IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-アーク溶接装置及びアーク溶接方法 図1
  • 特開-アーク溶接装置及びアーク溶接方法 図2
  • 特開-アーク溶接装置及びアーク溶接方法 図3
  • 特開-アーク溶接装置及びアーク溶接方法 図4
  • 特開-アーク溶接装置及びアーク溶接方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147189
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】アーク溶接装置及びアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 10/00 20060101AFI20241008BHJP
   B23K 9/14 20060101ALI20241008BHJP
   B23K 9/28 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B23K10/00 502C
B23K9/14 Z
B23K9/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060047
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】堀江 宏太
(72)【発明者】
【氏名】于 博
(72)【発明者】
【氏名】田畑 芳行
(72)【発明者】
【氏名】植田 朗子
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB01
(57)【要約】
【課題】手棒溶接における溶接終了時に母材にダメージが加わるのを防止できるアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】アーク溶接装置60は、溶接電源10とパワーケーブル31,32と溶接棒ホルダ20とを備えている。溶接棒ホルダ20は、溶接棒40を保持するとともに、パワーケーブル31を介して溶接電源10から供給された溶接出力を溶接棒40に供給する。アーク溶接装置60は、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を調整する出力切替スイッチ21を有している。出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を停止させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電源とパワーケーブルと溶接棒ホルダとを少なくとも備えたアーク溶接装置であって、
前記溶接棒ホルダは、母材の溶接に用いられる溶接棒を保持するとともに、前記パワーケーブルを介して前記溶接電源から供給された溶接出力を前記溶接棒に供給し、
前記アーク溶接装置は、前記溶接電源から前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力を切替えるための出力切替スイッチを有していることを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアーク溶接装置において、
前記出力切替スイッチを操作することで、前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力を停止させることを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載のアーク溶接装置において、
前記出力切替スイッチを操作することで、前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力の出力値を操作前の値から所定の割合で低下させることを特徴とするアーク溶接装置。
【請求項4】
溶接電源とパワーケーブルと溶接棒ホルダとを少なくとも備えたアーク溶接装置を用いたアーク溶接方法であって、
前記溶接棒ホルダに保持された溶接棒の先端と母材とを接触させてアークを発生させるアークスタートステップと、
前記アークによって前記母材を溶接する溶接ステップと、
前記溶接ステップの終了時に、前記溶接棒ホルダに供給される溶接出力を低下させる溶接出力低下ステップと、
前記溶接出力低下ステップの後に、前記溶接棒が前記母材から離れるように前記溶接棒ホルダを移動させて溶接を終了する溶接終了ステップと、を少なくとも備えたことを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項5】
