(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146940
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ラクトン化合物および該化合物の製造方法、ならびに該化合物を用いるラクトン重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 313/04 20060101AFI20241004BHJP
C08G 63/08 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
C07D313/04
C08G63/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059263
(22)【出願日】2024-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2023059530
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松浪 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】青木 良和
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AB01
4J029AB07
4J029AC01
4J029AD01
4J029AD10
4J029AE11
4J029AE18
4J029EG09
4J029JA301
4J029JB122
(57)【要約】 (修正有)
【課題】着色の少ないラクトン重合体を製造するための、高純度のラクトン化合物を含む組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下式(1)の化合物、および含有量が1000ppm以下である、下式(2)の酸無水物由来のジカルボン酸、を含有する組成物を提供する。
[式中、R
1~R
6は独立してH、ハロゲン、CN等、nは1~8の整数を表す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるラクトン化合物、および、
下記一般式(2)で表される酸無水物由来のジカルボン酸、を含有する組成物であって、
前記ジカルボン酸の含有量が1000ppm以下である組成物。
【化1】
[式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、―H、ハロゲン原子、―CN、―NO
2、―OH、
―COOH、―COOM、置換基を有していてもよい炭素原子数1~8のカルボニル基、
―SO
3H、―SO
3M、置換基を有していてもよい炭素原子数0~8のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基、または、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリールオキシ基、を表し、
R
1~R
4は互いに結合して環を形成していてもよい。
nは1~8の整数を表し、Mは無機カチオンを表す。]
【化2】
[式(2)中、R
5およびR
6は、それぞれ独立に、―H、ハロゲン原子、―CN、―NO
2、
―COOH、―COOM、置換基を有していてもよい炭素原子数1~8のカルボニル基、
―SO
3H、―SO
3M、置換基を有していてもよい炭素原子数0~8のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基、または、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリールオキシ基、を表し、
R
5およびR
6は互いに結合して環を形成していてもよい。
Mは無機カチオンを表す。]
【請求項2】
前記組成物において、酸無水物由来のジカルボン酸が、芳香族ジカルボン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記芳香族ジカルボン酸がフタル酸である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、R1~R4が―Hまたは炭素原子数1~3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記一般式(1)において、nが4である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記一般式(2)で表されるジカルボン酸の含有量が0ppm以上600ppm以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の組成物をモノマーに用いる、数平均分子量が500~3000のラクトン重合体。
【請求項8】
ハーゼン単位色数が60以下である、請求項7に記載のラクトン重合体。
【請求項9】
下記一般式(1)で表されるラクトン化合物の製造方法であって、
下記の工程1および工程2を含むことを特徴とする製造方法。
工程1:下記一般式(3)で表される環状ケトン化合物と、
下記一般式(2)で表される酸無水物を用いる酸化反応を行う工程。
工程2:前記工程1の酸化反応の後、塩基性陰イオン交換樹脂を用いて、
酸無水物由来のジカルボン酸成分を除去する工程。
【化3】
【化4】
【化5】
[式(1)~(3)中、R
1~R
6およびnは、前記一般式(1)および(2)の定義と同意義を示す。]
【請求項10】
前記一般式(3)において、R1~R4が―Hまたは炭素原子数1~3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(3)において、nが4である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の製造方法で製造するラクトン化合物を用いるラクトン重合体の製造方法であって、ハーゼン単位色数(APHA色)が60以下であるラクトン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン化合物および該化合物の製造方法に関するものである。また、該化合物を用いるラクトン重合体および該重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ラクトン重合体は、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、人工皮革、コーティング材などの原料として有用である。ラクトン重合体は、例えば、ε-カプロラクトンやγ-バレロラクトンのようなラクトン化合物を開環重合して得られる。環状エステルであるラクトン化合物の代表的な製造方法としては、環状ケトンを酸化して得る方法がある(特許文献1~6)。ケトン化合物の酸化はバイヤー・ビリガー酸化反応として知られ、比較的容易に進行する。
【0003】
