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特開2024-146924制御装置、冷凍システム、制御方法、制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146924
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】制御装置、冷凍システム、制御方法、制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/10 20060101AFI20241004BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20241004BHJP
   F04C 28/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F04B49/10 331L
F04B51/00
F04C28/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057728
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023059372
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土居 昭博
(72)【発明者】
【氏名】荒木 剛
(72)【発明者】
【氏名】小川 卓郎
【テーマコード(参考)】
3H129
3H145
【Fターム(参考)】
3H129AA02
3H129AA04
3H129AA05
3H129AA14
3H129AA21
3H129AA32
3H129AB03
3H129AB12
3H129BB60
3H129CC07
3H129CC27
3H129CC58
3H145AA02
3H145AA12
3H145AA27
3H145AA42
3H145BA44
3H145CA09
3H145CA21
3H145CA22
3H145CA26
3H145DA46
3H145EA17
3H145EA20
3H145EA26
3H145EA38
3H145EA50
3H145FA03
3H145FA16
3H145FA26
3H145FA28
(57)【要約】
【課題】圧縮機の状態が所定の状態である場合に対処するための処理を適切に行う。
【解決手段】モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムにおいて、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力処理およびシステムの運転条件を変更する変更処理の少なくとも1つを含む対処処理を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムを制御する制御装置であって、
前記圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、前記圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力処理および前記システムの運転条件を変更する変更処理の少なくとも1つを含む対処処理を行う制御部(31)を備える
制御装置。
【請求項2】
請求項1の制御装置において、
10秒間の期間内において得られる前記物理量に含まれる前記特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出される条件下において、
前記指標値を、第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値とし、
前記第1移動平均値(MA1)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の前記振幅値の平均値とし、
前記第2移動平均値(MA2)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の前記振幅値の平均値とし、
前記閾値を、前記圧縮機(50)が予め定められた定常状態であるという条件下における10分間の計測期間において得られる前記指標値の最大値の1.1倍以上の値とした場合に、
前記制御部(31)は、前記指標値が前記閾値を上回る場合に前記対処処理を行う
制御装置。
【請求項3】
請求項1の制御装置において、
10秒間の期間内において得られる前記物理量に含まれる前記特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出される条件下において、
前記指標値を、第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値とし、
前記第1移動平均値(MA1)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の前記振幅値の平均値とし、
前記第2移動平均値(MA2)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の前記振幅値の平均値とし、
前記閾値を、0.1とした場合に、
前記制御部(31)は、前記指標値が前記閾値を上回る場合に前記対処処理を行う
制御装置。
【請求項4】
請求項1の制御装置において、
前記圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有し、
前記圧縮室(68)は、潤滑油によりシールされ、
前記所定の状態は、前記潤滑油による前記圧縮室(68)のシール性が破綻している状態である
制御装置。
【請求項5】
請求項1の制御装置において、
前記圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有し、
前記圧縮機(50)は、潤滑油が溜まる油溜まり部(54)と、前記油溜まり部(54)に溜まる潤滑油を前記圧縮室(68)に供給するための給油経路(100)とを有し、
前記給油経路(100)は、吸込口(101a)を有し、前記吸込口(101a)が前記油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸かることで、前記吸込口(101a)から吸い込まれた潤滑油を前記圧縮室(68)に供給することが可能となり、
前記圧縮室(68)は、前記潤滑油によりシールされ、
前記所定の状態は、前記給油経路(100)の吸込口(101a)が前記油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態である
制御装置。
【請求項6】
請求項1の制御装置において、
前記所定の状態は、液状の作動流体が前記圧縮機構(65)に吸い込まれて前記圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態である
制御装置。
【請求項7】
請求項1の制御装置において、
前記物理量は、前記モータ(60)の回転周波数、前記モータ(60)に印加される電圧、前記モータ(60)に流れる電流、前記圧縮機(50)の振動、前記圧縮機(50)の音、前記圧縮機(50)の周囲の音のいずれかである
制御装置。
【請求項8】
請求項1の制御装置において、
前記特定周波数成分の周波数は、前記モータ(60)の回転周波数に同期した周波数である
制御装置。
【請求項9】
モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を含む冷媒回路(RR1)と、
前記制御装置(30)とを備え、
前記制御装置(30)は、請求項1~8のいずれか1つの制御装置である
冷凍システム。
【請求項10】
モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムを制御する制御方法であって、
前記圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を取得する取得ステップと、
前記取得ステップにおいて取得された物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、前記圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力ステップおよび前記システムの運転条件を変更する変更ステップの少なくとも1つを行う対処ステップとを備える
制御方法。
【請求項11】
請求項10の制御方法をコンピュータに実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータを含む圧縮機とモータに三相電流を出力する駆動装置とを備える空調機の故障徴候検出装置が開示されている。この故障徴候検出装置は、変換部と異常検出部とを備える。変換部は、三相電流の測定値およびモータの回転子の回転角から、モータのq軸電流を算出する。異常検出部は、q軸電流に対して周波数分析を行なうことによって算出される評価値と基準値とを比較することにより、圧縮機の異常を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6173530号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータと圧縮機構とを有する圧縮機の状態には、圧縮機の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する状態がある。しかしながら、特許文献1のように、単に特定周波数成分の大きさと閾値とを比較するだけでは、圧縮機の状態が所定の状態(物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことが困難となる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1の態様は、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムを制御する制御装置に関し、この制御装置は、前記圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、前記圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力処理および前記システムの運転条件を変更する変更処理の少なくとも1つを含む対処処理を行う制御部(31)を備える。
【0006】
本願発明者は、鋭意研究の結果、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)の状態に「圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する状態」があることを見出した。さらに、本願発明者は、このような状態(特定周波数成分が急変化する圧縮機(50)の状態)を、物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて推定することができることを見出した。
【0007】
第1の態様では、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に対処処理を行うことで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0008】
本開示の第2の態様は、第1の態様の制御装置において、10秒間の期間内において得られる前記物理量に含まれる前記特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出される条件下において、前記指標値を、第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値とし、前記第1移動平均値(MA1)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の前記振幅値の平均値とし、前記第2移動平均値(MA2)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の前記振幅値の平均値とし、前記閾値を、前記圧縮機(50)が予め定められた定常状態であるという条件下における10分間の計測期間において得られる前記指標値の最大値の1.1倍以上の値とした場合に、前記制御部(31)は、前記指標値が前記閾値を上回る場合に前記対処処理を行う制御装置である。
【0009】
本願発明者は、鋭意研究の結果、上記の指標値に対する閾値を「圧縮機(50)が予め定められた定常状態であるという条件下における10分間の計測期間において得られる指標値の最大値の1.1倍以上の値」に設定することで、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)であると推定することができることを見出した。
【0010】
第2の態様では、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に対処処理を行うことで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第1の態様の制御装置において、10秒間の期間内において得られる前記物理量に含まれる前記特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出される条件下において、前記指標値を、第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値とし、前記第1移動平均値(MA1)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の前記振幅値の平均値とし、前記第2移動平均値(MA2)を、最新の前記振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の前記振幅値の平均値とし、前記閾値を、0.1とした場合に、前記制御部(31)は、前記指標値が前記閾値を上回る場合に前記対処処理を行う制御装置である。
【0012】
本願発明者は、鋭意研究の結果、上記の指標値に対する閾値を「0.1」に設定することで、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)であると推定することができることを見出した。
【0013】
第3の態様では、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に対処処理を行うことで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0014】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの制御装置において、前記圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有し、前記圧縮室(68)は、潤滑油によりシールされ、前記所定の状態は、前記潤滑油による前記圧縮室(68)のシール性が破綻している状態である制御装置である。
