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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147047
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】3Dプリンタ
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/141 20170101AFI20241008BHJP
   B29C 64/364 20170101ALI20241008BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20241008BHJP
   B29C 64/25 20170101ALI20241008BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20241008BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241008BHJP
【FI】
B29C64/141
B29C64/364
B29C64/268
B29C64/25
B33Y30/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059815
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 純
(72)【発明者】
【氏名】西村 孝浩
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC04
4F213AM28
4F213AR07
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL10
4F213WL12
4F213WL32
4F213WL43
4F213WL67
4F213WL74
4F213WL87
4F213WL96
(57)【要約】
【課題】無重力(微小重力)若しくは低重力の環境において、広範な種類の材料を原料として、広範な雰囲気において物品を製造することが可能であり、しかも所要電力の小さな3Dプリンタを提供する。
【解決手段】3Dプリンタは、内部チャンバを取り囲むハウジングと、内部チャンバに配置され物品の製造に用いられる材料を溶融させるための材料溶融セクションと、内部チャンバに配置され溶融した材料を順次付加することにより物品が造形される物品造形セクションとを備え、材料溶融セクションは、材料を材料溶融位置に供給するための材料供給システムと、静電力を利用して材料を材料溶融位置で浮遊させる機能を有する材料位置制御システムと、材料を加熱するための材料加熱システムとを備え、材料位置制御システムは、材料加熱システムによる加熱によって溶融した材料を、材料溶融位置から物品造形セクション内で造形されつつある物品の表面へ移動させる機能をも有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を製造するための3Dプリンタであって、
内部チャンバを取り囲むハウジングと、
前記内部チャンバに配置され、前記物品の製造に用いられる材料を溶融させるための材料溶融セクションと、
前記内部チャンバに配置され、溶融した前記材料を順次付加することにより前記物品が造形される物品造形セクションと、を備え、
前記材料溶融セクションは、
前記材料を材料溶融位置に供給するための材料供給システムと、
静電力を利用して前記材料を前記材料溶融位置で浮遊させる機能を有する材料位置制御システムと、
前記材料を加熱するための材料加熱システムと、を備え、
前記材料位置制御システムは、前記材料加熱システムによる加熱によって溶融した前記材料を、前記材料溶融位置から前記物品造形セクション内で造形されつつある前記物品の表面へ移動させる機能をも有する、3Dプリンタ。
【請求項2】
前記材料位置制御システムは、空間内の互いに異なる方向においてそれぞれ対向して配置された少なくとも3対の電極対と、前記電極対のそれぞれを構成する電極に印加される電圧を制御する制御装置と、を備え、
前記材料加熱システムは、前記材料溶融位置に向けてレーザビームを照射する少なくとも1つのレーザ照射装置を備える、請求項1に記載の3Dプリンタ。
【請求項3】
