IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイキン工業株式会社の特許一覧

特開2024-146926精製された1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の製造方法、及びHFC-143を含有する組成物
<>
  • 特開-精製された1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の製造方法、及びHFC-143を含有する組成物 図1
  • 特開-精製された1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の製造方法、及びHFC-143を含有する組成物 図2
  • 特開-精製された1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の製造方法、及びHFC-143を含有する組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146926
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】精製された1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の製造方法、及びHFC-143を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/386 20060101AFI20241004BHJP
   C07C 19/08 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C07C17/386
C07C19/08
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057794
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023059376
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】石原 魁人
(72)【発明者】
【氏名】田渕 昭一
(72)【発明者】
【氏名】野口 敦史
(72)【発明者】
【氏名】中尾 友紀
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD13
4H006BB11
4H006BB12
4H006BB19
4H006BC11
4H006BD35
4H006BD53
4H006BD60
4H006EA02
(57)【要約】
【課題】本開示は、HFC-143を効率よく精製する方法、及びHFC-143を含有する組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】精製されたHFC-143の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)及び/又は1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)と、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)とを含む組成物を、溶媒Aと接触させ、
前記組成物から前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程
を含み、
前記溶媒Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、
精製されたHFC-143の製造方法。
【請求項2】
更に、
(2)前記抽出蒸留工程(1)を経て抽出蒸留塔の塔底から得られる前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと前記溶媒Aとを含有する組成物を蒸留して、
前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、前記溶媒Aとに分離する蒸留工程
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記抽出蒸留工程(1)を行う第1の蒸留塔を使用した前記抽出蒸留工程を、0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留工程(2)を行う第2の蒸留塔を使用した前記蒸留工程を、0.05~3MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
更に、
(3)前記抽出蒸留工程(1)で使用した前記溶媒Aを回収し、回収した前記溶媒Aを前記抽出蒸留工程(1)に再循環させる溶媒回収工程
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アミンは、一般式:NR
〔式中、R、R及びRは、同一又は異なって水素又は置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を示す。但し、R、R及びRが全て水素である場合を除く。〕
で表される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記アミンは、-10~160℃の標準沸点を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記アミンは、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン、及びジ-イソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アミンは、ジエチルアミン、及びトリエチルアミンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、及びモノフルオロベンゼンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)及び/又は1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)と、物質Aとを含有する組成物であって、
該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下であり、
前記物質Aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下であり、
前記物質Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、組成物。
【請求項12】
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、物質Aとを含有する組成物であって、
該二成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記物質Aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下であり、
前記物質Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、組成物。
【請求項13】
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)とを含有する組成物。
【請求項14】
前記HFC-143とHCFC-123aとを含有する二成分の総濃度は、前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記HCFC-123aの含有量は、前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、更に、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)を含み、
該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、
且つ前記HCFC-133bの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下である、請求項13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、精製された1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)の製造方法、及びHFC-143を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
HFC-143は、HFO-1132を得るための中間体として有用であるばかりでなく、それ自身が冷媒としても有用なものである(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第1994/11460号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、HFC-143を効率よく精製する方法、及びHFC-143を含有する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、例えば、以下の項に記載の発明を包含する。
項1.
(1)1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)及び/又は1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)と、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)とを含む組成物を、溶媒Aと接触させ、
前記組成物から前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程
を含み、
前記溶媒Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、
精製されたHFC-143の製造方法。
【0006】
項2.
更に、
(2)前記抽出蒸留工程(1)を経て抽出蒸留塔の塔底から得られる前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、前記溶媒Aとを含有する組成物を蒸留して、
前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、前記溶媒Aとに分離する蒸留工程
を含む、上記項1に記載の製造方法。
【0007】
項3.
前記抽出蒸留工程(1)を行う第1の蒸留塔を使用した前記抽出蒸留工程を、0.05~5MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、上記項1又は2に記載の製造方法。
【0008】
項4.
前記蒸留工程(2)を行う第2の蒸留塔を使用した前記蒸留工程を、0.05~3MPaG(ゲージ圧)の圧力下で行う、上記項2又は3に記載の製造方法。
【0009】
項5.
