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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147200
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20241008BHJP
【FI】
G02B7/02 B
G02B7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060059
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】石嶺 剛志
(72)【発明者】
【氏名】山中 賢治
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044AB10
2H044AB17
2H044AJ04
(57)【要約】
【課題】コバ部を確実に黒化処理して優れた遮光効果を得られるレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】プレス成形によって環状のコバ部(20、50A)を成形する第1成形ステップと、第1成形ステップで成形したコバ部の外面に黒化処理を行う黒化処理ステップと、黒化処理を行ったコバ部(20、50B)と、コバ部によって囲まれる光学機能部(10)とをプレス成形して、光学機能部に光学面(11、12)を形成すると共に、光学機能部とコバ部(20、50C)を互いに固定する第2成形ステップと、を行い、第1成形ステップで成形したコバ部を基準として、第2成形ステップでのコバ部の表面積増加率を5%以内としたレンズの製造方法。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形によって環状のコバ部を成形する第1成形ステップと、
前記第1成形ステップで成形した前記コバ部の外面に黒化処理を行う黒化処理ステップと、
前記黒化処理を行った前記コバ部と、前記コバ部によって囲まれる光学機能部とをプレス成形して、前記光学機能部に光学面を形成すると共に、前記光学機能部と前記コバ部を互いに固定する第2成形ステップと、
を有し、
前記第1成形ステップで成形した前記コバ部を基準として、前記第2成形ステップでの前記コバ部の表面積増加率を5%以内としたことを特徴とするレンズの製造方法。
【請求項2】
前記コバ部は、前記第1成形ステップによって、光軸方向を向く両側の外面の少なくとも一方が非平坦部分を含む形状に成形されることを特徴とする、請求項1に記載のレンズの製造方法。
【請求項3】
前記非平坦部分は光軸方向の位置が異なる2つの平坦部を接続する段差形状を有し、前記第1成形ステップで成形された前記段差形状の光軸方向高さと、前記第2成形ステップで成形された前記段差形状の光軸方向高さとの差が、0.1mm以下であることを特徴とする、請求項2に記載のレンズの製造方法。
【請求項4】
前記第1成形ステップと前記第2成形ステップで同じ成形型を用いてプレス成形を行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
【請求項5】
前記第1成形ステップと前記第2成形ステップで、前記コバ部を成形するコバ部形成面が近似形状である別の成形型を用いてプレス成形を行うことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
【請求項6】
前記コバ部は金属製であり、前記黒化処理ステップは、金属の加熱による酸化で前記コバ部の外面を黒化させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
【請求項7】
前記黒化処理ステップは、化成処理によって前記コバ部の外面を黒化させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
【請求項8】
前記黒化処理ステップは、メッキ処理によって前記コバ部の外面を黒化させることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プレス成形によってレンズを製造する場合の偏心などの精度誤差を抑制するために、成形用型や鏡枠との間の芯出し機能を有するキャリアと、ガラス素材とを、プレス成形加工時に一体的に結合させることによって、高性能な多機能キャリア付きレンズを得る技術が記載されている。また、特許文献1には、プレス成形前に、多機能キャリアの内周面に予め黒色塗料を塗布して、ゴーストやフレアを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-40733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光学面(レンズ面)を有する光学機能部の外側を、光学機能部とは別の材質からなるコバ部で囲んだ構造のレンズでは、コバ部における有害な光の反射を抑制して光学性能を確保する必要がある。例えば、金属製のコバ部の場合、金属光沢を有するままの状態でレンズを構成すると有害な反射光が発生しやすいので、コバ部の表面を黒化処理して遮光性を向上させる対策が求められる。
【0005】
また、光軸方向の厚さが小さいコバ部や、光軸方向の前後を向く前後面の面積が大きいコバ部では、コバ部の内周面だけではなく、内周面以外の外面部分で反射した光も迷光の原因になりやすいため、内周面以外の外面部分における遮光性能の高さも求められる。
【0006】
光学機能部とコバ部をプレス成形によって一体化させるレンズの製造方法の場合、光学機能部と一体化させた後ではコバ部の内周面の黒化処理が難しいため、プレス成形前にコバ部の黒化処理を行うことが想定される。しかし、黒化処理したコバ部に対してプレス成形を行うと、プレス成形時の変形に伴ってコバ部の地金が露出して、黒化処理の効果が減じてしまう可能性がある。
【0007】
