(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147278
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】発光制御方法及び発光タイミング設定方法
(51)【国際特許分類】
G09G 3/3233 20160101AFI20241008BHJP
G09G 3/20 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
G09G3/3233
G09G3/20 611E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060195
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸生
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲生
(72)【発明者】
【氏名】梅田 豊
【テーマコード(参考)】
5C080
5C380
【Fターム(参考)】
5C080AA06
5C080BB05
5C080CC03
5C080DD05
5C080DD06
5C080DD26
5C080JJ02
5C080JJ03
5C080JJ04
5C080JJ05
5C380AA01
5C380AA02
5C380AB06
5C380AB23
5C380AB34
5C380AB35
5C380AB36
5C380AB37
5C380AB41
5C380BA01
5C380BA06
5C380BA39
5C380BB09
5C380CC03
5C380CC26
5C380CC33
5C380CC39
5C380CC65
5C380CD017
5C380DA35
5C380HA03
(57)【要約】
【課題】EL表示装置において任意の周波数において低周波駆動を用いた場合であっても、有効にフリッカを低減させるようその発光を制御すること。
【解決手段】複数の規則的に配列されたEL発光素子を有するEL表示装置の発光制御方法であって、前記EL発光素子の1発光周期中に、前記EL発光素子を発光させない非発光期間が1又は複数挿入され、前記発光周期をT≡2π/ωとする前記EL発光素子の輝度変化において、ある閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数として、
【数1】
である、発光制御方法。ここで、nは整数、c
nは区間0≦t<Tにおける前記EL発光素子の輝度L(t)の複素フーリエ係数である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の規則的に配列されたEL発光素子を有するEL表示装置の発光制御方法であって、
前記EL発光素子の1発光周期中に、前記EL発光素子を発光させない非発光期間が1又は複数挿入され、
前記発光周期をT≡2π/ωとする前記EL発光素子の輝度変化において、ある閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数として、
【数1】
である、発光制御方法。
ここで、nは整数、c
nは区間0≦t<Tにおける前記EL発光素子の輝度L(t)の複素フーリエ係数である。
【請求項2】
【請求項3】
前記閾周波数ωth/2πは、45Hz以上120Hz以下である、請求項1に記載の発光制御方法。
【請求項4】
前記非発光期間の挿入タイミングは、前記EL発光素子の輝度レベルに応じて異なる、請求項1~3のいずれか1項に記載の発光制御方法。
【請求項5】
1発光周期中にk回(1≦k)の非発光期間を挿入してなるEL発光素子の発光タイミングの設定方法であって、
前記EL発光素子の発光周期をT≡2π/ωとし、
前記非発光期間が挿入されないとしたときの前記EL発光素子の1発光周期(0≦t<T)における輝度をL
0(t)とし、
m回目の非発光期間の開始時刻をt
im、終了時刻をt
fmとし、ここで、1≦m≦kであって、0<t
i1<t
f1<t
i2<t
f2<・・・<t
ik<t
fk<Tであり、
前記EL発光素子の1発光周期における輝度L(t)を以下のとおりとし、
【数3】
L(t)を以下のようにフーリエ級数展開したとき、
【数4】
ある閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数、jを1≦j≦lである自然数として、ε
