(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147066
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ポリアミドオリゴマー組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 69/26 20060101AFI20241008BHJP
C08L 77/10 20060101ALI20241008BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20241008BHJP
C08K 5/092 20060101ALI20241008BHJP
C08J 11/26 20060101ALI20241008BHJP
C08J 11/28 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
C08G69/26
C08L77/10 ZAB
C08K5/17
C08K5/092
C08J11/26
C08J11/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059838
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 公哉
(72)【発明者】
【氏名】歌崎 憲一
【テーマコード(参考)】
4F401
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4F401AA24
4F401BA06
4F401BB09
4F401CA67
4F401CA69
4F401CA75
4F401EA65
4F401EA67
4J001DA01
4J001DB01
4J001EB08
4J001EB09
4J001EC08
4J001EE08F
4J001EE09D
4J001FA01
4J001FB03
4J001FC03
4J001GE13
4J001JA19
4J001JB01
4J001JB06
4J002CL031
4J002EF016
4J002EF026
4J002EN036
4J002FD206
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】
再重合原料として好適に使用可能な、高温高圧下での溶解性と常温常圧下での析出を両立でき、不純物の少ないポリアミドオリゴマー組成物、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】
化学式(I)で表されるポリアミドオリゴマーを含み、数平均分子量が250以上800以下であるポリアミドオリゴマー組成物。
化学式(I):-[-CO-X-CO-NH-Y-NH-]z-
(式中、X、Yはそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の2価の脂肪族基、炭素数3以上20以下の2価の脂環族基、および炭素数6以上20以下の2価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基を表す。zは1以上3以下の整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)で表されるポリアミドオリゴマーを含み、数平均分子量が250以上800以下であるポリアミドオリゴマー組成物。
化学式(I):-[-CO-X-CO-NH-Y-NH-]z-
(式中、X、Yはそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の2価の脂肪族基、炭素数3以上20以下の2価の脂環族基、および炭素数6以上20以下の2価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基を表す。zは1以上3以下の整数である。)
【請求項2】
COOH基濃度が2.5mol/kg以上8.0mol/kg以下である、請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物。
【請求項3】
NH2基濃度が2.5mol/kg以上8.0mol/kg以下である、請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物。
【請求項4】
示差熱分析で測定した融点が40℃以上220℃以下である、請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物を重合原料として用いてなるポリアミド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリアミドを成形してなる成形品。
【請求項7】
請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物を製造する方法であって、少なくともポリアミド(A)と、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)と、溶媒(C)とを、温度220℃以上300℃以下、圧力2MPa以上30MPa以下で混合する工程を含む、ポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項8】
溶媒(C)が水である、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項9】
ポリアミド(A)が、ジカルボン酸およびジアミンの重縮合反応物である、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項10】
ジカルボン酸および/またはジアミン(B)が、ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸またはジアミンである、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項11】
ジカルボン酸および/またはジアミン(B)がジカルボン酸またはジアミンのいずれか一方のみである場合において、ポリアミド(A)中に含まれるアミド基のモル数:ジカルボン酸またはジアミンのモル数=1:Mとした場合、Mが0.45以上、0.95以下である、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項12】
ジカルボン酸および/またはジアミン(B)がジカルボン酸およびジアミンの両方である場合において、ポリアミド(A)中に含まれるアミド基のモル数:ジカルボン酸のモル数とジアミンのモル数の差の絶対値=1:Nとした場合、Nが0.45以上、0.95以下である、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項13】
