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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147229
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】ロボットの制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060107
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 淳
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS15
3C707KS20
3C707LT13
3C707LT17
(57)【要約】
【課題】水平多関節型のロボットにおいて、複雑な操作や数学的演算を必要とせず、重力によるアームやハンドのたわみを簡単に補償する。
【解決手段】ロボット10において、旋回アーム21の基台側の軸をT軸、旋回アーム21と屈曲アーム(ブーメランアーム)22とを接続する軸をTH軸として、水平面内においてTH軸から見たハンド25,26の先端の移動方向の方位角に応じてたわみを補正する補正量を求め、この補正量に基づいて昇降機構27を駆動してたわみを補償する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも複数のアームを連結して構成されて基端が基台に支持された片持ち梁構造の連結体と、前記基台に設けられて前記連結体を昇降させる昇降機構とを有する水平多関節型のロボットの制御方法であって、
前記連結体は、第1アームと前記第1アームに接続された第2アームとを少なくとも備え、前記第1アームにおける前記基端の側の軸を第1軸、前記第1アームと前記第2アームとを接続する軸を第2軸として、水平面内において前記第2軸から見た前記連結体の先端の移動方向の方位角に応じて前記連結体の先端のたわみを補償する補償量を求め、前記補償量に基づいて前記昇降機構を駆動して前記たわみを補償する、制御方法。
【請求項2】
水平面内において前記第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して前記角度範囲ごとに前記補償量を設定し、前記連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲内にあるかに応じて前記昇降機構の駆動に用いられる前記補償量を選択する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
水平面内において前記第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して前記角度範囲ごとに、前記連結体の伸ばし量と前記補償量との関係を規定する補正カーブを設定し、前記連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲内にあるかに応じて選択された前記補正カーブに前記連結体の伸ばし量を適用して前記昇降機構の駆動に用いられる前記補償量を決定する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
隣接する前記角度範囲の間で前記補正カーブを接続する補間処理を実行する、請求項3に記載の制御方法。
【請求項5】
前記第2軸の位置に応じて異なる前記補正カーブが設定される、請求項3に記載の制御方法。
【請求項6】
前記第1アームは前記第1軸において前記基台に接続するアームであり、前記第2アームは屈曲したアームであって屈曲の位置に前記第2軸を有し、前記第2アームの両端にそれぞれ第3アームが接続する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項7】
少なくとも複数のアームを連結して構成されて基端が基台に支持された片持ち梁構造の連結体と、前記基台に設けられて前記連結体を昇降させる昇降機構とを有し、前記連結体が第1アームと前記第1アームに接続された第2アームとを少なくとも備え、前記第1アームにおける前記基端の側の軸を第1軸、前記第1アームと前記第2アームとを接続する軸を第2軸とする水平多関節型のロボットを制御する制御装置であって、
水平面内において前記第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して前記角度範囲ごとの補償量を格納する記憶部と、
水平面内において前記第2軸から見た前記連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲にあるかに応じて前記記憶部から前記補償量を読み出し、読み出した前記補償量によって前記昇降機構を制御する演算部と、