特許文献1に記載された多機能キャリア付きレンズでは、多機能キャリアの内周面に黒色塗料を塗布して黒化処理しているが、内周面以外の箇所については格別な遮光対策がなされておらず、上記の問題を解決するものではなかった。
【0008】
本発明は、以上の問題意識に基づいてなされたものであり、コバ部を確実に黒化処理して優れた遮光効果を得られるレンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のレンズの製造方法は、プレス成形によって環状のコバ部を成形する第1成形ステップと、前記第1成形ステップで成形した前記コバ部の外面に黒化処理を行う黒化処理ステップと、前記黒化処理を行った前記コバ部と、前記コバ部によって囲まれる光学機能部とをプレス成形して、前記光学機能部に光学面を形成すると共に、前記光学機能部と前記コバ部を互いに固定する第2成形ステップと、を有し、前記第1成形ステップで成形した前記コバ部を基準として、前記第2成形ステップでの前記コバ部の表面積増加率を5%以内としたことを特徴とする。
【0010】
前記コバ部は、前記第1成形ステップによって、光軸方向を向く両側の外面の少なくとも一方が非平坦部分を含む形状に成形されることが好ましい。
【0011】
前記非平坦部分は光軸方向の位置が異なる2つの平坦部を接続する段差形状を有し、前記第1成形ステップで成形された前記段差形状の光軸方向高さと、前記第2成形ステップで成形された前記段差形状の光軸方向高さとの差が、0.1mm以下であることが好ましい。
【0012】
前記第1成形ステップと前記第2成形ステップで同じ成形型を用いてプレス成形を行うことが好ましい。
【0013】
あるいは、前記第1成形ステップと前記第2成形ステップで、前記コバ部を成形するコバ部形成面が近似形状である別の成形型を用いてプレス成形を行ってもよい。
【0014】
一例として、前記コバ部は金属製であり、前記黒化処理ステップは、金属の加熱による酸化で前記コバ部の外面を黒化させる。
【0015】
一例として、前記黒化処理ステップは、化成処理によって前記コバ部の外面を黒化させる。
【0016】
一例として、前記黒化処理ステップは、メッキ処理によって前記コバ部の外面を黒化させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のレンズの製造方法を適用することにより、コバ部の変形を伴うプレス成形を行う場合においてもコバ部を確実に黒化処理して、優れた遮光効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】レンズの構成を示す断面図である。
図2】第1成形ステップを説明する図である。
図3】第1成形ステップを説明する図である。
図4】黒化処理ステップを説明する図である。
図5】第2成形ステップを説明する図である。
図6】第2成形ステップを説明する図である。
図7】レンズの製造方法の第2の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図示の実施形態に基づいて、本発明におけるレンズの製造方法を説明する。まず、本発明を適用した製造方法によって製造されるレンズ1の構成について、図1を参照して説明する。レンズ1の光軸X1に沿う方向を光軸方向とし、光軸X1に対して垂直な方向を光軸直交方向とする。光軸直交方向は、レンズ1の径方向と呼ぶこともできる。図1は光軸X1を含む断面位置でレンズ1を示した断面図である。
【0020】
レンズ1は、ガラス製の光学機能部10と、光学機能部10の外側を囲む環状のコバ部20と、によって構成されている。コバ部20は光学機能部10を構成するガラスとは異なる材質からなり、本実施形態のコバ部20は金属製である。コバ部20を構成する金属は、光学機能部10を構成するガラス素材の成形温度付近において、当該ガラス素材と共に変形可能な材料を選択してもよい。
【0021】
光学機能部10は、光軸方向の両側に光学面(レンズ面)を有する。本実施形態のレンズ1は、光学機能部10の両側の光学面11と光学面12がいずれも凸面である両凸レンズである。光軸方向のうち光学面11が向く側を第1の方向Xaとし、光学面12が向く側を第2の方向Xbとする。なお、本発明の製造方法を適用して形成されるレンズの光学面は、この実施形態に限定されるものではなく、光学面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。また、光学面は、球面でも非球面でもよい。
【0022】
光学機能部10は、光学面11と光学面12の互いの外縁部分を接続する外周面13を有している。外周面13は光軸X1を中心とする円筒状の面である。
【0023】
コバ部20は、光軸方向の一方の側である第1の方向Xaを向く外面として、前面部21を有する。前面部21は、光学面11に近い内径側から順に、内側平坦面21aと、テーパ面21bと、外側平坦面21cと、を有する。
【0024】
また、コバ部20は、光軸方向の他方の側である第2の方向Xbを向く外面として、後面部22を有する。後面部22は、光学面12に近い内径側から順に、内側平坦面22aと、テーパ面22bと、外側平坦面22cと、を有する。
【0025】
なお、前面部21と後面部22における前後は、便宜上の呼び分けである。レンズ1を光学機器に組み込んだ際に、前面部21(第1の方向Xa)が光学系の光軸方向前方を向き、後面部22(第2の方向Xb)が光学系の光軸方向後方を向くことを限定するものではない。
【0026】
前面部21における内側平坦面21a及び外側平坦面21cと、後面部22における内側平坦面22a及び外側平坦面22cは、それぞれが光軸X1に対して略垂直な平面であり、光軸X1を中心とした環状の範囲に設けられている。テーパ面21bとテーパ面22bはそれぞれ、光軸方向で第2の方向Xbに進むにつれて径が大きくなる(第1の方向Xaに進むにつれて径が小さくなる)円錐台形状の面である。前面部21は、光軸方向の位置が異なる2つの平坦部である内側平坦面21aと外側平坦面21cを段差形状であるテーパ面21bで接続した構造であり、テーパ面21bが前面部21における非平坦部分を形成している。後面部22は、光軸方向の位置が異なる2つの平坦部である内側平坦面22aと外側平坦面22cを段差形状であるテーパ面22bで接続した構造であり、テーパ面22bが後面部22における非平坦部分を形成している。
