(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146854
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ガス分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/22 20060101AFI20241004BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20241004BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20241004BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20241004BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D71/70 500
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024050681
(22)【出願日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2023058564
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100206324
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 明子
(72)【発明者】
【氏名】山口 修平
(72)【発明者】
【氏名】並川 敬
(72)【発明者】
【氏名】山内 昭佳
(72)【発明者】
【氏名】岸川 洋介
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006JA57Z
4D006KA52
4D006KA53
4D006KA55
4D006KA56
4D006KE02Q
4D006KE06R
4D006KE07Q
4D006KE13P
4D006KE14P
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4D006MA06
4D006MA21
4D006MA22
4D006MA31
4D006MC01
4D006MC03
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC58
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC65
4D006MC87
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】本開示は、フルオロカーボンの新たな分離方法を提供することを目的とする。
【解決手段】互いに分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、多孔膜に供給して、前記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離することを含み、
前記多孔膜は、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、フルオロカーボンガスの分離方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、多孔膜に供給して、前記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離することを含み、
前記多孔膜は、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、フルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項2】
前記アモルファスシリカは、式:-Si-O-Si-で表される単位を含む、請求項1に記載のフルオロカーボンの分離方法。
【請求項3】
前記アモルファスシリカは、テトラアルコキシシランを原料として、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項4】
前記多孔膜の平均細孔径は、2Å以上10Å以下である、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項5】
前記1種のフルオロカーボンガスの分子径は、2Å以上7Å以下である、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項6】
前記1種のフルオロカーボンガスの分子径と、それ以外のフルオロカーボンガスの分子径との差は、0.1Å以上3Å以下である、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項7】
前記混合ガスの前記多孔膜への供給は、20℃以上300℃以下の温度で実施される、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項8】
前記混合ガスの前記多孔膜への供給は、0.1MPa以上の差圧下で実施される、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項9】
前記多孔膜は、多孔質支持体をさらに含む、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項10】
前記フルオロカーボン混合ガスは、ジフルオロメタンおよびペンタフルオロエタンを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項11】
前記混合ガスを前記多孔膜に供給することは、前記混合ガスの少なくとも一部を前記多孔膜に透過させることを含む、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
【請求項12】
多孔膜を備え、
前記多孔膜は、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離するゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス分離方法および分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボンの分離方法として、フルオロカーボンの混合物を蒸留する方法が知られている。特許文献1には、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびヘキサフルオロプロペンを含む混合物と、抽出溶剤とを混合して抽出用混合物を得た後、かかる抽出用混合物を蒸留して、ヘキサフルオロプロペンを主成分とする留出物と、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む留出物とを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、フルオロカーボンの新たな分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の態様を提供する。
