(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146933
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】塗装方法、車両及び車両部品
(51)【国際特許分類】
B32B 37/02 20060101AFI20241004BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241004BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241004BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241004BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20241004BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241004BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B32B37/02
B32B27/30 A
C09D7/63
C09D133/00
C09D133/14
C09D5/00 D
B05D3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024058205
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2023059606
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】中楯 順一
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC41
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4J038CG141
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4J038PA19
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4J038PB07
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】熱硬化性の塗装シートを使用して、少なくとも2以上の塗装を高い生産性で施す。
【解決手段】本塗装方法は、被塗装物20に少なくとも2以上の異なる塗装を施す方法である。本方法は、被塗装物20に、転写層12と、熱硬化性樹脂組成物からなる塗料層11を備える熱硬化性の塗装シート10を貼り付ける第1工程と、第1工程の後に、塗料15を被塗装物20に塗布する第2工程と、第2工程の後に被塗装物20に熱を加えて塗装シート10及び塗料15を硬化させる第3工程とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に少なくとも2以上の異なる塗装を施す塗装方法であって、
被塗装物に、転写層と、熱硬化性樹脂組成物からなる塗料層を備える熱硬化性の塗装シートを貼り付ける第1工程と、
前記第1工程の後に、塗料を前記被塗装物に塗布する第2工程と、
前記第2工程の後に前記被塗装物に熱を加えて前記塗装シート及び前記塗料を硬化させる第3工程と、
を備える、塗装方法。
【請求項2】
被塗装物に少なくとも2以上の異なる塗装を施す塗装方法であって、
被塗装物に、転写層と、湿気硬化性樹脂組成物からなる塗料層を備える熱硬化性の塗装シートを貼り付ける第1工程と、
前記第1工程の後に、塗料を前記被塗装物に塗布する第2工程と、
前記第2工程の後に前記被塗装物に熱を加えて前記塗料を硬化させる第3工程と、
を備える、塗装方法。
【請求項3】
前記第2工程では、前記被塗装物の少なくとも塗装シートで覆われていない領域、及び塗装シートの縁部の両方にわたって、前記塗料を塗布する請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項4】
前記第3工程の前に前記塗装シートから前記転写層を除去する、請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記第3工程の後に前記塗装シートから前記転写層を除去する、請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項6】
前記熱硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリル樹脂及びブロックイソシアネートを含有する、請求項1に記載の塗装方法。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル樹脂が、重量平均分子量が50,000以上、1,000,000以下で固体状であり、かつ複数個の官能基を有する(メタ)アクリル樹脂を含有する、請求項6に記載の塗装方法。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリルポリオールを含む、請求項6又は7に記載の塗装方法。
【請求項9】
前記塗料層が、クリア層及び着色層を備える、請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の塗装方法により塗装された車両。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の塗装方法により塗装された車両部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装シートを用いた塗装方法、その塗装方法により塗装された車両及び車両部品に関する。
【背景技術】
【0002】
家具や鋼板、車両のボディなどには、意匠性や耐久性の観点から塗装や装飾が施される。装飾は、例えば、加飾フィルムなどのフィルムを用いて行われることが知られている。加飾フィルムは、一般的に、加飾用の樹脂層を保護するための保護層や、樹脂層を転写する際に基材となる転写層などが設けられ、これら保護層、転写層を剥離しながら、樹脂層を対象物に転写させることが知られている。
また、加飾フィルムは、例えば特許文献1に開示されるとおり、加飾用の樹脂層を熱硬化性とすることが知られている。加飾フィルムは、熱硬化性を有することで、対象物に転写後に熱硬化することで、高硬度にすることも可能になり、車体ボディの塗装などとして好適に使用することができる。
【0003】
塗装は、高い意匠性が求められる場合、2色以上に塗り分けが行われることがある。一般的な塗り分けでは、1色目を対象物全体に塗装し、1色目の塗装を熱硬化により焼付けて、その後、対象部位以外をマスキングして、2色目を塗装し、2色目を熱硬化により焼付けることが知られている。
【0004】
また、加飾シートを使用して塗り分けを行う場合、例えば特許文献2に記載のように、対象物に装飾シートを貼着した後、装飾シートの周辺部に塗装と異なる色調の重ね塗り塗装を行う方法が知られている。本方法では、加飾シートの保護紙を、重ね塗りを行う際のマスキングとして兼用することが示されている。
さらに、特許文献3には、加飾対象に塗料によって第1層を形成した後、加飾用フィルムを貼付して、第1層を部分的に覆う第2層をさらに形成し、次いで、第2層及び第1層のうち第2層で覆われない領域を、透明な塗料の層であるクリア層で覆う方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2688105号公報
【特許文献2】特開昭59-073078号公報
