(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146810
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】中空粒子を含む粉体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20241004BHJP
C01B 33/193 20060101ALI20241004BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241004BHJP
C08K 7/26 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
C01B33/193
C08L101/00
C08K3/36
C08K7/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039651
(22)【出願日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2023056833
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134119
【弁理士】
【氏名又は名称】奥町 哲行
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4G072
4J002
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA28
4G072BB05
4G072BB16
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4G072JJ15
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4G072TT01
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4G072UU09
4J002AA011
4J002AA021
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4J002BG031
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4J002CP031
4J002DJ016
4J002FA096
4J002GQ01
(57)【要約】
【課題】絶縁層の低誘電率化及び低誘電正接化とともに、絶縁層の薄膜化を可能とするフィラーを提供すること。
【解決手段】 外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含む粉体であって、粉体の平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmの範囲、粉体の最大粒子径(D100)が20.0μm以下、粉体の粒度分布におけるピークの粒子径(Ps)×0.75~(Ps)×1.25μmの範囲の粒子の体積の和が全ての粒子の総体積の50%以下、粉体の空孔率が10~50%、粉体の割れ粒子率が10%以下であり、外殻にはシリカが70質量%以上含まれている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含む粉体であって、
前記外殻には、シリカが70質量%以上含まれており、
前記粉体の平均粒子径(D50)が0.1~5.0μm、
前記粉体の最大粒子径(D100)が20.0μm以下、
前記粉体の粒度分布におけるピークの粒子径をPsで表したとき、(Ps)×0.75~(Ps)×1.25μmの範囲の粒子の体積の割合が全体の粒子の50%以下、
前記粉体の空孔率が10~50%、
前記粉体の割れ粒子率が10体積%以下、である粉体。
【請求項2】
アルカリ含有率が100ppm以下である請求項1に記載の粉体。
【請求項3】
単位体積当たりの吸油量が0.60ml/cm3以下である請求項1または2に記載の粉体。
【請求項4】
Sears数(ml/SiO21.5g)が0.30未満であり、
水蒸気吸着法によるBET比表面積/窒素吸着法によるBET比表面積が0.30未満であり、
水蒸気吸着量が0.20質量%未満であり、
29Si-NMR構造解析においてQ4構造のピーク面積が総ピーク面積の90%以上である請求項1または2に記載の粉体。
【請求項5】
誘電率が2.8以下であり、かつ誘電正接が0.0010未満である請求項1または2に記載の粉体。
【請求項6】
請求項1に記載の粉体を樹脂材料に配合する工程を備えることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
珪酸アルカリ水溶液を用いて平均粒子径10.0μm以下の液滴を形成し、熱風気流中に噴霧して、乾燥し、中空粒子を造粒する第一工程と、
前記中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄する第二工程と、
前記中和洗浄した中空粒子を焼成する第三工程と、
を有することを特徴とする中空粒子を含む粉体の製造方法。
【請求項8】
前記第二工程において用いられる酸溶液は、以下の式を満たすことを特徴とする請求項7記載の粉体の製造方法。
(MH+/MSP)>4.7 ・・・式
ここで、(MH+)は酸溶液中の水素イオンのモル数、(MSP)は中空粒子に含まれるアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁材料のフィラーに好適な粉体に関する。特に、外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含む粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信において高速・大容量化が進んでいる。そのため、通信機器に使用される資材には、低い誘電率(低Dk)、及び低い誘電正接(低Df)が求められている。例えば、半導体素子が実装されるプリント配線板には、低い誘電率及び低い誘電正接を持つ絶縁材料が求められている。絶縁材料の誘電率が高いと誘電損失が生じ、絶縁材料の誘電正接が高いと、誘電損失だけでなく、発熱量が増大するおそれがある。
【0003】
絶縁材料の低誘電率化、及び低誘電正接化を実現するために、絶縁材料の主体である樹脂材料の開発が行われている。このような樹脂材料として、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂等が提案されている。
