IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

特開2024-147043アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器
<>
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図1
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図2
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図3
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図4
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図5
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図6
  • 特開-アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147043
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】アルミニウム合金板、その製造方法及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20241008BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20241008BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C22C21/00 J
C22F1/043
C22F1/00 623
C22F1/00 626
C22F1/00 651A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059807
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 真一
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 友貴
(72)【発明者】
【氏名】土公 武宜
(57)【要約】
【課題】材料強度を確保しつつ、ろう付性に優れるアルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板であり、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、を特徴とするアルミニウム合金板。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板であり、
2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金板。
【請求項2】
前記加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向における結晶粒界が2本以上の領域が、幅方向の割合で3%以上存在することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金板。
【請求項3】
前記加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅が2000μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム合金板。
【請求項4】
板厚が0.08mm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のアルミニウム合金板。
【請求項5】
板厚が0.08mm以下であることを特徴とする請求項3記載のアルミニウム合金板。
【請求項6】
連続鋳造圧延により、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるアルミニウム合金の鋳造圧延板を0.50m/分を超え0.70m/分未満の鋳造速度で鋳造する鋳造工程と、
該鋳造圧延板を2回以上冷間で圧延する冷間圧延工程と、
を有し、
鋳造工程後から冷間圧延工程の最終の冷間圧延前までの間に、焼鈍処理を1回以上行うこと、
全ての焼鈍処理における焼鈍条件が、焼鈍温度200~550℃、焼鈍時間1~10時間の条件であること、
を特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
【請求項7】
作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
該チューブは、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材を用いて形成され、
該フィンは、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板を用いて形成されており、
該フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、
を特徴とする熱交換器。
【請求項8】
前記フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向における結晶粒界が2本以上の領域が、幅方向の割合で3%以上存在することを特徴とする請求項7記載の熱交換器。
【請求項9】
前記フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅が2000μm以下であることを特徴とする請求項7または8記載の熱交換器。
【請求項10】
作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
少なくとも、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材と、アルミニウム合金からなる熱交換器用フィン材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を加熱し、該熱交換器用チューブ材と該熱交換器用フィン材を接合して得られたものであり、
該熱交換器用フィン材が、請求項1~5いずれか1項記載のアルミニウム合金板の成形体であること、
を特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単相加熱接合用のアルミニウム合金板及びそれを用いて製造される熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器やヒートシンク等、アルミニウム材料からなり、多数の金属接合部を有する製品の製造方法にはろう付が用いられることが多い。ろう付用のアルミニウム材料としては、アルミニウム材料からなる心材にろう材をクラッドしたブレージングシートや、置きろう材が使用されてきた。しかし、ブレージングシートのような複数層を重ね接合するクラッド材や、置きろう材のような追加的な接合材の使用は、その製造コストや材料コストの関係から熱交換器等のコスト上昇の要因となっていた。
【0003】
そこで、近年、単層で加熱接合が可能なアルミニウム合金材が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。このアルミニウム合金材は、Al-Si系合金からなり、加熱により合金材内部で生成される液相を接合に利用するものである。このアルミニウム合金材によれば、上述した液相がろう材として作用することから、単層でありながら置きろう材等の接合材を用いることなく、他の部材と接合することができる。尚、本発明では、このように接合材がなくとも加熱することで接合を可能とすることを「加熱接合機能」と称する。また、かかる単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材による接合を「加熱接合」と称し、そのときの加熱温度を「加熱接合温度」と称する。
【0004】
単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材は、加熱接合中に材料が半溶融状態となることから、ろう付温度における耐変形性を確保することが重要となる。アルミニウム合金材における耐変形性の向上の手法として、例えば、特許文献3及び4では、ろう付加熱後の結晶粒が粗大になり、粒界での液相生成が抑制される金属組織とすることで、耐変形性に優れた単層で加熱接合機能を有するアルミニウム合金材が明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5436714号明細書
【特許文献2】国際公開第2022/176420号
【特許文献3】特許第5345264号明細書
【特許文献4】特許第5732594号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ろう材又は溶加材のような接合部材を使用することなく、それ自体の作用(母材から浸み出す液相)により、他の部材と接合可能なアルミニウム合金材は、従来のろう材がクラッドされたブレージングシートフィン材と比較し、ろう付接合に使用される液相量は少ない。
【0007】
そのため、フィンとチューブの接合部に形成されるフィレット面積が小さく、フィンの接合性(ろう付性)は低下してしまう。また、このフィレット面積が小さいと腐食環境に暴露された際の腐食消耗時間(防食寿命)が短くなるため、早期にフィンが剥がれてしまい、犠牲防食として十分に機能しなくなる。さらに、このフィン剥がれによって材料が変形してしまうという問題もある。
【0008】
この液相量を多くするにはSi含有量を高くする方法があるが、Si含有量が高いとろう付加熱中に母材からの染み出しが過剰となり、材料強度が極端に低下してしまうため十分な強度が得られず、耐食性も低下してしまう。また、Cu含有量を高くして液相率を高める方法もあるが、耐食性が著しく悪化したり、素材の材料強度が高くなって成形性が低下したりするなどの問題があり、成分調整による課題の解決は困難である。