更に、
(3)前記抽出蒸留工程(1)で使用した前記溶媒Aを回収し、回収した前記溶媒Aを前記抽出蒸留工程(1)に再循環させる溶媒回収工程
を含む、上記項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【0010】
項6.
前記アミンは、一般式:NR
〔式中、R、R及びRは、同一又は異なって水素又は置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を示す。但し、R、R及びRが全て水素である場合を除く。〕
で表される、上記項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【0011】
項7.
前記アミンは、-10~160℃の標準沸点を有する、上記項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【0012】
項8.
前記アミンは、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン、及びジ-イソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種である、上記項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【0013】
項9.
前記アミンは、ジエチルアミン、及びトリエチルアミンからなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【0014】
項10.
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、及びモノフルオロベンゼンからなる群から選択される少なくとも一種である、上記項1~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【0015】
項11.(冷媒1)
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)及び/又は1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)と、物質Aとを含有する組成物であって、
該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下であり、
前記物質Aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下であり、
前記物質Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、組成物。
【0016】
項12.(組成物1)
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、物質Aとを含有する組成物であって、該二成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記物質Aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下であり、
前記物質Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である、組成物。
【0017】
項13.(冷媒2)
1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)とを含有する組成物。
【0018】
項14.(冷媒2)
前記HFC-143とHCFC-123aとを含有する二成分の総濃度は、前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記HCFC-123aの含有量は、前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下である、前記項13に記載の組成物。
【0019】
項15.(冷媒2)
前記組成物は、更に、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)を含み、
該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ
前記HCFC-133bの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下である、上記項13に記載の組成物。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、HFC-143を効率よく精製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施態様のプロセスの概要(実施例1)を示す図である。
図2】本発明の実施態様のプロセスの概要を示す図である。
図3】本発明の実施態様のプロセスの概要(実施例11)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示者らは、鋭意研究を行った結果、HCFC-133bと、HFC-143とを含む組成物を特定の溶媒と接触させ、前記組成物から前記HCFC-133bが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を含む製造方法によって、HFC-143を効率よく精製できることを見出した。
【0023】
