(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146813
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20241004BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20241004BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241004BHJP
F16C 33/20 20060101ALI20241004BHJP
F16H 55/06 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/06
C08K3/04
F16C33/20 A
F16H55/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041693
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】P 2023059233
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000104364
【氏名又は名称】出光ファインコンポジット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】渡部 悠平
(72)【発明者】
【氏名】田村 栄治
【テーマコード(参考)】
3J011
3J030
4J002
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011DA01
3J011SA02
3J011SA05
3J011SB03
3J011SC01
3J011SC20
3J011SE05
3J030BC01
4J002CN011
4J002DA016
4J002DA018
4J002DA067
4J002DA077
4J002FA046
4J002FA047
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD018
4J002GM00
4J002GM02
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れる新たな樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂30~70質量%と、炭素系粒子1~30質量%と、金属繊維5~40質量%と、炭素繊維5~40質量%とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂30~70質量%と、炭素系粒子1~30質量%と、金属繊維5~40質量%と、炭素繊維5~40質量%とを含む組成物。
【請求項2】
炭素系粒子の含有量が1質量%以上、20質量%未満である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
金属繊維の含有量が5~35質量%である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
上記炭素繊維は密度1.70以上である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
上記炭素系粒子は平均粒度が20μm以下である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
上記炭素系粒子は黒鉛である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
上記黒鉛は天然黒鉛である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
上記金属繊維は、軟質金属を含む請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
上記軟質金属は、銅又はリン青銅である請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
上記金属繊維は平均繊維長6mm以下、且つ平均繊維径100μm以下である請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、軸、軸受け、ギアなどの摩擦が生じる摺動部品に好適に使用することができる樹脂組成物及びその成形体に関する。
【0003】
摺動部品の寿命は材料の摩耗が大きな要因であり、優れた耐摩耗性が要求される。加えて、機械の摺動部品として用いる場合、動力を伝達させる上で摩擦力の変動が少ないことが好適であり、同時にエネルギー損失の観点から発生する摩擦力が低いことが好ましい。
【0004】
摺動部品に従来より用いられている金属や熱硬化性樹脂は、耐熱要求においては十分な特性を示すが、生産性や軽量性に加えて、優れた摩擦摩耗特性を満足させることは難しい。
【0005】