【特許文献3】特開2020-192500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の一般的な塗り分けでは、2回にわたる焼付工程やマスキング工程が必要なことから、工程増加による生産性の悪化が問題となる。一方で、特許文献2、3には、塗装シートを使用した塗り分けを行うことが示されるが、塗装シート自体は、熱硬化性を有していないため、高硬度にしたりすることが困難であり、車体ボディの塗装などに実用的に使用することが難しい。
【0007】
そこで、本発明は、熱硬化性又は湿気硬化性の塗装シートを使用して、少なくとも2以上の塗装を高い生産性で施すことができる塗装方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]被塗装物に少なくとも2以上の異なる塗装を施す塗装方法であって、
被塗装物に、転写層と、熱硬化性樹脂組成物からなる塗料層を備える熱硬化性の塗装シートを貼り付ける第1工程と、
前記第1工程の後に、塗料を前記被塗装物に塗布する第2工程と、
前記第2工程の後に前記被塗装物に熱を加えて前記塗装シート及び前記塗料を硬化させる第3工程と、
を備える、塗装方法。
[2]被塗装物に少なくとも2以上の異なる塗装を施す塗装方法であって、
被塗装物に、転写層と、湿気硬化性樹脂組成物からなる塗料層を備える熱硬化性の塗装シートを貼り付ける第1工程と、
前記第1工程の後に、塗料を前記被塗装物に塗布する第2工程と、
前記第2工程の後に前記被塗装物に熱を加えて前記塗料を硬化させる第3工程と、
を備える、塗装方法。
[3]前記第2工程では、前記被塗装物の少なくとも塗装シートで覆われていない領域、及び塗装シートの縁部の両方にわたって、前記塗料を塗布する上記[1]又は[2]に記載の塗装方法。
[4]前記第3工程の前に前記塗装シートから前記転写層を除去する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の塗装方法。
[5]前記第3工程の後に前記塗装シートから前記転写層を除去する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の塗装方法。
[6]前記熱硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリル樹脂及びブロックイソシアネートを含有する、上記[1]、及び[3]~[5]のいずれかに記載の塗装方法。
[7]前記(メタ)アクリル樹脂が、重量平均分子量が50,000以上、1,000,000以下で固体状であり、かつ複数個の官能基を有する(メタ)アクリル樹脂を含有する、上記[6]に記載の塗装方法。
[8]前記(メタ)アクリル樹脂が、(メタ)アクリルポリオールを含む、上記[6]又は[7]に記載の塗装方法。
[9]前記塗料層が、クリア層及び着色層を備える、上記[1]~[8]のいずれかに記載の塗装方法。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の塗装方法により塗装された車両。
[11]上記[1]~[9]のいずれかに記載の塗装方法により塗装された車両部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱硬化性又は湿気硬化性の塗装シートを使用して、少なくとも2以上の塗装を高い生産性で施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】塗装方法の一例を示す模式的な断面図であり、第1工程までを示す。
【
図2】塗装方法の一例を示す模式的な断面図であり、第2工程以降を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態を用いてより詳細に説明する。
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態に係ると塗装方法は、被塗装物に少なくとも2以上の異なる塗装を施すものである。本方法では、以下の第1工程~第3工程を備える。
第1工程:被塗装物に、転写層と、熱硬化性樹脂組成物からなる塗料層を備える熱硬化性の塗装シートを貼り付ける工程
第2工程:第1工程の後に、塗料を被塗装物に塗装する工程
第3工程:第2工程の後に被塗装物全体に熱を加えて塗装シート及び塗料を硬化させる工程
【0012】
以下、各工程について詳細に説明する。
[第1工程]
第1工程は、
図1(B)、(C)に示す通り塗装シート10を被塗装物20に貼り付ける工程である。塗装シート10が貼り付けられる被塗装物20としては、特に限定されないが、自動車、鉄道車両などの車両、電化製品、自動車内装材、鉄道車両内装材などの車両用内装材、自動車内装材、鉄道車両外装材などの車両用外装材で代表される車両部品、雑貨品、重機、船舶、航空機などの外装材、住宅、建造物などの外壁又は屋根材、橋梁、鉄骨、プラント、風力発電ブレードなどが挙げられる。これらの中では、車両、自動車外装材などの車両用外装材などの車両部品が好ましい。車両用外装材としては、例えば、フード、ルーフ、ドアパネル、バンパー、給油口パネル、トランクリッド、リアゲート等が挙げられる。塗装シートは、車両用外装材に貼り付ける場合、車両本体に取り付けられた外装材に貼り付けられてもよいし、車両本体に取り付けられる前の外装材に貼り付けられてもよい。また、被塗装物20の材質は、特に限定されないが、樹脂材料、セラミックなどの無機材料、鋼材などの金属材料のいずれであってもよいが、これらの中では鋼材などの金属材料が好ましい。
【0013】
被塗装物20には予め電着塗装が施され、表面に電着塗膜が形成されることが好ましく、特に、電着塗装は、被塗装物が車両用外装材である場合に施されることが好ましい。電着塗装が形成される場合、塗装シート10は、電着塗膜が形成された被塗装物の表面に貼り付けられるとよい。電着塗膜は特に限定されないが、カチオン型電着塗膜であってもよいし、アニオン型電着塗膜であってもよい。電着塗膜を設けることで、被塗装物の金属材料表面に防錆性を付与することができる。
ただし、電着塗装が形成されていなくてもよく、電着塗装が施されていない場合、塗装シート10は、電着塗装が形成されない被塗装物の表面に直接貼り付けられるとよい。
【0014】
第1工程で使用される塗装シート10は、被塗装物20に塗装を形成するためのシートである。塗装シート10は、
図1(A)、(B)に示すとおり、塗料層11と、塗料層11の一方の面に形成された転写層12とを備える。塗料層11は、熱硬化性樹脂組成物からなるものであり、加熱により硬化可能である。塗料層11は、被塗装物20上に形成される塗装の一部を構成する。
【0015】
塗装シート10は、
図1(A)に示すとおり、特に限定されないが、被塗装物20に貼り付けられる前においては、塗料層11の他方の面に保護層13が貼り合わされていてもよい。保護層13は、塗料層11を傷つきや異物付着から保護する部材である。塗装シート10は、被塗装物20に貼り付けられる前に、保護層13を塗料層11から剥離し、塗料層11を露出させて、被塗装物20に貼り付けるとよい。保護層13を剥離する方法は、特に限定されず、剥離装置により剥離されてよいし、人手により剥離されてもよい。塗装シート10において、保護層13は省略されていてもよい。
【0016】
本工程では、塗料層11が露出された塗装シート10を、
図1(B)に示すとおり、塗料層11を接触させるようにして被塗装物20に貼り付けるとよい。この際、被塗装物20への塗装シート10の貼り付けは、特に制限されず、スキージーなどを用いた手貼りなどにより行ってもよいし、ラミネート装置を用いて行ってもよい。塗料層11は、熱硬化性樹脂組成物からなり、かつ貼り付け時には硬化前であるため、ある程度の柔軟性を確保しやすくなる。したがって、塗料層11は、被塗装物20に適切に密着し、被塗装物20に対して適度な接着強度で仮固定することができる。