【0009】
従って、本発明は、上記のような背景のもとになされたものであり、各種のアルミニウム合金構造体を製造するに際して、材料強度を確保しつつ、ろう付性に優れるアルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アルミニウム合金板の所定の加熱試験後の結晶粒界の分布と平均結晶粒径が、ろう付性と材料強度に影響を与えることを見出した。そして、本発明者らは、アルミニウム合金板が、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、ろう付加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下である、接合能力と材料強度とを備えたアルミニウム合金材を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板であり、
2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金板を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向における結晶粒界が2本以上の領域が、幅方向の割合で3%以上存在することを特徴とする(1)のアルミニウム合金板を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、前記加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅が2000μm以下であることを特徴とする(1)または(2)のアルミニウム合金板を提供するものである。
【0014】
また、本発明(4)は、板厚が0.08mm以下であることを特徴とする(1)または(2)のアルミニウム合金板を提供するものである。
【0015】
また、本発明(5)は、板厚が0.08mm以下であることを特徴とする(3)のアルミニウム合金板を提供するものである。
【0016】
また、本発明(6)は、連続鋳造圧延により、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるアルミニウム合金の鋳造圧延板を0.50m/分を超え0.70m/分未満の鋳造速度で鋳造する鋳造工程と、
該鋳造圧延板を2回以上冷間で圧延する冷間圧延工程と、
を有し、
鋳造工程後から冷間圧延工程の最終の冷間圧延前までの間に、焼鈍処理を1回以上行うこと、
全ての焼鈍処理における焼鈍条件が、焼鈍温度200~550℃、焼鈍時間1~10時間の条件であること、
を特徴とするアルミニウム合金板の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(7)は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
該チューブは、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材を用いて形成され、
該フィンは、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板を用いて形成されており、
該フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【0018】
また、本発明(8)は、前記フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向における結晶粒界が2本以上の領域が、幅方向の割合で3%以上存在することを特徴とする(7)の熱交換器を提供するものである。
【0019】
また、本発明(9)は、前記フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅が2000μm以下であることを特徴とする(7)または(8)の熱交換器を提供するものである。
【0020】
また、本発明(10)は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
少なくとも、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材と、アルミニウム合金からなる熱交換器用フィン材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を加熱し、該熱交換器用チューブ材と該熱交換器用フィン材を接合して得られたものであり、該熱交換器用フィン材が、(1)~(5)いずれか1のアルミニウム合金板の成形体であること、
を特徴とする熱交換器を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、各種のアルミニウム合金構造体を製造するに際して、材料強度を確保しつつ、ろう付性に優れるアルミニウム合金板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】代表的な2元系共晶合金であるAl-Si合金の模式的な状態図である。
図2】本発明に係るアルミニウム合金を用いた接合において、本発明に係るアルミニウム合金板を形成するアルミニウム合金での液相の生成メカニズムを示す説明図である。
図3】本発明に係るアルミニウム合金を用いた接合において、本発明に係るアルミニウム合金板を形成するアルミニウム合金での液相の生成メカニズムを示す説明図である。
図4】代表的な2元系共晶結晶であるAl-Si合金の模式的な状態図である。
図5】断面の結晶粒界の測定例を示す図である。
図6】断面の結晶粒界の測定例を示す図である。
図7】板表面の平均結晶粒径の測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のアルミニウム合金板は、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板であり、
2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金板である。
【0024】
本発明のアルミニウム合金板は、必須元素としてSi、Fe及びMnを含有する。なお、本発明のアルミニウム合金板は、必須元素と、必要に応じて添加される任意添加元素と、それら以外の残部としてアルミニウムと不可避的不純物で構成される。
【0025】
本発明のアルミニウム合金板は、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。つまり、本発明のアルミニウム合金板は、アルミニウム合金により構成されている。
【0026】
本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金は、任意添加元素として、更に、0.20質量%以下のCu、6.00質量%以下のZnを含有してもよい。つまり、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金中、Cuの含有量は0.00~0.20質量%であり、Znの含有量は0.00~6.00質量%である。
【0027】
また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金は、任意添加元素として、更に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有することができる。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金は、任意添加元素として、0.10質量%以下のIn、0.10質量%以下のSn、0.10質量%以下の希土類元素を含有してもよい。
【0028】
SiはAl-Si系の液相を生成し、接合に寄与する元素である。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のSi含有量は、2.00~3.00質量%、好ましくは2.10~2.80質量%、より好ましくは2.20~2.60質量%である。アルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲にあることにより、充分な量の液相を生成することができ、液相の染み出し量が充分となるので、良好な接合ができ、また、加熱中に材料強度が低下し過ぎず、形状維持ができる。更に、アルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲にあることにより、アルミニウム合金の固相線と液相線の温度差が大きくなるので、板厚中心付近では鋳造時に凝固が完了するまでの時間が長くなる。その結果、表層付近から中心部へ溶質原子の排出が起こり、より高濃度化した溶質原子により第二相粒子が密に存在し、板厚中心部で結晶粒の成長が阻害されることで、加熱接合時に、板厚方向の結晶粒数が大きくなり粒界滑りによる変形が抑制される。なお、浸み出す液相の量は板厚が厚く、加熱温度が高いほど多くなるので、加熱接合時に必要とされる液相の量は、製造する熱交換器のフィンの構造又は寸法に応じて調節され、そして、加熱接合時に必要とされる液相の量に応じて、アルミニウム合金のSi含有量や加熱接合温度が調節される。一方、アルミニウム合金のSi含有量が、上記範囲未満だと、充分な量の液相を生成することができず、液相の染み出しが少なくなり、接合が不完全となり、また、上記範囲を超えると、ろう付中におけるアルミニウム合金材の融解量が多くなり、アルミニウム合金材の強度の低下を招くおそれがある。その結果、前記アルミニウム合金材の耐サグ性が低下し、ろう付中に前記アルミニウム合金材の自重による変形や前記アルミニウム合金材の座屈が起こりやすくなるおそれがある。
【0029】