本開示は、かかる知見に基づき、更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0024】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲(即ち「以上、以下」)を意味する。
【0025】
本明細書において、共沸組成物とは、一定圧力下で液相と気相との組成間に差がなく、あたかも一つの物質のように挙動する組成物を意味する。
【0026】
本明細書において、共沸様組成物とは、共沸組成を形成できる組成物において、共沸組成に近似する組成を有する組成物であって、共沸組成物に近い挙動を示す組成を意味する。共沸様組成物は組成の変化をほとんど伴わずに蒸留及び/又は還流され得る。従って、共沸様組成物は、共沸組成物とほぼ同等に取り扱える。なお、共沸様組成物の一つの特徴として、圧力-組成図において沸点曲線と露点曲線の圧力の差が5%以内であることが挙げられる。
【0027】
本明細書において、標準沸点とは、標準大気圧1013.25hPaにおける沸点を意味する。
【0028】
本明細書において、ゲージ圧とは、大気圧を基準とした相対圧力のことであり、絶対圧から大気圧を差し引いた圧力差を意味する。本明細書において、ゲージ圧は例えばMPaGのように「G」を付して表記する。他方、「G」を付さない場合は絶対圧である。
【0029】
本明細書において、冷媒の「純度」とは、ガスクロマトグラフィーでの定量分析による成分比率(モル%、又は質量%)を意味する。
【0030】
本明細書において、主成分とは、好ましくは85モル%~99.9モル%、より好ましくは90モル%~99.9モル%、更に好ましくは95モル%~99.9モル%、特に好ましくは99モル%~99.9モル%含まれている成分を意味する。
【0031】
本明細書において、抽出蒸留とは、標準沸点が極めて近く、通常の蒸留による分離が困難な2成分又は3成分からなり比揮発度(相対揮発度)が1に近い混合物又は共沸組成をもつ組み合わせの混合物に、抽出溶媒を加えて抽出用混合物とし、元の2成分又は3成分の相対揮発度を1から隔たらせることにより、分離を容易にする蒸留操作を意味する。なお、相対揮発度が1の場合は、蒸留による分離は不可能になる。
【0032】
本明細書において、比揮発度(α)とは、少なくとも着目成分A及び着目成分Bを含む組成物が気液平衡状態にある場合において、液相成分Aのモル分率をx 、液相成分Bのモル分率をx とし、液相と平衡状態にある気相成分Aのモル分率をy 、気相成分Bのモル分率をy とした場合、成分Aの成分Bに対する比揮発度は、
αA→B=(y /x )/(y /x
と定義される。
【0033】
本明細書において成分AをHFC-143、成分BをHCFC-133bとした場合は、成分Aの成分Bに対する比揮発度、つまり「HFC-143のHCFC-133bに対する比揮発度」は、α143→133bと表記する。
【0034】
本明細書において成分AをHFC-143、成分BをHCFC-123aとした場合は、成分Aの成分Bに対する比揮発度、つまり「HFC-143のHCFC-123aに対する比揮発度」は、α143→123aと表記する。
【0035】
本開示は、以下の実施形態を含む。
【0036】
本開示の製造方法は、精製されたHFC-143の製造方法であって、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143とを含む組成物を溶媒Aと接触させ、前記組成物から前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aが低減された組成物を得る抽出蒸留工程を有する。
【0037】
この中でも特に、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143とを含む組成物(「抽出蒸留用組成物」ともいう)が共沸組成物又は共沸様組成物である場合に本開示の製造方法を適用することが好ましい。
【0038】
前記溶媒Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0039】
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0040】
(1)(抽出蒸留工程(1))
本開示の製造方法における抽出蒸留工程は、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143とを含む組成物(抽出蒸留用組成物)を、溶媒Aと接触させ、前記組成物から前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aが低減された組成物を得る工程である。言い換えれば、上記抽出蒸留工程は、溶媒Aの存在下、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143とを含む組成物(抽出蒸留用組成物)を抽出蒸留して、前記組成物からHCFC-133b及び/又はHCFC-123aが低減された組成物を得る工程である。
【0041】
なお、本開示において、抽出蒸留工程における「低減」とは、抽出蒸留用組成物中の特定化合物(HCFC-133b及び/又はHCFC-123a)の含有割合を減少させることを意味する。
【0042】
上記抽出蒸留用組成物は、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143とをこれらの濃度の総和で、好ましくは99.5質量%以上、より好ましくは99.7質量%以上、より一層好ましくは99.8質量%以上、更に好ましくは99.9質量%以上含有する。
