(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147163
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】正孔輸送材料およびそれを用いた光電変換素子並びに有機太陽電池
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241008BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241008BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20241008BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20241008BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K85/60
H10K30/86
H10K30/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060001
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 潤
(72)【発明者】
【氏名】北口 健二
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107DD78
5F251AA11
5F251AA20
5F251BA18
5F251DA07
5F251FA02
5F251FA03
5F251FA04
5F251FA06
5F251FA17
5F251FA18
5F251FA19
5F251GA03
5F251GA05
5F251XA01
5F251XA43
5F251XA55
(57)【要約】
【課題】高温高湿耐久性に優れ、室内光等の微弱な光においても優れた光電変換性を有する正孔輸送材料およびそれを用いた光電変換素子並びに有機太陽電池を提供する。
【解決手段】下記の一般式(1)で表される正孔輸送材料。式(1)中、R1は炭素数4以下のアルコキシ基もしくはアルキル基を示し、R2は水素原子もしくはメチル基を示し、R1とR2の炭素数の合計は2以上である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(1)で表される正孔輸送材料。
【化1】
(式(1)中、R1は炭素数4以下のアルコキシ基もしくはアルキル基を示し、R2は水素原子もしくはメチル基を示し、R1とR2の炭素数の合計は2以上である。)
【請求項2】
前記一般式(1)が、下記の化学式(HTM-1)、(HTM-2)、(HTM-3)、(HTM-4)、(HTM-5)、(HTM-6)、又は(HTM-7)のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の正孔輸送材料。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項3】
前記一般式(1)が、前記化学式(HTM-1)、(HTM-2)、(HTM-3)、(HTM-4)、又は(HTM-7)のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の正孔輸送材料。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に積層される電子注入電極である第1電極と、
前記第1電極上に積層される電子輸送層と、
前記電子輸送層上に積層される光電変換層と、
前記光電変換層上に積層される正孔輸送層と、
前記正孔輸送層上に積層される正孔注入電極である第2電極と、
を備え、
前記正孔輸送層は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の正孔輸送材料を含む、有機太陽電池。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に積層される正孔注入電極である第1電極と、
前記第1電極上に積層される正孔輸送層と、
前記電子輸送層上に積層される光電変換層と、
前記光電変換層上に積層される電子輸送層と、
前記正孔輸送層上に積層される電子注入電極である第2電極と、
を備え、
前記正孔輸送層は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の正孔輸送材料を含む、有機太陽電池。
【請求項6】
前記正孔輸送層が、前記化学式(HTM-1)、(HTM-2)、(HTM-3)、(HTM-4)又は(HTM-7)のいずれかで示される正孔輸送材料を含む、請求項4に記載の有機太陽電池。
【請求項7】
基板と、
前記基板上にホールブロッキング層と多孔質状の電子輸送層を積層し、さらに光増感材料を担持した第1電極と、
前記第1電極上に積層される正孔輸送層と、
前記正孔輸送層上に積層される第2電極と、
を備え、
