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特開2024-146904調査用塗膜シートおよび調査用塗膜シートを用いた塗膜評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146904
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】調査用塗膜シートおよび調査用塗膜シートを用いた塗膜評価方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/29 20180101AFI20241004BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20241004BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20241004BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C09J7/29
C09J7/38
C09J201/00
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024056397
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023058182
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】阿江 一樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 柊也
【テーマコード(参考)】
4J004
4J038
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004CA01
4J004CB03
4J004CC03
4J004CE01
4J004DA01
4J004DB02
4J004EA06
4J004FA10
4J038BA232
4J038CG131
4J038KA08
4J038NA05
4J038NA27
4J038PB07
4J040DF021
4J040EK032
4J040JA09
4J040JB09
4J040LA11
4J040MB05
4J040MB09
4J040NA08
4J040PA23
(57)【要約】
【課題】実際の各使用環境に適合した塗料を選定するための手段を提供する。
【解決手段】(i)塗膜により被覆する対象または代替対象に対して、周囲には形成されていない少なくとも1以上の供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートを貼付する工程、(ii)少なくとも該供試塗膜層(sp)の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置く工程、および(iii)前記調査用塗膜シートの状態に関する情報を取得する工程、を含む塗膜の性能評価方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)塗膜により被覆する対象または代替対象に対して、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートを貼付する工程、
(ii)少なくとも該供試塗膜層(sp)の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置く工程、および
(iii)前記調査用塗膜シートの状態に関する情報を取得する工程、
を含む塗膜の性能評価方法。
【請求項2】
前記調査用塗膜シートとしてさらに接着剤層(ad)を有するものを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接着剤層(ad)が感圧接着剤を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記調査用塗膜シートとしてさらに基材層(bs)を有するものを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基材層(bs)が金属を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記調査用塗膜シートとしてさらに表示層(id)を有するものを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記調査用塗膜シートとして互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有するものを使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(i)がさらに、前記調査用塗膜シートの周囲を塗料組成物でシーリングする処理を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(iii)が、写真撮影および写真の電子的な送信を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が水中構造物である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が船舶である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記対象が移動体である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
さらに、前記工程(iii)により得られた情報を基に、対象の推奨被覆方法を決定する工程を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)および表示層(id)を有する塗膜シート。
【請求項15】
周囲には形成されていない互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有する塗膜シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調査用塗膜シートおよびその製造方法、ならびに調査用塗膜シートを用いた塗膜評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料を被塗物に塗装する目的には、被塗物の保護や美観の維持などが挙げられる。これらは期待される期間にわたってその効果が維持されることが求められるが、被塗物は多様な環境に置かれることが想定され、想定されうる最も過酷な環境に置かれた場合であっても、その効果を維持できるように塗料の設計がなされる。具体的には、塗料の有効成分を最適な配合量に調整することや、十分な性能を発揮できる塗膜の厚みにすることが求められるが、使用環境によっては想定したほどの性能が不要な場合もある。その場合、有効成分の含有量や塗料自体の使用が過剰となり、コストや資源の面で無駄を生じ、場合によっては環境に余計な負荷をかけることとなる。
【0003】
例えば、船舶の船底を海中生物の付着から保護する防汚塗料の場合、船舶の航行する海域や航行速度、稼働率等によって多種多様な環境に置かれ、海中生物の付着量や付着する海中生物の種類も様々である。そこで、海中生物の付着量が多い場合や、幅広い海中生物種が付着する場合に備えて、塗料の有効成分を十分に配合した防汚塗料を十分な膜厚となるように塗装される。しかし、しばしば塗料の有効成分や塗料自体のコストが高く、資源としても限りあるものである一方で、船舶によっては想定よりも海中生物の付着量が少ない場合や特定種の海中生物しか付着しない環境条件で航行している場合もあり、そのような場合はコスト、資源を無駄にしていることになる。
【0004】
このようなミスマッチを避けるために、従前より有効成分の配合量の異なる複数グレードの製品ラインナップを準備し、塗料が使用される用途の事前情報から推定する、あるいは所定の試験場内で(同じ環境下で)小規模な事前テストを行って、適していると考えられる塗料製品を推奨することが行われてきた。
【0005】
しかしながら、事前情報だけから適切な塗料製品を推定することは難しく、性能不足による問題が起きなかった場合に、必要な性能に見合った塗料製品が適用された結果なのか、それとも実際に必要な性能よりも過剰な性能の塗料を適用された結果なのかを見分けられないことが多い。また、小規模な事前テストを行う場合も、ラインナップに含まれる複数の塗料の準備、塗装の手間や難度、工程の増加、結果確認の手間などを考慮すると、実施するにはハードルがあった。
【0006】
塗料の性能を評価する方法として、例えば特許文献1には、防汚剤を塗布した試験片を水生生物が存在する浸漬試験水中に所定の浸漬時間が経過するまで浸漬した後、試験片に付着した付着生物を含む付着物をサンプリングして、生体分子分析法(例えばアミノ酸分析法)を用いて付着物量を定量することを含む、防汚性能評価方法が記載されている。特許文献1には、上記の防汚性能評価方法において、浸漬時間と付着物量との関係のほか、浸漬時間と防汚剤の溶出速度(分析用試験水をサンプリングして質量分析法を用いて測定)の関係や、付着物量と防汚剤の溶出速度の関係を分析できること、上記のような浸漬試験および防汚剤溶出試験を並行して行ったり、多数の試験片を用いて経時的な変化を調べたりすることができることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-167654
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、使用環境に適合し、かつコストや資源に無駄のない塗料を選定することは容易ではないという課題があった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、実際の各使用環境に適合した塗料を選定するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、塗膜により被覆しようとする対象に対して、特定の「供試塗膜層」を有する「調査用塗膜シート」を貼付し、供試塗膜層の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置くことによって、調査用塗膜シートの状態に関する情報を取得することにより、上記の課題を解決できる塗膜の性能評価を行うことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は少なくとも下記の事項を包含する。
[項1]
(i)塗膜により被覆する対象または代替対象に対して、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートを貼付する工程、
(ii)少なくとも該供試塗膜層(sp)の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置く工程、および
(iii)前記調査用塗膜シートの状態に関する情報を取得する工程、
を含む塗膜の性能評価方法。
[項2]
前記調査用塗膜シートとしてさらに接着剤層(ad)を有するものを使用する、項1に記載の方法。
[項3]
前記接着剤層(ad)が感圧接着剤を含む、項2に記載の方法。
[項4]
前記調査用塗膜シートとしてさらに基材層(bs)を有するものを使用する、項1に記載の方法。
[項5]
前記基材層(bs)が金属を含む、項4に記載の方法。
[項6]
前記調査用塗膜シートとしてさらに表示層(id)を有するものを使用する、項1に記載の方法。
[項7]
前記調査用塗膜シートとして互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有するものを使用する、項1に記載の方法。
[項8]
前記工程(i)がさらに、前記調査用塗膜シートの周囲を塗料組成物でシーリングする処理を含む、項1に記載の方法。
[項9]
前記工程(iii)が、写真撮影および写真の電子的な送信を含む、項1に記載の方法。
[項10]
前記対象が水中構造物である、項1に記載の方法。
[項11]
前記対象が船舶である、項1に記載の方法。
[項12]
前記対象が移動体である、項1に記載の方法。
[項13]
さらに、前記工程(iii)により得られた情報を基に、対象の推奨被覆方法を決定する工程を含む、項9に記載の方法。
[項14]