特許文献1には、(A)パラキシリレンジアミン15~45モル%及びメタキシリレンジアミン85~55モル%からなる混合キシリレンジアミンとα、ω-直鎖脂肪族二塩基酸から得られるポリアミド樹脂、(B)繊維状強化材、及び(C)固体潤滑剤を含有し、(A)+(B)+(C)の合計重量に対し、(B)が8~65重量%、(C)が8~30重量%であるポリアミド樹脂組成物に関して、優れた機械的強度と摺動特性、特に高い限界PV値に代表される優れた摩擦・磨耗特性を有することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、高い摺動性及び耐摩耗性を有するとともに、引張破断強度、引張破断伸度、シャルピー衝撃強度、熱変形温度などの機械物性にも優れる成形体を提供可能なポリフェニレンサルファイド樹脂組成物に関して、ポリフェニレンサルファイド(A)と、変性ポリオレフィン組成物(B)と、繊維状充填剤(C)とを含み、前記ポリフェニレンサルファイド(A)と、前記変性ポリオレフィン組成物(B)と、前記繊維状充填剤(C)との合計100質量部に対する前記変性ポリオレフィン組成物(B)の含有量が2~8質量部である樹脂組成物が記載されている。
【0007】
特許文献3には、第1摩擦板及び第2摩擦板と第2回転体との間でトルクを伝達するトルクリミッタ付きリール台において、前記第1摩擦板、第2摩擦板、第2回転体が、ベース樹脂とこのベース樹脂に添加される第1の添加剤と第2の添加剤から構成される熱可塑性樹脂組成物から形成され、前記ベース樹脂が、ポリアセタール樹脂又はポリフェニレンサルファイド樹脂であり、前記第1の添加剤は、オレフィン系重合体、スチレン系重合体及びフッ素系重合体から選択される1種又は2種以上であり、前記第2の添加剤は、潤滑油、ワックス、脂肪酸、黒鉛、二硫化モリブデン及びリン酸塩から選択される1種又は2種以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-45413号公報
【特許文献2】特開2019-218568号公報
【特許文献3】特開平10-274252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3には、摩擦力の変動及び摩耗量の両方に関する開示はなく、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性の両立という観点での検討はされていない。従って、上述のような従来技術の樹脂組成物は、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性の両立という観点で十分ではなく、改善の余地がある。
【0010】
本発明の一態様は、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れる新たな樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、黒鉛と、金属繊維と、を所定量含む組成物が、低負荷環境のみならず、高負荷環境においても摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の一態様に係る組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂30~70質量%と、炭素系粒子1~30質量%と、金属繊維5~40質量%と、炭素繊維5~40質量%とを含む構成である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、高負荷環境においても摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れる新たな樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で行なった摩擦摩耗特性試験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一態様について詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0015】
<1.組成物>
(概要)
本発明の一態様に係る組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂30~70質量%と、炭素系粒子1~30質量%と、金属繊維5~40質量%と、炭素繊維5~40質量%とを含む。本発明の一態様に係る組成物の態様には、上述の成分を含む組成物の原料を配合した配合物の態様、上述の成分を含む組成物の原料を溶融混練して得られた混錬物の態様が含まれる。
【0016】
本発明の一態様に係る組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂、炭素系粒子、金属繊維、及び炭素繊維を上記の所定量含むことにより、低負荷環境のみならず高負荷環境においても摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れる樹脂組成物となる。このような樹脂組成物を摺動部品に用いることで、摩擦係数の安定性に優れることで摺動にかかるエネルギー効率を高めることができ、且つ耐摩耗性に優れることで機械要素の寿命を向上させることができる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標12「つくる責任つかう責任」などの達成にも貢献するものである。
【0017】
(組成物の用途)
