(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146894
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20241004BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241004BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D7/63
C09D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055144
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023058143
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(72)【発明者】
【氏名】大澤 慶輔
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聡一郎
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038GA15
4J038JA53
4J038MA07
4J038NA05
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】総組み手法などで必要となる、屋外環境への長期暴露後の下塗り塗膜に対する上塗り付着性(曝露付着性)に優れたシリル系防汚塗膜を形成することのできる、シリル系防汚塗料組成物を提供する。
【解決手段】トリオルガノシリル基含有共重合体(A)および下記一般式(I)で表されるジカルボン酸エステル(B)を含有し、上記共重合体(A)が、トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)および/またはアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位を有する、防汚塗料組成物。
R2-OOC-R1-COO-R2 …(I)
ここでR1は炭素数2~20の二価の炭化水素基を表し、R2はそれぞれ独立に炭素数1~30一価の炭化水素基であり、いずれかのR2が少なくとも1つのR3を有し、R3は-(R4O)n-を表し、R4はそれぞれ独立に炭素数2~4の二価の炭化水素基であり、かつ、nは2以上の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)および下記一般式(I)で表されるジカルボン酸エステル(B)を含有し、
上記共重合体(A)が、トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)および/またはアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位とを有する、防汚塗料組成物。
R2-OOC-R1-COO-R2 …(I)
ここでR1は炭素数2~20の二価の炭化水素基を表し、
R2はそれぞれ独立に炭素数1~30一価の炭化水素基であり、いずれかのR2が少なくとも1つのR3を有し、
R3は-(R4O)n-を表し、R4はそれぞれ独立に炭素数2~4の二価の炭化水素基であり、かつ、nは2以上の整数である。
【請求項2】
前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)がトリイソプロシリルメタクリレートである、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項3】
前記トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位を40~80質量%有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)に由来する構成単位の質量比[(a1):(a2)]が55:45~90:10である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、前記アルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位の質量比[(a1):(a3)]が60:40~90:10である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
前記R1がブチレン基である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
前記R4がエチレン基である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
前記R2がベンジル基を有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項10】
基材と、請求項9に記載の防汚塗膜とを有する、防汚塗膜付き基材。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布または含浸し、塗付体または含浸体を得る工程(1)、および前記塗布体または含浸体を乾燥する工程(2)を有する、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、防汚塗膜付き基材の製造方法等に関する。より詳しくは、本発明は、シリル系樹脂(例えばトリオルガノシリル基含有共重合体)を含む防汚塗料組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船底等の基材に対する海中生物による汚損を防ぐために、基材表面に防汚塗料を塗装して防汚塗膜を形成する方法が広く利用されている。現在、船底用の主要な防汚塗料としては、シリル系樹脂、すなわちトリオルガノシリル基等のシリルエステル基を含有するアクリルポリマーのような樹脂を含む、シリル系防汚塗料が知られている。
【0003】
船舶の建造にあたっては、船体を複数のブロック単位ごとに、ドック外の地上において建造し、防汚塗料等を塗装し(先行塗装)、それらを溶接して接合する(総組み)手法が一般にとられている。総組み後は接合部の周辺など一部または全部に再度、防汚塗料が塗装される(仕上げ塗装)。したがって、仕上げ塗装に用いられるシリル系防汚塗料には、下塗り塗装に対する「上塗り付着性」が要求される。
【0004】
シリル系防汚塗料としては、例えば特許文献1および2に記載されているものが公知となっている。
【0005】
特許文献1には、樹脂成分と、所定の化学式で表されるエステル化合物とを含有する防汚塗料組成物が記載されている(請求項1等)。樹脂成分としては、トリオルガノシリル基を含有するシリル系樹脂も例示されている(請求項16等)。エステル化合物としては、特許文献1における式(5)として、R-OOC-X-COO-R(式中、X及びRは、それぞれ、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、この炭化水素基は、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。2つのRは、同一又は異なる。)で表される化合物が記載されている(請求項1等)。特許文献1に記載の発明は、「初期の塗膜溶解が過度に大きくなったり、比較的短い期間の経過後にクラック等の塗膜異常を起ってしまったりする場合」があるという問題を改善するために、「海水中において長期間に亘り、安定した塗膜溶解速度を維持し、クラック等の塗膜異常を起こすことなく、安定した防汚性能を維持できる防汚塗料組成物」を提供することを課題としており、「本発明の防汚塗料組成物により、形成される塗膜が長期的に安定した溶解速度を持つ事から、より精密な膜厚設計が可能となり、必要とする防汚性能(期間)に対して、過不足なく塗料使用量を調整できる」といったことが記載されている(段落0005、0006、0009)。
【0006】
特許文献2には、トリオルガノシリルエステル含有共重合体と、エステル化合物と、亜酸化銅を含有する防汚塗料組成物が記載されている(請求項1等)。エステル化合物としては、特許文献2における式(4)として、R-OOC-X-COO-R(式中、X及びRは、ヘテロ原子を含んでもよい炭素数1~22の炭化水素基であり、この炭化水素基は、脂肪族又は芳香族であり、直鎖状、分岐鎖状、又は環状構造を有する。2つのRは、同一又は異なる。)で表される化合物が記載されている(請求項1等)。特許文献2に記載の発明も、特許文献1に記載の発明と同様に、「初期の塗膜溶解が過度に大きくなったり、比較的短い期間の経過後にクラック等の塗膜異常を起ってしまったりする場合」があるという問題を改善するために、「海水中において長期間に亘り、安定した塗膜溶解速度を維持し、クラック等の塗膜異常を起こすことなく、安定した防汚性能を維持できる防汚塗料組成物」を提供することを課題としており、「本発明によれば、長期間に渡って高い防汚性能が維持される防汚塗膜を形成可能な防汚塗料組成物が提供される」といったことが記載されている(段落0005、0006、0009)。
【0007】
なお、特許文献1および2の「エステル化合物」としては、後述するような本発明における所定の構造を有する、具体的には「少なくとも1つのR3を有し」という条件を満たすジカルボン酸エステルは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2019/069777
【特許文献2】WO2019/069778
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シリル系防汚塗料から形成されるシリル系防汚塗膜は、海中生物に対して優れた防汚性を発揮するが、最近、長期にわたって屋外環境に曝されたシリル系防汚塗膜は上塗り付着性が不良になる傾向にあることが分かった。すなわち、ブロック段階で塗装される、先行塗装にて形成されるシリル系防汚塗膜(下塗り塗膜)は、場合によってはかなり長期に亘って屋外環境に曝露されるが、ブロックの船体を総組みし、仕上げ塗装(重ね塗り)のシリル系防汚塗料を塗装する際に、上塗り付着性が低下しており、仕上げ塗装により形成した塗膜(上塗り塗膜)が部分的に剥離する場合があることが判明した。仕上げ塗装のシリル系防汚塗膜が部分的に剥離しても、先行塗装のシリル系防汚塗膜が存在するので船底の防汚性は一定程度発揮されるが、部分的な剥離によって塗膜に段差が生じるため、船舶の推進抵抗に悪影響を及ぼすおそれがある。近年の船舶航行に伴う温暖化ガスの排出抑制への関心の高まりも考慮すれば、消費する燃料の増大を招く推進抵抗への悪影響、すなわち上塗り塗装のシリル系防汚塗膜の剥離は極力少なくすることが求められる。
【0010】
本発明は、総組み手法などで必要となる、屋外環境への長期暴露後の下塗り防汚塗膜(本発明において「暴露後防汚塗膜」と呼ぶ。)に対する上塗り付着性(本発明において「曝露付着性」と呼ぶ。)に優れたシリル系防汚塗膜を形成することのできる、シリル系防汚塗料組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、静置防汚性および/または貯蔵安定性(好ましくはこれら両方)を低下させることなく、上記上塗り付着性に優れたシリル系棒塗膜を形成することのできる、シリル系防汚塗料組成物を提供することをさらなる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、トリオルガノシリル基含有共重合体と共に、特定の条件を満たすジカルボン酸エステルを含有する防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜を用いることによって、曝露付着性、つまり屋外環境への長期曝露後の下塗り防汚塗膜に対する、上塗り防汚塗膜の付着性を改善することができ、上記課題を解決できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は少なくとも下記の事項を包含する。
[項1]
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)および下記一般式(I)で表されるジカルボン酸エステル(B)を含有し、
上記共重合体(A)が、トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)および/またはアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位とを有する、防汚塗料組成物。
R2-OOC-R1-COO-R2 …(I)
ここでR1は炭素数2~20の二価の炭化水素基を表し、
R2はそれぞれ独立に炭素数1~30一価の炭化水素基であり、いずれかのR2が少なくとも1つのR3を有し、
R3は-(R4O)n-を表し、R4はそれぞれ独立に炭素数2~4の二価の炭化水素基であり、かつ、nは2以上の整数である。
[項2]
前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)がトリイソプロシリルメタクリレートである、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項3]
