(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024146955
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20241008BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20241008BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20241008BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G01N30/88 C
B01J20/281 X
G01N30/26 A
G01N30/72 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021124238
(22)【出願日】2021-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 徹
(72)【発明者】
【氏名】新蔵 聡
(57)【要約】
【課題】クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤を固定相として用いた液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法であって、アミンの良好な保持及び分離が可能であり、かつ、MSによる検出に悪影響を及ぼさない方法を提供する。
【解決手段】クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤を固定相として用い、炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルカンスルホン酸、及びハロゲン化水素から選択される1種以上の酸添加物を含有する移動相を用いる、液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤を固定相として用い、
炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルカンスルホン酸、及びハロゲン化水素から選択される1種以上の酸添加物を含有する移動相を用いる、液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法。
【請求項2】
前記酸添加物が、前記炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸であり、
前記移動相に含まれる溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒であり、
前記混合溶媒は、混合前の水の体積と混合前の前記有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が50%以上である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記酸添加物が、前記炭素数1以上3以下のパーフルオロアルカンスルホン酸であり、
前記移動相に含まれる溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒であり、
前記混合溶媒は、混合前の水の体積と混合前の前記有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が50%以上である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項4】
前記酸添加物が、前記ハロゲン化水素であり、
前記移動相に含まれる溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒であり、
前記混合溶媒は、混合前の水の体積と混合前の前記有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が50%以下である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項5】
液体クロマトグラフィー-質量分析法によるアミンの分析方法であって、
請求項1~4のいずれか1項に記載の分離方法によりアミンを分離する分離工程、及び
前記分離工程で分離されたアミンを質量分析により分析する質量分析工程を含む、アミンの分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラウンエーテル様環状構造を有する分離剤は、液体クロマトグラフィーの固定相として、1級アミノ基を有する化合物及びその類似物質の分離に広く用いられている。特に、クラウンエーテル様環状構造がキラル構造に結合した分離剤は、エナンチオマーの分離に有用であることが知られている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2には、優れた光学異性体用分離剤として、クラウンエーテル様環状構造がS体又はR体のビナフチル構造に結合した分離剤が開示されている。これらの分離剤は、以下のようにして分離能を発揮するものと考えられている。即ち、1級アミンがプロトン化して生じた1級アンモニウム基(-NH3