を有する制御装置。
【請求項8】
少なくとも複数のアームを連結して構成されて基端が基台に支持された片持ち梁構造の連結体と、前記基台に設けられて前記連結体を昇降させる昇降機構とを有し、前記連結体が第1アームと前記第1アームに接続された第2アームとを少なくとも備え、前記第1アームにおける前記基端の側の軸を第1軸、前記第1アームと前記第2アームとを接続する軸を第2軸とする水平多関節型のロボットを制御する制御装置であって、
水平面内において前記第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して前記角度範囲ごとに設定された、前記連結体の伸ばし量と補償量との関係を規定する補正カーブを格納する記憶部と、
水平面内において前記第2軸から見た前記連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲にあるかに応じて前記記憶部から前記補正カーブを読み出し、読み出した前記補正カーブに対して前記連結体の伸ばし量を適用して補償量を決定し、決定された前記補償量によって前記昇降機構を制御する演算部と、
を有する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットの制御に関し、特に、ロボットのアームやハンドの先端のたわみを補正する制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
それぞれが水平面内で回転する複数のアームを連結して構成された水平多関節型のロボットは、ワークの搬送などに用いられている。このようなロボットでは、基台に対して回転可能に保持されたアームの先端に別のアームを接続し、当該別のアームの先端にさらに別のアームあるいはハンドを接続するというように、アームを連結して構成されている。したがって、基台から見ると、アームやハンドが片持ち梁構造で接続されていることになる。これらのアームやハンドは、それぞれが水平方向に延びているはずであるが、それ自身の質量のために先端が鉛直方向下方に向かってたわみ、特に先端のアームあるいはハンドにおいてたわみが最大となる。たわみ量は、ロボットの姿勢、例えばアーム全体が折り畳まれているが拡げられて伸ばされているかによって異なる。たわみの結果、ロボットの先端の位置の高さは、各アームやハンドが厳密に水平になっていると想定したときの高さよりも低くなるので、ロボットを移動させるときには、高さ方向の座標値に関し、たわみ量に応じた補償を行う必要がある。
【0003】
複数のアクセスポイントの間でのワークを搬送するときにこのようなロボットを使用する場合、アクセスポイントごとにアームのたわみ量が異なるとしても、ロボットのティーチングを行えば、ティーチング自体がたわみを含んだ状態でロボットの位置を指定する動作であるので、たわみに対する補正が自動的に行われる。しかしながら、アクセスポイントごとにティーチングを行ってたわみの補正を行うことは煩雑である。また、先端の軌道が直線となるように2つのアクセスポイントでロボットを移動させる場合、移動中にたわみ量が変化するため、両端のアクセスポイントに対してそれぞれティーチングを行ったとしても、ロボットの実際の軌道が直線からずれるおそれがある。
【0004】
ロボットのアームのたわみを補正するものとして、特許文献1は、アームの傾斜を検出する傾斜角センサを先端アームの自由端に取り付け、アームに組み込まれたピエゾアクチュエータを傾斜角センサでの検出結果に基づいて駆動して、アームを水平に維持することを開示している。特許文献2は、アームを伸ばす方向によらずにたわみの特性が同じであるロボットに関し、アーム先端の水平移動量とたわみ量との関係を実測し、実測された関係に基づいてアームの水平移動量からたわみの補償量を算出することを開示している。特許文献3は、ロボットを第1教示点から第2教示点まで移動させるときに、アームに生ずるたわみを補償する補償量を徐々に小さくすることを開示している。
【0005】
特許文献4は、垂直多関節型ロボットにおける重力による減速機ねじれの補償に関するものであるが、教示点間の距離がある長さ以上となったときに、それらの教示点の間に1以上の補間点を定め、補間点での軌跡のずれ量を算出して補間点においても減速機ねじれの補償を行うことを開示している。さらに特許文献5は、ロボットにおいてアーム先端に取り付けられたツールとワークとの間に作用する力が比較的大きくてロボットの関節軸がたわむときに、ツールとワークとの間に作用する力またはモーメントを検出し、これを関節軸の力またはモーメントに変換して関節軸でのたわみを算出し、算出されたたわみを補償するように関節軸に対する位置指令または速度指令を補正することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-178689号公報
