(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147131
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/032 20160101AFI20241008BHJP
【FI】
H02P29/032
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059948
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】林 昂樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 零
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA22
5H501FF04
5H501JJ17
5H501LL07
5H501LL35
5H501LL51
5H501LL60
5H501MM04
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】サーボモータの動力で動作する動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を適切に検知することが可能なモータ制御装置を提供する。
【解決手段】サーボモータを駆動制御するモータ制御装置は、サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備えている。このモータ制御装置は、駆動中のサーボモータが減速を開始し、サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークP2になった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間Tにおいて、動作対象物が障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータを駆動制御するモータ制御装置において、
前記サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備え、駆動中の前記サーボモータが減速を開始し、前記サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、前記サーボモータが停止するまでの間の所定期間に、前記動作対象物が前記障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
サーボモータを駆動制御するモータ制御装置において、
前記サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備え、駆動中の前記サーボモータの駆動方向が予め設定された方向になっているときであって、かつ、駆動中の前記サーボモータが減速を開始し、前記サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、前記サーボモータが停止するまでの間の所定期間に、前記動作対象物が前記障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項3】
前記サーボモータの減速度の絶対値が前記ピークになった後、前記ピークの半分未満の所定の値になってから、前記サーボモータが停止するまで、前記衝突検知可能状態になることを特徴とする請求項1または2記載のモータ制御装置。
【請求項4】
上位装置からの制御指令に基づいて、または、前記サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づいて、前記サーボモータの減速度を算出することを特徴とする請求項1または2記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記衝突検知可能状態になると、前記サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づく前記サーボモータの回転位置と上位装置からの制御指令に基づく前記サーボモータの回転位置との差である位置偏差、および、前記サーボモータへのトルク指令値の少なくともいずれか一方を監視することを特徴とする請求項1または2記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータを駆動制御するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体を有するアクチュエータを制御するアクチュエータ制御装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のアクチュエータ制御装置は、アクチュエータ内のモータに流れる電流値を検出する電流検出手段と、電流検出手段で検出された電流値に基づいて移動体の衝突を検出する衝突検出手段とを備えている。このアクチュエータ制御装置では、電流検出手段は、モータの加速が終了した後からモータの減速が開始される前までの間にモータに流れる電流値を検出し、衝突検出手段は、この電流値が所定の閾値を超える場合に移動体の衝突を検出している。すなわち、このアクチュエータ制御装置では、モータに流れる電流値が大きくなるモータの加減速時に移動体の衝突を検出していない。そのため、このアクチュエータ制御装置では、移動体の衝突の誤検出を抑制することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアクチュエータ制御装置では、モータに流れる電流値が大きくなるモータの加減速時に移動体の衝突を検出していないため、移動体の衝突の誤検出を抑制することが可能になっている。一方で、特許文献1に記載のアクチュエータ制御装置によって制御されるアクチュエータの動力で動作する動作対象物の中には、駆動中のモータが減速して停止する直前に(すなわち、動作対象物が停止する直前に)障害物に衝突するおそれが生じるものもある。しかしながら、特許文献1に記載のアクチュエータ制御装置では、モータの減速時に動作対象物の衝突を検知することができないため、モータが停止する直前に動作対象物の衝突を検知することができない。