前記トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位を40~80質量%有する、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項4]
前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)に由来する構成単位の質量比[(a1):(a2)]が55:45~90:10である、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項5]
前記トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、前記アルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位の質量比[(a1):(a3)]が60:40~90:10である、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項6]
前記R1がブチレン基である、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項7]
前記R4がエチレン基である、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項8]
前記R2がベンジル基を有する、項1に記載の防汚塗料組成物。
[項9]
項1~8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
[項10]
基材と、項9に記載の防汚塗膜とを有する、防汚塗膜付き基材。
[項11]
項1~8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布または含浸し、塗付体または含浸体を得る工程(1)、および前記塗布体または含浸体を乾燥する工程(2)を有する、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防汚塗料組成物は、屋外環境で地面側を向いた状態で長期間曝露された後の下塗り防汚塗膜(曝露後防汚塗膜)に対する上塗り付着性(曝露付着性)を改善でき、また水中へ浸漬した後の上塗り防汚塗膜の剥離を抑制することができる。このような曝露付着性は、下塗り防汚塗膜および上塗り防汚塗膜が共に本発明の防汚塗膜である場合はもちろん優れたものとなるが、下塗り防汚塗膜および上塗り防汚塗膜の一方が本発明の防汚塗膜で他方が他の防汚塗膜(他の防汚塗料、例えば他のシリル系防汚塗料から形成された防汚塗膜)ある場合にも好ましいものとなり、本発明の防汚塗料組成物は曝露付着性が要求される様々な実施形態に対応可能である。本発明により防汚塗膜(特にシリル系防汚塗膜)の曝露付着性が向上することによって、部分的な剥離による防汚塗料組成物の無駄や、船舶等の移動体の推進抵抗の増加を抑制することができる。なお、本発明における「曝露付着性」は、屋外環境で長期曝露されていない下塗り防汚塗膜に対する付着性によって評価されてきた、従来の一般的な「上塗り付着性」とは区別される性能である。また、従来の一般的な「上塗り付着性」の評価試験では、試験板は「地面側」ではなく「空側」を向くように置かれており、そのような試験条件では、船舶等の総組み手法のように、形成された塗膜が地面側を向いた状態で長期間屋外環境の曝露されたときに生じる上塗り付着性の低下という課題を検知することはできなかった。このような面から、本発明は、上述したような「曝露後防汚塗膜」の上塗り付着性という、これまで未解決であった課題を解決できる、意外で顕著な効果を奏する発明といえる。また、本発明の防汚塗料組成物は、静置防汚性および/または貯蔵安定性(好ましくはこれら両方)を低下させることなく、上記のような曝露付着性を改善することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は文脈に応じて、「アクリル酸またはメタクリル酸」か「アクリル酸およびメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」は文脈に応じて、「アクリレートまたはメタクリレート」か「アクリレートおよびメタクリレート」を意味する。
【0015】
本明細書において、数値範囲が「N~M」と記載されている場合、「N以上M以下」という意味であり、NおよびMもその数値範囲に含まれる。本明細書に記載されている(例えば成分の含有量に関する)上限値および下限値は、任意に組みあわせて数値範囲を設定することができる。
【0016】
本明細書(特に実施例)において、数値の後に付された単位としての「部」は、特に断らない限り「質量部」を意味する。また、基準となる物質100(質量)部に対するある物質の(質量)部は、基準となる物質100質量%に対するある物質の質量%と同義である。
【0017】
-防汚塗料組成物-
本発明の防汚塗料組成物は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)および下記一般式(II)で表されるジカルボン酸エステル(B)を含有し、前記共重合体(A)が、トリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)および/またはアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位とを有するものである。
R2-OOC-R1-COO-R2 …(I)
ここでR1は炭素数2~20の二価の炭化水素基を表し、
R2はそれぞれ独立に炭素数1~30一価の炭化水素基であり、いずれかのR2が少なくとも1以上のR3を有し、
R3は-(R4O)n-を表し、R4はそれぞれ独立に炭素数2~4の二価の炭化水素基であり、かつ、nは2以上の整数である。
【0018】
<(A)トリオルガノシリル基含有共重合体>
トリオルガノシリル基含有共重合体は一般的に、化学構造中にトリオルガノシリル基を有する共重合体を総称するが、本発明におけるトリオルガノシリル基含有共重合体(A)は、(i)トリオルガノシリル基含有単量体(a1)(本明細書において「単量体(a1)」と呼ぶこともある。)に由来する構成単位と、(ii)アルコキシアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)(本明細書において「単量体(a2)」と呼ぶこともある。)および/またはアルキル(メタ)アクリレートもしくはアリール(メタ)アクリレート(a3)(本明細書において「単量体(a3)」と呼ぶこともある。)に由来する構成単位とを有する共重合体を指す。加水分解性重合体(A)は、いずれか1種を用いてもよいし、単量体(a1)に由来する構成単位と、単量体(a2)および/または単量体(a3)に由来する構成単位の、構造や比率等の異なる2種以上を用いてもよい。
【0019】
・(a1)トリオルガノシリル基含有単量体
単量体(a1)、すなわちトリオルガノシリル基含有単量体(a1)は、下記式(1)で表される単量体である。
【0020】
【0021】
式(1)中、R11は水素原子またはメチル基を示し、R12、R13およびR14はそれぞれ独立に一価の炭化水素基を示す。
【0022】
R11は、防汚塗膜の長期防汚性及び耐水性を良好なものとする観点からは、メチル基が好ましい。
【0023】
R12、R13およびR14の「一価の炭化水素基」としては、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基、およびアリール基が挙げられる。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、さらに好ましくは1~4である。また、当該アリール基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。防汚塗膜に適度な加水分解性を付与して長期の防汚性および耐水性を良好なものとする観点からは、R12、R13およびR14は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、sec-ブチル基、n-ブチル基、またはフェニル基であることが好ましく、R12、R13およびR14の全てがイソプロピル基、n-プロピル基、sec-ブチル基、またはn-ブチル基であることがより好ましく、R12、R13およびR14の全てがイソプロピル基であることがさらに好ましい。
【0024】
すなわち、トリオルガノシリル基含有共重合体(a1)としては、トリアルキルシリル(メタ)アクリレート、アルキルジアリールシリル(メタ)アクリレート、およびアリールジアルキルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリアルキルシリル(メタ)アクリレートがより好ましく、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが特に好ましく、形成される防汚塗膜内部の耐水性を良好なものとする観点から、トリイソプロピルシリルメタクリレートが最も好ましい。
【0025】
単量体(a1)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。すなわち、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)は、いずれか1種の単量体(a1)に由来する構成単位を含むものであってもよいし、2種以上の単量体(a1)に由来する構成単位を含むものであってもよい。
【0026】
なお、単量体(a1)に由来する構成単位は、加水分解することにより、(メタ)アクリル酸に由来する構成単位と同じ構造となる。したがって、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)において、単量体(a1)に由来する構成単位の一部は、加水分解により(メタ)アクリル酸に由来する構成単位と同じ構造となっていてもよい。また、加水分解によって生じた該構成単位が、防汚塗料組成物が含有する金属酸化物等の他の成分と反応して、さらに金属エステルを形成していてもよい。
【0027】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対するトリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位の合計量は、防汚塗膜の耐水性を良好なものとする観点、および適切な水中での加水分解速度を有する塗膜とする観点から、好ましくは10~90質量%、より好ましくは30~80質量%、さらに好ましくは40~80質量%、よりさらに好ましくは45~75質量%以下である。
【0028】
・(a2)アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)、すなわち単量体(a2)は、下記式(2)で表される化合物である。本発明のトリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a2)に由来する構成単位を有することは、概して、形成される防汚塗膜が良好な防汚性を有する観点から好ましい。
【0029】
【0030】
式(2)中、R21は水素原子またはメチル基を示し、R22はアルキル基またはアリール基を示し、R23はアルキレン基を示し、sは1以上30以下の整数を示す。
【0031】
R21は、重合容易性の観点からは、水素原子が好ましく、形成される塗膜の耐水性の観点からは、メチル基が好ましい。
【0032】
R22の「アルキル基」および「アリール基」は、防汚塗料組成物の安定性および形成される塗膜の物性の観点からは、炭素数1~6の、直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基およびアリール基が好ましく、炭素数1~6の直鎖状アルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基)がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0033】
R23の「アルキレン基」は、好ましくは炭素数2~6であり、より好ましくは炭素数2~4のアルキレン基であり、さらに好ましくはエチレン基またはプロピレン基であり、特に好ましくはエチレン基である。
【0034】
sは、好ましくは1以上15以下の整数、より好ましくは1~6の整数、さらに好ましくは1である。sがこのような範囲にあると、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)を含有する防汚塗料組成物により形成された塗膜に適度な親水性が付与され、耐水性に優れた防汚塗膜が得られるので好ましい。
【0035】
