして計算した数値は、小数点以下の桁数が一定ではない。このため、本明細書においては、小数点以下3桁目を四捨五入して、小数点以下2桁目までを記載する。また、計算値が小数点以下2桁までとなるときは、その数値をそのまま記載する。また、計算値が小数点以下2桁を有しないときは、小数点以下2桁目となるまでの各桁の数値を「ゼロ」と見なして、いずれも小数点以下2桁目までを記載する。以下、「水-オクタノール分配係数」を「ClogP値」と記載することがある。
【0011】
ClogP値が2.00以上3.50未満である有機溶剤としては、例えば、1,2-ノナンジオール(2.11)、2-プロピルヘプタン-1,3-ジオール(2.31)、エチレングリコールモノヘプチルエーテル(2.43)、エチレングリコールジイソブチルエーテル(2.55)、ジブチルジグリコール(2.63)、1,2-デカンジオール(2.64)、2-[2-(2-エチルヘキシルオキシ)エトキシ]エタノール(2.65)、ジイソブチルケトン(2.71)、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(2.74)、2-エチル-1-ヘキサノール(2.81)、エチレングリコールジブチルエーテル(2.81)、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール(2.99)、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール(3.08)、2-ブトキシエチルベンゾアート(3.43)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアジペート(3.49)等が挙げられる。なお、括弧内の数値はClogP値である。
【0012】
ClogP値が2.00以上3.50未満である有機溶剤の含量は、インクの総重量に対して通常0.1質量%~15.0質量%であることが好ましい。より好ましくは0.4質量%~10.0質量%であり、さらに好ましくは0.8質量%~5.0質量%である。
【0013】
インク中に、ClogP値が2.00以上3.50未満である有機溶剤がインクの総重量に対して0.1質量%~15.0質量%含み、かつ本発明の範囲内であるバインダーを含有することにより、乾燥挙動が変化しその結果印刷物の膜が強くなり、耐擦過性が顕著に向上する。
【0014】
[C4-C12アルカンジオール]
上記インクは、C4-C12アルカンジオール、好ましくは1,2-(C4-C12)アルカンジオールを含有することが好ましい。
C7以上のアルカンジオールは、一般的に難水溶性とされている。その具体例としては、例えば、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、5-メチル-1,2-ヘキサンジオール、4-メチル-1,2-ヘキサンジオール、4,4-ジメチル-1,2-ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中では、1,2-オクタンジオールが好ましい。
また、C6以下のアルカンジオールは、一般的に水溶性とされている。その具体例としては、例えば、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ブタンジオール、4-メチル-1,2-ペンタンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール等が挙げられる。これらはいずれも好ましいが、作業環境における臭気の問題が少ない点においては、1,2-ヘキサンジオールがより好ましい。
上記インクの総質量中における、C4-C12アルカンジオールの含有量は通常0.1~20%、好ましくは0.5~18%、より好ましくは0.5~15%である。
【0015】
<バインダー>
上記インクは、必須成分としてバインダーを含む。バインダーとしては、ポリウレタン、ポリエステル等の縮合系ポリマー;(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂等のビニル系ポリマーから選ばれる1種以上が挙げられる。吐出安定性、乾燥性及び耐擦過性の観点から、上記バインダーがビニル系樹脂であり、構成モノマーが(メタ)アクリル系モノマーであることが好ましい。
【0016】
上記(メタ)アクリル系モノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸、βーカルボキシエチルアクリレート等の炭素-炭素2重結合を有するカルボン酸、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、アリルアクリレート、アリルメタクリレート等のアリル基を有する(メタ)アクリレート類、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキル鎖で結ばれたジ(メタ)アクリレート化合物類、ポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジ(メタ)アクリレート等の芳香族基及びエーテル化合物を含む鎖で結ばれたジ(メタ)アクリレ-ト化合物類、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート等の多官能の(メタ)アクリル酸エステル類、等が挙げられ、
上記バインダーの構成モノマーとしてC1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0017】
上記バインダーのSP値は9.8以上12.3以下の範囲であり、より好ましい範囲は、9.9以上11.8以下であり、さらに好ましくは10.0以上11.3以下であり、10.0を超え、かつ、11.3以下であることが殊に好ましく、10.3以上、かつ、11.0以下であることが極めて好ましい。
【0018】
SP値(溶解度パラメータ(solubility parameter))は、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入され、正則溶液論により定義される値であり、相溶性の目安となる物性値である。液体の1モルあたりの蒸発エネルギーをΔE[単位:kcal・molー1]とし、そのモル体積をVm[単位:cm3・molー1]とすると、SP値δ[単位:(cal/cm30.5]は下式(A)で定義される。
δ=(ΔE/Vm)1/2 ・・・(A)
【0019】
δ値(SP値)は、液体での分子間相互作用の大きさを示す物理化学定数として使用されている。実測のΔEV値より求めた常温でのδ値が、多くの化合物について報告されている(例えば、Hoy,K.L.,The Hoy Tables of Solubility Parameters,Union Carbide Corporation,Solvents and Coatings Materials Division,South Charlston,WV,1985)。
【0020】
一方、樹脂粒子などの昇華性を有しないものや、熱分解性の化合物などの沸点が実質的に観測されないものでは、Hoyによる原子団寄与法(Allan F.M.Barton,CRC Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters 2nd ed.,CRC Press(1991),p.165-167)により推算することができる。
【0021】
また、SP値は、濁度滴定法により実験的に測定することができる。濁度滴定法は、K.W.Suh、D.H.Clarkeらによって、以下の文献1及び2などで提唱されている。
[文献1]:K.W.Suh,D.H.Clarke,J.Polym.Sci.,1671,1967
[文献2]:K.W.Suh,J.M.Corbett.J.Appl.Poym.Sci.,2359,1968
【0022】
上記の濁度滴定法によれば、例えば、次の手順(手順1及び2)に沿ってSP値を測定することができる。
【0023】
[手順1]:樹脂粒子の親水基水素化(SP値測定試料の調製)
(1)樹脂粒子分散液200mLを透析膜(商品名「MWCO’s0.5m of 3.5-5kD Biotech RC」、SPECTRUM LABORATORIES,Inc.製)に入れ、塩酸(pH3±0.5)10L中に浸漬する。磁気撹拌しながら24時間浸漬し、アミンやアルカリ金属などのカチオンを水素イオンに置換する。