【0004】
このような樹脂材料には、耐久性(剛性)や耐熱性等の点から、フィラーが配合される。低誘電率化のため、フィラーとして中空シリカ粒子を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
最近では、半導体デバイスの薄型化が進み、絶縁層の薄膜化が求められている。そのため、絶縁層(絶縁材料)に配合されるフィラーも、粒径(最大粒子径)を小さくする必要がある。粒子径の小さい中空粒子を製造する方法として、エマルション法(例えば、特許文献1)、コア-シェル法(例えば、特許文献2及び3参照)、熱分解法(例えば、特許文献4及び5参照)、噴霧乾燥法(例えば、特許文献6参照)が知られている。
【0006】
エマルション法やコア-シェル法は、均一な粒子径に制御でき、1μm以下の小径粒子も調製可能である。しかしながら、液相から粉末を得るための乾燥工程で、収縮力による変形や粒子同士の合着が起こるため、単分散の中空粒子を得ることは難しい。仮に、単分散の中空粒子が得られたとしても、粒度分布がシャープであるため、樹脂材料に多くの中空粒子を充填することが困難である。
【0007】
また、原料粉の膨張を利用して造粒する熱分解法では、小さい粒子を効率よく得るために原料粉を極めて小さく(微粉化)する必要がある。そのため、現実的な方法ではない。
【0008】
噴霧乾燥法では、熱風の気相中で粒子が形成されるため、単分散した状態の粉末を得ることができる。一般に、圧搾空気を利用して液体を微粒化する二流体ノズルを用いて液滴を形成するため、実際の液滴径には分布が存在する。すなわち、小径から大径までの液滴が混在している。そのため、小径の液滴から形成された小径粒子と、大径の液滴から形成された大径粒子が混在した粉末が回収される。最大粒子径を小さくするためには、分級などにより大径粒子を除去する必要があるが、大径粒子は乾燥中や造粒中に割れやすく、また、回収容器内でも割れやすい。割れ粒子は、粉体全体の空孔率を下げ、低誘電率(低Dk)、及び低誘電正接(低Df)には寄与しない。割れ粒子は小さいため、分級で取り除くことは困難である。
【0009】
また、一般的に、粒子径が小さくなるほど、粒子の比表面積が大きくなり、粒子同士が付着しやすくなる。そのため、樹脂への分散性が低下する。したがって、粒子が樹脂に均一に分散できず、凝集体となってフィルターで除去されたり、フィルターを詰まらせたりするといった問題が生じる。さらに、誘電率及び誘電正接を低くするために必要な量のフィラーを充填できない(充填率が低い)。また、アンダーフィル材では、狭い隙間に充填できないといった問題などが生じる。さらに、フィラーが均一に分散するように、混練時のせん断力を高めたり混練時間を長くしたりすると、中空粒子が割れる原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012-136363号公報
【特許文献2】特開2022-19357号公報
【特許文献3】特開2022-172938号公報
【特許文献4】特開2005-206436号公報
【特許文献5】特開2020-45263号公報
【特許文献6】特開2022-103683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、絶縁層の低誘電率化及び低誘電正接化とともに、絶縁層の薄膜化を可能とするフィラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、以下の特性を満たす粉体が上記課題を解決できることを見いだした。すなわち、本発明による粉体は、外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含んでおり、以下の要件(a)~(f)を満たしている。
(a)粉体の平均粒子径(D50)が0.1~5.0μm、
(b)粉体の最大粒子径(D100)が20.0μm以下、
(c)粉体の粒度分布におけるピークの粒子径(Ps)×0.75~(Ps)×1.25μmの範囲の粒子の体積の和が全ての粒子の総体積の50%以下、
(d)粉体の空孔率が10~50%、
(e)粉体の割れ粒子率が10%以下、
(f)外殻には、シリカが70質量%以上含まれる
【0013】
また、本発明による粉体の製造方法は、珪酸アルカリ水溶液で平均粒子径10.0μm以下の液滴を形成し、熱風気流中に噴霧して、乾燥し、中空粒子を造粒する第一工程と、中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄する第二工程と、中和洗浄された中空粒子を焼成する第三工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の粉体は、絶縁層の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とするとともに、絶縁層の薄膜化に対応できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の粉体は、外殻の内部に空洞を有する中空粒子を含んでおり、平均粒子径及び最大粒子径が小さく、また、粒度分布が比較的ブロードである。そのため、絶縁材料(樹脂)への充填率が高く、絶縁層を薄膜化しても優れた誘電特性を得ることができる。さらに、割れ粒子の含有率が低いため、粒子径が小さいにもかかわらず高い空孔率が得られ、誘電率及び誘電正接をさらに低くすることができる。
【0016】
すなわち、本発明の粉体は、平均粒子径(D50)が0.1~5μm、最大粒子径(D100)が20μm以下、粒度分布におけるピークの粒子径を「Ps」μmとしたとき、(Ps)×0.75以上(Ps)×1.25以下の粒子径を持つ粒子の体積の和が、全ての粒子の体積の総和の50%以下、割れ粒子率が10体積%以下、空孔率が10~50%である。また、外殻には、シリカが70質量%以上含まれている。
【0017】
以下、各要件について説明する。
a)平均粒子径(D50)が0.1~5.0μm
平均粒子径が0.1μm未満では、微小粒子が多く含まれているため、比表面積(SiOH基含有量)が大きくなり、優れた誘電特性が得られない。また、平均粒子径が5.0μmを超える粉体は、薄膜化した絶縁材料(樹脂)への高充填が困難である。薄膜化した絶縁材料に用いることを考慮すると、平均粒子径は、0.3~4.5μmが好ましく、0.5~4.0μmがより好ましい。
【0018】
b)最大粒子径(D100)が20.0μm以下
最大粒子径(D100)が20.0μmを超えると、薄膜化した樹脂への高充填が困難である。最大粒子径(D100)は、15.0μm以下が好ましく、10.0μm以下がより好ましく、8.0μm以下がさらに好ましい。