前記物品造形セクションは、造形されつつある前記物品を、静電力を利用して空間内で浮遊させる機能を有する物品位置制御システムを備える、請求項1又は2に記載の3Dプリンタ。
【請求項4】
前記材料加熱システムは、溶融した前記材料が、前記材料溶融位置から前記物品造形セクション内で造形されつつある前記物品の表面へ移動する際に、溶融した前記材料を加熱する更なるレーザ照射装置を備える、請求項1又は2に記載の3Dプリンタ。
【請求項5】
前記物品造形セクションは、造形されつつある前記物品の表面のうち、前記材料溶融セクションから飛来する溶融した前記材料が付加される部位及びその近傍を加熱するための材料付加部加熱システムを備える、請求項1又は2に記載の3Dプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3Dプリンタ、特に無重力(微小重力)若しくは低重力の環境における物品の製造に適した3Dプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造(additive manufacturing)技術を利用して物品を製造する3Dプリンタは、近年、広く使用されるようになっている。
【0003】
このうち、金属材料から物品を製造する3Dプリンタの主要な方式として、以下の3つが知られている。
・粉末床溶融結合法(powder bed fusion)
・結合剤噴射法(binder jetting)
・指向エネルギー堆積法(directed energy deposition)
【0004】
粉末床溶融結合法は、ステージ上に敷き詰められた金属粉末に対してレーザビームを照射してこれを溶融、固化させるという工程を繰り返すことにより、所望の形状を有する物品を製造する方法である。
【0005】
結合剤噴射法は、液体の結合剤をステージ上に敷き詰められた金属粉末に対して噴射してこれを固形化させるという工程を繰り返すことにより、所望の形状を有する物品を製造する方法である。
【0006】
指向エネルギー堆積法は、金属粉末の供給とレーザビームの照射とを同時に行うノズルをステージの表面に沿って走査させ、ステージ表面に金属粉末を線状に溶着させてゆくことにより、所望の形状を有する物品を製造する方法である。
【0007】
以上の3つの方式は、いずれも、製造されつつある物品を支持するためのステージを必要とするため、製造可能な物品の形状が制約を受ける、製造工程終了後に物品をステージから分離させる必要がある等の問題があった。
【0008】
この問題を解決するために、特許文献1は、製造されつつある物品を音波又は磁気を利用して空中に浮遊させ、周囲に配置されたヘッドから材料を噴射して物品の表面に付加してゆく方式を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0009158号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、3Dプリンタによる金属物品の製造に対するニーズが、近年、宇宙空間において高まっている。
【0011】
例えば、宇宙ステーションにおいて、消耗、破損等の理由により設備・装置等の部品を交換する必要が生じた場合、当該部品の代替品を直ちに地上から送り届けることは実質的に不可能である。また、地上からの物資の輸送は、重量、容積等の制約により必要最小限とすることが求められるため、交換を想定して部品を予め輸送しておくことも実質的に不可能である。そのため、交換が想定される部品の材料のみを予め輸送しておき、当該部品の製造は、宇宙ステーションにおいて、3Dプリンタによって行うことが有効である。3Dプリンタを利用することにより、様々な加工機械等を必要とすることなく、材料から直接的に部品を製造することができるからである。更に、月、小惑星、火星等の遠隔地では、物資の輸送がより困難になることに加え、材料を現地で入手することも可能になるため、3Dプリンタの有効性が飛躍的に高まる。
【0012】
宇宙ステーション、月等において3Dプリンタを使用する場合、そこが無重力(微小重力)若しくは低重力の環境であることを考慮しなければならない。
なお、一般に用いられている用語「無重力」に対応する用語として、当該技術分野においては「微小重力」が用いられており、当該「微小重力」は、10-2~10-6G程度の重力を指す(例えば、宇宙ステーションにおいては10-4G程度、小惑星においては10-2~10-5G程度)。一方、「低重力」は、地球よりも小さな0.1~0.5G程度の重力(例えば、月、火星等における重力)を指す。