aj、ε
bjをある閾値としたときに、次式、
【数5】
を満たすように、前記非発光期間の開始時刻t
imおよび終了時刻t
fmを定める、
発光タイミングの設定方法。
【請求項6】
【数6】
を満たすようにε
aj、ε
bjを定める、請求項5に記載の発光タイミングの設定方法。
【請求項7】
【数7】
を満たすようにε
aj、ε
bjを定める、請求項6に記載の発光タイミングの設定方法。
【請求項8】
前記閾周波数ωth/2πは、45Hz以上120Hz以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の発光タイミングの設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光制御方法及び発光タイミング設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表示素子として有機EL(エレクトロルミネセンス)素子が設けられた表示装置の駆動方法として、1フレームの表示期間を複数に分割してなる各期間に非発光期間を設け、映像信号の入力を間引く場合の1フレーム目において、非発光期間を延長することで、各フレームにおける発光時間×輝度の値を揃えるとともに、フリッカを抑制し表示品位を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EL表示装置において、消費電力低減のために低周波駆動を用いた場合、駆動トランジスタのヒステリシス特性のため、1フレーム内において輝度変化が生じるため、フリッカが生じる。特許文献1記載の駆動方法は、任意の周波数においてフリッカを低減させるものではないから、低周波駆動を実施する際の柔軟性に欠ける。また、駆動トランジスタのヒステリシス特性を考慮したものではないから、十分なフリッカの抑制効果が得られない恐れがある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、EL表示装置において任意の周波数において低周波駆動を用いた場合であっても、有効にフリッカを低減させるようその発光を制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下のとおりである。
【0007】
(1)複数の規則的に配列されたEL発光素子を有するEL表示装置の発光制御方法であって、前記EL発光素子の1発光周期中に、前記EL発光素子を発光させない非発光期間が1又は複数挿入され、前記発光周期をT≡2π/ωとする前記EL発光素子の輝度変化において、ある閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数として、
【数1】
である、発光制御方法。ここで、nは整数、c
nは区間0≦t<Tにおける前記EL発光素子の輝度L(t)の複素フーリエ係数である。
【0008】
(2)(1)において、
【数2】
である、発光制御方法。
【0009】
(3)(1)又は(2)において、前記閾周波数ωth/2πは、45Hz以上120Hz以下である、発光制御方法。
【0010】
(4)(1)~(3)のいずれかにおいて、前記非発光期間の挿入タイミングは、前記EL発光素子の輝度レベルに応じて異なる、発光制御方法。
【0011】
(5)1発光周期中にk回(1≦k)の非発光期間を挿入してなるEL発光素子の発光タイミングの設定方法であって、前記EL発光素子の発光周期をT≡2π/ωとし、前記非発光期間が挿入されないとしたときの前記EL発光素子の1発光周期(0≦t<T)における輝度をL
0(t)とし、m回目の非発光期間の開始時刻をt
im、終了時刻をt
fmとし、ここで、1≦m≦kであって、0<t
i1<t
f1<t
i2<t
f2<・・・<t
ik<t
fk<Tであり、前記EL発光素子の1発光周期における輝度L(t)を以下のとおりとし、
【数3】
L(t)を以下のようにフーリエ級数展開したとき、
【数4】
ある閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数、jを1≦j≦lである自然数として、ε
aj、ε
bjをある閾値としたときに、次式、
【数5】
を満たすように、前記非発光期間の開始時刻t
imおよび終了時刻t
fmを定める、発光タイミングの設定方法。
【0012】
(6)(5)において、
【数6】
を満たすようにε
aj、ε
bjを定める、発光タイミングの設定方法。
【0013】
