(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147273
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】スピーカの歪補正装置
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20241008BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060188
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄二
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA24
5D220AA41
5D220AB01
5D220AB08
(57)【要約】
【課題】スピーカの異常の発生を抑止しつつ可及的にスピーカの非線形歪を補正する「スピーカの歪補正装置」を提供する。
【解決手段】非線形歪制御部61は、スピーカ2の非線形歪と線形歪が無くなるように音源出力信号Siを補正し補正後信号Csとしてセレクタ63に出力する歪補正動作を行う。アンプ出力判定部62は、少なくとも音源出力信号Siを用いて、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号をアンプ4の入力とした場合のアンプ4の出力の最大値であるアンプ出力最大値を算出し、アンプ出力最大値が、スピーカ2の異常が発生しない安全範囲を超えていなければ、セレクタ63に非線形歪制御部61が出力する補正後信号Csをアンプ4に出力させ、安全範囲を超えていれば、セレクタ63に音源出力信号Siをアンプ4に出力させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置であって、
前記スピーカを駆動するアンプと、
前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを有し、
前記歪補正部は、
信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を、前記入力信号に施した信号である補正信号を生成する非線形歪制御手段と、
少なくとも前記入力信号に基づいて、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記アンプの入力とした場合の前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、
前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記歪補正部の出力とし、所定の基準を超えているときに、前記非線形歪制御手段が前記非線形歪補正処理を施していない入力信号を、前記歪補正部の出力とする切替手段とを有することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項2】
入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置であって、
前記スピーカを駆動するアンプと、
前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを有し、
前記歪補正部は、
信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を、前記入力信号に施した信号を前記歪補正部の出力として生成する非線形歪制御手段と、
前記入力信号を減衰して減衰入力信号として出力する、減衰量が可変の減衰手段と、
少なくとも前記入力信号に基づいて、前記非線形歪補正処理を前記入力信号に施した信号を前記アンプの入力とした場合の前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、
前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段に、非線形歪補正処理を前記入力信号に施した信号を、前記歪補正部の出力として生成させ、所定の基準を超えているときに、前記減衰手段に、前記減衰入力信号のレベルが所定のレベル以下となる減衰量を設定し、前記非線形歪制御手段に、前記非線形歪補正処理を前記減衰入力信号に施した信号を、前記歪補正部の出力として生成させる切替手段とを有することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項3】
入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置であって、
前記スピーカを駆動するアンプと、
前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを有し、
前記歪補正部は、
入力信号を帯域毎に複数の帯域毎入力信号に分割する帯域分割手段と、
前記複数の帯域の各々に対応して設けられた、対応する帯域の帯域毎入力信号を入力とする複数の帯域毎歪補正部と、
各帯域毎歪補正部の出力を合成し、前記歪補正部の出力とする合成手段とを有し、
前記各帯域毎歪補正部は、
信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号である補正信号を生成する非線形歪制御手段と、
少なくとも前記帯域毎入力信号に基づいて、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記アンプの入力とした場合の前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、
前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記帯域毎歪補正部の出力とし、所定の基準を超えているときに、前記非線形歪制御手段が前記非線形歪補正処理を施していない帯域毎入力信号を、前記帯域毎歪補正部の出力とする切替手段とを有することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項4】