前記正孔輸送層は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の正孔輸送材料を含む、光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正孔輸送層の材料として用いられる正孔輸送材料、およびそれを用いた光電変換素子並びに有機太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路における駆動電力は非常に小さくなり、微弱な電力でもセンサー等の様々な電子部品を駆動することができる。さらに、センサーの活用に際し、その場で発電して消費できる自立電源(環境発電素子)への応用が期待されており、その中でも太陽電池は光があればどこでも発電できる素子として注目を集めている。
【0003】
太陽電池としては、無機太陽電池および有機太陽電池が知られている。しかし、無機太陽電池は、p型半導体およびn型半導体としてシリコン等の無機半導体材料が用いられるため、製造コストの高さおよび大型化の困難性の観点から利用範囲が限られるという問題がある。そのため、現在では、無機半導体の代わりに有機半導体を用いて製造される有機太陽電池の開発が進められている。有機太陽電池は、例えば、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池、有機無機ハイブリッド太陽電池等に分類される。
【0004】
有機太陽電池は、p型半導体およびn型半導体を含有しており、光を吸収してプラスとマイナスの電荷を発生する光電変換層と、陽極との間に、正孔輸送層(ホール輸送層)を設けることが多い。正孔輸送層は、光励起により生じたプラスの電荷(正孔)とマイナスの電荷(電子)とが再接合することなく効率的に移動するようにして、太陽電池の光電変換効率を向上させる役割を発揮する。
【0005】
有機太陽電池の中でも、特に、特許文献1、非特許文献1、2に記載されるような、ペロブスカイト化合物を含む光電変換層を備える太陽電池(以下、ペロブスカイト型太陽電池とも言う)が、微弱な室内光環境化においてアモルファスシリコン太陽電池以上の高い光電変換効率を示すことが報告され、さらなる光電変換効率の向上に関する報告も相次いでなされている。ペロブスカイト型太陽電池の基本構造は、一般的に、透明電極(陰極)、電子輸送層、光電変換層(ペロブスカイト層)、正孔輸送層および金属電極(陽極)がこの順で積層された積層体となっている。この構造は、電子輸送層とペロブスカイト層との間にメソポーラスチタニア層を備え、ペロブスカイト層とメソポーラスチタニア層とで光電変換層を構成する場合もある。これらの層のうち、正孔輸送層は、一般的に有機半導体を含む材料から構成されている。
【0006】
これまでに報告されている正孔輸送層の材料中に含まれる有機半導体としては、例えば非特許文献3に記載される、色素増感型太陽電池用の正孔輸送層の材料として開発された2,2′,7,7′-テトラキス-(N,N-ジ-メトキシフェニルアミン)-9,9′-スピロビフルオレン(以下、Spiro-OMeTADとも言う)が知られ、前述のペロブスカイト型太陽電池にもよく使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Michael M. Lee et al., “Efficient Hybrid Solar Cells Based on Meso-Super structured Organometal Halide Perovskites”, Science (2012) 338, P643-647
【非特許文献2】Nam Joong Jeon et al., “Solvent engineering for high-performance inorganic-organic hybrid perovskite solar cells”, Nature Materials (2014) 13, P897-903
【非特許文献3】Nature volume (1998) 395, P583-585
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、Spiro-OMeTADを正孔輸送層の材料とする場合、十分に良好な光電変換性能が発揮されるとは言えない。そのため、一般的にはこの材料を用いる場合、光電変換性能の向上のためにリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSI塩とも言う)等のドーパントを大量に添加する必要があり、大量に添加されたLiTFSI塩のドープによって、太陽電池が高温高湿耐久性に劣るという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、高温高湿耐久性に優れ、室内光等の微弱な光においても優れた光電変換性を有する正孔輸送材料およびそれを用いた光電変換素子並びに有機太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明の第1の構成は、下記の一般式(1)で表される正孔輸送材料である。
【化1】