周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)および表示層(id)を有する塗膜シート。
[項15]
周囲には形成されていない互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有する塗膜シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用環境に適合し、かつコスト、資源的に無駄のない塗料を少ない負担で選択することができる。さらに、本発明の方法による試験情報を蓄積して活用することにより、使用環境の事前情報、あるいはその事前情報と試験情報との組み合わせから塗料を選択する場合の適した塗料選択の精度を高めることができる。また、本発明では、対象(例えば船体)に被験塗料を直接塗布するではなく、特定の塗膜シートを貼付するので、(1)有機溶剤を使用せず安全にかつ環境にも負荷が無い方法で試験を行うことができる、(2)取扱いを容易にして流通や保管のハードルを下げることで、広くテストを行うことができる、(3)シート上に予め形成された塗膜をテストに用いることで、現場での塗装のように膜厚の管理が困難とならず、想定通りの膜厚とすることができる、(4)現場塗装で生じる塗膜欠陥を防止することができる、等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例1で作製した調査用塗膜シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
図2図2は、実施例2で作製した調査用塗膜シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
図3図3は、実施例3で作製した調査用塗膜シートの各層の配置を示す模式的な上面図である。
図4図4は、実施例3で作製した調査用塗膜シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
図5図5は、実施例4で作製した調査用塗膜シートの各層の配置を示す模式的な上面図である。
図6図6は、実施例4で作製した調査用塗膜シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
図7図7は、実施例5で作製した調査用塗膜シートの各層の配置を示す模式的な上面図である。
図8図8は、実施例5で作製した調査用塗膜シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
図9図9は、実施例6で作製した調査用塗膜シートの各層の配置を示す模式的な上面図である。
図10図10は、実施例6で作製した調査用塗膜シートの積層構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明における調査用塗膜シートおよびその製造方法、調査用塗膜シートを利用した塗膜評価方法などについて詳細に説明する。
【0015】
[調査用塗膜シート]
本発明の調査用塗膜シートは、1つ以上の供試塗膜層(sp)を有する。「1つ以上の供試塗膜層(sp)」とは、供試塗膜層(sp)の「数」、つまり1枚の調査用塗膜シート上に形成されている、互いに連続してない供試塗膜層(sp)の領域(区画)の数が1以上であることを意味する。1枚の調査用塗膜シートは、1種類の供試塗膜層(sp)を1つだけまたは2つ以上有していてもよいし、2種類以上の供試塗膜層(sp)を2つ以上有していてもよい。供試塗膜層(sp)の「種類」とは、その形成に用いた供試塗料組成物の配合組成、塗膜表面の粗度や形状、膜厚など、互いに区別し得る性状を意味する。本発明の調査用塗膜シートは、調査の目的に応じて、例えば、配合組成が異なる塗料組成物から形成されているという意味で2種類以上の供試塗膜層(sp)を有するものとしたり、塗料組成物は共通するが塗膜表面の粗度や膜厚が異なるという意味で2種類以上の供試塗膜層(sp)を有するものとしたりすることができる。異なる種類の供試塗膜層(sp)をより多く有していることで調査対象の置かれる環境により適した塗料組成物が見つかる可能性が高いことから、調査用塗膜シートが有する供試塗膜層(sp)の種類は、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらにより好ましい。
【0016】
[供試塗膜層(sp)]
本発明の調査用塗膜シートは、実使用環境における塗膜の評価を行うための供試塗膜層(sp)を含む。この供試塗膜層(sp)は、調査用塗膜シートの貼付対象箇所の「周囲には形成されていない」ものとされる。つまり、調査用塗膜シートの貼付対象箇所の周囲には、供試塗膜層(sp)と「同一の種類」の塗膜が形成されていないこと、例えば、塗膜が全く形成されていない状態である(基材のみの状態である)こと、または塗膜は形成されているがその「種類」(塗料組成物の配合組成、表面粗度、膜厚等)が供試塗膜層(sp)とは異なることが必要とされる。本発明の一実施形態において、本発明の調査用塗膜シートは、周囲には形成されていない互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有する。
【0017】
供試塗膜層は例えば、後述の供試塗料組成物を基材等に塗布し塗布体を得た後、該塗布体を硬化及び/又は乾燥させることにより形成することができる。
【0018】
[供試塗料組成物]
供試塗料組成物としては、実環境に適する可能性のある塗料組成物であれば特に制限なく用いることができる。このような供試塗料組成物としては、例えば、船底防汚塗料やタンクの防錆用塗料などの船舶用塗料、建物の内外装用塗料や建築資材用塗料などの建築用塗料、橋梁や鉄塔など構造物用塗料、自動車などの道路車両用塗料、機械や鋼製家具などの金属製品用塗料、家具などの木工製品用塗料、コンテナなどの輸送具用塗料、路面標示用塗料、などの塗料組成物などが挙げられる。これらの中でも、塗膜が多様な環境に置かれ、実環境に適した塗料組成物の選択が難しいという観点から、本発明の調査用塗膜シートを用いた塗膜の性能評価方法および塗料推奨方法が有効なものとなる、屋外で使用される構造物向けの塗料組成物が供試塗料組成物として好ましい。特に、その航行海域や航行形態、利用形態が船舶ごとに様々であり、実環境に適した塗料組成物の選択がより難しい船舶用塗料組成物がより好ましく、航行海域によって生息する海洋生物が異なる船底防汚塗料や、航行海域によって温湿度や日照、天候など複合的な要因を受ける船底トップサイド面、上甲板部用の耐候性上塗り塗料は、よりさらに好ましい。
【0019】
船底防汚塗料としては、どのようなものであっても制限無く用いることができるが、その代表例としては、加水分解型防汚塗料組成物(x)、水和分解型防汚塗料組成物(y)、シリコーン型防汚塗料組成物(z)が挙げられる。
【0020】
加水分解型防汚塗料組成物(x)は、加水分解性(共)重合体を含有し、その塗膜が水に接触するとその表面で該(共)重合体の加水分解反応が起こり、親水化した表層から徐々に塗膜が更新されていくことで防汚性を発揮する。
【0021】
加水分解型防汚塗料組成物(x)は、含有する加水分解性(共)重合体の構成単位や、その他の含有成分によって塗膜の更新速度を調整することができ、塗装される船舶の航行海域、すなわち付着する海洋生物の種類や量、水温、および航行速度や稼働率等の条件によって最適な組成とする必要がある。
【0022】
このような加水分解型防汚塗料組成物(x)としては、例えば、特開2002-012630、国際公開WO2011/046086、国際公開WO2021/182454に記載のような金属エステル基含有単量体に由来する構成成分を有する加水分解性(共)重合体や、特開平10-030071、国際公開WO2018/088377記載のようなトリオルガノシリルエステル基含有単量体に由来する構成成分を有する加水分解性(共)重合体を用いるものが挙げられる。
【0023】
水和分解型防汚塗料組成物(y)は、塗膜表面から水が浸透して形成される水和層が水流等によって更新されていくことで防汚性を発揮する。
【0024】
水和分解型防汚塗料組成物(y)も、前記加水分解型防汚塗料組成物(x)と同様に条件によって最適な組成とする必要がある。
【0025】
このような水和分解型防汚塗料組成物としては、例えば、国際公開WO93/02146、国際公開WO2003/080747に記載のような塗料組成物が挙げられる。
【0026】
シリコーン型防汚塗料組成物(z)は、主成分であるシリコーンゴムの持つ低表面自由エネルギー、弾性およびスリップ性によって、海洋生物が脱落しやすい塗膜を形成するものである。
【0027】
このようなシリコーン型防汚塗料組成物としては、特開2001-139816、国際公開WO2002/074870、国際公開WO2011/076856、国際公開WO2013/024106、国際公開WO2022/070978のようなものが挙げられる。
【0028】
その他の防塗料組成物としては、例えば国際公開WO2014/010702、国際公開2016/008824、特開2001-342432、国際公開WO2012/084758、特開2018-035227のようなものも挙げられる。
【0029】
供試塗料組成物の含有成分について特に制限はないが、一般に、バインダー(A)、溶媒(B)、顔料(C)、添加剤(D)等を含有することが好ましい。
【0030】
バインダー(A)は、塗料組成物に皮膜形成機能を付与するものであり、樹脂と呼称されることもある。バインダー(A)の具体例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、石油樹脂等の、熱可塑性または熱硬化性の各種合成樹脂;ロジン(松脂)、変性ロジン、セラック等の天然樹脂等;アルカリケイ酸、シリコンアルコキシド等の金属アルコキシド、およびこれらの(加水分解)縮合物等の無機系バインダー等;を挙げることができ、これらの2種以上を併用していてもよい。また、これらのバインダーは、有機溶剤溶解型、非水分散型(NAD)、水溶型、エマルジョン型などがあり、硬化方式も常温硬化型、紫外線硬化型、加熱硬化型などがあり、特に制限はない。
【0031】
溶媒(B)は、供試塗料組成物に適切な流動性を付与して塗装作業性を向上させる目的で配合される。溶媒(B)の具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶剤、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系有機溶剤、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤、及び酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤、水等を挙げることができる。
【0032】
顔料(C)は、着色、隠ぺい性付与、耐候性付与、塗膜強度向上等の目的で配合される。顔料(C)の具体例としては、カーボンブラック、弁柄(赤色酸化鉄)、黄色酸化鉄、チタン白(酸化チタン)、アルミニウムフレーク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、カリ長石、酸化亜鉛、カオリン、アルミナホワイト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、硫化亜鉛、ガラス短繊維、ガラスフレーク等の無機系顔料や、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の有機系顔料が挙げられる。
【0033】
添加剤(D)は、その他の様々な機能性付与のために配合され、例えば、湿潤分散剤、脱水剤、沈降防止剤、タレ止め剤、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、表面調整剤、硬化促進剤、カップリング剤、可塑剤、防汚剤、スリップ剤、抗菌剤、難燃剤、熱伝導剤、酵素等が挙げられる。
【0034】
[供試塗膜層(sp)の形成]
供試塗膜層(sp)を形成するために供試塗料組成物を塗布する方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、スプレー、刷毛、ローラー、フィルムアプリケーター、フローコーター、ロールコーター、電着塗装等による方法や、被塗物を供試塗料組成物に含浸する方法を挙げることができる
【0035】
