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特開2024-146814インバータ装置、およびそれを備えたモータ駆動装置並びに冷凍装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146814
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】インバータ装置、およびそれを備えたモータ駆動装置並びに冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241004BHJP
【FI】
H02M7/48 A
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041920
(22)【出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023058647
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】溝田 一貴
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA17
5H770DA41
5H770HA02W
5H770HA03W
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】本開示が解決しようとする課題は、軽負荷時において共振回路およびインバータ回路を含めたインバータ効率の改善である。
【解決手段】 インバータ回路26におけるスイッチング損失は共振回路25の動作によって低減されるが、インバータ回路26にかかる負荷が所定値以下になると、共振回路における消費エネルギーがインバータ回路26における消費エネルギーを上回るので逆に効率が悪化する。それゆえ、このインバータ装置100では、負荷が所定値以下のときに共振回路25の動作を停止させて、インバータ装置100全体での効率を向上させる。
【選択図】図9A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振回路(25)が接続されたインバータ回路(26)と、
前記インバータ回路(26)にかかる負荷を、直接または間接的に検出する検出部と、
前記検出部の検出値が所定値以下のとき前記共振回路(25)の動作を停止させる制御部(42)と、
を備える、
インバータ装置(100)。
【請求項2】
前記検出部は、前記インバータ回路(26)の出力電流を検出し、
前記制御部(42)は、前記出力電流の検出値が第1所定値以下のとき、前記共振回路(25)の動作を停止させる、
請求項1に記載のインバータ装置(100)。
【請求項3】
前記検出部は、前記インバータ回路(26)の出力電力を検出し、
前記制御部(42)は、前記出力電力の検出値が第2所定値以下のとき、前記共振回路(25)の動作を停止させる、
請求項1に記載のインバータ装置(100)。
【請求項4】
前記検出部は、前記インバータ回路(26)のスイッチング素子の温度を検出し、
前記制御部(42)は、前記温度の検出値が第3所定値以下のとき、前記共振回路(25)の動作を停止させる、
請求項1に記載のインバータ装置(100)。
【請求項5】
前記インバータ回路(26)の定格出力電流を100%とした場合、前記第1所定値は、25%~80%の間で設定される、
請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記インバータ回路(26)の定格出力電力を100%とした場合、前記第2所定値は、25%から80%の間で設定される、
請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記制御部(42)は、前記インバータ回路(26)のキャリア周波数を決定し、
さらに前記制御部(42)は、前記共振回路(25)の動作を停止させた後の前記キャリア周波数を、前記共振回路(25)を動作させているときよりも高く設定する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)。
【請求項8】
前記インバータ回路(26)のスイッチング素子は、炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を含むワイドバンドギャップデバイスである、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)。
【請求項9】
前記インバータ回路(26)は、
上アームを構成する第1スイッチング素子(Q1a)と、
下アームを構成する第2スイッチング素子(Q1b)と、
が直列に接続されたスイッチングレグ(261)を含み、
前記共振回路(25)は、
第1補助スイッチング素子(Sxa)に、第1リアクトル(Lxa)、第1ダイオード(Dxa)および第1コンデンサ(Cxa)それぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、前記インバータ回路(26)の前記第1スイッチング素子(Q1a)と並列に接続された第1補助回路(251a)と、
第2補助スイッチング素子(Sxb)に、第2リアクトル(Lxb)、第2ダイオード(Dxb)および第2コンデンサ(Cxb)それぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、前記インバータ回路(26)の前記第2スイッチング素子(Q1b)と並列に接続された第2補助回路(251b)と、
を含む、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)。
【請求項10】
前記インバータ回路(26)は、
前記第1スイッチング素子(Q1a)と並列に接続される第1還流ダイオード(D11a)と、
前記第2スイッチング素子(Q1b)と並列に接続される第2還流ダイオード(D11b)と、
をさらに含む、
請求項9に記載のインバータ装置(100)。
【請求項11】
前記第1スイッチング素子(Q1a)および前記第2スイッチング素子(Q1b)は、MOSFETであり、
前記第1スイッチング素子(Q1a)の寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用され、
前記第2スイッチング素子(Q1b)の寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用される、
請求項9に記載のインバータ装置(100)。
【請求項12】
前記第1補助回路(251a)では、前記第1補助スイッチング素子(Sxa)と前記第1リアクトル(Lxa)とが直列接続され、前記第1ダイオード(Dxa)のアノードに前記第1コンデンサ(Cxa)の一端が接続された回路が前記第1リアクトル(Lxa)に並列接続され、
前記第2補助回路(251b)では、前記第2補助スイッチング素子(Sxb)と前記第2リアクトル(Lxb)とが直列接続され、前記第2ダイオード(Dxb)のカソードに前記第2コンデンサ(Cxb)の一端が接続された回路が前記第2リアクトル(Lxb)に並列接続され、
