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特開2024-146874ボールペン用油性インキ組成物及びボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146874
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ボールペン用油性インキ組成物及びボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20241004BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024052706
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2023058212
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】関口 圭美
(72)【発明者】
【氏名】吉川 勝教
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 元
(72)【発明者】
【氏名】清水 英明
(72)【発明者】
【氏名】清水 稜介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 あかり
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350NA10
4J039AB02
4J039AD07
4J039AD09
4J039AD14
4J039AE01
4J039AF01
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC08
4J039BC14
4J039BC34
4J039BC35
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA42
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることが可能なボールペン用油性インキ組成物及びボールペンを提供する。
【解決手段】ボールペン用油性インキ組成物は、炭素数が4以上17以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステルと、炭素数が18以上24以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第2のリン酸エステルと、水と、ノニオン性界面活性剤と、を含む。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が4以上17以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステルと、
炭素数が18以上24以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第2のリン酸エステルと、
水と、
ノニオン性界面活性剤と、
を含むボールペン用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記第2のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数と、前記第1のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数との差が4以上である
請求項1に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記第1のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数が12以上14以下であり、
前記第2のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数が18以上20以下である
請求項2に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記第1のリン酸エステルのHLB値及び前記第2のリン酸エステルのHLB値が4以上14以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項5】
前記第1のリン酸エステルのHLB値及び前記第2のリン酸エステルのHLB値が7以上12以下である
請求項4に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項6】
前記第1のリン酸エステル及び前記第2のリン酸エステルの合計の含有量が、0.4重量%以上3.0重量%以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項7】
前記第2のリン酸エステルの含有量に対する前記第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.2以上8.0以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項8】
前記第2のリン酸エステルの含有量に対する前記第1のリン酸エステルの含有量の質量ベースの比が0.25以上4.0以下である
請求項7に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項9】
前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が4以上15以下である
請求項1乃至3の何れか一項に記載のボールペン用油性インキ組成物。
【請求項10】
筆記部と、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の油性インキを収容するインキ収容部と、を備え、
前記インキ収容部からの前記油性インキが前記筆記部に供給されるように構成された
ことを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールペン用油性インキ組成物及びボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
書き味や筆跡が良好なボールペン用油性インキが提案されている。
【0003】
特許文献1には、長期間静置していてもカスレが発生しにくいボールペン用インキとして、着色剤と、有機溶剤と、オレイルアルコールとリン酸のトリエステルと、水と、を含有するボールペン用インキが開示されている。
【0004】
特許文献2には、書き味を向上し、筆跡にカスレや泣きボテがなく、筆記性が良好である油性ボールペン用のインキ組成物として、着色剤と、アミド系溶剤と、ポリアクリル酸樹脂と、を含有するインキ組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-106187号公報
【特許文献2】特開2022-184953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2のボールペン用油性インキでは、高速での筆記時(速書き時)や高筆圧での筆記時においてカスレやインキボテ等が生じる等、筆跡が良好でない場合があった。また、高速又は高筆圧での筆記時において良好な書き味及び筆跡を得ながら、インキ洩れを抑制可能であることが望まれる。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることが可能なボールペン用油性インキ組成物及びボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペン用油性インキ組成物は、
炭素数が4以上17以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステルと、
炭素数が18以上24以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第2のリン酸エステルと、
水と、
ノニオン性界面活性剤と、
を含む。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペンは、
筆記部と、
上述の油性インキを収容するインキ収容部と、を備え、
前記インキ収容部からの前記油性インキが前記筆記部に供給されるように構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることが可能なボールペン用油性インキ組成物及びボールペンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係るボールペンを示す縦断面図である。
図2図1に示すボールペンに用いられるリフィルを示す縦断面図である。
図3図2におけるI部を示す拡大縦断面図である。
図4図3におけるII部を示す試験用ボールペンチップの拡大縦断面図である。
図5】寸法測定箇所を示す縦断面図である。
図6図5のIII-III’線断面矢視図である。
図7】ペン先インキ洩れ確認試験1~3で筆記した文字列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0013】
(インキ組成物)
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキ組成物は、炭素数が4以上17以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステルと、炭素数が18以上24以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第2のリン酸エステルと、水と、ノニオン性界面活性剤と、を含む。
【0014】
上述の実施形態に係る油性インキ組成物によれば、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールとボールホルダーの受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある水を含んだ多層状の膜(以下、多層膜)が形成されやすい。
すなわち、上述の油性インキ組成物は、炭化水素基の炭素数が比較的少ない第1のリン酸エステル、及び、炭化水素基の炭素数が比較的多い第2のリン酸エステルを含むので、これらのリン酸エステルのリン酸基がボール及び受け座の金属表面に吸着することで、ボール及び受け座の金属表面にリン酸エステルの層が形成される。ここで、第2のリン酸エステルは比較的長い炭化水素基を有するため、金属表面に比較的厚いリン酸エステルの層が形成されるとともに、第1のリン酸エステルは比較的短い炭化水素基を有するため、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込み、金属表面に密な構造を有するリン酸エステルの層が速やかに形成される。
また、上述の油性インキ組成物は、水及びノニオン性界面活性剤を含む。このため、ボールペンでの筆記時に、ノニオン性界面活性剤の疎水基がリン酸エステルの炭化水素基と相互作用し、ボール及び受け座の表面にそれぞれ形成されるリン酸エステルの層の間にノニオン性界面活性剤の層が形成されるので、厚い多層膜が得られやすく、また、ノニオン性界面活性剤の親水基が水と相互作用し、ノニオン性界面活性剤の層に表面張力の高い水が取り込まれるので、多層膜のクッション性が高くなる。
このように、上述の実施形態によれば、ボールペンでの筆記時に、ボール及び受け座の金属表面の間に、膜厚が大きくクッション性の高い多層膜が形成されやすいので、高速又は高筆圧での筆記時であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持することができ、筆記時における潤滑性が良好となる。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても書き味が良好であるとともに、カスレや線飛び又はボテを抑制することができる。
また、上述の実施形態では、ノニオン性界面活性剤は、金属のないところに濡れ拡がろうとしないため、ノニオン性界面活性剤と相互作用するリン酸エステルの余剰な濡れ拡がりが抑制される。よって、ペン先からのインキ組成物の洩れを効果的に抑制することができる。
よって、上述の実施形態によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0015】
本明細書において、カスレとは、ボールペンのボールが回転せず、インキが転写されない状態を意味する。インキが経時変化で増粘して、吐出されなくなってしまう状態も含む。また、本明細書において、線飛び(点線)とは、ボールペンのボールとボールホルダーの受け座との潤滑性が乏しく、ボールの回転が断続的になり、インキが断続的に転写されてしまう状態を意味する。
【0016】
炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステル及び第2のリン酸エステルは、モノエステル、ジエステル又はトリエステルであってもよく、又はこれらの混合物であってもよい。炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルは、モノエステルの場合、下記式(A)で表される。
RO-(CHCHO)-PO(OH) …(A)
【0017】
第1のリン酸エステルは、炭化水素基(上記式(A)中のR)の炭素数が4以上17以下である。
第2のリン酸エステルは、炭化水素基(上記式(A)中のR)の炭素数が18以上24以下である。
【0018】
上述のリン酸エステルの炭化水素基は、直鎖の鎖式炭化水素基を含んでもよく、分岐を有する鎖式炭化水素基を含んでもよく、環式炭化水素基を含んでもよい。上述の鎖式炭化水素基又は環式炭化水素基は、不飽和炭化水素基(アルキル基等)であってもよく、不飽和炭化水素基(アルケニル基、アルキニル基又はフェニル基等)であってもよい。
