(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147274
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】抗がん剤及びキット
(51)【国際特許分類】
A61K 38/21 20060101AFI20241008BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241008BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241008BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241008BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20241008BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
A61K38/21
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K47/64
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060190
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】丸山 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 博志
(72)【発明者】
【氏名】前田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】菰原 義弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 章雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 涼
(72)【発明者】
【氏名】皆吉 勇紀
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA95
4C076BB16
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF11
4C076FF34
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084BA41
4C084BA44
4C084DA21
4C084MA02
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085EE03
4C085GG04
(57)【要約】
【課題】新規がん免疫療法を提供する。
【解決手段】マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質を有効成分として含有する、抗がん剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質を有効成分として含有する、抗がん剤。
【請求項2】
皮下投与に用いられる、請求項1に記載の抗がん剤。
【請求項3】
更に、免疫チェックポイント阻害剤を含む、請求項1に記載の抗がん剤。
【請求項4】
がんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、
マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質と、免疫チェックポイント阻害剤を含むキット。
【請求項5】
免疫チェックポイント阻害剤に治療抵抗性を示す患者に用いられる、請求項4に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術、放射線療法、化学療法に続く第4のがん治療法として注目されている免疫療法は、生体における幅広い免疫システムに基づくものであるが、中でも細胞障害性リンパ球(CTL)の活性化は、がん細胞の排除に大きく寄与する(非特許文献1参照。)。そのため、CTLを活性化させるPD-1抗体薬やCTLA-4抗体薬は、がん免疫療法における中心的な役割を担ってきた。
【0003】
近年、リンパ節常在性のマクロファージが、リンパ節に流れ込んだがん抗原やがん死細胞を貪食し、それら抗原を提示することで、CTLの活性化に寄与することが明らかとなった(非特許文献2参照。)。中でもCD169陽性マクロファージは、細胞膜上のCD169が共刺激分子として機能することで、CTLをより強力に活性化する (非特許文献3参照。)。実際に、リンパ節マクロファージにおけるCD169発現レベルは、腫瘍内のCD8(CTLマーカー)陽性細胞数、さらには様々ながん種のがん患者の生命予後とも正に相関する(非特許文献4参照。)。