しかしながら、ラクトン化合物は水や塩基成分、酸成分により容易に開環、重合が起こるため、ラクトン重合体の製造に使用するラクトン化合物を、高純度かつ高収率で得ることは困難である。そのため、特許文献3および特許文献6の方法のような、開環物などを副生品として利用してコストを抑える方法、重合が起きないように複雑な蒸留工程を設けるなどの方法が行われている。
【0004】
また、特許文献1には、酸無水物と過酸化水素を用いた簡便な製造方法が記載されている。反応を終えた反応混合物の段階では収率は90%を超えているが、蒸留により取り出したラクトン化合物の純度は70%を下回る低いものである。低純度のラクトン化合物を用いてラクトン重合物を製造すると、望まない反応が起こることがあり、生成物の着色の要因になるため、高純度のラクトン化合物の製造方法および精製方法の開発が現在も継続して続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-93287号公報
【特許文献2】特開平4-9378号公報
【特許文献3】特開平11-158172号公報
【特許文献4】特開2003-190804号公報
【特許文献5】特開2003-300911号公報
【特許文献6】特開2011-225549号公報
【特許文献7】特開2021-50326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高純度のラクトン化合物および該化合物の製造方法を提供することを課題とする。また、該化合物を用いて製造される着色の少ないラクトン重合体およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を鋭意検討した結果得られたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1]下記一般式(1)で表されるラクトン化合物、および、
下記一般式(2)で表される酸無水物由来のジカルボン酸、を含有する組成物であって、
前記ジカルボン酸の含有量が1000ppm以下である組成物。
【0009】
【0010】
[式(1)中、R1~R4は、それぞれ独立に、―H、ハロゲン原子、―CN、―NO2、―OH、
―COOH、―COOM、置換基を有していてもよい炭素原子数1~8のカルボニル基、
―SO3H、―SO3M、置換基を有していてもよい炭素原子数0~8のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基、または、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリールオキシ基、を表し、
R1~R4は互いに結合して環を形成していてもよい。
nは1~8の整数を表し、Mは無機カチオンを表す。]
【0011】
【0012】
[式(2)中、R5およびR6は、それぞれ独立に、―H、ハロゲン原子、―CN、―NO2、
―COOH、―COOM、置換基を有していてもよい炭素原子数1~8のカルボニル基、
―SO3H、―SO3M、置換基を有していてもよい炭素原子数0~8のスルホニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基、または、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリールオキシ基、を表し、
R5およびR6は互いに結合して環を形成していてもよい。
Mは無機カチオンを表す。]
【0013】
[2]前記組成物において、酸無水物由来のジカルボン酸が、芳香族ジカルボン酸である[1]に記載の組成物。
【0014】
[3]前記芳香族ジカルボン酸がフタル酸である[2]に記載の組成物。
【0015】
[4]前記一般式(1)において、R1~R4が―Hまたは炭素原子数1~3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である[1]に記載の組成物。
【0016】
[5]前記一般式(1)において、nが4である[1]に記載の組成物。
【0017】
[6]前記一般式(2)で表されるジカルボン酸の含有量が0ppm以上600ppm以下である[1]に記載の組成物。
【0018】
[7][1]に記載の組成物をモノマーに用いる、数平均分子量が500~3000のラクトン重合体。
【0019】
[8]ハーゼン単位色数が60以下である[7]に記載のラクトン重合体。
【0020】
[9]下記一般式(1)で表されるラクトン化合物の製造方法であって、
下記の工程1および工程2を含むことを特徴とする製造方法。
工程1:下記一般式(3)で表される環状ケトン化合物と、
下記一般式(2)で表される酸無水物を用いる酸化反応を行う工程。
工程2:前記工程1の酸化反応の後、塩基性陰イオン交換樹脂を用いて、
酸無水物由来のジカルボン酸成分を除去する工程。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
[式(1)~(3)中、R1~R6およびnは、前記一般式(1)および(2)の定義と同意義を示す。]
【0025】
[10]前記一般式(3)において、R1~R4が―Hまたは炭素原子数1~3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である[9]に記載の製造方法。
【0026】
[11]前記一般式(3)において、nが4である[9]に記載の製造方法。
【0027】
[12][9]に記載の製造方法で製造するラクトン化合物を用いるラクトン重合体の製造方法であって、ハーゼン単位色数(APHA色)が60以下であるラクトン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明のラクトン化合物を含有する組成物の製造方法を用いることにより、開環や重合を抑制した高純度のラクトン化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の内容に限定されず、要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0030】
一般式(1)で表されるラクトン化合物、一般式(2)で表されるジカルボン酸、および、一般式(3)で表される環状ケトン化合物において、R1~R6で表される「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。
【0031】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「―COOM」または「―SO3M」における「M」は、無機カチオンを表し、リチウム原子(Li)、ナトリウム原子(Na)、カリウム原子(K)などのアルカリ金属原子を表す。
【0032】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~8のカルボニル基」は、「―(C=O)―R7」を表し、例えば「―(C=O)―O―R7」で表されるエステル基、「―(C=O)―NR8R9」で表されるアミド基なども含む。R7~R9は、R1~R6における各「基」と同様のものが適用される。
