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特開2024-146914身体に装着する電子機器、特に聴取機器、及びそのような機器用の電圧供給装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146914
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】身体に装着する電子機器、特に聴取機器、及びそのような機器用の電圧供給装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20241004BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20241004BHJP
   H02M 3/07 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H04R25/00 P
H04R1/10 101B
H04R1/10 104E
H02M3/07
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024057422
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】10 2023 203 022.5
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】508115093
【氏名又は名称】シバントス ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティモ マイ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ディッケル
【テーマコード(参考)】
5D005
5H730
【Fターム(参考)】
5D005BB02
5H730BB03
5H730BB98
(57)【要約】
【課題】身体に装着する電子機器、特に聴取機器、及びそのような機器用の電圧供給装置を提供する。
【解決手段】ユーザの身体に装着することを目的とした電子機器用の、特に聴取機器2用の電圧供給装置14が提供される。電圧供給装置14は、バッテリ電圧Uを変換係数によって中間電圧Uに変換するためのチャージポンプ20であって、変換係数の少なくとも2つの段階間において切り替え可能であるチャージポンプ20を備える。電圧供給装置14は、更に、中間電圧Uを所定の目標値Uの出力電圧Uに低下させるための電圧調整器26と、変換係数の段階間においてチャージポンプ20を可逆的に切り替えるためのコントローラ24を備える。コントローラ24は、電圧調整器26の制御量Eに応じてチャージポンプ20を制御するように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの身体に装着することを目的とした電子機器用の、特に聴取機器(2)用の電圧供給装置(14)であって、
バッテリ電圧(U)を変換係数によって中間電圧(U)に変換するためのチャージポンプ(20)であって、前記変換係数の少なくとも2つの段階間において切り替え可能であるチャージポンプ(20)と、
前記中間電圧(U)を所定の目標値(U)の出力電圧(U)に低下させるための電圧調整器(26)と、
前記変換係数の前記段階間において前記チャージポンプ(20)を可逆的に切り替えるためのコントローラ(24)であって、前記電圧調整器(26)の制御量(E)に応じて前記チャージポンプ(20)を制御するように構成されているコントローラ(24)と、を備えた電圧供給装置(14)。
【請求項2】
前記チャージポンプ(20)は、より小さい値の前記変換係数を有する第1の段階と、より大きい値の前記変換係数を有する第2の段階との間において切り替え可能である、請求項1に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項3】
前記第1の段階は、3:1の変換係数に対応する、請求項2に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項4】
前記第2の段階は、2:1の変換係数に対応する、請求項3に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項5】
前記コントローラ(24)は、
前記電圧調整器(26)の前記制御量(E)が、第1のより大きい基準値(R1)を上回った場合に前記変換係数の前記第2の段階を設定し、