[1]
互いに分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、多孔膜に供給して、前記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離することを含み、
前記多孔膜は、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、フルオロカーボンガスの分離方法。
[2]
前記アモルファスシリカは、式:-Si-O-Si-で表される単位を含む、[1]に記載のフルオロカーボンの分離方法。
[3]
前記アモルファスシリカは、テトラアルコキシシランを原料として、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、[1]または[2]に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[4]
前記多孔膜の平均細孔径は、2Å以上10Å以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[5]
前記1種のフルオロカーボンガスの分子径は、2Å以上7Å以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[6]
前記1種のフルオロカーボンガスの分子径と、それ以外のフルオロカーボンガスの分子径との差は、0.1Å以上3Å以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[7]
前記混合ガスの前記多孔膜への供給は、20℃以上300℃以下の温度で実施される、[1]~[6]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[8]
前記混合ガスの前記多孔膜への供給は、0.1MPa以上の差圧下で実施される、[1]~[7]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[9]
前記多孔膜は、多孔質支持体をさらに含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[10]
前記フルオロカーボン混合ガスは、ジフルオロメタンおよびペンタフルオロエタンを含む、[1]~[9]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[11]
前記混合ガスを前記多孔膜に供給することは、前記混合ガスの少なくとも一部を前記多孔膜に透過させることを含む、[1]~[10]のいずれか1つに記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
[12]
多孔膜を備え、
前記多孔膜は、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離するゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、分離装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によればフルオロカーボンの新たな分離方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の1つの実施形態における分離装置を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第一実施形態:ガス分離方法)
本開示のガス分離方法は、
互いに分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、多孔膜に供給して、前記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスを分離することを含み、
前記多孔膜は、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む。
【0009】
本開示は、フルオロカーボンの新たな分離方法および分離装置を提供することができる。フルオロカーボンは混合ガスとして冷媒などの用途に用いられており、蒸留による分離が試みられているが、蒸留はエネルギー負荷が大きく、また、共沸などのために分離が困難であった。加えて、各種のフルオロカーボンは、分子径の差が小さいため膜分離でも効率的に分離再生することが容易ではなかった。
【0010】
フルオロカーボンの分離方法としては、例えば、特開平1-42444号公報に記載されるように、シリコーン樹脂を用いた方法、Journal of Membrane Science 652 (2022) 120467に記載されるように、フッ素系樹脂を用いる方法も知られている。しかしながら、これらの方法では、分離対象となるガスが膜そのものに溶け込む溶解拡散効果を利用して分離しており、分離媒体の細孔の影響は小さい。本開示における分離方法は、分離媒体であるアモルファスシリカの細孔にフルオロカーボンガスを透過させ、分子篩効果によりガス分離を実施している点で、従来の分離方法とは異なる。そのため、本開示によれば、フルオロカーボンの新たな分離方法を提供することができる。
【0011】
(混合ガス)
上記混合ガスは、2種以上のフルオロカーボンガスを含み、該2種以上のフルオロカーボンガスは、互いに分子径が異なる。フルオロカーボンガスは、代表的には、1気圧、室温(25℃)において、ガス状の(気体状の)フルオロカーボンであり得る。
【0012】
上記フルオロカーボンは、炭素原子と該炭素原子に結合するフッ素原子とを含む化合物であり、代表的には、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィンが挙げられる。
【0013】
上記ハイドロクロロフルオロカーボンとしては、クロロジフルオロメタン、クロロトリフルオロエタン等が挙げられる。
【0014】
上記ハイドロフルオロカーボンとしては、ジフルオロメタン等の炭素数1のハイドロフルオロカーボン;ジフルオロエタン(例えば、1,1-ジフルオロエタン、1,2-ジフルオロエタン、特に、1,1-ジフルオロエタン)、トリフルオロエタン(例えば、1,1,1-トリフルオロエタン、1,1,2-トリフルオロエタン、特に、1,1,1-トリフルオロエタン)、テトラフルオロエタン(例えば、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロエタン、特に1,1,1,2-テトラフルオロエタン)、ペンタフルオロエタン等の炭素数2のハイドロフルオロカーボン;テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロプロペン等の炭素数3のハイドロフルオロカーボン等が挙げられる。
