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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147241
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】電動弁の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
F16K31/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060135
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】小池 亮司
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062BB31
3H062CC02
3H062DD01
3H062GG01
3H062HH04
3H062HH08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】本発明は、比較的簡単な組立工程によって弁ポートの弁開度を所定の弁開度に設定することができ、ゼロパルス時の流量のばらつきを低減して微小流量域の制御性の向上を図ることができる電動弁を提供することを目的とする。
【解決手段】電動弁の製造方法は、弁閉基準点設定工程と、回転基準点設定工程と、固着工程と、を備える。固着工程では、弁閉基準点に設定したロータ軸54と、回転基準点に設定したマグネットロータ55と、について、マグネットロータ55を押さえ治具60で押さえ付けた状態で、マグネットロータ55等に対してロータ軸54を軸線L回りにおける一方側の弁開方向に相対回転させ、ロータ軸54とマグネットロータ55との相対的な回転角度が所定設定量になるように設定し、所定設定量を保持した状態でマグネットロータ55とロータ軸54とを互いに固着する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主弁室および主弁ポートを備える筒状の弁本体と、前記主弁ポートを開閉可能に設けられ内部に副弁ポートを備える主弁体と、前記副弁ポートに近接又は離間する副弁体と、軸線回りに回転可能に設けられ前記副弁体を軸線方向に進退駆動するロータ軸と、前記ロータ軸を支持する支持部材と、前記ロータ軸とともに軸線回りに回転するマグネットロータと、前記弁本体に装着されて前記マグネットロータを収容するケースと、前記弁本体に装着されて前記マグネットロータを囲むステータコイルと、を備える電動弁を、前記マグネットロータを前記軸線方向の一方側から他方側に向かって押さえ付ける押さえ治具を用いて製造する電動弁の製造方法であって、
前記ケースおよび前記ステータコイルを前記弁本体に装着しない状態で、前記副弁体を前記副弁ポートに着座させて、前記副弁ポートが開かれた開状態から前記副弁ポートが閉じられた閉状態に切り替わる点である、前記ロータ軸の弁閉基準点を設定する弁閉基準点設定工程と、
前記マグネットロータが前記軸線方向の他方端に達した点である、前記マグネットロータの回転基準点を設定する回転基準点設定工程と、
前記ロータ軸と前記マグネットロータとを互いに固着する固着工程と、を備え、
前記固着工程において、前記弁閉基準点設定工程で前記弁閉基準点に設定した前記ロータ軸と、前記回転基準点設定工程で前記回転基準点に設定した前記マグネットロータと、について、前記マグネットロータを前記押さえ治具で押さえ付けた状態で、前記マグネットロータ、前記支持部材、前記主弁体および前記弁本体に対して前記ロータ軸を前記軸線回りにおける一方側の弁開方向に相対回転させ、前記ロータ軸と前記マグネットロータとの相対的な回転角度が所定設定量になるように設定し、前記所定設定量を保持した状態で、前記マグネットロータと前記ロータ軸とを互いに固着するようにした、ことを特徴とする電動弁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機や冷凍機などの冷凍回路に用いられる電動弁は、モータ部のケース内にマグネットロータを配設し、マグネットロータのロータ軸の下部に弁体を保持しており、ロータ軸の駆動雄ネジがケース内の支持部材の駆動雌ネジに螺合され、マグネットロータを回転させてネジ送り作用により弁体で弁ポートを開閉するように構成されている。近年、空気調和機や冷凍機には省エネ性の向上が盛んに検討されており、その冷凍回路に使用される電動弁にも同様の性能が求められている。電動弁に求められる性能としては、例えば微小流量域の制御性の向上や、流量ばらつきの低減化などが挙げられる。
【0003】