【0013】
上述した粉末床溶融結合法又は結合剤噴射法を採用した3Dプリンタの場合、無重力(微小重力)若しくは低重力の環境においては金属粉末が空間中に拡散し易いため、ステージ上に金属粉末が敷き詰められた状態を、製造工程を通じて保持することが困難である。
一方、金属粉末同士の摩擦に起因して静電気が発生すると、金属粉末がステージに強固に付着してしまい、製造工程終了後に金属粉末をステージから除去することが困難となる。除去のためにステージに対してガスや液体を噴射する方法も考えられるが、装置全体が大型化してしまうという問題がある。
また、ステージ以外に付着した粉末も、様々な問題を引き起こす。例えば、地球の1/6の低重力環境である月では、粉末状のレゴリスが静電気によって宇宙服、ローバー等に付着し、取り除くことが困難なうえ、様々な故障を引き起こすことが分かっている。
【0014】
一方、上述した指向エネルギー堆積法を採用した3Dプリンタの場合、微細な構造を有する部品の製造が困難であるうえ、数kWレベルの大電力が必要になるという問題がある。
【0015】
これに対して、特許文献1の方式を採用した3Dプリンタでは、材料が粉末であることに起因する上述したような問題は生じないものの、製造されつつある物品を空中に浮遊させるために磁気を利用する場合には、非磁性体の金属を原料として物品を製造することができないという問題がある。
【0016】
また、3Dプリンタによって金属物品を製造する際、原料となる金属材料の酸化が問題になるため、製造工程をArガス等の不活性ガス中で行うことが多いが、PPMレベルの残留酸素が問題になる場合は、製造工程を高真空中で行うことが必要である。しかしながら、特許文献1の方式を採用した3Dプリンタでは、製造されつつある物品を空中に浮遊させるために音波を利用する場合には、媒質の存在しない真空中では物品を製造することができないという問題がある。
【0017】
本開示は、以上のような問題に鑑みてなされたものであって、無重力(微小重力)若しくは低重力の環境において、広範な種類の材料を原料として、広範な雰囲気(空気、空気以外のガス又は真空)において物品を製造することが可能であり、しかも所要電力の小さな3Dプリンタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本開示の第1の態様の3Dプリンタは、内部チャンバを取り囲むハウジングと、前記内部チャンバに配置され、前記物品の製造に用いられる材料を溶融させるための材料溶融セクションと、前記内部チャンバに配置され、溶融した前記材料を順次付加することにより前記物品が造形される物品造形セクションと、を備え、前記材料溶融セクションは、前記材料を材料溶融位置に供給するための材料供給システムと、静電力を利用して前記材料を前記材料溶融位置で浮遊させる機能を有する材料位置制御システムと、前記材料を加熱するための材料加熱システムと、を備え、前記材料位置制御システムは、前記材料加熱システムによる加熱によって溶融した前記材料を、前記材料溶融位置から前記物品造形セクション内で造形されつつある前記物品の表面へ移動させる機能をも有する。
【0019】
本開示の第2の態様の3Dプリンタにおいて、前記材料位置制御システムは、空間内の互いに異なる方向においてそれぞれ対向して配置された少なくとも3対の電極対と、前記電極対のそれぞれを構成する電極に印加される電圧を制御する制御装置と、を備え、前記材料加熱システムは、前記材料溶融位置に向けてレーザビームを照射する少なくとも1つのレーザ照射装置を備える。
【0020】
本開示の第3の態様の3Dプリンタにおいて、前記物品造形セクションは、造形されつつある前記物品を、静電力を利用して空間内で浮遊させる機能を有する物品位置制御システムを備える。
【0021】
本開示の第4の態様の3Dプリンタにおいて、前記材料加熱システムは、溶融した前記材料が、前記材料溶融位置から前記物品造形セクション内で造形されつつある前記物品の表面へ移動する際に、溶融した前記材料を加熱する更なるレーザ照射装置を備える。
【0022】