(2)樹脂粒子を透析膜に入れたままイオン交換水(pH7±0.5)12L中に浸漬する。磁気撹拌しながら24時間浸して中性化する。
(3)イオン交換水を交換した後、磁気撹拌しながらさらに6時間浸漬し、イオン交換水のpHが7±0.5であることを確認する。
(4)エタノール2L中に8時間浸漬し、磁気撹拌しながら水分を除去する。
(5)透析膜から取り出した樹脂粒子を乾燥した500mLビーカーに入れ、80℃に保ったまま6時間減圧乾燥してエタノールを除去する。
(6)完全に乾燥した樹脂粒子をすり潰して得た粉末を乾燥樹脂粒子サンプルとする。
【0024】
[手順2]:SP値の測定
(1)50mL三角フラスコに乾燥樹脂粒子サンプル0.500g±0.005gを秤取する。
(2)テトラヒドロフラン(THF)10mLを加え、乾燥樹脂粒子サンプルを溶解させて試料溶液を調製する。
(3)調製した試料溶液を磁気撹拌しながら冷却し、25℃に保ちながらn-ヘキサンで濁点(mL)を滴定する。
具体的には、試料溶液の入った三角フラスコを25℃に保持したまま、電子写真方式で普通紙に印字した明朝体の文字(12pt)上に置き、上から覗いた際に液層の濁りで文字がぼやけて判読できなくなった時点を滴定点とする。
(4)同様の手順で、イオン交換水の濁点(mL)を滴定する。
(5)下記の計算式(1)~(9)式にしたがって樹脂粒子のSP値δ(cal/cm31/2を算出する。
【0025】
(式)
【0026】
各変数の意味及び値は以下に示す通りである。
L:低極性溶剤(n-ヘキサン)の滴定量(mL)
H:高極性溶剤(水)の滴定量(mL)
φSL:溶解溶剤(THF)と滴定溶剤(n-ヘキサン)の和に対する、溶解溶剤(THF)の体積分率
φ:溶解溶剤(THF)と滴定溶剤(n-ヘキサン)の和に対する、滴定溶剤(n-へキサン)の体積分率
φSH:溶解溶剤(THF)と滴定溶剤(イオン交換水)の和に対する、溶解溶剤(THF)の体積分率
φ:溶解溶剤(THF)と滴定溶剤(イオン交換水)の和に対する、滴定溶剤(イオン交換水)の体積分率
:溶解溶剤(THF)の分子容〔mL/mol〕=81.0
:滴定溶剤(n-ヘキサン)の分子容〔mL/mol〕=132
:滴定溶剤(イオン交換水)の分子容〔mL/mol〕=18.0
δ:溶解溶剤(THF)のSP値〔(cal/cm31/2〕=9.54
δ:滴定溶剤(n-ヘキサン)のSP値〔(cal/cm31/2〕=7.24
δ:滴定溶剤(イオン交換水)のSP値〔(cal/cm31/2〕=23.5
δSL:滴定溶剤(n-ヘキサン)で滴定した場合の、混合溶液におけるSP値
δSH:滴定溶剤(イオン交換水)で滴定した場合の、混合溶液におけるSP値
δ:樹脂粒子のSP値〔(cal/cm31/2
【0027】
[手順1]:樹脂粒子の親水基水素化(SP値測定試料の調製)は樹脂粒子の乾燥粉末を得るのが目的であるので、目的が達成できれば次の方法で乾燥粉末を得ても良い。樹脂粒子分散液を貧溶媒に滴下し樹脂微粒子を析出させ、ろ過後乾燥する、凍結乾燥法にて樹脂粒子の乾燥粉末を得る。
【0028】
なお、SP値が9.0〔(cal/cm31/2〕以下のようにTHFに溶けにくい樹脂粒子の場合は、乾燥樹脂粒子サンプルを溶解させる溶媒として、THFに代えてp-キシレンやトルエンを使用するとよい。この場合、各変数は以下に示すように変わる。
【0029】
φSL:溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)と滴定溶剤(n-ヘキサン)の和に対する、溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)の体積分率
φ:溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)と滴定溶剤(n-ヘキサン)の和に対する、滴定溶剤(n-へキサン)の体積分率
φSH:溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)と滴定溶剤(イオン交換水)の和に対する、溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)の体積分率
φ:溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)と滴定溶剤(イオン交換水)の和に対する、滴定溶剤(イオン交換水)の体積分率
:溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)の分子容〔mL/mol〕=123/106
δ:溶解溶剤(p-キシレン/トルエン)のSP値〔(cal/cm31/2〕=8.80/8.91
本発明におけるSP値は、樹脂の種類や構成モノマーによる影響だけではなく、分子量や分岐構造などで変化する樹脂骨格、使用している開始剤の種類や量、連鎖移動剤の種類や量など、多様な因子の影響を受ける。したがって、SP値は計算によって正確に導き出せるものではなく、実験により測定された値を用いなければならない。
【0030】
上記バインダーのガラス転移温度(Tg)は、35~150℃であることが好ましく、より好ましくは、55~120℃である。樹脂のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)等の方法により測定される値である。
【0031】
上記バインダーの重量平均分子量は、30000から120000であることが好ましい。バインダーの質量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ法(GPC法)により測定することができる。具体的には、GPC装置としてHLC-8320GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSK gel Super MultIpore HZ-H(東ソー(株)製、内径4.6mm×15cm)を2本用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、標準試料としてTSK Standard(東ソー(株)製)を用いて測定することができる。
【0032】
上記バインダーの酸価は、5~150mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは10~120mgKOH/g、さらに好ましくは15~75mgKOH/gである。ポリマーの酸価は、その1gを中和するのに要するKOHのmg数を表し、JIS-K3054に従って測定することができる。
【0033】
上記SP値、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量が上述の範囲であるような上記バインダーとしては、例えば、構成モノマーにC1-C4アルキル(メタ)アクリレート、C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよびC6-C10アルキル(メタ)アクリレートを含む場合等が挙げられる。上記バインダーの酸価が5~150mgKOH/gであるものとしては、例えば、構成モノマーに炭素-炭素2重結合を有するカルボン酸を含むものが挙げられる。
【0034】
C1-C4アルキル(メタ)アクリレートのアルキル部分は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。2種類以上のC1-C4アルキル(メタ)アクリレートを混合して用いても良い。C1-C4アルキル(メタ)アクリレートとしては、C1-C3アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、C1-C2アルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートがさらに好ましい。
【0035】
