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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146844
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ホウ酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/02 20060101AFI20241004BHJP
   C01B 35/12 20060101ALI20241004BHJP
   D06M 11/82 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09K21/02
C01B35/12 A
D06M11/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050031
(22)【出願日】2024-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2023058611
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002033
【氏名又は名称】弁理士法人東名国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗木 茂
(72)【発明者】
【氏名】大塚 洋之
(72)【発明者】
【氏名】市川 菜奈絵
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓弥
【テーマコード(参考)】
4H028
4L031
【Fターム(参考)】
4H028AA06
4H028AA09
4H028AB04
4H028BA04
4L031AB31
4L031BA21
4L031DA16
(57)【要約】
【課題】製造時の作業性が良く、製造後の保存安定性が高いホウ酸塩の製造方法を提供する。
【解決手段】水100質量部に対して、ホウ酸X質量部と炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム塩の少なくとも一方の炭酸化合物Y質量部とを反応させて(但し、ナトリウム(Na)元素とホウ素元素(B)のモル比率Na/Bは0.15<Na/B<0.47)、ホウ酸塩の水溶液を作製する(Xは、5~50を満たし、Yは、1~18を満たす。)、内装材の表面に塗布する難燃剤用であるホウ酸塩の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水100質量部に対して、ホウ酸X質量部と炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも一方の炭酸化合物Y質量部とを反応させて(但し、ナトリウム(Na)元素とホウ素元素(B)のモル比率Na/Bは0.15<Na/B<0.47)、ホウ酸塩の水溶液を作製する、内装材の表面に塗布する難燃剤用であるホウ酸塩の製造方法。
Xは、5~50を満たし、Yは、1~18を満たす。
【請求項2】
ホウ酸と炭酸化合物とを15~90℃で1~24時間反応させる、請求項1に記載のホウ酸塩の製造方法。
【請求項3】
炭酸化合物が、炭酸ナトリウムである、請求項1または2に記載のホウ酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ酸塩の製造方法に関し、製造時の作業性が良く、製造後の保存安定性が高いホウ酸塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶、航空機等のフロアに敷くカーペットなどの敷物、建築物の敷物、壁材等に内装材が使用されている。この内装材は、難燃性や耐火性を有することが求められ、内装材にこれらの性能を付与するために難燃剤が使用されている。
【0003】
そして、例えば、建築物の内装材では、日本工業規格JIS L 1021、JIS L 1091等にその基準が定められており、この基準を満たす必要がある。
【0004】
難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン系難燃剤、ホウ素系難燃剤(ホウ酸系難燃剤)、シリコン系難燃剤などが知られている。
【0005】
これらの中でも、ホウ酸系難燃剤としては、ホウ酸ナトリウムなどのホウ酸塩を含むものが知られており(例えば、特許文献1参照)、最近では、ホウ酸系難燃剤の中には、主にセルロース系材料に対して有効な難燃剤(例えば、商品名「SOUFA」)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-112700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のホウ素化合物の水溶液は、製造時に金属水酸化物を使用するため潮解性等の取扱い性が十分ではなく製造時における作業性が十分ではなく、更に、製造後の保管時において析出物が確認され、製造後における保存安定性について未だに改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記の従来技術における問題に鑑み、製造時の作業性が良く、製造後の保存安定性が高いホウ酸塩の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した従来の課題に鑑みて種々検討を重ねた結果、ホウ酸と炭酸化合物を所定の割合で反応させることによって、製造後において析出物が確認され難くなり保存安定性が高くなるという効果を奏することを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のホウ酸塩の製造方法を提供するものである。
【0011】
[1] 水100質量部に対して、ホウ酸X質量部と炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも一方の炭酸化合物Y質量部とを反応させて(但し、ナトリウム(Na)元素とホウ素元素(B)のモル比率Na/Bは0.15<Na/B<0.47)、ホウ酸塩の水溶液を作製する、内装材の表面に塗布する難燃剤用であるホウ酸塩の製造方法。
Xは、5~50を満たし、Yは、1~18を満たす。
【0012】
[2] ホウ酸と炭酸化合物とを15~90℃で1~24時間反応させる、前記[1]に記載のホウ酸塩の製造方法。
【0013】
[3] 炭酸化合物が、炭酸ナトリウムである、前記[1]または[2]に記載のホウ酸塩の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のホウ酸塩の製造方法によれば、製造時の作業性が良く、製造後の保存安定性が高いホウ酸塩を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に従って、以下の実施の形態を適宜変更、改良などを加えたものも、本発明の範囲に入るものと理解されるべきものである。