【0019】
上述のリン酸エステルのポリオキシエチレン基の酸化エチレン平均付加モル数(上記式(A)中のnの平均値)は、特に限定されないが、2以上10以下であってもよく、2以上6以下であってもよい。
【0020】
第1のリン酸エステルの具体例として、例えば、ポリオキシエチレントリデシルエーテルのリン酸エステル(炭化水素基:炭素数13のアルキル基)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルのリン酸エステル(炭化水素基:炭素数12のアルキル基)、ポリオキシエチレンフェニルエーテルのリン酸エステル(炭化水素基:炭素数13の不飽和炭化水素基)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルのリン酸エステル(炭化水素基:炭素数12のアルキル基)等が挙げられる。
市販のものとしては、フォスファノールBH-650、同SM-172、同ED-200、同GF-339、同RA-600、同GF199、同ML-200、同ML-220、同ML-240、同RD-510Y、同GF-185、同RS-610、同RS-710、同RP-710、同AK-25、同GF702、同RS-610NA、同SC-6103、同LP-700、同LS-500(以上、東邦化学工業(株)製)や、プライサーフA207H、同A208B、同A219B、同A208S、同A212S、同A215C(以上、第一工業製薬(株)製)を挙げることができる。
【0021】
インキ組成物中の第1のリン酸エステルの含有量は、0.2重量%以上1.2重量%以下であってもよく、0.3重量%以上1.0重量%以下であってもよく、あるいは、0.35重量%以上0.6重量%以下であってもよい。
【0022】
第2のリン酸エステルの具体例として、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルのリン酸エステル(炭化水素基:炭素数18の不飽和炭化水素基)、ポリオキシエチレンステアリルエーテルのリン酸エステル(炭化水素基:炭素数18のアルキル基)等が挙げられる。
市販のものとしては、フォスファノールRL-210、同RL-310、同RB-410、同RD-720、同LB-400(以上、東邦化学工業(株)製)を挙げることができる。
【0023】
インキ組成物中の第2のリン酸エステルの含有量は、0.05重量%以上2.0重量%以下であってもよく、0.1重量%以上0.6重量%以下であってもよく、あるいは、0.1重量%以上0.3重量%以下であってもよい。
【0024】
第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数と、第1のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数との差は4以上であってもよい。
【0025】
この場合、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数と第1のリン酸エステルの炭素数の差が4以上であるので、両者の炭化水素基の炭素鎖の長さがある程度異なる。このため、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層において、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込みやすくなり、金属表面に密な構造のリン酸エステルの層が形成されやすい。よって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜がより形成されやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0026】
幾つかの実施形態では、第1のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が12以上14以下であり、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が18以上20以下である。
【0027】
上述の実施形態では、第1のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が12以上14以下であり、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が18以上20以下であるので、両者の炭化水素基の炭素鎖の長さがある程度異なる。このため、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層において、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込みやすくなり、金属表面に密な構造のリン酸エステルの層が形成されやすい。よって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜がより形成されやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0028】
幾つかの実施形態では、第1のリン酸エステルのHLB値及び第2のリン酸エステルのHLB値が4以上14以下であってもよく、あるいは、7以上12以下であってもよい。
【0029】
本明細書において、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値は、デイビス法により計算したHLB値を指す。HLB値は、水及び油との親和性を表す値であり、大きいほど水との親和性が大きいことを示す。
【0030】
上述の実施形態では、第1のリン酸エステルのHLB及び第2のリン酸エステルのHLB値が4以上又は7以上であるので、適度な親水性があるため、多層膜への水の取り込みを阻害し難い。また、上述の実施形態では、第1のリン酸エステルのHLB及び第2のリン酸エステルのHLB値が14以下又は12以下であるので、第1/第2のリン酸エステルの炭化水素基がノニオン性界面活性剤の疎水基と相互作用しやすくなる。その結果、ノニオン性界面活性剤の親水基が水と相互作用しやすくなり、ノニオン性界面活性剤の層に水が取り込まれやすくなる。したがって、上述の実施形態によれば、ノニオン性界面活性剤の層に水が保持されやすくなるため、ボール及び受け座の金属表面の間に形成される多層膜のクッション性が高くなる。よって、高速又は高筆圧での筆記時であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持しやすくなり、筆記時における潤滑性が良好となりやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味や筆跡が得られやすい。
【0031】
幾つかの実施形態では、インキ組成物中の第1のリン酸エステル及び前記第2のリン酸エステルの合計の含有量が、0.4重量%以上3.0重量%以下である。
【0032】
上述の実施形態によれば、第1のリン酸エステル及び第2のリン酸エステルの合計の含有量が、0.4重量%以上3.0重量%以下であるので、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層の密度が適度なものとなり、このため、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成される。よって、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0033】
幾つかの実施形態では、第2のリン酸エステルの含有量に対する第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比(第1のリン酸エステルの含有量[重量%]/第2のリン酸エステルの含有量[重量%])が0.2以上8.0以下であってもよく、あるいは、0.25以上4.0以下であってもよい。
【0034】
上述の実施形態によれば、第2のリン酸エステルの含有量に対する第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.2以上8.0以下又は0.25以上4.0以下であるので、金属表面に形成されるリン酸エステルの層が密な構造となりやすい。このため、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成される。よって、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0035】
ノニオン性界面活性剤としては、周知のノニオン性活性剤を特に限定なく用いることができる。ノニオン性界面活性剤として、多価アルコールと脂肪酸とのエステル等のエステル型ノニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン炭化水素エーテル又はポリオキシエチレン炭化水素フェニルエーテル等のエーテル型ノニオン性界面活性剤、又は、分子中にエステル結合とエーテル結合の両方を有するエステル・エーテル型のノニオン性界面活性剤等を用いることができる。
【0036】
インキ組成物中のノニオン性界面活性剤の含有量は、0.25重量%以上2.0重量%以下であってもよく、あるいは、0.5重量%以上1.0重量%以下であってもよい。
【0037】
幾つかの実施形態では、ノニオン性界面活性剤のHLB値が4以上15以下である。
【0038】
上述の実施形態では、ノニオン性界面活性剤のHLB値が4以上であるので、ある程度親水性があるため、水との相互作用により、ノニオン性界面活性剤の層に水が取り込まれやすくなる。また、上述の実施形態では、ノニオン性界面活性剤のHLB値が15以下であるので、親水性が過度でなく、第1/第2のリン酸エステルの炭化水素基と相互しやすいため、ボールと受け座の金属表面の間に上述の多層膜を形成しやすい。よって、上述の実施形態によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0039】
ノニオン性界面活性剤の具体例として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシオレイルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ソルビタンセスキオレート、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリグリセリン脂肪酸デカグリセリル等が挙げられる。
市販品としては、NIKKOL BL-2、同BL-4.2、同BL-9EX、同BC-2、同BC-5.5、同BC-7、同BC-10、同BS-2、同BS-4、同BO-2V、同BO-7V、同BO-10V、同BB-5、同BB-10、同BD-4、同BT-3、同BT-5、同BT-7、同BT-9、同BT-12、同PBC-31、同PBC-33、同PBC-41、同PBC-44、同PEN-4612、同PEN-4620、同PEN-4630、同BPS-5、同BPS-10、同HCO-5、同HCO-10、同HCO-20、同HCO-30、同HCO-40、同HCO-50、同HCO-60、同HCO-80、同TS-10V、同TS-10MV、同TS-106V、同TS-30V、同TI-10V、同TO-10V、同TO-10MV、同TO-106V、同TO-30V、同GS-460、同GO-4V、同GO-430NV、同GO-440V、同GO-460V、同Tetraglyn 1-SV、同Tetraglyn 1-OV、同Hexaglyn 1-L、同Hexaglyn 1-M、同Hexaglyn 1-SV、同Hexaglyn 1-OV、同Decaglyn 1-M、同Decaglyn 1-SV、同Decaglyn 1-50SV、同Decaglyn 1-ISV、同Decaglyn 1-OV、同Decaglyn 1-LN、同Decaglyn 2-SV、同Decaglyn 2-ISV、同Decaglyn 3-SV、同Decaglyn 3-OV、同TMGS-5V、同TMGS-15V、同TMGO-5、同TMGO-15(以上、日光ケミカルズ(株)製)、ペグノールL-4、同TH-8、同L-9A、同L-12S、同T-6、同TE-10A、同ST-7、同ST-9、同ST-12、同O-6S、同O-16A、同S-4DV(以上、東邦化学工業(株)製)、ノイゲン XL-40、同XL-100、同TDS-30、LF-60X、同TDX-50、同TDX-80、同SD-30、同SD-60、同SD-70、同SD-80、同EA-87、ソルゲン90、同110、同TW-60(以上、第一工業製薬(株)製)を挙げることができる。
【0040】
インキ組成物中の水として、ミネラルウォーター、水道水、イオン交換水、精製水、蒸留水、又は純水を用いてもよい。
【0041】
幾つかの実施形態では、インキ組成物中の水の含有量は、1.0重量%以上10.0重量%以下であってもよく、あるいは、4.0重量%以上8.0重量%以下であってもよい。
【0042】
上述の実施形態では、インキ組成物中の水の含有量が、1.0重量%以上又は4.0重量%以上であるので、上述の多層膜にある程度の量の水が取り込まれるので、多層膜のクッション性が高くなる。また、上述の実施形態では、インキ組成物中の水の含有量が、10.0重量%以下又は8.0量%以下であるので、油性インキ組成物中の水の含有量が多すぎず、油性インキ中に水が安定的に溶解することができる。尚、水の添加方法に関して特に限定されないが、水以外の成分を適宜混合したインキ中に水を直接添加しても、着色剤や樹脂等のボールペン用油性インキに用いる成分に予め水を吸湿や吸水させた状態で添加してもよい。
【0043】
幾つかの実施形態に係るボールペン用油性インキでは、着色剤は特に制限なく水性染料や油溶性染料、顔料を使用することができる。