さらに、ポリアミドオリゴマー組成物を固液分離により固体として回収する工程を有する、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項14】
ポリアミド(A)が廃棄物である、請求項7に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
【請求項15】
以下の工程(1)および工程(2)をこの順に含む、ポリアミドの製造方法。
(1)請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物とジアミンおよび/またはジカルボン酸とを溶媒中で混合し、塩溶液を調製する工程
(2)工程(1)において調製した塩溶液を重縮合させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドオリゴマー組成物、それを用いたポリアミド、その成形品、ポリアミドオリゴマー組成物の製造方法、およびポリアミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋プラスチック問題をトリガーに地球環境問題に対する関心が高まり、持続可能な社会の構築が必要であるとの認識が広まってきている。地球環境問題には、地球温暖化をはじめ、資源枯渇、水不足などがあるが、その多くは産業革命以降の急速な人間活動による、資源消費量と地球温暖化ガス排出量の増大が原因にある。そのため、持続可能な社会構築のためには、プラスチックなどの化石資源循環利用、および地球温暖化ガス排出量低減に関する技術がますます重要となる。
【0003】
特に、自動車、電気・電子用途など各分野で多量に使用されているポリアミド66では、単量体製造時に排出される地球温暖化ガス量が多いため、ポリアミド66を含む製品を重合原料まで戻して再資源化する技術が望まれている。
【0004】
ポリアミド66のような、ジアミンとジカルボン酸からなるポリアミドを解重合し、単量体まで戻して再資源化する技術としては、水酸化ナトリウムのような無機塩基化合物の存在下に、例えばポリアミドの融点未満の温度の220℃で加水分解する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
また、無機塩基化合物を用いずにジアミンとジカルボン酸からなるポリアミドの解重合を行う方法としては、ポリアミドと高温高圧水とを接触させて原料モノマーであるジアミンとジカルボン酸を回収する方法が開示されている(例えば特許文献2、非特許文献1参照)。水のみによって解重合を行う方法は、水酸化ナトリウムなどの添加物を除去する工程が不要であり、さらに添加物由来の廃棄物を生じないことから、グリーンな再資源化方法であるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平7-507556号公報
【特許文献2】特開2001-302597号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Polymer Degradation and Stability 83 (2004) 389-393
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されている方法では長時間反応が必要で、副反応物(不純物)の生成量が多く除去が困難なため、得られるポリアミドオリゴマーを再重合原料として利用することはできなかった。
【0009】
また、特許文献2に開示されている方法では、得られる生成物の平均分子量が小さいため、溶媒溶解性が高く、溶解液からポリアミドオリゴマーを効率的に析出・回収することが困難であった。
【0010】
さらに、非特許文献1に開示されている方法では、単量体を含むポリアミドオリゴマーの分子量分布が大きく溶媒溶解性が異なる成分が多いため、不純物の分離が困難であること、または副反応物の生成量が多く除去することが困難であることから、ポリアミドオリゴマーを再重合原料として利用することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を有する。
[1]化学式(I)で表されるポリアミドオリゴマーを含み、数平均分子量が250以上800以下であるポリアミドオリゴマー組成物。
化学式(I):-[-CO-X-CO-NH-Y-NH-]z-
(式中、X、Yはそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の2価の脂肪族基、炭素数3以上20以下の2価の脂環族基、および炭素数6以上20以下の2価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基を表す。zは1以上3以下の整数である。)
[2]COOH基濃度が2.5mol/kg以上8.0mol/kg以下である、上記[1]に記載のポリアミドオリゴマー組成物。
[3]NH2基濃度が2.5mol/kg以上8.0mol/kg以下である、上記[1]に記載のポリアミドオリゴマー組成物。
[4]示差熱分析で測定した融点が40℃以上220℃以下である、上記[1]に記載のポリアミドオリゴマー組成物。
[5]上記[1]に記載のポリアミドオリゴマー組成物を重合原料として用いてなるポリアミド。
[6]上記[5]に記載のポリアミドを成形してなる成形品。
[7]上記[1]に記載のポリアミドオリゴマー組成物を製造する方法であって、少なくともポリアミド(A)と、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)と、溶媒(C)とを、温度220℃以上300℃以下、圧力2MPa以上30MPa以下で混合する工程を含む、ポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[8]溶媒(C)が水である、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[9]ポリアミド(A)が、ジカルボン酸およびジアミンの重縮合反応物である、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[10]ジカルボン酸および/またはジアミン(B)が、ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸またはジアミンである、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[11]ジカルボン酸および/またはジアミン(B)がジカルボン酸またはジアミンのいずれか一方のみである場合において、ポリアミド(A)中に含まれるアミド基のモル数:ジカルボン酸またはジアミンのモル数=1:Mとした場合、Mが0.45以上、0.95以下である、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[12]ジカルボン酸および/またはジアミン(B)がジカルボン酸およびジアミンの両方である場合において、ポリアミド(A)中に含まれるアミド基のモル数:ジカルボン酸のモル数とジアミンのモル数の差の絶対値=1:Nとした場合、Nが0.45以上、0.95以下である、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[13]さらに、ポリアミドオリゴマー組成物を固液分離により固体として回収する工程を有する、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[14]ポリアミド(A)が廃棄物である、上記[7]に記載のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法。
[15]以下の工程(1)および工程(2)をこの順に含む、ポリアミドの製造方法。
【0012】
(1)請求項1に記載のポリアミドオリゴマー組成物とジアミンおよび/またはジカルボン酸とを溶媒中で混合し、塩溶液を調製する工程
(2)工程(1)において調製した塩溶液を重縮合させる工程
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、再重合原料として好適に使用可能な、高温高圧下での溶解性と常温常圧下での析出を両立でき、不純物の少ないポリアミドオリゴマー組成物、およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、化学式(I)で表されるポリアミドオリゴマーを含み、数平均分子量が250以上800以下である。
化学式(I):-[-CO-X-CO-NH-Y-NH-]z-
【0016】
式中、X、Yはそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の2価の脂肪族基、炭素数3以上20以下の2価の脂環族基、および炭素数6以上20以下の2価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基を表す。zは1以上3以下の整数である。
【0017】
本発明における化学式(I)で表されるポリアミドオリゴマーは、ジアミンとジカルボン酸が重縮合した構造を有する。
【0018】
ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミンなどが挙げられる。
【0019】
脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカンジアミン、テトラデカンジアミン、ペンタデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ヘプタデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、エイコサンジアミン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0020】
脂環式ジアミンとしては、シクロヘキサンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0021】
芳香族ジアミンとしては、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0022】
中でも、ジアミンとして、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミンが好ましい。
【0023】
ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0024】
脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸などが挙げられる。
【0025】
脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸などが挙げられる。
【0026】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などが挙げられる。
【0027】
中でも、ジカルボン酸として、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸が好ましい。
【0028】
なお、本発明における化学式(I)で表されるポリアミドオリゴマーは、原料として、上記ジアミン、ジカルボン酸以外に、ポリアミドオリゴマー組成物中の20重量%以下の範囲で、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ウンデカンラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタムを含んでもよい。
【0029】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、数平均分子量が250以上800以下である。本発明において、ポリアミドオリゴマー組成物の数平均分子量は、乾燥状態のポリアミドオリゴマー組成物の末端基であるCOOH基濃度(mol/kg)とNH2基濃度(mol/kg)を用いて、式(II)によって算出したものである。
式(II):[数平均分子量]=1000/(([COOH基濃度]+[NH2基濃度])/2)
【0030】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物のCOOH基濃度とNH2基濃度は、実施例に記載の方法により測定する。なお、実施例に記載の方法においては、ポリアミドオリゴマー組成物を0.010g、0.500g精評しているが、当該方法に使用する酸溶液またはアルカリ溶液は、ポリアミドオリゴマーの貧溶媒となる。そのため、末端基濃度測定に使用するポリアミドオリゴマー組成物の量が多すぎると、ポリアミドオリゴマーが析出し、正確に末端基濃度を測定することができない。例えば、ポリアミドをジカルボン酸で解重合して得られるポリアミドオリゴマーはCOOH基濃度が高いと予想される。そのような場合、末端基濃度測定に使用するポリアミドオリゴマー組成物の量を少なくすることで、滴定中のポリアミドオリゴマーの析出を防ぐことができる。このように、ポリアミドオリゴマー組成物の末端基濃度を精度よく測定する目的から、末端基濃度測定に使用するポリアミドオリゴマー組成物の量は0.010~0.500gの範囲で変化しうる。
