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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147157
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】レンズ系
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20241008BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20241008BHJP
   G02B 1/118 20150101ALI20241008BHJP
   G02B 13/18 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B5/26
G02B1/118
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023059992
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】伊倉 隆平
【テーマコード(参考)】
2H087
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H087KA02
2H087KA03
2H087LA01
2H087NA18
2H087PA06
2H087PA18
2H087PB07
2H087QA02
2H087QA07
2H087QA17
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA34
2H087QA42
2H087QA45
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA43
2H087RA44
2H087UA01
2H148FA01
2H148FA09
2H148FA12
2H148FA22
2K009AA02
2K009FF02
(57)【要約】
【課題】IRカットコーティング層からの反射光に起因するフレア、ゴーストの発生を低減する。
【解決手段】ここでは、反射防止層50が第4レンズL4の第2表面L4R2に形成されている。絞り20を物体(Obj)側に向けて透過した反射光RLが第4レンズL4の第2表面L4R2で反射した反射光RL1が発生する場合が示されている。反射光RL1は再び像(Img)側に向かい、フレア、ゴーストの原因となる。図4における反射防止層50によって、この反射光RL1が抑制される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側にかけて光軸に沿って、最も物体側となる第1レンズを含む複数のレンズが絞りを含めて積層されて構成され、最も像側に位置する前記レンズよりも像側にある像面に撮像対象の像を結像させるレンズ系であって、
前記第1レンズ以外の前記レンズの一つでありガラス製である中間ガラスレンズにおいて、物体側の表面、像側の表面のうちいずれか一方の面には、結像の対象となる光よりも長波長の光を遮断する薄膜状の赤外カットフィルターが形成され、
前記中間ガラスレンズよりも物体側にある前記第1レンズ以外の前記レンズである物体側レンズの一つの表面において、波長450~700nmの光の反射率を0.3%以下とする反射防止層が形成されたことを特徴とするレンズ系。
【請求項2】
前記反射防止層は、表面の凹凸構造であるモスアイ構造を具備することを特徴とする請求項1に記載のレンズ系。
【請求項3】
前記赤外カットフィルターは、前記中間ガラスレンズにおける像側の表面に形成されたことを特徴とする1又は2に記載のレンズ系。
【請求項4】
前記絞りは前記中間ガラスレンズの物体側に隣接して配されたことを特徴とする請求項3に記載のレンズ系。
【請求項5】
前記中間ガラスレンズにおいて、
前記一方の面の曲率半径をRaとしたとき、
2.00≦|Ra|≦4.00
の範囲とされたことを特徴とする請求項4に記載のレンズ系。
【請求項6】