【0017】
塗装シート10は、真空成型、プレス成型、圧空成型などにより、予備成型されてもよく、被塗装物20の形状に対応する形状となるように賦形され、賦形された塗装シート10が、被塗装物20に貼り付けられるとよい。予備成型は、塗装シート10が保護層13を備える場合、保護層13を塗料層11から剥離する前に行ってもよいし、保護層13を塗料層11から剥離した後で行ってもよい。予備成型を行うことで、被塗装物20が複雑な形状を有していても、容易に塗装シートを被塗装物に密着させて貼り付けることができる。予備成型は、上記の中では真空成型により行うことが好ましい。予備成型は、真空成型により塗装シートを治具や金型に圧着させ、治具や金型により塗装シートを伸張させながら被塗装物の表面形状に対応した形状に賦形するとよい。
ここで、真空成型は、好ましくはTOM成型である。TOMとは、「Three dimension Overlay Method」であり、TOM成型を適用すると、複雑な形状に賦形することができる。
【0018】
塗装シート10は、
図1、2に示すとおりに被塗装物20に1枚貼り付けられてもよいし、図示しないが、2枚以上貼り付けられてもよい。2枚以上貼り付けられる場合、塗装シート10は互いに同じ塗装シートであってもよいし、互いに異なる塗装シートであってもよい。なお、互いに異なる塗装シートとは、例えば塗料層の組成が互いに異なるとよく、中でも、使用される着色剤の種類が異なることで、互いに異なる色の塗装シートであることがより好ましい。
2枚以上貼り付けられる場合には、各塗装シート10は、被塗装物20の互いに異なる領域に貼り付けられるとよく、互いに離間して貼り付けられてもよいし、接続されるように貼り付けられてもよい。また、1枚の塗装シートの一部が、他の塗装シートの一部に重ね合わせるように貼り付けられてもよい。
塗装シート10は、2枚以上貼り付けることで、後述する塗料15による塗装と合わせて、被塗装物に異なる3つ以上の塗装を施すことが可能になる。したがって、例えば3色以上の塗装を施すことも可能になり、意匠性の高いデザインにすることができる。
【0019】
塗装シート10は、
図1(C)に示すとおりに、塗装シート10により覆われていない領域20Aができるように、被塗装物20の表面に貼り付けられるとよい。これにより、塗装シート10により得られる塗装が形成される領域以外の領域に、塗料15により別の塗装を形成することができる。
【0020】
(塗料層)
塗装シート10における塗料層11は、上記の通りに熱硬化性樹脂組成物より形成される。熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、硬化剤とを含むことが好ましい。熱硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられ、これらのなか中でも(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
また、硬化剤としては、特に限定されないが、イソシアネート化合物が好ましく、中でもブロックイソシアネートが好ましい。
【0021】
したがって、塗料層11用の熱硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル樹脂とブロックイソシアネートを含むことが好ましい。塗料層11は、(メタ)アクリル樹脂とブロックイソシアネートを含有することで、所望の柔軟性を有しやすくなり、被塗装物20への密着性や接着強度などを良好にしやすくなる。また、加熱硬化による硬化後は高硬度にしやすくなり、硬化後の塗装の耐擦傷性なども良好となる。さらに、適度な温度の加熱により適切に硬化されるため、第3工程で加熱されるまでに硬化反応が生じることを適切に防止することができる。
【0022】
熱硬化性樹脂組成物に使用される(メタ)アクリル樹脂としては、複数個の官能基を有する(メタ)アクリル樹脂が挙げられる。官能基は、熱により反応することが可能な基である。官能基としては、好ましくは硬化剤が含有する反応性基(例えば、イソシアネート基)と反応する官能基が挙げられ、具体的には、水酸基、アミノ基、カルボキシル基などが挙げられる。(メタ)アクリル樹脂は、官能基を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上有していてもよい。これらの中では、(メタ)アクリル樹脂は、水酸基を有することが好ましい。したがって、(メタ)アクリル樹脂は、複数個の水酸基を有する(メタ)アクリルポリオールを含むことが好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル樹脂は、好ましくは(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、水酸基、アミノ基、カルボキシル基などの上記の官能基を有する官能基含有モノマーを含むモノマー混合物を重合することにより得られるアクリル重合体である。また、モノマー混合物は、スチレン誘導体モノマーなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー及び官能基含有モノマー以外を含んでもよい。なお(メタ)アクリルとは、メタクリル又はアクリルを意味し、他の類似する用語も同様である。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、上記した官能基を有しない(メタ)アクリル酸エステルモノマーが挙げられ、アルキル基の炭素数が1~18程度のアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの芳香族環を有する(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、官能基含有モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー、2-アミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
また、(メタ)アクリル樹脂としては、上記したアクリル重合体と、他の単量体又は重合体とをブロックまたはグラフト重合して得た共重合体を用いてもよい。
さらに、(メタ)アクリル樹脂としては、上記したアクリル重合体の官能基に、官能基に反応可能な反応性基と、(メタ)アクリロイル基とを有する(メタ)アクリロイル基含有化合物を反応させて、アクリル重合体に(メタ)アクリロイル基を含有させてもよい。
【0025】
熱硬化性樹脂組成物は、上記(メタ)アクリル樹脂として、重量平均分子量(Mw)が50,000以上、1,000,000以下で固体状であり、かつ複数個の官能基を有する(メタ)アクリル樹脂(以下、高分子量の(メタ)アクリル樹脂ともいう)を含むことが好ましい。(メタ)アクリル樹脂は、重量平均分子量が上記範囲内のものを含むことで、硬化前であっても塗料層を一定の形状に維持しやすくなり、転写層などの上に適切に形成しやすくなる。また、塗料層にタック性と伸張性なども付与しやすくなる。塗料層は、タック性及び伸張性を有することで、真空成型の際に形状追従性が良好になり、また色むらなども生じ難くなる。さらに、重量平均分子量が上記範囲内であると硬化後の樹脂層の硬度も高くしやすくなる。上記重量平均分子量は、好ましくは100,000以上、500,000以下であり、より好ましくは120,000以上、400,000以下である。
なお、本明細書において重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるものであり、標準ポリスチレン換算値として求められる。また、固体状であるとは、常温(23℃)及び常圧(1気圧)で固体であるものをいう。