C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのヒドロキシアルキル部分は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。2種類以上のC1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを混合して用いても良い。C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、C1-C3ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、C1-C2ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0036】
C6-C10アルキルアクリレートのアルキル部分は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、分岐鎖状であることが好ましい。C6-C10アルキルアクリレートとしては、C7-C9アルキルアクリレートが好ましく、C8アルキルアクリレートがより好ましく、2-エチルヘキシルアクリレートがさらに好ましい。
【0037】
上記炭素-炭素2重結合を有するカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、βーカルボキシエチルアクリレートが挙げられ、メタクリル酸がより好ましい。
【0038】
上記バインダーが、構成モノマーとして、C1-C4アルキル(メタ)アクリレート、C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、C6-C10アルキル(メタ)アクリレートおよび炭素-炭素2重結合を有するカルボン酸をそれぞれ含む場合、C1-C4アルキル(メタ)アクリレート、C1-C4ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、C6-C10アルキル(メタ)アクリレートおよび炭素-炭素2重結合を有するカルボン酸の4種類の構成モノマーの割合は、それぞれ、55~95質量%、0.1~25質量%、0~45質量%、及び2~15質量%であり、好ましくは65~90質量%、3~10質量%、0~31質量%、及び4~10質量%であり、これらの範囲内で合計100質量%とすることが好ましく、構成モノマー総質量中、メチルメタクリレートの含有質量をX、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの含有質量をY、とした場合、X/Yで表される値が、2.5~75.0の範囲であることが好ましく、5.5~35.0の範囲であることがより好ましい。
【0039】
上記バインダーとして、構成モノマーにC1-C4アルキル(メタ)アクリレートおよびC6-C10アルキル(メタ)アクリレートが含まれ、かつそれぞれの含有率がバインダー固形分の総質量に対して55~95質量%、0.1~45質量%であることが好ましい。
【0040】
上記バインダーの構成モノマーとしては、プロピレン、ブタジエン、塩化スチレン、マレイン酸、スチレン、クロロスチレン又はα-メチルスチレンなど(メタ)アクリル系ではないモノマーも挙げられる。例えば、架橋性を有するビニルモノマー単位があり、具体的には芳香族ジビニル化合物、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等;アリル基を有する(メタ)アクリレート類、例えばアリルアクリレート、アリルメタクリレート等;アルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類、例えば、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの;エーテル結合を含むアルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類、例えば、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの;芳香族基及びエーテル化合物を含む鎖で結ばれたジアクリレ-ト化合物類、例えばポリオキシエチレン(2)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート、ポリオキシエチレン(4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの;多官能の架橋剤としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの;トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート;等が挙げられる。
上記バインダーの構成モノマーとして、メタクリル酸メチルとアクリル酸-2-エチルヘキシルを含むことが好ましく、上記バインダー中の構成モノマーとして、メタクリル酸メチルの総質量をX2、アクリル酸-2-エチルヘキシルの総質量をY2、とした場合、Y2/X2で求められる値が、0以上、かつ、1以下であることが好ましく、0以上、かつ、0.5以下であることがより好ましく、0以上、かつ、0.3以下であることがさらに好ましく、0以上、かつ、0.1以下であることが特に好ましく、0であることが極めて好ましい。
【0041】
上記バインダーは水分散体であることが好ましく、その平均粒径はインクジェットヘッドの目詰まりを防止するために、50nm~5μmであることが好ましく、100nm~1μmであることがより好ましい。
【0042】
上記インクにおける上記バインダーの含有率(固形分としての含有率)は、上記インクの総質量に対して、通常0.1~14質量%であり、好ましくは0.5~12質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0043】
上記インクは、さらに着色剤を含んでいても良い。着色剤としては、特に限定は無いが、顔料、分散染料等が挙げられる。
【0044】
上記顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料、中空粒子等が挙げられる。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属フェロシアン化物、金属塩化物等が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係るインクが黒インクであり、且つ、着色剤が無機顔料である場合、該黒インクが含有する無機顔料としては、サーマルブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックの具体例としては、例えば、コロンビア・カーボン社製のRavenシリーズ;キャボット社製のMonarchシリーズ、Regalシリーズ、及びMogulシリーズ;オリオンエンジニアドカーボンズ社製のHiBlackシリーズ、ColorBlackシリーズ、Printexシリーズ、SpecialBlackシリーズ、及びNeroxシリーズ;三菱ケミカル(株)製のMAシリーズ、MCFシリーズ、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、及びNo.2300;等が挙げられる。
【0046】
本実施形態に係るインクが白インクであり、且つ、着色剤が無機顔料である場合、該白インクが含有する無機顔料としては、亜鉛、シリコン、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、ジルコニウム等の金属の酸化物、窒化物、又は酸化窒化物;ガラス、シリカ等の無機化合物;などが挙げられる。これらの中でも、二酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましい。
【0047】
有機顔料としては、例えば、アゾ、ジスアゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、ジオキサジン、ペリレン、ペリノン、チオインジゴ、アンソラキノン、キノフタロン等の各種の顔料が挙げられる。
【0048】