前記反射防止層は、前記物体側レンズの前記一つにおける物体側の表面及び像側の表面に形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレンズを含んで構成されるレンズ系に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、監視カメラ等に搭載される撮像装置において使用される光学系として、物体側から像側(撮像素子側)に至るまでの間に複数のレンズを光軸方向に配したレンズユニット(レンズ系)が使用されている。一般的には使用される撮像装置は可視光の画像を撮像するため、上記のレンズユニットは可視光による画像を撮像素子上に良好に結像させるように設計される。しかしながら、実際には撮像素子(CMOSセンサ等)は可視光から近赤外光までの広い波長域にかけて感度を有し、かつ近赤外光もレンズユニットを透過する。一方、レンズユニットにおける各レンズの光学特性は可視光と近赤外光では異なるために、可視光用に最適化されたレンズユニットを通過した近赤外光は撮像素子上で良好な画像を形成しない。このため、近赤外光が撮像素子で可視光と同様に検出された場合には撮像素子で得られる画像は良好とはならず、レンズユニット中において、近赤外光を通過させず可視光のみを通過させる赤外(IR)カットフィルターが設けられる。
【0003】
特許文献1には、レンズユニット中におけるこのようなIRカットフィルターを、レンズユニットを構成するレンズうちの一つの表面(レンズ面)上の薄膜(コーティング)として形成することと、このレンズを設ける箇所について記載されている。IRカットコーティング層は、カットオフ波長よりも短波長の光(可視光)を透過させ、これよりも長波長の光(近赤外光)は反射させるように設定される。この場合、理想的には可視光の透過率は100%(反射率が0%)、近赤外光の透過率は0%(反射率が100%)となる。
【0004】
例えば、このIRカットコーティング層を撮像素子に近い側(像側)、例えばカバーガラスに形成した場合には、この反射した近赤外光はレンズユニットに逆向きに入射し、これが反射してから再び撮像素子側に向かうことがある。ただし、この光がIRカットコーティング層を最終的に透過しなければ、この光は撮像素子で検知されない。このため、大部分の近赤外光は撮像素子で検知されず、得られる画像は大部分の近赤外光の影響を受けない。
【0005】
ここで、特にIRカットコーティング層におけるカットオフ波長近傍の波長の光については、透過率、反射率共に無視できない値(例えば透過率50%、反射率50%)となる。この場合、この反射光がレンズユニットに逆向きに入射した後で再び反射されて撮像素子側に向かい、その後にIRカットコーティング層を透過して撮像素子で検出される成分は無視できなくなる。この場合のレンズユニットにおける光路は本来のものとは大きく異なるため、この成分に起因する画像は、撮像素子における本来の画像以外の成分となるゴーストとなる。すなわち、特にカットオフ波長に近い波長の光は、フレア、ゴーストの原因となる。
【0006】
特許文献1に記載のレンズユニットにおいては、このようなIRカットコーティング層を、レンズユニットにおいて光軸方向で中央付近に設けられた絞りの下流側において絞りに最も近い位置にあるレンズ面に設けることによって、高効率で反射光が除去されている。これにより、このレンズユニットにおいては、撮像素子に達する反射光を大きく減少させることができ、これに起因するフレア、ゴーストの発生が低減される。
【0007】
更に、特許文献2には、このように絞りによって反射光を除去する際に、IRカットコーティング層が形成されたレンズの形状を調整することによって、このように最終的に撮像素子側に向かう反射光を特に低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5896061号公報
【特許文献2】特開2021-96283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のレンズユニット、更には特許文献2に記載のレンズユニットにおいては、このようなIRカットコーティング層からの反射光の影響は低減されたものの、更なるフレア、ゴーストの低減が望まれた。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みなされたもので、IRカットコーティング層からの反射光に起因するフレア、ゴーストの発生が大きく低減されたレンズ系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るレンズ系は、物体側から像側にかけて光軸に沿って、最も物体側となる第1レンズを含む複数のレンズが絞りを含めて積層されて構成され、最も像側に位置する前記レンズよりも像側にある像面に撮像対象の像を結像させるレンズ系であって、前記第1レンズ以外の前記レンズの一つでありガラス製である中間ガラスレンズにおいて、物体側の表面、像側の表面のうちいずれか一方の面には、結像の対象となる光よりも長波長の光を遮断する薄膜状の赤外カットフィルターが形成され、前記中間ガラスレンズよりも物体側にある前記第1レンズ以外の前記レンズである物体側レンズの一つの表面において、波長450~700nmの光の反射率を0.3%以下とする反射防止層が形成されている。