単量体(a2)の具体例としては、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-n-プロピル(メタ)アクリレート、2-プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソブトキシブチルジグリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;および2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアリーロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、2-メトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、2-メトキシエチルメタクリレートがより好ましい。
【0036】
単量体(a2)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートおよびアリーロキシアルキル(メタ)アクリレートの両方を含んでいてもよい。
【0037】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が、単量体(a2)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、防汚塗膜の防汚性能や耐水性、硬度の観点からは、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~35質量%、さらに好ましくは15~30質量%である。
【0038】
・(a3)アルキル(メタ)アクリレートまたはアリール(メタ)アクリレート
アルキル(メタ)アクリレートまたはアリール(メタ)アクリレート(a3)、すなわち単量体(a3)は、下記式(3)で表される化合物である。本発明のトリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a3)に由来する構成単位を有することは、概して、形成される防汚塗膜が良好な塗膜強度および/または耐水性を有する観点から好ましい。
【0039】
【0040】
式(3)中、R31は水素原子またはメチル基を示し、R32はアルキル基またはアリール基を示す。
【0041】
R32の「アルキル基」および「アリール基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよい。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~18、より好ましくは1~8、さらに好ましくは1~4である。当該アリール基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。
【0042】
単量体(a3)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;およびフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどのアリール(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、塗膜強度に優れ、ひいては防汚性能に優れる防汚塗膜が得られる観点からは、メチルメタクリレートが好ましく、また防汚塗膜の耐水性及び耐クラック性に優れる観点からは、ブチルアクリレートが好ましい。本発明において、単量体(a3)として、メチルメタクリレートおよびブチルアクリレートを併用することも好ましい。
【0043】
単量体(a3)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよく、アルキル(メタ)アクリレートおよびアリール(メタ)アクリレートの両方を含んでいてもよい。
【0044】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a3)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.2~40質量%、より好ましくは1~35質量%、さらに好ましくは3~30質量%である。
【0045】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が、単量体(a3)に由来する構成単位として、メチルメタクリレートに由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.5~40質量%、より好ましくは1~35質量%、さらに好ましくは3~30質量%である。
【0046】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が、単量体(a3)に由来する構成単位として、ブチルアクリレートに由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.2~20質量%、より好ましくは1~15質量%、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0047】
・(a4)その他の単量体
本発明のトリオルガノシリル基含有共重合体(A)は、必要に応じて、トリオルガノシリル基含有単量体(a1)、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)およびアルキル(メタ)アクリレートまたはアリール(メタ)アクリレート(a3)以外の単量体であって、トリオルガノシリル基含有単量体(a1)と共重合可能な単量体(本明細書において「その他の単量体(a4)」と呼ぶこともある。)に由来する構成単位をさらに有していてもよい。
【0048】
その他の単量体(a4)としては、例えば、オルガノシロキサン含有単量体(a41)(本明細書において「単量体(a41)」と呼ぶこともある。);ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a42)(本明細書において「単量体(a42)」と呼ぶこともある。);グリシジル(メタ)アクリレート(a43)(本明細書において「単量体(a43)」と呼ぶこともある。);不飽和カルボン酸(a44)(本明細書において「単量体(a44)」と呼ぶこともある。);金属エステル基含有不飽和単量体(a45)(本明細書において「単量体(a45)」と呼ぶこともある。);その他のビニル化合物(a46)(本明細書において「単量体(a46)」と呼ぶこともある。)が挙げられる。
【0049】
これらの中でも、形成する防汚塗膜が良好な防汚性を有する観点からは、オルガノシロキサン含有単量体(a41)が好ましく、旧塗膜へ塗装した際の経時での美観保持率、防汚塗膜の海水浸漬後の耐クラック性を改善する観点からは、不飽和カルボン酸(a44)が好ましい。
【0050】
その他の単量体(a4)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。すなわち、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)は、いずれか1種のその他の単量体(a4)に由来する構成単位を有するものであってもよいし、2種以上のその他の単量体(a4)に由来する構成単位を含むものであってもよい。トリオルガノシリル基含有共重合体(A)は、例えば、単量体(a41)、(a42)、(a43)、(a44)、(a45)および(a46)からなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を有することが好ましく、少なくとも単量体(a2)および(a3)に由来する構成単位を有することがより好ましい。
【0051】
・(a41)オルガノシロキサン含有単量体
単量体(a41)、すなわちオルガノシロキサン含有単量体(a41)は、下記式(41)で表される単量体である。単量体(a41)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0052】
【0053】
式(41)中、R411、R412およびR413はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示し、Xはそれぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基またはメルカプトアルキル基を示し、mは1以上、nは0以上であり、pおよびqはそれぞれ独立に0または1であり、n+p+qは1以上である。
【0054】
R411、R412およびR413における炭化水素基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基、およびアリール基が挙げられる。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、さらに好ましくは1~4である。当該アリール基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。重合容易性の観点から、R411、R412およびR413はそれぞれ独立に、メチル基やブチル基などのアルキル基が好ましい。
【0055】
Xとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、(メタ)アクリロイルオキシブチル基等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基;およびメルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メルカプトプロピル基、メルカプトブチル基等のメルカプトアルキル基が挙げられる。Xは、均一な重合の進行の観点からは、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基が好ましく、加水分解性重合体(A)の粘度を低減し、取り扱いを容易とする観点からは、メルカプトアルキル基が好ましい。「(メタ)アクリロイルオキシアルキル基」における「アルキル」、および「メルカプトアルキル基」における「アルキル」は、それぞれ、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、反応性の観点からは、その炭素数は好ましくは1~12、より好ましくは2~6、さらに好ましくは2~4である。
【0056】
mおよびnは、それぞれ(SiR412
2O)、(SiXR413O)の平均付加モル数を意味する。m+nは、2以上であることが好ましい。つまり、オルガノシロキサン含有単量体(a41)は、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体であることが好ましい。
【0057】
なお、本明細書において、式(41)のように、2以上の異なる繰り返し単位を[]間に並列記載している場合、それらの繰り返し単位が、それぞれランダム状、交互状またはブロック状のいずれの順序で繰り返されていてもよいことを示す。つまり、例えば、式-[Y3-Z3]-(ここで、YおよびZはそれぞれ繰り返し単位を示す。)の場合、-YYZYZZ-のようなランダム状でも、-YZYZYZ-のような交互状でも、-YYYZZZ-または-ZZZYYY-のようなブロック状でもよい。
【0058】
単量体(a41)の第1の実施形態として、nが0であり、pが1であり、qが0である単量体(a411)が挙げられる。トリオルガノシリル基含有共重合体(A)がこのような単量体(a411)に由来する構成単位を含むことは、例えば、防汚塗料組成物が防汚性に優れる防汚塗膜を形成しやすくなるため好ましい。単量体(a41)におけるmは、重合容易性等の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また好ましくは200以下、より好ましくは70以下である。
【0059】
単量体(a411)としては、例えば、JNC(株)製の市販品「FM-0711」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:1,000)、「FM-0721」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:5,000)、「FM-0725」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:10,000);信越化学工業(株)製の市販品「X-22-174ASX」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:900g/mol)、「KF-2012」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:4,600g/mol)、X-22-2426(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:12,000g/mol)などを用いることができる。
【0060】
単量体(a41)の第2の実施形態として、nが0であり、pおよびqが1である単量体(a412)が挙げられる。トリオルガノシリル基含有共重合体(A)がこのような単量体(a412)に由来する構成単位を含むことは、例えば、防汚塗料組成物が補修性に優れる、つまり使用後(海水浸漬後)の旧防汚塗膜に対する付着性に優れる、防汚塗膜を形成しやすくなるため好ましい。単量体(a412)におけるmは、重合容易性等の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、好ましくは200以下、より好ましくは70以下である。