【0027】
コバ部20のうち、内側平坦面21aと内側平坦面22aを含む領域を内側平坦部20aとし、テーパ面21bとテーパ面22bを含む領域を中間テーパ部20bとし、外側平坦面21cと外側平坦面22cを含む領域を外側平坦部20cとする。コバ部20は、中間テーパ部20bを挟んで、内側平坦部20aと外側平坦部20cが光軸方向に部分的にずれた構成になっている。
【0028】
コバ部20は、内側平坦面21aと内側平坦面22aの互いの内縁部分を接続する内周面23と、外側平坦面21cと外側平坦面22cの互いの外縁部分を接続する外周面24と、を有している。内周面23と外周面24はそれぞれ、光軸X1を中心とする円筒状の面である。コバ部20の内周面23が光学機能部10の外周面13に対して固定されている。コバ部20の外周面24は、レンズ1における最外縁を構成する面である。
【0029】
詳細は後述するが、コバ部20の外面には、光の反射を抑制する黒化処理が施されている。コバ部20の黒化処理によって、レンズ1を光学機器に組み込んだ際に、内周面23での内面反射や、光学機能部10を適正な経路で通過しない迷光の発生を抑制して、光学性能を向上させる効果(遮光効果)が得られる。なお、コバ部20の外面とは、コバ部20やその母材となる環状部材31が単体の状態(光学機能部10と組み合わされる前の状態)で外観に現れる部分であり、レンズ1が完成した状態で光学機能部10の外周面13と固定される内周面23や、環状部材31の内周面34についても、コバ部20の外面に含まれる。外面の黒化処理は、コバ部20の素材である金属(地金)の色や光沢がそのまま外面に露出することを防いで光の反射を低減させるための加工である。なお、黒化処理は、コバ部20の外面を完全に黒色にすることには限定されず、コバ部20の地金が露出する場合に比して所定以上の反射低減効果を発揮するものであればよい。
【0030】
続いて、図2図3図5及び図6を参照して、レンズ1の製造の際に使用する成形型40の構成を説明する。成形型40は、胴型41と下型42と上型43とによって構成されている。胴型41は円筒形状であり、円筒面である内周面41aによって囲まれる内部空間を有する。成形型40の中心軸X2は、内周面41aの中心を通って上下方向に延びる軸線である。胴型41は、胴型下端面41bを下端に有し、胴型上端面41cを上端に有する。胴型下端面41bと胴型上端面41cはそれぞれ、中心軸X2に対して略垂直な面である。胴型41の内部空間は、上下方向に貫通して胴型下端面41bと胴型上端面41cの内側領域で開口している。
【0031】
下型42は、胴型41の内部空間に対して下方から挿入される挿入部42aと、挿入部42aの下部に設けられて挿入部42aよりも大径の大径部42bとを有する。上型43は、胴型41の内部空間に対して上方から挿入される挿入部43aと、挿入部43aの上部に設けられて挿入部43aよりも大径の大径部43bとを有する。挿入部42aと挿入部43aのそれぞれの外周面は、胴型41の内周面41aに対して、上下方向に摺動が可能であり、中心軸X2と垂直な方向には移動が規制される。つまり、下型42と上型43の中心軸が中心軸X2に一致するように調芯された状態で、胴型41に対して下型42と上型43が上下方向に移動可能である。
【0032】
下型42は、挿入部42aの上端に光学形成面44を有する。光学形成面44は、中心軸X2上の中心が最も深く、外径側に向けて浅くなる凹型の面である。挿入部42aの上端にはさらに、光学形成面44の周囲にコバ部形成面45が形成されている。コバ部形成面45は、光学形成面44に近い径方向の内側から外側へ向けて順に、内側平坦面45aと、テーパ面45bと、外側平坦面45cと、を有している。内側平坦面45aと外側平坦面45cは中心軸X2に対して略垂直な面であり、中心軸X2を中心とする環状の範囲に設けられている。外側平坦面45cは内側平坦面45aよりも上方に位置する。テーパ面45bは、中心軸X2を中心とする円錐台形状の面であり、テーパ面45bの一方の端部(小径側の端部)が内側平坦面45aに接続し、テーパ面45bの他方の端部(大径側の端部)が外側平坦面45cに接続している。
【0033】
上型43は、挿入部43aの下端に光学形成面46を有する。光学形成面46は、中心軸X2上の中心が最も深く、外径側に向けて浅くなる凹型の面である。挿入部43aの下端にはさらに、光学形成面46の周囲にコバ部形成面47が形成されている。コバ部形成面47は、光学形成面46に近い径方向の内側から外側へ向けて順に、内側平坦面47aと、テーパ面47bと、外側平坦面47cと、を有している。内側平坦面47aと外側平坦面47cは中心軸X2に対して略垂直な面であり、中心軸X2を中心とする環状の範囲に設けられている。外側平坦面45cは内側平坦面45aよりも上方に位置する。テーパ面47bは、中心軸X2を中心とする円錐台形状の面であり、テーパ面47bの一方の端部(小径側の端部)が内側平坦面47aに接続し、テーパ面47bの他方の端部(大径側の端部)が外側平坦面47cに接続している。
【0034】
成形型40によるプレス成形でレンズ1を形成する際に、胴型41に対して下型42の挿入部42aと上型43の挿入部43aがそれぞれ最も挿入される位置を、下型42や上型43におけるプレス移動端と呼ぶ。図3及び図6に示すように、下型42と上型43がそれぞれのプレス移動端に達した状態で、光学形成面44と光学形成面46、コバ部形成面45とコバ部形成面47がそれぞれ上下方向に所定の間隔を空けて対向する。
【0035】
