(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147139
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】液体入り容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 5/00 20060101AFI20241008BHJP
A61J 1/14 20230101ALI20241008BHJP
【FI】
A61M5/00 514
A61M5/00 518
A61J1/14 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059958
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】523122355
【氏名又は名称】太陽ファルマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 待子
【テーマコード(参考)】
4C047
4C066
【Fターム(参考)】
4C047AA01
4C047AA27
4C047BB01
4C047BB11
4C047CC04
4C047CC25
4C047DD01
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066EE06
4C066HH13
(57)【要約】
【課題】 容器内部の状態を適切に調整することが可能な液体入り容器の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明では、ガスケット16をシリンジ12の開口端からシリンジ内に挿入し、シリンジ12の延出方向においてシリンジ12内の第1位置に配置させる配置工程と、シリンジ12の内部においてシリンジ12の先端とガスケット16との間の空間の圧力を上昇させる圧力上昇工程と、圧力上昇工程後に上記の空間の圧力を下降させる圧力下降工程と、を実施する。上記の空間の圧力が上昇している間、ガスケット16を、第1位置よりも開口端に近い第2位置に移動させ、上記の空間の圧力が下降している間、ガスケット16を、第2位置から、第2位置よりもシリンジ12の先端に近い第3位置に移動させる。
【選択図】
図5D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が注入された筒状の容器内に栓部材が配置されて構成される液体入り容器の製造方法であって、
前記栓部材を前記容器の開口端から前記容器内に挿入し、前記容器の延出方向において前記容器内の第1位置に配置させる配置工程と、
前記容器の内部において、前記開口端とは反対側で閉じている前記容器の先端と前記栓部材との間の空間の圧力を上昇させる圧力上昇工程と、
前記圧力上昇工程後に前記空間の圧力を下降させる圧力下降工程と、を実施し、
前記空間の圧力が上昇している間に、前記栓部材を、前記延出方向において前記第1位置よりも前記開口端に近い第2位置に移動させ、
前記空間の圧力が下降している間に、前記栓部材を、前記延出方向において前記第2位置から、前記第2位置よりも前記先端に近い第3位置に移動させる、液体入り容器の製造方法。
【請求項2】
前記第2位置と前記第3位置との間隔が0mm超、且つ6mm以下である、請求項1に記載の液体入り容器の製造方法。
【請求項3】
前記圧力上昇工程では、前記容器の滅菌を実施するために前記空間を昇温させることで前記空間内の圧力を上昇させ、
前記圧力下降工程では、前記空間を降温させることで前記空間内の圧力を下降させる、請求項1又は2に記載の液体入り容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体が注入された筒状の容器内に栓部材が配置されて構成される液体入り容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体入り容器は、液体が注入された筒状の容器内に栓部材を配置して打栓することで構成され、例えば、医療分野では、シリンジ内に薬液が充填された注射器等が、液体入り容器の一例として利用されている。
【0003】
液体入り容器の製造過程において、所定の目的により、打栓後に、キャップ等で閉じられた容器の先端と栓部材との空間(以下、封止空間)を昇温及び昇圧する場合がある。例えば、特許文献1では、薬液が充填されたシリンジを個包装パックに包装した後に、所定条件で高圧蒸気を用いて滅菌する。滅菌中、薬液が充填された封止空間内の圧力(内圧)が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の封止空間が昇圧すると、容器内に配置された栓部材が、容器の開口端側に向かって移動して容器から抜け落ちる可能性がある。この点を踏まえ、特許文献1では、上昇した封止空間の圧力(内圧)に応じて滅菌庫内の圧力(外圧)を高め、これにより、栓部材であるガスケットの移動、及び容器からの抜け落ちを防止している。