特に、ルームエアコン(RAC)用の電動弁では、業務用の空気調和機(PAC、ビルマルチ等)と異なり、電動弁の弁体に遮断性能が不必要な仕様のものがあり、マグネットロータの回転基準点となるゼロパルス(0pls)時に弁体(ニードル)が弁座(弁ポート)に着座しない弁開仕様が採用され、この場合、微小流量域の制御性よりゼロパルス時における微小流量の流量公差を縮小させることが求められている。すなわち、ゼロパルス時の流量は、電動弁の組立精度や使用部品の精度に依存して大きくばらつくことがあり、このばらつきを低減させることが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、使用時の弁軸の最下降位置である制御用原点位置を定める機構と、制御用原点位置よりさらに弁軸が下降した組立用基準位置を検出するための組立用ストッパ機構(可動ストッパおよび固定ストッパ)と、を備える電動弁について、流量等の制御精度を向上する組立方法が開示されている。この組立方法では、組立用モータにより弁軸を一方向に回転させ、その回転に要する負荷トルクの変化率を算出し、当該変化率がしきい値を超えた位置を組立用基準位置として設定する。また、弁体を組立用基準位置に位置させた状態で、弁軸における一の下降量を、弁体の着座位置から可動ストッパが固定ストッパに当接するまでの設計値としての下降量とし、弁軸における他の下降量を、弁体の着座位置から制御用原点位置までの設計値としての下降量とし、一の下降量から他の下降量を差し引いた量だけ、弁軸を逆回転させることで、弁体を上昇させて制御用原点位置を設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6762046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電動弁の組立方法では、弁軸の回転に要する負荷トルクの変化率を算出することや、弁軸の設計値としての下降量の差に基づいて弁軸を逆回転させる等、組立用モータ用いて弁軸を回転駆動する必要があるため、組立装置や組立工程が複雑になってしまうという問題があり、ゼロパルス時における微小流量の流量ばらつきを容易に低減することが難しい。
【0007】
本発明は、比較的簡単な組立工程によって弁ポートの弁開度を所定の弁開度に設定することができ、ゼロパルス時の流量のばらつきを低減して微小流量域の制御性の向上を図ることができる電動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明の電動弁の製造方法は、主弁室および主弁ポートを備える筒状の弁本体と、前記主弁ポートを開閉可能に設けられ内部に副弁ポートを備える主弁体と、前記副弁ポートに近接又は離間する副弁体と、軸線回りに回転可能に設けられ前記副弁体を軸線方向に進退駆動するロータ軸と、前記ロータ軸を支持する支持部材と、前記ロータ軸とともに軸線回りに回転するマグネットロータと、前記弁本体に装着されて前記マグネットロータを収容するケースと、前記弁本体に装着されて前記マグネットロータを囲むステータコイルと、を備える電動弁を、前記マグネットロータを前記軸線方向の一方側から他方側に向かって押さえ付ける押さえ治具を用いて製造する電動弁の製造方法であって、前記ケースおよび前記ステータコイルを前記弁本体に装着しない状態で、前記副弁体を前記副弁ポートに着座させて、前記副弁ポートが開かれた開状態から前記副弁ポートが閉じられた閉状態に切り替わる点である、前記ロータ軸の弁閉基準点を設定する弁閉基準点設定工程と、前記マグネットロータが前記軸線方向の他方端に達した点である、前記マグネットロータの回転基準点を設定する回転基準点設定工程と、前記ロータ軸と前記マグネットロータとを互いに固着する固着工程と、を備え、前記固着工程において、前記弁閉基準点設定工程で前記弁閉基準点に設定した前記ロータ軸と、前記回転基準点設定工程で前記回転基準点に設定した前記マグネットロータと、について、前記マグネットロータを前記押さえ治具で押さえ付けた状態で、前記マグネットロータ、前記支持部材、前記主弁体および前記弁本体に対して前記ロータ軸を前記軸線回りにおける一方側の弁開方向に相対回転させ、前記ロータ軸と前記マグネットロータとの相対的な回転角度が所定設定量になるように設定し、前記所定設定量を保持した状態で、前記マグネットロータと前記ロータ軸とを互いに固着するようにした、ことを特徴とする。
【0009】