式(1)中、R1は炭素数4以下のアルコキシ基もしくはアルキル基を示し、R2は水素原子もしくはメチル基を示し、R1とR2の炭素数の合計は2以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の構成によれば、光電変換素子および太陽電池の正孔輸送層の材料として上記式(1)で表される化合物を用いることにより、高温高湿耐久性および電荷(正孔)の移動度を改善することができ、光電変換素子および太陽電池のエネルギー変換効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る有機太陽電池100の部分断面図であって、第1電極2を電子注入電極、第2電極6を正孔注入電極とした例を示す図
【
図2】本発明の一実施形態に係る有機太陽電池100の部分断面図であって、第1電極2を正孔注入電極、第2電極6を電子注入電極とした例を示す図
【
図3】MIS-CELIV法による正孔輸送層の正孔移動度の測定装置20を示す模式図
【
図4】MIS-CELIV法による正孔移動度の測定結果を示す説明図であって、直線的に増加する逆電圧の時間推移を示すグラフ
【
図5】MIS-CELIV法による正孔移動度の測定結果を示す説明図であって、逆電圧の印加により発生する過渡電流の時間推移を示すグラフ
【
図6】逆電圧印加速度A=150kV/s、順方向電圧V
FB=0V~-10Vに変化させた場合に観測された透過電流波形を示すグラフ
【
図7】逆電圧印加速度A=100~350kV/s、順方向電圧V
FB=-10Vの条件下で観測された過渡電流から予測される正孔移動度の電界依存性を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.有機太陽電池の構成]
先ず、本発明の正孔輸送材料を用いた太陽電池について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る有機太陽電池100の部分断面図である。有機太陽電池100(以下、単に太陽電池100という)は、基板1と、第1電極2と、電子輸送層3と、光電変換層4と、正孔輸送層5と、第2電極6とを備える。第1電極2は、基板1上に備えられる。光電変換層4は、第1電極2上に電子輸送層3を介して積層される。第2電極6は、光電変換層4上に正孔輸送層5を介して積層される。なお、電子輸送層を有さず、第1電極2上に光電変換層4が直接積層されてもよい。この場合、
図1に示される電子輸送層3は省略される。太陽電池100の使用時に、例えば、太陽電池100の基板1側の面に光L(例えば、太陽光、又は室内光)が照射される。なお、太陽電池100の使用時に、太陽電池100の第2電極6側の面に光Lが照射されてもよい。
【0015】
<基板>
基板1は、太陽電池100に使用可能であれば、特に限定されない。基板1は、透明であっても不透明であってもよい。但し、太陽電池100の基板1側の面が受光面となる場合には、基板1は透明であることが好ましい。透明基板としては、例えば、石英ガラスのようなガラス、合成石英板等の透明なリジット基板、および透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の透明なフレキシブル基板が挙げられる。透明なフレキシブル基板は、加工の容易さ、製造コストの低減、軽量化、割れ難さ、曲面への適用が可能という利点を有する。
【0016】
<第1電極>
第1電極2は、例えば、電子注入電極である。第1電極2は、導電性を有する材料に限定されない。第1電極2として用いられる仕事関数の高い材料としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、カーボン(C)、酸化インジウムスズ(ITO、Indium tin oxide)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO、Fluorine-doped tin oxide)、および酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。
【0017】
また、第1電極2の材料は、太陽電池100の受光面が基板1側の面であるか第2電極6側の面であるかを考慮して適宜選択される。受光面が基板1側の面である場合、第1電極2は透明電極であることが好ましい。第1電極2が透明電極である場合に用いられる材料としては、例えば、酸化インジウム亜鉛(IZO、Indium zinc oxide)、ITO、FTO、ZnO-Al、およびZn-Sn-Oが挙げられる。
【0018】
第1電極2の全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、92%以上であることが特に好ましい。第1電極2の全光線透過率が85%以上であると、太陽電池100の受光面が基板1側の面である場合に、基板1上の第1電極2を光が十分に透過することができ、光電変換層4に光を効率的に吸収させることができる。
【0019】
第1電極2のシート抵抗は、20[Ω/sq]以下であることが好ましく、15[Ω/sq]以下であることがより好ましい。第1電極2のシート抵抗が20[Ω/sq]以下であると、光電変換層4で発生した電荷が外部回路へ十分に伝達される。シート抵抗は、例えば、抵抗率計(ロレスタAXMCP-T370、日東精工アナリテック社製、4探針プロ-ブ型)を用いて、JIS(日本産業規格)R1637(ファインセラミックス薄膜の抵抗率試験方法-4探針法による測定方法)に準拠した方法により測定できる。