前記制御部(42)は、前記第1スイッチング素子(Q1a)のオフ時に、前記第2補助スイッチング素子(Sxb)をオンし、前記第1コンデンサ(Cxa)を放電させてから前記第2スイッチング素子(Q1b)をオンする、
請求項10に記載のインバータ装置(100)。
【請求項13】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)と、
前記インバータ装置(100)により駆動されるモータ(70)と、
を備えた、
モータ駆動装置。
【請求項14】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)を備えた、
冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ回路におけるスイッチング素子のスイッチング損失を低減する手段として、例えば特許文献1(特開平8-149854号公報)に、部分共振を使用するゼロ電流スイッチングまたはゼロ電圧スイッチングが教示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、インバータ回路におけるスイッチング損失は部分共振によって低減されるが、インバータ回路にかかる負荷が所定値以下の軽負荷になると、共振回路における消費エネルギーがインバータ回路における消費エネルギーを上回るので逆に効率が悪化する。それゆえ、軽負荷時において共振回路およびインバータ回路を含めた全体効率の低減が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1観点のインバータ装置は、インバータ回路と、検出部と、制御部とを備えている。インバータ回路には、共振回路が接続されている。検出部は、インバータ回路にかかる負荷を、直接または間接的に検出する。制御部は、検出部の検出値が所定値以下のとき共振回路の動作を停止させる。
【0005】
インバータ回路におけるスイッチング損失は共振回路の動作によって低減されるが、インバータ回路にかかる負荷が所定値以下になると、共振回路における消費エネルギーがインバータ回路における消費エネルギーを上回るので逆に効率が悪化する。
【0006】
それゆえ、このインバータ装置では、負荷が所定値以下のときに共振回路の動作を停止させて、インバータ装置全体での効率を向上させる。
【0007】
第2観点のインバータ装置は、第1観点のインバータ装置であって、検出部が、インバータ回路の出力電流を検出する。制御部は、出力電流の検出値が第1所定値以下のとき、共振回路の動作を停止させる。
【0008】
このインバータ装置では、インバータ回路にかかる負荷の増減が、インバータ回路の出力電流の増減となって現れるので、出力電流の検出値が第1所定値以下か否かによって、共振回路の動作を停止させるか否を判断することができる。
【0009】
第3観点のインバータ装置は、第1観点のインバータ装置であって、検出部が、インバータ回路の出力電力を検出する。制御部は、出力電力の検出値が第2所定値以下のとき、共振回路の動作を停止させる。
【0010】
このインバータ装置では、インバータ回路にかかる負荷の増減は、インバータ回路の出力電力の増減となって現れるので、出力電力の検出値が第2所定値以下か否かによって、共振回路の動作を停止させるか否を判断することができる。
【0011】
第4観点のインバータ装置は、第1観点のインバータ装置であって、検出部が、インバータ回路のスイッチング素子の温度を検出する。制御部は、温度の検出値が第3所定値以下のとき、共振回路の動作を停止させる。
【0012】
このインバータ装置では、インバータ回路にかかる負荷の増減は、インバータ回路のスイッチング素子の温度の増減となって現れるので、スイッチング素子の温度の検出値が第3所定値以下か否かによって、共振回路の動作を停止させるか否を判断することができる。
【0013】
第5観点のインバータ装置は、第2観点のインバータ装置であって、インバータ回路の定格出力電流を100%とした場合、第1所定値は、25%~80%の間で設定される。
【0014】
第6観点のインバータ装置は、第3観点のインバータ装置であって、インバータ回路の定格出力電力を100%とした場合、第2所定値は、25%~80%の間で設定される。
【0015】
第7観点のインバータ装置は、第1観点から第6観点のいずれか1つのインバータ装置であって、制御部が、インバータ回路のキャリア周波数を決定する。さらに制御部は、共振回路の動作を停止させた後のキャリア周波数を、共振回路を動作させているときよりも高く設定する。
【0016】
このインバータ装置では、インバータ回路にかかる負荷が所定値以下で、かつ共振回路の動作で達成できない周波数駆動範囲で、インバータが動作することによって、例えばインバータ装置の負荷がモータならば、インバータ装置およびモータの全体での効率が向上する。
【0017】
第8観点のインバータ装置は、第1観点から第6観点のいずれか1つのインバータ装置であって、インバータ回路のスイッチング素子が、炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を含むワイドバンドギャップデバイスである。
【0018】
このインバータ装置では、ワイドバンドギャップデバイスをスイッチング素子に適用することにより、スイッチング素子の損失低減の効果が高まる。
【0019】
第9観点のインバータ装置は、第1観点から第6観点のいずれか1つのインバータ装置であって、インバータ回路が、上アームを構成する第1スイッチング素子と、下アームを構成する第2スイッチング素子とが直列に接続されたスイッチングレグを含む。また、共振回路は、第1補助回路と、第2補助回路とを含む。第1補助回路は、第1補助スイッチング素子に、第1リアクトル、第1ダイオードおよび第1コンデンサそれぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、インバータ回路の第1スイッチング素子と並列に接続されている。第2補助回路は、第2補助スイッチング素子に、第2リアクトル、第2ダイオードおよび第2コンデンサそれぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、インバータ回路の第2スイッチング素子と並列に接続されている。
【0020】
第10観点のインバータ装置は、第9観点のインバータ装置であって、インバータ回路が、第1還流ダイオードと第2還流ダイオードとをさらに含んでいる。第1還流ダイオードは、第1スイッチング素子と並列に接続されている。第2還流ダイオードは、第2スイッチング素子と並列に接続されている。
【0021】
第11観点のインバータ装置は、第9観点のインバータ装置であって、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子が、MOSFETである。第1スイッチング素子の寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用される。また、第2スイッチング素子の寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用される。