このような本発明によれば、ロータ軸を弁閉基準点に位置決めし、マグネットロータを回転基準点に位置決めし、マグネットロータを押さえ治具で押さえ付けた状態で、マグネットロータ、支持部材、主弁体および弁本体に対してロータ軸を弁開方向に相対回転させるという比較的簡単な組立工程により、ロータ軸とマグネットロータとの相対的な回転角度を所定設定量とするように設定することができる。このため、弁閉基準点に位置するロータ軸を所定設定量回転させることで、副弁ポートが閉状態から開状態となった際の弁開度を一定にすることができ、ゼロパルス時における微小流量の流量ばらつきを容易に低減することができる。したがって、比較的簡単な組立工程によって副弁ポートの弁開度を所定の弁開度に設定することができ、ゼロパルス時の流量のばらつきを低減して微小流量域の制御性の向上を図ることができる電動弁を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的簡単な組立工程によって弁ポートの弁開度を所定の弁開度に設定することができ、ゼロパルス時の流量のばらつきを低減して微小流量域の制御性の向上を図ることができる電動弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る電動弁の組立断面図。
図2】(A)は、図2(B)のA-A線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、スライダを下端ストッパに当接させる工程を示す図。
図3】(A)は、図3(B)のB-B線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、副弁体を副弁座に着座させる工程を示す図。
図4】(A)は、図4(B)のC-C線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、マグネットロータを装着する工程を示す図。
図5】(A)は、図5(B)のD-D線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、押さえ治具をセットする工程を示す図。
図6】(A)は、図6(B)のE-E線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、受け治具をセットする工程を示す図。
図7】(A)は、図7(B)のF-F線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、ロータ軸を回転させる工程を示す図。
図8】(A)は、図8(B)のG-G線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、ロータ軸とマグネットロータとを接合する工程を示す図。
図9】(A)は、図9(B)のH-H線矢視断面図であり、(B)は、電動弁の製造工程において、ケースを取り付ける工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図1~9を参照して説明する。なお、以下の説明における「上下」の概念は図1の図面における上下に対応する。また、「右回り(時計回り)」および「左回り(反時計回り)」の表現は、電動弁1を上から見た状態での回転方向を示す。本発明の電動弁の製造方法によって製造される電動弁1は、弁本体10と、ガイド部材20(支持部材)と、主弁体30と、副弁体40と、駆動部50と、を備えている。弁本体10は、例えば、黄銅、ステンレス等で略円筒形状に形成されており、その内側に主弁室11を有している。弁本体10の外周片側には主弁室11に導通される第一継手管12が接続されている。弁本体10の下端には、下方に延びる筒状部13が形成され、筒状部13には、第二継手管14が接続されている。
【0013】
弁本体10の内部において、第二継手管14の上端(主弁室11側の端部)に連続する部分には、軸線L方向に延びる筒状の主弁座15が形成され、主弁座15の内側は、主弁ポート16を構成している。主弁ポート16は軸線Lを中心とする円柱形状の孔である。第二継手管14は、主弁ポート16を介して主弁室11に導通される。なお、本実施形態では、主弁座15は、弁本体10に一体的に形成されているが、主弁ポート16を有する弁座部材を弁本体10とは別体に設け、この弁座部材を弁本体10に組み付ける形態としてもよい。弁本体10の上端部には、ケース17が溶接等によって気密に固定されている。ケース17は、上側を底部とした有底筒状に形成されており、その内外には、駆動部50を構成する各部材が配置されている。ケース17の下端部外周面には、径方向内方に凹むディンプル18が、周方向に間隔をあけて複数形成されている。ディンプル18は、後述するステータコイル56をケース17に固定する際に、ステータコイル56側に設けられた不図示の凸部と嵌合する部分であり、これによって、ステータコイル56とケース17とが接続される。
【0014】