【0026】
上記した高分子量の(メタ)アクリル樹脂は、複数個の水酸基を有する(メタ)アクリルポリオールであることが好ましい。(メタ)アクリルポリオールは、上記の通り、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、水酸基含有モノマーを含むモノマー混合物を重合することで得ることができる。
熱硬化性樹脂組成物において、(メタ)アクリル樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、上記した高分子量の(メタ)アクリル樹脂に加えて、重量平均分子量が50,000未満である樹脂(以下、可塑化樹脂ともいう)を含有してもよい。
熱硬化性樹脂組成物は、高分子量の(メタ)アクリル樹脂に加えて、重量平均分子量が低い可塑化樹脂を含有することで、塗工性、硬化性、タック性、伸張性などをバランスよく良好にしやすくなる。また、被塗装物に対する濡れ性を向上させて、被塗装物に対する接着強度を高めることができる。
【0028】
可塑化樹脂としては、高分子量の(メタ)アクリル樹脂と相溶可能であり、熱硬化可能な官能基を有するものが好ましい。可塑化樹脂に使用される樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられ、中でも(メタ)アクリル樹脂あるいはポリカーボネート樹脂が好ましい。
可塑化樹脂として使用される(メタ)アクリル樹脂としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基などの官能基を有するオリゴマーが挙げられる。可塑化樹脂として使用される(メタ)アクリル樹脂としては、例えば上記(メタ)アクリル樹脂で述べたとおりであり、好ましくは複数個の水酸基を有する(メタ)アクリルポリオールが使用される。また、カルボキシル基を有するポリ(メタ)アクリレートも好ましい。また、ポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
可塑化樹脂の重量平均分子量は、好ましくは450以上、30,000以下であり、より好ましくは1000以上、20,000以下である。
また、可塑化樹脂は、常温かつ常圧で液体であることが望ましい。
可塑化樹脂としては、複数個の水酸基を有する(メタ)アクリルポリオール又はポリカーボネートポリオールの少なくともいずれかが好ましい。
【0029】
硬化剤として使用されるブロックイソシアネートは、イソシアネート基が保護基によりブロックされた化合物であり、高温に曝されると、保護基(ブロック部分)が熱解離して外れ、生じたイソシアネート基と、上記した硬化性樹脂における官能基(典型的には、ポリオールの水酸基)との間で硬化反応が生じる。ブロックイソシアネートは、例えば、一分子中に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物に対してブロック化剤を反応させて得ることができる。
上記一分子中に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物としては、特に制限されないが、例えばトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、あるいはこれらの変性体などが挙げられる。
ブロック化剤としては、例えば、ピラゾール、フェノール類、オキシム、ラクタム、マロン酸エステルなどが挙げられる。
熱硬化性樹脂組成物におけるブロックイソシアネートの含有量は、ブロックイソシアネートにおけるイソシアネート基の数に対する、硬化性樹脂における官能基の数が好ましく0.4以上1.8以下、より好ましくは0.6以上1.5以下となるように調整されるとよい。
【0030】
塗料層11用の熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び硬化剤以外に、塗料層11から形成される塗装に要求される性能に応じた成分が適宜含有されるとよく、例えば、塗料層11により形成される塗装を着色塗装とする場合には、顔料、染料、光輝材などの着色剤を含有させ塗料層11を着色層とするとよい。また、塗料層11により形成される塗装を遮熱塗装とする場合には、熱硬化性樹脂組成物に遮熱材料を含有させ、塗料層11を遮熱層とするとよい。
また、塗料層11に表面凹凸を設けることで、マットやシボ加工のような表面性を付与することもできるが、この場合、一定の大きさを有する無機物を含み、かつ表面張力をコントロールする添加剤を熱硬化性樹脂組成物に配合して、意図的に塗料層11の表面を荒らすなどしてもよい。上記以外にも、防錆、防カビ、断熱、帯電防止、難燃などの機能を発現することを目的として、防錆剤、防カビ剤、断熱剤、帯電防止剤、難燃剤などの添加剤を目的に即して配合してもよい。
さらに、塗料層11は、後述するクリア層からなるものとしてもよい。これらの中では、熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも着色剤を含有することが好ましい。
【0031】
着色剤に使用される顔料としては、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物顔料、カーボンブラック、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイトなどの無機系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、バット系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料などの有機系顔料が挙げられるが、これらには限定されない。
染料としては、公知の染料を使用でき、アゾ系染料、アントラキノン系染料、インジゴイド系染料、スチルベン系染料等が挙げられる。
光輝材は、塗料層11に光輝性を付与することができる化合物であり、多方向から観察して光沢を示す性質を付与することができる化合物である。光輝材としては、特に限定されないが、天然マイカ、合成マイカ、アルミナフレーク、ガラスフレークなどの表面に、酸化チタン層を設けた化合物などが挙げられる。
塗料層11は、着色剤として、顔料又は光輝材の少なくともいずれかを含有することがより好ましく、顔料を含有することがさらに好ましい。また、塗料層11は、顔料と光輝材の両方を含有することも好ましい。
熱硬化性樹脂組成物における着色剤の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1~25質量%程度、好ましくは0.3~20質量%、より好ましくは0.5~12質量%である。
また、熱硬化性樹脂組成物には、着色剤や遮熱材料などの上記した添加剤以外にも、無機充填剤、硬化触媒、硬化促進剤、表面調整剤、消泡剤、架橋剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤などの添加剤が適宜含有されてもよい。
【0032】
塗料層11は、単層からなるものでもよいし、2層以上の多層構造を有してもよいが、多層構造であることが好ましい。多層構造であることで、様々な機能を塗料層11から形成される塗装に付与することができる。
塗料層11は、多層構造の場合、各層が、上記した熱硬化性樹脂組成物からなるとよい。また、各層は、上記の通りに着色剤を含有させて着色層にしてもよいし、遮熱材料を含有させて遮熱層としてもよいし、着色剤を実質的に含有させずにクリア層としてもよい。
【0033】