本発明の一態様に係る組成物は、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れるため、摺動面に用いられる摺動部品の材料として好適に用いることができる。よって、本発明の一態様に係る組成物は、摺動部品用組成物とすることができる。本発明の一態様に係る組成物は、例えば、軸、軸受け、ギアなどのための組成物として好適に用いることができる。よって、本発明の一態様に係る組成物は、軸用組成物、軸受け用組成物、ギア用組成物などとすることができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る組成物は、放熱性にも優れている。よって、高速度などの過酷条件下で使用される摺動部品のための組成物としてより好適に用いることができる。
【0019】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂)
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、「PPS」ともいう)は、下記式(I)で表される構造単位を有する重合体である。
【0020】
【化1】
(式(I)中、Arはフェニレン含有基、Sは硫黄を示す。)
上記式(I)で表される構造単位を1モル(基本モル)と定義すると、本発明で用いられるPPSは、この構造単位を、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含有する重合体である。
【0021】
上記式(I)中のArはフェニレン以外の基を有してもよく、フェニレンは置換基を有してもよい。Arの炭素数は、例えば6~20である。Arとしては、例えば以下の構造が挙げられる。
【化2】
【0022】
PPSは、同一の構造単位からなるホモポリマーであってもよいし、2種以上の異なる構造単位を有するコポリマーであってもよいし、これらの混合物であってもよい。コポリマーは、ランダムコポリマーであってもよく、ブロックコポリマーであってもよい。
【0023】
PPSは、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリマー鎖の一部が他のポリマーで置換されていてもよい。置換するポリマーとしては、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、含フッ素ポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、シリコーン系エラストマーなどが挙げられる。
【0024】
PPSは、例えば、特公昭45-3368号公報、特公昭52-12240号公報などに記載の公知の方法により製造することができる。PPSは、空気中で加熱して高分子量化されてもよいし、また、酸無水物などの化合物を用いて化学修飾されてもよい。
【0025】
PPSは、樹脂温度310℃、せん断速度1000(1/秒)における溶融粘度が、10~1000Pa・Sであることが好ましく、20~300Pa・Sであることがより好ましく、さらには70~100Pa・Sであることが好ましい。PPSの溶融粘度はキャピラリーレオメーターで測定される。
【0026】
また、PPSはフィラーを含むものであってもよい。フィラーとしては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維などを挙げることができる。
【0027】
(ポリフェニレンサルファイド樹脂の作用及び効果)
PPSは結晶性樹脂であるため、耐薬品性に優れる。また、PPSは耐熱性にも優れている。従って、本発明の一態様に係る組成物がPPSを含むことで、組成物の耐薬品性及び耐熱性を向上させることができる。本発明の一態様に係る組成物は、PPSを30~70質量%含む。組成物中のPPSの含有量が上述の範囲であることにより、組成物の耐薬品性及び耐熱性を十分に向上させることができる。
【0028】
(炭素系粒子)
炭素系粒子は、粒子状の炭素材料をいう。炭素材料とは、炭素原子を主成分とする材料であり、例えば、炭素原子を95質量%以上含む材料である。炭素系粒子の種類は特に限定されない。炭素系粒子として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、活性炭などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0029】
(炭素系粒子の作用及び効果)
本発明の一態様に係る組成物が炭素系粒子を含むことで、耐摩耗性を向上させることができる傾向がある。本発明の一態様に係る組成物は、炭素系粒子を1~30質量%含む。組成物中の炭素系粒子の含有量が上述の範囲であることにより、組成物の耐摩耗性向上効果が十分に得られる。
【0030】
(炭素系粒子の好ましい種類)
炭素系粒子は、黒鉛粒子であることが好ましい。黒鉛は、グラファイトとも称される。黒鉛は、天然黒鉛と人造黒鉛とに大別される。天然黒鉛は、さらに、土状黒鉛、鱗片状黒鉛、及び塊状(鱗状)黒鉛の3種類に分類される。本発明の一態様に係る組成物に含まれる黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよい。炭素系粒子の中でもより軟質な黒鉛を配合することで、摺動の相手材の摩耗が低減され、アブレシブな摩耗が抑制される。黒鉛は天然黒鉛であることが好ましい。
【0031】