【0043】
上記抽出蒸留用組成物としては、例えばHFC-143の製造過程において、必要に応じて事前の分離工程(任意の蒸留工程など)を経て分離容易な副生成物を除去後、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143とを好ましくは上記濃度の総和で含有する組成物(特に共沸組成物又は共沸様組成物)を適用することができる。
【0044】
上記抽出蒸留用組成物は、HFC-143、並びにHCFC-133b及び/又はHCFC-123aのみからなることが好ましいが、上記抽出蒸留用組成物の調製過程の条件により不可避的不純物が含有されていることは許容される。
【0045】
なお、HCFC-133b(標準沸点:16℃)及び/又はHCFC-123a(標準沸点:28℃)と、HFC-143(標準沸点:5℃)とは共沸又は共沸様を示し、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、HFC-143との共沸組成物又は共沸様組成物は、HCFC-133b及び/又はHCFC-123a、並びにHFC-143のいずれの沸点よりも低い温度の沸点を有する。
【0046】
0.1013MPaにおいて共沸組成は、HFC-143/HCFC-133b=80/20、温度4.4℃の沸点を有する。
【0047】
0.1013MPaにおいて共沸組成は、HFC-143/HCFC-123a=93/7、温度4.5℃の沸点を有する。
【0048】
上記抽出蒸留工程に供給される抽出蒸留用組成物の組成は、HFC-143のモル比率として80%以上99.999%以下が好ましく、90%以上99.999%以下がより好ましい。
【0049】
上記抽出蒸留工程は、上記抽出蒸留用組成物を、溶媒Aと接触させて抽出蒸留することにより、HFC-143を含み、実質的にHCFC-133b及び/又はHCFC-123aを含まない組成物を得る工程であることが好ましい。
【0050】
本明細書において、実質的にHCFC-133b及び/又はHCFC-123aを含まないとは、上記抽出蒸留工程で得られた組成物中のHCFC-133b及び/又はHCFC-123aの含有量が、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、特に好ましくは0.1質量%未満であることを意味する。
【0051】
上記抽出蒸留工程において、抽出溶媒としては、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である溶媒Aを使用し、前記ハロゲン化合物はクロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0052】
本開示における抽出溶媒は、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種のみからなることが好ましいが、抽出蒸留工程に影響しない範囲で不可避的不純物が含有されていることは許容される。以下、前記溶媒Aを単に本開示における抽出溶媒ともいう。
【0053】
上記アミンは抽出溶媒となる液状アミンであればよいが、一般式:NR
〔式中、R、R及びRは、同一又は異なって水素又は置換基を有していてもよい炭素数1~3の炭化水素基を示す。但し、R、R及びRが全て水素である場合を除く。〕
で表されるであることが好ましい。
【0054】
また、上記アミンは、-10~160℃の標準沸点を有することが好ましい。
【0055】
上記アミンとしては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、モノ-イソプロピルアミン、及びジ-イソプロピルアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0056】
これらのアミンの中でも、蒸留塔の運転条件が操作容易な圧力、温度に調整し易いジエチルアミン、及びトリエチルアミンの少なくとも一種がより好ましい。
【0057】
これらのアミンのCasNo.及び標準沸点を下記表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
これらのアミンは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
上記ハロゲン化合物は抽出溶媒となる液状のハロゲン化合物であって、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0061】
これらのハロゲン化合物の中でも、入手容易性、取り扱い性、運転温度等の観点から特にクロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、及びモノフルオロベンゼンからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。
【0062】
これらのハロゲン化合物のCasNo.及び標準沸点を下記表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
これらのハロゲン化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
上記抽出蒸留工程において、抽出溶媒としては、アミン、及びハロゲン化合物以外に、トルエンも使用できる。
【0066】
トルエンのCasNo.及び標準沸点を下記表3に示す。