【0022】
第12観点のインバータ装置は、第10観点のインバータ装置であって、第1補助回路では、第1補助スイッチング素子と1リアクトルとが直列接続され、第1ダイオードのアノードに第1コンデンサの一端が接続された回路が第1リアクトルに並列接続される。第2補助回路では、第2補助スイッチング素子と第2リアクトルとが直列接続され、第2ダイオードのカソードに第2コンデンサの一端が接続された回路が第2リアクトルに並列接続される。制御部は、第1スイッチング素子のオフ時に、第2補助スイッチング素子をオンし、第1コンデンサを放電させてから第2スイッチング素子をオンする。
【0023】
第13観点のモータ駆動装置は、第1観点から第6観点のいずれか1つのインバータ装置と、インバータ装置により駆動されるモータとを備えている。
【0024】
第14観点の冷凍装置は、第1観点から第6観点のいずれか1つのインバータ装置を備えた冷凍装置である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の一実施形態に係るインバータ装置を備えた冷凍装置の構成図である。
図2】インバータ装置の回路ブロック図である。
図3】インバータ回路に接続される共振回路の回路図である。
図4】第1スイッチング素子および第2スイッチング素子のターンオンおよびターンオフのタイミングチャートである。
図5A図4のt0までの区間(t0を含まず)の共振回路およびインバータ回路における電流の流れを示した回路図である。
図5B図4のt0からt1までの区間(t1を含まず)の共振回路およびインバータ回路における電流の流れを示した回路図である。
図5C図4のt1からt2までの区間(t2を含まず)の共振回路およびインバータ回路における電流の流れを示した回路図である。
図5D図4のt2からt3までの区間(t3を含まず)の共振回路およびインバータ回路における電流の流れを示した回路図である。
図5E図4のt3からt4までの区間(t4を含まず)の共振回路およびインバータ回路における電流の流れを示した回路図である。
図5F図4のt4からt5までの区間の共振回路およびインバータ回路における電流の流れを示した回路図である。
図6A】インバータ回路の出力電流とインバータ×モータの総合効率との関係を示すグラフである。
図6B】スイッチング素子の温度上昇値とインバータ×モータの総合効率との関係を示すグラフである。
図7】約25%負荷時のキャリア周波数変更による効率の推移を示すグラフである。
図8A図6Aの負荷42%以下の範囲でキャリア周波数を現状の25kHzから38kHzまで引き上げたとき総合効率の変化を示すグラフである。
図8B図6Bのスイッチング素子の温度上昇値が17deg以下(負荷換算で42%以下)の範囲でキャリア周波数を現状の25kHzから38kHzまで引き上げたとき総合効率の変化を示すグラフである。
図8C】同出力容量のインバータにおける共振回路損失差によるインバータ回路出力とインバータ×モータ総合効率の関係を示すグラフである。
図9A】本実施形態における共振回路に対するマイクロコンピュータの制御フローチャート。
図9B】第1変形例における共振回路に対するマイクロコンピュータの制御フローチャート。
図9C】第2変形例における共振回路に対するマイクロコンピュータの制御フローチャート。
図10】スイッチング素子にIGBTを使用したインバータ回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1)冷凍装置1の構成
図1は、本開示の一実施形態に係るインバータ装置100を備えた冷凍装置1の構成図である。図1において、冷凍装置1は、冷媒が充填された冷媒回路10を有する。冷媒回路10は、圧縮機11、放熱器13、減圧機構15および蒸発器17が環状に接続されている。本実施形態では、減圧機構15は、膨張弁である。冷凍装置1は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。
【0027】
圧縮機11から吐出された冷媒は、放熱器13において放熱する。放熱器13から流出した冷媒は、減圧機構15において減圧され、蒸発器17において蒸発する。蒸発器17から流出した冷媒は、圧縮機11に吸入される。
【0028】
インバータ装置100は、圧縮機11のモータ70を駆動するための装置である。マイクロコンピュータ42はインバータ装置100を介して圧縮機11のモータ70を制御する。
【0029】
図2は、インバータ装置100の回路ブロック図である。図2において、圧縮機11のモータ70は、3相のブラシレスDCモータであって、固定子72と、回転子71とを備えている。固定子72は、スター結線されたU相、V相およびW相の各相巻線Lu,Lv,Lwを含む。各相巻線Lu,Lv,Lwの一方端は、それぞれインバータ回路26から延びるU相、V相およびW相の各配線の各相巻線端子TU,TV,TWに接続されている。各相巻線Lu,Lv,Lwの他方端は、互いに端子TNとして接続されている。これら各相巻線Lu,Lv,Lwは、回転子71が回転することによりその回転速度と回転子71の位置に応じた誘起電圧を発生させる。
【0030】
回転子71は、N極およびS極からなる複数極の永久磁石を含み、固定子72に対し回転軸を中心として回転する。
【0031】
(2)インバータ装置100の構成
インバータ装置100は、図1に示すように、冷凍装置1に搭載されている。インバータ装置100は、図2に示すように、電源回路20、共振回路25、インバータ回路26と、ゲート駆動回路27と、マイクロコンピュータ42とで構成されている。電源回路20は、整流回路21と、コンデンサ22とで構成されている。
【0032】
(2-1)整流回路21
整流回路21は、6つのダイオードD1a,D1b,D2a,D2b,D3a,D3bによってブリッジ状に構成されている。具体的には、ダイオードD1aとD1b、ダイオードD2aとD2b、ダイオードD3aとD3bは、それぞれ互いに直列に接続されている。
【0033】
ダイオードD1a,D2a,D3aの各カソード端子は、共にコンデンサ22の正極側端子に接続されており、整流回路21の正極側出力端子として機能する。ダイオードD1b,D2b,D3bの各アノード端子は、共にコンデンサ22の負極側端子に接続されており、整流回路21の負極側出力端子として機能する。
【0034】
ダイオードD1aおよびダイオードD1bの接続点は、交流電源90のR相の出力側に接続されている。ダイオードD2aおよびダイオードD2bの接続点は、交流電源90のS相の出力側に接続されている。ダイオードD3aおよびダイオードD3bの接続点は、交流電源90のT相の出力側に接続されている。整流回路21は、交流電源90から出力される交流電圧を整流して直流電圧を生成し、これをコンデンサ22へ供給する。
【0035】
(2-2)コンデンサ22
コンデンサ22は、一端が整流回路21の正極側出力端子に接続され、他端が整流回路21の負極側出力端子に接続されている。コンデンサ22は、整流回路21によって整流された電圧とインバータ回路26のスイッチングによって生じる電圧変動を平滑するコンデンサである。以下、説明の便宜上、コンデンサ22の端子間電圧をDCバス電圧という。
