(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147166
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ローラ矯正方法及び金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 1/05 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B21D1/05 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060005
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】根上 潤
(72)【発明者】
【氏名】石橋 寿啓
【テーマコード(参考)】
4E003
【Fターム(参考)】
4E003AA01
4E003BA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、異なるロールピッチを有するローラレベラに対しても、矯正に必要な最大加工度を精度良く推定し、操業条件に応じて、被矯正板を適切なローラレベラで矯正して生産性を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係るローラ矯正方法は、上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配されたワークロールと下方に配されたワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって被矯正板を平坦化するローラ矯正方法において、ローラレベラが複数存在する場合に、被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、ローラレベラのロールピッチ、並びに、被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、複数のローラレベラのうち、最大加工度で加工することができるローラレベラを用いて被矯正板の矯正を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配された前記ワークロールと下方に配された前記ワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって前記被矯正板を平坦化するローラ矯正方法において、ローラレベラが複数存在する場合に、
前記被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、前記ローラレベラのロールピッチ、並びに、前記被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、
複数の前記ローラレベラのうち、前記最大加工度で加工することができる前記ローラレベラを用いて前記被矯正板の矯正を行う、ローラ矯正方法。
【請求項2】
前記パラメータが下記(1)式で表されるパラメータβであり、(1)式中のkは、下記(2)式のk(w)で表される、請求項1に記載のローラ矯正方法。
【数1】
【数2】
前記(1)式中、
l:前記ロールピッチの1/2
t:前記被矯正板の板厚
であり、
前記(2)式中、
w:板幅(mm)
である。
【請求項3】
前記最大加工度で加工することができる前記ローラレベラのうち、仕掛係数が最も小さい前記ローラレベラを用いる、請求項1又は2に記載のローラ矯正方法。
【請求項4】
前記最大加工度で加工することができる複数の前記ローラレベラを用いる、請求項1又は2に記載のローラ矯正方法。
【請求項5】
仕掛係数の小さいものから順に選択された複数の前記ローラレベラを用いる、請求項4に記載のローラ矯正方法。
【請求項6】
前記被矯正板の板厚が15mm以下である、請求項1又は2に記載のローラ矯正方法。
【請求項7】
前記被矯正板の板幅が1250mm以上、5500mm以下である、請求項1又は2に記載のローラ矯正方法。
【請求項8】
前記ロールピッチが200mm以上、390mm以下である、請求項1又は2に記載のローラ矯正方法。
【請求項9】
上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配された前記ワークロールと下方に配された前記ワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって前記被矯正板を平坦化するローラ矯正工程を有する金属板の製造方法であって、ローラレベラが複数存在する場合に、
前記ローラ矯正工程では、
前記金属板となる前記被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、前記ローラレベラのロールピッチ、並びに、前記被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、