【0067】
【表3】
【0068】
溶媒Aにおける上記アミンと上記ハロゲン化合物と上記トルエンとの混合割合も限定されず、上記アミンのみであってもよく、上記ハロゲン化合物のみであってもよく、上記トルエンのみであってもよく、これらの二種以上の任意の割合の混合物であってもよい。
【0069】
上記抽出蒸留工程における標準沸点の温度範囲に関しては、抽出溶媒と抽出蒸留工程における分離対象となる化合物が、単蒸留、ストリッピング等で分離できる程度の温度差、通常20℃以上の温度差があればよいが、標準沸点が高すぎると抽出溶媒自体が分解されるおそれがある。
【0070】
それ故、抽出溶媒の標準沸点は、抽出蒸留を効率良く行う観点から、好ましくは30~135℃、より好ましくは35~120℃、更に好ましくは40~100℃、特に好ましくは50~90℃である。
【0071】
上記抽出蒸留工程における抽出溶媒の使用量は、抽出蒸留塔に供給される抽出蒸留用組成物に対して1倍モル当量以上30倍モル当量以下であることが好ましく、5倍モル当量以上25倍モル当量以下であることがより好ましい。
【0072】
上記抽出蒸留工程における抽出蒸留用組成物中のHCFC-133b及び/又はHCFC-123aの濃度は、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。上記抽出蒸留工程における抽出蒸留用組成物中のHCFC-133b及び/又はHCFC-123aの濃度の下限値は、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上である。
【0073】
上記抽出蒸留工程で使用する抽出蒸留塔の理論段数は、好ましくは10段以上、より好ましくは20段以上である。また、上記抽出蒸留工程で使用する抽出蒸留塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは100段以下、より好ましくは70段以下である。
【0074】
上記抽出蒸留工程において、抽出蒸留塔の上段に抽出溶媒を供給することが好ましい。また、上記抽出蒸留工程で使用する抽出溶媒は、後記する抽出溶媒回収工程で回収し、再循環させた抽出溶媒であることが好ましい。
【0075】
上記抽出蒸留工程において、抽出蒸留を行う圧力(第1の蒸留塔の圧力)は0.05~5MPaG(ゲージ圧)が好ましい。圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaG、更に好ましくは0.25MPaG、特に好ましくは0.5MPaGである。圧力の上限値は、好ましくは5MPaG、より好ましくは4MPaG、更に好ましくは3MPaG、特に好ましくは2MPaGである。
【0076】
上記抽出蒸留工程は、不連続操作又は連続操作で行うことができ、工業的な観点から、連続操作での実施が好ましい。更に、抽出蒸留を繰り返すことにより、留出成分を高純度化することができる。
【0077】
上記抽出蒸留工程において、上記抽出蒸留用組成物からHFC-143を留出させる場合、抽出溶媒を加えた際に、HFC-143のHCFC-133bに対する相対揮発度(比揮発度)が1.1以上、好ましくは1.2以上になるような抽出溶媒を用いることが好ましい。
【0078】
これにより、HFC-143の気相モル分率が増加することで気相にHFC-143が増加し、抽出蒸留塔の塔頂からHFC-143を分離可能となり、抽出蒸留塔の塔底からは抽出溶媒とHCFC-133bとが得られる。
【0079】
上記抽出蒸留工程において、上記抽出蒸留用組成物からHFC-143を留出させる場合、抽出溶媒を加えた際に、HFC-143のHCFC-123aに対する相対揮発度(比揮発度)が1.1以上、好ましくは1.2以上になるような抽出溶媒を用いることが好ましい。
【0080】
これにより、HFC-143の気相モル分率が増加することで気相にHFC-143が増加し、抽出蒸留塔の塔頂からHFC-143を分離可能となり、抽出蒸留塔の塔底からは抽出溶媒とHCFC-123aとが得られる。
【0081】
(2)(抽出溶媒回収工程(3))
本開示の製造方法は、上記抽出蒸留工程で使用した抽出溶媒を回収し、回収した抽出溶媒を上記抽出蒸留工程に再循環させる抽出溶媒回収工程を有することが好ましい。
【0082】
(3)(蒸留工程(2))
上記抽出溶媒回収工程は、上記抽出蒸留工程を経て抽出蒸留塔の塔底から得られる前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと前記溶媒Aとを含有する組成物を蒸留して、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aを主成分として含む組成物と、抽出溶媒を主成分として含む組成物とに分離する蒸留工程(以下、「蒸留工程」ともいう。)を含み、抽出溶媒を主成分として含む組成物から抽出溶媒を回収し、抽出蒸留工程に再循環させることにより実施できる。
【0083】
上記蒸留工程で使用する溶媒回収塔(第2の蒸留塔)の理論段数は、好ましくは5段以上、より好ましくは10段以上である。また、溶媒回収塔の理論段数は、経済的な観点から、好ましくは40段以下、より好ましくは30段以下である。
【0084】
上記蒸留工程において、蒸留を行う圧力は0.05~3MPaG(ゲージ圧)が好ましい。圧力の下限値は、好ましくは0.05MPaG、より好ましくは0.1MPaGである。圧力の上限値は、好ましくは3MPaG、より好ましくは2.5MPaGである。
【0085】