(7)(6)において、
【数7】
を満たすようにε
aj、ε
bjを定める、発光タイミングの設定方法。
【0014】
(8)(5)~(7)のいずれかにおいて、前記閾周波数ωth/2πは、45Hz以上120Hz以下である、発光タイミングの設定方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】複数の規則的に配列されたEL発光素子を有するEL表示装置の模式的な構造を例示する図である。
【
図2】
図1に示されたEL表示装置の画素回路の等価回路と各信号のタイミングチャートを例示する図である。
【
図3】駆動トランジスタのヒステリシス特性によるEL発光素子の輝度変化の一例を示す図である。
【
図4】EL発光素子の1発光周期における発光中に、1又は複数の非発光期間が挿入された輝度変化の一例を示す図である。
【
図5】
図2(a)に示した表示装置に用いられる画素回路の等価回路を用いた、非発光期間の挿入のタイミングチャートの例である。
【
図6】t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めた際のEL発光素子の1発光周期Tにおける輝度変化の例を示す図である。
【
図7】
図6の例におけるパワースペクトルを示す図である。
【
図8】t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めた際のEL発光素子の1発光周期Tにおける輝度変化の別の例を示す図である。
【
図9】
図8の例におけるパワースペクトルを示す図である。
【
図10】t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めた際のEL発光素子の1発光周期Tにおける輝度変化のさらに別の例を示す図である。
【
図11】
図10の例におけるパワースペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の好適な実施形態に係る発光制御方法を使用することができる、複数の規則的に配列されたEL発光素子を有するEL表示装置100の模式的な構造を例示する図、また、
図2は、EL表示装置100の画素回路の等価回路と各信号のタイミングチャートを例示する図である。
【0017】
図1に示すように、EL表示装置100は、行方向(X方向)と列方向(Y方向)に配置される複数の画素PXを備えた画素領域101、走査線駆動回路102、データ線駆動回路103を基板104の一方の面(上面)に有している。走査線駆動回路102、データ線駆動回路103は画素領域104の外側に位置している。画素領域101、走査線駆動回路102は基板104と図示しない対向基板との間に設けられる。画素領域101からは配線が基板104の端部に向かって伸びており、基板104の端部で露出され、図示しない端子を形成する。端子はフレキシブルプリント回路(FPC)などの図示しないコネクタを介して外部回路と接続される。図示しない外部回路から供給された映像信号が走査線駆動回路102、データ線駆動回路103を介して画素PXに与えられて画素PXのEL発光素子が制御され、映像が画素領域101上に表示される。
図1では走査線駆動回路102は画素領域101の左側に一つ設けられているように図示されているが、これを画素領域101を挟むように二つ設けるようにしてもよい。また、走査線駆動回路102やデータ線駆動回路103を基板104上に直接形成するのではなく、異なる基板上に設けられた駆動回路を基板104上に実装または接続し、あるいはコネクタ上に形成してもよい。
【0018】
複数の画素PXには発色が互いに異なるEL発光素子が設けられ、これにより、フルカラー表示を行うことができる。例えば赤色、緑色、及び青色に発光するEL発光素子を三つ一組(トリプレット)で配置してよい。あるいは、全ての画素PXで白色発光のEL発光素子を設け、カラーフィルタを用いて画素PXに応じて赤色、緑色、又は青色を取り出してフルカラー表示を行ってもよい。また、最終的に取り出される色は赤色、緑色、及び青色の組み合わせには限られない。例えば四つの画素を四つ一組(カルテット)で配置し、それぞれ、赤色、緑色、青色、及び黄又は白色の4色に発色するようにしてもよい。画素PXは画素領域101において規則的に配列され、その配列は、ストライプ配列、デルタ配列、ペンタイル配列などを採用してよい。
【0019】
図2(a)は、本実施形態の表示装置100に含まれる画素PXそれぞれに形成される画素回路の等価回路であり、