塗布体の硬化及び/又は乾燥方法としては、常温乾燥でもよく、加熱してもよく、必要に応じて活性エネルギー線照射を行ってもよい。また、例えば国際公開WO2019/189412に記載のような塗膜表面に微細形状を有する塗布体の形成が行えるような、硬化及び/又は乾燥方法を採ってもよい。
【0036】
供試塗膜層(sp)の厚みは特に限定されるものではなく、供試塗膜層(sp)を形成するために用いられる防汚塗料組成物や、本発明の調査用塗膜シートの実施形態、用途等に応じて調節することができるが、例えば、10~2000μmの範囲とすることができ、50~500μmの範囲とすることが好ましい。
【0037】
本発明の調査用塗膜シートでは供試塗膜層(sp)の表面が特定の粗度パラメータをとるようにすることも好ましい。例えば、塗料組成物をスプレー等で塗装して塗膜を形成する場合、その表面は一定の粗さを持つものとなるため、供試塗膜層(sp)としてもその粗さに近い表面をもつものとすることが好ましい。また、粗度パラメータが異なる2以上の供試塗膜層(sp)を調査用塗膜シートに形成することで、粗度の影響を評価することも好ましい。供試塗膜層(sp)の表面粗度をその供試前に測定しておくことも好ましい。粗度の測定は、触針式などの接触式、レーザー変位計を用いた非接触式などを用いて行うことができ、Rz、Rzjis、Raなどの粗度パラメータや粗さ曲線要素の平均長さRSmなどのパラメータで表すことができる。
【0038】
本発明によれば、施工現場では採用することが難しい塗布方法、硬化及び/又は乾燥方法を採用して塗膜を形成することができるため、実際の現場で施工する場合と比べて、塗装作業負担の軽減、塗膜形成時間の短縮、膜厚の正確な管理や平滑性の担保ができるという利点がある。
【0039】
・凹凸構造
本発明の一実施形態において、供試塗膜層(sp)は、その表面に「凹凸構造」を有する。「凹凸構造」は、代表的には、供試塗膜層(sp)の接水面に形成される、周期的な構造を有する微細な凹凸を有する構造であって、流体が接する際の乱流の発生を抑制し、抵抗(摩擦係数)を小さくする機能を有する「リブレット表面構造」や、角柱状、円柱状、三角推状等の突起を有し、各突起同士が接していてもよく、また、接していなくてもよい表面構造等が挙げられる。
【0040】
リブレット表面構造はその凹凸の高さの差、すなわちリブレット高さによって特徴づけられる。リブレット高さ(h)は、リブレット構造の形成容易性の観点から、0.1~1000μmの範囲が好ましく、0.5~500μmの範囲がより好ましく、1~100μmの範囲がさらに好ましい。なお、リブレット高さ(h)は、周期的な凹凸を認識できる任意の範囲にて、リブレット表面の任意の断面における表面の10点平均線粗さRzjis(JIS B 0601:2001)を測定することにより求められる。
【0041】
リブレット表面構造としては、例えば、特表2011-530443号公報に記載されているような溝構造、特表2012-508128号公報に記載されているような特定の周期的パターンを有する構造などが挙げられ、構造形成の容易さの観点から溝構造を有するものが好ましい。リブレット構造が溝構造である場合、例えばV形溝、U形溝、矩形溝、および台形溝等の構造が挙げられる。溝構造の長手方向と垂直方向の凹凸の山頂間の平均距離、すなわち溝構造の周期S[μm]は、リブレット構造の形成容易性の観点から、リブレット高さ(h)に対する比の値、S/hが0.5~5となる範囲が好ましく、0.8~4となる範囲がより好ましく、1.5~3.5となる範囲がさらに好ましい。
【0042】
[任意の構成層]
本発明の調査用塗膜シートは、任意で、接着剤層(ad)、基材層(bs)、結合層(cn)、表示層(id)、保護層(pr)、および離形層(rl)からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに有していてもよい。これらの任意の層は、いずれの順に設けてもよく、各層についてそれぞれ同じまたは異なる複数の層を設けてもよい。例えば、供試塗膜層(sp)や接着剤層(ad)を挟んで、任意の構成層が2層以上積層されていてもよく、一例として、接着剤層(ad)-基材層(bs)-接着剤層(ad)-結合層(cn)-供試塗膜層(sp)という積層構造が挙げられる。また、単一の任意の構成層が上記の層が有する機能の2以上を有していてもよく、一例として、エポキシプライマーの塗膜は、結合層(cn)でもあり、基材層(bs)でもある層として利用することができる。
【0043】
各層は隣接する層の一部にだけ設けられていてもよい。例えば、後述の磁石を含む場合においては、接着剤層(ad)を例えばシートの端部のみに形成する実施形態が挙げられ、このような実施形態によれば接着剤層(ad)の形成面積を節減することができる。また、供試塗膜層(sp)に隣接する離形層(rl)を、供試塗膜層(sp)の端部を除いて形成すれば、本発明の調査用塗膜シートを貼りつけた後に供試塗膜層(sp)の端部をシーリングする際に供試塗膜層(sp)を養生する工程を省略できるため好ましい。
【0044】
シートの供試塗膜層(sp)を有する面の端部のみ別の層を露出させることも好ましい。供試塗膜層(sp)よりも基材層(bs)、結合層(cn)、保護層(pr)の方が、シーリング処理に用いる塗料組成物との接着性に優れる場合、端部にこれらの層を露出させておくことでより強固にシーリング処理を行うことができる、シーリング処理の際にシーリング処理する範囲を示すことができるなどの点で優れる。
【0045】
各層は、2以上の異なる層で構成してもよい。例えば、剥離が起こりやすいシート端部のみ付着力の強い接着剤層(ad)として、端部以外は付着力が弱い接着剤層(ad)とすることでコストを低減する等の構成が挙げられる。
【0046】
任意に含まれる各層の色はどのようなものであってもよいが、他の層や対象と異なる色や、メタリック調、蛍光色など目立ちやすい色とすると、例えば、他の層がダメージや摩耗によって失われた場合に容易に識別できるという利点がある。また、任意に含まれる各層は紫外光や赤外光を照射した時に、特定の光を反射して識別できるようなものであってもよい。
【0047】
[接着剤層(ad)]
本発明の調査用塗膜シートは、対象に対する優れた接着性を得るため、接着剤層(ad)を有することが好ましい。
【0048】
接着剤層(ad)に用いられる接着剤は特に限定されず、公知の接着剤を使用することができ、用途に応じて適宜選択すればよい。接着剤としては、例えば、感圧接着剤(粘着剤)、嫌気硬化型接着剤、光硬化型接着剤、湿気硬化型接着剤、ホットメルト接着剤、熱硬化型接着剤、乾燥硬化型接着剤が挙げられ、調査用塗膜シートを使用した後に容易に除去することが可能であることから感圧接着剤が好ましい。
【0049】
これらの接着剤に用いられる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ビニルアルコール樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、スチレン-アクリル共重合、ポリエステル樹脂、アミド樹脂、シアノアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、シリコーン樹脂が挙げられ、これらの樹脂は単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。また、イソシアネート化合物等を硬化剤とする2液硬化型のウレタン系接着剤、エステル系接着剤を用いることもできる。
【0050】
感圧接着剤としては、例えば、アクリル感圧接着剤、シリコーン感圧接着剤、天然又は合成のゴム系感圧接着剤、ポリウレタン感圧接着剤、ビニルアルキルエーテル感圧接着剤、ポリエステル感圧接着剤、ポリアミド感圧接着剤、ポリα-オレフィン、及びスチレンブロックコポリマー系感圧接着剤が挙げられ、これらを組み合わせて用いてもよい。中でも、接着力の設計が容易であり、耐候性や耐熱性にも優れる点でアクリル感圧接着剤が好ましく、幅広い温度域に対応でき、耐水性や耐薬品にも優れるシリコーン感圧接着剤も好ましい。また、本発明の調査用塗膜シートを対象に貼付して、使用後に当該シートを剥離する場合、接着剤層(ad)が塗膜に残存してしまうことがあるため、接着剤層(ad)に用いられる接着剤に含まれる樹脂は、剥離後の面に塗装される塗料組成物に含まれる樹脂と同種であることが好ましい。例えば、剥離後の面にアクリル系塗料組成物を塗装する場合はアクリル感圧接着剤を用いることが好ましく、シリコーン系塗料組成物を塗装する場合はシリコーン感圧接着剤を用いることが好ましい。
【0051】
感圧接着剤は一般に、室温(25℃)での動的粘弾性測定した際に、1Hzの周波数での3×10ダイン/cm未満の貯蔵弾性率(E’)を有する。
【0052】
感圧接着剤は、有機溶媒系、水性エマルジョン、ホットメルト、熱硬化性、及び紫外線硬化性感圧接着剤のいずれであってもよい。
【0053】
アクリル感圧接着剤は、1以上の低Tg(メタ)アクリレートエステルモノマーに由来する構成単位を全構成単位の少なくとも50質量%含むアクリルポリマーを、当該接着剤中に少なくとも20質量%含有する。このようなアクリルポリマーは、溶液重合、バルク重合、又は乳化重合などのフリーラジカル重合技術によって製造することができ、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、又はグラフトポリマーなどの任意の種類のものであってよい。前記低Tg(メタ)アクリレートモノマーとは、ホモポリマーを形成したときのポリマーのTg(ガラス転移点)が0℃以下のものを指す。アクリル感圧接着剤は、極性モノマーに由来する構成単位を更に含んでもよい。代表的な極性モノマーとしては、例えば、酸官能性モノマー(例えばアクリル酸、メタクリル酸)、ヒドロキシル官能性(メタ)アクリレート)モノマー、窒素含有モノマー(例えばアクリルアミド)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態では、アクリル感圧接着剤は、少なくとも0.5、1、2又は3質量%、かつ典型的には10質量%以下の、アクリルアミドなどの極性モノマー及び/又は(メタ)アクリル酸などの酸官能性モノマーに由来する構成単位を含む。
【0054】
シリコーン感圧接着剤は、シリコーンを接着剤中に少なくとも20質量%含有する。シリコーン感圧接着剤としては、例えば、付加型シリコーン系粘着剤、過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤、縮合型シリコーン系粘着剤等を用いることができ、これらを組み合わせて用いてもよく、一液型のものを用いても多液型のものを用いてもよい。
【0055】
付加型シリコーン系粘着剤は、一般に、ケイ素原子にビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンとを、塩化白金酸等の白金化合物触媒を用いて付加反応(ヒドロシリル化反応)させることによりシリコーン系ポリマーを生成させる粘着剤である。付加型シリコーン系粘着剤としては、例えば、信越化学工業(株)製「KR-3700」、「X-40-3291-1」、東レ・ダウコーニング(株)製「Dow Corning Toray SD 4592 PSA」(ビニル基含有シリコーン)/「BY24-742」(Si-H化合物)が市販されている。付加型シリコーン系粘着剤には、白金触媒等の硬化触媒を含むことが好ましい。白金触媒として、例えば、商品名「CAT-PL-50T」(信越化学工業(株)製)、商品名「DOWSIL NC-25 Catalyst」等が市販されている。
【0056】
過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤は、一般に、オルガノポリシロキサンを過酸化物により硬化(架橋)させてシリコーン系ポリマーを生成させる粘着剤である。過酸化物硬化型シリコーン系粘着剤として、例えば、信越化学工業(株)製「KR-100」等が市販されている。
【0057】
縮合型シリコーン系粘着剤は、一般に、末端にシラノール基又はアルコキシシリル基等の加水分解性シリル基を有するポリオルガノシロキサン間の脱水又は脱アルコール反応によりシリコーン系ポリマーを生成させる粘着剤であり、これらのシリコーン系ポリマーは直鎖、分岐、環状骨格を有していてもよく、それらの混合物であってもよい。
【0058】
また、このような感圧接着剤を用いた接着剤層(ad)としては、基材レステープとして市販されているものを用いてもよく、例えばニッパ(株)製の基材レスシリコーンテープ「NSD-100」が挙げられる。
【0059】