Feはマトリクスに若干固溶して強度を向上させる効果を有するのに加えて、晶出物や析出物として分散して特に高温での強度低下を防止する効果を有する。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のFe含有量は、0.05~0.40質量%、好ましくは0.08~0.35質量%である。アルミニウム合金のFe含有量が、上記範囲にあることにより、強度が高くなり、また、高温での強度低下が防止される。一方、アルミニウム合金のFe含有量が、上記範囲未満だと、上記の効果が小さいだけでなく、高純度の地金を使用する必要がありコストが増加する。また、アルミニウム合金のFe含有量が、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、製造性に問題が生じ、接合体が腐食環境(特に液体が流動するような腐食環境)に曝された場合には耐食性が低くなり、更に、接合時の加熱によって再結晶した結晶粒が微細化するため、耐変形性が低くなる。
【0030】
Mnは鋳造時にアルミニウムマトリクスに固溶し、その後の加工工程で円相当径0.01~0.50μmのAl系金属間化合物の形成が促進される。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のMn含有量は、0.80~1.80質量%、好ましくは1.00~1.60質量%である。アルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲にあることにより、円相当径0.01~0.50μmのAl系金属間化合物の存在量が十分となり、適切な強さのピン止め効果が得られ、限られた結晶粒のみが成長し、粗大な結晶粒が得られるので、粗大な結晶粒により粒界滑りが抑制されて、耐変形性が高くなる。一方、アルミニウム合金のMn含有量が、上記範囲未満だと、上記効果が十分に得られず、耐変形性が低くなり、また、上記範囲を超えると、鋳造時に粗大な金属間化合物が生成し、製造性に問題が生じる。
【0031】
本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金は、Si、Fe及びMnに加え、必要に応じて、更に、任意添加元素として、Cu、Zn、Mg、Ti、Zr、Cr、V、Be、Sr、Bi、Na、Ca、In、Sn、及び希土類元素のいずれか1種又は2種以上を含有することができる。
【0032】
Cuは、マトリクス中に固溶して強度向上させる添加元素である。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Cuを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のCu含有量は、0.20質量%以下、好ましくは0.01~0.18質量%である。アルミニウム合金のCu含有量が、上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、アルミニウム合金のCu含有量が上記範囲を超えると、耐食性が低くなる。
【0033】
Znは、犠牲防食作用による耐食性向上に有効な元素である。Znは、マトリクス中にほぼ均一に固溶して自然電位を卑化させる作用を有する。例えば、本発明のアルミニウム合金材をフィン材とし、これを卑化させることで、フィンに接合されているチューブの腐食を相対的に抑制する犠牲防食作用を発揮させることができる。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Znを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のZn含有量は、6.00質量%以下、好ましくは0.05~6.00質量%、特に好ましくは0.10~5.00質量%である。アルミニウム合金のZn含有量が、上記範囲にあることにより、耐食性が高くなる。一方、アルミニウム合金のZn含有量が、上記範囲を超えると、腐食速度が速くなり過ぎて自己耐食性が低くなり、犠牲防食作用も低くなる。
【0034】
Mgは、加熱接合後において、MgSiとなり時効硬化を生じさせて強度を向上させる。よって、Mgは強度向上の効果を発揮する添加元素である。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Mgを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のMg含有量は、0.08質量%以下、好ましくは0.005~0.07質量%である。アルミニウム合金のMg含有量が、上記範囲を超えると、Mgがフラックスと反応して、高融点の化合物を形成するため、接合性が低くなる。なお、本発明においては、Mg及びMgのみならず他の合金成分においても、所定含有量以下という場合は0質量%も含むものとする。
【0035】
Crは、固溶強化により強度を向上させ、また、Al-Cr系の金属間化合物が析出し、加熱後の結晶粒粗大化に作用する。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Crを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のCr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。アルミニウム合金のCr含有量が、上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、アルミニウム合金のCr含有量が、上記範囲を超えると、粗大な金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0036】
ZrはAl-Zr系の金属間化合物として析出し、分散強化によって加熱接合後の強度を向上させる効果を発揮する。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Zrを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のZr含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。アルミニウム合金のZr含有量が、上記範囲にあることにより、強度が高くなる。一方、アルミニウム合金のZr含有量が、上記範囲を超えると、粗大な金属間化合物が形成され易くなり、塑性加工性が低くなる。
【0037】
Ti、Vは、マトリクス中に固溶して強度を向上させる他に、層状に分布して板厚方向の腐食の進展を防ぐ効果がある。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Tiを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のTi含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。また、アルミニウム合金がVを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のV含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%である。アルミニウム合金のTi含有量又はV含有量が、上記範囲にあることにより、強度が高くなり、また、板厚方向の腐食の進展を防ぐことができる。一方、アルミニウム合金のTi含有量又はV含有量が、上記範囲を超えると、巨大晶出物が発生し、成形性、耐食性が阻害される。
【0038】
Be、Sr、Bi、Na、Caは、Si粒子を微細分散させ、液相の流動性を向上させる等によって、接合性を向上させることができる。本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Beを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のBe含有量は、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%である。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Srを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のSr含有量は、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%である。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Biを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のBi含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.0001~0.30質量%である。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Naを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のNa含有量は、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%である。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金が、Caを含有する場合、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金のCa含有量は、0.05質量%以下、好ましくは0.0001~0.05質量%である。アルミニウム合金のBe含有量、Sr含有量、Bi含有量、Na含有量又はCa含有量が、上記範囲にあることにより、接合性が高くなる。一方、アルミニウム合金のBe含有量、Sr含有量、Bi含有量、Na含有量又はCa含有量が、上記範囲を超えると、耐食性低下等の弊害を生じる場合がある。なお、アルミニウム合金が、Be、Sr、Bi、Na及びCaの1種又は2種以上を含有する場合には、各添加成分のいずれもが上記成分範囲内にあることを必要とする。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金は、0.10質量%以下のIn、0.10質量%以下のSn、0.10質量%以下の希土類元素を含有してもよい。
【0039】