本開示の第5の態様の3Dプリンタにおいて、前記物品造形セクションは、造形されつつある前記物品の表面のうち、前記材料溶融セクションから飛来する溶融した前記材料が付加される部位及びその近傍を加熱するための材料付加部加熱システムを備える。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、無重力(微小重力)若しくは低重力の環境において、広範な種類の材料を原料として、広範な雰囲気(空気、空気以外のガス又は真空)において物品を製造することができ、しかも所要電力が小さいという、優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の実施形態の3Dプリンタの構成を示す概略説明図である。
図2A図1の3Dプリンタを用いて物品を製造する工程における材料供給ステップを示す概略説明図である。
図2B図1の3Dプリンタを用いて物品を製造する工程における材料溶融ステップを示す概略説明図である。
図2C図1の3Dプリンタを用いて物品を製造する工程における溶融材料移動ステップを示す概略説明図である。
図2D図1の3Dプリンタを用いて物品を製造する工程における溶融材料付着ステップを示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0026】
図1は、本開示の実施形態の3Dプリンタ10の構成を示す概略説明図である。
【0027】
3Dプリンタ10は、ハウジング12を備えており、当該ハウジング12に囲まれた内部チャンバCには、材料溶融セクション20と、物品造形セクション30と、が配置されている。
【0028】
材料溶融セクション20は、物品の製造に用いられる材料を溶融させるためのセクションであって、材料位置制御システム22と、材料加熱システム24と、材料供給システム26と、を備えている。
【0029】
材料位置制御システム22は、空間内に電界を発生させることにより、静電力を利用して材料Mを浮遊させた状態(図2A及び図2B参照)で、その位置を制御するためのシステムであって、空間内の互いに異なる方向においてそれぞれ対向して配置された少なくとも3対の電極対と、これらの電極対を構成する電極のそれぞれに印加される電圧を制御する制御装置(図示省略)と、を備えている。
【0030】
図示された実施例において、材料位置制御システム22は、空間内の互いに直交する3つの方向(X方向、Y方向、Z方向)においてそれぞれ対向して配置された3つの電極対22X、22Y、22Zを備えている。
【0031】
材料位置制御システム22の制御装置(図示省略)は、材料Mの位置が目標位置に一致するよう、電極対22Xを構成する電極22X1及び22X2、電極対22Yを構成する電極22Y1及び22Y2、電極対22Zを構成する電極22Z1及び22Z2のそれぞれに印加される電圧を制御するように構成されている。
【0032】
材料Mを溶融させる際、材料Mの目標位置は、材料溶融セクション20の中央の材料溶融位置Fとされる。この時、材料Mは、材料溶融位置Fにおいて静止した状態となる。
【0033】
なお、材料位置制御システム22は、溶融した材料Mを材料溶融セクション20内から物品造形セクション30内へ移動させる機能も有しているが、これについては後述する。
【0034】
材料加熱システム24は、材料溶融位置Fにおいて浮遊している材料Mを加熱するためのシステムであって、材料溶融位置Fに向けてレーザビームを照射する少なくとも1つのレーザ照射装置を備えている。
【0035】
図示された実施例において、材料加熱システム24は、空間内の互いに直交する3方向から材料溶融位置Fに向けてレーザビームを照射する3基のレーザ照射装置24X、24Y、24Zから構成されている。なお、材料加熱システム24を構成するレーザ照射装置の数及び配置は、上述したものに限定されず、例えばレーザ照射装置の数は3基より多くても少なくてもよい。
【0036】
また、材料加熱システム24は、上述した3基のレーザ照射装置の他に、更なるレーザ照射装置24Pを備えている。当該レーザ照射装置24Pは、後述するように溶融した材料Mを材料溶融セクション20内から物品造形セクション30内へ移動させる際、溶融した状態を維持し得るよう材料Mを加熱するために設けられている。
【0037】
材料供給システム26は、物品の製造に用いられる材料Mを、材料溶融位置Fに供給するためのシステムである。
【0038】