感圧接着剤は、必要に応じて1以上の好適な添加剤をさらに含んでもよい。添加剤としては、例えば、架橋剤(例:多官能性(メタ)アクリレート架橋剤(HDDA、TMPTAなど)、エポキシ架橋剤、イソシアネート架橋剤、メラミン架橋剤、アジリジン架橋剤)、粘着付与剤(例:フェノール変性テルペン、ロジンエステル(ロジンのグリセロールエステル、ロジンのペンタエリスリトールエステルなど)、C5及びC9炭化水素粘着付与剤)、増粘剤、可塑剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、静電気防止剤、界面活性剤、レベリング剤、着色剤、難燃剤、およびシランカップリング剤が挙げられる。
【0060】
嫌気硬化型接着剤としては、例えば、国際公開WO2007/049028、国際公開WO2014/151358に記載のようなものが挙げられる。
【0061】
光硬化型接着剤としては、例えば、国際公開WO93/17078、国際公開WO2004/000965、国際公開WO2008/152956、国際公開WO2013/047435、国際公開WO2013/173976、国際公開WO2016/117631に記載のようなものが挙げられる。
【0062】
湿気硬化型接着剤としては、例えば、国際公開WO2001/053423、国際公開WO2004/074330、国際公開WO2007/023669に記載のようなものが挙げられる。
【0063】
ホットメルト接着剤としては、例えば、特開2002-1886に記載のようなものが挙げられる。
【0064】
熱硬化型接着剤としては、例えば、国際公開WO98/45366に記載のようなものが挙げられる。
【0065】
接着剤層(ad)は、様々な通常のコーティング方法、例えば、(グラビア等の)ローラーコーティング、フローコーティング、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング、ナイフコーティング、(ロータリまたはスリット等の)ダイコーティング、(ホットメルト等の)押出コーティング、および印刷によって、フィルム上に配置することができる。
【0066】
接着剤は、本明細書に記載の供試塗膜層(sp)または基材層(bs)に直接適用してもよいし、剥離ライナーを使用して転写コーティングしてもよい。剥離ライナーを使用する場合は、接着剤は、ライナー上にコーティングしてフィルムに積層するか、又は、フィルム上にコーティングしてその後に接着層に剥離ライナーが適用される。接着剤層(ad)は貼付の直前に塗布されてもよく、必要に応じて貼付してから加熱や光照射してもよい。
【0067】
接着剤層(ad)は、連続層であっても、その一部または全部が構造化されていてもよい。構造化された接着剤層(ad)としては、例えば、感圧接着剤層中にチャネル又は同様構造のネットワークを存在させることでその中を空気が通り抜けることができる感圧接着剤層や、エンボス加工によって再配置可能な感圧接着剤層が挙げられる。
【0068】
接着剤層(ad)の厚みは特に制限されないが、優れた接着性を得るため、1μm以上1000μm以下が好ましく、5μm以上600μm以下がより好ましい。接着剤層(ad)の厚みは、より強固な接着性が求められる場合や貼付する面の粗度が高い場合は厚い方が好ましく、対象の平滑性が重要となる場合など調査用塗膜シート自体が厚くない方が好ましい用途では薄い方が好ましい。
【0069】
接着剤層(ad)は、様々な表面、例えば、各種の木材、金属、有機ポリマー材料などに接着できるものとすることが好ましい。
【0070】
[基材層(bs)]
基材層(bs)は、本発明の調査用塗膜シートの強度を高める機能を有する点で、本発明の調査用塗膜シートが有することが好ましい構成層である。
【0071】
基材層(bs)は、上記の機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、樹脂、金属、紙、不織布、布、ガラス等の材質、あるいはこれらを組み合わせた複合材で構成された塗膜、フィルム、シートが挙げられる。
【0072】
基材層(bs)が金属を材質とする層を含むことは、薄層でも強度のあるシートが得られる点、製造、運搬、施工時等に過度に屈曲して塗膜が割れることを防ぎやすい点、塗膜や後述の結合層(cn)、接着剤層(ad)などと密着性に優れる点、没水箇所に適用される場合に水の浸透を防ぐことができる点、使用後に剥がして除去する場合に千切れにくく剥しやすい点などで優れている。
【0073】
基材層(bs)の材質に用いられる金属としては、例えば、鉄、アルミ、チタンおよび銅からなる群より選ばれる1種以上の金属元素で構成されたものが挙げられる。
【0074】
鉄を構成元素とする場合は、用途に応じて、クロムとの合金であるステンレス鋼や表面メッキされたブリキなど、発錆を抑制するものを用いてもよい。このような金属を用いることは、水の影響を受けやすい環境下で、発錆による剥離や剥離、変色などによって調査の目的(特に、下地の発錆の有無の評価以外の目的)が妨げられることを防ぐことができる点で有効である。ステンレス鋼としては、例えば、SUS430(クロム約17%を含み、安価で耐食性に優れ、磁性も有する。)などのフェライト系;SUS304(クロム約18%、ニッケル約8%を含み、高温/低温変化に優れ、磁性を有さない。)やSUS316(クロム約17%、ニッケル約12%、モリブデン約2.5%を含み、塩化物環境において耐食性に優れる。)などのオーステナイト系;SUS410等のマルテンサイト系のものを制限無く用いることができ、使用される環境やコスト、使用方法に応じて適切に選択することができる。
【0075】
水と接触する用途の場合は、耐食性有する観点から、上述のようなステンレス鋼やブリキの他に、アルミ、チタンを用いることも好ましい。一方、後述するようにテスト自体の目的として錆の発生程度を評価基準の一つとする場合は、そのような発錆抑制機能を有さない金属を用いてもよい。
【0076】
基材層(bs)が樹脂を材質とする層を含むことは、変形後の形状復元に優れる点、切断加工が容易である点、塗膜や後述の結合層(cn)、接着剤層(ad)などと密着性に優れる点、没水箇所に適用される場合に水の浸透を防ぐことができる点、使用後に剥がして除去する場合に千切れにくく剥しやすい点などで優れている。
【0077】
基材層(bs)の材質に用いられる樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂;アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の不飽和単量体の(共)重合物;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリウレタン樹脂;エポキシ樹脂;ポリアセタール;ポリカーボネート;アセチルセルロース;およびこれらの複合物が挙げられる。これらの樹脂の中でも、強度や加工性、経済性に優れる観点でポリ塩化ビニルが好ましい。また、基材層(bs)が、前述のシリコーン型防汚塗料組成物(z)である供試塗膜層(sp)や後述のシリコーン樹脂系のタイコートまたはプライマーと接する場合は、付着性を確保しやすい観点からシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0078】
基材層(bs)の材質に用いられる紙としては、例えば、上質紙、中質紙等の非塗工印刷用紙やアート紙、コート紙等の塗工紙が挙げられ、和紙や薄葉紙と呼ばれるものも挙げられる。
【0079】
基材層(bs)としては、製造時や作業時に裁断しやすく、使用後に剥離して除去する際に千切れにくく剥しやすい点などで不織布を組み合わせたものであることも好ましく、このような不織布としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、レーヨン、ガラス等を材質としたものが挙げられ、用途に応じて繊維の太さや密度により強度や手切れ性を調整できる。このような基材層が用いられる例としては、国際公開WO2015/98983、国際公開WO2018/117264等に記載のものが挙げられる。
【0080】
基材層(bs)は、水やその他の液状物の移動を低減するバリア機能を有したものであってもよい。このような基剤層(bs)としては、例えば、特開2015-224334号公報において水蒸気バリア層として記載されているものを挙げることができる。
【0081】
基材層(bs)は、必要に応じてその表面の一部または全部に微細凹凸を有していてもよい。このような微細凹凸を形成する方法としては、サンドペーパー等による表面研磨やブラスト処理、エンボス加工等が挙げられる。基材層(bs)がこのような微細凹凸を有していると、この面と接する供試塗膜層(sp)や後述の結合層(cn)との密着性に優れる。
【0082】
基材層(bs)は、必要に応じてその表面の一部または全部が表面処理されていても良い。このような表面処理としては、例えばコロナ処理やエッチング処理などが挙げられる。
【0083】
基材層(bs)の厚みは特に限定されるものではなく、用いる基材層(bs)の材質や、本発明の調査用塗膜シートの実施形態、用途等に応じて調節することができるが、例えば5~1000μmの範囲であり、好ましくは10~500μmの範囲である。
【0084】
[結合層(cn)]
結合層(cn)は、本発明の調査用塗膜シートに含まれる他の層との結合力を高める機能を有する点で、本発明の調査用塗膜シートが有することが好ましい構成層である。
【0085】
結合層(cn)は、上記の機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、特開平10-259351やWO2017/146193に記載のようなエポキシ樹脂系のタイコートまたはプライマー、WO91/14747やWO2006/109600に記載のようなシリコーン樹脂系のタイコートまたはプライマー、その他の市販のタイコートまたはプライマーを乾燥、硬化させたものが挙げられる。
【0086】
特に、基材層(bs)、接着剤層(ad)等の上層に供試塗膜層(sp)として硬化性オルガノポリシロキサンを含有する防汚塗膜を配置する場合は、基材層(bs)、接着剤層(ad)等と当該供試塗膜層(sp)との間に、シリコーン樹脂系タイコートやシリコーン用プライマーを用いた結合層(cn)を配置することが好ましい。
【0087】
結合層(cn)はさらに、水やその他の液状物の移動を低減するバリア機能を有するものであってもよい。このような結合層(cn)としては、例えば市販の防食塗料や、特開2015-224334号公報において水蒸気バリア層として記載されているものを挙げることができる。なお、本発明の一実施形態として、調査用塗膜シートは、基材層(bs)と結合層(cn)の機能を兼ね備えた層を有していてもよい。
【0088】
結合層(cn)の厚みは特に限定されるものではなく、用いる結合層(cn)に含まれる樹脂や、本発明の調査用塗膜シートの実施形態、用途等に応じて調節することができるが、例えば10~400μmの範囲であり、好ましくは20~200μmの範囲である。
【0089】
[表示層(id)]
本発明の調査用塗膜シートは、シートや供試塗膜の製品や種類、属性、性質、個体番号、ロゴマーク、貼付に関するガイダンス等を表したりする目的で、表示層(id)を有していてもよい。
【0090】
表示層(id)としては、例えば、前述の供試塗膜層(sp)と類似の塗料組成物で色相の異なるものを塗装して形成した塗膜、前述の結合層(cn)で挙げたタイコートやプライマーの塗料組成物を塗装して形成した塗膜、その他の印字用インクで印刷されたものが挙げられる。特に、表示層(id)が供試塗膜層(sp)のような適用環境に対応する可能性の高いものでない場合は、後述の保護層(pr)を表示層(id)の上に形成し、表示層(id)が汚れや紫外線劣化により劣化しないよう保護することが好ましい。
【0091】
表示層(id)の厚みは特に限定されるものではなく、用いる表示層(id)の材質や、本発明の調査用塗膜シートの実施形態、用途等に応じて調節することができるが、例えば10~400μmの範囲であり、好ましくは20~200μmの範囲である。
【0092】
表示層(id)の表示形式としては、例えば、文字や数字、記号、図が挙げられる。
【0093】
表示層(id)は、調査用塗膜シートが複数の異なる供試塗膜層(sp)を有する場合に、それらの識別が可能となるような文字や数字、記号等を含むことが好ましい。調査用塗膜シートがこのような表示層(id)を含むと、調査結果の伝達が容易になる。