【特許文献2】特開2000-183128号公報
【特許文献3】特許第7133757号公報
【特許文献4】特開平8-118270号公報
【特許文献5】特開2008-296310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水平面内で回転するアームやハンドを連結して構成されたロボットにおける重力による先端アームあるいはハンドのたわみを補正する方法として、特許文献1に記載された方法は、傾斜角センサやピエゾアクチュエータを必要とするので、ロボットの構成を複雑にするとともにコストの上昇を伴ない、そのため、特に既存のロボットにおいて容易に実施することが難しい。特許文献2に記載された方法は、アームを伸縮するときに先端がロボットの中心を通る直線に沿って移動するロボットであることを前提とするので、アームの伸縮に伴うアームの動きがより複雑なロボットには適用することができない。特許文献3に記載された方法では、ロボットの軌道によっては補償量を単純に減少させてもたわみを補償できないことがある、という課題がある。
【0008】
本発明の目的は、水平面内で回転するアームやハンドを連結して構成されてアームの動きが複雑なロボットにおいて、複雑な操作や数学的演算を必要とせず、重力によるアームやハンドのたわみを簡単に補償できる制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、制御方法は、少なくとも複数のアームを連結して構成されて基端が基台に支持された片持ち梁構造の連結体と、基台に設けられて連結体を昇降させる昇降機構とを有する水平多関節型のロボットの制御方法であって、連結体は、第1アームと第1アームに接続された第2アームとを少なくとも備え、第1アームにおける基端の側の軸を第1軸、第1アームと第2アームとを接続する軸を第2軸として、水平面内において第2軸から見た連結体の先端の移動方向の方位角に応じて連結体の先端のたわみを補償する補償量を求め、補償量に基づいて昇降機構を駆動してたわみを補償する。
【0010】
一態様の制御方法によれば、第2軸から見た実際のハンドの移動方向に応じて補償量を求めるので、複雑な操作や数学的演算を必要とせず、重力によるアームやハンドのたわみを簡単に補償できるようになる。
【0011】
一態様の制御方法では、水平面内において第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して角度範囲ごとに補償量を設定しておき、連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲内にあるかに応じて昇降機構の駆動に用いられる補償量が選択されるようにすることができる。この構成では、角度範囲ごとのたわみ補償量は予め設定されていて実際のハンドの移動方向に応じて補償量を選択するので、重力によるアームやハンドのたわみをより簡単に補償できるようになる。
【0012】
一態様の制御方法では、水平面内において第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して角度範囲ごとに、連結体の伸ばし量と補償量との関係を規定する補正カーブを設定しておき、連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲内にあるかに応じて選択された補正カーブに対して連結体の伸ばし量を適用して昇降機構の駆動に用いられる補償量が決定されるようにしてもよい。この構成では、角度範囲ごとの補正カーブは予め設定されていて実際のハンドの移動方向に応じた補正カーブに対して連結体のたわみ補償量を得るので、重力によるアームやハンドのたわみをより簡単に補償できるようになる。この場合、隣接する角度範囲の間で補正カーブを接続する補間処理を実行することが好ましい。補間処理を実行することによって、隣接する角度範囲の境界を跨ぐようにロボットを移動させるときに、補償量が大きく変化して例えばロボットの動作エラーが引き起こされるなどの事態の発生を予防することができる。また、第2軸の位置に応じて異なる補正カーブが設定されるようにしてもよい。第2軸の位置に応じて異なる補正カーブを設定することにより、例えば、アームを伸ばす方向によってたわみ量の特性が異なるロボットにおいてもたわみの補償を的確に行えるようになる。
【0013】
一態様の制御方法が適用されるロボットでは、例えば、第1アームは第1軸において基台に接続するアームであり、第2アームは屈曲したアームであって屈曲の位置に第2軸を有し、第2アームの両端にそれぞれ第3アームが接続する。この制御方法を適用することによって、このようなロボットにおけるたわみの補償を容易に行うことができるようになる。