【0019】
c)粒度分布の広がり
粒度分布におけるピークの粒子径を「Ps」μmとしたとき、(Ps×0.75)μm以上(Ps×1.25)μm以下の粒子径を持つ粒子の体積の和が、全ての粒子の体積の総和の50%以下である。(Ps×0.75)~(Ps×1.25)μmの範囲の粒子の体積割合が50%を超えると、粒子径が揃うこととなり、粒度分布のブロード性が低い。そのため、薄膜化した樹脂への高充填が困難となり、優れた誘電特性が得られない。この体積割合は、45%以下が好ましく、40%以下がより好ましい。
【0020】
また、粒度分布はブロードであるほど好ましい(粒度分布のブロード性が高いほど好ましい)。そのため、粒度分布において、ピークが2つ以上存在してもよい。すなわち、粒度分布が二峰性(多峰性)となっていてもよい。これにより、薄膜化した樹脂への充填率をより高めることができる。なお、ピークが複数存在する場合には、上述した粒子の体積割合は、それぞれのピークに対して50%以下である。
【0021】
d)割れ粒子率が10体積%以下
割れ粒子は低誘電率化及び低誘電正接化に寄与しない(全体の空孔率を下げる)ため、割れ粒子が10体積%を超えると、優れた誘電特性が得られず、また、高充填率化の妨げとなる。割れ粒子率は、8体積%以下が好ましく、6体積%以下がより好ましい。なお、割れ粒子は、C形状等の中空粒子の原形が残っているものを指し、粉々になっている小片は含まれない。
【0022】
e)空孔率が10~50%
粉体の空孔率が10%未満では、誘電率及び誘電正接を低下させる効果が十分に得られず、所望の誘電率及び誘電正接にならない。また、空孔率が50%を超えると、粒子の強度が低くなり、粒子の割れが生じやすい。空孔率は、15~45%が好ましく、20~40%がより好ましい。
【0023】
f)外殻のシリカ含有率が70質量%以上
外殻を構成する成分としてシリカが70質量%以上含まれている。すなわち、外殻は、シリカを70質量%以上含む無機酸化物で形成されている。シリカ以外に、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物を含んでいてもよい。外殻に含まれるシリカの量は、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、実質的にシリカのみで形成されることが特に好ましい。
【0024】
さらに、粉体は、以下のいずれかの要件を満たすことが好ましい。
g)粉体のアルカリ含有率が100ppm以下
これにより、誘電率及び誘電正接を低くすることができる。また、後の工程で粒子が合着することが防止され、焼成工程での焼結粒子の発生を防ぐことができる。特に、半導体実装用に適している。アルカリ含有率は90ppm以下がより好ましく、80ppm以下がさらに好ましい。
【0025】
h)粉体の単位体積当たりの吸油量が0.60ml/cm3以下
単位体積当たりの吸油量は、1cm3の粒子を流動性のあるペーストにする際に必要な油の量を示す。したがって、値が小さいほど樹脂への高充填が容易となる。例えば、粒子1cm3を油0.60mlで流動化させることができる時、ペースト中の粒子充填率は62.5vol%である。吸油量が0.60ml/cm3以下であれば、樹脂に分散させた際に高充填できる。吸油量は、0.50ml/cm3以下が好ましく、0.40ml/cm3以下がより好ましい。
【0026】
さらに、粉体は、以下のいずれかの要件を満たすことが好ましく、すべての要件i)~m)を満たすことがより好ましい。
【0027】
i)Sears数(ml/SiO21.5g)が0.30未満
一般に、Sears数とは、シリカ粒子のOH基(シラノール基)の量を示す指標であり、Sears数が大きいと粒子に存在するOH基量が多い。Sears数が0.30以上の場合には、誘電率及び誘電正接が高く、また、経時的に吸湿が生じ、誘電率及び誘電正接が上昇する傾向にある。さらに、粒子同士の付着性が高く、粒子の凝集が生じるおそれがある。Sears数は、0.29未満がより好ましく、0.28未満がさらに好ましい。
【0028】
なお、Sears数は、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、水酸化ナトリウムの滴定によって測定する。本測定法により、粒子表面のOH基量が測定される。Sears数(ml/SiO21.5g)は、シリカ量1.5gに対する0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液滴定量を示す。
【0029】
j)水蒸気吸着法及び窒素法吸着法で求めたBET比表面積の比が0.30未満
水蒸気吸着法で求めたBET比表面積と窒素吸着法で求めたBET比表面積との比(水蒸気比表面積/窒素比表面積)は、親水性・疎水性の程度を示し、大きい値ほどより親水性である。この比が0.30以上のものは、吸湿しやすい。この比は、0.20未満がより好ましく、0.15未満がさらに好ましい。
【0030】
k)水蒸気吸着量が0.20質量%未満
水蒸気吸着量は、吸湿に関する経時安定性を示す。水蒸気吸着量が0.20質量%以上のものは、吸湿しやすく、経時安定性に劣る。水蒸気吸着量は、0.15未満がより好ましく、0.10未満がさらに好ましい。
【0031】
m)29Si-NMRによる構造解析において、Q4構造のピーク面積がQ0~Q4構造の総ピーク面積の90%以上
29Si-NMRによる構造解析において、粒子中の珪素原子は、珪素原子のまわりの酸素を共有する珪素の数により、Q0、Q1、Q2、Q3、Q4の5種類に分けられる。具体的に、Q0構造のケミカルシフトは-73.0~-73.5ppm、Q1構造のケミカルシフトは-73.5~-78.0ppm、Q2構造のケミカルシフトは-78.0~-82.0ppm、Q3構造のケミカルシフトは-82.0~-100.0ppm、Q4構造のケミカルシフトは-100.0~-120.0ppmに、それぞれ現れる。これらの構造のうち、Q4構造は、Q0~Q3構造に比べてOH基の数が少ない(シロキサン結合が多い)構造である。Q4構造の存在比(面積比)が大きいほど、不安定なOH基が少なく、珪素同士の結合割合が多くなる。そのため、安定性の高い粒子となる。このような粒子をフィラーとして用いた場合、経時変化の少ない絶縁材料が得られる。Q4構造のピーク面積は、総ピーク面積(Q0~Q4構造の面積)の93%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。実質的に、Q3構造とQ4構造のみ存在することが特に好ましい。
【0032】
