(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147188
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】消費電力が低くかつ自己ロック性に優れるグリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20241008BHJP
C10M 117/04 20060101ALN20241008BHJP
C10M 129/26 20060101ALN20241008BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241008BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20241008BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241008BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20241008BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20241008BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M117/04
C10M129/26
C10N10:04
C10N10:02
C10N30:06
C10N50:10
C10N40:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060046
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】黒田 望英
(72)【発明者】
【氏名】筒井 大介
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB19B
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104FA01
4H104FA02
4H104LA03
4H104PA02
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】高い自己ロック性と、優れた起動性とを両立したグリース組成物を提供すること。
【解決手段】樹脂製部材と金属製部材との潤滑に使用されるグリース組成物であって、
基油、
増ちょう剤として、カルシウムスルホネートコンプレックス、
添加剤として、組成物の全質量を基準として5~20質量%の粉状の金属石けん、
を含有するグリース組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製部材と金属製部材との潤滑に使用されるグリース組成物であって、
基油、
増ちょう剤として、カルシウムスルホネートコンプレックス、
添加剤として、組成物の全質量を基準として5~20質量%の粉状の金属石けん、
を含有するグリース組成物。
【請求項2】
金属石けんが、リチウム石けん、カルシウム石けん、マグネシウム石けん、亜鉛石けん、又はこれらの混合物である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のグリース組成物を封入した減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消費電力が低くかつ自己ロック性(すなわち、減速機にて発生してしまうすべりによるギヤの逆転を抑制する性質)に優れるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品等には、軽量化を目的として、金属製部材に代えて樹脂製部材が使用されることが多い。例えば、自動車のパワーウィンドモーターの減速機部には、樹脂(ポリアセタール)製ウォームホイールギヤと、鋼製ウォームギヤが使用されている。
これら減速機の潤滑部に使用されるグリースは、逆転防止のため高い自己ロック性が要求される。高い自己ロック性を有するには、静摩擦係数を高くする必要がある。
静摩擦係数を低減させる従来技術として、特許文献1に、増ちょう剤としてウレア化合物、金属石けん(ステアリン酸リチウム、12-ヒドロキシステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、12-ヒドロキシステアリン酸バリウム、ステアリン酸ナトリウム、12-ヒドロキシステアリン酸ナトリウム等)から選ばれる少なくとも1種を添加剤として含むグリース組成物が開示されている。前記グリース組成物は、潤滑部の静摩擦係数を低くし、起動電圧を下げることができる。
特許文献2には、平均分子量が900~10000のポリオレフィンワックスを0.5~40質量%含有する潤滑グリース組成物が開示されている。
特許文献3には、増ちょう剤と基油を含むグリースに、モンタンワックスを含有させたことを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物が開示されている。
特許文献4には、樹脂と金属とが接触する部位に適用されるグリース組成物であって、ポリα-オレフィン油、鉱油及び高度精製鉱油の少なくとも一種を特定割合で含む基油と、金属石けん及び金属複合石けんの少なくとも一種を特定割合で含む増ちょう剤と、非極性ワックス及び極性ワックスの少なくとも一種とを含有することを特徴とする樹脂潤滑用グリース組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-314916号公報
【特許文献2】特開平9-194867号公報
【特許文献3】特開2002-371290号公報