本発明のアルミニウム合金板は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満、好ましくは30~85%、より好ましくは35~80%であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下、好ましくは200~900μm、より好ましくは300~850μmである。つまり、本発明のアルミニウム合金板は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱により、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱により、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満、好ましくは30~85%、より好ましくは35~80%であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下、好ましくは200~900μm、より好ましくは300~850μmである金属組織を有している。本発明者らは、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱により、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱により、圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が上記範囲、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が上記範囲となるような金属組織を有しているアルミニウム合金板が、単層での加熱接合において、材料強度の確保とろう付性とを両立できることを見出した。
【0040】
本発明のアルミニウム合金板は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満、好ましくは30~85%、より好ましくは35~80%である。本発明のアルミニウム合金板には、母材から浸み出した液相の流路、つまり粒界が多く存在している。そして、本発明のアルミニウム合金板では、液相の流路が多くなるため、フィレット面積を増大させることができる。そのため、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、上記範囲となるものは、液相の流路が多く、フィレット面積を増大させることができる。なお、加熱中の板断面における板厚方向での結晶粒界の本数の観察は極めて困難なため、加熱後の板断面における板厚方向での結晶粒界の本数で判断する。
【0041】
本発明のアルミニウム合金板は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下、好ましくは900μm以下、より好ましくは850μm以下である。結晶粒径は微細なほど液相の流路が多くなるため、フィレット面積を増大させることができる。そのため、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、アルミニウム合金板の加熱試験後の板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が、上記範囲となるものは、フィレット面積を増大させることができる。なお、加熱中の平均結晶粒の観察は極めて困難なため、加熱後の平均結晶粒径で判断する。
【0042】
また、本発明のアルミニウム合金板は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径は、好ましくは200μm以上、より好ましくは300μm以上である。結晶粒径が小さ過ぎると、粒界滑りや材料強度の著しい低下が起こる。そのため、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、アルミニウム合金板の加熱試験後の板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が、上記範囲となるものは、粒界滑りや材料強度の著しい低下が起こり難い。
【0043】
本発明のアルミニウム合金板は、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向における結晶粒界が2本以上の領域が、幅方向の割合で3%以上、好ましくは5%以上存在する。結晶粒界が2本以上の領域が上記範囲存在することで、母材から浸み出した液相の流路が多くなり、ろう付性に優れる。
【0044】
本発明のアルミニウム合金板は、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅が2000μm以下、好ましくは1800μm以下である。粒界結晶が0本の領域が上記範囲であることにより、母材から浸み出した液相の流路が多くなり、ろう付性に優れる。
【0045】
本発明における300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験であるが、先ず、試験試料である本発明のアルミニウム合金板を、不活性ガス雰囲気中で、上記加熱条件で加熱試験を行い、次いで、加熱試験後の試験試料について、圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面における板厚方向での結晶粒界の数の測定及び板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径を測定する。なお、加熱試験の昇温条件は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、次いで、600℃まで昇温する条件、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温する条件である。
【0046】
本発明において、圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面における板厚方向での結晶粒界の本数は、以下の通り測定される。つまり、ろう付加熱後のサンプルを圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向に切り出して、樹脂埋め及び鏡面研磨をし、研磨した埋め込み樹脂をSWAAT試験液に12時間浸漬する。その後、樹脂表面を軽く研磨して汚れを除去する。これは、粒界部を腐食させ、粒界を確認しやすくするための処理である。次いで、金属組織観察用の顕微鏡で断面組織を200倍で撮影する。撮影した断面写真について、結晶粒界が1本以上の領域を枠で囲い、各枠囲みした部分の幅方向の長さを求め、囲みした部分の長さの全てを合計し、合計した値を、撮影した断面の幅方向の全長で割ることで、結晶粒界が1本以上の領域が占める割合(百分率)を算出する。また、撮影した断面写真について、結晶粒界が2本以上の領域を枠で囲い、各枠囲みした部分の幅方向の長さを求め、枠囲みした部分の長さの全てを合計し、合計した値を、撮影した断面の幅方向の全長で割ることで、結晶粒界が2本以上の領域が占める割合(百分率)を算出する。また、結晶粒界が0本の領域、すなわち、1本以上の領域として枠囲みされていない部分のうち、最も幅方向の長さが大きいところの幅方向の長さを測定し、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅として求める。なお、板厚方向での結晶粒界の本数とは、撮影した断面図に板厚方向(圧延面に垂直方向)に線を引き、その線と交わる結晶粒の粒界線の数を指す。
【0047】
図5に、本発明のアルミニウム合金板の断面の結晶粒界の測定例を示す。図5のうち、図5Aは、画像処理する前の断面の顕微鏡写真であり、また、図5Bは、図5Aの顕微鏡写真を画像処理し、結晶粒界を黒い線で示した図である。図5Bでは、結晶粒界を黒い線で示しており、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域を、白い枠で囲んでいる。図5Bの形態例では、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域の部分が3か所存在している。そして、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域として枠囲みした部分の各枠囲み部分の幅方向の長さを測定する。次いで、撮影した全領域に存在している、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域の枠囲み部分の幅方向の長さを合計し、下記式:
板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域の割合(%)=((撮影した全領域に存在している、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域の枠囲み部分の幅方向の長さの合計)/(撮影した領域の全長))×100
で算出する。また、図5A中、枠囲みされていない部分が、板厚方向での結晶粒界が0本以上の領域であり、撮影した全領域に存在している、枠囲みされていない領域のうち、最も幅方向の長さが大きい領域の幅方向の長さ(図5Aでは、白い両矢印で示す長さ)を、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅とする。
【0048】
図6に、本発明のアルミニウム合金板の断面の結晶粒界の測定例を示す。図6のうち、図6Aは、画像処理する前の断面の顕微鏡写真であり、また、図6Bは、図6Aの顕微鏡写真を画像処理し、結晶粒界を黒い線で示した図である。図6Bでは、板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域を、白い枠で囲んでおり、図6Bの形態例では、板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域の部分が2か所存在している。そして、板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域として枠囲みした部分の各枠囲み部分の幅方向の長さを測定する。次いで、撮影した全領域に存在している、板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域の枠囲み部分の幅方向の長さを合計し、下記式:
