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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146901
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】吹付モルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20241004BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20241004BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20241004BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20241004BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20241004BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20241004BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20241004BHJP
   E04G 21/02 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B20/00 B
C04B24/32 Z
C04B24/38 A
C04B22/14 B
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
E21D11/10 D
E04G21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024055895
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023057283
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野村 康市
(72)【発明者】
【氏名】羽根井 誉久
【テーマコード(参考)】
2D155
2E172
4G112
【Fターム(参考)】
2D155DB00
2E172AA06
2E172AA09
2E172AA13
2E172AA15
2E172AA17
4G112MB00
4G112MB13
4G112MB23
4G112MB26
4G112PB05
4G112PB11
4G112PB36
4G112PB40
(57)【要約】
【課題】材料が十分に混練されるため詰まることのない良好な圧送性を有し、吹付け時に粉塵の発生が少なく、強度発現性にも優れる吹付モルタルを提供すること。
【解決手段】モルタル組成物、液体急結剤及び水を含む吹付モルタルであって、モルタル組成物は、セメント、急結助剤、増粘剤及び細骨材を含み、増粘剤の含有量が、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.01~1質量部であり、細骨材の粒度は、細骨全量に対し、0.6mm以上2mm未満の粒子の含有割合が80質量%以上である、吹付モルタル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モルタル組成物、液体急結剤及び水を含む吹付モルタルであって、
前記モルタル組成物は、セメント、急結助剤、増粘剤及び細骨材を含み、
前記増粘剤の含有量が、前記セメント100質量部に対し、固形分換算で0.01~1質量部であり、
前記細骨材の粒度は、前記細骨全量に対し、0.6mm以上2mm未満の粒子の含有割合が80質量%以上である、吹付モルタル。
【請求項2】
前記急結助剤が、石膏類及び/又はカルシウムアルミネート類である、請求項1に記載の吹付モルタル。
【請求項3】
前記増粘剤が界面活性剤系及び/又はメチルセルロース系増粘剤である、請求項1又は2に記載の吹付モルタル。
【請求項4】
前記水の含有量が、前記セメント100質量部に対し、30~60質量部である、請求項1又は2に記載の吹付モルタル。
【請求項5】
前記急結助剤が石膏類であり、
前記石膏類の粒度が、前記石膏類全量に対し、1.5μm以下の粒子の質量割合が32~52質量%であり、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が10~29質量%である、請求項1に記載の吹付モルタル。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付モルタルに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、採掘抗、地下空間等において、掘削露出面の崩壊防止、地山面からの漏水防止、更にはこれらの面を仕上施工するため、セメントスラリーやセメント系モルタルを対象面に吹付けることが行われている。セメント系モルタルの一般的な吹付工法は、掘削現場近傍に設置したプラントでセメントと水と細骨材を秤量・混合してベースモルタルを作製し、これをアジテータ車で掘削現場まで運送し、そこから吹付機までは輸送管を介してポンプ圧送し、吹付直前に別送の急結剤を添加・混合させて吹付けている。急結剤は、カルシウムアルミネートやアルミン酸ナトリウム等の粉体急結剤と、硫酸アルミニウムや珪酸ソーダ等の液体急結剤とに大別される。粉体急結剤は、強力な急結性と高い初期強度発現性を有するが、添加時にセメントモルタルと容易には混ざり難いため、粉塵が発生し易い。一方、液体急結剤は粉塵発生を抑えられるものの、珪酸ソーダはアルカリ分が高く、セメント系施工物の劣化原因になり、アルカリフリー化志向に適う硫酸アルミニウムは急結性が低く、初期強度発現性も高くない傾向にある。