一例として、大径部42bが胴型下端面41bに当て付く位置を、下型42におけるプレス移動端とすることができる。また、大径部43bが胴型上端面41cに当て付く位置を、上型43におけるプレス移動端とすることができる。あるいは、上型43において、大径部43bが胴型上端面41cに当て付くこと以外の構成によって、プレス移動端を定めてもよい。
【0036】
レンズ1の製造においては、成形型40の内部に、光学機能部10の母材となるガラスプリフォーム30とコバ部20とを配置して(図5参照)、下型42と上型43を接近させて光学機能部10とコバ部20を一体化させるプレス成形を行う(図6参照)。ガラスプリフォーム30は球体形状のガラスで構成されている。
【0037】
コバ部20の外面を黒化処理する場合、図1のようにレンズ1が完成した状態では、コバ部20の内周面23(特に、光学機能部10の外周面13に固定される部分)を後から黒化処理することが難しい。
【0038】
その一方で、成形型40によるプレス成形を行う前のコバ部20の母材(図2に示す環状部材31)に対して外面の黒化処理を行うと、プレス成形による母材からコバ部20への変形の際に、コバ部20の外面で部分的に金属の地金が露出して、黒化処理の効果が損なわれるおそれがある。特に、径方向に延展されると共にテーパ面21bやテーパ面22bのような非平坦部分(段差形状)が形成される前面部21や後面部22の箇所において、プレス成形の影響で金属の地金が露出しやすくなる。
【0039】
本実施形態のレンズの製造方法は、プレス成形を用いつつ、コバ部20の外面が確実に黒化処理されるレンズ1を得るものであり、その詳細を以下に説明する。
【0040】
本実施形態のレンズの製造方法は、第1成形ステップ、黒化処理ステップ、第2成形ステップを含んでいる。図1図4(B)、図5及び図6は、黒化処理ステップによって黒化処理が施された後のコバ部20を示しており、コバ部20の黒化された外面を太線で強調して示している。
【0041】
[第1成形ステップ]
図2及び図3は第1成形ステップを示している。第1成形ステップでは、成形型40によるプレス成形加工で、環状部材31(コバ部20の母材)からコバ部20を形成する。環状部材31は、成形型40に設置した際に中心軸X2に対して略垂直となる環状の平坦面32及び平坦面33と、平坦面32及び平坦面33の互いの内縁部分を接続する円筒状の内周面34と、平坦面32及び平坦面33の互いの外縁部分を接続する円筒状の外周面35と、を有している。
【0042】
第1成形ステップでは、図2に示すように、環状部材31を成形型40の下型42と上型43の間に保持する。環状部材31は、平坦面32をコバ部形成面45の外側平坦面45cに載せて、一部が外側平坦面45cよりも内径側(中心軸X2に近い位置)に張り出した状態で保持される。下型42は、大径部42bを胴型下端面41bに当接させたプレス移動端に保持され、挿入部42aが胴型41から離脱しないように下型42が下方から支持される。また、成形型40の内部を、環状部材31をプレス成形するのに適した温度に設定する。この温度は環状部材31の素材によって異なり、常温に設定する場合も、所定の温度まで加熱する場合もある。
【0043】
続いて、図示を省略するプレス装置を用いて、挿入部43aを胴型41に挿入した状態の上型43を下方に向けて押圧する。下降する上型43のコバ部形成面47が上方から環状部材31の平坦面33を押圧する。プレス加工前の平坦面32から平坦面33までの環状部材31の厚みは、下型42と上型43がそれぞれプレス移動端にあるときのコバ部形成面45とコバ部形成面47の間隔よりも大きく設定されている。従って、下型42と上型43を互いのプレス移動端まで接近移動させる際に、コバ部形成面45とコバ部形成面47による押圧力を受けて環状部材31が変形して径方向に延展する。
【0044】
より詳しくは、環状部材31は、中心軸X2に沿う方向で厚みを小さくしながら内径側及び外径側に延展する。上型43を図3に示すプレス移動端まで下降させると、平坦面32側の形状が、コバ部形成面45に沿う形状に変化して前面部21になる。つまり、内側平坦面45aを転写した形状の内側平坦面21aと、テーパ面45bを転写した形状のテーパ面21bと、外側平坦面45cを転写した形状の外側平坦面21cが形成される。また、平坦面33側の形状が、コバ部形成面47に沿う形状に変化して後面部22になる。つまり、内側平坦面47aを転写した形状の内側平坦面22aと、テーパ面47bを転写した形状のテーパ面22bと、外側平坦面47cを転写した形状の外側平坦面22cが形成される。
【0045】
コバ部20の内周面23は、内径側に延展した環状部材31の内周面34を元にして構成されており、光軸X1を中心とする略円筒形状である。コバ部20の外周面24は、外径側に延展した環状部材31の外周面35を元にして構成されており、光軸X1を中心とする略円筒形状である。
【0046】
[黒化処理ステップ]
第1成形ステップが完了したら、成形型40を分解して、成形後のコバ部20を取り出す。続いて、コバ部20の外面を黒化処理する黒化処理ステップを行う。図4(A)は、黒化処理前のコバ部20を示しており、図4(B)は黒化処理後のコバ部20を示している。
【0047】
黒化処理ステップでの黒化処理の方法として、例えば、金属の加熱による酸化、化成処理、メッキ処理、などを適用することができる。金属の加熱による酸化は、酸素を含む雰囲気下で加熱することによって、被処理物である環状部材31の外面を酸化させ、金属光沢を無くして黒化させる。加熱によって酸化しやすい金属素材として、例えば銅や鉄が挙げられる。化成処理の一例として、鉄製の被処理物である環状部材31をアルカリ水溶液に浸漬して、環状部材31の外面に黒色の酸化被膜(四三酸化鉄被膜)を形成する。メッキ処理の例として、被処理物である環状部材31の外面に黒色ニッケルメッキや黒色クロムメッキなどのメッキ加工を行う。
【0048】