図2(b)は、
図2(a)に示した各信号の時間変化を示すタイミングチャートである。
【0020】
画素回路は、pチャネル型のトランジスタである駆動トランジスタDRTの他に、EL発光素子OLED、画素トランジスタSST、リセットトランジスタRST、第1の出力トランジスタBCT1、第2の出力トランジスタBCT2、第1のスイッチングトランジスタTCT、第2のスイッチングトランジスタICT、および保持容量Csを有する。なお、本実施形態では、EL発光素子OLEDは、発光層に有機材料を用いるいわゆる有機ELであるが、発光材料に限定はなく、無機材料を用いるものであってもよい。
【0021】
駆動トランジスタDRTのソースは、第2の出力トランジスタBCT2を介して、電源電位PVDDに接続される。一方、駆動トランジスタDRTのドレインは、第1の出力トランジスタBCT1を介して、EL発光素子OLEDの入力端子に接続される。EL発光素子OLEDの出力端子は、接地電位PVSSに接続される。
【0022】
駆動トランジスタDRTのソースはまた、画素トランジスタSSTを介して、映像信号Vsig[m]にも接続される。また、EL発光素子OLEDの入力端子は、リセットトランジスタRSTを介して、リセット信号Vrst[m]に接続される。
【0023】
第1のスイッチングトランジスタTCTは、駆動トランジスタDRTのゲートとドレインの間に接続される。すなわち、第1のスイッチングトランジスタTCTのソースは駆動トランジスタDRTのゲートに接続され、ドレインは駆動トランジスタDRTのドレインに接続される。一方、第2のスイッチングトランジスタICTは、駆動トランジスタDRTのゲートとリセット信号Vrst[m]の入力端子との間に接続される。すなわち、第2のスイッチングトランジスタICTのソースは駆動トランジスタDRTのゲートに接続され、ドレインはリセット信号Vrst[m]に接続される。
【0024】
保持容量Csは、駆動トランジスタDRTのゲートと、電源電位PVDDとの間に接続される。すなわち、保持容量Csの一方の端子は駆動トランジスタDRTのゲートに接続され、他方の端子は電源電位PVDDに接続される。
【0025】
駆動トランジスタDRT、画素トランジスタSST、リセットトランジスタRST、第1の出力トランジスタBCT1、第2の出力トランジスタBCT2、第1のスイッチングトランジスタTCT、および第2のスイッチングトランジスタICTはそれぞれ、シリコン(例えば多結晶シリコン)や酸化物半導体を含むチャネル領域を有する電界効果トランジスタである。駆動トランジスタDRT、第1の出力トランジスタBCT1、および第2の出力トランジスタBCT2はpチャネル型のトランジスタとして形成され、画素トランジスタSST、リセットトランジスタRST、第1のスイッチングトランジスタTCT、および第2のスイッチングトランジスタICTはnチャネル型のトランジスタとして形成される。
【0026】
第1のスイッチングトランジスタTCTのゲートには、制御線CL[n]を介して走査信号Scan[n]が供給される。走査信号Scan[n]は、走査線駆動回路102が各画素PXに供給する信号であり、画素トランジスタSSTのゲートにも供給される。第2のスイッチングトランジスタICTおよびリセットトランジスタRSTの各ゲートには、n-1行目に位置する画素PXに対応する走査信号Scan[n-1]が制御線CL[n-1]を介して供給される。第1の出力トランジスタBCT1および第2の出力トランジスタBCT2のゲートには、エミット信号Emit[n]が共通に供給される。エミット信号Emit[n]もまた、走査線駆動回路102が供給する信号である。
【0027】
図2(b)から理解されるように、走査信号Scan[n]は、所定の水平走査期間Hの間隔でn=1からn=Nまで順次パルス状に活性化される。個々の活性化期間は、水平走査期間Hの時間長よりも短くなっている。画素PX(n,m)に着目すると、まず走査信号Scan[n-1]が活性化することにより、第2のスイッチングトランジスタICTとリセットトランジスタRSTがオンの状態となる(リセット期間P1)。このとき、走査信号Scan[n]は非活性の状態であるから、第1のスイッチングトランジスタTCT、画素トランジスタSSTはいずれもオフの状態である。また、エミット信号Emit[n]は、走査信号Scan[n-1]に先立って活性化され、走査信号Scan[n+1]が活性化するまで、その活性状態が維持される。したがって、リセット期間P1では、第1の出力トランジスタBCT1及び第2の出力トランジスタBCT2もオフである。