【0033】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数0~8のスルホニル基」は、「―SO2―R7」(もしくは「―S(=O)2―R7」)を表し、例えば、「―S(=O)2―NR8R9」で表されるスルホンアミド基なども含む。この場合、R7~R9は、R1~R6における各「基」と同様のものが適用される。
【0034】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基」における「炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチル-1-メチルプロピル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基などの分岐状のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロヘキシル基、2-エチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの環状のアルキル基(シクロアルキル基)があげられる。
【0035】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」として、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基などのアルケニル基、またはこれらが複数結合した直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基があげられる。
【0036】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基」における「炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基」としては、具体的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基;シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基などの環状のアルコキシ基(シクロアルコキシ基)があげられる。
【0037】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基」における「炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基」としては、具体的に、フェニル基、ナフチル基などがあげられる(本発明における「芳香族炭化水素基」とは、アリール基または縮合多環芳香族基も含む)。
【0038】
一般式(1)~(3)において、R1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリールオキシ基」における「炭素原子数6~10のアリールオキシ基」としては、具体的に、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基などがあげられる。
【0039】
一般式(1)~(3)において、R1~R6のいずれかで表される、
「置換基を有していてもよい炭素原子数1~8のカルボニル基」、
「置換基を有していてもよい炭素原子数0~8のスルホニル基」、
「置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基」、
「置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、
「置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基」、
「置換基を有していてもよい炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基」、または、
「置換基を有していてもよい炭素原子数6~10のアリールオキシ基」における「置換基」としては、具体的に
重水素原子、ヒドロキシ基(―OH)、チオール基(―SH)、シアノ基(―CN)、ニトロ基(―NO2)、トリフルオロメチル基(―CF3)、カルボニル基(―(C=O)―);
フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;
炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基;
炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;
炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基;
炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;
炭素原子数6~10のアリールオキシ基;
―COOH、―COOM、炭素原子数1~8のカルボニル基、エステル基もしくはアミド基、
―SO3H、―SO3M、または、炭素原子数0~8のスルホニル基もしくはスルホンアミド基(Mは無機カチオンを表す。);などがあげられる。
これらの「置換基」は1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」はさらに、前記例示した置換基を有していてもよい。なお「置換基」が炭素原子を含む場合、その炭素原子は、上記の「炭素原子数0~8」、「炭素原子数1~8」、「炭素原子数2~8」および「炭素原子数6~10」に算入されない。また、これらの置換基同士が単結合、二重結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。ただし、前記R1~R6で表される各基における「置換基」の数は最大8個とし、各基における最大の炭素原子数は20とする。
【0040】
なお、一般式(1)~(3)においてR1~R6で表される「置換基」を有する前記の各種の「基」において、「置換基」としてあげられている
「炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基」、
「炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、
「炭素原子数1~8の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルコキシ基」、
「炭素原子数6~10の芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基」または
「炭素原子数6~10のアリールオキシ基」としては、具体的に、
メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基などの直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などのシクロアルキル基;
ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基などのアルケニル基、またはこれらが複数結合した直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;
シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのシクロアルコキシ基;
ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、アクリリル基、ベンゾイル基などのアシル基;
フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;
フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基などのアリールオキシ基;などがあげられる。
【0041】
一般式(1)において、R1~R4としては、―H、または、炭素原子数1~8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であることが好ましく、―Hまたは炭素原子数1~3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であることがより好ましく、―Hまたはメチル基がさらに好ましい。
【0042】
一般式(1)において、nは1~8の整数を表す。なお、nが2以上のとき、複数存在するR3およびR4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。一般式(1)で表されるラクトン化合物としては、R1~R4が水素原子(―H)である場合、次のようなラクトン化合物があげられる。: nが1のときβ-プロピオラクトンを表し、nが2のときγ-ブチロラクトンを表し、nが3のときδ-バレロラクトンを表し、nが4のときε-カプロラクトンを表す。
【0043】
一般式(1)で表されるラクトン化合物としては、R1~R4が―H、または、炭素原子数1~8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である場合、具体的に、β-ブチロラクトン、β-バレロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-オクタノラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトンなどがあげられる。
【0044】
一般式(1)において、nは2~5であることが好ましく、3または4であることがより好ましく、4であることがさらに好ましい。すなわち、一般式(1)で表されるラクトン化合物としては、ε-カプロラクトンであることが好ましい。
【0045】
一般式(2)で表される「酸無水物由来のジカルボン酸」における「酸無水物」としては、式(2)中、R5およびR6で表される基が、それぞれ独立に、―H、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1~8の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、置換基を有していてもよい炭素原子数2~8の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、が好ましい。
【0046】
一般式(2)において、R5とR6は、互いに結合して環を形成することが好ましい。環を形成する場合、一般式(2)で表される「酸無水物」としては、具体的に、コハク酸無水物、メチルコハク酸無水物;マレイン酸無水物、メチルマレイン酸無水物;フタル酸無水物、3-メチルフタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、3-クロロフタル酸無水物、4-クロロフタル酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、などの芳香族炭化水素環を有する酸無水物;1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物などがあげられる。一般式(2)で表される酸無水物としては、フタル酸無水物、3-メチルフタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物、3-クロロフタル酸無水物、4-クロロフタル酸無水物2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-アントラセンジカルボン酸無水物、などの芳香族炭化水素環を有する酸無水物が好ましく、フタル酸無水物、3-メチルフタル酸無水物、4-メチルフタル酸無水物がより好ましく、フタル酸無水物が特に好ましい。したがって、一般式(2)において、例えば、酸無水物がフタル酸無水物である場合、酸無水物由来のジカルボン酸は、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸(フタル酸)である。
【0047】
以下、本発明の「一般式(1)で表されるラクトン化合物」または「
一般式(1)で表されるラクトン化合物、および、一般式(2)で表される酸無水物由来のジカルボン酸 を含有する組成物」の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、バイヤー・ビリガー酸化反応として知られる、比較的容易に進行するケトン化合物酸化反応を利用する製造方法を含むものである。本発明の製造方法は、下記一般式(3)で表される環状ケトン化合物と、前記一般式(2)で表される酸無水物を用いる酸化反応を行うことを特徴とする。
【0048】
【0049】
式(3)中、R1~R4およびnは、前記一般式(1)および(2)の定義と同意義を示し、nは1~8の整数を表す。一般式(3)におけるnとしては、前記一般式(1)におけるnと同様に、2~5であることが好ましく、3または4であることがより好ましく、4であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、一般式(3)で表される「環状ケトン化合物」としては、具体的に、シクロブタノン、シクロペンタノン、2-メチルシクロペンタノン、2,2-ジメチルシクロペンタノン、2-クロロシクロペンタノン、2,2,4-トリメチルシクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノン、3-メチルシクロヘキサノン、4-メチルシクロヘキサノン、3,5-ジメチルシクロヘキサノン、4-エチルシクロヘキサノン、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン、2-メトキシシクロペンタノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンなどがあげられ、シクロヘキサノンがより好ましい。