これまでに、いくつかのCD169発現誘導因子が報告されているが、現状CD169誘導能に優れている分子として、生理活性タンパク質であるインターフェロンアルファ(IFNα)が挙げられる(非特許文献5参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Farhood, B et al. J. Cell. Physiol. 2019
【非特許文献2】Asano K et al. Immunity. 2011
【非特許文献3】Zhang Yi et al. J Pathol. 2016
【非特許文献4】Saito Y et al. Cancer Immunol Res. 2015
【非特許文献5】Ohnishi K et al. Cancer Sci. 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、IFNαを生体に投与する場合、IFNαの低いリンパ節移行性・マクロファージ指向性に起因する薬理効果の減弱、それによる投与量の増大によって、がん患者のさらなるQOL低下を引き起こすだけでなく、医療費をもひっ迫する恐れがある。
したがって、本発明は、IFNαを臨床応用可能とする製剤化技術の開発による、新規がん免疫療法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
[1]マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質を有効成分として含有する、抗がん剤。
[2]皮下投与に用いられる、[1]に記載の抗がん剤。
[3]更に、免疫チェックポイント阻害剤を含む、[1]に記載の抗がん剤。
[4]がんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質と、免疫チェックポイント阻害剤を含むキット。
[5]免疫チェックポイント阻害剤に治療抵抗性を示す患者に用いられる、[4]に記載のキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、新規がん免疫療法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】各種タンパク質のリンパ節移行性を評価した結果である。
【
図4】リンパ節におけるがん抗原の分布を評価した結果である。
【
図5】CD169とTRP-2の局在を評価した結果である。
【
図6】実験例3で使用したMan-MSA-IFNαの作製スキームである。
【
図7】作製したMan-MSA-IFNαを評価した結果である。
【
図9】各種タンパク質のリンパ節移行性を評価した結果である。
【
図11】リンパ節におけるMSA-IFNα及びMan-MSA-IFNαのそれぞれの分布を評価した結果である。
【
図12】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNαとCD169の局在を評価した結果である。
【
図13】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNα投与における、総CD169陽性細胞に対するCy-5陽性CD169陽性細胞の割合を示した結果である。
【
図14】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNαとCD11bの局在を評価した結果である。
【
図15】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNα投与における、総CD11b陽性細胞に対するCy-5陽性CD11b陽性細胞の割合を示した結果である。
【
図16】リンパ管内皮細胞におけるMSA-IFNα及びMan-MSA-IFNαのそれぞれの分布を評価した結果である。
【
図17】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNα投与における、総CD31陽性細胞に対するCy-5陽性CD31陽性細胞の割合を示した結果である。
【
図19】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNα投与細胞における、CD169発現を評価した結果である。
【
図21】MSA-IFNα又はMan-MSA-IFNα投与後のマウスから回収したリンパ節マクロファージにおけるCD169発現レベルを評価した結果である。
【