入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置であって、
前記スピーカを駆動するアンプと、
前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを有し、
前記歪補正部は、
入力信号を帯域毎に複数の帯域毎入力信号に分割する帯域分割手段と、
前記複数の帯域の各々に対応して設けられた、対応する帯域の帯域毎入力信号を入力とする複数の帯域毎歪補正部と、
各帯域毎歪補正部の出力を合成し、前記歪補正部の出力とする合成手段とを有し、
前記各帯域毎歪補正部は、
信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号を前記帯域毎歪補正部の出力として生成する非線形歪制御手段と、
前記帯域毎入力信号を減衰して減衰入力信号として出力する、減衰量が可変の減衰手段と、
少なくとも前記帯域毎入力信号に基づいて、前記非線形歪制御手段が非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号を前記アンプの入力とした場合の、前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、
前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段に、非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号を、前記帯域毎歪補正部の出力として生成させ、所定の基準を超えているときに、前記減衰手段に、前記減衰入力信号のレベルが所定のレベル以下となる減衰量を設定し、前記非線形歪制御手段に、前記非線形歪補正処理を前記減衰入力信号に施した信号を、前記帯域毎歪補正部の出力として生成させる切替手段とを有することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項5】
請求項1、2、3または4記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記所定の基準は、スピーカ出力のクリップ、破壊、底当りをスピーカの異常として、前記スピーカの異常が発生しないことが保証される前記アンプの出力の最大値であることを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項6】
請求項2または4記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記所定のレベルは、スピーカ出力のクリップ、破壊発、底当りをスピーカの異常として、前記非線形歪制御手段が前記非線形歪補正処理を前記減衰入力信号に施した信号をアンプの入力とした場合に、前記スピーカの異常が発生しないことが保証される前記減衰入力信号のレベルであることを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項7】
請求項1または2記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記スピーカの振動系の変位を検出する変位検出手段を有し、
前記非線形歪制御手段は、
前記非線形歪補正処理を施す信号である対象信号を入力とする、当該対象信号に対するスピーカの非線形な特性による歪を補正する伝達特性が設定された非線形部補正フィルタと、
前記非線形部補正フィルタの出力を入力とする線形逆フィルタと、
線形逆フィルタの伝達関数を、前記変位検出手段で検出される変位が前記対象信号に対して歪のない変位となるように適応させる適応手段とを有することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項8】
請求項3または4記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記スピーカの振動系の変位を表す変位信号を出力する変位検出手段と、
前記変位信号を帯域毎に複数の帯域毎変位信号に分割し、各帯域に対応する帯域毎歪補正部に出力する帯域分割手段とを備え、
前記非線形歪制御手段は、
前記非線形歪補正処理を施す信号である対象信号を入力とする、当該対象信号に対するスピーカの非線形な特性による歪を補正する伝達特性が設定された非線形部補正フィルタと、
前記非線形部補正フィルタの出力を入力とする線形逆フィルタと、
線形逆フィルタの伝達関数を、前記帯域毎変位信号が前記対象信号に対して歪のない変位信号となるように適応させる適応手段とを有することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項9】
請求項1または2記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記最大値算定手段は、前記非線形歪補正処理と同じ処理を前記入力信号に施した信号に前記アンプのゲインを乗じた信号の最大値を、前記出力最大値として算定することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項10】
請求項1または2記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記最大値算定手段は、前記入力信号の最大値から、予め設定した前記入力信号の最大値と出力最大値との関係に従って、前記出力最大値を算定することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【請求項11】
請求項1または2記載のスピーカの歪補正装置であって、