複数の前記ローラレベラのうち、前記最大加工度で加工することができる前記ローラレベラを用いて前記被矯正板の矯正を行う、金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラ矯正方法及び金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板などの各種金属板の製造プロセスにおいては、耳波や中波などに例示される、伸びひずみの板幅方向分布に起因した平坦度不良が発生することがある。平坦度が著しく悪い場合には、製品ごとに定められた品質基準を満足しないことがある。そこで、従来から、熱間圧延や冷却工程を経た金属板に対して矯正を行って、平坦度不良を改善することが行われている。このような矯正技術として、例えば、ローラレベラを用いた矯正(ローラ矯正)が知られている。
【0003】
ローラレベラは、複数本のワークロールを上下に千鳥状に配置したものであって、被矯正板の板厚よりも狭い上下のロール間隙に被矯正板を通板させることによって、被矯正板に繰り返し曲げを与え、被矯正板を平坦化するものである。
【0004】
ローラ矯正方法として、例えば、特許文献1には、ローラ矯正中のロールベンディング量を、矯正反力に伴うロールたわみを補償するためのロールベンディング量と、被矯正板に伸びひずみ差の板幅方向分布を付与するためのロールベンディング量と、の合算として設定することを特徴とする、被矯正板のローラ矯正方法が開示されている。特許文献1によれば、伸びひずみ差の板幅方向分布に起因する平坦度不良はローラ矯正中に与えた最大加工度に応じて矯正効果が異なり、しかも多パス矯正を実施してもその矯正効果は多パス矯正中の最大加工度で決定されるとされている。
【0005】
また、特許文献2には、入側最大加工度、出側加工度、板厚、板幅、及び降伏応力から出側の最適設定圧下値を算出し通板する、ローラレベラによる帯板のレベリング方法が開示されている。特許文献2によれば、入側最大加工度が3以上であれば略平坦な帯板が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-167325号公報
【特許文献2】特開昭53-87962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、ローラレベラでは、ロールの押込み量は入側から出側に向けて漸減するように設定される。しかしながら、最入側のロール近傍では、被矯正板に対する拘束力が小さいので、被矯正板に付与される曲率の大きさは入側から数本目のワークロールで最大となり、出側に向けて漸減するようにロールの押込み量が設定される。
【0008】
厚鋼板の製造工程では、ロール径やロールピッチなどの設備仕様の異なる複数のローラレベラを保有していることが一般的である。各ローラレベラの矯正対象は主に被矯正板の板厚に応じて予め決められている。そのため、特定の板厚を有する厚鋼板を集中的に製造する場合には、該当するローラレベラにおける処理がひっ迫し、生産のボトルネックになってしまう。そこで、余力のある別のローラレベラへ、被矯正板の振り分けを行うことで、保有する製造設備全体を活用して生産性を向上させることができると考えられる。
【0009】
そこで互いに同一の板厚及び板幅を有する複数の被矯正板を、ロールピッチが異なる別のローラレベラに振り分けて矯正を行ったところ、振り分け後のローラレベラでは、振り分け前のローラレベラと同じ最大加工度を加えているにも関わらず、矯正効果が異なることが明らかとなった。また、場合によっては、振り分け先のローラレベラにおいて矯正前の伸びひずみ差を所望の値以下にすることができなかったため、振り分け前のローラレベラにて再度矯正を行う必要が生じ、生産性を大幅に阻害してしまった。すなわち、平坦度不良の矯正効果に及ぼす因子は最大加工度だけでないことがわかった。したがって、最大加工度のみを指標とする特許文献1、2に記載の技術には改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、異なるロールピッチを有するローラレベラに対しても、矯正に必要な最大加工度を精度良く推定し、操業条件に応じて、被矯正板を適切なローラレベラで矯正して生産性を向上させることが可能な、ロール矯正方法及び金属板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来、ローラレベラの平坦矯正効果は、最大加工度Kmaxのみを用いて評価されていた。最大加工度Kmaxは、被矯正板に付与される曲率の最大値を当該被矯正板の降伏曲率で除した値である。しかしながら、上述したとおり、同じ最大加工度を加えた場合でも、ローラレベラのロールピッチによって、矯正効果が違うことを本発明者らは見出した。これは、面外変形の拘束によって矯正中に生じる長手方向応力の板幅方向差(以下では、長手方向応力の板幅方向差を単に応力差と呼称することがある。)が異なるためであると考えられる。
【0012】
本発明者らが矯正効果にばらつきが生じる原因を調査したところ、ロールピッチによって応力差が異なり、矯正に用いるローラレベラのロールピッチと矯正効果の大小との間には相関があることを見出した。