【0015】
本願発明者は、鋭意研究の結果、「圧縮機(50)において潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻すると、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0016】
第4の態様では、圧縮機(50)の状態が「潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻している状態」である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0017】
本開示の第5の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの制御装置において、前記圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有し、前記圧縮機(50)は、潤滑油が溜まる油溜まり部(54)と、前記油溜まり部(54)に溜まる潤滑油を前記圧縮室(68)に供給するための給油経路(100)とを有し、前記給油経路(100)は、吸込口(101a)を有し、前記吸込口(101a)が前記油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸かることで、前記吸込口(101a)から吸い込まれた潤滑油を前記圧縮室(68)に供給することが可能となり、前記圧縮室(68)は、前記潤滑油によりシールされ、前記所定の状態は、前記給油経路(100)の吸込口(101a)が前記油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態である制御装置である。
【0018】
本願発明者は、鋭意研究の結果、「圧縮機(50)において給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からなくなると、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻し、その結果、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0019】
第5の態様では、圧縮機(50)の状態が「給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態」である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0020】
本開示の第6の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つの制御装置において、前記所定の状態は、液状の作動流体が前記圧縮機構(65)に吸い込まれて前記圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態である制御装置である。
【0021】
本願発明者は、鋭意研究の結果、「圧縮機(50)において液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮されると、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0022】
第6の態様では、圧縮機(50)の状態が「液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態」である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0023】
本開示の第7の態様は、第1~第6の態様のいずれか1つの制御装置において、前記物理量は、前記モータ(60)の回転周波数、前記モータ(60)に印加される電圧、前記モータ(60)に流れる電流、前記圧縮機(50)の振動、前記圧縮機(50)の音、前記圧縮機(50)の周囲の音のいずれかである制御装置である。
【0024】
本開示の第8の態様は、第1~第7の態様のいずれか1つの制御装置において、前記特定周波数成分の周波数は、前記モータ(60)の回転周波数に同期した周波数である制御装置である。
【0025】
本開示の第9の態様は、冷凍システムに関し、この冷凍システムは、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を含む冷媒回路(RR1)と、前記制御装置(30)とを備え、前記制御装置(30)は、第1~第8の態様のいずれか1つの制御装置である。
【0026】
本開示の第10の態様は、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムを制御する制御方法に関し、この制御方法は、前記圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を取得する取得ステップと、前記取得ステップにおいて取得された物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、前記圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力ステップおよび前記システムの運転条件を変更する変更ステップの少なくとも1つを行う対処ステップとを備える。
【0027】
第11の態様では、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に対処ステップが行われることで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0028】
本開示の第11の態様は、第10の態様の制御方法をコンピュータに実行させる制御プログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実施形態の駆動システムの構成を例示するブロック図である。
図2図2は、圧縮機の内部構成を例示する縦断面図である。
図3図3は、油量と特定周波数成分との関係を例示するグラフである。
図4図4は、油量異常の発生前後における特定周波数成分の時間的変化を例示するグラフである。
図5図5は、油量正常時における特定周波数成分の時間的変化と潤滑油による圧縮室のシール性の破綻の発生時時における特定周波数成分の時間的変化とを例示するグラフである。
図6図6は、液圧縮時の特定周波数成分の時間的変化を例示するグラフである。
図7図7は、通常運転時における特定周波数成分の時間的変化と液圧縮の発生時における特定周波数成分の時間的変化とを例示するグラフである。
図8図8は、制御部による推定処理を例示するフローチャートである。
図9図9は、第1推定処理について説明するためのグラフである。
図10図10は、第2推定処理について説明するためのグラフである。
図11図11は、第3推定処理について説明するためのグラフである。
図12図12は、第1移動平均値と第2移動平均値を例示するグラフである。
図13図13は、第4推定処理について説明するためのグラフである。
図14図14は、冷凍システムの構成を例示する配管系統図である。
図15図15は、特定周波数成分の振幅値の導出について説明するためのグラフである。
図16図16は、圧縮機の状態に応じた指標値の変動を例示するグラフである。
図17図17は、2シリンダ型の圧縮機におけるトルクの時間的変化を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して実施の形態を詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0031】
(実施形態)
図1は、実施形態の駆動システム(10)の構成を例示する。駆動システム(10)は、電源(5)から供給された電力を用いてモータ(60)を駆動する。モータ(60)は、圧縮機(50)に搭載される。圧縮機(50)は、モータ(60)の他に、圧縮機構(65)を有する。圧縮機構(65)は、モータ(60)により駆動され、作動流体を吸い込んで圧縮し、圧縮された作動流体を吐出する。例えば、作動流体は、冷媒である。
【0032】
この例では、電源(5)は、三相交流電源であり、モータ(60)は、三相交流モータである。例えば、モータ(60)は、IPMモータ(Interior Permanent Magnet Motor)である。駆動システム(10)は、機器(1)に搭載される。例えば、機器(1)は、空気調和機の室外機である。駆動システム(10)は、モータ駆動装置(20)と、制御装置(30)とを備える。
【0033】
〔モータ駆動装置〕
モータ駆動装置(20)は、モータ(60)を駆動する。具体的には、モータ駆動装置(20)は、電源(5)から供給された電力を所定の周波数および電圧を有する出力交流電力(この例では三相交流電力)に変換し、出力交流電力をモータ(60)に供給する。この例では、モータ駆動装置(20)は、コンバータ(21)と、直流部(22)と、インバータ(23)とを有する。
【0034】
コンバータ(21)は、電源(5)から供給された電力を整流する。この例では、コンバータ(21)は、電源(5)から供給された交流電力を全波整流する。例えば、コンバータ(21)は、複数の整流ダイオードがブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路により構成される。
【0035】
直流部(22)は、電源(5)から供給される電源電力に応じた直流電力を生成する。この例では、直流部(22)は、コンデンサを有し、コンバータ(21)の出力を平滑化する。
【0036】
インバータ(23)は、複数のスイッチング素子を有し、複数のスイッチング素子のスイッチング動作により直流部(22)の出力を所定の周波数および電圧を有する出力交流電力(三相交流電力)に変換する。インバータ(23)は、直流部(22)により生成された直流電力をスイッチング動作により交流電力に変換する変換部の一例である。
【0037】
この例では、インバータ(23)は、ブリッジ結線された6つのスイッチング素子と、6つのスイッチング素子にそれぞれ逆並列に接続された6つの還流ダイオードとを有する。詳しく説明すると、インバータ(23)は、それぞれが直列に接続された2つのスイッチング素子からなる3つのスイッチングレグを有する。それらの3つのスイッチングレグの中点(具体的には上アーム側のスイッチング素子と下アーム側のスイッチング素子との接続点)は、モータ(60)の3つの巻線(U相,V相,W相の巻線)にそれぞれ接続される。
【0038】
〔各種センサ〕
モータ駆動装置(20)には、相電流検出部(41)や電気角周波数検出部(42)などの各種センサが設けられる。各種センサにより検出された各種情報は、制御装置(30)に送信される。具体的には、各種センサの検出信号は、後述する制御部(31)に送信される。各種センサは、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を得るための情報を検出する検出部の一例である。また、駆動システム(10)および後述する冷凍システム(RR)にも、各種の物理量を取得するための各種のセンサが設けられる。
【0039】
相電流検出部(41)は、モータ(60)の3つの巻線(図示を省略)をそれぞれ流れる三相の相電流(U相電流(iu)とV相電流(iv)とW相電流(iw))を検出する。例えば、相電流検出部(41)は、三相の相電流(iu,iv,iw)の全部を検出するものであってもよいし、三相の相電流(iu,iv,iw)のうち2つの相電流を検出し、その検出された二相の相電流に基づいて残りの1つの相電流を導出するものであってもよい。また、相電流検出部(41)は、直流部(22)に設けられたシャント抵抗(図示省略)により検出された直流電流とスイッチングパターンから三相の相電流(iu,iv,iw)を導出してもよい。
【0040】
電気角周波数検出部(42)は、モータ(60)の電気角周波数(ω)を検出する。なお、電気角周波数検出部(42)は、必須の構成ではなく、モータ(60)の電気角周波数(ω)は他の方法で算出およびセンサレスにより推定されても良い。
【0041】
〔制御装置(状態推定装置)〕
制御装置(30)は、圧縮機(50)の状態を推定する。制御装置(30)は、圧縮機(50)の状態を推定する状態推定装置の一例である。制御装置(30)における処理(圧縮機(50)の状態の推定に関連する処理)は、圧縮機(50)の状態を推定する状態推定方法の一例である。また、制御装置(30)における処理(圧縮機(50)を備えたシステムの制御に関連する処理)は、圧縮機(50)を備えたシステムを制御する制御方法の一例である。
【0042】
この例では、制御装置(30)は、圧縮機(50)の状態を推定し、その推定された圧縮機(50)の状態に応じた処理を行う。また、制御装置(30)は、モータ(60)を制御する。具体的には、制御装置(30)は、モータ駆動装置(20)を制御することでモータ(60)を制御する。
【0043】
〔制御部〕
制御装置(30)は、制御部(31)を備える。制御部(31)は、各種の処理を行う。具体的には、制御部(31)は、機器(1)の各部から情報およびデータを取得し、それらの情報およびデータに基づいて、各種の処理を行う。制御部(31)による処理については、後で詳しく説明する。
【0044】
例えば、制御部(31)は、プロセッサと、プロセッサと電気的に接続されてプロセッサを動作させるためのプログラムを記憶するメモリとを含む。プロセッサによりプログラムが実行されることで、制御部(31)の各種の機能が実現される。なお、制御部(31)は、コンピュータの一例であり、上記のプログラムは、状態推定プログラムの一例であり、制御プログラムの一例でもある。
【0045】
〔制御部による処理〕
この例では、制御部(31)は、推定処理と、制御処理と、対処処理とを行う。
【0046】
〔推定処理〕
推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態を推定する。具体的には、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態を推定する。例えば、特定周波数成分の時間的変化の大きさは、特定周波数成分の単位時間当たりの変化量で示される。推定処理では、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急上昇または急降下)する状態」であるか否かが推定される。推定処理については、後で詳しく説明する。
【0047】
〔制御処理〕