【0006】
一方、液体入り容器の製造過程において、容器に過度な圧力が加わると、それに起因してガスケット等が変形し、封止空間内から薬液が漏洩する虞がある。したがって、薬液の漏洩を防ぐために、容器内部の状態を適切に調整する必要がある。また、製造終了時点においても、封止空間内に菌等が侵入することを抑制する必要がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、以下に示す課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、容器内部の状態を適切に調整することが可能な液体入り容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明の液体入り容器の製造方法は、液体が注入された筒状の容器内に栓部材が配置されて構成される液体入り容器の製造方法であって、栓部材を容器の開口端から容器内に挿入し、容器の延出方向において容器内の第1位置に配置させる配置工程と、容器の内部において、開口端とは反対側で閉じている容器の先端と栓部材との間の空間の圧力を上昇させる圧力上昇工程と、圧力上昇工程後に空間の圧力を下降させる圧力下降工程と、を実施し、空間の圧力が上昇している間に、栓部材を、延出方向において第1位置よりも開口端に近い第2位置に移動させ、空間の圧力が下降している間に、栓部材を、延出方向において第2位置から、第2位置よりも先端に近い第3位置に移動させることを特徴とする。
上記の方法によれば、容器の内部における圧力変動を利用して、容器の内部で栓部材を意図的に移動させることで、容器内部の状態を調整し、薬液の漏洩、及び容器先端と栓部材との間の空間内への菌等の侵入を抑制することができる。
【0009】
また、上記の方法において、第2位置と第3位置との間隔が0mm超、且つ6mm以下であってもよい。
また、上記の方法において、圧力上昇工程では、容器の滅菌を実施するために上記の空間を昇温させることで上記の空間内の圧力を上昇させ、圧力下降工程では、上記の空間を降温させることで上記の空間内の圧力を下降させるとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、容器内部における圧力変動を利用して、容器内で栓部材を意図的に移動させることで、容器内部の状態を調整し、薬液の漏洩、及び封止空間内への菌等の侵入を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一つの実施形態に係る製造方法によって製造される液体入り容器の構成を示す図である。
【
図2】本発明の一つの実施形態に係る液体入り容器の製造方法の流れを示す図である。
【
図3A】液体入り容器の製造手順を示す図である(その1)。
【
図3B】液体入り容器の製造手順を示す図である(その2)。
【
図3C】液体入り容器の製造手順を示す図である(その3)。
【
図3D】液体入り容器の製造手順を示す図である(その4)。
【
図4】本発明の一つの実施形態に係る圧力上昇工程及び圧力下降工程についての説明図であり、工程中における庫内各部の温度の経時変化を示している。
【
図5A】栓部材の位置の遷移を示す図である(その1)。
【
図5B】栓部材の位置の遷移を示す図である(その2)。
【
図5C】栓部材の位置の遷移を示す図である(その3)。
【
図5D】栓部材の位置の遷移を示す図である(その4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について、添付の図面に示す好適な実施形態を参照しながら具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例であり、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、以下に説明する実施形態から変更又は改良され得る。また、本発明には、その等価物が含まれる。
【0013】
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「水平」、「垂直」、「直交」及び「平行」は、本発明の技術分野において一般的に許容される誤差の範囲を含み、厳密な水平、垂直、直交及び平行に対して数度(例えば2~3°)未満の範囲内でずれている場合が含まれ得る。