板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域の割合(%)=((撮影した全領域に存在している、板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域の枠囲み部分の幅方向の長さの合計)/(撮影した領域の全長))×100
で算出する。
【0049】
本発明において、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径は、以下の通り測定される。つまり、ろう付加熱後のサンプルを20mm×30mmに切断し、板表面から研磨しで面削し、板厚の中心部を露出させる。次いで、鏡面研磨、パーカーエッチングを行い、金属顕微鏡で偏光観察を行う。倍率20倍で6視野撮影し、結晶組織を倍率20倍で6視野分、つなぎで観察する(圧延方向に対して平行となるように観察する)。圧延方向に対して垂直に6mmの線を1mmピッチで10本引き、10本の線上にある結晶粒数をカウントし、結晶粒数の合計を測定し、下記式:
平均結晶粒径(μm)=(6000×10)/10本の線上にある結晶粒数の合計
にて、平均結晶粒径を算出する。
【0050】
図7に、本発明のアルミニウム合金板の板表面の平均結晶粒径の測定例を示す。図7に示すように、圧延方向に対して垂直に6mmの線を1mmピッチで10本引く。次いで、10本の各線上にある結晶粒数をカウントする。そして、10本の各線上にある結晶粒数の合計を測定し、下記式:
平均結晶粒径(μm)=(6000×10)/10本の線上にある結晶粒数の合計
にて、平均結晶粒径を算出する。図7では、各線上にある結晶の中央近くを黒丸で示している。また、図7の各線の上側にある数字は、線の番号であり、また、各線の下側にある数字は、各線上にある結晶粒数を示す。
【0051】
本発明のアルミニウム合金板の板厚は、好ましくは0.08mm以下である。熱交換器のフィン材として好適な板厚が、0.08mm以下である。そして、本発明のアルミニウム合金板は、板厚が0.08mm以下と小さくても、優れた耐変形性を有する。
【0052】
本発明のアルミニウム合金板は、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板(単層加熱接合機能を有するアルミニウム合金板)である。つまり、本発明のアルミニウム合金板は、単層ブレージングシートである。
【0053】
以下に、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板(以下、単層ブレージングシートとも記載する。)について説明する。
【0054】
単層ブレージングシートは、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比(以下、「液相率」と記す。)が、5%以上35%以下となる温度で接合させる必要がある。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎてアルミニウム合金材が形状を維持できなくなり大きな変形をしてしまう。一方、液相率が5%未満では接合が困難となる。好ましい液相率は5~30%であり、より好ましい液相率は10~20%である。
【0055】
液相の生成メカニズムについて説明する。図1に代表的な2元系共晶合金であるAl-Si合金の状態図を模式的に示す。Si濃度がc1であるアルミニウム合金材を加熱すると、共晶温度(固相線温度)Teを超えた付近の温度T1で液相の生成が始まる。共晶温度Te以下では、図2(a)に示すように、結晶粒界で区分されるマトリクス中に晶析出物が分布している。ここで液相の生成が始まると、図2(b)に示すように、晶析出物分布の偏析の多い結晶粒界が溶融して液相となる。次いで、図2(c)に示すように、アルミニウム合金のマトリクス中に分散する主添加元素成分であるSiの晶析出物粒子や金属間化合物の周辺が球状に溶融して液相となる。更に図2(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。次いで、図1に示すように温度がT2に上昇すると、状態図より液相量は増加する。図1に示すように、一方のアルミニウム合金材のSi濃度が最大固溶限濃度より小さいc2の場合には、固相線温度Ts2を超えた付近で液相の生成が始まる。但し、c1の場合と異なり、溶融直前の組織は図3(a)に示すように、マトリクス中に晶析出物が存在しない場合がある。この場合、図3(b)に示すように粒界でまず溶融して液相となった後、図3(c)に示すようにマトリクス中において局所的に溶質元素濃度が高い場所から液相が発生する。図3(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、c1の場合と同様に、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。温度がT3に上昇すると、状態図より液相量は増加する。このように、本発明における接合は、単層ブレージングシート(本発明に係る熱交換器用フィン材)内部の部分的な溶融により生成される液相を利用するものであり、接合と形状維持の両立を実現できるものである。
【0056】
液相が生じた後から接合に至るまでの金属組織の挙動を説明する。液相を生成する単層ブレージングシートと、これと接合するアルミニウム合金相手材とを組み合わせ、これらを、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において加熱する。そして、接合部を顕微鏡で観察すると、前述のように、接合において単層ブレージングシートの表面に生成するごく僅かな液相は、フラックス等の作用により酸化皮膜が破壊されたアルミニウム合金相手材との隙間を埋める。次に、両合金材の接合界面付近にある液相がアルミニウム合金相手材内へと移動していき、それに伴い接合界面に接している単層ブレージングシートの固相α相の結晶粒がアルミニウム合金相手材内に向かって成長していく。一方、アルミニウム合金相手材の結晶粒も単層ブレージングシート側へと成長していく。そして、接合界面付近のアルミニウム合金相手材中に単層ブレージングシートの組織が入り込んだような組織となって接合される。従って、接合界面には単層ブレージングシートとアルミニウム合金相手材以外の金属組織が生じない。
【0057】
一方、ろう材をクラッドしたブレージングシートを用い、アルミニウム合金相手材とろう付加熱により接合した場合には、接合部にフィレットが形成され、共晶組織が見られ、単層ブレージングシートを用いてアルミニウム合金相手材とろう付加熱により接合した場合とは、異なる接合組織が形成される。つまり、ろう材をクラッドしたブレージングシートを用い、アルミニウム合金相手材とろう付加熱により接合した場合には、接合部を液相ろうが埋めてフィレットを形成するため、接合部は周囲と異なる共晶組織が形成されるのである。また、溶接法においても接合部が局部的に溶融するため、他の部位とは異なる金属組織となる。
【0058】
このようなことから、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、接合部の金属組織が両被接合部材のものだけで構成され、或いは、両被接合部材が一体化したもので構成される点で、ろう材がクラッドされたブレージングシートを用いる場合や溶接による場合とは、接合組織が相違する。
【0059】
そして、このような接合挙動のため、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、接合工程後において接合部位近傍の形状変化がほとんど発生しない。すなわち、溶接法のビードや、ろう付法でのフィレットのような接合後の形状変化が、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、殆ど発生しない。それにも拘わらず、溶接法やろう付法と同じく金属結合による接合を可能とする。例えば、ろう材がクラッドされたブレージングシート(ろう材クラッド率が片面5%)を用いてドロンカップタイプの積層型熱交換器を組み立てた場合、ろう付加熱後には溶融したろう材が接合部に集中するため、積層した熱交換器の高さが5~10%減少する。従って、製品設計においてはその減少分を考慮する必要がある。それに対して、単層ブレージングシートを用いて、アルミニウム合金相手材と加熱接合した場合には、接合後における寸法変化が極めて小さいため、高精度の製品設計が可能となる。
【0060】
本発明では、単層ブレージングシートの加熱中における実際の液相率を測定することは、極めて困難である。そこで、本発明で規定する液相率は平衡計算によって求めるものとする。具体的には、Thermo-Calc Software AB社製Thermo-Calc(登録商標)等の熱力学平衡計算ソフトによって合金組成と加熱時の最高到達温度から計算される。
【0061】
図4に示す状態図に基づいて、液相率と温度との関係を説明する。図4は、図1を変形したものである。図4において、温度Teを通って横軸に平行に延びる線(以下、「固相線1」と記載する。)、及びα相との境界を画成しつつ固相線1の左端部から縦軸の660℃まで左上方に延びる線(以下、「固相線2」と記する。)は共に固相線を表わす。また、縦軸の660℃から右下方に延びて前記固相線1と接する線(以下、「液相線1」と記する。)、及び(Si+液相)との境界を画成しつつ前記接する位置から右上方に延びる線は共に液相線を表わす。
【0062】