(炭素系粒子の好ましい含有量)
本発明の一態様に係る組成物中の炭素系粒子の含有量は、耐摩耗性をより向上させる観点から、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%未満であることが好ましい。好ましくは、1質量%以上、20質量%未満である。
【0032】
(炭素系粒子の平均粒度)
炭素系粒子の平均粒度は1μm以上、50μm以下であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、また、20μm以下であることがより好ましい。ここで、本明細書において、「平均粒度」は、SHIMADZU製 SALD―2300を用いてレーザ回折・散乱法かつ体積基準によって測定した値をいう。
【0033】
(金属繊維)
金属繊維の種類は適宜決定すればよく、特に限定されない。例えば、黄銅、銅、リン青銅などの軟質金属;炭素鋼などの硬質金属を含む金属繊維を挙げることができる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。ここで、「軟質金属」は、ビッカース硬さに基づく硬度が200HV未満の金属をいう。また、「硬質金属」は、ビッカース硬さに基づく硬度が200HV以上の金属をいう。
【0034】
(金属繊維の作用及び効果)
本発明の一態様に係る組成物が金属繊維を含むことで、組成物の摩擦係数の安定性を向上させることができる傾向がある。また、本発明の一態様に係る組成物が金属繊維を含むことで、熱伝導性を向上させることができる傾向がある。熱伝導性が向上する結果、放熱性に優れ、また、樹脂の軟化又は溶融が抑制されるため、高速度等の過酷条件下で使用される摺動部品のための組成物としてより好適に用いることができる。
【0035】
本発明の一態様に係る組成物は、金属繊維を5~40質量%含む。組成物中の金属繊維の含有量が上述の範囲であることにより、組成物の摩擦係数の安定性及び熱伝導性の向上効果が十分に得られる。
【0036】
(金属繊維の好ましい種類)
金属繊維は、軟質金属を含むことが好ましい。金属繊維は、軟質金属を含むことで、組成物の射出成形時に金型の摩耗を抑制することができる。また、摺動部品として用いた場合に、摺動の相手材の摩耗が低減され、アブレシブな摩耗が抑制される。相手材摩耗及び熱伝導性向上の観点から、軟質金属は、銅又はリン青銅であることが好ましい。
【0037】
(金属繊維の好ましい含有量)
組成物の摩擦係数の安定性及び耐摩耗性向上の観点から、本発明の一態様に係る組成物中の金属繊維の含有量は、5~35質量%であることが好ましく、10~33質量%であることがより好ましい。後述する実施例の摩擦摩耗特性試験における荷重300Nの試験条件のような特に高い負荷環境における組成物の摩擦係数の安定性及び耐摩耗性向上の観点から、本発明の一態様に係る組成物中の金属繊維の含有量は、10~15質量%であることが特に好ましい。また、熱伝導性(放熱性)向上の観点から、本発明の一態様に係る組成物の金属繊維の含有量は、好ましくは11~40質量%であり、より好ましくは15~30質量%である。
【0038】
(金属繊維の平均繊維径及び平均繊維長)
金属繊維の平均繊維径及び平均繊維長は適宜決定すればよく、特に限定されないが、後述する理由により、平均繊維長20mm以下、且つ平均繊維径150μm以下の短繊維、又は、平均繊維長6mm以下、且つ平均繊維径100μm以下の短繊維、又は、平均繊維長3mm以下、且つ平均繊維径40μm以下の短繊維を用いることがより好ましい。なお、本明細書において、「平均繊維長」は、繊維の長さを表し、KEYENCE製デジタルマイクロスコープ VHX-5000で50本以上測定した際の平均値を意味する。
【0039】
軟質な銅繊維等を用いる場合、平均繊維長が上記範囲であれば繊維同士で絡み合いにくく、フィード不良を起こしにくい。金属繊維の平均繊維長が6mm以下であることで、組成物の混練を良好に行なうことができるため、組成物の量産性が向上する。また、摺動面における金属繊維の接触面積を増やすために、金属繊維の平均繊維径は100μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、金属繊維の「平均繊維径D」は、繊維の太さを表し、金属繊維の比重ρ、金属繊維の本数N(100本以上)及びその重量W、平均繊維長L、円周率πから以下の式で算出した数値を意味する。
D=√{[(W/ρ)/N]/(π×L)}
【0040】
金属繊維の平均繊維長及び平均繊維径の下限は特に限定されないが、摩擦を受ける過程で金属繊維が脱落するのを防止する観点から、金属繊維の平均繊維長は、1.0mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましい。また、金属繊維の平均繊維径は、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましい。
【0041】
(炭素繊維)
炭素繊維は、有機繊維を焼成して得られる炭素含有率が90%以上の繊維をいう。炭素繊維の種類は特に限定されず適宜選択することができる。強度向上又は熱伝導率向上の観点から、炭素繊維は密度1.70以上であることが好ましい。このような炭素繊維として、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を好適に使用することができる。炭素繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0042】