【0094】
表示層(id)は、調査用塗膜シートの個体番号を示す文字や数字、記号等を含むことも好ましい。調査用塗膜シートがこのような表示層(id)を含むと、調査結果を画像として保存、送信して伝達する場合に、調査用塗膜シートの提供先や、その調査用塗膜シートが有する供試塗膜層(sp)、調査結果を特定することが容易になる。
【0095】
上記の他、表示層(id)としては、シートの設置方法や留意事項、設置すべき向きや位置、供試塗膜の位置を示すマークや囲いなどを示すものであってもよい。
【0096】
本発明の一実施形態において、本発明の調査用塗膜シートは、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)および表示層(id)を有する。
【0097】
[保護層(pr)]
本発明の調査用塗膜シートは、積層シート内に含まれる他の層を保護する目的で、保護層を有していてもよい。特に、前述の表示層(id)が供試塗膜層(sp)のような適用環境に対応する可能性の高いものでない場合は、保護層(pr)で汚れや紫外線劣化により劣化しないよう保護することが好ましい。
【0098】
保護層(pr)としては、例えば、船底防汚用途であれば、供試塗膜層で述べたような防汚塗膜を利用することができる。
【0099】
保護層(pr)の厚みは特に限定されるものではなく、用いる保護層(pr)の材質や、本発明の調査用塗膜シートの実施形態、用途等に応じて調節することができるが、例えば5~500μmの範囲であり、好ましくは10~300μmの範囲である。
【0100】
[離形層(rl)]
離形層(rl)は、供試塗膜層(sp)および/または接着剤層(ad)に当接され、本発明の調査用塗膜シートの使用時に剥離される層であり、それまで供試塗膜層(sp)および/または接着剤層(ad)を保護し、貼付作業性および付着性を担保する点で、本発明の調査用塗膜シートが有することが好ましい構成層である。
【0101】
離形層(rl)は、典型的には、オルガノシリコーン化合物、フルオロポリマー、フルオロシリコーン、ポリウレタン、ポリオレフィンなどの低表面エネルギー化合物でコーティングまたは変性された、紙またはフィルムの剥離ライナーを含む層である。この剥離ライナーは、接着剤層(ad)の接着剤をはじく化合物を添加した、または添加していない、ポリエチレン、ポリプロピレン、PVC、またはポリエステルから製造されたポリマーシートであってもよい。
【0102】
離形層(rl)は、接着剤層(ad)に対して適切な剥離荷重を持つものを選択することが好ましい。
【0103】
剥離ライナーは、供試塗膜層(sp)および/または接着剤層(ad)に対して所定の凹凸構造を付与するための、微細構造化したパターンまたは微細エンボスパターンを有していてもよい。例えば、剥離層(rl)は、それと当接する供試塗膜層(sp)の表面に、前述したような「リブレット表面構造」を付与するために、その鋳型となる構造を有する剥離ライナーを有することができる。
【0104】
離形層(rl)の厚みは特に限定されるものではなく、用いる離形層(rl)の材質や、本発明の調査用塗膜シートの実施形態、用途等に応じて調節することができるが、例えば5~200μmの範囲であり、好ましくは10~100μmの範囲である。
【0105】
[その他の構成:磁石]
本発明の調査用塗膜シートの基材層(bs)、供試塗膜層(sp)、および結合層(cn)は、その一部または全部に磁石を有していてもよい。対象が磁石に反応する場合、本発明の調査用塗膜シートの上記層のいずれかが磁石を有することで、接着剤層(ad)によらず対象に付着させることができる。また、磁石により付着する場合は、調査用塗膜シートの剥離が容易であるため、調査用塗膜シートによる評価が終わった後に原状復帰しやすい点、評価後の調査用塗膜シートを回収して分析する場合はその回収が行いやすい点、剥離時に対象に接着剤層(ad)の残渣が残らない点などで好ましい。また、接着剤層(ad)を設ける場合でも、磁石による付着力を併用することでより強固な付着を得ることができる。
【0106】
[複層構造の例]
本発明の調査用塗膜シートは、第1の実施形態において、離形層(rl)、接着剤層(ad)、基材層(bs)、結合層(cn)、供試塗膜層(sp)、および離形層(rl)の順で構成される。本実施形態では、接着剤層(ad)、基材層(bs)、供試塗膜層(sp)がこの順で構成されているが、基材層(bs)と供試塗膜層(sp)の間に結合層(cn)が設けられている点、および接着剤層(ad)と供試塗膜層(sp)のそれぞれに隣接して離形層(rl)が設けられている点が、貼付作業性および付着性の担保の面で好ましい。
【0107】
本発明の調査用塗膜シートは、第2の実施形態において、離形層(rl)、接着剤層(ad)、基材層(bs)、接着剤層(ad)、基材層(bs)、結合層(cn)、供試塗膜層(sp)、離形層(rl)の順で構成される。本実施形態では、接着剤層(ad)および基材層(bs)が複数層設けられているが、このような構成において複数の基材層(bs)を互いに異なるものとする、及び/又は複数の接着剤層(ad)を異なるものとすることにより、接着強度と施工性とのバランスの良い組合せをとることもできる。
【0108】
本発明の調査用塗膜シートは、供試塗膜層(sp)および接着剤層(ad)を含むシート部材を、基材層(bs)等を含む別のシート部材に貼り付けて切り貼りするようにして作製してもよい。
【0109】
[調査用塗膜シートを用いた塗膜評価方法]
本発明の塗膜の性能評価方法(本明細書において「塗膜評価方法」と呼ぶこともある。)は、本明細書に記載されている調査用塗膜シートを使用する方法であって、(i)塗膜により被覆する対象または代替対象に対して、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用シートを貼付する工程(本明細書において「貼付工程」と呼ぶ。)、(ii)少なくとも該供試塗膜層の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置く工程(本明細書において「露出工程」と呼ぶ。)、および(iii)前記調査用塗膜シートの状態に関する情報を取得する工程(本明細書において「情報取得工程」と呼ぶ。)を含む。
【0110】
本発明の塗膜評価方法において使用する調査用塗膜シートは、本発明の調査用塗膜シートとして本明細書に記載したような実施形態のものとすることができる。例えば、調査用塗膜シートは、供試塗膜層(sp)以外に、さらに接着剤層(ad)、例えば感圧接着剤を含む接着剤層(ad);基材層(bs)、例えば金属を含む基材層(bs);および表示層(id)からなる群より選ばれる1つ以上の層を有していてもよい。また、調査用塗膜シートは、互いに異なる2種類上の供試塗膜層(sp)を有していてもよい。
【0111】
「塗膜により被覆する対象」とは、本発明の調査用塗膜シートを用いた塗膜評価方法の結果に基づいて、塗膜を被覆しようとする対象である。この対象として、特に制限されないが、対象が「接水構造物」である場合に、調査が有効に機能する点で好ましい。また、「代替対象」とは、「塗膜により被覆する対象」自体ではないが、調査用塗膜シートを用いた調査結果に基づき、「塗膜により被覆する対象」において供試塗膜層(sp)と「同種の塗膜」(詳細は後述する。)により被覆することにより、所望の性能を達成することのできる対象である。例えば、対象が船舶またはその他の移動体である場合、供試塗膜層(sp)と同種の塗膜で被覆する予定の「塗膜により被覆する対象」と類似の移動パターン(航行パターン、航路等)を有する他の対象が「代替対象」となり得る。本明細書において「塗膜により被覆する対象」について記載した事項は、文脈上問題がない限り、「代替対象」についての記載と読み替えることができる。
【0112】
接水構造物は特に限定されるものでなく、塗膜を形成することができ、その機能を発揮できるものであればよいが、例えば、船舶(例:コンテナ船、タンカー、バルカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板。新造船または修繕船のいずれも含む。)、漁業またはその他の海洋資材(例:ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着、魚雷)、水中構造物(例:石油パイプライン、導水配管、循環水管、火力・原子力発電所の給排水口等の構造物、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、メガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等における各種水中土木工事用構造物)など、全部または少なくとも一部が常時または一時的に、水中に、好ましくは海水中に、水没する基材が挙げられる。接水構造物としては、高い防汚性が要求され、定期的な上塗り塗装等の修繕が必要となる移動体、例えば、コンテナ船、タンカー、バルカー等の船舶(新造船または運行後の船舶)が好ましい。
【0113】
接水構造物は、防錆剤やその他の処理剤により処理された接水構造物や、表面に防錆塗膜(例えば、ジンクリッチペイント)、防食塗膜(例えば、エポキシ系重防食塗料)、バインダー塗膜等の防汚塗膜以外の塗膜(非防汚塗膜)、または劣化、変質もしくは消耗した積層防汚塗膜やその他の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜(旧防汚塗膜)が形成されている接水構造物であってもよい。積層防汚塗膜付き接水構造物において、積層防汚塗膜は接水構造物の表面に直接接して形成されている必要はなく、処理剤、他の塗膜等を介して接水構造物上に形成されていてもよい。したがって積層防汚塗膜付き接水構造物は、接水構造物と、積層防汚塗膜に加えて、他の処理剤、塗膜等をさらに含んでいてもよい。積層防汚塗膜は、様々な非防汚塗膜、劣化した防汚塗膜等の上に形成することができる。
【0114】
接水構造物が有する「非防汚塗膜」は、基材の種類や用途に応じて、積層防汚塗膜を形成する前にあらかじめ接水構造物の表面に形成されている、下塗り塗膜、中塗り塗膜などの防汚塗膜以外の塗膜を指す。非防汚塗膜の種類は特に限定されるものではなく、例えば、防錆塗料から形成された防錆塗膜、防食塗料から形成された防食塗膜、バインダー塗料から形成されたバインダー塗膜などが挙げられる。防食塗膜としては、例えば、エポキシ系の樹脂を含む防食塗料から形成されるものが挙げられる。バインダー塗膜としては、例えば、エポキシ系、ビニル系、(メタ)アクリル系などの1種または2種以上の樹脂を含むバインダー塗料から形成されるものが挙げられる。なお、船舶等の接水構造物に塗布する場合、防食塗膜(下塗り塗膜)とバインダー塗膜(中塗り塗膜)の間に明確な区分は無く、両方を兼用する塗膜を使用することもあるが、「非防汚塗膜」はそのような防食塗膜的な機能も併せ持つバインダー塗膜であってもよい。
【0115】
接水構造物において、積層防汚塗膜で被覆する部分は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、接水構造物が船舶である場合、生物的汚損環境に曝される常時没水部や乾湿交互部を、防汚塗膜を形成する部分(基材の一部)とすることができる。なお、接水構造物が船舶である場合、船底部(常時没水部)だけに限らず、水線部(乾湿交互部)も含めて、一般的な防汚塗膜が形成される部分の全体に、防汚塗膜を形成することができる。
【0116】
接水構造物が有する「旧防汚塗膜」は、一定期間(例えば防汚塗膜の耐用期間)、水(海水)に接触させて使用された後の防汚塗膜であって、使用前(海水浸漬前)の健全な防汚塗膜と比較して、劣化、変質または消耗した状態にある防汚塗膜を指す。防汚塗膜の劣化、変質または消耗の程度は特に限定されず、積層防汚塗膜で被覆する必要が認められる、または被覆することが好ましい程度であればよい。旧防汚塗膜の種類は特に限定されるものではなく、積層防汚塗膜であってもよいし、その他の防汚塗膜であってもよい。防汚塗膜としては、例えば、加水分解型(例:シリルエステル樹脂系の防汚塗料から形成される塗膜)、水和分解型(例:塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の防汚塗料から形成される塗膜)が挙げられる。
【0117】
[(i)貼付工程]