【0015】
ハイドロフルオロオレフィンとしては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、シス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz-Z;DR-2)、トランス-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO-1336mzz-E)等が挙げられる。
【0016】
上記フルオロカーボンの炭素数は、好ましくは1~5、より好ましくは1~3であり得る。
【0017】
上記混合ガスに含まれるフルオロカーボン中、炭素数1~5のフルオロカーボンの含有率は、フルオロカーボン全体量に対して、例えば、80モル%以上100モル%以下であってよく、90モル%以上100モル%以下であってよい。
【0018】
上記2種以上のフルオロカーボンガスは、例えば、炭素数1のフルオロカーボンおよび炭素数2のフルオロカーボンを含み得、好ましくは、ジフルオロメタンおよびペンタフルオロエタンを含み得、より好ましくは、ジフルオロメタンおよびペンタフルオロエタンからなる。別の態様において、上記2種以上のフルオロカーボンガスは、炭素数1のフルオロカーボンおよび炭素数3のフルオロカーボンを含み得、好ましくは、ジフルオロメタン(R32)およびテトラフルオロプロペン(特に、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、R1234yf)を含み得、より好ましくは、ジフルオロメタン(R32)およびテトラフルオロプロペン(特に、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、R1234yf)からなる。
【0019】
上記2種以上のフルオロカーボンガスは、互いに分子径が異なる。
【0020】
一の態様において、上記混合ガスに含まれる1のフルオロカーボンの分子径は、例えば3Å以上6Å以下、好ましくは3.2Å以上4.4Å以下である。また、上記混合ガスに含まれる1のフルオロカーボンの分子径は、例えば3Å以上、好ましくは3.2Å以上であり、例えば6Å以下、好ましくは4.4Å以下であり得る。
【0021】
同じ態様において、上記混合ガスに含まれる1のフルオロカーボンと、別のフルオロカーボンの分子径の差は、好ましくは0.1Å以上、より好ましくは0.2Å以上3Å以下、さらに好ましくは0.3Å以上2Å以下であり得る。
【0022】
上記フルオロカーボンガスの分子径は、フルオロカーボン分子の形状を剛体球と仮定し、以下の式により算出される値であり得る。
d=(ma/(3×21/2ηπ))1/2 …(x1)
ただし、式(x1)中、dは分子径、mは分子1個の質量、aは分子速度、ηは粘性係数を表す。
aは、以下の式により算出される。
a=(γRT/M)1/2 …(x2)
ここで、γは比熱比であり、1.333として近似する。また、Rは気体定数、Tは絶対温度であり、Mは、モル分子質量である。
また、ηは、毛細管法により測定してよい。
【0023】
上記混合ガスに含まれるフルオロカーボンの分子径は、好ましくは2Å以上10Å以下、より好ましくは3Å以上8Å以下であり得る。
【0024】
上記混合ガスに含まれる1のフルオロカーボンのアモルファスシリカへの透過量は、好ましくは10-10(mol/(m2・s・Pa)以上10-4(mol/(m2・s・Pa)以下、より好ましくは10-9(mol/(m2・s・Pa)以上10-5(mol/(m2・s・Pa)以下、さらに好ましくは10-8(mol/(m2・s・Pa)以上10-6(mol/(m2・s・Pa)以下であり得る。
【0025】
上記混合ガスに含まれるフルオロカーボンの沸点は、1気圧において、例えば、好ましくは-80℃以上-20℃以下、より好ましくは-60℃以上-30℃以下、さらに好ましくは-50℃以上-30℃以下であり得る。また、上記混合ガスに含まれる1のフルオロカーボンと別のフルオロカーボンの沸点の差は、1気圧において、例えば、好ましくは0℃以上20℃以下、より好ましくは0℃以上10℃以下であり得る。
【0026】
上記混合ガスは、フルオロカーボンの共沸混合物または擬共沸混合物であってよい。本開示のガス分離方法によれば、共沸混合物または擬共沸混合物であっても、特定のフルオロカーボンを分離し得る。かかる共沸混合物または擬共沸混合物としては、例えば、分離対象のフルオロカーボンの沸点と、それ以外のフルオロカーボンの沸点との差が、1℃以上20℃以下、さらに3℃以上18℃以下である混合物が挙げられる。
【0027】
上記混合ガス中、フルオロカーボンの含有率は、混合ガス全体量に対して、例えば、80モル%以上100モル%以下であってよく、90モル%以上100モル%以下であってよい。
【0028】
上記混合ガスは、フルオロカーボン以外に、他の化合物を含んでいてもよい。かかる他の化合物の沸点は、例えば-100℃以下であってよく、-150℃以下であってよい。かかる他の化合物は、代表的には、気体(ガス)として上記混合物に含まれる。
【0029】
上記他の化合物としては、窒素、酸素、二酸化炭素、水等が挙げられる。
【0030】
一の態様において、本開示のガス分離方法は、ジフルオロメタンおよびペンタフルオロエタンを含む混合ガスを、多孔膜に供給して、ジフルオロメタンを分離することを含み得る。
【0031】
(多孔膜)
上記多孔膜は、複数の細孔を有する膜であり、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカ(以下、単に「アモルファスシリカ」ともいう)を含む。ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカは、代表的には、ゾル-ゲル法により形成される、多孔質のアモルファスシリカ膜であり得る。
【0032】
上記アモルファスシリカは、式:-Si-O-Si-で表される単位(シロキサン単位)を含み、該シロキサン単位のSi原子に結合する有機基をさらに有していてもよい。
【0033】
一の態様において、上記ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカは、シロキサン単位(-Si-O-Si-)の割合が大きい。かかる態様において、例えば、アモルファスシリカに含まれるケイ素原子の総量を基準として、有機基が結合しているケイ素原子の割合は、好ましくは0モル%以上20モル%以下、より好ましくは0モル%以上10モル%以下、さらに好ましくは0モル%以上5モル%以下であり得る。
【0034】