【0051】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、一般式(2)で表される「酸無水物」の使用量としては、通常、モル比で、
「一般式(3)で表される環状ケトン化合物」:「一般式(2)で表される酸無水物」
(以下、単に「環状ケトン化合物(3)」、「酸無水物(2)」とも表す。)
=1:(0.1~1.5)で酸化反応を行ってもよいが、酸無水物が多く残留していると蒸留中のラクトン化合物と共沸し、純度低下を引き起こすため、
1:(0.1~1.0)のモル比の範囲が好ましく、
1:(0.9~1.0)がより好ましい。
【0052】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、前記酸化反応において使用する酸化剤としては、過酸化水素、有機過酸化合物などの酸化剤を使用する。過酸化水素と有機過酸化合物を比較した場合、有機過酸化合物を用いても本発明の目的を達することはできるが、有機過酸化合物と比較して安価な過酸化水素を用いることが好ましい。過酸化水素の濃度は、特に限定されないが、5~60質量%が好ましい。
【0053】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、酸化剤として過酸化水素を用いる場合、酸化剤(過酸化水素)の使用量としては、通常、モル比で、
環状ケトン化合物(3):酸化剤=1:(0.1~1.5)の範囲で酸化反応を行ってもよいが、酸化剤(過酸化水素)が多く残留していると、蒸留時にラクトン類の重合または開環などの要因となる可能性があるため、
環状ケトン化合物(3):酸化剤= 1:(0.1~1.0)のモル比が好ましく、
環状ケトン化合物(3):酸化剤= 1:(0.9~1.0)がより好ましい。
【0054】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、反応液のpHは8~11の範囲で行うことが好ましい。pH調整のために、pH調整剤として、炭酸アルカリ塩を用いることが好ましく、具体的な炭酸アルカリ塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどがあげられるが、炭酸ナトリウムを使用するのが好ましい。pH調整剤の使用量としては、モル比で
環状ケトン化合物(3):pH調整剤= 1:(0~1.0)が好ましく、
1:(0.1~0.6)がより好ましく、1:0.2がさらに好ましい。
【0055】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、前記一般式(3)で表される環状ケトン化合物と、前記一般式(2)で表される酸無水物、とを反応させる際、基質と反応しない溶媒の中から選択して使用することができる。溶媒としては、具体的に、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどのエステル類;アセトニトリルなどのニトリル類;水があげられ、芳香族炭化水素が好ましい。
【0056】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、溶媒の使用量は、前記環状ケトン化合物に対して、0~100倍の質量が好ましく、製造コストの観点から0~10倍の質量がより好ましい。
【0057】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、好ましい反応条件の具体的な一例を以下に説明する。適当な容量の容器にて、環状ケトン化合物(3)、酸無水物(2)およびpH調整剤を、適した溶媒とともに適温で混合し、過酸化水素などの酸化剤を添加し一定時間反応させることによって、本発明のラクトン化合物を含有する精製前の組成物が得られる。
【0058】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、反応温度は0~80℃が好ましく、0~25℃がより好ましい。反応時間は3~48時間が好ましく、5~24時間がより好ましい。
【0059】
本発明のラクトン化合物の製造方法の工程1において、反応は、回分式反応装置を使用して、環状ケトン化合物(3)、酸無水物(2)を混合・撹拌しながら行うことができる。反応の進行を効率的に進める目的では撹拌を行うことが好ましいが、無撹拌で反応を進めてもよい。また、機械式撹拌や対流混合などの方式の連続式反応装置を使用して反応を行うことも可能である。
【0060】
本発明の一般式(1)で表されるラクトン化合物の前記製造方法において、
工程1:前記一般式(3)で表される環状ケトン化合物と、
前記一般式(2)で表される酸無水物とを用いて酸化反応を行った後、
反応液には、ラクトン化合物、未反応環状ケトン化合物、未反応酸無水物、酸無水物由来のジカルボン酸、希釈溶媒、副生成物である飽和ジカルボン酸類(シクロヘキサノンの場合はアジピン酸)、オキシ飽和モノカルボン酸類(シクロヘキサノンの場合、オキシカプロン酸)、ラクトンオリゴマーやポリマーが含まれる。
目的とするラクトン化合物以外に、
前記酸無水物由来の酸、飽和ジカルボン酸類、オキシ飽和モノカルボン酸類が不純物として残留していることがほとんどの場合起こり得る。
【0061】
本発明のラクトン化合物の製造方法においては、この残留する不純物(酸無水物由来の酸)を除去するために、工程2として、イオン交換樹脂を使用して精製することが好ましい。イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂などの塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。このような方法によって、酸無水物由来の酸や、副生成物である飽和ジカルボン酸類、または、オキシ飽和モノカルボン酸類、などを低濃度に除去することによって、望まない重合を抑制することができる。
また、イオン交換樹脂を用いる精製方法の他に、精製に係る関連する方法を組み合わせて使用してもよく、例えば、脱水工程、ろ過、分液、蒸留(精留)、などを組み合わせて行ってもよい。これらの操作は、適宜繰り返して行ってもよい。
【0062】
以上、説明したように、環状ケトン化合物のバイヤー・ビリガー酸化反応で製造された、ラクトン化合物を含有する反応液を、塩基性陰イオン交換樹脂を用いて精製することにより、組成物中において酸無水物由来のジカルボン酸を1000ppm以下に低減したラクトン化合物を含有する組成物を得ることができる。合成したラクトン化合物中にジカルボン酸が1000ppm以上含まれていると、ラクトン化合物を重合させて重合体を製造した場合、着色が多い重合体となる。そのため、ラクトン化合物中に含有するカルボン酸の量を1000ppm以下にすることが好ましい。より好ましくは、600ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、300ppm以下、200ppm以下、100ppm以下が好ましい。このとき、重合したラクトン重合体の着色の程度は、日本産業規格JIS K0071-1:2017「化学製品の色試験方法-第1部:ハーゼン単位色数(白金-コバルトスケール)」などの方法で、ハーゼン単位色数(APHA色)を評価することができる。ハーゼン単位色数は、100以下が好ましく、より好ましくは60以下、40以下、さらに好ましくは、20以下である。