黒化処理ステップの次に行う第2成形ステップは、ガラスプリフォーム30が軟化するガラス転移温度以上に加熱した状態で実施される。そのため、黒化処理ステップで黒化処理した箇所については、ガラス転移温度域まで加熱されても劣化や損傷を生じない耐熱性を備えることが求められる。上記の各方法は、この耐熱性の条件を満たすものである。
【0049】
光学機能部10に固定される前の単体の状態のコバ部20に対して黒化処理を行うことにより、光学機能部10に固定された後では黒化処理が難しい内周面23を含むコバ部20の全体を確実に黒化させることができる。
【0050】
黒化処理ステップでは、コバ部20の外面全体を一律な基準で黒化させてもよい。あるいは、コバ部20における黒化の程度を部分ごとに異ならせて、コバ部20の各部位ごとに適した遮光効果を設定してもよい。黒化の程度を部分ごとに異ならせる場合には、コバ部20の各部位ごとに異なる黒化の方法を用いることも可能である。
【0051】
例えば、コバ部20の内周面23については、光学機能部10を囲む光路の内面を構成しており、内面反射の抑制が特に重視される部位である。従って、黒化処理ステップにおいて、黒化用の層の厚みを大きくする、黒色度の高い黒化用材料を用いる、などの選択を行って、内周面23での迷光防止効果を向上させてもよい。
【0052】
コバ部20の前面部21や後面部22や外周面24については、鏡筒や他のレンズなどに対するレンズ1の位置決めに用いられる部位である。従って、黒化処理ステップにおいて、黒化用の層の厚みを小さくする、面精度に優れるタイプの黒化処理を選択する、などの選択を行ってコバ部20の外面の形状精度への影響を極力排除し、優れた位置決め精度を得られるようにしてもよい。
【0053】
[第2成形ステップ]
黒化処理ステップの完了後に第2成形ステップを行う。図5に示すように、第2成形ステップでは、コバ部20(外面を黒化済み)とガラスプリフォーム30を、成形型40の下型42と上型43の間に保持する。下型42は、大径部42bを胴型下端面41bに当接させたプレス移動端に保持される。また、挿入部42aが胴型41から離脱しないように下型42が下方から支持される。
【0054】
ガラスプリフォーム30は、下型42の光学形成面44に載せられる。光学形成面44の凹み形状によって、ガラスプリフォーム30が中心軸X2上の位置に保持される。なお、光学形成面44上へのガラスプリフォーム30の供給は、胴型41から挿入部42aを下方に抜いた状態で行ってもよいし、胴型41に挿入部42aを挿入した状態で胴型41の上端側から行ってもよい。
【0055】
コバ部20の前面部21が下型42のコバ部形成面45に載せられる。先の第1成形ステップにおいて、前面部21がコバ部形成面45を転写した形状に成形されているため、コバ部20を精度良く安定してコバ部形成面45上に保持させることができる。
【0056】
図5のようにガラスプリフォーム30とコバ部20を成形型40の内部に配置したら、ガラスプリフォーム30のガラス転移温度を超えるまで加熱してガラスプリフォーム30を軟化させる。そして、図示を省略するプレス装置を用いて、挿入部43aを胴型41に挿入した状態の上型43を下方に向けて押圧する。下降する上型43の光学形成面46と、下降が規制された下型42の光学形成面44との間でガラスプリフォーム30がプレスされて変形する。ガラスプリフォーム30は、中心軸X2に沿う方向で厚みを小さくしながら外径側に延展する。
【0057】
なお、第2成形ステップは窒素ガス雰囲気で行われ、コバ部20を酸化させる酸素が十分に含まれていないので、ガラスプリフォーム30と共にコバ部20が加熱される際に、コバ部20の酸化による黒化が生じない。そのため、第2成形ステップの前に、黒化処理ステップにてコバ部20(特に内周面23)を黒化処理する必要がある。
【0058】
上型43を図6に示すプレス移動端まで下降させると、ガラスプリフォーム30が環状部材31の内側領域で下型42と上型43によってプレスされた結果、光軸方向の両側に光学形成面44と光学形成面46の形状が転写された光学面11と光学面12を有する光学機能部10になる。また、ガラスプリフォーム30が外径側に向けて延展されて光学機能部10になる際に、光学機能部10の外周面13がコバ部20の内周面23に密着して互いに固定され、光学機能部10とコバ部20が一体化したレンズ1になる。光学機能部10の外周面13は、コバ部20の内周面23に対応した略円筒形状になる。
【0059】
先の第1成形ステップにおいて、コバ部20の後面部22が上型43のコバ部形成面47を転写した形状に成形されているため、第2成形ステップで上型43が図6のプレス移動端まで移動する際に、後面部22はコバ部形成面47からの強い押圧力を受けず、コバ部20は元の形状を維持する。従って、第2成形ステップの前後でコバ部20の形状は変化しない。
【0060】
第1成形ステップを行った段階のコバ部20と第2成形ステップを行った段階のコバ部20とを同一形状にして、第2成形ステップにおいてコバ部20に局所的な変形や表面積の増大が生じないようにしたことにより、コバ部20の外面に金属の地金が露出することを防ぎ、黒化処理ステップで行った黒化の効果を第2成形ステップでのプレス成形後にも維持することができる。
【0061】
第2成形ステップが完了した後で、所定の温度まで冷却してから成形型40を分解することによって、成形後のレンズ1を取り出す。このようにして、ガラスのプレス成形品である光学機能部10と金属製のコバ部20とからなるハイブリッド構造のレンズ1(図1)が形成される。
【0062】
図1に示すように、完成したレンズ1では、前面部21、後面部22、内周面23、外周面24に亘るコバ部20の外面全体が黒化されている。第1成形ステップで環状部材31からコバ部20への形状変更を行った後で、形状変更後のコバ部20に対して黒化処理ステップにて黒化処理を行い、黒化処理後の第2成形ステップではコバ部20の変形を抑制しているため、第1成形ステップにおける環状部材31からコバ部20への変形の影響を受けずに、コバ部20が確実に黒化されたレンズ1を得ることができる。