【0061】
単量体(a412)としては、例えば、JNC(株)製の市販品「FM-7711」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:1,000)、「FM-7721」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:5,000)、「FM-7725」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:10,000);信越化学工業(株)製の市販品「X-22-164」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:190g/mol)、「X-22-164AS」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:450g/mol)、「X-22-164A」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:860g/mol)、「X-22-164B」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:1630g/mol)、「X-22-164C」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:2,370g/mol)、「X-22-164E」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:3,900g/mol)、「X-22-167B」(両末端メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:1,670g/mol)などを用いることができる。
【0062】
単量体(a41)の第3の実施形態として、nが1以上である単量体(a413)が挙げられる。トリオルガノシリル基含有共重合体(A)がこのような単量体(a413)に由来する構成単位を含むことは、例えば、防汚塗料組成物の粘度が低下し、取扱いが容易となる傾向にあるため好ましい。単量体(a413)におけるmは、好ましくは50~1,000であり、nは好ましくは1~30である。
【0063】
単量体(a413)としては、例えば、信越化学工業(株)製の市販品「KF-2001」(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:1,900g/mol)、「KF-2004」(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:30,000g/mol)などを用いることができる。
【0064】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)がオルガノシロキサン含有単量体(a41)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、防汚塗膜の乾湿交互条件での防汚性能や耐水性、下地付着性の観点からは、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.5~50質量%、より好ましくは1~30質量%、さらに好ましくは1.5~15質量%である。
【0065】
・(a42)ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート
単量体(a42)、すなわちヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0066】
単量体(a42)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0067】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a42)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。
【0068】
・(a43)グリシジル(メタ)アクリレート
単量体(a43)、すなわちグリシジル(メタ)アクリレートは、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0069】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a43)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。
【0070】
・(a44)不飽和カルボン酸
単量体(a44)、すなわち不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルコハク酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルフタル酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルヘキサヒドロフタル酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、6-アクリルアミドヘキサン酸が挙げられ、化合物の取扱いや入手の容易さや重合により得られる重合体の粘度等の観点からは、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0071】
単量体(a44)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0072】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a44)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.1~10質量%である。
【0073】
・(a45)金属エステル基含有不飽和単量体
金属エステル基含有不飽和単量体は一般的に、化学構造中に金属とカルボン酸とが結合することにより生成した金属エステル基を有する単量体を総称するが、本発明における金属エステル基含有不飽和単量体(a45)は、下記式(45)で表される単量体を指す。
【0074】
【0075】
式(45)中、Mは二価の金属原子を示し、R451は、末端エチレン性不飽和基(CH2=C<)を含有する1価の有機基(本明細書において「末端エチレン性不飽和有機基」と呼ぶ。)を示し、R452は、末端エチレン性不飽和基(CH2=C<)を含有する1価の基(末端エチレン性不飽和有機基)、または末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1~30の1価の有機基(本明細書において「非末端エチレン性不飽和有機基」と呼ぶ。)を示す。
【0076】
Mの二価の金属原子の具体例としては、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ネオジム、チタン、ジルコニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、アルミニウムが挙げられる。これらの二価の金属原子のうち、銅、亜鉛およびニッケルが好ましく、銅および亜鉛がより好ましい。
【0077】
R451およびR452の末端エチレン性不飽和有機基の炭素数は、好ましくは2~50、より好ましくは2~30、さらに好ましくは2~10、よりさらに好ましくは2~6、特に好ましくは2~3である。
【0078】
なお、当該末端エチレン性不飽和基は、末端以外にエチレン性不飽和基をさらに含有してもよいが、末端のみにエチレン性不飽和基を含有することが好ましい。
【0079】
R452における、非末端エチレン性不飽和有機基としては、例えば、直鎖状でも分岐鎖状でもよい、炭素数1~30の肪族炭化水素基;飽和脂環式でも不飽和脂環式でもよい、炭素数3~30の脂環式炭化水素基;炭素数6~30の芳香族炭化水素基などの有機基が挙げられる。非末端エチレン性不飽和有機基は、置換基(例えば、水素基)をさらに含有していてもよい。
【0080】
R452は、一塩基酸に由来する有機酸残基であることが好ましく、具体例としては、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ナフテン酸等の有機酸からカルボキシ基を除いた基が挙げられ、これらの中でも、アビエチン酸、バーサチック酸またはナフテン酸からカルボキシ基を除いた基が好ましく、アビエチン酸またはバーサチック酸からカルボキシ基を除いた基がより好ましい。なお、バーサチック酸は、炭素数が9~11個、主に10個の、分岐の多いカルボン酸混合物の総称である。
【0081】
単量体(a45)のうち、Mが二価の金属原子を示し、R451およびR452が共に末端エチレン性不飽和有機基を示すものの具体例としては、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、アクリル酸メタクリル酸亜鉛、ジ(3-アクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3-メタクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸)亜鉛、ジアクリル酸銅、ジメタクリル酸銅、アクリル酸メタクリル酸銅、ジ(3-アクリロイルオキシプロピオン酸)銅、ジ(3-メタクリロイルオキシプロピオン酸)銅、およびジ(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸)銅が挙げられる。
【0082】
単量体(a45)のうち、Mが二価の金属原子を示し、R451が末端エチレン性不飽和有機基を示し、R452が非末端エチレン性不飽和有機基を示すものの具体例としては、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸ロジン亜鉛、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸バーサチック酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ロジン亜鉛、(メタ)アクリル酸バーサチック酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ナフテン酸亜鉛、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸ロジン銅、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸バーサチック酸銅、(メタ)アクリル酸ロジン銅、(メタ)アクリル酸バーサチック酸銅、および(メタ)アクリル酸ナフテン酸銅が挙げられる。
【0083】
単量体(a45)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0084】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)が単量体(a45)に由来する構成単位を有する場合、当該構成単位の含有量は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の全構成単位100質量%に対して、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~20質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。
【0085】
・(a46)その他のビニル化合物
単量体(a46)、すなわちその他のビニル化合物(a46)の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、および塩化ビニルが挙げられる。
【0086】
単量体(a46)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0087】
・構成単位の比率
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)に含まれる単量体(a1)、すなわちトリオルガノシリル基含有単量体(a1)に由来する構成単位と、単量体(a2)、すなわちアルコキシアルキル(メタ)アクリレートまたはアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート(a2)に由来する構成単位の比率および/または単量体(a3)、すなわちアルキル(メタ)アクリレートまたはアリール(メタ)アクリレート(a3)に由来する構成単位の比率は、それぞれの単量体の種類や、本発明の効果、その他の技術的事項等を考慮して、適宜調節することができる。
【0088】
単量体(a1)に由来する構成単位と、単量体(a2)に由来する構成単位の質量比[(a1):(a2)]は、好ましくは55:45~90:10、より好ましくは60:40~80:20である。言い換えれば、単量体(a1)に由来する構成単位と、単量体(a2)に由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、単量体(a1)に由来する構成単位は、好ましくは55~90質量%、より好ましくは60~80質量%であり、単量体(a2)に由来する構成単位は、それぞれの残部である。