【0005】
そこで、本発明の課題は、サーボモータの動力で動作する動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を適切に検知することが可能なモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明のモータ制御装置は、サーボモータを駆動制御するモータ制御装置において、サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備え、駆動中のサーボモータが減速を開始し、サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間に、動作対象物が障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になることを特徴とする。
【0007】
本発明のモータ制御装置は、駆動中のサーボモータが減速を開始し、サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間に衝突検知可能状態になる。そのため、本発明では、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を検知することが可能になる。また、本発明のモータ制御装置は、サーボモータの減速度の絶対値がピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間を除いた期間では衝突検知可能状態にならないため、モータ制御装置が衝突検知可能状態になる期間を短くすることが可能になる。したがって、本発明では、動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能になる。
【0008】
ここで、たとえば、サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づくサーボモータの回転位置と上位装置からの制御指令に基づくサーボモータの回転位置との差である位置偏差やサーボモータへのトルク指令値に基づいて動作対象物の衝突を検知する場合、サーボモータの減速度の絶対値がピークになった後であれば、動作対象物が正常に動作するときのサーボモータの位置偏差やトルク指令値を小さくすることが可能になるため、動作対象物が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値を、動作対象物の衝突の誤検知が生じない程度に低くすることが可能になる。
【0009】
本発明のモータ制御装置は、サーボモータの減速度の絶対値がピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間に衝突検知可能状態になるため、本発明では、たとえば、動作対象物が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値を、動作対象物の衝突の誤検知が生じない程度に低くすることが可能になる。したがって、本発明では、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突が生じたことを、たとえば、位置偏差やトルク指令値に基づいて適切に検知することが可能になる。すなわち、本発明では、サーボモータの動力で動作する動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を適切に検知することが可能になる。
【0010】
また、上記の課題を解決するため、本発明のモータ制御装置は、サーボモータを駆動制御するモータ制御装置において、サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備え、駆動中のサーボモータの駆動方向が予め設定された方向になっているときであって、かつ、駆動中のサーボモータが減速を開始し、サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間に、動作対象物が障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になることを特徴とする。
【0011】
本発明のモータ制御装置は、駆動中のサーボモータの駆動方向が予め設定された方向になっているときであって、かつ、駆動中のサーボモータが減速を開始し、サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間に衝突検知可能状態になる。そのため、本発明では、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を検知することが可能になる。また、本発明のモータ制御装置は、サーボモータの駆動方向が設定された方向と逆方向になっているときには衝突検知可能状態にならず、かつ、サーボモータの駆動方向が設定された方向になっているときでも、サーボモータの減速度の絶対値がピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間を除いた期間では衝突検知可能状態にならないため、モータ制御装置が衝突検知可能状態になる期間を短くすることが可能になる。したがって、本発明では、動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能になる。
【0012】
また、本発明のモータ制御装置は、駆動中のサーボモータの駆動方向が予め設定された方向になっているときであって、かつ、サーボモータの減速度の絶対値がピークになった後、サーボモータが停止するまでの間の所定期間に衝突検知可能状態になるため、上述のように、たとえば、動作対象物が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値を、動作対象物の衝突の誤検知が生じない程度に低くすることが可能になり、その結果、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突が生じたことを位置偏差やトルク指令値に基づいて適切に検知することが可能になる。すなわち、本発明では、サーボモータの動力で動作する動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を適切に検知することが可能になる。