【特許文献4】特開2005-054024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、静摩擦係数を高くするだけでは自己ロック性は改善できない。他方、昨今の消費電力低減の要請に応えるには、静摩擦係数は低くして、起動電圧を下げる必要がある。したがって、本発明は、高い自己ロック性と、優れた起動性とを両立したグリース組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、増ちょう剤にカルシウムスルホネートコンプレックス、添加剤に金属石けんを含有することを特徴とするグリース組成物である。すなわち、本発明により、以下のグリース組成物を提供する。
1.樹脂製部材と金属製部材との潤滑に使用されるグリース組成物であって、
基油、
増ちょう剤として、カルシウムスルホネートコンプレックス、
添加剤として、組成物の全質量を基準として5~20質量%の粉状の金属石けん、
を含有するグリース組成物。
2.金属石けんが、リチウム石けん、カルシウム石けん、マグネシウム石けん、亜鉛石けん、又はこれらの混合物である、前記1に記載のグリース組成物。
3.前記1又は2に記載のグリース組成物を封入した減速機。
【発明の効果】
【0006】
既述の通り、高い自己ロック性と、優れた起動性とを両立するためには、静摩擦係数を低くしすぎず、動摩擦係数を高くする必要がある。本発明によれば、金属石けんとカルシウムスルホネートコンプレックスとを併用することにより、高い自己ロック性と、優れた起動性とを両立する摩擦係数を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
〔基油〕
本発明のグリース組成物の基油としては、鉱物系潤滑油や合成潤滑油を使用することができる。その種類は特に制限されるものではないが、鉱物系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、及びそれらの混合油を使用できる。合成潤滑油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油、及びフッ素油等を使用できる。合成油が好ましく、合成炭化水素油がより好ましく、ポリαオレフィンがさらに好ましい。なお、合成油は、動植物などから生まれた生物資源を原料として製造される、所謂バイオマス油でもよい。例えば、植物油を原料とする各種脂肪酸とアルコールとから合成されるバイオマスエステル油や、パーム油、コーン油、大豆油などの植物油を用いたバイオマス炭化水素油を使用することもできる。
本発明の基油の40℃における動粘度は、低温性及び耐久性の観点から、15~450mm2/sであり、15~200mm2/sであるのが好ましく、15~70mm2/sであるのがさらに好ましい。
本発明のグリース組成物中の基油の含有量は、グリースを製造するのに通常用いられる量であり、例えば45~90質量%であり、低温性の観点から、47.5~87質量%が好ましく、50~82質量%がより好ましい。
【0008】
〔カルシウムスルホネートコンプレックス増ちょう剤〕
本発明のカルシウムスルホネートコンプレックスは、カルシウムスルホネートと、スルホン酸以外の酸のカルシウム塩とを含むコンプレックス(複合石けん)である。
カルシウムスルホネートを構成するスルホン酸としては、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、石油スルホン酸等があげられる。スルホン酸としては、ドデシルベンゼンスルホン酸が好ましい。
スルホン酸以外の酸としては、12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、炭酸及びほう酸があげられる。
本発明で用いるカルシウムスルホネートコンプレックスとしては、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムと、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、炭酸カルシウム及び/又は酢酸カルシウムとから形成されるコンプレックスが特に好ましい。さらに特に、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムと、12-ヒドロキシステアリン酸カルシウムと、炭酸カルシウムと、酢酸カルシウムとから形成されるコンプレックスが好ましい。本発明のコンプレックスは、ホウ酸カルシウム及び炭酸カルシウムを含んでもよい。
本発明の組成物におけるカルシウムスルホネートコンプレックス増ちょう剤の含有量は、本発明のグリース組成物のちょう度を例えば235~415の範囲に調整できる量であり、通常、組成物の全質量を基準として、5~40質量%、好ましくは8~35質量%、より好ましくは10~33質量%である。
なお、カルシウムスルホネートコンプレックスは、本発明において、耐摩耗剤、防錆剤としても機能し得る。
本明細書において、用語「ちょう度」は60回混和ちょう度を指し、JIS K2220 7.に従って測定することができる。本発明のグリース組成物のちょう度は、低温性の観点から、好ましくは235~415であり、より好ましくは280~415である。
【0009】
〔金属石けん〕
本発明のグリース組成物は、添加剤として、粉状の金属石けんを含む。金属石けんとしては、リチウム石けん、カルシウム石けん、マグネシウム石けん、亜鉛石けん、又はこれらの混合物があげられる。このうち、起動性の観点から、リチウム石けん、亜鉛石けんがより静摩擦係数を下げるため好ましい。なお、金属石けんは、グリースの増ちょう剤として使用されることも多い。一般に、増ちょう剤は、基油中で網目構造を形成することにより、液体である基油を保持して固体又は半固体(すなわち、グリース)にできる。本発明で使用している金属石けんは、粉状の金属石けんを配合しているため、網目構造を形成せず、増ちょう剤としては作用しない。
本発明のグリース組成物中の金属石けんの含有量は、5~20質量%であり、起動性の観点から、8~20質量%が好ましく、13~20質量%がより好ましい。
【0010】
〔任意添加剤〕