塗料層11は、多層構造の場合、着色層と、クリア層を少なくとも有することが好ましい。着色層及びクリア層を有する場合には、転写層12側からクリア層及び着色層がこの順に配置されるとよい。このような層構成により、塗装シート10が被塗装物20に貼り付けられた際には、被塗装物20側から着色層及びクリア層の順に配置されることになる。
塗料層11は、着色層を有することで、塗料層11により形成される塗装により被塗装物20を着色することができる。また、着色層に加えてクリア層が設けることで、着色層を保護したり、着色層に光沢を付与したりすることができる。着色層は、着色剤として顔料を含むことが好ましく、したがって、塗料層11は、クリア層と顔料層を備えることが特に好ましい。
【0034】
着色層及びクリア層は、いずれも上記した熱硬化性樹脂組成物からなるとよく、着色層用の熱硬化性樹脂組成物は、上記したとおりに着色剤を含有すればよい。また、着色層用の熱硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂として(メタ)アクリル樹脂を使用する場合、少なくとも高分子量の(メタ)アクリル樹脂を含有すればよいが、高分子量の(メタ)アクリル樹脂と可塑化樹脂の両方を含有することが好ましい。
一方で、クリア層は、透明な層であり、クリア層を介して着色層の色が外部から視認できる程度の透明性を有していればよいが、例えば、波長450nmの光の透過率が80%以上となるとよい。クリア層は、着色剤を含有しない塗膜であるとよいが、その機能を阻害しない限りは、少量であれば着色剤を含有してもよい。また、クリア層用の熱硬化性樹脂組成物は、硬化性樹脂として(メタ)アクリル樹脂を使用する場合、少なくとも高分子量の(メタ)アクリル樹脂を含有すればよいが、その場合、可塑化樹脂は含有していてもよいし、含有しなくてもよい。
【0035】
もちろん、塗料層11が多層構造の場合、クリア層と着色層の2層構造に限定されず、様々な積層構造を有することが可能であり、着色層を2層以上と、クリア層を1層以上設けて3層以上の構造としてもよいし、クリア層を省略して2層の着色層からなるものとしてもよい。また、クリア層を2層以上設けてもよい。また、クリア層と着色層の間に遮熱層などが設けられて3層以上の構造にされてもよい。
【0036】
塗料層11の厚みは、特に限定されないが、例えば20μm以上200μm以下、好ましくは30μm以上100μm以下である。
また、塗料層11に着色層とクリア層が設けられる場合、着色層の厚みは、特に限定されないが、例えば10μm以上100μm以下、好ましくは15μm以上50μm以下である。また、クリア層の厚みは、特に限定されないが、例えば10μm以上100μm以下、好ましくは15μm以上50μm以下である。
【0037】
(転写層)
塗装シート10における転写層12は、塗料層11を傷つきや異物付着から保護し、また、塗料層11を被塗装物20に貼り付ける際に支持体となる部材である。転写層12は、樹脂フィルムより形成されることが好ましい。樹脂フィルムに使用される樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。
樹脂フィルムに使用される樹脂としては、具体的には、環状ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、軟質塩化ビニル樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、環状ポリオレフィン樹脂又はポリオレフィン樹脂が好ましい。
環状ポリオレフィン樹脂は、環状オレフィンに由来する構造単位を含む重合体である。また、ポリオレフィン樹脂は、環状ポリオレフィン樹脂以外のポリオレフィン樹脂であり、具体的には、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。これらのなかでは、ポリエチレン樹脂が好ましい。ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。
【0038】
転写層12を構成する樹脂フィルムは、1層単層からなる単層フィルムでもよいが、2層以上の多層フィルムでもよい。また、転写層12を構成する樹脂フィルムにおいて、樹脂フィルムに含有される樹脂は、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
多層フィルムにおいては、環状ポリオレフィン樹脂又はポリオレフィン樹脂により構成される層と、ポリエステル樹脂により構成される層が積層された多層フィルムが挙げられ、例えば、ポリエステル樹脂層、ポリオレフィン樹脂層、及びポリエステル樹脂層が順に積層された多層フィルムなどでもよい。
樹脂フィルムは、延伸した樹脂フィルムであってもよいし、延伸していない無延伸の樹脂フィルムであってもよいが、無延伸の樹脂フィルムであることが好ましい。無延伸の樹脂フィルムを使用することで、真空成型時に破断やシワ等が生じることを防止しやすくなる。
【0039】
転写層12は、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤等の離型剤で、少なくとも一方の表面が離型処理されたものであってもよい。転写層12が離型処理される場合、離型処理面は塗料層11側の表面を構成することが好ましい。ただし、転写層12は、塗料層11から剥離できる限り、離型処理がなされてなくてもよい。
転写層12の厚みは、特に限定されないが、例えば10μm以上1000μm以下、好ましくは30μm以上600μm以下、より好ましくは50μm以上400μm以下である。
【0040】
(保護層)
塗装シート10に使用される保護層13は、第1樹脂層を傷つきや異物付着から保護する部材である。保護層は、樹脂フィルムより形成されることが好ましい。保護層13に使用される熱可塑性樹脂の具体例としては、上記転写層で使用できる樹脂と同じであるが、中でも、ポリエステル樹脂が好ましい。
保護層13を形成する樹脂フィルムは、1層単層からなる単層フィルムでもよいが、2層以上の多層フィルムでもよい。また、転写層を構成する樹脂フィルムにおいて、樹脂フィルムに含有される樹脂は、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
保護層13に使用される樹脂フィルムは、延伸した樹脂フィルムであってもよいし、延伸していない無延伸の樹脂フィルムであってもよいが、無延伸の樹脂フィルムであることが好ましい。
保護層13は、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤等の離型剤で、少なくとも一方の表面が離型処理されたものであってもよい。保護層13が離型処理される場合、離型処理面は、塗料層11側の表面を構成することが好ましい。保護層13は、離型処理されることで塗料層11からの剥離性を良好にしやすくなる。ただし、保護層13は、塗料層11から剥離できる限り、離型処理がなされてなくてもよい。
保護層13の厚みは、特に限定されないが、例えば10μm以上1000μm以下、好ましくは30μm以上700μm以下、より好ましくは50μm以上500μm以下である。
【0041】
塗装シート10の製造方法は特に限定されないが、公知の方法で製造することができ、例えば硬化性樹脂組成物を用意して、用意した硬化性樹脂組成物を、転写層12上に塗布して、必要に応じて乾燥することで塗料層11を形成するとよい。また、硬化性樹脂組成物を、保護層13上に塗布して、必要に応じて乾燥することで塗料層11を形成し、得られた保護層13上に形成した塗料層11にさらに転写層12を貼り合わせて塗装シート10を得てもよい。なお、硬化性樹脂組成物を転写層12又は保護層13に塗布する際には、硬化性樹脂組成物を溶剤などにより適宜希釈してもよい。