【0013】
本発明において、モータ制御装置は、サーボモータの減速度の絶対値がピークになった後、ピークの半分未満の所定の値になってから、サーボモータが停止するまで、衝突検知可能状態になることが好ましい。サーボモータの減速度の絶対値がピークの半分未満の所定の値になった後であれば、たとえば、動作対象物が正常に動作するときの位置偏差やトルク指令値をより小さくすることが可能になるため、このように構成すると、動作対象物が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値をより低くすることが可能になる。したがって、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突が生じたことを、たとえば、位置偏差やトルク指令値に基づいてより適切に検知することが可能になる。また、このように構成すると、モータ制御装置が衝突検知可能状態になる期間をより短くすることが可能になるため、動作対象物の衝突の誤検知を効果的に抑制することが可能になる。
【0014】
本発明において、モータ制御装置は、たとえば、上位装置からの制御指令に基づいて、または、サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づいて、サーボモータの減速度を算出する。
【0015】
本発明において、モータ制御装置は、衝突検知可能状態になると、たとえば、サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づくサーボモータの回転位置と上位装置からの制御指令に基づくサーボモータの回転位置との差である位置偏差、および、サーボモータへのトルク指令値の少なくともいずれか一方を監視する。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のモータ制御装置では、サーボモータの動力で動作する動作対象物の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータが停止する直前に動作対象物の衝突を適切に検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は、本発明の実施の形態にかかるモータ制御装置に関連する構成を説明するためのブロック図であり、(B)は、(A)に示すモータ制御装置の構成を説明するためのブロック図である。
【
図2】(A)は、
図1に示すサーボモータが正常に動作するときのサーボモータの速度の推移を示す速度プロファイルの一例を示すグラフであり、(B)は、(A)に示す速度プロファイルで速度が推移するときのサーボモータの加減速度の推移を示す加減速度プロファイルを示すグラフであり、(C)は、(A)のE部の拡大図であり、(D)は、(B)のF部の拡大図である。
【
図3】
図1に示すサーボモータが駆動するときのモータ制御装置の状態を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
(モータ制御装置の構成)
図1(A)は、本発明の実施の形態にかかるモータ制御装置1に関連する構成を説明するためのブロック図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示すモータ制御装置1の構成を説明するためのブロック図である。
図2(A)は、
図1に示すサーボモータ3が正常に動作するときのサーボモータ3の速度の推移を示す速度プロファイルの一例を示すグラフであり、
図2(B)は、
図2(A)に示す速度プロファイルで速度が推移するときのサーボモータ3の加減速度の推移を示す加減速度プロファイルを示すグラフであり、
図2(C)は、
図2(A)のE部の拡大図であり、
図2(D)は、
図2(B)のF部の拡大図である。
図3は、
図1に示すサーボモータ3が駆動するときのモータ制御装置1の状態を説明するためのフローチャートである。
【0020】
本形態のモータ制御装置1は、上位装置2からの制御指令に基づいてサーボモータ3を駆動制御する。サーボモータ3は、回転型のモータであり、産業用ロボットや産業用機械等に搭載されて使用される。上位装置2は、たとえば、PLC(Programmable Logic Controller)である。上位装置2は、サーボモータ3を駆動制御するための制御指令をモータ制御装置1に送信する。制御指令には、位置指令が含まれている。また、上位装置2は、モータ制御装置1から各種の情報を受信する。モータ制御装置1とサーボモータ3とは所定のケーブルを介して電気的に接続され、モータ制御装置1と上位装置2とは所定のケーブルを介して電気的に接続されている。
【0021】
サーボモータ3が搭載される産業用ロボット等では、サーボモータ3の動力によって各種の動作対象物4が動作する。本形態の動作対象物4は、たとえば、電子部品をプリント基板上に配置するチップマウンターのヘッドである。動作対象物4であるヘッドは、比較的高速で動作するとともに、急加速および急減速を行う。すなわち、本形態のサーボモータ3は、比較的高速で回転するとともに、急加速および急減速を行う。
【0022】
また、動作対象物4であるヘッドは、たとえば、電子部品の供給装置とプリント基板との間で往復動作を繰り返して、供給装置から供給される複数の電子部品をプリント基板上に順次搭載する。そのため、サーボモータ3は、通常、一方向に回転する正転動作と他方向に回転する逆転動作とを繰り返す。本形態では、動作対象物4(ヘッド)は、サーボモータ3が正転するときに供給装置からプリント基板に向かって移動し、サーボモータ3が逆転するときにプリント基板から供給装置に向かって移動する。
【0023】