【0036】
DCバス電圧は、コンデンサ22の出力側に接続されるインバータ回路26へ印加される。言い換えると、整流回路21およびコンデンサ22は、インバータ回路26に対する電源回路20を構成している。コンデンサ22には、電解コンデンサなど、インバータ仕様に適したコンデンサが適宜採用される。
【0037】
(2-3)電圧検出器23
電圧検出器23は、コンデンサ22の出力側に接続されており、コンデンサ22の両端電圧、即ちDCバス電圧の値を検出するためのものである。電圧検出器23は、例えば、互いに直列に接続された2つの抵抗がコンデンサ22に並列接続され、DCバス電圧が分圧されるように構成される。それら2つの抵抗同士の接続点の電圧値は、マイクロコンピュータ42に入力される。
【0038】
(2-4)電流検出器24
電流検出器24は、コンデンサ22およびインバータ回路26の間であって、かつコンデンサ22の負極側出力端子に接続されている。電流検出器24は、インバータ回路26の出力電流を検出する。
【0039】
電流検出器24は、例えば、シャント抵抗および該抵抗の両端の電圧を増幅させるオペアンプを用いた増幅回路で構成されてもよい。電流検出器24によって検出された電流値は、マイクロコンピュータ42に入力される。
【0040】
(2-5)インバータ回路26
インバータ回路26は、モータ70のU相、V相およびW相の各相巻線Lu,Lv,Lwそれぞれに対応する3つの上下アームが互いに並列に、且つコンデンサ22の出力側に接続されている。
【0041】
図2において、インバータ回路26は、複数のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果スイッチング素子、以下、単にスイッチング素子という)Q1a,Q1b,Q2a,Q2b,Q3a,Q3bを含む。
【0042】
本実施形態では、スイッチング素子Q1a~Q3bは、炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を含むワイドバンドギャップデバイスである。
【0043】
図2に示すように、スイッチング素子Q1a~Q3bそれぞれが、逆並列に接続されたダイオードを有している。それらはスイッチング素子Q1a~Q3bそれぞれの寄生ダイオード(ボディダイオード)であり、本実施形態では、還流ダイオードとして使用されている。
【0044】
スイッチング素子Q1aとQ1b、Q2aとQ2b、Q3aとQ3bは、それぞれ互いに直列に接続されることによって各上下アームを構成しており、それによって形成された接続点NU,NV,NWそれぞれから対応する相の各相巻線Lu,Lv,Lwに向かって出力線が延びている。
【0045】
インバータ回路26は、コンデンサ22からのDCバス電圧が印加され、かつゲート駆動回路27により指示されたタイミングで各スイッチング素子Q1a~Q3bがオンおよびオフを行うことによって、モータ70を駆動する駆動電圧SU,SV,SWを生成する。この駆動電圧SU,SV,SWは、各スイッチング素子Q1aとQ1b、Q2aとQ2b、Q3aとQ3bの各接続点NU,NV,NWからモータ70の各相巻線Lu,Lv,Lwに出力される。
【0046】
インバータ回路26には、共振回路25が接続されている。共振回路25の詳細構成については、次節(3)にて説明する。
【0047】
(2-6)ゲート駆動回路27
ゲート駆動回路27は、マイクロコンピュータ42からの指令電圧に基づき、インバータ回路26の各スイッチング素子Q1a~Q3bのオンおよびオフの状態を変化させる。具体的には、ゲート駆動回路27は、マイクロコンピュータ42によって決定されたデューティを有するパルス状の駆動電圧SU,SV,SWがインバータ回路26からモータ70に出力されるように、各スイッチング素子Q1a~Q3bのゲートに印加するゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzを生成する。生成されたゲート制御電圧Gu,Gx,Gv,Gy,Gw,Gzは、それぞれのスイッチング素子Q1a~Q3bのゲート端子に印加される。
【0048】
(2-7)マイクロコンピュータ42
マイクロコンピュータ42は、電圧検出器23、電流検出器24、およびゲート駆動回路27と接続されている。本実施形態では、マイクロコンピュータ42は、モータ70をロータ位置センサレス方式にて駆動させている。なお、ロータ位置センサレス方式に限定されるものではないので、センサ方式で行なってもよい。
【0049】
ロータ位置センサレス方式とは、モータ70の特性を示す各種パラメータ、モータ70起動後の電圧検出器23の検出結果、電流検出器24の検出結果、およびモータ70の制御に関する所定の数式モデル等を用いて、ロータ位置および回転数の推定、回転数に対するPI制御、モータ電流に対するPI制御等を行い駆動する方式である。モータ70の特性を示す各種パラメータとしては、使用されるモータ70の巻線抵抗、インダクタンス成分、誘起電圧、極数などが挙げられる。なお、ロータ位置センサレス制御については多くの特許文献が存在するので、詳細はそれらを参照されたい(例えば、特開2013-17289号公報)。
【0050】
(3)共振回路25の構成
図3は、インバータ回路26に接続される共振回路25の回路図である。図3において、上アームのスイッチング素子Q1aと下アームのスイッチング素子Q1bとが直列に接続された回路をスイッチングレグ261とよぶ。
【0051】
インバータ回路26は3つのスイッチングレグがあり、共振回路25はスイッチングレグごとに設けられている。スイッチング素子Q1aには主コンデンサC1aが並列に接続され、スイッチング素子Q1bには主コンデンサC1bが並列に接続されている。
【0052】
説明の便宜上、Q1aを第1スイッチング素子、Q1bを第2スイッチング素子、C1aを第1主コンデンサ、C1bを第2主コンデンサとよぶ。
【0053】
第1主コンデンサC1aおよび第2主コンデンサC1bそれぞれが、共振回路25の主共振回路を構成している。また、共振回路25は、第1補助回路251aと第2補助回路251bとを含んでいる。
【0054】
(3-1)第1補助回路251a
スイッチング素子SxaとリアクトルLxaとの直列回路が、第1スイッチング素子Q1aと並列に接続されている。説明の便宜上、Sxaを第1補助スイッチング素子、Lxaを第1リアクトルとよぶ。
【0055】
また、ダイオードDxaとコンデンサCxaとの直列回路が、第1リアクトルLxaと並列に接続されている。説明の便宜上、Dxaを第1ダイオード、Cxaを第1補助コンデンサとよぶ。
【0056】
さらに、第1ダイオードDxaと第1補助コンデンサCxaとの接続点と、コンデンサ22の負極端子との間にダイオードDmbが接続されている。
【0057】
(3-2)第2補助回路251b
スイッチング素子SxbとリアクトルLxbとの直列回路が、第2スイッチング素子Q1bに並列に接続されている。説明の便宜上、Sxbを第2補助スイッチング素子、Lxbを第2リアクトルとよぶ。
【0058】
