(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146889
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】改善された銅腐食のための耐摩耗システム
(51)【国際特許分類】
C10M 137/10 20060101AFI20241004BHJP
C10M 177/00 20060101ALI20241004BHJP
C10M 129/90 20060101ALN20241004BHJP
C10N 60/12 20060101ALN20241004BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20241004BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241004BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C10M137/10
C10M177/00
C10M129/90
C10N60:12
C10N30:12
C10N30:06
C10N40:04
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024053890
(22)【出願日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】18/193,843
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391007091
【氏名又は名称】アフトン・ケミカル・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クナウス、ブランドン
(72)【発明者】
【氏名】エドワーズ、デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】マコウスカ、マグダレナ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA20R
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB02R
4H104BB32R
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BH03A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104JA01
4H104LA03
4H104LA06
4H104PA02
4H104PA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】油溶性リン耐摩耗添加剤及び改善された銅腐食性能を有する無灰耐摩耗添加剤を含む潤滑組成物を提供する。
【解決手段】潤滑粘度を有する大部分の1つ又は複数の基油、及び(a)有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成する工程と、(b)前記反応生成物を蒸留し、凝縮物を回収する工程と、(c)前記凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する工程とを含むプロセスによって製造される前記油溶性リン耐摩耗添加剤を含む、潤滑組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑組成物であって、
潤滑粘度を有する大部分の1つ又は複数の基油、及び
(a)有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成する工程と、(b)前記反応生成物を蒸留し、凝縮物を回収する工程と、(c)前記凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する工程とを含むプロセスによって製造される前記油溶性リン耐摩耗添加剤を含む、潤滑組成物。
【請求項2】
前記蒸留が、少なくとも約50℃の温度、少なくとも約0.1トルの圧力、又はそれらの組合せのうちの1つ又は複数で行われ、及び/又は前記凝縮物が、約10℃以下の温度で回収され、及び/又は前記蒸留が、流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、遠心薄膜蒸発器、短行程蒸発器、又はそれらの組合せにおいて行われる、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記凝縮物が、ジアルキルジチオリン酸を含み、及び/又は前記ジアルキルジチオリン酸が、ジプロピルジチオリン酸、ジイソプロピルジチオリン酸、ジブチルジチオリン酸、ジイソブチルジチオリン酸、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸の不飽和エステルが、C1~C20アルキル(メタ)アクリレートであり、及び/又は前記カルボン酸の不飽和エステルが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、又はこれらの組合せである、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
前記有機ヒドロキシ化合物が、C1~C6直鎖若しくは分岐アルコール、ヒドロキシルアリール化合物、又はそれらの混合物であり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、フェノール、ナフトール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、iso-ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、オクタデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、4-メチル-2-ペンチルアルコール、フェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロペンチルアルコール、プロペニルアルコール、ブテニルアルコール、又はそれらの組合せである、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
前記有機ヒドロキシ化合物がイソプロピルアルコールであり、前記反応生成物がジイソプロピルジチオリン酸及び1つ又は複数の多硫化リンを含み、前記凝縮物が前記ジイソプロピルジチオリン酸を含み、前記1つ又は複数の多硫化リンを実質的に含まず、前記凝縮物が更にエチルアクリレートと反応して前記油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
前記潤滑組成物が、約0.1~約5重量%の前記油溶性リン耐摩耗添加剤を含み及び/又は前記有機ヒドロキシ化合物が、約4:1~約10:1の前記五硫化リンに対するモル比で提供され、及び/又は前記カルボン酸の不飽和エステルが、約0.1:1~約0.5:1の前記有機ヒドロキシ化合物に対するモル比で提供される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
油溶性リン耐摩耗添加剤を調製する方法であって、前記方法は、
有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成することと、
前記反応生成物を蒸留し、そこから凝縮物を回収することと、
前記凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて、前記油溶性リン耐摩耗添加剤を形成することとを含む、方法。
【請求項9】
前記蒸留が、少なくとも約50℃の温度で行われ、及び/又は前記蒸留が、少なくとも約0.1トルの圧力で行われ、及び/又は前記凝縮物が、約10℃以下の温度で回収され、及び/又は前記蒸留が、流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、遠心薄膜蒸発器、短行程蒸発器、又はそれらの組合せにおいて行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記凝縮物が、ジアルキルジチオリン酸を含み、及び/又は前記ジアルキルジチオリン酸が、ジプロピルジチオリン酸、ジイソプロピルジチオリン酸、ジブチルジチオリン酸、ジイソブチルジチオリン酸、又はこれらの組合せである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記カルボン酸の不飽和エステルが、C1~C20アルキル(メタ)アクリレートであり、及び/又は前記カルボン酸の不飽和エステルが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、又はこれらの組合せである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記有機ヒドロキシ化合物が、C1~C6直鎖若しくは分岐アルコール、ヒドロキシアリール化合物、又はそれらの混合物であり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、フェノール、ナフトール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、iso-ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、オクタデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、4-メチル-2-ペンチルアルコール、フェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロペンチルアルコール、プロペニルアルコール、ブテニルアルコール、又はそれらの組合せである、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記有機ヒドロキシ化合物がイソプロピルアルコールであり、前記反応生成物がジイソプロピルジチオリン酸及び1つ又は複数の多硫化リンを含み、前記凝縮物が前記ジイソプロピルジチオリン酸を含み、前記1つ又は複数の多硫化リンを実質的に含まず、前記凝縮物が更にエチルアクリレートと反応して前記油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記有機ヒドロキシ化合物が、前記五硫化リンに対して約4:1~約10:1のモル比で提供され、及び/又は前記カルボン酸の不飽和エステルが、前記有機ヒドロキシ化合物に対して約0.1:1~約0.5:1のモル比で提供される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