【0012】
この構成においては、本来得られるべき画像に対しては障害となる近赤外光を除去するための赤外カットフィルターが用いられる。この場合、赤外カットフィルターで物体側に向かって反射したカットオフ波長に近い波長の反射光が更に反射を繰り返してから像面に入射してフレアやゴーストの原因となりうるが、この反射光の像側への反射が反射防止層で抑制されることによって、フレアやゴーストが抑制される。
【0013】
前記反射防止層は、表面の凹凸構造であるモスアイ構造を具備してもよい。
前記のようなフレアやゴーストの原因となる反射光の波長は、450~700nm程度である。このような広い波長域で一様に反射率を低くする(0.3%以下とする)反射防止層としては、特にモスアイ構造が適している。
【0014】
前記赤外カットフィルターは、前記中間ガラスレンズにおける像側の表面に形成されていてもよい。
前記絞りは前記中間ガラスレンズの物体側に隣接して配されていてもよい。
こうした構成により、温度変化の際の熱膨張による表面の位置の変動による焦点位置や画角の変化が抑制され、良好な結像特性が得られると共に、フレアやゴーストの原因となる反射光を絞りによっても制限することができる。
【0015】
前記中間ガラスレンズにおいて、前記一方の面の曲率半径をRaとしたとき、2.00≦|Ra|≦4.00の範囲とされていてもよい。
この構成においては、中間ガラスレンズに形成された赤外カットフィルタ―からの反射光を絞りによっても特に除去しやすくなり、反射防止層による効果と加えて、特にフレアやゴーストが抑制される。
【0016】
前記反射防止層は、前記物体側レンズの前記一つにおける物体側の表面及び像側の表面に形成されていてもよい。
この構成においては、反射防止層による効果が特に大きくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、IRカットコーティング層からの反射光に起因するフレア、ゴーストの発生が大きく低減される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係るレンズ系の断面図である。
図2】実施例における各レンズ等の設計値である。
図3】中間ガラスレンズ付近での、赤外カットフィルターからの反射光の伝搬の状況を拡大して示す図である。
図4】実施形態に係るレンズ系における、赤外カットフィルターからの反射光の第4レンズでの反射の状況を示す図である。
図5】第4レンズにおける第1表面(a)、第2表面(b)における反射率を反射防止層の有無で比較した測定結果である。
図6】第3レンズにおける第1表面(a)、第2表面(b)における反射率を反射防止層の有無で比較した測定結果である。
図7】第2レンズにおける第1表面(a)、第2表面(b)における反射率を反射防止層の有無で比較した測定結果である。
図8】物体側レンズにおける反射防止層の有無による違いを調べた各条件と、各条件におけるフレアの発生状況の概要を比較した結果である。
図9】各条件によって得られた実際の画像(各々について4種類)と、その中でのフレアを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は本実施形態に係るレンズ系1を含む光学系全体の、光軸Aに沿った断面における構成図である。この構成は、特許文献2に記載されたものと同様であり、後述するように、本発明においては、レンズの表面の形態(レンズの表面に形成された層)が、特許文献2に記載されたものと異なる。
【0020】
ここでは、物体側は図中上側であり、撮像素子100は図中最下部に位置する。図1においては、後述する実施例に対応した各構成要素における光学的に機能する部分のみが記載されている。実際には、各構成要素は、図1に示された位置関係が維持されるように鏡筒の内部に固定されるため、この固定の際に必要な構造、あるいは各構成要素間の位置関係を固定するための構造が設けられているが、図1においてはその記載は省略されている。
【0021】
撮像素子100は2次元CMOSイメージセンサであり、各画素は光軸Aと垂直な面内で2次元に配列されている。また、撮像素子100の物体側には、光軸Aと直交する平面状のカバーガラス110が設けられている。図1において、第1レンズL1から第7レンズL7を備えるレンズ系1が構成される。レンズ系1は、撮像対象の画像を所望の視野、所望の形態で撮像素子100上(像面)に結像させるように構成される。実際には撮像対象からは可視光以外にも近赤外光等も発せられるが、このレンズ系1においては、可視光の場合にこの結像条件が満たされように設計される。レンズ系1における各レンズの光学的に機能する領域(図1に示された部分)は、光軸Aの周りで対称な略円板状の外形を具備する。