【0013】
上記知見に基づきなされた本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係るロール矯正方法は、上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配された上記ワークロールと下方に配された上記ワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって上記被矯正板を平坦化するローラ矯正方法において、ローラレベラが複数存在する場合に、前記被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、上記ローラレベラのロールピッチ、並びに、上記被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、複数の上記ローラレベラのうち、上記最大加工度で加工することができる上記ローラレベラを用いて上記被矯正板の矯正を行う。
[2] 上記[1]に記載のロール矯正方法では、上記パラメータが下記(1)式で表されるパラメータβであり、(1)式中のkは、下記(2)式のk(w)で表されてもよい。
【数1】
【数2】
上記(1)式中、
l:上記ロールピッチの1/2
t:上記被矯正板の板厚
であり、
上記(2)式中、
w:板幅(mm)
である。
[3] 上記[1]又は[2]に記載のローラ矯正方法では、上記最大加工度で加工することができる上記ローラレベラのうち、仕掛係数が最も小さい上記ローラレベラを用いてもよい。
[4] 上記[1]又は[2]に記載のローラ矯正方法では、上記最大加工度で加工することができる複数の上記ローラレベラを用いてもよい。
[5] 上記[4]に記載のローラ矯正方法では、仕掛係数の小さいものから順に選択された複数の上記ローラレベラを用いてもよい。
[6] 上記[1]~[5]のいずれかに記載のローラ矯正方法では、上記被矯正板の板厚が15mm以下であってもよい。
[7] 上記[1]~[6]のいずれかに記載のローラ矯正方法では、上記被矯正板の板幅が1250mm以上、5500mm以下であってもよい。
[8] 上記[1]~[7]のいずれかに記載のローラ矯正方法では、上記ロールピッチが200mm以上、390mm以下であってもよい。
【0014】
[9] 本発明の別の態様に係る金属板の製造方法は、上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配された上記ワークロールと下方に配された上記ワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって上記被矯正板を平坦化するローラ矯正工程を有する金属板の製造方法であって、ローラレベラが複数存在する場合に、上記ローラ矯正工程では、上記金属板となる上記被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、上記ローラレベラのロールピッチ、並びに、上記被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、複数の前記ローラレベラのうち、前記最大加工度で加工することができる前記ローラレベラを用いて前記被矯正板の矯正を行う。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、異なるロールピッチを有するローラレベラに対しても、矯正に必要な最大加工度を精度良く推定し、操業条件に応じて、被矯正板を適切なローラレベラで矯正して生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】正規化応力差とロールピッチ2lの関係の一例を示すグラフである。
【
図5】正規化応力差と被矯正板の板幅wの関係の一例を示すグラフである。
【
図6】板幅係数kと被矯正板の板幅wの関係の一例を示すグラフである。
【
図7】異なる板幅wの被矯正板のパラメータβと2l/tの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、図中の各構成要素の寸法、比率は、実際の各構成要素の寸法、比率を表すものではない。
【0018】
本発明の一実施形態に係るロール矯正方法を説明する。本実施形態に係るロール矯正方法は、上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配された前記ワークロールと下方に配されたワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって被矯正板を平坦化するローラ矯正方法において、ローラレベラが複数存在する場合に、被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、ローラレベラのロールピッチ、並びに、被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、複数のローラレベラのうち、最大加工度で加工することができるローラレベラを用いて被矯正板の矯正を行う。
