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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146929
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】液体移動デバイス用遮光液体組成物
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/00 20060101AFI20241004BHJP
   G02B 1/06 20060101ALI20241004BHJP
   G02B 26/02 20060101ALI20241004BHJP
   A61B 3/10 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
G02B5/00 A
G02B1/06
G02B26/02 H
A61B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057884
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023058581
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 健士郎
【テーマコード(参考)】
2H042
2H141
4C316
【Fターム(参考)】
2H042AA06
2H042AA08
2H042AA21
2H141MA04
2H141MB01
2H141MB43
2H141MC06
2H141MD03
2H141MD05
2H141MF01
2H141MF15
2H141MG10
4C316FA08
4C316FY05
4C316FZ02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】可視光~近赤外光を対象とする遮光用途の光学素子において十分な吸光度を有し、遮光/透光の迅速な切り替え動作を行うことができる光学シャッターとして使用することができる液体移動デバイス用遮光液体組成物を提供する。
【解決手段】吸光スペクトルにおいて350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する複数の染料と、前記複数の染料を溶解する溶媒とを備えた液体移動デバイス用遮光液体組成物であって、前記溶媒は、凝固点が-20℃以下、沸点が70℃以上であり、前記複数の染料は、各染料の吸光スペクトルを合成した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲における最小値の光学濃度ODが3以上(但し、前記光学濃度ODは遮光用途で用いられる吸光厚さ(光路長)あたりでの濃度である)であるようにそれぞれ濃度調整されていることを特徴とする液体移動デバイスの遮光用非極性液体組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光スペクトルにおいて350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する複数の染料と、前記複数の染料を溶解する溶媒とを備えた液体移動デバイス用遮光液体組成物であって、
前記溶媒は、凝固点が-20℃以下、沸点が70℃以上であり、
前記複数の染料は、各染料の吸光スペクトルを合成した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲における最小値の光学濃度ODが3以上(但し、前記光学濃度ODは遮光用途で用いられる吸光厚さ(光路長)あたりでの濃度である)であるようにそれぞれ濃度調整されていることを特徴とする液体移動デバイス用遮光液体組成物。
【請求項2】
前記溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の液体移動デバイス用遮光液体組成物。
【請求項3】
前記溶媒は、トルエン、エチルトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ポリジメチルシロキサン、トリメチルフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-ノナン、イソノナン、n-デカン、イソデカンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の液体移動デバイス用遮光液体組成物。
【請求項4】
前記染料は、アゾ系、(メロ)シアニン系、(ナ)フタロシアニン系、インジゴ系、クマリン系、テトラゾリウム系、トリフェニルメタン系、クロマフォア系、フルオロフォア系、キノン系、アミニウム系、(ジ)インモニウム系、スクアリウム系、チオール系、ジチオレン系およびそれらを配位子とした金属錯体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の液体移動デバイス用遮光液体組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の液体移動デバイス用遮光液体組成物の製造方法であって、
吸光スペクトルにおいて350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する複数の染料を選定し、
これらを前記複数の染料を溶解する凝固点が-20℃以下、沸点が70℃以上である溶媒と混合するものであり、