また、ダイオードDxbとコンデンサCxbとの直列回路が、第2リアクトルLxbと並列に接続されている。説明の便宜上、Dxbを第2ダイオード、Cxbを第2補助コンデンサとよぶ。
【0059】
さらに、第2ダイオードDxbと第2補助コンデンサCxbとの接続点と、コンデンサ22の正極端子との間にダイオードDmaが接続されている。
【0060】
(4)共振回路25の動作
図4は、第1スイッチング素子Q1aおよび第2スイッチング素子Q1bのターンオンおよびターンオフのタイミングチャートである。図4において、t0からt2は、第1スイッチング素子Q1aがターンオフし、第2スイッチング素子Q1bがターンオンし、第2スイッチング素子Q1bに負荷電流Iが流れるまでのタイミングチャートである。
【0061】
また、t3からt5は、第2スイッチング素子Q1bがターンオフし、第1スイッチング素子Q1aがターンオンし、第1スイッチング素子Q1aに負荷電流Iが流れるまでのタイミングチャートである。
【0062】
(4-1)t0までの区間(t0を含まず)
図5Aは、図4のt0までの区間(t0を含まず)の共振回路25およびインバータ回路26における電流の流れを示した回路図である。図5Aにおいて、t0まで第1スイッチング素子Q1aに負荷電流Iが流れている。
【0063】
(4-2)t0からt1までの区間(t1を含まず)
図5Bは、図4のt0からt1までの区間(t1を含まず)の共振回路25およびインバータ回路26における電流の流れを示した回路図である。図5Bにおいて、t0で第1スイッチング素子Q1aをターンオフし、同時に第2補助スイッチング素子Sxbをターンオンする。
【0064】
第1スイッチング素子Q1aのターンオフは第1主コンデンサC1aの電圧がゼロのためゼロ電圧スイッチング(以下、ZVSという。)となる。
【0065】
このとき、第2リアクトルLxbの電流は0から上昇する。第2補助スイッチング素子Sxbのターンオン時は第2リアクトルLxbの電流がゼロのためゼロ電流スイッチング(以下、ZCSという。)となる。
【0066】
第2リアクトルLxbの電流が負荷電流Iに到達し、第1スイッチング素子Q1aの寄生ダイオードがカットオフすると、第1補助コンデンサCxa、第2リアクトルLxb、第2補助スイッチング素子SxbおよびダイオードDmbで構成する回路に第1補助コンデンサCxaの電気エネルギーが放出され部分共振電流が流れる。
【0067】
(4-3)t1からt2まで区間(t2を含まず)
図5Cは、図4のt1からt2までの区間(t2を含まず)の共振回路25およびインバータ回路26における電流の流れを示した回路図である。図5Cにおいて、第2リアクトルLxbの電流がピーク値に到達すると第2リアクトルLxbの電圧はゼロとなり、第2スイッチング素子Q1bの寄生ダイオードが導通し、第2スイッチング素子Q1bの寄生ダイオード、第2リアクトルLxb、第2補助スイッチング素子Sxbのループで還流するので、第2リアクトルLxbには、負荷電流Iに部分共振電流が重畳して流れる。この状態は第2補助スイッチング素子Sxbをターンオフするまで続く。この間において、第2スイッチング素子Q1bをターンオンする。この時点をt1とする。
【0068】
第2スイッチング素子Q1bは、負荷電流Iに部分共振電流が重畳して流れている間にターンオンするのでZVSによるターンオンとなる。また、第2スイッチング素子Q1bの寄生ダイオードがカットオフし、第2スイッチング素子Q1bの電流が上昇していくので、第2スイッチング素子Q1bのターンオンは、ZCSでもある。その後、第2補助スイッチング素子Sxbがターンオフする。この時点をt2とする。
【0069】
(4-4)t2からt3までの区間(t3を含まず)
図5Dは、図4のt2からt3までの区間(t3を含まず)の共振回路25およびインバータ回路26における電流の流れを示した回路図である。図5Dにおいて、第2補助スイッチング素子Sxbをターンオフすると、第2リアクトルLxbの電流は、第2リアクトルLxbと第2補助コンデンサCxbとの部分共振電流となり第2補助コンデンサCxbを充電する。
【0070】
第2補助コンデンサCxbの電圧はゼロのため、第2補助スイッチング素子SxbのターンオフはZVSである。
【0071】
第2スイッチング素子Q1bの寄生ダイオードは導通しているので、第2リアクトルLxbの電流は減少する。負荷電流Iは、第2スイッチング素子Q1bに流れ、第2スイッチング素子Q1bは動作状態となる。
【0072】
(4-5)t3からt4までの区間(t4を含まず)
図5Eは、図4のt3からt4までの区間(t4を含まず)の共振回路25およびインバータ回路26における電流の流れを示した回路図である。図5Eにおいて、t3で第2スイッチング素子Q1bをターンオフし、同時に第1補助スイッチング素子Sxaをターンオンする。
【0073】
第2スイッチング素子Q1bのターンオフは第2主コンデンサC1bの電圧がゼロのためZVSとなる。
【0074】
このとき、第1リアクトルLxaの電流は0から上昇する。第1補助スイッチング素子Sxaのターンオン時は第1リアクトルLxaの電流がゼロのためZCSとなる。
【0075】
第1リアクトルLxaの電流がIに到達し、第2スイッチング素子Q1bの寄生ダイオードがカットオフすると、第2補助コンデンサCxb、第1リアクトルLxa、第1補助スイッチング素子SxaおよびダイオードDmaで構成する回路に第2補助コンデンサCxbの電気エネルギーが放出され部分共振電流が流れる。
【0076】
(4-6)t4からt5まで区間
図5Fは、図4のt4からt5までの区間の共振回路25およびインバータ回路26における電流の流れを示した回路図である。図5Fにおいて、第1リアクトルLxaの電流がピーク値に到達すると第1リアクトルLxaの電圧はゼロとなり、第1スイッチング素子Q1aの寄生ダイ―ドが導通し、第1スイッチング素子Q1aの寄生ダイ-ド、第1リアクトルLxa、第1補助スイッチング素子Sxaのループで還流するので、第1リアクトルLxaには、負荷電流Iに部分共振電流が重畳して流れる。この状態は第1補助スイッチング素子Sxaをターンオフするまで続く。この間において、第1スイッチング素子Q1aをターンオンする。この時点をt4とする。
【0077】
第1スイッチング素子Q1aは、負荷電流Iに部分共振電流が重畳して流れている間にターンオンするのでZVSによるターンオンとなる。また、第1スイッチング素子Q1aの寄生ダイオードがカットオフし、第1スイッチング素子Q1aの電流が上昇していくので、第2スイッチング素子Q1bのターンオンは、ZCSでもある。その後、第1補助スイッチング素子Sxaがターンオフする。この時点をt5とする。
【0078】
上記の通り、第1スイッチング素子Q1aおよび第2スイッチング素子Q1bがターンオンおよびターンオフするときに、共振回路25によって共振現象を発生させてZCSまたはZVSを実現している(以下、「ソフトスイッチング」という)。その結果、スイッチング損失が低減される。
【0079】
(5)ソフトスイッチングのデメリットとその対策
図1に示す冷凍装置1では、インバータ装置100のスイッチング素子Q1a~Q3bのスイッチング動作時にソフトスイッチングを適用することによって、インバータ装置100によって駆動されるモータ70のピーク効率が改善される。