また、本明細書において、「同じ、「同一」及び「等しい」という意味には、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差の範囲が含まれ得る。
また、本明細書において、「全部」、「いずれも」及び「すべて」という意味には、100%である場合のほか、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差の範囲が含まれ、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合が含まれ得る。
【0014】
[液体入り容器の基本構成]
本発明の製造方法によって製造される液体入り容器として、
図1に示す薬剤充填シリンジ10(プレフィルドシリンジ)を例に挙げて、その基本構成を説明する。薬剤充填シリンジ10は、液体の一例である薬液、具体的には注射剤が充填されたシリンジからなる製剤である。薬剤充填シリンジ10は、
図1に示すように、シリンジ12、キャップ14及びガスケット16を主要構成部品として備える。
【0015】
シリンジ12は、円筒状の容器であり、内部に薬液が注入される。シリンジ12の材質は、ガラスでもプラスチックでもよい。シリンジ12の先端は、使用時を除き、その開口がキャップ14によって封止されて閉塞端となっている。シリンジ12の先端側とは反対側に位置する後端は、開口端である。シリンジ12の後端からは、
図1に示すように同径部12aが延出している。シリンジ12の延出方向における同径部12aの各部の内径及び外径は、均一である。ここで、シリンジ12の延出方向は、同径部12aの中心軸方向と一致する。また、シリンジ12の後端部分の外周面には、フランジ部12bが設けられている。
【0016】
シリンジ12内には打栓用のガスケット16が配置される。ガスケット16は、ゴム又はエラストマ製の栓部材であり、
図1に示すように、シリンジ12の開口端である後端からシリンジ12の同径部12a内に挿入される。ガスケット16の径(外径)は、自然状態では、同径部12aの内径よりも僅かに大きい。したがって、同径部12a内に挿入される際、ガスケット16は弾性変形して縮径し、同径部12a内ではガスケット16の外周面が同径部12aの内周面に接触(密着)する。
【0017】
ガスケット16は、厚みを有し、
図1に示すように、その厚み方向に連続する先端部16aと胴部16bとを備える。先端部16aは、円筒の一端に先細り型の部分を連結させた形状をなしている。胴部16bは、環状をなす部分であり、ガスケット16が同径部12a内に配置された状態では、先端部16aよりもシリンジ12の開口端側に位置する。また、胴部16bの外周面には、ガスケット16の厚み方向において間隔を空けて複数の環状溝16cが設けられている。また、ガスケット16の摺動性を高めるために、ガスケット16の外表面にはコーティング層を設けても良い。コーティング層としては、超高分子量ポリエチレン、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂等、ガスケットに用いた材質よりも摺動性に優れたフィルム等を用いることができる。コーティング層を用いる場合には、ガスケットの先端部16aの外表面にのみコーティング層が形成されていると、コーティング層にシワが生じることに起因して薬液が漏洩することを防止できるため好ましい。
なお、ガスケット16の厚み方向において先端とは反対側の端、すなわちガスケット16がシリンジ12内に配置された状態でシリンジ12の開口端により近い方の端を、以下では、ガスケット16の後端と呼ぶこととする。
【0018】
[薬剤充填シリンジの製造方法の概要]
次に、本発明の液体入り容器の製造方法の一例として、上述した薬剤充填シリンジ10の製造方法の概要について、
図2~4を参照しながら説明する。なお、以降に参照する図では、説明の便宜上、シリンジ12を断面図にて図示することとする。ここで、断面とは、シリンジ12の中心軸を含み、且つ、その中心軸に沿う面にてシリンジ12を切断した際の断面である。
【0019】
薬剤充填シリンジ10の製造方法では、
図2に示すように、液注入工程(S002)、配置工程(S003)、滅菌・乾燥工程(S003)がこの順で実施される。より好ましくは、
図2に示すように、少なくとも配置工程よりも前に塗布工程(S001)を行うのがよい。なお、液注入工程は、塗布工程よりも前の段階で実施されてもよい。
【0020】
塗布工程では、シリンジ12の同径部12aの内周面のうち、シリンジ12の延出方向(以下、単に延出方向と称する)における一部の領域に、潤滑剤としてのシリコーンオイルを塗布する。これにより、