請求項4に記載のアーク溶接方法において、
前記溶接出力低下ステップでは、前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力を停止させることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項6】
請求項4に記載のアーク溶接方法において、
前記溶接出力低下ステップでは、前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力を前記溶接ステップにおける前記溶接出力の出力値から所定の割合で低下させることを特徴とするアーク溶接方法。
【請求項7】
請求項4に記載のアーク溶接方法において、
前記溶接ステップでは、前記母材に溶接ビードが形成され、
前記溶接終了ステップの後に、前記溶接ビードに形成されたクレータを修復する修復溶接ステップをさらに備え、
前記修復溶接ステップでは、前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力を前記溶接ステップにおける前記溶接出力の出力値から所定の割合で低下させて、前記クレータを埋め戻すように溶接することを特徴とするアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アーク溶接装置及びアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、母材と同材質の金属棒を心線とし、その周囲をフラックスで覆った溶接棒をアーク電極として用いるアーク溶接方法が広く知られている(例えば、特許文献1参照)。この溶接は、溶接棒を保持する溶接棒ホルダを溶接作業者が手に持って行うことから手棒溶接(被覆アーク溶接とも言う。)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-040094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、手棒溶接では、溶接棒に通電した状態で、母材に溶接棒を接触させ、アークを発生させ、溶接を開始する。一方、溶接棒を母材から離すことでアークを消弧させ、溶接を終了させる。
【0005】
しかし、溶接終了時には、アークが発生した状態で溶接棒を母材から離すため、アーク長が伸びてしまう。このことにより、母材にダメージを与えることがあった。
【0006】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、手棒溶接における溶接終了時に母材にダメージが加わるのを防止できるアーク溶接装置及びアーク溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係るアーク溶接装置は、溶接電源とパワーケーブルと溶接棒ホルダとを少なくとも備えたアーク溶接装置であって、前記溶接棒ホルダは、母材の溶接に用いられる溶接棒を保持するとともに、前記パワーケーブルを介して前記溶接電源から供給された溶接出力を前記溶接棒に供給し、前記アーク溶接装置は、前記溶接電源から前記溶接棒ホルダに供給される前記溶接出力を切替えるための出力切替スイッチを有していることを特徴とする。
【0008】
本開示に係るアーク溶接方法は、溶接電源とパワーケーブルと溶接棒ホルダとを少なくとも備えたアーク溶接装置を用いたアーク溶接方法であって、前記溶接棒ホルダに保持された溶接棒の先端と母材とを接触させてアークを発生させるアークスタートステップと、前記アークによって前記母材を溶接する溶接ステップと、前記溶接ステップの終了時に、前記溶接棒ホルダに供給される溶接出力を低下させる溶接出力低下ステップと、前記溶接出力低下ステップの後に、前記溶接棒が前記母材から離れるように前記溶接棒ホルダを移動させて溶接を終了する溶接終了ステップと、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、手棒溶接における溶接終了時に母材にダメージが加わるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係るアーク溶接装置の概略構成図である。
図2】アーク溶接時の出力切替スイッチの状態と溶接出力状態と溶接状態のタイムチャートである。
図3】比較例に係るアーク溶接時の出力切替スイッチの状態と溶接出力状態と溶接状態のタイムチャートである。
図4】実施形態2に係るアーク溶接時の出力切替スイッチの状態と溶接出力状態と溶接状態のタイムチャートである。
図5】実施形態3に係るクレータ処理方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0012】