前記複数の染料は、各染料の吸光スペクトルを合成した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲における最小値の光学濃度ODが3以上(但し、前記光学濃度ODは遮光用途で用いられる吸光厚さ(光路長)あたりでの濃度である)であるようにそれぞれ濃度調整され、混合されていることを特徴とする液体移動デバイス用遮光液体組成物の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光~近赤外光の光学シャッターとして用いられる液体移動デバイス用遮光液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
測量分野においては、可視光~近赤外光を測量対象物に照射し、この反射光の計測を行っているものがある。そのような測量機器では、計測系やアクチュエータを含む制御系の温度上昇に伴って生じる計測値の変動を補正するため、適時、測距光から参照光への光路切り替えを行っている。
【0003】
この切り替えを担う従来のメカニカルシャッターは、シャッター内部の部品自体が物理的に動作するため動作速度が遅く、また、動作に伴う振動が収まるまでの待ち時間も必要となるため、測距光から参照光への切り替えから再び測距光へ復帰するまで約200msを要する。例えば、メカニカルシャッターの一従来例においては、その内訳は、測距光測定を行った後、参照光への光路切り替えに約35ms、振動安定待ちに約40ms、参照光測定に約50ms、振動安定待ちに約40ms、測距光への光路切り替えに約35msである。
【0004】
測距光および参照光の測定自体に要する時間は50msであるため、待機を要する200msの間に約4回分の測距データのロスが生じる。そのため、特にドローンのような移動体を用いた測量分野において、改善が求められている。
【0005】
そのようなメカニカルシャッターの問題点に対して、可変焦点レンズ、光学絞り、光学ズームといった光学系をエレクトロウェッティング装置からなる液体レンズで構成する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。このエレクトロウェッティング装置では、極性溶媒と非極性溶媒の屈折率に差異を与えて可変レンズとしている。この構成により、機械的な動作を伴うことなく光学系を構築することができる。
【0006】
上記のような機械的な動作を伴うメカニカルシャッターの問題点は、測量機器だけではなく、同様に光学系を有する医療機器にも存在し、例えば、被検眼と指標との間に光学絞りを配置した眼科装置において、この光学絞りを液体レンズから構成し、絞り径を機械的な移動部を設けることなく変更可能とした眼科装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
特許文献1、2に記載の極性溶媒と非極性溶媒の屈折率に差異を与えた液体レンズの他にも、極性溶媒と非極性溶媒の一方に黒色染料等で着色して遮光と透光の切り替えを可能としたエレクトロウェッティング装置を用いた可視光の光学シャッターが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009-525502号公報
【特許文献2】特開2018-50975号公報
【特許文献3】特許第5716032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の従来の液体移動デバイスでは、遮光と透光の切り替えを行うための構造は開示されているものの、黒色染料等で必要十分に遮光を行うための極性液と非極性液の一方の具体的な着色方法は開示されておらず、また、可視光を対象とするための黒色染料を使用しているものが主であり、本発明の対象範囲である近赤外領域の光を十分に吸収せず、広帯域の遮光に対応することができなかった。
【0010】
このような背景において、本発明は、可視光~近赤外光を対象とする測量機器において十分な吸光度を有し、迅速な動作を行うことができる光学シャッターとして使用することができる液体移動デバイス用遮光液体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、吸光スペクトルにおいて350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する複数の染料と、前記複数の染料を溶解する溶媒とを備えた液体移動デバイス用遮光液体組成物であって、前記溶媒は、凝固点が-20℃以下、沸点が70℃以上であり、前記複数の染料は、各染料の吸光スペクトルを合成した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲における最小値の光学濃度ODが3以上(但し、前記光学濃度ODは遮光用途で用いられる吸光厚さ(光路長)あたりでの濃度である)であるようにそれぞれ濃度調整されていることを特徴とする液体移動デバイス用遮光液体組成物である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記溶媒は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記溶媒は、トルエン、エチルトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ポリジメチルシロキサン、トリメチルフェニルシラン、ジメチルジフェニルシラン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-ノナン、イソノナン、n-デカン、イソデカンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