【0028】
このように、リセット期間P1では第2のスイッチングトランジスタICTとリセットトランジスタRSTのみがオンとなり、駆動トランジスタDRTのゲートにリセット信号Vrst[m]が供給される。これにより、駆動トランジスタDRTのゲートの電位(ゲート電位)がVrst[m]にリセットされる。また、保持容量Csの両端間電位差がPVDD-Vrst[m]にリセットされる。
【0029】
次に、走査信号Scan[n]が活性化すると、第1のスイッチングトランジスタTCT及び画素トランジスタSSTがオンの状態となる(書き込み期間P2)。一方、走査信号Scan[n-1]が非活性状態であることから第2のスイッチングトランジスタICTとリセットトランジスタRSTはオフとなり、また、エミット信号Emit[n]が引き続き活性状態であることから、第1の出力トランジスタBCT1および第2の出力トランジスタBCT2もオフとなる。
【0030】
書き込み期間P2では、駆動トランジスタDRTのソースに映像信号Vsig[m]が供給され、駆動トランジスタDRTのゲート及びドレインの電位がともにVsig[m]-Vth(n,m)となる。Vth(n,m)は画素PX(n,m)の駆動トランジスタDRTの閾値電圧である。このとき保持容量Csの両端間電位差はPVDD-(Vsig[m]-Vth(n,m))となる。
【0031】
次に、エミット信号Emit[n]が非活性になると、第1の出力トランジスタBCT1および第2の出力トランジスタBCT2がオンとなる(出力期間P3)。また、画素トランジスタSST、リセットトランジスタRST、第1のスイッチングトランジスタTCT、第2のスイッチングトランジスタICTはいずれもオフとなる。これにより、駆動トランジスタDRTのゲート電位が実質的にVsig[m]に等しくなり、駆動トランジスタDRTのゲート電位からVth(n,m)の影響がキャンセルされる。したがって、駆動トランジスタDRTのドレイン電流の強度がVsig[m]に応じた値となるので、EL発光素子OLEDがVsig[m]に応じた強度で発光することになる。こうして、映像信号Vsig[m]に応じた強度での発光が実現される。
【0032】
一方、画素PX(n,m)の次行に位置する画素PX(n+1,m)では、画素PX(n,m)の書き込み期間P2において駆動トランジスタDRTのゲート電位がリセットされる。具体的には、画素PX(n,m)の書き込み期間P2において走査信号Scan[n]が活性化され、画素PX(n+1,m)内の第2のスイッチングトランジスタICTとリセットトランジスタRSTがオンとなる。画素PX(n+1,m)のエミット信号Emit[n+1]は画素PX(n,m)のリセット期間P1において活性化されているので、画素PX(n+1,m)の第1の出力トランジスタBCT1と第2の出力トランジスタBCT2はオフ状態が維持される。これにより、画素PX(n+1,m)の駆動トランジスタDRTのゲート電位がVrst[m]に、保持容量Csの両端間電位差がPVDD-Vrst[m]にリセットされる。
【0033】
画素PX(n,m)の出力期間P3に先立ち、走査信号Scan[n]が非活性となり、引き続き走査信号Scan[n+1]が活性化される。これにより、画素PX(n+1,m)の第2のスイッチングトランジスタICT、リセットトランジスタRSTはオフとなり、一方、第1のスイッチングトランジスタICTと画素トランジスタSSTがオンとなり、画素PX(n+1,m)の書き込みが始まる。この時、画素PX(n+1,m)では、駆動トランジスタDRTのソースに映像信号Vsig[m]が供給され、駆動トランジスタDRTのゲートとドレインの電位はVsig[m]-Vth(n+1,m)に、保持容量Csの両端間電位差はPVDD-(Vsig[m]-Vth(n+1,m))となる。ここで、Vth(n+1,m)は画素PX(n+1,m)の駆動トランジスタDRTの閾値電圧である。これらの動作により、画素PX(n,m)の出力期間P3において画素回路PX(n+1,m)の書き込みが行われる。
【0034】