(実施形態1)
[アーク溶接装置の構成]
図1は、実施形態1に係るアーク溶接装置の概略構成図を示し、アーク溶接装置60は、溶接電源10と溶接棒ホルダ20とパワーケーブル31,32とを少なくとも備えている。
【0013】
溶接電源10は、主回路11と入力部12と表示部13と制御部14と記憶部15とを少なくとも有している。なお、溶接電源10が、これら以外の回路や部品を有していてもよい。
【0014】
主回路11は、図示しないトランスやインバータを有しており、アーク溶接のための溶接出力を発生させる。主回路11のプラス端子がパワーケーブル31を介して溶接棒ホルダ20に接続される。主回路11を起動すると、溶接棒ホルダ20を介して、溶接棒ホルダ20に保持された溶接棒40に溶接出力が供給される。また、主回路11のマイナス端子がパワーケーブル32を介して母材50に接続され、母材50を所定の電位、この場合はアース電位に固定する。
【0015】
入力部12は、図示しないボタンやダイヤルを有しており、溶接出力は、入力部12を操作することで設定される。また、アーク特性、具体的にはアーク長の変化に伴う溶接出力の変化量や、溶接棒40が溶着しそうになると自動的に溶接出力を上昇させる場合の上昇率(以下、アークドライブレベルと呼ぶことがある。)も入力部12を操作することで設定される。また、記憶部15に保存されたパラメータ、例えば、母材50の材質や溶接棒40の棒径等の読み出しも、入力部12を操作することで実行される。
【0016】
表示部13は、液晶パネルで構成されており、入力部12で選択したパラメータや入力した値は、リアルタイムで表示部13に表示される。このようにすることで、溶接作業者が入力内容を確認しながら、溶接条件の変更等を行うことができる。また、表示部13をタッチパネルとすることで、入力部12としての機能を持たせてもよい。また、表示部13を、液晶パネル以外のデバイス、例えば、7segLEDとしてもよい。
【0017】
制御部14は、CPU(Central Processing Unit)またはMCU(Micro Controller Unit)あるいはこれらの組み合わせで構成される。なお、複数個のCPUまたはMCUあるいはこれらの組み合わせで制御部14が構成されてもよい。
【0018】
制御部14は、入力部12からの入力内容に基づいて、主回路11から出力される溶接出力を制御する。また、制御部14は、入力部12からの入力内容に基づいて、記憶部15に予め保存されたパラメータを読み出し、溶接条件、例えば、アーク特性やアークドライブレベルの変更を行う。
【0019】
記憶部15は、半導体メモリ、例えば、RAM(Random Access Memory)やSSD(Solid State Drive)等で構成される。記憶部15は、前述したパラメータを保存する。
【0020】
溶接棒ホルダ20は、溶接棒40を保持し、前述したように、パワーケーブル31を介して溶接電源10から供給された溶接出力を、パワーケーブル31を介して受け取り、さらに溶接棒40に供給する。
【0021】
また、溶接棒ホルダ20には、出力切替スイッチ21が取り付けられている。出力切替スイッチ21は、パワーケーブル31に収容された信号線(図示せず)を介して、溶接電源10の制御部14に電気的に接続されている。出力切替スイッチ21を操作すると、制御部14から主回路11に溶接出力の停止信号が送信され、溶接棒ホルダ20への溶接出力の供給が停止される。また、出力切替スイッチ21の操作を解除すると、制御部14から主回路11に溶接出力を再開させる信号が送信され、溶接棒ホルダ20への溶接出力の供給が再開される。
【0022】
なお、本実施形態において、出力切替スイッチ21は押釦であり、出力切替スイッチ21を押している間、溶接棒ホルダ20への溶接出力の供給が停止されるように構成されている。ただし、これに限定されず、他の方式で溶接出力の供給が停止されてもよい。例えば、出力切替スイッチ21を1回押すと、溶接出力の供給が停止され、出力切替スイッチ21を2回押すと、溶接出力の供給が再開されてもよい。また、出力切替スイッチ21はスライド式のスイッチでもよい。例えば、出力切替スイッチ21を10段階のスライドスイッチとし、出力切替スイッチ21の位置により、溶接出力を段階的に変化させる構成としてもよい。この場合、初期位置で溶接出力が最大、例えば、溶接電流が100Aに設定され、出力切替スイッチ21を1段階スライドさせる毎に、溶接電流が10アンペア減少し、最終段まで出力切替スイッチ21をスライドさせると、溶接電流がゼロになる。なお、出力切替スイッチ21のスライド段数や段階毎の溶接出力の変化量は適宜変更されうる。