有機顔料の具体例としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、2、3、12、13、14、16、17、24、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、108、114、128、129、138、139、150、151、154、155、180、185、193、199、202、213等のイエロー顔料;C.I.Pigment Red 5、7、12、48、48:1、57、88、112、122、123、146、149、150、166、168、177、178、179、184、185、202、206、207、254、255、257、260、264、269、272等のレッド顔料;C.I.Pigment Blue 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、25、60、66、80等のブルー顔料;C.I.Pigment Violet 19、23、29、37、38、50等のバイオレット顔料;C.I.Pigment Orange 13、16、43、68、69、71、73等のオレンジ顔料;C.I.Pigment Green 7、36、54等のグリーン顔料;C.I.Pigment Black 1等のブラック顔料;などが挙げられる。これらの中でも、C.I.Pigment Blue 15:4が好ましい。
【0049】
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、ホワイトカーボン等が挙げられる。体質顔料は、他の着色剤と併用されることが多い。
【0050】
中空粒子としては、例えば、米国特許第4880465号明細書、特許第3562754号公報、特許第6026234号公報、特許第5459460号公報、特開2003-268694号公報、特許第4902216号公報等に記載されている公知の中空粒子を用いることができ、特に、白色顔料として用いることが好ましい。
【0051】
分散染料としては、例えば、C.I.Dispersから選択される染料が好ましい。その具体例としては、例えば、C.I.Dispers Yellow 9、23、33、42、49、54、58、60、64、66、71、76、79、83、86、90、93、99、114、116、119、122、126、149、160、163、165、180、183、186、198、200、211、224、226、227、231、237等のイエロー染料;C.I.Dispers Red 60、73、88、91、92,111、127、131、143、145、146、152、153、154、167、179、191、192、206、221、258、283等のレッド染料;C.I.Dispers Orange 9、25、29、30、31、32、37、38、42、44、45、53、54、55、56、61、71、73、76、80、96、97等のオレンジ染料;C.I.Dispers Violet 25、27、28、54、57、60、73、77、79、79:1等のバイオレット染料;C.I.Dispers Blue 27、56、60、79:1、87、143、165、165:1、165:2、181、185、197、202、225、257、266、267、281、341、353、354、358、364、365、368等のブルー染料;などが挙げられる。
【0052】
着色剤の平均粒径は、30~300nmであることが好ましく、50~250nmであることがより好ましい。本明細書において平均粒径とは、レーザ光散乱法を用いて測定した粒子の平均粒径を指す。
【0053】
着色剤の含有率は、本実施形態に係るインクの総質量に対して、1~30質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることがさらに好ましい。
【0054】
上記着色剤は、上記顔料及び上記分散染料以外のその他の染料をさらに含んでいても良い。
上記その他の染料としては、例えば、溶剤染料、直接染料、酸性染料、反応染料等が挙げられる。
【0055】
上記インクが、上記着色剤を複数種含む場合、それぞれの着色剤の配合比は、目的に応じ任意に設定可能である。また、上記着色剤に加え、上記その他の染料を含む場合、上記着色剤の総量と、上記その他の染料の総量との配合比も任意の割合で設定可能である。
【0056】
上記インクは、さらに水を含んでいても良い。水としては、金属イオン等の不純物の含有量が少ない水、すなわち、イオン交換水、蒸留水等が好ましい。水の含有率は、本実施形態に係るインクの総質量に対して、60~90質量%であり、70~90質量%であることが好ましい。
【0057】
[ワックス]
上記インクは、ワックスを添加することができる。
【0058】
上記ワックスの形態として、ワックスエマルジョンが好ましく、水系ワックスエマルジョンであることが特に好ましい。ワックスエマルジョンとしては、天然ワックス及び化学合成ワックスを用いることができる。天然ワックスとしては、石油系ワックスであるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等、褐炭系ワックスであるモンタンワックス等、あるいは植物系ワックスであるカルナバワックス、キャンデリアワックス等、動植物系ワックスである蜜蝋、ラノリン等を水性媒体中に分散させたエマルジョン;化学合成ワックスとしてはホモポリマーワックスであるポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスなどのポリアルキレンワックスやそれらの酸化型である酸化ポリアルキレンワックス、フィッシャートロップ等、コポリマーワックスであるエチレン酢酸ビニル、エチレンアクリル酸等を水性媒体中に分散させたエマルジョン等が挙げられる。それらのワックスの中で、ポリアルキレンワックス、酸化ポリアルキレンワックス、及びパラフィンワックスであることが好ましい。これらのワックスは単独で用いても良いし、組み合わせて用いてもよい。
【0059】
ワックスの添加量は通常、インクの総重量に対して0.01~1.0質量%であり、0.1~0.7質量%であることがより好ましい。なお、上記ワックスの添加量は、上記インク中に含まれるワックスの固形分量を表している。
【0060】
[分散剤]
上記インクは、着色剤を分散させるために、一種類以上の分散剤を含有することが好ましい。本発明の別の様態としては着色剤として自己分散性の色材を使用することで、分散剤を用いることなしに分散させることが挙げられる。分散剤としては特に制限されず、高分子分散剤等の公知の分散剤を使用することができる。高分子分散剤としては、上記バインダー及びワックス以外であり、例えば、スチレン及びその誘導体;ビニルナフタレン及びその誘導体;α,β-エチレン性不飽和性カルボン酸の脂肪族アルコールエステル;(メタ)アクリル酸及びその誘導体;マイレン酸及びその誘導体;イタコン酸及びその誘導体;ファール酸及びその誘導体;酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びそれらの誘導体;等のモノマーから選択される少なくとも2種類のモノマー(好ましくは、このうち少なくとも1種類が親水性のモノマー)から構成される共重合体が挙げられる。そのような共重合体としては、例えば、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、及び(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体がより好ましく、メタクリル酸エステル-メタクリル酸共重合体がさらに好ましい。共重合体の種類としては、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体、及びグラフト共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、塩の形態であってもよい。
【0061】
分散剤は、市販品として入手することも合成することもできる。
【0062】
市販品として入手可能な分散剤としては、例えば、Joncyrl 62、67、68、678、687(BASF社製のスチレン-アクリル系共重合体);モビニールS-100A(ジャパンコーティングレジン(株)製の変性酢酸ビニル共重合体);ジュリマーAT-210(東亜合成(株)製のポリアクリル酸エステル共重合体);等が挙げられる。
【0063】
