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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146927
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】圧縮機システム及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 51/00 20060101AFI20241004BHJP
   F04B 49/10 20060101ALI20241004BHJP
   F04B 39/02 20060101ALI20241004BHJP
   F04B 39/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F04B51/00
F04B49/10 331B
F04B39/02 J
F04B39/00 103N
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057827
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023059609
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井田 ゆめみ
(72)【発明者】
【氏名】池辺 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 剛
【テーマコード(参考)】
3H003
3H145
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB03
3H003AD01
3H003AD03
3H003BD03
3H003CA02
3H003CF01
3H145AA02
3H145AA27
3H145BA41
3H145CA01
3H145CA19
3H145CA21
3H145CA22
3H145CA26
3H145FA03
3H145FA17
3H145FA25
(57)【要約】
【課題】圧縮機の対象部分の故障の徴候を早い段階で検出できるようにする。
【解決手段】圧縮機システム(40)は、圧縮機(50)と該圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備える。圧縮機(50)は、モータ(55)と圧縮部(60)と駆動軸(80)と軸受(79,69,93)とを備えている。圧縮部(60)と駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の摺動部分とには、共通の油供給源から潤滑油が供給される。予知装置(21)は、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標の変化に基づいて軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備え、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに共通の油供給源から潤滑油が供給される圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記予知装置(21)は、上記圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮室(61)の内圧である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項3】
請求項1に記載の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮室(61)の圧縮過程におけるポリトロープ指数である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項4】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮部(60)からの吐出ガスの温度である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項5】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)の仕事量又は上記モータ(55)への入力電力量である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項6】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)を備える冷凍装置(10)の冷凍能力である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項7】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)の圧縮トルクの波形である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項8】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のあるモータ信号の波形である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項9】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)の振動又は上記圧縮機(50)において生じる音の強さを示す振動信号の波形である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項10】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記圧縮機(50)には、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに供給される潤滑油が貯留される上記油供給源である油溜まり部(95)が形成され、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも上記圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下が先に生じるものである
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項11】
請求項10の圧縮機システムにおいて、
上記油溜まり部(95)は、上記圧縮機(50)の底部において上記圧縮室(61)から吐出された高圧の吐出ガスの圧力が作用するように形成され、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に導く第1給油通路(88)と、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)に導く第2給油通路(89)とを備え、
上記第2給油通路(89)の入口(89a)は、上記第1給油通路(88)の入口(88a)よりも上方に配置されている
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項12】
請求項10の圧縮機システムにおいて、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに導く給油通路(87)を備え、
上記給油通路(87)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに所定の給油割合で供給するように構成され、
上記所定の給油割合は、
上記油溜まり部(95)における潤滑油の油量が、上記給油通路(87)によって上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに常に潤滑油が供給される正常時よりも低下した際に、
上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分への給油量が、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良を引き起こさないために必要な必要給油量を下回るよりも先に、上記圧縮部(60)への給油量が上記圧縮室(61)をシールするのに必要な必要給油量を下回るような割合である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項13】
請求項10の圧縮機システムにおいて、
上記油溜まり部(95)は、上記圧縮機(50)の底部において上記圧縮室(61)から吐出された高圧の吐出ガスの圧力が作用するように形成され、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に導く第1給油通路(88)と、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)に導く第2給油通路(89)とを備え、
上記油溜まり部(95)には、上記第1給油通路(88)の入口(88a)が配置される第1油溜まり部(96)と、上記第2給油通路(89)の入口(89a)が配置される第2油溜まり部(97)とを隔てる区画部材(98)が設けられ、
上記第1給油通路(88)の入口(88a)及び上記第2給油通路(89)の入口(89a)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油の油面が上記区画部材(98)の上端を下回った際に、上記第1油溜まり部(96)の潤滑油の油面が上記第1給油通路(88)の入口(88a)を下回るよりも先に上記第2油溜まり部(97)の潤滑油の油面が上記第2給油通路(89)の入口(89a)を下回る高さに設けられている
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項14】
請求項10に記載の圧縮機システムにおいて、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに導く給油通路(87)を備え、
上記圧縮機(50)は、
上記給油通路(87)によって上記圧縮部(60)に潤滑油が供給されなくなってから上記圧縮室(61)が潤滑油によってシールされなくなるまでの時間より、
上記給油通路(87)によって上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に潤滑油が供給されなくなってから上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の損傷が始まるまでの時間の方が長くなるような残油摺動特性を有するように構成されている
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項15】
モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備えた圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記軸受(79,69,93)と上記駆動軸(80)との摺動部分は、それぞれ金属材料で構成され、
上記予知装置(21)は、上記モータ(55)の駆動状態を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項16】
モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備えた圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記軸受(79,69,93)の上記駆動軸(80)と摺動する摺動部分は、樹脂材料で構成され、上記駆動軸(80)に向かって突出する突起部を有し、
上記予知装置(21)は、上記突起部の上記駆動軸(80)への接触に連動して変化する上記モータ(55)の駆動状態を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項17】
圧縮機(50)と、上記圧縮機(50)の対象部分の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記圧縮機(50)は、
モータ(55)と、
流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)と、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに潤滑油を導く給油通路(87)とからなる圧縮機機構部(100)と、
上記圧縮機機構部(100)に設けられ、上記対象部分の故障要因となる上記圧縮機(50)内の状態変化に連動して所定の指標を変化させる顕在化部とを備え、
上記予知装置(21)は、上記所定の指標の変化に基づいて上記対象部分の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項18】
請求項17に記載の圧縮機システムにおいて、
上記対象部分は、上記圧縮部(60)、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の少なくとも1つであり、
上記顕在化部は、上記対象部分の故障要因となる上記圧縮機(50)内の状態変化に連動して上記対象部分の状態変化よりも先に上記対象部分とは異なる非対象部分の状態を変化させるものであり、
上記所定の指標は、上記非対象部分の状態変化に連動して変化するものである
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1つの圧縮機システム(40)と、
上記圧縮機システム(40)の上記圧縮機(50)が接続され、冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(30)とを備えた冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機システム及び冷凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータを含む圧縮機と、モータに三相電流を出力するように構成される駆動装置とを備える空調機の故障徴候検出装置が開示されている。この故障徴候検出装置では、例えば、潤滑油不足によって圧縮機の摺動部で金属部品同士が直接接触する固体接触が生じ、摩擦抵抗が増加して摩擦熱が発生し、金属部品同士が凝着して圧縮機が停止する(空調機が故障する)ことがあり、このような空調機の故障の徴候を検出することとしている。上記故障徴候検出装置は、圧縮機の摺動部が損傷して摩擦抵抗が増加するとモータの出力トルクが増大すること、及び電気ノイズの影響をほとんど受けないモータのq軸電流がモータの出力トルクとほぼ同様に変動することから、モータのq軸電流を分析することにより、空調機の故障の徴候を精度よく検出できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6173530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記故障徴候検出装置では、故障の徴候を検出できるタイミングが遅く、圧縮機の対象部分(摺動部)が著しく損傷する前に対象部分の故障を予知できなかった。
【0005】
本開示の目的は、圧縮機の対象部分が著しく損傷する前に対象部分の故障の徴候を検出できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備え、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに共通の油供給源から潤滑油が供給される圧縮機(50)と、上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、上記予知装置(21)は、上記圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備えることを特徴とするものである。
【0007】
ここで、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障とは、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)が動作不能となる状態をいう。また、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の損傷とは、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)が動作不能(故障)には至っていないものの、激しく摩耗して又は激しく傷ついて機能が低下した状態をいう。
【0008】
第1の態様の圧縮機システムによれば、油供給源の油量低下の発生後、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)が著しく損傷する前に、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障の徴候を検出することができる。
【0009】
第2の態様は、第1の態様の圧縮機システムにおいて、上記指標は、上記圧縮室(61)の内圧であることを特徴とするものである。
【0010】
第2の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する圧縮室(61)の内圧を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0011】
第3の態様は、第1の態様の圧縮機システムにおいて、上記指標は、上記圧縮室(61)の圧縮過程におけるポリトロープ指数であることを特徴とするものである。
【0012】
第3の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化するポリトロープ指数を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0013】
第4の態様は、上記第1の態様において、上記指標は、上記圧縮部(60)からの吐出ガスの温度である。
【0014】
第4の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する吐出ガスの温度を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0015】
第5の態様は、上記第1の態様において、上記指標は、上記圧縮機(50)の仕事量又は上記モータ(55)への入力電力量である。
【0016】
第5の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する圧縮機(50)の仕事量又はモータ(55)への入力電力量を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0017】
第6の態様は、上記第1の態様において、上記指標は、上記圧縮機(50)を備える冷凍装置(10)の冷凍能力である。
【0018】
第6の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する冷凍装置(10)の冷凍能力を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0019】
第7の態様は、上記第1の態様において、上記指標は、上記圧縮機(50)の圧縮トルクの波形であることを特徴とするものである。
【0020】
第7の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する圧縮トルクの波形を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0021】
第8の態様は、上記第1の態様において、上記指標は、上記モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のあるモータ信号の波形であることを特徴とするものである。
【0022】
第8の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化するモータ信号の波形を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0023】
第9の態様は、上記第1の態様において、上記指標は、上記圧縮機(50)の振動又は上記圧縮機(50)において生じる音の強さを示す振動信号の波形であることを特徴とするものである。
【0024】
第9の態様の圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する圧縮機(50)の振動又は圧縮機(50)において生じる音の強さを示す振動信号の波形を検出して圧縮機(50)の軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障を予知するため、故障予知を容易に行うことができる。
【0025】
第10の態様は、上記第1の態様において、上記圧縮機(50)には、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに供給される潤滑油が貯留される上記油供給源である油溜まり部(95)が形成され、上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも上記圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下が先に生じるものであることを特徴とするものである。
【0026】
第10の態様の圧縮機システムによれば、油溜まり部(95)の油量低下の発生後、潤滑不良によって駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出することができる。
【0027】
第11の態様は、第10の態様の圧縮機システムにおいて、上記油溜まり部(95)は、上記圧縮機(50)の底部において上記圧縮室(61)から吐出された高圧の吐出ガスの圧力が作用するように形成され、上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に導く第1給油通路(88)と、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)に導く第2給油通路(89)とを備え、上記第2給油通路(89)の入口(89a)は、上記第1給油通路(88)の入口(88a)よりも上方に配置されていることを特徴とするものである。
【0028】
第11の態様の圧縮機システムによれば、給油通路(87)に工夫を加えるだけで、油溜まり部(95)の油量が低下したときに、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が、駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも先に生じる圧縮機(50)を容易に構成することができる。
【0029】
第12の態様は、第10の態様の圧縮機システムにおいて、上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに導く給油通路(87)を備え、上記給油通路(87)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに所定の給油割合で供給するように構成され、上記所定の給油割合は、上記油溜まり部(95)における潤滑油の油量が、上記給油通路(87)によって上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに常に潤滑油が供給される正常時よりも低下した際に、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分への給油量が、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良を引き起こさないために必要な必要給油量を下回るよりも先に、上記圧縮部(60)への給油量が上記圧縮室(61)をシールするのに必要な必要給油量を下回るような割合であることを特徴とするものである。
【0030】
第12の態様の圧縮機システムによれば、給油通路(87)に工夫を加えるだけで、油溜まり部(95)の潤滑油の油量が低下したときに、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が、駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも先に生じる圧縮機(50)を容易に構成することができる。
【0031】
第13の態様は、第10の態様の圧縮機システムにおいて、上記油溜まり部(95)は、上記圧縮機(50)の底部において上記圧縮室(61)から吐出された高圧の吐出ガスの圧力が作用するように形成され、上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に導く第1給油通路(88)と、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)に導く第2給油通路(89)とを備え、上記油溜まり部(95)には、上記第1給油通路(88)の入口(88a)が配置される第1油溜まり部(96)と、上記第2給油通路(89)の入口(89a)が配置される第2油溜まり部(97)とを隔てる区画部材(98)が設けられ、上記第1給油通路(88)の入口(88a)及び上記第2給油通路(89)の入口(89a)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油の油面が上記区画部材(98)の上端を下回った際に、上記第1油溜まり部(96)の潤滑油の油面が上記第1給油通路(88)の入口(88a)を下回るよりも先に上記第2油溜まり部(97)の潤滑油の油面が上記第2給油通路(89)の入口(89a)を下回る高さに設けられていることを特徴とするものである。
【0032】
第13の態様の圧縮機システムによれば、給油通路(87)及び油溜まり部(95)に工夫を加えるだけで、油溜まり部(95)の潤滑油の油量が低下したときに、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が、駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも先に生じる圧縮機(50)を容易に構成することができる。
【0033】
第14の態様は、第10の態様の圧縮機システムにおいて、上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに導く給油通路(87)を備え、上記圧縮機(50)は、上記給油通路(87)によって上記圧縮部(60)に潤滑油が供給されなくなってから上記圧縮室(61)が潤滑油によってシールされなくなるまでの時間より、上記給油通路(87)によって上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に潤滑油が供給されなくなってから上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の損傷が始まるまでの時間の方が長くなるような残油摺動特性を有するように構成されていることを特徴とするものである。