弁本体10の上端の開口部には、後述するロータ軸54を支持するとともにロータ軸54をガイドするガイド部材20が取り付けられている。ガイド部材20は、軸線Lを中心とする略円筒状のホルダ部21と、ホルダ部21の外周面から全周に亘って径方向外方に突出し弁本体10の上端の開口部に嵌合する嵌合部22と、ホルダ部21の上部に延設されたストッパ部23と、嵌合部22にインサート成形により一体に設けられた金属板からなるリング状の固定金具24と、を有している。ホルダ部21、嵌合部22およびストッパ部23は、樹脂製の一体品として構成されており、固定金具24は、インサート成形により樹脂製の嵌合部22と一体に設けられている。
【0015】
固定金具24は、弁本体10の上端部に溶接により固定されている。なお、本実施形態では、嵌合部22を弁本体10の上端の開口部に嵌合させた状態で、固定金具24を弁本体10の上端部に溶接固定することでガイド部材20を弁本体10に固定した。しかしながら、ガイド部材20の固定構造はこれに限られず、嵌合部22を弁本体10に対して圧入した状態で、固定金具24を弁本体10に固定してもよい。ホルダ部21の内側には、下側(主弁室11側)に向かって開口し、内部に主弁体30を収容するガイド孔25が形成されている。ガイド孔25は、軸線Lと同軸に形成され、その内周面は、主弁体30の外周面に摺接することで、主弁体30を軸線L方向に進退案内している。
【0016】
ホルダ部21およびストッパ部23の内部には、ガイド孔25に連通し軸線L方向に貫通する挿通孔26が形成されている。挿通孔26は、後述するロータ軸54を進退案内する孔であり、上側の内周面には、ロータ軸54の外周面に形成された雄ねじ58に螺合する雌ねじ27が形成されている。ストッパ部23の外周面には、螺旋状のガイド溝28が形成され、ガイド溝28には、コイル状のスライダ29が設置されている。スライダ29には、径方向外方に突出する爪部29aが形成されており、爪部29aは後述するマグネットロータ55に当接するようになっている。この構成により、マグネットロータ55が回転すると、爪部29aを介してその回転力がスライダ29に伝達され、スライダ29が回転する。そして、この回転によりスライダ29がガイド溝28に沿って上下動する。
【0017】
主弁体30は、主弁座15に対して着座および離座し、主弁ポート16を開閉可能な略円柱状の主弁部31と、主弁体30の側壁を構成し、内部に副弁室32aを有する円筒状の保持部32と、を備えている。主弁部31の内側には下側(主弁ポート16側)に向かって開口する円柱状の開口31aが形成され、開口31a内には、メッシュ状または多孔質の部材からなる円柱状の第一消音部材33が配置されている。第一消音部材33は、下端に配置された抜け止めリング33aによって軸線L方向への変位を規制されている。主弁部31と保持部32との間には、軸線L方向に延びる円柱状の副弁座34が形成されており、副弁座34には、軸線Lを中心として軸線L方向に貫通する副弁ポート34aが形成されている。副弁ポート34aは、上側に配置された副弁室32aと下側に配置された開口31aとを連通している。主弁部31と保持部32との間には、径方向に貫通する連通路35が軸線L回りに複数形成されており、これによって、主弁室11と副弁室32aとが連通路35を介して連通している。
【0018】
副弁室32aの内部の下側部分には、連通路35を介し副弁室32aに対して流入または流出する流体を通す第二消音部材36が設置されている。第二消音部材36は、第一消音部材33と同様にメッシュ状または多孔質の部材からなり、円環状に形成されている。第二消音部材36は、副弁座34の上面に載置される第一スペーサ37aと、第一スペーサ37aの上側に配置される第二スペーサ37bと、によって軸線L方向に挟まれて固定されている。第二スペーサ37bの上部には、円筒状の軸受38が設置されている。軸受38の外周面は、保持部32の内周面に当接している。軸受38の内周面は、後述する副弁体40のガイド用ボス部41の外周面に摺接可能となっており、この摺接によって、軸受38は、副弁体40を軸線L方向に進退案内している。軸受38の上部には、軸受38の抜け止めとしてのリテーナ39が設置されている。リテーナ39は、保持部32の上端開口内に嵌め込まれている。リテーナ39の上側には、主弁体30を下側(主弁ポート16側)に付勢する主弁ばね39aが配置されている。主弁ばね39aは、例えば、圧縮コイルばねであり、その下端が、リテーナ39の上端部に当接し、その上端が、上述したガイド部材20のガイド孔25の上端部に当接している。
【0019】