+)が、該1級アンモニウム基の水素原子とクラウンエーテル様環状構造の酸素原子との水素結合によりクラウンエーテル様環状構造に包摂され、分離剤に保持される結果、分離が可能となると考えられる。そのため、このような固定相を用いる場合、高い分離能を得るために、強酸性の移動相が好適に用いられることが知られている。例えば、特許文献2には、過塩素酸水溶液又はトリフルオロ酢酸水溶液とメタノール、アセトニトリル等の有機溶媒と混合してなる移動相が開示されている。このように、強酸性の移動相は強酸を含有するものであり、強酸の中でも、過塩素酸が最も良好にアミンを保持し、分離能を向上させる酸であることが知られている。
【0004】
しかしながら、過塩素酸は単に強酸であるだけではなく、強い酸化剤でもあり、そのため取り扱いを誤れば爆発事故につながったり、液体クロマトグラフィー装置の金属部分を腐食させたりするなどの問題があった。また、過塩素酸に代えて他の強酸を移動相に添加した場合、アミンに対する固定相の保持力が不十分であり、アミンを良好に分離できないという問題があった。
これに対し、特許文献3には、カオトロピック陰イオンの塩及び疎水性有機酸の塩を移動相に加えることにより、カラム内でのアミンの保持を強くすることができ、それによって過塩素酸などの強酸や酸化性の強い酸の使用を避け得ることが開示されている。
【0005】
近年、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)において、高感度かつ分子構造に関わる情報を得るためにLC-MS(液体クロマトグラフィー-質量分析法)が急速に普及しており、LC-MS用の移動相の開発が盛んに行われている。例えば、非特許文献1には、トリフルオロ酢酸を酸添加物として含む移動相をLC-MSに適応できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-69472号公報
【特許文献2】国際公開第2012/050124号
【特許文献3】国際公開第2020/251003号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Konya Y, Taniguchi M, Furuno M, Nakano Y, Tanaka N, Fukusaki E,J. Chromatogr. A, 2018, 1578, 35-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載の移動相に含まれるトリフルオロ酢酸は、一般にアミンを固定相に保持させる力が弱く、満足な分離が得られない場合が多い。また、特許文献3に記載の方法を含めた公知の分離方法も、LC-MSへの適用ができないという問題がある。
【0009】
液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法においては、高いアミンの保持力及び高い分離能が求められるのは勿論のこと、当該方法をLC-MSに適用するためには、少なくともMSにおいて検出を阻害するといった悪影響を及ぼさないことが要求される。そこで、本開示は、クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤を固定相として用いた液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法であって、アミンの良好な保持及び分離が可能であり、かつ、MSによる検出に悪影響を及ぼさない方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、クラウンエーテル様環状構造を有する分離剤を用いた液体クロマトグラフィーにおいて、揮発性の高い特定の酸を酸添加物として移動相に加えることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本開示の要旨は、以下の通りである。
【0011】
[1]
クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤を固定相として用い、
炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルカンスルホン酸、及びハロゲン化水素から選択される1種以上の酸添加物を含有する移動相を用いる、液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法。
[2]
前記酸添加物が、前記炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸であり、
前記移動相に含まれる溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒であり、
前記混合溶媒は、混合前の水の体積と混合前の前記有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が50%以上である、[1]に記載の分離方法。
[3]
前記酸添加物が、前記炭素数1以上3以下のパーフルオロアルカンスルホン酸であり、
前記移動相に含まれる溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒であり、
前記混合溶媒は、混合前の水の体積と混合前の前記有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が50%以上である、[1]に記載の分離方法。
[4]
前記酸添加物が、前記ハロゲン化水素であり、