【0020】
第1電極2の膜厚は、0.1nm以上500nm以下であることが好ましく、1nm以上300nm以下であることがより好ましい。第1電極2の膜厚が0.1nm以上であると、第1電極2のシート抵抗が大きくなり過ぎず、光電変換層4で発生した電荷(正孔)を外部回路へ十分に伝達できる。一方、第1電極2の膜厚が500nm以下であると、第1電極2の全光線透過率が高くなる。
【0021】
第1電極2は、単層であってもよい。また、第1電極2は、異なる仕事関数を有する複数の層から構成されていてもよい。第1電極2が複数の層から成る場合、上述した第1電極2の膜厚は複数の層の総膜厚を意味する。
【0022】
第1電極2は、基板1の全面にシート状に形成されていてもよく、基板1上にパターン状に形成されていてもよい。また、第1電極2の形状は、フラット形状であってもよく、凹凸状であってもよい。凹凸状としては、例えば、テクスチャー構造状、ピラミッド構造状、波型構造状、くし型構造状、およびナノピロー構造状が挙げられる。第1電極2が凹凸状である場合、入射光が第1電極2の凹凸により散乱されるため、光電変換層4に取り込まれる光が多くなり、太陽電池100のエネルギー変換効率が向上する。
【0023】
<電子輸送層>
電子輸送層3は、第1電極2と光電変換層4との間に積層される。電子輸送層3は、光電変換層4から第1電極2(電子注入電極)への電子の注入(移動)が容易に行われるように設けられる。電子輸送層3が積層されることにより、光電変換層4から第1電極2への電子注入効率が高められ、太陽電池100のエネルギー変換効率が向上する。
【0024】
電子輸送層3に含有される材料(電子輸送層用材料)は、光電変換層4から第2電極6へ安定的に電子を注入できる材料であれば、特に限定されない。電子輸送層用材料としては、例えば、導電性有機化合物、電荷移動錯体、アルカリ金属、アルカリ土類金属、およびアルカリ金属又はアルカリ土類金属でドープされた有機化合物、金属酸化物が挙げられる。
【0025】
電子輸送層用材料として使用し得るアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムが挙げられる。電子輸送層用材料として使用し得るアルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムが挙げられる。電子輸送層用材料として使用し得るアルカリ金属又はアルカリ土類金属でドープされた有機化合物は、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属でドープされた、バソクプロイン(BCP)およびバトフェナントロリン(Bphen)が挙げられる。ドープに使用されるアルカリ金属およびアルカリ土類金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、又はバリウムが好ましく、リチウム、セシウム、バリウム、又はストロンチウムがより好ましい。電子輸送用材料として使用し得る金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫等が挙げられる。
【0026】
電子輸送層用材料が導電性有機化合物、電荷移動錯体又は金属酸化物である場合、電子輸送層3の膜厚は、10nm以上200nm以下であることが好ましい。電子輸送層用材料がアルカリ金属、アルカリ土類金属、或いはアルカリ金属又はアルカリ土類金属でドープされた有機化合物である場合、電子輸送層3の膜厚は、0.1nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0027】
<光電変換層>
光電変換層4は、ドナー(電子供与体)とアクセプター(電子受容体)とを含有するバルクヘテロ接合型の光電変換層であっても良いし、所謂ペロブスカイトと呼ばれるペロブスカイト層を有した光電変換層であっても良い。
【0028】
バルクヘテロ接合型の光電変換層の場合は、ドナーは、ドナーとして機能する限り、特に限定されないが、電子供与性を有する導電性高分子(電子供与性有機材料)であることが好ましい。電子供与性有機材料、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の小さい方の有機化合物をいう。即ち、電子供与性のある有機化合物であれば、いずれの有機化合物もドナーとして使用可能である。ドナーとしては、有機溶剤にドナーを溶解させた溶液を用いて薄膜を形成する方法(例えばキャスト法およびスピンコート法等の塗布法)により成膜可能な化合物であることが好ましい。なお、光電変換層4は、ドナーとアクセプターのみを含有してもよいし、他の化合物を含んでいてもよい。
【0029】
ドナーとして使用し得る、電子供与性を有する導電性高分子の例としては、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリシラン、ポリチオフェン、ポリベンゾジチオフェン、ポリカルバゾール、ポリビニルカルバゾール、ポルフィリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、およびこれらの誘導体が挙げられる。ドナーは、これらの電子供与性を有する導電性高分子のうちの少なくとも2種を共重合させた共重合体であってもよい。また、電子供与性を有する導電性高分子の別の例としては、フタロシアニン含有ポリマー、カルバゾール含有ポリマー、および有機金属ポリマーが挙げられる。
