(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147267
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】埋込磁石型モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20241008BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060182
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】新谷 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】粟津 稔
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA04
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA14
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP03
(57)【要約】
【課題】開放型空隙部を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石の減磁を抑制することができる埋込磁石型モータを提供する。
【解決手段】実施形態による埋込磁石型モータ1は、ロータコア8に設けられた磁石孔11に挿入されている永久磁石9と、磁石孔11からロータコア8の外周面まで繋がっている開放型空隙部18と、永久磁石9の側面に接するとともに、当該側面に、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部19を形成する磁石保持部20とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアに設けられた磁石孔に挿入されている永久磁石と、
前記磁石孔から前記ロータコアの外周面まで繋がっている開放型空隙部と、
前記永久磁石の側面に接するとともに、当該側面に、前記ロータコアの外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部を形成する磁石保持部と、を備える埋込磁石型モータ。
【請求項2】
前記磁石保持部は、前記ロータコアの回転中心となる軸方向から見た状態において、前記永久磁石の径方向外側の側面に接している請求項1に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項3】
前記永久磁石は、前記ロータコアの回転中心となる軸方向から見た状態において、相対的に短い短手側の側面と、相対的に長い長手側の側面とを有する形状に形成されており、
前記磁石保持部は、前記永久磁石の短手側の側面に接している請求項1または2に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項4】
前記永久磁石は、前記ロータコアの径方向に並んで複数設けられており、
前記磁石保持部は、複数の前記永久磁石のうち、少なくとも1つの前記永久磁石に対応して設けられている請求項1または2に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項5】
前記磁石保持部は、1つの前記永久磁石の側面に複数の前記閉鎖型空隙部を形成している請求項1または2に記載の埋込磁石型モータ。
【請求項6】
前記磁石保持部は、1つの前記永久磁石の側面に複数設けられている請求項1または2に記載の埋込磁石型モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、埋込磁石型モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータコアの内部に永久磁石を配置した埋込磁石型モータでは、永久磁石の周辺に磁束を遮断するためのフラックスバリアと呼ばれる空隙部を設けている。その場合、ステータコイルが発生させる逆磁界によって流れる磁束が空隙部を通過する際に、永久磁石の角部内を通過することにより減磁が発生することから、例えば特許文献1のように磁石孔に繋がっている空隙部を一部幅狭に形成したり、特許文献2のように磁石孔の周辺に多数の空隙部を設けたり、非磁性体の樹脂を空隙部に充填したりすることによって減磁を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-155242号公報
【特許文献2】特開2017-123779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、磁束を遮断する観点からすると、磁石孔からロータコアの外周面まで繋がる空隙部を設けることが有意であると考えられる。以下、磁石孔からロータコアの外周面まで繋がる空隙部を、開放型空隙部と称する。
【0005】