【0014】
一態様の制御装置は、少なくとも複数のアームを連結して構成されて基端が基台に支持された片持ち梁構造の連結体と、基台に設けられて連結体を昇降させる昇降機構とを有し、連結体が第1アームと第1アームに接続された第2アームとを少なくとも備え、第1アームにおける基端の側の軸を第1軸、第1アームと第2アームとを接続する軸を第2軸とする水平多関節型のロボットを制御する制御装置であって、水平面内において第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して角度範囲ごとの補償量を格納する記憶部と、水平面内において第2軸から見た連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲にあるかに応じて記憶部から補償量を読み出し、読み出した補償量によって昇降機構を制御する演算部と、を有する。
【0015】
一態様の制御装置では、水平面内において第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して角度範囲ごとに補償量を設定し、その補償量を予め記憶部に格納しておくので、連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲内にあるかに応じて昇降機構の駆動に用いられる補償量を容易に決定でき、複雑な操作や数学的演算を必要とせず、重力によるアームやハンドのたわみを簡単に補償できるようになる。
【0016】
別の態様の制御装置では、少なくとも複数のアームを連結して構成されて基端が基台に支持された片持ち梁構造の連結体と、基台に設けられて連結体を昇降させる昇降機構とを有し、連結体が第1アームと第1アームに接続された第2アームとを少なくとも備え、第1アームにおける基端の側の軸を第1軸、第1アームと第2アームとを接続する軸を第2軸とする水平多関節型のロボットを制御する制御装置であって、水平面内において第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して角度範囲ごとに設定された、連結体の伸ばし量と補償量との関係を規定する補正カーブを格納する記憶部と、水平面内において第2軸から見た連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲にあるかに応じて記憶部から補正カーブを読み出し、読み出した補正カーブに対して連結体の伸ばし量を適用して補償量を決定し、決定された補償量によって前記昇降機構を制御する演算部と、を有する。
【0017】
別の態様の制御装置では、平面内において第2軸の周りを複数の角度範囲に分割して角度範囲ごとに設定された、連結体の伸ばし量と補償量との関係を規定する補正カーブを予め記憶部に格納しておき、連結体の先端の移動方向の方位角がどの角度範囲内にあるかに応じて補正カーブを選択し、選択された補正カーブに対して実際のアーム伸ばし量を適応してたわみの補償量を決定するので、複雑な操作や数学的演算を必要とせず、重力によるアームやハンドのたわみを簡単かつ正確に補償できるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水平面内で回転するアームやハンドを連結して構成されてアームの動きが複雑であるロボットにおいて、複雑な操作や数学的演算を必要とせず、重力によるアームやハンドのたわみを簡単に補償できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の一形態の制御方法が適用されるロボットの一例を示す図である。
図2】たわみの補償量の決定を説明する図である。
図3】補正カーブを説明する図である。
図4】補正カーブの決定方法を説明する図である。
図5】補償量データの補間を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施の一形態の制御方法が適用されるロボットの一例を示す図であって、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は概略斜視図である。なお、図1において、(a),(b),(c)は、ロボット10のそれぞれ異なる姿勢に対応している。図においてX,Y,Zで示される矢印は、ロボット10に関して定義された三次元直交座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸の方向を示している。Z軸は垂直方向の軸である。
【0021】