本発明の粉体は、大部分が球状の中空粒子であるが、中実粒子を含んでいてもよい。中空粒子は全体の80個数%以上が好ましく、90個数%以上がより好ましい。中空粒子の割合は、例えば任意の100個の粒子の断面SEM画像から算出することができる。
【0033】
また、粉体の誘電率は2.8以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。粉体の誘電正接は0.0010未満が好ましく、0.0005未満がより好ましい。
【0034】
さらに、粉体の比表面積は1~50m2/gが好ましい。比表面積が大きすぎると、SiOH基量が多く、誘電特性に悪影響を及ぼすおそれがある。また、粒子同士の付着性も高くなり、樹脂への分散性が悪くなるおそれがある。比表面積は、2~20m2/gがより好ましく、3~10m2/gがさらに好ましい。
【0035】
[粉体の製造方法]
本発明の粉体の製造方法は、珪酸アルカリ水溶液で形成された平均粒子径10.0μm以下の液滴を、熱風気流中に噴霧して、乾燥し、中空粒子を造粒する第一工程と、中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄する第二工程と、中和洗浄した中空粒子を焼成する第三工程とを有する。このような製造方法により、本発明の粉体を得ることができる。なお、各工程の前後に、分級工程、乾燥工程等の他の工程を設けてもよい。
【0036】
第一工程において、噴霧液滴の径が従来よりも小さくなるように、かつ大径の液滴が形成されないように調整する。これにより、大径粒子の発生を防ぐことができる。大径粒子は、粒子径に対する外殻厚さの比率(外殻の厚さ/粒子径)が小さく、小径粒子に比べて割れやすい。すなわち、割れ粒子の発生を抑制しつつ、空隙率の高い小径の中空粒子が得られる。最終的に小径の中空粒子を得るだけであれば、分級を行うことでも達成可能であるが、割れ粒子の含有量を低減するためには、割れやすい大径粒子を造粒しないよう液滴径を小さくする必要がある。一般に、噴霧乾燥法は、エマルション法等に比べ、粒度分布のブロードな粒子を製造することができる。
【0037】
以下、各工程を詳細に説明する。
(第一工程)
本工程では、珪酸アルカリ水溶液で平均粒子径10.0μm以下の液滴を形成し、熱風気流中に噴霧して、乾燥し、球状の中空粒子を造粒する。すなわち、噴霧液滴径を従来よりも小さく、かつ大径液滴が含まれないよう調整して中空粒子を造粒する。
【0038】
液滴の平均粒子径は、9.0μm以下が好ましく、8.0μm以下がより好ましい。その下限は5.0μmである。ここで、液滴の平均粒子径を液浸法で測定した(ザウター平均粒子径)。
【0039】
小径の液滴を安定して形成する噴霧乾燥方法として、圧搾空気を利用して液体を微粒化する二流体ノズルから出た液滴をさらに均質化・微細化させる構造を有した衝突形二流体ノズル、対向する二本の空気流の衝突で液体を粉砕するノズル、四流体ノズル等を用いる方法を挙げることができる。具体的には、霧のいけうち社製の衝突形二流体ノズルや、ノズルネットワーク社製のノズル(マイクロフォッグ)や、株式会社GF社製の四流体ノズル等を用いる方法を挙げることができる。なお、ノズル噴射における気体供給量と原料液体供給量との体積比(気/液体積比)を増大させることにより、液滴を小さくすることができる。液滴の平均粒子径を10μm以下にするために、気/液体積比は6000以上が好ましく、7000以上がより好ましく、8000以上が特に好ましい。
【0040】
噴霧乾燥において、噴霧乾燥機の入口温度は、300~600℃が好ましく、350~550℃がより好ましい。また、出口温度は、120~350℃が好ましく、200~300℃がより好ましい。入口温度及び出口温度を高くすることにより、乾燥速度を上げて空孔率を向上させることができる。
【0041】
珪酸アルカリ水溶液のSiO2としての濃度は、1~30質量%が好ましく、5~28質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。珪酸アルカリ水溶液の濃度が薄くなるほど低粘度になり、液滴を小さくすることができる。珪酸アルカリとして、水に可溶の珪酸ナトリウム、珪酸カリウムを例示できるが、珪酸ナトリウムが好ましい。
【0042】
珪酸アルカリのSiO2とM2O(Mはアルカリ金属)のモル比(SiO2/M2O)は、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。このモル比が1未満では、アルカリ量が多すぎるためにアルカリを除去する際の酸洗浄が困難になるだけでなく、噴霧乾燥により得られた粒子の潮解性が大きくなるために所望の中空粒子が得られ難い。このモル比が5を超えると、珪酸アルカリの可溶性が低下し、水溶液の調製が困難である。水溶液を調製できたとしても、噴霧乾燥により所望の中空粒子が形成できないおそれがある。
【0043】
(第二工程)
本工程では、造粒された中空粒子に含まれるアルカリを、所定条件下、酸溶液中で中和して除去する(脱アルカリ)。具体的には、中空粒子を大量の酸溶液に浸漬して中和することにより、中空粒子に含まれるアルカリを除去する。すなわち、pHが低い状態で中和する。pHは、2.0以下が好ましい。
【0044】
通常、粒子(外殻)からアルカリを除去することにより、粒子(外殻)に細孔が形成される。大量の酸で急速に中和することにより、外殻中のシリカの溶解が抑制され、大きな細孔が形成されることを防ぐことができる。すなわち、細孔を、その後の焼成処理で容易に閉塞しやすいサイズ(構造)にすることができる。結果的に、SiOH基量の少ない粒子を得ることとなり、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化が実現する。また、焼成処理により細孔がふさがれるため、経時的な吸湿により生じる誘電正接の変化も抑えることができ、長期的に低い誘電正接を維持することができる。また、粒子同士の付着を抑制して、粒子の分散性の向上を図ることができる。さらに、外殻に細孔がほとんど残存しないことから粒子強度も向上する。
【0045】
本工程では、中空粒子に対して酸溶液を加えるのではなく、酸溶液に対して中空粒子を加えることが好ましい。これにより、粒子近傍で粒子が溶解するpHの状態になることを防ぎ、粒子の溶解を防ぐことができる。なお、カラム流通方式では、カラム上部から下部に流れる間に、酸溶液のH+の濃度が低下(pH上昇)し、十分に低いpHではない状態で粒子に接触し、粒子が溶解することがあるため、大きい細孔が形成しやすく所望の効果が得られない場合がある。
【0046】