制御処理において、制御部(31)は、モータ駆動装置(20)を制御してモータ(60)を制御する。具体的には、制御部(31)は、モータ(60)の電気角周波数(ω)の指令値などの目標指令値、モータ駆動装置(20)に設けられた各種センサの検出信号などを入力する。そして、制御部(31)は、目標指令値、各種センサの検出信号などに基づいて、インバータ(23)のスイッチング動作を制御してインバータ(23)からモータ(60)に供給される交流電力を制御する。
【0048】
〔対処処理〕
この例では、制御部(31)は、推定処理において、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化する状態」であると推定すると、対処処理を行う。対処処理は、圧縮機(50)の「特定周波数成分が急変化する状態」に対処するための処理であり、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化する状態」であることを示す第1情報を出力する出力処理、モータ(60)の運転条件を変更する変更処理の少なくとも1つを含む。
【0049】
出力処理の例としては、以下の第1出力処理、第2出力処理、第3出力処理、これらの組合せなどが挙げられる。第1出力処理は、リモートコントローラなどに設けられた表示装置(図示を省略)に第1情報を出力することにより第1情報を表示装置に表示させる処理である。第2出力処理は、機器(1)の動作を制御する制御部(図示省略)に第1情報を出力することにより、異常状態に対処するための動作を制御部に行わせる処理である。第3出力処理は、クラウド上のデータ蓄積部(図示省略)に第1情報をアップロードする処理である。
【0050】
変更処理の例としては、以下の第1変更処理、第2変更処理、第3変更処理、これらの組合せなどが挙げられる。第1変更処理は、モータ(60)を停止させる処理である。第2変更処理は、モータ(60)を加速させる処理である。第3変更処理は、モータ(60)を減速させる処理である。
【0051】
〔圧縮機の詳細〕
図2に示すように、圧縮機(50)は、全密閉型のスクロール圧縮機である。この圧縮機(50)は、ケーシング(51)と、モータ(60)と、圧縮機構(65)と、第1支持部(80)と、第2支持部(85)とを備える。モータ(60)と圧縮機構(65)と第1支持部(80)と第2支持部(85)とは、ケーシング(51)に収容される。
【0052】
〈ケーシング〉
ケーシング(51)は、両端が閉塞された円筒状の密閉容器であり、その軸方向が上下方向となっている。ケーシング(51)の内部空間には、上から下へ向かって順に、圧縮機構(65)と、第1支持部(80)と、モータ(60)と、第2支持部(85)とが配置される。また、ケーシング(51)の底部には、潤滑油(冷凍機油)が貯留される油溜まり部(54)が形成されている。
【0053】
ケーシング(51)は、吸入管(52)と、吐出管(53)とを有する。吸入管(52)は、ケーシング(51)の頂部を貫通して圧縮機構(65)に接続され、圧縮機(50)の機外から低圧の作動流体を圧縮機構(65)に導く。吐出管(53)は、ケーシング(51)の胴部を貫通してケーシング(51)の内部空間(第2支持部(85)の下方の空間)に開口している。吐出管(53)は、圧縮室(68)から吐出された後、ケーシング(51)の第2支持部(85)の下方の空間に導かれた高圧の作動流体を、圧縮機(50)の機外へ導く。このような構成により、ケーシング(51)の第2支持部(85)の下方の空間(油溜まり部(54)を含む)には、圧縮室(68)から吐出された高圧の作動流体の圧力が作用する。
【0054】
〈モータ〉
モータ(60)は、固定子(61)と、回転子(62)とを有する。固定子(61)は、ケーシング(51)の胴部に固定される。回転子(62)は、固定子(61)の内側に配置される。また、回転子(62)には、駆動軸(70)が挿通される。
【0055】
〈第1支持部〉
第1支持部(80)は、本体部(81)と、第1軸受部(82)とを備える。本体部(81)は、肉厚の円板状に形成され、ケーシング(51)に固定される。本体部(81)の中央部には、クランク室(81a)が形成される。クランク室(81a)は、本体部(81)の前面(図2における上面)に開口する円柱状の窪みである。第1軸受部(82)は、本体部(81)の背面(図2における下面)から突出する円筒状に形成され、本体部(81)の中央部に配置される。第1軸受部(82)には、駆動軸(70)を挿通するための貫通孔が形成される。この貫通孔には、後述する第1軸受(91)が嵌め込まれる。
【0056】
〈第2支持部〉
第2支持部(85)は、第2軸受部(86)と、三つの脚部(87)とを備える。第2軸受部(86)は、厚肉の円筒状に形成される。第2軸受部(86)には、後述する第2軸受(92)が嵌め込まれる。脚部(87)は、第2軸受部(86)から放射状に延びている。第2支持部(85)の脚部(87)の突端は、ケーシング(51)の胴部に固定される。
【0057】
〈圧縮機構〉
圧縮機構(65)は、スクロール型の流体機械である。圧縮機構(65)は、固定スクロール(66)と、旋回スクロール(67)とを有する。固定スクロール(66)と旋回スクロール(67)は、それぞれのラップが互いに噛み合わされて圧縮室(68)を形成する。
【0058】
固定スクロール(66)は、固定側鏡板部(66a)と、固定側ラップ(66b)と、外周壁部(66c)とを備える。固定側鏡板部(66a)は、固定スクロール(66)の上部に位置する比較的肉厚の平板状の部分である。固定側ラップ(66b)は、渦巻き壁状に形成されて固定側鏡板部(66a)の前面(図2における下面)から突出する。外周壁部(66c)は、固定側ラップ(66b)の外周側を囲むように形成され、固定側鏡板部(66a)の前面(図2における下面)から突出する。外周壁部(66c)は、ケーシング(51)に固定された第1支持部(80)に固定される。外周壁部(66c)には、吸入ポート(sp)が形成され、吸入管(52)が差し込まれている。固定側鏡板部(66a)には、吐出ポート(dp)が形成される。
【0059】
旋回スクロール(67)は、旋回側鏡板部(67a)と、旋回側ラップ(67b)と、ボス部(67c)とを備える。旋回側鏡板部(67a)は、概ね円形の平板状に形成される。旋回側ラップ(67b)は、渦巻き壁状に形成されて旋回側鏡板部(67a)の前面(図2における上面)から突出する。ボス部(67c)は、旋回側鏡板部(67a)の背面(図2における下面)から突出する円筒状に形成され、旋回側鏡板部(67a)の中央部に配置される。ボス部(67c)には、後述する第3軸受(93)が嵌め込まれる。
【0060】
(駆動軸〉
駆動軸(70)は、主軸部(71)と、偏心軸部(72)とを備える。主軸部(71)は、主ジャーナル部(71a)と、副ジャーナル部(71b)と、中間軸部(71c)とを備える。駆動軸(70)は、偏心軸部(72)が主軸部(71)の上方に位置する姿勢で配置される。
【0061】
主軸部(71)では、その一端から他端へ向かって順に、主ジャーナル部(71a)と、中間軸部(71c)と、副ジャーナル部(71b)とが配置される。主ジャーナル部(71a)と、中間軸部(71c)と、副ジャーナル部(71b)とは、それぞれが円柱状に形成されて、互いに同軸に配置される。主ジャーナル部(71a)は、中間軸部(71c)よりも大径であり、副ジャーナル部(71b)は、中間軸部(71c)よりも小径である。また、主ジャーナル部(71a)は、中間軸部(71c)よりも上側に位置し、副ジャーナル部(71b)は、中間軸部(71c)よりも下側に位置する。
【0062】
主ジャーナル部(71a)は、第1支持部(80)の第1軸受部(82)に嵌め込まれた第1軸受(91)の内側に挿通され、第1軸受(91)に支持される。副ジャーナル部(71b)は、第2支持部(85)の第2軸受部(86)に嵌め込まれた第2軸受(92)の内側に挿通され、第2軸受(92)に支持される。中間軸部(71c)は、モータ(60)の回転子(62)の内側に挿通され、回転子(62)に固定されている。
【0063】
偏心軸部(72)は、比較的短い軸状に形成され、主ジャーナル部(71a)の端面から突出する。偏心軸部(72)は、主軸部(71)よりも上端側に位置する。偏心軸部(72)の軸心は、主軸部(71)の軸心と実質的に平行であり、主軸部(71)の軸心に対して偏心している。偏心軸部(72)は、旋回スクロール(67)のボス部(67c)に嵌め込まれた第3軸受(93)の内側に挿通され、第3軸受(93)に支持される。
【0064】
(軸受〉
第1軸受(91)と第2軸受(92)と第3軸受(93)は、いずれも円筒形状に形成され、駆動軸(70)を支持する滑り軸受である。
【0065】
第1軸受(91)は、第1支持部(80)の第1軸受部(82)の内側に嵌め込まれる。第1軸受(91)は、内側に駆動軸(70)の主ジャーナル部(71a)が差し込まれ、駆動軸(70)の主ジャーナル部(71a)を支持する。
【0066】
第2軸受(92)は、第2支持部(85)の第2軸受部(86)の内側に嵌め込まれる。第2軸受(92)は、内側に駆動軸(70)の副ジャーナル部(71b)が差し込まれ、駆動軸(70)の副ジャーナル部(71b)を支持する。
【0067】
第3軸受(93)は、旋回スクロール(67)のボス部(67c)の内側に嵌め込まれる。第3軸受(93)は、内側に駆動軸(70)の偏心軸部(72)が差し込まれ、駆動軸(70)の偏心軸部(72)を支持する。
【0068】
(給油経路〉
圧縮機(50)には、給油経路(100)が設けられる。給油経路(100)は、ケーシング(51)の底部に形成された油溜まり部(54)に貯留された潤滑油(冷凍機油)を摺動部分へ供給するための経路(通路)である。給油経路(100)は、主給油経路(101)と、副給油経路(102)とを有する。
【0069】
主給油経路(101)は、駆動軸(70)内に形成されている。主給油経路(101)は、駆動軸(70)の軸方向の一端から他端(図2では下端から上端)に亘って軸方向に延びる本体経路と、その本体経路から「駆動軸(70)の第1軸受(91)との摺動部分」と「駆動軸(70)の第2軸受(92)との摺動部分」と「駆動軸(70)の第3軸受(93)との摺動部分」のそれぞれに向かって分岐する分岐経路とを有する。主給油経路(101)は、駆動軸(70)と軸受(具体的には第1軸受(91)と第2軸受(92)と第3軸受(93))との摺動部分に、油溜まり部(54)に貯留された潤滑油(冷凍機油)を導く。
【0070】
副給油経路(102)は、第1支持部(80)と固定スクロール(66)とに亘るように形成され、クランク室(81a)に貯留された潤滑油を、圧縮機構(65)の圧縮室(68)(具体的には固定スクロール(66)と旋回スクロール(67)との隙間)に導く。副給油経路(102)は、一端がクランク室(81a)において開口し、他端が固定スクロール(66)の外周壁部(66c)と旋回スクロール(67)の旋回側鏡板部(67a)との隙間において開口するように形成される。クランク室(81a)には、主給油経路(101)を経由して油溜まり部(54)から駆動軸(70)と第3軸受(93)との摺動部分に導かれ、その摺動部分を潤滑した後にその摺動部分から流出した潤滑油が貯留される。副給油経路(102)は、駆動軸(70)と第3軸受(93)の摺動部分を潤滑した後の潤滑油を、クランク室(81a)から圧縮機構(65)に導く。圧縮機構(65)に導かれた潤滑油は、圧縮室(68)(具体的には固定スクロール(66)と旋回スクロール(67)との隙間)をシールする。
【0071】
このような構成により、圧縮機構(65)から吐出された作動流体の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(54)の潤滑油は、主給油経路(101)の吸込口(101a)を経由して主給油経路(101)に流入し、主給油経路(101)を流れて駆動軸(70)と軸受(具体的には第1軸受(91)と第2軸受(92)と第3軸受(93))との摺動部分に供給される。駆動軸(70)と第3軸受(93)との摺動部分に供給された潤滑油は、駆動軸(70)と第3軸受(93)との摺動部分を潤滑した後に、クランク室(81a)に貯留される。クランク室(81a)に貯留された潤滑油は、副給油経路(102)を経由して、圧縮機構(65)の圧縮室(68)(具体的には固定スクロール(66)と旋回スクロール(67)の隙間)に供給され、圧縮室(68)をシールする。
【0072】
〔本願発明者により得られた知見〕
本願発明者は、鋭意研究の結果、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)の状態に「圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する状態」があることを見出した。
【0073】
具体的には、本願発明者は、「圧縮機(50)において潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻すると、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。特に、本願発明者は、「圧縮機(50)において給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からなくなると、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻し、その結果、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0074】
また、本願発明者は、「圧縮機(50)において液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮されると、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0075】
さらに、本願発明者は、上記のような状態(特定周波数成分が急変化する圧縮機(50)の状態)を、物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて推定することができることを見出した。
【0076】
以下、本願発明者により得られた知見について、詳しく説明する。なお、以下では、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量が「電流ベクトル振幅(Ia)」であり、物理量に含まれる特定周波数成分が「モータ(60)の機械角周波数の1倍の周波数を有する周波数成分(以下では「1次成分」と記載)」である場合を例に挙げて説明する。「電流ベクトル振幅(Ia)」は、圧縮機(50)のトルクと相関のある物理量の一例であり、モータ(60)の電圧または電流と相関のある物理量の一例でもある。なお、モータ(60)の機械角周波数は、モータ(60)の回転周波数に相当する。
【0077】
〔潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻〕
まず、図2を参照して、圧縮室(68)のシール性の破綻について説明する。圧縮機(50)において、給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からなくなると、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻し、圧縮機(50)のトルク脈動の振幅が急に小さくなる。具体的には、トルクにおけるモータ60)の回転周波数の1次成分の大きさが急に小さくなる。そのため、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻すると、電流ベクトル振幅(Ia)におけるモータ60)の回転周波数の1次成分が急に小さくなる。
【0078】
次に、図3および図4を参照して、油溜まり部(54)に溜まる油の量の変化に応じた特定周波数成分の変化について説明する。以下の説明において、「油量」は、油溜まり部(54)に溜まる油の量のことである。「油量正常」は、給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸かる状態のことである。「油量異常」は、給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態のことである。
【0079】
図3に示すように、油量が次第に減少していくに連れて、特定周波数成分の振幅値が次第に減少していく。なお、油量は、圧縮機(50)の運転状況に応じて変化する。図4に示すように、時刻(t1)において油量正常から油量異常になると、特定周波数成分の振幅値が急降下する。
【0080】
図3および図4に示すように、油量異常時における特定周波数成分の振幅値は、油量異常時における特定周波数成分の振幅値よりも小さい。そのため、油量正常と油量異常とを判別するために、特定周波数成分の大きさ(振幅値)と閾値とを比較することが考えられる。しかしながら、特定周波数成分の大きさと比較される閾値を設定するために、特定周波数成分に含まれる誤差(センサの誤差、圧力および温度の影響による誤差など)を考慮する必要があるので、上記の閾値を適切に設定することが困難となる場合がある。
【0081】
例えば、油量正常時における特定周波数成分の中央値(例えば想定される変化幅の中央値)が「1.37A」であり、油量異常時における特定周波数成分の中央値が「0.75A」である場合、油量正常と油量異常とを判別するための閾値は「0.75A」と「1.37A」との間に設定されることが望ましい。しかしながら、油量正常時における特定周波数成分の値は、誤差(センサの誤差、圧力および温度の影響による誤差など)や油量の影響により幅を持ち、その最小値は「0.85A」となる。これと同様に、油量異常時における特定周波数成分の値も、誤差の影響により幅を持ち、その最大値は「1.23A」となる。そのため、上記の閾値を適切に設定することができない。なお、誤差や油量の影響により特定周波数成分の値が変化するのは、誤差や油量の影響により物理量(圧縮機(50)の状態と相関のある物理量)の波形が変化するためである。
【0082】
なお、図5に示すように、潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻の発生時における特定周波数成分の時間的変化(図5の例では期間(TA)における時間的変化)は、油量正常時の油量の増減に伴う特定周波数成分の時間的変化(図5の例では期間(TB)における時間的変化)よりも大幅に大きい。図5の縦軸は、期間(TB)の始端における特定周波数成分の振幅値を基準(100%)とする特定周波数成分の振幅値の百分率(基準に対する割合)を示す。例えば、潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻の発生時における特定周波数成分の時間的変化は「30秒間で40%減少する変化(1.333%/秒)」であり、油量正常時の油量の増減に伴う特定周波数成分の時間的変化は「1800秒間で11%減少する変化(0.006%/秒)」である。
【0083】
したがって、特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻するときの特定周波数成分の急変化(具体的には急降下)を識別することができる。例えば、特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す値と閾値とを比較することで、圧縮機(50)の状態が「潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻している状態」であるか否かを推定することができる。
【0084】
また、特定周波数成分の時間的変化の大きさと比較される閾値を設定するために、特定周波数成分に含まれる誤差(センサの誤差、圧力および温度の影響による誤差など)を考慮しなくてもよい。そのため、特定周波数成分の大きさと比較される閾値を設定する場合よりも、閾値の設定を適切に行うことが可能である。
【0085】
具体的には、圧力および温度の変化に伴う特定周波数成分の時間的変化は、潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻の発生時における特定周波数成分の時間的変化よりも十分に小さい。また、圧力および温度の変化に伴う特定周波数成分の時間的変化は、「潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻の発生時における特定周波数成分の時間的変化」と「油量正常時の油量の増減に伴う特定周波数成分の時間的変化」との差よりも十分に小さい。
【0086】
なお、特定周波数成分に含まれる誤差を低減するために、センサの固体毎または圧力および温度毎に閾値を個別に準備することが考えられる。しかしながら、この手法では、状態推定のアルゴリズムが複雑になり、演算負荷が増加するので、プロセッサなどの演算器のコストが高くなってしまう。一方、実施形態における手法(特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づく状態推定)では、特定周波数成分の時間的変化の大きさに対して単一の閾値を設定するだけでもよいので、演算負荷の増加を抑制することができ、既存のプロセッサをそのまま利用することができる。
【0087】
また、特定周波数成分の油量による影響を把握するために、油量を検出するセンサを別途設けることが考えられる。しかしながら、この手法では、センサの設置によりコストが高くなってしまう。一方、実施形態における手法(特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づく状態推定)では、油量を検出するセンサを別途設けなくてもよいので、センサの設置によるコストの増加を回避することができる。
【0088】
また、実施形態における手法(特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づく状態推定)は、周波数成分に着目することで異常発生時の電流波形の変化をとらえることができている。このように周波数成分に着目して監視することで、実効値や平均値を監視する場合よりも、精度よく異常を検出することができる。
【0089】
〔液圧縮〕
次に、図6を参照して、液圧縮について説明する。圧縮機(50)において、液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮されると、圧縮機(50)のトルク脈動の振幅が急に大きくなる。具体的には、トルクにおけるモータ60)の回転周波数の1次成分の大きさが急に大きくなる。そのため、液圧縮が発生すると、電流ベクトル振幅(Ia)におけるモータ60)の回転周波数の1次成分が急に大きくなる。
【0090】
図6に示すように、時刻(t1)において液圧縮が発生すると、特定周波数成分の振幅値が急上昇する。その後、圧縮機構(65)内から液状の作動流体がなくなると、特定周波数成分の振幅値が元に戻る。
【0091】
また、図6に示すように、液圧縮時における特定周波数成分の振幅値は、通常運転時における特定周波数成分の振幅値よりも大きい。そのため、通常運転と液圧縮とを判別するために、特定周波数成分の大きさ(振幅値)と閾値とを比較することが考えられる。しかしながら、特定周波数成分の大きさと比較される閾値を設定するために、特定周波数成分に含まれる誤差(センサの誤差、圧力および温度の影響による誤差など)を考慮する必要があるので、上記の閾値を適切に設定することが困難となる場合がある。
【0092】
例えば、通常運転時における特定周波数成分の中央値(例えば想定される変化幅の中央値)が「1.37A」であり、液圧縮時における特定周波数成分の中央値が「1.96A」である場合、通常運転と液圧縮とを判別するための閾値は「1.37A」と「1.96A」の間に設定されることが望ましい。しかしながら、通常運転時における特定周波数成分の値は、誤差(センサの誤差、圧力および温度の影響による誤差など)や油量の影響により幅を持ち、その最大値は「1.89A」となる。これと同様に、液圧縮時における特定周波数成分の値も、誤差や油量の影響により幅を持ち、その最小値は「1.44A」となる。そのため、上記の閾値を適切に設定することができない。
【0093】
なお、図7に示すように、液圧縮の発生時における特定周波数成分の時間的変化(図7の例では期間(TC)における時間的変化)は、通常運転時における特定周波数成分の時間的変化(図7の例では期間(TD)における時間的変化)よりも大幅に大きい。図7の縦軸は、期間(TD)の始端における特定周波数成分の振幅値を基準(100%)とする特定周波数成分の振幅値の百分率(基準に対する割合)を示す。例えば、液圧縮の発生時における特定周波数成分の時間的変化は「20秒間で43%増加する変化(2.15%/秒)」であり、通常運転時における特定周波数成分の時間的変化は「1800秒間で11%増加または減少する変化(0.006%/秒)」である。
【0094】
したがって、特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、液圧縮時における特定周波数成分の急変化(具体的には急上昇)を識別することができる。例えば、特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す値と閾値とを比較することで、圧縮機(50)の状態が「液圧縮状態」であるか否かを推定することができる。
【0095】
また、特定周波数成分の時間的変化の大きさと比較される閾値を設定するために、特定周波数成分に含まれる誤差(センサの誤差、圧力および温度の影響による誤差など)を考慮しなくてもよい。そのため、特定周波数成分の大きさと比較される閾値を設定する場合よりも、閾値の設定を適切に行うことが可能である。
【0096】
具体的には、圧力および温度の変化に伴う特定周波数成分の時間的変化は、液圧縮の発生時における特定周波数成分の時間的変化よりも十分に小さい。また、圧力および温度の変化に伴う特定周波数成分の時間的変化は、「液圧縮の発生時における特定周波数成分の時間的変化」と「通常運転時における特定周波数成分の時間的変化」との差よりも十分に小さい。
【0097】
〔推定処理の詳細〕
推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化する状態」であるか否かを推定する。例えば、「特定周波数成分が急変化する状態」は、「特定周波数成分の単位時間当たりの変化量が予め定められた基準量を上回る状態」であるといえる。
【0098】
なお、この例では、物理量は、圧縮機(50)のトルクと相関のある物理量である。物理量は、モータ(60)の電圧または電流と相関のある物理量である。制御部(31)は、物理量を示す信号に基づいて推定処理を行う。物理量を示す信号の具体例については、後で詳しく説明する。
【0099】
また、この例では、特定周波数成分の周波数は、モータ(60)の機械角周波数に同期した周波数である。言い換えると、特定周波数成分の周波数は、モータ(60)の機械角周波数に応じた周波数である。具体的には、特定周波数成分の周波数は、モータ(60)の機械角周波数の整数倍、または、モータ(60)の機械角周波数のN/M倍である。なお、M,Nは整数であり、N<Mである。
【0100】
また、この例では、推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「潤滑油による圧縮室のシール性が破綻している状態」であるか否かを推定する。または、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態」であるか否かを推定する。
【0101】
言い換えると、この例では、制御部(31)により推定される圧縮機(50)の「特定周波数成分が急変化する状態」は、「潤滑油による圧縮室のシール性が破綻している状態」または「液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態」である。
【0102】
なお、この例では、「潤滑油による圧縮室のシール性が破綻している状態」は、具体的には「給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からないことで潤滑油による圧縮室のシール性が破綻している状態」である。制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態」であるか否かを推定してもよい。
【0103】
〔推定処理の流れ〕
次に、図8を参照して、推定処理の流れについて説明する。制御部(31)は、以下の処理を繰り返し行う。
【0104】
〈ステップ(S1):取得ステップ〉
まず、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量(例えば電流ベクトル振幅(Ia))を取得する。この例では、制御部(31)は、所定の導出時間毎に、各種センサにより得られた情報(圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を得るための情報)に基づいて、物理量を取得する。このような処理が繰り返し行われることで、導出時間毎に物理量が得られる。
【0105】
なお、推定処理において「圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を得るための情報」を取得するためのセンサは、制御処理において利用されるセンサ(例えば電流センサなど)として兼用されてもよいし、制御処理において利用されるセンサとは別に設けられたセンサであってもよい。
【0106】
〈ステップ(S2):推定ステップ〉