また、塗料層11が多層である場合には、各層を順次形成して積層することで形成すればよい。例えば、クリア層と、着色層を有する場合には、保護層13上に形成した着色層と、転写層12上に形成したクリア層とを貼り合わせることで塗装シート10を得てもよい。
【0042】
[第2工程]
第2工程は、第1工程の後で行う工程であり、
図2(A)に示すとおりに、塗料15を被塗装物20に塗布する工程である。塗料15は、上記した塗装シート10により形成される塗装と異なる塗装を形成できる塗料であるとよいが、塗装シート10により形成される塗装と異なる色の塗装を形成できる塗料であることが好ましい。
異なる色の塗装とするためには、例えば、塗装シート10の塗料層11及び塗料15のいずれにも着色剤が含有される場合には、塗装シート10から形成される塗装及び塗料15から形成される塗装の色が異なる色となるように、塗料層11及び塗料15それぞれに含有される着色剤を適宜調整するとよい。具体的には、塗料層11及び塗料15それぞれに互いに異なる種類の着色剤を使用すればよい。
【0043】
また、異なる色の塗装とするためには、塗装シート10の塗料層11、及び塗料15のいずれ一方に着色剤を含有させ、他方に着色剤を含有させないようにしてもよい。また、例えば、塗料層11と塗料15の一方に光輝材を含有させ、他方に光輝材を含有させずに、一方に光沢を付与して、光沢の有無により、塗装シート10により形成される塗装と、塗料15により形成される塗装との色を異ならせてもよい。
ただし、塗料層11により形成される塗装と塗料15により形成される塗装は、互いに異なる色にする必要はなく、着色剤以外の成分を互いに異ならせて、互いの機能を異ならせてもよい。例えば、塗料15と塗料層11のいずれか一方に遮熱材料を含有させないとともに、他方に遮熱材料を含有させて遮熱性能を付与してもよい。
さらには、塗料層11により形成される塗装と、塗料15により形成される塗装は、互いに厚みを異ならせることにより異なる塗装としてもよい。これら塗装の厚みを異ならせることで立体感のある塗装を形成することができる。
【0044】
第2工程において、塗料15は、
図2(A)に示すとおりに、被塗装物20の塗装シート10で覆われていない領域20Aに、少なくとも塗布するとよい。これにより、塗装シート10によって塗装が形成される領域とは別の領域に、塗料15により別の塗装を形成することができる。この際、塗料15は塗料層11の端面11Aを覆うように被塗装物20に塗布されることが好ましい。塗料15によって塗料層11の端面11Aが覆われることで、塗料15によって形成される塗装と、塗料層11によって形成される塗装の間に、塗装が設けられない部分が生じることが防止できる。
【0045】
また、塗料15は、
図2(A)に示すとおりに、被塗装物20の塗装シート10で覆われていない領域20A、及び塗装シート10の縁部10Aの両方にわたって塗料15を塗布することが好ましい。
塗装シート10は、転写層12が塗料層11に積層されたまま被塗装物20に貼り付けられる。したがって、典型的には、
図2(A)に示すとおりに第2工程において転写層12は、塗料層11の上に積層されたままである。そのため、塗料15が、領域20A及び塗装シート10の縁部10Aの両方にわたって塗布されると、塗装シート10の縁部10Aにおいて塗料15は、転写層12上に塗布されることになる。
一方で、転写層12は、後述する転写層除去工程において、塗料層11から剥離されるので(
図2(C)参照)、縁部10Aにおいて、転写層12の上に塗料15が塗布されたとしても、その塗布された塗料15は、転写層12と共に塗料層11から除去されることなる。これにより、転写層12は、マスキング部材としての機能を果たすため、塗料15は、塗料層11上に形成することなく、被塗装物20の設計通りの領域に塗布することができる。
【0046】
なお、
図2(A)において、塗料15は、転写層12において、縁部10Aのみに塗布される態様が示されるが、塗料15は、縁部10Aに加えて、縁部10A以外の領域にも塗布されてもよく、例えば、転写層12の全面に塗布されてもよい。また、転写層12上に塗料15が全く塗布されなくてもよいが、実用性を考慮すると、上記の通りに塗料15は、少なくとも塗装シート10の縁部10Aにおいて転写層12上に塗布されることが好ましい。
【0047】
(塗料)
塗料15としては、被塗装物が車両用外装材である場合、例えば自動車ボディ用の塗料として使用される公知のものを使用できる。また、塗料15は、熱硬化性塗料であることが好ましい。塗料として、熱硬化性塗料を使用することで、後述する第3工程の加熱により、塗装シートの塗料層11及び第2工程で塗布された塗料15の両方を硬化させることができる。
【0048】
塗料15は、バインダーを含む。バインダーは、一般的に硬化性官能基を有する樹脂と硬化剤とからなる。上記硬化性官能基を有する樹脂としては塗料用樹脂として一般的に用いられるポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を挙げることができる。硬化性官能基としては特に限定されず、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基等を挙げることができる。また、硬化剤としては、硬化性官能基を反応させて硬化させることできれば特に限定されないが、ポリイソシアネート、メラミン樹脂などが好ましい。また、ポリイソシアネートは、ブロック剤によってブロックされたブロックイソシアネートが好ましい。ブロックイソシアネートは、高温に加熱した際に硬化反応を生じさせるものである。そのため、ブロックイソシアネートを使用することで、第3工程で加熱されるまでに硬化反応が生じることを適切に防止することができる。なお、ブロックイソシアネートとしては、上記した通りに塗料層11で列挙したものを適宜使用できる。
【0049】
また、塗料15には、上記バインダー以外にも、塗料15から形成される塗装に要求される性能に応じた成分が含有されるとよく、例えば、塗料15により形成される塗装を着色塗装とする場合には、顔料、染料、光輝材などの着色剤を含有させればよい。顔料、染料、光輝材は、上記の塗装シート10の説明で列挙するものから適宜選択して使用できる。また、塗料15により形成される塗装を遮熱塗装とする場合には、塗料に遮熱材料を含有させればよい。これらの中では、塗料は、少なくとも着色剤を含有することが好ましい。さらに、塗料15により形成される塗装は、クリア塗膜からなるものとしてもよい。
【0050】
塗料15には、着色剤や遮熱材料以外にも、塗料に含有される公知の添加剤が適宜配合されてもよい。また、塗料15は、一般的に溶液型のものが好ましく、有機溶剤型、非水分散型などであってもよいし、水溶性、水分散性、エマルジョンなどの水性型であってもよい。
【0051】
塗料15により形成される塗装は、単層であってもよいし、2層以上の多層構造を有していてもよいが、多層構造であることが好ましい。多層構造であることで、様々な機能を塗装に付与することができる。多層構造の場合には、塗料15により形成される塗装は、中塗り塗膜と、中塗り塗膜の上に形成される上塗り塗膜を有することが好ましい。
【0052】
中塗り塗膜用の塗料は、例えば、耐チッピング性、耐候性などを向上させるための塗膜であり、一般的に上記バインダーに加えて着色剤が含有される。また、耐チッピング性を向上させるために、バインダーには比較的柔軟性の高い成分などが使用されてもよい。中塗り塗膜用の塗料の着色剤としては、カーボンブラック又は酸化チタンや、これらを併用したグレー系顔料が使用されることが多いが、特に限定されない。
【0053】
上塗り塗膜は、主に意匠性を付与することを目的とした塗膜であり、上塗り塗膜用の塗料には、典型的には、上記バインダーに加えて着色剤が含有されているとよい。また、着色剤としては、特に限定されず、例えば、被塗装物20が車両用外装材である場合、車両のボディカラーに応じた色を有する顔料などが使用されるとよい。