しかしながら、開放型空隙部を設ける構成の場合、仮に開放型空隙部の一部を幅狭に形成したとしても、トルクが低下するおそれがある。また、永久磁石の周辺に設ける空隙部の数が多くなると、インダクタンスが低下してトルクが低下するおそれがある。また、空隙部に非磁性体を充填する場合にはコストが増加することになる。
【0006】
本開示は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、開放型空隙部を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石の減磁を抑制することができる埋込磁石型モータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様による埋込磁石型モータは、ロータコアに設けられた磁石孔に挿入されている永久磁石と、磁石孔からロータコアの外周面まで繋がっている開放型空隙部と、永久磁石の側面に接するとともに、当該側面に、ロータコアの外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部を形成する磁石保持部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の埋込磁石型モータを軸方向から見た状態で模式的に示す図
【
図4】漏れ磁束の流れを従来構造例と対比させて位示す図
【
図7】保持部角度とトルクおよび減磁率との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の埋込磁石型モータ1は、ステータ2、ロータ3およびシャフト4を備えている。以下、ロータ3の回転軸(J)に沿った方向を軸方向と称し、回転軸(J)周りの方向を周方向と称し、回転軸(J)からロータ3の外周に沿った方向を径方向と称する。これらステータ2およびロータ3は、図示しないケースに収容されており、そのケースには、シャフト4を回転可能に支持するベアリングなどの軸受け部材が設けられている。
【0010】
ステータ2は、所定形状の電磁鋼板を軸方向に積層することによって概ね中空円柱状に形成されているステータコア5、および、
図2に示すようにステータコア5の内周面に形成されているスロット6に挿入されているコイル7を備えている。スロット6は、ステータ2の内周面に、軸方向に貫通する状態で、周方向に所定間隔で複数形成されている。コイル7は、例えばエナメル線などの素線をスロット6に巻回することによって、あるいは、素線を予め巻回した状態でスロット6に装着することによってステータコア5に固定されている。なお、コイル7としてバスバーを用いる構成であってもよい。
【0011】
ロータ3は、例えば所定形状に打ち抜いた電磁鋼板を軸方向に積層することによって概ね中空円柱状に形成されているロータコア8、および、ロータコア8内部に配置されている複数の永久磁石9を備えている。ロータコア8の中空部分には例えば圧入によってシャフト4が固定され、ロータ3と一体で、ステータコア5に対して回転軸(J)を中心として相対的に回転する。
【0012】
永久磁石9は、
図2に示すように、ロータコア8の軸方向から見た状態において概ね長方形に形成されており、相対的に短い短手側の側面と、相対的に長い長手側の側面とを有している。本実施形態の場合、各永久磁石9は、短手方向においてはその長さが概ね等しい一方、長手方向においては多層構造の内周側に配置される永久磁石9の方が長くなっている。また、各永久磁石9は、短手方向に沿って磁化されている。本実施形態では、永久磁石9は、角部を平面状に面取りした形状のものを採用しているが、この形状は一例であり、角部を面取りしていない形状や曲面状に面取りした形状のものを採用することができる。
【0013】
これらの永久磁石9は、回転軸(J)を通る仮想線(VL)に対して線対称となる位置に対となる状態で、径方向内側において互いの距離が相対的に短く、径方向外側において互いの距離が相対的に長くなる概ねV字状に配置されている。また、本実施形態では、一対の永久磁石9を、径方向に沿って並んで配置している。以下、一対の永久磁石9を径方向に並んで配置した構造を便宜的に多層構造と称し、この多層構造を構成する複数の永久磁石9を便宜的に磁石群とも称する。
図2の場合、4つの永久磁石9によって1つの多層構造の磁石群が構成されている。
【0014】
磁石群は、
図1に示すように、ロータコア8を周方向に8等分した位置にそれぞれ配置されている。このとき、隣り合う磁石群は、永久磁石9の磁化方向が交互に逆向きとなるように配置されている。そのため、埋込磁石型モータ1には、周方向に均等な位置に8つの磁極10が形成されている。ただし、
図1および
図2に示した構造は一例であり、スロット6の形状や数、ロータ3の磁極10の数や配置、永久磁石9の形状などはこれに限定されない。
【0015】