次に、制御部(31)は、ステップ(S1)において得られた物理量に含まれる特定周波数成分(例えば1次成分)の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態を推定する。この例では、制御部(31)は、所定の推定時間毎に、ステップ(S1)において得られた物理量に基づいて、その物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す値(以下では「指標値」と記載)を導出する。そして、制御部(31)は、指標値と閾値とを比較し、その比較の結果に応じて、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化する状態」であるか否かを推定する。このような処理が繰り返し行われることで、推定時間毎に、指標値が導出され、その指標値に基づいて圧縮機(50)の状態が推定される。推定処理の具体例については、後で詳しく説明する。
【0107】
〔実施形態の効果〕
以上のように、実施形態の駆動システム(10)では、制御部(31)は、推定処理において、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態を推定する。
【0108】
上記の構成によれば、特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて圧縮機(50)の状態を推定することで、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化する状態」であるか否かを推定することができる。
【0109】
また、実施形態の駆動システム(10)では、圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有する。圧縮室(68)は、潤滑油によりシールされる。制御部(31)は、推定処理において、圧縮機(50)の状態が「潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻している状態」であるか否かを推定する。
【0110】
上記の構成によれば、特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態が「潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻している状態」であることを推定することができる。
【0111】
また、実施形態の駆動システム(10)では、圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有する。圧縮機(50)は、潤滑油が溜まる油溜まり部(54)と、油溜まり部(54)に溜まる潤滑油を圧縮室(68)に供給するための給油経路(100)とを有する。給油経路(100)は、吸込口(101a)を有し、吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸かることで、吸込口(101a)から吸い込まれた潤滑油を圧縮室(68)に供給することが可能となる。圧縮室(68)は、潤滑油によりシールされる。制御部(31)は、推定処理において、圧縮機(50)の状態が「給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態」であるか否かを推定する。
【0112】
上記の構成によれば、特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態が「給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態」であることを推定することができる。
【0113】
また、実施形態の駆動システム(10)では、制御部(31)は、推定処理において、圧縮機(50)の状態が「液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態」であるか否かを推定する。
【0114】
上記の構成によれば、特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて、圧縮機(50)の状態が「液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態」であることを推定することができる。
【0115】
(物理量を示す信号の具体例)
次に、「モータ(60)の電圧または電流と相関のある物理量を示す信号」の具体例について説明する。この信号は、直流信号と、交流信号とに大別される。
【0116】
〔直流信号の具体例〕
直流信号の例としては、「モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)に相関する信号」と、「モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に相関する信号」と、「モータ(60)の電力に相関する信号」が挙げられる。
【0117】
直流信号の別の例としては、「モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(60)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電流(iγ,iδ)」と、「モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電圧(Vγ,Vδ)」と、「モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電流(iζ,iη)」と、「モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(60)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電圧(Vζ,Vη)」が挙げられる。
【0118】
直流信号のさらに別の例としては、「永久磁石による電機子鎖交磁束に合わせて座標変換したdq軸磁束(λd,λq)」と、「永久磁石の電機子鎖交磁束と電機子反作用を合成した電機子鎖交磁束ベクトルの大きさλ0」が挙げられる。
【0119】
なお、以下の説明において、「モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)」は、相電流検出部(41)により検出されるモータ(60)の相電流(iu,iv,iw)のことである。「モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)」は、制御部(31)の内部において用いられる電圧指令値に示されるモータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)、または、モータ駆動装置(20)に設けられた相電圧検出部(図示を省略)により検出されるモータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)のことである。「モータ(60)の電気角周波数(ω)」は、電気角周波数検出部(42)により検出されるモータ(60)の電気角周波数(ω)のことである。
【0120】
〔1.モータの相電流に相関する信号の具体例〕
モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)に相関する信号の具体例としては、電流ベクトル振幅(Ia),電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2),相電流振幅(I),相電流実効値(Irms)などが挙げられる。
【0121】
なお、電流ベクトル振幅(Ia)および電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(60)の三相の相電流(iu,iv,iw)の各々の二乗値の総和に応じた値の一例である。モータ(60)の三相の相電流(iu,iv,iw)の各々の二乗値の総和に応じた値は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)の大きさの整数乗に比例する値の一例である。
【0122】
(1)電流ベクトル振幅
電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電流ベクトル振幅(Ia)は、次の式のように表現できる。
【0123】
【数1】
【0124】
(2)電流ベクトル振幅の二乗値
電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、次の式のように表現できる。
【0125】
【数2】
【0126】
(3)相電流振幅
相電流振幅(I)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)のうち1つの相電流(例えばU相電流(iu))と、相電流の位相(ωi)とに基づいて導出される。なお、相電流の位相(ωi)は、例えば、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。具体的には、相電流振幅(I)は、次の式のように表現できる。
【0127】
【数3】
【0128】
(4)相電流実効値
相電流実効値(Irms)は、相電流振幅(I)に基づいて導出される。具体的には、相電流実効値(Irms)は、次の式のように表現できる。
【0129】
【数4】
【0130】
(5)その他
以上の説明では、電流ベクトル振幅(Ia)がモータ(60)の三相の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される場合を例に挙げたが、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(60)の三相の相電流(iu,iv,iw)のうち二相の相電流に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ駆動装置(20)に設けられた直流電流検出部(例えばシャント抵抗、図示を省略)により検出されるインバータ(23)の直流電流に基づいて導出されてもよい。電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)についても同様である。
【0131】
〔2.モータの相電圧に相関する信号の具体例〕
モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)と相関する信号の具体例として、電圧ベクトル振幅(Va),電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2),相電圧振幅(V),相電圧実効値(Vrms)などが挙げられる。
【0132】
なお、電圧ベクトル振幅(Va)および電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(60)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)の各々の二乗値の総和に応じた値の一例である。モータ(60)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)の各々の二乗値の総和に応じた値は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の大きさの整数乗に比例する値の一例である。
【0133】
(1)電圧ベクトル振幅
電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電圧ベクトル振幅(Va)は、次の式のように表現できる。
【0134】
【数5】
【0135】
(2)電圧ベクトル振幅の二乗値
電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、次の式のように表現できる。
【0136】
【数6】
【0137】
(3)相電圧振幅
相電圧振幅(V)は、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)のうち1つの相電圧(例えばU相電圧(Vu))と、相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。なお、相電圧の位相(ωv)は、例えば、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。具体的には、相電圧振幅(V)は、次の式のように表現できる。
【0138】
【数7】
【0139】
(4)相電圧実効値
相電圧実効値(Vrms)は、相電圧振幅(V)に基づいて導出される。具体的には、相電圧実効値(Vrms)は、次の式のように表現できる。
【0140】
【数8】
【0141】
(5)その他
以上の説明では、電圧ベクトル振幅(Va)がモータ(60)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される場合を例に挙げたが、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(60)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)のうち二相の相電圧に基づいて導出されてもよい。電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)についても同様である。
【0142】
〔3.モータの電力に相関する信号の具体例〕
モータ(60)の電力に相関する信号の例として、瞬時電力(p),瞬時虚電力(q),皮相電力(S),有効電力(P),無効電力(Q)などが挙げられる。
【0143】
(1)瞬時電力
瞬時電力(p)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)とに基づいて導出される。また、瞬時電力(p)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時電力(p)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時電力(p)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)とに基づいて導出されてもよい。具体的には、瞬時電力(p)は、次の式のように表現できる。
【0144】
【数9】
【0145】
(2)瞬時虚電力