上記蒸留工程により、溶媒回収塔の塔頂からHCFC-133b及び/又はHCFC-123aを主成分として含む組成物を分離可能となり、溶媒回収塔の塔底からは抽出溶媒を主成分として含む組成物が得られる。
【0086】
上記抽出溶媒回収工程は、上記蒸留工程で塔底から得られた抽出溶媒を主成分として含む組成物から抽出溶媒を回収し、抽出蒸留工程に再循環させることにより実施することができる。なお、塔底から回収した抽出溶媒は、抽出蒸留工程に再循環させる前に、必要に応じて不純物を除去するために更に精留などの任意の分離工程に供することもできる。
【0087】
上記蒸留工程は、不連続操作又は連続操作で行うことができ、工業的な観点から、連続操作での実施が好ましい。
【0088】
本開示の製造方法は、抽出蒸留工程、及び抽出溶媒回収工程を含むことが好ましく、抽出蒸留用組成物の純度を高めるための任意の事前の蒸留工程、抽出蒸留工程、及び抽出溶媒回収工程からなることがより好ましい。
【0089】
(HFC-143と、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、物質Aとを含む組成物)
本開示は、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、1-クロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-133b)及び/又は1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)と、物質Aとを含む組成物(以下「冷媒1」ともいう)を包含する。
【0090】
なお、物質Aの種類は、前記抽出溶媒の項目で説明した溶媒Aの内容と同じである。つまり、物質Aは、アミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0091】
前記ハロゲン化合物は、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、モノフルオロベンゼン、及びα,α,α-トリフルオロトルエンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0092】
冷媒1は、HFC-143と、HCFC-133b及び/又はHCFC-123aと、物質Aとを含有する組成物であって、該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記HCFC-133b及び/又はHCFC-123aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下であり、前記物質Aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である。なお、0質量%超過の記載は、0.01質量%以上と表記することもできる。
【0093】
冷媒1における該三成分の総濃度は、前記組成物全体に対して99.7質量%以上であれば好ましく、99.8質量%以上であればより好ましく、99.9質量%以上であれば更に好ましい。
【0094】
冷媒1は、HFC-143、HCFC-133b及び/又はHCFC-123a、並びに物質Aのみからなることが特に好ましいが、不可避的不純物が含有されることは許容される。
【0095】
冷媒1の用途は限定的ではないが、例えば空調用冷媒、熱移動媒体、カーエアコン用冷媒等の用途に適用することができる。
【0096】
(精製されたHFC-143を含有する組成物)
本開示は、精製されたHFC-143を含有する組成物として、HFC-143と、物質Aとを含有する組成物(以下、「組成物1」ともいう)を包含する。なお、物質Aの種類は、前述した内容と同じである。
【0097】
組成物1は、HFC-143と、物質Aとを含有する組成物であって、該二成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記物質Aの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.1質量%以下である。なお、組成物1は、本開示の製造方法において最終的に得られた精製されたHFC-143を含有する組成物のうち、抽出溶媒(溶媒A)が微量残存している組成物である。なお、0質量%超過の記載は、0.01質量%以上と表記することもできる。
【0098】
組成物1における該二成分の総濃度は、前記組成物1に対して99.7質量%以上であれば好ましく、99.8質量%以上であればより好ましく、99.9質量%以上であれば更に好ましい。
【0099】
組成物1は、HFC-143、及び物質Aのみからなることが特に好ましいが、不可避的不純物が含有されることは許容される。
【0100】
組成物1の用途は限定的ではないが、例えば冷媒使用時における漏洩検知剤、安定化剤、トレーサー等の用途に適用することができる。
【0101】
(HFC-143とHCFC-123aとを含む組成物)
本開示は、1,1,2-トリフルオロエタン(HFC-143)と、1,2-ジクロロ-1,1,2-トリフルオロエタン(HCFC-123a)とを含む組成物(以下「冷媒2」ともいう)を包含する。
【0102】
冷媒2は、HFC-143と、HCFC-123aとを含有する組成物であって、該二成分(HFC-143及びHCFC-123a)の総濃度は、好ましくは、前記組成物全体に対して、99.5質量%以上であり、且つ前記HCFC-123aの含有量は、好ましくは、前記組成物全体に対して、0質量%超過0.4質量%以下である。なお、0質量%超過の記載は、0.01質量%以上と表記することもできる。