【0063】
本発明の不純物の低減されたラクトン化合物を使用して、着色の少ないラクトン重合体を製造することができる。具体的には、特許文献7に記載のラクトン重合物の製造方法などの公知の方法で重合体を製造することができる。具体的には、本発明のラクトン重合化合物と、三フッ化ホウ素(または三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体)などの非金属ハロゲン化物、ヘテロポリ酸などの固体酸と、エチレングリコールなどの活性水素原子含有化合物(または重合反応の開始剤)とを反応させて、適切な温度および及び反応時間で合成することができる。反応生成物を合成後、ラクトン重合体を精製する方法としては、適当な有機溶媒およびイオン交換樹脂を用いる方法があるが、これらに限定されない。具体的な方法は実施例により説明する。重合反応条件を適宜調整することにより、様々な分子量分布のラクトン重合体(例えば、数平均分子量Mnまたは重量平均分子量Mwが500~3000の重合体、好ましくはMnまたはMw=1000~2000の重合体)を製造することができる。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、実施例で使用した試薬類は、特に指定のない限り、富士フイルム和光純薬株式会社製、キシダ化学株式会社製などのものを使用した。
【0065】
[実施例1]
500mL反応容器に、シクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬株式会社製)30.0g、トルエン(キシダ化学株式会社製)150g、無水フタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)40.77g、炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)6.48gを入れ、氷浴中で約30分間撹拌した。撹拌後、35%過酸化水素(富士フイルム和光純薬株式会社製)26.85gを1時間かけて滴下し、内温が10℃超えないように氷浴中で反応させた。滴下後、発熱がなくなるまで水浴中で撹拌した。発熱が収まったのを確認した後、水浴から外し、室温(20~25℃)で終夜(18時間)連続反応を行った。
【0066】
反応終了後、フタル酸を含有する粘性の高い組成物(ラクトン化合物含有組成物)が得られ、アセトニトリル(キシダ化学株式会社製)90gを加え溶解した。やや粘土状の状態が改善されたことを確認し、減圧ろ過を行った。
ろ過後、ろ液に、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を75mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ液中のトルエンを減圧留去し、その後、得られたラクトン化合物含有組成物の蒸留を行った(蒸留条件:内温85~100℃、18mmHg~5mmHg)。
【0067】
実施例で使用した分析機器および試料の分析方法は以下の通りである。
<ガスクロマトグラフィー(GC)> (ラクトン化合物のGC純度測定)
装置名:株式会社島津製作所製ガスクロマトグラフ、型式:GC-2014
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製、型式:TC-WAX
(高極性カラム 内径0.25mm×60m×膜厚0.5μm)
カラム温度:230℃(20分、一定)
INJ温度:280℃ DET(FID)温度:280℃
入口圧:306.4kPa カラム流量:1.54mL/分
線速度:31.6cm/s
スプリット比:100:1 全流量158.7mL/分
ショット量:1.0μL
【0068】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)>
装置名:東ソー社製 高速GPC装置 型式:HLC-8320
カラム:東ソー社製 TSKgel(登録商標)
型式:G4000HXL(内径7.8mm×30cm)
+G2500HXL(内径7.8mm×30cm)
カラム温度:40℃ 流量:1.00mL/分 溶離液:THF 検出器:RI
サンプル濃度: 30mg/10mL(THF) ショット量:100μL
【0069】
<液体クロマトグラフィー(LC)>
フタル酸の定量法としては内標準法を用いる液体クロマトグラフィー(LC)により行った。内標準物質としてはLC移動相に溶解可能であり、ラクトン類に影響しない化合物を選択することが好ましく、具体的には安息香酸などが好ましい。
装置名:株式会社島津製作所製 高速液体クロマトグラフィー装置
カラム恒温槽:CTO-10A ポンプ:LC-10AD
UV検出器:SPD-10A (波長:254nm)
カラム:ジーエルサイエンス株式会社製、
Inertsil ODS-2(内径4.6mm×150mm)
カラム温度:40℃(一定) ショット量:1.0μL
移動相: 水(リン酸バッファー):メタノール =6:4
リン酸バッファー:50mM NaH2PO4、 15.5mM リン酸
サンプル濃度:20mg/50μL
(内標準液:安息香酸1000ppmとして移動相に溶解)
【0070】
<色数の測定>
色数は、ハーゼン色数(APHA値)を日本産業規格JIS K0071-1:2017に準じて比色して測定した。
【0071】
<酸価の測定>
酸価は、ラクトン化合物1g当たり、0.02mol/L 水酸化カリウム(KOH)溶液による中和に必要なKOHの滴定量(mg/g)で示した(mgKOH/g)。
【0072】
蒸留後、無色透明液体のε-カプロラクトン(以下、εCLとも記載する)(26.6g、収率76.2%(反応率換算では収率84.7%)、残渣成分0.53g)を得た。ε-カプロラクトンのGC純度は99.8%であった。LC測定でフタル酸の含有量は検出限界以下(0.05ppm未満)であった。酸価は0.14mgKOH/gであった。
【0073】
[実施例2]
2L反応容器に、シクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬株式会社製)150.0g、トルエン(キシダ化学株式会社製)750g、無水フタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)226.4g、炭酸ナトリウム(和光純薬株式会社製)32.4gを入れ、室温中で30分間撹拌した。撹拌後、35%過酸化水素(和光純薬株式会社製)148.5gを2時間かけて滴下し、内温が20℃超えないように氷浴中で反応させた。滴下後、発熱がなくなるまで水浴中で約4時間撹拌した。発熱が収まったのを確認した後、水浴から外し、室温(15~25℃)終夜(18時間)連続反応を行った。