瞬時虚電力(q)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)およびβ相電流(iβ)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)およびβ相電圧(Vβ)とに基づいて導出される。また、瞬時虚電力(q)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)およびT軸電流(iT)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)およびT軸電圧(VT)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時虚電力(q)は、モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)およびq軸電流(iq)と、モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)とに基づいて導出されてもよい。具体的には、瞬時虚電力(q)は、次の式のように表現できる。
【0146】
【数10】
【0147】
(3)皮相電力
皮相電力(S)は、相電圧実効値(Vrms)と相電流実効値(Irms)とに基づいて導出される。具体的には、皮相電力(S)は、次の式のように表現できる。
【0148】
【数11】
【0149】
(4)有効電力
有効電力(P)は、相電圧実効値(Vrms)と、相電流実効値(Irms)と、相電圧と相電流との位相差(φ1)とに基づいて導出される。相電圧と相電流との位相差(φ1)は、1つの相電圧(例えばU相電圧(Vu))と1つの相電流(例えばU相電流(iu))との位相差であり、相電流の位相(ωi)および相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。具体的には、有効電力(P)は、次の式のように表現できる。
【0150】
【数12】
【0151】
(5)無効電力
無効電力(Q)は、相電圧実効値(Vrms)と、相電流実効値(Irms)と、相電圧と相電流との位相差(φ1)とに基づいて導出される。相電圧と相電流との位相差(φ1)は、例えば、U相電圧(Vu)とU相電流(iu)との位相差であり、相電流の位相(ωi)および相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。具体的には、無効電力(Q)は、次の式のように表現できる。
【0152】
【数13】
【0153】
〔4.相電流を相電流の位相で座標変換して得られる電流〕
モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(60)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電流(iγ,iδ)は、次の式のように表現できる。
【0154】
【数14】
【0155】
〔5.相電圧を相電圧の位相で座標変換して得られる電圧〕
モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電圧(Vγ,Vδ)は、次の式のように表現できる。
【0156】
【数15】
【0157】
〔6.相電流を相電圧の位相で座標変換して得られる電流〕
モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電流(iζ,iη)は、次の式のように表現できる。
【0158】
【数16】
【0159】
〔7.相電圧を相電流の位相で座標変換して得られる電圧〕
モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(60)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電圧(Vζ,Vη)は、次の式のように表現できる。
【0160】
【数17】
【0161】
〔6.dq軸磁束と電機子鎖交磁束ベクトルの大きさ〕
永久磁石による電機子鎖交磁束に合わせて座標変換したdq軸磁束(λd,λq)と、永久磁石の電機子鎖交磁束と電機子反作用を合成した電機子鎖交磁束ベクトルの大きさλ0は、次の式のように表現できる。次の式の「Ld」はd軸インダクタンスであり、「Lq」はq軸インダクタンスである。
【0162】
【数18】
【0163】
〔7.直流信号のその他の例〕
また、直流信号は、モータ(60)の相電流や相電圧や線電流や線間電圧を3相2相変換し、さらに、回転座標変換を施した直流信号であってもよい。例えば、直流信号は、モータ(60)の相電流を3相2相変換したα軸電流およびβ軸電流を、モータ(60)の回転子の磁極の向きに基づく角度で回転座標変換したd軸電流およびq軸電流であってもよい。また、直流信号は、α軸電流およびβ軸電流を、モータ(60)の回転子の一次磁束の向きに基づく角度で回転座標変換したM軸電流およびT軸電流であってもよい。
【0164】
また、直流信号は、モータ駆動装置(20)のコンバータ(21)に入力される電力、コンバータ(21)から出力される電力、直流部(22)から出力される電力、コンバータ(21)と直流部(22)との間を流れる電流、直流部(22)とインバータ(23)の間を流れる電流などであってもよい。
【0165】
〔交流信号の具体例〕
交流信号の例としては、「モータ(60)の相電流(iu,iv,iw)」と、「モータ(60)の相電圧(Vu,Vv,Vw)」と、「各相の鎖交磁束(Ψfu,Ψfv,Ψfw)」とが挙げられる。
【0166】
各相の鎖交磁束(Ψfu,Ψfv,Ψfw)は、次の式のように表現できる。
【0167】
【数19】
【0168】
交流信号の別の例としては、上記の交流信号を三相二相変換した固定座標の電流、電圧鎖交磁束が挙げられる。
【0169】
また、交流信号は、モータ(60)の線電流、線間電圧などであってもよい。また、交流信号は、相電流や相電圧や線電流や線間電圧を3相2相変換した2相の交流電流(例えばα軸電流およびβ軸電流)や2相の交流電圧であってもよい。また、交流電流は、商用電源系統(具体的には交流電源(5))とモータ駆動装置(20)のコンバータ(21)との間を流れる電流であってもよい。
【0170】
(推定処理の具体例)
次に、推定処理の具体例について説明する。推定処理の例としては、以下の4つの推定処理(第1~第4推定処理)が挙げられる。以下では、特定周波数成分の振幅に基づいて推定処理が行われる場合を例に挙げて説明する。以下の説明における「特定周波数成分」は「特定周波数成分の振幅値」のことである。
【0171】
また、以下では、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す値を「指標値」と記載する。例えば、推定処理において、制御部(31)は、予め定められた処理周期毎に、指標値を導出し、その指標値と閾値との比較の結果に応じて、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化する状態」であるか否かを推定する。
【0172】
〔第1推定処理〕
まず、図9を参照して、第1推定処理について説明する。第1推定処理における指標値は、「第1フィルタにより処理された特定周波数成分を示す第1フィルタ値(F1)」を「第2フィルタにより所定された特定周波数成分を示す第2フィルタ値(F2)」で除算して得られる割合値である。第2フィルタの時定数は、第1フィルタの時定数よりも大きい。
【0173】
なお、第1フィルタの時定数が大きすぎると、異常時(例えば潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻時)に現れる特定周波数成分の時間的変化(20秒~30秒間の時間的変化)が検出されないおそれがある。そのため、例えば、第1フィルタの時定数は、「21.556秒未満」に設定されてもよく、具体的には「3.59秒」に設定されてもよい。
【0174】
また、第2フィルタの時定数が小さすぎると、第1フィルタの時定数に近くなり、異常時の指標値(上記の割合値)の変化が小さくなる。逆に、第2フィルタの時定数が大きすぎると、圧縮機(50)のモータ(60)の回転数と圧力と温度の時間的変化の影響が大きくなるおそれがある。そのため、例えば、第2フィルタの時定数は、「21.556秒以上且つ215.56秒以下」に設定されてもよく、具体的には「64.67秒」に設定されてもよい。
【0175】
第1推定処理では、制御部(31)は、第1推定処理における指標値(この例では「第1フィルタ値(F1)」を「第2フィルタ値(F2)」で除算して得られる割合値)が予め定められた閾値(この例では特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を下回るか否かを判定する。指標値が閾値を下回る場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急降下)する状態」であると推定する。一方、指標値が閾値を下回らない場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急降下)する状態」ではないと推定する。
【0176】
なお、第1推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急上昇する状態」であるか否かを推定してもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急上昇する状態」であると推定してもよい。
【0177】
また、第1推定処理における指標値は、「第1フィルタ値(F1)」から「第2フィルタ値(F2)」を減算して得られる差分値であってもよい。
【0178】
または、第1推定処理における指標値は、「第2フィルタ値(F2)」を「第1フィルタ値(F1)」で除算して得られる割合値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第1推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急降下)する状態」であると推定してもよい。
【0179】
または、第1推定処理における指標値は、「第2フィルタ値(F2)」から「第1フィルタ値(F1)」を減算して得られる差分値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第1推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急降下)する状態」であると推定してもよい。
【0180】
〔第2推定処理〕
次に、図10を参照して、第2推定処理について説明する。第2推定処理における指標値は、「第1時刻(tk)を終端とする所定期間(Ta)内の特定周波数成分の平均値である第1時刻平均値(A1)」から「第1時刻(tk)よりも時間(T)だけ前の第2時刻(tk-1)を終端とする所定期間(Ta)内の特定周波数成分の平均値である第2時刻平均値(A2)」を減算して得られる差分値である。
【0181】
なお、所定時間(Ta)が長すぎると、異常時(例えば潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻時)に現れる特定周波数成分の時間的変化(20秒~30秒間の時間的変化)が検出されないおそれがある。そのため、例えば、所定期間(Ta)は、「60秒未満」に設定されてもよく、具体的には「5秒」に設定されてもよい。
【0182】
また、時間(T)が短すぎると、異常時の指標値(上記の差分値)の変化が小さくなる。逆に、時間(T)が長すぎると、圧縮機(50)のモータ(60)の回転数と圧力と温度の時間的変化の影響が大きくなるおそれがある。そのため、例えば、時間(T)は、「60秒以上且つ600秒以下」に設定されてもよく、具体的には「60秒」に設定されてもよい。
【0183】
第2推定処理では、制御部(31)は、第2推定処理における指標値(この例では「第1時刻平均値(A1)」から「第2時刻平均値(A2)」を減算して得られる差分値)が予め定められた閾値(この例では特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を上回るか否かを判定する。指標値が閾値を上回る場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急上昇)する状態」であると推定する。一方、指標値が閾値を上回らない場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急上昇)する状態」ではないと推定する。
【0184】
なお、第2推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急降下する状態」であるか否かを推定してもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を下回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急降下する状態」であると推定してもよい。
【0185】
また、第2推定処理における指標値は、「第1時刻平均値(A1)」を「第2時刻平均値(A2)」で除算して得られる割合値であってもよい。
【0186】
または、第2推定処理における指標値は、「第2時刻平均値(A2)」から「第1時刻平均値(A1)」を減算して得られる差分値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第2推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を下回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急上昇)する状態」であると推定してもよい。
【0187】
または、第2推定処理における指標値は、「第2時刻平均値(A2)」を「第1時刻平均値(A1)」で除算して得られる割合値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第2推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を下回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急上昇)する状態」であると推定してもよい。
【0188】
〔第3推定処理〕
次に、図11および図12を参照して、第3推定処理について説明する。第3推定処理における指標値は、「所定時刻(ti)(例えば現在時刻)を終端とする第1期間(T1)内における特定周波数成分の移動平均値である第1移動平均値(MA1)」を「所定時刻(ti)を終端とする第2期間(T2)内における特定周波数成分の移動平均値である第2移動平均値(MA2)」で除算して得られる割合値である。第2期間(T2)は、第1期間(T1)よりも長い。
【0189】
なお、第1期間(T1)が長すぎると、異常時(例えば潤滑油による圧縮室(68)のシール性の破綻時)に現れる特定周波数成分の時間的変化(20秒~30秒間の時間的変化)が検出されないおそれがある。そのため、例えば、第1期間(T1)は、「60秒未満」に設定されてもよく、具体的には「10秒」に設定されてもよい。
【0190】