前記移動相に含まれる溶媒が、水と有機溶媒との混合溶媒であり、
前記混合溶媒は、混合前の水の体積と混合前の前記有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が50%以下である、[1]に記載の分離方法。
[5]
液体クロマトグラフィー-質量分析法によるアミンの分析方法であって、
[1]~[4]のいずれかに記載の分離方法によりアミンを分離する分離工程、及び
前記分離工程で分離されたアミンを質量分析により分析する質量分析工程を含む、アミンの分析方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分
離剤を固定相として用いた液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法であって、アミンの良好な保持及び分離が可能であり、かつ、MSによる検出に悪影響を及ぼさない方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】比較例1におけるdl-トリプトファンの液体クロマトグラムである。
【
図2】実施例1におけるdl-トリプトファンの液体クロマトグラムである。
【
図3】実施例2におけるdl-トリプトファンの液体クロマトグラムである。
【
図4】実施例3におけるdl-トリプトファンの液体クロマトグラムである。
【
図5】実施例4におけるdl-トリプトファンの液体クロマトグラムである。
【
図6】実施例5におけるdl-トリプトファンの液体クロマトグラムである。
【
図7】比較例2におけるdl-1-フェニルエチルアミンの液体クロマトグラムである。
【
図8】実施例6におけるdl-1-フェニルエチルアミンの液体クロマトグラムである。
【
図9】実施例7におけるdl-1-フェニルエチルアミンの液体クロマトグラムである。
【
図10】実施例8におけるdl-1-フェニルエチルアミンの液体クロマトグラムである。
【
図11】比較例3におけるdl-チロシンの液体クロマトグラムである。
【
図12】実施例9におけるdl-チロシンの液体クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示について具体的な実施態様を挙げて説明するが、各実施態様における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施態様によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
また、本明細書に開示される各々の態様は、本明細書に開示される他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0015】
<1.アミンの分離方法>
本開示の一実施態様は、液体クロマトグラフィーによるアミンの分離方法であって、固定相としてクラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤(以下、「クラウンエーテル様環状構造を有する固定相」と称することがある。)を用い、移動相として揮発性の高い特定の酸を含有する溶液を用いる。本実施態様に係る分離方法は、アミンの分離手段が上述した固定相及び移動相を用いた液体クロマトグラフィーであればよく、分離されたアミンの同定、定量等のその他の構成を適宜有してもよい。
液体クロマトグラフィーは市販の液体クロマトグラフィー装置を用いて行うことができる。カラムの平衡化、流速等は、カラムサイズ、試料容量等によって適宜選択することができる。
【0016】
<2.アミン>
本実施態様に係る分離方法では、固定相としてクラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤を使用し、アミンを分離する。本実施態様に係る分離方法によれば、複数のアミンの混合物を各アミンに分離したり、アミンと非アミンとを含む混合物からアミンを分離したりすることができる。本実施態様に係る分離方法は、前者の中でも、構造が互いに類似するアミンの混合物を各アミンに分離することに特に有効である。
【0017】
アミンは、特に限定されず、1級アミン、2級アミン及び/又は3級アミンであってよ
い。具体的なアミンとしては、アラニン、システイン、グルタミン酸、メチオニン、ロイシン、チロシン、トリプトファン等のアミノ酸;前記アミノ酸のエステル等の誘導体;ジメチルアミノエタノール、プロパノールアミン、メチオニノール、ノルエフェドリン等のアミノアルコール;フェニルエチルアミン、アニリン、メチルアニリン、クロロアニリン、アミノ安息香酸等のアミノ基含有炭化水素;等が挙げられる。
【0018】
本実施態様に係る分離方法は、特に1級アミンを含む混合物から所望の1級アミンを分離することに適している。1級アミンは、固定相が有するクラウンエーテル様環状構造により、良好に保持及び分離し得るからである。
また、本実施態様に係る分離方法によれば、高い分離能を示すことから、構造が互いに類似するために分離が難しいアミンの混合物を各アミンに分離することもできる。構造が互いに類似するアミンの混合物としては、連鎖異性体の混合物、位置異性体の混合物、幾何異性体の混合物、類縁体の混合物等が挙げられる。さらに、クラウンエーテル様環状構造が光学活性体である場合には、エナンチオマーの混合物を各エナンチオマーに分離するのに有効である。本実施態様に係る分離方法は、光学活性なクラウンエーテル様環状構造を有するリガンドを用いることにより、アミノ基を含む化合物のエナンチオマーの混合物を分離できる点で、とりわけ有用性が高い。
