(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147048
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】トランスミッション構造
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20241008BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20241008BHJP
F16H 61/686 20060101ALI20241008BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20241008BHJP
B60K 17/10 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/04
F16H61/686
F16H59/68
B60K17/10 D
B60K17/10 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059816
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】弁理士法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拓海
(72)【発明者】
【氏名】小和田 七洋
(72)【発明者】
【氏名】岩木 浩二
(72)【発明者】
【氏名】本岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】小倉 康平
【テーマコード(参考)】
3D042
3J552
【Fターム(参考)】
3D042AA01
3D042AB07
3D042AB11
3D042BA02
3D042BA07
3D042BA08
3D042BC07
3D042BD02
3D042BD08
3J552MA02
3J552MA04
3J552MA10
3J552MA21
3J552NA05
3J552NB01
3J552PA02
3J552PA20
3J552RA02
3J552SA03
3J552SA31
3J552SB31
3J552SB33
3J552VA07W
3J552VA11W
3J552VA37Z
3J552VA52Z
3J552VA62W
3J552VB01Z
(57)【要約】
【課題】走行駆動状態中に駆動状態を遮断し、再度、走行駆動状態に復帰させる際の走行フィーリングを向上させ得るトランスミッション構造を提供する。
【解決手段】制御装置は、変速操作部材が前進又は後進操作されている状態で動力遮断信号を入力すると、選択されている変速段の伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるようにクラッチアクチュエータを作動させ、動力遮断信号の有効中においては、走行状態に基づいて選択された予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるようにクラッチアクチュエータを作動させつつ、予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるようにHSTアクチュエータを作動させ、動力遮断信号の取り消し信号を入力すると、その時点での予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構が係合状態となるようにクラッチアクチュエータを作動させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速及び当該トランスミッション構造のTM速比の少なくとも一方を検出する走行センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を行なう制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記変速操作部材が前進位置又は後進位置に位置されている際に車速及びTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と一致している駆動状態においては、その時点の走行状態に応じた変速段を現出させる為のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、当該変速段において前記変速操作部材の操作状態に応じた駆動回転速が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、
前記駆動状態において動力遮断信号を入力すると、選択されている変速段における伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、
動力遮断信号の有効中においては、車速及びTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態に基づいて係合させるべき予定変速段を判断し、前記予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速に応じた出力状態を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材が前進又は後進操作されている状態において動力遮断信号の取り消し信号が入力されて駆動状態に復帰する際には、その時点での予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項2】
前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力する前進側伝動機構及び後進側伝動機構とを含み、
前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み、
前記制御装置は、
車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態が第1/第2速段切替速以下の第1速段範囲内の際には、前記入力側第1クラッチ機構と前記出力側第1クラッチ機構と前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構とが係合状態とされることによって現出される第1速段を予定変速段と判断し、
車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態が第1/第2速段切替速より高速の第2速段範囲内の際には、前記入力側第2クラッチ機構と前記出力側第2クラッチ機構と前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構とが係合状態とされることによって現出される第2速段を前記予定変速段と判断するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション構造。
【請求項3】
前記制御装置は、
駆動状態復帰の際に、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と同じである場合、又は、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向であるが予め設定されたゼロ速近傍しきい値以下の値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を前記予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構と判断して係合状態へ移行させ、
駆動状態復帰の際に、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向で且つ前記ゼロ速近傍しきい値を越えた値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対の前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を前記予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構と判断して係合状態へ移行させ、
駆動状態復帰の際に前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対の前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構と判断して当該クラッチ機構を係合状態へ移行させた場合には、当該クラッチ機構が所定タイミングで解除状態へ移行し、さらに、前記走行状態のゼロ速に応じて前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構が係合状態へ移行されるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とする請求項2に記載のトランスミッション構造。
【請求項4】
前記所定タイミングは、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構が係合状態へ移行された時点から予め設定された所定時間が経過した時点とされている請求項3に記載のトランスミッション構造。
【請求項5】
前記所定タイミングは、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を係合状態へ移行させる時点とされている請求項3に記載のトランスミッション構造。
【請求項6】
前記伝動機構は、さらに、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構を介して前記変速出力軸に作動連結された走行出力軸と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進駆動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構とを備え、
前記クラッチ機構は、さらに、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構を備え、
前記制御装置は、
車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態が第2速段範囲よりも高速の第3速段範囲内の際には、前記入力側第2クラッチ機構と前記出力側第3クラッチ機構とが係合状態とされることによって現出される第3速段を予定変速段と判断するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のトランスミッション構造。
【請求項7】
前記制御装置は、
駆動状態復帰の際に、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と同じである場合、又は、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向であるが予め設定されたゼロ速近傍しきい値以下の値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた進行方向で且つその時点の車速に応じた変速段を予定変速段と判断し、
駆動状態復帰の際に、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向で且つ前記ゼロ速近傍しきい値を越えた値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向で且つその時点の車速に応じた変速段を前記予定変速段と判断するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載のトランスミッション構造。
【請求項8】
前記制御装置は、係合させるべき予定変速段の判断についてはTM速比に基づき行ないつつ、ゼロ速近傍しきい値を越えているか否かの判断については車速に基づいて行うように構成されている3又は6に記載のトランスミッション構造。
【請求項9】
駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
複数の変速段を有する伝動機構と、前記駆動輪を前進方向へ駆動する前進駆動状態及び後進方向へ駆動する後進駆動状態をそれぞれ現出可能な前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構を含み、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速及び当該トランスミッション構造のTM速比の少なくとも一方を検出する走行センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を行なう制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記変速操作部材が前進位置又は後進位置に位置されている際に車速及びTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作位置と一致している駆動状態においては、その時点の走行状態に応じた変速段を現出させる為のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、当該変速段において前記変速操作部材の操作状態に応じた駆動回転速が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材が前進位置又は後進位置からニュートラル位置へ操作されると、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の双方が解除状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材がニュートラル位置に位置されている際には、その時点の前記走行状態に基づき係合させるべき予定変速段を判断し、前記予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つその他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材がニュートラル位置から前進位置又は後進位置へ操作されて駆動状態に復帰する際には、その時点の前記予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が解除状態から係合状態へ移行するように前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項10】
前記制御装置は、前記変速操作部材のニュートラル位置から前進位置又は後進位置への操作に応じて駆動状態に復帰する際の予定変速段が、前記変速操作部材の前後進操作位置に応じた進行方向とは異なる方向の回転駆動力を出力する変速段である場合には、駆動状態復帰の際に係合状態へ移行させた伝動方向最下流クラッチ機構を、係合状態へ移行させてから所定時間経過後に解除状態へ移行させるように構成されていることを特徴とする請求項9に記載のトランスミッション構造。
【請求項11】
前記制御装置は、前記変速操作部材のニュートラル位置から前進位置又は後進位置への操作に応じて駆動状態に復帰する際の予定変速段が、前記変速操作部材の前後進操作位置に応じた進行方向とは異なる方向の回転駆動力を出力する変速段である場合には、前記走行状態の変化に応じて次の変速段の伝動方向最下流クラッチ機構を係合状態へ移行させるタイミングで、駆動状態復帰の際に係合状態へ移行されたクラッチ機構を解除状態へ移行するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載のトランスミッション構造。
【請求項12】
前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力する前進側伝動機構及び後進側伝動機構とを含み、
前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含むことを特徴とする請求項10又は11に記載のトランスミッション構造。
【請求項13】
前記伝動機構は、さらに、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構を介して前記変速出力軸に作動連結された走行出力軸と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進駆動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構とを備え、
前記クラッチ機構は、さらに、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構を備えることを特徴とする請求項12に記載のトランスミッション構造。
【請求項14】
駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、車速に応じた変速段が現出するように前記クラッチアクチュエータを作動させ且つ前記変速操作部材の操作に応じて前記HSTアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記変速操作部材の操作方向及び車速に基づいて画される一の変速段での駆動状態において動力遮断信号を入力すると、前記一の変速段での駆動状態を現出させる複数のクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材が前進又は後進方向へ操作されている状態での動力遮断信号の有効中においては、前記変速操作部材の操作方向に応じた駆動方向で且つその時点の車速に対応した予定変速段を判断し、前記予定変速段を現出させる複数のクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材が前進又は後進方向へ操作されている状態において動力遮断信号の取り消し信号を入力すると、その時点での予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項15】
前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力する前進側伝動機構及び後進側伝動機構とを含み、
前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み、
前記制御装置は、
前記変速操作部材の前後進操作に応じて前記前進側及び後進側クラッチ機構の係脱の切替が行われるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
車速が第1速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態を現出させ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせることで前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
車速が第1速段範囲より高速の第2速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態を現出させつつ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とする請求項14に記載のトランスミッション構造。
【請求項16】
前記変速操作部材は、車速設定部材及び前後進切替操作部材を含み、
前記制御装置は、前記車速設定部材の操作に応じて前記HSTアクチュエータを作動させ、前記前後進切替操作部材の操作に応じて前記前進側及び後進側クラッチ機構の係脱の切替が行われるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とする請求項15に記載のトランスミッション構造。
【請求項17】
前記伝動機構は、さらに、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構を介して前記変速出力軸に作動連結された走行出力軸と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進駆動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構とを備え、
前記クラッチ機構は、さらに、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構を備え、
前記制御装置は、車速が第2速段範囲よりも高速の第3速段範囲内の際には第2HMT伝動状態を現出させた状態で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構が解除状態とされ、前記出力側第3クラッチ機構が係合状態とされ、且つ、前記前進側クラッチ機構が解除状態とされるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とする請求項15に記載のトランスミッション構造。