図23】(A)対照又はMan-MSA-IFNα投与後のマウスから回収した腫瘍の写真である。(B)各腫瘍体積の測定結果である。(C)腫瘍重量の測定結果である。
【
図25】(A)対照又はMan-MSA-IFNα投与後のマウスから回収した腫瘍の写真である。(B)各腫瘍体積の測定結果である。(C)腫瘍重量の測定結果である。
【
図27】対照又はMan-MSA-IFNα投与群における各種マーカー発現細胞の割合を示す結果である。
【
図29】対照又はMan-MSA-IFNα投与群におけるキラーT細胞の腫瘍浸潤レベルを示す結果である。
【
図31】(A)対照又はMan-MSA-IFNα投与後のマウスから回収した腫瘍の写真である。(B)各腫瘍体積の測定結果である。(C)腫瘍重量の測定結果である。
【
図33】対照又はMan-MSA-IFNα投与群における各種マーカー発現細胞の割合を示す結果である。
【
図35】対照又はMan-MSA-IFNα投与群におけるキラーT細胞の腫瘍浸潤レベルを示す結果である。
【
図37】対照又はMan-MSA-IFNα投与群における体重測定の結果である。
【
図39】対照又はMan-MSA-IFNα投与群における白血球数又は血小板数の測定結果である。
【
図40】対照又はMan-MSA-IFNα投与群における赤血球数、ヘモグロビン量又はヘマトクリット値の測定結果である。
【
図41】対照又はMan-MSA-IFNα投与群における臓器障害マーカー(AST,ALT,BUN)の測定結果である。
【
図43】(A)対照又は併用投与後のマウスから回収した腫瘍の写真である。(B)各腫瘍体積の測定結果である。(C)腫瘍重量の測定結果である。
【
図44】対照又は併用投与群における各種マーカー発現細胞の割合を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
従来の癌治療法は、薬物療法、外科手術、放射線療法をはじめとした3大療法が主流であったが、近年では、宿主の免疫を活性化させることでがん細胞を攻撃する免疫療法が第4のがん治療法として注目を浴びている。がん免疫療法は、体への負担が少なく、がんの再発や転移の予防にも有効な治療法であると言われており、中でも活性化したキラーT細胞は、がん免疫療法の中核を担うことが知られている。実際に臨床で適応されている免疫チェックポイント阻害剤のニボルマブは、キラーT細胞の疲弊を抑制することで悪性黒色腫患者をはじめとした様々ながん患者でその治療効果を発揮しており、このことからも、キラーT細胞の活性化を誘導することが、がん免疫療法の鍵を握ると言える。
【0010】
がん病態時において、キラーT細胞はがん抗原を取り込んだ抗原提示細胞によりリンパ節で活性化を受けることで、がん細胞特異的に攻撃する力を得る。特にリンパ節におけるキラーT細胞の活性化機序において、近年リンパ節常在性のCD169陽性マクロファージが、がん抗原の取り込み、および抗原提示を介したキラーT細胞活性化因子として注目されている。
【0011】
CD169はシアル酸との結合能を有するレクチン様タンパク質であり、リンパ節や脾臓に常在するマクロファージに豊富に発現する。またCD169分子自体がキラーT細胞の活性化に寄与することが明らかとされており、実際に臨床研究においても、リンパ節マクロファージのCD169発現が高いがん患者ほど、腫瘍内キラーT細胞数も増加し、悪性黒色腫をはじめとした様々ながん患者の生存率も向上することが報告されている。
【0012】
また、マクロファージ上のCD169は、生理活性タンパク質として知られるIFNαが作用することで、その発現が誘導されることから、これまでの内容を考慮すると、IFNαによるリンパ節マクロファージのCD169発現誘導は、キラーT細胞の活性化を介した新規がん治療戦略として期待される。
【0013】
[抗がん剤]
I型IFNを生体に投与する際の課題として、その分子サイズによる低いリンパ節移行性、及びマクロファージ認識素子を有しないことによるマクロファージ指向性の欠如 が懸念される。このような課題によりリンパ節マクロファージへのI型IFNの送達レベルが低下すると、十分な治療効果を得るために、さらに投与量を増やすこととなり、I型IFNによる副作用発現リスクが上昇することで、結果的にがん患者のさらなるQOL低下を引き起こす可能性が考えられる。したがって、リンパ節マクロファージのCD169発現誘導を介したがん免疫療法には、IFNαを臨床応用可能とする製剤化技術が必要不可欠であるといえる。
【0014】
そこで一実施形態において、本発明はマンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質を有効成分として含有する、抗がん剤を提供する。
【0015】