【0016】
(1)ホウ酸塩の製造方法:
本発明のホウ酸塩の製造方法は、水100質量部に対して、ホウ酸X質量部と炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも一方の炭酸化合物Y質量部とを反応させて(但し、ナトリウム(Na)元素とホウ素元素(B)のモル比率Na/Bは0.15<Na/B<0.47)、ホウ酸塩の水溶液を作製する、内装材の表面に塗布する難燃剤用であるホウ酸塩(ホウ酸塩水溶液)を製造する方法である。
Xは、5~50を満たし、Yは、1~18を満たす。
【0017】
このホウ酸塩の製造方法によれば、製造時の作業性が良く、製造後の保存安定性が高いホウ酸塩(ホウ酸塩水溶液)を製造することができる。つまり、製造時において、潮解性等の取扱い性が十分でない金属水酸化物を使用しないので製造時における作業性が良い。更に、製造後の保管時において析出物が確認され難く、製造後における保存安定性が高いホウ酸塩(ホウ酸塩水溶液)を製造することができる。
【0018】
内装材は、建材における壁材、天井材などの化粧材であり、この内装材に本発明で製造したホウ酸塩(ホウ酸塩水溶液)を塗布することで当該内装材に難燃性を持たせることができる。
【0019】
ここで、難燃性とは、火炎を当てると火が付くが、火炎を遠ざけるとすぐに自己消火する性質をいい、規格としては、例えば米国の「Underwriter’s Laboratoies, Inc.」が制定した94V(Vertical testing)及び94VTM(Vertical testing for Thin Materials)がある。
【0020】
なお、最近では、紙モールド材からなる天井材などの建材が知られており、このような紙モールド材に難燃性を付与するものとして、本発明で製造したホウ酸塩を使用することができる。例えば、紙モールド材の製造に際して、本発明で製造したホウ酸塩(ホウ酸塩水溶液)を塗布することで、紙モールド材の表面に難燃性の層を形成することができる。
【0021】
紙モールド材は、古紙などの紙材料を主原料として含有するものであり、更に、必要に応じてカーボンなどを含むものである。紙モールド材は、モールド成形品である。
【0022】
本発明で製造されるホウ酸塩は、水溶性のものである。このように、水溶性のホウ酸塩は、ホウ酸塩水溶液とすることができ、紙モールド材などの内装材にスプレーなどを用いて塗布し易いものである。
【0023】
本発明においては、ホウ酸と炭酸化合物との反応条件は特に制限はなく適宜設定することができるが、例えば、15~90℃で1~24時間反応させることができる。このような反応条件を採用することによって、製造後における保存安定性がより高いホウ酸塩を製造することができる。この反応条件は、40~80℃で3~24時間とすることがよく、60~70℃で5~24時間とすることが好ましい。
【0024】
炭酸化合物は、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの少なくとも一方の化合物である。
【0025】
炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの中でも、炭酸ナトリウムであることがよく、炭酸ナトリウムを用いると、水に対する溶解度が向上しコストも安くなる。
【0026】
この炭酸化合物は、ホウ素などの金属水酸化物のような潮解性が低く、その取扱い性が良いものである。そのため、本発明の製造方法は、製造時における作業性が良い。
【0027】
ホウ酸は、所定の配合割合(X質量部)で配合する必要がある。具体的には、5~50質量部であり、40~50質量部であることが好ましい。
【0028】
炭酸化合物は、所定の配合割合(Y質量部)で配合する必要がある。具体的には、1~18質量部であり、1~12質量部であることが好ましく、9~12質量部であることが更に好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例、比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
容量100mLのビーカーに、ホウ酸50gと炭酸ナトリウム12gを添加した。その後、水100gを上記ビーカーに入れ、撹拌しながらホットスターラーで加熱した。70℃に到達したところで、その温度(70℃)を維持しつつ2時間攪拌を続けた。その後、放冷して液温が40℃以下になったところで、上記ビーカーからサンプル瓶(容量100mL)に移した。このようにしてホウ酸塩の水溶液を作製した。また、この製造時に金属水酸化物を使用しないため潮解がなく取扱い性が向上し、製造時における作業性が十分であった(表1中、「OK」と示す)。
【0031】
このようにして作製したホウ酸塩の水溶液は、内装材の表面に塗布する難燃剤用の難燃成分として使用することができる。
【0032】
(保存安定性)
作製したホウ酸塩水溶液について、サンプル瓶に入れた状態にて20℃で60日間保管を行った。その際、適宜、析出物の有無を目視にて確認し、ホウ酸塩水溶液の保存安定性について評価を行った。本評価では、保存期間7日の段階でサンプル瓶内における結晶の有無を目視で確認したところ、結晶は確認されなかった(表1中、「OK」と示す)。そのため、本実施例のホウ酸塩水溶液は保存安定性が良好であることが分かる。保存期間7日の段階でサンプル瓶内における結晶が確認された場合を「NG」と示す。評価結果を表1に示す。
【0033】
なお、表1中、ナトリウム(Na)元素のモル数は、炭酸ナトリウムの場合は、式:(Y(g)/105.99)×2によって算出した。炭酸水素ナトリウムの場合は、式:(Y(g)/84.01)×1によって算出した。また、ホウ素(B)元素のモル数は、式:X(g)/61.83によって算出した。
【0034】
更に、「保存安定性」について「OK」及び「NG」の2段階評価に加えて、以下のA~Dの4段階評価を行った。A~Cは「OK」評価、Dは「NG」評価である。
A:サンプル瓶内における結晶が60日以上確認されなかった場合
B:サンプル瓶内における結晶が30日以上60日未満の期間で確認された場合
C:サンプル瓶内における結晶が7日以上30日未満の期間で確認された場合
D:サンプル瓶内における結晶が7日未満の期間で確認された場合
【0035】
(実施例2~27、比較例1~9)
表1に示すようにホウ酸及び炭酸化合物の種類、配合量を変えたこと以外は、実施例1と同様にしてホウ酸塩の水溶液を作製した。その後、保存安定性の評価を行った。評価結果を表1~表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1~表2に示すように実施例1~27及び比較例1~9の結果から、本発明の製造方法によれば、製造時における作業性が十分であり、更に、製造後の保存安定性が高いホウ酸塩水溶液を作製することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、壁材や天井材などの建材における内装材に使用する難燃剤用であるホウ酸塩水溶液を製造することができる。