副弁体40は、後述するロータ軸54の下端部に一体に設けられている。この副弁体40はロータ軸54よりも大径に形成されたガイド用ボス部41と、ガイド用ボス部41の中心部から下側に突出するニードル弁42と、で構成されている。ガイド用ボス部41は、主弁体30の軸受38に挿通され、その外周面が軸受38の内周面に摺接して軸線L方向に案内されている。ガイド用ボス部41の上端部は、軸受38の上端部に係合するようになっており、この状態で、ガイド用ボス部41が上方に移動すると、副弁体40と主弁体30とが一体となって上昇する。これにより、主弁ポート16が開かれて流体の大流量制御が行われる。ニードル弁42は、副弁ポート34aに近接または離間する弁であり、その先端が副弁ポート34a対して軸線L方向に挿通可能に設けられている。ニードル弁42が副弁ポート34aに挿通した状態では、ニードル弁42と副弁ポート34aとの隙間を小流量の流体が流れ、これによって小流量制御が行われる。なお、本実施形態では、副弁体40とロータ軸54とは一体に設けたが、副弁体40とロータ軸54とは、それぞれ別体に形成し、これらを組み付けてもよい。
【0020】
駆動部50は、ステッピングモータ51と、ステッピングモータ51の回転により副弁体40を進退駆動させるねじ送り機構52と、ステッピングモータ51の回転を規制するストッパ機構53と、を備えている。ステッピングモータ51は、ロータ軸54と、ケース17の内部に配設され、軸線L回りに回転可能なマグネットロータ55と、ケース17の外周においてマグネットロータ55に対して径方向に対向配置されてマグネットロータ55を囲むステータコイル56と、その他、ヨークや外装部材等により構成されている。ロータ軸54は、副弁体40を軸線L方向に進退駆動する回転軸であり、ブッシュ57を介してマグネットロータ55の中心に取り付けられ、軸線L方向に延び、マグネットロータ55と一体に軸線Lまわりに回転可能となっている。
【0021】
ロータ軸54の上端側部分には、ブッシュ57の中心に設けられたガイド孔に嵌合される小径軸部54aと、小径軸部54aの下端側に連続し、ブッシュ57のガイド孔の内径よりも僅かに大きな外径を備える受け部54bと、が設けられている。ロータ軸54の上部であって、受け部54bの下側の外周面には、雄ねじ58が形成されている。雄ねじ58はガイド部材20の雌ねじ27に螺合している。雄ねじ58は、マグネットロータ55とともに回転する際に、ねじ送りされることで、雌ねじ27に対して軸線L方向に移動する。すなわち、雌ねじ27と雄ねじ58とは、ねじ送り機構52を構成している。
【0022】
マグネットロータ55は、磁性粉を混入した母材を型成形したものであり、円板状の円板部55aと、円板部55aの外縁部から下側に突出する円筒状のマグネット部55bと、を備えている。円板部55aの中央には、ブッシュ57がインサート成形により一体に設けられている。ブッシュ57には、上述したロータ軸54が挿通し、溶接等によって固着されている。これにより、マグネットロータ55は、ロータ軸54とともに軸線L回りに回転する。円板部55aの上面には、上方に突出する突起状の設定ストッパ55cが形成されている。設定ストッパ55cは、電動弁1の製造時に、後述する押さえ治具60に形成された孔である設定ストッパガイド64に挿通する部分であり、押さえ治具60に対するマグネットロータ55の位置を規定している。
【0023】
マグネット部55bの内周面には、径方向内方に突出し、軸線L方向に延びる突条としてのマグネットピン55dが形成されている。マグネットピン55dは、マグネットロータ55の回転時に、スライダ29の爪部29aに当接し、マグネットロータ55の回転力をスライダ29に伝達する部分である。この構成により、マグネットロータ55が回転すると、マグネットピン55dおよび爪部29aを介してその回転力がスライダ29に伝達され、スライダ29が回転する。そして、この回転によりスライダ29がガイド溝28に沿って上下動する。ステータコイル56は、不図示の制御部に接続されており、制御部からパルス信号を受信することで、当該パルス信号に応じて所定の回転角度分、マグネットロータ55を、軸線Lを中心として右回りまたは左回りに回転させる。
【0024】
ストッパ機構53は、上述したガイド部材20のストッパ部23におけるガイド溝28と、ガイド溝28の上端に設けられた不図示の上端ストッパと、ガイド溝28の下端に設けられた下端ストッパ28aと、を備えている。上端ストッパは、径方向外方に突出する突出部で構成され、周方向(スライダ29の回転方向)一方を向く面がスライダ29の爪部29aと周方向に当接するように形成されている。一方、下端ストッパ28aは、図2(A)に示すように、径方向外方に突出する突出部で構成され、周方向一方を向く面28bが、スライダ29の爪部29aにおける周方向他方を向く面29bと周方向に当接するように形成されている。
【0025】