サーボモータ3は、サーボモータ3の回転位置を検知するためのエンコーダ5を備えている。エンコーダ5は、たとえば、サーボモータ3の回転軸に取り付けられる円板状のスリット板と、スリット板を挟むように配置される発光部と受光部とを有する光学式のセンサとによって構成されている。サーボモータ3のフィードバック制御を行うために、エンコーダ5の出力信号(より具体的には、センサの出力信号)は、モータ制御装置1に入力される。また、エンコーダ5の出力信号は、モータ制御装置1を介して上位装置2に入力される。
【0024】
モータ制御装置1は、サーボアンプであり、サーボモータ3に駆動用の電力を供給する。モータ制御装置1は、上位装置2から入力される位置指令に基づいてサーボモータ3の指令用の速度を算出して速度信号を出力する微分器7と、微分器7から出力される速度信号を平滑化するためのフィルタ8と、微分器7から出力される速度信号が直接またはフィルタ8を介して入力される制御部9とを備えている。制御部9は、入力された速度信号に基づいてサーボモータ3の加速度および減速度を算出する。すなわち、モータ制御装置1は、微分器7に入力される上位装置2の制御指令(具体的には、位置指令)に基づいてサーボモータ3の加速度および減速度を算出する。エンコーダ5の出力信号は、制御部9に入力される。
【0025】
微分器7で算出されるサーボモータ3の指令用の速度の推移を示す速度プロファイルは、たとえば、
図2(A)に示すようになる。速度プロファイルは、サーボモータ3が正転するときの加速時の速度プロファイルと、サーボモータ3が正転するときの等速時の速度プロファイルと、サーボモータ3が正転するときの減速時の速度プロファイルと、サーボモータ3が逆転するときの加速時の速度プロファイルと、サーボモータ3が逆転するときの等速時の速度プロファイルと、サーボモータ3が逆転するときの減速時の速度プロファイルとによって構成されている。
【0026】
微分器7で算出されるサーボモータ3の加速時の速度プロファイルは、たとえば、曲線状になっている(
図2(C)参照)。同様に、微分器7で算出されるサーボモータ3の減速時の速度プロファイルは、曲線状になっている。具体的には、微分器7で算出されるサーボモータ3の加速時および減速時の速度プロファイルは、S字状の曲線となっている。微分器7で算出されるサーボモータ3の加速時および減速時の速度プロファイルが曲線状になっている場合には、微分器7から出力される速度信号が直接、制御部9に入力される。
【0027】
なお、微分器7で算出されるサーボモータ3の加速時および減速時の速度プロファイルが直線状になっていることがある。この場合には、微分器7から出力される速度信号は、フィルタ8で平滑化された後に制御部9に入力される。この場合、フィルタ8で平滑化された後のサーボモータ3の加速時および減速時の速度プロファイルは、曲線状になっている。具体的には、フィルタ8で平滑化された後のサーボモータ3の加速時および減速時の速度プロファイルは、S字状の曲線となっている。フィルタ8を使用するのか否かは、パラメータにより設定可能となっている。
【0028】
制御部9で算出されるサーボモータ3の加減速度の推移を示す加減速度プロファイルは、
図2(B)に示すようになる。サーボモータ3の加速時および減速時の速度プロファイルがS字状になっているため、サーボモータ3が回転を開始して加速し始めると、サーボモータ3の加速度の絶対値は、次第に増加するとともに、サーボモータ3の加速度の絶対値が増加から減少に転じるピークP1になると、その後、次第に減少する。また、サーボモータ3が減速を開始すると、サーボモータ3の減速度の絶対値は、次第に増加するとともに、サーボモータ3の減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークP2になると、その後、次第に減少する。すなわち、サーボモータ3の加速時および減速時の加減速度プロファイルは、三角形状となっている。
【0029】
モータ制御装置1は、動作対象物4が所定の障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備えている。モータ制御装置1は、エンコーダ5の検知結果に基づくサーボモータ3の回転位置と上位装置2からの制御指令(具体的には、位置指令)に基づくサーボモータ3の回転位置との差である位置偏差、および、サーボモータ3へのトルク指令値の少なくともいずれか一方に基づいて動作対象物4の衝突を検知する。具体的には、動作対象物4が障害物に衝突して停止すると、位置偏差やトルク指令値が大きくなるため、モータ制御装置1は、位置偏差やトルク指令値が所定の閾値を超えると、動作対象物4の衝突を検知する。
【0030】
上述のように、動作対象物4(ヘッド)は、サーボモータ3が正転するときに供給装置からプリント基板に向かって移動し、サーボモータ3が逆転するときにプリント基板から供給装置に向かって移動する。本形態では、供給装置からプリント基板に向かって移動する動作対象物4が停止する直前に動作対象物4が障害物に衝突する可能性がある。すなわち、正転するサーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突が発生する可能がある。一方で、それ以外のときには、動作対象物4の衝突が発生する可能性は非常に低くなっている。
【0031】
そのため、本形態では、モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているときであって(すなわち、駆動中(回転中)のサーボモータ3の駆動方向(回転方向)が予め設定された方向になっているときであって)、かつ、駆動中(回転中)のサーボモータ3が減速を開始し、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、サーボモータ3が停止するまでの間の所定の期間T(
図2(D)参照)に、動作対象物4が障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になる。すなわち、モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているときの期間Tにおいてのみ衝突検知可能状態になる。
【0032】