前記最大値算定手段は、前記スピーカの非線形な特性を除外した線形なスピーカの等価モデルに前記入力信号を適用してスピーカの振動系の変位の最大値を求め、求めた変位の最大値から、予め設定した前記変位の最大値と出力最大値との関係に従って、前記出力最大値を算定することを特徴とするスピーカの歪補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力に対するスピーカの出力の歪を補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
入力に対するスピーカの出力の歪を補正する技術としては、音源装置の出力を非線形部補正フィルタと適応フィルタとアンプを通してスピーカに出力する構成において、非線形部補正フィルタに、スピーカの非線形な特性による歪である非線形歪をキャンセルする伝達特性を設定し、適応フィルタの伝達特性を、目標とするスピーカの振動とセンサで検出した実際のスピーカの振動との差分をエラーとして適応させる技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
また、入力に対するスピーカの出力の歪を補正する技術としては、Mirrorフィルタを用いてスピーカの非線形歪を補正する技術も知られている(たとえば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】梶川 嘉延(関西大学システム理工学部)著、「信号処理技術によるスピーカシステムの非線形歪補正」、日本音響学会誌67巻10号(2011)、pp.470475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スピーカの歪は非線形歪が支配的であり、スピーカを駆動するアンプの出力レベルが大きい領域、したがって、スピーカの振動系の変位が大きい領域では、スピーカにかかる駆動力やスティフネスの非線形性の影響が特に大きい。このため、このような領域においては、上述した非線形歪を補正する技術を適用して、非線形性の大きな影響をキャンセルしようとすると、アンプの出力が顕著に増大してしまう。
【0007】
そして、アンプの出力が過度に増大すると、スピーカのボイスコイルボビンの底あたりやアンプの飽和に伴うスピーカ出力のクリップによる異音の発生や、弾性体の変位が破断領域に達する過振幅により振動系部材が破損する故障の発生等の、スピーカの異常が発生する。
そこで、本発明は、スピーカの異常の発生を抑止しつつ、可及的にスピーカの非線形歪を補正することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題達成のために、本発明は、入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置に、前記スピーカを駆動するアンプと、前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを備えたものである。
ここで、前記歪補正部は、信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を、前記入力信号に施した信号である補正信号を生成する非線形歪制御手段と、少なくとも前記入力信号に基づいて、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記アンプの入力とした場合の前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記歪補正部の出力とし、所定の基準を超えているときに、前記非線形歪制御手段が前記非線形歪補正処理を施していない入力信号を、前記歪補正部の出力とする切替手段とを備えている。
【0009】
また、前記課題達成のために、本発明は、入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置に、前記スピーカを駆動するアンプと、前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを備えたものである。
ここで、前記歪補正部は、信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を、前記入力信号に施した信号を前記歪補正部の出力として生成する非線形歪制御手段と、前記入力信号を減衰して減衰入力信号として出力する、減衰量が可変の減衰手段と、少なくとも前記入力信号に基づいて、前記非線形歪補正処理を前記入力信号に施した信号を前記アンプの入力とした場合の前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段に、非線形歪補正処理を前記入力信号に施した信号を、前記歪補正部の出力として生成させ、所定の基準を超えているときに、前記減衰手段に、前記減衰入力信号のレベルが所定のレベル以下となる減衰量を設定し、前記非線形歪制御手段に、前記非線形歪補正処理を前記減衰入力信号に施した信号を、前記歪補正部の出力として生成させる切替手段とを備えている。
【0010】
また、前記課題達成のために、本発明は、入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置に、前記スピーカを駆動するアンプと、前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを備えたものである。
ここで、前記歪補正部は、入力信号を帯域毎に複数の帯域毎入力信号に分割する帯域分割手段と、前記複数の帯域の各々に対応して設けられた、対応する帯域の帯域毎入力信号を入力とする複数の帯域毎歪補正部と、各帯域毎歪補正部の出力を合成し、前記歪補正部の出力とする合成手段とを備えている。
【0011】
また、前記各帯域毎歪補正部は、信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号である補正信号を生成する非線形歪制御手段と、少なくとも前記帯域毎入力信号に基づいて、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記アンプの入力とした場合の前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段が生成した補正信号を前記帯域毎歪補正部の出力とし、所定の基準を超えているときに、前記非線形歪制御手段が前記非線形歪補正処理を施していない帯域毎入力信号を、前記帯域毎歪補正部の出力とする切替手段とを備えている。