図3Aに示すように、同径部12aの内周面にシリコーンオイルの塗布領域12cが形成される。塗布領域12cは、同径部12a内に配置されるガスケット16の摺動性を高める目的で同径部12aの全周に亘って形成され、延出方向において若干の幅を有する。
塗布工程は、本発明の効果を得るために必須の工程ではないが、塗布工程を行なった場合にはガスケット16の摺動性が高まるため、後述する滅菌・乾燥工程において、ガスケット16を滑らかに移動させることができる。したがって、シリンジ12内において急激なガスケット16の移動を抑制しつつ、シリンジ12内部の状態をより正確に調整することができる。また、液体入り容器である薬剤充填シリンジ10を最終製品として使用する場合にも、ガスケット16の摺動性を高めることができる。
【0021】
液注入工程では、シリンジ12の先端がキャップ14によって封止された状態で、
図3Bに示すように、シリンジ12内に所定量の薬液を注入する。これにより、シリンジ12内には、シリンジ12の先端から延出方向における所定位置までの範囲で薬液が充填される。
【0022】
配置工程では、
図3Cに示すように、シリンジ12の開口端からガスケット16をシリンジ12内に挿入し、同径部12a内にガスケット16を配置する。この際、ガスケット16は、弾性変形して縮径した状態で先端部16a側から同径部12a内に挿入される。配置工程の終了時点において、ガスケット16は、
図3Dに示すように、同径部12a内の所定位置に配置される。この時点のガスケット16の位置は、第1位置(
図5A等にてp1と表記)に相当し、延出方向において任意の位置とすることができる。ただし、例えば、塗布工程を行う場合、第1位置p1は、ガスケット16の胴部16bの外周面が塗布領域12cと対向し、詳しくは塗布領域12cと密着する位置であることが好ましい。
【0023】
なお、ガスケット16の位置は、延出方向におけるガスケット16の所定部位の位置であり、以下では、ガスケット16の先端の位置であることとする。ただし、これに限定されず、ガスケット16の後端の位置、または、ガスケット16の厚み方向中央の位置をガスケット16の位置として定義してもよい。
【0024】
滅菌・乾燥工程では、ガスケット16が配置された状態のシリンジ12(以下、ガスケット配置済みのシリンジ12という)を高温蒸気等によって滅菌し、滅菌後に降温させて乾燥させる。滅菌は、例えばオートクレーブ等を用いて実施されるとよい。
【0025】
滅菌・乾燥工程では、ガスケット配置済みのシリンジ12を不図示の収納庫に配置した後に、
図4に示すように庫内温度を高温蒸気等によって所定温度まで昇温させる。そして、シリンジ12の内部における封入空間が昇温することに伴い、封入空間の圧力(内圧)が上昇する。このように滅菌・乾燥工程の前半段階は、封入空間を昇温させて封入空間の圧力を上昇させる圧力上昇工程に相当する。なお、
図4は、薬剤充填シリンジ10の製造期間中の、庫内におけるシリンジ12付近の温度の経時変化を示す図である。
ここで、封入空間とは、ガスケット配置済みのシリンジ12の内部において、キャップ14によって閉じられた状態のシリンジ12の先端とガスケット16との間にあり、薬液が封入された空間である。
【0026】
なお、圧力上昇工程の条件は、シリンジ12及びガスケット16のそれぞれの材質、サイズ及び形状等に応じて好適な条件に設定されるとよい。条件の一例を挙げると、庫内温度については、100~140℃に、滅菌時間は20分以上に、庫内圧力(外力)については、0.1~0.5MPaに設定されるとよい。
【0027】
滅菌終了後には、
図4に示すように庫内各部を降温させ、庫内温度が一定レベルまで降下した後に、庫内温度を維持してガスケット配置済みのシリンジ12を乾燥させる。その後、
図4に示すように、庫内を初期温度まで冷却する。これにより、滅菌時に温度及び圧力が上昇した封入空間が降温し、封入空間の圧力が下降する。このように滅菌・乾燥工程の後半段階は、封入空間を降温させて封入空間の圧力を下降させる圧力下降工程に相当する。
なお、本明細書において、「圧力上昇工程/圧力下降工程」にて圧力が上昇/下降するとは、工程全体を通じて圧力が上昇/下降することを意味し、詳しくは、工程開始時点の圧力に比べて、工程終了時点の圧力が上昇/下降することを意味する。つまり、本明細書において圧力が上昇/下降するケースとしては、経過時間に対して圧力が単調に上昇/下降する場合のみならず、工程中において圧力の上昇及び下降(脈動)を繰り返しながら、最終的に圧力が工程開始時点よりも上昇/下降する場合も含む。
なお、本明細書において、「昇温/降温すること」の意味についても、上記と同様の要領にて解釈されることとする。
【0028】