【請求項18】
前記動力遮断信号は、ブレーキ操作部材からのブレーキ係合操作信号、又は、クラッチ操作部材からのクラッチ解除操作信号であることを特徴とする請求項14から17の何れかに記載のトランスミッション構造。
【請求項19】
駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、
前記駆動輪を前進方向へ駆動する前進駆動状態及び後進方向へ駆動する後進駆動状態をそれぞれ現出可能な前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構を含み、複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、前記変速操作部材の前後進操作に応じた駆動方向で且つ車速に応じた変速段が現出するように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の変速操作に応じて前記HSTアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記変速操作部材の前進操作又は後進操作からのニュートラル操作に基づくニュートラル信号を入力すると、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の双方が解除状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
前記ニュートラル信号の有効中においては、その時点の車速に対応した予定変速段を判断し、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の解除状態を維持し且つ前記予定変速段を現出させる複数のクラッチ機構のうち前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構以外のクラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、
前記変速操作部材が前進又は後進方向へ操作されると、前記変速操作部材の操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とするトランスミッション構造。
【請求項20】
前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構とを含み、
前記前進側及び後進側クラッチ機構は、それぞれ、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力するように構成され、
前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み、
前記制御装置は、
前記変速操作部材の前後進操作に応じて前記前進側及び後進側クラッチ機構の係合状態及び解除状態の切替が行われるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
車速が第1速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態を現出させ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせることで前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、
車速が第1速段範囲より高速の第2速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態を現出させつつ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させることを特徴とする請求項19に記載のトランスミッション構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構を係脱可能なクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備えたトランスミッション構造は、コンバインやトラクタ等の作業車輌において好適に利用されている。
【0003】
例えば、本願出願人は、
HSTと、
第1~第3要素を有し、前記第3要素にHST出力を入力する遊星歯車機構と、
前記遊星歯車機構の遊星出力部によって作動的に駆動され、駆動輪へ向けて回転動力を出力する変速出力軸と、
駆動源の回転動力を前記遊星歯車機構の第1要素及び第2要素にそれぞれ作動伝達可能な入力側第1伝動機構及び入力側第2伝動機構と、
前記入力側第1伝動機構及び前記入力側第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1クラッチ機構及び入力側第2クラッチ機構と、
前記第2要素及び前記第1要素の回転動力をそれぞれ前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第1伝動機構及び出力側第2伝動機構と、
前記出力側第1伝動機構及び前記出力側第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1クラッチ機構及び出力側第2クラッチ機構と、
前記変速出力軸の回転動力を前記駆動輪に前進方向及び後進方向への駆動回転動力としてそれぞれ作動伝達させる前進側伝動機構及び後進側伝動機構と、
前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構と、
前記変速出力軸の回転速度を変更する車速設定部材と、
前記変速出力の回転方向を切り換える前後進切替操作部材と、
制御装置とを備えたトランスミッション構造を提案している(下記特許文献1参照)。
【0004】
前記制御装置は、車速が所定の切替速未満の低速状態においては、前記入力側及び出力側第1クラッチ機構を係合状態とし且つ前記入力側及び出力側第2クラッチ機構を解除状態とすることで前記第1要素を前記駆動源からの基準動力を入力する遊星入力部として作用させ且つ前記第2要素を遊星出力部として作用させる第1伝動状態を現出させつつ、前記車速設定部材の増速操作に応じてHST出力が第1HST速から第2HST速へ向けて変速するように前記HSTの出力調整部材を作動させる一方で、車速が切替速以上の高速状態においては、前記入力側及び出力側第1クラッチ機構を解除状態とし且つ前記入力側及び出力側第2クラッチ機構を係合状態とすることで前記第1要素を遊星出力部として作用させ且つ前記第2要素を遊星入力部として作用させる第2伝動状態を現出させつつ、前記変速操作部材の増速操作に応じてHST出力が第2HST速から第1HST速へ向けて変速するように前記出力調整部材を作動させるように構成されている。
【0005】
さらに、前記制御装置は、前記前後進切替操作部材の操作に応じて、前記前進側クラッチ機構を係合状態とし且つ前記後進側クラッチ機構を解除状態とする前進駆動状態、前記前進側クラッチ機構を解除状態とし且つ前記後進側クラッチ機構を係合状態とする後進駆動状態、並びに、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の双方を解除状態とするニュートラル状態を選択的に現出させるように構成されている。
【0006】
ここで、前記従来のトランスミッション構造においては、前記駆動輪へ向けて回転動力を出力している走行駆動状態中に、ブレーキ操作部材のブレーキ係合操作やクラッチ操作部材のクラッチ解除操作等の動力遮断操作、又は、前後進切替操作部材のニュートラル操作が行なわれると、前記制御装置は、その時点で係合中のクラッチ機構の全てを解除するようにクラッチアクチュエータを作動させていた。
【0007】
かかる従来のトランスミッション構造においては、走行駆動状態中に、ブレーキ係合操作やクラッチ解除操作等の動力遮断操作、又は、ニュートラル操作を行なって駆動輪への動力伝達を遮断させた後に、動力遮断操作を取り消して、走行駆動状態へ復帰する場合に、走行フィーリングが悪化するという問題があった。
【0008】
即ち、動力遮断操作又はニュートラス操作によって動力遮断状態になると、走行駆動状態の際に係合されていたクラッチ機構の全てが解除状態へ移行される為、走行駆動状態の際に係合されていたクラッチ機構のうち伝動方向最上流クラッチ機構の従動側部材及び伝動方向最下流クラッチ機構の駆動側部材の間に配置される中間伝動軸等の伝動部材は、駆動源及び駆動輪の何れにも作動連結されないフリー状態となる。
【0009】
このフリー状態の際には、前記HSTを変速操作しても、前記中間伝動軸の回転速度を変更することができないので、動力遮断操作を取り消して走行駆動状態に復帰する際には、係合させるべきクラッチ機構の駆動側部材及び従動側部材を、両者の間に大きな相対回転速度差が存在する状態で、係合させなければならず、走行フィーリングが悪化する。
【0010】
なお、係合中のクラッチ機構の全てを解除した後に走行駆動状態に復帰する際に、まず、前記中間伝動軸より伝動方向上流側のクラッチ機構を係合させて前記HSTと前記中間伝動軸との伝動状態を現出させ、前記中間伝動軸の回転速度が駆動輪の回転速度に一致又は近接するように前記HSTを変速させ、その後に、所望のクラッチ機構を係合させれば、クラッチ機構の係合時における回転速度差を小さくすることができるが、その一方で、走行駆動状態への復帰間に相当の時間を要することになり、この点において走行フィーリングが悪化する。
【0011】
また、前記従来のトランスミッション構造においては、前記車速設定部材を所望速度位置に位置させつつ、前記前後進切替操作部材をニュートラル位置に位置させて現出されるニュートラル状態において、前記前後進切替操作部材をニュートラル位置から前進位置又は後進位置へ操作させる、いわゆるリバーサ操作によって車輌を発進させる場合に、加速に時間が掛かり、走行フィーリングが悪くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から一の変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、HSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を司る制御装置とを備え、前記制御装置は、動力遮断信号又はニュートラル信号の入力に応じて駆動輪への駆動力伝達を遮断させる状態を現出させ、動力遮断信号又はニュートラル信号の取り消し信号の入力に応じて駆動輪への駆動力伝達を再開させるように構成されているトランスミッション構造であって、駆動力伝達遮断状態から駆動力伝達状態への復帰を円滑に行えるトランスミッション構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成する為に、本発明の第1態様は、駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速及び当該トランスミッション構造のTM速比の少なくとも一方を検出する走行センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を行なう制御装置とを備え、前記制御装置は、前記変速操作部材が前進位置又は後進位置に位置されている際に車速及びTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と一致している駆動状態においては、その時点の走行状態に応じた変速段を現出させる為のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、当該変速段において前記変速操作部材の操作状態に応じた駆動回転速が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、前記駆動状態において動力遮断信号を入力すると、選択されている変速段における伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、動力遮断信号の有効中においては、車速及びTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態に基づいて係合させるべき予定変速段を判断し、前記予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速に応じた出力状態を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材が前進又は後進操作されている状態において動力遮断信号の取り消し信号が入力されて駆動状態に復帰する際には、その時点での予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0015】
前記第1態様の一形態においては、前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力する前進側伝動機構及び後進側伝動機構とを含み、前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み得る。
【0016】
この場合、前記制御装置は、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態が第1/第2速段切替速以下の第1速段範囲内の際には、前記入力側第1クラッチ機構と前記出力側第1クラッチ機構と前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構とが係合状態とされることによって現出される第1速段を予定変速段と判断し、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態が第1/第2速段切替速より高速の第2速段範囲内の際には、前記入力側第2クラッチ機構と前記出力側第2クラッチ機構と前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構とが係合状態とされることによって現出される第2速段を前記予定変速段と判断するように構成される。
【0017】
前記第1態様の一形態において、好ましくは、前記制御装置は、駆動状態復帰の際に、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と同じである場合、又は、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向であるが予め設定されたゼロ速近傍しきい値以下の値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を前記予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構と判断して係合状態へ移行させ、駆動状態復帰の際に、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向で且つ前記ゼロ速近傍しきい値を越えた値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対の前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を前記予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構と判断して係合状態へ移行させ、駆動状態復帰の際に前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対の前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を予定変速段の伝動方向最下流クラッチ機構と判断して当該クラッチ機構を係合状態へ移行させた場合には、当該クラッチ機構が所定タイミングで解除状態へ移行し、さらに、前記走行状態のゼロ速に応じて前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構が係合状態へ移行されるように、前記クラッチアクチュエータを作動させる。
【0018】
好ましくは、前記所定タイミングは、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構が係合状態へ移行された時点から予め設定された所定時間が経過した時点とされ得る。
【0019】
これに代えて、前記所定タイミングは、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構を係合状態へ移行させる時点とされ得る。
【0020】
前記第1態様の一形態において、好ましくは、前記伝動機構は、さらに、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構を介して前記変速出力軸に作動連結された走行出力軸と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進駆動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構とを備え、前記クラッチ機構は、さらに、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構を備え得る。
【0021】
この場合、前記制御装置は、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態が第2速段範囲よりも高速の第3速段範囲内の際には、前記入力側第2クラッチ機構と前記出力側第3クラッチ機構とが係合状態とされることによって現出される第3速段を予定変速段と判断するように構成される。
【0022】
好ましくは、前記制御装置は、駆動状態復帰の際に、車速又はTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と同じである場合、又は、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向であるが予め設定されたゼロ速近傍しきい値以下の値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向に応じた進行方向で且つその時点の車速に応じた変速段を予定変速段と判断し、駆動状態復帰の際に、前記走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向で且つ前記ゼロ速近傍しきい値を越えた値である場合には、前記変速操作部材の前後進操作方向とは反対方向で且つその時点の車速に応じた変速段を前記予定変速段と判断するように構成される。
【0023】
前記第1態様において、好ましくは、前記制御装置は、係合させるべき予定変速段の判断についてはTM速比に基づき行ないつつ、ゼロ速近傍しきい値を越えているか否かの判断については車速に基づいて行うように構成される。
【0024】
前記目的を達成する為に、本発明の第2態様は、駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、複数の変速段を有する伝動機構と、前記駆動輪を前進方向へ駆動する前進駆動状態及び後進方向へ駆動する後進駆動状態をそれぞれ現出可能な前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構を含み、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速及び当該トランスミッション構造のTM速比の少なくとも一方を検出する走行センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、前記クラッチアクチュエータ及び前記HSTアクチュエータの作動制御を行なう制御装置とを備え、前記制御装置は、前記変速操作部材が前進位置又は後進位置に位置されている際に車速及びTM速比の少なくとも一方に基づいて認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作位置と一致している駆動状態においては、その時点の走行状態に応じた変速段を現出させる為のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、当該変速段において前記変速操作部材の操作状態に応じた駆動回転速が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材が前進位置又は後進位置からニュートラル位置へ操作されると、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の双方が解除状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材がニュートラル位置に位置されている際には、その時点の前記走行状態に基づき係合させるべき予定変速段を判断し、前記予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つその他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材がニュートラル位置から前進位置又は後進位置へ操作されて駆動状態に復帰する際には、その時点の前記予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が解除状態から係合状態へ移行するように前記クラッチアクチュエータを作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0025】