また、塗装は、中塗り塗膜と、上塗り塗膜を有する場合には、上塗り塗膜の上にさらにクリア塗膜を有することが好ましい。塗料15により形成される塗装がクリア塗膜を有することで、上塗り塗膜を適切に保護したり、上塗り塗膜に光沢を持たせたりすることができる。
クリア塗膜は、透明性を有する塗膜であり、クリア塗膜を介して上塗り塗膜の色が外部から視認することができる。クリア塗膜は、着色剤を含有しない塗膜であるとよいが、その機能を阻害しない限りは、少量であれば着色剤を含有してもよい。
もちろん、塗料により形成される多層構造の塗膜は、以上の積層構造に限定されずに様々な態様にすることが可能であり、中塗り塗膜や上塗り塗膜のいずれかを省略してもよいし、他の積層構造としてもよい。
【0054】
塗料15の塗布方法としては、特に限定されず、スプレー、ローラ、刷毛などにより塗布されるとよいが、これらの中では、スプレーにより塗布されることが好ましい。スプレーにより塗布することで、被塗装物20が複雑な形状であっても均一な塗膜を容易に形成することができ、例えば、車両用外装材などに好適に塗布することができる。また、上記の通りに塗装を多層構造とする場合には、塗料による塗布を繰り返し行うとよい。
例えば中塗り塗膜、上塗り塗膜、クリア塗膜が設けられる場合には、中塗り塗膜用の塗料、上塗り塗膜用の塗料、クリア塗膜用の塗料を順次塗布するとよい。
【0055】
塗料15は、上記の通りに複数使用される場合には、少なくとも一部が熱硬化性塗料であればよい。したがって、塗料15の一部は、熱硬化性塗料以外の塗料が使用されてもよく、例えば光硬化性塗料が使用されてもよいし、硬化性塗料以外の塗料が使用されてもよい。
塗料15は、1液硬化型であってもよいし、2液硬化型であってもよい。2液硬化型の場合には、硬化性官能基を有する樹脂を含む1液と、硬化剤を含む2液を混合させることで塗料を得ればよい。2液硬化型の塗料は、2液を混合することで硬化するものであればよく、1液と2液を混合することで、硬化の一部が進行するものでもよいし、硬化が完全に進行するものでもよい。
【0056】
また、塗料15は、第3工程で硬化できる限り、第3工程の前に硬化の一部が進行してもよい。例えば、塗料15に光硬化性樹脂が含まれる場合には、硬化を進行させるために、塗料15に紫外線などの光を照射してもよい。
また、上記の通りに2液硬化型を使用する場合、第3工程の前に塗料の硬化が進行していても、第3工程でさらに硬化ができるように、第3工程の前に塗料15が部分硬化され、或いは、塗料15の少なくとも一部に硬化が進行していない部分があればよい。
さらに、上記の通りに、多層構造の場合には、各塗料を塗布した後に各塗料を硬化させることなく次の塗料を塗布すればよいが、塗料の一部は、次の塗料を塗布する前に硬化させてもよい。この場合の塗料の硬化は、光硬化や、2液硬化型の混合による硬化であることが好ましい。
【0057】
塗料15により形成される塗装の厚みは、特に限定されないが、例えば20μm以上200μm以下、好ましくは30μm以上100μm以下である。
また、上記した中塗り塗膜の厚みは、例えば5μm以上100μm以下、好ましくは8μm以上50μm以下であり、また、外塗り塗膜の厚みは、例えば5μm以上100μm以下、好ましくは8μm以上50μm以下である。また、クリア塗膜の厚みは、例えば5μm以上100μm以下、好ましくは8μm以上50μm以下である。
【0058】
[第3工程]
第3工程は、第2工程の後に行う工程であり、
図2(B)に示すとおりに、被塗装物20に熱を加えて塗装シート10の塗料層11、及び被塗装物20に塗布された塗料15を硬化させる。第3工程では、被塗装物20の全体が加熱されることで、塗料層11及び塗料15を硬化されるとよい。
第3工程では、塗装シート10が貼り付けられた被塗装物20を、例えばオーブン、赤外線ヒーターなどの加熱装置21を用いて加熱するとよい。加熱温度は、例えば50℃以上であればよいが、好ましくは90℃以上170℃以下であり、より好ましくは100℃以上160℃以下である。また、加熱時間は、例えば5分以上120分以下であり、好ましくは15分以上90分以下である。
被塗装物20に貼り付けられた塗料層11、及び被塗装物20に塗布された塗料15は、加熱により硬化することで、被塗装物20上に形成された塗装となる。
【0059】
[転写層除去工程]
本製造方法は、塗料層11から転写層12を除去する転写層除去工程をさらに備えるとよい。ここで、転写層除去工程は、第3工程の前に行ってもよいが、第3工程の後に行ってもよい。すなわち、第3工程において塗料層11及び塗料15の両方を加熱により硬化させる前に、転写層12を塗料層11から剥離して除去してもよい。また、
図2(C)に示すとおりに、第3工程において塗料層11及び塗料15の両方を加熱により硬化させた後に、転写層12を塗料層11から剥離して除去してもよい。
【0060】
ただし、転写層除去工程を第3工程の前に行う場合、上記した第2工程の後に転写層除去工程を行うことが好ましい。すなわち、転写層12の除去は、塗料15を被塗装物20に塗布した後、かつ塗料層11及び塗料15の両方を加熱により硬化する前に行うとよい。このような構成により、
図2(A)に示すとおりに、転写層12が塗料層11の上に積層された状態で、塗料15が塗布されることになるので、第2工程において、転写層12をマスキング部材として機能させることができる。
【0061】
以上で説明した塗装方法によれば、被塗装物20の表面に、互いに異なる2つ以上の塗装を形成することができるので、被塗装物20の表面を例えば2色以上に塗り分けをしたりすることができる。そして、第3工程において、塗装シート10の塗料層11及び塗料15の両方が硬化されるので、異なる2つ以上の塗装を形成しながらも、工程を簡略化でき、高い生産性で2色以上の塗り分けなども行うことができる。
また、硬化性の塗料層11を有する塗装シート10を使用することで、粘着剤などを使用することなく、硬化前の塗料層11を比較的高い接着強度で被塗装物20に直接貼り付けることできる。一方で、塗料層11は、熱硬化により高硬度にしたり、硬化により被塗装物に対する接着強度を高めたりすることができるので、塗装が車両用外装材などの過酷な環境下で長期間使用される場合でも適切に使用することができる。
【0062】
さらに、本実施形態では、塗装シート10に設けられる転写層12は、被塗装物20に塗装シート10を貼り付ける際の支持体となり、また、塗料15を塗布する際のマスキング部材にもなる。そのため、転写層12が設けられることで、塗装シート10の被塗装物20への貼り付けが容易となり、かつ塗料15による塗装を設計通りに容易に形成できるので、作業性がより一層向上する。
【0063】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態に係る塗装方法は、被塗装物に少なくとも2以上の異なる塗装を施すものである。本方法では、以下の第1工程~第3工程を備える。以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。
第1工程:被塗装物に、転写層と、湿気硬化性樹脂組成物からなる塗料層を備える熱硬化性の塗装シートを貼り付ける工程と、
第2工程:第1工程の後に、塗料を被塗装物に塗布する工程と、
第3工程:第2工程の後に前記被塗装物に熱を加えて前記塗料を硬化させる工程と、
【0064】
[第1及び第2工程]
第2の実施形態における第1及び第2工程は、塗料層が湿気により硬化可能な湿気硬化性樹脂組成物からなる塗料層である点を除いて、第1の実施形態で説明した第1工程と同じである(
図1、
図2(A)参照)。
【0065】