図1に示すロボット10は、ガラス基板などの板状のワークの搬送に用いられるロボットである。ここに示す例ではロボット10は、トランスレーション型とも呼ばれる水平多関節型のロボットであり、基台20と、基端側が基台20に接続された旋回アーム21と、旋回アーム21の先端に接続された屈曲アーム22と、それぞれ屈曲アーム22に接続された2本の先端アーム23,24と、先端アーム23,24にそれぞれ接続された2つのハンド25,26とを備えている。旋回アーム21は、第1アームに相当するものであって、基台20内に設けられた昇降機構27によりZ軸方向すなわち高さ方向に昇降可能であるとともに、昇降機構27内に設けられたモータによって駆動されて水平面内を回転可能である。旋回アーム21の水平面内での回転の中心をT軸とする。旋回アーム21と屈曲アーム22と先端アーム23,24とハンド25,26とによって、基端が基台20に支持された片持ち梁構造の連結体が構成されており、昇降機構27はこの連結体を昇降させる。
【0022】
屈曲アーム22は、L字形(すなわちブーメラン形状)に屈曲したアームであって、その屈曲の位置において旋回アーム21の他端に接続し、旋回アーム21に内蔵されたモータ(不図示)によって駆動されて水平面内を回転可能であり、この回転の軸をTH軸とする。L字形状の屈曲アーム22には2つの端部が存在するが、一方の端部に先端アーム23が接続し、他方の端部に先端アーム24が接続する。屈曲アーム22は第2アームに相当し、先端アーム23,24は第3アームに相当する。
【0023】
一方の先端アーム23は、その基端側で屈曲アーム22に接続し、屈曲アーム22に内蔵されたモータ(不図示)によって駆動されて水平面内を回転可能である。先端アーム23のこの回転の軸をRR軸とする。一方のハンド25は、一方の先端アーム23の先端に接続しており、先端アーム23に内蔵されたモータ(不図示)によって駆動されて水平面内を回転可能である。ハンド25のこの回転の軸をAR軸とする。同様に他方の先端アーム24は、その基端側で屈曲アーム22に接続し、屈曲アーム22に内蔵されたモータ(不図示)によって駆動されて水平面内を回転可能であって、この回転の軸をRL軸とする。他方のハンド26は、他方の先端アーム24の先端に接続しており、先端アーム24に内蔵されたモータ(不図示)によって駆動されて水平面内を回転可能であって、この回転の軸をAL軸とする。先端アーム23,24間の干渉やハンド25,26間の干渉を防ぐために、先端アーム23,24及びハンド25,26の各々が回転することによって形成される回転平面は、高さ方向下側から一方の先端アーム23の回転平面、一方のハンド25の回転平面、他方の先端アーム24の回転平面、他方のハンド26の回転平面の順で配置している。自重などによるたわみの影響を考慮しなければこれらの回転平面は水平である。
【0024】
図1(a)に示すように、ロボット10には、このロボット10の各軸のモータを制御し駆動するための制御装置(ロボットコントローラ)50が接続している。制御装置50は、ロボット10の制御に必要な各種のパラメータを格納する記憶部51と、記憶部51に格納されたパラメータを参照しつつ各モータの制御に必要な演算を行う演算部52とを備えている。
【0025】
図1に示すロボット10では、先端アーム23,24やハンド25,26が折り畳まれた状態で旋回アーム21がY方向に伸び、両方のハンド25,26が旋回アーム21の上に重なるようにY方向に伸び、かつ、AR軸及びAL軸がT軸とTH軸を結ぶ直線上でT軸の近傍にあるような姿勢が原点位置の姿勢である。またこのロボット10では、水平面内で考えてハンド25,26の各々についてその長手方向に伸びる中心線あるいはその延長上にTH軸が存在するように、各軸のモータが制御される。そしてこのロボット10では、アクセスポイントに移動した状態において、旋回アーム21の伸びる方向とY方向とがなす角は+aと-a(aは例えば約54°)のいずれかであり、アクセスポイント間で移動するときは、旋回アーム21は、移動しないか、+aから-aあるいは-aから+aへと移動する。またブーメランアームを使用するロボットであり、ハンド25,26の両方が同時に伸びることはなく、ワークの受け取りや受け渡しを行うときもハンド25,26のいずれか一方だけが伸ばされる。図1(b)に示している状態では、一方のハンド25は伸ばされているが、他方のハンド25は折り畳まれている。ハンド25,26について伸ばされているかいないかは、例えば、そのハンドがTH軸に被さっていなければそのハンドが伸ばされている、と判断することができる。
【0026】
ロボット10は、アーム及びハンドをその全体としてみたときに、T軸を支点とする片持ち梁構造であるということができる。そのため、アーム及びハンドの自重によってたわみが生じる。たわみにより、例えばハンド25,26の先端の位置は、たわみがないとした場合よりも重力方向下方にずれる。このずれを補償するためには、たわみの補償量を決定して昇降機構27によってその補償量だけ旋回アーム21を上昇させることにより、アーム及びハンドの全体を上昇させばよい。本実施形態の制御方法は、たわみの補償量を求めることによってロボット10を制御する制御方法である。