【0044】
水溶性染料として具体的には直接染料、酸性染料、塩基性染料などいずれも用いることができる。直接染料の具体例として、ジャパノールファストブラックDコンク(C.I.ダイレクトブラック17)、ウォーターブラック100L(同19)、ウォーターブラックL-200(同19)、ダイレクトファストブラックB(同22)、ダイレクトファストブラックAB(同32)、ダイレクトディープブラックEX(同38)、ダイレクトファストブラックコンク(同51)、カヤラススプラグレイVGN(同71)、カヤラスダイレクトブリリアントエローG(C.I.ダイレクトエロー4)、ダイレクトファストエロー5GL(同26)、アイゼンプリムラエローGCLH(同44)、ダイレクトファストエローR(同50)、アイゼンダイレクトファストレッドFH(C.I.ダイレクトレッド1)、ニッポンファストスカーレットGSX(同4)、ダイレクトファストスカーレット4BS(同23)、アイゼンダイレクトローデュリンBH(同31)、ダイレクトスカーレットB(同37)、カヤクダイレクトスカーレット3B(同39)、アイゼンプリムラピンク2BLH(同75)、スミライトレッドF3B(同80)、アイゼンプリムラレッド4BH(同81)、カヤラススプラルビンBL(同83)、カヤラスライトレッドF5G(同225)、カヤラスライトレッドF5B(同226)、カヤラスライトローズFR(同227)、ダイレクトスカイブルー6B(C.I.ダイレクトブルー1)、ダイレクトスカイブルー5B(同15)、スミライトスプラブルーBRRコンク(同71)、ダイボーゲンターコイズブルーS(同86)、ウォーターブルー#3(同86)、カヤラスターコイズブルーGL(同86)、カヤラススプラブルーFF2GL(同106)、カヤラススプラターコイズブルーFBL(同199)などが挙げられる。
【0045】
酸性染料の具体例としてアシッドブルーブラック10B(C.I.アシッドブラック1)、ニグロシン(同2)、スミノールミリングブラック8BX(同24)、カヤノールミリングブラックVLG(同26)、スミノールファストブラックBRコンク(同31)、ミツイナイロンブラックGL(同52)、アイゼンオパールブラックWHエクストラコンク(同52)、スミランブラックWA(同52)、ラニルブラックBGエクストラコンク(同107)、カヤノールミリングブラックTLB(同109)、スミノールミリングブラックB(同109)、カヤノールミリングブラックTLR(同110)、アイゼンオパールブラックニューコンク(同119)、ウォーターブラック187-L(同154)、カヤクアシッドブリリアントフラビンFF(C.I.アシッドエロー7:1)、カヤシルエローGG(同17)、キシレンライトエロー2G140%(同17)、スミノールレベリングエローNR(同19)、ダイワタートラジン(同23)、カヤクタートラジン(同23)、スミノールファストエローR(同25)、ダイアシッドライトエロー2GP(同29)、スミノールミリングエローO(同38)、スミノールミリングエローMR(同42)、ウォーターエロー#6(同42)、カヤノールエローNFG(同49)、スミノールミリングエロー3G(同72)、スミノールファストエローG(同61)、スミノールミリングエローG(同78)、カヤノールエローN5G(同110)、スミノールミリングエロー4G200%(同141)、カヤノールエローNG(同135)、カヤノールミリングエロー5GW(同127)、カヤノールミリングエロー6GW(同142)、スミトモファストスカーレットA(C.I.アシッドレッド8)、カヤクシルクスカーレット(同9)、ソーラールビンエクストラ(同14)、ダイワニューコクシン(同18)、アイゼンボンソーRH(同26)、ダイワ赤色2号(同27)、スミノールレベリングブリリアントレッドS3B(同35)、カヤシルルビノール3GS(同37)、アイゼンエリスロシン(同51)、カヤクアシッドローダミンFB(同52)、スミノールレベリングルビノール3GP(同57)、ダイアシッドアリザリンルビノールF3G200%(同82)、アイゼンエオシンGH(同87)、ウォーターピンク#2(同92)、アイゼンアシッドフロキシンPB(同92)、ローズベンガル(同94)、カヤノールミリングスカーレットFGW(同111)、カヤノールミリングルビン3BW(同129)、スミノオールミリングブリリアントレッド3BNコンク(同131)、スミノールミリングブリリアントレッドBS(同138)、アイゼンオパールピンクBH(同186)、スミノールミリングブリリアントレッドBコンク(同249)、カヤクアシッドブリリアントレッド3BL(同254)、カヤクアシッドブリリドブリリアントレッドBL(同265)、カヤノールミリングレッドGW(同276)、ミツイアシッドバイオレット6BN(C.I.アシッドバイオレット15)、ミツイアシッドバイオレットBN(同17)、スミトモパテントピュアブルーVX(C.I.アシッドブルー1)、ウォーターブルー#106(同1)、パテントブルーAF(同7)、ウォーターブルー#9(同9)、ダイワ青色1号(同9)、スプラノールブルーB(同15)、オリエントソルブルブルーOBC(同22)、スミノールレベリングブルー4GL(同23)、ミツイナイロンファストブルーG(同25)、カヤシルブルーAGG(同40)、カヤシルブルーBR(同41)、ミツイアリザリンサフィロールSE(同43)、スミノールレベリングスカイブルーRエクストラコンク(同62)、ミツイナイロンファストスカイブルーB(同78)、スミトモブリリアントインドシアニン6Bh/c(同83)、サンドランシアニンN-6B350%(同90)、ウォーターブルー#115(同90)、オリエントソルブルブルーOBB(同93)、スミトモブリリアントブルー5G(同103)、カヤノールミリングウルトラスカイSE(同112)、カヤノールミリングシアニン5R(同113)、アイゼンオパールブルー2GLH(同158)、ダイワギニアグリーンB(C.I.アシッドグリーン3)、アシッドブリリアントミリンググリーンB(同9)、ダイワグリーン#70(同16)、カヤノールシアニングリーンG(同25)、スミノールミリンググリーンG(同27)などが挙げられる。
【0046】
塩基性染料の具体例として、アイゼンカチロンイエロー3GLH(C.I.ベーシックイエロー11)、アイゼンカチロンブリリアントイエロー5GLH(同13)、スミアクリルイエローE-3RD(同15)、マキシロンイエロー2RL(同19)、アストラゾンイエロー7GLL(同21)、カヤクリルゴールデンイエローGL-ED(同28)、アストラゾンイエロー5GL(同51)、アイゼンカチロンオレンジGLH(C.I.ベーシックオレンジ21)、アイゼンカチロンブラウン3GLH(同30)、ローダミン6GCP(C.I.ベーシックレッド1)、アイゼンアストラフロキシン(同12)、スミアクリルブリリアントレッドE-2B(同15)、アストラゾンレッドGTL(同18)、アイゼンカチロンブリリアントピンクBGH(同27)、マキシロンレッドGRL(同46)、アイゼンメチルバイオレット(C.I.ベーシックバイオレット1)、アイゼンクリスタルバイオレット(同3)、アイゼンローダミンB(同10)、アストラゾンブルーG(C.I.ベーシックブルー1)、アストラゾンブルーBG(同3)、メチレンブルー(同9)、マキシロンブルーGRL(同41)、アイゼンカチロンブルーBRLH(同54)、アイゼンダイヤモンドグリーンGH(C.I.ベーシックグリーン1)、アイゼンマラカイトグリーン(同4)、ビスマルクブラウンG(C.I.ベーシックブラウン1)などが挙げられる。これらは単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0047】
油溶性染料として具体的には、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料、造塩染料、アジン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、トリフェニルメタン染料などが使用でき、具体例として、ニグロシンベ-スEE、同EEL、同EX、同EXBP、同EB、オイルイエロー101、同107、オイルピンク314、オイルブラウンBB、同GR、オイルグリーンBG、オイルブルー613、オイルスカーレット308、同BOS、オイルブラックHBB、同860、同BS、バリファストイエロー1101、同1105、同1109、同3104、同3105、同3108、同4120、同AUM、バリファストオレンジ2210、同3209、同3210、バリファストレッド1306、同1308、同1320、同1364、同1355、同1360、同2303、同2320、同3304、同3306、同3320、バリファストピンク2310N、バリファストブラウン2402、同3405、バリファストグリーン1501、バリファストブルー1603、同1605、同1607、同1631、同2606、同2610、同2620、バリファストバイオレット1701、同1702、同1731、バリファストブラック1802、同1805、同1807、同3804、同3806、同3808、同3810、同3820、同3830、スピリットレッド102、スピリットブラックAB、オスピーイエローRY、ROB-B、MVB3、SPブルー105(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンイエロー3RH、同GRLHスペシャル、同C-2GH、同C-GNH new、アイゼンスピロンオレンジ2RH、同GRHコンクスペシャル、アイゼンスピロンレッドGEH、同BEH、同GRLHスペシャル、同C-GH、同C-BH、アイゼンスピロンバイオレットRH、同C-RH、アイゼンスピロンブラウンBHコンク、同RH、アイゼンスピロンマホガニーRH、アイゼンスピロンブルーGNH、同2BNH、同C-RH、同BPNH、アイゼンスピロングリーンC-GH、同3GNHスペシャル、アイゼンスピロンブラックBNH、同MH、同RLH、同GMHスペシャル、同BHスペシャル、S.B.N.オレンジ703、S.B.N.バイオレット510、同521、S.P.T.オレンジ6、S.P.T.ブルー111、SOTピンク1、SOTブルー4、SOTブラック1、同6、同10、同12、13リキッド、アイゼンローダミンBベース、アイゼンメチルバイオレットベース、アイゼンビクトリアブルーBベース(以上、保土谷化学工業(株)製)、オイルイエローCH、オイルピンク330、オイルブルー8B、オイルブラックS、同FSスペシャルA、同2020、同109、同215、ALイエロー1106D、同3101、ALレッド2308、ネオスーパーイエローC-131、同C-132、同C-134、ネオスーパーオレンジC-233、ネオスーパーレッドC-431、ネオスーパーブルーC-555、ネオスーパーブラウンC-732、同C-733(以上、中央合成化学(株)製)、オレオゾールファストイエロー2G、同GCN、オレオゾールファストオレンジGL、オレオゾールファストレッドBL、同RL(以上、田岡化学工業(株)製)、サビニールイエロー2GLS、同RLS、同2RLS、サビニールオレンジRLS、サビニールファイアレッドGLS、サビニールレッド3BLS、サビニールピンク6BLS、サビニールブルーRN、同GLS、サビニールグリーン2GLS、サビニールブラウンGLS(以上、サンド社製、スイス国)、マゼンタSP247%、クリスタルバイオレット10B250%、マラカイトグリーンクリスタルコンク、ブリリアントグリーンクリスタルH90%、スピリットソルブルレッド64843(以上、ホリディ社製、英国)、ネプチューンレッドベース543、ネプチューンブルーベース634、ネプチューンバイオレットベース604、バソニールレッド540、バソニールバイオレット600、ビクトリアブルーF4R、ニグロシンベースLK(以上、BASF社製、独国)、メチルバイオレット2Bベース(以上、National Anilne Div.社製、米国)などが挙げられる。これらは単独で用いても複数を混合して用いてもよい。
【0048】
顔料として具体的には、ファーネストブラック、コンタクトブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン、金粉、銀粉、銅粉、アルミニウム粉、真鍮粉、錫粉、雲母系顔料、C.I.PIGMENT RED 2、同3、同5、同17、同22、同38、同41、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同206、同207、同209、同216、同245、同254、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同16、同17、同22、同25、同60、同66、C.I.PIGMENT BROWN 25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同139、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36などが挙げられる。これらは、1種もしくは2種以上混合して用いることができる。
【0049】
また、これらの顔料の他に加工顔料も使用可能である。それらの一例を挙げると、Renol Yellow GG-HW30、同HR-HW30、同Orange RL-HW30、同Red HF2B-HW30、同FGR-HW30、同F5RK-HW30、同Carmine FBB-HW30、同Violet RL-HW30、同Blue B2G-HW30、同CF-HW30、同Green GG-HW30、同Brown HFR-HW30、Black R-HW30(以上、クラリアントジャパン(株)製)、UTCO-001エロー、同012エロー、同021オレンジ、同031レッド、同032レッド、同042バイオレット、同051ブルー、同052ブルー、同061グリーン、同591ブラック、同592ブラック(以上、大日精化工業(株)製)、MICROLITH Yellow 4G-A、同MX-A、同2R-A、Brown 5R-A、Scarlet R-A、Red 2C-A、同3R-A、Magenta 2B-A、Violet B-A、Blue 4G-A、Green G-A(以上、チバ・スペシャリティケミカルズ(株)製)等がある。