この構成により、スライダ29は、上端ストッパに当接することで回転を停止し、これによってマグネットロータ55の回転が規制される。この際、上端ストッパによって回転を規制されたマグネットロータ55は、上側へ変位することが規制される。また、スライダ29は、下端ストッパ28aに当接することで回転を停止し、これによってマグネットロータ55の回転が規制される。この際、下端ストッパ28aによって回転を規制されたマグネットロータ55は、下側へ変位することが規制される。すなわち、上端ストッパおよび下端ストッパ28aによってロータ軸54およびマグネットロータ55の最上端位置および最下端位置が規定されている。
【0026】
以上の構成により、ステッピングモータ51が駆動されると、制御部からステータコイル56に送られたパルス信号に応じてマグネットロータ55およびロータ軸54が所定の回転角度分回転し、雄ねじ58と雌ねじ27とのねじ送り機構52によって、マグネットロータ55およびロータ軸54が軸線L方向に移動する。そして、副弁体40が軸線L方向に移動して副弁体40のニードル弁42が副弁ポート34aに対して近接または離間する。この際、ニードル弁42と副弁ポート34aとの隙間を小流量の流体が流れることにより小流量制御が行われる。副弁体40が上昇する際には、副弁体40のガイド用ボス部41が主弁体30の軸受38に係合し、主弁体30は副弁体40とともに移動して、主弁体30の主弁部31が主弁座15から離座する。これにより、主弁ポート16が弁開となって、主弁ポート16を流体が流れる大流量制御が行われる。
【0027】
次に、電動弁1を製造する電動弁の製造方法について説明する。電動弁の製造方法では、二種類の治具と、一種類の工具を用いることから、先ず二種類の治具および一種類の工具の構造について説明し、次いで電動弁の製造方法における各組立工程について説明する。二種類の治具は、押さえ治具60と、受け治具70と、で構成されている。一種類の工具は、掴み部材80で構成されている。押さえ治具60は、図5(A)、(B)に示すように、ケース17およびステータコイル56を装着していない状態の電動弁1におけるマグネットロータ55の上側および外周面を覆うように取り付けられて、電動弁1を下側(軸線L方向の一方側から他方側)に押さえ付ける治具である。押さえ治具60は、円板状の本体部61と、本体部61の下面から下側に突出する円筒状のホールド部62と、を備えている。本体部61の中央部には、軸線L方向に貫通し、ロータ軸54の上端部を挿通させる貫通孔63が形成されている。貫通孔63は、下側の開口の内径寸法よりも上側の開口の内径寸法が大きく設定されており、これによって、内周面が軸線Lに対して傾斜した傾斜面を構成している。
【0028】
貫通孔63の径方向外方には、軸線L方向に貫通する孔である設定ストッパガイド64が形成されている。設定ストッパガイド64は、図5(A)に示すように、軸線L方向から見た断面視で略台形状に形成され、上述したマグネットロータ55の設定ストッパ55cが外方に隙間をあけて挿通されるようになっている。ホールド部62の中心部には、下側に向かって開口する第一嵌合凹部65が形成されている。第一嵌合凹部65は、その内形が、図5(B)に示すように、マグネットロータ55の外形に沿って形成されている。具体的には、第一嵌合凹部65の底部66は、マグネットロータ55の上面の形状に沿って形成されている。第一嵌合凹部65の側部67は、マグネットロータ55の外周面の形状に沿って形成されている。
【0029】
受け治具70は、押さえ治具60によって押圧された電動弁1を、下側から上側に向かって支持する治具である。受け治具70は、図6(B)に示すように、第一筒部71と、第一筒部71と軸線L方向に間隔をあけて配置される第二筒部72と、第一筒部71と第二筒部72の間に介在する弾性部73と、を備えている。第一筒部71には、上側に向かって開口する第二嵌合凹部74が形成されている。第二嵌合凹部74は、上述した弁本体10の筒状部13を嵌め込み可能な大きさに形成され、筒状部13を嵌め込んだ状態で、その開口縁部が弁本体10の下面に当接するようになっている。第二筒部72は、軸線Lを中心として第一筒部71と同軸に設けられ、軸線L方向に延びている。弾性部73は、例えば、圧縮コイルばねであり、その上端部が、第一筒部71の下端面に当接し、その下端部が、第二筒部72の上端面に当接している。
【0030】
掴み部材80は、図7(B)に示すように、押さえ治具60の貫通孔63に挿通した状態のロータ軸54の上端部を保持する挟持部81を備えている。挟持部81は、図7(A)に示すように、軸線L方向から見て略台形状に形成され、軸線Lを中心として周方向に等間隔をあけて例えば3個設けられており、それぞれがロータ軸54の外周面を径方向内方に向かって押圧するように設けられている。掴み部材80は、図7(B)に示すように、貫通孔63の内周面に干渉しないように形成されている。これにより、挟持部81で保持したロータ軸54を、掴み部材80によって押さえ治具60に触れずに回転させることができるようになっている。