【0031】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物を再重合原料として使用するための特に好ましい方法として、ポリアミドの解重合物に含まれる不純物を除去する目的から、ポリアミドオリゴマー組成物を溶媒に溶解して、その溶解液からポリアミドオリゴマーを析出させる方法が例示できる。そして、これらを両立するためには、数平均分子量が250以上800以下であることが必要である。この範囲にすることで、熱水溶解性の高いポリアミドオリゴマー組成物を得ることができ、溶解液から温度低下によって効率的にポリアミドオリゴマー組成物を析出させることができる。300以上が好ましく、350以上がより好ましい。一方、700以下が好ましく、600以下がより好ましく、550以下が特に好ましい。
【0032】
さらに、本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、化学式(III)で表されることが好ましい。
化学式(III):P-[-CO-X-CO-NH-Y-NH-]z-Q
【0033】
式中、X、Yはそれぞれ独立に炭素数2以上20以下の2価の脂肪族基、炭素数3以上20以下の2価の脂環族基、および炭素数6以上20以下の2価の芳香族基から選ばれる少なくとも1種を含む残基、zは1以上3以下の整数、末端基構造Pは、-OH、または-NH-Y-NH2、末端基構造Qは、-H、-CO-X-COOHである。
【0034】
前記末端基構造とすることで、ポリアミドオリゴマー組成物の溶解液から効率的に析出させることができる。中でも、末端基構造Pとしては-OHがより好ましく、末端基構造Qとしては-CO-X-COOHがより好ましい。なお、ポリアミドオリゴマー組成物は、式(III)で示されるX、Yの構造の異なる複数のポリアミドオリゴマーの混合物であってもよい。
【0035】
ゆえに、本発明のポリアミドオリゴマー組成物のポリアミドオリゴマー組成物のCOOH基濃度とNH2基濃度は、数平均分子量250以上800以下を満たす範囲であれば特に制限はなく、化学式(III)における末端構造P、Qに対応して、任意の値をとることができる。例えば、末端構造Pが-OH、Qが-CO-X-COOHであるポリアミドオリゴマーが主成分である場合、COOH基濃度は2.5mol/kg以上8.0mol/kg以下であることが好ましい。ここでいうCOOH基の濃度およびNH2基の濃度は、ポリアミドオリゴマー組成物1kg当たりのCOOH基またはNH2基のモル当量として求める。この範囲とすることで、ポリアミドオリゴマー組成物を溶媒に溶解させ、温度低下させて析出させることで副反応物を効率的に除去することができる。3.0mol/kg以上がより好ましく、3.5mol/kg以上が更に好ましい。一方、7.0mol/kg以下がより好ましく、6.0mol/kg以下が更に好ましい。
【0036】
また、末端構造Pが-NH-Y-NH2、Qが-Hのポリアミドオリゴマーが主成分である場合、NH2基濃度は2.5mol/kg以上、8.0mol/kg以下であることが好ましい。この範囲とすることで、ポリアミドオリゴマー組成物を溶媒に溶解させ、温度低下させて析出させることで副反応物を効率的に除去することができる。3.0mol/kg以上がより好ましく、3.5mol/kg以上が更に好ましい。一方、7.0mol/kg以下がより好ましく、6.0mol/kg以下が更に好ましい。
【0037】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、数平均分子量250以上800以下を満たす範囲であれば、ポリアミドオリゴマー以外の成分を含んでいても良い。ポリアミドオリゴマー以外の成分としては、例えば、ジアミン、ジカルボン酸、ラクタム、アミノ酸などが挙げられる。中でも、ポリアミドオリゴマーの構成成分であるジカルボン酸またはジアミンが好ましい。このようなジカルボン酸またはジアミンを含有するポリアミドオリゴマー組成物は、重合原料に供して製造されるポリアミドが単一のジカルボン酸と単一のジアミンからなる重縮合体となるため、ポリアミドホモポリマー原料として用いることができる。ポリアミドオリゴマー組成物中のポリアミドオリゴマーの含有量は、50重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の示差熱分析で測定した融点は、40℃以上220℃以下であることが好ましい。この範囲に制御することで、ポリアミドオリゴマー組成物を溶媒に溶解させやすくすることができるとともに、温度低下させて析出させることで副反応物を効率的に除去しやすくすることができる。前記融点は50℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、100℃以上が特に好ましい。一方、前記融点は213℃以下がより好ましく、209℃以下がさらに好ましい。ここでいう、ポリアミドオリゴマー組成物の融点は、実施例に記載の方法により測定される。
【0039】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法は、本発明のポリアミドオリゴマー組成物を製造する方法であって、ポリアミド(A)と、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)と、溶媒(C)とを温度220℃以上300℃以下、圧力2MPa以上30MPa以下で混合する工程を含む。
【0040】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ポリアミド(A)が、ジカルボン酸とジアミンの重縮合反応物であることが好ましい。ここで、「ジカルボン酸とジアミンの重縮合反応物である」とは、ポリアミドの全構造単位中、ジアミンとジカルボン酸を重縮合して得られる構造単位の含有量が50モル%以上であることを指す。前記構造単位の含有量は、80モル%以上であることが好ましい。ジカルボン酸とジアミンの代表例としては、上述したジカルボン酸、ジアミンが挙げられる。中でも、ポリアミドを解重合することによる化学式(I)に記載のポリアミドオリゴマーの生成率を高める目的から、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミンと、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸の重縮合反応物であるポリアミドが特に好ましい。本発明においては、これらのジカルボン酸とジアミンの重縮合反応物であるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを2種以上配合してもよい。
【0041】
本発明におけるポリアミド(A)の原料としては、上記ジカルボン酸、ジアミン以外に、ポリアミド(A)中の20重量%以下の範囲で、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ω-ウンデカンラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタムを含んでもよい。