貼付工程(i)は、塗膜により被覆する対象に対して、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートを貼付する工程である。「塗膜により被覆する対象」とは、供試塗膜層(sp)と「同種の塗膜」により被覆することについての調査対象のことである。ここで「同種の塗膜」とは、(i)供試塗膜層(sp)と組成、厚み、表面構造、その他の性状が実質的に同一である(同一の塗料組成物を用いて、同一の条件で形成された)塗膜であって、供試塗膜層(sp)を用いた調査結果から直接的に、所望の性能を達成できるか否かを判断できるもの、および(ii)供試塗膜層(sp)を用いた調査結果に基づき、所望の性能を達成するために、その他の知見を考慮して調整できる範囲の異なる組成、厚み、表面構造、その他の性状を有する塗膜、を包含する。上記(ii)の、供試塗膜層(sp)と「実質的に同一の塗膜」ではないが「同種の塗膜」といえるものとしては、例えば、供試塗膜層を形成するために用いた供試塗料組成物と、含有する成分の種類は同じであるが成分の含有量が異なっており、調査結果に基づくと共に他の知見を考慮して、再度試験をしなくとも、成分の含有量を調整することによって所望の性能を達成できると推定される塗膜が挙げられる。あるいは、供試塗膜層を形成するために用いた供試塗料組成物と、防汚性能に関係する(共)重合体ないし樹脂の一般式は共通するが、単量体に由来する構成の構造(側鎖の化学的構造等)、繰り返し単位数、その他の一般式の定義に関する具体的事項が異なっており、調査結果に基づくと共に他の知見を考慮して、再度試験しなくとも、具体的事項を調整することによって所望の性能を達成できると推定される塗膜も、「実質的に同一の塗膜」ではない「同種の塗膜」といえる。なお、被覆する対象が置かれる環境、期間等の条件(例えば、汚損負荷)に合わせて、調査結果に基づくと共に他の知見を考慮して、再度試験をしなくても、塗膜の厚み、表面構造、その他の性状を調整し、所望の性能を達成できると推定される塗膜も、「実質的に同一の塗膜」ではない「同種の塗膜」といえる。
【0118】
貼付工程(i)は、塗膜により被覆しようとする対象に対して、その被覆を行う以前に、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートを貼付することができる。その具体的な態様を以下に詳述する。調査用塗膜シートが有する供試塗膜層(sp)と同種の塗膜で対象を被覆するよりも前に行うことができる。このような実施形態は、その対象を供試塗膜層(sp)と同種の塗膜で被覆すること(異種の塗膜から塗り替えること)が適切かどうかを判断するために、実際の被覆に先立つ調査のために調査用塗膜シートを使用するような場合が想定される。貼付対象箇所の周囲には供試塗膜層(sp)とは異種の被覆が形成されていてもされていなくても(基材だけの状態でも)よく、貼付対象箇所に予め周囲と同じ(供試塗膜層(sp)と同一ではない)被覆が形成されていてもよく、下塗りや中塗りなどの被覆が形成されていてもよい。また、貼付工程(i)は、調査用塗膜シートが有する供試塗膜層(sp)と同種の塗膜で対象を被覆するのと一緒に、または被覆した後に行うこと、つまり貼付対象箇所は供試塗膜層(sp)と同種の塗膜で被覆される、または予め被覆されている箇所であり、そこに調査用塗膜シートを貼付するようにすることもできる。
【0119】
貼付対象箇所は平滑である方が調査用塗膜シートの接着性を向上できるため、貼付対象箇所に凹凸がある場合は、シーリング剤やパテ、セメントなどで下地を平滑することも好ましく、その上に塗料が被覆されていてもよい。
【0120】
貼付工程(i)の前に、調査用塗膜シートを貼付する対象を表面処理してもよい。表面処理としては、サンドペーパーや機械工具などによる研磨、水や有機溶媒による拭き取り洗浄、掃除機やテープなどによる表面のごみやほこりの除去、乾燥、ふき取りによる水分、油分の除去、加熱、乾燥等が挙げられる。
【0121】
貼付工程(i)の前または後に、貼付される調査用塗膜シートの端部が位置する場所の全部または一部に溝または凹みを形成しておいてもよい。これにより端部が周囲よりも沈み込むことで、調査用塗膜シートを剥がれにくくすることができる。この溝または凹みの深さは特に制限されないが、シートの厚みと同じかそれ以上であることが好ましく、また、貼付する対象、例えば接水構造物の旧防汚塗膜層の膜厚未満であることが好ましい。さらに、この溝または凹みの形成は、前述のシーリングと組み合わせることでより剥がれを生じにくくなる効果を高めることができる。貼付工程の前にこの溝や凹みを形成する場合は、貼付対象の貼り付け位置の確認や、目印、ガイドとして利用することもできる。この溝や凹みは、例えば、ナイフ、彫刻刀および電動工具などにより、切削して形成することができる。
【0122】
調査用塗膜シートとして、接着剤層(ad)を有さないものを使用する場合は、貼付工程(i)の前に、貼付対象箇所及び/又は調査用塗膜シートの貼付面に接着剤を塗布してもよい。このような実施形態における接着剤および接着方法としては、調査用塗膜シートが任意で有する接着剤層(ad)において前述したものと同様の接着剤、接着方法が挙げられるが、その他にも、貼付対象箇所の下塗り塗料を利用することもできる。例えば、対象が鋼製である場合、一般的にエポキシ樹脂系などの防食塗料が塗布されるが、そのような防食性と接着性を兼ね備えた防食塗料を利用して調査用塗膜シートを貼付すれば、防食機能を兼ねる接着剤層(ad)となる。
【0123】
調査用塗膜シートの貼付方法には特に制約は無いが、ゴムローラーなど一般的な用具を用いてもよいし、例えば国際公開WO2016/193326に記載のような磁力を利用して移動や貼付を行うことのできる機械や、飛行して対象箇所に貼付を行うことができるような遠隔操作可能な機械を利用してもよい。また、調査用塗膜シートは水中で貼付してもよい。
【0124】
貼付工程(i)は、調査用塗膜シートが基材から剥離することを抑制することを目的として、国際公開WO2018/100108に記載のような方法により調査用塗膜シートの表面端部および周囲の対象表面を供試塗料組成物またはその他の塗料組成物でシーリングして連結する処理、または、表面端部および周囲の対象表面をテープにより重ね貼りして連結するという処理をさらに含むことが好ましい。これらの内、施工性や密着性に優れる点で、調査用塗膜シートの表面端部および周囲の対象表面を供試塗料組成物またはその他の塗料組成物でシーリングして連結する処理がより好ましい。このようなシーリング処理に用いる塗料組成物としては、前述のバインダー(A)を含有するものが挙げられ、特に制限されずに用いることができるが、より強固な密着性を得ることができる点でエポキシ樹脂系などの熱硬化性の塗料組成物を用いることがより好ましい。また、このようなシーリング処理では、2以上の塗料組成物を重ね塗りしてもよく、例えば、後述の結合層(cn)に用いられるものとして挙げた塗料組成物を1層目(下層)、供試塗膜層(sp)に用いられる塗料組成物を2層目(上層)として塗り重ねることが好ましい。
【0125】
対象の表面に段差があることが好ましくない場合、このようなシーリング処理や重ね貼り処理によって段差を均すことができる。また、このようなシーリング処理を行うと、基材からの剥離を抑制することに加えて、調査用塗膜シートが剥離した後に貼付されていた位置を確認できることや、周辺状況から剥離が人為的なものであると考えられる場合、その推測を行うことができるという利点もある。
【0126】
このシーリング処理を行う際、供試塗膜層(sp)にシーリング処理に用いる塗料組成物が付着することを防ぐため、供試塗膜層(af)に離形層(rl)が設けられていることが好ましい。この場合、離形層(rl)はマスキングテープ等の剥しやすいもので固定されていることが好ましい。
【0127】
また、調査用塗膜シートを複数枚並べて貼り付ける場合、特開2016-124994に記載のような方法により、隣り合うシートの端部同士を覆うように封止用テープを貼付してもよい。
【0128】
調査用塗膜シートは対象の複数の箇所に貼付してもよく、特に対象がその部位によって異なる環境に置かれる場合は、その環境ごとに調査用塗膜シートを貼付することが好ましい。例えば、船舶の船底部の場合、船底垂直物と平底部では日照や温度、水流などの条件が異なるため、船底部に付着する海中生物の種類や量が異なるので、適する船底防汚塗料が必ずしも部位によって同一でない。このため、それぞれの部位に調査用塗膜シートを貼付して調査を行うことが好ましい。船底の場合ではこの他に、船首部と船央部、船尾部も水流の影響が大きく異なるためそれぞれに調査用塗膜シートを貼付してもよく、プロペラの翼面や軸部、舵、シーチェスト、ビルジキールおよびその周辺など、一般部と異なる環境に置かれる部位に調査用塗膜シートを貼付してもよい。
【0129】
なお、対象が船舶またはその他の移動体である場合、供試塗膜層(sp)と同種の塗膜で被覆する予定の対象そのものではなく、その対象と類似の移動パターン(航行パターン、航路等)を有する他の対象において、貼付工程およびこれに続く露出工程および情報取得工程を行い、本発明の塗膜評価方法を実施することも可能である。
【0130】
[(ii)露出工程]
貼付工程(i)の後に行われる露出工程(ii)は、少なくとも供試塗膜層(sp)の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置く工程である。この工程によって、供試塗膜層(sp)は、それと同種の塗膜で対象を被覆した場合にその塗膜が環境中で受ける影響、変化を、実際に受けることができる。例えば、船底防塗料の調査用塗膜シートであれば、船底に貼付した調査用塗膜シートを水中に浸漬して、水中生物による付着や、水および日光による塗膜の劣化が発生する環境に置くようにする。
【0131】
露出工程(ii)の期間は、その対象の被覆に期待される保護効果の及ぶ期間と同一であってもよいし、より短くても、もしくはより長くてもよい。例えば、一般に船底防塗料は船舶のドックや上架の間隔に亘って効果を発揮することが期待されるが、その期間に満たない短期間の露出工程を行って、その期間の状態変化から期待される期間の調査結果を推測してもよい。
【0132】
[(iii)情報取得工程]
露出工程(ii)の後に行われる情報取得工程(iii)は、前記調査用塗膜シートの状態の情報を取得する工程である。
【0133】
取得する情報としては、例えば、供試塗膜層(sp)の色、光沢などの外観、表面の付着物やその量、割れやキズなどの形状、塗膜の表面粗度、塗膜の厚み(膜厚)、塗膜表面の変質層の厚み、塗膜に含まれる成分の化学的情報が挙げられる。例えば、船底防汚塗料に関する調査用塗膜シートの場合、表面の付着物やその量の情報は防汚性能を示し、膜厚は前述のような塗膜が更新されるタイプの船底防汚塗料の場合はその更新速度を示し、キズの発生の有無や塗膜の表面粗度も参考となる。
【0134】
情報を取得する方法としては、外観や表面の付着物やその量については目視による方法や、カメラなどの記録装置で撮影した画像情報を取得する方法があり、情報の伝達や記録を行える面で画像情報を取得する方法が好ましい。画像情報は静止画像でも動画像でもよく、記録装置は水中であれば水中カメラを使用してもよく、暗所などの撮影では適宜、赤外光や近赤外光、紫外光などを利用する記録装置を用いてもよい。
【0135】
画像情報を取得する際、調査用塗膜シートが表示層(id)を有する場合はこれも合わせて画像情報に記録することが好ましい。
【0136】
塗膜の色や光沢を計測する方法としては、色差計や光沢計を用いてもよい。
【0137】
塗膜表面の付着物やその量、割れやキズなどの形状、塗膜の表面粗度の情報を取得する方法としては、目視による方法の他に、例えば国際公報WO2018/021210に記載のようなレーザー粗度計などを用いる方法を利用できる。
【0138】
膜厚の情報を取得する方法としては、例えば、塗膜を切り出してその断面を計測する方法、塗膜の正面から特定の傾斜角で塗膜に切り込みを入れてその断面から計測する方法、調査用塗膜シートが供試塗膜層(sp)と対象の間に対応する金属を含む層を有する場合は電磁式膜厚計を用いて計測する方法、供試塗膜層(sp)とそれに接する塗膜層の色相の差を利用して計測する方法等が挙げられる。
【0139】
電磁式膜厚計を用いて膜厚を計測する方法では、含まれる層の磁性によって、電磁誘導式、渦電流式、デュアル式を使い分けることができる。
【0140】
供試塗膜層(sp)とそれに接する塗膜層の色相の差を利用して膜厚を計測する方法としては、例えば、米国特許7739974号公報や国際公報WO2019/244299に記載のような下層塗膜の露出を利用する方法を採ることができる。