ここで、温度T2の点をP0とし、P0を通って図の横軸と平行な線を引き、液相線1との交点をP1とし、固相線2との交点をP2とする。Si濃度がC1のAl-Si合金は温度T2のもとでは液相と固相が共存している状態にあり、その液相におけるSi濃度は点P1における濃度CP1であり、その固相におけるSi濃度は点P2における濃度CP2となる。そして、温度T2における全質量に対する液相の質量の割合、すなわち、液相率は、線分P1からP2の長さに対する線分P0からP2の長さの比となる。
【0063】
以上のように、図1及び図4に示されるような2元系合金の状態図に基づいて、合金成分と温度から作図によって液相率が求められる。また、3元系以上の多成分系においても、同様に、状態図に基づいて合金成分と温度から作図することによって、3元系以上の多成分系でも液相率が求められる。なお、3元系以上の多成分系の状態図は、図4のような単純なX-Y平面図として表わすことは困難であるが、Thermo-Calcの熱力学平衡計算ソフトを用いることにより、コンピューター計算によって液相率を得ることができる。
【0064】
本発明のアルミニウム合金板は、300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下である金属組織を有しているので、ろう付加熱時に、母材から浸み出した液相の流路、つまり粒界が多く存在するので、加熱接合によるフィレット面積を増大させることができる。そのため、本発明のアルミニウム合金板は、Si含有量が少なくても、ろう付性に優れるので、ろう付性と材料強度を両立することができる。
【0065】
本発明のアルミニウム合金板は、熱交換器の製造用の材料として、好適に用いられる。つまり、本発明のアルミニウム合金板は、熱交換器用アルミニウム合金板として、好適である。
【0066】
本発明のアルミニウム合金板は、如何なる製造方法により製造されたものであってもよく、例えば、以下に述べる本発明のアルミニウム合金板の製造方法により、好適に製造される。
【0067】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法は、連続鋳造圧延により、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなるアルミニウム合金の鋳造圧延板を0.50m/分を超え0.70m/分未満の鋳造速度で鋳造する鋳造工程と、
該鋳造圧延板を2回以上冷間で圧延する冷間圧延工程と、
を有し、
鋳造工程後から冷間圧延工程の最終の冷間圧延前までの間に、焼鈍処理を1回以上行うこと、
全ての焼鈍処理における焼鈍条件が、焼鈍温度200~550℃、焼鈍時間1~10時間の条件であること、
を特徴とするアルミニウム合金板の製造方法である。
【0068】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法は、少なくとも、鋳造工程と、冷間圧延工程と、焼鈍処理とを、有する。
【0069】
鋳造工程は、連続鋳造圧延により、所定の化学組成を有するアルミニウム合金の鋳造圧延板を鋳造する工程である。連続鋳造法では、凝固時の冷却速度が速いため、粗大な晶出物が形成され難く、円相当径5.0~10μmのSi系金属間化合物の形成が抑制される。その結果、再結晶核の数が少なくできるため、特定の結晶粒のみが成長し、粗大な結晶粒が得られる。さらに、厚さの大きい鋳塊を水冷するDC(Direct Chill)鋳造法に比べ、連続鋳造法では、幅方向の冷却速度の差が小さく、溶質原子の排出による濃化が幅方向で均一になり易いため、アルミニウム合金材の品質が安定する。連続鋳造法としては、双ロール式連続鋳造圧延、双ベルト式連続鋳造等の連続的に板状鋳塊を鋳造する方法であれば、特に限定されるものではない。双ロール式連続鋳造圧延とは、耐火物製の給湯ノズルから一対の水冷ロール間にアルミニウム溶湯を供給し、薄板を連続的に鋳造圧延する方法であり、ハンター法や3C法等が知られている。また、双ベルト式連続鋳造法は、水冷されている上下に対向した回転ベルト間に溶湯を注湯してベルト面からの冷却で溶湯を凝固させてスラブとし、ベルトの反注湯側より該スラブを連続して引き出してコイル状に巻き取る連続鋳造方法である。双ロール式連続鋳造圧延では、鋳造時の冷却速度が半連続鋳造法に比べて数倍~数百倍速い。例えば、半連続鋳造法の場合の冷却速度が0.5~20℃/秒であるのに対し、双ロール式連続鋳造圧延の場合の冷却速度は100~1000℃/秒である。そのため、双ロール式連続鋳造圧延は、鋳造時に生成する分散粒子が、半連続鋳造法に比べて微細かつ高密度に分布する特徴を有する。これにより粗大な晶出物の発生が抑制されるため、接合加熱中の結晶粒が粗大化する。また、冷却速度が速いために、添加元素の固溶量を増加させることができる。これにより、その後の熱処理によって微細な析出物が形成され、接合加熱中の結晶粒粗大化に寄与することができる。
鋳造工程において、双ロール式連続鋳造圧延で鋳造する際の冷却速度は、100~1000℃/秒が好ましい。冷却速度が100℃/秒未満では目的の金属組織を得ることが困難となり、また、1000℃/秒を超えると安定した製造が困難となる。双ロール式連続鋳造圧延で鋳造する際の圧延板の速度は、0.50m/分を超え0.70m/分未満、好ましくは0.53~0.69m/分、より好ましくは0.58~0.68m/分である。鋳造速度は、冷却速度に影響を及ぼす。鋳造速度が0.50m/分以下の場合は、上記のような十分な冷却速度が得られず化合物が粗大となり、母材中の添加元素の固溶量が少なくなる。これにより、その後の熱処理によって微細な析出物の形成が少なくなって結晶粒径が粗大化してしまう。一方、0.70m/分以上の場合は、冷却速度が速いため、微細な析出物の形成が多くなり過ぎて結晶粒径が微細化してしまう。これにより粒界滑りが起きやすくなり、ろう付加熱時に変形しやすくなる。双ロール式連続鋳造圧延法で鋳造する際の溶湯温度は、好ましくは650~800℃、より好ましくは680~750℃である。溶湯温度は、給湯ノズル直前にあるヘッドボックスの温度である。溶湯温度が上記範囲未満だと、給湯ノズル内に粗大な金属間化合物の分散粒子が生成し、それらが鋳塊に混入することで冷間圧延時の板切れの原因となる。また、溶湯温度が上記範囲を超えると、鋳造時にロール間でアルミニウム材が十分に凝固せず、正常な板状鋳塊が得られない。
【0070】
双ロール式連続鋳造圧延で鋳造する板状鋳塊の板厚は、好ましくは2~10mm、特に好ましくは4~8mmである。この厚さ範囲においては、板厚中央部の凝固速度も速く、均一組織な組織が得られ易い。板厚が上記範囲未満であると、単位時間当たりに鋳造機を通過するアルミニウム量が少なく、安定して溶湯を板幅方向に供給することが困難になる。一方、板厚が上記範囲を超えると、ロールによる巻取りが困難になる。
【0071】
鋳造速度は、0.50m/分を超え0.70m/分未満、好ましくは0.53~0.69m/分、より好ましくは0.58~0.68m/分である。鋳造速度が上記範囲にあることにより、「300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下である」アルミニウム合金板が得られ易くなる。
【0072】
鋳造工程では、2.00~3.00質量%、好ましくは2.10~2.80質量%、より好ましくは2.20~2.60質量%のSi、0.05~0.40質量%、好ましくは0.08~0.35質量%のFe及び0.80~1.80質量%、好ましくは1.00~1.60質量%のMnを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる鋳造圧延板を鋳造する。また、鋳造工程を行い得られる鋳造圧延板は、必要に応じて、任意添加元素として、更に、0.20質量%以下、好ましくは0.01~0.18質量%のCu、6.00質量%以下、好ましくは0.05~6.00質量%、特に好ましくは0.10~5.00質量%のZn、0.08質量%以下、好ましくは0.005~0.07質量%のMg、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のTi、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のZr、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のCr、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のV、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のBe、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のSr、0.30質量%以下、好ましくは0.0001~0.30質量%のBi、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のNa及び0.05質量%以下、好ましくは0.0001~0.05質量%のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を、含有することができる。また、鋳造工程を行い得られる鋳造圧延板は、必要に応じて、任意添加元素として、0.10質量%以下のIn、0.10質量%以下のSn、0.10質量%以下の希土類元素を含有してもよい。なお、鋳造工程では、上記化学組成を有するアルミニウム合金の溶湯を調製し、該溶湯を用いて連続鋳造圧延を行うことにより、鋳造圧延板の化学組成を上記化学組成とすることができる。
【0073】
冷間圧延工程は、鋳造工程を行い得られた鋳造圧延板を、冷間圧延する工程である。冷間圧延工程では、冷間圧延を2回以上行う。つまり、冷間圧延工程では、冷間圧延のパスを2回以上行う。冷間圧延工程における冷間圧延の回数は、適宜選択される。そして、冷間圧延工程では、アルミニウム合金板の板厚が、最終板の板厚となるまで、冷間圧延を行う。つまり、冷間圧延工程の最後の冷間圧延後のアルミニウム合金板の板厚が、最終板の板厚である。