前記電圧調整器(26)の前記制御量(E)が、第2のより小さい基準値(R2)を下回った場合に前記変換係数の前記第1の段階を設定するように構成されている、請求項2に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項6】
前記コントローラ(24)は、少なくとも所定の遅延時間の間、前記変換係数の前記第2の段階を保持するように構成されている、請求項2に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項7】
前記コントローラ(24)は、前記バッテリ電圧(U)が所定の最小値を超えた場合にのみ、前記変換係数の前記第2の段階から前記変換係数の前記第1の段階への変更を許可するように構成されている、請求項2に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項8】
前記電圧調整器(26)は、比例調整器又は比例積分調整器として形成されている、請求項1に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項9】
前記電圧調整器(26)は、前記出力電圧(U)を前記所定の目標値(U)に設定するために、前記制御量(E)を用いて、連続的に制御可能な半導体スイッチ、特にMOSFET(28)を制御する、請求項1に記載の電圧供給装置(14)。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の電圧供給装置(14)を備えた、身体に装着可能な電子機器、特に聴取機器(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体に装着することを目的とした電子機器用の、特に聴取機器用の電圧供給装置に関する。本発明はさらに、このような電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
聴取機器は、一般に、その聴取機器を装着する人(以下、「装着者」又は「ユーザ」という)の聴力をサポートする電子機器を意味する。特に、本発明は、聴覚に支障のあるユーザの難聴を完全又は部分的に補うように構成された聴取機器に関する。このような聴取機器は「補聴器」とも呼ばれる。さらに、正常な聴力を有するユーザの聴力を保護又は改善する聴取機器もあり、それは、例えば、複雑なリスニング状況における会話の理解度を向上させることができる。聴取機器には、(耳内に又は耳に装着する)ワイヤレスヘッドホン、特に、いわゆるイヤプラグ及びヘッドセットも挙げられる。
【0003】
一般的に、聴取機器、特に補聴器は、通常、頭部に、特にユーザの頭部又は片耳に装着するように形成されており、特に耳掛け型補聴器(英語の「behind the ear」の意味からBTE型補聴器ともいわれる)、又は耳穴型補聴器(英語の「in the ear」の意味からITE型補聴器ともいわれる)として形成されている。聴取機器の内部構造として、聴取機器は通常、少なくとも1つの(音響電気)入力変換器、信号処理ユニット(信号プロセッサ)、及び出力変換器を有している。聴取機器の動作中において、1つの又は各入力変換器は、聴取機器の周囲から空気伝搬音を取得し、この空気伝搬音を入力オーディオ信号(すなわち、周囲の音に関する情報を伝達する電気信号)に変換する。信号処理ユニットにおいては、ユーザの聴力をサポートするために、特にユーザの難聴を補うために、1つの又は各入力オーディオ信号が処理される(すなわち、その音情報に関して修正される)。信号処理ユニットは、適切に処理されたオーディオ信号を出力変換器に出力する。
【0004】
多くの場合、出力変換器は電気音響変換器として形成され、その電気音響変換器は(電気的な)出力オーディオ信号を空気伝搬音に変換し、この空気伝搬音(周囲の音と比較して修正された音)がユーザの外耳道に放出される。耳掛け型の聴取機器においては、「レシーバ」とも呼ばれる出力変換器は、通常、耳の外において、聴取機器のハウジングの中に組み込まれる。この場合、出力変換器から発せられた音は、サウンドチューブによってユーザの外耳道に送られる。代替的には、出力変換器を外耳道内に、それによって耳の後ろに装着するハウジングの外側に配置し得る。このような聴取機器は、(英語の「Receiver in Canal」から)RIC機器ともいわれる。外耳道からはみ出さないほど小さい耳掛け型聴取機器は、(英語の「completely in canal」から)CIC機器ともいわれる。
【0005】