(a)有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成する工程と、(b)前記反応生成物を蒸留し、そこから凝縮物を回収する工程と、(c)前記凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する工程とを含むプロセスによって製造される油溶性リン耐摩耗添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改善された銅腐食を有する油溶性リン耐摩耗添加剤を有する潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑組成物は、低摩耗と低摩擦との間のバランスをとり、同時に、他の性能上の欠点を最小化するように設計される。例えば、一般にZDDPとして知られているジアルキルジチオリン酸亜鉛は、エンジンオイル、トランスミッション液、及び/又は油圧作動油などの潤滑剤において広く使用されている耐摩耗添加剤である。しかしながら、このような添加剤によって提供される亜鉛は、用途によってはあまり望ましくないことがあり、いわゆる無灰又は金属を含まない耐摩耗添加剤の使用が増加する。無灰(すなわち、金属を含まない)ジチオリン酸はそのような代替物の1つであるが、無灰ジチオリン酸は良好な耐摩耗性及び極圧性能を有する一方、これらの添加剤は金属、特に銅及び青銅金属を腐食する傾向がある。
【発明の概要】
【0003】
1つの手法又は実施形態では、潤滑粘度を有する大部分の1つ又は複数の基油、及び(a)有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて、反応生成物を形成する工程と、(b)反応生成物を蒸留し、凝縮物を回収する工程と、(c)凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する工程を含むプロセスにより製造される油溶性リン耐摩耗添加剤を含む潤滑組成物。
【0004】
他の手法又は実施形態では、前段落に記載される潤滑組成物は、任意の組合せで、1つ又は複数の任意選択の特徴又は実施形態を含んでもよい。これらの任意選択の特徴又は実施形態は、以下の1つ又は複数を含んでもよい。蒸留は、少なくとも約50℃の温度、少なくとも約0.1トルの圧力、又はそれらの組合せのうちの1つ又は複数で行われ、及び/又は凝縮物は、約10℃以下の温度で回収され、及び/又は蒸留は、流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、遠心薄膜蒸発器、短行程蒸発器、又はこれらの組合せにおいて行われ、及び/又は凝縮物はジアルキルジチオリン酸を含み、及び/又はジアルキルジチオリン酸がジプロピルジチオリン酸、ジイソプロピルジチオリン酸、ジブチルジチオリン酸、ジイソブチルジチオリン酸、又はそれらの組合せであり、及び/又はカルボン酸の不飽和エステルがC1~C20アルキル(メタ)アクリレートであり、及び/又はカルボン酸の不飽和エステルが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、又はそれらの組合せであり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物は、C1~C6直鎖若しくは分岐アルコール、ヒドロキシルアリール化合物、又はそれらの混合物であり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、フェノール、ナフトール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、iso-ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、オクタデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、4-メチル-2-ペンチルアルコール、フェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロペンチルアルコール、プロペニルアルコール、ブテニルアルコール、又はそれらの組合せであり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物がイソプロピルアルコールであり、反応生成物が、ジイソプロピルジチオリン酸及び1つ又は複数の多硫化リンを含み、凝縮物が、ジイソプロピルジチオリン酸を含み、1つ又は複数の多硫化リンを実質的に含まず、凝縮物が、エチルアクリレートと更に反応して、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成し、及び/又は潤滑組成物が、約0.1~約5重量%の油溶性リン耐摩耗添加剤を含み、及び/又は有機ヒドロキシ化合物が、五硫化リンに対して約4:1~約10:1のモル比で提供され、及び/又はカルボン酸の不飽和エステルが、有機ヒドロキシ化合物に対して約0.1:1~約0.5:1のモル比で提供される。
【0005】
他の手法又は実施形態では、油溶性リン耐摩耗添加剤を調製する方法であって、方法は、有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成することと、反応生成物を蒸留し、そこから凝縮物を回収することと、凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて油溶性リン耐摩耗添加剤を形成することとを含む方法が本明細書に記載される。
【0006】
他の手法又は実施形態では、前段落の方法は、任意の組合せで、1つ又は複数の任意選択的な特徴、工程、又は実施形態と組み合わされてもよい。これらの任意選択の特徴、工程、又は実施形態は、以下の1つ又は複数を含んでもよい。蒸留は、少なくとも約50℃の温度で行われ、及び/又は蒸留は、少なくとも約0.1トルの圧力で行われ、及び/又は凝縮物は、約10℃以下の温度で回収され、及び/又は蒸留は、流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、遠心薄膜蒸発器、短行程蒸発器、又はこれらの組合せにおいて行われ、及び/又は凝縮物はジアルキルジチオリン酸を含み、及び/又はジアルキルジチオリン酸がジプロピルジチオリン酸、ジイソプロピルジチオリン酸、ジブチルジチオリン酸、ジイソブチルジチオリン酸、又はそれらの組合せであり、及び/又はカルボン酸の不飽和エステルがC1~C20アルキル(メタ)アクリレートであり、及び/又はカルボン酸の不飽和エステルが、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、又はそれらの組合せであり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物は、C1~C6直鎖若しくは分岐アルコール、ヒドロキシアリール化合物、又はそれらの混合物であり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物は、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、フェノール、ナフトール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、iso-ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、オクタデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、4-メチル-2-ペンチルアルコール、フェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロペンチルアルコール、プロペニルアルコール、ブテニルアルコール、又はそれらの組合せであり、及び/又は有機ヒドロキシ化合物がイソプロピルアルコールであり、反応生成物が、ジイソプロピルジチオリン酸及び1つ又は複数の多硫化リンを含み、凝縮物が、ジイソプロピルジチオリン酸を含み、1つ又は複数の多硫化リンを実質的に含まず、凝縮物が、エチルアクリレートと更に反応して、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成し、及び/又は有機ヒドロキシ化合物が、五硫化リンに対して約4:1~約10:1のモル比で提供され、及び/又はカルボン酸の不飽和エステルが、有機ヒドロキシ化合物に対して約0.1:1~約0.5:1のモル比で提供される。
【0007】
更に別の手法又は実施形態では、油溶性リン耐摩耗添加剤が本明細書に記載されており、(a)有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成する工程と、(b)反応生成物を蒸留し、そこから凝縮物を回収する工程と、(c)凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルと反応させて、油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する工程とを含むプロセスによって製造される。他の手法又は実施形態では、油溶性リン耐摩耗添加剤は、本概要に記載される潤滑剤又は方法の任意の他の実施形態を含んでもよい。
【0008】
更に他の手法又は実施形態では、五硫化リンと反応した有機ヒドロキシ化合物の反応生成物から凝縮物を回収するための蒸発又は蒸留の使用が本明細書に記載されており、凝縮物はカルボン酸の不飽和エステルと反応して油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する。本明細書の使用は、本概要に記載される任意の更なる実施形態を含んでもよい。
【0009】
本開示の他の実施形態は、本明細書に開示した発明の明細書及び発明の実施を考慮すれば、当業者には明らかであろう。以下の用語の定義は、本明細書で使用される特定の用語の意味を明確にするために提供される。
【0010】
「ギア油」、「ギア流体」、「ギア潤滑剤」、「基ギア潤滑剤」、「潤滑油」、「潤滑剤組成物」、「潤滑組成物」、「潤滑剤」、及び「潤滑流体」という用語は、本明細書で考察されるような、主要量の基油と、少量の添加剤組成物と、を含む、最終潤滑生成物を指す。1つの手法では、このような流体は、例えば、変速機及び/又はリミテッド・スリップ・ディファレンシャルでは、金属と金属との接触状態を有する変速機及びギア駆動構成要素などの極圧状態において使用するものである。別の手法では、このような流体は、エンジンの潤滑に使用するためのものである。
【0011】