【0030】
ドナーとして使用し得る、電子供与性を有する導電性高分子としては、チオフェン構造、ベンゾチオフェン構造、およびベンゾジチオフェン構造のうちの少なくとも1種を有するポリマー(ポリチオフェン系ポリマー)が好ましい。ポリチオフェン系ポリマーは、可視光を吸収可能であることが好ましい。また、ポリチオフェン系ポリマーは、ドナー-アクセプター(DA)型であることが好ましい。
【0031】
アクセプターは、アクセプターとして機能する限り、特に限定されないが、電子受容性を有する導電性高分子(電子受容性有機材料)であることが好ましい。電子受容性有機材料は、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。より詳細には、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。即ち、電子受容性のある有機化合物であれば、いずれの有機化合物もアクセプターとして使用可能である。
【0032】
電子受容性有機材料としては、例えば、フラーレンおよびその誘導体(PCBMなど)、カーボンナノチューブおよびその誘導体、ペリレンおよびその誘導体(PTCDA、PTCDIなど)、ナフタレン誘導体(NTCDA、NTCDIなど)、ピリジンおよびその誘導体を骨格にもつオリゴマーやポリマー、フッ素化無金属フタロシアニン、フッ素化金属フタロシアニン類およびその誘導体、トリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、ビス(4-メチル-8-キノリナート)アルミニウム錯体、ジスチリルアリーレン誘導体、シロール化合物などが挙げられ、特にフラーレン系誘導体(PCBMなど)が好ましく使用されるが、これに限定されない。
【0033】
光電変換層4において、ドナーの質量(MD)に対するアクセプターの質量(MA)の比率(MA/MD)は、0.1以上2.0以下であることが好ましく、1.0以上2.0以下であることがより好ましい。比率(MA/MD)がこのような範囲内であると、太陽電池100のアクセプターとドナーとのバランスが良好となり、太陽電池100のエネルギー変換効率が向上する。
【0034】
ペロブスカイト層を有した光電変換層は 、一般式(ABX3)で表される化合物を用いる。この化合物は,ペロブスカイト結晶やペロブスカイト錯体であってもよい。Aはメチルアミン、エチルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、メチル-n-ヘキシルアミン、メチルジエチルアミン、トリ-n-ヘキシルアミン、イミダゾール、ピロール、アジリジン、ホルムアミジン、グアニジン、ピリジン、4-t-ブチルピリジン、フェネチルアミン、5-アミノ吉草酸などの有機アミノ化合物やセシウム、カリウム、ルビジウムなどから形成される1価のカチオンを挙げることができ、単独で用いても2種類以上の混合物として用いても構わない。Bは鉛,スズなどの2価のカチオンを挙げることができ,単独で用いても混合で用いてもよい。また、インジウム、アンチモンなどの3価のカチオンを少量混合しても構わない。Xは塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子やアニオン源を挙げることができ、単独で用いても2種以上の混合で用いても構わない。
【0035】
光電変換層4の膜厚は、バルクヘテロ接合の光電変換層であっても、ペロブスカイト型の光電変換層であっても、所望のエネルギー変換効率が得られる限り、特に限定されない。光電変換層4の膜厚は、0.2nm以上3000nm以下であることが好ましく、10nm以上600nm以下であることがより好ましい。光電変換層4の膜厚が3000nm以下であると、光電変換層4のシート抵抗が所望の値となり易い。一方、光電変換層4の膜厚が0.2nm以上であると、第1電極2と第2電極6との間における短絡が引き起こされ難い。
【0036】
<正孔輸送層>
正孔輸送層5は、光電変換層4と第2電極6との間に積層されている。正孔輸送層5は、光電変換層4から第2電極6(正孔注入電極)への正孔の注入(移動)が容易に行われるように設けられる。正孔輸送層5が積層されることにより、光電変換層4から第2電極6への正孔注入効率が高められ、太陽電池100のエネルギー変換効率が向上する。正孔輸送層3は、以下の一般式(1)で表される1,2,4,5-テトラキス(6-ジフェニルアミノ)スチリルベンゼン誘導体を含有する。正孔輸送層3は、一般式(1)で表される1,2,4,5-テトラキス(6-ジフェニルアミノ)スチリルベンゼン誘導体のみを含有してもよいし、添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、界面処理剤等の従来公知の添加剤を用いることができる。
【0037】
【0038】
式(1)中、R1は炭素数4以下のアルコキシ基もしくはアルキル基を示し、R2は水素原子もしくはメチル基を示し、R1とR2の炭素数の合計は2以上である。