【0103】
冷媒2における該二成分の総濃度は、前記組成物全体に対して99.7質量%以上であればより好ましく、99.8質量%以上であれば更に好ましく、99.9質量%以上であれば特に更に好ましい。
【0104】
冷媒2は、HFC-143、及びHCFC-123aのみからなることが特に好ましいが、不可避的不純物が含有されることは許容される。
【0105】
冷媒2は、更に、HCFC-133bを含んでも良く、該三成分の総濃度が前記組成物全体に対して99.5質量%以上であり、且つ前記HCFC-133bの含有量が前記組成物全体に対して0質量%超過0.4質量%以下である。なお、0質量%超過の記載は、0.01質量%以上と表記することもできる。
【0106】
冷媒2における該三成分の総濃度は、前記組成物全体に対して99.7質量%以上であれば好ましく、99.8質量%以上であればより好ましく、99.9質量%以上であれば更に好ましい。
【0107】
冷媒2は、HFC-143、HCFC-123a、及びHCFC-133bのみからなることが特に好ましいが、不可避的不純物が含有されることは許容される。
【0108】
冷媒2の用途は限定的ではないが、例えば空調用冷媒、熱移動媒体、カーエアコン用冷媒等の用途に適用することができる。
【実施例0109】
以下に実施例を記載し、本開示を具体的に説明する。但し、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0110】
実施例において、HFC-143等の各成分の濃度は下記の測定装置及び測定条件により測定した。
【0111】
(1)HFC-143とHCFC-133bと物質Aとを含む組成物
測定装置:ガスクロマトグラフィー(FID検出器を使用)
各成分の濃度の計算方法:
・HFC-143の濃度=HFC-143のモル数/(HFC-143のモル数+HCFC-133bのモル数)
・HCFC-133bの濃度=HCFC-133bのモル数/(HFC-143のモル数+HCFC-133bのモル数)
【0112】
実施例1~9及び比較例1~2
HFC-143を80mol%と、HCFC-133bを20mol%とを含む組成物に対して、各溶媒を前記組成物に対して5倍mol追加し、15℃におけるHFC-143のHCFC-133bに対する比揮発度α143→133bを測定した。
【0113】
実施例1では溶媒としてジエチルアミンを使用し、比揮発度α143→133bは1.8であった。
【0114】
実施例2では溶媒としてトリエチルアミンを使用し、比揮発度α143→133bは2.0であった。
【0115】
実施例3では溶媒として1-クロロブタンを使用し、比揮発度α143→133Bは1.8であった。
【0116】
実施例4では溶媒として1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを使用し、比揮発度α143→133bは1.8であった。
【0117】
実施例5では溶媒としてクロロホルムを使用し、比揮発度α143→133bは1.7であった。
【0118】
実施例6では溶媒としてヘキサフルオロベンゼンを使用し、比揮発度α143→133bは1.9であった。
【0119】
実施例7では溶媒としてモノフルオロベンゼンを使用し、比揮発度α143→133bは1.8であった。
【0120】
実施例8では溶媒としてα,α,α-トリフルオロトルエンを使用し、比揮発度α143→133bは1.9であった。
【0121】
実施例9では溶媒としてトルエンを使用し、比揮発度α143→133bは1.7であった。
【0122】
比較例1では溶媒としてメタノールを使用し、比揮発度α143→133bは1.1であった。
【0123】
比較例2では溶媒としてエタノールを使用し、比揮発度α143→133bは1.2であった。
【0124】
以下にその結果を下記表4にまとめて示す。
【0125】
【表4】
【0126】
以上の結果から、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン、1-クロロブタン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、クロロホルム、ヘキサフルオロベンゼン、モノフルオロベンゼン、α,α,α-トリフルオロトルエン等のハロゲン化合物、及びトルエンが抽出溶媒として効果的であることが分かった。
【0127】
(2)精製されたHFC-143を含有する組成物
実施例10
図1に示すフロー図に従い、HFC-143とHCFC-133bとを含む抽出蒸留用組成物を原料とし、抽出溶媒としてヘキサフルオロベンゼンを使用し、抽出蒸留工程と抽出溶媒回収工程とからなるプロセスにより、精製されたHFC-143を製造した。
【0128】
(抽出蒸留工程)
抽出蒸留用組成物を、60段の理論段数を持つ抽出蒸留塔の塔頂から30段目より、18mol/hrの流量で抽出蒸留塔に供給した。抽出溶媒(ヘキサフルオロベンゼン)は抽出蒸留塔の3段目から144mol/hrの流量で供給した。抽出蒸留塔の運転圧力は0.3MPaG、塔頂温度は42℃であった。
【0129】
(抽出溶媒回収工程)
抽出蒸留工程において塔底より抜き出した缶出液を、20段の理論段数を持つ抽出溶媒回収塔(以下、「溶媒回収塔」と称する)の塔頂から14段目よりフィードし、塔頂よりHCFC-133bを99.99%の純度で回収した。溶媒回収塔の運転圧力は0.2MPaG、塔頂温度は48℃であった。