本明細書で使用される場合、「ヒドロカルビル置換基」又は「ヒドロカルビル基」という用語は、当業者に周知である、その通常の意味で使用される。具体的には、それは、分子の残りの部分に直接結合した炭素原子を有し、且つ主に炭化水素の特徴を有する基を指す。各ヒドロカルビル基は、炭化水素置換基から独立して選択され、置換炭化水素置換基は、ハロ基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、メルカプト基、ニトロ基、ニトロソ基、アミノ基、ピリジル基、フリル基、イミダゾリル基、酸素、及び窒素のうちの1つ以上を含有し、2個以下の非炭化水素置換基は、ヒドロカルビル基中の炭素原子10個ごとに存在する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「重量%(percent by weight)」又は「重量%(wt%)」という用語は、別段の断りがない限り、列挙した成分が組成物全体の重量に対して表す百分率を意味する。本明細書の全てのパーセント数は、別段の指定がない限り、重量%である。
【0013】
本明細書で使用される「可溶性」、「油溶性」、又は「分散性」という用語は、化合物又は添加剤が、全ての割合で油中に可溶性、溶解性、混和性、又は懸濁可能であることを示し得るが、必ずしもそうではない。しかしながら、前述の用語は、それらが、例えば、油が用いられる環境においてそれらの意図された効果を発揮するのに十分な程度まで油中に可溶性、懸濁性、溶解性、又は安定して分散性であることを意味している。更に、所望ならば、他の添加剤を更に組み込むと、より高いレベルの特有な添加剤を組み込むことも可能になり得る。
【0014】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、約1~約200個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指す。本明細書で使用される場合、「アルケニル」という用語は、約3~約30個の炭素原子の直鎖、分岐鎖、環状、及び/又は置換飽和鎖部分を指す。本明細書で使用される場合、「アリール」という用語は、アルキル、アルケニル、アルキルアリール、アミノ、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロ置換基、及び/又はヘテロ原子、例えば、限定するものではないが窒素及び酸素を含み得る単環及び多環芳香族化合物を指している。
【0015】
本明細書で使用される場合、分子量は、市販のポリスチレン標準(較正基準として約180~約18,000のMnを有する)を使用してゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)によって測定される。本明細書の任意の実施形態の分子量(Mn)は、Watersから入手されるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)機器又は類似の機器、及びWaters Empower Software又は類似のソフトウェアで処理されたデータを用いて決定され得る。GPC機器には、Waters分離モジュール及びWaters屈折率検出器(又は同様の任意選択的な機器)が提供され得る。GPC操作条件は、ガードカラム、4つのAgilent PLgelカラム(長さ300×7.5mm、粒径5μ、及び細孔径の範囲100~10000Å)、約40℃のカラム温度を含み得る。非安定化HPLCグレードのテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)は、1.0mL/分の流量で溶媒として使用され得る。GPC機器は、500~380,000g/モルの範囲の狭い分子量分布を有する市販のポリスチレン(polystyrene、PS)標準で較正され得る。較正曲線は、500g/モル未満の質量を有する試料について外挿することができる。試料及びPS標準は、THFに溶解し、0.1~0.5重量%の濃度で調製することができ、濾過せずに使用することができる。GPC測定は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,266,223号にも記載されている。GPC法は、分子量分布情報を更に提供する。例えば、参照により本明細書に組み込まれるW.W.Yau,J.J.Kirkland and D.D.Bly,「Modern Size Exclusion Liquid Chromatography」,John Wiley and Sons,New York,1979も参照されたい。
【0016】
本開示全体を通して、用語「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」などは、オープンエンドであると考えられ、明示的に列挙されていない任意の要素、工程、又は配合成分を含むことを理解すべきである。「から本質的になる」という句は、任意の明示的に列挙された要素、工程、又は配合成分、及び本発明の基本的及び新規の態様に実質的に影響を及ぼさない任意の追加の要素、工程、又は配合成分を含むことを意味している。本開示はまた、用語「含む(comprises)」、「含む(includes)」、「含有する(contains)」を使用して記載される任意の組成物は、具体的に列挙されたその成分「から本質的になる(consisting essentially of)」又は「からなる(consisting of)」同じ組成物の開示を含むものとして解釈されるべきであることも企図している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示のアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸耐摩耗添加剤を含む比較例及び本発明の油圧作動油の
31P NMRスペクトルであり、
【
図2】比較例及び本発明の油圧作動油におけるアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸耐摩耗添加剤の2つの異なる処理速度についての銅腐食のプロットであり、
【
図3】比較例及び本発明の油圧作動油におけるアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸耐摩耗添加剤の2つの異なる処理速度についての銅腐食のプロットであり、
【
図4】有機ヒドロキシ化合物と五硫化リンとの比較例の反応生成物を表す画像であり、
【
図5】有機ヒドロキシ化合物と五硫化リンとの反応生成物を蒸留して得られた凝縮物を表す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書では、改善された無灰耐摩耗添加剤、及び改善された銅腐食と同時に良好な耐摩耗性能を提供するそのような改善された無灰耐摩耗添加剤を含む潤滑組成物が開示される。一実施形態では、無灰耐摩耗添加剤は、油溶性リン耐摩耗添加剤である。1つの手法では、本明細書の潤滑組成物は、潤滑粘度の少なくとも1つ又は複数の基油及び新規無灰ジチオリン酸エステル耐摩耗添加剤を含む。一態様では、本明細書の油溶性リン耐摩耗添加剤は、(a)有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと反応させて反応生成物を形成することと、(b)反応生成物を蒸発及び/又は蒸留し、そこから凝縮物を回収して、ジチオリン酸のジエステルを含む蒸留反応生成物を提供することと、(c)凝縮物をカルボン酸の不飽和エステルなどの有機化合物と反応させて、改善された油溶性リン耐摩耗添加剤を形成することとにより調製される。本開示の改善された油溶性リン耐摩耗添加剤は、良好な耐摩耗性能(1200rpm、40kg、75℃、1時間でASTM D4172に準拠した4球試験によって測定した)を示し、同時に良好な銅腐食性能(ASTM D4951に準拠して測定した)も示す。
【0019】
以下により詳細に記載されるように、油溶性リン耐摩耗添加剤及びこのような耐摩耗添加剤を含む潤滑組成物の改善された性能は、いくつかの実施形態では、有機ヒドロキシ化合物と五硫化リンとの反応生成物を蒸発及び/又は蒸留し、蒸留から凝縮物を回収した結果である。いくつかの手法又は実施形態では、蒸発及び/又は蒸留からの凝縮物は、以下に更に論じるカルボン酸の不飽和エステルなどの多種多様な有機化合物と反応して本開示の改善された油溶性リン耐摩耗添加剤を形成するための単離及び/又は改良されたジチオリン酸中間体(すなわち、ジチオリン酸の蒸留ジエステル)を含む。
【0020】
本明細書の油溶性リン耐摩耗添加剤は、多くの方法で調製されることができるが、好ましくは、まず、アルコール又はフェノールなどの有機ヒドロキシ化合物を五硫化リンと(任意選択でカプロラクタムの存在下で)反応させることによって調製される。いくつかの手法では、五硫化リンは、その単量体又は二量体であってもよい。好適な有機ヒドロキシ化合物としては、ノルマル直鎖アルコール、分岐鎖アルコール、フェノール及びナフトールなどのヒドロキシアリール化合物、ジアミルフェノールなどの置換アリールヒドロキシ化合物、又はヒドロキシ基が五硫化リンと反応する任意の他のヒドロキシ有機物質が挙げられ得る。1つの手法では、出発アルコールは、飽和アルコール又は飽和アルキル基によって置換されたアリールヒドロキシ化合物などの置換アリールヒドロキシ化合物である。いくつか手法では、有機ヒドロキシ化合物は、1つ又は複数のメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、フェノール、ナフトール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、イソ-ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール、ドデシルアルコール、オクタデシルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、4-メチル-2-ペンチルアルコール、フェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、シクロヘキシルアルコール、メチルシクロペンチルアルコール、プロペニルアルコール、ブテニルアルコール、又はそれらの組合せなどの、C1~C10(他の手法では、C1~C6)直鎖又は分岐アルコール、ヒドロキシアリール化合物、又はこれらの混合物であってもよい。本明細書の好ましい有機ヒドロキシ化合物としては、エチルアルコール、プロピルアルコール、又はイソプロピルアルコールなどのC1~C4アルコールが挙げられ、最も好ましくは、有機ヒドロキシ化合物はイソプロピルアルコールである。
【0021】