【0042】
ポリアミド(A)の具体的な例としては、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリテトラメチレンセバカミド(ナイロン410)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ナイロン1012)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリキシリレンセバカミド(ナイロンXD10)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリペンタメチレンテレフタルアミド/ポリデカメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン5T/10T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリドデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン12T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。ここで、「/」は共重合体を示す。
【0043】
本発明のポリアミド(A)は、本発明の目的を損なわない範囲で、重合触媒、他種ポリマー、充填材、各種添加剤などを配合したものであってもよい。
【0044】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物などが挙げられる。
【0045】
他種ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物を重合して得られる(共)重合体などの変性ポリオレフィン、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマーや、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS、SAN、ポリスチレン、ポリウレタンなどを挙げることができる。これらを2種以上配合したものであってもよい。
【0046】
充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状無機充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどの非繊維状無機充填材が挙げられる。これらを2種以上配合したものであってもよい。
【0047】
各種添加剤としては、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどの非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)などが挙げられる。これらを2種以上配合したものであってもよい。
【0048】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ポリアミド(A)が廃棄物であってもよい。ポリアミド(A)が廃棄物であることにより、化石資源を循環利用できる。さらに、廃棄物を焼却処分する必要がないため地球温暖化ガス排出量を低減できる。廃棄物の例として、ポリアミド製品の製造過程で発生する産業廃棄物、ポリアミド製品の使用済み廃棄物などが挙げられる。ポリアミド製品の製造過程で発生する産業廃棄物の具体的な例としては、ポリアミド製品の製造過程で発生する製品屑、ペレット屑、塊状屑、製品加工時の切り屑、裁断屑などが挙げられる。また、ポリアミド製品の具体的な例としては、電機・電子機器部品、自動車部品、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、包装材などのフィルム、シートなどが挙げられる。
【0049】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリアミド(A)以外の製品を本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法に供してもよい。
【0050】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、例えば、ポリアミド(A)の解重合物に、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)を反応させることで生成させることができる。
【0051】
ジカルボン酸またはジアミン(B)の例としては、上述したジカルボン酸、ジアミンが挙げられる。
【0052】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)が、ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸またはジアミンであることが好ましい。ポリアミド(A)を構成するジカルボン酸またはジアミンを用いることで、製造されたポリアミドオリゴマーは、単一のジカルボン酸と単一のジアミンからなる重縮合体となるため、ポリアミドホモポリマー原料として用いることができる。
【0053】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)がジカルボン酸またはジアミンのいずれか一方のみである場合において、ポリアミド(A)中に含まれるアミド基のモル数:ジカルボン酸またはジアミン(B)のモル数=1:Mとした場合、Mが0.45以上、0.95以下であることが好ましい。Mをこの範囲とすることで、系内のCOOH基濃度とNH2基濃度の一方が他方に対して過剰になり、解重合後、重縮合反応により高分子量化することが避けやすくなる。そのため、得られるポリアミドオリゴマーの平均分子量を250以上、800以下に制御することが容易となる。Mは0.50以上であることがより好ましい。一方、Mは0.95以下が好ましく、0.80以下がより好ましく、0.70以下がさらに好ましく、0.60以下が特に好ましい。
【0054】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)がジカルボン酸およびジアミンの両方である場合において、ポリアミド(A)中に含まれるアミド基のモル数:ジカルボン酸のモル数とジアミンのモル数の差の絶対値=1:Nとした場合、Nが0.45以上、0.95以下であることが好ましい。Nをこの範囲とすることで、ジカルボン酸とジアミンを両方含む場合にも系内のCOOH基濃度とNH2基濃度の一方を他方に対して過剰にすることができる。そのため、ジカルボン酸またはジアミンの一方のみを含む場合と同様に、得られるポリアミドオリゴマーの平均分子量を250以上、800以下に制御することが容易となる。Nは0.50以上であることがより好ましい。一方、Nは0.80以下であることがより好ましく、0.70以下であることがさらに好ましく、0.60以下であることが特に好ましい。