【0080】
図6Aは、インバータ回路26の出力電流とインバータ×モータの総合効率との関係を示すグラフである。図6Aでは、インバータ回路26にかかる負荷をインバータ回路26の出力電流で代用している。インバータ回路26の出力電流は、インバータ回路26の出力電力で代用することもできる。
【0081】
図6Bは、スイッチング素子Q1a~Q3bの温度上昇値とインバータ×モータの総合効率との関係を示すグラフである。図6Bでは、インバータ回路26にかかる負荷をスイッチング素子Q1a~Q3bの温度上昇値で代用している。
【0082】
(5-1)ソフトスイッチングのデメリット
図6Aにおいて、インバータ回路26の出力電流(または出力電力)が、インバータ回路26の定格出力電流(または定格出力電力)の42%以下になると、ソフトスイッチングを実施したときの総合効率はソフトスイッチングを停止したときの総合効率よりも低くなっている。
【0083】
同様に、図6Bにおいて、スイッチング素子の温度上昇値が17deg以下(負荷換算で42%以下)になると、ソフトスイッチングを実施したときの総合効率はソフトスイッチングを停止したときの総合効率よりも低くなっている。
【0084】
これは、ソフトスイッチングがベース負荷となるため、インバータ回路26にかかる負荷が42%以下になると、共振回路25における消費エネルギーがインバータ回路26における消費エネルギーを上回るので逆に効率が悪化する。
【0085】
(5-2)対策1
図6Aおよび図6Bから考察すると、インバータ回路26の出力電流または出力電力が42%以下になったとき、或いはスイッチング素子の温度上昇値が17deg以下(負荷換算で42%以下)になったときにソフトスイッチングを停止すれば、総合効率が改善される。
【0086】
本実施形態では、図2に示すように電流検出器24によってインバータ回路26の電流が検出され、その検出値がマイクロコンピュータ42に入力されている。マイクロコンピュータ42は、インバータ回路26の出力電流が42%以下になったと判断したときは、第1補助スイッチング素子Sxaおよび第2補助スイッチング素子Sxbをオフ状態にして、共振回路25の動作を停止する。これによって、総合効率が改善される。
【0087】
(5-3)対策2
図7は、約25%負荷時のキャリア周波数変更による効率の推移を示すグラフである。図7において、キャリア周波数を増加させることによって、モータ効率は徐々に上昇し、インバータ効率は直線的に減少する。モータ効率とインバータ効率とを合わせた総合効率は30kHz~46kHzの範囲でピークとなる。
【0088】
それゆえ、本実施形態では、マイクロコンピュータ42は、インバータ回路26の出力電流が42%以下になったと判断したときは、対策1(共振回路25の動作を停止する)だけでなく、キャリア周波数を現状の25Hzから38Hzまで引き上げることによって、総合効率を改善している。
【0089】
また、本実施形態では、スイッチング素子Q1a~Q3bは、炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を含むワイドバンドギャップデバイスである。例えば、スイッチング素子Q1a~Q3bにIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)を用いると、テール電流の影響でキャリア周波数を上げるのは好ましくないが、MOSFETおよびワイドバンドギャップデバイスは、キャリア周波数を増加させることができる上に、ソフトスイッチング実施時のスイッチング損失の低減効果が高い。
【0090】
(5-4)効果の確認
図8Aは、図6Aの負荷42%以下の範囲でキャリア周波数を現状の25kHzから38kHzまで引き上げたとき総合効率の変化を示すグラフである。同様に、図8Bは、図6Bのスイッチング素子の温度上昇値が17deg以下(負荷換算で42%以下)の範囲でキャリア周波数を現状の25kHzから38kHzまで引き上げたとき総合効率の変化を示すグラフである。
【0091】
図8Aおよび図8Bにおいて、負荷42%以下の範囲で総合効率の改善が見られ、最大で15%も総合効率が向上する。
【0092】
図8Cは、同出力容量のインバータにおける共振回路損失差によるインバータ回路出力とインバータ×モータ総合効率の関係を示すグラフである。
【0093】
共振回路25のスイッチング素子Q1a~Q3bやリアクトルLxの損失は回路設計によって異なり、共振回路25の損失が増加するとインバータ回路26に対して共振回路25の損失割合が増加する。
【0094】
図8Cにおいて共振回路の設計値を最適に設計した場合、総合効率の分岐点は25%付近で切り換えるのが最適であるが、共振回路を最適に比べ損失150%で設計した場合、総合効率の分岐点は80%付近で切り換えるのが最適である。
【0095】
このように共振回路の損失が異なる場合にソフトスイッチング実施時とソフトスイッチング停止時のインバータ×モータ総合効率を比較して効果が逆転する電流または電力の比率が異なる。
【0096】
そのため、インバータ×モータ総合効率を最適するためには、共振回路の設計値によってソフトスイッチングを停止する比率の各所定値を決定する。
【0097】
共振回路25の設計値は回路部品の選定によって異なるため、総合効率が分岐する定格に対する電流または電力の比率25%以上80%以下の範囲で所定値を決定する。
【0098】
また部品精度や温度などの環境要因による回路設計のばらつきを考慮した最適な所定値としてもよい。
【0099】
(5-4-1)共振回路25の停止制御
それゆえ、本実施形態では、マイクロコンピュータ42は、共振回路25の動作と停止とを図9Aに示すフローチャートに沿って切り換えている。
【0100】
(ステップS1)
マイクロコンピュータ42は電流検出器24を介してインバータ回路26の電流値Ixを取得する。
【0101】
(ステップS2)
次に、マイクロコンピュータ42は、取得した電流値Ixがインバータの定格電流値Iaに対して所定値Ra%以下か否を判定する。100(Ix/Ia)≦RaのときはステップS3へ進み、100(Ix/Ia)>RaのときはステップS1へ戻る。本実施形態では、Ra=42である。
【0102】
(ステップS3)
次に、マイクロコンピュータ42は、共振回路25の第1補助スイッチング素子Sxaおよび第2補助スイッチング素子Sxbの双方をオフ状態にし、共振回路25の動作を停止する。
【0103】
(ステップS4)
マイクロコンピュータ42は、インバータ回路26のキャリア周波数を上げる。本実施形態では、キャリア周波数を25kHzから38kHzへ上げる。
【0104】
(5-4-2)共振回路25の停止制御の第1変形例
負荷をインバータ回路26の出力電力で代用する場合は、共振回路25の動作と停止とを図9Bに示すフローチャートに沿って切り換える。
【0105】
(ステップS11)
マイクロコンピュータ42は電圧検出器23および電流検出器24を介してインバータ回路26の電圧値および電流値を取得し、電力値Wxを算出する。
【0106】
(ステップS12)