【0089】
単量体(a1)に由来する構成単位と、単量体(a3)に由来する構成単位の質量比[(a1):(a3)]は、好ましくは60:40~90:10、より好ましくは65:35~88:12である。言い換えれば、単量体(a1)に由来する構成単位と、単量体(a3)に由来する構成単位の合計を100質量%としたとき、単量体(a1)に由来する構成単位は、好ましくは60~90質量%、より好ましくは65~88質量%であり、単量体(a3)に由来する構成単位は、それぞれの残部である。
【0090】
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)中の各単量体等に由来する構成単位の含有量(質量)の比率は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の加水分解が十分に抑制されている場合、例えば、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の重合直後や、これを用いた塗料組成物の保存期間が短時間である場合には、重合反応に用いる前記各単量体(反応原料)の仕込み量(質量)の比率と同じものとみなすことができる。なお、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)中の全構成単位には、重合開始剤および連鎖移動剤に由来する構成単位は含まれない。
【0091】
また、得られたトリオルガノシリル基含有共重合体(A)、または塗料組成物中から単離したトリオルガノシリル基含有共重合体(A)を分析することによって、各単量体の含有量を求めることもできる。分析方法の具体的としては、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)またはその分解物を試料とした、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、赤外分光法(IR)、各磁気共鳴分光法(NMR)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)が挙げられる。
【0092】
・数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果の程度が所望のものとなるよう、また得られる防汚塗料組成物の粘度や貯蔵安定性、得られる防汚塗膜の塗膜消耗度(溶出速度、更新性)等を考慮して、適宜調節することができる。トリオルガノシリル基含有共重合体(A)のMnは、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,500以上であり、また好ましくは50,000以下、より好ましくは30,000以下、特に好ましくは15,000以下である。加水分解性重合体(A)のMwは、好ましくは2,000以上、より好ましくは3,000以上、また好ましくは50,000以下、より好ましくは40,000以下である。
【0093】
なお、MnおよびMwは、常法に従って、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、標準ポリスチレンにて換算することにより求めることができる。例えば、Mwに関するより具体的な測定方法、条件等は、後記実施例を参照することができ、Mwに関してもそれに準じた測定方法、条件等を適用することができる。
【0094】
・成分(A)の含有量
トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の含有量は、当該成分の種類や特性などに応じて、本発明の効果、特に曝露付着性が所望の程度となるよう、また得られる防汚塗料組成物のその他の技術的事項(例えば塗装作業性)を考慮して、適宜調節することができる。トリオルガノシリル基含有共重合体(A)の含有量は、例えば、防汚塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上であり、また好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0095】
なお、本明細書において、本発明の防汚塗料組成物またはそこに含まれる各成分(例えば、成分(A)を含有する溶液、タレ止め剤・沈降防止剤(F)としての酸化ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイドワックス等)の「固形分」とは、本発明の防汚塗料組成物または各成分に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指す。そのような固形分は、常法に従って、本発明の防汚塗料組成物または各成分の質量に対する、本発明の防汚塗料組成物または各成分を125℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥させて得られた物質の質量の比率として算出することができる。より具体的には、JIS K 5601-1-2:2008に従って、測定対象1±0.1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って底面に均一に広げ、125℃で1時間、1気圧で乾燥させ、得られた加熱残分から針金の質量を減算し、質量百分率の値とすることで算出される。
【0096】
なお、各成分の製品について固形分としての数値がラベル、カタログ等に示されている場合は、その数値をその成分の固形分とみなすことができる。また、前述の測定方法により、本発明の防汚塗料組成物の配合組成(各成分の種類および量、ならびに各成分の固形分)が既知の場合は、その配合組成に基づいて算出した数値を本発明の防汚塗料組成物の固形分とみなすことができる。
【0097】
<(B)ジカルボン酸エステル>
ジカルボン酸エステルは一般的に、化学構造中の2つのカルボキシ基が両方ともエステル化されている化合物を総称するが、本発明におけるジカルボン酸エステル(B)は、一般式(I):R2-OOC-R1-COO-R2(I)(式中、R1は炭素数2~20の二価の炭化水素基を表し、R2はそれぞれ独立に炭素数1~30の一価の炭化水素基であり、いずれかのR2が少なくとも1つのR3を有し、R3は-(R4O)n-を表し、R4はそれぞれ独立に炭素数2~4の二価の炭化水素基であり、かつ、nは2以上の整数である。)で表される赤合物を指す。なお、R2の炭素数には、R2の構造中のR3(さらにその構造中のR4)の炭素数も含まれる。また、R2の「炭化水素基」は、上記の適宜から明らかなように、R3:-(R4O)n-という構造に由来する酸素原子をその骨格(主鎖)中に含んでいてもよい。
【0098】
R1の「炭素数2~20の二価の炭化水素基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造であってもよいし、これらの構造の組み合わせであってもよい。また、R1の「炭素数2~20の二価の炭化水素基」(上記各構造のそれぞれ)は、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。直鎖状の炭化水素基の炭素数は、好ましくは2~12、より好ましくは2~8、さらに好ましくは2~4である。また、分岐鎖状の炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~12、より好ましくは3~8、さらに好ましくは3~4である。また、環状の炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。優れた曝露付着性やその他の良好な性能を防汚塗膜に賦与する観点からは、R1の「炭素数2~20の二価の炭化水素基」は、好ましくは炭素数1~12の直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基(二価の飽和脂肪族炭化水素基)、より好ましくは炭素数1~8の直鎖状のアルキレン基である。例えば、n-ブチレン基(炭素数4)は、R1の「炭素数2~20の二価の炭化水素基」として特に好ましいものの一つである。
【0099】
R2の「炭素数1~30の一価の炭化水素基」は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造であってもよいし、これらの構造の組み合わせであってもよい。また、R2の「炭素数1~30の一価の炭化水素基」(上記各構造のそれぞれ)は、飽和もしくは不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。直鎖状または分岐鎖状の炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~20、より好ましくは4~15、さらに好ましくは5~10である。また、環状の炭化水素基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。優れた曝露付着性やその他の良好な性能を防汚塗膜に賦与する観点からは、R2の「炭素数1~30の一価の炭化水素基」は、好ましくは、R3に由来する酸素原子を含んでいてもよい、炭素数3~20の直鎖状または分岐鎖状の一価の炭化水素基、より好ましくは、R3に由来する酸素原子を含んでいてもよい、炭素数5~10の直鎖状の一価の炭化水素基である。例えば、ベンジル基(炭素数7)は、R2の「炭素数1~30の一価の炭化水素基」として特に好ましいものの一つである。
【0100】
R2が有する「少なくとも1つのR3」は、「炭素数1~30の一価の炭化水素基」において、エステル結合(カルボキシ基)側の末端に存在してもよいし、それとは逆方向の末端に存在してもよいし、それらの末端の間の領域に存在してもよい。「少なくとも1つ」とは、式(I)中に2つ存在するR2におけるR3の合計数が少なくとも1つであるという意味であり、例えば、一方のR2が1つ(または2つ以上)のR3を有し、他方のR2がR3を有さないような実施形態であっても、式(I)の条件を満たす本発明のジカルボン酸エステル(B)に該当する。
【0101】
R3、すなわち-(R4O)n-において、R4が炭素数2、3、4の二価の炭化水素基は、それぞれエチレン基、プロピレン基、ブチレン基であり、(R4O)としては、それぞれエチレングリコール、プロピレングリオール、ブチレングリコールに由来する二価の基ということになる。例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(n=2)に由来する一価の基のように、R4がエチレン基(炭素数2)である、つまりR3として-(CH2CH2O)n-というエチレングリコールに由来する(繰り返し単位数がnである)二価の基を含むR2は、特に好ましいものの一つである。
【0102】
ジカルボン酸エステル(B)の具体例としては、アジピン酸(HOOC-(CH2)4-COOH)に由来するジエステルが挙げられる。アジピン酸に由来するジエステルの具体例としては、下記式(I-1)で表されるベンジル-アジピン酸-ジエチレングリコールモノメチル、下記式(I-2)で表されるアジピン酸ビス[2-(2-ブトキシエトキシ)エチル]が挙げられる。
【0103】
【0104】
ジカルボン酸エステル(B)の含有量は、当該成分の種類や特性などに応じて、本発明の効果、特に曝露付着性が所望の程度となるよう、また得られる防汚塗料組成物のその他の技術的事項(例えば塗装作業性)を考慮して、適宜調節することができる。ジカルボン酸エステル(B)の含有量は、例えば、防汚塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上であり、また好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0105】
<任意成分>
本発明の防汚塗料組成物は、必要に応じて、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)およびジカルボン酸エステル(B)以外の成分をさらに含有していてもよい。そのような任意成分としては、例えば、防汚剤(C)、顔料(D)、モノカルボン酸化合物(E)および/またはその金属エステル、タレ止め剤・沈降防止剤(F)、脱水剤(G)、溶剤(H)、可塑剤(I)、消泡剤(J)、バインダー成分(K)(本明細書において、成分(C)~(K)と呼ぶこともある。)などが挙げられる。これらの任意成分は、本発明の効果を奏する上で必須のものではないが、防汚塗料組成物として実施(製造、使用等)するために自ずと必要となるまたは通常用いられる成分、本発明の効果を奏しやすくしたり増強したりできる成分、あるいは本発明以外の効果を奏するための成分となり得る。さらに所望により、一般的な防汚塗料組成物に用いられているその他の成分を、本発明の防汚塗料組成物の成分とすることも可能である。
【0106】
<(C)防汚剤>