前記第2態様の一形態においては、前記制御装置は、前記変速操作部材のニュートラル位置から前進位置又は後進位置への操作に応じて駆動状態に復帰する際の予定変速段が、前記変速操作部材の前後進操作位置に応じた進行方向とは異なる方向の回転駆動力を出力する変速段である場合には、駆動状態復帰の際に係合状態へ移行させた伝動方向最下流クラッチ機構を、係合状態へ移行させてから所定時間経過後に解除状態へ移行させるように構成される。
【0026】
前記第2態様の他形態においては、前記制御装置は、前記変速操作部材のニュートラル位置から前進位置又は後進位置への操作に応じて駆動状態に復帰する際の予定変速段が、前記変速操作部材の前後進操作位置に応じた進行方向とは異なる方向の回転駆動力を出力する変速段である場合には、前記走行状態の変化に応じて次の変速段の伝動方向最下流クラッチ機構を係合状態へ移行させるタイミングで、駆動状態復帰の際に係合状態へ移行されたクラッチ機構を解除状態へ移行するように構成される。
【0027】
前記第2態様において、前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力する前進側伝動機構及び後進側伝動機構とを含み、前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み得る。
【0028】
前記第2態様において、前記伝動機構は、さらに、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構を介して前記変速出力軸に作動連結された走行出力軸と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進駆動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構とを備え、前記クラッチ機構は、さらに、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構を備え得る。
【0029】
前記目的を達成する為に、本発明の第3態様は、駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、車速に応じた変速段が現出するように前記クラッチアクチュエータを作動させ且つ前記変速操作部材の操作に応じて前記HSTアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、前記制御装置は、前記変速操作部材の操作方向及び車速に基づいて画される一の変速段での駆動状態において動力遮断信号を入力すると、前記一の変速段での駆動状態を現出させる複数のクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材が前進又は後進方向へ操作されている状態での動力遮断信号の有効中においては、前記変速操作部材の操作方向に応じた駆動方向で且つその時点の車速に対応した予定変速段を判断し、前記予定変速段を現出させる複数のクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材が前進又は後進方向へ操作されている状態において動力遮断信号の取り消し信号を入力すると、その時点での予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0030】
前記第3態様の一形態においては、前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構と、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力する前進側伝動機構及び後進側伝動機構とを含み、前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み得る。
【0031】
前記第3態様の一形態においては、前記制御装置は、前記変速操作部材の前後進操作に応じて前記前進側及び後進側クラッチ機構の係脱の切替が行われるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、車速が第1速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態を現出させ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせることで前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、車速が第1速段範囲より高速の第2速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態を現出させつつ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させるものとされる。
【0032】
前記第3態様の一形態において、好ましくは、前記伝動機構は、さらに、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構を介して前記変速出力軸に作動連結された走行出力軸と、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸に前進駆動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構であって、前記出力側第2伝動機構及び前記前進側伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構を介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸に作動伝達される際の当該走行出力軸の回転速が高速となるように、変速比が設定された出力側第3伝動機構とを備え、前記クラッチ機構は、さらに、前記出力側第3伝動機構の動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構を備え得る。
【0033】
この場合、前記制御装置は、車速が第2速段範囲よりも高速の第3速段範囲内の際には第2HMT伝動状態を現出させた状態で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構が解除状態とされ、前記出力側第3クラッチ機構が係合状態とされ、且つ、前記前進側クラッチ機構が解除状態とされるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ得る。
【0034】
前記第1態様の種々の構成において、前記動力遮断信号は、ブレーキ操作部材からのブレーキ係合操作信号、又は、クラッチ操作部材からのクラッチ解除操作信号とされる。
【0035】
前記目的を達成する為に、本発明の第4態様は、駆動源から駆動輪へ至る伝動経路に介挿されるトランスミッション構造であって、前記駆動輪を前進方向へ駆動する前進駆動状態及び後進方向へ駆動する後進駆動状態をそれぞれ現出可能な前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構を含み、複数の変速段を有する伝動機構と、前記複数の変速段から所望変速段を選択する為の複数のクラッチ機構と、前記複数のクラッチ機構の係脱を行うクラッチアクチュエータと、前記複数の変速段のそれぞれにおいて回転動力を無段変速するHSTと、前記HSTを変速させるHSTアクチュエータと、車速を直接又は間接的に検出する車速センサと、人為操作可能な変速操作部材と、前記変速操作部材の操作状態を検出する操作センサと、前記変速操作部材の前後進操作に応じた駆動方向で且つ車速に応じた変速段が現出するように前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記変速操作部材の変速操作に応じて前記HSTアクチュエータを作動させる制御装置とを備え、前記制御装置は、前記変速操作部材の前進操作又は後進操作からのニュートラル操作に基づくニュートラル信号を入力すると、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の双方が解除状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、前記ニュートラル信号の有効中においては、その時点の車速に対応した予定変速段を判断し、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の解除状態を維持し且つ前記予定変速段を現出させる複数のクラッチ機構のうち前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構以外のクラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での車速を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータを作動させ、前記変速操作部材が前進又は後進方向へ操作されると、前記変速操作部材の操作方向に応じた前記前進側クラッチ機構又は前記後進側クラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータを作動させるトランスミッション構造を提供する。
【0036】
前記第4態様の一形態においては、前記伝動機構は、第1~第3要素を有し、前記第3要素がHST出力の入力部として作用する遊星歯車機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第1変速比で前記第1要素に作動伝達可能な入力側第1伝動機構と、前記駆動源の回転動力を入力側第2変速比で前記第2要素に作動伝達可能な入力側第2伝動機構と、前記第2要素の回転動力を、前記入力側第1及び第2伝動機構より伝動方向下流側に配置される変速出力軸に、出力側第1変速比で作動伝達可能な出力側第1伝動機構と、前記第1要素の回転動力を出力側第2変速比で前記変速出力軸に作動伝達可能な出力側第2伝動機構とを含み、前記前進側及び後進側クラッチ機構は、それぞれ、前記変速出力軸の回転動力を前進駆動力及び後進駆動力として前記駆動輪へ向けて出力するように構成され、前記クラッチ機構は、前記入力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1及び第2クラッチ機構と、前記出力側第1及び第2伝動機構の動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1及び第2クラッチ機構と、前記前進側伝動機構及び前記後進側伝動機構による動力伝達をそれぞれ係脱させる前進側クラッチ機構及び後進側クラッチ機構とを含み得る。
【0037】
前記第4態様の一形態においては、前記制御装置は、前記変速操作部材の前後進操作に応じて前記前進側及び後進側クラッチ機構の係合状態及び解除状態の切替が行われるように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、車速が第1速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせて前記第1要素が前記駆動源からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸へ向けて合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態を現出させ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ係合状態及び解除状態とさせることで前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させように、前記クラッチアクチュエータを作動させ、車速が第1速段範囲より高速の第2速段範囲内の際には、前記入力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態を現出させつつ、さらに、前記出力側第1及び第2クラッチ機構をそれぞれ解除状態及び係合状態とさせて前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させるように、前記クラッチアクチュエータを作動させるものとされる。
【0038】
本発明の前記種々の構成において、好ましくは、前記変速操作部材は、車速設定部材及び前後進切替操作部材を含み得る。
この場合、前記制御装置は、前記車速設定部材の操作に応じて前記HSTアクチュエータを作動させ、前記前後進切替操作部材の操作に応じて前記前進側及び後進側クラッチ機構の係合状態及び解除状態の切替が行われるように、前記クラッチアクチュエータを作動させる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係るトランスミッション構造によれば、変速操作部材を前進操作又は後進操作させている走行駆動中における、ブレーキ操作部材のブレーキ係合操作又はクラッチ操作部材のクラッチ解除操作等の動力遮断信号の入力に応じて駆動輪への駆動力伝達を遮断し、その後に、動力遮断信号又はニュートラル信号の取り消し信号に応じて駆動輪への駆動力伝達を再開する際の走行フィーリングを向上させることができる。
また、本発明に係るトランスミッション構造によれば、変速操作部材をニュートラル位置から前進位置又は後進位置へ操作する、いわゆるリバーサ操作によって車輌を発進させる際にスムーズな加速を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るトランスミッション構造が適用された作業車輌の伝動模式図である。
【
図2】
図2は、前記実施の形態に係るトランスミッション構造の一部の油圧回路図である。
【
図3】
図3は、前記実施の形態に係るトランスミッション構造の一部であるHSTの油圧回路図である。
【
図4】
図4は、前記実施の形態に係るトランスミッション構造における制御装置のブロック図である。
【
図5】
図5は、前記実施の形態に係るトランスミッション構造において、前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で車速設定部材を車速ゼロ速位置から増速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及びクラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、前記実施の形態に係るトランスミッション構造において、前記前後進切替操作部材を前進位置に位置させた状態で車速が第3速段範囲内に入っている状態から前記車速設定部材を減速操作させた場合における、時間経過と当該トランスミッション構造の駆動回転動力の回転速、HST出力の回転速及びクラッチ機構の油圧との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、坂道を後進方向へ駆動走行中にクラッチ遮断信号等の動力遮断信号が入力された第1走行例における、車速(又はTM速比)の変化、並びに、前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の係脱状態の変化を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)~(c)は、車速及び/又はTM速比に基づき認識される走行状態と予定変速段との関係を示すグラフであり、
図8(a)~(c)は、それぞれ、前後進切替操作部材が後進位置R、ニュートラル位置N及び前進位置Fに位置されている状態での走行状態と予定変速段との関係を示している。
【
図9】
図9は、坂道を後進方向へ駆動走行中にクラッチ遮断信号等の動力遮断信号が入力された第2走行例における、車速(又はTM速比)の変化、並びに、前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の係脱状態の変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、前進方向へ駆動走行中に前後進切替操作部材を前進位置Fからニュートラル位置Nを介して後進位置Rへ操作した場合の第3走行例における、車速(又はTM速比)の変化、並びに、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構の係脱状態の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明に係るトランスミッション構造の一実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施の形態に係るトランスミッション構造1が適用された作業車輌200の伝動模式図を示す。
また、
図2に、前記トランスミッション構造1の一部の油圧回路図を示す。
【0042】
図1に示すように、前記作業車輌200は、駆動源210と、駆動輪220と、前記駆動源210から前記駆動輪220へ至る走行系伝動経路に介挿された前記トランスミッション構造1とを備えている。なお、
図1及び
図2中の符号210aは前記駆動源210に含まれるフライホイールである。
【0043】
図1に示すように、前記トランスミッション構造1は、静油圧式無段変速機構(HST)10と、前記HST10と共働してHMT(静油圧・機械式無段変速構造)を形成する遊星歯車機構30と、変速出力軸45と、変速レバー等の車速設定部材90を含む変速操作部材と、制御装置100とを備えている。
【0044】
図3に、前記HST10の油圧回路図を示す。
なお、
図2中のIN1及びIN2が
図3中のIN1及びIN2に、それぞれ、流体接続されている。
【0045】
図1及び
図3に示すように、前記HST10は、前記駆動源210によって作動的に回転駆動されるポンプ軸12と、前記ポンプ軸12に相対回転不能に支持されたHSTポンプ14と、前記HSTポンプ14に一対の第1及び第2HSTライン15a、15bを介して流体接続されて前記HSTポンプ14によって油圧的に回転駆動されるHSTモータ18と、前記HSTモータ18を相対回転不能に支持するモータ軸16と、前記HSTポンプ14及び前記HSTモータ18の少なくとも一方の容積を変更させる出力調整部材20とを有している。
【0046】
前記HST10は、前記出力調整部材20の作動位置に応じて、前記ポンプ軸12に入力される動力の回転速度に対する、前記モータ軸16から出力されるHST出力の回転速度の割合(即ち、HST10の変速比)を無段変化させ得るようになっている。
【0047】
即ち、前記駆動源210から前記ポンプ軸12に作動的に入力される回転動力の回転速度を基準入力速とした場合、前記HST10は、前記出力調整部材20の作動位置に応じて、前記基準入力速の回転動力を少なくとも第1HST速から第2HST速の間の回転動力に無段変速して、前記モータ軸16から出力する。
【0048】
なお、本実施の形態においては、
図1及び
図3に示すように、前記ポンプ軸12は、前記駆動源210に作動連結された主駆動軸212にHST入力ギヤ列214を介して連結されている。
【0049】
本実施の形態においては、前記HST10は、HST出力の回転方向を正逆切替可能とされている。
即ち、前記HST10は、基準入力速の回転方向を正転方向とした場合に、前記出力調整部材20が第1作動位置に位置されると前記モータ軸16から回転方向が正逆方向一方側(例えば逆転方向)とされた第1HST速の回転動力を出力し、且つ、前記出力調整部材20が第2作動位置に位置されると前記モータ軸16から回転方向が正逆方向他方側(例えば正転方向)とされた第2HST速の回転動力を出力するように、構成されている。
【0050】
この場合、前記出力調整部材20が第1及び第2作動位置の間の中立位置に位置されると、HST出力の回転速度は中立速(ゼロ速)となる。
【0051】
本実施の形態においては、前記HST10は、前記出力調整部材20として、アキシャルピストンポンプとして通例な、揺動軸回りに揺動されることで前記HSTポンプ14の容積を変更する可動斜板であって、前記HSTポンプ14から吐出される吐出量をゼロとする中立位置を挟んで揺動軸回り一方側及び他方側へ揺動可能とされた可動斜板を有している。
【0052】