【0141】
供試塗膜層(sp)によってはそれが使用される環境中に置かれることで、塗膜の表面から一定の深さ方向まで塗膜の変質が起こることがある。この膜厚の情報を取得してもよく、その方法としては例えば、前述のような塗膜を切り出してその断面を計測する方法が挙げられる。
【0142】
塗膜に含まれる成分の化学的情報を取得する方法としては、例えば、赤外分光などの各種の分光分析や、接触角測定、質量分析、蛍光X線分析等が挙げられる。
【0143】
塗膜の情報としては、供試塗膜層(sp)以外にも保護層(pr)、基材層(bs)、表示層(id)など他の層の状態を情報として取得してもよい。
【0144】
[その後の工程]
本発明の塗膜評価方法はさらに、(iv)情報取得工程(iii)により取得した情報を基に、調査用塗膜シートが有する各層の性能を評価し、前記対象に対して推奨される被覆方法を決定する工程、例えば、塗装する塗料組成物の推奨される配合組成や推奨される膜厚等を選択する工程(本明細書において「推奨工程」と呼ぶ。)を含むことができる。この推奨工程(iv)における評価、選択、推奨等の処理は、必要に応じてコンピュータを利用してもよいし、全て機械的に自動で行ってもよい。例えば、情報取得工程(iii)により取得した情報は、電子的な方法により推奨工程(iv)を実行するコンピュータに伝達されてもよく、その情報を基にした塗料組成物の評価、選択、推奨等の結果もまた電子的な方法で伝達されてもよい。また、これらの工程による情報や結果をデータベースとして蓄積する場合、塗膜が置かれた環境に関する他の情報と併せて保存してもよく、そのような付加的な情報を含むデータベースを活用して、環境に応じた塗料組成物の評価、選択、推奨等に利用してもよい。
【0145】
本発明の調査用塗膜シートによる評価を行った後、このシートは、必要に応じて対象から剥して回収してもよいし、そのまま貼付されたままにされてもよいし、さらにその上から塗料組成物を塗り重ねてもよい。シートを対象から剥して回収する場合は、回収した塗膜を分析してもよい。
【0146】
-本発明のその他の側面-
本明細書に記載した調査用塗膜シートおよび塗膜評価方法は、特許実務および技術常識に基づいて、異なるカテゴリーの発明に変換することができる。
【0147】
例えば、本発明は一側面において、「少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートの、塗膜の性能評価のための使用(方法)であって、当該使用は、(i)塗膜により被覆する対象に対して、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートを貼付する工程、(ii)少なくとも該供試塗膜層(sp)の一部を表面に露出させた状態で前記対象が置かれる環境に一定期間置く工程、および(iii)前記調査用塗膜シートの状態に関する情報を取得する工程、を含む、使用(方法)。」を提供する。このような「使用」に係る発明に関係する各種の技術的事項は基本的に、「調査用塗膜シート」及び/又は「塗膜評価方法」に係る発明に関係する各種の技術的事項として本明細書に記載したものを適用する(記載を読み替える)ことができる。
【0148】
本発明は一側面において、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)および表示層(id)を有する調査用塗膜シートは、調査用以外の用途、すなわち本発明の塗膜評価方法において使用すること以外の用途においても使用することができる。すなわち、本発明は一側面において、周囲には形成されていない少なくとも1つの供試塗膜層(sp)および表示層(id)を有する(調査用であるか、それ以外の用途のためであるかが限定されず、どちらの用途も有する)塗膜シートを提供する。
【0149】
本発明は一側面において、周囲には形成されていない互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有する調査用塗膜シートは、調査用以外の用途、すなわち本発明の塗膜評価方法において使用すること以外の用途においても使用することができる。すなわち、本発明は一側面において、周囲には形成されていない互いに異なる2種類以上の供試塗膜層(sp)を有する(調査用であるか、それ以外の用途のためであるかが限定されず、どちらの用途も有する)塗膜シートを提供する。
【実施例0150】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。
【0151】
なお、実施例に記載されている各成分の「固形分」とは、各成分に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指し、各成分を125℃の熱風乾燥機中で1時間乾燥させて得られた物質を「固形分」とみなして、乾燥前の各成分の質量に対する比率を算出している。実施例に記載されている「ガードナー粘度」は、ガードナー泡粘度計を用い、各成分を液温25℃で測定した結果の数値である。また、「粘度(mPa・s)」は、E型粘度計(TV-25、東機産業株式会社製)を用い、各成分を液温25℃で測定した結果の数値である。
【0152】
<バインダー製造例1:金属エステル基含有加水分解性共重合体溶液(A-1)の製造>
〔製造例M1:金属エステル基含有単量体混合物(M1)の製造〕
冷却器、温度計、滴下ロート及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)85.4質量部および酸化亜鉛40.7質量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメタクリル酸43.1質量部、アクリル酸36.1質量部、水5質量部からなる混合物を3時間で等速滴下した。更に、2時間撹拌した後、PGMを36質量部添加して透明な金属エステル基含有単量体混合物M1を得た。固形分は44.8質量%であった。
【0153】
冷却器、温度計、滴下タンクおよび攪拌機を備えた加圧重合可能なオートクレーブにPGM(プロピレングリコールメチルエーテル)15質量部およびキシレン60質量部およびエチルアクリレート4質量部を仕込み、撹拌しながら350kPaに加圧し135℃に昇温した。続いて、滴下タンクからメチルメタクリレート15質量部、エチルアクリレート48質量部、n-ブチルアクリレート15質量部、製造例M1で得られた金属エステル基含有単量体混合物(M1)40質量部、キシレン10質量部、連鎖移動剤(日本油脂社製ノフマーMSD)1.2質量部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNともいう。)3質量部、および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(以下、AMBNともいう。)1質量部からなる透明な混合物を3時間で等速滴下した。滴下終了後30分かけて110℃に降温し、t-ブチルパーオクトエート0.5質量部およびキシレン7質量部を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレンを8質量部添加した。得られた溶液を300メッシュでろ過して、加熱残分45.7%、ガードナー粘度+Vを有する、不溶解物のない淡黄色透明な加水分解性共重合体溶液(A-1)を得た。
【0154】
<バインダー製造例2:シリルエステル基含有加水分解性共重合体溶液(A-2)の製造>
全ての反応工程は窒素気流下で行った。撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器にキシレン53.85質量部を仕込み、撹拌しながら80±3℃に加熱した。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内に、トリイソプロピルシリルメタクリレート50.0質量部、メトキシエチルメタクリレート 28.0質量部、メチルメタクリレート14.0質量部、ブチルアクリレート8.0質量部及びAIBN1.3質量部からなるモノマー混合物を2時間かけて滴下した。その後同温度で1時間、85℃で1時間撹拌を行った後、AIBN0.4質量部を4回に分けて加えながら3時間かけて105℃まで昇温した。得られた反応溶液にキシレン12.81質量部を加えて、加熱残分60.6%、粘度1765mPa・sの淡黄色透明の加水分解性共重合体溶液(A-2)を得た。
【0155】
<バインダー製造例3:硬化性シリコーン混錬物(A-4)の製造>
粘度1500mPa・sのオキシム基含有シリコーン(MEKO)(CH=CH-)SiO-[Si(CH-O-]-Si(CH=CH)(MEKO)(式中、「MEKO」は「2-メチルエチルケトオキシム基」を表す。)100質量部に対して日本アエロジル(株)製「AEROSIL 200」(無処理シリカ)10質量部を混練して、粘度40mPa・sの硬化性シリコーン混錬物(A-4)を得た。
【0156】
<バインダー製造例4:硬化性シリコーン混錬物(A-5)の製造>
粘度1500mPa・sのオキシム基含有シリコーン(MEKO)(CH=CH-)SiO-[Si(CH-O-]-Si(CH=CH)(MEKO)(式中、「MEKO」は「2-メチルエチルケトオキシム基」を表す。)100質量部に対して日本アエロジル(株)製「AEROSIL RX200」(疎水性処理シリカ)10質量部を混練して、粘度800mPa・sの硬化性シリコーン混錬物(A-5)を得た。
【0157】
<親水性基を有するアクリル系ポリマー(D-1)の合成>
合成例1(ポリマー(D-1)の合成)
反応は常圧、窒素雰囲気下で行った。撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、メチルアミルケトン42.86質量部を仕込み、撹拌しながらメチルアミルケトンが100℃になるまで加熱した。反応混合物の温度を100±5℃に保ちながら、NKエステル AM-90G(メトキシポリエチレングリコールアクリレート、平均ポリエチレングリコール単位数9、新中村化学工業株式会社製)40.0質量部、イソブチルアクリレート60.0質量部、AMBN4.0質量部からなる混合物を4時間かけて反応容器内に滴下した。その後、100±5℃を保ちながら2時間撹拌し、ポリマー(D-1)の溶液を得た。得られた溶液の固形分は70.3質量%、粘度109mPa・sであった。
【0158】
下記塗料製造例で用いた各成分の詳細を表1に示す。
【表1】
【0159】
<防汚塗料組成物C1~C8の調製>
表2および表3に記載された量(質量部)で各成分を混合撹拌することで、防汚塗料組成物C1~C8を調製した。なお、表2に記載の各成分の配合量は、有姿での配合量を示している。例えば、実施例1における、脂肪酸アマイドの有姿での(全体としての)配合量は1.5質量部であり、固形分は20質量%であるので、脂肪酸アマイド自身の配合量は、0.3質量部である。
【0160】
【表2】
【0161】
【表3】
【0162】
<結合層(cn)用塗料組成物C9の調製>
表4に記載された量(質量部)で各成分を混合撹拌することで、結合層用塗料組成物C9を調製した。本塗料組成物を塗装する際は主剤と硬化剤を混合攪拌してから使用する。
【0163】
【表4】
【0164】
<離形層(rl)に挟まれた接着剤層(ad)を有する部材の作製>
冷却管、窒素導入管、温度計、滴下装置、加熱冷却ジャケットおよび攪拌機を備えた反応容器に、メチルエチルケトン30質量部を仕込み、窒素気流下で80±5℃の温度条件に保持しつつ滴下装置より、2-エチルヘキシルアクリレート((株)日本触媒製、「AEH」)90質量部、アクリル酸(東亜合成(株)製、「98%アクリル酸」)10質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)((株)日本ファインケム製、「ABN-V」)1質量部およびメチルエチルケトン16質量部からなる混合物を1時間かけて滴下した。その後、同温度で1時間撹拌を行った後、減圧蒸留によってメチルエチルケトンを除去し、2-エチルヘキシルアクリレート((株)日本触媒製、「AEH」)90質量部、アクリル酸(東亜合成(株)製、および「98%アクリル酸」)10質量部を加えてアクリル系モノマー混合物を得た。このアクリル系モノマー混合物100質量部に対して、光重合開始剤として2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(BASFジャパン(株)製、「イルガキュア651」)0.1質量部、架橋剤として1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(MIWON社製、「MIRAMER M200」)0.5質量部を添加し、これを離形フィルム(シリコーン処理PETフィルム厚み50μm、三井化学東セロ(株)製「SP-PET―O1-50-BU」)の離形面にフィルムアプリケーターにて塗布し、その上に上記と同じ離形フィルムの離形面を貼り合わせた。さらに、紫外線ランプ(水銀灯)により紫外線を照射(紫外線照度:50mW/cm、積算照射量:2000mJ/cm)することにより、2枚の離形フィルムに挟まれた平均厚み50μmのアクリル系感圧接着剤層1を得た。