合成により得られる分散剤としては、例えば、国際公開第2013/115071号に開示されたA-Bブロックポリマーが挙げられる。国際公開第2013/115071号に開示されたA-BブロックポリマーのAブロックを構成するモノマーは、(メタ)アクリル酸、及び直鎖状又は分岐鎖状のC4アルキル(メタ)アクリレートから選択される少なくとも1種類のモノマーであり、メタクリル酸及びn-ブチルメタクリレートから選択される少なくとも1種類のモノマーが好ましく、これら2種類のモノマーを併用するのがより好ましい。また、国際公開第2013/115071号に開示されたA-BブロックポリマーのBブロックを構成するモノマーは、ベンジルメタクリレート及びベンジルアクリレートから選択される少なくとも1種類のモノマーであり、ベンジルメタクリレートが好ましい。A-Bブロックポリマーの具体例としては、国際公開第2013/115071号の合成例3~8に開示されたブロック共重合体が挙げられる。
【0064】
分散剤の酸価は、通常90~200mgKOH/gであり、好ましくは100~150mgKOH/g、より好ましくは100~120mgKOH/gである。
【0065】
分散剤を水に均一に分散させるため、中和剤を使用してもよい。中和剤としては、例えば、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族アミン化合物、アルカノールアミン化合物等が挙げられる。これらの中でも、アンモニア及びアルカリ金属の水酸化物が好ましく、アンモニアがより好ましい。中和剤の使用量の目安としては、分散剤の酸価の理論等量で中和したときを100%中和度として、通常30~300%中和度であり、好ましくは50~200%中和度である。
【0066】
分散剤の質量平均分子量は、通常10000~60000であり、好ましくは10000~40000、より好ましくは15000~30000、さらに好ましくは20000~25000である。分散剤の質量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ法(GPC法)により測定することができる。具体的には、GPC装置としてHLC-8320GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSK gel Super MultIpore HZ-H(東ソー(株)製、内径4.6mm×15cm)を2本用い、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、標準試料としてTSK Standard(東ソー(株)製)を用いて測定することができる。
【0067】
分散剤のPDI(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.29~1.49程度であることが好ましい。上記のような範囲とすることにより、第1のインク組成物の分散性及び保存安定性が良好になる傾向にある。
【0068】
分散剤は、着色剤と混合した状態で使用することができる。また、着色剤の表面の一部又は全部を分散剤で被覆した状態で使用することもできる。あるいは、これらの両方の状態を併用してもよい。
【0069】
着色剤の総質量に対する分散剤の総質量の比は、通常0.01~1.0であり、好ましくは0.05~0.6、より好ましくは0.1~0.5である。
【0070】
さらに、上記インクは、例えば、保湿剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート剤、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、酸化防止剤及び/又は界面活性剤等のインク調製剤を含むことができる。
【0071】
保湿剤の具体例としては、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等のポリオール類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等の環状アミド類;尿素、チオ尿素、エチレン尿素、1,3-ジメチルイミダゾリジノン類等の尿素類;ε-カプロラクタム等のラクタム類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の固体のグリセリン類;マルチトール、ソルビトール、グルコノラクトン、マルトース等の糖類;等が挙げられる。
【0072】
防腐防黴剤の具体例としては、例えば有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリールスルホン系、ヨードプロパギル系、ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、8-オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第4アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系又は無機塩系等の化合物が挙げられる。
【0073】
有機ハロゲン系化合物の具体例としては、例えばペンタクロロフェノールナトリウムが挙げられる。ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、例えば2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウムが挙げられる。
【0074】
イソチアゾリン系化合物としては、例えば1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンマグネシウムクロライド、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンカルシウムクロライド等が挙げられる。
【0075】
その他の防腐防黴剤の具体例としては無水酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、p-ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、及び、アーチケミカル社製の商品名プロクセルGXL(S)、プロクセルXL-2(S)等が挙げられる。
【0076】
pH調整剤としては、調製されるインクに悪影響を及ぼさずに、インクのpHを上記の範囲に制御できるものであれば任意の物質を使用することができる。その具体例としては、上記の中和剤;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩;リン酸二ナトリウム等の無機塩基;等が挙げられる。
【0077】
キレート剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、及びウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0078】
防錆剤の具体例としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、及びジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。
【0079】
水溶性紫外線吸収剤の例としては、例えばスルホ化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ-ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、及びトリアジン系化合物が挙げられる。
【0080】
水溶性高分子化合物の具体例としては、上記バインダー、上記ワックス及び上記分散剤以外であり、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、及びポリイミン等が挙げられる。
【0081】
酸化防止剤の例としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤の例としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及び複素環類等が挙げられる。
【0082】
界面活性剤の例としてはアニオン、カチオン、両性、ノニオン、シリコーン系、及びフッ素系の公知の各界面活性剤が挙げられ、これらの中から1種類以上を選択して使用することができる。
【0083】