【0012】
また、前記課題達成のために、本発明は、入力信号に対するスピーカの出力の歪を補正する、スピーカの歪補正装置に、前記スピーカを駆動するアンプと、前記入力信号を入力とし、出力が前記アンプの入力となる歪補正部とを備えたものである。
ここで、前記歪補正部は、入力信号を帯域毎に複数の帯域毎入力信号に分割する帯域分割手段と、前記複数の帯域の各々に対応して設けられた、対応する帯域の帯域毎入力信号を入力とする複数の帯域毎歪補正部と、各帯域毎歪補正部の出力を合成し、前記歪補正部の出力とする合成手段とを備えている。
【0013】
また、前記各帯域毎歪補正部は、信号を、補正後の信号を前記アンプの入力とした場合に前記スピーカの非線形歪が抑制されるように補正する非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号を前記帯域毎歪補正部の出力として生成する非線形歪制御手段と、前記帯域毎入力信号を減衰して減衰入力信号として出力する、減衰量が可変の減衰手段と、少なくとも前記帯域毎入力信号に基づいて、前記非線形歪制御手段が非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号を前記アンプの入力とした場合の、前記アンプの出力最大値を算定する最大値算定手段と、前記最大値算定手段が算定した出力最大値が、所定の基準を超えていないときに、前記非線形歪制御手段に、非線形歪補正処理を前記帯域毎入力信号に施した信号を、前記帯域毎歪補正部の出力として生成させ、所定の基準を超えているときに、前記減衰手段に、前記減衰入力信号のレベルが所定のレベル以下となる減衰量を設定し、前記非線形歪制御手段に、前記非線形歪補正処理を前記減衰入力信号に施した信号を、前記帯域毎歪補正部の出力として生成させる切替手段とを備えている。
【0014】
ここで、以上のスピーカの歪補正装置において、前記所定の基準は、たとえば、スピーカ出力のクリップ、破壊、底当りをスピーカの異常として、前記スピーカの異常が発生しないことが保証される前記アンプの出力の最大値とする。
また、上記の所定のレベルは、たとえば、スピーカ出力のクリップ、破壊発、底当りをスピーカの異常として、前記非線形歪制御手段が前記非線形歪補正処理を前記減衰入力信号に施した信号をアンプの入力とした場合に、前記スピーカの異常が発生しないことが保証される前記減衰入力信号のレベルとする。
【0015】
また、上述の複数の帯域毎歪補正部を設けていないスピーカの歪補正装置に、前記スピーカの振動系の変位を検出する変位検出手段を設け、前記非線形歪制御手段を、前記非線形歪補正処理を施す信号である対象信号を入力とする、当該対象信号に対するスピーカの非線形な特性による歪を補正する伝達特性が設定された非線形部補正フィルタと、前記非線形部補正フィルタの出力を入力とする線形逆フィルタと、線形逆フィルタの伝達関数を、前記変位検出手段で検出される変位が前記対象信号に対して歪のない変位となるように適応させる適応手段とより構成してもよい。
【0016】
また、上述の複数の帯域毎歪補正部を設けたスピーカの歪補正装置に、前記スピーカの振動系の変位を表す変位信号を出力する変位検出手段と、前記変位信号を帯域毎に複数の帯域毎変位信号に分割し、各帯域に対応する帯域毎歪補正部に出力する帯域分割手段とを備え、前記非線形歪制御手段を、前記非線形歪補正処理を施す信号である対象信号を入力とする、当該対象信号に対するスピーカの非線形な特性による歪を補正する伝達特性が設定された非線形部補正フィルタと、前記非線形部補正フィルタの出力を入力とする線形逆フィルタと、線形逆フィルタの伝達関数を、前記帯域毎変位信号が前記対象信号に対して歪のない変位信号となるように適応させる適応手段とより構成してもよい。
【0017】
上述の複数の帯域毎歪補正部を設けていないスピーカの歪補正装置は、前記最大値算定手段において、前記非線形歪補正処理と同じ処理を前記入力信号に施した信号に前記アンプのゲインを乗じた信号の最大値を、前記出力最大値として算定するように構成してもよい。
【0018】
または、前記最大値算定手段において、前記入力信号の最大値から、予め設定した前記入力信号の最大値と出力最大値との関係に従って、前記出力最大値を算定してもよい。
または、前記最大値算定手段において、前記スピーカの非線形な特性を除外した線形なスピーカの等価モデルに前記入力信号を適用してスピーカの振動系の変位の最大値を求め、求めた変位の最大値から、予め設定した前記変位の最大値と出力最大値との関係に従って、前記出力最大値を算定してもよい。
【0019】
以上のような、スピーカの歪補正装置によれば、入力信号に対して非線形歪制御処理を施して補正した信号を入力とした場合のアンプのスピーカに対する出力最大値が、スピーカの異常を発生させる程に大きくない場合には、入力信号に対して非線形歪制御処理を施して補正した信号をアンプに出力することにより適正なスピーカの歪補正を行うようにすることができる。
【0020】
また、入力信号に対して非線形歪制御処理を施して補正した信号を入力とした場合のアンプのスピーカに対する出力最大値が、スピーカの異常を発生させる程に大きい場合には、入力信号に対して非線形歪制御処理を施すことにより著しく増大した信号に代えて、非線形歪制御処理を施していない入力信号や、減衰した入力信号に非線形歪制御処理を施した信号を、アンプの入力とすることにより、アンプの出力が過剰に増大してスピーカの異常が発生してしまうことを抑制できる。
【0021】