かかる態様において、上記ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカに含まれるケイ素原子の総量を基準として、Si(O1/2)4で表されるケイ素原子(すなわち、4つの酸素原子が結合しているケイ素原子)の割合は、好ましくは80モル%以上100モル%以下、より好ましくは90モル%以上100モル%以下、さらに好ましくは95モル%以上100モル%以下であり得る。
【0035】
別の態様において、上記ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカは、シロキサン単位(-Si-O-Si-単位)と、該シロキサン単位のSi原子に結合する有機基とを含み、好ましくはシロキサン単位と、該シロキサン単位のSi原子に結合する炭化水素基とを含み得る。
【0036】
かかる態様において、例えば、アモルファスシリカに含まれるケイ素原子の総量を基準として、有機基が結合しているケイ素原子の割合は、好ましくは1モル%以上50モル%以下、より好ましくは1モル%以上20モル%以下、さらに好ましくは1モル%以上10モル%以下であり得る。
【0037】
かかる態様において、上記ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカに含まれるケイ素原子の総量を基準として、Si(O1/2)4で表されるケイ素原子(すなわち、4つの酸素原子が結合しているケイ素原子)の割合は、好ましくは50モル%以上99モル%以下、より好ましくは80モル%以上99モル%以下、さらに好ましくは90モル%以上99モル%以下であり得る。
【0038】
本開示において、「有機基」は、炭素を含有する1価または2価以上の基またはシルセスキオキサン基を意味する。有機基としては、特に記載が無い限り、炭化水素基またはその誘導体もしくはシルセスキオキサン基であり得る。炭化水素基の誘導体とは、炭化水素基の末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有している基であり得る。
【0039】
また、本開示において、「炭化水素基」は、炭素及び水素を含む1価または2価以上の基であって、炭化水素から1個または2個以上の水素原子を脱離させた基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、C1-20炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。上記炭化水素基は、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0040】
本明細書において用いられる場合、「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子、1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10不飽和シクロアルキル基、5~10員のヘテロシクリル基、5~10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6-10アリール基及び5~10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0041】
上記アモルファスシリカの細孔の平均細孔径は、好ましくは2Å以上10Å以下、より好ましくは3Å以上8Å以下、さらに好ましくは4Å以上6Å以下であり得る。アモルファスシリカの細孔の平均細孔径がかかる範囲にあることで、フルオロカーボンの分離効率が高められ得る。
【0042】
上記アモルファスシリカにおける細孔の平均細孔径は、互いに分子径が異なる2種以上のガス(水素、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタン、6フッ化硫黄等)を透過させたときの透過率に基づいて算出できる。詳細には、分子径が異なる2種以上のガスについて、それぞれ透過量を測定し、横軸にガス分子径、縦軸に各ガスの透過量をプロットし、各プロットを線分で結んだ際、透過量が10-7(mol/(m2・s・Pa))となるガス分子径を、アモルファスシリカの平均細孔径(有効孔径)とする。ガス分子径は、動的分子径であり得、一例として、水素ガスでは2.9Å、窒素ガスでは3.6Å、テトラフルオロメタンガスでは4.7Å、6フッ化硫黄では5.1Åであり得る。該動的分子径は、上記式(x1)により算出した値であってもよい。
【0043】
上記多孔膜におけるアモルファスシリカの厚さは、好ましくは1nm以上1,000nm以下、より好ましくは5nm以上500nm以下、さらに好ましくは10nm以上300nm以下であり得る。
【0044】
上記多孔膜は、アモルファスシリカを含み、多孔質支持体をさらに含んでいてもよい。かかる態様において、上記多孔膜は、多孔質支持体と、該多孔質支持体上に配置されたアモルファスシリカとを含み得、好ましくは、多孔質支持体と、該多孔質支持体上に配置された多孔質のアモルファスシリカ膜とを含み得る。
【0045】
多孔膜が、多孔質支持体を含むことで、多孔膜の安定性を高め得る。また、多孔膜に混合ガスを供給する際、多孔膜への混合ガスの透過率が高められ得るため、分離効率をより高め得ることが期待される。
【0046】
上記多孔質支持体は、無機多孔質支持体および有機多孔質支持体のいずれであってもよい。
【0047】
かかる無機多孔質支持体は、好ましくは、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、および、これらの混合物等の無機材料で構成され得る。上記無機多孔質支持体は、より好ましくは、多孔質アルミナ支持体であり得る。
【0048】
上記有機多孔質支持体は、好ましくは、耐熱性高分子で構成され得る。かかる耐熱性高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、および、これらの誘導体が挙げられる。本開示において、耐熱性高分子は、ガラス転移温度が100℃以上の高分子と理解してよく、好ましくは、ガラス転移温度が200℃以上の高分子と理解してよい。
【0049】
上記多孔質支持体における細孔の平均細孔径は、好ましくは10nm以上500nm以下、より好ましくは15nm以上300nm以下、さらに好ましくは20nm以上200nm以下であり得る。
【0050】
上記多孔膜は、上記多孔質支持体と、上記アモルファスシリカの間に、多孔質中間層をさらに含んでいてもよい。かかる多孔質中間層を含むことで、上記アモルファスシリカと上記多孔質支持体の細孔径の連続性が高められ得、多孔膜中の混合ガスの透過率をより高め得ることが期待される。
【0051】