記染料は、アゾ系、(メロ)シアニン系、(ナ)フタロシアニン系、インジゴ系、クマリン系、テトラゾリウム系、トリフェニルメタン系、クロマフォア系、フルオロフォア系、キノン系、アミニウム系、(ジ)インモニウム系、スクアリウム系、チオール系、ジチオレン系の単独およびそれらを配位子とした金属錯体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の液体移動デバイス用遮光液体組成物の製造方法であって、吸光スペクトルにおいて350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する複数の染料を選定し、これらを前記複数の染料を溶解する凝固点が-20℃以下、沸点が70℃以上である溶媒と混合するものであり、前記複数の染料は、各染料の吸光スペクトルを合成した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲における最小値の光学濃度ODが3以上(但し、前記光学濃度ODは遮光用途で用いられる吸光厚さ(光路長)あたりでの濃度である)であるようにそれぞれ濃度調整され、混合されていることを特徴とする液体移動デバイス用遮光液体組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物によれば、吸光スペクトルにおいて350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する複数の染料を溶媒に溶解させているので、液体移動デバイスを可視光~近赤外光を対象とする測量機器に使用することができる。また、各染料の吸光スペクトルを合成した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲において、ピークの谷部分のうちの最小値のものの光学濃度ODが、エレクトロウェッティング装置内の光路長において3以上であるので、1000個の光子のうち10-3倍、すなわち1個のみ透過し残りを遮光する計算となり、透過光の遮光が必要であるメカニカルシャッターの代替技術として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物を適用した一実施形態であるエレクトロウェッティング装置の模式断面図であり、(a)は光学シャッターの透過状態、(b)は遮光状態を示す。
図2】本発明の実施例の液体移動デバイス用遮光液体組成物における複数を混合した染料の吸光スペクトルである。
図3】本発明の比較例の液体移動デバイス用遮光液体組成物における複数を混合した染料の吸光スペクトルである。
図4】本発明の比較例の液体移動デバイス用遮光液体組成物における複数を混合した染料の吸光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(液体移動デバイス用遮光液体組成物の適用例:エレクトロウェッティング装置(光学シャッター)の構成)
以下、本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物(符号30)がどのように用いられるかの適用例として、測量装置の光学シャッターとして用いられるエレクトロウェッティング装置1について説明する。図1(a)および(b)は、エレクトロウェッティング装置1の断面構造の概要を示す。
【0019】
エレクトロウェッティング装置1は、隙間を有して対向配置された一対の基板10aと10bを有している。ここで、基板10a/10bは、基板としてガラスに限定されず、扱う光を透過する光透過性の材料(例えば、樹脂)を用い、この基板が互いに対向する内側面に、エレクトロウェッティング装置1に電圧を印加するための透明電極(下側電極11aおよび上側電極11b)が形成されている。
【0020】
基板10aと基板10bに対向する面に形成された下側電極11aと上側電極11bは、単一、もしくはそれぞれ分割された複数の電極により構成されている。この複数の電極には、図示しない駆動部から電圧が加えられ、上下の電極間に電界が形成される。上下の電極のぞれぞれは、独立に加える電圧値の調整が可能である。
【0021】
基板10aと10bの間は、基板間隔を保ち、また封止材として機能するスペーサ13により密閉され、この密閉された空間の中には、非極性液として機能する本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物30(以下、遮光液体と略称する)と極性液31とが満たされている。符号14は極性液31および遮光液体30の注入口、符号15は封止剤である。
【0022】
極性液31は、入射領域Aに入射した光を透過する。極性液31としては、寒冷地~炎天下の使用環境や、光学シャッターの応答特性、光学特性等を考慮して凝固点、沸点、動粘度、屈折率、透過率、比重が適宜選択される。極性液31は、そのような物性が考慮され、本発明の遮光液体30と相溶性を有さない限り、特に限定されない。
【0023】
遮光液体30は、入射光を遮光するための後述の複数の染料が非極性の溶媒に添加されてなり、遮光液体30に入射光を遮光する機能を付与している。
【0024】
複数の染料は、可視光~近赤外光である350~1050nmの範囲内に吸光ピークを有する染料を組み合わせる。複数の染料を組み合わせる理由は、例えば上記範囲の中央付近770nm付近にピークを有する1種類(あるいは少ない種類)の染料を用いると、ピークトップ(山)とボトム(谷)とで吸光度に著しい差が生じてしまう。また、吸光度の低い谷の部分で光学濃度が決まってしまうため、大量に添加する必要があり、溶解性に問題がある。そこで、例えば後述の実施例の図1に示すように、上記範囲にピークを有する複数の染料を用いると、少ない種類の染料を用いた場合と比較してピークが数多くに分散されるので、山の部分は相対的に低くなり、谷の部分は相対的に高くなり、上記範囲において比較的なだらかな吸光度を実現することができ、少量の添加量にて谷の部分の吸光度を増加させることができる。