【0039】
一般式(1)で表される1,2,4,5-テトラキス(6-ジフェニルアミノ)スチリルベンゼン誘導体の具体例としては、下記の化学式で表される化合物HTM-1~HTM-7が挙げられる。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
正孔輸送層5を構成する正孔輸送材料として上記式(1)で表される化合物を用いることにより、電荷(正孔)の移動度を改善することができ、太陽電池100のエネルギー変換効率が向上する。電荷(正孔)の移動度については後述する。
【0048】
<第2電極>
第2電極6は、例えば、正孔注入電極である。第2電極6は、第1電極2と対向して設けられる。第2電極6は、導電性を有する限り、特に限定されない。第2電極6の材料は、例えば、正孔輸送層5の仕事関数を考慮して、適宜選択される。正孔輸送層5の材料が仕事関数の高い材料である場合、第2電極6の材料は仕事関数の低い材料であることが好ましい。
【0049】
第2電極6の材料として用いられる材料としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、カーボン(C)、酸化インジウムスズ(ITO、Indium tin oxide)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO、Fluorine-doped tin oxide)、および酸化亜鉛(ZnO)が挙げられる。
【0050】
また、第2電極6の材料は、例えば、太陽電池100の受光面が基板1側の面であるか第2電極6側の面であるかを考慮して、適宜選択される。受光面が基板1側の面である場合、第1電極2は透明電極であることが好ましいが、第2電極6は透明電極でなくてもよい。
【0051】
第2電極6の膜厚は、0.1nm以上500nm以下であることが好ましく、1nm以上300nm以下であることがより好ましい。第2電極6の膜厚が0.1nm以上であると、第2電極6のシート抵抗が大きくなり過ぎず、光電変換層4で発生した電荷を外部回路へ十分に伝達できる。
【0052】
第2電極6は、単層であってもよい。また、第2電極6は、異なる仕事関数を有する複数の層から構成されていてもよい。第2電極6が複数の層から成る場合、上述した第2電極6の膜厚は複数の層の総膜厚を意味する。
【0053】
第2電極6は、正孔輸送層5の全面にシート状に形成されていてもよく、正孔輸送層5上にパターン状に形成されていてもよい。
【0054】
<その他の構成部材>
太陽電池100は、必要に応じて、上述した基板1、第1電極2、電子輸送層3、光電変換層4、正孔輸送層5、および第2電極6に加えて、他の構成部材を更に備えていてもよい。他の構成部材としては、例えば、保護シート層、充填材層、バリア層、保護ハードコート層、強度支持層、防汚層、高光反射層、光封じ込め層、紫外線遮断層、赤外線遮断層、および封止材層が挙げられる。また、太陽電池100には、必要に応じて、各層間に接着層が積層されていてもよい。
【0055】
また、太陽電池100は
図1に示した構造に限らず、例えば第1電極2を正孔注入電極、第2電極6を電子注入電極としてもよい。その場合、正孔輸送層5と電子輸送層3の積層順序は
図1と逆になる。具体的には、
図2に示すように、第1電極2と光電変換素子4の間に正孔輸送層5が積層され、光電変換素子4と第2電極6の間に電子輸送層3が積層される。
【0056】
[2.正孔輸送材料の正孔移動度の測定]
次に、正孔輸送層3を構成する正孔輸送材料の電荷(正孔)の移動度について説明する。移動度とはキャリアの拡散する速さであり、正孔輸送材料の移動度が大きいほどキャリアの拡散可能な距離も向上し、例えば、ペロブスカイト型太陽電池において高い光電変換効率を付与するものと思われる。この移動度を測定する方法としては、タイムオブフライト(TOF)法、電界効果トランジスタを作製して評価する方法(FET法)、Photo-CELIV法や、AIP ADVANCES 8, 105001(2018)に記載されているようなMIS-CELIV法が挙げられる。
【0057】
上記の測定方法はそれぞれ一長一短があり、例えば、タイムオブフライト法は1μm程度の厚い膜を形成する必要があり、塗布法による製膜が困難な方法である。1μm以下の塗布膜で比較的正確に、かつ容易に測定できる面から、Photo-CELIV法やMIS-CELIV(injection-charge extraction by linearly increasing voltage in metal-insulator-semiconductor structures)法で評価することが好ましい。
【0058】
MIS-CELIV法は、外部からの注入電荷を絶縁層界面に蓄積させ、その蓄積電荷の取出しに由来した過渡電流波形から電子もしくは正孔移動度を求める手法であり、有機半導体薄膜の解析が可能な新たな測定手法として期待されている。以下、MIS-CELIV法を用いた正孔移動度の評価方法について説明する。
【0059】
図3は、MIS-CELIV法による正孔輸送層の正孔移動度の測定装置20を示す模式図である。測定基板21には、Si層21aの表面に熱酸化シリコン(SiO