【0019】
<3.移動相>
本実施態様において、液体クロマトグラフィーに用いる移動相は、酸添加物として揮発性の高い特定の酸を含有する。揮発性の高い特定の酸は、炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸(以下、単に「パーフルオロアルカン酸」と称することがある。)、炭素数1以上3以下のパーフルオロアルカンスルホン酸(以下、単に「パーフルオロアルカンスルホン酸」と称することがある。)、及びハロゲン化水素から選択される。これらの酸添加物は、LCにおいてアミンの固定相への保持を促進することができ、かつ、MSにおいてアミンの検出を阻害しない高い揮発性を有するため、LC-MSに好適に適用し得る。酸添加物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0020】
(3-1.パーフルオロアルカン酸)
本実施態様におけるパーフルオロアルカン酸は、下記式(A)で表される酸であり(式(A)中、mは、2以上7以下の整数である。)、具体的にはペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸、ノナフルオロペンタン酸、ウンデカフルオロヘキサン酸、トリデカフルオロへプタン酸、及びペンタデカフルオロオクタン酸から選択される。
CmF2m+1CO2H (A)
【0021】
式(A)中のmを1に代えたトリフルオロ酢酸は、クラウンエーテル様環状構造を有する固定相として用いた液体クロマトグラフィーにおいてしばしば利用され、LC-MSにも適用されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、上述したように、トリフルオロ酢酸は試料を保持させる力が弱いため、アミンの種類によっては分離が十分に達成されない場合があった。
【0022】
これに対して、本実施態様におけるパーフルオロアルカン酸は、式(A)で表される化合物であり、式(A)中のmが2以上7以下である。このようなパーフルオロアルカン酸を移動相に含有させることにより、クラウンエーテル様環状構造を有する固定相を用いた液体クロマトグラフィーによるアミンの分離において、高い保持性能及び高い揮発性を示す。その理由を、以下に説明する。
【0023】
本実施態様におけるパーフルオロアルカン酸は、いずれも強酸である。しかし、本発明者らは、パーフルオロアルカン酸の炭素数、即ちフッ素数が大きくなるにつれ、クラウン
エーテル様環状構造を有する固定相にアミンを保持させる能力が高まるという効果を見出した。驚くべきことに、かかる効果は、パーフルオロアルカン酸が単に強酸であるということから期待される効果とは全く異なり、分子中のフッ素数が増すとともに飛躍的に向上するものである。より具体的には、移動相中の酸添加物のモル濃度とその一分子中のフッ素数の積、即ち、移動相中のフッ素原子のモル濃度が同じになるよう、炭素数3以上8以下のパーフルオロアルカン酸及び従来の酸添加物であるトリフルオロ酢酸をそれぞれ添加した移動相について、固定相にアミンを保持させる能力の指標である相対保持を比較すると、パーフルオロアルカン酸を添加した移動相の方が大幅に高い値となる。例えば、dl-トリプトファンのように、より強く保持されるエナンチオマーの相対保持をカラム空容積1.6mLから計算すると、後述する比較例1(20mMトリフルオロ酢酸)では0.59であるが、実施例3(5mMトリデカフルオロヘプタン酸)では1.76である。即ち、両移動相におけるフッ素原子のモル濃度はほとんど同じであるにもかかわらず、後者の移動相におけるトリプトファンエナンチオマーの相対保持は、前者の約3倍であった。
【0024】
なお、相対保持は、下記式により算出される。
k=(V/V0)-1
k:相対保持
V:アミンの溶出体積
V0:カラム空容量(保持されない物質の溶出体積)
【0025】
したがって、式(A)中のmの下限は、保持性能向上の観点から、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上である。また、式(A)中のmの上限は、揮発性確保の観点から、通常7以下、好ましくは6以下である。
【0026】
パーフルオロアルカン酸としては、市販品を使用してもよく、公知の方法に準じて製造されたものを用いてもよい。パーフルオロアルカン酸は、揮発性、保持性能、及び分離能を総合的に考慮すると、ペンタフルオロプロピオン酸、ノナフルオロペンタン酸、又はトリデカフルオロへプタン酸から選択されるものであることが好ましい。
【0027】
なお、本実施態様におけるパーフルオロアルカン酸は、イオン対試薬として市販されており、クラウンエーテル様環状構造を有しない固定相を用いたLC-MSに適用できることが知られている(例えば、東京化成工業株式会社、“イオン対試薬 for HPLC”、[online]、2019年9月13日、インターネット<URL: https://www.tcichemicals.com/medias/Brochure-A1084-J.pdf?context=bWFzdGVyfGJyb2NodXJlLXBkZnN8NTIxNTc1fGFwcGxpY2F0aW9uL3BkZnxoZjMvaDM4LzkxMjY2OTE5OTU2NzgvQnJvY2h1cmVfQTEwODRfSi5wZGZ8Zjg3MDFmMzM4MGQwMDVkZWE3NWY4MDVjNGNiYzliZWI1M2YxYTJkYjVhNmYyZmQyMmQ2ODExYzNkNmJhNDA0OQ>)。一方、本実施態様におけるパーフルオロアルカン酸がクラウンエーテル様環状構造を有する固定相を用いたLC-MSに適用可能であるか否かについては検討されていない。