更なる形態においては、出力変換器は、出力オーディオ信号を固体伝搬音(振動)に変換する電気機械変換器として形成することもでき、それによってこの固体伝搬音は、例えばユーザの頭蓋骨内に放出される。更に、埋め込み型聴取機器、特に人工内耳、及び、その出力変換器がユーザの聴覚神経を直接刺激する聴取機器もある。
【0006】
身体に装着することを目的とした電子機器(いわゆる「ウェアラブル」)には、聴取機器以外にも、腕時計、スマートグラス、例えばペースメーカ又はインスリンポンプのような医療機器、例えば脳波計(EEG-Logger)のような医療用監視機器など、がある。
【0007】
このようなウェアラブルは、多かれ少なかれ、一般的に、一方ではバッテリによって駆動するという共通の特徴を有している。それは、バッテリから供給されるバッテリ電圧がバッテリの充電状態によって時間的に変化する一方、ウェアラブルの電子機器は一定の動作電圧を必要とすることが多いという典型的な問題に関連する。そのため、通常、バッテリとウェアラブルの電子機器との間には、バッテリの電圧を必要な動作電圧値の一定の出力電圧に変換する電圧供給回路(電圧供給装置)が接続されている必要がある。
【0008】
他方、ウェアラブルは通常、ユーザの制約を最小限にするために、可能な限り軽量かつコンパクトに形成される必要がある。その際、小型化によってバッテリの設置スペースが特に制限されるため、利用可能なバッテリ容量も制限される。バッテリ容量が非常に限られているにもかかわらず、1回のバッテリ充電によってウェアラブルの十分な動作時間を可能にするためには、電圧供給装置のエネルギー効率を可能な限り高くすることが望ましい。
【0009】
このような背景から、チャージポンプがウェアラブルの、特に聴取機器の電圧供給装置として使用されることがあり、このチャージポンプは、変換係数によってバッテリ電圧を中間電圧に変換する。その際、この中間電圧は、所定の目標値に合わせて、電圧調整器によって動作電圧まで低下される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、ユーザの身体に装着することを目的とした電子機器用の、例えば聴取機器用の電圧供給装置を、特に出力動作電圧の安定性に関して改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、請求項1の特徴によって本発明に従って解決される。有利な、且つ部分的に発明性のある実施形態、及び更なる展開は、従属請求項及び以下の説明に記載されている。
【0012】
電圧供給装置は、バッテリ電圧を変換係数によって中間電圧に変換するためのチャージポンプを備える。また、電圧供給装置は、中間電圧を所定の目標値(動作電圧値)の出力電圧に低下させるための電圧調整器を備える。チャージポンプは、バッテリ電圧の大きな変動の際にも、出力電圧が常に効率的に利用できるために、変換係数の少なくとも2つの段階(すなわち所定の値)間において切り替え可能である。変換係数は、その際、バッテリ電圧値と中間電圧値との比を表す。変換係数の所定の段階を、以下において「変換段階」ともいう。チャージポンプを切り替えることによって、バッテリ電圧が大きく変動した場合においても、電圧調整による電圧の振れを常に比較的小さく抑えることができ、それによってバッテリ電圧及び負荷状況の広い範囲において高い電圧供給効率を得ることができる。
【0013】
チャージポンプは、特にバッテリ電圧とアースの間に直列に接続可能な複数のコンデンサによって形成され、これらのコンデンサはクロックされて(すなわち所定のサイクル時間、或いはクロック周波数によって)充放電される。変換係数の異なる値間の切り替えは、その際、好ましくは、直列回路から1つ以上のコンデンサを取り除くことによって行われる。
【0014】
変換段階間においてチャージポンプを可逆的に切り換えるために、電圧供給装置は、最後に、チャージポンプに作用するコントローラを備える。このコントローラは、本発明によれば、電圧調整器の制御量(「誤差信号」ともいう)に応じてチャージポンプを制御するように構成されている。従って、設定された変換段階は、電圧調整器の誤差信号に依存してコントローラによって決定される。これによって、非常に高いエネルギー効率と電圧供給装置のコンパクトな構造を維持しつつ、出力動作電圧の高い安定性が得られる。
【0015】