【0023】
また、本実施形態では、出力切替スイッチ21と溶接電源10とは信号線で接続されているが、これらが無線方式で通信可能に接続されていてもよい。
【0024】
溶接棒40は、母材50と同材質の心線の周囲をフラックスで覆った公知の構成である。溶接中は、溶接棒40の先端と母材50との間にアーク(図示せず)が発生している。
【0025】
[手棒溶接方法(被覆アーク溶接方法)]
従来知られているように、手棒溶接では、溶接棒40に溶接出力を供給した状態で、溶接棒40の先端と母材50とを接触させ、アークを発生させる(アークスタートステップ)。アークが発生した後は、溶接作業者が溶接棒ホルダ20を手に持って所定の溶接線に沿って移動させ、母材50の溶接を行う(溶接ステップ)。なお、溶接ステップでは、アーク長が一定となるように、溶接棒40の先端と母材との距離を保ちつつ、溶接棒ホルダ20を移動させる。所望の距離だけ溶接棒ホルダ20を移動させると、溶接作業者は、溶接棒40の先端が母材50から離れるように溶接棒ホルダ20を引き上げる。このようにすることで、アークが消弧し、溶接が終了する。
【0026】
しかし、前述したように、溶接終了時には、発生したアークがそのままの状態で溶接棒40を母材50から離すため、アーク長が伸びてしまい、母材50にダメージを与えるおそれがある。
【0027】
本実施形態では、溶接終了時に出力切替スイッチ21を操作して溶接出力を停止させ、母材50へのダメージ発生を防止している。このことについて、図2を用いてさらに説明する。
【0028】
図2は、アーク溶接時の出力切替スイッチの状態と溶接出力状態と溶接状態のタイムチャートである。
【0029】
時点t0で、入力部12を操作して、溶接電源10の運転モードを手棒溶接に切り替える。この時点t0では、溶接電源10は、溶接出力状態はP0(=0)であり、時点t1になるまで、溶接棒ホルダ20への溶接出力の供給が停止される。これは、溶接作業者の安全を確保するためである。つまり、時点t0から時点t1直前までの期間は出力停止期間である。
【0030】
時点t1を経過すると、溶接電源10から溶接棒ホルダ20に溶接出力が供給される。溶接作業者は、溶接棒40の先端を母材に接触させてアークスタートステップを実行し、時点t2から前述した手順で母材50の溶接が行われる(溶接ステップ)。
【0031】
溶接を終了させるにあたって、時点t3で出力切替スイッチ21を押し、溶接棒ホルダ20への溶接出力の供給を停止させる(溶接出力低下ステップ)。このようにすることで、アークは縮小していく。
【0032】
続けて、溶接棒ホルダ20を引き上げて、溶接棒40を母材50から離し、溶接を終了する(溶接終了ステップ)。
【0033】
その後、時点t4で、出力切替スイッチ21の押下を中止し、溶接出力状態がP1になっても、溶接棒40の先端と母材50との距離が十分に離れているため、アークは再度発生せず、溶接は再開されない。溶接を再開する場合、溶接出力状態がP1のまま、溶接棒40の先端と母材50とを接触させて、再度、アークスタートさせる。アークスタート後、例えば、図2に示すように、時点t5から溶接が再開される。
【0034】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係るアーク溶接装置60は、溶接電源10とパワーケーブル31,32と溶接棒ホルダ20とを少なくとも備えている。
【0035】
溶接棒ホルダ20は、母材50の溶接に用いられる溶接棒40を保持する。また、溶接棒ホルダ20は、パワーケーブル31を介して溶接電源10から供給された溶接出力を溶接棒40に供給する。
【0036】
また、アーク溶接装置60は、溶接電源10から溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を切替えるための出力切替スイッチ21を有している。
【0037】
また、出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を停止させる。
【0038】
本実施形態によれば、手棒溶接における溶接終了時に母材50にダメージが加わるのを防止できる。このことについてさらに説明する。
【0039】
本実施形態のアーク溶接装置60は、溶接棒ホルダ20に出力切替スイッチ21を設けている点で、手棒溶接を行うための従来のアーク溶接装置と異なる。従来のアーク溶接装置を用いた場合、図3に示すように、溶接終了時に溶接出力状態はP1のまま維持される。つまり、前述した溶接出力低下ステップが無い。
【0040】