【0028】
パーフルオロアルカン酸がアミンの保持を助けるメカニズムにおいて、パーフルオロアルキル基の疎水性が関与しているものと推定される。より詳細には、本実施態様における液体クロマトグラフィーは、イオンペアクロマトグラフィーであるため、アミンが固定相に保持されるためには、アミンがプロトン化されてアンモニウム基となり、これがアニオンとイオン対を形成して電荷が中和される必要があると推測される。そして、パーフルオロアルカンスルホン酸から生じるパーフルオロアルカン酸イオンは、本質的に疎水性であるため、水の含有量が多い溶媒の中で疎水的相互作用によりアンモニウム基とイオン対を形成し易いと考えられる。したがって、酸添加物としてパーフルオロアルカン酸を用いる場合、移動相に含まれる溶媒は、高い保持性能を発揮する観点から、水を主とする溶媒であることが好ましい。
【0029】
(3-2.パーフルオロアルカンスルホン酸)
本実施態様におけるパーフルオロアルカンスルホン酸は、下記式(B)で表される酸であり(式(B)中、pは、1以上3以下の整数である。)、具体的にはトリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、及びヘプタフルオロプロパンスルホン酸から選択される。
CpF2p+1SO3H (B)
【0030】
スルホン酸基はカルボキシ基よりも保持性能が顕著に高い。しかしながら、パーフルオロアルカンスルホン酸は、同じパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルカン酸と比べて蒸気圧が低く、即ち、揮発性が低い。そのため、式(B)中のpは、式(A)中のmほど大きくないことが望ましく、通常3以下、好ましくは2以下、より好ましくは1である。
【0031】
パーフルオロアルカンスルホン酸としては、市販品を使用してもよく、公知の方法に準じて製造されたものを用いてもよい。パーフルオロアルカンスルホン酸は、入手容易性の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸であることが好ましい。
【0032】
パーフルオロアルカンスルホン酸がアミンの保持を助けるメカニズムにおいては、パーフルオロアルカン酸がアミンの保持を助けるメカニズムと同様、パーフルオロアルキル基の疎水性が関与しているものと推定される。したがって、酸添加物としてパーフルオロアルカンスルホン酸を用いる場合、移動相に含まれる溶媒は、高い保持性能を発揮する観点から、水を主とする溶媒であることが好ましい。
【0033】
(3-3.ハロゲン化水素)
ハロゲン化水素は、強い酸性度及び高い揮発性を有し、アミンの良好な保持及び分離に有効である。ハロゲン化水素としては、特に限定されず、例えばフッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素等が挙げられる。これらのうち、ハロゲン化水素は、金属腐食性及び/又は毒性が低い点で塩化水素であることが好ましい。
ハロゲン化水素は、水を主とする移動相よりも、有機溶媒、例えばアセトニトリルを多く含む移動相において高い保持性能を示す。これは、ハロゲン化水素が、パーフルオロアルカン酸やパーフルオロアルカンスルホン酸と異なり、移動相中で強い水和を受けるハロゲン化物イオンを生じるためであると推測される。ハロゲン化物イオンは、水の含有量の多い溶媒の中では強く水和されてアンモニウム基とのイオン対を形成しにくいが、一方で、有機溶媒の含有量の多い溶媒の中では水和が弱くなり、アンモニウム基とのイオン対が形成され易くなると考えられる。したがって、酸添加物としてハロゲン化水素を用いる場合、移動相に含まれる溶媒は、有機溶媒を主とする溶媒であることが好ましい。
【0034】
移動相における酸添加物の濃度(酸添加物を2種以上用いる場合は、各酸添加物の総濃度)は、アミンの種類にもよるが特に限定されず、通常1mM以上、好ましくは2mM以上、より好ましくは3mM以上、また、通常200mM以下、好ましくは100mM以下、より好ましくは30mM以下、さらに好ましくは25mM以下である。アミンの相対保持は、一般に酸濃度と共に大きくなるが、ある程度以上の濃度においては効果が現れない場合もあるところ、酸添加物の濃度が上記範囲であれば、十分大きい相対保持を実現できる。また、酸添加物の上記濃度範囲の中でも、後に移動相を変えてクロマトグラフィーを行う際に固定相に酸添加物が残留してコンタミネーションが起きたり、MS検出器での酸添加物の揮発が不完全になったりする等の問題を回避又は軽減する観点から、より低い酸添加物濃度を選択することも好ましい。
【0035】
これらの酸添加物を含有する移動相を実際にLC-MSに適用する場合、イオン化の方法、液体クロマトグラフィー装置の素材と構造、酸添加物の固定相への吸着残留による以
降の分離への影響、個々の装置の特性、使用目的(例えば、分離精度の決定、予備的分離、プロトコル構築等)等を考慮して酸添加剤の種類、酸添加剤の濃度等を選択することが望ましい。
【0036】
(3-4.溶媒)