【0031】
電動弁1を製造する際には、先ず、第一の工程として、図2(B)に示すように、ケース17、マグネットロータ55、およびステータコイル56以外のパーツを組み立て、主弁体30が主弁ポート16を閉じた状態の電動弁1を用意する。そして、スライダ29を最下端位置まで移動させる。すなわち、図2(A)に示すように、スライダ29の爪部29aの面29bを、ガイド部材20における下端ストッパ28aの面28bに対して周方向に当接させる。次に、第二の工程(弁閉基準点設定工程)として、図3(B)に示すように、第二継手管14内部を下側から上側に向かって加圧し、図3(B)に白抜き矢印で示すように、流体を流し、副弁ポート34aを通過する流体の流量を測定する。この際、ニードル弁42が下側から上側に押圧されることで、雄ねじ58と雌ねじ27のガタ内で、ニードル弁42が上側に移動する。この状態で、ロータ軸54を軸回り(本実施形態では、右回り(時計回り))に回転させ、ニードル弁42を副弁座34に着座させ、副弁ポート34aを閉弁させる。これにより、副弁ポート34aが開かれた開状態から副弁ポート34aが閉じられた閉状態に切り替わる点である、ロータ軸54の弁閉基準点が規定される。
【0032】
なお、本実施形態では、ニードル弁42が副弁座34に着座し、副弁ポート34aを流れる流体の流量が0になる位置をニードル弁42の弁閉基準点としたが、弁閉基準点はこれに限られない。例えば、副弁ポート34aを流れる流体の量が一定以下になる位置(所定弁漏れ量以下になる位置)を、ニードル弁42の弁閉基準点としてもよい。また、本実施形態では、第二継手管14内部を下側から上側に向かって加圧し、副弁ポート34aを通過する流体の流量を測定し、この状態でロータ軸54を回転させて弁閉基準点を規定したが、第二継手管14を加圧する工程を経ずに、単に、ロータ軸54を回転させ、その回転に伴う負荷が増加する地点を手感覚で検出し、これによって弁閉基準点を規定してもよい。また、上述した第一の工程と、第二の工程は、その順番を入れ替えてもよい。すなわち、最初に第一の工程を行い、その後第二の工程を行ってもよいし、最初に第二の工程を行い、その後第一の工程を行ってもよい。
【0033】
次に、第三の工程(回転基準点設定工程)として、マグネットロータ55を装着する。この工程では、図4(B)に示すように、ブッシュ57とロータ軸54とを、軸線L方向に並べて位置合わせし、上側から下側に向かってマグネットロータ55を軸線L方向に装着する。この際、図4(A)に示すように、マグネットロータ55のマグネットピン55dが、最下端位置に位置するスライダ29の爪部29aに対して、周方向に当接するようにする。この工程が終了すると、ニードル弁42が弁閉基準点に位置決めされ、かつ、マグネットロータ55が、電動弁1の使用時の最下端位置(軸線L方向の他方端に達した点)である回転基準点に位置決めされる。そして、この状態で、次の第四の工程(押さえ治具セット工程)を行う。第四の工程では、図5(B)に示すように、押さえ治具60をマグネットロータ55に装着する。この際、押さえ治具60の第一嵌合凹部65にマグネットロータ55が嵌合するように押さえ治具60の位置を調整する。また、図5(A)に示すように、マグネットロータ55の設定ストッパ55cが、押さえ治具60の設定ストッパガイド64に挿通するように、押さえ治具60の位置を調整する。
【0034】
次に、第五の工程(受け治具70セット工程)を行う。第五の工程では、図6(B)に示すように、受け治具70を装着する。この際、受け治具70の第二嵌合凹部74に弁本体10の筒状部13を嵌め込む。そして、第六の工程(固着工程)を行う。この工程では図7(B)に示すように、先ず押さえ治具60に対して上側から下側に向かって荷重を加える。この際、押さえ治具60に対する押圧荷重は、押さえ治具60の下面に当接するマグネットロータ55に伝達され、その次にマグネットロータ55からロータ軸54に伝達され、次いでロータ軸54の雄ねじ58、雌ねじ27、ガイド部材20、固定金具24、弁本体10、受け治具70、弾性部73の順に伝達される。これにより、受け治具70の弾性部73が撓み、弾性部73の反力でマグネットロータ55が押さえ治具60に押さえつけられ、マグネットロータ55の位置が固定される。
【0035】