本工程では、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(MSP)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/MSP)が4.7を超える酸溶液を用いることが好ましい。従来、このような高い値の酸溶液は用いられていなかった。例えば、特開2013-103850号公報の段落0032には、この比が「4.7を越えてもさらに骨格化が進むこともなく、酸が過剰であり経済的でない」と記載されている。また、特開平04-104907号公報の実施例では、この比は、3.0(200L)及び4.4(300L)である。本発明では、あえてこのような酸溶液で中和処理を行うことにより、シリカ骨格へのダメージを抑制しつつ、アルカリイオンを除去(H+とイオン交換)することができる。そのため、中空粒子(の外殻)に大きな細孔が形成されない。この比(MH+/MSP)は、5.0以上が好ましく、5.2以上がより好ましく、5.5以上が特に好ましい。上限に制限はないが、例えば7.0以下である。
【0047】
本工程によって、粒子(の外殻)中のアルカリ分が除去されて質量が減少するものの、粒子形状や中空構造等(体積)の変化は極めて小さい。そのため、本工程の前後で比較すると、除去されたアルカリ量に応じて粒子の密度は減少する。粒子の密度は、ガスピクノメーター法(JIS Z 8837)に準じて測定することができる。本工程前(第一工程終了品)の粒子はそのまま測定し、本工程後の粒子は、(洗浄後)120℃で24時間乾燥させてから測定する。
【0048】
本工程のアルカリ除去によって、粒子(外殻)には細孔が形成される。そのため、密度測定に用いるガスが細孔を通過するか否かによって、粒子密度の測定結果は異なることとなる。ヘリウムを用いた場合には、ヘリウムが細孔を貫通し、粒子内部の空洞も満たすため、測定された粒子密度はシリカの密度とほぼ同等の値(2.1~2.3g/cm3)となる。
【0049】
一方、窒素を用いた場合には、窒素が外殻の細孔を貫通することはなく、内部空洞の存在を反映した粒子密度を測定することができる。本工程において、粒子(の外殻)に窒素が侵入可能な細孔が形成されず、かつ、アルカリ分がすべて除去されたとすると、本工程後の粒子密度(理論値:ρ2T)は、下記の式(X)で求められる。
【0050】
ρ2T=ρ1×(1-Wa) ・・・式(X)
ρ1:第一工程後の粒子密度
ρ2T:第二工程後の粒子密度の理論値
Wa:原料固形分中のアルカリ分質量比率
【0051】
第二工程で窒素が侵入可能な細孔が多く形成されるほど、実際に測定される粒子密度(ρ2)と理論値(ρ2T)との差が大きくなる。形成された細孔は、後工程の加熱処理等で小さくすることが可能であるが、サイズが大きすぎたり、量が多すぎたりすると、十分に閉塞させることができず、最終的に粒子(の外殻)に残存し、吸湿性を高める原因となる。そのため、細孔のサイズは小さく、量は少ない方が好ましい。すなわち、窒素で測定した粒子密度(ρ2)は理論値(ρ2T)からの乖離が小さい方が好ましい。具体的には、この比ρ2/ρ2Tは、1.0~1.4が好ましく、1.0~1.3がより好ましく、1.0~1.2が特に好ましい。なお、第二工程後の粒子密度(ρ2)は、前述の通り、洗浄後に120℃で24時間乾燥させた粒子を測定して得た。
【0052】
また、第一工程終了後から第二工程終了までに中空粒子に割れが発生することでも、粒子密度(ρ2)は、理論値(ρ2T)から乖離が大きくなる。本発明では、第一工程において、割れにくい小径の中空粒子が造粒されているので、割れやすい大径の中空粒子が造粒される従来の方法に比べて、理論値からの乖離が小さくなる。
【0053】
また、中空粒子の濃度が、SiO2として1~30質量%になるように酸溶液に浸漬することが好ましい。1質量%未満の場合は、アルカリ除去や洗浄性に問題はないが、製造効率が低下する。30質量%を超えると、濃度が濃すぎてアルカリ除去、洗浄効率が低下する場合がある。また、粒子同士の接触・摩擦により、粒子が割れる等の問題が発生する場合がある。5~25質量%がさらに好ましい。浸漬処理は、複数回に分けて行ってもよい。
【0054】
浸漬処理の温度条件としては、通常、5℃以上、溶液の沸点以下である。より良好な細孔が形成され、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化をより確実に実現できる点から、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましい。処理時間は、例えば0.5~24時間である。
【0055】
浸漬処理の後、中空粒子を従来公知の方法で十分に洗浄する。例えば、純水にて濾過洗浄する。
【0056】
アルカリ除去後のアルカリ(M)の残存量(質量割合)は、100ppm以下が好ましく、90ppm以下がより好ましく、80ppm以下がさらに好ましい。本工程で十分にアルカリを除去することにより、後の工程で粒子が合着することが防止され、焼成工程での焼結粒子の発生を防ぐことができる。
【0057】
アルカリ残存量は、粒子を酸で溶解させたものを試料とし、原子吸光光度計を用いてアルカリを測定する。珪酸ナトリウムを用いた場合はNaを測定し、珪酸カリウムを用いた場合はKを測定する。
【0058】
なお、最終製品(粉体)のアルカリ量も上述の範囲が好ましく、通常、アルカリ除去工程後のアルカリ量と同等になる。
【0059】
本工程で用いる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸が例示できる。鉱酸が好適であり、価数の点から、硫酸が特に好ましい。なお、酸溶液は、通常は水溶液であるが、アルコール等を混合してもよい。
【0060】
(第三工程)
本工程では、中和洗浄した中空粒子を焼成する。焼成温度は900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。上限に制限はないが、例えば1200℃である。第二工程によってアルカリが十分に除去されるため、粒子の合着が防止され、高温で焼成しても焼結粒子の発生を防ぐことができる。高温焼成により、アルカリ除去時に形成された細孔を閉塞させることができるため、外殻が無孔質になる。これにより、SiOH基を減少させることが可能になり、誘電率及び誘電正接の低い粒子を得ることができる。例えば、特開2013-103850号公報の発明では、誘電正接が0.0010未満の粒子を得ることはできないが、本発明では、0.0010未満の粒子を得ることができる。また、強度の高い粒子を得ることができる。
【0061】
(分級工程)