【0022】
図2は、図1に記載された各レンズの実施例における設計値である。ここで、図2(a)は、レンズ系の設計値として、レンズ系全体の有効焦点距離(Effective Focal Length:f0=1.011mm)、光軸Aに沿った全長(Total Track=13.404mm)、F値(F-number=2.03)、画角(Half Field of Angle=109°)を示す。図2(b)においては、第1レンズL1~第7レンズL7以外に、絞り20、カバーガラス110についても示されている。各レンズについては、屈折率Nd(波長587nmに対応)とアッベ数νdも記載されている。また、図2(b)でfで示された数値は、各レンズあるいは示された範囲に対応したレンズの組み合わせにおける焦点距離である。また、ここでは、レンズ表面の形状としては球面(Spherical)と非球面(Aspherical)の2種類があり、非球面とされた場合においてこの表で示された曲率半径(Radius)は中心(光軸A上)での値である。
【0023】
図1において、最も物体(Obj)側(図中上側)に設けられた第1レンズL1は、魚眼レンズであり、主にこれによって、視野等が定まる。これよりも撮像素子100側(像(Img)側)に、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4、第5レンズL5、第6レンズL6、第7レンズL7が順次配置されている。また、結像のために用いられる光束を制限するための絞り20が第4レンズL4と第5レンズL5の間に、不要な光を除去するための遮光板30が、第2レンズL2と第3レンズL3の間に、それぞれ設けられる。絞り20に設けられた開口、遮光板30の形状は、目的に応じて設定されている。
【0024】
各レンズにおける物体側のレンズ面、像側のレンズ面は、レンズ系1が所望の結像特性をもたらすように、適宜曲面(凸曲面、凹曲面)加工されている。以下では、各レンズにおける物体側のレンズ面を第1表面R1、像側のレンズ面を第2表面R2と呼称する。また、レンズ面の形状(凸曲面又は凹曲面)としては、第1表面R1の形状については物体側からみた形状、第2表面R2の形状については像側からみた形状を、それぞれ意味するものとする。
【0025】
第1レンズL1は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側のR2が凹曲面とされた負レンズ(メニスカスレンズ)である。第2レンズL2は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凹曲面とされた負レンズである。第3レンズL3は、その物体側の第1表面R1が凹曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。第4レンズL4は、その物体側の第1表面R1が凹曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。第5レンズL5は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。
【0026】
第6レンズL6は、その物体側の第1表面R1が凹曲面、その像側の第2表面R2が凹曲面とされた負レンズである。第7レンズL7は、その物体側の第1表面R1が凸曲面、その像側の第2表面R2が凸曲面とされた正レンズである。また、第6レンズL6、第7レンズL7は対向する光学面(表面同士)が嵌合することにより接合レンズを構成するように設定される。つまり、第6レンズL6の像側の第2表面R2と第7レンズL7の物体側の第1表面R1が嵌合するように構成される。以上の各レンズの物体側の第1表面R1、像側の第2表面R2は、可視光に対して、所望の結像特性が像面(撮像素子100)上で得られるように設定されている。
【0027】
また、一般的に、このような小型の撮像装置におけるレンズを構成する材料としては、ガラスと樹脂材料の2種類がある。前者は機械的強度が高いが高価であり、後者は機械的強度は低いが安価である。第1レンズL1は撮像装置1の最表面に位置しかつ最も大径となるために、傷が付きにくいガラス製のものが好ましく用いられる。これよりも小さなその他の多くのレンズとしては、安価な樹脂材料製のものを用いることができる。本実施例においては、第1レンズL1および第5レンズL5がガラス製、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4、第6レンズL6、及び第7レンズL7はプラスチック(樹脂)製とされる。