以上までの手順により薬剤充填シリンジ10が製造される。その後、薬剤充填シリンジ10は、不図示のプランジャが挿入されて個別包装されることで最終製品として完成する。この時点で薬剤充填シリンジ10の製造が終了する。
【0029】
[滅菌・乾燥工程におけるガスケットの移動]
滅菌・乾燥工程では、前述した通り、ガスケット配置済みのシリンジ12内の封入空間の圧力(内圧)が上昇し、その後に下降する。このような内圧の変動により、シリンジ12内のガスケット16が延出方向に移動する。本発明の一つの実施形態では、このようなシリンジ12内でのガスケット16の移動を利用して、シリンジ12内の状態を調整することができる。
【0030】
以下では、滅菌・乾燥工程におけるガスケット16の移動について、
図5A~5Dを参照しながら説明する。
配置工程の終了時点では、
図5Aに示すように、ガスケット16がシリンジ12内の第1位置p1に配置されている。ガスケット16が第1位置p1にある状態では、ガスケット16の胴部16bの外周面が、内径部12aの内周面のうち、シリコーンオイルの塗布領域12cと密着している。また、ガスケット16が第1位置p1にある状態では、延出方向における胴部16bの一端から他端までに亘って胴部16bの外周面が塗布領域12cと接触しているのが好ましい。
【0031】
次に、滅菌・乾燥工程を開始し、庫内に高温蒸気を投入し、庫内各部の温度を上昇させ、その後、ガスケット配置済みのシリンジ12に対する滅菌のために、庫内各部の温度を上昇後の温度で保持する。この期間中、シリンジ12内の封入空間は昇温し、封入空間の内圧は上昇する。この内圧の上昇を利用して、
図5Bに示すように、ガスケット16を延出方向において第1位置p1から第2位置p2に移動させる。第2位置p2は、第1位置p1よりもシリンジ12の開口端側に近い位置である。第2位置p2は、シリンジ12の開口端からガスケット16が抜け落ちない範囲内であれば任意に設定することができ、例えば、第1位置p1と第2位置p2との間隔が0mm超、且つ6mm以下であるとよく、1mm超、且つ6mm以下であると好ましい。
なお、ガスケット16の移動量は、庫内の圧力(すなわち、外圧)を制御することで調整可能である。
【0032】
ガスケット16が第1位置p1から第2位置p2へ移動することにより、封止空間の容積が増加し、封入空間の内圧が低下する。したがって、ガスケット16に過度な圧力が加わることによってガスケットが変形したり、封止空間内から薬液が漏洩したりすることを抑制することができる。第1位置p1と第2位置p2との間隔が0mm超、且つ6mm以下である場合には、ガスケット16の抜け落ちを防止しつつ、薬液の漏洩をより効果的に抑制することができる。
また、塗布工程を行う場合には、ガスケット16が第1位置p1から第2位置p2へ移動することにより、ガスケット16の胴部16bの外周面が塗布領域12cに対して摺動する。これにより、塗布領域12cのシリコーンオイルの固着(粘性低下)を抑制し、塗布領域12cの各部におけるシリコーンオイルの付着量を均すことができる。さらに、第1位置p1と第2位置p2との間隔が0mm超、且つ6mm以下であれば、シリコーンオイルが薬液に混入することを抑制しつつ、上記効果を良好に得ることができる。
【0033】
滅菌後には、庫内の温度を下降させて、その後、ガスケット配置済みのシリンジ12を乾燥させるために、庫内各部の温度を下降後の温度で保持する。この期間中、シリンジ12内の封入空間は降温し、封入空間の内圧は下降する。この内圧の下降を利用して、
図5Cに示すように、ガスケット16を延出方向において第2位置p2よりもシリンジ12の先端側に移動させる。
【0034】
乾燥後には、庫内をさらに冷却し、庫内各部の温度を滅菌・乾燥工程の実施前の温度、すなわち初期温度まで戻す。この期間には、シリンジ12内の封入空間の温度が一段と低下し、封入空間の内圧がさらに下降する。この内圧のさらなる下降を利用して、
図5Dに示すように、ガスケット16を延出方向において第3位置p3に向けて移動させる。第3位置p3は、延出方向において第2位置p2よりもシリンジ12の先端に近い位置である。
圧力下降工程においては、上記のように温度を保持する工程を経て段階的にガスケット16を第3位置p3へ移動させることが好ましい。ガスケット16を段階的に移動させることにより、シリンジ12内における急激な温度及び圧力条件の変化に起因するガスケット16の変形又は破損等を抑制することができる。
【0035】
そして、庫内各部の温度が初期温度まで戻った際には、
図5Dに示すように、ガスケット16が第3位置p3に至り、以降、第3位置p3に保持される。つまり、滅菌・乾燥工程を終えて薬剤充填シリンジ10の製造が終了した時点では、ガスケット16の配置位置が、第2位置p2よりもシリンジ12の先端側に変位し、そのまま第3位置p3に維持される。