有機ヒドロキシ化合物と五硫化リンとの得られた反応生成物は、ジチオリン酸のジエステルのポリスルフィドなどのポリスルフィドを含む種々の残留副反応物を含み得る。第1の反応工程の例示的な反応スキームを以下のスキームIに示し(R1は、C1~C10直鎖若しくは分岐アルコール、ヒドロキシアリール化合物、又は上で定義した他のアルコール、好ましくはイソプロピルアルコール又はイソプロピル基である)、少なくとも以下に示す例示的なジイソプロピルジチオリン酸多硫化リン種(式中、xは1~6の整数(いくつかの手法では、1~3、又は1~5、又は2~5、又は3~5、又は4~5)である)を含むジチオリン酸の1つ又は複数のジエステル及び種々の多硫化リン副反応物を含む反応生成物を形成する。
【0022】
【0023】
更なる反応の前に、少なくともジチオリン酸のジエステル及び種々の残留多硫化リンを含む上記の反応生成物を、蒸発又は蒸留技術を使用して更に処理して、反応生成物中の望ましくない多硫化リンから所望のジチオリン酸ジエステルを単離する。所望のジチオリン酸ジエステルのこの分離及び単離を達成するために、任意の数の蒸発及び/又は蒸留技術を使用してもよい。例えば、好適な蒸発及び/又は蒸留は、特定の用途の必要に応じて、流下膜式蒸発器、薄膜蒸発器、遠心薄膜蒸発器、短行程蒸発/蒸留、スピニングコーン蒸発器、蒸発表面かき取り式熱交換器、上昇膜式蒸発器、遠心蒸留(centrifugal distillation)、及び同種のもの、又はこれらの組合せを使用して実施してもよい。各単位操作の1つ又は複数を、特定の用途の必要に応じて、並列又は直列で使用してもよい。
【0024】
1つの手法では、好適な蒸発器は典型的には、円筒状の加熱された本体及びローターを含む。典型的には、上記の中間反応混合物は、上部で加熱された本体に入り、ローターによって加熱された内面上に均一に分配される。揮発性成分は急速に蒸発し(この場合、所望のジチオリン酸ジエステルの蒸留)、一方不揮発性成分(この場合、望ましくないポリスルフィド残留生成物)はボトム出口で排出される。より具体的には、好適な蒸発器は、垂直ローターシャフトが容器内で同心円状に延びる直立円筒容器を含んでもよい。入口は、容器の内壁の周りに材料を薄膜状に広げる分配器機構に蒸発させる材料を供給し、内壁に液体の薄膜を形成するように動作する分配器の下のローターシャフトに接続された1つ又は複数のワイパアセンブリを含んでもよい。次いで、内壁の加熱により、液体膜が蒸発する。円筒形本体の中心に配置されることが多い内部凝縮器を使用して、蒸留物相を凝縮し、これを好適なタンクに収集してもよい。望ましくないポリスルフィド成分を含む不揮発性ボトムは、別のタンクに収集され、それによって、蒸留物に凝縮される所望のジチオリン酸ジエステルを含む上部揮発性物質から分離される。
【0025】
分離技術は、所望の生成物を単離及び分離するための蒸発器又は蒸留の選択された圧力及び温度の組合せを含む。手法又は実施形態では、上記のジチオリン酸ジエステルと多硫化リンとの混合物を含む反応生成物の蒸留は、好ましくは、薄膜蒸発器又は短行程蒸発器で行ってもよい。好適な蒸留条件は、少なくとも約50℃、少なくとも約80℃(好ましくは約90℃~約120℃、より好ましくは約90℃~約105℃)の温度と、少なくとも約0.1トル、又は約0.3トル~約1.0トル、又は約0.4トル~約1トル(好ましくは約0.4トル~約0.6トル、より好ましくは約0.45トル~約0.55トル)の好適な圧力との組合せを含んでもよい。凝縮物は、約10℃以下(好ましくは約2℃~約8℃、より好ましくは約4℃~約6℃)の温度で蒸留から回収してもよい。手法では、蒸留は、約90~98%の蒸留物対約2~約10%の残渣又はボトムの、蒸留物(凝縮物として回収される)対ボトム又は残渣の分割比を含んでもよい。薄膜蒸発器又は遠心薄膜蒸発器を使用する1つの手法では、薄膜により比較的迅速に蒸留及び/又は蒸発が可能になるので、加熱されたデバイス中の組成物の成分の滞留時間は短い。
【0026】
蒸留からの凝縮物は、反応生成物からの多硫化リンを実質的に含まない所望のジチオリン酸ジエステル(例えば、ジアルキルジチオリン酸)を含む。1つの手法では、凝縮物中のジアルキルジチオリン酸は、1つ又は複数のジプロピルジチオリン酸、ジイソプロピルジチオリン酸、ジブチルジチオリン酸、ジイソブチルジチオリン酸、又はこれらの組合せを含んでもよく、好ましくはジイソブチルジチオリン酸を含む。理論によって限定されることを望むものではないが、凝縮物は、上述の反応生成物からの多硫化リンを実質的に含まず、このような内容物では、約1重量%未満、約0.5重量%未満、又は約0.25重量%未満の任意の多硫化リン、例えば、ジチオリン酸ジエステルの多硫化リンを含んでもよいと考えられる。
【0027】
次いで、蒸留されたジチオリン酸ジエステルを含む、蒸発又は蒸留からの凝縮物を、第2の工程において、好ましくはカルボン酸の不飽和エステルである別の有機化合物と更に反応させて、本開示の油溶性リン耐摩耗添加剤を形成する。この更なる反応では、多重結合に加えて他の官能基を有するものを含めて、多種多様な不飽和有機化合物を使用してもよいが、以下で更に論じるように、この第2の工程の好ましい更なる反応には、カルボン酸の不飽和エステルが含まれる。例えば、不飽和脂肪酸エステル、アルキル(メタ)アクリレート、ワックスオレフィン、オレイン酸及びそのエステル及び/又はその塩、アマニ油、大豆油、パラフィンワックス由来の種々の不飽和炭化水素、不飽和アルコール、及び/又は他の天然又は合成油を、蒸留から得られた凝縮物と更に反応させてもよい。しかしながら、この第2の反応工程の好ましい有機化合物は、カルボン酸の不飽和エステルを含み、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、又はこれらの組合せなどのC1~C20アルキル(メタ)アクリレートを含んでもよい。本明細書で使用され、当業者によって理解されるように、(メタ)アクリレートは、メタクリレート及び/又はアクリレートの両方を含む。この第2の工程の反応は、約70℃~約150℃で約2~約4時間、又は所望の最終生成物を得るために必要に応じて行ってもよい。いくつかの実施形態において、本明細書の得られる油溶性リン耐摩耗添加剤は、エチル3-((ジイソブトキシホスホロチオイル)チオ)プロパノエート、メチル4-((ジイソブトキシホスホロチオイル)チオ)ブタノエート、及び/又はエチル3-((ジイソプロポキシホスホロチオイル)チオ)ブタノエート、又はこれらの組合せ及び同種のものなどのアルキル化ジチオリン酸エステル無灰チオリン酸耐摩耗添加剤を含んでもよい。凝縮物の第2の反応工程についての例示的な反応スキームIIは、上で定義したR1(好ましくはイソプロピル基)を有し、不飽和カルボン酸エステルとしてエチルアクリレートを使用して以下に示される(本明細書に記載の他のエステルも同様に使用されてもよい)。
【0028】
【0029】
1つの手法又は実施形態では、本明細書の油溶性リン耐摩耗添加剤は、第1の反応工程において、上記の有機ヒドロキシ化合物(好ましくはイソプロピルアルコール)及び五硫化リンを、約4:1~約10:1の有機ヒドロキシル化合物対五硫化リンのモル比で反応させて、上記の反応生成物を形成することによって調製されてもよい。次いで、反応生成物を蒸留し、ジアルキルジチオリン酸を含む蒸留物から、好ましくは多硫化リンを実質的に含まない凝縮物を回収する。次いで、第2の反応工程において、この凝縮物を上記のカルボン酸の不飽和エステル(好ましくは、エチルアクリレート)と更に反応させ、カルボン酸の不飽和エステル対有機ヒドロキシ化合物のモル比は、約0.1:1~約0.5:1である。得られた油溶性リン耐摩耗添加剤は、潤滑組成物中で好ましくは、約0.1~約5重量%、他の手法では約0.1~約2.0重量%、更なる手法では約0.2~約0.5重量%の量で使用されてもよい。
【0030】
基油
1つの手法では、新規な無灰耐摩耗添加剤と共に本明細書の潤滑組成物に使用するのに好適な基油としては、鉱油、合成油が含まれ、全ての一般的な潤滑基油が含まれる。鉱油は、ナフテン系又はパラフィン系であり得る。鉱油は、酸、アルカリ、及び粘土又は塩化アルミニウムなどの他の薬剤を使用する従来の方法によって精製され得るか、又は、例えば、フェノール、二酸化硫黄、フルフラール、若しくはジクロロジエチルエーテルなどの溶媒を用いる溶媒抽出によって生成された抽出油であり得る。鉱油は、水素化処理若しくは水素化精製、冷却若しくは接触脱蝋プロセスによる脱蝋、又は水素化分解されてもよい(SK Innovation Co.,Ltd.(Seoul、Korea)製の水素化分解基油のYubase(登録商標)ファミリーなど)。鉱油は、天然原油源から生成され得るか、又は異性化ワックス材料若しくは他の精製プロセスの残留物から構成され得る。
【0031】
本明細書の組成物に使用される潤滑粘度の基油又は基油は、American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelinesに明記される、グループI~Vの基油から選択されてもよい。これらの3つの基油のグループは、以下の通りである。
【0032】
【0033】
グループI、II、及びIIIは、鉱油プロセスストックであり、本出願の流体に好ましくてもよい。グループIIIの基油は、鉱油から誘導されたものであるが、これらの流体が受ける厳密な処理により、それらの物理的特性は、PAOなどのいくつかの真の合成油に非常に類似するものとなることに留意すべきである。したがって、グループIIIの基油から誘導された油は、産業において合成流体と称され得る。好適な油は、水素化分解、水素化、水素化仕上げ、未精製油、精製油、及び再精製油、並びにそれらの混合物から誘導され得る。いくつかの手法では、基油は、グループI、グループII、及び/又はグループIIIの油のブレンドであってもよく、ブレンドは、約0%~約100%のグループIの油、約0%~約100%のグループIIの油、約0%~約100%のグループIIIの油、又はグループIとII、グループIとIII、若しくはグループIIとIIIの油ブレンドの様々なブレンドであってもよい。
【0034】
未精製油は、更なる精製処理を伴わない又はほとんど伴わない、天然、鉱物、又は合成の供給源から誘導されるものである。精製油は、1つ又は複数の特性の改善をもたらし得る1つ又は複数の精製工程で処理されていることを除いて未精製油と同様である。好適な精製技術の例は、溶媒抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、濾過、浸透などである。食用に適する品質まで精製された油は、有用であり得るか、又は有用であり得ない。食用油は、ホワイト油とも呼ばれる場合がある。いくつかの実施形態では、潤滑油組成物は、食用油又はホワイト油を含まない。
【0035】