【0028】
なお、ガラスの熱膨張係数は樹脂材料より小さいために、高温時における熱膨張に起因する形状や位置の微細な変化が結像特性(焦点位置の変化)に与える影響が大きくなるレンズは、ガラス製とすることが好ましい。このため、本実施例においては、第5レンズ(中間ガラスレンズ)L5は、第1レンズL1と同様にガラス製としている。前記の通り、第5レンズL5の像側の第2表面R2は像側に向けて凸形状、その物体側の第1表面R1は物体側に向けて凸形状とされる。また、特に絞り20と物体側、像側で隣接するレンズについては、温度変化の際の熱膨張による表面の位置の変動による焦点位置の変化が結像特性に及ぼす影響が特に大きい。このため、これらのうちの一方をガラス製とすることが好ましい。更に、絞り20と像側で隣接するレンズをガラス製とすることによって、温度変化に際しての画角の変動が抑制される。このため、本実施形態においては、第5レンズL5がガラス製とされる。
【0029】
図2(b)において、ガラス製のレンズL1、L5は球面レンズ、他のプラスチック製のレンズL2~L4、L6、L7は非球面レンズとされる。非球面レンズは球面レンズと比べて製造が比較的困難であるが、プラスチック製のレンズにおいては、樹脂成型により非球面の形状を容易に製造することができる。このため、このようにレンズL2~L4、L6、L7を非球面とすることは容易である一方、非球面形状とすることが比較的困難なガラス製のレンズL1、L5は球面とされている。このため、こうした組み合わせによって、安価でありつつ、温度変化に伴う焦点位置の変化を抑えられ、かつ収差を適切に補正できるため、レンズ系1を高性能とすることができる。ここで、全てのレンズ(面)について、曲率半径は、曲率中心が像側にある場合に正、曲率中心が物体側にある場合に負となるように設定されている。このため、前記のように、曲面の形状(凸曲面、凹曲面)を、第1表面R1の形状については物体側からみた場合、第2表面R2の形状については像側からみた場合と定義すると、図2(b)において、第1表面R1においては曲率半径が正の場合が凸曲面(負の場合が凹曲面)、第2表面R2においては曲率半径が正の場合が凹曲面(負の場合が凸曲面)である。
【0030】
また、図2(b)に示された面が非球面の場合の形状は、以下の(1)式で表させるものとし、この各パラメータ(非球面係数)が図2(c)の表で示されている。
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、この形状は光軸Aの周りで対称とされるため、Z(サグ量:光軸Aに沿った高さ)とr(光軸Aからの径方向の距離)との間の関係が示されている。また、cは図2(b)の表で示された中心での曲率半径(Radius)の逆数である。
【0033】
このレンズ系1においては、IRカットコーティング層(赤外カットフィルター)40が、第5レンズL5の像側の第2表面R2に形成される。IRカットコーティング層40によって、撮像素子100側に向かう近赤外光を除去することができる。IRカットコーティング層40は、カットオフ波長よりも短波長の光を透過させ、これよりも長波長の光を透過させない(反射させる)ような多層膜として、例えば蒸着等によって薄膜状に形成される。この際、特にカットオフ波長に近い波長の光に対しては、反射率、透過率が共に無視できない値となる。このため、従来のレンズユニットにおいては、カットオフ波長に近い波長の反射光がこれよりも物体側で像側に向けて反射されてからIRカットコーティング層40を透過して撮像素子100に入射する成分が無視できず、これに起因するゴーストが発生した。これに対し、このレンズ系1においては、このようにIRカットコーティング層40で物体側に向けて反射されてから再び像側に向けて反射されて撮像素子100に入射する成分が低減され、これに起因するゴーストが低減される。この点について以下に説明する。
【0034】
図3は、これによる効果を図1を拡大した構成において模式的に示す図である。ここでは、物体側光学系OA側における反射については具体的に記載されていない。ここでは、絞り20よりも物体側(図中上側)の構成要素は物体側光学系OA、第5レンズL5よりも像側(図中下側)の構成要素は像側光学系OBとして、それぞれ一体化されて示されている。前記の通り、IRカットコーティング層40は第5レンズL5における像側の第2表面R2に形成されている。ここでは、第5レンズL5における像側の第2表面R2の曲率半径Raを絶対値で示したとき、曲率半径Raは小さく設定されている。