本発明の汚塗料組成物は、防汚剤(C)を含有しなくても一定水準の優れた防汚性能を発揮することができるが、必要に応じて防汚剤(C)を含有してもよい。防汚剤(C)としては、例えば、亜酸化銅、金属ピリチオン類(例:銅ピリチオン、亜鉛ピリチオン)、(+/-)4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(別名:メデトミジン)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(別名:トラロピリル)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(別名:DCOIT)、ピリジントリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)尿素(別名:ジウロン)、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、2,4,5,6-テトラクロロイソフタルニトリル、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン(別名:シブトリン)、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(別名:ポリカーバメート)、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N,N’-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド(別名:ジクロフルアニド)、テトラアルキルチウラムジスルフィド(別名:TMTD)、ジンクジメチルジチオカーバメート(別名:ジラム)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2,3-ジクロロ-N-(2’,6’-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミドなどが挙げられる。防汚剤(C)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。例えば、亜酸化銅、金属ピリチオン、メデトミジン、トラロピリル、DCOITは、防汚剤(C)として好ましい。
【0107】
本発明の汚塗料組成物が防汚剤(C)を含有する場合、その含有量は目的(防汚性能)や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、亜酸化銅であれば好ましくは10~80質量%、より好ましくは20~70%、金属ピリチオン類であれば0.1~15質量%、より好ましくは0.5~8質量%、メデトミジンであれば好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.03~0.5質量%、トラロピリルであれば好ましくは0.5~10質量%、より好ましくは3~7質量%、DCOITであれば好ましくは0.1~8質量%、より好ましくは0.5~5質量%である。
【0108】
<(D)顔料>
本発明の防汚塗料組成物は、塗膜への着色や下地の隠ぺいを目的として、および/または適度な塗膜強度に調整することを目的として、顔料(D)を含有することができる。
【0109】
顔料(D)としては、例えば、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、タルク、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム(例:沈降性硫酸バリウム)、硫酸カルシウム(例:焼石膏)、硫化亜鉛等の体質顔料;および弁柄(赤色酸化鉄)、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の着色顔料;が挙げられる。顔料(D)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0110】
本発明の防汚塗料組成物が顔料(D)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.5~40質量%である。
【0111】
<(E)モノカルボン酸化合物>
本発明の汚塗料組成物は、形成される防汚塗膜の水中での表面からの更新性を向上させ、その防汚塗膜が防汚剤(C)を含む場合はその水中への放出の促進による防汚性向上を促進させ、さらには防汚塗膜に適度な耐水性を付与することを目的として、モノカルボン酸化合物(E)および/またはその金属エステルを含有することができる。モノカルボン酸化合物(E)および/またはその金属エステルは、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0112】
モノカルボン酸化合物(E)としては、例えば、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ロジン、ナフテン酸、サリチル酸などが挙げられる。モノカルボン酸化合物(E)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。例えば、バーサチック酸、ロジンは、モノカルボン酸化合物(E)として好ましい。
【0113】
モノカルボン酸化合物(E)は、金属エステル(例:銅エステル)を形成していてもよい。金属エステルは、防汚塗料組成物の製造前に予め形成されていてもよく、防汚塗料組成物の製造時に他の塗料成分との反応により形成されてもよい。
【0114】
なお、バーサチック酸は、炭素数が5~15個、主に9~11個、特に10個の、分岐鎖を有するアルキルカルボン酸を含む混合物である。ロジン(ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン等のロジン誘導体)は、共役二重結合を含む3つの環構造およびカルボキシ基を有するアビエチン酸とその異性体の混合物である。ナフテン酸、サリチル酸なども、環構造およびカルボキシル基を有する化合物である。
【0115】
本発明の防汚塗料組成物がモノカルボン酸化合物(E)および/またはその金属エステルを含有する場合、その含有量は、当該成分の種類や特性などに応じて、本発明の効果等を考慮して、適宜調節することができる。モノカルボン酸化合物(E)および/またはその金属エステルの含有量は、防汚塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0116】
<(F)タレ止め剤・沈降防止剤>
本発明の防汚塗料組成物は、当該組成物の粘度を調整すること等を目的として、タレ止め剤・沈降防止剤(F)を含有することができる。タレ止め剤・沈降防止剤(F)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0117】
タレ止め剤・沈降防止剤(F)としては、例えば、有機粘土系ワックス(例:Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩)、有機系ワックス(例:ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス)、有機粘土系ワックスと有機系ワックスとの混合物、合成微粉シリカが挙げられる。そのようなタレ止め剤・沈降防止剤(F)としては、例えば、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」、「ディスパロンA630-20X」、「ディスパロン6900-20X」;伊藤製油(株)製の「A-S-A D-120」などの市販品を用いることができる。
【0118】
本発明の防汚塗料組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(F)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また好ましくは10質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0119】
<(G)脱水剤>
本発明の防汚塗料組成物は、当該組成物の貯蔵安定性を向上させること等を目的として、脱水剤(G)を含有することができる。脱水剤(G)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0120】
脱水剤(G)としては、例えば、エチルシリケート、プロピルシリケート等のアルコキシシラン;「モレキュラーシーブ」の一般名称で知られるゼオライト;多孔質アルミナ;オルトギ酸アルキルエステル等のオルトエステル;オルトホウ酸;およびイソシアネートを挙げることができる。これらの中でも、入手容易性及び貯蔵安定性向上の観点から、アルコキシシランが好ましい。
【0121】
本発明の防汚塗料組成物が脱水剤(G)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは10質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
【0122】
<(H)溶剤>
本発明の防汚塗料組成物は、当該組成物の粘度を調整すること等を目的として、水または有機溶剤等の溶剤(H)を含有することができる。なお、本発明の防汚塗料組成物は、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)を合成する際に得られる、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)を含む液体を用いて調製することができるが、その場合は、当該液体に含まれる溶剤や、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)とジカルボン酸エステル(B)および必要に応じて任意成分とを混合する際に別途添加される溶剤等が、溶剤(H)に相当する。溶剤(H)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。溶剤(H)としては、有機溶剤が好ましい。
【0123】
有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の脂肪族(炭素数1~10、好ましくは2~5程度)の一価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;が挙げられる。
【0124】
本発明の防汚塗料組成物が溶剤(H)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物100質量%に対して、好ましくは0~50質量%であり、より好ましくは0~30質量%である。
【0125】
<(I)可塑剤>
本発明の防汚塗料組成物は、形成される防汚塗膜に可塑性を付与すること等を目的として、可塑剤(I)を含有していてもよい。可塑剤(I)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0126】
可塑剤(I)としては、常温(例:25℃)条件下で液状でも固体状(例:粉末状)であってもよく、例えば、塩素化パラフィン、n-パラフィン、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP、別称フタル酸ビス(2-エチルヘキシル))、ジオクチルアジペート(DOA、別称アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル))、ジイソデシルフタレート(DIDP)、アジピン酸ジイソノニル、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)が挙げられ、好ましくは塩素化パラフィン、TCPである。
【0127】
本発明の防汚塗料組成物が可塑剤(I)を含有する場合、その含有量は、防汚塗膜の可塑性を良好に保つことができる等の点から、本発明の防汚塗料組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0128】
<(J)消泡剤>
本発明の防汚塗料組成物は、形成される塗膜を平滑なものとすること等を目的として、消泡剤(表面調整剤、レベリング剤)(J)を含有することができる。消泡剤(J)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0129】
消泡剤(J)としては、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤、ポリマー系消泡剤等の市販の消泡剤を制限無く用いることができ、例えば、「BYK-066N」(ビックケミージャパン(株)製、シリコーン系消泡剤)、「BYK-350」(ビックケミージャパン(株)製、表面調整剤、アクリル系共重合物)、「BYK-354」(ビックケミージャパン(株)製、消泡剤、アクリルポリマー)等が挙げられる。
【0130】
本発明の防汚塗料組成物が消泡剤(J)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、また好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0131】
<(K)バインダー成分>