さらに、第二工程と第三工程の間に分級工程を設けることが好ましい。第二工程で得られた中空粒子を分級処理する。分級処理により、粗大粒子を除去することが好ましい。どの程度の大きさの粒子を粗大粒子として除去するかは、粉体をどのような目的、用途で使用するかに応じて適宜決定すればよい。例えば、20.0μmを超える粗大粒子を除去する態様や、15.0μmを超える粗大粒子を除去する態様や、10.0μmを超える粗大粒子を除去する態様を挙げることができる。すなわち、本工程では、20.0μmを超える粗大粒子が実質的に含まれないようにすることや、15.0μmを超える粗大粒子が実質的に含まれないようにすることや、10.0μmを超える粗大粒子が実質的に含まれないようにすることが好ましい。なお、通常、最終製品の粗大粒子の含有量は、分級工程後の含有量と大きな差はない。
【0062】
分級処理は、粒子径を揃えるために、焼成後に行うことが好ましいと一般的に考えられているが、本発明では、あえて焼成工程(第三工程)前に分級処理を行っている。分級処理を行わずに焼成すると、取り除かれるべき高空隙率の粗大粒子も存在してしまう。このような粗大粒子は割れやすく、加熱による収縮のストレスで割れるおそれがある。割れにより生じた破片は、粒子径が小さいため、その後に分級処理を行っても取り除くことができない。また、この破片は、空隙のない緻密なシリカであるため、低誘電率化・低誘電正接化の妨げとなる。分級処理を焼成前に行うことにより、このような不都合を回避することができる。なお、焼成後に、さらに分級処理を行ってもよい。
【0063】
本工程での分級とは、粉体の粒度を揃えることを目的に、粒子径によって粉体を分ける粒度分級を意味する。この粒度分級の操作として、流体分級を挙げることができ、流体分級は乾式分級と湿式分級に分類することができる。
【0064】
乾式分級に用いられる分級機は、原理的に、重力分級機、慣性分級機、遠心分級機に大別できる。粒子の慣性力を利用して分級する慣性分級機や、遠心分級機を用いることにより、より精密な分級が可能になる。軽く、遠心力が掛かりにくい粒子でも特性を発揮する分級機として、日鉄鉱業社製エルボージェット、日本スリーエム社製SGセパレーター、日清エンジニアリング社製エアロファインクラシファイア、日本ニューマチック工業社製マイクロスピンを挙げることができる。これらのうち、軽い粒子でも精密に分級できる、エルボージェット、エアロファインクラシファイアが好ましい。
【0065】
湿式分級に用いられる分級機は、原理的に、重力分級機、遠心分級機に大別できる。遠心分級機を用いることにより、より精密な分級が可能になる。軽く、遠心力が掛かりにくい粒子でも特性を発揮する分級機として、日本化学機械工業社製ハイドロサイクロン、村田工業社製スーパークロン、佐竹マルチミクス社製アイクラシファイアを挙げることができる。これらのうち、軽い粒子でも精密に分級できるアイクラシファイアが好ましい。
【0066】
なお、分級工程において、0.1μm未満の微小粒子を除去することを妨げるものではないが、粒度分布がシャープになる方向の操作となるため、微小粒子の除去は行わないほうが好ましい。
【0067】
また、割れ粒子の発生を抑制するために、第一工程と第二工程の間の早い段階で分級を実施してもよい。ただし、第一工程で得られた中空粒子は、潮解性があるため、湿式分級ではなく、乾燥した空気中で分級することが好ましい。
【0068】
(乾燥工程)
第三工程の前、第三工程の後などに、乾燥工程を設けてもよい。乾燥方法として、加熱乾燥が挙げられる。乾燥温度は、50~400℃が好ましく、50~200℃がより好ましい。具体的には、50~200℃程度の低温で時間をかけて乾燥させる方法や、温度を徐々に上昇させて乾燥させる方法や、温度を何段階かに分けて変更して乾燥させる方法を例示できる。乾燥工程は、第二工程と第三工程の間、第三工程の後、その両方に設けることができる。必要に応じて繰り返し乾燥処理を行ってもよい。
【0069】
(篩分け工程)
さらに、粒子塊を篩分けする篩分け処理を、乾燥工程後、第三工程(焼成)後の少なくとも一方で行うことが好ましい。なお、粒子塊とは、例えば、粒径が150μmを超えるような異物をいう。このような粒子塊を取り除けるような目開き(メッシュ数)の篩を適宜用いて篩分け処理を行う。
【0070】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、上述の中空粒子を含む粉体が分散されている。このような樹脂組成物は、中空粒子を含む粉体と樹脂とを混合することにより製造できる。具体的に、例えば、中空粒子を含む粉体、熱硬化性樹脂等を混合し、ロールミルなどで混練して樹脂組成物(塗布液)を調製する。これを基体に塗布し、熱、紫外線等により硬化させる。
【0071】
このような樹脂組成物は、半導体等の電子材料の絶縁材料として用いることができる。具体的には、プリント配線板(リジッド基板及びフレキシブル基板を含む)を形成するための銅張積層板、プリプレグ、ビルドアップフィルム等に用いることができる。また、この樹脂組成物は、薄膜用の絶縁材料に有用であり、例えば、50μm以下、好ましくは25μm以下の厚さの絶縁材料に有用である。また、モールド樹脂、モールドアンダーフィル、アンダーフィル等の半導体パッケージ関連材料や、フレキシブル基板用接着剤等に用いることもできる。
【0072】
粉体と混合する樹脂としては、半導体等の電子材料に一般的に使用されている硬化性樹脂を使用することができる。光硬化樹脂でもよいが、熱硬化樹脂が好ましい。このような硬化性樹脂として、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、BTレジン、シアネート系樹脂等を挙げることができる。エポキシ系樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂等が例示できる。これらの樹脂を、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0073】
樹脂組成物には、本発明の粉体Aと硬化性樹脂Bが質量比(A/B)で10/100~95/100含まれていることが好ましく、30/100~80/100含まれていることがより好ましい。このような質量比により、流動性等の特性を維持しつつ、フィラーとしての機能を十分に発揮することができる。
【0074】