【0003】
液体急結剤に硫酸アルミニウムを使用したときの吹付性状の改善策として、硫酸アルミニウム急結剤添加用のモルタルスラリーに、予め石膏を加えたものを使用すると強度改善効果があることが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、石膏と共にアルミン酸カルシウムを急結補助剤として予め注水前のコンクリートに加え、これに水と液体状の硫酸アルミを添加した吹付コンクリートは、急結性や強度発現性を向上できることが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-212149号公報
【特許文献2】特開平11-130500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、作業員への安全性の向上から更なる低粉塵化のために液体急結剤の採用が増加している。液体急結剤を用いた吹付工法としては、輸送管内が閉塞しにくい等の点から、粉体成分を予め混合してプレミックスモルタルを調製し、これを空気圧送しながら吹付装置内で水や液体急結剤等の液体成分を添加する乾式吹付工法が採用されることがある。しかしながら、プレミックスモルタルと水の混合性が低い場合、セメントや急結助剤といった粉体や細骨材の微粒分が水と混ざりきらないまま吐出され、粉塵発生の原因となる。加えて、プレミックスモルタル中の粉体量が多くなるほど粉塵の発生量も多くなる。プレミックスモルタルと水の混合後の圧送距離を長くすることで混合性が向上するためモルタルは均一となり耐久性の改善や粉塵の抑制は期待されるが、圧送中にモルタルの粘性が増大するためホースの閉塞等を招くおそれがある。また、液体急結剤を採用した吹付材料でも更なる高強度化が求められている。
【0006】
したがって、本発明は、材料が十分に混練されるため詰まることのない良好な圧送性を有し、吹付け時に粉塵の発生が少なく、強度発現性にも優れる吹付モルタルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、特定の粒度の細骨材を使用し、増粘剤の含有量を調整した結果、混練性、圧送性に優れ、粉塵も少なく、良好な強度発現性を示す吹付モルタルが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]モルタル組成物、液体急結剤及び水を含む吹付モルタルであって、モルタル組成物は、セメント、急結助剤、増粘剤及び細骨材を含み、増粘剤の含有量が、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.01~1質量部であり、細骨材の粒度は、細骨全量に対し、0.6mm以上2mm未満の粒子の含有割合が80質量%以上である、吹付モルタル。
[2]急結助剤が、石膏類及び/又はカルシウムアルミネート類である、[1]に記載の吹付モルタル。
[3]増粘剤が界面活性剤系及び/又はメチルセルロース系増粘剤である、[1]又は[2]に記載の吹付モルタル。
[4]水の含有量が、セメント100質量部に対し、25~55質量部である、[1]又は[2]に記載の吹付モルタル。
[5]急結助剤が石膏類であり、石膏類の粒度が、石膏類全量に対し、1.5μm以下の粒子の質量割合が32~52質量%であり、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が10~29質量%である、[1]に記載の吹付モルタル。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、材料が十分に混練されるため詰まることのない良好な圧送性を有し、吹付け時に粉塵の発生が少なく、強度発現性にも優れる吹付モルタルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態の吹付モルタルは、モルタル組成物、液体急結剤及び水を含む。
【0012】
モルタル組成物は、セメント、急結助剤、増粘剤及び細骨材を含む。
【0013】
セメントは種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、超速硬セメント、フライアッシュセメント等が挙げられる。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。セメントはポルトランドセメントが好ましい。ポルトランドセメントを使用する場合の粒度は特に限定されず、例えば、JIS規格(JIS R 5210:2019)の2500cm/g以上のものが挙げられる。