【0036】
以上の結果、薬剤充填シリンジ10の製造終了時点ではガスケット16が第3位置p3に保持されるため、ガスケット16が第2位置p2に保持される場合と比較して、ガスケット16が、変形又は破損等がなく常に姿勢を維持して移動するため、シリンジ12の外から封入空間内への菌等の侵入、及び薬液の漏洩を抑えることができる。すなわち、滅菌・乾燥工程中においては、ガスケット16が第2位置p2に在ることで、過度な圧力が加わることに起因して薬液が漏洩することを防ぐことができる。また、薬剤充填シリンジ10の製造終了時においては、ガスケット16が第3位置p3に在ることで菌等の侵入を抑制できる。したがって、薬剤充填シリンジ10の製造工程全体を通して、シリンジ12内部の状態を適切に保つことができる。
【0037】
なお、第3位置p3は、第2位置p2よりもシリンジ12の先端側の位置であれば特に限定されないが、好ましくは、第2位置p2と第3位置p3との間隔が0mm超、且つ8mm以下であるとよく、より好ましくは6mm超、且つ8mm以下であるとよい。上記の間隔を6mm超とすれば、薬剤充填シリンジ10の製造終了時点において、ガスケット16が第1位置p1よりもシリンジ12の先端側に保持される。この場合には、封入空間が陽圧状態となり、シリンジ12の外から封入空間内への菌等の侵入をより効果的に抑えることができる。
【0038】
本発明の製造方法を用いて製造された液体入り容器、具体的には薬剤充填シリンジ10は、シリンジ12内部の状態を適切に保ちながら製造される。このため、薬液の漏れがなく、ガスケット16の変形及び破損の無い液体入り容器を得ることができる。特に、塗布工程を行った場合には、薬液へのシリコーンオイルの混入が抑制された液体入り容器を得ることができる。
【0039】
<その他の実施形態>
以上までに本発明の液体入り容器の製造方法について具体例を挙げて説明してきたが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例に過ぎず、上記以外の実施形態も考えられ得る。
【0040】
上記の実施形態では、潤滑剤の一例としてシリコーンオイルを用いたが、ガスケット16の摺動性を高める目的でシリンジ12の内周面に塗布するものであれば、シリコーンオイル以外の潤滑剤を用いてもよい。
【0041】
上記の実施形態では、ガスケット配置済みのシリンジ12を滅菌する過程においてシリンジ12内の封入空間を昇温させて、これにより封入空間の圧力(内圧)を上昇させることとした。ただし、これに限定されず、滅菌以外の処理において封入空間を昇温させて封入空間内の温度を上昇させてもよい。
また、上記の実施形態では、滅菌後にシリンジ12を乾燥する過程においてシリンジ12内の封入空間を降温させて、これにより封入空間の内圧を下降させることとした。ただし、これに限定されず、上記以外の目的で封入空間を降温させて封入空間内の温度を下降させてもよい。
【実施例0042】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は、以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0043】
本発明の製造方法に基づいて滅菌・乾燥工程を行って、実施例の薬剤充填シリンジを作成した。一方、比較例では、滅菌・乾燥工程中にガスケットを第2位置へ移動させず、薬剤充填シリンジを作成した。
【0044】
比較例の薬剤充填シリンジは、滅菌・乾燥工程中に過度な圧力が加わるため、ガスケットの変形及び薬液の漏洩といった製品不良が発生した。一方、実施例の薬剤充填シリンジでは、そのような製品不良が発生しなかった。
【0045】
特に、薬剤充填シリンジの製造において塗布工程を行いガスケットにシリコーンオイルを塗布した場合では、比較例の薬剤充填シリンジでは、シリコーンオイルの固着が生じたり、薬液にシリコーンオイル由来であると考えられる微粒子状の分離物が生じたりすることがあった。
これに対して、実施例の薬剤充填シリンジでは、上記のような製品不良は生じなかった。なお、薬剤充填シリンジからガスケットを引き抜き、ガスケットの側面をFT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)にて分析を行うことにより、ガスケットに対して上述の塗布工程が行われたか否かを判別することができる。具体的には、シリコーンオイルが塗布されている場合には、シリコーンオイル由来のピーク(例えば、1260cm-1付近の鋭いピークや、1000~1100cm-1付近のブロードピーク、及び800cm-1cm付近のピーク等)を確認することができる。