かかる多孔質中間層は、無機材料および有機材料のいずれで構成されていてもよく、好ましくは、無機材料で構成される。かかる無機材料としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、および、これらの混合物が挙げられる。有機材料としては、耐熱性高分子材料が好ましく、具体的には、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、および、これらの誘導体が挙げられる。
【0052】
上記多孔質中間層における細孔の平均細孔径は、好ましくは0.5nm以上30nm以下、より好ましくは0.7nm以上20nm以下、さらに好ましくは1nm以上10nm以下であり得る。
【0053】
なお、本開示では、上記多孔膜が多孔質支持体または中間層を含む場合において、多孔膜の平均細孔径は、上記アモルファスシリカの細孔の平均細孔径を意味し、多孔質支持体または中間層の細孔径は、多孔膜の平均細孔径の測定および算出において、考慮しない。
【0054】
かかる多孔膜は、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む。
【0055】
ゾル-ゲル法は、加水分解性基を有するシラン化合物(以下、単に「シラン化合物」ともいう)を原料として、該シラン化合物の加水分解および重縮合により、アモルファスシリカを製造する方法である。ゾル-ゲル法では、個々のシラン化合物の加水分解および重縮合によりアモルファスシリカが形成され、有機基(炭化水素基)が骨格中に残留しやすいと考えられる。そのため、アモルファスシリカの細孔径や極性、親疎水性を制御しやすいと考えられる。また、ゾル-ゲル法には、化学蒸着法(CVD法)等の蒸着法と比較して、大型設備を必要としないなどの特徴がある。
【0056】
上記ゾル-ゲル法は、以下の(a)~(c):
(a)加水分解性基を有するシラン化合物と、水性媒体とを混合してシリカゾルを調製すること
(b)上記シリカゾルを用いて、前駆体膜を調製すること
(c)かかる前駆体膜を加熱して、アモルファスシリカを含む多孔膜を得ること、
を含む方法により実施され得る。
【0057】
(a)シリカゾルの調製
工程(a)では、加水分解性基を有するシラン化合物と、水性媒体とを混合して、シリカゾルを調製する。加水分解性基を有するシラン化合物と水性媒体とを混合することで、該シラン化合物が加水分解および重縮合し、シリカ重合体(オリゴマーまたはポリマー)を含むシリカゾルが得られる。
【0058】
上記加水分解性基を有するシラン化合物は、代表的には、1個または2個以上のケイ素原子と、該ケイ素原子に結合する加水分解性基とを有する化合物であり、ケイ素原子と、該ケイ素原子に結合する加水分解性基と、該ケイ素原子に結合する有機基とを有する化合物であってもよい。
【0059】
上記有機基は、アモルファスシリカに含まれ得る有機基と同意義である。また、上記加水分解性基は、C1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子および水酸基から選ばれる1種または2種以上であり得、好ましくは、C1-10アルコキシ基であり得る。かかるC1-10アルコキシ基は、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-3アルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基であり得る。
【0060】
上記加水分解性基を有するシラン化合物としては、以下の式:
Si(X1)n(R1)4-n
[式中、
X1は、1価の有機基を表し、
R1は、各出現においてそれぞれ独立して、加水分解性基を表し、
nは、0~3の整数を表す。]
で表される化合物、および、以下の式:
(R2)3Si-X2-Si(R2)3
[式中、
X2は、2価の有機基を表し、
R2は、各出現においてそれぞれ独立して、加水分解性基を表す。]
で表される化合物が挙げられる。
【0061】
上記X1で表される1価の有機基としては、1価の炭化水素基またはその誘導体、シルセスキオキサン基が挙げられる。該1価の炭化水素基は、好ましくは、C1-20炭化水素基、例えば、C1-20脂肪族炭化水素基、C6-20芳香族炭化水素基が挙げられる。該脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、上記炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。上記1価の炭化水素基は、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。上記1価の炭化水素基の誘導体としては、ジオキサニル基、トリアゾリル基、ビリジニル基、ピラジニル基、トリアジニル基、オキサリルウレア基等のC3-10複素環基、該C3-10複素環基とC1-10アルキレン基とを組み合わせた基、該C3-10複素環基とエーテル結合とC1-10アルキレン基とを組み合わせた基等が挙げられる。上記シルセスキオキサン基は、かご型、はしご型等のシルセスキオキサン基であってよい。
【0062】
上記「炭化水素基」の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10不飽和シクロアルキル基、5~10員のヘテロシクリル基、5~10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6-10アリール基、5~10員のヘテロアリール基、アセトキシ基、アミノ基およびヒドロキシ基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0063】
X1で表される有機基としては、置換基を有していてもよい直鎖状脂肪族炭化水素基が好ましく、置換基を有していてもよいC1-20直鎖状脂肪族炭化水素基がより好ましく、C1-10直鎖状脂肪族炭化水素基がさらに好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルカンジイル基;エテニル基等のアルケニル基;エチニル基等のアルキニル基であり得、より好ましくはメチル基またはエチル基であり得る。X1の炭素数が小さいと、有機基が折れ曲がりにくく、得られるアモルファスシリカにおける細孔径が均一になりやすくなると考えられる。
【0064】
上記X2で表される2価の有機基としては、2価の炭化水素基またはその誘導体、シルセスキオキサン基が挙げられる。該2価の炭化水素基は、好ましくは、C1-20炭化水素基、例えば、C1-20脂肪族炭化水素基、C6-20芳香族炭化水素基が挙げられる。該脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、上記炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。上記2価の炭化水素基は、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。上記2価の炭化水素基の誘導体としては、ジオキサンジイル基、トリアゾリレン基、ビリジニレン基、ピラジニリレン基、トリアジニレン基、オキサリルウレア基等のC3-10複素環基、該C3-10複素環基とC1-10アルキレン基とを組み合わせた基、該C3-10複素環基とエーテル結合とC1-10アルキレン基とを組み合わせた基等が挙げられる。上記シルセスキオキサン基は、かご型、はしご型等のシルセスキオキサン基であってよい。