費用対効果の理由から特に有利な実施においては、チャージポンプは、正確には2つの変換段階間において、すなわち変換係数のより小さい値を有する第1の変換段階と変換係数のより大きい値を有する第2の変換段階との間において切り替えることができる。好適な形態においては、第1の変換段階は、3:1の変換係数に対応する。したがって、この場合、第1の変換段階における中間電圧は、時間平均においてバッテリ電圧の3分の1になる。第2の変換段階は、例えば2:1の変換係数に対応する。したがって、第2の変換段階における中間電圧は、時間平均においてバッテリ電圧の半分に相当する。第1の変換段階は、バッテリが十分に充電され(したがってバッテリ電圧が高くなり)、通常の負荷状態の場合にチャージポンプが呈する通常状態である。第2の変換段階は、困難な動作条件下において、特に負荷が高い場合、及び/又はバッテリの充電状態が低い場合に、その他に(すなわち、チャージポンプが第1の変換段階において動作している状態において)、電圧調整器がその利用限界(制御容量)に近いかそれを超えて動作するような場合に、作動される。
【0016】
しかしながら、原理的には、本発明は、2つ以上の変換段階間において切り替え可能なチャージポンプを備えた電圧供給装置にも容易に適用することができる。その場合、2つの変換段階に関連して以下に説明する電圧供給装置の実施形態は、2つ以上の変換段階に対応して、拡張される必要がある。
【0017】
チャージポンプが第1の変換段階と第2の変換段階との間において恒常的に切り替わるのを防止するために、コントローラは、好ましくは、電圧調整器の制御量が第1のより高い基準値を上回った場合に第2の変換段階に切り替え、電圧調整器の制御量が第2のより低い基準値を下回った場合に第1の変換段階に戻すように構成されている。言い換えれば、コントローラは、所定のヒステリシスを有して、電圧調整器の制御量に応じて所定の変換段階間において切り替えるように、構成されている。
【0018】
ヒステリシスに加えて、又はヒステリシスの代替として、コントローラは、好ましくは、少なくとも所定の遅延時間の間、第2の変換段階を保持し、それによって、第1の変換段階から第2の変換段階への各変更後の所定の遅延時間の間、第1の変換段階への戻りを防止するように、構成されている。それによって、例えばチャージポンプを切り替えた後の誤差信号のオーバーシュート又はアンダーシュートなどに起因して、チャージポンプが第1の変換段階と第2の変換段階との間において恒常的に切り替わることも防止される。
【0019】
本発明の更に有利な実施形態においては、コントローラは、バッテリ電圧が所定の最小値を超えた場合にのみ、変換係数の第2の変換段階から第1の変換段階への変更を許可するように構成されている。これは、バッテリが弱い場合に、誤差信号の変動に起因してチャージポンプがより不利な第1の変換段階に戻ることを防止する(オプションの)追加の安全処置である。
【0020】
電圧調整器は、好ましくは、比例調整器又は比例積分調整器として形成されている。電圧調整器は、好ましくはアナログ回路、特に少なくとも1つの適切に配線されたオペアンプによって形成される。その際、電圧調整器は、電圧調整の時定数が、チャージポンプのサイクル時間よりも大幅に、特に約10倍から100倍大きくなるように設計される。例えば、チャージポンプのサイクル時間は10マイクロ秒(100キロヘルツのサイクル周波数に対応)であるのに対し、電圧調整器の時定数は例えば100~1000マイクロ秒(1~10キロヘルツにおける帯域幅に相当)である。これによって、チャージポンプのクロッキングによる電圧変動に電圧調整器が反応し、電圧調整器に望ましくない制御振動が発生するのを防ぐことができる。
【0021】
出力電圧を所定の目標値に設定するために、電圧調整器は、好ましくは、出力電圧を設定する連続的に制御可能な半導体スイッチに接続され、制御量(すなわち上記の誤差信号)を用いてこの半導体スイッチを制御する。半導体スイッチは、例えばMOSFETによって形成される。制御量(すなわち誤差信号)は、ゲート電圧としてこのMOSFETに印加される。
【0022】
本発明の更なる具現は、身体に装着することを目的とした電子装置(すなわちウェアラブル)である。この装置は、その際、本発明によれば、特に上記した本発明の実施形態の1つにおける、本発明による電圧供給装置を備える。
【0023】
ウェアラブルは、好ましくは、上記したような聴取機器であり、特に、聴覚障害のあるユーザの聴覚をサポートするように形成された補聴器である。聴取機器は、その際、特にBTE又はITE装置として、任意の形態であり得る。しかしながら、原理的には、本発明は、他のウェアラブル、特に、腕時計、スマートグラス、例えばペースメーカ又はインスリンポンプのような医療機器、例えば脳波計のような医療用監視機器などにも有利に適用することができる。
【0024】