マンノース付加型アルブミンは、生体内タンパク質であるアルブミンにマクロファージ認識素子として知られるマンノース糖鎖を修飾したアルブミンであり、リンパ節マクロファージへの薬物輸送担体として、好適に用いられる。
マンノース付加型アルブミンにおけるマンノース糖鎖は、8個以上のマンノース残基を有する高マンノース糖鎖であり、下記化学式(1)に示す糖鎖構造を有する糖鎖である。化学式(1)中、「Asn」はタンパク質中のアスパラギン残基を示し、「〇」はNアセチルグルコサミン残基を示し、「◇」はマンノース残基を示し、n1、n2及びn3はそれぞれ独立に0以上の整数を示し、式(1)におけるマンノース残基の合計は8個以上である。式(1)におけるマンノース残基の合計は、例えば9個であってもよく、例えば10個であってもよく、例えば11個であってもよく、例えば12個であってもよく、例えば13個であってもよく、例えば14個以上であってもよい。式(1)におけるマンノース残基の合計の上限は、概ね20個程度である。
【0016】
【0017】
N-結合型糖鎖結合アミノ酸配列を有するタンパク質を酵母で発現させることにより、N-結合型糖鎖結合アミノ酸配列のアスパラギン残基に高マンノース糖鎖を容易に結合させることができる。
マンノース付加型アルブミンにおけるアルブミンは、哺乳動物由来が好ましく、ヒト、サル、マウス、ラット等由来が好ましく、ヒト由来が好ましい。野生型のヒト血清アルブミン(HSA)は糖鎖を有しておらず、例えば、D63N、A320T及びD494Nからなる群より選択される少なくとも1つの変異を有するHSA変異体を酵母で発現させることにより、マンノース付加型アルブミンを得ることができる。
【0018】
I型インターフェロンとしては、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータが挙げられる。インターフェロンアルファは、インターフェロンアルファ2、アルファ7及びアルファ8のサブタイプから構成される。
【0019】
融合タンパク質における、マンノース付加型アルブミンとインターフェロンアルファの各タンパク質間の融合の態様については、特に限定されず、1本のアミノ酸配列として融合していてもよく、親和性結合により融合していてもよい。
【0020】
本実施形態の抗がん剤は、皮下投与に用いられることが好ましい。
マンノース付加型アルブミンは皮下投与後、そのアルブミンのサイズ依存的にリンパ節へ移行し、マンノース糖鎖がマクロファージに高発現するマンノース受容体を認識することで、リンパ節に蓄積する。
【0021】
また、本実施形態の抗がん剤は、更に、免疫チェックポイント阻害剤を含むことが好ましい。免疫チェックポイント阻害剤としては、抗PD-1アンタゴニスト抗体、抗PD-L1アンタゴニスト抗体、抗CTLA-4アンタゴニスト抗体等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の抗がん剤は、薬学的に許容される担体を含有することが好ましい。薬学的に許容される担体としては、通常製剤に用いられるものを特に制限なく用いることができ、例えば、滅菌水、生理食塩水等の溶媒;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0023】
本実施形態の抗がん剤は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノール等の安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤;界面活性剤;乳化剤等が挙げられる。
【0024】
本実施形態の抗がん剤は、上記の薬学的に許容される担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0025】
本実施形態の抗がん剤は、非経口的に使用される剤型に製剤化されることが好ましい。非経口的に使用される剤型としては例えば注射剤、軟膏剤、貼付剤等が挙げられるが、注射剤が好ましい。
【0026】
注射剤用の溶媒としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液が挙げられる。注射剤用の溶媒は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。
【0027】
本実施形態の抗がん剤の1回あたりの投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.01から300mg、例えば約0.1から200mg、例えば約0.1から100mgの有効成分を投与することが考えられる。また、上記の量を1日あたり1回又は数回に分けて投与してもよい。