材料Mとしては、後述するようにレーザビームを照射された際に変性してしまうことのない程度に融点の高いものであれば、任意のものを用いることができる。好適な材料としては、金属及びセラミックスを挙げることができ、その形態は粉末であることが好ましく、当該粉末の直径は0.1~2.0mm程度であることが好ましい。
【0039】
材料供給システム26は、図示された実施例では、材料Mの粉末を材料溶融位置Fに向けて噴射するノズルとして構成されている。しかしながら、材料供給システム26は、上述した態様の材料を材料溶融位置Fに供給できるものであれば如何なるものであってもよい。例えば、材料を保持した先端部を材料溶融位置Fまで伸ばすことができるように構成された棒状の送給器を用いることもできる。
【0040】
物品造形セクション30は、材料Mを順次付加することにより物品を造形するためのセクションであって、図示された実施例では、物品位置制御システム32と、材料付加部加熱システム34と、を備えている。
【0041】
物品位置制御システム32は、空間内に電界を発生させることにより、静電力を利用して、造形されつつある物品Aを空間内で浮遊させるためのシステムであって、空間内の互いに異なる方向においてそれぞれ対向して配置された少なくとも3対の電極対と、これらの電極対を構成する電極のそれぞれに印加される電圧を制御する制御装置(図示省略)と、を備えている。
【0042】
図示された実施例において、物品位置制御システム32は、空間内の互いに直交する3つの方向(X方向、Y方向、Z方向)においてそれぞれ対向して配置された3つの電極対32X、32Y、32Zを備えている。
【0043】
物品位置制御システム32の制御装置(図示省略)は、造形されつつある物品Aの位置が目標位置に一致するよう、電極対32Xを構成する電極32X1及び32X2、電極対32Yを構成する電極32Y1及び32Y2、電極対32Zを構成する電極32Z1及び32Z2のそれぞれに印加される電圧を制御するように構成されている。また、物品位置制御システム32の制御装置は、溶融した材料Mが材料溶融セクション20の方向から(図1においては左方から)のみ付加されることを考慮して、必要に応じて、造形されつつある物品Aの空間内における位置及び配向を変更するよう、すなわち造形されつつある物品Aを空間内で並進運動及び/又は回転運動させるよう、3つの電極対32X、32Y、32Zを構成する電極のそれぞれに印加される電圧を制御することができるように構成されている。
【0044】
なお、製造しようとする物品Aの形状によっては、その空間内における位置及び配向を変更する必要がない場合もある。この場合は、物品Aを、空間内で浮遊させるのではなく、例えば板状のステージ(図示省略)の表面に固着された状態で支持してもよい。
【0045】
材料付加部加熱システム34は、図示された例では、造形されつつある物品Aの表面、特に材料溶融セクション20から飛来する溶融状態の材料Mが付加される部位及びその近傍を加熱するために、当該部位に向けてレーザビームを照射するレーザ照射装置34から構成されている。なお、材料付加部加熱システム34を構成するレーザ照射装置の数及び配置は、上述したものに限定されず、例えばレーザ照射装置の数は1基より多くてもよい。
【0046】
なお、ハウジング12に囲まれた内部チャンバCは、物品の製造に用いられる材料Mの特性に応じて、真空とすることもできるし、空気又は空気以外のガス(例えば、窒素、不活性ガス等)で満たされた雰囲気とすることもできる。
【0047】
以上のように構成された本開示の実施形態の3Dプリンタ10を用いて物品Aを製造する工程を、図2A図2Dを参照して以下で説明する。
【0048】
図2A図2Dは、本開示の実施形態の3Dプリンタ10を用いて物品Aを製造する工程を示す概略説明図であり、図2Aは材料供給ステップを、図2Bは材料溶融ステップを、図2Cは溶融材料移動ステップを、図2Dは溶融材料付着ステップを、それぞれ示している。
【0049】
図2Aの材料供給ステップでは、材料位置制御システム22の作動下で、すなわち材料Mの位置が目標位置に一致するよう各電極(22X1,22X2;22Y1,22Y2;22Z1,22Z2)に印加される電圧が制御装置によって制御されている状態で、材料供給システム26によって材料Mが供給され、当該材料Mが材料溶融位置Fにおいて浮遊した状態となる。
【0050】