【0074】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法では、鋳造工程後から冷間圧延工程の最終の冷間圧延前までの間に、焼鈍処理を1回以上行う。本発明のアルミニウム合金板の製造方法では、焼鈍処理を行うタイミングとしては、(1)鋳造工程を行った後且つ冷間圧延工程を行う前と、(2)冷間圧延工程で2回以上冷間圧延を行う場合、冷間圧延と冷間圧延の間と、があり、(1)及び(2)のうちのいずれか又は両方で、1回以上、好ましくは1~3回、より好ましくは1~2回の焼鈍処理を行う。冷間圧延工程で、3回以上冷間圧延を行う場合は、冷間圧延と冷間圧延の間が2以上あるが、そのような場合、冷間圧延工程で、2回以上焼鈍処理を行ってもよい。焼鈍処理は、アルミニウム合金板を軟化させて最終の冷間圧延で所望の強度を得易くするために行われ、この焼鈍処理により、アルミニウム合金板中の金属間化合物のサイズ及び密度、添加元素の固溶量を最適に調整することができる。なお、本発明のアルミニウム合金板の製造方法では、冷間圧延工程の最後の冷間圧延を行った後には、焼鈍処理を行わない。
【0075】
焼鈍処理における焼鈍条件は、焼鈍温度が200~550℃、好ましくは250~450℃であり、焼鈍時間が1~10時間である。つまり、焼鈍処理では、焼鈍温度200~550℃、好ましくは250~450℃で、焼鈍時間1~10時間で加熱する。焼鈍温度が、上記範囲未満では、アルミニウム合金板の軟化が不十分なために、加熱接合前の引張強さが高くなり、加熱接合前の引張強さが高いと、成形性に劣るためコア寸法が悪化し、結果として耐久性が低くなる。また、焼鈍温度が、上記範囲を超えると、アルミニウム合金板の軟化温度を超えて過大な温度で焼鈍することになり、経済的に不利となる。
【0076】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法では、最後の焼鈍処理を行った後に行う冷間圧延の総圧下率は、好ましくは20~50%、特に好ましくは25~40%である。最後の焼鈍処理を行った後に行う冷間圧延の総圧下率が、上記範囲にあることにより、「300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下である」アルミニウム合金板が得られ易くなる。なお、本発明において、最後の焼鈍処理とは、焼鈍処理を1回だけ行う場合、その1回の焼鈍処理を指し、焼鈍処理を2回以上行う場合は、それら2回以上の焼鈍処理のうち、最も後に行う焼鈍処理を指す。また、最後の焼鈍処理を行った後に行う冷間圧延の総圧下率A(%)は、以下の式にて算出される値である。
A(%)=((B-C)/B)×100
A:最後の焼鈍処理を行った後に行う冷間圧延の総圧下率(%)
B:最後の焼鈍処理を行った直後の圧延板の厚み
C:最後の冷間圧延を行った後の圧延板の厚み
【0077】
なお、最後の焼鈍処理を行った後に、1回だけの冷間圧延を行う場合は、その冷間圧延前の圧延板の厚みがBであり、その冷間圧延後の圧延板の厚みがCである。また、最後の焼鈍処理を行った後に、複数回の冷間圧延を行う場合は、最後の焼鈍処理を行った後の複数回の冷間圧延のうち、最初の冷間圧延前の圧延板の厚みがBであり、最後の冷間圧延後の圧延板の厚みがCである。
【0078】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法を行い得られるアルミニウム合金板の調質はO材でもよく、H材でもよい。アルミニウム合金板をH1n材又はH2n材とする場合は、最終冷間圧延率を、50%以下、好ましくは5~50%とする。最終冷間圧延率が50%を超えると、加熱時に再結晶核が多数発生し、接合加熱後の結晶粒径が微細になる。なお、最終冷間圧延率が5%未満では、製造が実質上に困難となる場合がある。
【0079】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法を行い得られるアルミニウム合金板は、液相率が5.0%以上35.0%以下となる温度において、単層で加熱接合する機能を有する。
【0080】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法では、鋳造工程において、連続鋳造圧延、好ましくは双ロール式連続鋳造圧延で鋳造圧延板を鋳造し、且つ、鋳造工程後から最終板を得るまでの間に、焼鈍処理を1回以上行い、その全ての焼鈍処理における焼鈍条件を、焼鈍温度200~550℃、好ましくは250~450℃、焼鈍時間1~10時間の条件とすることにより、好ましくは更に最後の焼鈍処理後の冷間圧延での総圧下率を20~50%、好ましくは25~40%とすることにより、「300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験、好ましくは300℃から400℃までを平均昇温速度60℃/分以下、好ましくは45℃/分以下で昇温し、400℃から580℃までを8±3分で昇温し、580℃から保持温度までを8±3分で昇温し、600±3℃で5±3分間保持する加熱試験において、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下である」アルミニウム合金板を製造することができる。
【0081】
本発明のアルミニウム合金板を用いて加熱接合する場合、本発明のアルミニウム合金板を所定の形状に成形し、更に、接合する相手材と組み合わせて、加熱接合温度で加熱することにより、加熱接合を行う。本発明のアルミニウム合金板を用いる加熱接合における、適切な加熱接合温度は、液相率が5~35%となる温度域であり、液相率5%以上で保持される時間が、30~3600秒であることが好ましい。液相が少ないと接合が困難となる場合があるため、液相率は5%以上にすることが好ましい。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎて、加熱接合時にアルミニウム合金材が大きく変形してしまい形状を保てなくなる。また、液相率が5%以上である時間が、30秒未満だと、接合部に液相が十分に充填されない場合があり、また、3600秒を超えると、アルミニウム材の変形が進む場合がある。このような条件を達成するために、加熱接合の際は、加熱温度を580℃~640℃とし、加熱温度での保持時間を0~10分程度とすればよい。ここで、0分とは、部材の温度が所定の接合温度に到達したらすぐに冷却を開始することを意味する。加熱接合の際の加熱条件については、変形なく健全な接合状態を達成するために、適切な範囲に調整した条件を用いてもよい。また、加熱接合の際の加熱雰囲気は、窒素又はアルゴン等で置換した非酸化性雰囲気等が好ましい。加熱接合において接合体を得る際には、非腐食性フラックスを使用することにより、更に良好な接合性を得ることができる。更に、加熱接合では、真空中や減圧中で加熱して接合することも可能である。
【0082】
本発明の熱交換器は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
少なくとも、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材と、アルミニウム合金からなる熱交換器用フィン材と、を組み合わせ、次いで、得られる組み合わせ体を加熱し、該熱交換器用チューブ材と該熱交換器用フィン材を接合して得られたものであり、
該熱交換器用フィン材が、本発明のアルミニウム合金板の成形体であること、
を特徴とする熱交換器である。
【0083】
本発明の熱交換器に係るアルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材としては、通常、アルミニウム合金製の熱交換器のチューブ材として用いられるアルミニウム合金材をチューブの形状にしたものであれば、特に制限されない。
【0084】
熱交換器用チューブ材を形成するアルミニウム合金の化学組成は、特に制限されないが、代表的な熱交換器用チューブ材を形成するアルミニウム合金としては、1000系、3000系アルミニウムが挙げられる。すなわち、純アルミニウムおよび純アルミニウムに対して0.60質量%以下のSi、0.70質量%以下のFe、0.70質量%以下のCu、及び2.00質量%以下のMnのうちの1種または2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。
【0085】
本発明の熱交換器に係るアルミニウム合金からなる熱交換器用フィン材は、本発明のアルミニウム合金板の成形体である。本発明の熱交換器の熱交換器用フィン材に用いられるアルミニウム合金板は、上記本発明のアルミニウム合金板と同様である。
【0086】
本発明の熱交換器は、少なくとも、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材及びアルミニウム合金からなる熱交換器用フィン材を組み合わせ、更に、それらに加え、ヘッダ、タンク、配管材等の必要部材を組み合わせた組み合わせ体が、加熱接合されたものである。
【0087】
組み合わせ体の加熱接合の際の加熱温度は、Siの含有量により、適宜選択される。また、Si以外に、Zn及びCuも、固相線温度に影響を与えるため、本発明のアルミニウム合金板が、Siに加え、Zn及び/又はCuを含有する場合は、組み合わせ体の加熱接合の際の加熱温度は、Siと、Zn及び/又はCuの含有量により、適宜選択される。組み合わせ体の加熱接合の際の加熱温度としては、本発明のアルミニウム合金板の液相率が5~35%となる温度域であり、液相率5%以上で保持される時間が、30~3600秒であることが好ましい。組み合わせ体の加熱接合の際の昇温速度は、一義的に規定されるものではなく、炉の構造や製品設計により適宜選択されるが、一般的には20~300℃/分である。
【0088】
つまり、本発明の熱交換器は、作動流体が流通するアルミニウム合金製のチューブと、該チューブに金属的に接合されたアルミニウム合金製のフィンと、を有する熱交換器であり、
該チューブは、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材を用いて形成され、