また、複数の帯域毎歪補正部を設けて、帯域毎に、このような制御を行うことにより、全帯域について見た場合のスピーカの歪率を、より低く抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、スピーカの異常の発生を抑止しつつ、可及的にスピーカの非線形歪を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る音響システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る変位検出の構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る保護機能付非線形歪制御部の構成を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る非線形歪制御部の構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る非線形制御抑制処理を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態に係るアンプ出力最大値検出処理の構成を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るアンプ出力最大値検出処理の他の構成例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るアンプ出力最大値検出処理の他の構成例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る保護機能付非線形歪制御部の他の構成例を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る非線形制御抑制処理の他の例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施形態に係る保護機能付非線形歪制御部の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、実施形態に係る音響システムの構成を示す。
図示するように、音響システムは、制御部1、スピーカ2、スピーカ2に設けたセンサ3、出力信号Soでスピーカ2を駆動するアンプ4、音声信号である音源出力信号Siを出力する音源装置5、保護機能付非線形歪制御部6、センサ3の出力からスピーカ2の振動系の変位を測定する変位計測部7を備えている。
【0025】
そして、保護機能付非線形歪制御部6は、音源装置5が出力する音源出力信号Siを補正し中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力する。
また、制御部1には、音源装置5から、曲再生中/曲非再生中等の再生状態や、再生中のオーディオコンテンツの情報や、出力レベル(ボリューム等)等の情報が入力する。
次に、
図2aに、スピーカ2の構成を示す。
図示するように、スピーカ2は、ヨーク201、磁石202、トッププレート203、ボイスコイルボビン204、ボイスコイル205、フレーム206、ダンパ207、振動板208、エッジ209、ダストキャップ210、変位検出用磁石211を有する。
今、図における上方をスピーカ2の前方、下方をスピーカ2の後方として、ヨーク201は、中央部に前方に突出した凸部2011を有し、当該凸部2011の外周部に環状の磁石202が設けられており、磁石202の上には環状のトッププレート203が設けられている。そして、このトッププレート203は、鉄等の導電性を有する部材によって構成される。そして、これらヨーク201、磁石202、トッププレート203によって磁気回路220が形成される。
【0026】
ボイスコイルボビン204は中空の円筒形状を有し、アンプ4からの信号が印加されるボイスコイル205が外周に巻かれている。また、ヨーク201の凸部2011は、ボイスコイルボビン204がヨーク201に対して前後に移動可能なようにボイスコイルボビン204の中空に後方より挿入されており、ボイスコイル205はヨーク201の凸部2011とトッププレート203との間の、磁気回路220によってトッププレート203の内周端間に発生する磁束が通過する位置に配置されている。
【0027】
振動板208は、おおよそスピーカ2の前後方向を高さ方向とする円錐台の側面と同様な形状を有し、その外周端部がエッジ209でフレーム206の前端部に連結されている。また、振動板208の内周端部は、ボイスコイルボビン204の前端部に固定されている。
【0028】
このようなスピーカ2の構成において、アンプ4からの出力信号Soがボイスコイル205に印加されると、磁気回路220から発生する磁束と、ボイスコイル205を流れる信号との電磁作用によって、出力信号Soの振幅に応じて、ボイスコイルボビン204が前後に振動する。そして、ボイスコイルボビン204が振動すると、ボイスコイルボビン204に連結されている振動板208が振動し、アンプ4からの信号に応じた音が発生する。
【0029】
変位検出用磁石211は、ボイスコイルボビン204と共に上下動するようにボイスコイルボビン204の外周側に固定されており、磁気回路220が発生する磁束と直交する方向の磁束を発生する。
また、上述したセンサ3は、トッププレート203等のスピーカ2の非振動系の、変位検出用磁石211に近い位置に固定されている。センサ3は、磁気角度センサであり、
図2bに示すように、磁気回路220から作用する磁束ベクトルQcと、変位検出用磁石211から作用する磁束ベクトルQsの合成ベクトルQの角度のアークタンジェントQs/Qcを磁気角度として検出し出力する。ボイスコイルボビン204の変位に伴う変位検出用磁石211の変位によって、センサ3に作用する変位検出用磁石211の発生する磁束ベクトルは変化するので、この磁気角度は、ボイスコイルボビン204の変位量に従った値となる。
【0030】
そして、
図1に示すように、変位計測部7は、このセンサ3の出力から、スピーカ2の振動系の変位を測定し、変位信号xとして、制御部1と保護機能付非線形歪制御部6に出力する。
次に、
図3に保護機能付非線形歪制御部6の構成を示す。
図示するように、保護機能付非線形歪制御部6は、音源出力信号Siを入力とする非線形歪制御部61、音源出力信号Siと変位信号xが入力するアンプ出力判定部62、音源出力信号Siと非線形歪制御部61の出力する補正後信号Csとのうちの一方を選択してアンプ4に中間出力信号ISoとして出力するセレクタ63を備えている。