【0165】
<調査用塗膜シートの作製>
[実施例1]
20cm四方の離形フィルム(シリコーン処理PETフィルム厚み50μm、三井化学東セロ(株)製「SP-PET―O1-50-BU」。離形層(rl)に相当)の離形面に、防汚塗料組成物C1をフィルムアプリケーターを用いて塗布し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して厚み約200μmのC1塗膜(供試塗膜層(sp)に相当)を形成した。つづいて、このC1塗膜を両面テープ(日東電工(株)製「多用途両面接着テープNo.5015」、基材:不織布、粘着剤:アクリル系、テープ厚み0.12mm、片面離形紙付き、基材層(bs)および2つの接着剤層(ad)に相当)にて被覆し、調査用塗膜シートを作製した。この塗膜シートの積層構造を図1および表5に示す。第6層の離形層(rl)を剥して調査を行う対象に対して第5層の接着剤層(ad)にて貼付し、第1層の離形層(rl)を剥して第2層の供試塗膜層(sp)を対象が置かれる環境に曝すことで、その環境における供試塗膜層(sp)の適合性を評価することができる。
【0166】
【表5】
【0167】
[実施例2]
20cm四方の離形フィルム(シリコーン処理PETフィルム厚み50μm、三井化学東セロ(株)製「SP-PET―O1-50-BU」。離形層(rl)に相当)の離形面に、防汚塗料組成物C2をフィルムアプリケーターを用いて塗布し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して膜厚約200μmのC2塗膜(供試塗膜層(sp)に相当)を形成した。つづいて、このC2塗膜の上に結合層用塗料組成物C9の主剤と硬化剤を混合したものをフィルムアプリケーターを用いて塗布し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して膜厚約100μmのC9塗膜(結合層(cn)に相当)を形成した。このC9塗膜の上に両面テープ((株)寺岡製作所製「気密・防水用アクリル両面テープ」、基材:ポリエチレンクロス、粘着剤:アクリル系、テープ厚み0.22mm、片面離形紙付き。基材層(bs)および2つの接着剤層(ad)に相当)にて被覆し、調査用塗膜シートを作製した。この塗膜シートの積層構造を図2および表6に示す。第6層の離形層(rl)を剥して調査を行う対象に対して第5層の接着剤層(ad)にて貼付し、第1層の離形層(rl)を剥して第2層の供試塗膜層(sp)を対象が置かれる環境に曝すことで、その環境における供試塗膜層(sp)の適合性を評価することができる。
【0168】
【表6】
【0169】
[実施例3]
20cm×50cmの大きさの離形フィルム(シリコーン処理PETフィルム厚み50μm、三井化学東セロ(株)製「SP-PET―O1-50-BU」。離形層(rl)に相当)の離形面に、結合層用塗料組成物C9の主剤と硬化物を混合したものをフィルムアプリケーターを用いて塗布し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して厚み約200μmのC9塗膜を形成した。本実施例においては、C9塗膜は、結合層(cn)と基材層(bs)を兼ねる層となる。このC9塗膜の上に、図3に示す配置にて、供試塗膜層(sp)として、向かって左から防汚塗料組成物C1、C2、C3、C4をフィルムアプリケーターを用いて塗布し、常温で24時間乾燥して膜厚200μmのC1~C4塗膜を形成した。これらの供試塗膜層(sp)が塗装された箇所以外の部分には、防汚塗料組成物C1を乾燥膜厚が約200μmとなるように刷毛を用いて塗装し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して、形成された塗膜C1を保護層(pr)とした。なお、図3の中の破線は次の図4で示す断面構造の位置を示すためのものである。その後、この保護層(pr)の一部に図3に示す配置にて養生テープによる際取りを行いながら、刷毛を用いて乾燥膜厚が200μmとなるように塗料組成物C5を塗装して表示層(id)とした。
【0170】
C9塗膜(第3層:結合層(cn)兼基材層(bs))のC1塗膜(供試塗膜層(sp))などと接していない面に接している離形フィルムを剥して、この面に対して、前述の2枚の離形フィルムに挟まれたアクリル系感圧接着剤層を有する部材の、片面の離形フィルムを剥してその面を貼り合わせた。このようにして作製された本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は、図3における破線部で示した箇所では図4のようになっている。
【0171】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は表7のようになっている。第5層の離形層(rl)を剥して調査を行う対象に対して第4層の接着剤層(ad)にて貼付し、第1層の離形層(rl)を剥して第1層の供試塗膜層(sp)を対象が置かれる環境に曝すことで、その環境における供試塗膜層(sp)の適合性を評価することができる。
【0172】
【表7】
【0173】
[実施例4]
(株)寺岡製作所製「シリコーンゴム粘着テープNo.9013」(シリコーンゴム-ポリエステルフィルム-アクリル系粘着剤の積層構造を有する。総厚0.10mm、粘着力18.8N/幅25mm)を30cm×50cmに切り出した。当該テープのアクリル系粘着剤を有する面に対して、離形フィルム(シリコーン処理PETフィルム厚み50μm、三井化学東セロ(株)製「SP-PET―O1-50-BU」)の離形面を貼り合わせた。その後、当該テープのシリコーンゴムを有する面に、図5に示す配置にて、供試塗膜層(sp)として、向かって左から防汚塗料組成物C6、C7をフィルムアプリケーターを用いて塗布し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して、膜厚200μmのC6、C7塗膜を形成した。これらの供試塗膜層(sp)が塗装された箇所以外の部分には、防汚塗料組成物C8を乾燥膜厚が約100μmとなるように刷毛を用いて塗装し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して、形成された塗膜C8を保護層(pr)とした。なお、図5の中の破線は次の図4で示す断面構造の位置を示すためのものである。
【0174】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は、図5の破線部で示した箇所では図6のようになっている。
【0175】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は表8のようになっている。第5層の離形層(rl)を剥して調査を行う対象に対して第4層の接着剤層(ad)にて貼付し、第1層の離形層(rl)を剥して第1層の供試塗膜層(sp)を対象が置かれる環境に曝すことで、その環境における供試塗膜層(sp)の適合性を評価することができる。
【0176】
【表8】
【0177】
[実施例5]
30cm四方の厚み0.1mmのステンレス(SUS430)箔(基材層(bs)に相当)の片面に、付加硬化型シリコーン粘着剤(東レ・ダウコーニング(株)製、Dow Corning Toray SD 4592 PSA(ビニル基含有シリコーン)100質量部、BY24-742(Si-H化合物)1.0質量部、NC-25 CATALYST(白金触媒)0.9質量部、トルエン50質量部の混合物)をフィルムアプリケーターで塗装し、100℃下で5分間乾燥(硬化)させることで厚み100μmのシリコーン系感圧接着剤層(接着剤層(ad)に相当)を形成した。このシリコーン系感圧接着剤層の表面に対して、フッ素タイプの離形フィルム(フルオロシリコーン離型剤付きPETフィルム厚み50μm、ニッパ(株)製「FSC6」、剥離荷重70mN。離形層(rl)に相当)のフルオロシリコーン離型剤が付いた面を貼り合わせた。続いて、ステンレス箔のシリコーン系感圧接着剤層が形成されていない面を#240サンドペーパーを用いて表面研磨し、キシレンで洗浄した後、結合層用塗料組成物C9の主剤と硬化剤を混合したものを乾燥膜厚が100μmとなるようにスプレー塗装し、常温で24時間乾燥し、結合層(cn)を形成した。形成した結合層(cn)の端部1cm幅の領域をマスキングテープにて養生した後、養生されていない範囲に防汚塗料組成物C4をスプレー塗装して乾燥膜厚が約200μmとなるように塗装し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して、供試塗膜層(sp)とした。その後、供試塗膜層(sp)を被覆するように、離形層(rl)としての離形紙を離形面が供試塗膜層(sp)に対面するように貼り付けて、調査用塗膜シートを得た。
【0178】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は、図7の破線部で示した箇所では最終的に図8のようになっている。
【0179】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は表9のようになっている。第6層の離形層(rl)を剥して調査を行う対象に対して第5層の接着剤層(ad)にて貼付し、貼付した周囲および第3層の結合層(cn)の周囲に、貼付対象に塗装されている塗料組成物(例えば防汚塗料組成物C1とは異なる防汚塗料組成物)を塗装してシーリングした後、第1層の離形層(rl)を剥して第2層の供試塗膜層(sp)を対象が置かれる環境に曝すことで、その環境における供試塗膜層(sp)の適合性を評価することができる。
【0180】
【表9】
【0181】
[実施例6]
30cm四方の厚み0.3mmの塩ビ板(基材層(bs)に相当)の片面を#240サンドペーパーを用いて表面研磨し、キシレンで洗浄した後、結合層用塗料組成物C9の主剤と硬化剤を混合したものを乾燥膜厚が100μmとなるようにスプレー塗装し、常温で24時間乾燥し、結合層(cn)を形成した。形成した結合層(cn)の端部1cm幅の領域をマスキングテープにて養生した後、養生されていない範囲に防汚塗料組成物C4をスプレー塗装して乾燥膜厚が約200μmとなるように塗装し、常温で1時間、50℃で24時間乾燥して、供試塗膜層(sp)とした。その後、供試塗膜層(sp)を被覆するように、離形層(rl)としての離形紙を離形面が供試塗膜層(sp)に対面するようにマスキングテープを用いて貼り付けた。つづいて、塩ビ板の塗装されていない面を両面テープ(住化プラステック(株)製「カットエース」、基材:ポリエチレン、粘着剤:アクリル系、テープ厚み0.1mm、片面離形紙付き、基材層(bs)および2つの接着剤層(ad)に相当)にて被覆し、調査用塗膜シートを作製した。
【0182】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は、図9の破線部で示した箇所では最終的に図10のようになっている。
【0183】
本実施例の調査用塗膜シートの積層構造は表10のようになっている。第8層の離形層(rl)を剥して調査を行う対象に対して第7層の接着剤層(ad)にて貼付し、貼付した周囲および第3層の結合層(cn)の周囲に、結合層用塗料組成物C9の主剤と硬化剤を混合したものを塗装して乾燥硬化してシーリングした後、貼付対象に塗装されている塗料組成物(例えば防汚塗料組成物C4とは異なる防汚塗料組成物)を塗装し、第1層の離形層(rl)を剥して第層の供試塗膜層(sp)を対象が置かれる環境に曝すことで、その環境における供試塗膜層(sp)の適合性を評価することができる。
【0184】
【表10】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10