本実施態様における移動相は、酸添加物が溶媒に溶解したものである。溶媒としては、特に限定されず、例えば有機溶媒、水、及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0037】
有機溶媒としては、特に限定されないが、化学的安定性が高く、粘度が低く、紫外線吸収によるアミンの検出が可能となる点で、をメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、テトラヒドロフラン、又はアセトニトリルであることが好ましく、メタノール又はアセトニトリルであることがより好ましく、アセトニトリルであることがさらに好ましい。
【0038】
溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、水と有機溶媒の混合割合は特に限定されない。ただし、上述したように酸添加物の種類によっては、水の含有率の高い混合溶媒を用いることで高い保持性能を発揮したり、逆に水の含有率の低い混合溶媒を用いることで高い保持性能を発揮したりする場合がある。また、水の含有率の高い混合溶媒を用いる場合であっても、水の含有率が高すぎると、保持性能が高くなったとしても、ピーク幅が広がるなどのようにピーク形状に問題が生じる場合がある。そのため、水の含有率の高い混合溶媒においては、混合前の水の体積と混合前の有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率が95%以下であることが好ましい。
【0039】
具体的には、酸添加物としてパーフルオロアルカン酸及び/又はパーフルオロアルカンスルホン酸を用いる場合、混合前の水の体積と混合前の有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上であり、また、好ましくは95%以下である。
また、酸添加物としてハロゲン化水素を用いる場合、混合前の水の体積と混合前の有機溶媒の体積との合計に対する混合前の水の体積の比率は、通常0%超、好ましくは5%以上、また、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。
上述した酸添加物の種類の他にも、酸添加物の濃度等を適切に選択し、目的の分離に応じて移動相の組成を調製することが望ましい。
【0040】
(3-2.その他の成分)
本実施態様における移動相は、酸添加物及び溶媒を含み、好適には酸添加物と溶媒との混合物であるが、アミンの分離及びMSによる検出を阻害しない範囲で、その他の成分を含んでいてよい。その他の成分としては、例えば揮発性pH調整試薬等のイオン化を促進し得る物質が挙げられる。
【0041】
(3-5.移動相の調製)
移動相は、酸添加物、溶媒、及び必要に応じてその他の成分を混合することで調製することができ、その混合の順番は特に限定されない。溶媒として水と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合、酸添加物の水溶液、有機溶媒、及び必要に応じて水を混合して移動相を調製することが好ましい。
【0042】
<4.固定相>
本実施態様における固定相は、クラウンエーテル様環状構造を有するリガンドが担体に担持された分離剤である。
【0043】
(4-1.リガンド)
本明細書において、リガンドとは、担体に担持され、かつ、分離対象に対して物理的な親和性、及び必要に応じて不斉認識能を示す化合物を意味する。本実施態様におけるリガンドは、クラウンエーテル様環状構造を有する。即ち、該リガンドは、式(I)で表されるクラウンエーテル骨格が、脂肪族、脂環式、又は芳香族炭化水素に化学的に結合されることで大環状ポリエーテル構造を形成した化合物である。
【0044】
-O(CH2CH2O)n- (I)
式中、nは、アミンのアミノ基及びクラウンエーテル骨格が結合する炭化水素に応じて、4~6の整数から適宜選択することができる。例えば、後述する式(II)又は(III)で表されるリガンドは、nが5であり、1級アンモニウム基を包摂するのに適したサイズのクラウンエーテル様環状構造を有するため、1級アミンの分離に好適に用いられる。
また、繰り返し単位中のエチレン基の水素原子は、各種官能基により置換されていてもよいが、置換されていないことが好ましい。
【0045】
本実施態様においてエナンチオマーの分離を行う場合、リガンドとしては、クラウンエーテル様環状構造がホモキラルな構造に結合した化合物を用いる。このようなリガンドとしては、例えば、特開平2-69472号公報及び国際公開第2012/050124号に記載の式(II)で表されるリガンド、特開2014-169259号公報に記載の式(III)で表されるリガンド等が挙げられる。また、式(II)中の1,1’-ビナフチル構造の3位及び3’位のフェニル基が、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基等のアルキル基;置換芳香族基;複素環基;等に置き換わったリガンド(Peng Wu, et.al., Chin. J. Chem., 2017, 35, 1037-1042)も採用することができる。
【0046】
【0047】
【0048】