樹脂組成物は、フェノール化合物、アミン化合物、酸無水物等の硬化剤を含むことが好ましい。硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する、ビスフェノール型樹脂、ノボラック樹脂、トリフェノールアルカン型樹脂、レゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、シクロペンタジエン型フェノール樹脂等のフェノール樹脂や、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸等の酸無水物を挙げることができる。
【0075】
樹脂組成物には、必要に応じて、着色剤、応力緩和剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、硬化促進剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0076】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
[実施例1]
まず、水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度20質量%)30000gを用意し、4流体ノズルの二つのノズルから水ガラス水溶液を、他の二つのノズルから空気を、噴霧して中空粒子を造粒した(第一工程)。本実施例では、入口温度を450℃に設定した。また、水ガラス水溶液の総流量(すなわち、二つのノズルから噴射される液体の総流量)を0.29L/hrに設定し、空気の総流量(すなわち、二つのノズルから噴射される空気の総流量)を2040L/hrに設定した。すなわち、空/液体積比は7034である。この時、出口温度は250℃であった。
【0077】
次いで、濃度25質量%の硫酸水溶液40000gを攪拌しながら、得られた中空粒子5000gを加えた。液温を35℃に維持するように調整しながら15時間撹拌し、その後、室温まで冷却した。この時、固形分(SiO2)濃度は8.4質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満であった。また、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(MSP)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/MSP)を5.2に設定した。冷却後、固液分離を行い、さらに、純水にて洗浄した(第二工程)。次いで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。得られた乾燥物を解砕し、さらに目開き75μmの篩にかけて粒子塊(異物)を除去した。その後、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G分(粗粉)の3種類に分けることができる。F粉(微粉)に含まれる10μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターを用いて回収した(分級工程)。その後、1000℃で10時間加熱処理することで中空粒子を含む粉体を得た(第三工程)。なお、第三工程による焼成の後で、粒子塊(異物)を取り除くために、目開き150μmの篩を用いてもよい。
【0078】
<樹脂成型体の製造>
得られた粉体を、液状酸無水物「新日本理化社製リカシッドMH700」、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤「四国化成社製2PHZ-PW」と共に、液状エポキシ樹脂「日鉄ケミカル&マテリアル社製ZX-1059」に配合した。ここで、「ZX-1059」を100質量部、「リカシッドMH700」を86質量部、「2PHZ-PW」を1質量部の割合で配合し、この配合物中の粉体の割合を65体積%とした。この配合物を遊星ミルで予備混練後、三本ロールで混練し、ペースト(樹脂組成物)を調製した。このペーストを170℃で2時間加熱して硬化させ、50mm×50mm×1mmの板状の樹脂成型体を得た。
【0079】
上述のようにして得られた粉体及び樹脂成型体の物性を以下のように測定・評価した。その結果を調製条件とともに表1に示す。他の実施例や比較例でも、基本的に同様に行った。
1)粒度分布、割れ粒子率
分散剤(花王社製レオドールTW-0120V)を純水で0.5%に希釈した液20gと粉体0.125gとをガラス製の30mlスクリュー管に入れ、超音波洗浄器(新サン電子社製SC-20A)を用いて10分超音波を照射した。この液0.2gをガラス製の6mlスクリュー管にとり、純水1.8gを加え、再度、超音波洗浄器を用いて10分超音波を照射した。これにより得られた粉体の分散液を顕微鏡で観察した。約50000個の粒子の観察結果から、画像解析法により粉体の粒度分布を求めた。この粒度分布から、平均粒子径(D50)、最大粒子径(D100)、ピークの粒子径(Ps)が得られた。さらに、ピークの粒子径(Ps)の±25%の範囲の粒子径を持つ粒子の体積を算出した。
また、約50000個の粒子の観察結果から、画像解析法により割れ粒子の割合(体積%)を計算した。面積包絡度(Solidity)が0.75未満の粒子を割れ粒子とした。
【0080】
2)空孔率
Quantachrome Instruments社製Ultrapyc5000を用いて、ガスピクノメーター法により粉体の粒子密度を測定した。
この粒子密度から、式「[2.2-(粒子密度)]/2.2×100」により空孔率(%)を算出した。この式では、シリカの密度を2.2g/cm3とした。
【0081】
3)アルカリ含有量
粉体を前処理(硫酸及び弗化水素酸の添加)した後、塩酸に溶解させ、原子吸光光度計(日立製Z-2310)を用いて原子吸光分析法によりアルカリ含有率を測定した。本実施例ではNa含有率を測定した。
【0082】
4)吸油量
試料(粉体)の質量を秤量し、JIS K 5421に基き、煮アマニ油を用いて吸油量を測定した。前述の粒子密度を用い、単位体積当たりの吸油量に変換した。
【0083】
5)Sears数
Sears数は、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、水酸化ナトリウムを用いる滴定によって測定した。
具体的には、粒子濃度が1質量%になるように粉体を純水で希釈した溶液150gに対し、塩化ナトリウム30gを加え、塩酸でpHを4.0に調整した。この溶液を、自動滴定装置を用いて0.1ml/秒に固定して、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。pH9.0までに要した水酸化ナトリウム水溶液の量を十分の一にし、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液による滴定量に換算した(すなわち、シリカ量1.5gに対する0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液滴定量)。行った。