【0025】
本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物としては、光学シャッターの遮光状態において、光学濃度(OD)がOD≧3であることが要求される。光学濃度(OD)とは、入射した光のうち透過させる光の割合を示す指数であり、例えば透過光が100分の1に減光されるなら‐log1010-2=2であり、1000分の1に減光されるなら‐log1010-3=3である。この性能を満足するため、図で示す複数の染料を混合した吸光スペクトルの350~1050nmの範囲において、最も低い谷、最小値がOD≧3となるように、各染料が濃度調整される。これは、後述するように実験的に、あるいはシミュレーションとして求められる。
【0026】
遮光液30を構成する溶媒としては、測量機器としての使用であれば寒冷地~炎天下の使用環境を考慮して、また、その他の用途でも通常の使用環境を考慮して、凝固点が-20℃以下、沸点が70℃以上であり、かつ、本発明の複数の染料を良好に溶解するものが好ましく、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、有機ケイ素化合物から選択され、具体的には、トルエン、エチルトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、トリメチルフェニルシラン(TMPS)、ジメチルジフェニルシラン(DMPS)、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-ノナン、イソノナン、n-デカン、イソデカンが好ましい。
【0027】
遮光液30を構成する染料としては、アゾ系、(メロ)シアニン系、(ナ)フタロシアニン系、インジゴ系、クマリン系、テトラゾリウム系、トリフェニルメタン系、クロマフォア系、フルオロフォア系、キノン系、アミニウム系、(ジ)インモニウム系、スクアリウム系、チオール系、ジチオレン系の単独、または、バナジウム、コバルト、ニッケル、銅等の金属イオン(但しこれらイオンのみに限定されない)にそれらを配位子とした金属錯体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
下側電極11aを覆って、厚さ1μm~20μmの光透過性の絶縁膜12aが形成されている。絶縁膜12aは、例えば、熱可塑性フッ素重合体としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とイオン性液体との混合物をスピンコートすることで形成されている。イオン性液体の分子とポリフッ化ビニリデンにナノ分散処理を行うことにより、エレクトロウェッティング用膜形成材料の透明性を高めることができる。
【0029】
上記のイオン性液体には、イミダゾール系イオン液体とピロリジニウム系イオン液体とピぺリジニウム系イオン液体とピリジニウム系イオン液体とアンモニウム系イオン液体とホスホニウム系液体とのうちのいずれか一つ又はこれらの混合物を用いることができる。すなわち、イオン性液体は、陽イオンとしてのピリジン系と、脂肪族アミン系と、脂環族アミン系とのうちの少なくとも一種類からなる構成であれば良い。特に、室温において液体で、誘電率やイオン伝導度が高いイオン性液体が望ましい。
【0030】
絶縁膜12aの表面(互いに対向する面)には、フッ素系のポリマーやシリコン樹脂を用いた厚さ1μm~10μmの撥水膜20aが形成されている。撥水膜20aが極性液31に接触する。
【0031】
上側電極11bについても同様に、上側電極11bを覆って、絶縁膜12bが設けられ、その上に撥水膜20bが形成されている。
【0032】
(エレクトロウェッティング装置(光学シャッター)の動作)
エレクトロウェッティング装置1は図示しない測量機器に組み込まれ、図1(a)/(b)に示すように、X-X線が測量機器の入射光の光路を示す。領域Aは、入射光が入射する入射領域であり、また、領域Bは、入射領域以外の領域、非入射領域である。(a)の状態では、入射領域Aにおいて上側電極11bと下側電極11aの間に図示しない駆動部から電圧が加えられる。これにより、誘電率が相対的に高い極性液31は、入射領域Aにおいて撥水膜20a/20bに接触し、遮光液体30は、電圧の印加されていない非入射領域Bに押し出される。この状態では、光学シャッターが透過状態となる。
【0033】
続いて、(b)の状態では、非入射領域Bにおいて上側電極11bと下側電極11aの間に駆動部から電圧が加えられる。これにより、誘電率が相対的に高い極性液31は、入射領域Bにおいて撥水膜20a/20bに接触し、遮光液体30は、電圧の印加されていない入射領域Aに押し出される。この状態では、光学シャッターが遮光状態となる。
【0034】
本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物の適用例では、以上のようにして、電圧を制御することにより、光学シャッターの透過状態と遮光状態を切り替える。従来のメカニカルシャッターでは、シャッター部材が物理的に動作するため、シャッターの動作ごとに振動が生じ、測距光から参照光への光路切り替え毎に振動が減衰するまでの待ち時間が必要となり、測量において多大な測距データのロスが生じていた。本発明によれば、透過状態と遮光状態の切り替えが電圧制御により瞬間的に速やかに行われるのみならず、切り替えがエレクトロウェッティング装置内の遮光液体と極性液の動作であるため外部に振動が生じず、振動減衰の待ち時間が不要となる。よって、ドローンのような移動体を用いた測量分野において、測距データがロスせず、有用である。