【0050】
顔料の分散性を良好なものとするために、アニオン、カチオン、ノニオン、両性の界面活性剤や、高分子樹脂を補助的に使用することができる。具体的には、高級脂肪酸、高級アルコール硫酸エステル塩類、脂肪酸硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸類、リン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等のアニオン、ノニオン、カチオン性の界面活性剤や、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、などの顔料分散用の樹脂やオリゴマーなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
幾つかの実施形態では、分散媒として、油性ボールペン用インキに用いられる有機溶剤を用いる事ができる。有機溶剤は、安全性や臭気の問題から、アルコール、グリコール、グリコールエーテルが好ましい。
【0052】
有機溶剤の一例としては、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール等のグリコール類、ベンジルアルコール、β-フェニルエチルアルコール、α-メチルベンジルアルコール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシ-1-ブタノール、3-メチル-3-メトキシペンタノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等のアルコール類、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル等のエーテル類、酢酸-2-エチルヘキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類を挙げることができる。
低粘度化による書き味向上とペン先耐乾燥性を考慮して沸点が80℃以上200℃以下のアルコール、グリコール、グリコールエーテルから選ばれる低沸点有機溶剤と沸点が200℃を越える高沸点有機溶剤を併用することが好ましく。重量比で低沸点有機溶剤/高沸点有機溶剤の値が1.0以上30.0以下が好ましく、1.3以上6.0以下がより好ましい。
【0053】
幾つかの実施形態に係るインキ組成物は、インキの洩れ防止のため、洩れ防止粒子を適宜含有していてもよい。
洩れ防止粒子の具体例として、シリカ粒子、酸化チタン、シリコーンレジン粒子、シリコーンゴム粒子、シリコーン複合粒子などが挙げられる。
【0054】
特にシリコーン複合粒子は、シリコーンゴム粒子をシリコーンレジンにて被覆した構造を有するため、シリコーンレジンによる分子間力の低さと粘着性の低さからなる低凝集性と、シリコーン複合粒子内のシリコーンゴムによる弾性の相乗効果により、筆記時にも破損する事なくインキ流路が細くなる箇所においても凝集構造をとることなく作用し、湿度の低い乾燥環境下においてもインキ洩れ出しを抑制する事が可能になると考察される。
【0055】
洩れ防止粒子をインキ中に添加する際は、直接添加しても良いし、予め分散体としたものを添加してもよい。
【0056】
幾つかの実施形態に係るインキ組成物は、上述の洩れ防止粒子等の粒子を分散させるための分散剤を含んでもよい。分散剤としては、分散樹脂や活性剤を用いることができ、ポリブチラール樹脂、酸性基を有するポリマー、アクリル系コポリマー、リン酸系コポリマー、リン酸ポリエステル、酸基を含む共重合体のアルキルロールアンモニウム塩、水酸基を有するカルボン酸エステル、ノニオン活性剤等が挙げられる。
【0057】
分散剤としてはポリビニルブチラールを使用することが好ましく、酸価が60mgKOH/g以上の分散剤を併用することでシリコーン複合粒子の分散安定性が向上し長期間の保存安定性が付与できるためさらに好ましい。
ポリビニルブチラールの具体例としては、エスレックBL-1、同BL-1H、同BL-2、同BL-2H、同BL-5、同BL-10、同BL-S、同BX-L、同BM-1、同BM-2、同BM-5、同BM-S、同BH-3、同BH-6、同BH-S、同BX-1、同BX-5、同KS-10、同KS-1、同KS-3、同KS-5(以上、積水化学工業(株)製)、Mowital B 14 S 、同B 16 H 、同B 20 H 、同B 30 T 、同B 30 H 、同B 30 HH 、同B 45 H 、同B 60 T 、同B 60 H 、同B 60 HH 、同B 75 H (以上、(株)クラレ製)が挙げられ、酸価が100mgKOH/g以上の分散剤の具体例としては、DISPERBYK-102(酸価101mgKOH/g)、同106(酸価132mgKOH/g、アミン価74mgKOH/g)、同111(酸価129mgKOH/g)、同140(酸価73mgKOH/g、アミン価76mgKOH/g)、同145(酸価76mgKOH/g、アミン価71mgKOH/g)同180(酸価94mgKOH/g、アミン価94mgKOH/g)、BYK-P104(酸価180mgKOH/g)、同P104S(酸価150mgKOH/g)、同P105(酸価365mgKOH/g)、同220S(酸価100mgKOH/g)、W9011(酸価65mgKOH/g)以上ビックケミー・ジャパン(株)製が挙げられる。
ここで表記されるアミン価とは、試料1g中に含まれる1級、2級および3級アミンを中和するのに要する塩酸と当量の水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数で示される。
【0058】
分散剤は単独あるいは組み合わせて使用でき、洩れ防止粒子(シリコーン複合粒子等)に対して5重量%以上200重量%以下で使用することが好ましい。
【0059】
インキ組成物中に洩れ防止粒子(シリコーン複合粒子等)を分散するには通常一般的な方法で可能である。例えば、洩れ防止粒子(シリコーン複合粒子等)と、溶剤と、分散剤とを混合し、プロペラ撹拌機等で均一に撹拌した後、分散機で洩れ防止粒子(シリコーン複合粒子等)を分散する。分散機としては、ニーダー、ロールミル、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ヘンシェルミキサー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、薄膜旋回型高速ミキサー等の中から、インキの溶剤量や、顔料濃度によって適宜選択する。
特に薄膜旋回型高速ミキサー、フィルミックス(プライミクス(株)製)を用いた分散は分散体の保存安定性を高める観点でも使用することが好ましい。
【0060】
幾つかの実施形態では、インキの粘度調整や筆跡の定着性を目的に、インキ組成物に樹脂を含有させてもよい。
【0061】
上述の樹脂の具体例として、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、アクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸-メタクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸-アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸-メタクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、ロジン、ロジンエステル、変性ロジン、変性ロジンエステル、マレイン化ロジン、マレイン化ロジンエステル、フマル化ロジン、フマル化ロジンエステル、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、N-ビニルアセトアミド重合架橋物等の合成高分子、無機粘土鉱物などが挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0062】
幾つかの実施形態では、上述の樹脂として、酸性基を有する樹脂を使用してもよい。上述の樹脂として酸性基を有する樹脂を使用することで、洩れ防止粒子(シリコーン複合粒子等)への静電的な吸着により見かけの嵩高さが増すことで洩れ防止粒子(シリコーン複合粒子等)同士の衝突が妨げられるため分散安定性が向上すると共に、筆記後の再筆記時に目止めとして作用したシリコーン複合粒子が速やかにほぐされるため書き出し時のカスレ(以下初筆カスレ)が低減される。
【0063】
樹脂の酸性の度合いは酸価で表され、試料1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数で示され、50mgKOH/g以上600mgKOH/g以下が好ましく、150mgKOH/g以上550mgKOH/g以下がさらに好ましい。
【0064】
また、樹脂中にOH基を含んでいると酸性基との相互作用によってよりシリコーン複合粒子への吸着性が向上するため、潤滑性が良化すため書き味が向上する。
OH基の量はOH価で表され、無水酢酸でアセチル化し、遊離酢酸を水酸化カリウムで定量し、試料1g中に含まれる全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数で示される。
【0065】
樹脂の具体例を挙げると、ロジンとして、KR-612(酸価167mgKOH/g)、同614(酸価175mgKOH/g)(以上、荒川化学工業(株)製)が挙げられ、マレイン酸ロジンとして、マルキードNo.31(酸価188mgKOH/g)、同No.32(酸価130mgKOH/g)、同No.33(酸価305mgKOH/g)、同3002(酸価100mgKOH/g)(以上、荒川化学工業(株)製)、ハリマックT-80(酸価185mgKOH/g)(以上、ハリマ化成(株)製)が挙げられ、マレイン化ロジンエステルとして、ハリエスターMSR-4(酸価135mgKOH/g)(以上、ハリマ化成(株)製)が挙げられ、酸変性ロジンとしてKE-604(酸価238mgKOH/g)、KR-120(酸価325mgKOH/g)(以上、荒川化学工業(株)製)が挙げられ、特殊変性ロジンとしてハリタックF-75(酸価145mgKOH/g)、同FG-90(酸価150mgKOH/g)(以上、ハリマ化成(株)製)が挙げられ、スチレン-アクリル酸系樹脂としてJoncryl611(酸価53mgKOH/g)、同586(酸価108mgKOH/g)(以上、BASFジャパン(株)製)が挙げられる。
【0066】
幾つかの実施形態では、上述の樹脂として、セルロース誘導体、特にヒドロキシプロピルセルロースを用いることが好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースの分子ネットワーク中にシリコーン複合粒子が共存することによって、インキ流路での目止め効果はもとより、ペン先を収納せずにディスプレイ等に突き当てた状態でインキがディスプレイに洩れ出ても、直ちにヒドロキシプロピルセルロースとシリコーン複合粒子がインキ表面に配向することでインキの洩れ拡がりを抑制できると考察される。
【0067】
具体例を挙げるとNISSO HPC-VH、同H、同M、同L、同SL、同SSL(以上、日本曹達(株)製)、Klucel-H、同M、同G、同J、同L、同E(以上、アシュランド・ジャパン(株)製)が挙げられる。
【0068】
幾つかの実施形態に係るインキ組成物は、pH調整剤としてアミンを含有していてもよい。インキのpHを適正範囲に保つことによって金属ボールペンチップへの酸性物質の吸着力を高め、筆跡の点線抑制や書き味向上を担保することができる。インキ組成物中のpHの範囲は2.5以上7.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以上6.0以下である。
【0069】
幾つかの実施形態に係るインキ組成物は、防錆剤を含んでもよい。防錆剤として、ベンゾトリアゾール等を用いることができる。
【0070】
本発明のボールペン用油性インキの粘度は、特に限定されるものではないが、25℃、筆記時を想定した剪断速度100sec-1におけるインキ粘度が30mPa・s以上、3000mPa・s以下である事が好ましい。30mPa・s未満であると油性インキの潤滑膜強度が低くなり筆記感やボール受け座の摩耗性が低下する恐れがある。3000mPa・sを超えると再筆記した際の筆跡カスレ、すなわち初筆カスレが悪化する恐れがある。より好ましくは、50mPa・s以上500mPa・s以下である事が好ましく、より好ましくは60mPa・s以上200mPa・s以下である。
【0071】
(ボールペンの構成)
次に、幾つかの実施形態に係るボールペンについて説明する。幾つかの実施形態に係るボールペンは、ボールペンチップを含む筆記部と、上述の油性インキを収容するインキ収容管(インキ収容部)と、を備え、インキ収容管からの油性インキが筆記部に供給されるように構成される。
【0072】
図1は、一実施形態に係るボールペンを示す縦断面図である。図2は、図1に示すボールペンのリフィル部分を示す縦断面図である。図1及び図2に示された例示的な実施形態では、ボールペン100は、リフィル200と、外装体300と、を備えている。
【0073】