非線形歪制御部61は、センサ3の変位信号xを参照しつつ、スピーカ2の非線形な特性と線形な特性によるスピーカ2の音源出力信号Siに対する出力の歪が無くなるように音源出力信号Siを補正し補正後信号Csとしてセレクタ63に出力する歪補正動作を行う。
ここで、このような歪補正動作を行う非線形歪制御部61の構成例を
図4に示す。
図示するように、この非線形歪制御部61は、非線形部補正フィルタ611、線形逆フィルタ612、適応アルゴリズム実行部613、エラー算出部614を備えている。
音源装置5が出力する音源出力信号Siは、非線形部補正フィルタ611を通って中間補正信号Smとして、線形逆フィルタ612に入力し、線形逆フィルタ612を通って補正後信号Csとしてセレクタ63に出力される。
非線形部補正フィルタ611の伝達特性(フィルタ係数)は、非線形部補正フィルタ611が出力する中間補正信号Smでスピーカ2を駆動した場合に音源出力信号Siに対するスピーカ2の非線形な特性によるスピーカ2の出力の歪がキャンセルされる伝達特性、すなわち、スピーカ2の非線形な特性による歪を補正する伝達特性に設定する。
【0031】
エラー算出部614は、音源出力信号Siに対して歪の無いスピーカ2の変位(振動)と、センサ3の変位信号xが示す実際のスピーカ2の変位(振動)との差分を算出する。
適応アルゴリズム実行部613と線形逆フィルタ612は適応フィルタを構成しており、適応アルゴリズム実行部613は中間補正信号Smを参照信号r、エラー算出部614が算出した差分をエラーeとして、LMSアルゴリズム等によって、エラーeが最小化するように、FIRフィルタ等である線形逆フィルタ612の伝達特性(フィルタ係数)を更新する。
【0032】
この更新の結果、前記スピーカ2の線形な特性によるスピーカ2の音源出力信号Siに対する出力の歪を補正する伝達特性が線形逆フィルタ612に設定される。
図3に戻り、アンプ出力判定部62は、音源出力信号Siやセンサ3の変位信号xから、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号をアンプ4の入力とした場合のアンプ4の出力の最大値であるアンプ出力最大値を算出するアンプ出力最大値算出処理と、非線形制御抑制処理を行う。
【0033】
アンプ出力最大値算出処理の詳細については後述することとして、まず、非線形制御抑制処理について説明する。
図5に、この非線形制御抑制処理の手順を示す。
この非線形制御抑制処理は、常時繰り返し行うものであってもよいし、定期的に行うものであってもよい。また、非線形制御抑制処理は、制御部1が、所定の契機でアンプ出力判定部62に行わせるものであってもよい。所定の契機で行う場合、この契機としては、音響システムの初期化時、音響システムの起動時、音源装置5の出力レベル(ボリューム)の変化時、音源装置5の再生中のコンテンツの変化時などを用いる。
【0034】
さて、図示するように、非線形制御抑制処理では、まず、非線形制御抑制モードを設定する(ステップ502)。ここで、非線形制御抑制モードは、セレクタ63に音源出力信号Siを中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力させるモードである。
次に、アンプ出力最大値算出処理で算出されたアンプ出力最大値を取得する(ステップ504)。
そして、アンプ出力最大値が、スピーカ2において出力のクリップが発生し得るアンプ4の出力の最小値であるクリップ発生出力値以上であるか(ステップ506)、スピーカ2において破損が発生し得るアンプ4の出力の最小値であるスピーカ破壊発生出力値以上であるか(ステップ508)、スピーカ2において振動系の底当りが発生し得るアンプ4の出力の最小値である底当り発生出力値以上であるか(ステップ510)を調べる。
【0035】
ここで、クリップ発生出力値、スピーカ破壊発生出力値、底当り発生出力値は、予め調査し、アンプ出力判定部62に設定しておく。
そして、アンプ出力最大値が、クリップ発生出力値以上でもスピーカ破壊発生出力値以上でも底当り発生出力値以上でもなければ、非線形制御モードを設定し(ステップ512)、処理を終了する。
ここで、非線形制御モードは、セレクタ63に非線形歪制御部61が出力する補正後信号Csを中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力させるモードである。
一方、アンプ出力最大値が、クリップ発生出力値、スピーカ破壊発生出力値、底当り発生出力値のいずれか以上であれば、非線形制御抑制モードを設定し(ステップ514)、処理を終了する。
以上のような、非線形制御抑制処理によれば、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号をアンプ4の入力とした場合にアンプ4からスピーカ2に出力される出力信号Soの最大値が、スピーカ2の出力のクリップやスピーカ2の破損やスピーカ2の底当りなどのスピーカ2の異常を発生させる程に大きくない場合には、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号である補正後信号Csを中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力することにより適正なスピーカ2の歪補正を行うことができる。
【0036】
一方、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号をアンプ4の入力とした場合にアンプ4からスピーカ2に出力される出力信号Soの最大値が、スピーカ2の異常を発生させる程に大きい場合には、音源出力信号Siを中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力することにより、非線形歪制御部61の音源出力信号Siに対する歪補正動作によって著しく増大した補正後信号Csによって、アンプ4の出力が過剰に増大してスピーカ2の異常が発生してしまうことを抑制することができる。