以下において、本発明の実施例を、図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】2つのマイクロホン、レシーバ、信号プロセッサ、バッテリ、及び電圧供給装置を備えた、ユーザの耳の後ろに装着可能な補聴器の形態の聴取装置の概略図である。
図2図1の聴取装置の電圧供給装置の構造を示す概略的な回路図であり、その電圧供給装置は、変換係数の、異なる値間の2つの段階において切り替え可能なチャージポンプ、後続の電圧調整器、及び、チャージポンプを切り替えるためのコントローラを備えている。
図3図2によるコントローラの構造を示す概略的な回路図である。
図4】チャージポンプが3:1の変換係数において作動される第1の変換段階におけるチャージポンプの2つのスイッチングフェーズを、互いに配置して示した図である。
図5】チャージポンプが2:1の変換係数において作動される第2の変換段階におけるチャージポンプの2つのスイッチングフェーズを示す、図4に従った図である。
図6】チャージポンプと電圧調整器の第2の実施形態を示す概略的な回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
全ての図において、互いに対応する部品及びサイズには常に同一の参照符号を付す。
【0027】
図1は、聴取機器2を示しており、この聴取機器2は、本実施形態においては、例示的に補聴器、すなわち、聴覚障害のあるユーザの聴覚をサポートするように構成された聴取機器として形成されている。本実施形態の図示の例においては、聴取機器2はBTE機器であり、ユーザの耳の後ろに装着することを目的とされる。
【0028】
聴取機器2は、ハウジング4内に、入力変換器としての少なくとも1つのマイクロホン6(図示の例においては2つのマイクロホン6)と、出力変換器としてのレシーバ8とを備える。聴取機器2は、更にバッテリ10と(特にデジタル)信号プロセッサ12とを備える。好ましくは、信号プロセッサ12は、プログラマブルなサブユニット(例えばマイクロプロセッサ)と非プログラマブルなサブユニット(例えばASIC)とを含む。
【0029】
聴取機器2は更に電圧供給装置14を備え、電圧供給装置14は、信号プロセッサ12(及び聴取機器2の他の電力消費部品)に電気的な出力電圧Uを供給する。電圧供給装置14には、バッテリ10からバッテリ電圧Uが供給される。バッテリ10の充電状態に依存して値が変動するバッテリ電圧Uとは対照的に、出力電圧Uは、電圧供給装置14によって所定の動作電圧値に一定に保たれる。
【0030】
聴取機器2の通常動作時において、マイクロホン6はそれぞれ聴取機器2の周囲から空気伝搬音を取得する。マイクロホン6は、その音を(入力)オーディオ信号Iに、すなわち取得した音に関する情報を含む電気信号に変換する。それぞれの入力オーディオ信号Iは、聴取機器2内において信号プロセッサ12に送られ、信号プロセッサ12は、この入力オーディオ信号Iを、ユーザの聴力をサポートするために修正する、特にユーザの聴力低下を補うために、周波数選択的に増幅する。
【0031】
信号プロセッサ12は、出力オーディオ信号O、すなわち、電気信号であり、この場合、処理され、それによって修正された音に関する情報を含む出力オーディオ信号Oを、レシーバ8に出力する。
【0032】
レシーバ8は、出力オーディオ信号Oを修正された空気伝搬音に変換する。この修正された空気伝搬音は、レシーバ8をハウジング4の先端部18に接続する音チャネル16を介して、及び、ユーザの外耳道に挿入されるイヤピースに、先端部18を接続する(詳細には図示しない)柔軟な音チューブを介して、ユーザの外耳道に伝達される。
【0033】
図2により詳細に示す電圧供給装置14は、チャージポンプ20、後続の電圧制御回路22、及びコントローラ24を備える。
【0034】
聴取機器2の動作中において、チャージポンプ20は、供給されたバッテリ電圧Uを中間電圧Uに変換し、この中間電圧Uは、時間的な平均値において、バッテリ電圧Uに比べて変換係数だけ低下している。変換係数は、バッテリ電圧Uの値と中間電圧Uの(時間平均された)値の比を表す。
【0035】
中間電圧Uの(時間平均された)値がバッテリ電圧Uの3分の1に相当する3:1の変換係数を実現するために、チャージポンプ20は、3つのコンデンサC1、C2、及びC3を含む。これらコンデンサは、スイッチS1~S8によって、一方においてはバッテリ電圧UとアースMとの間に直列に接続され、他方においては中間電圧UとアースMとの間に並列に接続され得る。スイッチS1~S8は、好ましくは、電子制御可能な半導体スイッチによって形成される。