【0028】
本実施形態の抗がん剤の適用対象としては、がんであれば限定されず、乳がん(例えば、浸潤性乳管がん、非浸潤性乳管がん、炎症性乳がん等)、前立腺がん(例えば、ホルモン依存性前立腺がん、ホルモン非依存性前立腺がん等)、膵臓がん(例えば、膵管がん等)、胃がん(例えば、乳頭腺がん、粘液性腺がん、腺扁平上皮がん等)、肺がん(例えば、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫等)、結腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、直腸がん(例えば、消化管間質腫瘍等)、大腸がん(例えば、家族性大腸がん、遺伝性非ポリポーシス大腸がん、消化管間質腫瘍等)、小腸がん(例えば、非ホジキンリンパ腫、消化管間質腫瘍等)、食道がん、十二指腸がん、舌がん、咽頭がん(例えば、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん等)、頭頚部がん、唾液腺がん、脳腫瘍(例えば、松果体星細胞腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、びまん性星細胞腫、退形成性星細胞腫等)、神経鞘腫、肝臓がん(例えば、原発性肝がん、肝外胆管がん等)、腎臓がん(例えば、腎細胞がん、腎盂と尿管の移行上皮がん等)、胆嚢がん、胆管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、子宮肉腫、卵巣がん(例、上皮性卵巣がん、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍等)、膀胱がん、尿道がん、皮膚がん(例えば、メルケル細胞がん等)、血管腫、悪性リンパ腫(例えば、細網肉腫、リンパ肉腫、ホジキン病等)、メラノーマ(悪性黒色腫)、甲状腺がん(例えば、甲状腺髄様がん等)、副甲状腺がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、骨腫瘍(例えば、骨肉腫、ユーイング肉腫、軟部組織肉腫等)、転移性髄芽腫、血管線維腫、隆起性皮膚線維肉腫、網膜肉腫、陰茎癌、精巣腫瘍、小児固形がん(例えば、ウィルムス腫瘍、小児腎腫瘍等)、カポジ肉腫、AIDSに起因するカポジ肉腫、上顎洞腫瘍、線維性組織球腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、慢性骨髄増殖性疾患、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病等)等が挙げられる。
【0029】
[キット]
一実施形態において、本発明はがんの治療に用いるためのキットであって、前記治療において、同時使用又は逐次使用するための、マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質と、免疫チェックポイント阻害剤を含むキットを提供する。
【0030】
本実施形態のキットは、免疫チェックポイント阻害剤に治療抵抗性を示す、腫瘍へのリンパ球浸潤が低い患者に対して好適に用いられる。
また、本実施形態のキットにおいて、マンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質は、皮下投与に用いられることが好ましいが、免疫チェックポイント阻害剤の投与方法については特に限定されない。患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等のほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的方法が挙げられる。
その他、本実施形態のキットの好ましい態様については、[抗がん剤]と同様である。逐次投与の場合の順番は特に問わない。
【0031】
<治療方法>
一実施形態において、本発明は、上述した抗がん剤を、治療を必要とする患者に投与することを含む、がんの治療方法を提供する。
【0032】
また、一実施形態において、本発明は、有効量のマンノース付加型アルブミンとI型インターフェロンとの融合タンパク質と、有効量の免疫チェックポイント阻害剤とを、治療を必要とする患者に、同時に、または、逐次投与することを含む、がんの治療方法を提供する。その他、本実施形態の治療方法の好ましい態様については、[抗がん剤]と同様である。逐次投与の場合の順番は特に問わない。
【0033】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、がんの治療のための抗がん剤、又はキットを提供する。抗がん剤、又はキットとしては、上述したものと同様のものを使用することができる。