【0037】
なお、ステップ502で非線形制御抑制モードを設定するのは、非線形制御抑制処理の完了前に、クリップや、スピーカ2の破損や、底当りが発生しないようにするためである。
また、非線形制御抑制処理のステップ506-510の判定は、クリップ発生出力値、スピーカ破壊発生出力値、底当り発生出力値のうちの最小のものを参照出力として、アンプ出力最大値が参照出力以上である場合にステップ514に進み、そうでない場合にステップ512に進む処理としてもよい。
また、以上では非線形制御抑制モードにおいて、セレクタ63に音源出力信号Siを中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力させたが、これは、保護機能付非線形歪制御部6に、音源出力信号Siを、非線形歪の補正以外の何らかの処理を施すフィルタを設け、非線形制御抑制モードでは、セレクタ63にフィルタで処理した信号を中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力させるようにしてもよい。
【0038】
次に、アンプ出力判定部62が行うアンプ出力最大値算出処理について説明する。
アンプ出力最大値算出処理は、アンプ出力判定部62が非線形制御抑制処理を開始する際に実行され、アンプ出力判定部62は非線形制御抑制処理のステップ504において、アンプ出力最大値算出処理で所定長期間長の音源出力信号Siに対するアンプ出力最大値が算出されるのを待ってアンプ出力最大値算を取得する。
【0039】
アンプ出力判定部62は、
図6aに示すように、アンプ出力最大値算出処理において、音源出力信号Siとセンサ3の変位信号xを用いて、非線形歪制御部61の歪補正動作と同じ動作で音源出力信号Siを補正する非線形歪制御S601を行う。そして、非線形歪制御S601で補正した信号にアンプ4のゲインの値を乗じるアンプゲイン乗算S602を行う。そして、アンプゲイン乗算S602を行った信号の直近過去所定長期間内の最大値をアンプ出力最大値MAXSoとする最大値選択S603を行う。
【0040】
アンプ4のゲインの値は、当該値が設定値や設計値などから既知である場合には、その値を用いる。
アンプ4のゲインの値が既知でない場合には、事前に、アンプ4に所定のテスト信号u(たとえば、20Hzの正弦波)を出力し算定する。アンプ4へのテスト信号uの出力は、非線形制御抑制モードを設定した上で、音源出力信号Siとしてテスト信号uを音源装置5に出力させることにより行うことができる。
また、アンプ4のゲインの算定は、予め設定したスピーカ2の
図6bに示す等価回路に従った下式を、テスト信号uとセンサ3の変位信号xを用いてゲインの値Aについて解くことにより行うことができる。但し、下式において、xは時系列データであり、x(i)は変位信号xのi番目のデータを表す。また、テスト信号uは時系列データであり、u(i)はテスト信号uのi番目のデータを表す。また、F
sは時系列データのサンプリング周波数である。
x(n)=-a
1x(n-1)-a
2x(n-2)-a
3x(n-3)+{b
0u(n)+b
1u(n-1)+b
2u(n-2)+b
3u(n-3)}A
a
0=R
eK
ms+2F
s(R
eR
ms+L
eK
ms+Bl
2)+4F
s
2(R
eM
ms+L
eR
ms)+8F
s
3(M
msL
e)
a
1={3R
eK
ms+2F
s(R
eR
ms+L
eK
ms+Bl
2)4F
s
2(R
eM
ms+L
eR
ms)24F
s
3(M
msL
e)}/a
0
a
2={3R
eK
ms2F
s(R
eR
ms+L
eK
ms+Bl
2)4F
s
2(R
eM
ms+L
eR
ms)+24F
s
3(M
msL
e)}/a
0
a
3={R
eK
ms2F
s(R
eR
ms+L
eK
ms+Bl
2)+4F
s
2(R
eM
ms+L
eR
ms)8F
s
3(M
msL
e)}/a
0
b
0=Bl/a
0
b
1=3Bl/a
0
b
2=3Bl/a
0
b
3=Bl/a
0
以上、本発明の実施形態について説明した。
【0041】
ここで、以上の実施形態におけるアンプ出力判定部62のアンプ出力最大値算出処理は
図7に示すように行っても良い。
すなわち、音源出力信号Siの最大値と、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号をアンプ4の入力とした場合にアンプ4からスピーカ2に出力される出力信号Soの最大値との関係を予め調査し、当該関係を示す入力最大値-アンプ出力最大値変換テーブルS702を予め用意する。そして、アンプ出力最大値算出処理では、直近過去所定長期間内の音源出力信号Siの最大値を入力最大値として選択する入力最大値選択S701を行うと共に、選択した入力最大値を入力最大値-アンプ出力最大値変換テーブルS702を用いてアンプ出力最大値MAXSoに変換する。
【0042】
なお、
図7に示すようにアンプ出力最大値算出処理を行う場合、アンプ出力判定部62にセンサ3の変位信号xを入力しなくてよい。
または、以上の実施形態におけるアンプ出力判定部62のアンプ出力最大値算出処理は
図8aに示すように行っても良い。
すなわち、非線形歪制御部61の歪補正動作で実現する設計上の音源出力信号Siからスピーカ2の変位までの線形な伝達関数を目標線形伝達関数S801として予め用意する。また、スピーカ2の変位の最大値と、非線形歪制御部61で音源出力信号Siに対して歪補正動作を行って補正した信号を入力とした場合にアンプ4からスピーカ2に出力される出力信号Soの最大値との関係を予め調査し、当該関係を示す変位最大値-アンプ出力最大値変換テーブルS803を予め用意する。
【0043】
そして、直近過去所定長期間内の音源出力信号Siに目標線形伝達関数S801を施して変位に変換し、変換した変位の最大値を変位最大値として選択する変位最大値選択S802を行うと共に、選択した変位最大値を変位最大値-アンプ出力最大値変換テーブルS803を用いてアンプ出力最大値MAXSoに変換する。