【0036】
コンデンサC1及びC2は、その際、10マイクロ秒のサイクル時間によってクロックされ、第1のスイッチングフェーズ(フェーズ1)において放電され、第2のスイッチングフェーズ(フェーズ2)において充電される。スイッチS1~S8の対応する設定は、図4の上段にフェーズ1について、図4の下段にフェーズ2について示されている。第1のスイッチングフェーズにおいては、チャージポンプ20は、スイッチS4によってバッテリ電圧Uから切り離される。コンデンサC1、C2、及びC3は、スイッチS1、S7、及びS3、S8を閉じることによって、中間電圧UとアースMとの間に並列接続される。第2のスイッチングフェーズにおいては、スイッチS4、S5、及びS6を閉じることによって(またスイッチS1、S2、S3、S7、及びS8を開くことによって)、コンデンサC1、C2、及びC3がバッテリ電圧UとアースMとの間に直列に接続される。
【0037】
チャージポンプ20は、3:1の変換係数の第1の変換段階と、2:1の変換係数の第2の変換段階との間において可逆的に切り替え可能である。既に上記したように、図4は、第1の変換段階の第1及び第2のスイッチングフェーズのためのスイッチS1~S8の設定を示している。
【0038】
図5に示される第2の変換段階においては、コンデンサC2は、充電中において、すなわち第2のスイッチングフェーズにおいて、スイッチS5及びS6を開き、スイッチS2を閉じることによって、コンデンサC1、C2、及びC3の直列接続から解かれ、(任意に)スイッチS3及びS8を閉じることによって、コンデンサC3と並列に接続される(図5の下段のフェーズ2を参照)。その結果、第2の変換段階において、2:1の変換係数となる。この場合、中間電圧Uの(時間平均)値は、従って、バッテリ電圧Uの半分に相当する。
【0039】
第2の変換段階の第1のスイッチングフェーズにおいては、コンデンサC1、C3、場合によっては、C2は、第1の変換段階と同様に放電される。したがって、スイッチS1~S8の設定に関して、第2の変換段階の第1のスイッチングフェーズ(図5の上段におけるフェーズ1)は、第1の変換段階の第1のスイッチングフェーズ(図4の上段におけるフェーズ1)に相当する。
【0040】
図2によれば、電圧制御回路22は、電圧調整器26と、連続的に制御可能な半導体スイッチとを含み、その半導体スイッチは、図示の例においてはMOSFET28によって形成されている。電圧調整器26は、基本的にオペアンプ又はオペアンプ群によって形成される。その際、そのオペアンプ或いはオペアンプ群は、対応した回路(詳細には図示せず)によって比例調整器又は比例積分調整器として形成される。電圧制御回路22は、例えば、電圧制御が100マイクロ秒の時定数を有するようにサイズ決めされる。
【0041】
電圧調整器26には、現在値としての出力電圧Uと、目標値としての、設定すべき動作電圧値に相当する基準電圧Uとが供給される。電圧調整器26は、出力電圧Uと基準電圧Uとの比較に基づいて、制御量としての誤差信号Eを出力し、この誤差信号Eはゲート電圧としてMOSFET28に供給される。MOSFET28は、出力電圧Uが基準電圧Uに等しくなるように、誤差信号Eの作用によって出力電圧Uを調整する。
【0042】
誤差信号E及びバッテリ電圧Uは、更に、コントローラ24に入力量として供給される。
【0043】
コントローラ24は、制御信号Tを用いてスイッチS1~S8を制御し、それによって、それぞれ設定された変換段階の、すなわち図4による第1の変換段階又は図5による第2の変換段階の、第1及び2第1のスイッチングフェーズが、上記のサイクル時間において交互に実現される。
【0044】
更に、コントローラ24は、内部においてスイッチング信号Wを生成し、そのスイッチング信号Wに従って、コントローラ24は、チャージポンプ20の2つの変換段階の間を、したがって、図4によるスイッチングフェーズを実現するためのスイッチS1~S8の制御と、図5によるスイッチングフェーズを実現するためのスイッチS1~S8の制御との間を切り換える。
【0045】
スイッチング信号Wを生成するコントローラ24の部分は、アナログ論理電子回路として例示的な実施によって図3に詳細に示されている。これによれば、コントローラ24は、第1のコンパレータ30と第2のコンパレータ32とを含む。コンパレータ30及び32には、3つの電圧信号、すなわち電圧調整器26の誤差信号Eと、より高い基準値を指定するための基準信号R1と、より低い基準値を指定するための基準信号R2とが供給される。
それによって、第1のコンパレータ30の出力信号A1は、