前記可動斜板が中立位置に位置されると、前記HSTポンプ14からの圧油の吐出が無くなり、前記HST10は、前記HSTモータ18の出力がゼロの中立状態となる。
そして、前記可動斜板が中立位置から揺動軸回り一方側の正転側へ揺動されると、前記HSTポンプ14から一対のHSTライン15の一方(例えば第1HSTライン15a)に圧油が供給され、当該一方の第1HSTライン15aが高圧側となり、他方の第2HSTライン15bが低圧側となる。
これにより、前記HSTモータ18が正転側へ回転駆動されて、前記HST10は正転出力状態となる。
【0053】
逆に、前記可動斜板が中立位置から揺動軸回り他方側の逆転側へ揺動されると、前記HSTポンプ14から前記一対のHSTライン15の他方(例えば第2HSTライン15b)に圧油が供給され、当該他方の第2HSTライン15bが高圧側となり、一方の第1HSTライン15aが低圧側となる。
これにより、前記HSTモータ18が逆転側へ回転駆動されて、前記HST10は逆転出力状態となる。
なお、前記HST10においては、前記HSTモータ18は固定斜板によって容積が固定されている。
【0054】
図3に示すように、前記HST10には、前記一対の第1及び第2HSTライン15a、15bへ圧油を供給するチャージライン130が備えられている。
【0055】
詳しくは、
図2に示すように、前記トランスミッション構造1は、前記駆動源210によって作動的に駆動される第1油圧ポンプ110と、前記第1油圧ポンプ110からの吐出油が供給される作動油ライン120とを有している。
【0056】
本実施の形態においては、前記第1油圧ポンプ110は、ポンプ駆動ギヤ列205(
図1参照)を介して前記主駆動軸212に作動連結されている。
前記作動油ライン120は、リリーフ弁122(
図3参照)によって油圧が設定されている。
【0057】
図3に示すように、前記チャージライン130は、基端側が前記作動油ライン120に流体接続された共通部分132と、基端側が前記共通部分132に流体接続され且つ先端側が前記第1HSTライン15aに流体接続された第1分岐部分134aと、基端側が前記共通部分132に流体接続され且つ先端側が前記第2HSTライン15bに流体接続された第2分岐部分134bとを含んでいる。
【0058】
前記第1及び第2分岐部分134a、134bには、前記共通部分132から対応するHSTライン15a、15bへの圧油の流れを許容しつつ逆向きの流れを防止するチェック弁136が介挿されている。
【0059】
なお、
図3に示すように、前記HST10は、さらに、前記一対の第1及び第2HSTライン15a、15bの間を連通する連通ライン140と、前記連通ライン140に介挿された双方向リリーフ弁142とを有している。
前記連通ライン140及び前記双方向リリーフ弁142は、前記一対のHSTライン15a、15bの一方が異常高圧となった場合に、当該一方のHSTラインの圧油を他方のHSTラインに流出させる。
【0060】
図1に示すように、前記出力調整部材20は、前記車速設定部材90の操作に応じて前記制御装置100によって作動制御される。
【0061】
即ち、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、前記出力調整部材20を作動させるHSTアクチュエータ150を有しており、前記制御装置100は、前記車速設定部材90の操作に応じて前記HSTアクチュエータ150を介して前記出力調整部材20を作動させるようになっている。
【0062】
前記HSTアクチュエータ150は、前記制御装置100によって作動制御可能な限り、電動モータや油圧機構等、種々の構成を取ることができる。
【0063】
図3に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造1は、前記HSTアクチュエータ150として、油圧サーボ機構152を有している。
【0064】
前記油圧サーボ機構152は、軸線方向一方側及び他方側にそれぞれ第1及び第2油室を画した状態で軸線方向往復動可能とされたサーボピストン155と、基端側が前記作動油ライン120に流体接続されたサーボ圧油ライン157と、ドレンライン159と、前記第1及び第2油室にそれぞれ流体接続された第1及び第2サーボ給排ライン160a、160bと、前記サーボ圧油ライン157、前記ドレンライン159、前記第1サーボ給排ライン160a及び前記第2サーボ給排ライン160bの接続状態を切替えるサーボ切替弁162と、前記サーボ切替弁162に作動連結された操作ピストン164とを有している。
【0065】
前記サーボピストン155は、軸線方向移動に応じて前記出力調整部材20として作用する前記可動斜板を揺動軸線回りに揺動させるように前記可動斜板に作動連結されている。
【0066】
前記サーボ切替弁162は、前記第1及び第2サーボ給排ライン160a、160bを閉塞する閉塞位置と、前記1サーボ給排ライン160aを前記サーボ圧油ライン157に流体接続させ且つ前記第2サーボ給排ライン160bを前記ドレンライン159に流体接続させる第1作動位置と、前記1サーボ給排ライン160aを前記ドレンライン159に流体接続させ且つ前記第2サーボ給排ライン160bを前記サーボ圧油ライン157に流体接続させる第2作動位置とを選択的に取り得るようになっている。
【0067】
前記操作ピストン164は、前記サーボ切替弁162を第1作動位置、閉塞位置及び第2作動位置にそれぞれ位置させる第1操作位置、保持位置及び第2操作位置を取り得るように構成されている。
【0068】
本実施の形態においては、前記操作ピストン164は、軸線方向一方側及び他方側にそれぞれ油室及びバネ室を画した状態で軸線方向往復動可能とされており、前記バネ室内に配設された付勢ばねによって前記油室を縮小させる方向へ押圧されている。
【0069】
前記油圧サーボ機構152は、さらに、基端側が前記作動油ライン120に流体接続され且つ先端側が前記油室に流体接続されたサーボ操作ライン167と、前記サーボ操作ライン167の圧油量を調整可能な出力調整弁165とを備えている。
【0070】
前記出力調整弁165は前記制御装置100によって作動制御されるようになっている。
即ち、前記制御装置100は、前記出力調整部材20が前記車速設定部材90の操作位置に応じた作動位置に位置するように、前記出力調整弁165を作動させる。
なお、前記車速設定部材90の操作位置は、例えば、ポテンショメータ等の車速設定センサ91によって検出される。
【0071】
前記遊星歯車機構30は、
図1に示すように、サンギヤ32と、前記サンギヤ32と噛合する遊星ギヤ34と、前記遊星ギヤ34と噛合するインターナルギヤ36と、前記遊星ギヤ34を軸線回り回転自在に支持し且つ前記遊星ギヤ34の前記サンギヤ32回りの公転に連動して前記サンギヤ32の軸線回りに回転するキャリヤ38とを有しており、前記サンギヤ32、前記キャリヤ38及び前記インターナルギヤ36が遊星3要素を形成している。
【0072】
前記遊星3要素のうちの一つである第3要素が前記モータ軸16に作動連結されており、前記第3要素がHST出力を入力する可変動力入力部として作用している。
図1に示すように、本実施の形態においては、前記サンギヤ32が前記第3要素とされている。
なお、本実施の形態においては、前記サンギヤ32はHST出力ギヤ列216を介して前記モータ軸16に作動連結されている。
【0073】
本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、第1要素を前記駆動源210からの基準回転動力を入力する基準動力入力部として作用させ且つ第2要素を合成回転動力を出力する合成動力出力部として作用させる第1HMT伝動状態と、第1要素を前記合成動力出力部として作用させ且つ前記第2要素を前記基準動力入力部として作用させる第2HMT伝動状態とを切替可能とされている。
【0074】
具体的には、
図1及び
図2に示すように、前記トランスミッション構造1は、さらに、前記駆動源210の回転動力を第1要素及び第2要素にそれぞれ作動伝達可能な入力側第1伝動機構50a及び入力側第2伝動機構50bと、前記入力側第1伝動機構50a及び前記入力側第2伝動機構50bの動力伝達をそれぞれ係脱させる入力側第1クラッチ機構60a及び入力側第2クラッチ機構60bを含む入力側クラッチ機構対と、前記第2要素及び前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸45にそれぞれ作動伝達可能な出力側第1伝動機構70a及び出力側第2伝動機構70bと、前記出力側第1伝動機構70a及び前記出力側第2伝動機構70bの動力伝達をそれぞれ係脱させる出力側第1クラッチ機構80a及び出力側第2クラッチ機構80bを含む出力側クラッチ機構対とを有している。
【0075】
本実施の形態においては、前記インターナルギヤ36及び前記キャリヤ38がそれぞれ第1及び第2要素として作用している。
【0076】
前記入力側第1伝動機構50aは、前記駆動源210の回転動力を第1要素(本実施の形態においては前記インターナルギヤ36)に伝達可能に構成されている。
【0077】
詳しくは、
図1に示すように、前記入力側第1伝動機構50aは、前記主駆動軸212に相対回転自在に連結された入力側第1駆動ギヤ52aと、前記入力側第1駆動ギヤ52aに噛合され且つ第1要素に作動連結された入力側第1従動ギヤ54aとを有している。
【0078】
図1に示すように、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、前記遊星歯車機構30と同軸上に配置され、第2要素に軸線回り相対回転不能に連結された変速中間軸43を有しており、前記入力側第1従動ギヤ54aは、前記変速中間軸43に相対回転自在に支持された状態で、前記入力側第1駆動ギヤ52a及び前記第1要素(本実施の形態においては前記インターナルギヤ36)に作動連結されている。
【0079】
前記入力側第2伝動機構50bは、前記駆動源210の回転動力を第2要素(本実施の形態においては前記キャリヤ38)に伝達可能に構成されている。
【0080】
詳しくは、
図1に示すように、前記入力側第2伝動機構50bは、前記主駆動軸212に相対回転自在に支持された入力側第2駆動ギヤ52bと、前記入力側第2駆動ギヤ52bに噛合され且つ第2要素に作動連結された入力側第2従動ギヤ54bとを有している。
【0081】
本実施の形態においては、前記入力側第2従動ギヤ54bは、第2要素に相対回転不能に連結された前記変速中間軸43に相対回転不能に支持された状態で、前記入力側第2駆動ギヤ52bに噛合されている。
【0082】
本実施の形態においては、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bは、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0083】
前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bは、それぞれ、前記入力側第1及び第2駆動ギヤ52a、52bを前記主駆動軸212に係脱させるように前記主駆動軸212に支持される。
【0084】
詳しくは、前記入力側第1クラッチ機構60aは、前記主駆動軸212に相対回転不能に支持された入力側クラッチハウジング62と、前記入力側クラッチハウジング62に相対回転不能に支持された第1駆動側摩擦板及び前記第1駆動側摩擦板に対向された状態で前記入力側第1駆動ギヤ52aに相対回転不能に支持された第1従動側摩擦板を含む入力側第1摩擦板群64aと、前記入力側第1摩擦板群64aを摩擦係合させる入力側第1ピストン(図示せず)とを有している。
【0085】
前記入力側第2クラッチ機構60bは、前記入力側クラッチハウジング62と、前記入力側クラッチハウジング62に相対回転不能に支持された第2駆動側摩擦板及び前記第2駆動側摩擦板に対向された状態で前記入力側第2駆動ギヤ52bに相対回転不能に支持された第2従動側摩擦板を含む入力側第2摩擦板群64bと、前記入力側第2摩擦板群64bを摩擦係合させる入力側第2ピストン(図示せず)とを有している。
【0086】
前記出力側第1伝動機構70aは、第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に伝達可能に構成されている。
【0087】
本実施の形態においては、前記出力側第1伝動機構70aは、前記入力側第2伝動機構50bにおける前記入力側第2従動ギヤ54bを利用して、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達し得るように構成されている。
【0088】
詳しくは、
図1に示すように、前記出力側第1伝動機構70aは、前記入力側第2従動ギヤ54bと、前記変速出力軸45に相対回転自在に支持された状態で前記入力側第2従動ギヤ54bに作動連結された出力側第1従動ギヤ74aとを有している。
【0089】
前記出力側第2伝動機構70bは、第1要素の回転動力を前記変速出力軸45に伝達可能に構成されている。
【0090】
本実施の形態においては、前記出力側第2伝動機構70bは、前記入力側第1伝動機構50aにおける前記入力側第1従動ギヤ54aを利用して、前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達し得るように構成されている。
【0091】
詳しくは、
図1に示すように、前記出力側第2伝動機構70bは、前記入力側第1従動ギヤ54aと、前記変速出力軸45に相対回転自在に支持された状態で前記入力側第1従動ギヤ54aに作動連結された出力側第2従動ギヤ74bとを有している。
【0092】
前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bは、摩擦板式クラッチ機構とされている。
【0093】
本実施の形態においては、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bは、それぞれ、前記出力側第1及び第2従動ギヤ74a、74bを前記変速出力軸45に係脱させるように前記変速出力軸45に支持される。
【0094】
詳しくは、前記出力側第1クラッチ機構80aは、前記変速出力軸45に相対回転不能に支持された出力側クラッチハウジング82と、前記出力側第1従動ギヤ74aに相対回転不能に支持された第1駆動側摩擦板及び前記第1駆動側摩擦板に対向された状態で前記出力側クラッチハウジング82に相対回転不能に支持された第1従動側摩擦板を含む出力側第1摩擦板群84aと、前記出力側第1摩擦板群を摩擦係合させる出力側第1ピストン(図示せず)とを有している。
【0095】
前記出力側第2クラッチ機構80bは、前記出力側クラッチハウジング82と、前記出力側第2従動ギヤ74bに相対回転不能に支持された第2駆動側摩擦板及び前記第2駆動側摩擦板に対向された状態で前記出力側クラッチハウジング82に相対回転不能に支持された第2従動側摩擦板を含む出力側第2摩擦板群84bと、前記出力側第2摩擦板群を摩擦係合させる出力側第2ピストン(図示せず)とを有している。
【0096】
前記トランスミッション構造1は、さらに、前記入力側第1クラッチ機構60a、前記入力側第2クラッチ機構60b、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記出力側第2クラッチ機構80bの係脱を切替えるクラッチアクチュエータ300を有している。
【0097】
前記クラッチアクチュエータ300は、前記制御装置によって作動制御可能な限り、電動モータや油圧機構等、種々の構成を取り得る。
【0098】
図2に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造1は、前記クラッチアクチュエータ300として、伝動状態切替油圧機構302を有している。
【0099】
前記伝動状態切替油圧機構302は、前記HST10のチャージライン130及び前記油圧サーボ機構152と共通の油源(前記第1油圧ポンプ110)を利用するように構成されている。
【0100】
詳しくは、前記伝動状態切替油圧機構302は、基端側が前記作動油ライン120に流体接続されたクラッチライン310と、先端側が前記入力側第1クラッチ機構60a、前記入力側第2クラッチ機構60b、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記出力側第2クラッチ機構80bにそれぞれ流体接続された入力側第1給排ライン320a、入力側第2給排ライン320b、出力側第1給排ライン330a及び出力側第2給排ライン330bと、ドレンライン340と、前記クラッチライン310及び前記ドレンライン340と前記入力側第1給排ライン320a、前記入力側第2給排ライン320b、前記出力側第1給排ライン330a及び前記出力側第2給排ライン330bのそれぞれとの間に介挿された入力側第1電磁弁325a、入力側第2電磁弁325b、出力側第1電磁弁335a及び出力側第2電磁弁335bとを備えている。
【0101】
前記入力側第1電磁弁325a、前記入力側第2電磁弁325b、前記出力側第1電磁弁335a及び前記出力側第2電磁弁335bは、前記制御装置100によって作動制御され、対応する給排ライン320a、320b、330a、330bを前記クラッチライン310に流体接続する供給位置と、対応する給排ライン320a、320b、330a、330bを前記ドレンライン340に流体接続する排出位置とを取り得るようになっている。
【0102】
図2に示すように、本実施の形態においては、前記入力側第1電磁弁325a及び前記入力側第2電磁弁325bは、対応する前記入力側第1給排ライン320a及び前記入力側第2給排ライン320bの油圧増減を瞬時に行う電磁切換弁とされている。
【0103】
一方、前記出力側第1電磁弁335a及び前記出力側第2電磁弁335bは、対応する前記出力側第1給排ライン330a及び前記出力側第2給排ライン330bの油圧増減速度を調整可能な電磁比例弁とされている。
【0104】
図1等に示すように、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、さらに、前記駆動輪220へ向けて駆動回転動力を出力する走行出力軸47と、前記変速出力軸45の回転動力を前進方向及び後進方向への駆動回転動力として前記走行出力軸47へそれぞれ作動伝達させる前進側伝動機構400F及び後進側伝動機構400Rと、前記前進側伝動機構400F及び前記後進側伝動機構400Rの動力伝達をそれぞれ係脱させる摩擦板式の前進側クラッチ機構410F及び後進側クラッチ機構410Rとを備え、前記クラッチアクチュエータ300には、前記前進側クラッチ機構及び前記後進側クラッチ機構80bの係脱を切替える前後進切替アクチュエータ350が備えられている。
【0105】
図1に示すように、前記前進側伝動機構400Fは、前記変速出力軸45に支持された前進側駆動ギヤ402F及び前記走行出力軸47に支持された状態で、前記前進側駆動ギヤ402Fに噛合された前進側従動ギヤ404Fを含む前進側ギヤ列を有している。
【0106】
本実施の形態においては、前記前進側駆動ギヤ402Fは前記変速出力軸45に相対回転不能に支持されており、前記前進側従動ギヤ404Fは前記走行出力軸47に相対回転自在に支持されている。
【0107】
前記後進側伝動機構400Rは、前記変速出力軸45に支持された後進側駆動ギヤ402R及び前記走行伝動軸47に支持された状態で、アイドルギヤ403(
図1参照)を介して前記後進側駆動ギヤ402Rに噛合された後進側従動ギヤ404Rを含む後進側ギヤ列を有している。
【0108】
本実施の形態においては、前記後進側駆動ギヤ402Rは前記変速出力軸45に相対回転不能に支持されており、前記後進側従動ギヤ404Rは前記走行出力軸47に相対回転自在に支持されている。
【0109】
本実施の形態においては、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rは、それぞれ、前記前進側従動ギヤ404F及び前記後進側従動ギヤ404Rを前記走行出力軸47に係脱させるように前記走行出力軸47に支持されている。
【0110】
詳しくは、前記前進側クラッチ機構410Fは、前記走行出力軸47に相対回転不能に支持された前後進クラッチハウジング412と、前記前後進クラッチハウジング412に相対回転不能に支持された前進従動側摩擦板及び前記前進従動側摩擦板に対向された状態で前記前進側従動ギヤ404Fに相対回転不能に支持された前進駆動側摩擦板を含む前進側摩擦板群414Fと、前記前進側摩擦板群414Fを摩擦係合させる前進側ピストン(図示せず)とを有している。
【0111】
前記後進側クラッチ機構410Rは、前記前後進クラッチハウジング412と、前記前後進クラッチハウジング412に相対回転不能に支持された後進従動側摩擦板及び前記後進従動側摩擦板に対向された状態で前記後進側従動ギヤ404Rに相対回転不能に支持された後進駆動側摩擦板を含む後進側摩擦板群414Rと、前記後進側摩擦板群414Rを摩擦係合させる後進側ピストン(図示せず)とを有している。