【実施例0034】
以下、実験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0035】
[実験例1]
アルブミンのリンパ節移行性について検討した。皮下投与による薬物の移行経路としては、血管とリンパ管がある。移行性の決定因子として、物質の分子サイズがある。分子サイズが5nm以下の物質は、投与後血管に移行し、5-100nmの物質は、リンパ管に移行することが分かっている。IFNαの分子サイズは、4.4nmであり、アルブミンは、10nmである。理論上、アルブミンは、IFNαよりもリンパ管の移行性に優れており、融合化によりIFNαのリンパ節移行性が向上することが期待される。
【0036】
放射活性を有するヨウ素で標識したマウス血清アルブミン(MSA)及びマウスIFNαをマウスの鼠径部に皮下投与し、1時間後と6時間後に、鼠径部リンパ節を回収し、標識体由来の放射量を測定することで、各種タンパク質のリンパ節移行性を評価した(
図1参照。)。結果を
図2に示す。投与後1時間では、MSA投与群はIFNα投与群と比較して高い値を示し、IFNαと比較したアルブミンの高いリンパ節移行性を示唆した。投与後6時間では、IFNα投与群で放射量の急激な低下が認められた。これは、リンパ節内の細胞に発現するIFNα受容体による取り込みで分解・消失したためだと考えられる。
【0037】
[実験例2]
次に腫瘍由来がん抗原のリンパ節移行性を評価した。抗原提示によるT細胞の活性化には、抗原-MHC分子複合体、及び共刺激分子による2つのシグナルが不可欠となる。そのため、T細胞の活性化を誘導するには、腫瘍由来のがん抗原がリンパ節マクロファージに取り込まれる必要がある。
【0038】
マウスメラノーマ細胞株B16F10を、マウスの鼠径部に皮下移植することで担癌モデルマウスを作製し、皮下移植20日後に鼠径部リンパ節を回収し、リンパ節におけるがん抗原の分布を、メラノーマのがん抗原ペプチドであるTRP-2の抗体を用いて蛍光免疫染色にて評価した(
図3参照。)。
図4に示す様に、腫瘍移植により、リンパ節において、TRP-2の存在が確認された。また、
図5に示す様に、マクロファージマーカーであるCD169も同様に染色したところ、CD169とTRP-2の共局在が認められ、リンパ節マクロファージが取り込んだがん抗原を抗原提示可能であることが示唆された。上記実験例の結果から、アルブミンを駆使したDDS戦略及びリンパ節マクロファージのCD169発現を介した治療戦略が有用である可能性を見出した。
【0039】
[実験例3]
リンパ節マクロファージ指向性IFNα製剤の開発に着手した。
図6に示す様に、マンノース糖鎖付加変異導入型MSAとIFNα2を遺伝子レベルで融合し、ピキア酵母発現システムを利用して、高マンノース付加型MSA(Man-MSA)とI型IFNであるIFNαを融合化したマクロファージ指向性IFN製剤、Man-MSA-IFNαを作製した。詳細には、MSAにN型糖鎖付加コンセンサス配列を導入すべく、遺伝子レベルにおいて、MSAの494位のアスパラギン酸をアスパラギンに置換したMSA(D494N)を作製し、MSA(D494N)とC末端側にHis-tagを挿入したIFNα2のcDNAをペプチドリンカー(-(GGGGS)
2-)で接続し、pPIC9ベクターに組み込んだ。このようにして設計されたコンストラクトpPIC9-MSA(D494N)-IFNα2をピキア酵母に組み込み、メタノールを炭素源とした培養系で発現させた。得られた組換えタンパク質は既報に従い、アフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。
【0040】
図7に示す様に、作製したMan-MSA-IFNαを用いてSDS-PAGEを行い、CBB染色を行ったところ、Man-MSA-IFNαの理論分子量である88kDaの位置にバンドが確認され、MSA抗体、IFNαのC末端側に付加したHis-tagに対する抗体を用いたウエスタンブロットにおいても、理論分子量の位置にバンドが確認された。糖染色(PAS stain)においても、理論分子量の位置にバンドが確認された。これらの結果から、Man-MSA-IFNαがインタクトな状態であることが確認された。
【0041】
[実験例4]
実験例1と同様に、Man-MSA-IFNαのリンパ節移行性評価を行った(
図8参照。)。比較対照として、マンノース糖鎖を付加されていないMSA-IFNαを用いた。