【0034】
第14の態様の圧縮機システムによれば、油溜まり部(95)の油量低下の発生後、潤滑不良によって駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出することができる。
【0035】
第15の態様は、モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備えた圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、上記軸受(79,69,93)と上記駆動軸(80)との摺動部分は、それぞれ金属材料で構成され、上記予知装置(21)は、上記モータ(55)の駆動状態を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備えることを特徴とするものである。
【0036】
第15の態様の圧縮機システムによれば、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)が劣化し始めた後、著しく損傷する前に、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障の徴候を容易に検出することができる。なお、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の劣化とは、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の機能が低下した状態(損傷)には至っていない軽度に摩耗した又は軽度に傷ついた状態をいう。
【0037】
第16の態様は、モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備えた圧縮機(50)と、上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、上記軸受(79,69,93)の上記駆動軸(80)と摺動する摺動部分は、樹脂材料で構成され、上記駆動軸(80)に向かって突出する突起部を有し、上記予知装置(21)は、上記突起部の上記駆動軸(80)への接触に連動して変化する上記モータ(55)の駆動状態を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備えることを特徴とするものである。
【0038】
第16の態様の圧縮機システムによれば、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の油膜状態が悪化し、著しく損傷する前に、軸受(79,69,93)及び駆動軸(80)の故障の徴候を容易に検出することができる。
【0039】
第17の態様は、圧縮機(50)と、上記圧縮機(50)の対象部分の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、上記圧縮機(50)は、モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)と、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに潤滑油を導く給油通路(87)とからなる圧縮機機構部(100)と、上記圧縮機機構部(100)に設けられ、上記対象部分の故障要因となる上記圧縮機(50)内の状態変化に連動して所定の指標を変化させる顕在化部とを備え、上記予知装置(21)は、上記所定の指標の変化に基づいて上記対象部分の故障を予知する故障予知部(23)を備えることを特徴とするものである。
【0040】
ここで、圧縮機(50)の対象部分の故障とは、圧縮機(50)の対象部分が動作不能となる状態をいう。また、圧縮機(50)の対象部分の損傷とは、圧縮機(50)の対象部分が動作不能(故障)には至っていないものの、激しく摩耗して又は激しく傷ついて機能が低下した状態をいう。さらに、圧縮機(50)の対象部分の劣化とは、圧縮機(50)の対象部分の機能が低下した状態(損傷)には至っていない軽度に摩耗した又は軽度に傷ついた状態をいう。
【0041】
また、上記所定の指標の変化は、顕在化部なしには生じ得ないか、顕在化部なしには生じ得ない早期のタイミングで生じるものである。
【0042】
第17の態様の圧縮機システムでは、圧縮機(50)に、対象部分の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化に連動して所定の指標を変化させる顕在化部を設け、所定の指標の変化に基づいて対象部分の故障を予知するようにしている。そのため、上記圧縮機システムによれば、圧縮機(50)の対象部分の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化の発生後、対象部分が著しく損傷する前に対象部分の故障の徴候を検出することができる。
【0043】
第18の態様は、第17の態様の圧縮機システムにおいて、上記対象部分は、上記圧縮部(60)、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の少なくとも1つであり、上記顕在化部は、上記対象部分の故障要因となる上記圧縮機(50)内の状態変化に連動して上記対象部分の状態変化よりも先に上記対象部分とは異なる非対象部分の状態を変化させるものであり、上記所定の指標は、上記非対象部分の状態変化に連動して変化するものであることを特徴とするものである。
【0044】
第18の態様の圧縮機システムによれば、圧縮機(50)の対象部分の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化が発生すると、対象部分の状態変化が生じる前に対象部分とは異なる非対象部分において状態変化が生じて所定の指標が変化するため、対象部分が著しく損傷する前に対象部分の故障の徴候を検出することができる。
【0045】
第19の態様は、冷凍装置を対象とし、第1~第18の態様のいずれか1つの圧縮機システム(40)と、上記圧縮機システム(40)の上記圧縮機(50)が接続され、冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(30)とを備えるものである。
【0046】
第19の態様の冷凍装置によれば、上記圧縮機システム(40)を備えるため、圧縮機(50)の対象部分(軸受(79,69,93)、駆動軸(80)及び圧縮部(60)の少なくとも1つ)が著しく損傷する前に対象部分の故障の徴候を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1図1は、実施形態1の空気調和機の概略構成を示す配管系統図である。
図2図2は、実施形態1の圧縮機システムと圧縮機への給電系統を示す概略構成図である。
図3図3は、実施形態1の圧縮機(スクロール圧縮機)の縦断面図である。
図4図4は、実施形態2の圧縮機の上部を示す縦断面図である。
図5図5は、実施形態2の圧縮機の圧縮室内の冷媒の状態変化を示すPV線図である。
図6図6は、実施形態5の圧縮機システムと圧縮機への給電系統を示す概略構成図である。
図7図7は、実施形態6の空気調和機の概略構成を示す配管系統図である。
図8図8は、実施形態7の圧縮機システムと圧縮機への給電系統を示す概略構成図である。
図9図9は、実施形態7の圧縮機におけるモータの駆動電流の1次成分の経時変化を示すグラフである。
図10図10は、実施形態9の圧縮機システムと圧縮機への給電系統を示す概略構成図である。
図11図11は、実施形態9の変形例2の圧縮機システムと圧縮機への給電系統を示す概略構成図である。
図12図12は、実施形態12の圧縮機(スクロール圧縮機)の縦断面図である。
図13図13は、実施形態13の圧縮機(スクロール圧縮機)の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
《実施形態1》
実施形態1の空気調和機(10)は、圧縮機システム(40)と冷媒回路(30)とを備えた冷凍装置である。
【0049】
-空気調和機-
〈空気調和機の全体構成〉
図1に示すように、空気調和機(10)は、室外ユニット(11)と室内ユニット(13)とを備える。室外ユニット(11)には、室外回路(31)が収容される。室内ユニット(13)には、室内回路(35)が収容される。室外回路(31)と室内回路(35)は、液側連絡配管(37)及びガス側連絡配管(38)を介して互いに接続されて冷媒回路(30)を構成する。
【0050】
〈冷媒回路〉
室外回路(31)には、圧縮機(50)と、四方切換弁(32)と、室外熱交換器(33)と、膨張弁(34)とが設けられる。室外回路(31)において、圧縮機(50)は、吐出管(53)が四方切換弁(32)の第1のポート(P1)に接続され、吸入管(52)が四方切換弁(32)の第2のポート(P2)に接続される。また、室外熱交換器(33)は、ガス側端が四方切換弁(32)の第3のポート(P3)に接続され、液側端が膨張弁(34)の一端に接続される。四方切換弁(32)の第4ポート(P4)は、ガス側連絡配管(38)の一端に接続される。膨張弁(34)の他端は、液側連絡配管(37)の一端に接続される。
【0051】
圧縮機(50)は、全密閉型のスクロール圧縮機である。この圧縮機(50)は、後述する主制御器(判定装置)(21)と共に圧縮機システム(40)を構成する。圧縮機(50)の詳細については後述する。室外熱交換器(33)は、冷媒回路(30)の冷媒を室外空気と熱交換させる熱交換器である。膨張弁(34)は、いわゆる電子膨張弁である。四方切換弁(32)は、四つのポート(P1~P4)を備えた切換弁である。この四方切換弁(32)は、第1のポート(P1)が第3のポート(P3)と連通し且つ第2のポート(P2)が第4のポート(P4)と連通する第1状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポート(P1)が第4のポート(P4)と連通し且つ第2のポート(P2)が第3のポート(P3)と連通する第2状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わるように構成される。
【0052】
また、室外回路(31)には、吸入圧力センサ(26)と吐出圧力センサ(27)とが設けられる。吸入圧力センサ(26)は、圧縮機(50)の吸入管(52)と四方切換弁(32)の第2のポート(P2)を繋ぐ配管に接続され、圧縮機(50)へ吸入される冷媒の圧力を検出する。吐出圧力センサ(27)は、圧縮機(50)の吐出管(53)と四方切換弁(32)の第1のポート(P1)を繋ぐ配管に接続され、圧縮機(50)から吐出された冷媒の圧力を検出する。
【0053】
室内回路(35)には、室内熱交換器(36)が設けられる。室内回路(35)は、液側端が液側連絡配管(37)の他端に接続され、ガス側端がガス側連絡配管(38)の他端に接続される。室内熱交換器(36)は、冷媒回路(30)の冷媒を室内空気と熱交換させる熱交換器である。
【0054】
〈室外ユニット、モータ駆動装置〉
図1に示すように、室外ユニット(11)には、室外回路(31)に加えて、室外ファン(12)と主制御器(21)とが設けられる。室外ファン(12)は、室外熱交換器(33)の近傍に配置され、室外熱交換器(33)へ室外空気を供給する。主制御器(21)は、室外ユニット(11)に設けられた機器を制御するように構成される。主制御器(21)については後述する。
【0055】
図2に示すように、室外ユニット(11)には、モータ駆動装置(45)が設けられる。モータ駆動装置(45)は、交流の周波数を変換するように構成される。モータ駆動装置(45)は、入力側が商用電源(交流電源)(47)に電気的に接続され、出力側が圧縮機(50)のモータ(55)に電気的に接続される。モータ駆動装置(45)は、コンバータと直流部とインバータとを有し、商用電源(47)から供給された電力を所定の周波数及び電圧を有する出力交流電力(三相交流電力)に変換し、出力交流電力をモータ(55)に供給する。モータ駆動装置(45)の出力交流電力の周波数(以下、単に「出力周波数」という)を変更すると、圧縮機(50)の回転速度が変化し、その結果、圧縮機(50)の運転容量が変化する。
【0056】
〈室内ユニット、リモコン〉
図1に示すように、室内ユニットには、室内ファン(14)と副制御器(24)とが設けられる。室内ファン(14)は、室内熱交換器(36)の近傍に配置され、室内熱交換器(36)へ室内空気を供給する。副制御器(24)は、室内ユニット(13)に設けられた機器を制御するように構成される。
【0057】
副制御器(24)には、リモコン(15)が通信可能に接続される。リモコン(15)は、表示部(16)と、ユーザーが操作するための操作ボタン(17)とを備える。表示部(16)は、液晶表示部である。この表示部には、空気調和機(10)の運転状態を示す情報(例えば、設定温度など)が表示される。
【0058】
〈空気調和機の運転動作〉
空気調和機(10)は、冷房運転と暖房運転を選択的に行う。
【0059】
冷房運転において、主制御器(21)は、四方切換弁(32)を第1状態(図1に実線で示す状態)に設定し、圧縮機(50)の運転容量と膨張弁(34)の開度とを調節する。圧縮機(50)から吐出された冷媒は、室外熱交換器(33)において室外空気へ放熱して凝縮し、その後に膨張弁(34)を通過する際に膨張する。膨張弁(34)を通過した冷媒は、液側連絡配管(37)を通って室内回路(35)へ流入し、室内熱交換器(36)において室内空気から吸熱して蒸発する。その後、冷媒は、ガス側連絡配管(38)を通って室外回路(31)へ流入し、圧縮機(50)へ吸入されて圧縮される。室内ユニット(13)は、室内熱交換器(36)において冷却された空気を室内空間へ吹き出す。
【0060】
暖房運転において、主制御器(21)は、四方切換弁(32)を第2状態(図1に破線で示す状態)に設定し、圧縮機(50)の運転容量と膨張弁(34)の開度とを調節する。圧縮機(50)から吐出された冷媒は、ガス側連絡配管(38)を通って室内回路(35)へ流入し、室内熱交換器(36)において室内空気へ放熱して凝縮する。その後、冷媒は、液側連絡配管(37)を通って室外回路(31)へ流入し、膨張弁(34)を通過する際に膨張する。膨張弁(34)を通過した冷媒は、室外熱交換器(33)において室外空気から吸熱して蒸発し、その後に圧縮機(50)へ吸入されて圧縮される。室内ユニット(13)は、室内熱交換器(36)において加熱された空気を室内空間へ吹き出す。
【0061】
-圧縮機-
図3に示すように、圧縮機(50)は、全密閉型のスクロール圧縮機である。この圧縮機(50)は、モータ(55)と、圧縮機機構部(100)と、軸上部支持部(65)と、軸下部支持部(90)と、ケーシング(51)とを備える。モータ(55)と圧縮機機構部(100)と軸上部支持部(65)と軸下部支持部(90)とは、ケーシング(51)に収容される。
【0062】
〈ケーシング〉
ケーシング(51)は、両端が閉塞された円筒状の密閉容器である。ケーシング(51)は、その軸方向が上下方向となっている。ケーシング(51)の内部空間には、上から下へ向かって順に、圧縮部(60)と、軸上部支持部(65)と、モータ(55)と、軸下部支持部(90)とが配置される。また、ケーシング(51)の底部には、潤滑油(冷凍機油)が貯留される油溜まり部(95)が形成されている。
【0063】
ケーシング(51)は、吸入管(52)と吐出管(53)とを備える。吸入管(52)は、ケーシング(51)の頂部を貫通して圧縮部(60)に接続され、冷媒回路(30)の低圧の冷媒を圧縮部(60)に導く。吐出管(53)は、ケーシング(51)の胴部を貫通してケーシング(51)の内部空間(軸下部支持部(90)の下方の空間)に開口している。吐出管(53)は、圧縮室(61)から吐出された後、ケーシング(51)の軸下部支持部(90)の下方の空間に導かれた高圧の冷媒を、圧縮機(50)の機外へ導く。このような構成により、ケーシング(51)の軸下部支持部(90)の下方の空間(油溜まり部(95)を含む)には、圧縮室(61)から吐出された高圧の冷媒の圧力が作用する。
【0064】
〈モータ〉
モータ(55)は、固定子(56)と回転子(57)とを備える。固定子(56)は、ケーシング(51)の胴部に固定される。回転子(57)は、固定子(56)の内側に配置される。また、回転子(57)には、駆動軸(80)が挿し通される。
【0065】
〈軸上部支持部〉
軸上部支持部(65)は、本体部(66)と、主軸受部(68)とを備える。本体部(66)は、肉厚の円板状に形成され、ケーシング(51)に固定される。本体部(66)の中央部には、クランク室(67)が形成される。クランク室(67)は、本体部(66)の前面(図1における上面)に開口する円柱状の窪みである。主軸受部(68)は、本体部(66)の背面(図1における下面)から突出する円筒状に形成され、本体部(66)の中央部に配置される。主軸受部(68)には、駆動軸(80)を挿し通すための貫通孔が形成される。この貫通孔には、後述する第2の軸受(69)が嵌め込まれる。
【0066】
〈軸下部支持部〉
軸下部支持部(90)は、一つの副軸受部(91)と、三つの脚部(92)とを備える。副軸受部(91)は、厚肉の円筒状に形成される。副軸受部(91)には、後述する第3の軸受(93)が嵌め込まれる。脚部(92)は、副軸受部(91)から放射状に延びている。軸下部支持部(90)は、各脚部(92)の突端がケーシング(51)の胴部に固定される。
【0067】
〈圧縮機機構部〉
圧縮機機構部(100)は、圧縮部(60)と、駆動軸(80)と、第1~第3の軸受(79,69,93)と、給油通路(87)とを備える。なお、圧縮機機構部(100)の構成要素に取り付けられる各種センサは、圧縮機機構部(100)の構成要素に含まれない。
【0068】
(圧縮部〉
圧縮部(60)は、スクロール型の流体機械である。この圧縮部(60)は、固定スクロール(70)と、旋回スクロール(75)とを備える。固定スクロール(70)と旋回スクロール(75)は、それぞれのラップが互いに噛み合わされて複数の圧縮室(61)を形成する。
【0069】
固定スクロール(70)は、固定側鏡板部(71)と、固定側ラップ(72)と、外周壁部(73)とを備える。固定側鏡板部(71)は、固定スクロール(70)の上部に位置する比較的肉厚の平板状の部分である。固定側ラップ(72)は、渦巻き壁状に形成されて固定側鏡板部(71)の前面(図1における下面)から突出する。外周壁部(73)は、固定側ラップ(72)の外周側を囲むように形成され、固定側鏡板部(71)の前面から突出する。外周壁部(73)は、ケーシング(51)に固定された軸上部支持部(65)に固定される。外周壁部(73)には吸入ポート(sp)が形成され、吸入管(52)が差し込まれている。固定側鏡板部(71)には吐出ポート(dp)が形成されると共に、吐出ガスの温度を検出するために吐出ポート(dp)の周辺に温度センサ(111)が埋め込まれている。温度センサ(111)は、吐出ガスの温度を検出し、検出した温度を電気信号に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0070】
旋回スクロール(75)は、旋回側鏡板部(77)と、旋回側ラップ(76)と、ボス部(78)とを備える。旋回側鏡板部(77)は、概ね円形の平板状に形成される。旋回側ラップ(76)は、渦巻き壁状に形成されて旋回側鏡板部(77)の前面(図1における上面)から突出する。ボス部(78)は、旋回側鏡板部(77)の背面(図1における下面)から突出する円筒状に形成され、旋回側鏡板部(77)の中央部に配置される。ボス部(78)には、後述する第1の軸受(79)が嵌め込まれる。
【0071】
(駆動軸〉
駆動軸(80)は、主軸部(81)と、偏心軸部(85)とを備える。また、主軸部(81)は、主ジャーナル部(82)と、副ジャーナル部(83)と、中間軸部(84)とを備える。駆動軸(80)は、偏心軸部(85)が主軸部(81)の上方に位置する姿勢で配置される。
【0072】
主軸部(81)では、その一端から他端へ向かって順に、主ジャーナル部(82)と、中間軸部(84)と、副ジャーナル部(83)とが配置される。主ジャーナル部(82)と、中間軸部(84)と、副ジャーナル部(83)とは、それぞれが円柱状に形成されて、互いに同軸に配置される。本実施形態の主軸部(81)では、主ジャーナル部(82)が中間軸部(84)よりも大径であり、副ジャーナル部(83)が中間軸部(84)よりも小径である。また、本実施形態の主軸部(81)は、主ジャーナル部(82)が上側に位置し、副ジャーナル部(83)が下側に位置する。
【0073】
主ジャーナル部(82)は、軸上部支持部(65)の主軸受部(68)に嵌め込まれた第2の軸受(69)の内側に挿し通され、第2の軸受(69)に支持される。副ジャーナル部(83)は、軸下部支持部(90)の副軸受部(91)に嵌め込まれた第3の軸受(93)の内側に挿し通され、第3の軸受(93)に支持される。中間軸部(84)は、モータ(55)の回転子(57)の内側に挿し通され、回転子(57)に固定されている。
【0074】
偏心軸部(85)は、比較的短い軸状に形成され、主ジャーナル部(82)の端面から突出する。本実施形態の駆動軸(80)は、偏心軸部(85)が上端側に位置する。偏心軸部(85)の軸心は、主軸部(81)の軸心と実質的に平行であり、主軸部(81)の軸心に対して偏心している。偏心軸部(85)は、旋回スクロール(75)のボス部(78)に嵌め込まれた第1の軸受(79)の内側に挿し通され、第1の軸受(79)に支持される。
【0075】
(軸受〉
第1~第3の軸受(79,69,93)は、いずれも円筒形状に形成され、駆動軸(80)を支持する滑り軸受である。
【0076】
第1の軸受(79)は、旋回スクロール(75)のボス部(78)の内側に嵌め込まれる。第1の軸受(79)は、内側に駆動軸(80)の偏心軸部(85)が差し込まれ、駆動軸(80)の偏心軸部(85)を支持する。
【0077】
第2の軸受(69)は、軸上部支持部(65)の主軸受部(68)の内側に嵌め込まれる。第2の軸受(69)は、内側に駆動軸(80)の主ジャーナル部(82)が差し込まれ、駆動軸(80)の主ジャーナル部(82)を支持する。
【0078】
第3の軸受(93)は、軸下部支持部(90)の副軸受部(91)の内側に嵌め込まれる。第3の軸受(93)は、内側に駆動軸(80)の副ジャーナル部(83)が差し込まれ、駆動軸(80)の副ジャーナル部(83)を支持する。
【0079】
なお、詳細については後述するが、本実施形態1では、第1~第3の軸受(79,69,93)は、駆動軸(80)と共に、後述する故障予知部(23)によって故障が予知される対象部分となる。
【0080】
(給油通路〉
給油通路(87)は、ケーシング(51)の底部に形成された油溜まり部(95)に貯留された潤滑油(冷凍機油)を摺動部分へ供給するための通路である。給油通路(87)は、主給油通路(88)と副給油通路(89)とを有している。
【0081】
主給油通路(88)は、駆動軸(80)内に形成されている。主給油通路(88)は、駆動軸(80)の軸方向の一端(図3では下端)から他端(図3では上端)に亘って軸方向に延びる本体通路と、該本体通路から駆動軸(80)の第2の軸受(69)との摺動部分、駆動軸(80)の第3の軸受(93)との摺動部分、及び駆動軸(80)の第1の軸受(79)との摺動部分のそれぞれに向かって分岐する分岐通路とを有している。主給油通路(88)は、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)の各摺動部分に、油溜まり部(95)に貯留された潤滑油(冷凍機油)を導く。つまり、主給油通路(88)は、油溜まり部(95)の潤滑油を駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の摺動部分に導く給油通路である。
【0082】
副給油通路(89)は、軸上部支持部(65)と固定スクロール(70)とに亘るように形成され、クランク室(67)に貯留された潤滑油を、圧縮部(60)(固定スクロール(70)と旋回スクロール(75)の隙間)に導く。副給油通路(89)は、一端がクランク室(67)において開口し、他端が固定スクロール(70)の外周壁部(73)と旋回スクロール(75)の旋回側鏡板部(77)との隙間において開口するように形成されている。クランク室(67)には、主給油通路(88)を介して油溜まり部(95)から駆動軸(80)と第1の軸受(79)の摺動部分に導かれて該摺動部分を潤滑した後、流出した潤滑油が貯留されている。そのため、副給油通路(89)は、駆動軸(80)と第1の軸受(79)の摺動部分を潤滑した後の潤滑油を、クランク室(67)から圧縮部(60)に導く。圧縮部(60)に導かれた潤滑油は、固定スクロール(70)と旋回スクロール(75)の隙間をシールする(圧縮室(61)をシールする)。つまり、副給油通路(89)は、油溜まり部(95)の潤滑油を圧縮部(60)に導く給油通路であるが、油溜まり部(95)から主給油通路(88)を介して駆動軸(80)と第1の軸受(79)の摺動部分に供給され、クランク室(67)に流出した潤滑油を圧縮部(60)に導くものである。
【0083】
このような構成により、本実施形態1では、まず、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)の各摺動部分に、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油が、主給油通路(88)を介して分配して供給される。そして、駆動軸(80)と第1の軸受(79)の摺動部分を潤滑して残った潤滑油が、クランク室(67)に貯留される。クランク室(67)に貯留された潤滑油は、副給油通路(89)を介して圧縮部(60)(固定スクロール(70)と旋回スクロール(75)の隙間)に供給される。つまり、本実施形態1では、給油通路(87)は、油溜まり部(95)の潤滑油を、圧縮部(60)よりも先に駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に供給するように構成されている。このような構成により、圧縮機(50)では、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じることとなる。
【0084】
-制御システム-
本実施形態の空気調和機(10)では、室外ユニット(11)の主制御器(21)と、室内ユニット(13)の副制御器(24)とが、互いに配線によって接続されて制御システム(20)を構成する。
【0085】
図示しないが、主制御器(21)と副制御器(24)のそれぞれは、制御プログラムを実行するCPUと、制御プログラムやそれを実行するのに必要なデータ等を記憶するメモリとを備える。
【0086】