【0014】
急結助剤は、石膏類及び/又はカルシウムアルミネート類が挙げられる。
【0015】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏が挙げられる。石膏類としては、強度発現性を更に向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0016】
石膏類の粒度は、石膏類全量に対し、1.5μm以下の粒子の質量割合が32~52質量%であり、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が10~29質量%であることが好ましい。石膏類の粒度が上記範囲内であれば、圧送性に更に優れ、初期及び長期における強度発現性を両立しやすい。また、石膏類の最大粒径は100μm以下であることが好ましい。
石膏類の粒度は、石膏類全量に対し、1.5μm以下の粒子の質量割合が35~50質量%であることが好ましく、37~48質量%であることがより好ましい。
石膏類の粒度は、石膏類全量に対し、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が12~27質量%であることが好ましく、13~25質量%であることがより好ましい。
石膏類の粒度は、石膏類全量に対し、1.5μm超10.5μm未満の粒子の質量割合が19~58質量%であることが好ましく、30~55質量%であることがより好ましく、35~50質量%であることが更に好ましい。
また、1.5μm以下の粒子及び10.5μm以上100μm以下の粒子の合計の質量割合が40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましく、55~65質量%であることが更に好ましい。
石膏類の粒度が上記範囲内であれば、より良好な圧送性が得られ、初期及び長期における強度発現性が一層優れたものとなる。
【0017】
石膏類のメディアン径(d50)は、1.5~2.9μmであることが好ましく、1.55~2.5μmであることがより好ましく、1.6~2.3μmであることが更に好ましい。石膏類のメディアン径が上記範囲内であれば、より良好な圧送性が得られ、初期及び長期における強度発現性が一層優れたものとなる。
【0018】
石膏類の粒度、メディアン径、最大粒径等はレーザー回折式粒度分布測定装置等を用いて粒子径分布を測定し、その累積分布から推定することができる。石膏類の粒度は、原料となる石膏類をミル等で粉砕し、分級する方法や複数の粒度の石膏類を混合する方法により調製することができる。
【0019】
石膏類の含有量は、セメント100質量部に対し、無水物換算で3~15質量部であることが好ましく、5~12質量部であることがより好ましく、7~11質量部であることが更に好ましく、8.2~10質量部であることが特に好ましい。石膏類の含有量が上記範囲内であれば、粉塵量を低減しつつ、より良好な強度発現性が得られる。
【0020】
カルシウムアルミネートは、CaOとAlを主要化学成分とする無機水和活性物質であり、CaOとAlの含有モル比(CaO/Al)が2.0~2.7であることが好ましく、2.1~2.65であることがより好ましく、2.15~2.6であることが更に好ましい。CaOとAlの含有モル比が上記範囲内であれば、より優れた急結性が得られやすい。カルシウムアルミネートには、原料由来のCaOとAl以外の不純物等の異成分も、その存在形態に拘わらず本発明の効果を阻害させない範囲で含んでもよい。
【0021】
カルシウムアルミネートは結晶質、非晶質、又はその混合物のいずれも用いることができる。カルシウムアルミネートは、長期の強度発現性が一層優れるという観点から、非晶質化の度合いであるガラス化率が95質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましい。ガラス化率は40質量%以上であることが好ましい。カルシウムアルミネートの粉末度は特に制限されないが、コンクリートへの急結混和材に使用したときに適度な反応活性が得られやすいことから、混和対象となる水硬性組成物中のセメントと同程度かそれ以上の粉末度であることが好ましく、例えば、ブレーン比表面積3000~6500cm/gの粉末度が挙げられる。
【0022】
カルシウムアルミネートの含有量は、セメント100質量部に対し、3~15質量部であることが好ましく、5~12質量部であることがより好ましく、7~11質量部であることが更に好ましく、8.2~10質量部であることが特に好ましい。カルシウムアルミネートの含有量が上記範囲内であれば、粉塵量を低減しつつ、より良好な強度発現性が得られる。
【0023】
カルシウムアルミネートは、例えば、CaO源となる原料及びAl源となる原料を、目的とする化学成分としてのCaOとAlの含有モル比が得られるように配合した原料混合物を、溶融するまで加熱することで得られる。また、製造時の加熱後の冷却過程の違いにより、冷却後のカルシウムアルミネートの構造状態に様々な差異が生じるため、冷却速度等の冷却条件に応じて、非晶質化の度合であるガラス化率を調整できる。