図1に示す実施形態では、外装体300は、軸筒1からなり、軸筒1は前軸2と後軸3が螺着によって着脱自在に固定されている。比較的硬質な樹脂材質から形成された前軸2の表面には、グリップ部4として、比較的軟質な樹脂材質(軟質部材)が被覆されている。前記前軸2および後軸3を形成する比較的硬質な樹脂材質の一例としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートやアクリル、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体(AS)、ポリプロピレン等が挙げられ、透明部材を用いても良いし、不透明部材を用いても良い。また、グリップ部4を形成する比較的軟質な樹脂材質(軟質部材)としては、熱可塑性エラストマー、軟質アクリル等が挙げられ、透明部材を用いても良いし、不透明部材を用いても良い。前記グリップ部4は表面に凹凸を設けたグリップや三角形状をしたグリップや外面を多角形状としたグリップや指紋を模した形状のグリップ等、把持した際に滑りにくいグリップが好ましい。後軸3の後部には頭冠5が、後軸3の内孔に挿入されつつ凹凸螺合によって装着・固定され、後軸3の後端より外露した部分は後軸3の外側面に取り付けられたクリップ6の基部表面を覆うように配置されている。また、頭冠5は筒形状をなしており、その内部に形成された溝がデビットカム機構のカム溝となって、内装する回転子7の摺動位置を規制し、ノック8の押し込み操作によって回転子7が回転するに伴いこれに連接されているボールペンリフィル200の前後動位置を規定する。
前記軸筒1内には、ボールペンリフィル200が前後移動可能に配置されている。そのボールペンリフィル200の前方には、コイルスプリング等からなる弾発部材9が配置されており、ボールペンリフィル200を後方に向けて付勢している。ボールペンリフィル200の後端部は前記回転子7の先端部に当接している。つまり、前記ノック8の押圧操作によってボールペンリフィル200が軸筒1の先端開口部から出没する出没式ボールペンとなっている。
【0074】
図2に示すように、リフィル200は、筆記部としてのボールペンチップ10と、通孔が形成されたチップホルダー11を介してボールペンチップ10に接続されるインキ収容管12と、を備える。ボールペンチップ10は、筆記部材であるボール13及びボール13を回転自在に抱持するボールホルダー14を有する。また、インキ収容管12内にはインキ組成物15が収容されており、ボールペンチップ10(筆記部)に供給される。インキ組成物15の後端界面に接して、インキ組成物15と相溶しないインキ逆流防止体16が配置されており、インキ逆流防止体16に接してフロート17が配置されている。なお、リフィル200のインキ収容管12の後端にインキ組成物15の洩れ出しを防止する尾栓等を配置して、外装体300を使用しないボールペン体とすることもできる。インキ収容管12の内径は、1.0mm以上5.0mm以下でも良い。特にインキ収容管12の内径が1.0mm以上3.1mm以下であると、インキ逆流防止体16の保形性が良好でインキ逆流防止体16の流れだしが起きなかったり、インキ逆流防止体16に接したフロート17を用いなくてもインキ逆流防止体16の流れだしが起きなかったりするので好ましい。インキ収容管12の厚みは、外径-内径で求める事が出来、インキ収容管12の厚みは、0.5mm以上10.0mm以下でも良い。インキ収容管12の厚みが1.0mm以上10.0mm以下であるとガスバリア性が高くてインキの溶剤蒸発を防ぐことができ、さらに、2.8mm以上10.0mm以下であると特にガスバリア性が高いのでさらに好ましい。
【0075】
図3は、一実施形態に係るボールペンリフィル200のボールペンチップ10の構成を示す図であり、図2のI部拡大縦断面図である。図3に示すボールペンチップ10は、筆記部材としてのボール13を、貫通孔であるインキ通路孔の先端より一部突出した状態でボールホルダー14内にて回転自在に抱持しており、また、ボール13の後方には、弾撥部材であるコイルスプリング18が配置されている。コイルスプリング18は、ボールホルダー14の後方から挿入され、全長を圧縮するように押し込まれて抜け止めされており、その圧縮されたことによる復元力によってボール13を前方に付勢している。コイルスプリング18は、チップホルダー11にコイルスプリング18の後端部を当接させて抜け止めされている。他の抜け止め方法として、ボールホルダー14の後部内壁面をブローチ加工によって抉り切削片として形成したり、ボールホルダー14の後端開口部を縮径加工したり、ボールホルダー14の側壁部をポンチ加工等によって凹ませて内壁面に凸部を形成しても良く、コイルスプリング18の抜け止め方法や形状は適宜選択できる。
また、未使用時にボールペンチップ10をキャップによって保護するボールペンの形態、所謂キャップ式ボールペンの形態であれば、ボールペンチップ10の先端からのインキ滲み出しやインキの乾燥による筆記カスレといった問題が発生し難いのでボール13を前方付勢し密閉性を確保する必要がなく、コイルスプリング18を除いた構成でも構わない。
【0076】
ボール13は紙面等の被筆記面に押し付けられることにより後方に移動して、後述するボールホルダー14との間に形成される隙間よりインキを流出又はボール13の回動に伴い外に搬送して転写するものである。ボール13の大きさは、一般的なボールペンで使用されている直径0.18(mm)以上2.0(mm)以下が使用可能であり、ボール13の表面の算術平均高さ(Sa)が大きいと、ボール13とボールホルダー14で金属同士の接触が局所的に起こりやすく、局所的に高圧となる接触部でリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜を保持できなってしまうため、多層膜による潤滑性がより発揮しやすい点を考慮すると、ボール13の表面の算術平均高さ(Sa)は、1(nm)以上20(nm)以下が好ましい。ボール13の材質としては、タングステンカーバイドを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属や、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、炭化クロム、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミドといった樹脂材料や、ガラスなどが使用できるが、インキによる耐食性を考慮すると超硬合金やセラミックスが好ましい。
【0077】
次にボールペンチップ10の詳細について、図3のII部拡大図である図4にて説明する。ボールホルダー14は、貫通孔であるインキ通路孔を有しており、このインキ通路孔は、先端側より先端を小径にかしめ加工された先端開口部19と、内包突出部20で区画されボール13が先端開口部19より一部突出した状態で配置されるボール抱持部21、内包突出部20の中心部分に形成される中心孔22、後孔23を有している。先端開口部19の外縁は、紙面への引っ掛かりを防止するために曲面形状としても良い。先端開口部19の内縁は、コイルスプリング18によってボール13が押圧され周接した際の密閉性を向上させる為に、かしめ加工を行う際にボール13に押し当てる事でボール13の曲面を転写しつつ鏡面化している。また、内方突出部20に切削により複数本、放射状に等間隔のインキ通溝24が形成されている。このインキ通溝24は、ボール抱持部21へのインキ供給を確実なものとする為に後孔23へ貫通させているが、後孔23に貫通させずに中心孔22の途中で留めてもよい。そして、内方突出部20にボール13を押し付けることによって凹状のボール受け座部25が形成されており、ボール受け座部25は、筆記時に紙面等に当接してボール13が後退した時にボール13の位置を安定させ、不要な振動等の少ない円滑な回転を保障せんとするものであり、ボール13とボール受け座部25とが略面状に接触するような形状としている。また、前記インキ通溝24は、内方突出部20に形成されているボール受け座部25より外側に開口部を有し、ボール抱持部21へのインキ供給を確保しているものである。
【0078】
ボールペンチップ10のボール13の直径Aは、0.18mm以上2.0mm以下のものが好ましい。ボールペンチップ10の各寸法値としては、先端開口部19の内径Bはボール13の直径に対して80%以上98%以下、ボール13の前後方向移動距離Cはボール13の直径Aに対して2%以上10%以下、ボール突出長さDはボール13の直径Aに対して20%以上35%以下、ボール抱持部21の内径Eはボール13の直径Aに対して90%以上130%以下、インキ通溝24の本数は2本以上6本以下、インキ通溝24の幅Fは0.05mm以上0.15mm以下、インキ通溝24の深さGは0.10mm以上もしくはボール抱持部21から後孔23へ貫通させても良い、ボール受け座部径Hはボール13の直径Aに対して75%以上90%以下、中心孔径Iはボール13の直径Aに対して40%以上70%以下、ボール抱持部21の座角αは90度以上160度以下、かしめ角度βは50度以上90度以下、面取角度γは20度以上60度以下、テーパー角度δは150度以下が好ましい。ボール受け座部でのインキの介在を維持してリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜による潤滑性をより発揮するために、高筆圧での筆記時にボール受け座部へかかる単位面積当たりの力を分散させる点を考慮すると、ボール受け座部径Hはボール13の直径Aに対して80%以上90%以下がより好ましい。また、ボールペンチップ10の表面には、使用するインキに応じて親水処理又は疎水処理を行うことでボールペンチップ10へのインキ付着を防止できるため好ましい。各寸法部分については、図4図5図6(ボール13とコイルスプリング18の図示省略)に示している。
【実施例0079】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0080】
実施例中の粘度はMCR302(Anton Paar社製)で、ローター CP50-1にて25℃で剪断速度100s-1時の粘度測定を行った。(単位「mPa・s」)
【0081】
実施例中のpHはピッコロプラス(ハンナ インスツルメンツ・ジャパン(株)製)にて25℃で測定を行った。
【0082】
表1~表12に示すとおり、実施例1~32及び比較例1~6の油性インキ組成物を作製した。なお、使用した材料は下記の通りである。なお、表1~12には、インキ組成物中の各材料の含有量(重量%)が示されている。
【0083】
リン酸エステル(1)(第1のリン酸エステル):フォスファノール LS-500(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)トリデシルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB9.0、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(2)(第1のリン酸エステル):フォスファノール GF-199(リン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB5.5、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(3)(第1のリン酸エステル):フォスファノール RP-710(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(6)フェニルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB11.9、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(4)(第1のリン酸エステル):プライサーフA219B(リン酸エステル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルのリン酸エステル、HLB16.2、第一工業製薬(株)製)
リン酸エステル(5)(第2のリン酸エステル):フォスファノール LB-400(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(4)オレイルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB8.6、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(6)(第2のリン酸エステル):フォスファノール RL-210(リン酸エステル、ポリオキシエチレン(2)ステアリルエーテルのリン酸モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、HLB5.4、東邦化学工業(株)製)
リン酸エステル(7):(NIKKOL TOP-0V(リン酸トリオレイル、日光ケミカルズ(株)製)
【0084】
イオン交換水
【0085】
界面活性剤(1)(ノニオン性界面活性剤):ペグノールST-7(ポリオキシエチレン(7)アルキル(C12~14)エーテル、HLB12.8、東邦化学工業(株)製)