再精製油はまた、再生油又は再処理油としても知られている。これらの油は、同じ又は類似のプロセスを使用して精製油と同様に得られる。多くの場合、これらの油は、使用済み添加剤及び油分解生成物の除去を対象とする技術によって更に処理される。
【0036】
鉱油は、掘削によって、又は植物及び動物から、又はそれらの任意の混合物から得られた油を含み得る。例えば、そのような油には、ヒマシ油、ラード油、オリーブ油、ピーナツ油、トウモロコシ油、大豆油、及び亜麻仁油、並びに鉱物潤滑油、例えば、液体石油、及びパラフィン系、ナフテン系、若しくは混合パラフィン-ナフテン型の溶媒処理又は酸処理された鉱物潤滑油が含まれてもよいが、それらに限定されない。そのような油は、所望であれば、部分的又は完全に水素化され得る。石炭又は頁岩から誘導された油もまた、有用であり得る。
【0037】
本明細書の流体中に含まれる主要量の基油は、グループI、グループII、グループIII、及び前述のもののうちの2つ以上の組合せからなる群から選択されてもよく、主要量の基油は、組成物中の添加剤成分又は粘度指数改良剤の提供に起因する基油以外のものである。別の実施形態では、潤滑組成物中に含まれる主要量の基油は、グループI、グループII、及び前述のもののうちの2つ以上の組合せからなる群から選択され得、主要量の基油は、組成物中の添加剤成分又は粘度指数改良剤の提供に起因する基油以外のものである。
【0038】
基油はまた、APIグループIV又はVからの合成基油のいずれか、及び/又は合成基油と鉱物基油との組合せであってもよい。有用な合成潤滑油としては、炭化水素油、例えば、重合化、オリゴマー化、又はインターポリマー化オレフィン(例えば、ポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレンイソブチレンコポリマー);ポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、1-デセンの三量体若しくはオリゴマー、例えば、ポリ(1-デセン)(そのような材料はしばしばα-オレフィンと称される)、及びそれらの混合物;アルキル-ベンゼン(例えば、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ-(2-エチルヘキシル)-ベンゼン);ポリフェニル(例えば、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル);ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルアルカン、アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにそれらの誘導体、類似体、及び同族体、又はそれらの混合物が挙げられ得る。ポリアルファオレフィンは、典型的には水素化された材料である。
【0039】
他の合成潤滑油としては、ポリオールエステル、ジエステル、リン含有酸の液体エステル(例えば、リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル、及びデカンホスホン酸のジエチルエステル)、又はポリマーテトラヒドロフランが挙げられる。合成油は、フィッシャー・トロプシュ反応によって生成され得、典型的には、水素化異性化フィッシャー・トロプシュ炭化水素又はワックスであり得る。一実施形態では、油は、フィッシャー・トロプシュ気液合成手順、並びに他の気液油によって調製され得る。
【0040】
本明細書の組成物中の潤滑粘度の基油の量は、性能添加剤の量の合計を100重量%から差し引いた後に残る残部であり得る。例えば、最終流体中に存在し得る潤滑粘度の油は、「過半量」、例えば、約50重量%超、約60重量%超、約70重量%超、約80重量%超、約85重量%超、約90重量%超、又は95重量%超であり得る。
【0041】
いくつかの手法では、好ましい基油又は潤滑粘度の基油は、約25ppm未満の硫黄、約120を超える粘度指数、及び約100℃で約2~約8cStの動粘度を有する。他のアプローチでは、潤滑粘度の基油は、約25ppm未満の硫黄、120を超える粘度指数、及び100℃で約4cStの動粘度を有する。基油は、40%超、45%超、50%超、55%超、又は90%超のCP(パラフィン系炭素含有量)を有し得る。基油は、5%未満、3%未満、又は1%未満のCA(芳香族炭素含有量)を有し得る。基油は、60%未満、55%未満、50%未満、又は50%未満、及び30%超のCN(ナフテン系炭素含有量)を有し得る。基油は、2未満又は1.5未満又は1未満の、1環ナフテン対2環ナフテン~6環ナフテンの割合を有し得る。
【0042】
本明細書の好適な潤滑剤組成物は、以下の表2に列挙された範囲の添加剤成分を含んでもよい。
【0043】
【0044】
上記の各成分のパーセンテージは、最終的な添加剤又は潤滑油組成物の総重量に基づく、各成分の重量%を表す。潤滑油組成物の残部は、1つ又は複数の基油又は溶媒からなる。本明細書に記載される組成物の配合に使用される添加剤は、個々に又は様々な部分組合せで基油又は溶媒にブレンドされ得る。しかしながら、添加剤濃縮物(すなわち、添加剤プラス炭化水素溶媒などの希釈剤)を使用して、成分の全てを同時にブレンドすることが好適であり得る。
【0045】
本開示の改善された無灰ジチオリン酸エステル耐摩耗反応生成物を含む本明細書に記載される潤滑組成物は、良好な耐摩耗性能(1200rpm、40kg、75℃、1時間でASTM D4172に準拠した4球試験によって測定した)を示し、同時に良好な銅腐食性能(ASTM D130及びASTM D4951に準拠して測定した)も示す。例えば、潤滑組成物は、約0.350~約0.460mm(好ましくは、約0.350mm~約0.410mm、又はより好ましくは、約0.350mm~約0.370mm)の摩耗痕を示してもよい。同時に、潤滑組成物は、実施例に従ってASTM D130及びD4951によって測定して、150ppm以下の銅、より好ましくは80ppm以下の銅、更により好ましくは5ppm以下の銅の銅腐食を示してもよい。
【0046】
1つの手法では、本明細書の潤滑組成物は、油圧作動油又は駆動系潤滑組成物に適しており、ギア、トランスミッション、又はギアボックス構成要素などの機械部品を潤滑するために使用されてもよい。本開示による潤滑流体は、工業用ギア用途、自動車用ギア用途、車軸、及び固定ギアボックスなどのギア用途において使用され得る。ギアタイプとしては、スパー、スパイラル、ウォーム、ラックアンドピニオン、インボリュート、ベベル、ヘリカル、プラネタリ、及びハイポイドギア、並びに限定スリップ用途、及び差動装置が挙げられ得るが、これらに限定されない。本明細書に開示されるドライブライン潤滑組成物はまた、ステップ自動変速機、無段変速機、半自動変速機、自動手動変速機、トロイダル変速機、及びデュアルクラッチ変速機を含む、自動又は手動変速機にも好適である。
【0047】
任意選択の添加剤
他の手法では、上記のこのような添加剤を含む本明細書の潤滑組成物はまた、1つ又は複数の任意選択の成分及びその量が上記の段落に記載される性能特性に影響を及ぼさない限り、そのような成分も含んでもよい。これらの任意選択の成分は、以下の段落において記載される。
【0048】
他のリン含有化合物
本明細書の潤滑剤組成物は、流体に耐摩耗性の利点を付与し得る1つ又は複数のリン含有化合物を含み得る。1つ又は複数のリン含有化合物は、潤滑油組成物の約0重量%~約15重量%、又は約0.01重量%~約10重量%、又は約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%の範囲の量で、潤滑油組成物中に存在し得る。リン含有化合物は、最大5000ppmのリン、又は約50~約5000ppmのリン、又は約300~約1500ppmのリン、又は最大600ppmのリン、又は最大900ppmのリンを潤滑剤組成物に提供し得る。
【0049】
1つ以上のリン含有化合物は、無灰リン含有化合物を含み得る。好適なリン含有化合物の例としては、チオホスフェート、ジチオホスフェート、ホスフェート、リン酸エステル、ホスフェートエステル、ホスファイト、ホスホネート、リン含有カルボン酸エステル、エーテル、又はそれらのアミド塩、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。リン含有耐摩耗剤は、欧州特許第0612839号により完全に記載されている。
【0050】
ホスホネート及びホスファイトという用語は、潤滑剤業界ではしばしば互換的に使用されることに注意すべきである。例えば、ジブチル水素ホスホネートは、ジブチル水素ホスファイトと称されることがある。本発明の潤滑剤組成物が、ホスファイト又はホスホネートのいずれかと称されることがあるリン含有化合物を含むことは、本発明の範囲内である。
【0051】
上記のリン含有化合物のいずれかにおいて、化合物は、約5重量%~約20重量%のリン、又は約5重量%~約15重量%のリン、又は約8重量%~約16重量%のリン、又は約6重量%~約9重量%のリンを有し得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、無灰リン含有化合物は、ジアルキルジチオホスフェートエステル、アミル酸ホスフェート、ジアミル酸ホスフェート、ジブチル水素ホスフェート、ジメチルオクタデシルホスフェート、それらの塩、及びそれらの混合物であり得る。
【0053】
無灰リン含有化合物は、式:
【0054】
【化3】
を有し得、
式中、R1は、S又はOであり、R2は、-OR”、-OH、又は-R”であり、R3は、-OR”、-OH、又はSR’’’C(O)OHであり、R4は、-OR”であり、R’’’は、C1~C3分岐又は直鎖アルキル鎖であり、R”は、C1~C18ヒドロカルビル鎖である。リン含有化合物が式XIVに示した構造を有するとき、化合物は、約8重量%~約16重量%のリンを有し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Sであり、R2は、-OR”であり、R3は、SR’’’COOHであり、R4は、-OR”であり、R’’’は、C3分岐アルキル鎖であり、R”は、C4であり、リン含有化合物は、80~900ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0056】
別の実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、-OHであり、R3は、-OR”又は-OHであり、R4は、-OR”であり、R”は、C5であり、リン含有化合物は、80~1500ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0057】