【0084】
6)水蒸気比表面積/窒素比表面積
マイクロトラック・ベル社製BELSORP-maxを用いて、粉体のBET比表面積を窒素吸着法と水蒸気吸着法で測定した。窒素吸着法で求めたBET比表面積を基準として、水蒸気吸着法で求めたBET比表面積との比(水蒸気比表面積/窒素比表面積)を算出した。
【0085】
7)水蒸気吸着量
マイクロトラック・ベル社製BELSORP-maxを用いて、水蒸気吸着法にて測定を行い、粉体質量に対する分圧0.9(p/p0=0.9)での水蒸気吸着量を求めた。
【0086】
8)29Si-NMR
シリカ粒子の29Si-NMRによる構造解析を、以下のように行った。
粉体を110℃で1時間乾燥した後、相対湿度60%で24時間調湿を行った。得られた粉末(試料)を直径5mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、14.1T NMR装置(Agilent製VNMRS-600、1H共鳴周波数600MHz)を用いて、シングルパルスノンデカップリング法で測定した。基準物質にはポリジメチルシロキサン(-34.44ppm)を用いた。得られたスペクトルについて波形解析を行い、各ピークの面積を算出した。
各構造の比率は、各構造のピークの面積比(Si/ST)×100[%](ただし、iは0~4の整数である。STは、ST=S0+S1+S2+S3+S4で表される各構造のピーク面積の合計である。)により算出した。
【0087】
9)誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
粉体の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と空洞共振器(1GHz)を用いて空洞共振器摂動法により、ASTMD2520(JIS C2565)に準拠した方法で測定した。
板状の樹脂成型体の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)は、ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と同軸共振器を用いて、9.4GHzで測定した。粉体(フィラー)を配合していない樹脂成型体と比較し、以下の評価基準で評価した。
【0088】
誘電率(Dk)の低減率(%)=(フィラー添加なしの誘電率-フィラー添加ありの誘電率)/フィラー添加なしの誘電率)×100
〇:低減率>0
△:低減率=0
×:低減率<0
【0089】
誘電正接(Df)の低減率(%)=(フィラー添加なしの誘電正接-フィラー添加ありの誘電正接)/フィラー添加なしの誘電正接)×100
〇:低減率30%以上
△:低減率20%以上30%未満
×:低減率20%未満
【0090】
また、樹脂組成体を温度80度、湿度80%の条件下で1000時間保管した前後の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を以下の評価基準で評価した(高温高湿テスト)。
【0091】
前後の誘電率(Dk)の相対比=Dk(後)/Dk(前)
〇:1.1以下
△:1.1より大きく1.2以下
×:1.2より大きい
【0092】
前後の誘電正接(Df)の相対比=Df(後)/Df(前)
〇:2.0以下
△:2.0より大きく3.0以下
×:3.0より大きい
【0093】
また、第一工程における噴霧液滴の平均粒子径は、液浸法により求めた。具体的には、シリコンオイルを厚めに塗布したプレートグラス上に噴霧液滴を受け止め、素早く拡大写真を撮影した。その写真を用いて粒子径を計測し、平均粒子径(ザウター平均粒子径)を求めた。
【0094】
[実施例2]
第一工程で、2流体ノズルの噴霧乾燥機を用い、一方のノズルから流量0.29L/hrで水ガラス水溶液を、他方のノズルから流量2040L/hrで空気を、噴霧して中空粒子を造粒した(空/液体積比は7034)。また、第二工程で、濃度25質量%の硫酸水溶液45000gを用いた。これら以外は実施例1と同様にし、中空粒子を含む粉体を得た。
【0095】
[実施例3]
第二工程で液温を60℃に維持するように調整した。これ以外は実施例1と同様にし、中空粒子を含む粉体を得た。
【0096】
[実施例4]
第二工程で、濃度10質量%の塩酸水溶液80000gを攪拌しながら、中空粒子5000gを加えた。これ以外は、実施例1と同様にして中空粒子を含む粉体を得た。なお、本実施例では、分級工程で、F粉(微粉)に含まれる24μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整した。また、第二工程において、固形分(SiO2)濃度は4.4質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満、比(MH+/Msp)は5.6であった。
【0097】
[実施例5]
第一工程で、水ガラス水溶液の流量を0.25L/hr(空/液体積比8160)とした。さらに、第二工程で、液温を60℃に維持しながら15時間撹拌した。これ以外は、実施例1と同様にして中空粒子を含む粉体を得た。
【0098】
[比較例1]
第一工程で、水ガラス水溶液のSiO2濃度を24質量%とし、この水ガラス水溶液の流量を0.40L/hr(空/液体積比5100)とした。さらに、第二工程で、濃度25質量%の硫酸水溶液32000gを用いた。これ以外は、実施例1と同様にして中空粒子を含む粉体を得た。なお、第二工程において、固形分(SiO2)濃度は10.2質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満、比(MH+/MSP)は4.1であった。
【0099】
[比較例2]
第一工程で、水ガラス水溶液のSiO2濃度を24質量%とし、この水ガラス水溶液の流量を0.48L/hr(空/液体積比4250)とした。さらに、第二工程で、濃度25質量%の硫酸水溶液32000gを用いた。これら以外は、実施例1と同様にして中空粒子を含む粉体を得た。なお、第二工程において、固形分(SiO2)濃度は10.2質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満、比(MH+/MSP)は4.1であった。
【0100】
なお、比較例1,2では、中空粒子の割合を65体積%で配合すると樹脂組成物を得ることができなかったため、60体積%になるように配合した。
【0101】