【0035】
(液体移動デバイス用遮光液体組成物の適用例:眼科装置)
また、本発明は、上記のような測量機器への適用に限定されず、電圧制御によって光路上の遮光および透光を切り替える用途の光学素子であれば分野を問わず適用することができ、そのような他の例としては、眼科装置の分野における光学絞りが挙げられる。眼科装置の光学絞りでは、光学絞りの絞り径の調整によって、検査対象の被検眼内に導入される照射光の強度を調整する。従来の光学絞りでは、機械式のカメラの絞りと同様に機械的な動作によって光量が絞られていたが、本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物の適用例では、光路上に透過性の極性液を配置し、その周囲に本発明の遮光液体を配置する。そして、極性液/遮光液を挟む電極の電圧制御を行うことによって、極性液の径すなわち絞り径を拡大/縮小することができる。
【実施例0036】
以下、実施例および比較例により本発明をより詳細に説明する。なお、以下の記載は本発明の液体移動デバイス用遮光液体組成物の調製のための例示であり、本発明が以下の例のみに限定されるものではない。
(染料の種類と染料濃度の検討)
350~1050nmに吸光ピークを有する下記染料を用意した。図中に示す番号は各染料番号である。
【0037】
【表1】
【0038】
まず、既知の各染料1~10の吸光スペクトル図より、これらの各染料のピーク高さが近くなるような混合比を求める。そして、これらの吸光スペクトルをその混合比で重ね合わせて合成し、合成した吸光スペクトルを得る。この合成吸光スペクトルにおいて、波長350~1050nmの範囲で最も低いピークの谷部、最小値の箇所の光学濃度ODが3以上となるように、逆算して各染料の混合量が算出される。
【0039】
この工程は、実際に実験的に求めることができる。まず、各染料1~10の吸光スペクトルを測定し、各染料のピーク高さが近くなるような混合比を算出し、各染料をその混合比でトリメチルフェニルシランに溶解させて混合染料溶液を調製する。これを光路長0.5mmのセルに入れて吸光スペクトルを測定する。その結果、350~1050nmの範囲において最小値が例えば1.00であれば、それをフィードバックして次は各染料を3倍ずつ溶解させて混合染料溶液を調整する。
【0040】
そのような測定結果の吸光スペクトルを図2に示す。図2に示すとおり、ピークの谷の吸光度は揃い、350~1050nmにおいてピークの谷の吸光度の最小値は3.00であった。最終的に製造する液体移動デバイスのセル光路長も同様に0.5mmと設計したので、同じくOD≧3とするために必要な濃度は同じである。なお、本発明では、最終的に製造する設計されたセル吸光厚さ(光路長)あたりのODが3以上であるので、設計セル光路長が1.0mmであれば、1.0mmでのODを3とするため、試験的に求める0.5mmセルでのODは1.5でよい。逆に設計セル光路長が0.25mmであれば、0.25mmでのODを3とするために、試験的に求める0.5mmセルでのODは6が要求される。このように、ODの関係は、最終的な設計セルと試験的に求める際のセルの光路長の関係で決まる。
【0041】
あるいは、シミュレーションとしてこれを行うこともできる。各染料の吸光スペクトルは公知であるか計測により得られるので、これらの混合染料の合成吸光スペクトルは、各染料の吸光スペクトルの波形を、各波長での強度を数値化して加算したものである。この加算した波形をコンピュータ上のシミュレーションで得て、合成吸光スペクトルの350~1050nmの範囲での最小値が3.00となるような各染料の必要濃度を算出することができる。
【0042】
(実施例)
選択した染料および上記の手法で求めた各染料の混合比を表1に示す。また、表1の配合で得た混合染料溶液の合成吸光スペクトルを図2に示す。図2に示すように、表1の配合比によれば、350~1050nmの全域にわたってピーク谷部の最小値の光学濃度を3以上に維持することができ、また、顕著に突出したピークもなく、すなわち特定の種類の染料を極端に大量に使用することもなかった。
【0043】
【表2】
【0044】
(比較例1)
実施例と同様にして、選択した染料および各染料の混合比を表2に示す。また、表2の配合で得た混合染料溶液の合成吸光スペクトルを図3に示す。図3に示すように、ODが30近くという顕著に突出したピークがあったにも関わらず、350~1050nmの全域にわたってピーク谷部の最小値の光学濃度を3以上に維持することができなかった。
【0045】
【表3】
【0046】
(比較例2)
実施例と同様にして、選択した染料および各染料の混合比を表3に示す。また、表3の配合で得た混合染料溶液の合成吸光スペクトルを図4に示す。図4に示すように、ODが20近くという顕著に突出したピークがあったにも関わらず、350~1050nmの全域にわたってピーク谷部の最小値の光学濃度を3以上に維持することができなかった。
【0047】
【表4】
【符号の説明】
【0048】
1…エレクトロウェッティング装置(光学シャッター)、10a/10b…基板、11a/11b…下側電極/上側電極、12a/12b…絶縁膜、13…スペーサ、20a/20b…撥水膜、30…遮光液体、31…有極性液、A…入射領域、B…非入射領域、X…光路。


図1
図2
図3
図4