【0112】
前記前後進切替アクチュエータ350は、前記変速操作部材の操作に応じて前記制御装置によって作動制御されて、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rbの係脱を行うように構成されている。
【0113】
図4に、前記制御装置100のブロック図を示す。
図1及び
図4に示すように、本実施の形態においては、前記変速操作部材は、前記車速設定部材90に加えて、前記トランスミッション構造1の出力状態を、前進駆動状態、後進駆動状態及びニュートラル状態に切り替え操作する為の前後進切替操作部材92を有している。
【0114】
前記前後進切替操作部材92は、ニュートラル位置N、前進位置F及び後進位置Rを取り得る。
前記前後進切替操作部材92の操作位置は、前後進切替センサ93によって検出される。
【0115】
なお、本実施の形態においては、前記変速操作部材は、別体とされた前記車速設定部材90及び前記前後進切替操作部材92を有しているが、これに代えて、単一操作部材によっても形成され得る。
前記変速操作部材が単一操作部材とされる場合には、前記変速操作部材は、車速ゼロ速位置を挟んで前進側及び後進側へ揺動操作可能とされる。
【0116】
前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fへ操作されたことを認識すると、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態となり且つ前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態となるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させ、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rへ操作されたことを認識すると、前記前進側クラッチ機構410Fが解除状態となり且つ前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態となるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させ、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されると、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの双方が解除状態となるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させる。
【0117】
図2に示すように、本実施の形態に係るトランスミッション構造1は、前記前後進切替アクチュエータ350として、前後進切替油圧機構352を有している。
【0118】
前記前後進切替油圧機構352は、前記HST10のチャージライン130、前記油圧サーボ機構152及び前記伝動状態切替油圧機構302と共通の油源(前記第1油圧ポンプ110)を利用するように構成されている。
【0119】
詳しくは、
図2に示すように、前記前後進切替油圧機構302は、前記クラッチライン310と、先端側が前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rにそれぞれ流体接続された前進側給排ライン360F及び後進側給排ライン360Rと、前記クラッチライン310及び前記ドレンライン340と前記前進側給排ライン360F及び前記後進側給排ライン360Rのそれぞれとの間に介挿された前進側電磁弁365F及び後進側電磁弁365Rとを備えている。
【0120】
前記前進側電磁弁365F及び前記後進側電磁弁365Rは前記制御装置100によって作動制御され、対応する給排ライン360F、360Rを前記クラッチライン310に流体接続する供給位置と、対応する給排ライン360F、360Rを前記ドレンライン340に流体接続する排出位置とを取り得るようになっている。
【0121】
即ち、前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fに位置されたことを認識すると、前記前進側電磁弁365Fを供給位置に位置させ且つ前記後進側電磁弁365Rを排出位置に位置させて、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態で且つ前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態となる前進駆動状態を現出させ、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rに位置されたことを認識すると、前記前進側電磁弁365Fを排出位置に位置させ且つ前記後進側電磁弁365Rを供給位置に位置させて、前記前進側クラッチ機構410Fが解除状態で且つ前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態となる後進駆動状態を現出させ、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されたことを認識すると、前記前進側電磁弁365F及び前記後進側電磁弁365Rの双方を排出位置に位置させて、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの双方が解除状態とされたニュートラル状態を現出させる。
【0122】
図2に示すように、本実施の形態においては、前記前進側電磁弁365F及び前記後進側電磁弁365Rは、対応する前記前進側給排ライン360F及び前記後進側給排ライン360Rの油圧増減を瞬時に行う電磁切換弁とされている。
【0123】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態に係る前記トランスミッション構造1は、さらに、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸47に前進方向の駆動回転動力として作動伝達可能な出力側第3伝動機構70cと、前記出力側第3伝動機構70cの動力伝達を係脱させる出力側第3クラッチ機構80cとを備えている。
【0124】
前記出力側第3伝動機構70cは、前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸47に作動伝達される際の当該走行出力軸47の回転速よりも、前記出力側第3伝動機構70cを介して前記第1要素の回転動力が前記走行出力軸47に作動伝達される際の当該走行出力軸47の回転速が高速となるように、変速比が設定されている。
【0125】
本実施の形態においては、前記出力側第3伝動機構70cは、前記出力側第2伝動機構70bにおける前記出力側第2従動ギヤ74bを利用して、前記第1要素の回転動力を前記走行出力軸47に作動伝達し得るように構成されている。
【0126】
詳しくは、
図1に示すように、前記出力側第3伝動機構70cは、前記出力側第2従動ギヤ74bと、前記走行出力軸47に相対回転自在に支持された状態で前記出力側第2従動ギヤ74bに作動連結された出力側第3従動ギヤ74cとを有している。
【0127】
前記出力側第3クラッチ機構80cは、前記出力側第3従動ギヤ74cを前記走行出力軸47に係脱させるように前記走行伝動軸47に支持されている。
【0128】
詳しくは、前記出力側第3クラッチ機構80cは、前記走行出力軸47に相対回転不能に支持された出力側クラッチハウジング83と、前記出力側第3従動ギヤ74cに相対回転不能に支持された第3駆動側摩擦板及び前記第3駆動側摩擦板に対向された状態で前記出力側クラッチハウジング83に相対回転不能に支持された第3従動側摩擦板を含む出力側第3摩擦板群84cと、前記出力側第3摩擦板群84cを摩擦係合させる出力側第3ピストン(図示せず)とを有している。
【0129】
前記出力側第3クラッチ機構80cは前記クラッチアクチュエータ300によって係脱の切替えが行われるようになっている。
【0130】
前述の通り、前記トランスミッション構造1は、前記伝動状態切替アクチュエータ300として、前記伝動状態切替油圧機構302を有している。
【0131】
図2に示すように、前記伝動状態切替油圧機構302は、さらに、先端側が前記出力側第3クラッチ機構80cに流体接続された出力側第3給排ライン330cと、前記クラッチライン310及び前記ドレンライン340と前記出力側第3給排ライン330cとの間に介挿された出力側第3電磁弁335cとを備えている。
【0132】
前記出力側第3電磁弁335cは前記制御装置100によって作動制御され、対応する給排ライン330cを前記クラッチライン310に流体接続する供給位置と、対応する給排ライン330cを前記ドレンライン340に流体接続する排出位置とを取り得るようになっている。
【0133】
図2に示すように、本実施の形態においては、前記出力側第3電磁弁335cは、対応する前記出力側第3給排ライン330cの油圧増減速度を調整可能な電磁比例弁とされている。
【0134】
前記作業車輌200は、前記駆動輪220として、左右一対の主駆動輪を有している。
従って、前記作業車輌200は、
図1に示すように、さらに、前記一対の主駆動輪をそれぞれ駆動する一対の主駆動車軸250と、前記走行出力軸の回転動力を前記一対の主駆動車軸250に差動伝達するディファレンシャル機構260とを有している。
【0135】
図1に示すように、前記作業車輌200は、さらに、前記主駆動車軸250に選択的に制動力を付加する走行ブレーキ機構255と、前記走行出力軸からの回転動力によって前記一対の主駆動車軸250を強制的に同期駆動するデフロック機構265と、前記走行出力軸から取り出した回転動力を副駆動輪へ向けて選択的に出力可能な副駆動輪用駆動力取出機構270とを有している。
【0136】
前記走行ブレーキ機構255は、ブレーキ操作部材96(
図1及び
図4参照)のブレーキON操作に応じてブレーキ係合状態を現出させる。
即ち、前記ブレーキ操作部材96がブレーキON操作されたことを認識すると、前記制御装置100は、前記走行ブレーキ機構255がブレーキ係合状態となるようにブレーキアクチュエータ(図示せず)を作動させる。
【0137】
また、前記作業車輌200は、外部へ回転動力を出力するPTO軸280と、前記駆動源210からPTO軸280へ至るPTO伝動経路に介挿されたPTOクラッチ機構285及びPTO多段変速機構290とを有している。
【0138】
ここで、前記制御装置100による変速制御について説明する。
まず、前記変速操作部材を車速ゼロ速位置から車速前進側へ増速操作させた場合(本実施の形態においては、前記前後進切替操作部材92を前進位置Fに位置させた状態で、前記車速設定部材90を最低速位置Minから増速操作させた場合)における前記制御装置100の変速制御について説明する。
【0139】
図5に、前記前後進切替操作部材92を前進位置Fに位置させた状態で、前記車速設定部材90を最低速位置Minから増速操作させた場合における、時間経過と前記トランスミッション構造1の駆動回転動力の回転速、前記HST10の出力回転速及び前記クラッチ機構60a~60b、80a~80c、410Fの油圧との関係を示す。
【0140】
前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92の前進位置Fへの操作に応じて、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態で且つ前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態となる前進駆動状態が現出されるように前記前後進切替アクチュエータ350を作動させる。
【0141】
前記制御装置100は、車速がゼロ速から所定の第1速(
図5において第1/第2速段シフトアップ開始速)までの第1速段範囲内においては、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bがそれぞれ係合状態及び解除状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第1要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第2要素が前記変速出力軸45へ向けて遊星歯車機構30の合成回転動力を出力する前記合成動力出力部として作用する第1HMT伝動状態を現出させる。
【0142】
具体的には、
図5に示すように、車速又は前記トランスミッション構造の変速比の少なくとも一方に基づく走行状態が第1速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記入力側第1電磁弁325aを供給位置に位置させて前記入力側第1クラッチ機構60aの油圧を係合油圧以上(本実施の形態においては、前記リリーフ弁142による設定油圧(クラッチ油圧ON))とし、且つ、前記入力側第2電磁弁325bを排出位置に位置させて前記入力側第2クラッチ機構60bの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とさせることで、第1HMT伝動状態を現出させる。
【0143】
その上で、前記制御装置100は、前記出力側第1及び第2クラッチ機構70a、70bがそれぞれ係合状態及び解除状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第2要素の回転動力を前記変速出力軸45に作動伝達させる第2要素出力状態を現出させる。
【0144】
具体的には、
図5に示すように、走行状態が第1速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記出力側第1電磁弁335aを供給位置に位置させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧を係合油圧以上(本実施の形態においては設定油圧(クラッチ油圧ON))とし、且つ、前記出力側第2電磁弁335bを排出位置に位置させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とさせることで、第2要素出力状態を現出させる。
【0145】
一方、走行状態が第1速から当該第1速よりも高速の第2速(
図5において第2/第3速段シフトアップ開始速)までの第2速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bがそれぞれ解除状態及び係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第2要素が前記基準動力入力部として作用し且つ前記第1要素が前記合成動力出力部として作用する第2HMT伝動状態を現出させる。
【0146】
具体的には、
図5に示すように、走行状態が第2速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記入力側第1電磁弁325aを排出位置に位置させて前記入力側第1クラッチ機構60aの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とし、且つ、前記入力側第2電磁弁325bを供給位置に位置させて前記入力側第2クラッチ機構60bの油圧を係合油圧以上(本実施の形態において設定油圧(クラッチ油圧ON))とさせることで、第2HMT伝動状態を現出させる。
【0147】
その上で、前記制御装置100は、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bがそれぞれ解除状態及び係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、これにより、前記第1要素の回転動力を前記変速出力軸に作動伝達させる第1要素出力状態を現出させる。
【0148】
具体的には、
図5に示すように、走行状態が第2速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記出力側第1電磁弁335aを排出位置に位置させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧を係合油圧未満(本実施の形態においてはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))とし、且つ、前記出力側第2電磁弁335bを供給位置に位置させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧を係合油圧以上(本実施の形態においては設定油圧(クラッチ油圧ON))とさせることで、第1要素出力状態を現出させる。
【0149】
図5に示すように、前記遊星歯車機構30は、第1HMT伝動状態下においては、HST出力が第1HST速とされた際に前記第2要素の出力回転動力がゼロ速となり且つHST出力が第1HST速の側から第2HST速の側へ変速されるに従って前記第2要素から出力される合成回転動力が増速される一方で、第2HMT伝動状態下においては、HST出力が第2HST速の側から第1HST速の側へ変速されるに従って前記第1要素から出力される合成回転動力が増速されるように構成されている。
【0150】
また、前記入力側第1伝動機構50aの変速比(入力側第1変速比)及び前記入力側第2伝動機構50bの変速比(入力側第2変速比)は、第1HMT伝動状態下においてHST出力が第2HST速とされた際の前記第2要素の回転速と第2HMT伝動状態下において前記入力側第2伝動機構50bを介して伝達される回転動力による前記第2要素の回転速とが同一となり、且つ、第2HMT伝動状態下においてHST出力が第2HST速とされた際の前記第1要素の回転速と第1HMT伝動状態下において前記入力側第1伝動機構50aを介して伝達される回転動力による前記第1要素の回転速とが同一となるように設定されている。
【0151】
前記制御装置100は、前記車速設定部材90の最低速位置Minへの操作に応じてHST出力が第1HST速となるように前記HSTアクチュエータ150(本実施の形態においては前記油圧サーボ機構152)を作動させて、駆動回転動力のゼロ速を現出させ、且つ、前記車速設定部材90の最低速位置Minからの増速操作に応じて、走行状態が第1速段範囲内に入っている限りにおいては、HST出力が第1HST速から第2HST速へ向けて変速するように前記HSTアクチュエータ150(本実施の形態においては前記油圧サーボ機構152)を作動させて、第1変速段範囲内での前記車速設定部材90の増速操作に応じて前記第2要素から出力される駆動回転動力を増速させる。
【0152】
前記車速設定部材90の増速操作に応じて走行状態が第1速段範囲から第2速段範囲へ移行するシフトアップ時には、前記制御装置100は、走行状態が所定速(第1/第2速段シフトアップ開始速)に到達した第1/第2速段シフトアップ開始時点で、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの一方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態の際に解除状態とされているクラッチ機構(即ち、第2クラッチ機構)を解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第1/第2速段シフトアップ開始時点から所定時間経過後の第1/第2速段シフトアップ終了時点で、前記一方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態の際に係合状態とされているクラッチ機構(即ち、第1クラッチ機構)を係合状態から瞬時に解除状態へ移行させ、これにより、第1/第2速段シフトアップ開始時点から第1/第2速段シフトアップ終了時点までの間においては前記一方のクラッチ機構対における第1及び第2クラッチ機構の双方が係合されているシフトアップ二重伝動状態を現出させつつ、シフトアップ二重伝動状態の間に、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの他方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態の際に係合状態とされている第1クラッチ機構を係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ且つ前記他方のクラッチ機構対における第1HMT伝動状態において解除状態とされている第2クラッチ機構を解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移行させて、前記他方のクラッチ機構対における第1クラッチ機構の係合状態から第2クラッチ機構の係合状態への切替を行うように、構成されている。