【0074】
反応終了後、フタル酸を含有する粘性の高い組成物が得られた。温水浴中で内温40℃~45℃まで上昇させ、200mbar~100mbarで5時間ディーンスターク脱水を行った。脱水後、粘性の高い状態が改善されたことを確認し、減圧ろ過を行い、フタル酸を回収した(フタル酸回収率:98.0%)。ろ過後、ろ液に、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を100mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ液中のトルエンを減圧留去し、その後、得られたラクトン化合物含有組成物の蒸留を行った(蒸留条件:内温85~100℃、18mmHg~5mmHg)。蒸留後、無色透明液体のεCL(133.9g、収率76.7%(反応率換算では85.2%)、残渣成分2.6g)を得た。εCLのGC純度は99.9%であった。LC測定でフタル酸の含有量は検出限界以下(0ppm未満)であった。酸価は0.14mgKOH/gであった。
【0075】
[実施例3]
300mL反応容器に、4-メチルシクロヘキサノン(東京化成工業株式会社製)20.0g、無水フタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)26.4g、炭酸ナトリウム(和光純薬株式会社製)3.8gを入れ、室温中で30分間撹拌した。撹拌後、35%過酸化水素(和光純薬株式会社製)17.3gを1時間かけて滴下し、内温が20℃超えないように氷浴中で反応させた。滴下後、発熱がなくなるまで水浴中で約4時間撹拌した。発熱が収まったのを確認した後、水浴から外し、室温(15~25℃)終夜(18時間)連続反応を行った。
[0076]
反応終了後、トルエン(キシダ化学株式会社製)100gを仕込み、フタル酸を含有する粘性の高い組成物が得られた。温水浴中で内温40~45℃まで上昇させ、200mbar~100mbarで4時間ディーンスターク脱水を行った。脱水後、粘性の高い状態が改善されたことを確認し、減圧ろ過を行い、フタル酸を回収した。ろ過後、ろ液に、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を20mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ液中のトルエンを減圧留去し、その後、得られたラクトン化合物含有組成物の蒸留を行った(蒸留条件:内温85~100℃、18mmHg~5mmHg)。蒸留後、無色透明液体の4-メチルカプロラクトン(14.8g、収率64.8%(反応率換算では70.4%)、残渣成分0.8g)を得た。εCLのGC純度は99.0%であった。LC測定でフタル酸の含有量は検出限界以下(0.05ppm未満)であった。酸価は0.05mgKOH/gであった。
【0076】
[実施例4]
500mL反応容器に、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノン(東京化成工業株式会社製)50.0g、無水フタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)26.4g、炭酸ナトリウム(和光純薬株式会社製)7.6gを入れ、室温中で30分間撹拌した。撹拌後、35%過酸化水素(和光純薬株式会社製)34.6gを1時間かけて滴下し、内温が20℃超えないように氷浴中で反応させた。滴下後、発熱がなくなるまで水浴中で約4時間撹拌した。発熱が収まったのを確認した後、水浴から外し、室温(15~25℃)で終夜(18時間)連続反応を行った。
【0077】
反応終了後、トルエン(キシダ化学株式会社製)250gを仕込み、フタル酸を含有する粘性の高い組成物が得られた。温水浴中で内温40℃~45℃まで上昇させ、200mbar~100mbarで3時間ディーンスターク脱水を行った。脱水後、粘性の高い状態が改善されたことを確認し、減圧ろ過を行い、フタル酸を回収した。ろ過後、ろ液に、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を40mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ液中のトルエンを減圧留去し、その後、得られたラクトン化合物含有組成物の蒸留を行った(蒸留条件:内温100~110℃、18 5mmHg)。蒸留後、無色透明液体のトリメチルカプロラクトン(36.1g、収率64.8%(反応率換算では81.0%)、残渣成分1.2g)を得た。ε-カプロラクトンのGC純度は99.1%であった。LC測定でフタル酸の含有量は検出限界以下(0.05ppm未満)であった。酸価は0.06mgKOH/gであった。
【0078】
[比較例1]
300mL反応容器に、シクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬株式会社製)10.0g、アセトニトリル(キシダ化学株式会社製)20.0g、無水フタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)15.8g、炭酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)2.35gを入れ、室温中で10分間撹拌した。撹拌後、35%過酸化水素(富士フイルム和光純薬株式会社製)9.9gを1時間かけて滴下し、内温が20℃超えないように氷浴中で反応させた。滴下後、発熱がなくなるまで水浴中で撹拌した。発熱が収まったのを確認した後、水浴から外し、室温(15~25℃)で終夜(18時間)連続反応を行った。
【0079】
反応終了後、減圧ろ過を行い、フタル酸を回収した。ろ過後、アセトニトリルを減圧留去し、その後、得られたラクトン化合物含有組成物の蒸留を行った(蒸留条件:内温85~100℃、16mmHg~5mmHg)。蒸留後、無色透明液体のε-カプロラクトン(2.0g、収率17.3%)を得た。残渣成分は、GPC測定結果より、カプロラクトンの重合物とフタル酸であった。ε-カプロラクトンのGC純度は99.1%であった。内標準法によりフタル酸の含有量は8528ppmであった。
【0080】
[比較例2]
2L反応容器に、シクロヘキサノン(富士フイルム和光純薬株式会社製)150.0g、トルエン(キシダ化学株式会社製)750g、無水フタル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)226.4g、炭酸ナトリウム(和光純薬株式会社製)32.4gを入れ、室温中で30分間撹拌した。撹拌後、35%過酸化水素(和光純薬株式会社製)148.5gを2時間かけて滴下し、内温が20℃超えないように氷浴中で反応させた。滴下後、発熱がなくなるまで水浴中で約4時間撹拌した。発熱が収まったのを確認した後、水浴から外し、室温(15~25℃)終夜(18時間)連続反応を行った。
【0081】