・誤差信号Eが基準信号R1を下回る場合及びその間は、論理「1」状態(「HIGH」)を出力し、
・誤差信号Eが基準信号R1を上回る場合及びその間は、論理「0」状態(「LOW」)を出力し、
それによって、第2のコンパレータ32の出力信号A2は、
・誤差信号Eが基準信号R2を上回る場合及びその間は、HIGHを出力し、
・誤差信号Eが基準信号R2を下回る場合及びその間は、LOWを出力する。
【0046】
コントローラ24は、更に第3のコンパレータ34を含む。2つの更なる電圧信号、すなわち、因数3によって低減されたバッテリ電圧Uと、更なる基準信号、好ましくは基準電圧Uとが、入力量としてコンパレータ34に供給される。
それによって、第3のコンパレータ34の出力信号A3は、
・因数3によって低減されたバッテリ電圧Uが更なる基準信号、好ましくは、すなわち基準電圧Uを下回る場合及びその間は、HIGHを出力し、
・因数3によって低減されたバッテリ電圧Uが更なる基準信号、好ましくは、すなわち基準電圧Uを上回る場合及びその間は、LOWを出力する。
【0047】
代替的に、バッテリ電圧Uは、コンパレータ34に供給される前に、3とはわずかに異なる因数、例えば3.05によって低下させることもできる。オプションにおいて、因数は調整可能であり得る。更に、コンパレータ34に、基準電圧Uに比べて対応して高い更なる基準信号も供給される場合、バッテリ電圧Uは、低下されずにコンパレータ34に供給され得る。最後に、コンパレータ34は、(特にやや顕著な)スイッチングヒステリシスを有し得る。
【0048】
コントローラ24は、更に、ORゲート36、NANDフリップフロップ38(すなわち、2つの結合されたNANDゲートからなる非同期のRSフリップフロップ)、及び(「ロックタイマ」ともいう)遅延要素40を含む。
【0049】
第2のコンパレータ32及び第3のコンパレータ34の出力信号A2及びA3は、入力量としてORゲート36に供給される。第1のコンパレータ30の出力信号A1とORゲート36の出力信号A4は、セット信号或いはリセット信号としてNANDフリップフロップ38に供給され、NANDフリップフロップ38はスイッチング信号Wを出力する。
【0050】
スイッチング信号Wは遅延要素40に供給される。遅延要素40の出力信号A5は、更なる入力量としてORゲート36に供給される。遅延要素40は、スイッチング信号WがLOWからHIGHに変化する場合、所定の遅延時間(例えば500マイクロ秒)の間、出力信号A5をHIGHに切り換える。それ以外の場合、遅延要素40の出力信号A5はLOWのままである。
【0051】
図3に示し上記した回路は以下の機能を有する。すなわち、NANDフリップフロップ38は、スイッチング信号Wを、
・誤差信号Eがより高い基準信号R1を上回る場合に、LOWからHIGHに切り換え、
・誤差信号Eがより低い基準信号R2を下回る場合に、HIGHからLOWに戻す。
【0052】
スイッチング信号WのLOWからHIGHへの変化は、コントローラ24がチャージポンプ20を第1の変換段階から第2の変換段階に切り換えるトリガとなる。スイッチング信号WのHIGHからLOWへの変化は、コントローラ24がチャージポンプ20を第2の変換段階から第1の変換段階に戻すように切り換えるトリガとなる。
【0053】
それによって、第1の変換段階と第2の変換段階との間のチャージポンプ20の切り替えに関して、コンパレータ30及び32と、NANDフリップフロップ38とによって、(切り替え)ヒステリシスが形成される。図3の回路のスイッチング論理は、バッテリ電圧Uの低下又は特に高い負荷のために電圧制御がその利用限界に達するか、又はそれに近づく場合に、電圧調整器26の誤差信号Eが大きい値を取るという認識に基づいている。これは、低いバッテリ電圧U及び/又は特に高い負荷に対してより有利な第2の変換段階への切り替えの指示として使用される。
【0054】
因数3によって低減されたバッテリ電圧Uが更なる基準信号、特に基準電圧Uを下回る場合及びその間は、ORゲート36に供給される第3のコンパレータ34の出力信号A3によって、スイッチング信号WのLOWへの戻りが防止される。それによって、バッテリ電圧Uが所定の最小値(即ち、基準電圧Uの3倍)を下回った場合に、チャージポンプ20が第2の変換段階から第1の変換段階に戻ることが抑制される。
【0055】