永久磁石9は、ロータコア8に形成されている複数の磁石孔11にそれぞれ挿入されている。そして、各磁石孔11は、フラックスバリアを形成するための空隙部にそれぞれ繋がっている。具体的には、各磁石孔11は、径方向内側つまりは磁極10の中心となる仮想線(VL)側において、内側空隙部12にそれぞれ繋がっている。この内側空隙部12は、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型のものとなっている。そして、多層構造において外周側となる内側空隙部12間には、仮想線(VL)に沿った第1ブリッジ部13が形成されている。また、多層構造において内周側となる内側空隙部12間には、仮想線(VL)に沿った第2ブリッジ部14が形成されている。
【0016】
また、多層構造において内周側に位置する各磁石孔11は、径方向外側つまりは仮想線(VL)と反対側となる側において、外側空隙部15と繋がっている。外側空隙部15の外周側には外周ブリッジ部16が形成されている。つまり、外側空隙部15は、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型のものとなっている。また、内側空隙部12および外側空隙部15には、永久磁石9の側面に沿うように延びていて、永久磁石9と接することによって永久磁石9を所定の位置に保持する突起部17がそれぞれ形成されている。
【0017】
一方、多層構造において外周側位置する磁石孔11は、径方向外側において、
図3に示すように磁石孔11からロータコア8の外周面まで繋がっている開放型空隙部18と、磁石孔11には繋がっている一方、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部19とに繋がっている。なお、
図3では、図面を見やすくするために、永久磁石9と磁石孔11との間には意図的に隙間を設けた状態で示している。
【0018】
そして、これら開放型空隙部18と閉鎖型空隙部19との間を仕切るようにして磁石保持部20が設けられている。この磁石保持部20は、ロータコア8の外周面の一部を延伸した連結ブリッジ部21と繋がっており、永久磁石9の開放型空隙部18側となる側面に、磁石保持部20、連結ブリッジ部21およびロータコア8によって囲まれていて、磁石孔11に繋がっている一方、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部19を形成している。以下、磁石保持部20が接している永久磁石9の短手側の側面を便宜的に短手側側面9aと称する。
【0019】
磁石保持部20は、その幅(W1)が永久磁石9の短手側側面9aの幅(W2)以下となるように形成されており、短手側側面9aと所定の幅(W3)の範囲で接している。また、磁石保持部20は、開放型空隙部18側においては、永久磁石9の面取り部22aに掛らない位置で短手側側面9aと接している。そのため、磁石保持部20の接触位置と磁石孔11の内面との間には、短手側側面9a側から見た場合における面取り部22aの見かけ上の幅(W4)以上の隙間が存在している。
【0020】
一方、磁石保持部20は、閉鎖型空隙部19側においては、本実施形態では短手側側面9aと面取り部22bとの交点よりも内側で、短手側側面9aに接している。そのため、永久磁石9の短手側側面9aは、磁石保持部20の接触位置と面取り部22bとの間において、所定の幅(W5)で閉鎖型空隙部19に露出している。
【0021】
また、磁石保持部20は、永久磁石9と接触する部位を除いて概ね長方形となる矩形状に形成されている。そして、磁石保持部20の角部、磁石保持部20と連結ブリッジ部21との接続部分、連結ブリッジ部21とロータコア8との接続部分などは、いわゆるフィレット加工が施されて曲面状に面取りされている。これにより、角部や接続部分に応力が集中してしまうことを緩和している。また、磁石保持部20は、開放型空隙部18を形成するロータコア8の壁面8a、および、閉鎖型空隙部19を形成するロータコア8の壁面8bとそれぞれ概ね平行となるように形成されている。
【0022】
また、永久磁石9の面取り部22bに、ロータコア8の一部が突出していて面取り部22bに接触する補助保持部23を設けることにより、磁石保持部20や連結ブリッジ部21などに加わる応力を軽減している。なお、上記した磁石保持部20の幅(W1)や短手側側面9aと接する幅(W3)あるいは短手側側面9aと接する位置関係や範囲などは一例であり、永久磁石9の大きさや形状に基づいて、また、永久磁石9を保持可能な強度を有するように適宜設定することができる。
【0023】
次に、上記した構成の作用および効果について説明する。
前述のように、磁束を遮断するという観点からは、
図4に従来構造例として示すように、磁石孔101からロータコア102の外周面まで繋がる空隙部103を設けることが有意であると考えられる。その一方で、開放型の空隙部103を設けた場合には、一点鎖線にて示す磁束の流れが大きく外側に膨らむことになり、それに伴って永久磁石9のより内部まで減磁されることになる。
【0024】