【0024】
増粘剤の種類は特に限定されず、例えば、界面活性剤系増粘剤、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤が挙げられる。増粘剤としては界面活性剤系増粘剤、セルロース系増粘剤が好ましい。界面活性剤系増粘剤としては、例えば、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性の界面活性剤が挙げられ、より具体的には、ポリエーテル系界面活性や、アルキルアリルスルホン酸及びその塩とアルキルアンモニウム及びその塩との混合物が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等のメチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0025】
増粘剤の含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.01~1質量部である。増粘剤の含有量が上記範囲外であると、粉塵を十分に抑制できない場合や、モルタルの粘度が高くなりすぎてしまい、混練性や圧送性が悪化し、強度発現性も低下する場合がある。増粘剤の含有量は、粉塵の低減化とモルタルの混練性及び圧送性とを両立しやすいという観点から、セメント100質量部に対し、固形分換算で0.03~0.8質量部であることが好ましく、0.05~0.5質量部であることがより好ましく、0.07~0.3質量部であることが更に好ましい。
【0026】
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石等の骨材を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0027】
細骨材の粒度は、細骨材全量に対し、0.6mm以上2mm未満の粒子の含有割合が80質量%以上である。細骨材の粒度が上記範囲外であると混練性が低下する。0.6mm以上2mm未満の粒子の含有割合は、細骨材全量に対し、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量以上であることが更に好ましく、100質量%であってもよい。
また、細骨材の粒度は、細骨材全量に対し、0.85mm以上2mm未満の粒子の含有割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましい。0.6mm以上2mm未満の粒子の含有割合の上限は、細骨材全量に対し、100質量%以下であってもよい。
細骨材の粒度が上記範囲内であれば、細骨材の粒度が均一となるため少ない水量でも混練しやすくなり、強度発現性が一層向上する。
本明細書において、「0.6mm以上2mm未満の粒子」とは公称目開き2mmふるいを通過し、0.6mmふるいに残留するものを指し、「0.85mm以上2mm未満の粒子」とは公称目開き2mmふるいを通過し、0.85mmふるいに残留するものを指す。
【0028】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対し、70~450質量部であることが好ましく、80~350質量部であることがより好ましく、90~260質量部であることが更に好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、良好な圧送性と強度発現性を両立しやすい。
【0029】
本実施形態に係るモルタル組成物は、上記以外の成分も、本発明の効果を阻害しない範囲で含有することができる。含有可能な成分として、減水剤、短繊維、ポゾラン反応性物質等が挙げられる。
【0030】
本実施形態に係るモルタル組成物は、上記の各成分を混合して製造される。混合方法は特に制限されるものではなく、例えば、ヘンシェルミキサ、傾動ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ、グラウトミキサ、モルタルミキサ、オムニミキサ等の汎用的なミキサを用いることができる。
【0031】
液体急結剤は、急結性を付与できる液状の急結剤であれば特に限定されない。液体急結剤としては、例えば、硫酸アルミニウム水溶液、珪酸ソーダ水溶液が挙げられる。液体急結剤としては、セメント系施工物の劣化原因になり得るアルカリ金属分を極力含まないという観点から、アルカリフリーの液体急結剤が好ましく、中でも硫酸アルミニウム水溶液が好ましい。液体急結剤の濃度は特に限定されないが、セメントに対してより作用性がよいことから20~60質量%の水溶液であることが好ましい。
【0032】
液体急結剤の含有量は、セメント100質量部に対し、固形分換算で1~10質量部であることが好ましく、2~8質量部であることがより好ましく、2.5~6質量部であることが更に好ましい。液体急結剤の含有量が上記範囲内であれば、付着性と強度発現性が向上しやすい。
【0033】
本実施形態の吹付モルタルは、使用する目的、場所等の要因に応じて水の量を適宜調整することができる。水の含有量は、セメント100質量部に対して30~60質量部であることが好ましく、35~55質量部であることがより好ましく、37~52質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より一層強度発現性に優れる。本明細書において、水の含有量には液体急結剤に含まれる水分量も換算する。