【0153】
斯かる構成によれば、第1HMT伝動状態から第2HMT伝動状態へのシフトアップを、動力伝達遮断状態を招くことなく円滑に行うことができる。
【0154】
さらに、本実施の形態においては、前記出力側第1伝動機構70aの変速比(出力側第1変速比)及び前記出力側第2伝動機構70bの変速比(出力側第1変速比)は、第1HMT伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際に前記変速出力軸45に現出される回転速と第2HMT伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際に前記変速出力軸45に現出される回転速とが略同一となるように設定されている。
【0155】
本実施の形態においては、
図5に示すように、第1/第2速段シフトアップ開始速は、第1HMT伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際に現出される走行状態とされている。
斯かる構成によれば、第1及び第2HMT伝動状態の切替時に、車速変化が生じることを有効に防止乃至は低減できる。
【0156】
なお、前述の通り、本実施の形態においては、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bは摩擦板式とされており、従って、伝動状態の切替時に前記変速出力軸45に若干の速度差が生じたとしても、この速度差は摩擦板の滑りによって有効に吸収できる。
【0157】
前記制御装置100は、走行状態を走行センサ49に基づき認識する。
本実施の形態においては、前記走行センサ49は、前記トランスミッション構造1に入力される駆動力(本実施の形態においては、前記第記入力側第1伝動機構50a及び前記入力側第2伝動機構50bに入力される駆動力)の回転速(回転方向を含む)を検出する入力センサ49aと、前記トランスミッション構造1から出力される駆動力の回転速(回転方向を含む)を検出する出力センサ49bとを有している。
前記出力センサ49bは、直接又は間接的に車速を検出し得る限り、前記走行出力軸47、前記変速出力軸45又は前記モータ軸16の回転速を検出するセンサとされ得る。
本実施の形態においては、
図1に示すように、前記車速センサ49bは前記走行出力軸47の回転速を検出するように配置されている。
【0158】
本実施の形態においては、前記入力側クラッチ機構対を形成する入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bに対する圧油給排を切替える入力側第1及び第2電磁弁325a、325bは電磁切換弁とされており、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの油圧の増減は瞬時に行われる。
【0159】
一方、前記出力側クラッチ機構対を形成する出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bに対する圧油給排を切替える出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは電磁比例弁とされており、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bの油圧の増減は速度調整可能とされている。
【0160】
この場合、前記入力側クラッチ機構対が前記一方のクラッチ機構対とされ、前記出力側クラッチ機構対が前記他方のクラッチ機構対とされる。
【0161】
即ち、
図5に示すように、前記制御装置100は、第1/第2速段シフトアップ開始時点で、前記入力側第2電磁弁325bを排出位置から供給位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第1HMT伝動状態において解除状態とされている前記入力側第2クラッチ機構60bを解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第1/第2速段シフトアップ終了時点で、前記入力側第1電磁弁325aを供給位置から排出位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第1HMT伝動状態において係合状態とされている前記入力側第1クラッチ機構60aを係合状態から瞬時に解除状態へ移行させることで、第1/第2速段シフトアップ開始時点から第1/第2速段シフトアップ終了時点までの間においては前記入力側クラッチ機構対の前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの双方が係合されているシフトアップ二重伝動状態を現出させている。
【0162】
さらに、前記制御装置100は、電磁比例弁とされている出力側第1電磁弁335aを供給位置から排出位置へ移動させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧を設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧を介してドレン油圧(クラッチ油圧OFF)まで漸減させて、前記出力側第1クラッチ機構80aを係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ、且つ、電磁比例弁とされている出力側第2電磁弁335bを排出位置から供給位置へ移動させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧をドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧を介して設定油圧(クラッチ油圧ON)まで漸増させて、前記出力側第2クラッチ機構80bを解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移動させており、この前記出力側第1クラッチ機構80aの係合状態から前記出力側第2クラッチ機構80bの係合状態への切替を、シフトアップ二重伝動状態の間に行っている。
【0163】
本実施の形態においては、
図5に示されるように、前記出力側第1電磁弁335aの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第2電磁弁335bの排出位置から供給位置への移動を、第1/第2速段シフトアップ開始時点より前に行っている。
【0164】
詳しくは、前記制御装置100は、車速及び当該トランスミッション構造のTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態が第1/第2速段シフトアップ開始速より所定速度だけ低速の第1/第2速段シフトアップ準備速度に到達した時点において、前記出力側第1電磁弁335aの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第2電磁弁335bの排出位置から供給位置への移動を行っている。
【0165】
この場合、電磁比例弁とされている前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは、第1/第2速段シフトアップ開始時点から第1/第2速段シフトアップ終了時点までの期間の間に、前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧未満となり且つ前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧以上となり、その後に、前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)に到達し且つ前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)に到達するように、油圧増減速度が設定されている。
【0166】
図5に示すように、走行状態が第2速段範囲内の場合には、前記制御装置100は、前記車速設定部材90の増速操作に従ってHST出力が第2HST速の側から第1HST速の側へ変速するように前記HSTアクチュエータ150を作動させて、駆動回転動力を増速させる。
【0167】
前記車速設定部材90の増速操作に応じて走行状態が第2速段範囲から当該第2速段範囲よりも高速の第3速段範囲へ移行するシフトアップ時には、前記制御装置100は、
・走行状態が所定の第2/第3速段シフトアップ準備速に到達した第2/第3速段シフトアップ準備時点で前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの一方(
図5においては前記出力側第2クラッチ機構80b)の係合状態から解除状態への滑らせながらの移行を開始させて、第2/第3速段シフトアップ準備時点から所定時間経過後の第2/第3速段シフトアップ開始時点で前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの一方を解除状態とさせ、若しくは、走行状態が所定の第2/第3速段シフトアップ開始速に到達した第2/第3速段シフトアップ開始時点で前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの一方の係合状態から解除状態への瞬時の移行を行なって、前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの一方を解除状態とさせ、
・第2/第3速段シフト開始時点から所定時間経過後の第2/第3速段シフトアップ中間時点で、前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fの他方(
図5においては前記前進側クラッチ機構410F)を係合状態から解除状態へ移行させ、
・第2/第3速段シフトアップ中間時点から所定時間経過後の第2/第3速段シフトアップ終了時点で、前記出力側第3クラッチ機構80cを解除状態から係合状態へ移行させることで、
第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までの間においては前記走行出力軸への動力伝達経路が遮断されたシフトアップ空走状態を現出させている。
【0168】
さらに、前記制御装置100は、第2/第3速段シフトアップ終了時点において前記出力側第3伝動機構70cを介して現出される走行状態(例えば車速)が、前記出力側第3クラッチ機構70cが係合状態へ移行される直前における走行状態(例えば車速)に一致又は近接するように、シフトアップ空走状態の間に前記HSTアクチュエータ150を介して前記HST10を第3速段側第2/第3速段切替速に変速させる。
【0169】
即ち、前記HSTの第3速段側第2/第3速段切替速(速比)は、第2/第3速段シフトアップ終了時点において前記出力側第3伝動機構70cを介して現出される走行状態を、前記出力側第3クラッチ機構70cが係合状態へ移行される直前における走行状態に一致又は近接させるように設定される。
【0170】
図5に示す例においては、HSTは、第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までのシフトアップ空走状態の間に、第2速段側第2/第3速段切替速(この例では第1HST速)から第3速段側第2/第3速段切替速に変速されている。
【0171】
なお、本実施の形態においては、第2/第3速段シフトアップ開始時点を画する第2/第3速段シフトアップ開始速とは、HST出力が第1HST速とされた際に前記第2要素から前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して作動伝達される回転動力によって現出される車速とされている。
【0172】
本実施の形態においては、前述の通り、前記出力側第3クラッチ機構80cに対する圧油給排を切替える出力側第3電磁弁335cは電磁比例弁とされている。
【0173】
前記出力側第3電磁弁335cは、第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までの所定時間で、前記出力側第3クラッチ機構80cの油圧をドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧まで漸増させるように、油圧増加速度が設定されている。
【0174】
この場合、前記制御装置100は、第2/第3速段シフトアップ開始時点で、前記出力側第3電磁弁335cを排出位置から供給位置へ移動させることにより、第2/第3速段シフトアップ開始時点から第2/第3速段シフトアップ終了時点までの間にシフトアップ空走状態を確実に現出することができる。
【0175】
走行状態が第3速段範囲内においては、前記制御装置100は、第2HMT伝動状態を現出させた状態で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bを解除状態とさせ、且つ、前記出力側第3クラッチ機構80cを係合状態とさせつつ、駆動回転動力の回転速度が前記車速設定部材90の操作位置に応じた回転速度となるように、前記HSTアクチュエータ150の作動制御を行う。
【0176】
詳しくは、
図5に示すように、走行状態が第3速段範囲内においては、前記制御装置100は、前記車速設定部材の増速操作に応じて、HST出力が第3速段側2/第3速段切替速の側から第1HST速の側へ変速するように前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0177】
なお、走行状態が第3速段範囲内においては、前記変速出力軸45から前記走行出力軸47へは動力を伝達する必要が無いため、前記制御装置100は、
図5に示すように、前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態とさせる。
【0178】
次に、前記変速操作部材を減速操作させた場合における前記制御装置100の変速制御について説明する。
【0179】
図6に、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fに位置された状態で、走行状態が第3速段範囲内に入っている状態から前記車速設定部材90を減速操作させた場合における、時間経過と前記トランスミッション構造1の駆動回転動力の回転速、前記HST10の出力回転速及び前記クラッチ機構60a~60b、80a~80c、410Fの油圧との関係を示す。
【0180】
図6に示すように、走行状態が第3速段範囲内の際には、前記制御装置100は、第2HMT伝動状態を現出させた状態で、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bを解除状態とさせ、前記出力側第3クラッチ機構80cを係合状態とさせ、且つ、前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態とさせた上で、前記車速設定部材92の減速操作に応じてHST出力が第1HST速の側から第2HST速の側へ変化するように前記HSTアクチュエータ150を作動させ、これにより、前記第1要素から前記出力側第3伝動機構70c及び前記出力側第3クラッチ機構80cを介して前記走行出力軸47に作動伝達される駆動回転動力の回転速度を前記車速設定部材の減速操作に応じて減速させる。
【0181】
前記車速設定部材90の減速操作に応じて走行状態が第3速段範囲から第2速段範囲へ移行するシフトダウン時には、前記制御装置100は、
・走行状態が所定の第3/第2速段シフトダウン開始速に到達した第3/第2速段シフトダウン開始時点で前記出力側第3クラッチ機構80cを係合状態から解除状態へ移行させ(
図6参照)、若しくは、走行状態が所定の第3/第2速段シフトダウン準備速に到達した第3/第2速段シフトアップ準備時点で前記出力側第3クラッチ機構80cの係合状態から解除状態への滑らせながらの移行を開始させて、第3/第2速段シフトダウン準備時点から所定時間経過後の第3/第2速段シフトダウン開始時点で前記出力側第3クラッチ機構80cを係合状態から解除状態へ移行させ、
・第3/第2速段シフトダウン開始時点から所定時間経過後の第3/第2速段シフトダウン中間時点で前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態から係合状態へ移行させ、
・第3/第2速段シフトダウン中間時点から所定時間経過後の第3/第2速段シフトダウン終了時点で前記出力側第2クラッチ機構80bを解除状態から係合状態へ移行させることで、
第3/第2速段シフトダウン開始時点から第3/第2速段シフトダウン終了時点までの間においては前記走行出力軸47への動力伝達経路が遮断されたシフトダウン空走状態を現出させている。
【0182】
さらに、前記制御装置100は、第3/第2速段シフトダウン終了時点において前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して現出される走行状態が、前記出力側第2クラッチ機構80bが係合状態へ移行される直前における走行状態に一致又は近接するように、シフトダウン空走状態の間に前記HSTアクチュエータ150を介して前記HST10を第2速段側第3/第2速段切替速に変速させる。
【0183】
図6に示す例においては、HST10は、第3/第2速段シフトダウン開始時点から第3/第2速段シフトダウン終了時点までのシフトダウン空走状態の間に、第3速段側第3/第2速段切替速から第2速段側第3/第2速段切替速(この例では第1HST速)に変速されている。
【0184】
図6に示す構成によれば、第3速段範囲から第2速段範囲へのシフトダウン時における前記出力側第2クラッチ機構80bの解除状態から係合状態への移行を、前記出力側第2クラッチ機構80bの駆動側及び従動側の間の速度差が低減された状態で行なうことができる。
【0185】
従って、第3速段範囲から第2速段範囲へのシフトダウン時に、前記走行出力軸47の側から前記主駆動軸212へ大きな逆トルクが伝達されることを防止して、過負荷による前記駆動源210のエンジンストール等を有効に防止することができる。
【0186】
なお、
図6に示す構成においては、第3速段側第3/第2速段切替速とは、前記第1要素から前記出力側第3伝動機構70cを介して前記走行出力軸47に回転動力が作動伝達される状態下においてHST出力が第3速段側第3/第2速段切替速とされた際に現出される走行状態が、前記第1要素から前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して前記走行出力軸47に回転動力が作動伝達される状態下においてHSTの可変出力範囲内で現出可能な走行状態に一致又は近接するような、速度とされる。
【0187】
本実施の形態においては、
図6に示すように、第3速段側第3/第2速段切替速は、前記第1要素から前記出力側第3伝動機構を70c介して前記走行出力軸47に回転動力が作動伝達される状態下においてHST出力が第3速段側第3/第2速段切替速とされた際に現出される走行状態が、前記第1要素から前記出力側第2伝動機構70b及び前記前進側伝動機構400Fを介して前記走行出力軸47に回転動力が作動伝達される状態下においてHST出力が第1HST速とされた際に現出される走行状態に一致又は近接するような、速度とされる。
【0188】
好ましくは、第3速段側第3/第2速段切替速は第3速段側第2/第3速段切替速と略同一速度とされる。
斯かる構成により、前記制御装置100の制御構造の簡略化を図ることができる。
【0189】
図6に示すように、走行状態が第2速度範囲内の際には、前記制御装置100は、第2HMT伝動状態を現出させた状態で、前記出力側第2クラッチ機構80b及び前記前進側クラッチ機構410Fを係合状態とさせ、且つ、前記出力側第1及び第3クラッチ機構80a、80cを解除状態とさせた上で、前記車速設定部材90の減速操作に応じてHST出力が第1HST速の側から第2HST速の側へ変速するように前記HSTアクチュエータ150を作動させており、これにより、前記車速設定部材90の減速操作に応じて走行状態(車速)が減速されるようになっている。
【0190】