次に、マイクロコンピュータ42は、算出した電力値Wxが定格負荷時の電力値Waに対して所定値Rb%以下か否を判定する。100(Wx/Wa)≦RbのときはステップS13へ進み、100(Wx/Wa)>RbのときはステップS11へ戻る。本実施形態では、Rb=42である。
【0107】
(ステップS13)
次に、マイクロコンピュータ42は、共振回路25の第1補助スイッチング素子Sxaおよび第2補助スイッチング素子Sxbの双方をオフ状態にし、共振回路25の動作を停止する。
【0108】
(ステップS14)
マイクロコンピュータ42は、インバータ回路26のキャリア周波数を上げる。本実施形態では、キャリア周波数を25kHzから38kHzへ上げる。
【0109】
(5-4-3)共振回路25の停止制御の第2変形例
負荷をインバータ回路26のスイッチング素子Q1a~Q3bの温度上昇で代用する場合は、共振回路25の動作と停止とを図9Cに示すフローチャートに沿って切り換える。
【0110】
(ステップS21)
マイクロコンピュータ42は温度センサを介してインバータ回路26のスイッチング素子の温度を測定する。スイッチング素子Q1a~Q3bの温度は、周囲温度に対するスイッチング素子のパッケージの温度上昇値Txを算出する。
【0111】
(ステップS22)
次に、マイクロコンピュータ42は、算出した温度上昇値Txが所定値Tr以下か否を判定する。Tx≦TrのときはステップS23へ進み、Tx>TrのときはステップS21へ戻る。本実施形態では、Tr=17(deg)である。
【0112】
(ステップS23)
次に、マイクロコンピュータ42は、共振回路25の第1補助スイッチング素子Sxaおよび第2補助スイッチング素子Sxbの双方をオフ状態にし、共振回路25の動作を停止する。
【0113】
(ステップS24)
マイクロコンピュータ42は、インバータ回路26のキャリア周波数を上げる。本実施形態では、キャリア周波数を25kHzから38kHzへ上げる。
【0114】
(6)特徴
(6-1)
インバータ回路26におけるスイッチング損失は共振回路25の動作によって低減されるが、インバータ回路26にかかる負荷が所定値以下になると、共振回路25における消費エネルギーがインバータ回路26における消費エネルギーを上回るので逆に効率が悪化する。それゆえ、このインバータ装置100では、負荷が所定値以下のときに共振回路25の動作を停止させて、インバータ装置100全体での効率を向上させる。
【0115】
(6-2)
インバータ回路26にかかる負荷の増減は、インバータ回路26の出力電流の増減となって現れるので、マイクロコンピュータ42は、全負荷時の出力電流に対する電流検出器24の検出値の比率が所定値以下のとき共振回路25の動作を停止させる。
【0116】
(6-3)
インバータ回路26にかかる負荷の増減は、インバータ回路26の出力電力の増減となって現れるので、マイクロコンピュータ42は、電圧検出器23および電流検出器24の各検出値からインバータ回路26の出力電力を算出し、定格負荷時の出力電力に対するその算出値の比率が所定値以下のとき共振回路25の動作を停止させる。
【0117】
(6-4)
インバータ回路26にかかる負荷の増減は、インバータ回路26のスイッチング素子Q1a~Q3bの温度の増減となって現れるので、マイクロコンピュータ42は、スイッチング素子Q1a~Q3bのパッケージの表面温度を取得し、その表面温度と周囲温度との差を温度上昇値として算出し、その算出値が所定値以下のとき共振回路25の動作を停止させる。
【0118】
(6-5)
インバータ回路26の定格出力電流を100%とした場合、第1所定値は、25%~80%の間で設定される。
【0119】
(6-6)
インバータ回路26の定格出力電力を100%とした場合、第2所定値は、25%~80%の間で設定される。
【0120】
(6-7)
マイクロコンピュータ42は、共振回路25の動作を停止させた後のキャリア周波数を、共振回路25を動作させているときよりも高く設定する。インバータ回路26にかかる負荷が所定値以下で、かつ共振回路25の動作で達成できない周波数駆動範囲で、インバータ回路26が動作することによって、インバータ装置100およびモータ70の全体での効率が向上する。
【0121】
(6-8)
インバータ回路26のスイッチング素子Q1a~Q3bが、炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を含むワイドバンドギャップデバイスである。それゆえ、スイッチング素子Q1a~Q3bの損失低減の効果が高まる。
【0122】
(6-9)
インバータ回路26が、上アームを構成する第1スイッチング素子Q1aと、下アームを構成する第2スイッチング素子Q1bとが直列に接続されたスイッチングレグ261を含む。また、共振回路25は、第1補助回路251aと、第2補助回路251bとを含む。第1補助回路251aは、第1補助スイッチング素子Sxaに、第1リアクトルLxa、第1ダイオードDxaおよび第1補助コンデンサCxaそれぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、インバータ回路26の第1スイッチング素子Q1aと並列に接続されている。
【0123】
第2補助回路251bは、第2補助スイッチング素子Sxbに、第2リアクトルLxb、第2ダイオードDxbおよび第2補助コンデンサCxbそれぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、インバータ回路26の第2スイッチング素子Q1bと並列に接続されている。
【0124】
(6-10)
第1スイッチング素子Q1aおよび第2スイッチング素子Q1bが、MOSFETである。第1スイッチング素子Q1aの寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用される。また、第2スイッチング素子Q1bの寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用される。
【0125】
(6-11)
第1補助回路251aでは、第1補助スイッチング素子Sxaと第1リアクトルLxaとが直列接続され、第1ダイオードDxaのアノードに第1補助コンデンサCxaの一端が接続された回路が第1リアクトルLxaに並列接続されている。
【0126】
第2補助回路251bでは、第2補助スイッチング素子Sxbと第2リアクトルLxbとが直列接続され、第2ダイオードDxbのカソードに第2補助コンデンサCxbの一端が接続された回路が第2リアクトルLxbに並列接続されている。マイクロコンピュータ42は、第1スイッチング素子Q1aのオフ時に、第2補助スイッチング素子Sxbをオンし、第1補助コンデンサCxaを放電させてから第2スイッチング素子Q1bをオンする。
【0127】
(6-12)
冷凍装置1は、インバータ装置100と、インバータ装置100により駆動されるモータとを備えたモータ駆動装置を搭載している。
【0128】
(7)その他
本実施形態では、スイッチング素子Q1a~Q3bは、MOSFET、またはワイドバンドギャップデバイスであるが、キャリア周波数を本実施形態ほどに上げないならばIGBTを使用することができる。