(炭素繊維の作用及び効果)
本発明の一態様に係る組成物が炭素繊維を含むことで、耐摩耗性を向上させることができる傾向がある。また、本発明の一態様に係る組成物が炭素繊維を含むことで、組成物の機械強度(例えば、引っ張り強度、曲げ強度など)及び熱伝導率を向上させることができる傾向がある。
【0043】
本発明の一態様に係る組成物は、炭素繊維を5~40質量%含む。組成物中の炭素繊維の含有量が上述の範囲であることにより、組成物の耐摩耗性、機械強度及び熱伝導率の向上効果が十分に得られる。
【0044】
(炭素繊維の好ましい含有量)
本発明の一態様に係る組成物中の炭素繊維の含有量は、機械強度の観点から、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、成形加工の観点から、35質量%以下であることが好ましい。なお、PPS原料として、フィラーとして炭素繊維を含むPPS組成物を用いる場合、本発明の一態様に係る組成物中の炭素繊維の含有量は、PPS原料に含まれている炭素繊維の量との合計量である。
【0045】
本発明の一態様に係る組成物中の炭素繊維及び金属繊維の合計含有量は、組成物の50質量%以下とすることが好ましい。これにより、組成物の流動性が低下することを防ぐことができ、組成物の量産性を向上させることができる。炭素繊維及び金属繊維の質量比は特に限定されないが、組成物の熱伝導性向上の観点では、炭素繊維よりも金属繊維の量を多くすることが好ましい。また、本発明の一態様に係る組成物中の炭素繊維及び金属繊維の合計含有量は、組成物の10質量%以上とすることが好ましく、20質量%以上とすることがより好ましい。
【0046】
(炭素繊維の平均繊維径及び平均繊維長)
炭素繊維の平均繊維長及び平均繊維径は適宜決定すればよく、特に限定されない。炭素繊維としては、例えば、平均繊維長20mm以下、且つ平均繊維径30μm以下のチョップドファイバーを好適に用いることができる。機械強度及び熱伝導率の観点から、炭素繊維の平均繊維長は、3mm以上、10mm以下であることが好ましく、3mm以上、7mm以下であることがより好ましい。また、相手材との接触面積を増やし、摺動界面を支える炭素繊維を増やす観点から、炭素繊維の平均繊維径は、1μm以上、20μm以下であることが好ましい。なお、本明細書において、炭素繊維がチョップドファイバーである場合、その平均繊維長を「カット長」と呼ぶことがある。本明細書において、炭素繊維の「平均繊維長」は、繊維の長さを表し、KEYENCE製 デジタルマイクロスコープ VHX-5000で50本以上測定した際の平均値を意味し、炭素繊維の「平均繊維径」は、電子顕微鏡で50本以上測定した際の平均値を意味する。
【0047】
(その他の成分)
本発明の一態様に係る組成物は、上述した成分に加えて、酸化防止剤、核剤、可塑剤、離型剤、難燃剤、顔料、帯電防止剤などの任意の添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。例えば、全体の1質量%程度であれば、組成物の熱安定性を高める目的で酸化防止剤を添加してもよい。添加剤は、当該技術分野において通常使用される一般的な添加剤を用いることができる。
【0048】
(組成物の製造方法)
本発明の一態様に係る組成物の製造方法については特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。例えば、上述した成分を常温(例えば、20℃~30℃)で混合した後、溶融混練などの様々な方法で混錬すればよく、その方法は特に制限されない。
【0049】
混合及び混練方法の中でも二軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。二軸押出機を用いた溶融混練においては、量産性の観点か300℃以上で混練することが好ましい。また、組成物の原料の熱分解を最小限に抑える観点から、350℃以下で混練することが好ましい。
【0050】
<2.成形体>
本発明の一態様に係る組成物を成形してなる成形体も本発明の範疇に含まれる。本発明の一態様に係る成形体における本発明の一態様に係る組成物については、既に説明したとおりであるのでここでは繰り返さない。
【0051】
(成形体の製造方法)
本発明の一態様に係る成形体は、本発明の一態様に係る組成物を成形する成形工程を含む製造方法によって製造することができる。成形工程において、本発明の一態様に係る組成物を成形する方法は特に制限されない。射出成形、押出成形などの公知の成形加工法を用いることが可能である。中でも射出成形加工が好ましく用いられる。
【0052】
射出成形時の成形温度は、成形流動性の観点から300℃以上であることが好ましい。また、組成物中の成分の熱分解を最小限に抑える観点から、350℃以下とすることが好ましい。
【0053】
(成形体の用途)
本発明の一態様に係る組成物を成形してなる成形体は、摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れるため、摺動面に用いられる摺動部品として好適に用いることができる。本発明の一態様に係る成形体を用いた摺動部品は、例えば、軸、軸受け、ギアなどの摩擦係数の安定性及び耐摩耗性が求められる機械要素の摺動部品として好適に用いることができる。