【0063】
特に、テーパ面21bやテーパ面22bのような非平坦部分は、黒化処理後にプレス成形で成形すると金属の地金が露出しやすい箇所であるが、このような非平坦部分についても確実に黒化させることができる。
【0064】
黒化処理ステップではコバ部20が単体の状態で黒化処理するので、効率的に作業を行うことができる。例えば、コバ部20の黒化処理に際して、光学機能部10の光学面11や光学面12を汚れや曇りから保護するためのマスキングを行う必要がない。
【0065】
なお、黒化処理ステップでは、コバ部20の全体を黒化処理の対象としてもよいし、特定の一部分を黒化処理の対象としてもよい。
【0066】
例えば、上記のように、コバ部20のテーパ面21bやテーパ面22bのような非平坦部分を含む箇所では、プレス成形による形状変化に伴って地金が露出しやすい。従って、少なくともコバ部20のうち、テーパ面21b及びその周辺、テーパ面22b及びその周辺を、黒化処理ステップでの黒化処理の対象領域に含むことが好ましい。
【0067】
また、前面部21における内側平坦面21aや外側平坦面21c、後面部22における内側平坦面22aや外側平坦面22cは、成形型40によるプレス成形時にコバ部20の径方向へ延展させる力を受ける部分である。このような延展部分は、段差、屈曲、凹凸などの顕著な形状変化が無くても、元々の黒化された面積に対して広げられることによって地金が露出する可能性がある。従って、内側平坦面21a、外側平坦面21c、内側平坦面22a、外側平坦面22cについても、黒化処理ステップでの黒化処理の対象に含めることで、より確実な遮光効果を得ることができる。
【0068】
また、黒化処理ステップでは、コバ部20の所定部分を意図的に黒化処理の対象から除外することも可能である。例えば、レンズ1を光学機器の鏡筒に組み込んだ際に、コバ部20の外周面24が鏡筒の内面に囲まれて保持され、外周面24には光路内の光が到達しない構造になる場合がある。このような場合には、外周面24の黒化処理を省略しても光学性能に影響を及ぼさないため、黒化処理ステップで外周面24を黒化処理しないという選択が可能である。
【0069】
黒化処理ステップにおいて、コバ部20の一部分のみを黒化処理する場合、当該部分以外の箇所をマスキングして黒化処理を行ってもよい。
【0070】
続いて、図7を参照して、本発明を適用したレンズの製造方法の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態は、第1成形ステップ、黒化処理ステップ、第2成形ステップの順に加工を行う点で、上記実施形態と共通する。図7(A)は、第1成形ステップが完了した段階のコバ部50Aを示している。図7(B)は、黒化処理ステップが完了した段階のコバ部50Bを示している。図7(C)は、第2成形ステップが完了して光学機能部10とコバ部50Cが一体化した状態のレンズ1を示している。図7(C)に示す光学機能部10については、上記実施形態と同様の構成や製造方法が適用されており、説明を省略する。
【0071】
上記実施形態の製造方法で製造されるコバ部20との違いとして、第2の実施形態では、第1成形ステップで成形した段階のコバ部50A及び黒化処理後のコバ部50Bと、第2成形ステップで成形したコバ部50Cとは、互いの形状が異なっている。
【0072】
つまり、第1成形ステップにおいてコバ部50Aを形成する第1の成形型の構成と、第2成形ステップにおいてコバ部50Cを成形する第2の成形型の構成が、互いに異なっている。第1の成形型と第2の成形型の図示は省略しているが、第1の成形型の下型及び上型におけるコバ部形成面の形状は、コバ部50A(50B)の前面部51及び後面部52の形状に対応し、第2の成形型の下型及び上型におけるコバ部形成面の形状は、コバ部50Cの前面部51及び後面部52の形状に対応している。なお、第1成形ステップでは光学機能部10の成形を行わないので、第1の成形型の下型及び上型は、上記実施形態の光学形成面44や光学形成面46に相当する光学形成面を省略した構成でもよい。
【0073】
図7(C)に示す第2成形ステップの完了後のコバ部50Cは、第1の方向Xaを向く外面として前面部51を有し、第2の方向Xbを向く外面として後面部52を有する。また、コバ部50Cは、光学機能部10の外周面13に固定される円筒状の内周面53と、レンズ1の最外縁を構成する円筒状の外周面54とを有する。
【0074】
前面部51は、光学面11に近い内径側から順に、内側平坦面51aと、テーパ面51bと、外側平坦面51cと、を有する。後面部52は、光学面11に近い内径側から順に、内側平坦面52aと、テーパ面52bと、外側平坦面52cと、を有する。内側平坦面51a、外側平坦面51c、内側平坦面52a、外側平坦面52cはそれぞれが光軸X1に対して略垂直な平面である。テーパ面51bとテーパ面52bはそれぞれ、光軸方向で第2の方向Xbに進むにつれて径が大きくなる(第1の方向Xaに進むにつれて径が小さくなる)円錐台形状の面である。従って、コバ部50Cは、各面の若干の寸法の相違などはあるものの、基本的に上記実施形態のコバ部20と同様の構成を備えており、非平坦部分(段差形状)であるテーパ面51bとテーパ面52bを有している。
【0075】
コバ部50のうち、内側平坦面51aと内側平坦面52aを含む領域を内側平坦部50aとし、テーパ面51bとテーパ面52bを含む領域を中間テーパ部50bとし、外側平坦面51cと外側平坦面52cを含む領域を外側平坦部50cとする。
【0076】