該フィンは、2.00~3.00質量%のSi、0.05~0.40質量%のFe及び0.80~1.80質量%のMnを含有し、Cu含有量が0.20質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、Zn含有量が6.00質量%以下(0.00質量%を含む。)であり、任意に、0.08質量%以下のMg、0.30質量%以下のTi、0.30質量%以下のZr、0.30質量%以下のCr、0.30質量%以下のV、0.10質量%以下のBe、0.10質量%以下のSr、0.30質量%以下のBi、0.10質量%以下のNa及び0.05質量%以下のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板を用いて形成されており、
該フィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向での割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であること、
を特徴する熱交換器である。
【0089】
本発明の熱交換器は、フィン材として、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板を用い、その相手材として、アルミニウム合金からなる熱交換器用チューブ材を用いて、加熱接合されたものである。
【0090】
本発明の熱交換器に係るフィンは、単層で加熱接合する機能を有するアルミニウム合金板を用いて形成されている。例えば、本発明の熱交換器に係るフィンは、上記本発明のアルミニウム合金を用いて形成されたものである。
【0091】
本発明の熱交換器に係るフィンを形成するアルミニウム合金は、2.00~3.00質量%、好ましくは2.10~2.80質量%、より好ましくは2.20~2.60質量%のSi、0.05~0.40質量%、好ましくは0.08~0.35質量%のFe及び0.80~1.80質量%、好ましくは1.00~1.60質量%のMnを含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金である。また、本発明の熱交換器に係るフィン材を形成するアルミニウム合金は、必要に応じて、任意添加元素として、更に、0.20質量%以下、好ましくは0.01~0.18質量%のCu、6.00質量%以下、好ましくは0.05~6.00質量%、特に好ましくは0.10~5.00質量%のZn、0.08質量%以下、好ましくは0.005~0.070質量%のMg、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のTi、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のZr、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のCr、0.30質量%以下、好ましくは0.05~0.30質量%のV、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のBe、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のSr、0.30質量%以下、好ましくは0.0001~0.30質量%のBi、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のNa及び0.05質量%以下、好ましくは0.0001~0.05質量%のCaのうちのいずれか1種又は2種以上を、含有することができる。また、本発明のアルミニウム合金板に係るアルミニウム合金は、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のIn、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のSn、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%のBe、0.10質量%以下、好ましくは0.0001~0.10質量%の希土類元素を含有してもよい。
【0092】
本発明の熱交換器に係るフィンの圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が1本以上の領域が、幅方向の割合で25%以上90%未満であり、且つ、板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径が950μm以下であるものは、ろう付加熱時に、母材から浸み出した液相の流路、つまり粒界が多く存在していたので、加熱接合によるフィレット面積が増大される。そのため、本発明の熱交換器に係るフィンは、Si含有量が少なくても、ろう付性に優れるので、本発明の熱交換器は、ろう付性と材料強度を両立する熱交換器となる。
【0093】
本発明の熱交換器に係るフィンは、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向における結晶粒界が2本以上の領域が、幅方向の割合で3%以上、好ましくは5%以上存在する。結晶粒界が2本以上の領域が上記範囲存在することで、母材から浸み出した液相の流路が多くなり、ろう付性に優れる。
【0094】
本発明の熱交換器に係るフィンは、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅が2000μm以下、好ましくは1800μm以下である。粒界結晶が0本の領域が上記範囲であることにより、母材から浸み出した液相の流路が多くなり、ろう付性に優れる。
【0095】
本発明の熱交換器に係るチューブを形成するアルミニウム合金は、通常、アルミニウム合金製の熱交換器のチューブとして用いられるアルミニウム合金であれば、特に制限されない。
【0096】
チューブを形成するアルミニウム合金の化学組成は、特に制限されないが、代表的な熱交換器用チューブ材を形成するアルミニウム合金としては、1000系、3000系アルミニウムが挙げられる。すなわち、純アルミニウムおよび純アルミニウムに対して0.60質量%以下のSi、0.70質量%以下のFe、0.70質量%以下のCu、2.00質量%以下のMnのうちの1種または2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。
【0097】
以下に、実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【実施例0098】
(実施例1、比較例1~2)
表1に示す合金組成を有するアルミニウム合金を用いて、双ロール式連続鋳造圧延によって鋳造圧延板を鋳造した。なお、表1の合金組成において、「-」は検出限界以下であることを示すものであり、「残部」には不可避不純物が含まれる。双ロール式連続鋳造圧延で鋳造する際の溶湯温度は600~800℃であり、鋳造圧延板の厚さは6.0mmであった。
次いで、得られた板状の鋳造圧延板を420℃において2時間の焼鈍を行った後、表2に示す板厚(1回目冷間圧延後)まで冷間圧延した。次いで、370℃で2時間の焼鈍を行った後、板厚0.070mmまで冷間圧延をして供試材(最終板)とした。
以上の各供試材について、加熱試験後の圧延面に垂直方向且つ圧延方向に垂直方向の断面において、板厚方向での結晶粒界が2本以上の領域、1本以上の領域、0本の領域の最大幅、板表面から見た圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径、フィレット面積及びろう付加熱後の引張強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0099】
<加熱試験>
供試材を不活性ガス雰囲気中で、300℃から400℃までを41℃/分の昇温速度で、400℃から580℃までを7.2分で昇温し、580℃から600℃までが7.4分となるように昇温し、600±3℃の保持温度まで加熱し、次いで、600±3℃で4.7分間保持し、次いで、室温まで冷却し、加熱試験後の試験材を得た。
【0100】
<断面の結晶粒界の測定>
ろう付加熱後のサンプルを圧延面に垂直、圧延方向に垂直方向に切り出して、樹脂埋め及び鏡面研磨した。
次いで、研磨した埋め込み樹脂をSWAAT試験液に12時間浸漬した。その後、樹脂表面を軽く鏡面研磨して汚れを除去した。
次いで、金属組織観察用の顕微鏡で断面組織を200倍で撮影した。このとき観察長を全長で約25mmとした。
撮影した断面写真について、粒界をより見やすくするために、赤色で着色した。
結晶粒界が1本以上の領域を枠で囲い、各枠囲みした部分の幅方向の長さを求め、全てを合計し、合計を観察した領域の幅方向の全長で割ることで、結晶粒界が1本以上の領域が占める割合を算出した。また、結晶粒界が2本以上の領域を枠で囲い、各枠囲みした部分の幅方向の長さを求め、全てを合計し、合計を観察した領域の幅方向の全長で割ることで、結晶粒界が2本以上の領域が占める割合を算出した。
結晶粒界が0本の領域については、1本以上の領域として枠囲みされていない部分のうち、最も幅方向の長さが大きいところの幅方向の長さを測定し、板厚方向の結晶粒界が0本の領域の最大幅として求めた。
【0101】
<表面の結晶粒界の測定>
ろう付加熱後のサンプルを20mm×30mmに切断し、板表面から研磨して面削し、板厚の中心部を露出させた。
次いで、鏡面研磨、パーカーエッチングを行い、金属顕微鏡で偏光観察した。倍率20倍で6視野撮影し、結晶組織を倍率20倍で6視野分、つなぎで観察した(圧延方向に対して平行となるように観察した)。
圧延方向に対して垂直に6mmの線を1mmピッチで10本引き、10本の線上にある結晶粒数をカウントし、結晶粒数の合計を求め、下記式:
平均結晶粒径(μm)=(6000×10)/10本の線上にある結晶粒数の合計
にて、平均結晶粒径を算出した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
鋳造方法CC:双ロール式連続鋳造圧延
平均結晶粒径:加熱試験後の板表面における圧延方向に垂直方向の平均結晶粒径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7