【0035】
図3においては、この構成における、IRカットコーティング層40からの反射の状況が模式的に示されている。第5レンズL5における像側の第2表面R2の曲率半径(Ra)が小さく設定されることにより、特に光軸Aから離れた部分でのIRカットコーティング層40からの反射光RLの光軸Aに対する角度を大きくすることができる。これによって、物体側光学系OAに向かうこの反射光RLが絞り20で遮断されやすくなる、あるいは物体側光学系OAに像側から反射光RLが入射する確率が低減される。
【0036】
具体的には、上記の曲率半径Raは、2.00mm≦|Ra|≦4.00mmの範囲とすることが好ましい。曲率半径Raの絶対値を4.00mm以下と小さくすることで、上記のようにフレア、ゴーストの発生を抑制することができる。なお、曲率半径Raの絶対値が4.00mmを超えると第5レンズL5の像側の第2表面R2が平面に近くなるため、反射した光が結像面に届きやすくなり、フレア、ゴーストの発生の要因となってしまう。また、曲率半径Raの絶対値を2.00mm以上とすることで、IRカットコーティング層40を第5レンズL5の像側の第2表面R2に一様に形成することができる。なお、曲率半径Raの絶対値が2.00mm未満となるとレンズの曲率半径が小さすぎてしまい、像側の第2表面R2の中央部分と端部側でのIRカットコーティング層40を一様に形成し、その光学特性を一様に得ることが困難となり、画像の中央部分と周辺部分での色合いに差が出る虞がある。
【0037】
また、図3において、第5レンズL5の像側の第2表面R2と対向する第6レンズL6の物体側の第1表面R1の曲率半径Rb、および第5レンズL5の像側の第2表面R2の曲率半径Raは、1.20<|Rb/Ra|<4.00の範囲とされている。|Rb/Ra|が1.20を超えるため、曲率半径Raと曲率半径Rbの差異を出すことができるため、これらの面間の反射に起因するゴーストの発生を抑制することができる。また、|Rb/Ra|が4.00未満となるため、レンズ系の収差の補正が容易となるため、高性能なレンズ系の提供を実現することができる。
【0038】
また、一般的に、IRカットコーティング層40は、SiOを含む多層膜として蒸着等で形成される。この際、一般的にプラスチック(有機材料)上にこのようなIRカットコーティング層40を高い接合強度で形成することは困難であるのに対し、ガラス材料の上にこうした層を高い接合強度で形成することは容易である。また、ガラス材料の主成分もSiOであるため、ガラス材料とIRカットコーティング層40との間の熱膨張係数の差も小さい。このため、第5レンズL5を前記のようにガラス製とすることが特に好ましい。
【0039】
以上のように、図1、3に示されたように第5レンズL5と第4レンズL4の間に絞り20を設けると共に、第5レンズL5の各表面の曲率半径を上記のように設定することによって、第5レンズL5に形成されたIRカットコーティング層40で物体(Obj)側に向けて反射された反射光RLが再び像(Img)側に向けて反射されて撮像素子100に入射する成分が低減する。以上の点については、特許文献2に記載されたとおりである。
【0040】
本発明の実施の形態に係るレンズ系1においては、物体側光学系OA中のレンズ(物体側レンズ)の表面に反射防止層を形成して、IRカットコーティング層40での反射に起因した光の物体側光学系OA中での反射を抑制することによって、フレア、ゴーストの原因となる光が撮像素子100に入射することが更に低減される。このような反射防止層としては、一定の波長領域で反射率を一様に低くすることができるため、表面の微細な凹凸構造を具備するモスアイ構造を有するものが好ましい。この点について以下に説明する。
【0041】
図4は、IRカットコーティング層40からの反射光RLが第4レンズL4で反射する場合の伝搬状況を図3と同様に示す図である。ここでは、反射防止層50が第4レンズL4の第2表面L4R2に形成されている。前記の通り、上記の構成では、絞り20によって反射光RLが制限され、これによって、この反射光RLが物体側光学系OA内で反射して再び像(Img)側に向かう成分が抑制される。これに対して、図4においては、絞り20を物体(Obj)側に向けて透過した反射光RLが第4レンズL4の第2表面R2で反射した反射光RL1が発生する場合が示されている。ここで示されるように、反射光RL1は再び像(Img)側に向かい、フレア、ゴーストの原因となる。図4では物体側光学系OAにおいて第4レンズL4のみが示されているが、第2レンズL2、第3レンズL3についても同様である。本発明の実施の形態に係るレンズ系1においては、図4における反射防止層50によって、この反射光RL1が抑制される。