なお別の実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、OR”であり、R3は、Hであり、R4は、-OR”であり、R”は、C4であり、1つ以上のリン含有化合物は、80~1550ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0058】
他の実施形態では、潤滑剤組成物は、式XIVのリン含有化合物を含み、式中、R1は、Oであり、R2は、-R”であり、R3は、-OCH3又は-OHであり、R4は、-OCH3であり、R”は、C18であり、1つ以上のリン含有化合物は、80~850ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0059】
いくつかの実施形態では、リン含有化合物は、式XIVに示した構造を有し、約80~約4500ppmのリンを潤滑剤組成物に供給する。他の実施形態では、リン含有化合物は、約150~約1500ppmのリン、又は約300~約900ppmのリン、又は約800~1600ppmのリン、又は約900~約1800ppmのリンを、潤滑剤組成物に供給する量で存在する。
【0060】
他の耐摩耗剤
潤滑剤組成物はまた、リン不含化合物である他の耐摩耗剤も含み得る。かかる耐摩耗剤の例としては、ホウ酸エステル、ホウ酸エポキシド、チオカルバメート化合物(例えば、チオカルバメートエステル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィド、チオカルバメートアミド、チオカルバミン酸エーテル、アルキレン結合チオカルバメート、及びビス(S-アルキルジチオカルバミル)ジスルフィド、及びそれらの混合物)、硫化オレフィン、アジピン酸トリデシル、チタン化合物、及びヒドロキシルカルボン酸の長鎖誘導体、例えば、タルトレート誘導体、タルトラミド、タルトリミド、シトレート、及びそれらの混合物が挙げられる。好適なチオカルバメート化合物は、モリブデンジチオカルバメートである。好適なタルトレート誘導体又はタルトリミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8個であり得る、アルキル-エステル基を含有し得る。タルトレート誘導体又はタルトリミドは、アルキル基上の炭素原子の合計が少なくとも8個であり得る、アルキル-エステル基を含有し得る。耐摩耗剤は、一実施形態では、シトレートを含み得る。追加の耐摩耗剤は、潤滑油組成物の約0重量%~約15重量%、又は約0.01重量%~約10重量%、又は約0.05重量%~約5重量%、又は約0.1重量%~約3重量%を含む範囲において存在し得る。
【0061】
他の極圧剤
本開示の潤滑剤組成物はまた、他の極圧剤も含有し得る。極圧剤は、硫黄を含有し得、少なくとも12重量%の硫黄を含有し得る。いくつかの実施形態では、潤滑油に添加される極圧剤は、潤滑剤組成物に対して、少なくとも350ppmの硫黄、500ppmの硫黄、760ppmの硫黄、約350~約2,000ppmの硫黄、約2,000~約30,000ppmの硫黄、又は約2,000~約4,800ppmの硫黄、若しくは約4,000~約25,000ppmの硫黄を提供するために十分である。
【0062】
多種多様な硫黄含有極圧剤が好適であり、硫化動物性又は植物性脂肪又は油、硫化動物性又は植物性脂肪酸エステル、リンの三価又は五価酸の完全又は部分エステル化エステル、硫化オレフィン(例えば、米国特許第2,995,569号、同第3,673,090号、同第3,703,504号、同第3,703,505号、同第3,796,661号、同第3,873,454号、同第4,119,549号、同第4,119,550号、同第4,147,640号、同第4,191,659号、同第4,240,958号、同第4,344,854号、同第4,472,306号、及び同第4,711,736号を参照されたい)、ジヒドロカルビルポリスルフィド(例えば、米国特許第2,237,625号、同第2,237,627号、同第2,527,948号、同第2,695,316号、同第3,022,351号、同第3,308,166号、同第3,392,201号、同第4,564,709号、及び英国特許第1,162,334号を参照されたい)、官能基置換ジヒドロカルビルポリスルフィド(例えば、米国特許第4,218,332号を参照されたい)、及びポリスルフィドオレフィン生成物(例えば、米国特許第4,795,576号を参照されたい)が挙げられる。他の好適な例としては、硫化オレフィン、硫黄含有アミノ複素環化合物、5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、S3及びS4スルフィドの大部分を有するポリスルフィド、硫化脂肪酸、硫化分岐鎖オレフィン、有機ポリスルフィド、並びにそれらの混合物が挙げられる。
【0063】
いくつかの実施形態では、極圧剤は、潤滑組成物において、最大約3.0重量%又は最大約5.0重量%の量で存在する。他の実施形態では、極圧剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.05重量%~約0.5重量%存在する。他の実施形態では、極圧剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.1重量%~約3.0重量%存在する。他の実施形態では、極圧剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約0.6重量%~約1重量%の量で存在する。なお他の実施形態では、洗浄剤は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、約1.0重量%の量で存在する。
【0064】
極圧剤の1つの好適なクラスは、式:Ra-Sx-Rbによって表される1つ又は複数の化合物から構成されるポリスルフィドであり、式中、Ra及びRbは、ヒドロカルビル基であり、その各々は、1~18個、他のアプローチでは、3~18個の炭素原子を含有し得、xは、2~8の範囲、典型的には2~5の範囲、特に3であり得る。いくつかのアプローチでは、xは、3~5の整数であり、xの約30~約60パーセントは、3又は4の整数である。ヒドロカルビル基は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アリール、又はアラルキルなどの多種多様なタイプであり得る。ジ-tert-ブチルトリスルフィドなどの三級アルキルポリスルフィド、及びジ-tert-ブチルトリスルフィドを含む混合物(例えば、主に又は完全にトリ-、テトラ-、及びペンタスルフィドから構成された混合物)を使用することができる。他の有用なジヒドロカルビルポリスルフィドの例としては、ジアミルポリスルフィド、ジノニルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、及びジベンジルポリスルフィドが挙げられる。
【0065】
極圧剤の別の好適なクラスは、イソブテンなどのオレフィンを硫黄と反応させることによって作製された硫化イソブテンである。硫化イソブテン(SIB)、特に硫化されたポリイソブチレンは、典型的には、約10~約55重量%、望ましくは約30~約50重量%の硫黄含有量を有する。多種多様な他のオレフィン又は不飽和炭化水素、例えばイソブテンダイマー又はトライマーを使用して、硫化オレフィン極圧剤を形成することができる。硫化オレフィンを調製するための様々な方法が先行技術において開示されてきた。例えば、Myersの米国特許第3,471,404号、Papayらの米国特許第4,204,969号、Zaweskiらの米国特許第4,954,274号、DeGoniaらの米国特許第4,966,720号、及びHorodyskyらの米国特許第3,703,504号を参照されたい、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0066】
前述の特許に開示されている方法を含む硫化オレフィンの調製するための方法は、「付加物」と典型的には称される材料の形成を含み、オレフィンをハロゲン化硫黄と、例えば一塩化硫黄と、反応させる。次いで、その付加物を硫黄源と反応させて、硫化オレフィンを提供する。硫化オレフィンの品質は、一般に、例えば、粘度、硫黄含有量、ハロゲン含有量、銅腐食試験重量損失などの様々な物理的特性によって測定される。米国特許第4,966,720号は、潤滑油における極圧添加剤として有用な硫化オレフィンと、それらの調製のための2段階反応と、に関する。
【0067】
酸化防止剤
本明細書における潤滑油組成物はまた、任意選択的に、1つ又は複数の酸化防止剤を含有し得る。酸化防止剤化合物は既知であり、例えば、フェネート、フェネートスルフィド、硫化オレフィン、ホスホ硫化テルペン、硫化エステル、芳香族アミン、アルキル化ジフェニルアミン(例えば、ノニルジフェニルアミン、ジ-ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、ジ-オクチルジフェニルアミン)、フェニル-アルファ-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-アルファ-ナフチルアミン、ヒンダード非芳香族アミン、フェノール、ヒンダードフェノール、油溶性モリブデン化合物、高分子酸化防止剤、又はそれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤化合物は、単独で、又は組み合わせて使用され得る。
【0068】
ヒンダードフェノール酸化防止剤は、立体障害基として、二級ブチル基及び/又は三級ブチル基を含有し得る。フェノール基は、ヒドロカルビル基及び/又は第2の芳香族基に結合する架橋基で更に置換され得る。好適なヒンダードフェノール酸化防止剤の例としては、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-エチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-プロピル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール又は4-ブチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、又は4-ドデシル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールが挙げられる。一実施形態では、ヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであり得、例えばBASFから入手可能なIrganox(登録商標)L-135又は2,6-ジ-tert-ブチルフェノール及びアルキルアクリレートから誘導される付加生成物を含み得、アルキル基は、約1個~約18個、又は約2個~約12個、又は約2個~約8個、又は約2個~約6個、又は約4個の炭素原子を含有し得る。別の市販のヒンダードフェノール酸化防止剤は、エステルであり得、Albemarle Corporationから入手可能なEthanox(登録商標)4716を含み得る。