第1成形ステップでは、上記実施形態の環状部材31のようにシンプルな円環形状の金属製の環状部材(図示略)に対して、第1の成形型を用いてプレス成形を行って、図7(A)に示すコバ部50Aを成形する。第1成形ステップの完了後のコバ部50Aは、コバ部50Cのテーパ面51bとテーパ面52bに対応する部分として、段差面51dと段差面52dを有する。段差面51dと段差面52dはそれぞれ、内側平坦面51a、外側平坦面51c、内側平坦面52a、外側平坦面52cに対して略垂直な(光軸X1と平行な)円筒状の面である。なお、第1の成形型での下型及び上型の離型のしやすさを考慮して、段差面51dと段差面52dは、光軸X1と完全に平行な円筒面ではなく、テーパ面51bやテーパ面52bよりも光軸X1に対する傾斜角が小さい所定の傾き(抜き勾配)を有する円錐台形状の面であってもよい。
【0077】
黒化処理ステップでは、第1成形ステップで成形したコバ部50Aの外面に黒化処理を施して、外面が黒化されたコバ部50Bを形成する。黒化処理ステップでの黒化の方法は、上記実施形態と同様の方法を用いることができる。
【0078】
第2成形ステップでは、第2の成形型の下型及び上型がそれぞれ備える光学形成面によってガラスプリフォームをプレス加工して光学機能部10を成形する。また、第2の成形型の下型及び上型がそれぞれ備えるコバ部形成面によってコバ部50Bをプレス加工して、コバ部50Cを成形する。そして、光学機能部10の外周面13とコバ部50Cの内周面53とを密着固定させてレンズ1を形成する。
【0079】
第2の成形型の下型及び上型におけるコバ部形成面は、テーパ面51bの形状に対応するテーパ面と、テーパ面52bの形状に対応するテーパ面を備えている。そして、第2成形ステップでは、第2の成形型が備えるこれらのテーパ面が、コバ部50Bの段差面51dと段差面52dに接触して押圧し、段差面51dを変形させてテーパ面51bにし、段差面52dを変形させてテーパ面52bにする。当該変形の際に、コバ部50Bが径方向へ僅かに延ばされてコバ部50Cになる。つまり、コバ部50Bからコバ部50Cへの変形に伴って表面積が増加する。
【0080】
第2成形ステップでのコバ部50Bからコバ部50Cへの変形量は小さく、段差面51dと段差面52dの傾斜を僅かに変化させてテーパ面51bとテーパ面52bを形成すること以外は、第1成形ステップで成形したコバ部50Aの形状が保たれている。つまり、第1成形ステップで成形したコバ部50Aは、第2成形ステップで成形したコバ部50Cと近似の形状である。換言すれば、コバ部50Aを成形する第1の成形型のコバ部形成面と、コバ部50Cを成形する第2の成形型のコバ部形成面は、近似形状である。
【0081】
シンプルな平坦形状の環状部材を母材として非平坦部分(段差面51d及び段差面52d)を含むコバ部50Aを成形する第1成形ステップでは、成形に伴うコバ部50Aの変形量(表面積の増加量)が大きいため、第1成形ステップの前には黒化処理を行っていない。そして、コバ部50A(50B)の近似形状であるコバ部50Cを仕上げる第2成形ステップでは、黒化処理済みのコバ部50Bからコバ部50Cへの変形量(表面積の増加量)が小さく、コバ部50Cにおける地金の露出が生じにくい。従って、第2成形ステップでのプレス成形を行っても、コバ部50Cの外面の黒化が維持される。
【0082】
このように、第2の実施形態の製造方法においても、第1成形ステップにおける環状部材からコバ部50Aへの変形の影響を受けずに、第2成形ステップ後のコバ部50Cが確実に黒化されたレンズ1を得ることができる。
【0083】
以上の各実施形態では、光学機能部10と共にプレス成形された最終的なコバ部(20、50C)と同一形状又は近似形状のコバ部(20、50A)を第1成形ステップで形成し、当該コバ部に黒化処理ステップを行ってから、第2成形ステップで光学機能部(10)を成形してコバ部(20、50C)と一体化させている。このようにしてレンズ1を製造することによって、コバ部の黒化処理がプレス成形の影響を受けず、コバ部の各部を確実に黒化させて遮光性能に優れるレンズを得ることができる。
【0084】
出願人による研究の結果、第1成形ステップで成形した状態のコバ部を基準として、第2成形ステップでのコバ部の表面積の増加率が5%以内であると、第1成形ステップと第2成形ステップの間に行ったコバ部の黒化処理の効果が、第2成形ステップでのプレス成形によって損なわれずに維持できることが分かった。従って、本発明においては、第2成形ステップでのコバ部の表面積の増加率を5%以内にすることを条件としている。
【0085】
例えば、第2の実施形態のように、第1成形ステップで成形されるコバ部の形状と第2成形ステップで成形されるコバ部の形状とが異なる場合において、第2成形ステップでの設計上のコバ部の表面積の増加率を5%以内に設定する。あるいは、第1成形ステップや第2成形ステップでの成形の精度誤差を考慮したマージンをとって、第2成形ステップでの設計上のコバ部の表面積の増加率を5%よりも小さい所定の値に設定してもよい。
【0086】
第1の実施形態のように、第1成形ステップと第2成形ステップで同じ成形型を使用し、設計上は各成形ステップで成形されるコバ部が同一形状である場合は、第2成形ステップでのコバ部の表面積の増加率が0%であるため、上記条件を満たす。但し、各成形ステップの実施条件(例えば、温度)の違いや成形時の許容範囲内の精度誤差などに基づいて、第1成形ステップと第2成形ステップで実際に成形を行ったそれぞれのコバ部の形状がごく僅かに異なる可能性がある。このような場合においても、第2成形ステップでコバ部の表面積の増加率が5%以内に収まっているものを可、コバ部の表面積の増加率が5%を超えているものを不可、と選別する管理を行うことで、上記条件を満たすことができる。
【0087】
あるいは、第1の実施形態のように第1成形ステップと第2成形ステップで同じ成形型を用いつつ、第1成形ステップと第2成形ステップでの押圧力(成形型によるプレスの移動量)を異ならせて、第1成形ステップで成形されるコバ部の形状と第2成形ステップで成形されるコバ部の形状を近似形状(同一ではない形状)にさせることも可能である。例えば、第1成形ステップでは下型と上型の相対移動をプレス移動端の手前で止めて押圧力を僅かに弱く設定した予備加工を行い、第2成形ステップでは下型と上型をそれぞれプレス移動端まで移動させて本来の押圧力でプレス加工されたコバ部を形成する、という方法を適用することができる。この場合についても、第2成形ステップでのコバ部の表面積の増加率を5%以内にするという上記の条件を満たすように管理すればよい。