本発明の防汚塗料組成物は、形成される防汚塗膜に耐水性、耐クラック性や強度を付与すること等を目的として、バインダー成分(K)を含有することができる。なお、バインダー成分(K)は、バインダー成分のうちトリオルガノシリル基含有共重合体(A)以外のものを指す。バインダー成分(K)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0132】
バインダー成分(K)としては、例えば、ポリエステル系重合体、(メタ)アクリル系(共)重合体、ビニル系(共)重合体、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂類、ケトン樹脂が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系重合体、(メタ)アクリル系(共)重合体、ビニル系(共)重合体、石油樹脂類が好ましく、ポリエステル系重合体、石油樹脂類がより好ましい。
【0133】
本発明の防汚塗料組成物がバインダー成分(K)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1~40質量%である。
【0134】
<防汚塗料組成物の製造方法>
本発明の防汚塗料組成物は、一般的な防汚塗料組成物と同様の手段(装置、方法、条件等)により、成分(A)および(B)ならびに必要に応じて成分(C)~(K)およびその他の任意成分を用いて製造することができる。具体的には、トリオルガノシリル基含有共重合体(A)を合成した後、得られたトリオルガノシリル基含有共重合体(A)(の溶液)と、ジカルボン酸エステル(B)と、必要に応じて成分(C)~(K)およびその他の任意成分とを、一度にまたは順次容器に添加して、撹拌、混合することで製造することができる。
【0135】
-防汚塗膜-
本発明の防汚塗膜は、本発明の防汚塗料組成物から形成されたものである。従来の防汚塗料組成物から従来の防汚塗膜を形成する場合と同様に、本発明の防汚塗料組成物を乾燥させることにより、本発明の防汚塗膜が形成される。ただし、本発明の防汚塗膜はそのようにして本発明の防汚塗料組成物から形成された直後のものに限定されず、屋外環境に長期間暴露したものや、水中に浸漬される等、防汚塗膜として使用され、所定の機能を発揮したことにより劣化した後のものも本発明の防汚塗膜に含まれる。本発明の防汚塗膜は、形成直後のものや、屋外環境に長期間暴露したものは、乾燥等により溶媒等の揮発性成分が失われることを除いて、本発明の防汚塗料組成物と基本的には同様の物質(特に成分(A)および(B))を含み、水中に浸漬される等の使用後のものは、揮発性成分に加えて防汚性能の発揮により一部の成分が失われる(放出される)ことを除いて、本発明の防汚塗料組成物と同様の物質を含む(残存している)。
【0136】
本発明の防汚塗膜の厚さは特に限定されるものではなく、本発明の防汚塗膜の特性(例:塗膜消耗速度)や用途(基材の種類、使用期間等)に応じて適切な範囲とすることができるが、例えば、形成直後の状態における厚さとして、30~1,000μmが好ましい。
【0137】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜は、総組み手法において、先行塗装として形成された、長期間の屋外環境への暴露前もしくは暴露後の防汚塗膜である。本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜は、総組み手法において、仕上げ塗装として形成された防汚塗膜である。
【0138】
-防汚塗膜付き基材-
本発明の防汚塗膜付き基材は、基材と、本発明の防汚塗膜とを有する。本発明の防汚塗膜は通常、基材上に形成され、防汚塗膜付き基材として使用される。
【0139】
基材は特に限定されるものでなく、本発明の防汚塗膜を形成することができ、機能を発揮できるものであればよいが、例えば、船舶(例:コンテナ船、タンカー、バルカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板。新造船または修繕船のいずれも含む。)、漁業またはその他の海洋資材(例:ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着、魚雷)、水中構造物(例:石油パイプライン、導水配管、循環水管、火力・原子力発電所の給排水口等の構造物、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、メガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等における各種水中土木工事用構造物)など、全部または少なくとも一部が常時または一時的に、水中に、好ましくは海水中に、水没する基材が挙げられる。本発明の効果(曝露付着性)に鑑みると、基材としては船舶(新造船または運行後の船舶)や水中構造物が好ましく、総組み手法により製造される、つまりブロック単位で建造し、先行塗装された後、長期間屋外環境に曝露されてから溶接し、仕上げ塗装により防汚塗膜を形成される、コンテナ船、タンカー、バルカー等の大型鋼鉄船などが特に好ましい。
【0140】
基材は、防錆剤またはその他の処理剤により処理された基材であってもよいし、表面に防錆塗膜(例えば、ジンクリッチペイント)、防食塗膜(例えば、エポキシ系重防食塗料)、バインダー塗膜等の防汚塗膜以外の塗膜(非防汚塗膜)、屋外環境に長期間曝露された本発明またはその他の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の防汚塗膜(暴露後防汚塗膜)、あるいは劣化、変質もしくは消耗した本発明の防汚塗膜またはその他の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜(旧防汚塗膜)が形成されている基材であってもよい。本発明の防汚塗膜付き基材において、本発明の防汚塗膜は基材の表面に直接接して形成されている必要はなく、上述したような処理剤、塗膜等を介して基材上に形成されていてもよい。したがって本発明の防汚塗膜付き基材は、基材と、本発明の防汚塗膜に加えて、他の処理剤、塗膜等をさらに含んでいてもよい。本発明の防汚塗膜は、様々な非防汚塗膜、暴露後防汚塗膜、旧防汚塗膜等の上に形成することができる。
【0141】
基材が有する場合がある「非防汚塗膜」は、基材の種類や用途に応じて、本発明の防汚塗膜を形成する前にあらかじめ基材上に形成されている、下塗り塗膜、中塗り塗膜などの防汚塗膜以外の塗膜を指す。非防汚塗膜の種類は特に限定されるものではなく、例えば、防錆塗料から形成された防錆塗膜、防食塗料から形成された防食塗膜、バインダー塗料から形成されたバインダー塗膜などが挙げられる。防食塗膜としては、例えば、エポキシ系の樹脂を含む防食塗料から形成されるものが挙げられる。バインダー塗膜としては、例えば、エポキシ系、ビニル系、(メタ)アクリル系などの1種または2種以上の樹脂を含むバインダー塗料から形成されるものが挙げられる。なお、船舶等の基材に塗布する場合、防食塗膜(下塗り塗膜)とバインダー塗膜(中塗り塗膜)の間に明確な区分は無く、両方を兼用する塗膜を使用することもあるが、「非防汚塗膜」はそのような防食塗膜的な機能も併せ持つバインダー塗膜であってもよい。
【0142】
基材が有する場合がある「暴露後防汚塗膜」は、長期間(例えば3~6ヶ月)、塗膜が地面側を向いた状態で屋外環境に曝露された防汚塗膜であって、暴露前の健全な防汚塗膜と比較して、特に上塗り付着性との関係で、劣化または変質した状態にある防汚塗膜を指す。基材が有する場合がある「旧防汚塗膜」は、一定期間(例えば防汚塗膜の耐用期間)、水(海水)に接触させて使用された後の防汚塗膜であって、使用前(海水浸漬前)の健全な防汚塗膜と比較して、劣化、変質または消耗した状態にある防汚塗膜を指す。暴露後防汚塗膜または旧防汚塗膜の劣化、変質または消耗の程度は特に限定されず、本発明の防汚塗膜を形成する必要が認められる、または形成することが好ましい程度であればよい。防汚塗膜の種類は特に限定されるものではなく、本発明の防汚塗膜であってもよいし、その他の防汚塗膜であってもよい。その他の防汚塗膜としては、例えば、加水分解型(例:シリルエステル樹脂系の防汚塗料から形成される塗膜)、水和分解型(例:塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の防汚塗料から形成される塗膜)が挙げられる。
【0143】
基材において、本発明の防汚塗膜を形成する部分は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、基材が船舶である場合、生物的汚損環境に曝される船底部(常時没水部)や水線部(乾湿交互部)を本発明の防汚塗膜を形成する部分(基材の一部)とすることができる。また、本発明の防汚塗膜が総組み後の基材に対する仕上げ塗装の防汚塗膜である場合、接合部の周辺など基材の一部に形成されていてもよいし、接合部を含む基材の全体に形成されていてもよい。
【0144】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法が適用される基材と、そこに先行塗装として形成された、長期間の屋外環境への暴露前の本発明の防汚塗膜とを有する。
【0145】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法が適用される基材と、そこに先行塗装として形成された、長期間の屋外環境への暴露後の本発明の防汚塗膜と、仕上げ塗装として形成された本発明の防汚塗膜とを有するものであって、前者の防汚塗膜と後者の防汚塗膜の間の付着性(曝露付着性)が優れたものとなっている。
【0146】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法が適用される基材と、そこに先行塗装として形成された、長期間の屋外環境への暴露後の、本発明によるもの以外のシリル系防汚塗膜と、仕上げ塗装として形成された本発明の防汚塗膜とを有するものであって、前者の防汚塗膜と後者の防汚塗膜の間の付着性(曝露付着性)が好ましいものとなっている。
【0147】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法が適用される基材と、そこに先行塗装として形成された、長期間の屋外環境への暴露後の本発明による防汚塗膜と、仕上げ塗装として形成された、本発明によるもの以外のシリル系防汚塗膜とを有するものであって、前者の防汚塗膜と後者の防汚塗膜の付着性(曝露付着性)が好ましいものとなっている。
【0148】
-防汚塗膜付き基材の製造方法-
本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は、下記の工程(1)および(2)を含む:
(1)本発明の防汚塗料組成物を基材に塗布または含浸し、塗布体または含浸体を得る工程;
(2)前記塗布体または含浸体を乾燥する工程。
【0149】
工程(1)における塗布は、一般的な方法に従って行うことができ、例えば、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛、ローラー等を用いて、防汚塗料組成物を基材に塗布する方法を用いることができる。工程(1)における含浸も、一般的な方法に従って行うことができ、例えば、防汚塗料組成物に基材を浸漬する方法を用いることができる。
【0150】
塗布または含浸の条件は、工程(2)の乾燥条件も考慮して、目的とする厚さを有する防汚塗膜を形成できるように調節することができる。例えば、工程(2)の後の乾燥塗膜の厚さが10~300μm、好ましくは30~200μmとなるよう、基材の単位面積あたり適切な量の防汚塗料組成物を塗布または含浸することができる。
【0151】
工程(2)における乾燥は、一般的な方法に従って、適切な温度その他の環境下で適切な時間行えばよい。例えば、工程(1)により得られた塗布体または含浸体を、常温(例:25℃)下で、好ましくは0.5~14日間、より好ましくは1~7日間放置する方法が挙げられる。本工程における乾燥は、加熱下で行ってもよく、送風しながら行ってもよい。
【0152】
工程(1)および(2)は、必要に応じて繰り返すことができる。例えば、工程(1)および(2)を1回行っただけでは所望の厚さの防汚塗膜を形成できない場合は、1回目の工程(1)および(2)の後に、2回目の工程(1)および(2)を行い、さらに必要な回数の工程(1)および(2)を行うことができる。
【0153】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法において、先行塗装として行われる工程(1)と、工程(2)とを含む。
【0154】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法において、先行塗装として行われる工程(1)と、工程(2)とを含む。本実施形態においては、工程(2)により形成された防汚塗膜が長期間屋外環境に曝されて暴露後防汚塗膜となった後、必要に応じて水洗などにより暴露後防汚塗膜の表面の汚れを除き、乾燥させてから、仕上げ塗装として、(1’)本発明の防汚塗料組成物を基材に塗布または含浸し、塗布体または含浸体を得る工程;および(2’)前記塗布体または含浸体を乾燥する工程、をさらに含んでもよい。