上述したように、主制御器(21)は、室外ユニット(11)に設けられた機器を制御するように構成される。例えば、主制御器(21)は、室外ファン(12)の回転速度と、膨張弁(34)の開度とを調節すると共に、四方切換弁(32)を操作する。また、図2に示すように、主制御器(21)は、能力制御部(22)と、故障予知部(23)とを備える。能力制御部(22)及び故障予知部(23)については、後述する。
【0087】
上述したように、副制御器(24)は、室内ユニット(13)に設けられた機器を制御するように構成される。例えば、副制御器(24)は、室外ファン(12)の回転速度と、膨張弁(34)の開度とを調節すると共に、四方切換弁(32)を操作する。また、副制御器(24)は、室内ファン(14)の回転速度を調節する。
【0088】
-能力制御部-
能力制御部(22)は、空気調和機(10)が室内空間の空調負荷に見合った空調能力を発揮するように、圧縮機(50)の運転容量を調節するように構成される。
【0089】
空気調和機(10)の空調能力が室内空間の空調負荷に対して過少である場合、能力制御部(22)は、モータ駆動装置(45)の出力周波数を引き上げるための指令信号を、モータ駆動装置(45)に対して出力する。モータ駆動装置(45)の出力周波数が上昇すると、圧縮機(50)の回転速度が上昇する。その結果、圧縮機(50)の運転容量が増加し、空気調和機(10)の空調能力が増加する。
【0090】
冷房運転において、能力制御部(22)は、例えば吸入圧力センサ(26)の検出値が冷凍サイクルの低圧の目標値を上回っている場合に、空気調和機(10)の空調能力が室内空間の空調負荷に対して過少であると判断する。一方、暖房運転において、能力制御部(22)は、例えば吐出圧力センサ(27)の検出値が冷凍サイクルの高圧の目標値を下回っている場合に、空気調和機(10)の空調能力が室内空間の空調負荷に対して過少であると判断する。
【0091】
空気調和機(10)の空調能力が室内空間の空調負荷に対して過多である場合、能力制御部(22)は、モータ駆動装置(45)の出力周波数を引き下げるための指令信号を、モータ駆動装置(45)に対して出力する。モータ駆動装置(45)の出力周波数が低下すると、圧縮機(50)の回転速度が低下する。その結果、圧縮機(50)の運転容量が減少し、空気調和機(10)の空調能力が減少する。
【0092】
冷房運転において、能力制御部(22)は、例えば吸入圧力センサ(26)の検出値が冷凍サイクルの低圧の目標値を下回っている場合に、空気調和機(10)の空調能力が室内空間の空調負荷に対して過多であると判断する。一方、暖房運転において、能力制御部(22)は、例えば吐出圧力センサ(27)の検出値が冷凍サイクルの高圧の目標値を上回っている場合に、空気調和機(10)の空調能力が室内空間の空調負荷に対して過多であると判断する。
【0093】
-予知部-
故障予知部(23)は、圧縮部(60)に埋め込まれた温度センサ(111)の検出値(即ち、吐出ガスの温度Tdp)に基づいて、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知するように構成されている。具体的に、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。予兆条件は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆があることを示す条件である。また、故障予知部(23)は、予兆条件が成立すると、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障を回避するための回避動作を行う。
【0094】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態の故障予知部(23)において、予兆条件は、吐出ガス温度Tdp(温度センサ(111)の検出値)と所定の正常値Tnとの温度差ΔTdp(Tdp-Tn)が判定基準値Tb以上である(ΔTdp≧Tb)という条件である。
【0095】
まず、故障予知部(23)は、吐出ガス温度Tdpと所定の正常値Tnとの温度差ΔTdpを算出する。正常値Tnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における吐出ガス温度であり、故障予知部(23)は、正常値Tnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、吐出ガス温度Tdpから正常値Tnを減じることにより、温度差ΔTdpを算出する。なお、正常値Tnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における吐出ガス温度を測定し、その測定値を正常値Tnとしてもよい。正常値Tnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0096】
次に、故障予知部(23)は、算出した温度差ΔTdpを判定基準値Tbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Tbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、温度差ΔTdpが判定基準値Tb以上である場合(ΔTdp≧Tb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、温度差ΔTdpが初めて判定基準値Tb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0097】
このように、本実施形態の主制御器(予知装置)(21)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆があることを示す所定の予兆条件が成立するか否かを判定する故障予知部(23)を備え、この故障予知部(23)は、吐出ガス温度Tdpを測定し、吐出ガス温度Tdpに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態1では、以下の理由から、予兆条件に、吐出ガス温度Tdp(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0098】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、冷媒から潤滑油に受け渡される熱量が減り、また、漏れた冷媒が再圧縮されることにより、吐出冷媒の温度が正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて上昇し、吐出ガス温度Tdpも正常時に比べて上昇する。そのため、本実施形態1では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して上昇する吐出ガス温度Tdpに着目し、該吐出ガス温度Tdpを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出できるようにしている。
【0099】
また、特に、本実施形態1では、圧縮機(50)が、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じるように構成されている。具体的には、給油通路(87)が、油溜まり部(95)の潤滑油を圧縮部(60)よりも先に駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に分配して供給し、クランク室(67)に溜まった残りの潤滑油を圧縮部(60)に供給するように構成されている。そのため、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良が生じる前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が生じ、吐出ガス温度Tdpが上昇することとなる。よって、このような構成により、故障予知部(23)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良が生じる前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出できるため、故障の予知を早い段階で確実に行うことができる。
【0100】
本実施形態1では、給油通路(87)が、故障予知の対象部分である駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(油溜まり部(95)における潤滑油の油量低下)に連動して上記対象部分の状態変化(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良)よりも先に上記対象部分とは異なる非対象部分の状態を変化(圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下)させる顕在化部となる。
【0101】
〈回避動作〉
故障予知部(23)は、予兆条件が成立すると、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障を回避するための回避動作を行う回避動作を行う。回避動作は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆がある(故障するおそれがある)場合に実行する必要のある動作である。
【0102】
故障予知部(23)は、圧縮機(50)の運転状態を通常状態から軽負荷状態に変更する動作を、回避動作として行う。故障予知部(23)は、この動作を予兆条件が成立する毎に行う。
【0103】
通常状態は、予兆条件が成立していないときの圧縮機(50)の運転状態である。通常状態において、圧縮機(50)の回転速度は、能力制御部(22)によって設定された値となる。一方、軽負荷状態は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)に作用する荷重が予兆条件の判定時よりも小さくなるような圧縮機(50)の運転状態である。また、本実施形態における軽負荷状態は、圧縮機(50)の回転速度が予兆条件の判定時よりも低い運転状態である。
【0104】
従って、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の回転速度を判定動作の実行時よりも引き下げる動作(具体的には、モータ駆動装置(45)の出力周波数を、判定動作の実行時に能力制御部(22)が設定していた値よりも引き下げる動作)を、回避動作として実行する。
【0105】
圧縮機(50)の運転状態を通常状態から軽負荷状態に変更した後において、故障予知部(23)は、軽負荷状態の継続時間を計測する。軽負荷状態の継続中には、冷媒回路(30)の熱交換器(33,36)等に滞留していた潤滑油が冷媒と共に圧縮機(50)へ戻り、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)に対する給油量を確保できるようになる場合がある。
【0106】
そこで、故障予知部(23)は、軽負荷状態の継続時間が所定の基準時間に達すると、圧縮機(50)の運転状態を軽負荷状態から通常状態に戻す。この場合、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の運転容量(具体的には、モータ駆動装置(45)の出力周波数)を、圧縮機(50)の運転状態が軽負荷状態に変化する直前の値に戻す。
【0107】
また、本実施形態の故障予知部(23)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障する予兆があることを発報する動作を、回避動作として行う。故障予知部(23)この動作を、予兆条件が成立すると実行する。
【0108】
具体的に、故障予知部(23)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障する予兆があることを示す表示を、リモコン(15)の表示部(16)に表示する。この表示は、例えば「圧縮機に異常が発生するおそれがあります」といった文字情報であってもよいし、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障する予兆があることを示すエラーコードであってもよい。また、上記表示は、修理や部品交換等の対応を促す通知であってもよい。また、故障予知部(23)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障する予兆があることを、外部(修理や部品交換等の対応を行う管理者や管理サーバー等)へ報知することとしてもよい。当該報知は、リモコン(15)の表示部(16)への表示と共に行ってもよく、リモコン(15)の表示部(16)への代わりに行ってもよい。
【0109】
-実施形態1の効果-
本実施形態の圧縮機システム(40)は、圧縮機(50)と、該圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)(対象部分)の故障の徴候を検出して故障を予知する主制御器(21)(予知装置)とを備えるものである。圧縮機(50)は、モータ(55)と、圧縮機機構部(100)と、圧縮機機構部(100)に設けられ、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)(対象部分)の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(油溜まり部(95)における潤滑油の油量低下)に連動して吐出ガス温度Tdp(所定の指標)を変化させる給油通路(87)(顕在化部)とを備える。また、予知装置(21)は、吐出ガス温度Tdp(所定の指標)の変化に基づいて駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)(対象部分)の故障の徴候を検出して故障を予知する故障予知部(23)を備える。
【0110】
ここで、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障とは、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が焼き付き等により動作不能となる状態をいう。
【0111】
本実施形態の圧縮機システム(40)では、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)における潤滑油の油量低下に連動して吐出ガス温度Tdpが変化するように給油通路(87)を構成し、吐出ガス温度Tdpの変化に基づいて駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出することで故障を予知するようにしている。そのため、上記圧縮機システム(40)によれば、油溜まり部(95)における潤滑油の油量低下の発生後、早い段階で駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知することができる。
【0112】
また、本実施形態の圧縮機システム(40)では、上述したように、給油通路(87)が、油溜まり部(95)の潤滑油を圧縮部(60)よりも先に駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に分配して供給し、クランク室(67)に溜まった残りの潤滑油を圧縮部(60)に供給するように構成されている。そのため、上記圧縮機(50)では、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下する(対象部分の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化が発生する)と、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が潤滑油不足で劣化する(対象部分の状態が変化する)よりも先に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量(対象部分とは異なる非対象部分の状態)が低下し、これに起因して圧縮部(60)の運転状態を示す様々な指標(例えば、吐出ガス温度Tdp)が変化する。
【0113】
そこで、本実施形態の圧縮機システム(40)では、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量(シール油量)が低下して圧縮部(60)の運転状態を示す様々な指標が変化することに着目し、該圧縮部(60)の運転状態を示す様々な指標を駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予知に用いることとしている。よって、本実施形態の圧縮機システム(40)によれば、油溜まり部(95)における潤滑油の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知することができる。
【0114】
また、本実施形態の圧縮機システム(40)では、圧縮機構(60)からの吐出ガスの温度(吐出ガス温度Tdp)を、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する圧縮部(60)の運転状態を示す指標として、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予知に用いることとしている。
【0115】
圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、冷媒(流体)から潤滑油に受け渡される熱量が減り、また、漏れた冷媒が再圧縮されることにより、吐出冷媒の温度が上昇し、吐出ガス温度Tdpも上昇する。よって、上記圧縮機システム(40)によれば、吐出ガス温度Tdpを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予知に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知することができる。また、上記圧縮機システムによれば、検出が困難なシール油量の低下を検出するのではなく、シール油量の変化に連動して変化する吐出ガスの温度を検出することで圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出するようにしているため、故障予知を容易に行うことができる。
【0116】
なお、吐出ガス温度Tdpは、圧縮室(61)のシール油量の変化に連動して変化するが、駆動軸(55)と第1~第3の軸受(79,69,93)の摩擦の影響を受けない。そのため、吐出ガス温度Tdpは、圧縮室(61)のシール性の低下を捉え易く、吐出ガス温度Tdpを、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標として検出することで、予知の精度が向上する。
【0117】
また、本実施形態の圧縮機システム(40)では、給油通路(87)が、油溜まり部(95)の潤滑油を圧縮部(60)よりも先に駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に分配して供給し、クランク室(67)に溜まった残りの潤滑油を圧縮部(60)に供給するように構成されている。そのため、圧縮機システム(40)では、圧縮機(50)の油溜まり部(95)から圧縮部(60)と駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分とに潤滑油が供給されるが、油溜まり部(95)の潤滑油の油量が低下すると、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じ、圧縮部(60)の運転状態を示す様々な指標が変化する。
【0118】
そして、本実施形態の圧縮機システム(40)では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に伴って上昇する吐出ガス温度Tdpを、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予知に用いる。よって、本実施形態の圧縮機システム(40)によれば、油溜まり部(95)の油量低下の発生後、潤滑不良によって駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知することができる。
【0119】
本実施形態の空気調和機(冷凍装置)(10)は、上記圧縮機システム(40)と、上記圧縮機システム(40)の上記圧縮機(50)が接続され、冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(30)とを備えるものである。
【0120】
本実施形態の空気調和機(冷凍装置)(10)によれば、上記圧縮機システム(40)を備えるため、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を早い段階で検出して故障を予知することができる。
【0121】
なお、本実施形態1では吐出ポート(dp)の周辺に埋め込まれた温度センサ(111)で吐出ガス温度Tdpを取得したが、吐出ガス温度Tdpは、圧縮機(50)のケーシング(51)の外表面に設けられた温度センサで取得してもよい。なお、吐出ガス温度Tdpは、測定する温度センサが、圧縮機(50)の吐出ポート(dp)から離れると、他部品や潤滑油からの影響を受け易くなり、再圧縮による吐出ガス温度Tdpの変化を捉え難くなり、予知の精度が低下する。そのため、実施形態1のように、吐出ポート(dp)の周辺に埋め込まれた温度センサ(111)は、再圧縮による吐出ガス温度Tdpの変化を敏感に捉えられるため、予知の精度を向上させるためには最も好ましい。また、圧縮機(50)のケーシング(51)の外表面に温度センサを設ける場合であっても、吐出ポート(dp)に近い位置に設けることで、実施形態1と同様に、予知の精度を向上させることができる。
【0122】
《実施形態2》
実施形態2の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、圧縮室(61)の内圧を検出する圧力センサ(112)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0123】
〈圧力センサ〉
図4に示すように、圧力センサ(112)は、圧縮機(50)の圧縮室(61)の内圧を検出できるように圧縮部(60)に埋め込まれている。圧力センサ(112)は、吸入開始時点から吐出終了時点までの圧縮室(61)の内圧が検出できるように複数設けられている。圧力センサ(112)は、圧縮室(61)の内圧を検出し、検出した内圧を電気信号に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0124】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wの所定の正常値Wnに対する増加量ΔW(W-Wn)が判定基準値Wb以上である(ΔW≧Wb)という条件である。
【0125】
まず、故障予知部(23)は、圧縮機(50)において吸入、圧縮、吐出の各工程が実行される間における圧縮室の仕事量(圧縮室仕事量W)を算出する。故障予知部(23)は、図5に示すように、圧縮室(61)の容積Vを圧縮室(61)の内圧P(圧力センサ(112)の検出値)で積分することによって圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wを算出する。
【0126】
次に、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wの所定の正常値Wnに対する増加量ΔWを算出する。正常値Wnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮機(50)の圧縮室仕事量であり、故障予知部(23)は、正常値Wnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wから正常値Wnを減じることにより、増加量ΔWを算出する。なお、正常値Wnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮機(50)の圧縮室仕事量を算出し、その算出値を正常値Wnとしてもよい。正常値Wnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0127】
次に、故障予知部(23)は、算出した増加量ΔWを判定基準値Wbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Wbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、増加量ΔWが判定基準値Wb以上である場合(ΔW≧Wb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、増加量ΔWが初めて判定基準値Wb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0128】
このように、本実施形態2では、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wを算出し、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態2では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する圧縮機(50)の圧縮室仕事量W(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0129】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。冷媒漏れが発生すると、図5に示すように、冷媒が漏れた先の圧縮室(61)では仕事量が増加し、冷媒が漏れ出た圧縮室(61)では仕事量が減るが、1サイクル分の圧縮室仕事量Wは、正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて増加する。そのため、本実施形態2では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して増加する圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wに着目し、該圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0130】
以上により、実施形態2の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0131】
-実施形態2の変形例1-
変形例1は、実施形態2において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wの所定の正常値Wnに対する増加率Wr((W-Wn)/Wn)が判定基準値Wb(例えば、0.1(10%))以上である(Wr≧Wb)という条件である。
【0132】