ORゲート36に追加して供給される遅延要素40の出力信号A5によって、スイッチング信号WがHIGHに切り替わった後、所定の遅延時間内にスイッチング信号WがLOWに戻ることが防止される。それによって、チャージポンプ20の第2の変換段階は、少なくとも所定の遅延時間の間、強制的に保持される。これは、スイッチング信号WがHIGHに切り換わる(その結果、チャージポンプ20が第2の変換段階に切り換わる)場合に、チャージポンプ20の駆動力が急激に増大し、それによって、誤差信号Eの値が急激に減少することを考慮したものである。このプロセスは、誤差信号Eの「アンダーシュート」(すなわち、誤差信号Eが、更なる経過において設定される新たなプラトー値以下に短時間低下すること)につながる可能性があり、そのアンダーシュートは、遅延要素40がない場合、好ましくない状況下において、スイッチング信号Wが直ちにLOWに戻ることを生じさせ得る。この望ましくない作用は繰り返し発生し、電圧制御の不安定性(制御振動)につながる可能性がある。遅延要素40はこれを抑止する。遅延時間は、理想的には、少なくとも電圧制御の時定数の大きさのオーダーであるべきである。例えば、遅延時間は500マイクロ秒に設定される。
【0056】
本発明の代替的な実施形態においては、コントローラ24は、図3の回路のスイッチング論理が実行可能なソフトウェア(ファームウェア)の形態において実装されたマイクロコントローラによって実現される。
【0057】
図6は、チャージポンプ20の構成要素が電圧制御回路22の構成要素としても使用される、電圧供給装置14の更なる実施形態を示す。例えば、スイッチS1及びS3は、本実施形態においてはMOSFETS28によって形成されており、出力電圧Uを所定の基準電圧Uに設定するために、コントローラ24に加えて電圧調整器26によっても制御される。図6に示す回路においては、中間電圧Uは、コンデンサC1及びC2を介して時間的に平均された電圧降下にのみ現れる。図6の簡略図が示唆するのとは異なり、誤差信号EはMOSFETS28に常時印加されるのではなく、(図6に示す)第1のスイッチングフェーズ、すなわちコンデンサC1及び場合によってはC2が放電されるときにのみ印加される。第2のスイッチングフェーズにおいては、コンデンサC1、C3、及び場合によってはC2がバッテリ電圧Uから充電されるように、コントローラ24によってMOSFET28が制御される。
【0058】
図6は、第1の変換段階の第1のスイッチングフェーズ(フェーズ1)におけるチャージポンプを示し、図4の上部の部分図に相当する。第1の変換段階の第2のスイッチングフェーズ(フェーズ2)のために、コンデンサC1、C2及びC3は、バッテリ電圧UとアースMとの間に再び直列に接続され、それによって、3:1の変換係数が達成される。
【0059】
図2に対して変更された、図6によるチャージポンプ20の構成においては、スイッチS2が欠けている。第2の変換段階において、第2のスイッチングフェーズ(フェーズ2)、すなわちコンデンサC1、C2及びC3の充電は、スイッチS6が開放されている間に、スイッチS3及びS5を介して、コンデンサC1の負極をコンデンサC3と直列に直接接続することによって行われる。
【0060】
図6に示す実施例にも存在し、単に分かり易くするために図示していないコントローラ24は、図3に示すような構造であり、上記した方法によってスイッチS1、S3、及びS4~S8を制御する。
【0061】
本発明は、上記した実施形態において特に明らかであるが、これらの実施形態に限定されるものではない。むしろ、本発明の更なる実施形態は、特許請求の範囲及び上記の説明から導き出すことができる。特に、聴取機器2を例として説明した本発明は、他の装着可能な、特に腕時計、スマートグラス、例えばペースメーカ又はインスリンポンプのような医療機器、例えば脳波計のような医療用監視装置などにも容易に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
2 補聴器
4 ハウジング
6 マイクロホン
8 レシーバ
10 バッテリ
12 信号プロセッサ
14 電圧供給装置
16 音チャネル
18 先端
20 チャージポンプ
22 電圧制御回路
24 コントローラ
26 電圧調整器
28 MOSFET
30 コンパレータ
32 コンパレータ
34 コンパレータ
36 ORゲート
38 NANDフリップフロップ
40 遅延要素
A1~A5 出力信号
I 入力オーディオ信号
C1~C3 コンデンサ
E 誤差信号
M アース
O 出力オーディオ信号
R1、R2 基準信号
S1~S8 スイッチ
T 制御信号
バッテリ電圧
出力電圧
基準電圧
中間電圧
W スイッチング信号
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】