第2の実施形態において、塗装シートにおける塗料層11は、湿気硬化性樹脂組成物より形成される。湿気硬化性樹脂組成物は、湿気硬化性樹脂を含有させるとよい。湿気硬化性樹脂としては、例えば、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーが挙げられる。末端にイソシアネート基を有するプレポリマーは、例えば、ポリイソシアネートと活性水素含有化合物及び/又は活性水素含有ポリマーとを反応させて得られるものが挙げられる。
末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを調製するに際して使用されるポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、粗製トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、カーバジイミド化ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が用いられ、好ましくはポリメチレンポリフェニルイソシアネートが用いられる。
【0066】
前記した活性水素含有化合物、活性水素含有ポリマーとしては、例えば、次のようなものが使用される。
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ヒマシ油、ジグリセリン、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の活性水素含有化合物、及び上述の活性水素含有化合物とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、テトラハイドロフラン等のアルキレンオキシド類の単独もしくは混合物を付加重合して得られる末端水酸基2個以上を有する平均分子量3,000以下平均官能基数2以上、好ましくは平均分子量200~1,000平均官能基数2~2.5の活性水素含有ポリマーが使用される。その他ポリエステルポリオール、油変性ポリエステルポリオール、ポリε-カプロラクトンポリオール、ポリカーボネートジオール、アクリルポリオール、ポリアミン、ポリアミド、尿素樹脂及びメラミン樹脂等の平均分子量3,000以下、平均官能基数1.5以上、好ましくは平均分子量200~1,000で平均官能基数2~2.5の活性水素含有ポリマーも併用することが出来る。
末端イソシアネート基を有するプレポリマーは、例えば有効NCO含有率が1~15質量%、好ましくは8~13質量%である。
【0067】
末端イソシアネート基を有するプレポリマーは上記ポリイソシアネートと上記活性水素含有ポリマーを含めた通常のポリオールを、イソシアネート過剰の条件下で40℃~90℃、好ましくは55℃~75℃の温度で湿気を遮断した系で、ウレタン化反応を行なうことで合成できる。
【0068】
上述のウレタン化反応は、通常有機溶剤中で行われ、かかる溶剤としては、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、その他一般に塗料用溶剤として用いられるものが使用される。ウレタン化反応は、触媒を用いる事もでき、このような触媒としては、例えばトリエチルアミン、ジメチルアニリンなどの3級アミン系触媒、又はスズ、亜鉛などの金属系触媒が用いられる。これらは塗膜形成時に空気中の水分と反応する際の触媒にもなる。
【0069】
第2の実施形態において塗料層に使用される湿気硬化性樹脂組成物は、第1の実施形態で述べた熱硬化性樹脂組成物において、熱硬化性樹脂及び硬化剤の代わりに、湿気硬化性樹脂を使用するとよい。また、湿気硬化性樹脂組成物が、湿気硬化性樹脂の湿気硬化を促進させる湿気硬化促進触媒を適宜含有してもよい。
その他の塗料層、湿気硬化性樹脂組成物の構成は、第1の実施形態で述べた塗料層及び熱硬化性樹脂組成物の構成と同様であるので、その説明は省略する。
【0070】
[第3工程]
第3工程は、第2工程の後に行う工程であり、
図2(B)に示すとおりに、被塗装物20に熱を加えて被塗装物20に塗布された塗料15を硬化させる。第3工程では、被塗装物20の全体が加熱されることで、塗料15を硬化させるとよいが、少なくとも塗料15を加熱して硬化させる限り特に限定されない。加熱方法及び加熱条件は、第1の実施形態と同様である。
【0071】
[転写層除去工程]
本実施形態でも、塗料層11から転写層12を除去する転写層除去工程をさらに備えるとよい。転写層除去工程は、第1の実施形態と同様に、第3工程の前に行ってもよいが、第3工程の後に行ってもよい。すなわち、第3工程において塗料15を加熱により硬化させる前に、転写層12を塗料層11から剥離して除去してもよい。また、
図2(C)に示すとおりに、第3工程において塗料15を加熱により硬化させた後に、転写層12を塗料層11から剥離して除去してもよい。
本実施形態でも、転写層除去工程を第3工程の前に行う場合、上記した第2工程の後に転写層除去工程を行うことが好ましい。すなわち、転写層12の除去は、塗料15を被塗装物20に塗布した後、かつ塗料15を加熱により硬化する前に行うことが好ましい。
【0072】
また、本実施形態において、塗料層は、適宜湿気により硬化させるとよい。塗料層の硬化は、湿気により硬化させる限り特に限定されないが、通常は、室温又はその近傍の温度(例えば0~45℃、好ましくは5~30℃)で大気下や、加湿環境下(例えば、50%RH以上の環境下)に放置するとよい。大気下又は加湿環境下に放置する時間は、特に限定されないが、例えば1時間以上2週間以下程度であるが、1日以上1週間以下程度であることが好ましい。
塗料層の硬化は、第1工程を行った後に適宜行えばよい。塗料層の硬化は、第3工程終了後に行ってもよいし、各工程間、または、各工程中に適宜行えばよい。塗料層は、転写層を除去して露出した状態にすることで、湿気硬化が進行しやすいので、転写層を除去した後で大気下や加湿環境下に放置することも好ましい。
ただし、塗料層は、上記の通りに大気中に放置するのみで硬化する。そのため、湿気硬化のために、特別な工程を設ける必要はなく、保管中や搬送中などに適宜硬化させてもよい。
【0073】
以上で説明した第2の実施形態に係る塗装方法によれば、被塗装物20の表面に、互いに異なる2つ以上の塗装を形成することができるので、被塗装物20の表面を例えば2色以上に塗り分けをしたりすることができる。また、塗料層が湿気硬化性樹脂組成物から形成されるので、塗料層を硬化するための設備などを導入する必要がなく、また、特別な工程を設けなくてもよい。そのため、異なる2つ以上の塗装を形成しながらも、工程を簡略化でき、高い生産性で2色以上の塗り分けなども行うことができる。
また、第1の実施形態と同様に、塗料層11は、硬化前において、比較的高い接着強度で被塗装物20に直接貼り付けることできる。一方で、塗料層11は、湿気硬化により高硬度にしたり、湿気硬化により被塗装物に対する接着強度を高めたりすることもできるので、塗装が車両用外装材などの過酷な環境下で長期間使用される場合でも適切に使用することができる。
さらに、本実施形態に係る塗装シート10は、転写層12が、支持体となり、また、マスキング部材にもなるため、塗装シート10の被塗装物20への貼り付けが容易となり、かつ塗料15による塗装を設計通りに容易に形成できるので、作業性がより一層向上する。
【0074】
本発明では、以上説明した塗装方法により塗装された被塗装物も提供する。被塗装物の具体例は、上記の通りであるが、自動車、鉄道車両などの車両、車両用内装材、両用外装材で代表される車両部品などが好ましい。また、以上の塗装方法により塗装された車両部品が搭載された車両も好ましい。
【符号の説明】
【0075】
10 塗装シート
11 塗料層
12 転写層
13 保護層
15 塗料
20 被塗装物
21 加熱装置