反応終了後、フタル酸を含有する粘性の高い組成物が得られた。温水浴中で内温40℃~45℃まで上昇させ、200mbar~100mbarで5時間ディーンスターク脱水を行った。脱水後、粘性の高い状態が改善されたことを確認し、減圧ろ過を行い、フタル酸を回収した。ろ過後、トルエンを減圧留去し、得られたラクトン化合物含有組成物の蒸留を行った(蒸留条件:内温85~100℃、18mmHg~5mmHg)。蒸留後、無色透明液体のεCL(96.7g、収率55.4%(反応率換算では60.3%)、残渣成分55.4g)を得た。残渣成分をGPCで測定した結果、カプロラクトンの重合物とフタル酸であった。εCLのGC純度は99.2%であった。内標準法によりフタル酸量の含有量は1319ppmであった。酸価は2.86mgKOH/gであった。
【0082】
表1に、実施例1~実施例4、比較例1および比較例2の結果を示す。実施例と比較例を比較した。結果、比較例では酸無水物由来のジカルボン酸が1000ppmを超えており、重合損失による収率の低下および酸価上昇による品質の低下が起きていることがわかる。一方、実施例では酸無水物由来のジカルボン酸が1000ppm以下であり、酸価の値は小さく、高純度のラクトン化合物が得られることがわかる。
【0083】
【0084】
[参考例1]
回収したフタル酸75.0gに30%硫酸を加え、室温で30分撹拌した。その後、減圧濾過を行い、脱イオン水でよく洗浄した。ろ過物のpHが3→2以下を確認し、ろ過物(精製フタル酸)を回収した。この時の収量は84gであり水分を多く含有していた。
精製フタル酸50g(うちフタル酸量44.6g)を2つ口コルベンに仕込み、80℃、9mmHgで2時間脱水を行った。脱水後、160℃まで昇温し、10mmHgで蒸留を開始した。その結果、微黄色固体の無水フタル酸(32.8g、収率 82.5%で得た。)
得られたフタル酸を実施例2と同様の操作で行ったところ、反応率92%でε-カプロラクトンの生成を確認した。
【0085】
[実施例5]
200mL反応容器に三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BF3・THF)(シグマ-アルドリッチ社製)0.74g、およびエチレングリコール(キシダ化学株式社製)0.54gを入れ、窒素通気下、室温中で撹拌した。実施例2で合成したε-カプロラクトン(酸価 0.14mgKOH/g)20.0gを10分かけて滴下した。滴下後、70℃まで昇温し4時間反応させた。
反応終了後、エチレングリコール(キシダ化学株式社製)1.1g仕込み、1時間後撹拌を行った。後撹拌終了後、室温まで放冷し、トルエン(キシダ化学株式社製)20g、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を20mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ過後、トルエンを減圧留去しさらに110℃で減圧乾燥を行った。乾燥後、ラクトン重合体を白色固体(ハーゼン単位色数(APHA色)20、収率91%)として得た。表2に得られた重合体の物性を、GPCによる分子量測定の結果と合わせて示す。
【0086】
[実施例6]
200mL反応容器にBF3・THF(シグマ-アルドリッチ社製)0.74gとエチレングリコール(キシダ化学株式会 社製)0.54gを入れ、窒素通気下、室温中で撹拌した。比較例2と実施例2で得たものを用いて調製したフタル酸を500ppm含有しているεカプロラクトン(酸価 0.57 mgKOH/g)20.0gを10分かけて滴下した。滴下後、70℃まで昇温し4時間反応させた。
反応終了後、エチレングリコール(キシダ化学社製)1.1g仕込み、1時間後攪拌を行った。後撹拌終了後、室温まで放冷し、トルエン(キシダ化学株式会社製)20g、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を20mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ過後、トルエンを減圧留去しさらに110℃で減圧乾燥を行った。乾燥後、重合体を白色固体(ハーゼン単位色数(APHA色)40、収率93%)として得た。表2に得られた重合体の物性をGPC測定の結果と合わせてまとめて示す。
【0087】
[比較例3]
200mL反応容器にBF3・THF(シグマ-アルドリッチ社製)0.74gとエチレングリコール(キシダ化学社製)0.54gを入れ、窒素通気下、室温中で撹拌した。比較例2と実施例2で得たものを用いて調製したフタル酸を1010ppm含有しているε-カプロラクトン(酸価 1.09 mgKOH/g)20.0gを10分かけて滴下した。滴下後、70℃まで昇温し4時間反応させた。
反応終了後、エチレングリコール(キシダ化学株式会社製)1.1g仕込み、1時間後攪拌を行った。後撹拌終了後、室温まで放冷し、トルエン(キシダ化学株式会社製)20g、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を20mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ過後、トルエンを減圧留去しさらに110℃で減圧乾燥を行った。乾燥後、重合体を黄色固体(ハーゼン単位色数(APHA色数)110、収率92%)として得た。表2に得られた重合体の物性をGPC測定の結果と合わせてまとめて示す。
【0088】
[比較例4]
200mL反応容器にBF3・THF(シグマ-アルドリッチ社製)0.74g、および、エチレングリコール(キシダ化学株式社製)0.54gを入れ、窒素通気下、室温中で撹拌した。比較例2で合成したフタル酸を1319ppm含有しているε-カプロラクトン(酸価 2.86mg KOH/g)20.0gを10分かけて滴下した。滴下後、70℃まで昇温し4時間反応させた。
反応終了後、エチレングリコール(キシダ化学社製)1.1g仕込み、1時間後撹拌を行った。後撹拌終了後、室温まで放冷し、トルエン(キシダ化学株式会社製)20g、トルエンで3回デカントしたイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製 弱塩基性陰イオン交換樹脂、製品名:アンバーライト(商標)、型式:IRA96SB)を20mL加え、室温で2時間撹拌した。液のpH7を確認後、イオン交換樹脂を減圧ろ過し除去した。ろ過後、トルエンを減圧留去しさらに110℃で減圧乾燥を行った。乾燥後、重合体を黄色固体(ハーゼン単位色数(APHA色)100、収率92%)として得た。表2に得られた重合体の物性をGPC測定の結果と合わせてまとめて示す。
【0089】
【0090】
表2より、本発明の、フタル酸の含有量の小さいラクトン化合物を使用して重合反応を行うことにより着色の少ないラクトン重合体を得ることができる。
本発明の製造方法を用いて得られる高純度なラクトン化合物により、高収率で着色の少ない高純度のラクトン重合体を得ることができる。また、該ラクトン重合体を用いることにより、高品質のポリウレタン樹脂またはポリエステル樹脂を作製することができる。