また、第2期間(T2)が短すぎると、異常時の指標値(上記の割合値)の変化が小さくなる。逆に、第2期間(T2)が長すぎると、圧縮機(50)のモータ(60)の回転数と圧力と温度の時間的変化の影響が大きくなるおそれがある。そのため、例えば、第2期間(T2)は、「60秒以上且つ600秒以下」に設定されてもよく、具体的には「180秒」に設定されてもよい。
【0191】
第3推定処理では、制御部(31)は、第3推定処理における指標値(この例では「第1移動平均値(MA1)」を「第2移動平均値(MA2)」で除算して得られる割合値)が予め定められた閾値(この例では特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を上回るか否かを判定する。指標値が閾値を上回る場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急上昇)する状態」であると推定する。一方、指標値が閾値を上回らない場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急上昇)する状態」ではないと推定する。
【0192】
なお、第3推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急降下する状態」であるか否かを推定してもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を下回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急降下する状態」であると推定してもよい。
【0193】
第3推定処理における指標値は、「第1移動平均値(MA1)」から「第2移動平均値(MA2)」を減算して得られる差分値であってもよい。
【0194】
または、第3推定処理における指標値は、「第2移動平均値(MA2)」を「第1移動平均値(MA1)」で除算して得られる割合値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第3推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を下回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急上昇)する状態」であると推定してもよい。
【0195】
または、第3推定処理における指標値は、「第2移動平均値(MA2)」から「第1移動平均値(MA1)」を減算して得られる差分値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第3推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を下回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急上昇)する状態」であると推定してもよい。
【0196】
〔第4推定処理〕
次に、図13を参照して、第4推定処理について説明する。第4推定処理における指標値は、「所定時刻(ti)(例えば現在時刻)における特定周波数成分の瞬時値(X)」を「所定時刻(ti)を終端とする所定期間(Tb)内の特定周波数成分の平均値(AA)」で除算して得られる割合値である。
【0197】
なお、所定期間(Tb)が短すぎると、異常時の指標値(上記の差分値)の変化が小さくなる。逆に所定期間(Tb)が長すぎると、圧縮機(50)のモータ(60)の回転数と圧力と温度の時間的変化の影響が大きくなるおそれがある。そのため、例えば、所定期間(Tb)は、「60秒以上且つ600秒以下」に設定されてもよく、具体的には「180秒」に設定されてもよい。
【0198】
第4推定処理では、制御部(31)は、第4推定処理における指標値(この例では「瞬時値(X)」を「平均値(AA)」で除算して得られる割合値)が予め定められた閾値(この例では特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を下回るか否かを判定する。指標値が閾値を下回る場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急降下)する状態」であると推定する。一方、指標値が閾値を下回らない場合、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(この例では急降下)する状態」ではないと推定する。
【0199】
なお、第4推定処理において、制御部(31)は、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急上昇する状態」であるか否かを推定してもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急上昇を検出するための閾値)を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急上昇する状態」であると推定してもよい。
【0200】
また、第4推定処理における指標値は、「瞬時値(X)」から「平均値(AA)」を減算して得られる差分値であってもよい。
【0201】
または、第4推定処理における指標値は、「平均値(AA)」を「瞬時値(X)」で除算して得られる割合値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第4推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急降下)する状態」であると推定してもよい。
【0202】
または、第4推定処理における指標値は、「平均値(AA)」から「瞬時値(X)」を減算して得られる差分値であってもよい。この場合、例えば、制御部(31)は、第4推定処理における指標値が予め定められた閾値(特定周波数成分の急降下を検出するための閾値)を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が「特定周波数成分が急変化(具体的には急降下)する状態」であると推定してもよい。
【0203】
(冷凍システム)
図14は、冷凍システム(RR)の構成を例示する。冷凍システム(RR)は、冷媒が充填された冷媒回路(RR1)と、モータ駆動装置(20)と、制御装置(30)とを備える。
【0204】
冷媒回路(RR1)は、圧縮機(50)と、放熱器(RR5)と、減圧機構(RR6)と、蒸発器(RR7)とを有する。この例では、減圧機構(RR6)は、膨張弁である。冷媒回路(RR1)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。
【0205】
圧縮機(50)は、圧縮機構(65)と、モータ(60)とを有する。圧縮機構(65)は、駆動軸によりモータ(60)に連結される。モータ(60)は、駆動軸を回転駆動することで圧縮機構(65)を回転駆動する。モータ駆動装置(20)は、モータ(60)を駆動する。
【0206】
冷凍サイクルでは、圧縮機(50)から流出された冷媒は、放熱器(RR5)において放熱する。放熱器(RR5)から流出した冷媒は、減圧機構(RR6)において減圧され、蒸発器(RR7)において蒸発する。そして、蒸発器(RR7)から流出した冷媒は、圧縮機(50)に流入する。
【0207】
この例では、冷凍システム(RR)は、空気調和機である。空気調和機は、冷房専用機であってもよいし、暖房専用機であってもよい。また、空気調和機は、冷房と暖房とを切り換える空気調和機であってもよい。この場合、空気調和機は、冷媒の循環方向を切り換える切換機構(例えば四方切換弁)を有する。また、冷凍システム(RR)は、給湯器、チラーユニット、庫内の空気を冷却する冷却装置などであってもよい。冷却装置は、冷蔵庫、冷凍庫、コンテナなどの内部の空気を冷却する。
【0208】
(実験により得られた知見)
次に、図15および図16を参照して、本願発明者により行われた実験と、その実験により得られた知見とについて説明する。
【0209】
図15に示すように、実験では、10秒間の期間内において得られる物理量(この例では電流ベクトル振幅(Ia))に含まれる「特定周波数成分の振幅値」を、1秒毎に導出した。そして、第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値を「指標値」とした。指標値を式で表現すると、「|1-(MA1/MB2)|」となる。上記の指標値は、第3推定処理における指標値の変形例であるといえる。
【0210】
なお、第1移動平均値(MA1)は、最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の振幅値の平均値である。第2移動平均値(MA2)は、最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の振幅値の平均値である。例えば、第1期間(T1)および第2期間(T2)は、図12のように図示することができる。
【0211】
また、実験では、圧縮機(50)の状態を予め定められた「定常状態」にした。なお、圧縮機(50)の定常状態は、所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)ではない状態であり、予め定められた運転条件(定常的な運転条件)で運転する状態のことである。例えば、圧縮機(50)の定常状態は、以下の条件をすべて満たす状態である。
【0212】
(1)給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸かる
(2)ガス状の作動流体が圧縮機(50)に吸い込まれる
(3)圧縮機(50)のモータ(60)の回転周波数が定常状態である
(4)圧縮機(50)から吐出される作動流体の圧力が定常状態である
(5)圧縮機(50)に吸い込まれる作動流体の圧力が定常状態である
(6)圧縮機(50)から吐出される作動流体の温度が定常状態である
(7)圧縮機(50)に吸い込まれる作動流体の温度が定常状態である
なお、以上の定常状態は、圧縮機(50)の用途などに基づいて定められてもよい。
【0213】
図16に示すように、圧縮機(50)が定常状態である場合に観測される指標値は、「0.1」を下回る値であった。圧縮機(50)が定常状態から所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)になると、指標値は、「0.1」を超えて最大値(例えば3.5程度)まで上昇した。また、圧縮機(50)が定常状態である場合であっても、指標値は、微小に変動している。10分間の計測期間に含まれる指標値を観測すると、指標値の微小変動のピーク(最大値)を観測することができた。
【0214】
また、圧縮機(50)の個体差による影響を検証するために、冷凍システム(RR)に設けられた圧縮機(50)を別の圧縮機(50)(同機種の圧縮機(50))に交換して上記の指標値を観測するという作業を繰り返した。その結果、圧縮機(50)が定常状態である場合における指標値は、圧縮機(50)の個体差に関わらず「0.1」を下回る値であった。
【0215】
以上の実験により、本願発明者は、以下の知見を得た。なお、以下では、10秒間の期間内において得られる物理量に含まれる特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出され、最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の振幅値の平均値を「第1移動平均値(MA1)」とし、最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の振幅値の平均値を「第2移動平均値(MA2)」とし、且つ、第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値を「指標値」とする条件を、「検証条件」と記載する。
【0216】
本願発明者は、上記の検証条件下において、上記の指標値に対する閾値を「圧縮機(50)が予め定められた定常状態であるという条件下における10分間の計測期間において得られる指標値の最大値の1.1倍以上の値」または「0.1」に設定することで、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)であると推定することができることを見出した。
【0217】
なお、第1~第4推定処理の各々における指標値に対する閾値を以下のように設定することで、上記の指標値(第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値)に対する閾値を「0.1」に設定した場合の対処処理と同様のタイミングで対処処理を行うことができる。以下では、「第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値」である指標値を「基準指標値」と記載する。
【0218】
〔第1推定処理における指標値に対する閾値〕
指標値が「第1フィルタ値(F1)を第2フィルタ値(F2)で除算して得られる割合値」である場合、閾値は、「0.89から1.11までの範囲」に設定される。この指標値が上記の範囲から逸脱すると、基準指標値が「0.1」を上回ることになる。
【0219】
また、指標値が「第1フィルタ値(F1)を第2フィルタ値(F2)で除算して得られる割合値と1との差分の絶対値」である場合、閾値は、「0.11」に設定される。この指標値が上記の閾値を上回ると、基準指標値が「0.1」を上回ることになる。
【0220】
〔第2推定処理における指標値に対する閾値〕
指標値が「第1時刻平均値(A1)から第2時刻平均値(A2)を減算して得られる差分値」である場合、閾値は、「-0.25から+0.25までの範囲」に設定される。この指標値が上記の範囲から逸脱すると、基準指標値が「0.1」を上回ることになる。
【0221】
〔第3推定処理における指標値に対する閾値〕
指標値が「第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる割合値」である場合、閾値は、「0.9から1.1までの範囲」に設定される。この指標値が上記の範囲から逸脱すると、基準指標値が「0.1」を上回ることになる。
【0222】
〔第4推定処理における指標値に対する閾値〕
指標値が「特定周波数成分の瞬時値(X)を所定期間(Tb)内の特定周波数成分の平均値(AA)で除算して得られる割合値」である場合、閾値は、「0.69から1.31までの範囲」に設定される。この指標値が上記の範囲から逸脱すると、基準指標値が「0.1」を上回ることになる。
【0223】
また、指標値が「特定周波数成分の瞬時値(X)を所定期間(Tb)内の特定周波数成分の平均値(AA)で除算して得られる割合値と1との差分の絶対値」である場合、閾値は、「0.31」に設定される。この指標値が上記の閾値を上回ると、基準指標値が「0.1」を上回ることになる。
【0224】
(その他の実施形態)