界面活性剤(2)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL BT-5(ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル、HLB10.5、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(3)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL BT-12(ポリオキシエチレンアルキル(C12~14)エーテル、HLB14.5、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(4)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL BO-10V(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、HLB14.5、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(5)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL BO-50V(ポリオキシエチレンオレイルエーテル、HLB18.0、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(6)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL BB-5(ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、HLB7.0、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(7)(ノニオン性界面活性剤)NIKKOL HCO-20(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、HLB10.5、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(8)(ノニオン性界面活性剤):ソルゲン30V(ソルビタンセスキオレート、HLB3.7、第一工業製薬(株)製)
界面活性剤(9)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL TO-10V(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、HLB15.0、日光ケミカルズ(株)製)
界面活性剤(10)(ノニオン性界面活性剤):NIKKOL Decaglyn 1-lSV(モノイソステアリン酸ポリグリセリル、HLB12.0、日光ケミカルズ(株)製)
【0086】
有機アミン(1):ナイミーンO-205(ポリオキシエチレンオレイルアミン、日油(株))
有機アミン(2):トリイソプロパノールアミン(東京化成工業(株)製)
有機アミン(3):トリエタノールアミン(東京化成工業(株)製)
【0087】
顔料(1):プリンテックス35(着色剤、カーボンブラック、オリオンエンジニアドカーボンズ(株)製))
顔料(2):FUJI FAST RED 8800(着色剤、C.I.Pigment Red 254、冨士色素(株)製)
顔料(3):CROMOPHTAL Blue A3R(着色剤、C.I.Pigment Blue 60、BASFジャパン(株)製)
【0088】
染料(1):SPILON RED C-GH(キサンテン系塩基性染料とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸との造塩染料、保土ヶ谷化学工業(株)製)
染料(2):VALIFAST RED 1364(C.I.Basic Red 1:1とアルキルベンゼンスルホン酸とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸との造塩染料、オリヱント化学工業(株)製)
染料(3):SPILON YELLOW C-GNH new(インドリノン系塩基性染料とアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸との造塩染料、保土ヶ谷化学工業(株) 製)
染料(4):OIL BLUE 613(C.I.Solvent Blue 5とロジン変性樹脂との混合物、オリヱント化学工業(株)製)
染料(5):VALIFAST BLUE 1631(C.I.Basic Blue 7と無色有機酸との造塩染料、オリヱント化学工業(株)製)
染料(6):VALIFAST VIOLET 1731(C.I.Acid Violet 17とメチン系染料との造塩染料、オリヱント化学工業(株)製)
【0089】
有機溶剤(1):n-プロパノール
有機溶剤(2):エチレングリコールモノイソプロピルエーテル
有機溶剤(3):エチレングリコールモノフェニルエーテル
有機溶剤(4):ベンジルアルコール
【0090】
樹脂(1):エスレックBL-1(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製)
樹脂(2):エスレックBH-3(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製)
樹脂(3):PVPK-90(ポリビニルピロリドン、アシュランド・ジャパン(株)製)
樹脂(4):TEGO Variplus SK(ポリオール樹脂、OH価325mgKOH/g、Tg90℃、エボニックジャパン(株)製)
樹脂(5):TEGO Variplus CA(ケトンアルデヒド縮合樹脂、OH価200mgKOH/g、Tg75℃、エボニックジャパン(株)製)
樹脂(6):マルキード3002(マレイン酸ロジン、酸価100mgKOH/g、Tg175℃、荒川化学工業(株)製)
樹脂(7):ハリマック T-80(マレイン化ロジン、酸価185mgKOH/g、Tg85℃、ハリマ化成(株)製)
樹脂(8):42%アクリル酸-アクリル・メタクリル酸エステルコポリマーのエチレングリコールモノフェニルエーテル溶液(固体換算で酸価510mgKOH/g、OH価130mgKOH/g、Tg80℃)
樹脂(9):42%アクリル酸-スチレン-メタクリル酸エステルコポリマーのエチレングリコールモノフェニルエーテル溶液(固体換算で酸価300mgKOH/g、OH価80mgKOH/g、Tg30℃)
樹脂(10):NISSO HPC-H(ヒドロキシプロピルセルロース、重量平均分子量:1000000、日本曹達(株)製)
樹脂(11):NISSO HPC-M(ヒドロキシプロピルセルロース、重量平均分子量:700000、日本曹達(株)製)
樹脂(12):メトローズ65SH-1500(重量平均分子量:216600、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、信越化学工業(株)製)
【0091】
粒子(1)(シリコーン複合粒子):KMP-605(シリコーン複合粒子、平均粒子径2μm、ゴム硬度75デュロメータA、真比重0.99g/cm、信越化学工業(株)製)
粒子(2)(シリコーン複合粒子):X-52-7030(シリコーン複合粒子、平均粒子径0.8μm、ゴム硬度75デュロメータA、真比重1.01g/cm、信越化学工業(株)製)
【0092】
分散剤(1):DISPERBYK-102(酸性基を有するコポリマー、酸価101mgKOH/g、ビックケミー・ジャパン(株)製)
分散剤(2):BYK-W9011(酸性基を有するコポリマー、酸価65mgKOH/g、ビックケミー・ジャパン(株)製)
分散剤(3):DISPERBYK-111(酸基を含む共重合物、酸価129mgKOH/g、ビックケミー・ジャパン(株)製)
分散剤(4):DISPERBYK-106(酸基を有するポリマー塩、酸価132mgKOH/g、アミン価74mgKOH/g、ビックケミー・ジャパン(株)製)
【0093】
ベンゾトリアゾール:ベンゾトリアゾール(E-CHEM ENTERPRISE CORPORATION製)
【0094】
油性インキの作製手順としては、有機溶剤または、およびイオン交換水とリン酸エステルと界面活性剤と着色剤と樹脂をプロペラ撹拌機で60℃で攪拌した後に、その他の添加材と適宜セルロース誘導体を直接またはプロペラ撹拌機等で溶剤等に均一に溶解または分散したもの添加しプロペラで2時間攪拌して油性インキを得た。
【0095】
(試験ボールペンの作成)
【0096】
図示のボールペンチップ10を基本にして、試験で用いる第一のボールペンチップ及び第二のボールペンチップを下記に示す寸法で作製した。各寸法のカッコ内の数値はボールペンチップ10のボール13の直径Aに対する各寸法値の割合である。各寸法部分については、図4図5図6(ボール13とコイルスプリング18の図示省略)に示している。尚、図5においてボール13をボールホルダー14の先端開口部19側のボール転写部に当接させた状態を破線にて示している。
【0097】
(第一のボールペンチップ)
ボール13の直径A=0.5mm
先端開口部19の内径B=0.48mm(ボール13の直径Aに対して96%)
ボール13の前後方向移動距離C=0.03mm(ボール13の直径Aに対して6%)
ボール突出長さD=0.15mm(ボール13の直径Aに対して30%)
ボール抱持部21の内径E=0.53mm(ボール13の直径Aに対して106%)
インキ通溝24の本数=5本
インキ通溝24の幅F=0.09mm
インキ通溝24の深さG=0.15mm
ボール受け座部径H=0.44mm(ボール13の直径Aに対して88%)
中心孔径I=0.28mm(ボール13の直径Aに対して56%)
ボール抱持部21の座角α:100度
かしめ角度β=80°
面取角度γ=56°
テーパー角度δ=30°
尚、コイルスプリング18の線径は0.14mm、ボールホルダー14内にコイルスプリング18を配設した状態におけるボール13への押圧荷重は0.15Nとした。
ボール13は、株式会社ツバキ・ナカシマ製の超硬ボールPB-11、表面粗さである算術平均高さ(Sa:ISO 25178)は4.0nmを用いた。
【0098】
(第二のボールペンチップ)
ボール13の直径A=0.3mm
先端開口部19の内径B=0.28mm(ボール13の直径Aに対して93%)
ボール13の前後方向移動距離C=0.02mm(ボール13の直径Aに対して7%)
ボール突出長さD=0.08mm(ボール13の直径Aに対して27%)
ボール抱持部21の内径E=0.34mm(ボール13の直径Aに対して113%)
インキ通溝24の本数=3本
インキ通溝24の幅F=0.06mm
インキ通溝24の深さG=インキ通溝24は、ボール抱持部21から後孔23へ貫通させた
ボール受け座部径H=0.24mm(ボール13の直径Aに対して80%)
中心孔径I=0.18mm(ボール13の直径Aに対して60%)
ボール抱持部21の座角α:150度
かしめ角度β=80°
面取角度γ=56°
テーパー角度δ=30°
尚、コイルスプリング18の線径は0.12mm、ボールホルダー14内にコイルスプリング18を配設した状態におけるボール13への押圧荷重は0.15Nとした。
ボール13は、株式会社ツバキ・ナカシマ製の超硬ボールPB-11、表面粗さである算術平均高さ(Sa:ISO 25178)は1.8nmを用いた。
【0099】
(第三のボールペンチップ)
ボール13の直径A=0.4mm
先端開口部19の内径B=0.38mm(ボール13の直径Aに対して95%)
ボール13の前後方向移動距離C=0.03mm(ボール13の直径Aに対して8%)
ボール突出長さD=0.12mm(ボール13の直径Aに対して30%)
ボール抱持部21の内径E=0.45mm(ボール13の直径Aに対して113%)
インキ通溝24の本数=3本
インキ通溝24の幅F=0.08mm
インキ通溝24の深さG=インキ通溝24は、ボール抱持部21から後孔23へ貫通させた
ボール受け座部径H=0.33mm(ボール13の直径Aに対して83%)
中心孔径I=0.23mm(ボール13の直径Aに対して58%)
ボール抱持部21の座角α:130度
かしめ角度β=80°
面取角度γ=56°
テーパー角度δ=30°
尚、コイルスプリング18の線径は0.12mm、ボールホルダー14内にコイルスプリング18を配設した状態におけるボール13への押圧荷重は0.15Nとした。
ボール13は、株式会社ツバキ・ナカシマ製の超硬ボールPB-11、表面粗さである算術平均高さ(Sa:ISO 25178)は1.8nmを用いた。
【0100】
実施例中のボール13の表面粗さである算術平均高さは走査型プローブ顕微鏡(AFM5100N;(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて、任意の20(μm)×20(μm)の範囲を3か所測定し、平均値から算出した。
【0101】
実施例1~32及び比較例1~6のインキ組成物を図2に示した例に基づくリフィル200に充填し、図1に示した例に基づく外装体300に収容して、上記第一のボールペンチップを有した試験用サンプルボールペン、上記第二のボールペンチップを有した試験用サンプルボールペン、上記第三のボールペンチップを有した試験用サンプルボールペンを得た。得られたボールペンのペン先にパッキン(HM200、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂系ホットメル接着)で封をし、遠心力を作用させて余剰な気泡を抜き、インキ組成物がペン先まで行き渡るようにした。
【0102】
各実施例及び比較例のインキ組成物について、以下の試験及び評価を行った。評価結果を表1~12に示す。
【0103】
(書き味)
上記第一のボールペンチップを有した試験用ボールペンを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度65%の環境下にて手書き筆記を行った。評価基準は以下のとおりである。
A:非常に良好な書き味である
B:良好な書き味である
C:やや書き味が劣る
D:書き味が悪い
【0104】
(追従性試験)
上記第一のボールペンチップと第二のボールペンチップを有した試験用ボールペンを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度65%の環境下にて、筆記角度70°、筆記荷重100gf、筆記速度7cm/sec(通常速度筆記)、筆記速度10cm/sec(速書き筆記)にて螺旋機筆記にて得られた100mの筆跡の目視確認を行った。評価基準は以下のとおりである。
A:第一のボールペンチップ、第二のボールペンチップ共にカスレがない。
B:第一のボールペンチップではカスレが見られないが、筆記速度10cm/sec(速書き筆記)において第二のボールペンチップでカスレが若干見られる。