【0055】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法は、溶媒(C)を混合する工程を含む。溶媒(C)に特に制限はないが、中でも、本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、溶媒(C)が水であることが特に好ましい。溶媒(C)が水であることにより、末端基がCOOH基とNH2基から選択される構造を有するポリアミドオリゴマーを得ることができる。水に特に制限はなく、水道水、脱イオン水、蒸留水、井戸水など、どのような水であってもよい。共存する塩の影響による副反応を抑制する観点から、水が脱イオン水、蒸留水であることが好ましい。
【0056】
溶媒(C)の添加量については、特に制限はないが、ポリアミド(A)の重量に対して12倍量以下が好ましく、6倍量以下がより好ましく、4倍量以下がさらに好ましい。一方、1倍量以上が好ましく、1.5倍量以上がより好ましい。ポリアミド(A)の重量に対するの溶媒(C)の量が上記範囲にあることにより、ポリアミドオリゴマーの製造効率と省エネルギーを両立することができる。特に溶媒(C)が水である場合、有機溶媒に比べて、比熱容量(4.3kJ/kg・K)、気化熱(2,250kJ/kg)が大きいため、水の添加量を上記範囲とすることにより、化石資源の循環利用と地球温暖化ガス排出量低減に貢献することができる。
【0057】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ポリアミド(A)などを混合する工程における温度は、220℃以上300℃以下であることが好ましい。上記温度で混合することにより、ポリアミド(A)の解重合反応が起こりやすくなる。本発明において、上記温度を反応温度という場合がある。反応温度は、温度が制御された反応容器内においてポリアミド(A)とジカルボン酸および/またはジアミン(B)と、溶媒(C)とを一定時間反応させる間の温度のことをいう。反応温度を220℃以上とすることで、特に溶媒(C)が水である場合に、水を亜臨界状態に維持し、ポリアミド(A)の加水分解解重合効率を向上できると同時に、解重合物とジカルボン酸および/またはジアミン(B)との重縮合反応を速やかに進行させることができる。また、反応温度が300℃以下であることで、ジアミンおよびジカルボン酸の熱分解、副反応などの望ましくない反応を抑制することができる。なお、溶媒(C)として好ましく用いられる水は、圧力22.1MPa、温度374.2℃に到達すると液体でも気体でもない状態を示す。この状態にある水を超臨界水という。超臨界水は、液体の溶解性と気体の拡散性を併せ持つ特徴から、ポリマー廃棄物を分解するための反応場として、注目されている。また、水の臨界点よりやや低い温度および圧力の臨界点の近傍領域の熱水を亜臨界水という。亜臨界水は水であるにも関わらず、誘電率が低い、イオン積が高いといった特徴がある。亜臨界水の誘電率、イオン積は、温度や水の分圧に依存するため、制御することが可能である。誘電率を低く制御することにより、亜臨界水は、水でありながらも有機化合物の優れた溶媒となる。また、イオン積を高く制御することにより水素イオンおよび水酸化物イオン濃度が高くなることから、亜臨界水は優れた加水分解作用を有する。
【0058】
反応温度は、一定温度であっても、経時的に変動させた温度であってもよい。なお、反応温度に到達するまでの昇温過程や反応温度で混合し、反応させた後の冷却過程における温度については、反応温度を超えない限り特に制限はない。
【0059】
また、ポリアミド(A)などを混合する工程における圧力、すなわち、ポリアミド(A)の解重合反応時の圧力としては、溶媒(C)の反応温度における飽和蒸気圧よりも高いことが好ましい。飽和蒸気圧より高くすることで溶媒が液体状態を維持でき、反応効率を向上させることができる。前記好ましい反応温度の範囲において、本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ポリアミド(A)などを混合する工程における圧力は2MPa以上30MPa以下であることが好ましい。圧力をこの範囲とする方法としては、例えば、圧力容器内部を加圧して密閉する方法が挙げられる。圧力容器内部を加圧する方法としては、例えば、ポリアミド(A)、ジカルボン酸またはジアミン(B)、溶媒(C)に加え気体を封入する方法、溶媒(C)を加圧して導入する方法などが挙げられる。封入する気体としては、例えば、空気、アルゴン、窒素などを挙げることができる。酸化反応などの副反応を抑制する観点から、封入する気体は窒素、アルゴンを用いることが好ましい。気体加圧の程度としては、目的の圧力となるように設定するため特に限定はされないが、0.3MPa以上を挙げることができる。溶媒(C)を加圧して導入する場合には、圧力容器内部に気体が無い状態とすることも可能である。
【0060】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法において、ポリアミド(A)と、ジカルボン酸および/またはジアミン(B)、溶媒(C)の反応時間は、特に制限はないが、好ましい下限として0.1分、好ましい上限として120分が例示できる。ここでいう反応時間は、反応容器内でポリアミド(A)とジカルボン酸および/またはジアミン(B)、溶媒(C)を220℃以上300℃以下かつ2MPa以上30MPa以下の条件で混合する時間の合計のことをいう。所望の条件に到達するまでの昇温・昇圧過程や反応後の冷却過程についても、反応容器内でポリアミド(A)とジカルボン酸および/またはジアミン(B)、溶媒(C)を前記温度範囲及び前記圧力範囲で混合させている時間は、反応時間に含める。反応時間が長すぎないことにより、ポリアミド(A)の解重合物の副反応(アミノ基の脱離反応など)が進行しにくくなり、ポリアミド原料として用いることができない化合物に変換されにくくなるため、好ましい。反応時間は、120分以下が好ましく、60分以下がより好ましい。一方で、反応時間が0.1分以上であると、ポリアミド(A)の加水分解解重合反応を十分に進行させやすくなり、ポリアミドオリゴマー組成物の数平均分子量を制御しやすくすることができる。反応時間は、0.1分以上が好ましく、1分以上がより好ましく、3分以上がさらに好ましい。
【0061】