故障予知部(23)は、実施形態2と同様にして圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wを求めた後、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wの所定の正常値Wnに対する増加率Wrを算出する。故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wから正常値Wnを減じたものを正常値Wnで除することにより、増加率Wrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率Wrを判定基準値Wbと比較し、増加率Wrが判定基準値Wb以上である場合(Wr≧Wb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0133】
以上のように、判定動作において、判定基準値Wbと比較する対象を、圧縮機(50)の圧縮室仕事量Wの所定の正常値Wnに対する増加率Wr((W-Wn)/Wn)としても、実施形態2と同様の効果を奏することができる。
【0134】
《実施形態3》
実施形態3の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、圧縮室(61)の内圧を検出する圧力センサ(112)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0135】
〈圧力センサ〉
図4に示すように、圧力センサ(112)は、圧縮機(50)の圧縮室(61)の内圧を検出できるように圧縮部(60)に埋め込まれている。圧力センサ(112)は、吸入開始時点から吐出終了時点までの圧縮室(61)の内圧が検出できるように複数設けられている。圧力センサ(112)は、圧縮室(61)の内圧を検出し、検出した内圧を電気信号に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0136】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する増加量ΔP(P-Pn)が判定基準値Pb以上である(ΔP≧Pb)という条件である。
【0137】
まず、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する増加量ΔPを算出する。正常値Pnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮機(50)の内圧であり、故障予知部(23)は、正常値Pnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、圧縮機(50)の内圧Pから正常値Pnを減じることにより、増加量ΔPを算出する。なお、正常値Pnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮機(50)の内圧を算出し、その算出値を正常値Pnとしてもよい。正常値Pnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0138】
次に、故障予知部(23)は、算出した増加量ΔPを判定基準値Pbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Pbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、増加量ΔPが判定基準値Pb以上である場合(ΔP≧Pb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、増加量ΔPが初めて判定基準値Pb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0139】
このように、本実施形態3では、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の内圧Pを算出し、圧縮機(50)の内圧Pに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態3では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する圧縮機(50)の内圧P(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0140】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。冷媒漏れが発生すると、図5に示すように、冷媒が漏れた先の圧縮室(61)では内圧Pが正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて上昇し、冷媒が漏れ出た圧縮室(61)では内圧Pが正常時に比べて低下する。そのため、本実施形態3では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して増減する圧縮機(50)の内圧Pに着目し、該圧縮機(50)の内圧Pを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0141】
本実施形態3では、上記冷媒漏れが発生した際に、圧力センサ(112)により、正常時に比べて上昇した内圧Pが検出されるタイミング(回転角度)で検出した内圧Pを判定動作に用いることとしている。そのため、上記判定動作において、予兆条件を、圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する増加量ΔP(P-Pn)が判定基準値Pb以上である(ΔP≧Pb)という条件にしている。なお、圧力センサ(112)により、正常時に比べて低下した内圧Pが検出されるタイミング(回転角度)で検出した内圧Pを判定動作に用いることとし、上記判定動作において、予兆条件を、圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する低下量ΔP(Pn-P)が判定基準値Pb以上である(ΔP≧Pb)という条件にしてもよい。
【0142】
以上により、実施形態3の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。また、圧縮室(61)の内圧Pは、圧縮室(61)のシール油量の変化に連動して変化するが、駆動軸(55)と第1~第3の軸受(79,69,93)の摩擦の影響を受けない。そのため、圧縮室(61)の内圧Pは、圧縮室(61)のシール性の低下を捉え易く、圧縮室(61)の内圧Pを、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標として検出することで、予知の精度が向上する。
【0143】
-実施形態3の変形例1-
変形例1は、実施形態3において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する増加率Pr((P-Pn)/Pn)が判定基準値Pb(例えば、0.1(10%))以上である(Pr≧Pb)という条件である。
【0144】
故障予知部(23)は、実施形態3と同様にして圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する増加率Prを算出する。故障予知部(23)は、圧縮機(50)の内圧Pから正常値Pnを減じたものを正常値Pnで除することにより、増加率Prを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率Prを判定基準値Pbと比較し、増加率Prが判定基準値Pb以上である場合(Pr≧Pb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0145】
以上のように、判定動作において、判定基準値Pbと比較する対象を、圧縮機(50)の内圧Pの所定の正常値Pnに対する増加率Pr((P-Pn)/Pn)としても、実施形態3と同様の効果を奏することができる。
【0146】
《実施形態4》
実施形態3の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、圧縮室(61)の内圧を検出する圧力センサ(112)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0147】
〈圧力センサ〉
図4に示すように、圧力センサ(112)は、圧縮機(50)の圧縮室(61)の内圧を検出できるように圧縮部(60)に埋め込まれている。圧力センサ(112)は、吸入開始時点から吐出終了時点までの圧縮室(61)の内圧が検出できるように複数設けられている。圧力センサ(112)は、圧縮室(61)の内圧を検出し、検出した内圧を電気信号に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0148】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する増加量Δκ(κ-κn)が判定基準値κb以上である(Δκ≧κb)という条件である。なお、ポリトロープ指数κとは、圧縮過程における圧縮室(61)の内圧Pと容積Vの関係式PVκ=const.に示される指数であり、容積変化に対する内圧変化の様子を示すものである。
【0149】
まず、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κを算出する。故障予知部(23)は、圧縮室(61)の圧縮行程における内圧P(圧力センサ(112)の検出値)とその際の圧縮室(61)の容積Vとからポリトロープ指数κを算出する。
【0150】
次に、故障予知部(23)は圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する増加量Δκを算出する。正常値κnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数であり、故障予知部(23)は、正常値κnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数から正常値κnを減じることにより、増加量Δκを算出する。なお、正常値κnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数を算出し、その算出値を正常値κnとしてもよい。正常値κnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0151】
次に、故障予知部(23)は、算出した増加量Δκを判定基準値κbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値κbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、増加量Δκが判定基準値κb以上である場合(Δκ≧κb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、増加量Δκが初めて判定基準値κb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0152】
このように、本実施形態4では、故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κを算出し、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態4では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κ(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0153】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。冷媒漏れが発生すると、図5に示すように、冷媒が漏れた先の圧縮室(61)では内圧Pが正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて上昇して圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κも正常時に比べて増加し、冷媒が漏れ出た圧縮室(61)では内圧Pが正常時に比べて低下して圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κも正常時に比べて減少する。そのため、本実施形態4では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して増減する圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κに着目し、該圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0154】
本実施形態4では、上記冷媒漏れが発生した際に、圧力センサ(112)により、正常時に比べて上昇した内圧Pが検出されるタイミング(回転角度)で検出した内圧Pを判定動作に用いることとしている。そのため、上記判定動作において、予兆条件を、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する増加量Δκ(κ-κn)が判定基準値κb以上である(Δκ≧κb)という条件にしている。なお、圧力センサ(112)により、正常時に比べて低下した内圧Pが検出されるタイミング(回転角度)で検出した内圧Pを判定動作に用いることとし、上記判定動作において、予兆条件を、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する低下量Δκ(κn-κ)が判定基準値κb以上である(Δκ≧κb)という条件にしてもよい。
【0155】
以上により、実施形態4の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。また、圧縮室(61)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κは、圧縮室(61)のシール油量の変化に連動して変化するが、駆動軸(55)と第1~第3の軸受(79,69,93)の摩擦の影響を受けない。そのため、圧縮室(61)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κは、圧縮室(61)のシール性の低下を捉え易く、圧縮室(61)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κを、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標として検出することで、予知の精度が向上する。
【0156】
-実施形態4の変形例1-
変形例1は、実施形態4において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する増加率κr((κ-κn)/κn)が判定基準値κb(例えば、0.1(10%))以上である(κr≧κb)という条件である。
【0157】
故障予知部(23)は、実施形態4と同様にして圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する増加率κrを算出する。故障予知部(23)は、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κから正常値κnを減じたものを正常値κnで除することにより、増加率κrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率κrを判定基準値κbと比較し、増加率κrが判定基準値κb以上である場合(κr≧κb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0158】
以上のように、判定動作において、判定基準値κbと比較する対象を、圧縮機(50)の圧縮過程におけるポリトロープ指数κの所定の正常値κnに対する増加率κr((κ-κn)/κn)としても、実施形態4と同様の効果を奏することができる。
【0159】
《実施形態5》
実施形態5の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、モータ(55)への入力電力(モータ駆動装置(45)の出力交流電力)を検出する電力検出部(113)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0160】
〈電力検出部〉
図6に示すように、電力検出部(113)は、モータ駆動装置(45)と圧縮機(50)を接続する電線(モータ(55)の3つの巻線(U相,V相,W相の巻線))に設けられる。電力検出部(113)は、モータ駆動装置(45)から圧縮機(50)のモータ(55)に出力される出力交流電力(即ち、モータ(55)への入力電力)を検出する。電力検出部(113)は、検出した入力電力を、主制御器(21)に対して出力する。なお、電力検出部(113)は必ずしも設ける必要はなく、モータ駆動装置(45)又は主制御器(21)においてモータ(55)に供給される電力を検出してもよい。
【0161】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、モータ(55)への入力電力量Jの所定の正常値Jnに対する増加量ΔJ(J-Jn)が判定基準値Jb以上である(ΔJ≧Jb)という条件である。
【0162】
まず、故障予知部(23)は、圧縮機(50)において駆動軸(80)が1回転して圧縮室(61)において吸入、圧縮、吐出の各工程が実行される間に、モータ(55)に入力される電力量Jを算出する。故障予知部(23)は、モータ駆動装置(45)から圧縮機(50)のモータ(55)に供給される入力電力(電力検出部(113)の検出値)を駆動軸(80)が1回転する時間で積分することによってモータ(55)への入力電力量Jを算出する。
【0163】
次に、故障予知部(23)は、モータ(55)への入力電力量Jの所定の正常値Jnに対する増加量ΔJを算出する。正常値Jnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態におけるモータ(55)への入力電力量であり、故障予知部(23)は、正常値Jnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、モータ(55)への入力電力量Jから正常値Jnを減じることにより、増加量ΔJを算出する。なお、正常値Jnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態におけるモータ(55)への入力電力量を算出し、その算出値を正常値Jnとしてもよい。正常値Jnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0164】
次に、故障予知部(23)は、算出した増加量ΔJを判定基準値Jbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Jbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、増加量ΔJが判定基準値Jb以上である場合(ΔJ≧Jb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、増加量ΔJが初めて判定基準値Jb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0165】
このように、本実施形態5では、故障予知部(23)は、モータ(55)への入力電力量Jを算出し、モータ(55)への入力電力量Jに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態5では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化するモータ(55)への入力電力量J(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0166】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。冷媒漏れが発生すると、図5に示すように、冷媒が漏れた先の圧縮室(61)では仕事量が増加し、冷媒が漏れ出た圧縮室(61)では仕事量が減るが、1サイクル分の圧縮室仕事量Wは、正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて増加する。ここで、モータ(55)への入力電力量Jは、圧縮室仕事量Wに摩擦仕事量を足したものである。そのため、冷媒漏れが発生すると、モータ(55)への入力電力量Jも正常時に比べて増加する。そのため、本実施形態5では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して増加するモータ(55)への入力電力量Jに着目し、該モータ(55)への入力電力量Jを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0167】
以上により、実施形態5の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0168】
-実施形態5の変形例1-
変形例1は、実施形態5において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、モータ(55)への入力電力量Jの所定の正常値Jnに対する増加率Jr((J-Jn)/Jn)が判定基準値Jb(例えば、0.1(10%))以上である(Jr≧Jb)という条件である。
【0169】
故障予知部(23)は、実施形態5と同様にしてモータ(55)への入力電力量Jを求めた後、モータ(55)への入力電力量Jの所定の正常値Jnに対する増加率Jrを算出する。故障予知部(23)は、モータ(55)への入力電力量Jから正常値Jnを減じたものを正常値Jnで除することにより、増加率Jrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率Jrを判定基準値Jbと比較し、増加率Jrが判定基準値Jb以上である場合(Jr≧Jb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0170】
以上のように、判定動作において、判定基準値Jbと比較する対象を、モータ(55)への入力電力量Jの所定の正常値Jnに対する増加率Jr((J-Jn)/Jn)としても、実施形態5と同様の効果を奏することができる。
【0171】
《実施形態6》
実施形態6の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、吸入温度センサ(114)と体積流量センサ(115)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0172】
〈センサ〉
図7に示すように、室外回路(31)には、吸入温度センサ(114)と体積流量センサ(115)とが設けられる。吸入温度センサ(114)は、圧縮機(50)の吸入管(52)と四方切換弁(32)の第2のポート(P2)を繋ぐ配管に接続され、圧縮機(50)へ吸入される冷媒の温度を検出する。体積流量センサ(115)は、圧縮機(50)の吸入管(52)と四方切換弁(32)の第2のポート(P2)を繋ぐ配管に接続され、圧縮機(50)へ吸入される冷媒の体積流量を検出する。吸入温度センサ(114)及び体積流量センサ(115)は、それぞれ検出した冷媒の体積流量を電気信号に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0173】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、空気調和機(10)の冷凍能力Qの所定の正常値Qnに対する低下量ΔQ(Qn-Q)が判定基準値Qb以上である(ΔQ≧Qb)という条件である。
【0174】
まず、故障予知部(23)は、空気調和機(10)の冷凍能力Qを算出する。具体的には、故障予知部(23)は、冷媒回路(30)の蒸発器における吸熱量差Δqと冷媒循環量Gを求め、求めた吸熱量差Δqと冷媒循環量Gの積(Δq×G)を空気調和機(10)の冷凍能力Qとして算出する。なお、故障予知部(23)は、圧縮機(50)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力センサ(26)の検出値)と温度(吸入温度センサ(114)の検出値)とから吸熱量差Δqを求め、圧縮機(50)へ吸入される冷媒の体積流量(体積流量センサ(115)の検出値)と密度とから冷媒循環量Gを求める。
【0175】
次に、故障予知部(23)は、空気調和機(10)の冷凍能力Qの所定の正常値Qnに対する低下量ΔQを算出する。正常値Qnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における空気調和機(10)の冷凍能力であり、故障予知部(23)は、正常値Qnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、正常値Qnから空気調和機(10)の冷凍能力Qを減じることにより、低下量ΔQを算出する。なお、正常値Qnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における空気調和機(10)の冷凍能力を算出し、その算出値を正常値Qnとしてもよい。正常値Qnは、回転数・吸熱量差からなる条件毎に決定する。
【0176】
次に、故障予知部(23)は、算出した低下量ΔQを判定基準値Qbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Qbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、低下量ΔQが判定基準値Qb以上である場合(ΔQ≧Qb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、低下量ΔQが初めて判定基準値Qb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0177】
このように、本実施形態6では、故障予知部(23)は、空気調和機(10)の冷凍能力Qを算出し、空気調和機(10)の冷凍能力Qに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態6では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する空気調和機(10)の冷凍能力Q(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0178】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。冷媒漏れが発生すると、高圧側から漏れ出した高圧のガス(冷媒)が吸入側へ流れ込むことで、冷媒回路(30)における冷媒循環量Gが正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下し、空気調和機(10)の冷凍能力Qも低下する。そのため、本実施形態6では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して低下する空気調和機(10)の冷凍能力Qに着目し、該空気調和機(10)の冷凍能力Qを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0179】