【0019】
本実施形態に係るロール矯正方法に適用可能なローラレベラを説明する。
図1にローラレベラの模式図を示す。ローラレベラ1は、
図1に示すように、上下に千鳥状に配置された複数のワークロール11と、2本の押えロール12と、を備える。
【0020】
複数のワークロール11は、上方に配された複数のワークロール11と、下方に配された複数のワークロール11との間を通過する被矯正板Sに繰り返し曲げを与える。複数のワークロール11は、上方に配された複数のワークロール11と、下方に配された複数のワークロール11との間の距離を調整することができる。例えば、下方に配された複数のワークロール11に対して、上方に配された複数のワークロール11を傾動させ、相対移動して当該距離を調整することができる。下方に配された複数のワークロール11に対して、上方に配された複数のワークロール11を傾動させることで、入側押込み量と出側押込み量を調整することができる。押込み量とは、
図2に示すように、ワークロール11Aの頂点P
Aと、当該ワークロール11Aの前後に配されたワークロール11B、11Cの頂点P
B、P
Cを結ぶ直線との距離t
1を、被矯正板Sの板厚tから差し引いたものを言う。また、頂点とは、ワークロール11において、その軸芯から鉛直方向に沿って上方のワークロール11と下方のワークロール11とが対向する側の最も遠くに位置する点をいう。
【0021】
2本の押えロール12は、被矯正板Sを押えて被矯正板Sを安定して通板する。2本の押えロール12の間に複数のワークロール11が配される。通常、金属板の製造現場は、複数のローラレベラを備えており、各ローラレベラは、被矯正板の強度や板厚等に応じたロールピッチ2l、及びワークロール-押えロール間距離を有している。また、被矯正板の強度や板厚等に応じた直径のワークロールが用いられる。なお、ロールピッチ2lは、
図1に示すように、上方及び下方のそれぞれにおいて隣り合うワークロール11の軸芯間距離を言う。また、ワークロール11-押えロール12間距離Lは、押えロール12の軸芯と当該押えロール12に隣り合って配されたワークロール11の軸芯との間の距離を言う。
【0022】
被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、ローラレベラ1のロールピッチ2l、並びに、被矯正板Sの板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求める。
【0023】
以下に、パラメータβを例に挙げて、上記パラメータを詳細に説明する。
従来、ローラレベラの平坦矯正効果は、最大加工度Kmaxのみを用い、下記(101)式に示されるように最大加工度Kmaxの関数によって評価されていた。
【0024】
【0025】
上記(101)式中、Δε0は、矯正前の被矯正板に生じている伸びひずみの最大値と最小値の差であり、Δε1は、矯正後の被矯正板に生じている伸びひずみの最大値と最小値の差である。なお、以下では、被矯正板に生じている伸びひずみの最大値と最小値の差を単に伸びひずみ差と呼称することがある。
【0026】
上記(101)式に基づいて、適宜関数を設定し、目標の伸びひずみ差が生じるように最大加工度K
maxを決定し、当該最大加工度K
maxが作用するように矯正すれば、所望の矯正効果が得られるはずである。そこで、本発明者らは、表1に示す各ローラレベラを使用してそれぞれ同一の最大加工度K
maxが作用するように被矯正板を矯正した。表1のロールピッチ「長」の条件でのローラ矯正は、
図1に示すローラレベラ1により行い、表1のロールピッチ「中」及び「短」の条件でのローラ矯正は、
図3に示すローラレベラ1Aにより行った。ローラレベラ1は、
図1に示すように、上方に4本のワークロール11を有し、下方に5本のワークロール11を有している。ローラレベラ1Aは、
図3に示すように、上方に5本のワークロール11を有し、下方に6本のワークロール11を有している。
【0027】
【0028】
その結果、同じ最大加工度Kmaxを加えた場合でも、矯正効果が異なることが分かった。ワークロールと被矯正板との接触は、線接触に近い態様であることから、ワークロール直径が矯正効果に与える影響は、ロールピッチが矯正効果に与える影響と比べて非常に小さいと考えられる。したがって、同じ最大加工度Kmaxであっても、ローラレベラのロールピッチによって矯正効果が違うことが分かった。これは、被矯正板の面外変形の拘束によって矯正中に生じる、板長手方向応力の板幅方向の差(以下、応力差)が異なるためであると考えられる。
【0029】
そこで、表1に示した条件ごとに、有限要素法を用いて矯正中に生じる応力差を調査した。このとき、実際に生じた応力差を、矯正前の面外変形が完全に拘束されたと仮定したときの応力差で無次元化した正規化応力差を算出した。その結果、ロールピッチ「長」の条件の正規化応力差は0.5~0.7であり、ロールピッチ「中」の条件及び「短」の条件の正規化応力差は略1であった。ロールピッチが「中」及び「短」の条件では、応力差が大きいため高い矯正効果が得られ、ロールピッチが「長」の条件では、応力差が小さいため高い矯正効果が得られなかったと考えられる。