【0069】
有用な酸化防止剤としては、ジアリールアミン及びフェノールが挙げられ得る。一実施形態では、潤滑油組成物は、ジアリールアミンとフェノールとの混合物を含有し得、各酸化防止剤は、潤滑剤組成物の重量に基づいて、最大約5重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。一実施形態では、酸化防止剤は、潤滑剤組成物に基づいて、約0.3~約1.5重量%のジアリールアミンと約0.4~約2.5重量%のフェノールとの混合物であり得る。
【0070】
硫化されて硫化オレフィンを形成し得る好適なオレフィンの例としては、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、ポリイソブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、又はそれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、エイコセン、又はそれらの混合物、並びにそれらの二量体、三量体、及び四量体は、特に有用なオレフィンである。代替的に、オレフィンは、1,3-ブタジエンなどのジエンのディールス・アルダー付加物及びブチルアクリレートなどの不飽和エステルであり得る。
【0071】
別の分類の硫化オレフィンには、硫化脂肪酸及びそのエステルが含まれる。脂肪酸は、多くの場合、植物油又は動物油から得られ、典型的には約4~約22個の炭素原子を含有する。好適な脂肪酸及びそのエステルの例としては、トリグリセリド、オレイン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、又はそれらの混合物が挙げられる。多くの場合、脂肪酸は、ラード油、トール油、ピーナツ油、ダイズ油、綿実油、ヒマワリ種子油、又はそれらの混合物から得られる。脂肪酸及び/又はエステルは、α-オレフィンなどのオレフィンと混合され得る。
【0072】
1つ又は複数の酸化防止剤は、潤滑油組成物の約0重量%~約20重量%、又は約0.1重量%~約10重量%、又は約1重量%~約5重量%の範囲で存在し得る。
【0073】
分散剤
潤滑剤組成物中に含有される分散剤としては、分散させる粒子と会合することができる官能基を有する油溶性ポリマー炭化水素主鎖が挙げられ得るが、これに限定されない。典型的には、分散剤は、多くの場合架橋基を介してポリマー主鎖に結合しているアミン、アルコール、アミド、又はエステル極性部分を含む。分散剤は、米国特許第3,634,515号、同第3,697,574号、及び同第3,736,357号に記載されているようなマンニッヒ分散剤、米国特許第4,234,435号及び同第4,636,322号に記載されているような無灰スクシンイミド分散剤、米国特許第3,219,666号、同第3,565,804号、及び同第5,633,326号に記載されているようなアミン分散剤、米国特許第5,936,041号、同第5,643,859号、及び同第5,627,259号に記載されているようなコッホ分散剤、並びに米国特許第5,851,965号、同第5,853,434号、及び同第5,792,729号に記載されているようなポリアルキレンスクシンイミド分散剤から選択され得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、追加の分散剤は、ポリアルファオレフィン(PAO)無水コハク酸、オレフィン無水マレイン酸コポリマーから誘導され得る。一例として、追加の分散剤は、ポリ-PIBSAとして記載され得る。別の実施形態では、追加の分散剤は、エチレン-プロピレンコポリマーにグラフトされる無水物から誘導され得る。別の追加の分散剤は、高分子量エステル又は半エステルアミドであり得る。
【0075】
存在する場合、追加の分散剤は、潤滑油組成物の最終重量に基づいて、最大約10重量%を提供するのに十分な量で使用することができる。使用することができる分散剤の別の量は、潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0.1重量%~約10重量%、又は約0.1重量%~約10重量%、又は約3重量%~約8重量%、又は約1重量%~約6重量%であり得る。
【0076】
粘度指数改良剤
本明細書の潤滑剤組成物はまた、任意選択で、1つ又は複数の粘度指数改良剤も含有し得る。好適な粘度指数改良剤には、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン-イソプレンポリマー、スチレン/マレイン酸エステルコポリマー、水素化スチレン/ブタジエンコポリマー、水素化イソプレンポリマー、アルファ-オレフィン無水マレイン酸コポリマー、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアルキルスチレン、水素化アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、又はそれらの混合物が含まれ得る。粘度指数改良剤は、星型ポリマーを含み得、好適な例は、米国特許出願公開第2012/0101017(A1)号に記載されており、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
本明細書の潤滑油組成物は、任意選択的に、粘度指数改良剤に加えて、又は粘度指数改良剤の代わりに、1つ又は複数の分散剤粘度指数改良剤も含有し得る。好適な粘度指数改良剤としては、官能化ポリオレフィン、例えば、アシル化剤(無水マレイン酸など)とアミンとの反応生成物で官能化されたエチレン-プロピレンコポリマー、アミンで官能化されたポリメタクリレート、又はアミンと反応させたエステル化無水マレイン酸-スチレンコポリマーが挙げられ得る。
【0078】
粘度指数改良剤及び/又は分散剤粘度指数改良剤の総量は、潤滑油組成物の約0重量%~約20重量%、約0.1重量%~約15重量%、約0.1重量%~約12重量%、又は約0.5重量%~約10重量%、約3重量%~約20重量%、約3重量%~約15重量%、約5重量%~約15重量%、又は約5重量%~約10重量%であり得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、粘度指数改良剤は、約10,000~約500,000、約50,000~約200,000、又は約50,000~約150,000の数平均分子量を有するポリオレフィン又はオレフィンコポリマーである。いくつかの実施形態では、粘度指数改良剤は、約40,000~約500,000、約50,000~約200,000、又は約50,000~約150,000の数平均分子量を有する水素化スチレン/ブタジエンコポリマーである。いくつかの実施形態では、粘度指数改良剤は、約10,000~約500,000、約50,000~約200,000、又は約50,000~約150,000の数平均分子量を有するポリメタクリレートである。
【0080】
他の任意選択の添加剤
他の添加剤は、潤滑剤組成物に要求される1つ又は複数の機能を実行するように選択することができる。更に、前述の添加剤のうちの1つ又は複数が、多官能性であり得、本明細書で記述される機能に追加して機能を提供し得るか、又はそれ以外の機能を提供し得る。他の添加剤は、本開示に指定される添加剤に加えられ得、且つ/又は金属不活性化剤、粘度指数改良剤、無灰TBNブースタ、耐摩耗剤、腐食抑制剤、錆抑制剤、分散剤、分散剤粘度指数改良剤、極圧剤、酸化防止剤、泡抑制剤、解乳化剤、乳化剤、流動点降下剤、シール膨潤剤、及びそれらの混合物のうちの1つ又は複数を含み得る。典型的には、完全に配合された潤滑油は、これらの性能添加剤のうちの1つ又は複数を含有する。
【0081】
好適な金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾールの誘導体(典型的にはトリルトリアゾール)、ジメルカプトチアジアゾール誘導体、1,2,4-トリアゾール、ベンゾイミダゾール、2-アルキルジチオベンゾイミダゾール、又は2-アルキルジチオベンゾチアゾール;アクリル酸エチルとアクリル酸2-エチルヘキシルと任意選択的に酢酸ビニルとのコポリマーを含む泡抑制剤;トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド及び(エチレンオキシド-プロピレンオキシド)ポリマーを含む解乳化剤;無水マレイン酸-スチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート又はポリアクリルアミドのエステルを含む流動点降下剤が挙げられ得る。
【0082】
好適な泡抑制剤としては、シロキサンなどのケイ素ベースの化合物が挙げられる。
【0083】
好適な流動点降下剤としては、ポリメチルメタクリレート又はそれらの混合物が挙げられ得る。流動点降下剤は、潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%~約1重量%、約0.01重量%~約0.5重量%、又は約0.02重量%~約0.04重量%を提供するのに十分な量で存在し得る。
【0084】
好適な防錆剤は、フェラスメタル表面の腐食を抑制する特性を有する単一の化合物、又は化合物の混合物であり得る。本明細書で有用な防錆剤の非限定的な例としては、2-エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、及びセロチン酸などの油溶性高分子量有機酸、並びにトール油脂肪酸、オレイン酸、及びリノール酸から生成されたものなどの二量体及び三量体酸を含む油溶性ポリカルボン酸が挙げられる。他の好適な腐食抑制剤には、約600~約3000の分子量範囲の長鎖アルファ、オメガ-ジカルボン酸、及びテトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、及びヘキサデセニルコハク酸などの、アルケニル基が約10個以上の炭素原子を含有するアルケニルコハク酸が含まれる。別の有用なタイプの酸性腐食抑制剤は、アルケニル基中に約8~約24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸と、ポリグリコールなどのアルコールとの半エステルである。そのようなアルケニルコハク酸の対応する半アミドもまた、有用である。有用な防錆剤は、高分子量の有機酸である。いくつかの実施形態では、エンジン油は、錆抑制剤を含まない。
【0085】