【0065】
上記「炭化水素基」の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、C2-6アルキニル基、C3-10シクロアルキル基、C3-10不飽和シクロアルキル基、5~10員のヘテロシクリル基、5~10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6-10アリール基及び5~10員のヘテロアリール基から選択される1個またはそれ以上の基が挙げられる。
【0066】
X2で表される有機基としては、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基であって、直鎖状脂肪族炭化水素基が好ましい。具体的には、置換基を有していてもよいC1-20直鎖状脂肪族炭化水素基がより好ましく、C2-10直鎖状脂肪族炭化水素基がさらに好ましく、直鎖状の炭化水素基が特に好ましい。具体的には、エチレン基、ブタンジイル基、ヘキサンジイル基、オクタンジイル基等のアルカンジイル基;エテンジイル基等のアルケンジイル基;アセチレンジイル基等のアルキンジイル基であり得、より好ましくはエチレン基であり得る。X2の炭素数が小さいと、有機基が折れ曲がりにくく、得られるアモルファスシリカにおける細孔径が均一になりやすくなると考えられる。
【0067】
上記R1で表される加水分解性基は、C1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子および水酸基から選ばれる1種または2種以上であり得、好ましくは、C1-10アルコキシ基であり得る。かかるC1-10アルコキシ基は、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-3アルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基であり得る。
【0068】
上記R2で表される加水分解性基は、C1-10アルコキシ基、ハロゲン原子、水素原子および水酸基から選ばれる1種または2種以上であり得、好ましくは、C1-10アルコキシ基であり得る。かかるC1-10アルコキシ基は、好ましくはC1-4アルコキシ基であり、より好ましくはC1-3アルコキシ基であり、具体的には、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基であり得る。
【0069】
上記nは、0~3の整数であり、好ましくは0~1の整数であり、一の態様において、より好ましくは0であり、別の態様において、より好ましくは1である。
【0070】
Si(X1)n(R1)4-nで表されるシラン化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン等が挙げられる。
【0071】
(R2)3Si-X2-Si(R2)3表される化合物としては、ビストリエトキシシリルエタン、ビストリエトキシシリルブタン、ビストリエトキシシリルオクタン、ビストリエトキシシリルエチレン、ビストリエトキシシリルアセチレン等が挙げられる。
【0072】
上記水性媒体としては、水、および、水と親水性溶媒との混合物が挙げられる。親水性溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0073】
上記シラン化合物と水性媒体との混合方法は、特に限定されず、代表的には、シラン化合物と水性媒体との混合物を撹拌することにより実施され得る。
【0074】
上記シラン化合物と水性媒体とを混合する際、触媒を共存させてもよい。触媒により、シラン化合物の加水分解および重縮合が促進され得る。かかる触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸等の酸触媒;アンモニア等の塩基触媒を用いてよい。
【0075】
(b)前駆体膜の調製
工程(b)では、上記シリカゾルを用いて、前駆体膜を調製する。本開示において、前駆体膜は、シリカ重合体(オリゴマーまたはポリマー)を含み、上記水性媒体の一部を含んでいてもよい。
【0076】
かかる前駆体膜の調製は、代表的には、工程(a)で得られたシリカゾルを塗布することにより実施され得る。上記多孔質支持体および/または多孔質中間層を含む多孔膜の調製に際しては、該多孔質支持体および/または多孔質中間層上にシリカゾルを塗布してよい。
【0077】
シリカゾルの塗布は、スピンコーティング、ディップコーティング、不織布をシリカゾルに浸漬して、塗布する方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
上記シリカゾルを塗布した後、代表的には、水性媒体を乾燥することで、前駆体膜を調製できる。かかる乾燥は、室温で実施され得る。
【0079】
(c)加熱
工程(c)では、前駆体膜を加熱して、アモルファスシリカを含む多孔膜を得る。前駆体膜を加熱することにより、シリカゾル中のシリカ重合体(オリゴマーまたはポリマー)の加水分解および重縮合がさらに促進され得、シロキサン結合が緻密に形成されることで、アモルファスシリカが形成される。
【0080】
上記加熱温度は、好ましくは100℃以上400℃以下、より好ましくは、100℃以上200℃以下であり得る。上記加熱時間は、好ましくは10分以上60分以下、より好ましくは15分以上30分以下であり得る。かかる加熱条件で加熱することで、アモルファスシリカに多孔が形成されやすくなり、且つ、シラン化合物として、有機基を有するオルガノシラン化合物を用いた場合に、有機基を保存することができる。
【0081】
上記多孔膜の製造の際は、工程(b)および工程(c)を、2回以上繰り返して実施してもよい。工程(b)および工程(c)を2回以上繰り返す場合、工程(b)におけるシリカゾルは、その前の工程(c)において形成したアモルファスシリカ上に塗布してよい。
【0082】
(接触方法)
上記フルオロカーボンを含む混合ガスを上記多孔膜に供給することにより、少なくとも1種のフルオロカーボンが多孔膜の細孔を透過し、該フルオロカーボンを分離し得る。フルオロカーボンは、代表的には、ガス(気体)として多孔膜に供給され得る。
【0083】
一の態様において、かかる分離方法によれば、上記多孔膜が特定のフルオロカーボンのみを選択的に透過させ得るため、2種以上のフルオロカーボンを含む混合ガスから、特定のフルオロカーボンを分離し得る。好ましい態様において、かかる分離方法によれば、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンを含む混合ガスから、炭素数1のフルオロカーボンを分離し得る。