【0030】
図4に正規化応力差とロールピッチの関係の一例のグラフを示す。
図4において、ロールピッチ2lを被矯正板の板厚tで無次元化した値2l/tを横軸とし、正規化応力差を縦軸とした。
図4に示すように、2l/tが40以下は、正規化応力差は略1であり、2l/tが40超の範囲では、正規化応力差は漸減することが分かった。
【0031】
更に、本発明者らは、表1に示すロールピッチ「長」の条件において、板幅wが1250mm、2500mm、及び3750mmの被矯正板の矯正解析を行い、正規化応力差と板幅の関係を調査した。
図5に正規化応力差と被矯正板の板幅の関係の一例のグラフを示す。
図5において、被矯正板の板幅wをロールピッチ2lで無次元化した値w/2lを横軸とし、正規化応力差を縦軸とした。
図5に示すように、ロールピッチ2lが一定にも関わらず、板幅wが大きくなるほど正規化応力差は小さくなることが分かった。すなわち、板幅wが大きいほど、正規化応力差が小さくなるため、矯正効果が低下することが分かった。
【0032】
以上から、正規化応力差を示すパラメータであるパラメータβを定義し、上記(101)式を当該パラメータβで修正する、言い換えると、下記(103)式で表される最大加工度Kmax及びパラメータβの関数を用いることでローラレベラの矯正効果をより正確に評価することができる。
【0033】
【0034】
パラメータβは、正規化応力差を示すパラメータであり、下記(105)式で表される。
【0035】
【0036】
(105)式中、l:ロールピッチ2lの1/2、t:被矯正板の板厚であり、(105)式中のkは板幅係数であり、被矯正板の板幅wの関数として表すことができ、例えば、下記(107)式で表される。
【0037】
【0038】
(107)式中、w:板幅(mm)である。
【0039】
図6に板幅係数kと被矯正板の板幅wの関係の一例のグラフを示す。上記(107)式は、本発明者らの検討により得られた関係式である。
【0040】
図7に、板幅1250mm、2500、3725mmの被矯正板のパラメータβと2l/tの関係を示す。
図7に示すように、2l/tが等しい場合であっても、板幅wが大きいほどパラメータβは小さくなっていることが分かる。したがって、パラメータβと板幅wの関数である板幅係数kを含む(103)式により、ローラレベラの矯正効果をより正確に評価することができる。
【0041】
(103)式を基に、複数のローラレベラのうち、伸びひずみ差Δε1を達成できる最大加工度で加工することができるローラレベラを用いて被矯正板の矯正を行う。これにより、耳波や中波などの平坦度不良の矯正効果を、ローラレベラのロールピッチを考慮して予測することができ、矯正に必要な最大加工度を精度良く推定することができる。すなわち、被矯正板の伸びひずみ差を所望の値以下と小さくすることができるローラレベラ及び当該ローラレベラにおける矯正条件を精度よく同定できる。その結果、操業条件に応じて、被矯正板を適切なローラレベラで矯正して生産性を向上させることができる。
【0042】
上述したパラメータβはあくまでも一例であり、ローラレベラのロールピッチ、並びに、被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータは、パラメータβに限られない。例えば、予め、有限要素法で、ロールピッチ、被矯正板の板厚及び板幅と被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度との関係を求めておけばよい。その関係は、例えばテーブル化しても良く、数式化しても良い。
【0043】
ロールピッチは、被矯正板の金属種、強度、板厚、板幅等に応じて定められればよいが、一例として、200mm以上、390mm以下とすることができる。
【0044】
被矯正板は、従来のローラレベラを適用可能な金属種であれば特段制限されず、例えば、鋼、ステンレス鋼、アルミ、銅等である。
【0045】
被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータが求められればよいので、被矯正板の板幅は、特段制限されないが、例えば、1250mm以上、5500mm以下とすることができる。
【0046】
被矯正板の板厚も特段制限されないが、15mm以下であると中波や耳波が生じやすいため、板厚が15mm以下の被矯正板を対象とすることで、より顕著に本実施形態の効果を得ることができる。したがって、被矯正板の板厚は15mm以下であることが好ましい。
【0047】
本実施形態によれば、耳波や中波などの平坦度不良の矯正効果を、ローラレベラのロールピッチを考慮して予測することができ、矯正に必要な最大加工度を精度良く推定することができる。したがって、複数のローラレベラを有する場合、最大加工度Kmaxを達成可能なローラレベラのうち、仕掛係数が最も小さいローラレベラを用いることで、当該ローラレベラによって大量の被矯正板を矯正することができるため、生産性を更に向上させることができる。よって、最大加工度Kmaxで加工することができるローラレベラのうち、仕掛係数が最も小さいローラレベラを用いることが好ましい。なお、仕掛係数とは(仕掛枚数)/(単位時間あたりの処理能力)であり、仕掛係数が1.0未満であれば、処理能力に余力があることを意味する。