次に、図2Bの材料溶融ステップでは、材料溶融位置Fにおいて浮遊している材料Mに向けて、材料加熱システム24を構成するレーザ照射装置24X、24Y、24ZからレーザビームLが照射される。これにより、材料Mは、材料溶融位置Fにおいて浮遊したまま溶融状態となる。
【0051】
続いて、図2Cの溶融材料移動ステップでは、材料位置制御システム22によって、溶融した材料Mが、溶融材料移動経路(図2Cにおいては、後述するレーザ照射装置24Pから照射されるレーザビームLの経路に一致)上を移動する。ここで、溶融材料移動経路は、材料溶融セクション20内の材料溶融位置Fと、物品造形セクション30内において造形されつつある物品Aの表面のうち材料Mが付着すべき部位(材料付着部位)と、を結ぶ直線であり、溶融した材料Mは、当該溶融材料移動経路上を前者から後者へ向かって移動する。
【0052】
そのために、材料位置制御システム22の制御装置は、溶融した材料Mの目標位置を溶融材料移動経路に沿って移動させる。すなわち、溶融した材料Mの目標位置は、溶融材料移動ステップの開始時には材料溶融位置Fであるが、同ステップの終了時には材料付着部位となる。
【0053】
このようにして、溶融した材料Mは、最終的には図2Dに示すように、造形されつつある物品Aの表面に付着する(溶融材料付着ステップ)。
【0054】
なお、材料溶融セクション20から物品造形セクション30への移動中に、材料Mが溶融した状態を維持し得るよう、上述したレーザ照射装置24Pから溶融材料移動経路に沿うレーザビームLを照射することにより、材料Mを加熱することが望ましい。
【0055】
また、造形されつつある物品Aに求められる強度によっては、当該物品Aの表面の材料付着部位に対して、上述した材料付加部加熱システム(レーザ照射装置)34からレーザビームLを照射することにより、材料付着部位及びその近傍を加熱することが望ましい。
【0056】
以上のように、材料供給ステップ(図2A)、材料溶融ステップ(図2B)、溶融材料移動ステップ(図2C)、溶融材料付着ステップ(図2D)の4つのステップを1つの工程として、当該工程を繰り返すことにより、物品造形セクション30において、所望の形状を有する物品Aを製造することができる。
【0057】
以上で説明した本開示の実施形態の3Dプリンタによれば、公知の粉末床溶融結合法又は結合剤噴射法を採用した3Dプリンタとは異なり、製造工程前に材料粉末をステージ上に敷き詰めたり、製造工程後に材料粉末をステージから除去したりする必要がないため、帯電した粉末が問題になる無重力(微小重力)若しくは低重力環境で使用できるとともに、装置をコンパクトに構成することができ、したがって、コストを低減することができる。
【0058】
また、本開示の実施形態の3Dプリンタによる物品の製造工程は、前工程(材料粉末の敷き詰め)及び後工程(材料粉末の除去)のない1工程のみとなるため、物品の製造を迅速に行うことができる。
【0059】
更に、本開示の実施形態の3Dプリンタによる物品の製造工程において、溶融させる材料は微小粉末である。そのため、微細な構造を有する物品も容易に製造することができる。
【0060】
更に、本開示の実施形態の3Dプリンタによる物品の製造工程において、溶融させる材料は微小粉末であり、その熱容量は小さい。また、同製造工程においては、材料粉末を空間内で浮遊させた状態で加熱するため、公知の粉末床溶融結合法又は結合剤噴射法のようにステージへの熱伝導がある場合と比較して、周囲への放熱量が小さく、材料加熱システムを構成するレーザ照射装置の出力を低く抑えることができ、3Dプリンタの所要電力も低く抑えることができる。
【0061】
以上のように、本開示の実施形態の3Dプリンタによれば、無重力(微小重力)若しくは低重力の環境において、広範な種類の材料を原料として、広範な雰囲気(空気、空気以外のガス又は真空)において物品を製造することができ、しかも所要電力が小さいという、優れた効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0062】
10 3Dプリンタ
12 ハウジング
20 材料溶融セクション
22 材料位置制御システム
22X,22Y,22Z 電極対
24 材料加熱システム
24X,24Y,24Z レーザ照射装置
24P レーザ照射装置
26 材料供給システム
30 物品造形セクション
32 物品位置制御システム
34 材料付加部加熱システム
A 物品
C 内部チャンバ
F 材料溶融位置
M 材料
図1
図2A
図2B
図2C
図2D