また、例えば永久磁石9の保持構造104と兼用する形で空隙部103の一部を幅狭に形成した場合には、減磁は抑制されるものの、トルクが低下してしまうという問題がある。また、永久磁石9の周辺に多数の空隙を設けると、インダクタンスが低下してトルクが低下する。また、空隙部103を非磁性体で充填することは、コストの増加を招くことになる。
【0025】
そこで、本実施形態では、開放型空隙部18を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができるようにしている。具体的には、
図4に実施構造例としても示すように、開放型空隙部18に加えて、永久磁石9の側面に接するとともに、当該側面に、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部19を形成する磁石保持部20を設けている。これにより、破線にて示す漏れ磁束が抑制されるとともに、磁束の膨らみを小さくすることができ、減磁を抑制することができる。これは、開放型空隙部18のみを設けた場合と比べて、空隙部の磁路が短くなっているためである。
【0026】
図5は、従来構造例と実施構造例とにおける減磁率分布のシミュレーション結果を示している。なお、
図5では、減磁率が20%未満となる領域(R1)、減磁率が20%~30%の範囲となる領域(R2)、減磁率が30%~40%の範囲となる領域(R3)、減磁率が40%を超える領域(R4)に分けて示している。
【0027】
このシミュレーション結果から分かるように、実施構造例の場合には、従来構造例と比較して減磁率が40%を超える領域(R4)が大幅に小さくなっており、減磁が抑制されている。そして、従来構造例における減磁率がX[%]、トルクがY[Nm]であったとすると、実施構造例では、減磁率がXよりも小さくなり、トルクについてはYよりも増加するという結果が得られ、減磁率およびトルクの双方を改善することができた。すなわち、実施構造例のようにすることにより、フラックスバリア、トルクおよび減磁率のという互いに関連していてトレードオフの関係になることもある各性能をバランスよく実現することができ、減磁率およびトルクの双方を改善することができた。なお、Xで表した減磁率は、減磁前後における誘起電圧のピーク値の減少率に基づいて求めたものである。
【0028】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
埋込磁石型モータ1は、ロータコア8に設けられた磁石孔11に挿入されている永久磁石9と、磁石孔11からロータコア8の外周面まで繋がっている開放型空隙部18と、永久磁石9の側面に接するとともに、当該側面に、ロータコア8の外周面には繋がっていない閉鎖型空隙部19を形成する磁石保持部20とを備える。これにより、開放型空隙部18を備える構成において、漏れ磁束を低減でき、また、漏れ磁束が流れる際の膨らみを抑制することができ、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができる。
【0029】
また、磁石保持部20は、ロータコア8の回転中心となる軸方向から見た状態において、永久磁石9の径方向外側となる側面に接している。これにより、永久磁石9において減磁し易い部位の減磁率を抑制することができる。
また、永久磁石9は、ロータコア8の回転中心となる軸方向から見た状態において、相対的に短い短手側の側面と、相対的に長い長手側の側面とを有する形状に形成されており、磁石保持部20は、永久磁石9の短手側の側面に接している。これにより、永久磁石9において減磁し易い部位の減磁率を抑制することができる。
【0030】
また、永久磁石9は、ロータコア8の径方向に並んで複数設けられており、磁石保持部20は、複数の永久磁石9のうち、少なくとも1つの永久磁石9に対応して設けられている。本実施形態では、最も径方向外側となる永久磁石9に対応して設けられている。これにより、開放型空隙部18が設けられることが想定される位置において、減磁率を抑制することができる。
【0031】
ところで、磁石保持部20は、
図3に例示した形状に限らず、他の形状とすることができる。例えば、
図6に示すように、軸方向から見た状態において永久磁石9の短手側側面9aに沿った線分(L1)と、磁石保持部20の開放型空隙部18側の側面の直線状部分に沿った線分(L2)とがなす角度(α)を変更することができる。以下、線分(L1)と線分(L2)とがなす角度(α)を便宜的に保持部角度と称し、磁極10の中心側を0度として説明する。
【0032】
このとき、線分(L2)は、開放型空隙部18を形成するロータコア8の壁面8aと概ね平行であり、磁石保持部20の閉鎖型空隙部19側の側面の直線状部分に沿った線分(L3)は、閉鎖型空隙部19を形成するロータコア8の壁面8bと概ね平行である。また、線分(L2)と線分(L3)とは概ね平行である。
【0033】
図7は、保持部角度を5度から105度まで変化させたときのトルクと減磁率との関係を示している。なお、