【0088】
また、コバ部20のテーパ面21bやテーパ面22b、コバ部50Cのテーパ面51b(段差面51d)やテーパ面52b(段差面52d)のような、光軸方向の位置が異なる2つの平坦部を接続する段差形状を有する場合、第1成形ステップで成形された段差形状の光軸方向高さと、第2成形ステップで成形された段差形状の光軸方向高さとの差を、0.1mm以下とすることが好ましい。この条件を満たすことにより、第2成形ステップにおいて段差形状の箇所での変形量を小さく抑えて、黒化処理されたコバ部の外面に地金が露出しにくい効果を得ることができる。
【0089】
例えば、第2の実施形態への適用例(図7)では、テーパ面51bの光軸方向高さt1と段差面51dの光軸方向の高さt2の差を0.1mm以下にし、テーパ面52bの光軸方向高さt3と段差面52dの光軸方向の高さt4の差を0.1mm以下にする。
【0090】
本発明の製造方法は、コバ部20の中間テーパ部20bやコバ部50Cの中間テーパ部50bのように、コバ部の内周面以外の箇所に非平坦部分を有するタイプのレンズに好適であるが、このタイプのレンズに限定されるものではなく、光軸方向の両側の外面全体が平坦な形状のコバ部を備えるレンズにも有用である。成形型40のような装置を用いてレンズをプレス成形する場合、プレス成形の際にコバ部に対して光軸方向への荷重が加わると、コバ部は径方向に延展される。コバ部の光軸方向の両側の外面が平坦形状である場合にも、径方向への延展に伴って当該外面に地金が露出しやすい状況になる。従って、第1成形ステップでのプレス成形後に、コバ部における平坦形状の前面部や平坦形状の後面部を黒化処理する黒化処理ステップを行うことにより、延展した後の前面部や後面部を確実に黒化させることができる。
【0091】
また、上記実施形態のレンズ1は、コバ部20(50C)が光軸方向の両側にテーパ面21b(51b)とテーパ面22b(52b)を有しているが、コバ部の光軸方向に向く両側の外面の一方にだけ非平坦部分を有し、光軸方向の他方の外面が平坦面のみで構成されるタイプのレンズについても、本発明の製造方法は有用である。
【0092】
上記実施形態のレンズ1は、コバ部20(50C)の非平坦部分としてテーパ面21b(51b)やテーパ面22b(52b)を備えているが、レンズのコバ部における非平坦部分の形状はこれに限定されない。例えば、コバ部の外面に凹部(溝)や突起や切り欠きを有する場合にも、こうした凹部や突起や切り欠きの箇所については、第1成形ステップと第2成形ステップの間に行う黒化処理ステップでの黒化処理が適している。
【0093】
上記実施形態のコバ部20(50C)は、光軸X1を中心とする周方向に向けて一様な形状が連続する構成であるが、周方向の一部でコバ部の形状が異なっていてもよい。例えば、コバ部の周方向の一部にのみ、テーパ面、凹部、突起、切り欠きなどが存在してもよい。
【0094】
上記実施形態では、成形型40の内部に球体形状のガラスプリフォーム30を配置してプレス成形を行っているが、光学機能部の母材であるガラスプリフォームは球体形状に限定されるものではない。
【0095】
上記実施形態のレンズ1ではコバ部20(50C)の材質を金属としたが、本発明を適用して製造するレンズのコバ部の材質は金属以外を選択することも可能である。例えば、光学機能部を構成するガラスとは異なるガラスでコバ部を構成してもよい。あるいは、コバ部をセラミックスで構成してもよい。
【0096】
本発明の実施の形態は上記実施形態やその変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【符号の説明】
【0097】
1 :レンズ
10 :光学機能部
11 :光学面
12 :光学面
13 :外周面
20 :コバ部
20a :内側平坦部
20b :中間テーパ部
20c :外側平坦部
21 :前面部(光軸方向を向く外面)
21a :内側平坦面(平坦部)
21b :テーパ面(非平坦部分、段差形状)
21c :外側平坦面(平坦部)
22 :後面部(光軸方向を向く外面)
22a :内側平坦面(平坦部)
22b :テーパ面(非平坦部分、段差形状)
22c :外側平坦面(平坦部)
23 :内周面
24 :外周面
30 :ガラスプリフォーム
31 :環状部材
32 :平坦面
33 :平坦面
34 :内周面
35 :外周面
40 :成形型
41 :胴型
41a :内周面
41b :胴型下端面
41c :胴型上端面
42 :下型
43 :上型
44 :光学形成面
45 :コバ部形成面
45a :内側平坦面
45b :テーパ面
45c :外側平坦面
46 :光学形成面
47 :コバ部形成面
47a :内側平坦面
47b :テーパ面
47c :外側平坦面
50A :コバ部(第1成形ステップ後)
50B :コバ部(黒化処理ステップ後)
50C :コバ部(第2成形ステップ後)
50a :内側平坦部
50b :中間テーパ部
50c :外側平坦部
51 :前面部(光軸方向を向く外面)
51a :内側平坦面(平坦部)
51b :テーパ面(非平坦部分、第2成形ステップで成形された段差形状)
51c :外側平坦面(平坦部)
51d :段差面(非平坦部分、第1成形ステップで成形された段差形状)
52 :後面部(光軸方向を向く外面)
52a :内側平坦面(平坦部)
52b :テーパ面(非平坦部分、第2成形ステップで成形された段差形状)
52c :外側平坦面(平坦部)
52d :段差面(非平坦部分、第1成形ステップで成形された段差形状)
53 :内周面
54 :外周面
X1 :光軸
X2 :成形型の中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7