本発明におけるポリアミド(A)とジカルボン酸および/またはジアミン(B)と、溶媒(C)との接触には、バッチ式および連続式など公知の各種反応方式を採用することができる。例えばバッチ式であれば、いずれも撹拌機と加熱機能を備えたオートクレーブ、縦型・横型反応器、撹拌機と加熱機能に加えてシリンダー等の圧縮機構を備えた縦型・横型反応器などが挙げられる。連続式であれば、いずれも加熱機能を備えた押出機、管型反応器、バッフルなどの混合機構を備えた管型反応器、ラインミキサー、縦型・横型反応器、撹拌機を備えた縦型・横型反応器、塔などが挙げられる。また、製造における雰囲気は非酸化性雰囲気下が望ましく、窒素、ヘリウム、およびアルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、経済性および取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気下が好ましい。
【0062】
本発明のポリアミドオリゴマー組成物を固体として回収する方法には特に制限はなく、何れの方法も採用できる。例えば、ポリアミド(A)の解重合反応をバッチ式で行う場合は、解重合反応が終了してから吐出させ、ポリアミドオリゴマーを含有する反応混合物、すなわち、液状のポリアミドオリゴマー組成物を得ることができる。また、解重合反応を連続式で行う場合には、反応の進行とともに液状のポリアミドオリゴマー組成物を得ることができる。液状のポリアミドオリゴマー組成物は、性状およびポリアミドオリゴマーの含有量、回収時の温度に応じて、例えば、水溶液、コロイド液、スラリー液、ペースト液などの状態として得られる。その中から、固体のポリアミドオリゴマー組成物は、冷却により、少なくとも常温において固形成分として析出させた後、例えば、固液分離、抽出などの公知の方法によって固体として回収することができる。
【0063】
中でも、本発明のポリアミドオリゴマー組成物の製造方法が、さらに、ポリアミドオリゴマー組成物を固液分離により固体として回収する工程を有することが好ましい。本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、通常、冷却により、少なくとも常温において固形成分として析出するため、固液分離により固体として回収することが可能である。固液分離の方法としては、例えばろ過による分離、遠心分離、デカンテーションなどを例示できる。なお、これら一連の処理は必要に応じて数回繰り返すことも可能である。固液分離によって分離された未反応のジカルボン酸および/またはジアミン(B)を含有する液相を、再度ポリアミド(A)の処理に用いてもよい。ポリアミドオリゴマー組成物中の不純物を除くために、さらに晶析などの公知の方法で精製を行ってもよい。
【0064】
本発明のポリアミドの製造方法は、以下の工程(1)および工程(2)をこの順に含む。
【0065】
(1)本発明のポリアミドオリゴマー組成物とジアミンおよび/またはジカルボン酸とを溶媒中で混合し、塩溶液を調製する工程
(2)工程(1)において調製した塩溶液を重縮合させる工程。
【0066】
本発明のポリアミドは、本発明のポリアミドオリゴマー組成物を重合原料として用いてなる。本発明のポリアミドオリゴマー組成物は、両末端がCOOH基からなるジカルボン酸構造、両末端がNH2基からなるジアミン構造、一方がCOOH基、他方がNH2基のアミノ酸構造のいずれかからなるポリアミドオリゴマーで構成されることが特に好ましい。これらを含むポリアミドオリゴマー組成物中の総COOH基濃度と総NH2基濃度に応じて、ジアミンおよび/またはジカルボン酸と溶媒中で混合して、重合原料に含まれるCOOH基濃度とNH2基濃度のモル比を調整した塩溶液を調製し、この塩溶液を重縮合することでポリアミドを製造することができる。式(I)で示されるX、Yの構造が異なる複数のポリアミドオリゴマーを混合してポリアミドの原料に用いてもよい。また、本発明のポリアミドオリゴマー組成物を、重合原料の少量成分(50重量%未満)として用いてもよい。重合原料に含まれるCOOH基濃度とNH2基濃度のモル比が0.8~1.2が好ましく、0.9~1.1がより好ましく、1.0がさらに好ましい。ポリアミドオリゴマー組成物が、ポリアミドを解重合して製造された場合には、得られるポリアミドは、資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減に貢献する環境低負荷なリサイクル材料になり得る。
【0067】
本発明の成形品は、本発明のポリアミドを成形してなる。本発明の成形品は、本発明のポリアミドを、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の溶融成形方法により、所望の形状に成形することにより得ることができる。本発明の成形品は、例えば、電機・電子機器部品、自動車部品、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、包装材などのフィルム、シートとして好適に使用することができる。
【実施例0068】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0069】
各実施例には下記原料を用いた。
【0070】
(A-1)ポリアミド66:東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM3001-N
(A-2)ポリアミド610:東レ(株)製“アミラン”(登録商標)CM2001
(B-1)アジピン酸:和光純薬(株)製 特級
(B-2)セバシン酸:東京化成工業(株)製
ヘキサメチレンジアミン:和光純薬(株)製 一級。
【0071】
≪評価方法≫
(1)ポリアミドオリゴマー組成物のCOOH基濃度
ポリアミドオリゴマー組成物を0.010g精秤し、ベンジルアルコール20mlを加えて190℃で溶解し、0.02N水酸化カリウムエタノール溶液を用いて滴定することにより求めた。
【0072】
(2)ポリアミドオリゴマー組成物のNH2基濃度
ポリアミドオリゴマー組成物を0.500g精秤し、フェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5、体積比)25mlに溶解後、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定することにより求めた。
【0073】
(3)ポリアミドオリゴマー組成物の融点
ポリアミドオリゴマー組成物を示差熱分析装置(日立ハイテクサイエンス製TG/DTA7200)を用いて、窒素フロー下、40℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温させた場合に現れる吸熱ピークの温度を融点とした。ただし、吸熱ピークが2つ以上検出される場合には、最も高温側に検出される吸熱ピークの温度を融点とした。
【0074】
(4)相対粘度(ηr)