具体的には、モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているときであって、かつ、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、ピークP2の半分未満の所定の値になってから、サーボモータ3が停止するまでの期間Tにおいて、衝突検知可能状態になる。より具体的には、モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているときであって、かつ、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、ピークP2の1/3程度の閾値th未満になると、サーボモータ3が停止するまで、衝突検知可能状態になる。
【0033】
すなわち、
図3に示すように、サーボ状態となっているサーボモータ3が回転を開始するとき(ステップS1)には、モータ制御装置1は、動作対象物4が障害物に衝突したことを検知しない状態になっている。モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているのか否かを判断し(ステップS2)、サーボモータ3が正転している場合には、サーボモータ3が減速を開始してサーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、閾値th未満になったのか否かを判断する(ステップS3)。
【0034】
ステップS3において、サーボモータ3の減速度の絶対値が閾値th未満になると、モータ制御装置1は、サーボモータ3が停止するまで(ステップS5)衝突検知可能状態になる(ステップS4)。また、ステップS2において、サーボモータ3が逆転している場合には、モータ制御装置1は、サーボモータ3が停止するまで(ステップS5)動作対象物4の衝突を検知しない状態を維持する。なお、ステップS3の後にステップS4を実行しても良い。
【0035】
モータ制御装置1は、衝突検知可能状態になると、エンコーダ5の検知結果に基づくサーボモータ3の回転位置と上位装置2からの位置指令に基づくサーボモータ3の回転位置との差である位置偏差、および、サーボモータ3へのトルク指令値の少なくともいずれか一方を監視する。具体的には、モータ制御装置1は、位置偏差に基づいて動作対象物4の衝突を検知する場合には、位置偏差を監視し、トルク指令値に基づいて動作対象物4の衝突を検知する場合には、トルク指令値を監視する。また、モータ制御装置1は、位置偏差およびトルク指令値に基づいて動作対象物4の衝突を検知する場合には、位置偏差およびトルク指令値を監視する。また、上述のように、モータ制御装置1は、位置偏差やトルク指令値が所定の閾値を超えると、動作対象物4の衝突を検知する。
【0036】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているときであって、かつ、回転中のサーボモータ3が減速を開始し、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、サーボモータ3が停止するまでの間の期間Tに衝突検知可能状態になっている。そのため、本形態では、サーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突を検知することが可能になる。また、本形態では、モータ制御装置1は、サーボモータ3が逆転しているときには衝突検知可能状態にならず、かつ、サーボモータ3が正転しているときでも、期間Tを除いた期間では衝突検知可能状態にならないため、モータ制御装置1が衝突検知可能状態になる期間を短くすることが可能になる。したがって、本形態では、動作対象物4の衝突の誤検知を抑制することが可能になる。
【0037】
また、本形態では、モータ制御装置1は、サーボモータ3が正転しているときであって、かつ、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、サーボモータ3が停止するまでの間の期間Tに衝突検知可能状態になっている。サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後であれば、動作対象物4が正常に動作するときのサーボモータ3の位置偏差やトルク指令値を小さくすることが可能になり、動作対象物4が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値を、動作対象物4の衝突の誤検知が生じない程度に低くすることが可能になる。
【0038】
そのため、本形態では、動作対象物4が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値を、動作対象物4の衝突の誤検知が生じない程度に低くすることが可能になる。したがって、本形態では、サーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突が生じたことを、位置偏差やトルク指令値に基づいて適切に検知することが可能になる。すなわち、本形態では、動作対象物4の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突を適切に検知することが可能になる。
【0039】
本形態では、モータ制御装置1は、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、ピークP2の半分未満の所定の値になってから、サーボモータ3が停止するまで衝突検知可能状態になっている。サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2の半分未満の値になった後であれば、動作対象物4が正常に動作するときのサーボモータ3の位置偏差やトルク指令値をより小さくすることが可能になり、動作対象物4が衝突したことを検知するために位置偏差やトルク指令値に対して設定される閾値をより低くすることが可能になる。そのため、本形態では、サーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突が生じたことを位置偏差やトルク指令値に基づいてより適切に検知することが可能になる。また、モータ制御装置1が衝突検知可能状態になる期間をより短くすることが可能になるため、動作対象物4の衝突の誤検知を効果的に抑制することが可能になる。