【0042】
モスアイ構造、あるいはその製造方法については、例えば特許第7098864号等に記載されている。ここでは、対象とする波長よりも小さなスケールでの凹凸が多数形成されることによって、この表面の反射率を低下させることができる。図5においては、ここで用いられた第4レンズL4における第1表面R1(L4R1:a)、第2表面(L4R2:b)における、この反射防止層の有無の場合の反射率の波長依存性が測定された結果が示されている。同様に、図6図7においては、第3レンズL3、第2レンズL2におけ同様の反射率が示されている。ここで、これらの測定(以下の結像測定においても同様)は、反射防止層の形成後のレンズを120℃、80h保持して表面状態を安定化させた後に行われた。
【0043】
この結果より、少なくともこのような反射防止層を形成することによって、物体側光学系OA内における物体側レンズ(第4レンズL4、第3レンズL3、第2レンズL2)の表面における波長450~700nmにおける反射率を一様に0.3%以下にすることができる。
【0044】
ここで、第2レンズL2、第3レンズL3、第4レンズL4の各々について、前記の反射防止層50を設けた場合と設けない場合とで、フレアの発生状況を調べた。図8の上側の表においては、ここで調べられた条件1~条件5における、各レンズにおける反射防止層の有無が示されている。ここで、「有」の場合には、第1表面R1、第2表面R2のどちらにも同一の反射防止層50が形成され、「無」の場合にはどちらにも反射防止層50は形成されていない。また、第1レンズL1、第5レンズL5~第7レンズL7については、いずれの条件でも反射防止層は設けられておらず、第2レンズL2~第4レンズL4のいずれにも反射防止層50が設けられていない条件1は、特許文献2に記載の実施例1と同一である。
【0045】
上記の各条件において、同一の撮像条件でこのレンズ系で撮像を行なった際の画像中のゴーストあるいはフレアの発生の状況を比較した。図9は、この場合における典型的な4種類の画像(A~D)を示す。ここで、4種類のゴーストとして、最も大きなゴースト#1(画像Aに存在)、小さなスポット状のゴースト#2(画像B、C、Dに存在)、大きなスポット状のゴースト#3(画像B、Cに存在)、その周囲のゴースト#4(画像B、Cに存在)、が確認できる。特許文献2においてはシミュレーションで効果が確認され、このゴースト#1~#4は、特許文献2に記載の技術よりも前の場合と比べると薄くなっているものの、ここでは、上記の条件2~5の場合におけるこの状況が、条件1の場合と比較された。
【0046】
図8の下側の表においては、条件1におけるゴースト#1~#4の発生状況と比較して、これらが目視で見られなくなった場合を◎、見られるが薄くなった場合を〇、同様に見られた場合を×、とした結果が示されている。この結果から、第2レンズL2~第4レンズL4の全てに反射防止層50がある条件5において、最も良好な結果(全ての種類のゴーストが低減)が得られている。ただし、第2レンズL2~第4レンズL4のうちの一つのみにおいて反射防止層50を設けても、一定の効果が得られる。すなわち、上記のように反射防止層50を物体側光学系OA中のレンズに設けることによって、ゴーストを低減できることが確認された。
【0047】
上記の例では、反射防止層50は各レンズにおける第1表面R1(物体(Obj)側の表面)、第2表面R2(像(Img)側の表面)の両方に形成されたが、これらのうちで一方だけにおいて反射防止層50を形成してもよいことは明らかである。この場合には、反射光RLにとっては上流側となる像(Img)側の第2表面R2に反射防止層50を形成することが特に好ましい。
【0048】
また、上記の例では、第5レンズL5の曲率半径を調整して反射光RLを絞り20によってカットすると共に、反射防止層50によって反射光RL1の発生が抑制された。しかしながら、このように絞り20を用いて反射光RLをカットしない場合でも、反射防止層50によって図4における反射光RL1を低減できることは明らかである。
【0049】
このため、IRカットコーティング層40が形成された第5レンズ(中間ガラスレンズ)L5よりも物体(Obj)側にある物体側レンズ(第4レンズL4、第3レンズL3、第2レンズL2)に反射防止層50を形成することによって、フレア、ゴーストが低減された結像光学系を実現することができることが確認された。
【0050】
(本形態の主な特徴)
本実施形態の特徴を簡単に纏めると次の通りである。