【0027】
たわみは、アームやハンドが伸ばされているときの方が大きい。上記のようにハンド25,26の両方が同時に伸ばされることはない。また、たわみの補償は、一般に、アクセスポイントへの移動あるいはアクセスポイントからの移動に際して必要となる。そこで、伸ばされている方のハンドに着目してたわみの補償を行うこととする。そこで本実施形態では、ハンド25,26のいずれかの先端部が下方にたわんだときの補償量を決定する。図2は、本実施形態でのたわみの補償量の決定を説明する図である。
【0028】
上述したようにワークの搬送にロボット10を使用しているときは、旋回アーム21は、水平面内すなわちXY平面内においてT軸を旋回中心として、Y方向に対して反時計回り方向に角度aだけ回転した状態(これを配置Aと呼ぶ)と時計回り方向に角度aだけ回転した状態(これを配置Bとよぶ)のいずれかの状態で静止しているか、これら2つの配置A,B間で移動中である。旋回アーム21の先端であって屈曲アーム22が取り付けられる位置がTH軸であるが、ハンド25,26のうちの伸ばされている方、すなわちアクセスポイントにアクセスする方のハンドの伸びる方向(移動方向)をTH軸から見た角度をハンドの方位角と定義する。上述したようにハンド25,26の長手方向に伸びる中心線またはその延長上にTH軸が位置するので、このようにハンドの方位角を定めることは合理的である。X軸方向を0°として、方位角は、-180°以上180°未満の値をとる。図2において大きな矢印は、アクセスポイントにアクセスするときにハンドが伸ばされる方向すなわち移動方向を示している。例えばTH=-90°は、アクセスポイントに向かって動くためにハンドがTH軸からみて-90°方向に移動することを示している。なお図2では、ハンドの移動方向を示す大きな矢印が6個描かれているが、ロボット10では、実際にアクセスポイントにアクセスするときのアクセス方向はこの6方向に限られる。
【0029】
このロボット10においてアーム21~24及びハンド25,26からなる連結体は、T軸位置を支点とする片持ち梁構造であり、そのたわみが最大となるのは、XY平面においてT軸位置からTH軸位置に向かう方向に沿ってアームやハンドが伸びるときである。図2において矢印p,qは、それぞれ、配置A,Bにおいてたわみが最大となるハンドの移動方向を示している。方位角が異なれば、たわみの量も異なってくる。そこで、TH軸の周りで90°ごとに分割して分割された領域ごとにたわみの補償量を定める。方位角の範囲は-180°以上180°未満としているが実際には円周の分割であることを考慮して、TH軸の周りでの方位角の範囲を(1)-180°以上-135°未満、(2)-135°以上-45°未満、(3)-45°以上45°未満、(4)45°以上135°未満、及び(5)135°以上180°未満の5個の角度範囲に分割する。図2において、(1)~(5)の角度範囲は、配置Aに関してはそれぞれA1~A5であり、配置Bに関してはそれぞれB1~B5である。そして、このような角度範囲ごとに、たわみの補償量を設定する。例えば配置Aに関し、たわみが最大となる方向pは角度範囲A3内であって角度範囲A4よりも角度範囲A2に近い方向である。そこで、たわみ補償量を
角度範囲A3での補償量>角度範囲A2での補償量>角度範囲A4での補償量
となるように設定する。
【0030】
配置Bに関しては、角度範囲B1,B5は、円周を90°ごとに分割したときに方位角の範囲の上限と下限が含まれていたために便宜的に角度範囲を2つの角度範囲に分割したものであるから、角度範囲B1,B5については同じ補償値が設定される。そして、たわみが最大となる方向qと各角度範囲との関係から、
角度範囲B1での補償量=角度範囲B5での補償量>角度範囲B2での補償量>角度範囲B4での補償量
となるようにたわみ補償量が設定される。なお、ロボット10では、屈曲アーム22でのTH軸からRR軸までの距離とRL軸までの距離とが同じである必要はなく、先端アーム23の長さと先端アーム24の長さとが同じである必要はなく、さらに、ハンド25の長さとハンド26の長さが同じである必要はないので、配置Aでの補償量と配置Bでの補償量は等しくなくてもよい。例えば、角度範囲A3でのたわみ補償量は、角度範囲B1やB5での補償量と異なっていてもよい。
【0031】
角度範囲ごとのたわみ補償量は、制御装置50の記憶部51に格納される。制御装置50がロボット10を制御し駆動するときは、制御装置50の演算部52は、ロボット10に対する指令に基づくハンドの動きからその動きが方位角のどの角度範囲内での動きか判別し、判別結果に基づいて記憶部からたわみ補償量を読み出したたわみ補償量に基づいて昇降機構27を制御する。これにより、アームやハンドにおけるたわみが補償されてロボット10をアクセスポイントに正確に位置づけることが可能になるとともに、アクセスポイント間の移動の軌跡も正確に制御できるようになる。