図9に示す様に、投与後1時間では、Man-MSA-IFNα投与群はMSA投与群と同等のリンパ節移行性を示し、融合体はアルブミン依存的にリンパ節へ移行することが確認された。投与後6時間では、Man-MSA-IFNα投与群及びMSA-IFNα投与群で放射量の急激な低下が認められた。これは、リンパ節内の細胞に発現するIFNα受容体又はマンノース受容体による取り込みを介して分解・消失したためだと考えられる。
【0042】
[実験例5]
Man-MSA-IFNαのマクロファージ指向性を評価した。Cy-5で標識したマウスMSA-IFNα及びMan-MSA-IFNαのそれぞれをマウスの鼠径部に皮下投与し、1時間後に、鼠径部リンパ節を回収し、リンパ節におけるMSA-IFNα及びMan-MSA-IFNαのそれぞれの分布を、Cy-5の蛍光にて評価した(
図10参照。)。
図11に示す様に、MSA-IFNα及びMan-MSA-IFNαのそれぞれにおいて、リンパ節の辺縁部における局在が確認された。リンパ節の辺縁部には、主にマクロファージ、及びリンパ管内皮細胞が存在する。辺縁部に局在するMan-MSA-IFNαは、マクロファージとリンパ管内皮細胞のどちらに多く取り込まれるのか、マクロファージ指向性の有無を評価した。リンパ節マクロファージによるMSA-IFNα又はMan-MSA-IFNαの取り込みを、蛍光免疫染色にて評価した(
図12~
図15参照。)。
図13及び
図15に示す様に、Man-MSA-IFNαは、MSA-IFNαと比較して有意にリンパ節マクロファージに取り込まれており、高マンノース糖鎖の付加によりマクロファージ指向性が向上することが確認された。
同様の評価をリンパ管内皮細胞においても行ったところ、高マンノース糖鎖の付加によりリンパ管内皮細胞への取り込みが減少した(
図16及び
図17参照。)。以上の結果から、Man-MSA-IFNαは高いマクロファージ選択性を有することが確認された。
【0043】
[実験例6]
Man-MSA-IFNαのCD169発現誘導能を評価すべく、マクロファージ様細胞株であるJ774.1細胞に対し、Man-MSA-IFNα及び比較対照群として 作製したMSA-IFNαを添加し、Flow CytometryにてCD169発現を評価した(
図18参照。)。
図19に示す様に、PBS添加 群及びMSA添加群と比較して、ポジティブコントロールとして用いたIFNα添加群と同様にCD169発現の有意な上昇が認められた。また、IFNαを 1 IU/ml、Man-MSA-IFNα 及び MSA-IFNαをそれぞれ70nMで添加した時、それぞれのCD169発現レベルに有意な差はみられなかった。この結果から、IFNαの1 IUは、Man-MSA-IFNα及びMSA-IFNαを70pmol添加した時の力価と同等であることが確認された。
【0044】
[実験例7]
健常マウスに対し、in vitro実験の結果を反映して力価が同等となるように、各種薬剤を鼠径部へ皮下投与し、72時間後に鼠径リンパ節を回収した後Flow CytometryにてマクロファージのCD169発現レベルを評価した(
図20参照。)。
図21に示す様に、力価が同等なのにもかかわらず、IFNα投与群及びMSA-IFNα投与群と比較してMan-MSA-IFNα投与群で有意なCD169発現レベルの上昇が認められた。この結果から、各種薬剤によるCD169発現レベルの差は、薬剤が投与されてからリンパ節マクロファージに作用するまでの動態特性の差異によることが示唆された。
【0045】
[実験例8]
膀胱がん細胞株であるMB49を皮下移植することで作製した担癌マウスに対し、Man-MSA-IFNαを皮下投与し、その治療効果を評価した。Man-MSA-IFNαの投与量は、健常マウスでリンパ節マクロファージのCD169発現誘導が見られた投与量を採用した。また、比較対照群のIFNα及びMSA-IFNαは、Man-MSA-IFNαと力価が同等となるように投与した(
図22参照。)。治療最終日における腫瘍体積及び腫瘍重量を測定すると、健常マウスにおけるCD169発現レベルの結果を反映して、比較対照群と比較してMan-MSA-IFNα投与群で有意な腫瘍体積縮小効果が認められた(
図23参照。)。
【0046】
[実験例9]
実験例8と同様の実験をルイス肺癌細胞株であるLLCを皮下移植することで作製した担癌マウスを用いて行った。Man-MSA-IFNαの治療効果は同様に発揮され、がん病態に対する治療効果の再現性が確認された。(
図24、
図25参照。)。
【0047】
[実験例10]
実験例8において、治療最終日に鼠径リンパ節を回収し、Flow CytometryにてキラーT細胞の活性化を評価した(
図26参照。)。