【0048】
また、最大加工度Kmaxを達成可能な複数のローラレベラを用いることで、単位時間当たりの処理量が増加するため、生産性を更に向上させることができる。したがって、最大加工度Kmaxで加工することができる複数のローラレベラを用いることが好ましい。
【0049】
また、仕掛係数の小さいものから順に選択した複数のローラレベラを用いることで、大きな余力を有するローラレベラが使用されるため、更に生産性を向上させることができる。したがって、仕掛係数の小さいものから順に選択した複数のローラレベラを用いることが好ましい。
【0050】
上述したローラ矯正方法を用いることで、被矯正板を適切なローラレベラで矯正することができる、したがって、本発明の別の実施形態は、上下に千鳥状に配置された複数のワークロールを有するローラレベラを用い、上方に配されたワークロールと下方に配されたワークロールとの間に被矯正板を通して、繰り返し曲げを与えることによって被矯正板を平坦化するローラ矯正工程を有する金属板の製造方法であって、ローラレベラが複数存在する場合に、ローラ矯正工程では、金属板となる被矯正板の矯正後の伸びひずみ差を所望の値以下にするために必要な最大加工度を、ローラレベラのロールピッチ、並びに、被矯正板の板厚及び板幅の影響を考慮したパラメータを用いて求め、複数のローラレベラのうち、最大加工度で加工することができるローラレベラを用いて前記被矯正板の矯正を行う、金属板の製造方法であると言える。
【0051】
ここまで、本実施形態を説明した。ただし、本発明の技術的範囲は上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0052】
例えば、
図1、3のローラレベラはあくまでも一例であり、ワークロールの数量や直径は適宜異なっていてもよい。また押えロールは、入出側いずれか1本のみが配されていてもよいし、配されていなくてもよい。
【実施例0053】
続いて、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
被矯正板として板厚4.5mm、板幅1250mm、降伏強度900MPa、ヤング率200GPaの鋼板を用いた。被矯正板は耳波の平坦度不良を有し、矯正前の伸びひずみ差Δε0=3.47×10-5、製品の品質基準から求まる目標伸びひずみ差Δεcr=1.54×10-5であった。表2に示すローラレベラA~Cでの上記被矯正板の矯正可否を最大加工度及びパラメータβを基に判定した。なお、板幅係数kは1.42であった。各ローラレベラで加えられる最大加工度Kmaxは、設備制約などを踏まえて数値解析にて求めた。
【0055】
【0056】
表2に示すように、ローラレベラA、Cでは、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmax以下であったため、これらであれば被矯正板を矯正可能であることが分かった。一方、ローラレベラBでは、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmaxより大きかったため、被矯正板を矯正不可能であることが分かった。そこで、ローラレベラCを用いて複数の被矯正板を矯正したところ、全ての被矯正板の伸びひずみ差を目標伸びひずみ差Δεcrよりも小さくすることができた。
【0057】
(実施例2)
被矯正板として板厚9mm、板幅2500mm、降伏強度780MPa、ヤング率200GPaの鋼板を用いた。被矯正板は耳波の平坦度不良を有し、矯正前の伸びひずみ差Δε0=6.17×10-5、製品の品質基準から求まる目標伸びひずみ差Δεcr=1.54×10-5であった。当該被矯正板は従来ではローラレベラDで矯正を行う板厚である。表3に示すローラレベラD~Gでの上記被矯正板の矯正可否を最大加工度及びパラメータβを基に判定した。なお、板幅係数kは0.99であった。各ローラレベラで加えられる最大加工度Kmaxは、設備制約などを踏まえて数値解析にて求めた。また、各ローラレベラの仕掛は仕掛係数(仕掛枚数/単位時間あたりの処理能力)を用いて定量化した。仕掛係数が1.0未満の場合、そのローラレベラは余力がある状態であることを示し、仕掛係数が1.0以上の場合、そのローラレベラは余力がない状態であることを示している。
【0058】
【0059】
表3に示すように、ローラレベラD、Fでは、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmax以下であったため、これらであれば被矯正板を矯正可能であることが分かった。一方、ローラレベラE、Gでは、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmaxより大きかったため、被矯正板を矯正不可能であることが分かった。