【0034】
調製したモルタル組成物を液体急結剤及び水と合わせることで吹付モルタルとなる。モルタル組成物への液体急結剤と水の添加は、予めモルタル組成物を水と混合してモルタルを調製し、これを圧送した後に吹付け直前で液体急結剤を添加する湿式吹付形式であってもよく、モルタル組成物を圧送し、吹付け直前で水と液体急結剤を添加する乾式吹付形式であってもよい。モルタル組成物への液体急結剤と水の添加は、モルタル組成物が凝結せずに長距離を圧送しやすく、配管内の残留物が生じにくいという観点から、乾式吹付形式であることが好ましい。液体急結剤と水は同時に添加してもよく、液体急結剤を添加した後に水を添加してもよい。添加用の装置は特に限定されない。装置としては、例えば、圧送管中を圧送されてきたモルタル組成物が圧送される圧送管に、液体急結剤の供給管と水の供給管をY字管、二重管等の合流部品を介して接続するか、液体急結剤と水の添加機構を具備したモルタル吹付装置を用いることができる。
【0035】
本実施形態の吹付モルタルは、硬化時において、土木学会規準JSCE-G561:2010「引抜き方法による吹付けコンクリートの初期強度試験方法」に準じて20℃環境下で測定する、材齢3時間における圧縮強度が9N/mm以上であることが好ましく、10N/mm以上であることがより好ましく、12N/mm以上であることが更に好ましい。20℃環境下で測定する、材齢3時間における圧縮強度が上記範囲内であれば、早期に十分な強度が得られるため、工期を更に短縮できる。
【0036】
本実施形態の吹付モルタルは、モルタル組成物の混錬性や圧送性に優れ、吹付け時に粉塵も少なく、十分な強度発現性も発揮できるものである。そのため、本実施形態の吹付モルタルは、トンネル壁面や斜面への吹付けだけでなく、粉塵がこもりやすい狭い空間での吹付けにおいても好適に用いることができる。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例は特記無い限り20℃の環境下で行った。配合量は全て無水物換算、固形分換算している。
【0038】
[カルシウムアルミネートの作製]
市販の工業用薬品のCaCOとAlを用い、CaO及びAlの含有モル比(CaO/Al3、C/A比)の値が以下に表すカルシウムアルミネートが得られるように秤量配合し、ヘンシェル型混合機で原料調合物を作製した。この原料調合物を電気炉中で、約1600℃±50℃にて60分間加熱した。一部のものを除き、加熱時間経過後は加熱物を直ちに炉外に取り出した。取り出した加熱物の表面に冷却用の窒素ガスを最大流速約30mL/秒で吹付けて急冷し、冷却物を得た。冷却物のガラス化率については、窒素ガスの流速を最大値よりも落として吹付けることで調整した。各冷却物は、全鋼製のボールミルで粉砕し、分級装置にかけてブレーン比表面積約5400cm/gに整粒した。カルシウムアルミネートのガラス化率は、粉末エックス線回折装置を用い、質量がM1のカルシウムアルミネートクリンカに含まれる各鉱物の質量を内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。
ガラス化率(質量%)={1-(M2/M1)}×100
【0039】
<実験例1>
[材料]
・プレミックスモルタル
セメント:普通ポルトランドセメント
石膏類:無水石膏
カルシウムアルミネート類:
CA1:CaO/Al=2.3、ガラス化率50%
CA2:CaO/Al=2.4、ガラス化率90%
細骨材:
S1:珪砂、0.6mm以上2mm未満の粒子を95質量%、0.85mm以上2mm未満の粒子を85質量%に調整
S2:珪砂、0.6mm以上2mm未満の粒子を90質量%、0.85mm以上2mm未満の粒子を60質量%に調整
S3:川砂、0.6mm以上2mm未満の粒子を35質量%、0.85mm以上2mm未満の粒子を30質量%に調整
増粘剤:
V1:界面活性剤系増粘剤(ポリエーテル系)
V2:メチルセルロース系増粘剤
・液体急結剤
アルカリフリー液体急結剤(硫酸アルミニウム50質量%水溶液)
【0040】
[プレミックスモルタル組成物の作製]
セメント、カルシウムアルミネート、無水石膏、細骨材及び増粘剤を表1に記載の割合として配合設計した。これらの材料をヘンシェルミキサに投入し、2分間混合することでプレミックスモルタル組成物を作製した。
【0041】
【表1】
【0042】
[吹付モルタルの作製]
作製したプレミックスモルタル組成物を、長さ約50m、内径4.0cmの樹脂製ホース管内をポンプによる圧搾空気で圧送した。圧送先のホース管の先端近傍の側面に設けられた水の添加口から別送する水を添加し、圧送されてきたプレミックスモルタル組成物と水と管内で合流できるようにしてプレミックスモルタルを調製した。
水を合流混合されたプレミックスモルタルは、合流物の吐出側の管口に接続された吹付装置によって、装置内のモルタル通過経路の周囲に設けた多数の添加口を有する環状の急結剤添加部からシャワー状態で液体急結剤を添加した。この急結剤添加部を通った吹付モルタルを噴射用のノズルを介して吹き付けた。