2)層21bが積層された高濃度n-ドープのシリコンウェハーを用いた。この測定基板21の表面に、スピンコート法により正孔輸送層5を形成した。続いて、正孔輸送層5の表面に三酸化モリブデン(MoO
3)の正孔注入層22とAl電極23を順次蒸着した。そして、Si層21aとAl電極23に波形発生器25、オシロスコープ27、抵抗29を含む回路を接続した。
【0060】
各層の膜厚は、SiO2層21bが30nm、正孔輸送層5が約100nm、正孔注入層22(MoO3)が5nm、Al電極23が100nmである。膜厚は触針式膜厚段差計(Dektak XT、Bruker社製)で測定した。
【0061】
図4および
図5は、MIS-CELIV法による正孔移動度の測定結果を示す説明図であって、それぞれ逆電圧、過渡電流の時間推移を示すグラフある。測定基板21に負の順方向電圧V
FBを印加すると、Al電極23から正孔注入層22を介して正孔輸送層5に正孔h
+が注入され、
図3に示すようにSiO
2層(絶縁層)21bと正孔輸送層(半導体)5との界面に正孔h
+が蓄積される。
【0062】
この状態で、
図4に示すように電圧上昇速度A=dV/dtで直線的に増加する逆電圧を印加することで、蓄積された正孔h
+を取り出すことができる。MIS-CELIV法の過渡現象は、絶縁層と半導体の幾何学的な静電容量の合計による変位電流j
0と蓄積された正孔h
+が引き出されることによる飽和電流j
satによる電流ピークΔjからなる。即ち、蓄積された正孔h
+の抽出による飽和電流j
satによって、電流ピークΔjが決定される。正孔移動度μは次の式(2)で決定される。
【0063】
【0064】
式(2)において、εsは半導体の誘電率、εiは絶縁層の誘電率、dsは半導体の膜厚、diは絶縁層の膜厚、Aは逆電圧印加速度である。キャリア輸送時間ttrは、j0の値が2倍になるまでの特性時間t2j0と関係している。
【0065】
絶縁層の静電容量Ciが半導体の静電容量Csよりも十分に大きい(Ci/Cs≧1)場合、ttrは、有限の絶縁層による印加電圧降下を考慮して、Appl. Phys. Lett. 110,153504(2017)の方法により以下の式(3)で定義される。
【0066】
【0067】
図6は、SiO
2層21bに正孔輸送層3としてNPB(ナフチルフェニルビフェニルジアミン、膜厚290nm)を積層した素子に、逆電圧印加速度A=150kV/sの条件下で順方向電圧V
FBを0V~-10Vに変化させた場合に観測された透過電流波形を示すグラフである。
図6に示すように、V
FB=0[V]では、透過電流は変位電流j
0のみからなる矩形波で構成されており、これはSiO
2層21bと正孔輸送層5の合計の静電容量に由来する。この平坦な応答は、正孔輸送層3に蓄積された正孔h
+が存在しないことを示している。
【0068】
VFB=-2~-10[V]を印加すると、Al電極23から正孔注入層22を介して正孔輸送層3に正孔h+が注入され、SiO2層21bと正孔輸送層5との界面に蓄積されることで、正孔抽出による電流ピークΔjが生じる。VFBを大きくするとΔjは大きくなり、さらにjsat=172[A/m2] で飽和した。MIS-CELIVの過渡電流は、最終的には絶縁層(SiO2層21b)の変位電流によって制限される。
【0069】
即ち、SiO2層21bと正孔輸送層5の界面から十分な正孔h+が供給される状態になる前のVFBが低い領域では、VFBに対してΔjは直線的に増加し、やがてVFBを大きくしてもΔjは変化しない状態に飽和する。このことから、VFB=-10[V]のとき、SiO2層21bと正孔輸送層5との界面に十分な正孔h+が蓄積されていることがわかる。
【0070】
図7は、逆電圧印加速度A=100~350kV/s、順方向電圧V
FB=-10Vの条件下で観測された過渡電流から予測される正孔移動度の電界依存性を示すグラフである。
図7に示す正孔移動度の電荷依存性を以下の式(4)を用いて解析し、電界0における正孔移動度μ
0を算出することができる。
【0071】
【0072】
その他本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明の正孔輸送材料を太陽電池100の正孔輸送層5に用いた例について説明したが、太陽電池100に限らず、例えば光電変換素子の正孔輸送層として用いることもできる。
【0073】
光電変換素子の一例としては、例えば、ガラス基板上にホールブロッキング層と多孔質状の電子輸送層を積層し、さらに光増感材料を担持した半導体電極(第1電極)を作製する。この半導体電極(第1電極)上に、本発明の正孔輸送材料を有機溶剤に溶解した溶液をスピンコート法により塗布して正孔輸送層を成膜し、成膜された正孔輸送層上に真空蒸着法により銀を積層した第2電極を形成して作製することができる。以下、実施例により本発明の効果について更に具体的に説明する。
[参考例1]
【0074】
[1,2,4,5-テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンの合成例]