リガンドは、担体に担持した状態で分離剤として使用される。担持の態様は、公知の態様を採用することができ、例えば共有結合等の化学結合によりリガンドが担体に担持される態様を好適に採用することができる。具体的な担持方法としては、リガンド、リガンドの原料又はリガンドの中間体に反応性基を導入し、この置換基と担体表面に存在する反応性基とを反応させる方法が挙げられる。なお、担体表面に存在する反応性基とは、未処理の担体の表面に存在する基であってもよく、担体を表面処理剤、例えば3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤で表面処理することにより担体表面に導入された基であってもよい。また、リガンドと担体の間に結合を形成する方法だけではなく、リガンドを含む原子団の間でいわゆる架橋結合を形成することによって、担体表面に不溶化された層を形成することもできる。
【0049】
(4-2.担体)
担体としては、リガンドを共有結合等の化学結合によって固定することができる限り、特に制限されない。このような担体は、無機担体であってもよく、有機担体であってもよいが、無機担体であることが好ましい。無機担体としては、例えばシリカ、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイト等が挙げられる。有機担体としては、例えばポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリサッカライド等が挙げられる。これらの有機担体は、架橋剤によって架橋されることで不溶化していることが好ましい。
【0050】
担体の形状は、特に制限されず、例えば粒子、及びカラム管に液密に収容される多孔性の円柱体(モノリス)等が挙げられる。また、担体としてキャピラリーの内壁を挙げることもできる。
【0051】
本実施態様において、担体は、分離能向上の観点から、多孔体であることが好ましく、BET比表面積が100~600m2/gの多孔体であるであることがより好ましい。また、該多孔体は、分離能向上の観点から、水銀圧入法によって測定される細孔径が60~300Åであることが好ましい。
また、本実施態様において、担体は、シリカゲルであることが好ましい。シリカゲルは、前述した特性、即ち分離能に優れ、また硬くて丈夫だからである。シリカゲルとして、全多孔性のものに加え、いわゆるコア-シェル型のものを用いてもよい。
【0052】
<5.アミンの分析方法>
本実施態様に係るアミンの分離方法をLC-MSに適用することにより、アミンの定量分析、定性分析等の各種分析を行うことができる。LC-MSによるアミンの分析方法は
、本実施態様に係るアミンの分離方法によりアミンを分離する分離工程、及び分離工程で分離されたアミンを質量分析により分析する質量分析工程を含む。
【0053】
質量分析工程におけるアミンの質量分析としては、LC-MSで使用される公知の質量分析法を採用することができる。例えば、質量分析におけるイオン化としては、大気圧化学イオン化(APCI)、大気圧光イオン化(APPI)、エレクトロスプレー法(ESI)、高速原子衝撃法(FAB)、サーモスプレー法(TSP)等から、アミンの種類、分析目的等に応じて適宜選択することができる。また、質量分析計としても、四重極型質量分析計(Q-MS)、イオントラップ型質量分析計(IT-MS)、飛行時間型質量分析計(TOF-MS)等から、要求される感度、分解能等に応じて適宜選択して用いることができる。
【実施例0054】
以下、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[移動相の調製]
塩化水素を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(70/30(v/v))混合溶媒を含有する移動相の調製を例にとり、移動相調製の手順を示す。
まず、水700.0g、アセトニトリル383.1gを秤量し、混合することで、水/アセトニトリル=70/30(v/v)混合溶媒を得た。次に市販の1.00N塩化水素水溶液5.00mLをホールピペットにより秤り取り、250mLのメスフラスコに加えた。ここにアセトニトリル1.65g(塩化水素水溶液中の水に対し、3/7体積に相当する)を加えた後、予め調製した水/アセトニトリル=70/30(v/v)混合溶媒を用いてメスアップすることで、移動相を調製した。
【0056】
以下、同様にして各実施例及び比較例の移動相を調製した。ただし、酸添加物としてトリフルオロメタンスルホン酸又はトリデカフルオロへプタン酸を使用する場合、これらは水溶液のような溶媒を含む態様でなく、それ自体が単独で市販されているため、所定量をメスフラスコに加え、混合溶媒でメスアップすることで移動相を調製した。
【0057】
[液体クロマトグラフィーによるアミンの分離]
以下の比較例、実施例は、各種アミンの液体クロマトグラフィーによる分離に関するものである。分離分析の操作は、下記の通りである。
カラムとして式(IV)で表されるクラウンエーテル様環状構造を有するリガンドがシリカゲルに担持された分離剤の充填されたカラム(株式会社ダイセル製「CROWNPAK CR-I(-)」、内径3mm、長さ150mm)を用い、液体クロマトグラフィー装置として高速液体クロマトグラフィー装置(島津製作所「LC-20AD」)を用いた。また、検出器としてフォトダイオードアレイ検出器(島津製作所製「SPD-M20A」、検出波長254nm)を用い、検出器で取得したデータをデータ解析用ソフトウェア(島津製作所製「LCsolution」)により解析した。移動相は、各比較例、実施例に記載する通りであり、0.43mL/分で30℃に調温したカラムに送液した。分離対象であるアミンは、各々、水/アセトニトリル(1:1(v/v))混合溶媒に約0.