図3に示す場合、溶接終了時にアークが縮小、または消弧していない状態で、溶接棒40を母材50から離すため、アーク長が伸びた状態で、溶接棒40と母材50との間でアークが点弧する。このことにより、母材50にダメージが加わるおそれがあることは前述した通りである。
【0041】
一方、本実施形態によれば、出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を停止させる。このことにより、アークを縮小、または消弧させることができる。この状態で溶接棒40を引き上げるため、仮にアークが消弧せずに残存し、かつアーク長が伸びても、母材50にダメージは加わらないか、ダメージが加わったとしても図3に示す従来の場合と比べて大幅に小さくできる。
【0042】
本実施形態に係るアーク溶接方法は、前述のアーク溶接装置60、つまり、溶接電源10とパワーケーブル31,32と溶接棒ホルダ20とを少なくとも備えたアーク溶接装置を用いて行われる。
【0043】
このアーク溶接方法は、以下のステップを少なくとも備えている。
【0044】
まず、溶接棒ホルダ20に保持された溶接棒40の先端と母材50とを接触させてアークを発生させる(アークスタートステップ)。
【0045】
発生したアークによって母材50を溶接する(溶接ステップ)。
【0046】
溶接ステップの終了時に、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を低下させる(溶接出力低下ステップ)。本実施形態では、このステップで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を停止させる。
【0047】
溶接出力低下ステップの後に、溶接棒40が母材50から離れるように溶接棒ホルダ20を移動させて溶接を終了する(溶接終了ステップ)。
【0048】
本実施形態によれば、溶接出力低下ステップを設けることで、溶接終了時に、アークを縮小させられるため、当該ステップの後に、アークが残存し、溶接棒40を母材50から離すことでアーク長が伸びたとしても、母材50にダメージが加わるのを防止できる。あるいは、ダメージが加わったとしても図3に示す従来の場合と比べて大幅に小さくできる。
【0049】
また、アークの状態を見ながら、母材50にダメージを残さないように、溶接棒ホルダ20を操作して溶接を終了させるには、溶接作業者に高い技能が求められる。
【0050】
本実施形態によれば、溶接作業者の技能に依存せず、溶接終了時に、アーク長が伸びることで母材50にダメージが加わるのを防止できる。
【0051】
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係るアーク溶接時の出力切替スイッチの状態と溶接出力状態と溶接状態のタイムチャートである。なお、説明の便宜上、図4及び以降に示す図5において、実施形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
本実施形態において、アーク溶接装置60の構成は、図1に示す実施形態1のアーク溶接装置60と同じである。ただし、出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力の出力値を操作前の値から所定の割合で低下させ、溶接出力を抑制している点で、実施形態1に示すアーク溶接装置と異なる。
【0053】
また、図4に示すように、本実施形態のアーク溶接方法は、溶接出力低下ステップにおいて、出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力の出力値を操作前の値から所定の割合で低下させ、溶接出力を抑制している点で、実施形態1に示すアーク溶接方法と異なる。
【0054】
具体的には、図4に示すように、溶接停止期間が開始する時点t3の前の時点taで、出力切替スイッチ21を押し、溶接出力を低下させ、溶接出力を抑制している。なお、本実施形態において、溶接時の溶接出力状態(=P1)において、溶接棒40に流れる溶接電流を100Aとし、出力切替スイッチ21を押下したときの溶接出力状態(=P2)において、溶接棒40に流れる溶接電流を20Aとしている。ただし、P1とP2の比率は特にこれに限定されず、適宜変更しうる。溶接出力状態がP2の場合に溶接棒40に流れる溶接電流は、ゼロよりも大きく、溶接出力状態がP1の場合の溶接電流、つまり、出力切替スイッチ21の操作前の値よりも小さい所定の範囲で適宜設定される。
【0055】