【0130】
なお、回収塔の塔底より抜き出したヘキサフルオロベンゼンを含む缶出液(ヘキサフルオロベンゼンの流量:144mol/hr)は、抽出蒸留工程に再循環して使用した。
【0131】
図1のプロセスによる実施例10の物質収支
F1では、HFC-143が14.4mol/hr、HCFC-133bが3.6mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが0mol/hrであった。
【0132】
F2では、HFC-143が0.01mol/hr、HCFC-133bが3.7mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが144mol/hrであった。
【0133】
F3では、HFC-143が14.39mol/hr、HCFC-133bが0.0001mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが痕跡量(0.1ppm以下)であった。
【0134】
F4では、HFC-143が痕跡量(0.1ppm以下)、HCFC-133bが0.1mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが144mol/hrであった。
【0135】
F5では、HFC-143が0.01mol/hr、HCFC-133bが3.6mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが0mol/hrであった。
【0136】
下記表5に実施例10の物質収支をまとめて示す。
【0137】
【表5】
【0138】
実施例1~2に示したアミン、実施例3~8に示したハロゲン化合物、及び実施例9に示したトルエンは、いずれもHFC-143のHCFC-133bに対する比揮発度α143→133bが1.7~2.0と、各比較例(1.2以下)に比べて十分大きく、気相中のHFC-143濃度でみると50%以上高くなり、顕著に分離効率が向上することを示している。
【0139】
よって、HCFC-133bとHFC-143の分離においては抽出蒸留工程にアミン、ハロゲン化合物、及びトルエンからなる群から選択される少なくとも一種の抽出溶媒(溶媒A)を用いる本開示のプロセスが非常に有効である。
【0140】
実施例11
図3に示すフロー図に従い、HFC-143と、HCFC-133b、HCFC-123aとを含む抽出蒸留用組成物を原料とし、抽出溶媒としてヘキサフルオロベンゼンを使用し、抽出蒸留工程と抽出溶媒回収工程とからなるプロセスにより、精製されたHFC-143を製造した。
【0141】
(抽出蒸留工程)
抽出蒸留用組成物を、60段の理論段数を持つ抽出蒸留塔の塔頂から30段目より、18mol/hrの流量で抽出蒸留塔に供給した。抽出溶媒(ヘキサフルオロベンゼン)は抽出蒸留塔の3段目から178mol/hrの流量で供給した。抽出蒸留塔の運転圧力は0.3MPaG、塔頂温度は42℃であった。
【0142】
(抽出溶媒回収工程)
抽出蒸留工程において塔底より抜き出した缶出液を、20段の理論段数を持つ抽出溶媒回収塔(以下、「溶媒回収塔」と称する)の塔頂から14段目よりフィードし、塔頂よりHCFC-133bを99.99%の純度で回収した。溶媒回収塔の運転圧力は0.2MPaG、塔頂温度は50℃であった。
【0143】
なお、回収塔の塔底より抜き出したヘキサフルオロベンゼンを含む缶出液(ヘキサフルオロベンゼンの流量:178mol/hr)は、抽出蒸留工程に再循環して使用した。
【0144】
図3のプロセスによる実施例11の物質収支
F1では、HFC-143が14.4mol/hr、HCFC-133bが3.6mol/hr、HCFC-123aが0.6mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが0mol/hrであった。
【0145】
F2では、HFC-143が0.01mol/hr、HCFC-133bが3.7mol/hr、HCFC-123aが0.61mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが144mol/hrであった。
【0146】
F3では、HFC-143が14.39mol/hr、HCFC-133bが0.0001mol/hr、HCFC-123aが未検出(0.0001mol/hr以下)、ヘキサフルオロベンゼンが痕跡量(0.1ppm以下)であった。
【0147】
F4では、HFC-143が痕跡量(0.1ppm以下)、HCFC-133bが0.1mol/hr、HCFC-123aが0.01mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが144mol/hrであった。
【0148】
F5では、HFC-143が0.01mol/hr、HCFC-133bが3.6mol/hr、HCFC-123aが0.6mol/hr、ヘキサフルオロベンゼンが0mol/hrであった。
【0149】
下記表6に実施例11の物質収支をまとめて示す。
【0150】
【表6】
【0151】
実施例12
表7に、HFC-143とHCFC-123aとの共沸及び共沸様組成物について、気液平衡データを示す。
【0152】
【表7】
【0153】
実施例13
表7に、HFC-143とHCFC-133bとの共沸及び共沸様組成物について、気液平衡データを以下に示す。
【0154】
【表8】
【符号の説明】
【0155】
1.抽出蒸留塔
2.溶媒回収塔
図1
図2
図3