【0032】
このように、ハンドの伸びる方向である方位角をTH軸の周りで複数の角度範囲に分割し、分割した角度範囲ごとにたわみの補償量を設定することにより、たわみの補償量の算出のための演算量を低減できて簡単にたわみの補償を行うことができる。
【0033】
上述したたわみ補償量の設定方法では、ハンドの方位角を複数の角度範囲に分割し、分割された角度範囲ごとに1つのたわみ補償量を定めているが、より的確にたわみ補償量を決定するために、実際のロボットの姿勢を考慮することが好ましい。そのために、方位角についての分割された角度範囲ごとに補正カーブを定め、補正カーブを用いてたわみ補償量を定めることができる。補正カーブとは、アームの伸ばし量に対するたわみ補償量を表すものである。アームの伸ばし量としては、例えば、XY平面におけるT軸からRR軸またはRL軸までの距離、もしくは、T軸からAR軸またはAL軸までの距離を用いることができる。これらの距離は、連結体の伸ばし量である。図2に示した例では、補正カーブには、補正カーブ1,3,5,7の4通りがある。補正カーブ1は角度範囲B1,B5に対して使用され、補正カーブ3は角度領域A2,B2に対して使用され、補正カーブ5は角度領域A3に対して使用され、補正カーブ7は角度領域A4,B4に対して使用される。図3(a)に示すように、補正カーブ1,5は、中央部が高原状の平坦部となった山型の形状である。ただし、補償量の値自体は補正カーブ1と補正カーブ5とで異なっている。図3(b)に示すように、補正カーブ3,7は、いずれも単純な山型の形状であるが、補償量の値自体は異なっている。補正カーブの形状は、図3に示したものに限定されるものではない。
【0034】
図4は、補正カーブの求め方を説明する図である。例えば、アーム伸ばし量とたわみ補償量との関係を2点から5点で求め、それらの関係を直線L1あるいは折れ線L2によって近似することにより、補正カーブを求めることができる。このように求められた補正カーブは、制御装置50の記憶部51に格納される。制御装置50がロボット10を制御し駆動するときは、制御装置50の演算部52は、ロボット10に対する指令に基づくハンドの動きからその動きが方位角のどの角度範囲内での動きであるかを判別し、判別結果に基づいて記憶部から補正カーブを読み出し、アームの伸ばし量を補正カーブにあてはめてたわみ補償量を求め、この補償量に基づいて昇降機構27を制御する。これにより、アームやハンドにおけるたわみが保証されてロボット10をアクセスポイントに正確に位置づけることが可能になるとともに、アクセスポイント間の移動の軌跡も正確に制御できるようになる。
【0035】
ロボット10の通常に動作させてハンドをアクセスポイントまで移動させるときは、両方のハンドについてアームとハンドとが折り畳まれた状態から一方のハンドを対象のアクセスポイントまで延ばし、その後、そのハンドを折り畳み、アームとハンドとを全て折り畳んだ状態で次のアクセスポイントに到達可能な位置まで旋回アーム21と屈曲アーム22とを駆動し、その後、一方のハンドを次のアクセスポイントにまで延ばす。したがって、ハンドが伸ばされた状態で方位角に関する上述した角度範囲を跨ぐことは起こらない。しかしながらティーチング時などに角度範囲の跨ぎが発生する恐れがある。角度範囲が異なるとたわみ補償量や補正カーブが異なるので、ロボット10が角度範囲を跨いだときにZ軸方向にロボット10が大きく移動し、ロボット10の動作エラーなどが発生することがある。そのような動作エラーの発生を防ぐためには、角度範囲の境界付近で両方の角度範囲の補正カーブが滑らかに接続するような補間処理を行うことが好ましい。図5はXY座標系でのジョイント位置とたわみ補償量との関係を示すグラフであって、(a)は補間を行わない場合を示し、(b)は補間を行った場合を示す。この図から、補間を行うことによって、ジョイント位置が変化して角度範囲の跨ぎが起きたときであっても補償量が大きく変化することがないことが分かる。このような補間処理は、制御装置50において演算部52が実行する。
【0036】
以上説明した実施形態によれば、センサを設けたり複雑な演算を行なったりすることなく、重力によるアームやハンドのたわみを容易に補償することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…ロボット;20…基台:21…旋回アーム;22…屈曲アーム;23,24…先端アーム:25,26…ハンド;50…制御装置;51…記憶部;52…制御部。
図1
図2
図3
図4
図5