また、時点t3で溶接棒40が母材50から離れるように溶接棒ホルダ20移動させて、溶接を終了させている。その後の時点t4で出力切替スイッチ21の押下を中止し、溶接出力状態がP1になっても、溶接棒40の先端と母材50との距離が十分に離れているため、アークは再度発生せず、溶接は再開されないことは実施形態1で示したのと同様である。
【0056】
実施形態1に示す場合、溶接出力低下ステップにおいて、出力切替スイッチ21を押すことで、溶接出力が急に停止する。このことにより、アークが急に消弧して、溶接棒ホルダ20を引き上げる前に溶接棒40が母材50に溶着することがある。
【0057】
一方、本実施形態によれば、溶接出力低下ステップにおいて、アークは縮小するが維持される。このことにより、溶接棒40が母材50に溶着するのを防止できる。また、アーク自体は縮小させた状態で溶接棒ホルダ20を引き上げるため、アーク長が伸びたとしても、母材50にダメージが加わるのを防止できる。あるいは、ダメージが加わったとしても図3に示す従来の場合と比べて大幅に小さくできる。
【0058】
また、実施形態1と同様に、本実施形態によれば、溶接作業者の技能に依存せず、溶接終了時に、アーク長が伸びることで母材50にダメージが加わるのを防止できる。
【0059】
(実施形態3)
図5は、実施形態3に係るクレータ処理方法を説明する模式図である。
【0060】
手棒溶接において、溶接ステップの終了後に、母材50に溶接ビード51が形成される。しかし、図5の上側の図に示すように、溶接ビード51の終端部にクレータ52が形成されることがある。溶接中に、母材50に形成される溶融池(図示せず)の表面は、アーク力で凹んでいる。溶接終了時にアークが消弧すると、凹みが回復するよりも早く溶融池が冷えて固まってしまうことがある。この場合、溶接ビード51の終端部にクレータ52が形成される。
【0061】
クレータ52は、溶接ビード51の外観を損ねるだけでなく、終端部における溶接ビード51の強度を低下させるおそれがある。このため、従来、クレータ52が形成された部分に対して、クレータ52を修復するために再度溶接を行う処理が行われる。以降の説明において、当該処理を修復溶接または修復溶接ステップと言う。
【0062】
修復溶接ステップの実行後は、図5の下側の図に示すように、クレータ52があった部分が埋め戻されて、修復部53が形成される。
【0063】
しかし、従来の手棒溶接では、通常の溶接時と同じ溶接出力で修復溶接を行うため、クレータ52の大きさによっては、修復部53やその周囲において、余分な金属が付着し、溶接ビード51の形状が変化してしまうことがある。このため、かえって、溶接ビード51の外観を損ねることがあった。また、修復溶接時に溶接出力がうまく調整できない場合、クレータ52が十分に埋め戻されないおそれがある。
【0064】
そこで、本実施形態では、実施形態2に示すように、出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力の出力値を所定の割合で低下させ、溶接出力を抑制するようにしている。
【0065】
このようにすることで、溶接終了ステップの後に実行される修復溶接ステップにおいて、アークを縮小させた状態で溶接ビード51の終端部を修復溶接できる。このことにより、終端部における入熱量を低下させることができ、アークの点弧時間やアーク長を調整することで、クレータ52を適切に埋め戻すことができる。
【0066】
なお、本実施形態において、溶接終了ステップの前に実行される溶接出力低下ステップにおいても、出力切替スイッチ21を操作することで、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力の出力値を所定の割合で低下させ、溶接出力を抑制している。ただし、溶接出力低下ステップにおいて、溶接棒ホルダ20に供給される溶接出力を停止させてもよい。
【0067】
(その他の実施形態)
本願明細書において、出力切替スイッチ21を溶接棒ホルダ20に設けている。これは、溶接作業者が出力切替スイッチ21を操作するのを容易にするためである。
【0068】
ただし、溶接棒ホルダ20と溶接電源10との距離が短ければ、出力切替スイッチ21を溶接電源10に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示のアーク溶接装置によれば、手棒溶接における溶接終了時に母材にダメージが加わるのを防止でき、有用である。
【符号の説明】
【0070】
10 溶接電源
11 主回路
12 入力部
13 表示部
14 制御部
15 記憶部
20 溶接棒ホルダ
21 出力切替スイッチ
31,32 パワーケーブル
40 溶接棒
50 母材
51 溶接ビード
52 クレータ
53 修復部
60 アーク溶接装置
図1
図2
図3
図4
図5