以上の説明では、モータ(60)の状態と相関のある物理量の一例として、モータ(60)の電圧または電流と相関のある物理量を示す信号を挙げたが、これに限定されない。例えば、物理量は、モータ(60)の振動を示す信号であってもよいし、モータ(60)の音を示す信号であってもよい。モータ(60)の振動を示す信号は、圧縮機(50)または機器(1)に設けられた振動センサ(図示省略)により取得されてもよい。モータ(60)の音を示す信号は、圧縮機(50)または機器(1)に設けられたマイクロフォン(図示省略)により取得されてもよい。音は、可聴域内の音であってもよいし、可聴域外の音(超音波)であってもよい。このように、物理量は、モータ(60)の回転周波数、モータ(60)に印加される電圧、モータ(60)に流れる電流、圧縮機(50)の振動、圧縮機(50)の音、圧縮機(50)の周囲の音のいずれかであってもよい。
【0225】
また、以上の説明において、制御部(31)は、ニューラルネットワークまたは機械学習により構築されたアルゴリズム(信号の変化に基づいて状態を推定するためのアルゴリズム)を用いて推定処理をするように構成されてもよい。
【0226】
また、以上の説明において、制御部(31)は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、複数のプロセッサにより実現されてもよい。また、制御部(31)は、通信ネットワークを経由して互いに通信する複数の演算処理装置(コンピュータ)により実現されてもよい。
【0227】
また、以上の説明では、圧縮機(50)が「スクロール圧縮機」である場合を例に挙げたが、これに限定されない。例えば、圧縮機(50)は、ピストンとブレードとが一体に形成されたスイング圧縮機であってもよいし、ピストンとブレードとが別体に形成されたロータリ圧縮機であってもよいし、その他のタイプの回転式圧縮機であってもよい。
【0228】
また、圧縮機(50)は、2つの圧縮室を有する2シリンダ型の圧縮機(スイング圧縮機またはロータリ圧縮機)であってもよい。
【0229】
図17に示すように、2シリンダ型の圧縮機のトルクの脈動周期(通常運転時の脈動周期)は、モータ(60)の回転周期の1/2に対応する周期となる。また、2シリンダ型の圧縮機において、液圧縮が発生すると、圧縮機のトルクの急変化がモータ(60)の回転周期の1/2に応じた周期で現れる。そのため、2シリンダ型の圧縮機では、液圧縮が発生すると、圧縮機(50)のトルクの2次成分が急変化(具体的には急上昇)し、その結果、電流ベクトル振幅(Ia)の2次成分が急変化(具体的には急上昇)する。なお、「2次成分」は、モータ(60)の機械角周波数の2倍の周波数を有する周波数成分のことである。
【0230】
圧縮機(50)が「2シリンダ型の圧縮機」である場合、「推定処理において処理される特定周波数成分」は、「2次成分」であってもよい。これにより、圧縮機(50)の状態が「液圧縮状態」であるか否かを推定することができる。
【0231】
また、以上の説明において、各種センサは、接触式のセンサであってもよいし、非接触式のセンサであってもよい。接触式のセンサは、圧縮機(50)のケーシング(51)に取り付けられてもよいし、圧縮機(50)の付近に配設された配管または電線に取り付けられてもよい。非接触式のセンサは、圧縮機(50)のケーシング(51)に近接する場所、圧縮機(50)の付近に配設された配管または電線に近接する場所、圧縮機(50)が搭載された機器(1)に近接する場所などに取り付けられてもよい。
【0232】
また、以上の説明において、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を得るための情報を検出する検出部は、単一のセンサであってもよいし、複数のセンサの組合せであってもよい。
【0233】
また、以上の説明において、変更処理は、「圧縮機(50)を備えるシステムの運転条件を変更する変更処理」であってもよい。変更処理では、モータ(60)の運転条件だけでなく、圧縮機(50)を備えるシステムに含まれる「モータ(60)を除く他の構成要素」の運転条件を変更してもよい。変更処理の例としては、モータ(60)を停止させる処理、モータ(60)を加速させる処理、モータ(60)を減速させる処理、モータ(60)に流れる電流を減少させる処理、モータ(60)に流れる電流を増加させる処理、減圧機構(RR6)を構成する膨張弁(電動弁)の開度を増加させる処理、減圧機構(RR6)を構成する膨張弁(電動弁)の開度を減少させる処理、圧縮機(50)から吐出される作動流体の圧力を上昇させる処理、圧縮機(50)から吐出される作動流体の圧力を低下させる処理、圧縮機(50)から吐出される作動流体の温度を上昇させる処理、圧縮機(50)から吐出される作動流体の温度を低下させる処理、作動流体とともに流体流路を流れる潤滑油を圧縮機(50)に戻す処理、放熱器(RR5)または蒸発器(RR7)に空気を搬送するファン(図示省略)の回転数を上げる処理、放熱器(RR5)または蒸発器(RR7)に空気を搬送するファンの回転数を下げる処理などが挙げられる。
【0234】
また、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【0235】
(実施形態の総括)
以上の説明を纏めると、実施形態の制御装置は、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムを制御する制御装置に関する。この制御装置は、制御部(31)を備える。制御部(31)は、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力処理およびシステムの運転条件を変更する変更処理の少なくとも1つを含む対処処理を行う。
【0236】
本願発明者は、鋭意研究の結果、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)の状態に「圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する状態」があることを見出した。さらに、本願発明者は、このような状態(特定周波数成分が急変化する圧縮機(50)の状態)を、物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさに基づいて推定することができることを見出した。
【0237】
上記の構成では、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に対処処理を行うことで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0238】
なお、制御部(31)は、10秒間の期間内において得られる物理量に含まれる特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出される条件下において、指標値を「第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値」とし、第1移動平均値(MA1)を「最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の振幅値の平均値」とし、第2移動平均値(MA2)を「最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の振幅値の平均値」とし、閾値を「圧縮機(50)が予め定められた定常状態であるという条件下における10分間の計測期間において得られる指標値の最大値の1.1倍以上の値」とした場合に、指標値が閾値を上回る場合に対処処理を行うように構成されてもよい。
【0239】
本願発明者は、鋭意研究の結果、上記の指標値に対する閾値を「圧縮機(50)が予め定められた定常状態であるという条件下における10分間の計測期間において得られる指標値の最大値の1.1倍以上の値」に設定することで、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)であると推定することができることを見出した。
【0240】
上記の構成では、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に対処処理を行うことで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0241】
また、制御部(31)は、10秒間の期間内において得られる物理量に含まれる特定周波数成分の振幅値が1秒毎に導出される条件下において、指標値を「第1移動平均値(MA1)を第2移動平均値(MA2)で除算して得られる値と1との差分の絶対値」とし、第1移動平均値(MA1)を「最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする10秒間の第1期間(T1)内において導出された10個の振幅値の平均値」とし、第2移動平均値(MA2)を「最新の振幅値が導出された時刻(ti)を終端とする3分間の第2期間(T2)内において導出された180個の振幅値の平均値」とし、閾値を「0.1」とした場合に、指標値が閾値を上回る場合に対処処理を行うように構成されてもよい。
【0242】
本願発明者は、鋭意研究の結果、上記の指標値に対する閾値を「0.1」に設定することで、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)であると推定することができることを見出した。
【0243】
上記の構成では、上記の指標値が上記の閾値を上回る場合に対処処理を行うことで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0244】
また、圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有してもよい。圧縮室(68)は、潤滑油によりシールされてもよい。所定の状態は、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻している状態であってもよい。
【0245】
本願発明者は、鋭意研究の結果、「圧縮機(50)において潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻すると、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0246】
上記の構成では、圧縮機(50)の状態が「潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻している状態」である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0247】
また、圧縮機構(65)は、作動流体を圧縮するための圧縮室(68)を有してもよい。圧縮機(50)は、潤滑油が溜まる油溜まり部(54)と、油溜まり部(54)に溜まる潤滑油を圧縮室(68)に供給するための給油経路(100)とを有してもよい。給油経路(100)は、吸込口(101a)を有し、吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸かることで、吸込口(101a)から吸い込まれた潤滑油を圧縮室(68)に供給することが可能となってもよい。圧縮室(68)は、潤滑油によりシールされてもよい。所定の状態は、給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態であってもよい。
【0248】
本願発明者は、鋭意研究の結果、「圧縮機(50)において給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からなくなると、潤滑油による圧縮室(68)のシール性が破綻し、その結果、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0249】
上記の構成では、圧縮機(50)の状態が「給油経路(100)の吸込口(101a)が油溜まり部(54)に溜まる潤滑油に浸からない状態」である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0250】
また、所定の状態は、液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態であってもよい。
【0251】
本願発明者は、鋭意研究の結果、「圧縮機(50)において液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮されると、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分が急変化する」という現象を見出した。
【0252】
上記の構成では、圧縮機(50)の状態が「液状の作動流体が圧縮機構(65)に吸い込まれて圧縮機構(65)において圧縮される液圧縮状態」である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【0253】
また、実施形態の制御方法は、モータ(60)と圧縮機構(65)とを有する圧縮機(50)を備えるシステムを制御する制御方法に関する。この制御方法は、取得ステップと、対処ステップとを備える。取得ステップでは、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量を取得する。対処ステップでは、取得ステップにおいて取得された物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に、圧縮機(50)の状態が所定の状態であることを示す情報を出力する出力ステップおよびシステムの運転条件を変更する変更ステップの少なくとも1つを行う。
【0254】
上記の方法では、圧縮機(50)の状態と相関のある物理量に含まれる特定周波数成分の時間的変化の大きさを示す指標値と予め定められた閾値との関係が所定の関係となる場合に対処ステップが行われることで、圧縮機(50)の状態が所定の状態(特定周波数成分が急変化する状態)である場合に対処するための処理を適切に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0255】
以上説明したように、本開示は、制御技術として有用である。
【符号の説明】
【0256】
1 機器
5 電源
10 駆動システム
20 モータ駆動装置
21 コンバータ
22 直流部
23 インバータ(変換部)
30 制御装置(状態推定装置)
31 制御部
41 相電流検出部
42 電気角周波数検出部
50 圧縮機
54 油溜まり部
60 モータ
65 圧縮機構
68 圧縮室
100 給油経路
101a 吸込口
RR 冷凍システム
RR1 冷媒回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17