(1)レンズ系1は、物体(Obj)側から像(Img)側にかけて光軸Aに沿って、最も物体(Obj)側となる第1レンズL1を含む複数のレンズが絞り20を含めて積層されて構成され、最も像側に位置する第7レンズL7よりも像(Img)側にある像面に撮像対象の像を結像させ、第1レンズL1以外の前記レンズの一つでありガラス製である中間ガラスレンズL5において、物体(Obj)側の表面(第1表面R1)、像(Img)側の表面(第2表面R2)のうちいずれか一方の面には、結像の対象となる光よりも長波長の光を遮断する薄膜状の赤外カットフィルター40が形成され、中間ガラスレンズL5よりも物体(Obj)側かつ第1レンズL1以外のレンズである物体側レンズ(L2、L3、L4)の一つの表面において、波長450~700nmの光の反射率を0.3%以下とする反射防止層50が形成されている。
【0051】
この構成においては、本来得られるべき画像に対しては障害となる近赤外光を除去するための赤外カットフィルター40が用いられる。この場合、赤外カットフィルター40で物体(Obj)側に向かって反射したカットオフ波長に近い波長の反射光RLが更に反射を繰り返してから像面に入射してフレアやゴーストの原因となりうるが、この反射光RLの像(Img)側への反射が反射防止層50で抑制されることによって、フレアやゴーストが抑制される。
【0052】
(2)この際、(1)における反射防止層50は、表面の凹凸構造であるモスアイ構造を具備する。
前記のようなフレアやゴーストの原因となる反射光RLの波長は、450~700nm程度である。このような広い波長域で一様に反射率を低くする(0.3%以下とする)反射防止層50としては、特にモスアイ構造が適している。
【0053】
(3)この際、(1)(2)におけるIRカットコーティング層40は、中間ガラスレンズL5における第2表面L5R2に形成されている。
(4)また、(3)における絞り20は中間ガラスレンズL5の物体(Obj)側に隣接して配されている。
こうした構成により、温度変化の際の熱膨張による表面の位置の変動による焦点位置や画角の変化が抑制され、良好な結像特性が得られると共に、フレアやゴーストの原因となる反射光RL1を絞り20によっても制限することができる。
【0054】
(5)また、(4)における中間ガラスレンズL5において、IRカットコーティング層40が形成された面の曲率半径をRaとしたとき、2.00≦|Ra|≦4.00の範囲とされている。
この構成においては、中間ガラスレンズL5に形成されたIRカットコーティング層40からの反射光RLを絞り20によって特に除去しやすくなり、反射防止層50による効果と加えて、特にフレアやゴーストが抑制される。
【0055】
(6)また、(1)~(5)における反射防止層50は、物体側レンズ(L2、L3、L4)の一つにおける物体(Obj)の表面(第1表面R1)及び像(Img)側の表面(第2表面R2)に形成されている。
この構成においては、反射防止層50による効果が特に大きくなる。
【0056】
なお、上記の例以外の構成においても、上記のような赤外カットフィルターが形成された中間ガラスレンズが用いられた場合、反射防止層が形成された物体側レンズを設けることにより、物体側の光学系に赤外カットフィルターからの反射光が入射してこれが再び像面(撮像素子)側に向かうことが抑制される。このため、例えば、中間ガラスレンズ、反射防止層が形成された物体側レンズ以外のレンズの構成は任意である。また、上記のレンズ系を収容する鏡筒や、各レンズにおける光学的に機能する部分以外の構造、例えばレンズを鏡筒に固定するための構造やレンズ間の位置関係を固定するための構造は任意である。
【0057】
本発明を、実施形態及びその変形例をもとに説明したが、この実施形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0058】
1 レンズ系
20 絞り
30 遮光板
40 IRカットコーティング層(赤外カットフィルター)
50 反射防止層
100 撮像素子
110 カバーガラス
A 光軸
Img 像(側)
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ(物体側レンズ)
L3 第3レンズ(物体側レンズ)
L4 第4レンズ(物体側レンズ)
L5 第5レンズ(中間ガラスレンズ)
L6 第6レンズ
L7 第7レンズ
OA 物体側光学系
OB 像側光学系
Obj 物体(側)
R1 第1表面
R2 第2表面
RL 反射光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9