アニオン界面活性剤としてはアルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、N-アシルアミノ酸又はその塩、N-アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。
【0084】
カチオン界面活性剤としては2-ビニルピリジン誘導体、ポリ4-ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。
【0085】
両性界面活性剤としてはラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。
【0086】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等のアセチレングリコール(アルコール)系;日信化学株式会社製の商品名サーフィノール104、105PG50、82、420、440、465、485、オルフィンSTG;SIGMA-ALDRICH社製のTergItol15-S-7等のポリグリコールエーテル系;等が挙げられる。
【0087】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。その一例としては、エアープロダクツ社製のダイノール960、ダイノール980、日信化学株式会社製のシルフェイスSAG001、シルフェイスSAG002、シルフェイスSAG003、シルフェイスSAG005、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSAG008、シルフェイスSAG009、シルフェイスSAG010、及びビックケミー社製のBYK-345、BYK-347、BYK-348、BYK-349、BYK-3450、BYK-3451、BYK-3455、等が挙げられ、様々な種類の製品を容易に購入することができる。
【0088】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。その一例としては、DuPont社製のZonyl TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、Capstone FS-30、FS-31;オムノバ社製のPF-151N、PF-154N;DIC社製のF-114、F-410、F-444、EXP.TF-2066、EXP.TF-2148、EXP.TF-2149、F-430、F-477、F-552、F-553、F-554、F-555、F-556、F-557、F-558、F-559、F-561、F-562、R-40、R-41、RS-72-K、RS-75、RS-76-E、RS-76-NS、RS-77、EXP.TF-1540、EXP.TF-1760;ビックケミー社製のBYK-3440、BYK-3441等が挙げられる。
【0089】
これらの中ではノニオン、またはシリコーン系から選択される界面活性剤を少なくとも1種類以上選択するのが好ましい。
【0090】
前記した成分、含有量、含有比率等の全てにおいて、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましく、より好ましいもの同士の組み合わせはさらに好ましい。好ましいものと、より好ましいものとの組み合わせ等についても同様である。
【0091】
上記インクの調製方法は特に制限されない。一例としては、着色剤と分散剤とから分散液を調製し、これに上記バインダーと上記有機溶剤を加え、さらに必要に応じ、水や上記インク調製剤を加えて、インク組成物を調製する方法が挙げられる。
【0092】
上記分散液は、1種類のみ用いてインク組成物を調製しても良いし、2種類以上の分散液を用いても良い。
【0093】
上記インクが着色剤を含む場合、該着色剤を分散し分散液を調製する方法としては、サンドミル(ビーズミル)、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いる方法が挙げられ、これらの中でもサンドミル(ビーズミル)が好ましい。また、サンドミル(ビーズミル)を用いた着色剤分散液の調製は、系の小さいビーズ(0.01~1mm径)を使用し、ビーズの充填率を大きくすること等により分散効率を高めた条件で処理することが望ましい。
このような条件で分散を行うことにより、着色剤の粒子サイズを小さくすることができ、分散性良好な分散液を得ることができる。また、該分散液の調製後に、濾過及び/又は遠心分離等により、粒子サイズの大きい顔料等の成分を除去することも好ましく行われる。また、該分散液の調製時の泡立ち等を抑える目的で、シリコーン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量添加してもよい。但し、消泡剤には、分散や微粒子化を阻害するもののあり、分散や分散後の安定性に影響を及ぼさないものを使用するのが好ましい。
【0094】
上記分散液中の着色剤は、着色剤の表面に分散剤が被覆してなるマイクロカプセル化着色剤であってもよいし、マイクロカプセル化していなくてもよいが、分散剤が均一に被覆したマイクロカプセル化着色剤であることが好ましい。
【0095】
着色剤表面に分散剤を均一に被覆させマイクロカプセル化する手法には、大別して、物理的・機械的手法と、化学的手法との二つの方法がある。後者の化学的手法の中には、それぞれ表面析出法、混錬法、界面重合法等が提案されている。表面析出法とは、pH調整や媒体への溶解性の違いを利用して着色剤表面に分散剤を析出させる手法であり、酸析法や転相乳化法等が含まれる。界面重合法は、着色剤表面にモノマー、オリゴマー、顔料誘導体を吸着させた後に重合反応を行う手法であり、表面重合法とも呼ばれている。本発明においては、いずれの手法を用いてもよいが、表面析出法が好ましく、さらに好ましくは転相乳化法によって得られる着色分散液である。
【0096】
上記転相乳化法は、着色剤、分散剤、及び有機溶剤中で混合・分散し、水をさらに加えることによって、分散剤を着色剤表面に均一に吸着させる手法である。具体的な製造方法として、下記5種類の製造方法が知られている。
【0097】
1.着色剤が分散した、水に分散又は溶解する分散剤の親水性有機溶剤の溶液と、水を主成分とする液体とを混合してから、脱溶剤する製造方法。
2.着色剤が分散した、中和により水に分散又は溶解する分散剤の親水性有機溶剤の溶液と、水と中和剤とを含有する混合液体とを混合してから、脱溶剤する製造方法。
3.着色剤が分散した、水に分散又は溶解する分散剤の親水性有機溶剤と疎水性有機溶剤との混合溶液と、水を主成分とする液体とを混合してから、脱溶剤する製造方法。
4.着色剤が分散した、中和により水に分散又は溶解する分散剤の親水性有機溶剤と疎水性有機溶剤との混合溶剤の溶液と、水と中和剤とを含有する混合液体とを混合してから、脱溶剤する製造方法。
5.着色剤と、水に分散又は溶解する分散剤の親水性有機溶剤と水とを主成分とする混合溶剤の溶液とを混合して、顔料を溶液に分散させてから、脱溶剤する製造方法。
【0098】
上記分散液は、上記の製造方法によって得ることもできるが、異なる製造方法によっても被覆された着色剤分散液を得ることができる。その製造方法の例としては、分散剤を溶解した疎水性有機溶剤の溶液と、中和剤を含む水を主成分とする液体とを混合して、乳化(エマルション又はマイクロエマルション)液とし、そこに着色剤を加え混合・分散してから、さらに水を加えて脱溶剤をする製造方法が挙げられる。
【0099】
表面に分散剤が被覆する着色剤粒子から構成される分散液について詳述したが、上記方法を用いることで、分散剤を表面に有し、且つ平均粒径が200nm以下である着色剤粒子から構成される分散液を容易に得ることができる。特に、用いる着色剤の種類や分散剤の種類、該酸価の値、該分子量等を選択することによって平均粒径を50~180nmとするのがより好ましい。ここで、本明細書中において、平均粒径とは、レーザ光散乱法を用いて測定した、粒子の平均粒径を言う。
【0100】
分散液の調製においては、中和剤を用いることができる。中和剤としては、例えばアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族アミン化合物及びアルコールアミン化合物等が挙げられる。
これらの中和剤は1種類を使用することも、複数を併用することもできる。