以上により、実施形態6の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0180】
-実施形態6の変形例1-
変形例1は、実施形態6において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、空気調和機(10)の冷凍能力Qの所定の正常値Qnに対する低下率Qr((Qn-Q)/Qn)が判定基準値Qb(例えば、0.1(10%))以上である(Qr≧Qb)という条件である。
【0181】
故障予知部(23)は、実施形態6と同様にして空気調和機(10)の冷凍能力Qを求めた後、空気調和機(10)の冷凍能力Qの所定の正常値Qnに対する低下率Qrを算出する。故障予知部(23)は、正常値Qnから空気調和機(10)の冷凍能力Qを減じたものを正常値Qnで除することにより、低下率Qrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した低下率Qrを判定基準値Qbと比較し、低下率Qrが判定基準値Qb以上である場合(Qr≧Qb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0182】
以上のように、判定動作において、判定基準値Qbと比較する対象を、空気調和機(10)の冷凍能力Qの所定の正常値Qnに対する低下率Qr((Qn-Q)/Qn)としても、実施形態6と同様の効果を奏することができる。
【0183】
《実施形態7》
実施形態7の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、モータ(55)を駆動するための入力電流(モータ駆動装置(45)の三相の相電流)を検出する電流検出部(116)及び基本波周波数検出部(117)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0184】
〈電流検出部、基本波周波数検出部〉
図8に示すように、電流検出部(116)は、モータ駆動装置(45)と圧縮機(50)を接続する電線(モータ(55)の3つの巻線(U相,V相,W相の巻線))に設けられ、三相の相電流(U相電流(iu)とV相電流(iv)とW相電流(iw))を検出する。電流検出部(116)は、検出した三相の相電流を、主制御器(21)に対して出力する。例えば、電流検出部(116)は、三相の相電流(iu,iv,iw)の全部を検出するものであってもよいし、三相の相電流(iu,iv,iw)のうち2つの相電流を検出し、その検出された二相の相電流に基づいて残りの1つの相電流を導出するものであってもよい。なお、電流検出部(116)は必ずしも設ける必要はなく、モータ駆動装置(45)の直流部(図示省略)に設けられたシャント抵抗(図示省略)により検出された直流電流とスイッチングパターンから三相の相電流(iu,iv,iw)を導出してもよい。
【0185】
図8に示すように、基本波周波数検出部(117)は、モータ(55)に設けられ、モータ(55)の基本波周波数(ω)を検出する。なお、モータ(55)の基本波周波数(ω)は、モータ(55)の電気角の周波数(電気角周波数)である。基本波周波数検出部(117)は、検出したモータ(55)の基本波周波数(ω)を、主制御器(21)に対して出力する。なお、基本波周波数検出部(117)は必ずしも設ける必要はなく、モータ(55)の基本波周波数(ω)は他の方法で算出及びセンサレスにより推定されてもよい。
【0186】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のあるモータ信号の波形を示す指標Iの所定の正常値Inに対する低下量ΔI(In-I)が判定基準値Ib以上である(ΔI≧Ib)という条件である。なお、実施形態7では、モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のあるモータ信号の波形を示す指標Iとして、モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のあるモータ信号の第1周波数成分Iを用いる例について説明する。
【0187】
まず、故障予知部(23)は、モータ信号の第1周波数成分Iを求める。モータ信号の第1周波数成分Iは、モータ信号が直流信号である場合、上記モータ(55)の回転周波数であり、モータ信号が交流信号である場合、上記モータ信号の基本周波数に対して上記モータ(55)の回転周波数を減算又は加算して得られる周波数である。モータ信号の第1周波数成分Iの詳細については後述する。なお、モータ(55)の回転周波数は、モータ(55)の機械角の周波数(機械角周波数)である。
【0188】
次に、故障予知部(23)は、モータ信号の第1周波数成分Iの所定の正常値Inに対する低下量ΔIを算出する。正常値Inは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態におけるモータ信号の第1周波数成分であり、故障予知部(23)は、正常値Inとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、正常値Inからモータ信号の第1周波数成分Iを減じることにより、低下量ΔIを算出する。なお、正常値Inは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態におけるモータ信号の第1周波数成分を求め、求めた値を正常値Inとしてもよい。正常値Inは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0189】
次に、故障予知部(23)は、算出した低下量ΔIを判定基準値Ibと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Ibとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、低下量ΔIが判定基準値Ib以上である場合(ΔI≧Ib)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、低下量ΔIが初めて判定基準値Ib以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。例えば、モータ信号の第1周波数成分Iが図9に示すように変化した場合、故障予知部(23)は、モータ信号の第1周波数成分Iの正常値Inに対する低下量ΔIが、判定基準値Ibとなるt1以降の判定時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0190】
このように、本実施形態7では、故障予知部(23)は、モータ信号の第1周波数成分Iを求め、モータ信号の第1周波数成分Iに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。
【0191】
なお、本願の発明者は、モータ信号の第1周波数成分Iが、圧縮機仕事において支配的であり、圧縮工程中の内圧の振幅(最低圧力と最高圧力の差)に相関があること、及び圧縮室(61)のシール性が低下して流体漏れが発生すると、圧縮工程中の圧縮室(61)の内圧の振幅が低下し、モータ信号の第1周波数成分Iが変化することを見出した。そこで、実施形態7では、以下の理由から、予兆条件にモータ信号の第1周波数成分I(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0192】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。
【0193】
冷媒漏れが発生すると、圧縮室(61)の内圧の変動を示す内圧波形が変化し、ガス荷重(ガス冷媒の圧力が旋回側ラップ(76)に及ぼす荷重)が変化する。それにより、各圧縮室(61)の「ガス荷重の接線方向成分」と「回転中心と圧縮室(61)の重心位置との距離」の積の総和で表される圧縮機(50)の圧縮トルクを示す信号(圧縮トルク信号)の波形が変化する。圧縮トルク信号の波形とモータ出力トルク信号の波形は連動しており、冷媒漏れが発生すると、モータ出力トルク信号の波形と連動するモータ信号の波形にも変化が現れる。具体的には、冷媒漏れが発生すると、モータ信号の第1周波数成分I(モータ信号の波形を示す指標Iの一例)が正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下する。
【0194】
そのため、本実施形態7では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して低下するモータ信号の第1周波数成分Iに着目し、該モータ信号の第1周波数成分Iを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0195】
以上により、実施形態7の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。また、モータ信号の第1周波数成分Iは、圧縮室(61)のシール油量の変化に連動して変化するが、駆動軸(55)と第1~第3の軸受(79,69,93)の摩擦の影響を受けない。そのため、モータ信号の第1周波数成分Iは、圧縮室(61)のシール性の低下を捉え易く、モータ信号の第1周波数成分Iを、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標として検出することで、予知の精度が向上する。
【0196】
〈モータ信号の第1周波数成分〉
次に、モータ信号の第1周波数成分Iの具体例について説明する。モータ信号は、モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のある信号であり、第1周波数成分Iの周波数は、モータ信号が直流信号であるか交流信号であるかにより異なる。第1周波数成分Iの周波数は、モータ信号が直流信号である場合、モータ(55)の回転周波数(fm)であり、モータ信号が交流信号である場合、モータ信号の基本周波数(f0)に対してモータ(55)の回転周波数(fm)を減算して得られる周波数(f0-fm)、又はモータ信号の基本周波数(f0)に対してモータ(55)の回転周波数(fm)を加算して得られる周波数(f0+fm)である。
【0197】
〔モータ信号が直流信号である場合の具体例〕
モータ信号が直流信号である場合の例としては、「モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)に相関する信号」と、「モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に相関する信号」と、「モータ(55)の電力に相関する信号」が挙げられる。
【0198】
モータ信号が直流信号である別の例としては、「モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(55)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電流(iγ,iδ)」と、「モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電圧(Vγ,Vδ)」と、「モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電流(iζ,iη)」と、「モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(55)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電圧(Vζ,Vη)」が挙げられる。
【0199】
モータ信号が直流信号であるさらに別の例としては、「永久磁石による電機子鎖交磁束に合わせて座標変換したdq軸磁束(λd,λq)」と、「永久磁石の電機子鎖交磁束と電機子反作用を合成した電機子鎖交磁束ベクトルの大きさλ0」が挙げられる。
【0200】
なお、以下の説明において、「モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)」は、電流検出部(116)により検出されるモータ(55)の相電流(iu,iv,iw)のことである。「モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)」は、主制御器(21)の内部において用いられる電圧指令値に示されるモータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)、又は、モータ駆動装置(45)に設けられた電圧検出部(図示を省略)により検出されるモータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)のことである。「モータ(55)の基本波周波数(ω)」は、基本波周波数検出部(117)により検出されるモータ(55)の基本波周波数(ω)のことである。
【0201】
<モータの相電流に相関する信号の具体例>
モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)に相関する信号の具体例としては、(1)電流ベクトル振幅(Ia)、(2)電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2),相電流振幅(I)、(3)相電流実効値(Irms)等が挙げられる。
【0202】
なお、電流ベクトル振幅(Ia)及び電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(55)の三相の相電流(iu,iv,iw)の各々の二乗値の総和に応じた値の一例である。モータ(55)の三相の相電流(iu,iv,iw)の各々の二乗値の総和に応じた値は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)の大きさの整数乗に比例する値の一例である。
【0203】
(1)電流ベクトル振幅
電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)及びβ相電流(iβ)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)及びT軸電流(iT)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)及びq軸電流(iq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電流ベクトル振幅(Ia)は、次の式のように表現できる。
【0204】
【数1】
【0205】
(2)電流ベクトル振幅の二乗値
電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)及びβ相電流(iβ)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)及びT軸電流(iT)に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)及びq軸電流(iq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)は、次の式のように表現できる。
【0206】
【数2】
【0207】
(3)相電流振幅
相電流振幅(I)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)のうち1つの相電流(例えばU相電流(iu))と、相電流の位相(ωi)とに基づいて導出される。なお、相電流の位相(ωi)は、例えば、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される。具体的には、相電流振幅(I)は、次の式のように表現できる。
【0208】
【数3】
【0209】
(4)相電流実効値
相電流実効値(Irms)は、相電流振幅(I)に基づいて導出される。具体的には、相電流実効値(Irms)は、次の式のように表現できる。
【0210】
【数4】
【0211】
(5)その他
以上の説明では、電流ベクトル振幅(Ia)がモータ(55)の三相の相電流(iu,iv,iw)に基づいて導出される場合を例に挙げたが、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ(55)の三相の相電流(iu,iv,iw)のうち二相の相電流に基づいて導出されてもよい。また、電流ベクトル振幅(Ia)は、モータ駆動装置(45)に設けられた直流電流検出部(例えばシャント抵抗、図示を省略)により検出されるインバータの直流電流に基づいて導出されてもよい。電流ベクトル振幅の二乗値(Ia2)についても同様である。
【0212】
<モータの相電圧に相関する信号の具体例>
モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)と相関する信号の具体例として、(1)電圧ベクトル振幅(Va)、(2)電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)、(3)相電圧振幅(V)、(4)相電圧実効値(Vrms)等が挙げられる。
【0213】
なお、電圧ベクトル振幅(Va)及び電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(55)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)の各々の二乗値の総和に応じた値の一例である。モータ(55)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)の各々の二乗値の総和に応じた値は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の大きさの整数乗に比例する値の一例である。
【0214】
(1)電圧ベクトル振幅
電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)及びβ相電圧(Vβ)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)及びT軸電圧(VT)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)及びq軸電圧(Vq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電圧ベクトル振幅(Va)は、次の式のように表現できる。
【0215】
【数5】
【0216】
(2)電圧ベクトル振幅の二乗値
電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)及びβ相電圧(Vβ)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)及びT軸電圧(VT)に基づいて導出されてもよい。また、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)及びq軸電圧(Vq)に基づいて導出されてもよい。具体的には、電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)は、次の式のように表現できる。
【0217】
【数6】
【0218】
(3)相電圧振幅
相電圧振幅(V)は、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)のうち1つの相電圧(例えばU相電圧(Vu))と、相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。なお、相電圧の位相(ωv)は、例えば、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される。具体的には、相電圧振幅(V)は、次の式のように表現できる。
【0219】
【数7】
【0220】
(4)相電圧実効値
相電圧実効値(Vrms)は、相電圧振幅(V)に基づいて導出される。具体的には、相電圧実効値(Vrms)は、次の式のように表現できる。
【0221】
【数8】
【0222】
(5)その他
以上の説明では、電圧ベクトル振幅(Va)がモータ(55)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)に基づいて導出される場合を例に挙げたが、電圧ベクトル振幅(Va)は、モータ(55)の三相の相電圧(Vu,Vv,Vw)のうち二相の相電圧に基づいて導出されてもよい。電圧ベクトル振幅の二乗値(Va2)についても同様である。
【0223】
<モータの電力に相関する信号の具体例>
モータ(55)の電力に相関する信号の例として、(1)瞬時電力(p)、(2)瞬時虚電力(q)、(3)皮相電力(S)、(4)有効電力(P)、(5)無効電力(Q)等が挙げられる。
【0224】
(1)瞬時電力
瞬時電力(p)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)とに基づいて導出される。また、瞬時電力(p)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)及びβ相電流(iβ)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)及びβ相電圧(Vβ)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時電力(p)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)及びT軸電流(iT)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)及びT軸電圧(VT)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時電力(p)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)及びq軸電流(iq)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)及びq軸電圧(Vq)とに基づいて導出されてもよい。具体的には、瞬時電力(p)は、次の式のように表現できる。
【0225】
【数9】
【0226】
(2)瞬時虚電力
瞬時虚電力(q)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を固定座標系に変換して得られるα相電流(iα)及びβ相電流(iβ)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を固定座標系に変換して得られるα相電圧(Vα)及びβ相電圧(Vβ)とに基づいて導出される。また、瞬時虚電力(q)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電流(iM)及びT軸電流(iT)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を一次磁束の向きに基づいた角度により座標変換して得られるM軸電圧(VM)及びT軸電圧(VT)とに基づいて導出されてもよい。また、瞬時虚電力(q)は、モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電流(id)及びq軸電流(iq)と、モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)を磁極位置の向きに基づいた角度により座標変換して得られるd軸電圧(Vd)及びq軸電圧(Vq)とに基づいて導出されてもよい。具体的には、瞬時虚電力(q)は、次の式のように表現できる。
【0227】
【数10】
【0228】
(3)皮相電力
皮相電力(S)は、相電圧実効値(Vrms)と相電流実効値(Irms)とに基づいて導出される。具体的には、皮相電力(S)は、次の式のように表現できる。
【0229】
【数11】
【0230】
(4)有効電力
有効電力(P)は、相電圧実効値(Vrms)と、相電流実効値(Irms)と、相電圧と相電流との位相差(φ1)とに基づいて導出される。相電圧と相電流との位相差(φ1)は、1つの相電流(例えばU相電圧(Vu))と1つの相電圧(例えばU相電流(iu))との位相差であり、相電流の位相(ωi)及び相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。具体的には、有効電力(P)は、次の式のように表現できる。
【0231】
【数12】
【0232】
(5)無効電力
無効電力(Q)は、相電圧実効値(Vrms)と、相電流実効値(Irms)と、相電圧と相電流との位相差(φ1)とに基づいて導出される。相電圧と相電流との位相差(φ1)は、例えば、U相電圧(Vu)とU相電流(iu)との位相差であり、相電流の位相(ωi)及び相電圧の位相(ωv)とに基づいて導出される。具体的には、無効電力(Q)は、次の式のように表現できる。
【0233】
【数13】
【0234】
<相電流を相電流の位相で座標変換して得られる電流>
モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(55)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電流(iγ,iδ)は、次の式のように表現できる。
【0235】
【数14】
【0236】
<相電圧を相電圧の位相で座標変換して得られる電圧>
モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電圧(Vγ,Vδ)は、次の式のように表現できる。
【0237】
【数15】
【0238】
<相電流を相電圧の位相で座標変換して得られる電流>
モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)をモータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)の位相(ωv・t)で座標変換して得られる電流(iζ,iη)は、次の式のように表現できる。
【0239】
【数16】
【0240】
<相電圧を相電流の位相で座標変換して得られる電圧>
モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)をモータ(55)の相電流(iu,iv,iw)の位相(ωi・t)で座標変換して得られる電圧(Vζ,Vη)は、次の式のように表現できる。
【0241】
【数17】
【0242】
<dq軸磁束と電機子鎖交磁束ベクトルの大きさ>