【0054】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂30~70質量%と、炭素系粒子1~30質量%と、金属繊維5~40質量%と、炭素繊維5~40質量%とを含む構成である。
【0055】
本発明の態様2に係る組成物は、上記の態様1において、炭素系粒子の含有量が1質量%以上、20質量%未満であることが好ましい。
【0056】
本発明の態様3に係る組成物は、上記の態様1又は2において、金属繊維の含有量が5~35質量%であることが好ましい。
【0057】
本発明の態様4に係る組成物は、上記の態様1~3のいずれか1つにおいて、上記炭素繊維は密度1.70以上であることが好ましい。
【0058】
本発明の態様5に係る組成物は、上記の態様1~4のいずれか1つにおいて、上記炭素系粒子は平均粒度が20μm以下であることが好ましい。
【0059】
本発明の態様6に係る組成物は、上記の態様1~5のいずれか1つにおいて、上記炭素系粒子は黒鉛であることが好ましい。
【0060】
本発明の態様7に係る組成物は、上記の態様6において、上記黒鉛は天然黒鉛であることが好ましい。
【0061】
本発明の態様8に係る組成物は、上記の態様1~7のいずれか1つにおいて、上記金属繊維は、軟質金属を含むことが好ましい。
【0062】
本発明の態様9に係る組成物は、上記の態様8において、上記軟質金属は、銅又はリン青銅であることが好ましい。
【0063】
本発明の態様10に係る組成物は、上記の態様1~9のいずれか1つにおいて、上記金属繊維は平均繊維長6mm以下、且つ平均繊維径100μm以下であることが好ましい。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0065】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
<組成物の原料>
実施例及び比較例で用いた組成物の原料は以下のとおりである:
・ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS):DIC株式会社製、DSP T-3G、を用いた。これらのPPSは、架橋型のPPSであり、樹脂温度310℃、せん断速度1000(1/秒)における溶融粘度が72~98Pa・Sである。
・炭素繊維(CF):ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維(密度1.82)(三菱ケミカル株式会社製、TR06U B4E、平均繊維径6μm、平均繊維長6mm)を用いた。炭素繊維の平均繊維径及び平均繊維径は、上述した測定方法によって測定した。
・金属繊維:銅繊維(虹技株式会社製、KCメタルファイバー C1100、平均繊維径23μm、平均繊維長1.7mm)を用いた。銅繊維の平均繊維径及び平均繊維径は、上述した測定方法によって測定した。
・金属繊維:リン青銅繊維(虹技株式会社製、PBC2C、平均繊維径16μm、平均繊維長1.7mm)を用いた。リン青銅繊維の平均繊維径及び平均繊維径は、上述した測定方法によって測定した。
・炭素系粒子:天然黒鉛(日本黒鉛株式会社製、ACP-1000、平均粒度14μm)を用いた。黒鉛の平均粒度は、上述した測定方法によって測定した。
【0067】
〔実施例1〕
表2に示す配合比率に従って各成分を配合し、TEM-37SS-13/3V(芝浦機械株式会社製、二軸混練押出機)により、320℃で溶融混練することで、実施例1の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を射出成形することで、
図1に示す、摩擦摩耗特性試験用の中空円筒の試験片1に成形した。
図1の1001に示すように、試験片1は、中空円筒の上面(摺動面)に、半径1.0mmの半球状突起10を3つ備えている。
【0068】
〔実施例2~6、比較例1~5〕
表1~表3に示す配合比率に従って各成分を配合したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~6、比較例1~5の試験片を作製した。
【0069】
<摩擦摩耗特性試験>
試験片の形状を
図1に示される形状とし、測定点数を1とした以外はJIS K7218 A法(1986年)に則り、相手材料にJIS-G4051(2016)に規定されるはS45Cに相当する鋼材を用いて試験を行なった。
【0070】
(摩耗量)
摩耗量は、室温(20~30℃)環境下、スラスト方向の荷重50N、150N又は300N、試験速度0.5m/sで3km試験した際の値を測定した。摩耗量は、以下の式から算出した。
摩耗量(Δh)=h2-h1
なお、上記式中のh2は、
図1の1003に示すように試験後の半球状突起10aの高さを表し、h1は、
図1の1002に示すように試験前の半球状突起10の高さを表している。
【0071】
半球状突起10の高さh1は、試験前の試験片1の上面及び下面を、2枚の金属製円形平板で挟み込み、上面側に当接させた円形平板の中央部(つまり、円の中心)をデジマチックインジケータ(株式会社 ミツトヨ製、ID-C112)によって測定することで求めた。半球状突起10aの高さh2についても同様に、試験後の試験片1について上面側に当接させた円形平板の中央部(つまり、円の中心)をデジマチックインジケータによって測定することで求めた。