前記車速設定部材90の減速操作に応じて走行状態が第2速度範囲から第1速度範囲へ移行するシフトダウン時には、前記制御装置100は、走行状態が所定速(第2/第1速段シフトダウン開始速)に到達した第2/第1速段シフトダウン開始時点で、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの一方のクラッチ機構対(例えば入力側クラッチ機構対)における第1クラッチ機構(入力側第1クラッチ機構60a)を解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第2/第1速段シフトダウン開始時点から所定時間経過後の第2/第1速段シフトダウン終了時点で、前記一方のクラッチ機構対(入力側クラッチ機構対)における第2クラッチ機構(入力側第2クラッチ機構60b)を係合状態から瞬時に解除状態へ移行させて、第2/第1速段シフトダウン開始時点からシフトダウン終了時点までの間においては前記一方のクラッチ機構対(入力側クラッチ機構対)における第1及び第2クラッチ機構の双方が係合されているシフトダウン二重伝動状態を現出させつつ、シフトダウン二重伝動状態の間に、前記入力側クラッチ機構対及び前記出力側クラッチ機構対のうちの他方のクラッチ機構対(出力側クラッチ機構対)における第1クラッチ機構(出力側第1クラッチ機構80a)を解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ且つ前記他方のクラッチ機構対における第2クラッチ機構(出力側第2クラッチ機構80b)を係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させて、前記他方のクラッチ機構対(出力側クラッチ機構対)における第2クラッチ機構の係合状態から第1クラッチ機構の係合状態への切替を行うように、構成されている。
【0191】
斯かる構成によれば、第2HMT伝動状態から第1HMT伝動状態へのシフトダウンを、動力伝達遮断状態を招くことなく円滑に行うことができる。
【0192】
本実施の形態においては、
図6に示すように、第2/第1速段シフトダウン開始速は、第2HMT伝動状態においてHST出力が第2HST速とされた際に現出される走行状態とされている。
【0193】
前述の通り、本実施の形態においては、前記出力側クラッチ機構対を形成する出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bに対する圧油給排を切替える出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは電磁比例弁とされており、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bの油圧の増減速度は調整可能とされている。
【0194】
この場合、前記入力側クラッチ機構対が前記一方のクラッチ機構対とされ、前記出力側クラッチ機構対が前記他方のクラッチ機構対とされる。
【0195】
本実施の形態においては、
図6に示すように、前記制御装置100は、第2/第1速段シフトダウン開始時点で、前記入力側第1電磁弁325aを排出位置から供給位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第2HMT伝動状態において解除状態とされている前記入力側第1クラッチ機構60aを解除状態から瞬時に係合状態へ移行させ、且つ、第2/第1速段シフトダウン終了時点で、前記入力側第2電磁弁325bを供給位置から排出位置に移動させて、前記入力側クラッチ機構対のうち、第2HMT伝動状態において係合状態とされている前記入力側第2クラッチ機構60bを係合状態から瞬時に解除状態へ移行させることで、第1/第2速段シフトダウン開始時点からシフトダウン終了時点までの間においては前記入力側クラッチ機構対における前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの双方が係合されているシフトダウン二重伝動状態を現出させている。
【0196】
さらに、前記制御装置100は、電磁比例弁とされている出力側第2電磁弁335bを供給位置から排出位置へ移動させて前記出力側第2クラッチ機構80bの油圧を設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧未満(詳しくはドレン油圧(クラッチ油圧OFF))まで漸減させて、前記出力側第2クラッチ機構335bを係合状態から解除状態まで摩擦板を滑らせながら移行させ、且つ、電磁比例弁とされている出力側第1電磁弁335aを排出位置から供給位置へ移動させて前記出力側第1クラッチ機構80aの油圧をドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧以上の油圧(詳しくは設定油圧(クラッチ油圧ON))まで漸増させて、前記出力側第1クラッチ機構80aを解除状態から係合状態まで摩擦板を滑らせながら移動させており、この前記出力側第2クラッチ機構80bの係合状態から前記出力側第1クラッチ機構80aの係合状態への切替をシフトダウン二重伝動状態の間に行っている。
【0197】
本実施の形態においては、
図6に示されるように、前記出力側第2電磁弁335bの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第1電磁弁335aの排出位置から供給位置への移動を、第2/第1速段シフトダウン開始時点より前に行っている。
【0198】
詳しくは、前記制御装置100は、走行状態が第2/第1速段シフトダウン開始速より所定速度だけ高速の第2速/第1速段シフトダウン準備速度に到達した時点において、前記出力側第2電磁弁335bの供給位置から排出位置への移動、及び、前記出力側第1電磁弁335aの排出位置から供給位置への移動を行うように構成されている。
【0199】
この場合、電磁比例弁とされている前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bは、第2/第1側速段シフトダウン開始点から第2/第1速段シフトダウン終了時点までのシフトダウン二重伝動状態の間に、前記出力側第1クラッチ機構60aの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)から係合油圧以上となり且つ前記出力側第2クラッチ機構60bの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)から係合油圧未満となり、第2/第1速段シフトダウン終了時点から所定時間経過後に、前記出力側第1クラッチ機構60aの油圧が設定油圧(クラッチ油圧ON)に到達し且つ前記出力側第2クラッチ機構60bの油圧がドレン油圧(クラッチ油圧OFF)に到達するように、油圧増減速度が設定されている。
【0200】
なお、本実施の形態においては、前述の通り、前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bが電磁比例弁とされて、前記出力側第1及び第2クラッチ機構80a、80bの油圧が漸増及び漸減される一方で、前記入力側第1及び第2電磁弁325a、325bが電磁切換弁とされて、前記入力側第1及び第2クラッチ機構60a、60bの油圧の増減が瞬時に行われるように構成されているが、当然ながら、本発明は斯かる形態に限定されるものではない。
【0201】
例えば、前記出力側第1及び第2電磁弁335a、335bを電磁切換弁とし、且つ、前記入力側第1及び第2電磁弁325a、325bを電磁比例弁とするように、変形することも可能である。
【0202】
ここで、本実施の形態においては、前記制御装置100は、前記変速操作部材の操作方向(本実施の形態においては、前記前後進切替操作部材90の、例えば前進方向への操作方向)及び走行状態(車速及び/又は速比)に基づいて画される変速段(例えば、前進方向第1速段)での走行駆動状態における、前記ブレーキ操作部材96からのブレーキ係合操作信号、又は、クラッチ操作部材96(
図1及び
図4参照)からのクラッチ解除操作信号等の動力遮断信号の入力に応じて前記駆動輪への駆動力伝達を遮断し、その後に、当該動力遮断信号の取り消し信号(即ち、前記ブレーキ操作部材96からのブレーキ解除操作信号、又は、前記クラッチ操作部材からのクラッチ係合操作信号)の入力に応じて、走行駆動状態を再開する際に、以下の制御を行うように構成されている。
なお、前記クラッチ操作部材94の操作状態は、クラッチ操作センサ95によって検出される。
【0203】
まず、前記変速操作部材(本実施の形態においては前記前後進切替操作部材90)の操作位置が前進位置Fであり及び走行状態に基づいて画される変速段が第1速段である前進第1速段での走行駆動駆動状態において、動力遮断信号が入力された場合について説明する。
【0204】
前進第1速段においては、前述の通り、前記入力側第1クラッチ機構60a、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態とされ、その他のクラッチ機構は解除状態とされている。
【0205】
この前進第1速段での走行駆動状態において動力遮断信号を入力すると、前記制御装置100は、前進第1速段を現出させる為に係合状態とされている前記クラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構(この例においては、前記前進側クラッチ機構410F)のみを解除状態へ移行させ、且つ、残りのクラッチ機構(この例においては、前記入力側第1クラッチ機構60a及び前記出力側第1クラッチ機構80a)の係合状態を維持するように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0206】
前記制御装置100は、動力遮断信号が有効とされている間においては(即ち、動力遮断信号の取り消し信号が入力されるまでにおいては)、前記変速操作部材の操作方向(本実施の形態においては、前記前後進切替操作部材90の操作方向)に応じた駆動方向で且つその時点の走行状態に対応した予定変速段を判断し、前記予定変速段を形成する複数のクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0207】
例えば、動力遮断信号が有効とされている間の第1時点において、前記変速操作部材の操作方向が前進方向で且つ前記走行センサ49からの信号に基づいて検出される走行状態が第1速段範囲であったとすると、前記制御装置100は、この第1時点においては前進第1速段を予定変速段と判断し、前進第1速段を現出させるクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構、即ち、前記前進側クラッチ機構410Fのみが解除状態となり、且つ、前進第1速段を現出させるクラッチ機構のうちの他のクラッチ機構、即ち、前記入力側第1クラッチ機構60a及び前記出力側第1クラッチ機構80aが係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させた状態で、前進第1速段において当該第1時点で検出された走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0208】
動力遮断信号が有効とされている間の第2時点において、前記変速操作部材の操作方向が前進方向で且つ前記走行センサ49からの信号に基づいて検出される走行状態が第2速段範囲であったとすると、前記制御装置100は、この第2時点においては前進第2速段を予定変速段と判断し、前進第2速段を現出させるクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構、即ち、前記前進側クラッチ機構410Fのみが解除状態となり、且つ、前進第2変速段を現出させるクラッチ機構のうちの他のクラッチ機構、即ち、前記入力側第2クラッチ機構60b及び前記出力側第2クラッチ機構80bが係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させた状態で、前進第2速段において当該第2時点で検出された走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0209】
動力遮断信号が有効とされている間の第3時点において、前記変速操作部材の操作方向が前進方向で且つ前記走行センサ49からの信号に基づいて検出される走行状態が第3速段範囲であったとすると、前記制御装置100は、この第3時点においては前進第3速段を予定変速段と判断し、前進第3速段を現出させるクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構、即ち、前記前記出力側第3クラッチ機構80cのみが解除状態となり、且つ、前進第3変速段を現出させるクラッチ機構のうちの他のクラッチ機構、即ち、前記入力側第2クラッチ機構60bが係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させた状態で、前進第3速段において当該第3時点で検出された走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0210】
そして、動力遮断信号の取り消し信号(即ち、前記ブレーキ操作部材96からのブレーキ解除操作信号、又は、前記クラッチ操作部材からのクラッチ係合操作信号)が入力されると、前記制御装置100は、その時点の予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構が解除状態から係合状態へ移行されるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0211】
斯かる構成によれば、前記変速操作部材が前進方向及び後進方向の何れか一方へ操作された状態での走行駆動状態において、動力遮断信号の入力に応じて駆動力伝達を遮断し、且つ、その後の動力遮断信号の取り消し信号の入力に応じて、走行駆動状態へ復帰させる際に、解除状態から係合状態へ移行するクラッチ機構における駆動側部材及び従動側部材を、両者の間の相対回転速度差を防止乃至は低減させた状態で係合させることができる。
【0212】
この点に関し詳述すると、動力遮断信号の入力に応じて走行駆動状態から駆動力伝達遮断状態へ移行させる際に、走行駆動状態の際に係合状態とされていたクラッチ機構(前記例においては、前記入力側第1クラッチ機構60a、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記前進側クラッチ機構410F)の全てが解除状態へ移行される従来構成においては、駆動力伝達遮断状態の際には、伝動方向最下流クラッチ機構の従動側部材は前記駆動輪に作動連結された状態で、伝動方向最下流クラッチ機構の駆動側部材(当該駆動側部材を含む)から伝動方向最上流クラッチ機構の従動側部材(当該従動側部材を含む)までの伝動部材は、駆動源及び駆動輪の何れにも作動連結されないフリー状態となる。
【0213】
このような従来構成においては、動力遮断信号が有効とされている間にHSTの変速を行っても、HST出力の変速を、伝動方向最下流クラッチ機構の駆動側部材へ反映させることができない。その為、走行駆動状態への復帰時に、伝動方向最下流クラッチ機構を、駆動側部材及び従動側部材の間に大きな回転速度差が存在する状態で解除状態から係合状態へ移行させなければならず、走行フィーリングが悪化する。
【0214】
これに対し、本実施の形態においては、前述の通り、走行駆動状態への復帰時における伝動方向最下流クラッチ機構の解除状態から係合状態への移行を、駆動側部材及び従動側部材の間の回転速度差を防止乃至は低減させた状態で行なうことができ、走行フィーリングの向上を図ることができる。
【0215】
また、本実施の形態においては、前記車速設定部材90を所望位置に位置させつつ、前記前後進切替操作部材92をニュートラル位置Nから前進位置F又は後進位置Rへ操作させる、いわゆるリバーサ操作によって車輌を発進させる場合に、素早く加速を行うことができ、走行フィーリングを向上できる。
【0216】
即ち、前記リバーサ操作は、前記車速設定部材90を所定操作位置(一般的には、第1速段範囲に相当する操作位置)に位置させた状態で、前記前後進切替操作部材92をニュートラル位置Nから前進位置F及び後進位置Rの一方へ位置させることによって行われる。
【0217】
従来構成においては、走行駆動状態において前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されると、前記前後進切替操作部材92を前進位置F又は後進位置Rに位置させた際に係合状態とされるべきクラッチ機構(以下、係合予定クラッチ機構という。走行状態が第1速段範囲内において、前記前後進切替操作部材92が前進位置F(又は後進位置R)からニュートラル位置NFへ操作された場合には、前記入力側第1クラッチ機構60a、前記出力側第1クラッチ機構80a及び前記前進側クラッチ機構410F(又は前記後進側クラッチ機構410R)が係合予定クラッチ機構となる。)の全てが解除状態とされる。
【0218】
斯かる従来構成においては、前記係合予定クラッチ機構のうち伝動方向に関し最下流に配置されているクラッチ機構(本実施の形態においては、前記前進側クラッチ機構410F又は前記後進側クラッチ機構410R)は、従動側部材が前記駆動輪220に作動連結されたままで、駆動側部材が前記駆動源210とは切断された状態となり、さらに、前記係合予定クラッチ機構のうち伝動方向に関し最上流に配置されているクラッチ機構(本実施の形態においては、前記入力側第1クラッチ機構60a)は、駆動側部材が前記駆動源210に作動連結されたままで、従動側部材が前記駆動輪220とは切断された状態となる。
【0219】
従って、従来構成において、例えば前進側への前記リバーサ操作を行なった場合には、前記入力側第1クラッチ機構60a及び前記前進側クラッチ機構410Fは、回転速度差が大きい状態の駆動側部材及び従動側部材を係合させることになり、走行フィーリングの悪化を招く。
【0220】
さらに、前記従来構成においては、前記前後進切替操作部材92をニュートラル位置Nから前進位置F又は後進位置Rへ操作(リバーサ操作)して車輌発進させる際には、係合予定クラッチ機構の全てに対して係合状態を得る為の作動油を供給する必要があり、作動油の供給不足によって十分な発進加速が得られない不都合が生じ得る。作動油を供給するポンプの回転数は前記駆動源210の回転数に比例する為、特に、前記駆動源210の回転数が低回転数の場合において、作動油供給不足が顕著となり、係合予定クラッチ機構の全てを係合状態へ迅速に移行させることが困難となる。
【0221】
これに対し、本実施の形態においては、リバーサ操作の際に前記制御装置100は以下の作動制御を実行する。
【0222】
即ち、前記車速設定部材90が所定位置に位置された状態で前記前後進切替操作部材92が前進位置F又は後進位置Rからニュートラル位置Nへ操作されたことを認識すると、前記制御装置100は、その時点で係合されている変速段における伝動方向最下流クラッチ機構(即ち、前記前進側クラッチ機構410F、前記後進側クラッチ機構410R及び前記出力側第3クラッチ機構80cの何れか)が解除状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0223】
そして、前記ニュートラル信号が有効とされている間(即ち、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されている間)においては、前記制御装置100は、その時点の走行状態に対応した予定変速段を判断し、当該予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構(即ち、前記前進側クラッチ機構410F、前記後進側クラッチ機構410R及び前記出力側第3クラッチ機構80cの何れか一のクラッチ機構)の解除状態を維持し且つ前記予定変速段を形成する複数のクラッチ機構のうち残余のクラッチ機構が係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させつつ、前記予定変速段においてその時点での走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0224】
例えば、ニュートラル信号が有効とされている間の第1時点において、前記走行センサ49からの信号に基づいて検出される走行状態が第1速段範囲であったとすると、前記制御装置100は、この第1時点においては第1速段を予定変速段と判断し、前進側クラッチ機構410F及び後進側クラッチ機構410Rの解除状態を維持し且つ第1速段を現出させるクラッチ機構のうち前進側クラッチ機構410F及び後進側クラッチ機構400R以外のクラッチ機構、即ち、前記入力側第1クラッチ機構60a及び前記出力側第1クラッチ機構80aが係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させた状態で、第1速段において当該第1時点で検出された走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0225】
ニュートラル信号が有効とされている間の第2時点において、前記走行センサ49からの信号に基づいて検出される走行状態が第2速段範囲であったとすると、前記制御装置100は、この第2時点においては第2速段を予定変速段と判断し、前進側クラッチ機構410F及び後進側クラッチ機構410Rの解除状態を維持し且つ第2速段を現出させるクラッチ機構のうち前進側クラッチ機構410F及び後進側クラッチ機構410R以外のクラッチ機構、即ち、前記入力側第2クラッチ機構60b及び前記出力側第2クラッチ機構80bが係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させた状態で、第2速段において当該第2時点で検出された走行状態を現出させるHST出力が得られるように、前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0226】