永久磁石による電機子鎖交磁束に合わせて座標変換したdq軸磁束(λd,λq)と、永久磁石の電機子鎖交磁束と電機子反作用を合成した電機子鎖交磁束ベクトルの大きさλ0は、次の式のように表現できる。次の式の「Ld」はd軸インダクタンスであり、「Lq」はq軸インダクタンスである。
【0243】
【数18】
【0244】
<モータ信号が直流信号である場合のその他の例>
また、モータ信号は、モータ(55)の相電流や相電圧や線電流や線間電圧を3相2相変換し、さらに、回転座標変換を施した直流信号であってもよい。例えば、モータ信号(直流信号)は、モータ(55)の相電流を3相2相変換したα軸電流及びβ軸電流を、モータ(55)の回転子の磁極の向きに基づく角度で回転座標変換したd軸電流及びq軸電流であってもよい。また、モータ信号(直流信号)は、α軸電流及びβ軸電流を、モータ(55)の回転子の一次磁束の向きに基づく角度で回転座標変換したM軸電流及びT軸電流であってもよい。
【0245】
また、モータ信号(直流信号)は、モータ駆動装置(45)のコンバータ(21)に入力される電力、コンバータ(21)から出力される電力、直流部(22)から出力される電力、コンバータ(21)と直流部(22)との間を流れる電流、直流部(22)とインバータ(23)の間を流れる電流などであってもよい。
【0246】
〔モータ信号が交流信号である場合の具体例〕
モータ信号が交流信号である場合の例としては、「モータ(55)の相電流(iu,iv,iw)」と、「モータ(55)の相電圧(Vu,Vv,Vw)」と、「各相の鎖交磁束(Ψfu,Ψfv,Ψfw)」とが挙げられる。
【0247】
各相の鎖交磁束(Ψfu,Ψfv,Ψfw)は、次の式のように表現できる。
【0248】
【数19】
【0249】
モータ信号が交流信号である場合の別の例としては、上記の交流信号を三相二相変換した固定座標の電流、電圧鎖交磁束が挙げられる。
【0250】
また、モータ信号(交流信号)は、モータ(55)の相電流、相電圧、線電流、線間電圧などであってもよい。また、モータ信号(交流信号)は、相電流や相電圧や線電流や線間電圧を3相2相変換した2相の交流電流(例えばα軸電流及びβ軸電流)や2相の交流電圧であってもよい。また、交流電流は、商用電源系統(具体的には交流電源(60))とモータ駆動装置(45)のコンバータ(21)との間を流れる電流であってもよい。
【0251】
本実施形態7では、モータ信号の波形を示す指標Iの一例として、モータ信号の第1周波数成分Iについて説明したが、モータ信号の波形を示す指標Iは、これに限られない。例えば、モータ信号の波形を示す指標Iは、モータ信号(直流信号)の瞬時値Iinstからモータ(55)1回転分のモータ信号(直流信号)の平均値Iavgを減じたものを、モータ(55)1回転分のモータ信号(直流信号)の平均値Iavgで除したもの((Iinst-Iavg)/Iavg)の絶対値について、モータ(55)1回転分積分した値を用いることもできる。この値も、モータ信号の第1周波数成分Iと同様に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下した際に、正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下する。
【0252】
-実施形態7の変形例1-
変形例1は、実施形態7において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、モータ信号の第1周波数成分Iの所定の正常値Inに対する低下率Ir((In-I)/In)が判定基準値Ib(例えば、0.1(10%))以上である(Ir≧Ib)という条件である。
【0253】
故障予知部(23)は、実施形態7と同様にしてモータ信号の第1周波数成分Iを求めた後、モータ信号の第1周波数成分Iの所定の正常値Inに対する低下率Irを算出する。故障予知部(23)は、正常値Inからモータ信号の第1周波数成分Iを減じたものを正常値Inで除することにより、低下率Irを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した低下率Irを判定基準値Ibと比較し、低下率Irが判定基準値Ib以上である場合(Ir≧Ib)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0254】
以上のように、判定動作において、判定基準値Ibと比較する対象を、モータ信号の第1周波数成分Iの所定の正常値Inに対する低下率Ir((In-I)/In)としても、実施形態7と同様の効果を奏することができる。
【0255】
《実施形態8》
実施形態8の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、圧縮室(61)の内圧を検出する圧力センサ(112)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0256】
〈圧力センサ〉
図4に示すように、圧力センサ(112)は、圧縮機(50)の圧縮室(61)の内圧を検出できるように圧縮部(60)に埋め込まれている。圧力センサ(112)は、吸入開始時点から吐出終了時点までの圧縮室(61)の内圧が検出できるように複数設けられている。圧力センサ(112)は、圧縮室(61)の内圧を検出し、検出した内圧を電気信号に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0257】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、圧縮機(50)の圧縮トルクを示す信号(圧縮トルク信号)の波形を示す指標Tの所定の正常値Tcnに対する低下量ΔTc(Tcn-Tc)が判定基準値Tcb以上である(ΔTc≧Tcb)という条件である。なお、実施形態8では、圧縮トルク信号の波形を示す指標Tとして、モータ(55)の回転周波数成分Tcを用いる例について説明する。
【0258】
ここで、「圧縮機(50)の圧縮トルク」とは、圧縮機(50)を回転させるために要する負荷トルクから摩擦等の損失分を減じたもの、即ち、ガス(冷媒)の圧縮に要するガス圧縮分をいう。
【0259】
まず、故障予知部(23)は、圧縮機(50)において吸入、圧縮、吐出の各工程が実行される間における圧縮トルクを算出し、該圧縮トルクを示す信号(圧縮トルク信号)のモータ(55)の回転周波数成分Tcを求める。故障予知部(23)は、圧縮ガス(冷媒)によって駆動軸(80)の偏心方向に作用する力の径方向成分に垂直な接線方向成分Fptを、駆動軸(80)の旋回半径rで積分することにより、圧縮トルクを算出する。
【0260】
圧縮ガス(冷媒)によって駆動軸(80)の偏心方向に作用する力の径方向成分に垂直な接線方向成分Fptは、次の式のように表現できる。次の式の「Pi」は中心からi番目の圧縮室(61)の内圧、「h」はラップ(72,76)の高さ、「Ps」は吸入圧力、「Pd」は吐出圧力、「λpi」はi番目の圧縮室(61)の伸開角、「a」はインボリュートの基礎円半径、「t」はラップ(72,76)の厚さである。
【0261】
【数20】
【0262】
次に、故障予知部(23)は、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcの所定の正常値Tcnに対する低下量ΔTcを算出する。正常値Tcnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分であり、故障予知部(23)は、正常値Tcnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcから正常値Tcnを減じることにより、低下量ΔTcを算出する。なお、正常値Tcnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分を求め、求めた値を正常値Tcnとしてもよい。正常値Tcnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0263】
次に、故障予知部(23)は、算出した低下量ΔTcを判定基準値Tcbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Tcbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、低下量ΔTcが判定基準値Tcb以上である場合(ΔTc≧Tcb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、低下量ΔTcが初めて判定基準値Tcb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0264】
このように、本実施形態8では、故障予知部(23)は、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcを求め、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態8では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tc(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0265】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。
【0266】
冷媒漏れが発生すると、圧縮室(61)の内圧の変動を示す内圧波形が変化し、ガス荷重(ガス冷媒の圧力が旋回側ラップ(76)に及ぼす荷重)が変化する。それにより、各圧縮室(61)の「ガス荷重の接線方向成分」と「回転中心と圧縮室(61)の重心位置との距離」の積の総和で表される圧縮機(50)の圧縮トルクを示す信号(圧縮トルク信号)の波形が変化する。具体的には、冷媒漏れが発生すると、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tc(圧縮トルク信号の波形を示す指標Tの一例)が正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下する。
【0267】
そのため、本実施形態8では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して低下する圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcに着目し、該圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0268】
以上により、実施形態8の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。また、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcは、圧縮室(61)のシール油量の変化に連動して変化するが、駆動軸(55)と第1~第3の軸受(79,69,93)の摩擦の影響を受けない。そのため、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcは、圧縮室(61)のシール性の低下を捉え易く、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcを、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標として検出することで、予知の精度が向上する。
【0269】
本実施形態8では、圧縮トルクの波形を示す指標Tcの一例として、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcについて説明したが、圧縮トルクの波形を示す指標Tcは、これに限られない。例えば、圧縮トルクの波形を示す指標Tcは、圧縮トルク信号の瞬時値Tinstからモータ(55)1回転分の圧縮トルクの平均値Tavgを減じたものを、モータ(55)1回転分の圧縮トルクの平均値Tavgで除したもの((Tinst-Tavg)/Tavg)の絶対値について、モータ(55)1回転分積分した値を用いることもできる。この値も、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcと同様に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下した際に、正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下する。
【0270】
-実施形態8の変形例1-
変形例1は、実施形態8において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcの所定の正常値Tcnに対する低下率Tcr((Tc-Tcn)/Tcn)が判定基準値Tcb(例えば、0.1(10%))以上である(Tcr≧Tcb)という条件である。
【0271】
故障予知部(23)は、実施形態8と同様にして圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcを求めた後、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcの所定の正常値Tcnに対する低下率Tcrを算出する。故障予知部(23)は、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcから正常値Tcnを減じたものを正常値Tcnで除することにより、低下率Tcrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率Tcrを判定基準値Tcbと比較し、低下率Tcrが判定基準値Tcb以上である場合(Tcr≧Tcb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0272】
以上のように、判定動作において、判定基準値Tcbと比較する対象を、圧縮トルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcの所定の正常値Tcnに対する低下率Tcr((Tc-Tcn)/Tcn)としても、実施形態8と同様の効果を奏することができる。
【0273】
-実施形態8の変形例2-
変形例2は、実施形態8において予兆条件を変更したものである。変形例2では、予兆条件に、実施形態8で用いていた圧縮トルク信号の代わりに、モータトルク信号を用いる。つまり、変形例2では、モータ(55)の出力トルクを示す信号(モータトルク信号)のモータ(55)の回転周波数成分Tcの所定の正常値Tcnに対する低下量ΔTc(Tcn-Tc)が判定基準値Tcb以上である(ΔTc≧Tcb)という条件を、予兆条件とする。なお、判定動作は、故障予知部(23)が、圧縮トルクの代わりに、圧縮機(50)において吸入、圧縮、吐出の各工程が実行される間におけるモータ(55)の出力トルクを算出し、該モータ(55)の出力トルクを示す信号(モータトルク信号)のモータ(55)の回転周波数成分Tcを求めて判定に用いる他は、実施形態8と同様である。なお、モータ(55)の出力トルクは、周知の種々の手法で推定することができる。
【0274】
圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下し、圧縮室(61)のシール性が低下して冷媒漏れが発生すると、モータ(55)の出力トルクは、圧縮トルクと同様に変化する。冷媒漏れが発生すると、低圧側の圧縮室(61)の内圧が正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下するため、モータトルク信号のモータ(55)の回転周波数成分Tcも低下する。よって、圧縮トルク信号の代わりに、モータトルク信号を用いた予兆条件で判定動作を行うこととしても、実施形態8と同様の効果を奏することができる。
【0275】
《実施形態9》
実施形態9の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、圧縮機(50)の振動を検出する振動センサ(118)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0276】
〈振動センサ〉
図10に示すように、振動センサ(118)は、圧縮機(50)の振動を検出できるように圧縮機(50)に取り付けられている。振動センサ(118)は、圧縮機(50)の振動を検出し、検出した振動を電気信号(振動信号)に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0277】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、圧縮機(50)の振動を示す信号(振動信号)の波形を示す指標Viの所定の正常値Vinに対する低下量ΔVi(Vi-Vin)が判定基準値Vib以上である(ΔVi≧Vib)という条件である。なお、実施形態9では、振動信号の波形を示す指標Viとして、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viを用いる例について説明する。
【0278】
まず、故障予知部(23)は、振動信号(振動センサ(118)から送信される検出信号)のモータ(55)の回転周波数成分Viを求める。
【0279】
次に、故障予知部(23)は、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viの所定の正常値Vinに対する低下量ΔViを算出する。正常値Vinは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における振動信号のモータ(55)の回転周波数成分であり、故障予知部(23)は、正常値Vinとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viから正常値Vinを減じることにより、低下量ΔViを算出する。なお、正常値Vinは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態における振動信号のモータ(55)の回転周波数成分を求め、求めた値を正常値Vinとしてもよい。正常値Vinは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0280】
次に、故障予知部(23)は、算出した低下量ΔViを判定基準値Vibと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Vibとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、低下量ΔViが判定基準値Vib以上である場合(ΔVi≧Vib)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、低下量ΔViが初めて判定基準値Vib以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0281】
このように、本実施形態9では、故障予知部(23)は、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viを求め、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。なお、本実施形態9では、以下の理由から、予兆条件に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量と連動して変化する振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Vi(圧縮部(60)の運転状態を示す指標)を用いている。
【0282】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、圧縮部(60)では、各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する前に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下する。圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下すると、圧縮室(61)のシール性が低下し、内圧が高い圧縮室(61)から低い圧縮室(61)へ冷媒が漏れる冷媒漏れが発生する。
【0283】
冷媒漏れが発生すると、圧縮室(61)の内圧の変動を示す内圧波形が変化し、ガス荷重(ガス冷媒の圧力が旋回側ラップ(76)に及ぼす荷重)が変化する。それにより、各圧縮室(61)の「ガス荷重の接線方向成分」と「回転中心と圧縮室(61)の重心位置との距離」の積の総和で表される圧縮機(50)の圧縮トルクを示す信号(圧縮トルク信号)の波形が変化する。圧縮トルク信号の波形と振動信号の波形は連動しているので、冷媒漏れが発生すると、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Vi(振動信号の波形を示す指標Vi)が低下する。
【0284】
そのため、本実施形態9では、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良に連動して低下する振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viに着目し、該振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0285】
以上により、実施形態9の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。また、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viは、圧縮室(61)のシール油量の変化に連動して変化するが、駆動軸(55)と第1~第3の軸受(79,69,93)の摩擦の影響を受けない。そのため、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viは、圧縮室(61)のシール性の低下を捉え易く、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viを、圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標として検出することで、予知の精度が向上する。
【0286】
本実施形態9では、振動信号の波形を示す指標Viの一例として、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viについて説明したが、振動信号の波形を示す指標Viは、これに限られない。例えば、振動信号の波形を示す指標Viは、振動信号の瞬時値Vinstからモータ(55)1回転分の圧縮機(50)の振動の平均値Vavgを減じたものを、モータ(55)1回転分の振動の平均値Vavgで除したもの((Vinst-Vavg)/Vavg)の絶対値について、モータ(55)1回転分積分した値を用いることもできる。この値も、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viと同様に、圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量が低下した際に、正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて低下する。
【0287】
-実施形態9の変形例1-
変形例1は、実施形態9において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viの所定の正常値Vinに対する低下率Vir((Vi-Vin)/Vin)が判定基準値Vib(例えば、0.1(10%))以上である(Vir≧Vib)という条件である。
【0288】
故障予知部(23)は、実施形態9と同様にして振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viを求めた後、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viの所定の正常値Vinに対する低下率Virを算出する。故障予知部(23)は、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viから正常値Vinを減じたものを正常値Vinで除することにより、低下率Virを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した低下率Virを判定基準値Vibと比較し、低下率Virが判定基準値Vib以上である場合(Vir≧Vib)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0289】
以上のように、判定動作において、判定基準値Vibと比較する対象を、振動信号のモータ(55)の回転周波数成分Viの所定の正常値Vinに対する低下率Vir((Vi-Vin)/Vin)としても、実施形態9と同様の効果を奏することができる。
【0290】
-実施形態9の変形例2-
変形例2は、実施形態9の空気調和機(10)において、圧縮機(50)の振動Viを検出する振動センサ(118)の代わりに、圧縮機(50)の運転中に発生する音(空気振動)を検出するマイクロフォン(119)を設け、予兆条件に、マイクロフォン(119)による検出信号(振動信号)の回転周波数成分Viを用いることとしたものである。
【0291】
図11に示すように、マイクロフォン(119)は、圧縮機(50)の運転中に圧縮機(50)が発する音を検出できる位置に設けられている。マイクロフォン(119)は、圧縮機(50)の運転中に圧縮機(50)が発する音を検出し、検出した音を電気信号(振動信号)に変換して主制御器(21)に対して出力する。
【0292】
判定動作は、振動信号が、マイクロフォン(119)から送信される検出信号である点が実施形態9と異なるだけで、その他の判定動作は実施形態9と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0293】
以上のように、実施形態9の空気調和機(10)において、振動センサ(118)の代わりにマイクロフォン(119)を設け、予兆条件に、マイクロフォン(119)による検出信号(振動信号)の回転周波数成分Viを用いることとしても、実施形態9と同様の効果を奏することができる。
【0294】
《実施形態10》
実施形態10の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が金属材料で構成されると共に、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、モータ(55)を駆動するための入力電流(以下、単に、モータ駆動電流という)を検出する電流検出部(116)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0295】
〈電流検出部〉