還流冷却装置を装着した500mLの三口フラスコに攪拌子を入れ、系内を窒素置換した後、1,2,4,5-テトラメチルベンゼン13.42g(0.1mol)を酢酸エチル200mLに溶解した。N-ブロモスクシンイミド80.1g(0.45mol)およびアゾビスイソブチロニトリル0.82g(0.005mol)を加え、70℃で3時間攪拌した。反応後に沈殿をろ過により濾別し、ろ液を回収してエバポレーターで減圧濃縮した。得られた粗製物をメタノール(200mL)で洗浄後、トルエン(80mL)で再結晶を行うことで、15.3g(0.034mol)の1,2,4,5-テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンを得た(白色固体、収率34%)。
[参考例2]
【0075】
[1,2,4,5-テトラキス(ジエチルホスホノメチル)ベンゼンの合成例]
還流冷却装置を装着した300mLの三口フラスコに攪拌子を入れ、系内を窒素置換した後、1,2,4,5-テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン13.5g(0.03mol)と 亜リン酸トリエチル29.9g(0.18mol)を入れ、130℃で3時間攪拌した。反応液をエバポレーターで減圧濃縮し、95℃で亜リン酸トリエチルを除去することで、無色のオイルが粗製物として得られた。室温まで冷却後、イソヘキサン50mLを加え、攪拌することで白色の固体が生成した。生成した固体をろ過により濾別し、イソヘキサンで洗浄することで、19.0g(0.028mol)の1,2,4,5-テトラキス(ジエチルホスホノメチル)ベンゼンを得た(白色固体、収率93%)。
[参考例3]
【0076】
[4-((4-n-ブチルフェ二ル)(4-メトキシフェニル)アミノ)ベンズアルデヒドの合成例]
500mLの三口フラスコに攪拌子を入れ、系内を窒素置換した後、4-n-ブチル-N-(4-メトキシフェニル)-N-フェニルアニリン6.63g(0,020mol)をジメチルホルムアミド150mLに溶解し、-10℃に冷却した。その後、塩化ホスホリル6.13g(0.04mol)を加え、80℃で24時間攪拌した。反応液を水400mLに投入し、20%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH7~10に調整した。その後、有機層をクロロホルム50mLで2回抽出し、有機層に無水硫酸ナトリウム10gを入れ、室温で30分間攪拌した。その後、固形物をろ過により濾別し、ろ液を回収してエバポレーターで減圧濃縮した。得られた粗製物をクロロホルム:酢酸エチル=1:1を展開溶媒に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、再度95℃にてエバポレーターで減圧濃縮することで、4-((4-n-ブチルフェニル)(4-メトキシフェニル)アミノ)ベンズアルデヒド6.11g(0.017mol)を得た(淡黄色オイル、収率85%)。
【実施例0077】
[1,2,4,5-テトラキス(6-ジフェニルアミノ)スチリルベンゼン誘導体(HMT-1)の合成例]
還流冷却装置を装着した500mLの三口フラスコに攪拌子を入れ、系内を窒素置換した後、化学式(A)で表される1,2,4,5-テトラキス(ジエチルホスホノメチル)ベンゼン1.9g(0.0028mol)および化学式(B)で表される4-((4-n-ブチルフェ二ル)(4-メトキシフェニル)アミノ)ベンズアルデヒド5.03g(0.014mol)をジメチルホルムアミド200mLに溶解し、-10℃に冷却した。その後、28%ナトリウムメチラートメタノール溶液10.8g(0.056mol)を加え、室温で12時間攪拌した。
【0078】
反応後、反応液を水1Lの入った三角フラスコに入れ、30分攪拌した。生じた沈殿をろ過により固形物を濾別し、水およびメタノールで洗浄した。得られた粗製物をトルエン:酢酸エチル=49:1の混合溶媒を展開溶媒に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、エバポレーターで減圧濃縮した。濃縮液をメタノールに滴下し、ろ過により固形物を濾別して乾燥することで、1,2,4,5-テトラキス(6-ジフェニルアミノ)スチリルベンゼン誘導体(HMT-1)1.65g(0.0011mol)を得た(橙色固体、収率39%)。合成スキームを以下に示す。
【0079】
洗浄した基板に大気下で正孔輸送材料の3%クロロホルム溶液を300μL滴下し、スピンコーターを用いて5000rpm、60秒でスピンコート法により正孔輸送層(膜厚約200nm)を積層した。
また、クロロベンゼンに対する溶解性を比較した。溶解性の評価基準は、クロロベンゼンに対して室温で9.09質量%の濃度で溶解した場合を〇、溶解しなかった場合を×とした。結果をイオン化ポテンシャル(I.P.)と共に表1に示す。
以上の結果より、正孔輸送材料として化合物HTM-1~HTM-4、HTM-7を用いることで、太陽電池のエネルギー変換効率を効果的に向上できることが確認された。
なお、HTM-5、HTM-6は、室温でクロロベンゼンに不溶であるため本実施例の方法では正孔移動度の測定が不可であった。但し、加熱してクロロベンゼンに溶解させて塗布したり、溶媒を用いずに真空蒸着によって積層したりすることによって正孔輸送層を形成することは可能である。