【0040】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0041】
上述した形態において、モータ制御装置1は、サーボモータ3の回転方向に関係なく、回転中のサーボモータ3が減速を開始し、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、サーボモータ3が停止するまでの間の期間Tに衝突検知可能状態になっても良い。この場合であっても、期間Tを除いた期間では衝突検知可能状態にならないため、モータ制御装置1が衝突検知可能状態になる期間を短くすることが可能になる。したがって、動作対象物4の衝突の誤検知を抑制することが可能になる。また、この場合であっても、上述した形態と同様に、サーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突が生じたことを、位置偏差やトルク指令値に基づいて適切に検知することが可能になる。すなわち、動作対象物4の衝突の誤検知を抑制することが可能であっても、サーボモータ3が停止する直前に動作対象物4の衝突を適切に検知することが可能になる。
【0042】
上述した形態において、制御部9は、エンコーダ5の出力信号に基づいてサーボモータ3の速度を算出するとともに、算出されたこの速度に基づいてサーボモータ3の加速度および減速度を算出しても良い。すなわち、モータ制御装置1は、エンコーダ5の検知結果に基づいてサーボモータ3の加速度および減速度を算出しても良い。また、モータ制御装置1は、エンコーダ5の検知結果に基づいて算出されたサーボモータ3の減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、サーボモータ3が停止するまでの間の所定の期間に衝突検知可能状態になっても良い。
【0043】
上述した形態において、モータ制御装置1は、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、ピークP2の半分未満の所定の値になってから、サーボモータ3が停止する前までの所定の期間において、衝突検知可能状態になっても良い。すなわち、モータ制御装置1は、サーボモータ3が停止するまで衝突検知可能状態になっていなくても良い。また、上述した形態において、モータ制御装置1は、サーボモータ3の減速度の絶対値がピークP2になった後、ピークP2の半分以上の所定の値になってから、サーボモータ3が停止するまでの期間において衝突検知可能状態になっても良い。
【0044】
上述した形態において、サーボモータ3の加減速時の速度プロファイルは、S字状以外の曲線状になっていても良い。たとえば、サーボモータ3の加減速時の速度プロファイルは、二次関数状になっていても良いし、サイクロイド曲線状になっていても良い。また、上述した形態において、上位装置2からモータ制御装置1に速度指令が入力されても良い。この場合には、制御部9は、入力された速度指令に基づいてサーボモータ3の加速度および減速度を算出する。
【0045】
上述した形態において、モータ制御装置1は、エンコーダ5の検知結果に基づいて算出されるサーボモータ3の速度と微分器7で算出されるサーボモータ3の速度との差である速度偏差に基づいて動作対象物4の衝突を検知しても良い。この場合には、モータ制御装置1は、衝突検知可能状態になると、この速度偏差を監視する。また、上述した形態において、動作対象物4は、チップマウンターのヘッド以外の物であっても良い。さらに、上述した形態において、サーボモータ3は、直動型のモータ(すなわち、リニアモータ)であっても良い。
【0046】
(本技術の構成)
なお、本技術は以下のような構成を取ることが可能である。
(1)サーボモータを駆動制御するモータ制御装置において、
前記サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備え、駆動中の前記サーボモータが減速を開始し、前記サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、前記サーボモータが停止するまでの間の所定期間に、前記動作対象物が前記障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になることを特徴とするモータ制御装置。
(2)サーボモータを駆動制御するモータ制御装置において、
前記サーボモータの動力で動作する動作対象物が障害物に衝突したことを検知する衝突検知機能を備え、駆動中の前記サーボモータの駆動方向が予め設定された方向になっているときであって、かつ、駆動中の前記サーボモータが減速を開始し、前記サーボモータの減速度の絶対値が増加から減少に転じるピークになった後、前記サーボモータが停止するまでの間の所定期間に、前記動作対象物が前記障害物に衝突したことを検知可能な衝突検知可能状態になることを特徴とするモータ制御装置。
(3)前記サーボモータの減速度の絶対値が前記ピークになった後、前記ピークの半分未満の所定の値になってから、前記サーボモータが停止するまで、前記衝突検知可能状態になることを特徴とする(1)または(2)記載のモータ制御装置。
(4)上位装置からの制御指令に基づいて、または、前記サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づいて、前記サーボモータの減速度を算出することを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のモータ制御装置。
(5)前記衝突検知可能状態になると、前記サーボモータの回転位置を検知するためのエンコーダの検知結果に基づく前記サーボモータの回転位置と上位装置からの制御指令に基づく前記サーボモータの回転位置との差である位置偏差、および、前記サーボモータへのトルク指令値の少なくともいずれか一方を監視することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のモータ制御装置。
【符号の説明】
【0047】
1 モータ制御装置
2 上位装置
3 サーボモータ
4 動作対象物
5 エンコーダ
P2 ピーク