電流検出部(116)は、図8に示す実施形態7と同様に、モータ駆動装置(45)と圧縮機(50)を接続する電線(モータ(55)の3つの巻線(U相,V相,W相の巻線))に設けられ、三相の相電流(U相電流(iu)とV相電流(iv)とW相電流(iw))を検出する。電流検出部(116)は、検出した三相の相電流を、主制御器(21)に対して出力する。なお、電流検出部(116)は必ずしも設ける必要はなく、モータ駆動装置(45)の直流部(図示省略)に設けられたシャント抵抗(図示省略)により検出された直流電流とスイッチングパターンから三相の相電流(iu,iv,iw)を導出してもよい。
【0296】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、モータ駆動電流(電流検出部(116)によって検出される三相の相電流(iu,iv,iw)のいずれか)の所定の高周波成分Ihの所定の正常値Ihnに対する増加量ΔIh(Ih-Ihn)が判定基準値Ihb以上である(ΔIh≧Ihb)という条件である。
【0297】
まず、故障予知部(23)は、モータ駆動電流(電流検出部(116)によって検出される三相の相電流(iu,iv,iw)のいずれか)の所定の高周波成分Ihを求める。故障予知部(23)は、電流検出部(116)によって検出される三相の相電流(iu,iv,iw)のいずれかに対して高速フーリエ変換を行い、分解した複数の周波数成分の中からモータ(55)の回転動周波数の所定倍数の成分を、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihとする。
【0298】
次に、故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihの所定の正常値Ihnに対する増加量ΔIhを算出する。正常値Ihnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態におけるモータ駆動電流の所定の高周波成分であり、故障予知部(23)は、正常値Ihnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihから正常値Ihnを減じることにより、増加量ΔIhを算出する。なお、正常値Ihnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、軸受(79,69,93)が劣化していない正常状態におけるモータ駆動電流の所定の高周波成分を求め、求めた値を正常値Ihnとしてもよい。正常値Ihnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0299】
次に、故障予知部(23)は、算出した増加量ΔIhを判定基準値Ihbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Ihbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、増加量ΔIhが判定基準値Ihb以上である場合(ΔIh≧Ihb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、増加量ΔIhが初めて判定基準値Ihb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0300】
このように、本実施形態10では、故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihを求め、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。
【0301】
なお、本願の発明者は、摺動部の摩耗によって生じた摩耗粉や潤滑油の劣化によって生じた炭化物等の異物が潤滑油と共に金属材料で構成された駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に供給されると、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihが増加することを見出した。駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が金属材料で構成されていると、他の素材で構成されている場合に比べて異物が供給されることによるモータ駆動電流の所定の高周波成分Ihが変化することも見出した。そこで、実施形態10では、以下の理由から、予兆条件にモータ駆動電流の所定の高周波成分Ih(モータ(55)の駆動状態を示す指標)を用いている。
【0302】
圧縮機(50)において、油溜まり部(95)の油量や潤滑油の濃度が低下すると、給油通路(87)を介して油溜まり部(95)の潤滑油が供給される圧縮機(50)の各摺動部における潤滑状態が流体潤滑から混合潤滑もしくは境界潤滑に移行する。これにより、駆動軸(80)と第1~第3の軸受(79,69,93)間では、両者が接触して摩耗し(劣化し)、やがて焼き付く等して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が故障して(動作不能となる状態となって)しまう。一方、本実施形態10においても、圧縮機(50)が、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じるように構成されている。そのため、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、圧縮部(60)の摺動部分が駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分よりも先に摩耗する。このようにして生じた摩耗粉(異物)は、潤滑油と共に駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に供給される。
【0303】
また、圧縮機(50)において、潤滑油の劣化が始まると、潤滑油が変質して硬い炭化物となるが、このようにして生じた炭化物(異物)も、潤滑油と共に駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に供給される。なお、潤滑油の劣化が進むと、油量低下の場合と同様に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が、やがて焼き付く等して故障することとなる。
【0304】
ところで、第1~第3の軸受(79,69,93)が樹脂材料で構成されている場合、摩耗粉や炭化物等の異物が第1~第3の軸受(79,69,93)に供給されても多くが第1~第3の軸受(79,69,93)に埋収される。しかしながら、本実施形態10では、第1~第3の軸受(79,69,93)が金属材料で構成されているため、摩耗粉は第1~第3の軸受(79,69,93)に埋収されずに駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)との間で両者を傷付ける(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が劣化する)。その結果、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihが正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて増加する。そこで、本実施形態10では、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihに着目し、該モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(異物が摩耗粉の場合は油溜まり部(95)の油量低下、異物が炭化物の場合は潤滑油の劣化)の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0305】
なお、本実施形態10では、金属材料で構成された駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)は、該駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(異物が摩耗粉の場合は油溜まり部(95)の油量低下、異物が炭化物の場合は潤滑油の劣化)に連動して劣化し(他の摺動部分で先に潤滑不良が生じて生じた摩耗粉又は炭化物で傷付き)、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ih(モータ(55)の駆動状態を示す指標)を変化させるものである。つまり、本実施形態10では、金属材料で構成された駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)は、故障予知の対象部分であって、故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(異物が摩耗粉の場合は油溜まり部(95)の油量低下、異物が炭化物の場合は潤滑油の劣化)に連動して劣化し、劣化に連動して所定の指標(モータ駆動電流の所定の高周波成分Ih)を変化させる顕在化部となる。
【0306】
以上により、実施形態10の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0307】
-実施形態10の変形例1-
変形例1は、実施形態10において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihの所定の正常値Ihnに対する増加率Ihr((Ih-Ihn)/Ihn)が判定基準値Ihb(例えば、0.1(10%))以上である(Ihr≧Ihb)という条件である。
【0308】
故障予知部(23)は、実施形態10と同様にしてモータ駆動電流の所定の高周波成分Ihを求めた後、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihの所定の正常値Ihnに対する増加率Ihrを算出する。故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihから正常値Ihnを減じたものを正常値Ihnで除することにより、増加率Ihrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率Ihrを判定基準値Ihbと比較し、増加率Ihrが判定基準値Ihb以上である場合(Ihr≧Ihb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0309】
以上のように、判定動作において、判定基準値Ihbと比較する対象を、モータ駆動電流の所定の高周波成分Ihの所定の正常値Ihnに対する増加率Ihr((Ih-Ihn)/Ihn)としても、実施形態10と同様の効果を奏することができる。
【0310】
《実施形態11》
実施形態11の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が金属材料で構成されると共に、吐出ガスの温度を検出する温度センサ(111)の代わりに、モータ(55)を駆動するための入力電流(以下、単に、モータ駆動電流という)を検出する電流検出部(116)を設け、故障予知部(23)による判定動作を変更したものである。その他の構成及び動作は、実施形態1と同様である。ここでは、実施形態1と異なる点について説明する。
【0311】
〈電流検出部〉
電流検出部(116)は、図8に示す実施形態7と同様に、モータ駆動装置(45)と圧縮機(50)を接続する電線(モータ(55)の3つの巻線(U相,V相,W相の巻線))に設けられ、三相の相電流(U相電流(iu)とV相電流(iv)とW相電流(iw))を検出する。電流検出部(116)は、検出した三相の相電流を、主制御器(21)に対して出力する。なお、電流検出部(116)は必ずしも設ける必要はなく、モータ駆動装置(45)の直流部(図示省略)に設けられたシャント抵抗(図示省略)により検出された直流電流とスイッチングパターンから三相の相電流(iu,iv,iw)を導出してもよい。
【0312】
〈判定動作〉
故障予知部(23)の判定動作について説明する。本実施形態においても、故障予知部(23)は、予兆条件の成否を判定する判定動作を、所定時間毎(例えば、30秒毎)に繰り返し行う。本実施形態では、予兆条件は、モータ(55)の駆動するための入力電流(電流検出部(116)によって検出される三相の相電流(iu,iv,iw)のいずれか)の所定の高調波成分Ihcの所定の正常値Ihcnに対する増加量ΔIhc(Ihc-Ihcn)が判定基準値Ihcb以上である(ΔIhc≧Ihcb)という条件である。
【0313】
まず、故障予知部(23)は、モータ駆動電流(電流検出部(116)によって検出される三相の相電流(iu,iv,iw)のいずれか)の所定の高調波成分Ihcを求める。故障予知部(23)は、電流検出部(116)によって検出される三相の相電流(iu,iv,iw)のいずれかに対して高速フーリエ変換を行い、分解した複数の周波数成分の中からモータ(55)の回転周波数の所定倍数の成分を、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcとする。
【0314】
次に、故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcの所定の正常値Ihcnに対する増加量ΔIchを算出する。正常値Ihcnは、圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態におけるモータ駆動電流の所定の高調波成分であり、故障予知部(23)は、正常値Ihcnとして基準となる値を記憶している。故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcから正常値Ihcnを減じることにより、増加量ΔIhcを算出する。なお、正常値Ihcnは、圧縮機(50)の種類毎に予め決定された値であってもよく、圧縮機システム(40)の設置後、試運転を行い、軸受(79,69,93)が劣化していない正常状態におけるモータ駆動電流の所定の高調波成分を求め、求めた値を正常値Ihcnとしてもよい。正常値Ihcnは、回転数・高圧・低圧からなる圧縮機(50)の運転条件毎に決定する。
【0315】
次に、故障予知部(23)は、算出した増加量ΔIhcを判定基準値Ihcbと比較する。なお、故障予知部(23)は、判定基準値Ihcbとして基準となる値を記憶している。そして、故障予知部(23)は、増加量ΔIhが判定基準値Ihcb以上である場合(ΔIhc≧Ihcb)に、予兆条件が成立したと判断する。つまり、本実施形態の故障予知部(23)は、増加量ΔIhcが初めて判定基準値Ihcb以上になった時点で、予兆条件が成立したと判断する。
【0316】
このように、本実施形態11では、故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcを求め、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcに基づいて予兆条件が成立するか否か(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無)を判定する。
【0317】
なお、本願の発明者は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が金属材料で構成されていると、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分において潤滑不良が生じても、第1~第3の軸受(79,69,93)が樹脂材料で構成されている場合に比べて上記摺動部分において摩耗はし難いが、一旦摩耗が発生すると直ちに面荒れ(劣化)が生じ、面荒れによって生じた凸部同士が接触しながら摺動することにより、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcが増加することを見出した。特に、小型の圧縮機(50)では、モータ駆動電流の値が小さく変化を捉え難いところ、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が金属材料で構成されていると、他の素材で構成されている場合に比べて面荒れ(劣化)によって生じた凸部同士が接触しながら摺動することによるモータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcの増加が大きくなることも見出した。
【0318】
そこで、実施形態11では、この点を利用し、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)を金属材料で構成し、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihc(モータ(55)の駆動状態を示す指標)を駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる潤滑不良の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が著しく損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0319】
なお、本実施形態11では、金属材料で構成された駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)は、該駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(潤滑不良)に連動して劣化(面荒れ)し、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihc(モータ(55)の駆動状態を示す指標)を変化(増加)させるものである。つまり、本実施形態11では、金属材料で構成された駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)は、故障予知の対象部分であって、故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(潤滑不良)に連動して劣化(面荒れ)し、劣化に連動して所定の指標(モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihc)を変化させる顕在化部となる。
【0320】
以上により、実施形態11の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0321】
-実施形態11の変形例1-
変形例1は、実施形態11において予兆条件を変更したものである。変形例1では、予兆条件は、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcの所定の正常値Ihcnに対する増加率Ihcr((Ihc-Ihcn)/Ihcn)が判定基準値Ihcb(例えば、0.1(10%))以上である(Ihr≧Ihb)という条件である。
【0322】
故障予知部(23)は、実施形態11と同様にしてモータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcを求めた後、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcの所定の正常値Ihcnに対する増加率Ihcrを算出する。故障予知部(23)は、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcから正常値Ihcnを減じたものを正常値Ihcnで除することにより、増加率Ihcrを算出する。そして、故障予知部(23)は、算出した増加率Ihcrを判定基準値Ihcbと比較し、増加率Ihcrが判定基準値Ihcb以上である場合(Ihcr≧Ihcb)に、予兆条件が成立したと判断する。
【0323】
以上のように、判定動作において、判定基準値Ihcbと比較する対象を、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcの所定の正常値Ihcnに対する増加率Ihcr((Ihc-Ihcn)/Ihcn)としても、実施形態11と同様の効果を奏することができる。
【0324】
-実施形態11の変形例2-
変形例2は、実施形態11において第1~第3の軸受(79,69,93)の素材を変更したものである。具体的には、変形例2では、第1~第3の軸受(79,69,93)は、樹脂材料で構成されている。
【0325】
本願の発明者は、樹脂材料で構成された第1~第3の軸受(79,69,93)は、切削加工を行っても、外周面が毛羽立ちした状態のまま(成形時に外周面に形成された径方向外側に向かって突出する多数の突起部が、切削加工中、工具を避けて撓るだけで切断されないまま)となるため、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分において潤滑不良が生じると、樹脂製の多数の柔らかい突起部が駆動軸(80)の外周面に接触し、これによりモータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcが正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて増加することを見出した。
【0326】
そこで、変形例2では、この点を利用し、第1~第3の軸受(79,69,93)を樹脂材料で構成し、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihc(モータ(55)の駆動状態を示す指標)を駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることにより、圧縮機(50)の駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる油溜まり部(95)の油量低下の発生後、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)が損傷する前に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知できるようにしている。
【0327】
なお、変形例2では、樹脂材料で構成された第1~第3の軸受(79,69,93)の駆動軸(80)と摺動する摺動部分(駆動軸(80)に向かって突出する樹脂製の突起部)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(潤滑不良)に伴い、駆動軸(80)と接触し、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihc(モータ(55)の駆動状態を示す指標)を変化(増加)させるものである。つまり、変形例2では、樹脂材料で構成された第1~第3の軸受(79,69,93)の駆動軸(80)と摺動する摺動部分(駆動軸(80)に向かって突出する樹脂製の突起部)が、圧縮機機構部(100)に設けられ、故障予知の対象部分(駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93))の故障要因となる圧縮機(50)内の状態変化(潤滑不良)に連動して所定の指標(モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihc)を変化させる顕在化部となる。
【0328】
以上のように、第1~第3の軸受(79,69,93)の素材を樹脂材料に変更しても、実施形態11と同様の効果を奏することができる。
【0329】
また、本願発明者等は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分において潤滑不良が生じ、第1~第3の軸受(79,69,93)の樹脂製の多数の柔らかい突起部が駆動軸(80)の外周面に接触すると、圧縮機(50)の振動及び圧縮機(50)の運転中に発生する音(空気振動)の所定の高調波成分Ihcも正常時(圧縮機(50)の各摺動部が潤滑不良とならない正常状態の際)に比べて増加することを見出した。
【0330】
上記の点を利用すれば、上記変形例2において、モータ駆動電流の所定の高調波成分Ihcの代わりに、圧縮機(50)の振動を検出する振動センサ(118)又は圧縮機(50)の運転中に発生する音(空気振動)を検出するマイクロフォン(119)の検出信号(振動信号)の所定の高調波成分Ihcを駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の故障の予兆の有無の判定に用いることもできる。
【0331】
《実施形態12》
実施形態12について説明する。本実施形態の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、給油通路(87)を変更したものである。本実施形態の空気調和機(10)の制御システム(20)は、実施形態1の制御システム(20)と同じ動作を行う。ここでは、本実施形態の圧縮機(50)の給油通路(87)について説明する。
【0332】
〈給油通路〉
図12に示すように、実施形態12においても、給油通路(87)は、主給油通路(88)と副給油通路(89)とを有している。実施形態12の主給油通路(88)は、実施形態1の主給油通路(88)と同様に構成され、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油を第1~第3の軸受(79,69,93)に導く第1給油通路を構成する。一方、実施形態12の副給油通路(89)は、実施形態1の副給油通路(89)と構成が異なる。
【0333】
具体的には、実施形態12では、副給油通路(89)は、軸上部支持部(65)と固定スクロール(70)とに亘るように形成された給油穴と、油溜まり部(95)から給油穴まで延びる筒状の部材とにより、その内部に形成されている。給油穴は、一端が軸上部支持部(65)の下面において開口し、他端が固定スクロール(70)の外周壁部(73)と旋回スクロール(75)の旋回側鏡板部(77)との隙間において開口するように形成されている。また、筒状の部材は、一端が油溜まり部(95)において開口し、他端は給油穴に挿入されている。筒状の部材の一端は、副給油通路(89)の入口(89a)となる。
【0334】
実施形態12では、副給油通路(89)は、このような構成により、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油を、クランク室(67)を介さずに直接圧縮部(60)に導く。圧縮部(60)に導かれた潤滑油は、固定スクロール(70)と旋回スクロール(75)の隙間をシールする(圧縮室(61)をシールする)。つまり、実施形態12では、副給油通路(89)は、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油を圧縮部(60)に導く第2給油通路を構成する。
【0335】