【0129】
但し、IGBTを使用する場合、図10に示すように、第1スイッチング素子Q1aに第1還流ダイオードD11aが逆並列に接続され、第2スイッチング素子Q1bに第2還流ダイオードD11bが逆並列に接続される。
【0130】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0131】
1 冷凍装置
25 共振回路
26 インバータ回路
42 マイクロコンピュータ(制御部)
70 モータ
100 インバータ装置
251a 第1補助回路
251b 第2補助回路
261 スイッチングレグ
Cxa 第1補助コンデンサ(第1コンデンサ)
Cxb 第2補助コンデンサ(第2コンデンサ)
D11a 第1還流ダイオード
D11b 第2還流ダイオード
Dxa 第1ダイオード
Dxb 第2ダイオード
Lxa 第1リアクトル
Lxb 第2リアクトル
Q1a 第1スイッチング素子
Q1b 第2スイッチング素子
Sxa 第1補助スイッチング素子
Sxb 第2補助スイッチング素子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0132】
【特許文献1】特開平8-149854号公報
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振回路(25)が接続されたインバータ回路(26)と、
前記インバータ回路(26)にかかる負荷を、直接または間接的に検出する検出部と、
前記検出部の検出値が所定値以下のとき前記共振回路(25)の動作を停止させる制御部(42)と、
を備え
前記インバータ回路(26)は、
上アームを構成する第1スイッチング素子(Q1a)と、
下アームを構成する第2スイッチング素子(Q1b)と、
が直列に接続されたスイッチングレグ(261)を含み、
前記共振回路(25)は、
前記インバータ回路(26)の前記第1スイッチング素子(Q1a)と並列に接続された第1補助回路(251a)と、
前記インバータ回路(26)の前記第2スイッチング素子(Q1b)と並列に接続された第2補助回路(251b)と、
を含む、
インバータ装置(100)。
【請求項2】
前記検出部は、前記インバータ回路(26)の出力電流を検出し、
前記制御部(42)は、前記出力電流の検出値が第1所定値以下のとき、前記共振回路(25)の動作を停止させる、
請求項1に記載のインバータ装置(100)。
【請求項3】
前記検出部は、前記インバータ回路(26)の出力電力を検出し、
前記制御部(42)は、前記出力電力の検出値が第2所定値以下のとき、前記共振回路(25)の動作を停止させる、
請求項1に記載のインバータ装置(100)。
【請求項4】
前記検出部は、前記インバータ回路(26)のスイッチング素子の温度を検出し、
前記制御部(42)は、前記温度の検出値が第3所定値以下のとき、前記共振回路(25)の動作を停止させる、
請求項1に記載のインバータ装置(100)。
【請求項5】
前記インバータ回路(26)の定格出力電流を100%とした場合、前記第1所定値は、25%~80%の間で設定される、
請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記インバータ回路(26)の定格出力電力を100%とした場合、前記第2所定値は、25%から80%の間で設定される、
請求項3に記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記制御部(42)は、前記インバータ回路(26)のキャリア周波数を決定し、
さらに前記制御部(42)は、前記共振回路(25)の動作を停止させた後の前記キャリア周波数を、前記共振回路(25)を動作させているときよりも高く設定する、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)。
【請求項8】
前記インバータ回路(26)のスイッチング素子は、炭化ケイ素(SiC)または窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を含むワイドバンドギャップデバイスである、
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)。
【請求項9】
前記第1補助回路(251a)は、第1補助スイッチング素子(Sxa)に、第1リアクトル(Lxa)、第1ダイオード(Dxa)および第1コンデンサ(Cxa)それぞれが1つ以上組み合わされた回路であり、
前記第2補助回路(251b)は、第2補助スイッチング素子(Sxb)に、第2リアクトル(Lxb)、第2ダイオード(Dxb)および第2コンデンサ(Cxb)それぞれが1つ以上組み合わされた回路であ
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)。
【請求項10】
前記インバータ回路(26)は、
前記第1スイッチング素子(Q1a)と並列に接続される第1還流ダイオード(D11a)と、
前記第2スイッチング素子(Q1b)と並列に接続される第2還流ダイオード(D11b)と、
をさらに含む、
請求項9に記載のインバータ装置(100)。
【請求項11】
前記第1スイッチング素子(Q1a)および前記第2スイッチング素子(Q1b)は、MOSFETであり、
前記第1スイッチング素子(Q1a)の寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用され、
前記第2スイッチング素子(Q1b)の寄生ダイオードが、還流ダイオードとして使用される、
請求項9に記載のインバータ装置(100)。
【請求項12】
前記第1補助回路(251a)では、前記第1補助スイッチング素子(Sxa)と前記第1リアクトル(Lxa)とが直列接続され、前記第1ダイオード(Dxa)のアノードに前記第1コンデンサ(Cxa)の一端が接続された回路が前記第1リアクトル(Lxa)に並列接続され、
前記第2補助回路(251b)では、前記第2補助スイッチング素子(Sxb)と前記第2リアクトル(Lxb)とが直列接続され、前記第2ダイオード(Dxb)のカソードに前記第2コンデンサ(Cxb)の一端が接続された回路が前記第2リアクトル(Lxb)に並列接続され、
前記制御部(42)は、前記第1スイッチング素子(Q1a)のオフ時に、前記第2補助スイッチング素子(Sxb)をオンし、前記第1コンデンサ(Cxa)を放電させてから前記第2スイッチング素子(Q1b)をオンする、
請求項10に記載のインバータ装置(100)。
【請求項13】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ装置(100)と、
前記インバータ装置(100)により駆動されるモータ(70)と、
を備えた、
モータ駆動装置。
【請求項14】
共振回路(25)が接続されたインバータ回路(26)と、
前記インバータ回路(26)にかかる負荷を、直接または間接的に検出する検出部と、
前記検出部の検出値が所定値以下のとき前記共振回路(25)の動作を停止させる制御部(42)と、
を含むインバータ装置(100)を備えた、
冷凍装置。