そして、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nから前進位置F又は後進位置Rへ操作されると、前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92の操作位置に応じた前記前進側クラッチ機構410F又は前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0227】
即ち、本実施の形態においては、前記前後進切替操作部材92が前進位置F又は後進位置Rへ操作された時点での予定変速段が第1速段である場合には、前記入力側第1クラッチ機構60a及び前記出力側第1クラッチ機構80aが係合状態とされ、且つ、第1速段においてその時点での走行状態を現出させるHST出力が得られている状態で、対応する前進側クラッチ機構410F又は後進側クラッチ機構410Rだけが解除状態から係合状態へ移行される。
【0228】
又は、前記前後進切替操作部材92が前進位置F又は後進位置Rへ操作された時点での予定変速段が第2速段である場合には、前記入力側第2クラッチ機構60b及び前記出力側第2クラッチ機構80bが係合状態とされ、且つ、第2速段においてその時点での走行状態を現出させるHST出力が得られている状態で、対応する前進側クラッチ機構410F又は後進側クラッチ機構410Rだけが解除状態から係合状態へ移行される。
【0229】
従って、リバーサ操作に対応した前記前進側クラッチ機構410F又は前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態から係合状態へ移行される際には、対応する前記前進側クラッチ機構410F又は前記後進側クラッチ機構410Rにのみ係合作動油を供給すれば良く、さらに、対応する前記前進側クラッチ機構410F又は前記後進側クラッチ機構410Rの駆動側部材及び従動側部材は、相対速度差が防止乃至は低減された状態で係合される。従って、リバーサ操作による車輌発進に際し、スムースな加速を現出させ、走行フィーリングを向上させることができる。
【0230】
以下、前記制御装置100の変速制御に関する第1変形例について説明する。
前記第1変速例は、前記変速操作部材(前記前後進切替操作部材92)が前進位置又は後進位置に位置されている際に車速及びTM速比の少なくとも一方(例えば、前記入力センサ49a及び前記出力センサ49bからの信号に基づくTM速比)に基づき認識される走行状態の進行方向が前記変速操作部材の前後進操作方向と一致している駆動状態において、前記ブレーキ操作部材96からのブレーキ係合操作信号、又は、クラッチ操作部材96(
図1及び
図4参照)からのクラッチ解除操作信号等の動力遮断信号の入力に応じて前記駆動輪への駆動力伝達を遮断し、その後に、当該動力遮断信号の取り消し信号(即ち、前記ブレーキ操作部材96からのブレーキ解除操作信号、又は、前記クラッチ操作部材からのクラッチ係合操作信号)の入力に応じて走行駆動状態を再開する際の変速制御に関するものである。
【0231】
前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92の前後進操作方向と車速及びTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態の進行方向とが一致する駆動状態において動力遮断信号を入力すると、選択されている変速段での駆動状態を現出させる複数のクラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構のみが解除状態となるように、前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0232】
前記第1変形例においては、前記前後進切替操作部材92が前進又は後進操作されている状態での動力遮断信号の有効中においては、前記制御装置100は、車速及びTM速比の少なくとも一方に基づき認識される走行状態の進行方向が前記前後進切替操作部材92の前後進操作方向とは異なり且つ前記走行状態の速度(又は速比)が所定のゼロ速近傍しきい値以下である場合を除き、前記走行状態に応じた変速段を予定変速段を判断するように構成されている。
【0233】
その上で、前記制御装置100は、前記走行状態の進行方向が前記前後進切替操作部材92の前後進操作方向とは異なり且つ走行状態の速度(又は速比)がゼロ速近傍しきい値以下である場合には、前記前後進切替操作部材92の操作方向に対応した出力回転方向で且つ走行状態の速度(又は速比)に応じた変速段を予定変速段と判断するように構成されている。
【0234】
図7に、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rに位置された状態で坂道を第1速段範囲の車速(又はTM速比)-Vaで後進方向に駆動走行中に、クラッチ遮断信号等の動力遮断信号が入力された走行例(以下、第1走行例という)における、車速(又はTM速比)の変化、並びに、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの係脱状態の変化を示す。
【0235】
また、
図8(a)に、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rに位置されている状態での動力遮断信号の有効中における、車速及び/又はTM速比に基づき認識される走行状態と予定変速段との関係を示す。
さらに、
図8(b)に、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されている状態での動力遮断信号の有効中における走行状態と予定変速段との関係を、
図8(c)に、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fに位置されている状態での動力遮断信号の有効中における走行状態と予定変速段との関係を、それぞれ示す。
【0236】
図7に示す第1走行例においては、時点Ta1でクラッチ解除信号等の動力遮断信号が入力され、その後の時点Ta4で動力遮断信号の取り消し信号が入力されている。
【0237】
時点Ta1での動力遮断信号に応じて、前記制御装置100は、その時点での変速段(即ち、後進第1速段)における伝動方向最下流クラッチ機構である後進側クラッチ機構410Rが解除状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0238】
動力遮断状態においては、車輌は、坂道によって後進方向の車速-Vaが減速される。
図7の第1走行例においては、後進方向の車速が減速されて、時点Ta2でゼロ速となり、その後、動力遮断信号の取り消し信号(例えば、クラッチ戻し信号)が入力される時点Ta4において、前進方向の車速+Vbとなっている。
【0239】
第1走行例において、走行状態が後進方向である期間(時点Ta1~時点Ta2)及び走行状態が前記前後進切替操作部材92の操作方向である後進方向とは反対の前進方向ではあるが、車速(又はTM速比)がゼロ速近傍しきい値Vs以下である期間(時点Ta2~時点Ta3)においては、前記制御装置100は、前記走行状態の車速(又はTM速比)に応じた後進第1速段を予定変速段と判断する(
図8(a)参照)。
【0240】
これにより、前記制御装置100は、時点Ta1~時点Ta2及び時点Ta2~時点Ta3においては、予定変速段を現出させる複数クラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構である後進側クラッチ機構410Rのみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させつつ、その時点での車速に応じた出力状態を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0241】
その後、車速(又はTM速比)がゼロ速近傍しきい値Vsを越えると(時点Ta3~)、前記制御装置100は、前記走行状態の進行方向で且つ車速(TM速比)に対応した変速段(前記第1走行例においては前進第1速段)を予定変速段と判断する。
【0242】
これにより、前記制御装置100は、時点Ta3以降においては、予定変速段を現出させる複数クラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構である前進側クラッチ機構410Fのみが解除状態となり且つ予定変速段の他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させつつ、その時点での車速に応じた出力状態を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0243】
そして、時点Ta4において動力遮断信号の取り消し信号が入力されると、前記制御装置100は、その時点で予定変速段と判断している前進第1変速段の伝動方向最下流クラッチ機構(即ち、前記前進側クラッチ機構410F)が解除状態から係合状態へ移行するように前記クラッチアクチュエータ300を作動させ、前記車速設定部材90の操作位置に応じた車速(又はTM速比)が得られるように前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0244】
この状態においては、エンジンブレーキ作用によって前進方向への車速(又はTM速比)は減速され、時点Ta5において、走行状態の車速(又はTM速比)は実質的にゼロ速(ほぼゼロ速を含む)となる。
【0245】
走行状態の車速(又はTM速比)が実質的にゼロ速となると、前記制御装置100は、前記前後進切替操作部材92の操作方向である後進方向の駆動力を出力し且つ走行状態の車速(又はTM速比)に応じた変速段(即ち、後進第1速段)を係合すべき変速段と判断する。
【0246】
即ち、前記制御装置100は、時点Ta5において、前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0247】
図7に示すように、前記第1走行例においては、動力遮断信号の取り消し信号の入力に応じて、その時点での予定変速段を現出させる為に係合状態へ移行された前記前進側クラッチ機構410Fは、走行状態の実質的な車速ゼロ速に応じて前記前後進切替操作部材92の前後進操作に応じた変速段(
図7においては後進第1速段)が係合状態へ移行された時点Ta5から予め設定された所定時間S1の経過後の時点Ta6で解除状態へ移行されている。この所定時間S1は、意に反した動力遮断状態が生じることを防止する為に、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの二重係合状態を現出させるように設定される。
【0248】
これに代えて、前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態へ移行される時点Ta5において、前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態へ移行させることも可能である。
【0249】
次に、前記前後進切替操作部材92が後進位置Rに位置された状態で坂道を第1速段範囲の車速(又はTM速比)-Vaで後進方向に駆動走行中に、クラッチ遮断信号等の動力遮断信号が入力された場合の他の走行例(以下、第2走行例という)における変速制御について説明する。
【0250】
図9に、前記第2走行例における、車速(又はTM速比)の変化、並びに、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの係脱状態の変化を示す。
【0251】
図9の第2走行例は、時点Ta1で動力遮断信号が入力され、時点Ta2で走行状態の車速(又はTM速比)がゼロ速となり、時点Ta3で前記前後進切替操作部材92の操作方向である後進方向とは反対の前進方向で且つ車速(又はTM速比)がゼロ速近傍しきい値Vsとなっている点においては第1走行例と同じであるが、動力遮断信号の取り消し信号が入力された時点での車速(又はTM速比)に関し第1走行例と異なっている。
【0252】
即ち、第2走行例においては、動力遮断信号の取り消し信号が入力された時点Ta3において、走行状態の進行方向が前記前後進切替操作部材の操作方向である後進方向とは反対の前進方向であり且つ車速(又はTM速比)がゼロ速近傍しきい値Vsとされている。
【0253】
従って、前記制御装置100は、動力遮断信号の取り消し信号が入力された時点Ta3においては、後進第1速段を予定変速段と判断している。
【0254】
従って、前記制御装置100は、時点Ta3において、予定変速段である後進第1変速段を現出させる複数クラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構である後進側クラッチ機構410Rが係合状態へ移行するように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0255】
以下、前記制御装置100の変速制御に関する第2変形例について説明する。
前記第2変形例は、前記変速操作部材(前記前後進切替操作部材92)が前進位置及び後進位置の一方に位置されている際に車速及びTM速比の少なくとも一方(例えば、前記入力センサ49a及び前記出力センサ49bからの信号に基づくTM速比)に基づき認識される走行状態の進行方向が前記前後進切替操作部材92の前後進操作方向と一致している駆動状態において、前記前後進切替操作部材92のN位置への操作に応じて駆動力出力を遮断し、その後に、前記前後進切替操作部材92の前進位置F及び後進位置Rの他方への操作に応じて当該前後進切替操作部材92の前後進操作に対応した駆動力出力を再開する際の変速制御に関するものである。
【0256】
図10に、前進方向へ駆動走行中に前記前後進切替操作部材92を前進位置Fからニュートラル位置Nを介して後進位置Rへ操作した場合の走行例(以下、第3走行例という)における、車速(又はTM速比)の変化、並びに、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの係脱状態の変化を示す。
【0257】
図10の第3走行例においては、前記前後進切替操作部材92が前進位置Fに位置された状態で前記車速設定部材90の操作位置に対応した第1速段範囲の車速(又はTM速比)Vaで前進方向へ駆動走行中に、時点Tb1で前記前後進切替操作部材92が前進位置Fからニュートラル位置Nへ操作されている。
【0258】
時点Tb1での前記前後進切替操作部材92のF位置からN位置への操作に応じて、前記制御装置100は、前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態から解除状態へ移行するように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0259】
時点Tb1~時点Tb2までの間においては、前記前後進切替操作部材92はニュートラル位置Nに位置されており、従って、前記制御装置100は、車速及び/又はTM速比に基づき認識される前記走行状態の進行方向及び及び車速(又はTM速比)に基づき予定変速段を判断する(
図8(b)参照)。
【0260】
図10の第3走行例においては、前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nに位置されている時点Tb1~Tb2における進行方向は前進方向であり、且つ、車速(又はTM速比)は第1/第2速段切替速以下の第1速段範囲である。
【0261】
従って、時点Tb1~Tb2においては、前記制御装置100は、前進第1速段を予定変速段と判断し、前進第1速段を現出させる複数クラッチ機構のうち伝動方向最下流クラッチ機構である前進側クラッチ機構410Fのみが解除状態となり且つ他のクラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させつつ、その時点での車速に応じた出力状態を現出させるHST出力が得られるように前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0262】
時点Tb2で前記前後進切替操作部材92がニュートラル位置Nから後進位置Rへ操作されると、前記制御装置100は、その時点の予定変速段における伝動方向最下流クラッチ機構(
図10の第3走行例においては前記前進側クラッチ機構410F)が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0263】
その後、走行状態の進行方向が前進方向である期間(時点Tb2~時点Tb3)においては、前記制御装置100は、走行状態の進行方向及び車速(又はTM速比)に応じた変速段(
図10の第3走行例においては前進第1速段)が現出されるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させつつ、前記車速設定部材90の操作位置に応じた車速(又はTM速比)を目標車速(又は目標TM速比)として前記HSTアクチュエータ150を作動させる。
【0264】
動力遮断信号が入力されていない状態においては、走行状態の進行方向の切替に応じて、前進側の変速段及び後進側の変速段の切替が行われる。
即ち、動力遮断信号が入力されていない状態においては、前記制御装置100は、走行状態の進行方向及び車速(又はTM速比)に基づいて、係合させるべき変速段を選択する。
図10の第3走行例においては、走行状態の進行方向が後進方向へ切り替わる時点Tb3以降においては、後進方向の駆動回転動力を出力し且つその時点の走行状態の車速(又はTM速比)に応じた変速段(
図10の第3走行例においては後進第1速段)を係合させるべき変速段として選択し、その選択された変速段を現出させる複数クラッチ機構が係合状態となるように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0265】
ここで、前述の通り、時点Tb2~時点Tb3においては、前進側第1速段を現出させる前記入力側第1クラッチ機構60a、前記出力側第1クラッチ機構60b及び前記前進側クラッチ機構410Fが係合状態とされている。
【0266】
従って、時点Tb3以降において、前記制御装置100は、前記入力側第1クラッチ機構60a及び前記出力側第1クラッチ機構60bの係合状態を維持しつつ、後進側第1速段を現出させる為に前記後進側クラッチ機構410Rが解除状態から係合状態へ移行するように前記クラッチアクチュエータ300を作動させる。
【0267】
なお、
図10に示すように、前記第3走行例においては、前記前後進切替操作部材92のニュートラル位置Nから後進位置Rへ操作された時点Tb2において、前記前後進切替操作部材92の操作方向とは異なる方向の駆動力を出力する変速段を現出させる為に係合状態へ移行されたクラッチ機構(即ち、前記前進側クラッチ機構410F)は、係合状態へ移行された時点Tb2から予め設定された所定時間S2の経過後に解除状態へ移行されている。この所定時間S2は、意に反した動力遮断状態を防止する為に、前記前進側クラッチ機構410F及び前記後進側クラッチ機構410Rの二重係合状態を現出させるように設定される。
【0268】
これに代えて、前記後進側クラッチ機構410Rが係合状態へ移行される時点Tb3において、前記前進側クラッチ機構410Fを解除状態へ移行させることも可能である。
【0269】
なお、前記制御装置100は、係合させるべき予定変速段の判断についてはTM速比に基づき行ない、ゼロ速近傍しきい値を越えているか否かの判断については車速に基づいて行うように構成され得る。
【符号の説明】
【0270】
1 トランスミッション構造
10 HST
20 出力調整部材
30 遊星歯車機構
45 変速出力軸
47 走行出力軸
49a 入力センサ(走行センサ)
49b 出力センサ(走行センサ)
50a、50b 入力側第1及び第2伝動機構
60a、60b 入力側第1及び第2クラッチ機構
70a~70c 出力側第1~第3伝動機構
80a~80c 出力側第1~第3クラッチ機構
90 車速設定部材(変速操作部材)
91 車速設定センサ(変速センサ)
92 前後進切替操作部材(変速操作部材)
93 前後進切替センサ(変速センサ)
94 クラッチ操作部材
96 ブレーキ操作部材
100 制御装置
150 HSTアクチュエータ
152 油圧サーボ機構
210 駆動源
220 駆動輪
400F、400R 前進側及び後進側伝動機構
410F、410R 前進側及び後進側クラッチ機構