また、実施形態12では、副給油通路(第2給油通路)(89)の入口(89a)が、主給油通路(第1給油通路)(88)の入口(88a)よりも上方に配置されている。そのため、油溜まり部(95)の潤滑油の油量が低下して油面が低下したときに、副給油通路(89)の入口(89a)が主給油通路(88)の入口(88a)よりも先に潤滑油に届かなくなり、副給油通路(89)を介して圧縮室(61)に潤滑油が供給されなくなる。実施形態12の圧縮機(50)は、このような構成により、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じるように構成されている。
【0336】
以上により、実施形態12の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0337】
また、特に、本実施形態12では、第1~第3の軸受(79,69,93)と圧縮部(60)とに潤滑油を供給する給油通路(87)を2つに分け、2つの給油通路(88,89)の入口(88a,89a)の高さを変更するだけで、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じる圧縮機(50)を容易に構成することができる。
【0338】
《実施形態13》
実施形態13について説明する。本実施形態の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、給油通路(87)及び油溜まり部(95)を変更したものである。本実施形態の空気調和機(10)の制御システム(20)は、実施形態1の制御システム(20)と同じ動作を行う。ここでは、本実施形態の圧縮機(50)の給油通路(87)及び油溜まり部(95)について説明する。
【0339】
〈給油通路〉
図13に示すように、実施形態13においても、給油通路(87)は、主給油通路(88)と副給油通路(89)とを有している。実施形態13の主給油通路(88)は、実施形態1の主給油通路(88)と同様に構成され、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油を第1~第3の軸受(79,69,93)に導く第1給油通路を構成する。一方、実施形態13の副給油通路(89)は、実施形態1の副給油通路(89)と構成が異なる。
【0340】
具体的には、実施形態13では、副給油通路(89)は、軸上部支持部(65)と固定スクロール(70)とに亘るように形成された給油穴と、油溜まり部(95)から給油穴まで延びる筒状の部材とにより、その内部に形成されている。給油穴は、一端が軸上部支持部(65)の下面において開口し、他端が固定スクロール(70)の外周壁部(73)と旋回スクロール(75)の旋回側鏡板部(77)との隙間において開口するように形成されている。また、筒状の部材は、一端が油溜まり部(95)において開口し、他端は給油穴に挿入されている。筒状の部材の一端は、副給油通路(89)の入口(89a)となる。
【0341】
実施形態13では、副給油通路(89)は、このような構成により、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油を、クランク室(67)を介さずに直接圧縮部(60)に導く。圧縮部(60)に導かれた潤滑油は、固定スクロール(70)と旋回スクロール(75)の隙間をシールする(圧縮室(61)をシールする)。つまり、実施形態13では、副給油通路(89)は、圧縮室(61)から吐出された冷媒の圧力(高圧圧力)が作用する油溜まり部(95)の潤滑油を圧縮部(60)に導く第2給油通路を構成する。
【0342】
〈油溜まり部〉
実施形態13では、油溜まり部(95)は、主油溜まり部(第1油溜まり部)(96)と副油溜まり部(第2油溜まり部)(97)とを有している。主油溜まり部(96)と副油溜まり部(97)とは、上下方向に延びる区画部材(98)によって隔てられている。区画部材(98)は、ケーシング(51)の底部から軸下部支持部(90)の下端付近まで上方に延びる板状部材であり、油溜まり部(95)を左右に並ぶ主油溜まり部(96)と副油溜まり部(97)とに区画する。
【0343】
主油溜まり部(96)には主給油通路(88)の入口(88a)が配置され、副油溜まり部(97)には副給油通路(89)の入口(89a)が配置されている。主給油通路(88)の入口(88a)及び副給油通路(89)の入口(89a)は、油溜まり部(95)の潤滑油の油面が区画部材(98)の上端を下回った際に、主油溜まり部(96)の潤滑油の油面が主給油通路(88)の入口(88a)を下回るよりも先に副油溜まり部(97)の潤滑油の油面が副給油通路(89)の入口(89a)を下回る高さに設けられている。このような構成により、実施形態13では、油溜まり部(95)の油量が低下するような運転条件下では、副給油通路(89)の入口(89a)が主給油通路(88)の入口(88a)よりも先に油面に届かなくなる。実施形態13の圧縮機(50)は、このような構成により、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じるように構成されている。
【0344】
以上により、実施形態13の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0345】
また、特に、本実施形態13では、第1~第3の軸受(79,69,93)と圧縮部(60)とに潤滑油を供給する給油通路(87)及び油溜まり部(95)を2つに分け、2つの給油通路(88,89)の入口(88a,89a)を別個の油溜まり部(96,97)に配置している。また、2つの給油通路(88,89)の入口(88a,89a)を、油溜まり部(95)の油量が低下したときに、副給油通路(89)の入口(89a)が主給油通路(88)の入口(88a)よりも先に油面に届かなくなるような高さに設けている。本実施形態13によれば、このように給油通路(87)と油溜まり部(95)とに工夫を加えるだけで、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じる圧縮機(50)を容易に構成することができる。
【0346】
《実施形態14》
実施形態14について説明する。本実施形態の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、給油通路(87)を変更したものである。本実施形態の空気調和機(10)の制御システム(20)は、実施形態1の制御システム(20)と同じ動作を行う。ここでは、本実施形態の圧縮機(50)の給油通路(87)について説明する。
【0347】
〈給油通路〉
実施形態14においても、実施形態1と同様に、給油通路(87)は、主給油通路(88)と副給油通路(89)とを有している。
【0348】
実施形態14では、給油通路(87)は、所定の給油割合で、油溜まり部(95)の潤滑油を駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに供給するように構成されている。
【0349】
なお、所定の給油割合は、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が、給油通路(87)によって駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに常に潤滑油が供給される正常時よりも低下した際に、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分への単位時間当たりの給油量が、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良を引き起こさないために必要な単位時間当たりの必要給油量を下回るよりも先に、圧縮部(60)への単位時間当たりの給油量が圧縮室(61)をシールするのに必要な単位時間当たりの必要給油量を下回るような割合である。
【0350】
具体的には、例えば、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良を引き起こさないために必要な単位時間当たりの必要給油量が3X(cc/min)、圧縮室(61)をシールするのに必要な単位時間当たりの必要給油量が7X(cc/min)であるとする。給油通路(87)は、例えば、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに導く潤滑油の総給油量が16X(cc/min)であるとする。このような場合には、給油通路(87)が油溜まり部(95)の潤滑油を駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに1対1の給油割合で供給するように、給油通路(87)を設計する。
【0351】
油溜まり部(95)における潤滑油の油量が上述の正常時よりも低下すると、給油通路(87)によって駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに常に潤滑油が供給されなくなり、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに供給される潤滑油の総給油量が低下する(例えば、16X(cc/min)から8X(cc/min)に低下する)。総供給量が8X(cc/min)に低下すると、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とへの給油量も総給油量と同様に低下(この例では50%低下)し、それぞれ給油量が4X(cc/min)となる。このとき、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分では、給油量4X(cc/min)が、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良を引き起こさないために必要な必要給油量3X(cc/min)を上回っているため、潤滑不良を引き起こさない。一方、圧縮部(60)では、給油量4X(cc/min)が、圧縮室(61)をシールするのに必要な必要給油量7X(cc/min)を下回り、圧縮室(61)をシールできなくなる。
【0352】
実施形態14の圧縮機(50)では、このような構成により、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じることとなる。
【0353】
以上により、実施形態14の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0354】
また、特に、本実施形態14では、給油通路(87)が所定の給油割合で油溜まり部(95)の潤滑油を駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに所定の給油割合で供給するように給油通路(87)を設計するだけで、油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下によるシール不良が先に生じる圧縮機(50)を容易に構成することができる。
【0355】
《実施形態15》
実施形態15について説明する。本実施形態の空気調和機(10)は、実施形態1の空気調和機(10)において、圧縮機(50)の残油特性を変更したものである。本実施形態の空気調和機(10)の制御システム(20)は、実施形態1の制御システム(20)と同じ動作を行う。
【0356】
実施形態14では、圧縮機(50)が、給油通路(87)によって油溜まり部(95)の潤滑油が圧縮部(60)に供給されなくなってから圧縮室(61)が潤滑油によってシールされなくなるまでの時間より、給油通路(87)によって駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分に潤滑油が供給されなくなってから駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の損傷が始まるまでの時間の方が長くなるような残油摺動特性を有するように構成されている。
【0357】
なお、このような残油摺動特性は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分の面粗度を低くする、第1~第3の軸受(79,69,93)を樹脂等の柔らかい素材で構成する、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分を摺動摩擦抵抗が低くなる材料で構成する等によって実現できる。
【0358】
以上により、実施形態15の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)によっても、実施形態1の圧縮機システム(40)及び空気調和機(冷凍装置)(10)と同様の効果を奏する。
【0359】
また、特に、本実施形態15では、油溜まり部(95)の油量が低下して駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分と圧縮部(60)とに潤滑油が供給されなくなっても、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)の摺動部分が損傷する前に、圧縮室(61)が潤滑油によってシールされなくなり、圧縮部(60)の運転状態を示す指標(吐出ガス温度Tdp等)が変化する。そのため、上記圧縮機システム(40)によれば、油溜まり部(95)の油量低下の発生後、潤滑不良によって駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)が損傷する前に、駆動軸(80)及び軸受(79,69,93)の故障の徴候を検出して故障を予知することができる。
【0360】
《その他の実施形態》
上記各実施形態及び各変形例では、圧縮機(50)をスクロール圧縮機で構成していたが、圧縮機(50)は、ロータリ圧縮機等、容積式の圧縮機であればいかなるものであってもよい。
【0361】
また、主制御器(予知装置)(21)は、駆動軸(80)及び第1~第3の軸受(79,69,93)以外の対象部分(例えば、圧縮部(60))の故障を予兆し、該対象部分の故障を回避する回避動作を行う又は故障の予兆があったことを外部に報知するものであってもよい。
【0362】
また、上記各実施形態及び各変形例において、主制御器(21)の故障予知部(23)は、回避動作として、“圧縮機(50)の運転状態を通常状態から軽負荷状態に変更する動作”と“軸受(79,69,93)が損傷する予兆があることを発報する動作”のどちらか一方を実行するように構成されていてもよい。
【0363】
また、上記各実施形態及び各変形例では、主制御器(21)が故障予知部(23)を備える予知装置を構成していたが、予知装置は主制御器(21)に限られない。例えば、サーバー装置やクラウド(クラウドコンピューティング)等の空気調和機(10)の外部の装置やシステムが故障予知部(23)を備え、主制御器(21)と通信ネットワークを経由して互いに通信することで故障を予知する予知装置として機能するものであってもよい。
【0364】
以上、実施形態及び変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0365】
以上説明したように、本開示は、圧縮機システム及び冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0366】
10 空気調和機(冷凍装置)
21 主制御器(予知装置)
23 故障予知部
30 冷媒回路
40 圧縮機システム
50 圧縮機
55 モータ
60 圧縮部
61 圧縮室
68 主軸受部(軸受)
78 ボス部(軸受)
80 駆動軸
82 主ジャーナル部
83 副ジャーナル部
85 偏心軸部
87 給油通路
88 主給油通路(第1給油通路)
88a 入口
89 副給油通路(第2給油通路)
89a 入口
91 副軸受部(軸受)
95 油溜まり部
96 主油溜まり部(第1油溜まり部)
97 副油溜まり部(第2油溜まり部)
98 区画部材
100 圧縮機機構部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備え、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに共通の油供給源から潤滑油が供給される圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記予知装置(21)は、上記圧縮室(61)のシール性の低下を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮室(61)の内圧である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項3】
請求項1に記載の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮室(61)の圧縮過程におけるポリトロープ指数である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項4】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮部(60)からの吐出ガスの温度である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項5】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)の仕事量又は上記モータ(55)への入力電力量である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項6】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)を備える冷凍装置(10)の冷凍能力である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項7】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)の圧縮トルクの波形である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項8】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記モータ(55)の電圧と電流と電力の少なくとも1つと相関のあるモータ信号の波形である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項9】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記指標は、上記圧縮機(50)の振動又は上記圧縮機(50)において生じる音の強さを示す振動信号の波形である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項10】
請求項1の圧縮機システムにおいて、
上記圧縮機(50)には、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに供給される潤滑油が貯留される上記油供給源である油溜まり部(95)が形成され、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)における潤滑油の油量が低下したときに、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分の潤滑不良よりも上記圧縮室(61)をシールする潤滑油の油量の低下が先に生じるものである
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項11】
請求項10の圧縮機システムにおいて、
上記油溜まり部(95)は、上記圧縮機(50)の底部において上記圧縮室(61)から吐出された高圧の吐出ガスの圧力が作用するように形成され、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に導く第1給油通路(88)と、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)に導く第2給油通路(89)とを備え、
上記第2給油通路(89)の入口(89a)は、上記第1給油通路(88)の入口(88a)よりも上方に配置されている
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項12】
請求項10の圧縮機システムにおいて、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに導く給油通路(87)を備え、
上記給油通路(87)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに所定の給油割合で供給するように構成され、
上記所定の給油割合は、
上記油溜まり部(95)における潤滑油の油量が、上記給油通路(87)によって上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに常に潤滑油が供給される正常時よりも低下した際に、
上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分への給油量が、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分で潤滑不良を引き起こさないために必要な必要給油量を下回るよりも先に、上記圧縮部(60)への給油量が上記圧縮室(61)をシールするのに必要な必要給油量を下回るような割合である
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項13】
請求項10の圧縮機システムにおいて、
上記油溜まり部(95)は、上記圧縮機(50)の底部において上記圧縮室(61)から吐出された高圧の吐出ガスの圧力が作用するように形成され、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に導く第1給油通路(88)と、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)に導く第2給油通路(89)とを備え、
上記油溜まり部(95)には、上記第1給油通路(88)の入口(88a)が配置される第1油溜まり部(96)と、上記第2給油通路(89)の入口(89a)が配置される第2油溜まり部(97)とを隔てる区画部材(98)が設けられ、
上記第1給油通路(88)の入口(88a)及び上記第2給油通路(89)の入口(89a)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油の油面が上記区画部材(98)の上端を下回った際に、上記第1油溜まり部(96)の潤滑油の油面が上記第1給油通路(88)の入口(88a)を下回るよりも先に上記第2油溜まり部(97)の潤滑油の油面が上記第2給油通路(89)の入口(89a)を下回る高さに設けられている
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項14】
請求項10に記載の圧縮機システムにおいて、
上記圧縮機(50)は、上記油溜まり部(95)の潤滑油を上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに導く給油通路(87)を備え、
上記圧縮機(50)は、
上記給油通路(87)によって上記圧縮部(60)に潤滑油が供給されなくなってから上記圧縮室(61)が潤滑油によってシールされなくなるまでの時間より、
上記給油通路(87)によって上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分に潤滑油が供給されなくなってから上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の損傷が始まるまでの時間の方が長くなるような残油摺動特性を有するように構成されている
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項15】
モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備えた圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記軸受(79,69,93)と上記駆動軸(80)との摺動部分は、それぞれ金属材料で構成され、
上記予知装置(21)は、上記モータ(55)の駆動状態を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項16】
モータ(55)と、流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)とを備えた圧縮機(50)と、
上記圧縮機(50)の上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記軸受(79,69,93)の上記駆動軸(80)と摺動する摺動部分は、樹脂材料で構成され、上記駆動軸(80)に向かって突出する突起部を有し、
上記予知装置(21)は、上記突起部の上記駆動軸(80)への接触に連動して変化する上記モータ(55)の駆動状態を示す指標の変化に基づいて上記軸受(79,69,93)及び上記駆動軸(80)の故障を予知する故障予知部(23)を備える
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項17】
圧縮機(50)と、上記圧縮機(50)の対象部分の故障を予知する予知装置(21)とを備えた圧縮機システムであって、
上記圧縮機(50)は、
モータ(55)と、
流体を吸入して圧縮する圧縮室(61)を有する圧縮部(60)と、上記モータ(55)に連結されて上記圧縮部(60)を駆動する駆動軸(80)と、上記駆動軸(80)を支持する軸受(79,69,93)と、上記圧縮部(60)と上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)の摺動部分とに潤滑油を導く給油通路(87)とからなる圧縮機機構部(100)と、
上記圧縮機機構部(100)に設けられ、上記対象部分の故障要因となる上記圧縮機(50)内の状態変化に連動して所定の指標を変化させる顕在化部とを備え、
上記予知装置(21)は、上記所定の指標の変化に基づいて上記対象部分の故障を予知する故障予知部(23)を備え
上記対象部分は、上記駆動軸(80)及び上記軸受(79,69,93)であり、
上記顕在化部は、上記対象部分の故障要因となる上記圧縮機(50)内の状態変化に連動して上記対象部分の状態変化よりも先に上記対象部分とは異なる非対象部分の状態を変化させるものであり、
上記所定の指標は、上記非対象部分の状態変化に連動して変化するものである
ことを特徴とする圧縮機システム。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1つの圧縮機システム(40)と、
上記圧縮機システム(40)の上記圧縮機(50)が接続され、冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷媒回路(30)とを備えた冷凍装置。