【0084】
上記多孔膜への混合ガスの供給は、例えば、カラム法により実施してよい。また、カラム法は、多孔膜を容器(カラム)に固定し、フルオロカーボンを該容器(カラム)内に流すことにより実施できる。
【0085】
一の態様において、上記供給の際の温度は、例えば10℃以上40℃以下であってよく、さらに15℃以上35℃以下であってよい。また、上記供給の際の圧力(ゲージ圧)は、0.2MPaG以上2MPaG以下であってよく、0.4MPaG以上1.5MPaG以下であってよい。供給の際の圧力が上記範囲にあることで、フルオロカーボンが多孔膜を透過しやすくなり、分離効率が向上し得るとともに、多孔膜の細孔構造を保持しうる。
【0086】
上記混合ガスの流量は、0.001kg/時間以上1,000kg/時間mL/分以下であってよく、0.005kg/時間以上500kg/時間以下、さらに0.01kg/時間以上100kg/時間であってよい。
【0087】
上記多孔膜を透過したフルオロカーボンのみを回収することで、特定のフルオロカーボンを回収することができる。かかる態様において、本開示のフルオロカーボンガスの分離方法は、フルオロカーボンガスの回収方法とも理解され得る。
【0088】
(第二実施形態:複合材料)
上記多孔膜と、フルオロカーボンとを含む複合材料も本開示の技術的範囲に含まれる。上記混合ガスを上記多孔膜に供給することにより、上記混合ガスに含まれるフルオロカーボンの少なくとも一部が上記多孔膜に残留し得、かかる複合材料が製造され得る。
【0089】
本実施形態におけるフルオロカーボンおよび多孔膜は、第一実施形態におけるフルオロカーボンおよび多孔膜と同意義である。
【0090】
かかる複合材料において、上記フルオロカーボンは、好ましくは、炭素数1のフルオロカーボンを含み、より好ましくは、クロロジフルオロメタンおよびジフルオロメタンから選ばれる1種または2種以上を含み得る。
【0091】
好ましい態様において、上記複合材料における炭素数1のフルオロカーボンの含有量は、炭素数2以上のフルオロカーボンの含有量よりも大きく、より好ましくは、クロロジフルオロメタンおよびジフルオロメタンから選ばれる1種または2種以上の合計の含有量は、それ以外のフルオロカーボンの含有量よりも大きい。
【0092】
上記複合材料は、上記フルオロカーボンおよび上記多孔膜の他に、樹脂を含んでいてもよい。かかる樹脂としては、樹脂としては、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリスルホン樹脂等が挙げられる。
【0093】
上記複合材料は、乳化剤、消泡剤、界面活性剤、レベリング剤、増粘剤、粘弾性調整剤、消泡剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防かび剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料等の添加剤を含んでいてもよい。
【0094】
(第三実施形態:分離装置)
以下、本開示の1つの実施形態における分離装置について説明するが、本開示はかかる態様に限定されない。
【0095】
本開示の装置は、
多孔膜を備え、
前記多孔膜は、分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスから1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離するアモルファスシリカを含む。
【0096】
図1に、本開示の分離装置の一例として、2段式の分離装置を模式的に示して説明する。
【0097】
図1の分離装置では、ガスタンク1に分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスが貯留される。混合ガスは、圧力調整器2aおよびマスフローコントローラー3aを通じて、1段階目の分離モジュール4aに供給される。一態様において、圧力調整器2aにより加圧制御され得るが、かかる態様に限定されない。圧力調整器2aは省略することも可能である。
【0098】
分離モジュール4aは、多孔膜10aを備えており、混合ガスは、かかる多孔膜10aに供給される。この際、保持側背圧弁6aによって、圧力制御を実施してもよい。代表的には、保持側背圧弁6aによって、減圧制御され得る。保持側ガス背圧弁6aは、省略することも可能である。
【0099】
多孔膜10aを透過しなかったガス(以下、「第1保持側ガス」ともいう)は、圧力調整器2cを通じて、保持側ガス回収配管11に回収される。第1保持側ガスは、ガスタンク1に回収してもよい。一態様において、第1保持側ガスの流量を、マスフローコントローラーにより制御してもよい。
【0100】
2段式の分離装置では、多孔膜10aを透過したガス(以下、「第1透過ガス」ともいう)は、マスフローメーター5aによって透過量を計測し、圧力調整器2bおよびマスフローコントローラー3bを通じて、2段階目の分離モジュール4bに供給される。一態様において、圧力調整器2bにより加圧制御され得るが、かかる態様に限定されない。圧力調整器2bは省略することも可能である。
【0101】
2段階目の分離モジュール4bは、多孔膜10bを備えており、第1透過ガスは、かかる多孔膜10bに供給される。この際、保持側ガス背圧弁6bによって、圧力制御を実施してもよい。代表的には、保持側背圧弁6aによって、減圧制御され得る。保持側ガス背圧弁6bは、省略することも可能である。
【0102】
第1透過ガスのうち、多孔膜10bを透過しなかったガス(以下、「第2保持側ガス」ともいう)は、ガス組成分析計8bでガス組成を分析した後、ガスタンク1に循環させる。別の態様において、第2保持側ガスは、別途、保持側ガス回収配管により回収してもよい。さらに別の態様において、第2保持側ガスは、別途、マスフローメーター5と圧力調整器2bの間に循環させてもよい。一態様において、ガス組成分析計8bは省略可能である。
【0103】
第1透過ガスのうち、多孔膜10bを透過したガス(以下、「第2透過ガス」ともいう)は、圧力調整器2dを通じ、ガス組成分析計8aでガス組成を分析した後、回収配管9に回収される。一態様において、マスフローメーターを用い、多孔膜10bを透過したガスの透過量を測定してよい。また、一態様において、ガス組成分析計8aは、省略可能である。
【0104】
本実施形態では、2段式の分離装置について説明したが、これに限定されず、適宜変更を加えることが可能であり、例えば、1段式、3段式または4段式以上の分離装置としてもよい。1段式の場合、第1透過ガスを回収配管で回収してよく、第1保持側ガスを保持側ガス回収配管により回収またはガスタンク1に循環させてよい。