【0072】
摩耗量の測定結果に基づいて、耐摩耗性を、以下に示す基準に従って1~3の3段階のスコアで評価した。
3:摩耗量Δh(mm)が0.19未満(150N比較例5参考)
2:摩耗量Δh(mm)が0.19以上、0.40未満
1:摩耗量Δh(mm)が0.40以上(150N比較例3参考)
スコア1は耐摩耗性が不十分であることを示し、スコア2は耐摩耗性が優れていることを示し、スコア3は耐摩耗性が特に優れていることを示す。
【0073】
(摩擦係数Δμ)
摩擦係数Δμは、試験開始から約10分間の摩擦係数μの平均値(サンプリングレート3秒で測定した値の平均値)と試験終了直前約10分間の摩擦係数μの平均値(サンプリングレート3秒で測定した値の平均値)の差を記録した。
摩擦係数(Δμ)=(試験終了直前約10分間の平均値-試験開始から約10分間の平均値)の絶対値を記録した。
【0074】
摩擦係数Δμの測定結果に基づいて、摩擦係数の安定性を、以下に示す基準に従って1~3の3段階のスコアで評価した。
3:摩擦係数Δμが0.05未満
2:摩擦係数Δμが0.05以上、0.1未満(150N比較例5を参考)
1:摩擦係数Δμが0.1以上(150N比較例3を参考)
スコア1は摩擦係数の安定性が不十分であることを示し、スコア2は摩擦係数の安定性が優れていることを示し、スコア3は摩擦係数の安定性が特に優れていることを示す。
【0075】
<熱伝導率測定試験>
実施例1~3、比較例4~5の樹脂組成物をそれぞれ射出成形することで、熱伝導率測定試験用の平板(60mm角、厚み2mm)を成形した。各サンプルの平板を用い、ホットディスク法熱物性率測定装置(京都電子工業株式会社製、TPA-501)を用いて熱伝導率を測定した。
【0076】
熱伝導率の測定結果に基づいて、放熱性を、以下に示す基準に従って1~3の3段階のスコアで評価した。
3:熱伝導率(W/m・K)が5.0を上回る
2:熱伝導率(W/m・K)が2.0以上、5.0以下(比較例5参考)
1:熱伝導率(W/m・K)が2.0未満(比較例4参考)
スコア1は放熱性が不十分であることを示し、スコア2は放熱性が優れていることを示し、スコア3は放熱性が特に優れていることを示す。
【0077】
<結果>
結果を、表1~3に示した。なお、表中の「-」は、その成分を配合しなかったことを意味する。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
比較例1と比較例3との比較から、炭素繊維を配合することで、摩耗量が大幅に減少する結果が得られた。
【0082】
また、比較例1と比較例2との比較又は比較例4と5との比較から、黒鉛を配合することで、摩耗量が減少する結果が得られた。これは、軟質な黒鉛を配合することで相手材の摩耗が低減され、アブレシブな摩耗が抑制されたためであると考えられる。
【0083】
比較例1~5では、荷重50Nのときと比較して、荷重150Nの環境において、摩耗量が多くなる結果が得られた。これに対して、炭素繊維、黒鉛及び銅繊維の全てを含む実施例1~3では、荷重50Nの環境下及び荷重150Nの環境下共に、摩耗量が少ない結果が得られた。よって、実施例1~3の樹脂組成物は耐摩耗性に優れることが示された。
【0084】
また、比較例5と実施例1~3との比較から、一定量の炭素繊維及び黒鉛と共に銅繊維をさらに含む実施例1~3では、摺動の摩擦係数変動(摩擦係数Δμ)が減少する結果が得られた。よって、実施例1~3の樹脂組成物は摩擦係数の安定性に優れることが示された。一定量の炭素繊維及び黒鉛と共に銅繊維を含むことで、荷重150Nの環境下においても樹脂摩耗量をより低減させることができ、また、摺動の摩擦係数変動もより低減させることができた。よって、実施例1~3の樹脂組成物は、高負荷環境においても摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れることが示された。
【0085】
さらに、比較例4~5と実施例1~3との比較から、一定量の炭素繊維及び黒鉛と共に銅繊維を含む実施例1~3は熱伝導率が高く、銅繊維の含有量が多くなると熱伝導率がより高くなる傾向が示された。よって、実施例1~3の樹脂組成物は放熱性に優れることが示された。
【0086】
金属繊維として、銅繊維に替えてリン青銅繊維を配合した実施例4~6についても、炭素繊維、黒鉛及びリン青銅繊維の全てを含む実施例4~6では、荷重50Nの環境下及び荷重150Nの環境下共に、摩耗量が少ない結果が得られ、また、摺動の摩擦係数変動(摩擦係数Δμ)が減少する結果が得られた。よって、実施例1~3の樹脂組成物は耐摩耗性に優れることが示された。よって、銅繊維に替えてリン青銅繊維を配合した実施例4~6の樹脂組成物についても、耐摩耗性及び摩擦係数の安定性共に優れることが示された。
【0087】
荷重300Nの試験条件のような特に高い負荷環境においては、実施例4の耐摩耗性及び摩擦係数の安定性が最も優れていた。
【0088】
以上の結果から、ポリフェニレンサルファイド樹脂30~70質量%と、炭素系粒子1~30質量%と、金属繊維5~40質量%と、炭素繊維5~40質量%とを含む組成物は、高負荷環境においても摩擦係数の安定性及び耐摩耗性共に優れることが示された。