98%硫酸中、0.01g/mL濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いてポリアミドの相対粘度測定を行った。
【0075】
[実施例1]
撹拌機を具備したSUS316L製オートクレーブに、(A-1)ポリアミド66 12.02g、(B-1)アジピン酸8.04g、脱イオン水58.67gを仕込んだ。(B-1)アジピン酸のモル数は(A-1)ポリアミド66中のアミド基のモル数の0.52倍であった。
【0076】
反応容器の窒素置換を行い、窒素加圧0.5MPa下に密閉した後、200rpmで撹拌しながら280℃で15分間保持し反応を行った。反応時、系内の圧力は6.2MPaであった。250℃以上で、反応容器内で(A-1)ポリアミド66、(B-1)アジピン酸、水を混合する時間の合計は30分であった。80℃にまで冷却し、全量をスラリー液状の反応混合物、すなわち、液状のポリアミドオリゴマー組成物として得た。得られた液状のポリアミドオリゴマー組成物を減圧濾過によって固液分離し、固形分を40℃の温水で洗浄することで、固体としてポリアミドオリゴマー組成物を回収した。
【0077】
回収したポリアミドオリゴマー組成物の末端基滴定から算出したカルボキシル末端基数は4.48mol/kg、アミン末端基数は0mol/kgであり、式(II)より算出した数平均分子量は446であった。DTA測定より求めた融点は205℃であった。
【0078】
[実施例2~6、比較例1~3]
ポリアミド、ジカルボン酸、脱イオン水の量および/または種類、反応温度、反応時間を変更して実施例1と同様の方法にて解重合を行いポリアミドの分解を行った。なお、比較例1、2では、反応混合物の一部が反応容器内に固着したため、スラリー液部のみを回収した。反応条件および反応生成物の収率、分析結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
実施例1~6より、ポリアミドを、ジカルボン酸および水と混合することで、数平均分子量が250~800の範囲のポリアミドオリゴマー組成物へ転換できることがわかった。また、得られたポリアミドオリゴマー組成物は、COOH基量が好ましい範囲にあり、環状オリゴマーや長鎖のポリアミドオリゴマーといった難溶性成分の融点(>220℃)を示さないことから、不純物含有量が少ないポリアミドオリゴマー組成物であることがわかった。
【0081】
さらに、実施例1~6では、反応混合液中で均一にポリアミドオリゴマー組成物が析出することで、反応混合液全量をスラリー液として得ることができた。高温高圧下においてポリアミドオリゴマー組成物が溶解性に劣る場合、比較例1、2のように、塊状に相分離した後冷却固化されるため、一部が反応容器内の壁面や攪拌翼に付着した状態で回収され、全量をスラリー液として得ることができなかった。ゆえに、実施例1~6では、高温高圧下での溶解性と常温常圧下での析出の両立を達成できたものと判断した。
【0082】
(A-1)ポリアミド66を脱イオン水のみと接触させた比較例1、解重合時の(B-1)アジピン酸の添加量が少ない比較例2では、得られたポリアミドオリゴマー組成物の数平均分子量が高く、実施例1~4、6のポリアミドオリゴマー組成物よりも熱水溶解性に劣るものであった。熱水溶解性に劣る高分子量のポリアミドオリゴマーは、冷却の過程において不純物を取り込んだまま固化するため、不純物を除去できないものと推測される。
【0083】
反応温度を320℃に変更した他は実施例1と同条件で反応を行った比較例3では、回収された固体のポリアミドオリゴマーは数平均分子量が1450と高分子量化、かつ赤く着色し、融点は154℃と大幅に低い値を示した。比較例3では、反応温度が高温のため、解重合反応に加えて再重合反応も進行してしまい、分子量の制御が困難であるものと推測される。また、比較例3で得られたオリゴマーは、実施例1~5と比較して明らかに少量であった。これは、高温で反応させることによって亜臨界水の酸性度が高くなり、ポリアミドオリゴマーがさらに分解されてHO-CO-(‐CH2-)4-CO-NH-(-CH2-)6-NH2の構造からなる水可溶成分の割合が多くなったためと考えられる。このようにして再重合反応により高分子量化しつつ、熱分解反応により生じた不純物を含有するポリアミドオリゴマー組成物は、不純物の分離・除去が困難であるので、再資源化に利用することは不可能であると考えられる。
【0084】
このように、ポリアミドを、ジカルボン酸および/またはジアミン、および水と220℃以上300℃以下、2MPa以上30MPa以下で混合することで、ポリアミドを加水分解し、特定の構造のポリアミドオリゴマー組成物を得られることがわかった。
【0085】
[参考例1]
(B-1)アジピン酸6.98g、ヘキサメチレンジアミン5.55gを脱イオン水12.5gに溶解させ、塩溶液を調製した。塩溶液は透明であった。この塩溶液を反応容器に仕込み密閉し、窒素置換した。反応容器外周にあるヒーターの設定温度を290℃とし、加熱を開始した。缶内圧力が1.75MPaに到達した後、水分を系外へ放出させながら缶内圧力1.75MPaに保持し、缶内温度が230℃になるまで昇温した。缶内温度が230℃に到達した後、1時間かけて常圧となるよう缶内圧力を調節した(常圧到達時の缶内温度:270℃)。続けて、缶内に窒素を流しながら(窒素フロー)60分間保持してポリアミド66を得た(最高到達温度:277℃)。得られたポリアミド66の相対粘度は2.78、融点は261℃であった。
【0086】
[実施例7]
実施例1と同様にして得られたポリアミドオリゴマー組成物9.95gとヘキサメチレンジアミン2.58gを重合原料として用いた以外は参考例1と同様にしてポリアミド66を製造した。得られた再生ポリアミド66の相対粘度は2.79、融点は261℃であった。
【0087】
[比較例4]
比較例3と同様にして得られたポリアミドオリゴマー組成物9.56gとヘキサメチレンジアミン0.77gを重合原料として用いた以外は参考例1と同様にしてポリアミド66を製造した。得られた再生ポリアミド66は淡橙色に着色しており、相対粘度1.95、融点は253℃であった。
【0088】
したがって、参考例1、実施例7より、ポリアミドを解重合して得られた本発明のポリアミドオリゴマー組成物を再重合したポリアミドの相対粘度は、試薬ジアミンと試薬ジカルボン酸を重合したポリアミドと同等であることがわかった。一方、参考例1、比較例4より、本発明のポリアミドオリゴマー組成物と数平均分子量が異なる組成物を再重合したポリアミドの相対粘度は小さかった。不純物により重合が阻害されているものと推測される。
本発明のポリアミドオリゴマー組成物は不純物が少ないため、ポリアミドの再重合原料として好適に使用することができる。また、特に本発明のポリアミドオリゴマー組成物をポリアミドの再資源化により得る場合、資源循環利用と地球温暖化ガス排出量低減に貢献することができる。