本発明のグリース組成物は、グリースに通常用いられる添加剤をさらに含んでもよい。このような添加剤としては、酸化防止剤、金属腐食防止剤、油性剤、固体潤滑剤等があげられる。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤や、フェノール系酸化防止剤等があげられる。
金属腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等があげられる。
油性剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、リン酸エステル等があげられる。
固体潤滑剤としては、例えば、CaO、ZnO、MgOなどの酸化金属、CaCO3又はZnCO3などの炭酸金属塩、二硫化モリブデン、グラファイト、PTFE、MCA等があげられる。このうち、焼付き寿命延長の観点から、CaCO3が好ましい。
なお、これらの添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。例えば、組成物の全質量を基準にして0~15質量%、好ましくは0~12質量%である。
本発明のグリース組成物はまた、カルシウムスルホネートコンプレックス以外の増ちょう剤を含まないのが好ましい。
本発明のグリース組成物はまた、添加剤として、ワックスを含まないのが好ましい。
【0011】
本発明のグリース組成物は、樹脂製部材と金属製部材との潤滑、例えば、自動車のパワーウィンドモーターの減速機である、樹脂(ポリアセタール、ポリアミド)製ウォームホイールギヤと鋼製ウォームギヤとの潤滑、及びパワーシートモーター、サンルーフモーターの減速機に用いることができる。
【実施例0012】
<試験グリース組成物の原料>
(増ちょう剤)
ドデシルベンゼンスルホン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、ホウ酸、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム
(基油)
・ポリ-α-オレフィン(40℃における動粘度:38.7mm2/s)
(添加剤)
・Li石けん
ステアリン酸リチウム(粉状)
・Ca石けん
ステアリン酸カルシウム(粉状)
・Zn石けん
ステアリン酸亜鉛(粉状)
・PEワックス
分子量:重量平均分子量17、500
物性 :滴点132-138℃、酸価0mgKOH/g、溶融粘度 約25、000mPa・s(140℃)
販売元:クラリアントケミカルズ株式会社
商品名:LICOWAX PE190 P
・PPワックス
分子量:重量平均分子量28、200
物性 :軟化点112℃、溶融粘度 約9、300mPa・s(170℃)
販売元:クラリアントケミカルズ株式会社
商品名:LICOCENE PP 3602
・モンタンワックス
物性 :滴点96-102℃、酸価9-14mgKOH/g、ケン化価 102-122mgKOH/g
販売元:クラリアントケミカルズ株式会社
商品名:LICOWAX OP FL
【0013】
<試験グリース組成物の調製>
基油中で、ドデシルベンゼンスルホン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、酢酸、炭酸カルシウム及び水酸化カルシウムを攪拌し、72℃まで加熱した。次いで、ホウ酸及び水酸化カルシウムを加えてさらに撹拌し、163℃まで加熱した。その後、攪拌しながら100℃以下まで冷却し、ベースグリースを得た。そこに、表1に示す割合で金属石けん又はワックスを配合し、3本ロールミルで分散することにより試験グリース組成物を調製した。試験グリース組成物のちょう度は、350に統一した。ちょう度は、JIS K 2220 7.により測定した。
【0014】
<試験方法>
モーターの起動時に静摩擦係数が高いと大きな力が必要であり、消費電力が高くなる。グリースにより最大静摩擦係数を下げることで小さい力で動かすことができ、電力の消費を抑えることができるため、良好な起動性(起動電圧が低い)が得られる。すなわち、最大静摩擦係数により、起動性を評価することができる。最大静摩擦係数が小さい方が、起動性が良好である。
他方、最大静摩擦係数を高くすることですべりによるギヤの逆転が発生するのを抑制し、且つ、最大動摩擦係数を高くすることで、ギヤが逆転しても最小限に抑制することができる。すなわち、最大動摩擦係数により、自己ロック性を評価することができる。最大動摩擦係数が大きい方が、自己ロック性が良好である。
そこで、バウデン試験により最大静止摩擦係数及び最大動摩擦係数を求めることにより、起動性及び自己ロック性を評価した。具体的には、下部試験片に試験グリース組成物を塗布し、上部試験片に規定荷重をかけ、規定時間静置した後、下部試験片を摺動させ、最大静止摩擦係数と最大動摩擦係数を求めた。結果を表1に示す。
[試験条件]
上部試験片:POM
下部試験片:鋼 S45C
試験速度:0.06mm/s
試験荷重:39.2N
試験温度:80℃
静置時間:5分間
[合格判定基準]
最大静止摩擦係数:0.083以下
最大動摩擦係数:0.043以上
【0015】
【0016】
・Li石けんを5~20%配合した、実施例1、2、3、4は最大静止摩擦係数が0.083、0.074、0.060、0.048と、比較例1に比べ低くなり、起動電圧の低減が認められ、且つ最大動摩擦係数が0.093、0.081、0.060、0.043と低くなりすぎず、自己ロック性も良好である。
・Ca石けん、Zn石けんを5%混合した、実施例5、6は最大静止摩擦係数が0.08、0.067、最大動摩擦係数が0.080、0.081と、Li石けんを5%混合した、実施例1と同様の効果が得られた。
・Li石けんを4%混合した、比較例2は最大静止摩擦係数が0.093と、実施例1~4よりも高く、起動電圧の低減が不十分である。
・Li石けんを25%混合した、比較例3は最大動摩擦係数が0.035と実施例1~4よりも低く、自己ロック性が不十分である。
・PEワックス、PPワックス、モンタンワックスを5%混合した、比較例4、5、6は最大静止摩擦係数が0.092、0.106、0.102と、実施例1~4よりも高く、起動電圧の低減が不十分である。