錆抑制剤は、存在する場合、潤滑油組成物の最終重量に基づいて、約0重量%~約5重量%、約0.01重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%を提供するのに十分な任意選択の量で使用され得る。
【0086】
潤滑剤組成物は、腐食抑制剤も含み得る(他の言及した成分のいくつかは銅腐食抑制特性も有し得ることに留意すべきである)。好適な銅腐食抑制剤としては、エーテルアミン、ポリエトキシル化化合物、例えば、エトキシル化アミン及びエトキシル化アルコール、イミダゾリン、モノアルキル、並びにジアルキルチアジアゾールなどが挙げられる。
【0087】
チアゾール、トリアゾール、及びチアジアゾールも、潤滑剤に使用され得る。例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクチルトリアゾール、デシルトリアゾール、ドデシルトリアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メルカプト-5-ヒドロカルビルチオ-1,3,4-チアジアゾール、及び2-メルカプト-5-ヒドロカルビルジチオ-1,3,4-チアジアゾールが挙げられる。一実施形態では、潤滑剤組成物は、1,3,4-チアジアゾール、例えば、2-ヒドロカルビルジチオ-5-メルカプト-1,3,4-ジチアジアゾールを含む。
【0088】
発泡防止剤/界面活性剤もまた、本発明による流体に含まれ得る。そのような用途のための様々な薬剤が知られている。エチルアクリレートとヘキシルエチルアクリレートとのコポリマー、例えば、Solutiaから入手可能なPC-1244を使用することができる。他の実施形態では、4%DCFなどのシリコーン流体が含まれ得る。発泡防止剤の混合物もまた、潤滑剤組成物に存在し得る。
【実施例0089】
以下の実施例は、本開示の例示的な実施形態を例解するものである。これらの実施例並びに本出願の他の箇所において、全ての比率、部、及び百分率は、別段の指示がない限り重量基準である。これらの実施例は、例解のみを目的として提示されており、本明細書で開示される発明の範囲を限定することは意図されないということが意図される。
【0090】
比較例1
比較例のアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸を以下のように調製した:約25.7ポンドのイソプロパノールをステンレス鋼反応器に投入し、次いで、約23.3ポンドの五硫化リン(約27.7%のリンを有するP
2S
5)を、ゆっくりと投入して、激しく撹拌しながら温度を約30℃~約60℃の範囲に維持した。次に、約28.5ポンドの更なる五硫化リンを反応器に投入し、続いて約31.5ポンドの更なるイソプロパノールをゆっくりと添加して、反応温度を70℃未満に維持した。第2のイソプロパノール投入が完了した後、反応温度を約80℃~約85℃に約60分間上昇させて、反応生成物Aを形成した。反応生成物Aは、
図4の画像によって表され、ジイソプロピルジチオリン酸及びジイソプロピルジチオリン酸多硫化リン(xは1~6である)の少なくとも以下の構造を含むと考えられた。
【0091】
【0092】
次に、アルキル化ジイソプロピルジチオリン酸耐摩耗添加剤を、上記反応生成物A(ジイソプロピルジチオリン酸及び多硫化リンの両方を含む)から、以下のように直接調製した:約34.6ポンドの反応生成物Aをステンレス鋼反応器に投入し、約55℃に加熱した。次いで、約16.7ポンドのエチルアクリレートをゆっくりと投入して、反応温度を75℃未満に維持した。エチルアクリレートの添加後、反応を約85℃で約2時間進行させ、次いで真空除去して、比較例のアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸耐摩耗添加剤を生成した。
【0093】
実施例1
比較例1からのジイソプロピルジチオリン酸及び残留多硫化リンを含む反応生成物Aを、薄膜蒸発器(ICL-04 Short Path Distillation System、GIG Karasek、オーストリア)で更に処理して、凝縮物を回収した。薄膜蒸発器を、約100℃のジャケット温度及び約0.5トルの圧力下で操作した。冷却器を約5℃に冷却した。蒸発器は、約95%の蒸留物及び約5%のボトム又は残渣の分割比を有していた。凝縮物は蒸留されたジイソプロピルジチオリン酸として収集され、
図5の画像によって表される。
【0094】
次に、本発明のアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸を、以下のように凝縮物から調製した:約34.6ポンドの凝縮物(すなわち、蒸留されたジイソプロピルジチオリン酸)をステンレス鋼反応器に投入し、約55℃に加熱した。次いで、約16.7ポンドのエチルアクリレートをゆっくりと投入して、反応温度を75℃未満に維持した。エチルアクリレートの添加後、反応を約85℃で約2時間進行させ、次いで真空除去して、本発明のアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸耐摩耗添加剤を生成し、これはいかなる多硫化リンも実質的に含まないと考えられた。
【0095】
実施例2
比較例1及び本発明の実施例1のアルキル化ジイソプロピルジチオリン酸反応生成物を含む油圧潤滑組成物を、以下の表3に示すように調製した。
【0096】
【表3】
*油圧添加剤パッケージは、基油、抗乳化剤、摩擦調整剤、粘度調整剤、耐摩耗剤、洗浄剤、腐食防止剤、及び酸化防止剤を含んでいた。
【0097】
図1は、上記表3からの比較例及び本発明の油圧作動油のリンNMRスペクトルを示し、比較例の油圧作動油が、本発明の油圧作動油中に見出されない種々の多硫化リン組成物が存在すると考えられる、図中で識別される追加のピークを有することを示す。
【0098】
表3の油圧作動油の銅腐食を、ASTM D130に準拠した方法に従って、121℃で2日間の長期間にわたって評価した。試験のために、完成流体当たり3つのクーポン容器を準備した(各容器は、約45グラムの完成流体及び銅ストリップを含有する)。表4の各時点で容器を抜き取り、溶液を回収した。次いで、2グラムの各溶液を、ASTM D4951に従って銅腐食に供し、結果を以下の表4に示す。
【0099】
【0100】
各処理率で、本発明の流体は、銅腐食において約50~約65%の改善を示した。
図2及び3のグラフも、比較例と本発明の流体との間の銅腐食の劇的な改善を示す。
【0101】
比較例及び本発明の流体を、1200rpm、40KGの重量、75℃、1時間で、ASTM D4172に準拠して耐摩耗性能についても評価した。摩耗痕試験の結果を以下の表5に示す。
【0102】
【0103】
上記の表5に示すように、本発明の油圧作動油は、比較例の油圧作動油と同じか又はそれよりもわずかに優れた摩耗痕性能を示し、上記の表4に示すように、銅腐食が劇的に改善された。
【0104】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されているように、単数形「a」、「an」、及び「the」は、明示的且つ明確に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「酸化防止剤」への言及は、2つ以上の異なる酸化防止剤を含む。本明細書で使用される場合、「含む」という用語及びその文法的変形は、リスト内の項目の列挙がリストの項目に置換又は追加され得る他の類似の項目を排除するものではないように、非限定的であることを意図する。
【0105】
本明細書及び添付の特許請求の範囲の目的のために、別段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される量、パーセンテージ、又は割合、及び他の数値を表す全ての数は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本開示によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、特許請求の範囲の範囲に対する均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各々の数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数の観点から及び通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。
【0106】
本明細書に開示される各成分、化合物、置換基、又はパラメータは、単独で、又は本明細書に開示されるありとあらゆる他の成分、化合物、置換基、若しくはパラメータのうちの1つ又は複数との組合せでの使用について開示されていると解釈されるべきであることを理解されたい。
【0107】
本明細書に開示される各範囲は、同じ有効数字の数を有する開示範囲内の各特定値の開示として解釈されるべきであることを更に理解されたい。したがって、例えば、1~4の範囲は、1、2、3、及び4の値だけでなく、そのような値の任意の範囲の明確な開示として解釈されるべきである。
【0108】
本明細書に開示される各範囲の各下限が、同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについて本明細書に開示される各範囲の各上限及び各範囲内の各特定値と組み合わせて開示されると解釈されるべきであることを更に理解されたい。したがって、本開示は、各範囲の各下限を各範囲の各上限と、若しくは各範囲内の各特定値と組み合わせることによって、又は各範囲の各上限を各範囲内の各特定値と組み合わせることによって導出される全ての範囲の開示として解釈されるべきである。すなわち、広い範囲内の終点値の間の任意の範囲も本明細書において考察されることもまた更に理解される。したがって、1~4の範囲は、1~3、1~2、2~4、2~3などの範囲をも意味する。
【0109】
更に、説明又は実施例において開示される成分、化合物、置換基、又はパラメータの特定量/値は、範囲の下限又は上限のいずれかの開示として解釈されるべきであり、したがって、本出願の他の箇所で開示される同じ成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲の任意の他の下限若しくは上限又は特定量/値と組み合わせて、その成分、化合物、置換基、又はパラメータについての範囲を形成することができる。
【0110】
特定の実施形態について説明してきたが、出願人ら若しくは他の当業者にとって現在予想されていない、又は現在予想することができない代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物が現れ得る。したがって、出願された添付の特許請求の範囲、及び修正され得る添付の特許請求の範囲は、そのような全ての代替、修正、変形、改善、及び実質的な均等物を包含することを意図している。