C:第一のボールペンチップ、第二のボールペンチップ共に筆記速度7cm/secではカスレが見られないが、筆記速度10cm/sec(速書き筆記)でカスレが見られる。
D:7cm/secでもカスレが見られる。
【0105】
(ボテ確認試験)
上記第一のボールペンチップを有した試験用ボールペンを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度65%の環境下にて、筆記角度70°、筆記荷重100gf、筆記速度7cm/sec(通常筆記圧力)、筆記荷重200gf、筆記速度7cm/sec(強筆記圧力)にて螺旋機筆記にて得られた100mの筆跡の目視確認を行った。評価基準は以下のとおりである。
A:ボテが全くない。
B:強筆記圧力条件でボテが見られるが、通常筆記圧力ではボテが見られない。
C:ボテが見られる。
D:ボテが多く見られる。
ボテとは、ボールペンで筆記時に、被筆記面に転写しきれなかったインキが、ボールホルダーの外面に付着して蓄積し大きくなったインキの塊が、被筆記面に付着する現象である。
【0106】
(ペン先インキ洩れ確認試験1(洩れ確認試験1))
上記第一のボールペンチップを有した試験用ボールペンに50gの重りをつけたものを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度30%の環境下にて、手書きで「国会の年日」(図7に示す文字列)を筆記した後、アクリル樹脂板に洩れ出したインキの大きさをデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、VHX-7000)を用いて50倍にて確認し直径を記録し平均値を求めた。評価基準は以下のとおりである。
A:洩れなしから0.30mm以下
B:0.31mm以上0.50mm以下
C:0.51mm以上1.00mm以下
D:1.1mm以上
【0107】
(ペン先インキ洩れ確認試験2(洩れ確認試験2))
上記第一のボールペンチップを有した試験用ボールペンを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度65%の環境下にて、手書きで「国会の年日」(図7に示す文字列)を筆記した後、台紙に貼り付けて下向きで3日間静置した後のペン先からのインキ洩れの大きさをデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、VHX-7000)を用いて50倍にて確認し直径を記録し平均値を求めた。評価基準は以下のとおりである。
A:洩れなしから0.30mm以下
B:0.31mm以上0.50mm以下
C:0.51mm以上1.00mm以下
D:1.1mm以上
【0108】
(ペン先インキ洩れ確認試験3(洩れ確認試験3))
上記第一のボールペンチップを有した試験用ボールペンを各実施例、比較例あたり3本ずつ用意し、パッキンを外してから、温度25℃、相対湿度30%の環境下にて、手書きで「国会の年日」(図7に示す文字列)を筆記した後、台紙に貼り付けて下向きで3日間静置した後のペン先からのインキ洩れの大きさをデジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製、VHX-7000)を用いて50倍にて確認し直径を記録し平均値を求めた。評価基準は以下のとおりである。
A:洩れなしから0.30mm以下
B:0.31mm以上0.50mm以下
C:0.51mm以上1.00mm以下
D:1.1mm以上
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
【表6】
【0115】
【表7】
【0116】
【表8】
【0117】
【表9】
【0118】
【表10】
【0119】
【表11】
【0120】
【表12】
【0121】
実施例1~32のインキ組成物は、炭素数が4以上17以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステルと、炭素数が18以上24以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第2のリン酸エステルと、水と、ノニオン性界面活性剤と、を含む。
【0122】
したがって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む、クッション性のある厚みのある多層膜が形成されるため、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持することができ、筆記時における潤滑性が良好となり、書き味が良好であるとともに、カスレや線飛び又はボテを抑制することができたと考えられる。また、ノニオン性界面活性剤は、金属のないところに濡れ拡がろうとしないため、ノニオン性界面活性剤と相互作用するリン酸エステルの余剰な濡れ拡がりが抑制されたため、ペン先からのインキ組成物の洩れが効果的に抑制されたと考えられる(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)。
【0123】
よって、実施例1~32のインキ組成物によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができたと考えられる。
【0124】
また、実施例1~32のインキ組成物は、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数と、第1のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数との差が4以上である。よって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜がより形成されやすく、このため、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができたと考えられる。
【0125】
また、実施例1~32のインキ組成物は、第1のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が12以上14以下であり、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が18以上20以下である。よって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜がより形成されやすく、このため、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができたと考えられる。
【0126】
また、実施例1~31のインキ組成物は、第1のリン酸エステルのHLB値及び第2のリン酸エステルのHLB値が4以上14以下である。よって、ノニオン性界面活性剤の層に水が保持されやすくなるため、ボール及び受け座の金属表面の間に形成される多層膜のクッション性が高くなり、このため、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができたと考えられる。
【0127】
また、実施例1~12、14、17~31のインキ組成物は、第1のリン酸エステルのHLB値及び第2のリン酸エステルのHLB値が7以上12以下である。よって、ノニオン性界面活性剤の層に水がより保持されやすくなるため、ボール及び受け座の金属表面の間に形成される多層膜のクッション性がより高くなり、このため、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができたと考えられる。
【0128】
また、実施例1~32のインキ組成物は、第1のリン酸エステル及び第2のリン酸エステルの合計の含有量が、0.4重量%以上3.0重量%以下である。よって、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層の密度が適度なものとなり、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成されるため、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味及び筆跡が得られたと考えられる。
【0129】
また、実施例1~32のインキ組成物は、第2のリン酸エステルの含有量に対する第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.2以上8.0以下である。よって、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層が密な構造となりやすく、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成されるため、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味及び筆跡が得られたと考えられる。
【0130】
また、実施例1~14、17~32のインキ組成物は、第2のリン酸エステルの含有量に対する第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.25以上4.0以下である。よって、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層がより密な構造となりやすく、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成されるため、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味及び筆跡が得られたと考えられる。
【0131】
また、実施例1~25、27~28、30~32のインキ組成物は、ノニオン性界面活性剤のHLB値が4以上15以下である。よって、これらのインキ組成物は、ある程度親水性があるため、水との相互作用によりノニオン性界面活性剤の層に水が取り込まれやすくなるとともに、親水性が過度でなく、第1/第2のリン酸エステルの炭化水素基と相互しやすいため、ボールと受け座の金属表面の間に上述の多層膜を形成しやすいと考えられる。このため、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)であっても良好な書き味及び筆跡が得られたと考えられる。
【0132】
比較例3~6のインキ組成物は、第1のリン酸エステル及び第2のリン酸エステルの何れか一方又は両方を含まない。したがって、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に、厚みがあるとともに密な構造を有する多層膜が形成され難く、このため、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)において、良好な書き味及び筆跡が得られなかったと考えられる。
【0133】
また、比較例1,6のインキ組成物は、ノニオン性界面活性剤を含まない。したがって、金属のないところへのインキ組成物の濡れ拡がりが抑制されず、ペン先からのインキ組成物の洩れが生じたと考えられる(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)。
【0134】
また、比較例2,5のインキ組成物は、水を含まない。したがって、水が取り込まれたノニオン性界面活性剤の層が形成されず、多層膜のクッション性が乏しいため、ボールペンでの筆記時においてペン先のボールと受け座の金属表面の間に多層膜が形成され難い、あるいは、多層膜が維持され難い。よって、高速での筆記時(追従性試験)又は高筆圧での筆記時(ボテ確認試験)において、良好な書き味及び筆跡が得られず、あるいは、ペン先からのインキ組成物の洩れが生じたと考えられる(ペン先インキ洩れ確認試験1~3)。
【0135】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0136】
[1]本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペン用油性インキ組成物は、
炭素数が4以上17以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第1のリン酸エステルと、
炭素数が18以上24以下の炭化水素基を有するポリオキシエチレン炭化水素リン酸エステルである第2のリン酸エステルと、
水と、
ノニオン性界面活性剤と、
を含む。
【0137】
上記[1]の構成によれば、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層状の膜(以下、多層膜)が形成されやすい。
すなわち、上記[1]の油性インキ組成物は、炭化水素基の炭素数が比較的少ない第1のリン酸エステル、及び、炭化水素基の炭素数が比較的多い第2のリン酸エステルを含むので、これらのリン酸エステルのリン酸基がボール及び受け座の金属表面に吸着することで、ボール及び受け座の金属表面にリン酸エステルの層が形成される。ここで、第2のリン酸エステルは比較的長い炭化水素基を有するため、金属表面に比較的厚いリン酸エステルの層が形成されるとともに、第1のリン酸エステルは比較的短い炭化水素基を有するため、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込み、金属表面に密な構造を有するリン酸エステルの層が速やかに形成される。
また、上記[1]の油性インキ組成物は、水及びノニオン性界面活性剤を含む。このため、ボールペンでの筆記時に、ノニオン性界面活性剤の疎水基がリン酸エステルの炭化水素基と相互作用し、ボール及び受け座の表面にそれぞれ形成されるリン酸エステルの層の間にノニオン性界面活性剤の層が形成されるので、厚い多層膜が得られやすく、また、ノニオン性界面活性剤の親水基が水と相互作用し、ノニオン性界面活性剤の層に表面張力の高い水が取り込まれるので、多層膜のクッション性が高くなる。