液体急結剤はセメント100質量部に対し、固形分換算で3.5質量部添加した。水はセメント100質量部に対し、38.5質量部添加した。水量には液体急結剤に含まれる水分量も換算している。
【0043】
[評価方法]
下記に示す方法にて試験を行い、試験結果を表2に示す。
・圧送性
吹付けを3分間行った後にプレミックスモルタルの供給を30分間停止した。その後、プレミックスモルタルの供給を再開した。このとき、プレミックスモルタルの輸送管圧送に支障が生じたり、吹付用モルタルの吹付量の低下等の吹付障害があったりしたものを圧送性「不良」と判断し、これらの現象が見られずスムーズに圧送でき、吹付量の変動も見られなかったものを圧送性「良好」と判断した。
・混練性
上述した吹付装置とは別にモルタルミキサを準備し、そのミキサ内に予めプレミックスモルタルを投入しておき、その後水を添加した。水の添加後、10秒間練混ぜて作製したモルタルスラリーを掻き落としせずに様子を確認し、材料同士が充分に混ざっていたものを混練性「良好」、混ざりきっていなかったものを混練性「不良」と判断した。
・相対粉塵発生量
吹付けを行ったときの発生した粉塵量を市販の粉塵濃度計によって測定した。発生量は、従来の吹付モルタルを吹付けた場合の粉塵量(これを100%とする)に対する相対割合(%)で表2に表す。従来の吹付モルタルとは、普通ポルトランドセメント100質量部、カルシウムアルミネート(CA1)9質量部、無水石膏9質量部、細骨材(S3)200質量部を含み、増粘剤を含まないプレミックスモルタルに、水38.5質量部及び液体急結剤3.5質量部(固形分換算)を添加した吹付モルタルである。
粉塵量の測定方法・条件は次の通りである。幅4.5m、奥行4.5m、高さ8mの閉鎖空間の4.5m×8mの壁面の1つを吹付対象壁面とし、吹付対象壁面と反対側に、吹付装置の噴射孔(ノズル)先端が配されるように吹付装置を設置した。吹付対象壁面から8m離れ、噴射孔先端から7m後方にあたる位置に市販の粉塵濃度計を設置した。吹付装置のノズルから吹付モルタルを吐出量1m/hrで5分間、対象壁面に垂直に吹付けたときの粉塵濃度を測定した。
・強度発現性
吹付モルタルを内寸30×40×20cmの成形用型枠内に吹き付け、型枠内を満たすようにした。これを20℃(±1℃)恒温庫に入れ所定時間経過後、型枠内の硬化コンクリートからコアドリルによって直径5cm、高さ10cmの円柱状供試体を採取し、材齢28日にした供試体を得た。この材齢28日供試体の一軸圧縮強度をアムスラー式圧縮強度試験機で測定した。また、土木学会規準JSCE-G561:2010に規定するプルアウト試験用型枠と埋込具を使用し、同様に作製した吹付モルタルを、JSCE-G561:2010に準拠したプルアウト試験に供した。当該試験により材齢3時間及び1日の吹付モルタルの圧縮強度を測定した。表中「>26.9」の記載は使用機材の測定限界を超えたものである。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例の吹付モルタルは、粉塵の発生や圧送時の詰まりもなく、混練性や短期から長期の強度発現性も優れたものだった。一方、比較例の吹付モルタルは、混練が不十分なもの、作業中に粉塵の発生や詰まりが生じたもの、強度発現性に優れないもの等が見られた。
【0046】
<実験例2>
[材料]
・プレミックスモルタル
セメント:普通ポルトランドセメント
石膏類:無水石膏、粒度調整品、最大粒径100μm以下
G1:d50=2.2、1.5μm以下の粒子の質量割合が38質量%であり、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が23質量%
G2:d50=1.8、1.5μm以下の粒子の質量割合が42質量%であり、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が19質量%
G3:d50=1.7、1.5μm以下の粒子の質量割合が47質量%であり、10.5μm以上100μm以下の粒子の質量割合が14質量%
カルシウムアルミネート類:
CA1:CaO/Al=2.3、ガラス化率50%
細骨材:
S1:珪砂、0.6mm以上2mm未満の粒子を95質量%、0.85mm以上2mm未満の粒子を85質量%に調整
V1:増粘剤:界面活性剤系増粘剤(ポリエーテル系)
・液体急結剤
アルカリフリー液体急結剤(硫酸アルミニウム50質量%水溶液)
【0047】
[プレミックスモルタル組成物の作製及び吹付モルタルの作製]
セメント、カルシウムアルミネート、無水石膏、細骨材及び増粘剤を表3に記載の割合として配合設計した。これらの材料をヘンシェルミキサに投入し、2分間混合することでプレミックスモルタル組成物を作製した。
吹付モルタルの作製は実験例1と同じ条件にて行った。
【0048】
[評価方法]
実験例1に記載方法にて試験を行い、試験結果を表4に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
実施例の吹付モルタルは、粉塵の発生や圧送時の詰まりもなく、混練性や短期から長期の強度発現性も優れたものだった。