図7に示す例えば点(P5)は保持部角度が5度の結果を示し、点(P15)は保持部角度が15度の結果を示しており、他の点も同様である。また、減磁率がX[%]の位置に設けた補助線、および、トルクがY[Nm]の位置に設けた補助線は、いずれも
図4に示した従来構造例における減磁率とトルクを示している。
【0034】
この
図7の結果から、減磁率については、保持部角度によらず従来型の構造よりも改善されていることが分かる。これは、磁石保持部20を設けたことによるものである。一方、トルクについては、保持部角度が概ね5度から80度までの範囲において従来型の構造よりも改善されていることが分かる。また、保持部角度が概ね90度程度までの範囲であれば、従来構造例と同程度のトルクを得られるとともに、減磁率を改善できることが分かる。
【0035】
また、保持部角度が75度を超えるとトルクが低下し始め、105度になると大きく低下しているが、これは、保持部角度の問題ではないと予想される。つまり、保持部角度を概ね105度とした場合には、
図8に破線にて示すように、多層構造の内周側に位置する外側空隙部15との間が狭くなった幅狭領域(R10)が形成されることでq軸磁路が狭まり、磁気飽和が生じたためであると考えられる。
【0036】
そのため、例えば多層構造における内周側の永久磁石9に対応して磁石保持部20を設ける構成のように磁路を確保できるのであれば、仮に保持部角度を105度とした場合であってもトルクを改善することができると考えられる。
【0037】
また、これらの結果から、保持部角度を概ね5度から105度程度の範囲で設定すれば、より好ましくは概ね5度から90度程度の範囲で設定すれば、さらに好ましくは、概ね5度から80度程度の範囲で設定すれば、減磁率を抑制することができると考えられる。
【0038】
また、磁石保持部20は、上記した保持部角度以外にも、その形状を変形することができる。例えば、
図9に示すように、永久磁石9の短手側側面9aとロータコア8の外周面との間に連結ブリッジ部21Aを位置させて、その連結ブリッジ部21Aと繋がった磁石保持部20Aを設ける構成とすることができる。この場合、連結ブリッジ部21Aに、ロータコア8の外周面から窪んだ補助空隙部24を設ける構成とすることもできる。このような構成によっても、開放型空隙部18を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができるなど、上記した実施構造例と同様の効果を得ることができる。
【0039】
また、
図10に示すように、1つの永久磁石9の短手側側面9aに、複数の閉鎖型空隙部19を形成する磁石保持部20Bを設ける構成とすることができる。このような構成によっても、開放型空隙部18を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができるなど、上記した実施構造例と同様の効果を得ることができる。
【0040】
また、
図11に示すように、1つの永久磁石9の短手側側面9aに、複数の磁石保持部20Cを設け、それぞれ閉鎖型空隙部19を形成する構成とすることができる。このような構成によっても、開放型空隙部18を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができるなど、上記した実施構造例と同様の効果を得ることができる。
【0041】
また、
図12に示すように、強度設計により必要な強度が確保されていることを前提として、フィレット加工が施されていない角部を有する磁石保持部20Dや連結ブリッジ部21Dを設ける構成とすることができる。この場合、幾つかの角部についてはフィレット加工を施す構成とすることもできる。このような構成によっても、開放型空隙部18を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができるなど、上記した実施構造例と同様の効果を得ることができる。
【0042】
また、
図13に示すように、
図4に示した従来型の構成に対して、磁石保持部20Eを設ける構成とすることができる。この場合、従来型の保持構造104は永久磁石9を保持可能な状態で設けられていると考えられることから、磁石保持部20Eの強度計算や形状、寸法あるいは接触面積などの設計自由度を高めることができる。このような構成によっても、開放型空隙部18を備える構成において、トルクの低下やコストの増加を抑制しつつ、永久磁石9の減磁を抑制することができるなど、上記した実施構造例と同様の効果を得ることができる。また、図示は省略するが、
図9から
図13に示した形状例は、競合しない範囲で互いに組み合わせることができる。また、角部が面取りされていない形状の永久磁石9に対して適用することもできる。
【0043】
上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
図面中、1は埋込磁石型モータ、8はロータコア、9は永久磁石、9aは短手側側面、11は磁石孔、18は開放型空隙部、19は閉鎖型空隙部、20は磁石保持部を示す。