分散液の調製において、中和剤の量は制限されない。分散剤の酸価の理論等量で中和した場合が100%中和度であり、理論量を超えて中和剤を使用することもできる。中和度は通常0~150%、好ましくは30~100%、より好ましくは50~70%である。
【0101】
アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが挙げられる。
アルカリ土類金属の水酸化物として、例えば水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化ストロンチウム等が挙げられる。
これらの中では水酸化リチウム又は水酸化ナトリウムが好ましい。
【0102】
アルコールアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン及びN-メチルジエタノールアミンが挙げられる。これらの中では3級アミン類が好ましく、トリエタノールアミンがより好ましい。
【0103】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン及びトリメチルアミンが挙げられる。これらの中ではアンモニア又はトリエチルアミンが好ましい。
【0104】
上記インクのpHは、保存安定性を向上させる目的で通常pH5~11、好ましくはpH7~10である。また、インクの表面張力は通常10~50mN/m、好ましくは20~40mN/mである。また、インクの粘度は通常30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下である。インクのpH及び表面張力は、pH調整剤、界面活性剤等のインク調製剤の使用により適宜調整することができる。
【0105】
上記インクは、循環安定性、保存安定性、吐出安定性、被記録材上での濡れ広がり性、乾燥性に優れ、本発明のインクを用いて得られた印刷物は、耐擦過性、密着性、発色性、等に優れる。また、耐擦過性においては、乾燥擦過性、湿潤擦過性、に優れる。
【0106】
上記インクをインクジェットインクとして使用する場合、金属陽イオンの塩化物(例えば塩化ナトリウム)、硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム)等の無機不純物の含有量を少なくするのが好ましい。無機不純物の含有量の目安は、着色剤の総質量に対して1%以下であり、下限は分析機器の検出限界以下、すなわち0%としてもよい。無機不純物の少ない着色剤を製造する方法としては、例えばイオン交換樹脂で無機不純物を交換吸着する方法等が挙げられる。
【0107】
上記インクを複数組み合わせたインクセット、上記インクと上記インク以外のインクを組み合わせたインクセット、上記インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出させて印刷メディアに記録を行うインクジェット記録方法、上記インクを用いて印刷した印刷物、も本願発明に含まれる。また、上記インクと後述するオーバーコート剤を含む、インクとオーバーコート剤のセット、前記インクとオーバーコート剤のセットにより画像形成された記録媒体、前記インクを用いて記録媒体に画像形成した後に、前記オーバーコート剤で該画像形成部の一部または全部を被覆する、記録媒体の製造方法、も本願発明に含まれる。
上記オーバーコート剤は、上記被記録材において、上記インクの一部または全部をコートできる剤であれば特に限定は無いが、有機溶剤とバインダーを含み、前記バインダーのSP値が9.8以上12.3以下の範囲であることが好ましい。上記オーバーコート剤が含む、上記有機溶剤及び上記バインダーは、それぞれ、上記インクにおいて述べたものと、好ましいもの含めて同じで良い。上記オーバーコート剤は、単独あるいは複数のバインダー樹脂を含んでいても良い。また、上記オーバーコート剤がバインダー樹脂を含む場合、該バインダー樹脂は、上記インクが含むバインダー樹脂と、同じであっても良く、異なっていても良い。上記オーバーコート剤は、ワックスを添加することもでき、上記ワックスは、それぞれ、上記インクにおいて述べたものと、好ましいもの含めて同じで良い。
【0108】
上記オーバーコート剤の塗布方法としては、公知の各種塗布手段が採用でき、例えば、インクジェット印刷、コーターを用いる方法等がある。オーバーコート剤は、上記インクの印刷画像形成部に対して、一部または全部に塗布して良い。
【0109】
上記インクジェット記録方法としては、上記インクの液滴を記録信号に応じて吐出させて、被記録材に付着させることにより記録を行うインクジェット記録方法が挙げられる。
上記インクは、「インクタンク」、「インクカートリッジ」等と呼称される容器に注入され、インクジェットプリンタの所定の位置に装填してインクジェット記録に使用される。
【0110】
インクジェット方式としては、例えば、電荷制御方式;ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式);音響インクジェット方式;サーマルインクジェット、すなわちバブルジェット(登録商標)方式;等が挙げられる。
上記インクは、これらのいずれの方式においても使用できる。
【0111】
上記被記録材としては特に制限はないが、インクに対して非・難吸収性の被記録材が好ましい。その具体例としては、例えば、微塗工紙、アート紙、コート紙、マット紙、キャスト紙等の塗工紙が挙げられる。塗工紙は、表面に塗料を塗布し、美感や平滑さを高めた紙である。その塗料としては、タルク、パイロフィライト、カオリン等の各種のクレー;酸化チタン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等と、デンプン及び/又はポリビニルアルコール等とを混合したもの;等が挙げられる。
塗料は、例えば、紙の製造工程の中でコーターを用いて紙に塗布することができる。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙・塗工を1工程とするインライン方式と、抄紙とは別工程とするオフライン方式がある。微塗工紙とは、塗料の塗工量が12g/m以下の紙を指す。アート紙とは、化学パルプの使用率が100%の紙である上質紙に、40g/m前後の塗料を塗工した紙を指す。コート紙及びマット紙とは、20~40g/m程度の塗料を塗工した紙のことを指す。キャスト紙とは、アート紙やコート紙を、キャストドラム等の機械で表面に圧力をかけることにより、光沢や記録効果がより高くなるように仕上げた紙を指す。
上記インクは、このような非・難吸収性の被記録材に記録したときに、極めて好適に本発明の効果を発揮する。
【0112】
上記被記録材としては、例えば、いずれもインク受容層を有しない普通紙、グラビア印刷やオフセット印刷等に用いられるメディア;インクジェット受容層を有するインクジェット専用紙、インクジェット専用フィルム、光沢紙、及び光沢フィルム等;セルロース、ナイロン、羊毛等の繊維や布;皮革;カラーフィルター用基材;等が挙げられる。
ここで、インク受容層を有しない普通紙等の中には、前記の非・難吸収性の非記録材と同様にインク受容性の低いものが存在する。このような普通紙を用いた場合であっても、本発明により得られる効果が極めて好適に発揮される。
【実施例0113】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、平均粒径の測定には、動的光散乱式粒径分布測定装置、Nanotrac Wave、日機装株式会社製を用いた。水溶液中固形分測定には、株式会社エイ・アンド・デイ社製、MS-70を用いて、乾燥重量法により求めた。
【0114】
[調製例1]:分散液1の調製。
国際公開第2013/115071号の合成例3に記載のブロック共重合体を調製した。得られた高分子分散剤5.4部を2-ブタノン20部に溶解させ、均一な溶液とした。この液に0.2部の水酸化ナトリウム、0.45部のROCIMA 640(ダウケミカル社製)、0.06部のBYK1770(ビッグケミー・ジャパン株式会社製)を56部のイオン交換水に溶解させた液を加え、1時間撹拌して乳化溶液を調製した。これにC.I.Pigment Red 122(クラリアントジャパン株式会社製 Ink Jet Magenta E02)18部を加え、サンドグラインダーで分散を行った。分散は1500rpmの条件で6時間行った。続いて、イオン交換水100部を滴下し、濾過することにより分散用ビーズを濾過分離した。さらに、エバポレーターを用い、顔料固形分が12.2%となるよう、2-ブタノン及び水を減圧留去し、顔料平均粒径150nmの分散液を得た。これを「分散液1」とする。