1%w/v濃度になるように溶解し、得られた溶液2μLをオートサンプラによってカラムに注入した。
【0058】
【0059】
<比較例1:dl-トリプトファンのキラル分離>
トリフルオロ酢酸(TFA)を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(70/30(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-トリプトファンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図1に示す。
図1中、エナンチオマーに帰属される二つのピークが認められるが、分離は不十分であった。
【0060】
<実施例1:dl-トリプトファンのキラル分離>
ペンタフルオロプロピオン酸を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(70/30(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-トリプトファンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図2に示す。
図2より、実施例1では、保持性能及び分離能が酸添加物としてTFAを用いた比較例1と比べて格段に高いことがわかる。
【0061】
<実施例2:dl-トリプトファンのキラル分離>
ノナフルオロペンタン酸を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(70/30(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-トリプトファンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図3に示す。
図3より、実施例2では、保持性能及び分離能が酸添加物としてTFAを用いた比較例1と比べてはるかに高く、実施例1よりもさら高いことがわかる。
【0062】
<実施例3:dl-トリプトファンのキラル分離>
トリデカフルオロヘプタン酸を5mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(70/30(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-トリプトファンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図4に示す。
図4より、実施例3では、保持性能及び分離能が酸添加物としてTFAを用いた比較例1と比べて格段に高いことがわかる。
【0063】
<実施例4:dl-トリプトファンのキラル分離>
トリデカフルオロヘプタン酸を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(70/30(v/v))混合溶媒を含有するウ移動相を用いてdl-トリプトファンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図5に示す。
図5より、実施例4では、保持性能及び分離能が酸添加物としてTFAを用いた比較例1と比べて格段に高いことがわかる。
【0064】
<実施例5:dl-トリプトファンのキラル分離>
トリフルオロメタンスルホン酸を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニト
リル(70/30(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-トリプトファンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図6に示す。
図6より、実施例5では、不純物のピークが重なっているが、保持性能及び分離能は実施例1よりやや高いことがわかる。
【0065】
<比較例2:dl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離>
トリフルオロ酢酸を21mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(20/80(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図7に示す。
図7より、比較例2では、ネガティブピークにより一見アミンが完全に分離されたように見えるが、実際には分離は不十分であった。
【0066】
<実施例6:dl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離>
塩化水素を20mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(20/80(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図8に示す。
図8より、実施例6では、保持性能及び分離能が酸添加物としてTFAを用いた比較例2と比べて格段に高いことがわかる。
【0067】
<実施例7:dl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離>
ノナフルオロペンタン酸を5mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(90/10(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図9に示す。
図9より、実施例7では、酸添加物濃度が5mMでも高い分離能を示すことがわかる。なお、この酸添加物濃度(5mM)は、イオン対試薬を含有する移動相におけるイオン対試薬濃度として一般的な値である。
【0068】
<実施例8:dl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離>
塩化水素を5mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(10/90(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-1-フェニルエチルアミンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図10に示す。
図10より、実施例8では、分離能が極めて高いことがわかる。
【0069】
<比較例3:dl-チロシンのキラル分離>
トリフルオロ酢酸を5mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(10/90(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-チロシンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図11に示す。
図11より、比較例3では、保持性能が低く、ピークが極めて近接していることがわかる。
【0070】
<実施例9:dl-チロシンのキラル分離>
塩化水素を5mMの濃度で含有し、溶媒として水/アセトニトリル(10/90(v/v))混合溶媒を含有する移動相を用いてdl-チロシンのキラル分離を行った。得られたクロマトグラムを
図12に示す。
図12及び
図11より、実施例9では、酸添加物としてトリフルオロ酢酸を用いた以外は同様に調製された移動相を用いた比較例3よりもはるかに高い分離能を示すことがわかる。
本開示の少なくとも幾つかの実施態様に係る分離方法によれば、液体クロマトグラフィーによりアミンを分離することができ、MSによる検出も可能になる。従って、かかる分離方法は、各種液体クロマトグラフィーによる分析、精製等を行う有機化学、医学、薬学等の分野において広く利用することができる。