【0060】
比較例1として、従来通りローラレベラDを用いて矯正を行った。また、比較例2として、より大きな最大加工度Kmaxを加えられるという理由から、判定を行った時点での仕掛係数に基づき、ローラレベラDからローラレベラGへの振り分けを行った。また、本発明例1として、判定を行った時点での仕掛係数に基づき、ローラレベラDから仕掛係数が小さいローラレベラFに振り分けて矯正を行った。比較例1、2、及び本発明例1の条件でローラ矯正を開始してから、それぞれ同数の被矯正板の矯正が完了するまでに要した日数を表4に示す。
【0061】
【0062】
比較例1では全ての被矯正板の矯正に7日を要した。比較例2では、最大加工度のみに基づきローラレベラGへの振り分けを行ったが、ローラレベラGでは目標伸びひずみ差よりも小さくなるまで矯正できなかったことから、再びローラレベラDを用いて矯正を行った。その結果、全ての被矯正板の矯正に14日を要した。一方、本発明例1では、矯正可否及び仕掛係数を踏まえてローラレベラFに振り分けたことで、4日で矯正を完了することができた。
【0063】
(実施例3)
被矯正板として板厚12mm、板幅3500mm、降伏強度450MPa、ヤング率200GPaの鋼板を用いた。被矯正板は耳波の平坦度不良を有し、矯正前の伸びひずみ差Δε0=3.02×10-5、製品の品質基準から求まる目標伸びひずみ差Δεcr=1.54×10-5であった。当該被矯正板は従来ではローラレベラHで矯正を行う板厚である。表5に示すローラレベラH~Jでの上記被矯正板の矯正可否を最大加工度及びパラメータβを基に判定した。なお、板幅係数kは0.83であった。各ローラレベラで加えられる最大加工度Kmaxは、設備制約などを踏まえて数値解析にて求めた。また、各ローラレベラの仕掛は仕掛係数を用いて定量化した。
【0064】
【0065】
表5に示すように、ローラレベラH~Jのいずれも、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmax以下であったため、これらであれば被矯正板を矯正可能であることが分かった。また、仕掛について判定したときのローラレベラHの仕掛係数は1.5であり、ローラレベラIの仕掛係数は0.6であり、ローラレベラJの仕掛係数は、0.3であり、ローラレベラI、Jは余力がある状態であった。
【0066】
上記結果に基づき、本発明例2として、従来通りローラレベラHで矯正を行った。また、本発明例3として、判定を行った時点での仕掛係数に基づき、ローラレベラHから仕掛係数が小さいローラレベラJに振り分けて矯正を行った。また、本発明例4として、判定を行った時点での仕掛係数に基づき、ローラレベラI、Jを用いて矯正を行った。本発明例2~4の条件でローラ矯正を開始してから、それぞれ同数の被矯正板の矯正が完了するまでに要した日数を表6に示す。
【0067】
【0068】
振り分けを行わない本発明例2では全ての被矯正板の矯正に8日を要した。本発明例3では最も仕掛係数が小さい、最も余力のあるローラレベラIへの振り分けを行った結果、4日で矯正を完了した。本発明例4では、矯正可否及び仕掛係数を踏まえてローラレベラIとJに振り分けて矯正をおこなったことで、2日で矯正を完了することができた。
【0069】
(実施例4)
被矯正板として板厚15mm、板幅5200mm、降伏強度300MPa、ヤング率200GPaの鋼板を用いた。被矯正板は耳波の平坦度不良を有し、矯正前の伸びひずみ差Δε0=2.22×10-5、製品の品質基準から求まる目標伸びひずみ差Δεcr=1.54×10-5であった。当該被矯正板は従来ではローラレベラKで矯正を行う板厚である。表7に示すローラレベラK~Mでの上記被矯正板の矯正可否を最大加工度及びパラメータβを基に判定した。なお、板幅係数kは0.67であった。各ローラレベラで加えられる最大加工度Kmaxは、設備制約などを踏まえて数値解析にて求めた。
【0070】
【0071】
表7に示すように、ローラレベラMでは、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmax以下であったため、これらであれば被矯正板を矯正可能であることが分かった。一方、ローラレベラK、Lでは、矯正に必要な最大加工度Kmaxが設備上限の最大加工度Kmaxより大きかったため、被矯正板を矯正不可能であることが分かった。
【0072】
今回の被矯正板は板幅が大きかったため、板幅係数kが著しく小さかった。板幅係数kが小さいためにパラメータβも小さくなることから、目標伸びひずみ差Δεcrを満足するためには、最大加工度を高めて矯正効果を補う必要がある。従来であれば板厚に応じてローラレベラKが使用されるが、表7に示すようにローラレベラKは、設備制約から必要な最大加工度を加えることができないため、ローラレベラKによる矯正は不可能であるとの判定となった。
以上の判定に基づき、ローラレベラMを用いて複数の被矯正板を矯正したところ、全ての被矯正板の伸びひずみ差を目標伸びひずみ差Δεcrよりも小さくすることができた。