【0115】
[合成例1~6]:バインダー1~6の合成
下記に記載の方法に従い、バインダー1から6の合成を行った。原料の添加量は、表1に記載の量に従って行った。撹拌機付きガラス製反応容器(容量500ミリリットル)にコンデンサー、温度計、および窒素流入口を取り付け、イオン交換水、ネオペレックスG-65(花王株式会社製)を加えた。内部の空気を窒素で置換した後、撹拌しつつ内部温度を65℃に調整した。500ミリリットルビーカーを別に用意し、イオン交換水、ネオペレックスG-65(花王株式会社製)、メチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メタクリル酸、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、および1-ドデカンチオールそれぞれを加え、ホモジナイザーを用いて攪拌速度3000rpmにて5分間攪拌を行い、乳化物を作成した。過硫酸アンモニウムをイオン交換水に30ミリリットルビーカー中に溶解した水溶液をガラス製反応器に加え、その直後に作成した乳化物をダイアフラムポンプにてガラス製反応容器に3時間かけて連続滴下した。滴下中は、窒素を導入しながら65℃で反応を行なった。滴下終了後、さらに65℃で2時間撹拌した。反応終了後、40℃以下に冷却した。冷却後、325メッシュの金網(目開き:0.043mm)でろ過をすることにより、表2に示す物性値の固形分濃度40%のバインダーサンプルを得た。
【0116】
【表1】
【0117】
[合成例7]:バインダー7の合成
撹拌機付きガラス製反応容器(容量500ミリリットル)にコンデンサー、温度計、および窒素流入口を取り付け、イオン交換水:152.59(g)、ネオペレックスG-65(花王株式会社製):7.46(g)を加えた。内部の空気を窒素で置換した後、撹拌しつつ内部温度を65℃ に調整した。500ミリリットルビーカーを別に用意し、イオン交換水:130.71(g)、ネオペレックスG-65(花王株式会社製):0.23(g)、スチレン:100.00(g)、2-エチルヘキシルアクリレート:2.90(g)、メタクリル酸:9.21(g)、およびα-メチルスチレン:80.40(g)それぞれを加え、ホモジナイザーを用いて攪拌速度3000rpmにて5分間攪拌を行い、乳化物を作成した。過硫酸アンモニウム:1.50(g)をイオン交換水:15.00(g)に溶解した水溶液をガラス製反応器に加え、その直後に作成した乳化物をダイアフラムポンプにてガラス製反応容器に3時間かけて連続滴下した。滴下中は、窒素を導入しながら65℃で反応を行なった。滴下終了後、さらに65℃で2時間撹拌した。反応終了後、40℃以下に冷却した。冷却後、325メッシュの金網(目開き:0.043mm)でろ過をすることにより、表2に示す物性値の固形分濃度40%のバインダーサンプルを得た。
【0118】
【表2】
【0119】
[実施例1~6]:インクの調製。
調製例1で得た分散液1、および合成例1~5で得られたバインダーのいずれかを用いて、下記表3に記載の各成分を加えて撹拌混合して液を得た。得られた液をポアサイズ3μmのメンブランフィルターでろ過することにより、実施例1~6のインクをそれぞれ得た。
表3中、各成分の数値は部数を表す。また、「残部」とは、イオン交換水を加えてインク組成物の総量を100部に調整したことを表す。
【0120】
[比較例1~2]:比較用インクの調製。
合成例6~7で得られたバインダーを用いる以外は実施例1~6と同様にして、比較例1~2の比較用のインクをそれぞれ得た。
【0121】
下記表3中の略号等は以下を表す。また、表3中、空欄は0部であることを示す。
AQ513:AQUACER 513(ビックケミー・ジャパン株式会社製、固形分濃度:34.6%)。
TEX:2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(別名:テキサノール)。
PG:プロピレングリコール。
1,2HD:1,2-ヘキサンジオール。
BYK349:BYK-349(ビックケミー・ジャパン株式会社製)。
【0122】
【表3】
【0123】
[耐擦過性]
実施例及び比較例で得た各インクを各々50μl測り取り、各々PI-1210自動塗工装置(テスター産業(株)製)にてNo.3のバーコーターを用いて200mm/secの速度で、王子製紙社製OKトップコート+127.9g/m(コート紙)に塗工を行った。その後、70度にて2分乾燥を行い、耐擦過性の試験用印刷物とした。得られた試験用印刷物を、900gの荷重をかけた株式会社安田精機製作所製の学振試験機で試験用印刷物と未塗工の王子製紙社製OKトップコート+127.9g/m(コート紙)を13回擦過させた。試験用印刷物の擦過された部分とされていない部分の比較を目視で行い、下記の5段階評価を行った。評価結果を下記の表4に示す。
-評価基準-
A:ほとんど変色が確認できない。
B:極わずかに変色が確認される。
C:うっすらと変色が確認される。
D:はっきりと変色が確認される。
E:擦過された部分の色が剥がれ落ちている。
【0124】
[循環安定性]
実施例及び比較例で得た各インクを各々0.3Lずつ用意し、各々KNF社製のダイアフラムポンプNF60を用い、流速0.3L/minにて100分循環させた。循環後のインク50gを、目開き10μmのナイロンフィルター(タントレー(株)社製ナイロンメッシュ 目開き10μm #500/520)をろ材にして有効ろ過面積0.13cmにてろ過を行い、インクが全通するか否かを確認した。5分で全通する(すなわち、0.3L全量のろ過ができた)場合は「〇」、全通しなかった(すなわち、0.3L全量のろ過ができなかった)場合は「×」として結果を記載した。
【0125】
【表4】
【0126】
表4の結果から明らかなように、各実施例のインクは、耐擦過性、循環耐性とも良好であることが確認された。
【0127】
[調製例2~6]:オーバーコート剤の調製。
上記合成例1~5で得られたバインダーのいずれかを用いて、下記表5に記載の各成分を加えて撹拌混合して液を得た。得られた液をポアサイズ3μmのメンブランフィルターでろ過することにより、調製例2~6のオーバーコート剤をそれぞれ得た。
下記表5中の略号等は以下を表す。
W950:ケミパールW950(ポリエチレン水性ワックスエマルジョン、三井化学製)
【0128】
実施例1~5の各インクをそれぞれ50μl測り取り、PI-1210自動塗工装置(テスター産業(株)製)にてNo.3のバーコーターを用いて200mm/secの速度で、王子製紙社製OKトップコート+127.9g/m(コート紙)に塗工し、画像形成を行った。その後、70度にて2分乾燥を行った。得られた試験用印刷物の画像形成部に重なるように、調製例2~6のオーバーコート剤50μlをPI-1210自動塗工装置(テスター産業(株)製)にてNo.3のバーコーターを用いて200mm/secの速度で各々塗工した。その後、70度にて2分乾燥を行い、試験用印刷物を得た。
得られた試験用印刷物を、900gの荷重をかけた株式会社安田精機製作所製の学振試験機で試験用印刷物と未塗工の王子製紙社製OKトップコート+127.9g/m(コート紙)を13回擦過させた。試験用印刷物の擦過された部分とされていない部分の比較を目視で行い、下記の5段階評価を行った。評価結果を下記の表6に示す。
-評価基準-
A:ほとんど変色が確認できない。
B:極わずかに変色が確認される。
C:うっすらと変色が確認される。
D:はっきりと変色が確認される。
E:擦過された部分の色が剥がれ落ちている。
【0129】
【表5】
【0130】
【表6】
【0131】
表6の結果が示すように、実施例インクとオーバーコート剤と組み合わせ作製した試験用印刷物は、耐擦過性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明のインクは、循環安定性が良好であり、かつ印刷物の耐擦過性が良好である。よって、インク循環式のインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置にて好適に使用できる。