【0105】
n段式の場合(nは、3以上)、n-1段目の分離モジュールを透過した透過ガスを、圧力調整器、マスフローコントローラーを通じて分離モジュールに供給し、該分離モジュールに含まれる多孔膜を通じて、該多孔膜を透過した第n透過ガス、および、該多孔膜を透過しなかった第n保持側ガスに分離してよい。第n透過ガスを、必要に応じ実施され得るガス組成分析の後、回収することで、ガス分離を実施することができる。また、第n保持側ガスは、必要に応じ実施され得るガス分析の後、ガスタンク1へ循環または保持側ガス回収配管に回収され得る。
【実施例0106】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0107】
(製造例1~3)
加水分解性基を有するシラン化合物(1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン)と水とを、該シラン化合物の濃度が5質量%となるように混合して撹拌し、シリカゾルを調製した。シリカゾルをスピンコーティング法で塗布して、前駆体膜を得た。窒素雰囲気下、得られた前駆体膜を100℃で30分間加熱した。塗布および加熱を2回繰り返して実施し、アモルファスシリカを含む多孔膜1~3を得た。
【0108】
(実施例1~9)
圧力調整器およびマスフローコントローラー(MFC)を用いて、所定の圧力と流量に調整したフルオロカーボンガスを、アモルファスシリカ膜を備える膜モジュールに流通させた。圧力調整器およびマスフローメーター(MFM)を用いて、透過側および保持側の圧力および流量を確認した。透過側については減圧ポンプを接続し、必要に応じて減圧条件下で測定を行った。単成分ガスの透過度は流量より算出した。
【0109】
フルオロカーボンとして、R32(ジフルオロメタン)及びR125(1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン)を用いた。R32の分子径は3.9Å、R125の分子径は4.4Åである。
【0110】
上記フルオロカーボンの分子径は、Wanigarathna, J. A. D. K. (2018). Adsorption-based fluorocarbon separation in zeolites and metal organic frameworks. Doctoral thesis, Nanyang Technological University, Singaporeに記載の値を用いた。
【0111】
上記アモルファスシリカ膜の細孔径は、水素ガス、窒素ガス、テトラフルオロメタンガス、6フッ化硫黄ガスを用いた透過試験により実施した。具体的には、フルオロカーボンガスの代わりに、水素ガス(分子径:2.9Å)、窒素ガス(分子径:3.6Å)、テトラフルオロメタンガス(分子径:4.7Å)、6フッ化硫黄ガス(分子径:5.1Å)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、透過量を測定した。各ガスの分子径を横軸、透過量を縦軸としてプロットし、各プロット間を線分で結んだ。かかるプロットおよび線分において、透過量が10-7(mol/(m2・s・Pa))となる分子径の値を、各膜の細孔径とした。水素ガス、窒素ガス、テトラフルオロメタンガス、6フッ化硫黄ガスの分子径は、動的分子径とした。該動的分子径は、上記式(x1)により算出した値としてもよい。
【0112】
【0113】
実施例1~9は、本開示の実施例であり、アモルファスシリカを含む多孔膜にフルオロカーボンを供給した例である。いずれの実施例においても、R32(ジフルオロメタン)の透過量が、R125(1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン)の透過量よりも大きく、R125の透過量に対するR32の透過量の比が、59~699倍であることが確認された。これより、2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、アモルファスシリカを含む多孔膜供給して、上記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスを分離し得るといえる。
【0114】
(実施例10~11:混合ガス評価)
圧力調整器およびマスフローコントローラー(MFC)を用いて、所定の圧力と流量に調整した、R32とR125の混合ガスを膜モジュールに流通させた。圧力調整器およびマスフローメーター(MFM)を用いて、透過側および保持側の圧力および流量を確認した。透過側については減圧ポンプを接続し、必要に応じて減圧条件下で測定を行った。その後、GCにより組成分析を行った。
【0115】
アモルファスシリカ膜の細孔径、混合ガスの組成(R32とR125の比)、測定時の温度供給側差圧および透過側圧力、透過量(R32およびR125)、透過度比を以下の表に示す。
【0116】
【0117】
実施例10~11は、本開示の実施例であり、アモルファスシリカを含む多孔膜にフルオロカーボンの混合ガスを供給した例である。いずれの実施例においても、R32(ジフルオロメタン)の透過量が、R125(1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン)の透過量よりも大きく、R125の透過量に対するR32の透過量の比が、59~699倍であることが確認された。これより、2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、アモルファスシリカを含む多孔膜に供給して、上記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスを分離し得ることが確認された。
互いに分子径が異なる2種以上のフルオロカーボンガスを含む混合ガスを、多孔膜に供給して、前記2種以上のフルオロカーボンガスから選ばれる1種のフルオロカーボンガスの混合比を向上させたガス組成物あるいは単一ガスを分離することを含み、
前記多孔膜は、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、フルオロカーボンガスの分離方法。
前記アモルファスシリカは、テトラアルコキシシランを原料として、ゾル-ゲル法により形成されるアモルファスシリカを含む、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
前記1種のフルオロカーボンガスの分子径と、それ以外のフルオロカーボンガスの分子径との差は、0.1Å以上3Å以下である、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。
前記混合ガスを前記多孔膜に供給することは、前記混合ガスの少なくとも一部を前記多孔膜に透過させることを含む、請求項1に記載のフルオロカーボンガスの分離方法。