【0155】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は、総組み手法またはその他の上塗り付着性が要求される塗装手法において、仕上げ塗装として行われる工程(1)と、工程(2)とを含む。本実施形態においては、別途行われた先行塗装により、本発明の防汚塗料組成物またはその他の防汚塗料組成物(例えばシリル系防汚塗料組成物)から形成された後、長期間屋外環境に曝された防汚塗膜(暴露後防汚塗膜)を有する基材を、工程(1)の対象とする。また、本実施形態においては、必要な工程、例えば、水洗などにより暴露後防汚塗膜の表面の汚れを除き、乾燥させる工程を、工程(1)の前にさらに含んでもよい。
【0156】
-本発明のその他の側面-
本明細書に記載した防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、防汚塗膜付き基材の製造方法は、特許実務および技術常識に基づいて、その他の発明に変換することができる。
【0157】
例えば、本発明の「防汚塗膜付き基材の製造方法」は、基材の少なくとも一部に、本発明の防汚塗膜を形成する工程を含む、「基材の防汚方法」に変換することができる。「基材の防汚方法」における「防汚塗膜を形成する工程」は、基本的には、「防汚塗膜付き基材の製造方法」における前記工程(1)および(2)と同様である。すなわち、本発明の基材の防汚方法は、(1’)本発明の防汚塗料組成物を記載の少なくとも一部に塗布または含浸し、塗布体または含浸体を得る工程;および(2’)前記塗布体または含浸体を乾燥する工程、を含むものと言い換えることができる。なお、該基材において、本発明の防汚塗膜を形成する部分は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、基材が船舶である場合、生物的汚損環境に曝される船底部(常時没水部)や水線部(乾湿交互部)を本発明の防汚塗膜を形成する部分(基材の一部)とすることができる。
【0158】
その他にも、本明細書において「防汚塗膜付き基材の製造方法」に関して記載した技術的事項は、適宜「基材の防汚方法」に関する技術的事項に読み替えることができる。例えば、基材が暴露後防汚塗膜を有するものである実施形態に対応させて、本発明の「基材の防汚方法」を「暴露後防汚塗膜付き基材の塗装方法」に読み替えることができる。
【実施例0159】
(1)トリオルガノシリル基含有共重合体の溶液(A-1)の合成
[合成例1]
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、43部のキシレン、10部のトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)を仕込み、窒素雰囲気下で液温が80℃になるよう加熱撹拌を行った。同条件を保持しつつ滴下装置より、反応容器内にモノマー類(50部のトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)、25部の2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、10部のメチルメタクリレート(MMA)、5部のブチルアクリレート(BA))と重合開始剤(1.35部の2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)を30分おきに合計4回加えた後、液温を105℃に上げた。同温度で30分加熱撹拌を続けた後、反応容器に23.7部のキシレンを加えて、トリオルガノシリル基含有共重合体の溶液(A-1)を得た。
【0160】
[合成例2]および[合成例3]
モノマー類(TIPSMA、MEMA、MMAおよびBA)の組成を表1に示すように変更したこと以外は合成例1と同様の手順で、トリオルガノシリル基含有共重合体の溶液(A-2)および(A-3)を得た。
【0161】
<共重合体溶液の固形分(加熱残分)>
トリオルガノシリル基含有共重合体溶液(A-1)~(A-3)の固形分は、JIS K 5601-1-2:2008を基に、各溶液を125℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させて得られたものの質量を測定し、元の溶液の質量に対する比として算出した。
【0162】
<共重合体溶液の粘度>
トリオルガノシリル基含有共重合体溶液(A-1)~(A-3)のガードナー粘度は、ガードナー泡粘度計を用いて、25℃で測定した。
【0163】
<共重合体の重量平均分子量(Mw)>
トリオルガノシリル基含有共重合体溶液(A-1)~(A-3)に含まれる共重合体の重量平均分子量(Mw)を、下記の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
【0164】
装置:「HLC-8320GPC」(東ソー(株)製)
カラム:「TSKgel guardcolumn SuperMP(HZ)-M」+「TSKgel SuperMultiporeHZ-M」+「TSKgel SuperMultiporeHZ-M」(いずれも東ソー(株)製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.35ml/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
標準物質:ポリスチレン
サンプル調製法:各製造例で調整された重合体溶液にTHFを加えて希釈した後、メンブレンフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
【0165】
トリオルガノシリル基含有共重合体溶液(A-1)~(A-3)に関する情報(モノマー混合物および特性)を表1に示す。
【0166】
【0167】
(2)実施例1~11および比較例1~6の防汚塗料組成物の製造
[実施例1]
ポリ容器に、1.0部のキシレンと0.5部のソルベッソ#100と12.0部のロジン溶液(中国産WWロジン)とを添加し、ペイントシェイカーを用いて混合した。その後、得られた溶液に、トリオルガノシリル基含有共重合体溶液(A-1)20.0部と、ジカルボン酸エステル(Daifatty-101)2.0部とを添加し、これらを均一に混ざるまで攪拌した。次いで、得られた溶液に5部の酸化亜鉛(酸化亜鉛2種)と、0.5部の有機赤顔料(Noveperm Red F5RK)と、50部の亜酸化銅(NC-301)と、0.5部の酸化チタン(タイペーク R-930)と、0.5部の弁柄(TODA COLOR NM-50)と、4.0部のタルク(FC-1)と2.0部の銅ピリチオン(Copper Omadine Powder)と、0.5部の酸化ポリエチレンワックス(A-S-A D-120)と、0.5部のテトラエトキシシラン(エチルシリケート28)を添加し、さらに200部のガラスビーズを加えて、ペイントシェイカーを用いて1時間攪拌して分散させた。得られた分散液に、1.0部の脂肪酸アマイドワックス(ディスパロン A6900-20X)を添加し、これらを20分間攪拌して分散させた後、混合物から80メッシュのろ過網でガラスビーズを除いて、防汚塗料組成物を製造した。
【0168】
[実施例2]~[実施例11]および[比較例1]~[比較例6]
各原料成分の種類および配合量を表2に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の手順で、実施例2~11および比較例1~6の防汚塗料組成物を製造した。なお比較例では、成分(B)に相当するジカルボン酸エステル(Daifatty-101)に代えて、成分(B)の条件を満たさない、可塑剤(I)に該当するようなジカルボン酸エステル(DOAまたはDOP)あるいはその他の化合物(TCP等)を同じ段階で添加した。
【0169】
なお、表2に記載の各成分の配合量は、有姿での配合量を示している。例えば、実施例1における、脂肪酸アマイドワックスの有姿での(全体としての)配合量は表2に記載されているとおり0.5部であるが、表3に記載されているとおりその固形分は20質量%であるので、脂肪酸アマイドワックス自体の配合量は0.1部である。
【0170】
(3)防汚塗膜の性能評価試験
[試験例1]曝露付着性試験
サンドブラスト処理鋼板(150mm×70mm×2.3mm)上に、アプリケーターを用いて、エポキシ系防食塗料(商品名「バンノー1500」、中国塗料株式会社製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗布し、23℃で24時間乾燥させて硬化塗膜を形成した。次いで、その硬化塗膜上に、エポキシ系バインダー塗料(商品名「CMP AC-EP」、中国塗料株式会社製)を乾燥膜厚で100μmになるように塗布し、23℃で24時間乾燥させた。
【0171】
次に、上記試験板上に(上記エポキシ系バインダー塗料の乾燥塗膜表面に)、表2に記載の実施例および比較例の各防汚塗料組成物を、アプリケーターを用いて、乾燥膜厚で150μmになるように塗布し、23℃で7日間乾燥させて防汚塗膜(1層目の防汚塗膜)を形成した。
【0172】
上記防汚塗膜が形成された試験板を屋外暴露台(中国塗料(株)大竹研究所敷地内)に設置し、120日屋外暴露させた。ここで、屋外暴露台に得られた試験板を設置する際には、塗膜が水平(地面に)対して45°の角度で地面側に向くように固定した。以下、屋外暴露とは、この条件で実施したことを意味する。
【0173】
屋外暴露した試験板を軽く水洗し、乾燥させた後、防汚塗膜上に、表2に記載の(1層目の防汚塗膜を形成したものと同じ)実施例および比較例の各防汚塗料組成物を、アプリケーターを用いて、乾燥膜厚で150μmになるように塗布し、23℃で7日間乾燥させて防汚塗膜(2層目の防汚塗膜)を形成し、試験板1を作製した。
【0174】
得られた試験板1を23℃の人工海水に1ヶ月浸漬した後、23℃で1日間乾燥した。その後、JIS K5600 5-6:1999で規定されている4mm×4mmの25マスの碁盤目剥離試験(クロスカット法)を基に付着性試験を実施し、下記評価基準に従って1層目の防汚塗膜と2層目の防汚塗膜との層間密着性を評価した。なお、切込みを入れる際は、試験板の2層目塗膜側から1層目の塗膜に達する切込みを入れた。
(評価基準)
5:剥離面積が5%未満である。
4:剥離面積が5%以上、20%未満である。
3:剥離面積が20%以上、40%未満である。
2:剥離面積が40%以上、60%未満である。
1:剥離面積が60%以上である。
【0175】
[試験例2]静置防汚性試験
異なるサイズのサンドブラスト処理鋼板(300mm×100mm×2.3mm)を用いたこと以外は上記試験板1と同様にして、試験板2を作製した。
【0176】
得られた試験板2を、広島県廿日市市沖の瀬戸内海に水面400mm以下に、懸垂浸漬し静置状態とし、浸漬開始から1ヶ月毎に、試験板の海水常時没水部の防汚塗膜の全面積を100%とした場合における、防汚塗膜上の水生生物が付着している部分の面積(以下「付着面積」ともいう。)(%)について調査し、これを4ヶ月間実施した。下記評価基準に基づいて静置防汚性を評価した。
(評価基準)
5:付着面積が5%未満である。
4:付着面積が5%以上、20%未満である。
3:付着面積が20%以上、40%未満である。
2:付着面積が40%以上、60%未満である。
1:付着面積が60%以上である。
【0177】
[試験例3]貯蔵安定性試験
実施例および比較例の各防汚塗料組成物を50℃にて2ヶ月貯蔵し、貯蔵直前および貯蔵後2週間経過毎の粘度を測定した。各組成物の粘度の測定は、23℃の温度条件下で、ストーマー粘度計(製造元:太佑機材株式会社、製品名:ストーマー粘度計、型式:691)を用いて行った。貯蔵後の各時点の粘度の測定値を、貯蔵直前の粘度の測定値で除した値を「粘度上昇率(%)」として求め、下記評価基準に基づいて貯蔵安定性を評価した。なお、表2中の「-」は、粘度寿命が極限に近いため測定を実施しなかったことを表す。
(貯蔵安定性評価基準)
5:8週間貯蔵後の粘度が貯蔵前の粘度の120%未満
4:6週間貯蔵後の粘度が貯蔵前の粘度の120%未満
3:4週間貯蔵後の粘度が貯蔵前の粘度の120%未満
2:2週間貯蔵後の粘度が貯蔵前の粘度の120%未満
1:2週間貯蔵後の粘度が貯蔵前の粘度の120%以上
【0178】
実施例1~11および比較例1~6の防汚塗料組成物に関する情報(組成および形成された防汚塗膜の評価試験結果)を表2に示す。また、それらの防汚塗料組成物の製造に用いた、表2に記載されている成分(製品)の詳細を表3に示す。
【0179】
表2の結果から分かるように、本発明の防汚塗料組成物は様々な実施形態において、曝露付着性に優れると同時に、静置防汚性および貯蔵安定性にもバランスよく優れた防汚塗膜を形成することができる。一方、実施例2と比較例1の対比から明らかなように、ジカルボン酸エステル(B)(または可塑剤(I))を含有しない防汚塗料組成物は、曝露付着性に著しく劣ったものとなる。また、比較例2~6から明らかなように、所定量の(従来よりも比較的多くの)可塑剤(I)を用いた場合は、曝露付着性の低下は防げるが、代わりに静置防汚性や貯蔵安定性が低下することになる。
【0180】
【0181】