図27に示す様に、キラーT細胞のマーカーであるCD8陽性T細胞、増殖マーカーであるKi67陽性CD8陽性T細胞、活性化マーカーであるIFNγ、及びCD69陽性CD8陽性T細胞の割合は、IFNα、MSA-IFNα投与群と比較して、Man-MSA-IFNα投与群で有意に増加していた。Man-MSA-IFNαは、リンパ節におけるキラーT細胞の活性化を効果的に誘導することが確認された。
【0048】
[実験例11]
実験例8において、治療最終日に腫瘍組織を回収し、単位面積当たりのCD8陽性細胞数を測定した(
図28参照。)。
図29に示す様に、リンパ節におけるキラーT細胞の活性化を反映して、Man-MSA-IFNα投与群において、比較対照群と比較して有意な CD8陽性細胞の腫瘍浸潤増加が認められた。
以上のことから、Man-MSA-IFNαは、リンパ節におけるキラーT細胞を活性化し、CD8陽性細胞の腫瘍浸潤増加を介して、腫瘍成長が抑制されることが確認された。
【0049】
[実験例12]
Man-MSA-IFNαの治療効果がリンパ節マクロファージ依存的であることを確認すべく、リンパ節マクロファージ枯渇マウスにおける治療効果を評価した。CD169陽性マクロファージを消失させたマウスに対してMB49を皮下移植することで作製した担癌マウスに対し、健常マウスを用いた検討と同様の投与量、投与スケジュールにて Man-MSA-IFNαを投与した(
図30参照。)。
図31に示す様に、治療最終日における腫瘍体積及び腫瘍重量は、saline投与群と比較して有意な差は見られなかった。
【0050】
[実験例13]
実験例12において、リンパ節を回収し、リンパ節におけるキラーT細胞の活性化レベルを評価した(
図32参照。)。saline投与群とMan-MSA-IFNα投与群でキラーT細胞の活性化レベルに有意な差は見られなかった(
図33参照。)。
【0051】
[実験例14]
また、腫瘍浸潤レベルにおいても、saline投与群とMan-MSA-IFNα投与群で有意な差は見られなかった(
図34、
図35参照。)。以上の結果から、Man-MSA-IFNαは、リンパ節マクロファージのCD169を効率良く誘導することで、抗腫瘍免疫の増強、それによる治療効果に寄与することが明らかとなった。
【0052】
[実験例15]
IFNα投与により認められる副作用としては、消化器症状、白血球減少、血小板減少、貧血、その他、肝障害、腎障害が挙げられる。これらの副作用を、体重変動、WBC、PLT、RBC、HGB、HCT、AST、ALT、BUNの評価項目にて評価した。実験例8のMB49(膀胱がん細胞株)担癌マウスを用いた効果の検討において、マウスの体重を測定した(
図36参照。)。結果を
図37に示す。各投与群で、体重の減少が認められず、Man-MSA-IFNα投与による消化器症状に伴う体重減少は認められないことが確認された。
【0053】
同様に担癌マウスを用いた効果の検討において、マウスから血液を回収し、白血球数及び血小板数を評価した(
図38参照。)。
図39に示す様に、各種投与群で白血球数及び血小板数の有意な減少は認められなかった。また、貧血症状を示す各検査項目においても同様に、各種投与群で各臨床検査値の低下は認められず、貧血を招くリスクは低いことが確認された(
図40参照。)。また、肝障害マーカーであるAST、ALTに関しても、各種投与群での異常値は認められず (
図41参照。)、腎障害マーカーであるBUNについても同様であり、臓器障害を助長する可能性も低いことが確認された(
図41参照。)。
【0054】
[実験例16]
免疫チェックポイント阻害剤単剤での奏効率は30%未満であり、免疫チェックポイント阻害剤との有効かつ最適な併用療法の探索がされている。免疫チェックポイント阻害剤は腫瘍へのリンパ球浸潤が低い患者に対して治療抵抗性を示すことが知られている。一方、Man-MSA-IFNαは、活性化キラーT細胞の腫瘍浸潤レベルを向上させており、Man-MSA-IFNαは、免疫チェックポイント阻害剤の治療抵抗性を改善する候補薬になると考えられる。そこで、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法における有用性を検討した。
【0055】
MB49を皮下移植することで作製した担癌マウスに対し、Man-MSA-IFNαと抗PD-L1抗体との併用効果を検討した(
図42参照。)。
図43に示す様に、抗PD-L1抗体単独では治療効果が認められなかった一方、二剤併用投与では、単剤投与と比較して有意に治療効果が認められ、Man-MSA-IFNαの併用により抗PD-L1抗体の治療抵抗性が改善したことが確認された。
更に、Flow Cytometryにて キラーT細胞の活性化を評価し たところ、Man-MSA-IFNαの併用により腫瘍内活性化キラーT細胞数の相乗的な増加が認められた(
図44参照。)。