【0044】
ここで、変位最大値-アンプ出力最大値変換テーブルS803は、たとえば、次のようにして算定してもよい。
アンプ4の出力(W;ワット)毎に、
図6bに示したスピーカ2の等価回路に従った以下の微分方程式を、当該出力の各周波数の純音を入力u(t)として、変位xについて解くことにより、スピーカ2の変位の周波数特性がアンプ4の出力毎に
図8bに示すように得られる。
【0045】
【0046】
そして、各アンプ4の出力毎に周波数特性の変位の最大値を求め、各アンプ4の出力(W;ワット)を電圧に換算すると、変位の最大値とアンプ4の出力電圧の関係が
図8cに示すように求まるので、
図8cに示す変位の最大値とアンプ4の出力電圧の関係を、変位最大値とアンプ出力最大値の関係として近似的に用いて、この関係を表すように変位最大値-アンプ出力最大値変換テーブルS803を算定する。
【0047】
なお、
図8aに示すようにアンプ出力最大値算出処理を行う場合、アンプ出力判定部62にセンサ3の変位信号xを入力しなくてよい。
ところで、以上の実施形態で示した
図3の保護機能付非線形歪制御部6と
図5の非線形制御抑制処理に代えて、
図9の保護機能付非線形歪制御部6と
図10の非線形制御抑制処理を用いてもよい。
図9の保護機能付非線形歪制御部6の構成は、
図3の保護機能付非線形歪制御の非線形歪制御部61に、音源出力信号Siをアッテネータ64を介して入力するようにしたものである。アッテネータ64は減衰量が0から所定量まで可変な可変アッテネータであり、アンプ出力判定部62から減衰量を制御可能に設けている。
【0048】
また、
図10の非線形制御抑制処理は、
図5の非線形制御抑制処理の非線形制御モードを設定するステップ512の処理を、アッテネータ64に減衰量0を設定した上で(ステップ1002)、非線形制御モードを設定する(ステップ1004)処理に置換したものである。
【0049】
また、
図10の非線形制御抑制処理は、
図5の非線形制御抑制処理の非線形制御抑制モードを設定するステップ514の処理を、アンプ4の出力Soの最大値がクリップ発生出力値以上でもスピーカ破壊発生出力値以上でも底当り発生出力値以上でも無くなるように、すなわち、アンプ4の出力Soの最大値がスピーカ2の異常が発生しない値となるように、非線形歪制御部61に入力する音源出力信号Siを減衰させるアッテネータ64の減衰量を算定し(ステップ1006)、算定した減衰量をアッテネータ64に設定し(ステップ1008)、非線形制御モードを設定する(ステップ1004)処理に置換したものである。
【0050】
ここで、ステップ1006のアッテネータ64の減衰量の算定は、たとえば、音源出力信号Siのレベルを、アンプ4の出力Soの最大値がスピーカ2の異常が発生しない値となることが保証できるレベルとして予め調査して設定した音源出力信号Siのレベルまで減衰させる減衰量として、音源出力信号Siから算定することができる。
【0051】
図9の保護機能付非線形歪制御部6と
図10の非線形制御抑制処理を用いることにより、音源装置5の音源出力信号Siの出力レベルが大きいときも歪率を低く抑えることできるようになる。
また、実施形態で示した
図3の保護機能付非線形歪制御部6に代えて、
図11に示す保護機能付非線形歪制御部6を用いるようにしてもよい。
図11に示す保護機能付非線形歪制御部6は、音源出力信号帯域分割部651、変位信号帯域分割部652、複数の帯域毎保護機能付非線形歪制御部653、ミキサ654を備えたものである。
全ての帯域毎保護機能付非線形歪制御部653は、
図5の非線形制御抑制処理を行う
図3の保護機能付非線形歪制御部6と、
図10の非線形制御抑制処理を行う
図9の保護機能付非線形歪制御部6の一方と同じ構成を備え、同じ動作を、各帯域毎保護機能付非線形歪制御部653毎に独立して行うものである。
各帯域毎保護機能付非線形歪制御部653は、音源出力信号Siの全帯域を分割した複数の帯域の各々に対応して設けられており、音源出力信号帯域分割部651は、音源装置5が出力する音源出力信号Siを帯域分割し各帯域の音源出力信号Siを、その帯域に対応する帯域毎保護機能付非線形歪制御部653に出力し、変位信号帯域分割部652は変位計測部7が出力する変位信号xを帯域分割し各帯域の変位信号xを、その帯域に対応する帯域毎保護機能付非線形歪制御部653に出力する。
【0052】
各帯域毎保護機能付非線形歪制御部653が出力する、対応する帯域の音源出力信号Siと変位信号xに対して上述の処理を行った信号はミキサ654に出力する。
ミキサ654は、各帯域毎保護機能付非線形歪制御部653から入力する信号を合成し、中間出力信号ISoとしてアンプ4に出力する。
なお、各帯域毎保護機能付非線形歪制御部653における、アンプ出力最大値算出処理で用いるテーブルや、非線形制御抑制処理で用いるクリップ発生出力値、スピーカ破壊発生出力値、底当り発生出力値などは、帯域毎に予め当該帯域に適合するように求めて、各帯域毎保護機能付非線形歪制御部653に設定する。
【0053】
図11に示したような帯域毎に処理を行う保護機能付非線形歪制御部6を用いることにより、必要な帯域のみ歪補正動作の抑制や、音源出力信号Siの減衰を行え、全帯域で見たときの歪率が低くなることが期待できる。
【符号の説明】
【0054】
1…制御部、2…スピーカ、3…センサ、4…アンプ、5…音源装置、6…保護機能付非線形歪制御部、7…変位計測部、61…非線形歪制御部、62…アンプ出力判定部、63…セレクタ、64…アッテネータ、201…ヨーク、202…磁石、203…トッププレート、204…ボイスコイルボビン、205…ボイスコイル、206…フレーム、207…ダンパ、208…振動板、209…エッジ、210…ダストキャップ、211…変位検出用磁石、220…磁気回路、611…非線形部補正フィルタ、612…線形逆フィルタ、613…適応アルゴリズム実行部、614…エラー算出部、651…音源出力信号帯域分割部、652…変位信号帯域分割部653…帯域毎保護機能付非線形歪制御部、654…ミキサ。