このように、上記[1]の構成によれば、ボールペンでの筆記時に、ボール及び受け座の金属表面の間に、膜厚が大きくクッション性の高い多層膜が形成されやすいので、高速又は高筆圧での筆記時であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持することができ、筆記時における潤滑性が良好となる。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても書き味が良好であるとともに、カスレや線飛び又はボテを抑制することができる。
また、上記[1]の構成では、ノニオン性界面活性剤は、金属のないところに濡れ拡がろうとしないため、ノニオン性界面活性剤と相互作用するリン酸エステルの余剰な濡れ拡がりが抑制される。よって、ペン先からのインキ組成物の洩れを効果的に抑制することができる。
よって、上記[1]の構成によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0138】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]の構成において、
前記第2のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数と、前記第1のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数との差が4以上である。
【0139】
上記[2]の構成によれば、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数と第1のリン酸エステルの炭素数の差が4以上であるので、両者の炭化水素基の炭素鎖の長さがある程度異なる。このため、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層において、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込みやすくなり、金属表面に密な構造のリン酸エステルの層が形成されやすい。よって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜がより形成されやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0140】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]の構成において、
前記第1のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数が12以上14以下であり、
前記第2のリン酸エステルの前記炭化水素基の炭素数が18以上20以下である。
【0141】
上記[3]の構成によれば、第1のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が12以上14以下であり、第2のリン酸エステルの炭化水素基の炭素数が18以上20以下であるので、両者の炭化水素基の炭素鎖の長さがある程度異なる。このため、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層において、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込みやすくなり、金属表面に密な構造のリン酸エステルの層が形成されやすい。よって、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層膜がより形成されやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0142】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[3]の何れかの構成において、
前記第1のリン酸エステルのHLB値及び前記第2のリン酸エステルのHLB値が4以上14以下である。
【0143】
上記[4]の構成では、第1のリン酸エステルのHLB及び第2のリン酸エステルのHLB値が4以上であるので、適度な親水性があるため、多層膜への水の取り込みを阻害し難い。また、上記[4]の構成では、第1のリン酸エステルのHLB及び第2のリン酸エステルのHLB値が14以下であるので、第1/第2のリン酸エステルの炭化水素基がノニオン性界面活性剤の疎水基と相互作用しやすくなる。その結果、ノニオン性界面活性剤の親水基が水と相互作用しやすくなり、ノニオン性界面活性剤の層に水が取り込まれやすくなる。したがって、上記[4]の構成によれば、ノニオン性界面活性剤の層に水が保持されやすくなるため、ボール及び受け座の金属表面の間に形成される多層膜のクッション性が高くなる。よって、高速又は高筆圧での筆記時であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持しやすくなり、筆記時における潤滑性が良好となりやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味や筆跡が得られやすい。
【0144】
[5]幾つかの実施形態では、上記[4]の構成において、
前記第1のリン酸エステルのHLB値及び前記第2のリン酸エステルのHLB値が7以上12以下である。
【0145】
上記[5]の構成では、第1のリン酸エステルのHLB及び第2のリン酸エステルのHLB値が7以上であるので、適度な親水性があるため、多層膜への水の取り込みを阻害し難い。また、上記[5]の構成では、第1のリン酸エステルのHLB及び第2のリン酸エステルのHLB値が12以下であるので、第1/第2のリン酸エステルの炭化水素基がノニオン性界面活性剤の疎水基と相互作用しやすくなる。その結果、ノニオン性界面活性剤の親水基が水と相互作用しやすくなり、ノニオン性界面活性剤の層に水が取り込まれやすくなる。したがって、上記[5]の構成によれば、ノニオン性界面活性剤の層に水が保持されやすくなるため、ボール及び受け座の金属表面の間に形成される多層膜のクッション性が高くなる。よって、高速又は高筆圧での筆記時であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持しやすくなり、筆記時における潤滑性が良好となりやすい。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味や筆跡が得られやすい。
【0146】
[6]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[5]の何れかの構成において、
前記第1のリン酸エステル及び前記第2のリン酸エステルの合計の含有量が、0.4重量%以上3.0重量%以下である。
【0147】
上記[6]の構成によれば、第1のリン酸エステル及び第2のリン酸エステルの合計の含有量が、0.4重量%以上3.0重量%以下であるので、ボール及び受け座の金属表面に形成されるリン酸エステルの層の密度が適度なものとなり、このため、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成される。よって、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0148】
[7]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[6]の何れかの構成において、
前記第2のリン酸エステルの含有量に対する前記第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.2以上8.0以下である。
【0149】
上記[7]の構成によれば、第2のリン酸エステルの含有量に対する第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.2以上8.0以下であるので、金属表面に形成されるリン酸エステルの層が密な構造となりやすい。このため、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成される。よって、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0150】
[8]幾つかの実施形態では、上記[7]の構成において、
前記第2のリン酸エステルの含有量に対する前記第1のリン酸エステルの含有量の質量ベースの比が0.25以上4.0以下である。
【0151】
上記[8]の構成によれば、第2のリン酸エステルの含有量に対する第1のリン酸エステルの含有量の重量ベースの比が0.25以上4.0以下であるので、金属表面に形成されるリン酸エステルの層が密な構造となりやすい。このため、ペン先のボールと受け座の金属表面の間に適度な密度の多層膜が形成される。よって、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0152】
[9]幾つかの実施形態では、上記[1]乃至[8]の何れかの構成において、
前記ノニオン性界面活性剤のHLB値が4以上15以下である。
【0153】
上記[9]の構成では、ノニオン性界面活性剤のHLB値が4以上であるので、ある程度親水性があるため、水との相互作用により、ノニオン性界面活性剤の層に水が取り込まれやすくなる。また、上記[9]の構成では、ノニオン性界面活性剤のHLB値が15以下であるので、親水性が過度でなく、第1/第2のリン酸エステルの炭化水素基と相互しやすいため、ボールと受け座の金属表面の間に上述の多層膜を形成しやすい。よって、 上記[9]の構成によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味及び筆跡が得られやすくなる。
【0154】
[10]本発明の少なくとも一実施形態に係るボールペンは、
筆記部と、
上記[1]乃至[9]の何れか一項に記載の油性インキを収容するインキ収容部(例えば上述のインキ収容管12)と、を備え、
前記インキ収容部からの前記油性インキが前記筆記部(例えば上述のボールペンチップ10)に供給されるように構成される。
【0155】
上記[10]の構成によれば、ボールペンでの筆記時に、ペン先のボールと受け座の金属表面の間にリン酸エステルの層及びノニオン界面活性剤の層を含む厚みのある多層状の膜(以下、多層膜)が形成されやすい。
すなわち、上記[10]の油性インキ組成物は、炭化水素基の炭素数が比較的少ない第1のリン酸エステル、及び、炭化水素基の炭素数が比較的多い第2のリン酸エステルを含むので、これらのリン酸エステルのリン酸基がボール及び受け座の金属表面に吸着することで、ボール及び受け座の金属表面にリン酸エステルの層が形成される。ここで、第2のリン酸エステルは比較的長い炭化水素基を有するため、金属表面に比較的厚いリン酸エステルの層が形成されるとともに、第1のリン酸エステルは比較的短い炭化水素基を有するため、第1のリン酸エステルの間に第2のリン酸エステルが入り込み、金属表面に密な構造を有するリン酸エステルの層が速やかに形成される。
また、上記[10]の油性インキ組成物は、水及びノニオン性界面活性剤を含む。このため、ボールペンでの筆記時に、ノニオン性界面活性剤の疎水基がリン酸エステルの炭化水素基と相互作用し、ボール及び受け座の表面にそれぞれ形成されるリン酸エステルの層の間にノニオン性界面活性剤の層が形成されるので、厚い多層膜が得られやすく、また、ノニオン性界面活性剤の親水基が水と相互作用し、ノニオン性界面活性剤の層に表面張力の高い水が取り込まれるので、多層膜のクッション性が高くなる。
このように、上記[10]の構成によれば、ボールペンでの筆記時に、ボール及び受け座の金属表面の間に、膜厚が大きくクッション性の高い多層膜が形成されやすいので、高速又は高筆圧での筆記時であっても、ボールと受け座との間に該多層膜を保持することができ、筆記時における潤滑性が良好となる。このため、高速又は高筆圧での筆記時であっても書き味が良好であるとともに、カスレや線飛び又はボテを抑制することができる。
また、上記[10]の構成では、ノニオン性界面活性剤は、金属のないところに濡れ拡がろうとしないため、ノニオン性界面活性剤と相互作用するリン酸エステルの余剰な濡れ拡がりが抑制される。よって、ペン先からのインキ組成物の洩れを効果的に抑制することができる。
よって、上記[10]の構成によれば、インキ洩れを効果的に抑制可能でありながら、高速又は高筆圧での筆記時であっても良好な書き味で良好な筆跡を得ることができる。
【0156】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0157】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0158】
1 軸筒
2 前軸
3 後軸
4 グリップ部
5 頭冠
6 クリップ
7 回転子
8 ノック
9 弾発部材
10 ボールペンチップ
11 チップホルダー
12 インキ収容管
13 ボール
14 ボールホルダー
15 インキ組成物
16 インキ逆流防止体
17 フロート
18 コイルスプリング
19 先端開口部
20 内包突出部
21 ボール抱持部
22 中心孔
23 後孔
24 インキ通溝
25 ボール受け座部
100 ボールペン
200 リフィル
300 外装体
A ボール13の直径
B 先端開口部19の内径
C ボール13の前後方向移動距離
D ボール突出長さ
E ボール抱持部21の内径
F インキ通溝24の幅
G インキ通溝24の深さ
H ボール受け座部径
I 中心孔径
α ボール抱持部21の座角
β かしめ角度
γ 面取角度
δ テーパー角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7