この状態では、上述したように、押さえ治具60に加わった押圧荷重は、受け治具70側に伝達されていることから、ロータ軸54が、いわゆるフリーな状態となり、軸線L回りに回転可能かつ、軸線L方向に進退移動可能となっている。そして、この状態で、図7(B)に示すように、掴み部材80によって、ロータ軸54の上端部を保持し、ロータ軸54のみを左回り(反時計回り)に、所定の回転角度分(所定設定量となるように)、回転させる。すなわち、マグネットロータ55を押さえ治具60で押さえ付けた状態で、マグネットロータ55、ガイド部材20、主弁体30および弁本体10に対してロータ軸54を左回り(軸線L回りにおける一方側の弁開方向)に相対回転させる。
【0036】
これにより、ロータ軸54が、上側に移動し、副弁ポート34aが開くこととなり、マグネットロータ55の回転基準点となるゼロパルス(0pls)時に、マグネットロータ55が下端に位置して、ニードル弁42が副弁座34に着座しない弁開仕様の電動弁1を得ることができる。なお、ロータ軸54とマグネットロータ55の相対的な回転角度である、所定設定量は、電動弁1の使用目的に合わせて適宜設定することができる。そして、この所定設定量を保持した状態で、図8(B)に示すように、ロータ軸54とマグネットロータ55とを溶接等により互いに接合する。図8(B)中、符号Mは、溶接個所を示している。このような構成によれば、ロータ軸54とマグネットロータ55の相対的な回転角度を、いずれの所定設定量に設定したとしても、上述したように、ニードル弁42を弁閉基準点に設定し、マグネットロータ55を回転基準点に設定した状態で、ロータ軸54を所定設定量相対回転させ、当該所定設定量を保持した状態でロータ軸54とマグネットロータ55とを互いに接合するので、所定設定量にばらつきが生じ難い。このため、ゼロパルス時の流量のばらつきを低減することができる。
【0037】
なお、ロータ軸54の回転の際に、上述したロータ軸54の受け部54bの上端面はブッシュ57の下端面に接触しているが、図8(B)に示すように、この接触部分の面積よりも、押さえ治具60の下面とマグネットロータ55の上面との接触面積の方が大きいことから、ロータ軸54の回転に伴って、マグネットロータ55が連れ回ることは、抑制されている。また、例え、マグネットロータ55がロータ軸54に対して僅かに連れ回ったとしても、図8(A)に示すように、マグネットロータ55に形成された設定ストッパ55cの外周面と、押さえ治具60に形成された設定ストッパガイド64の内周面との間には、僅かに隙間が形成されていることから、設定ストッパ55cが設定ストッパガイド64の内周面に当接して設定ストッパ55cに応力が加わることが抑制され、設定ストッパ55cが破損することが防止される。
【0038】
最後に、第8の工程(ケース取付工程)を行う。この工程では、ケース17を弁本体10に装着し、溶接等によって、弁本体10に固着する。この際、図9(A)に示すように、ケース17のディンプル18のうち、一のディンプル18の凹み方向が、下端ストッパ28aの面28bと、スライダ29における爪部29aの面29bと、の当接面の延在方向と平行になるように、ケース17の位置を調整する。これにより、ディンプル18に嵌る凸部を介してケース17に固定されるステータコイル56の、下端ストッパ28aに対する位置を、ばらつき無く決めることができる。
【0039】
以上、上述した実施形態によれば、ロータ軸54を弁閉基準点に位置決めし、マグネットロータ55を回転基準点に位置決めし、マグネットロータ55を押さえ治具60で押さえ付けた状態で、マグネットロータ55、ガイド部材20、主弁体30および弁本体10に対してロータ軸54を弁開方向に相対回転させるという比較的簡単な組立工程により、ロータ軸54とマグネットロータ55との相対的な回転角度を所定設定量とするように設定することができる。このため、弁閉基準点に位置するロータ軸54を所定設定量回転させることで、副弁ポート34aが閉状態から開状態となった際の弁開度を一定にすることができ、ゼロパルス時における微小流量の流量ばらつきを容易に低減することができる。したがって、比較的簡単な組立工程によって副弁ポート34aの弁開度を所定の弁開度に設定することができ、ゼロパルス時の流量のばらつきを低減して微小流量域の制御性の向上を図ることができる電動弁1を提供することができる。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
L 軸線
1 電動弁
10 弁本体
11 主弁室
16 主弁ポート
17 ケース
20 ガイド部材(支持部材)
30 主弁体
34a 副弁ポート
40 副弁体
54 ロータ軸
55 マグネットロータ
56 ステータコイル
60 押さえ治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9