その後、走査信号Scan[n+1]が非活性となり、引き続きエミット信号Emit[n+1]も非活性となる。これにより、画素PX(n+1,m)において第1のスイッチングトランジスタTCTと画素トランジスタSSTがオフとなり、第1の出力トランジスタBCT1と第2の出力トランジスタBCT2がオンとなり、画素PX(n+1,m)の出力期間が開始される。画素PX(n+1,m)の駆動トランジスタDRTのゲート電位はVsig[m]と等しくなって閾値電圧の影響がキャンセルされ、Vsig[m]に応じたドレイン電流が駆動トランジスタDRTを介して画素PX(n+1,m)のEL発光素子OLEDへ供給される。
【0035】
以上説明したように、EL発光素子OLEDは、駆動トランジスタDRTにより電流が制御され、映像信号Vsig[m]に応じた強度で発光するものであるが、このことは、EL発光素子OLEDの輝度変化は、駆動トランジスタDRTからのドレイン電流の時間変化に依存することを意味する。そして、駆動トランジスタDRTが理想的な特性を持つ、すなわち、時間に非依存で、ゲート電位にのみ依存するドレイン電流を出力するならば、EL発光素子OLEDの輝度は、映像信号Vsig[m]が変化しない限り一定であると考えられるが、実際には、駆動トランジスタDRTはヒステリシス特性を有するため、1発光周期(垂直走査期間)内でドレイン電流は一定でなく、したがって、EL発光素子OLEDの輝度もこれに伴い変化する。
【0036】
図3は、駆動トランジスタDRTのヒステリシス特性によるEL発光素子OLEDの輝度変化の一例を示す図である。図示の例は、1発光周期は約66.7msec、すなわち、発光周波数が15Hzの低周波駆動が行われている様子を示したものである。
【0037】
同図に示された輝度波形より読み取れるように、映像信号Vsig[m]の書き込み直後(0msec時点)ではEL発光素子OLEDに与えられる電流は低く、発光輝度も低くなる。その後時間の経過とともに電流が増加し、EL発光素子OLEDの発光輝度も高くなり、設定値に対応した輝度へと飽和する。このように、1発光周期の先頭と末尾において、EL発光素子OLEDの発光輝度に差異が生じる。
【0038】
この時、発光周波数が90Hz、あるいは120Hzのようにヒトのフリッカ融合頻度(一般に、70Hz~100Hzと言われている)より高いか同程度であれば、EL発光素子OLEDの発光輝度の変化によるちらつきはヒトの目には認識されず、画像表示はなめらかである。しかしながら、
図3の例の15Hzのように、ヒトのフリッカ融合頻度より明らかに低周期での発光輝度の変化が生じると、ヒトの目に画像がちらついて認識され、表示装置100の表示品質が低下する。
【0039】
表示装置100の低周波駆動時のちらつきは、EL発光素子OLEDの輝度変化の低周波成分、特に、ヒトのフリッカ融合頻度より低い周波数の成分により引き起こされる。そこで、
図4に示すように、EL発光素子OLEDの1発光周期における発光中に、1又は複数の非発光期間を挿入することを考える。すなわち、EL発光素子OLEDの発光中に、ヒトの目に認識できない程度の短時間の間、EL発光素子OLEDが非点灯となり黒表示となる期間を挿入する。
【0040】
この非発光期間を、単純に一定間隔、また一定時間のものとして設けても、EL発光素子OLEDの輝度変化の低周波成分に大きな変化を与えることはできず、表示装置100の低周波駆動時のちらつきを十分に低減することはできないと考えられる。しかしながら、非発光期間の挿入タイミングと、それぞれの非発光期間の時間、また、挿入する非発光期間の数を適切に設計することにより、EL発光素子OLEDの輝度変化の低周波成分を低減し、表示装置100の低周波駆動時のちらつきの低減が可能であることを出願人は見出した。以下、非発光期間の挿入の方法及び、非発光期間の設計の詳細について説明する。
【0041】
図5は、
図2(a)に示した表示装置100に用いられる画素回路の等価回路を用いた、非発光期間の挿入のタイミングチャートの例である。なお、
図5における横軸である時間については、図示の都合上比率を調整して示しており、必ずしも図示された通りの比率に従ってEL発光素子OLEDが駆動されるわけではない。
【0042】
EL発光素子OLEDの1発光周期を0≦t<Tと置くと、まず、図中の(1)は
図2(b)で示したリセット期間P1であり、第2のスイッチングトランジスタICTとリセットトランジスタRSTがオンの状態となり、保持容量Csの両端間電位差を初期値であるPVDD-Vrst[m]にリセットする。続く(2)は
図2(b)で示した書き込み期間P2であり、第1のスイッチングトランジスタTCT及び画素トランジスタSSTがオンの状態となり、保持容量Csの両端間電位差はPVDD-(Vsig[m]-Vth(n,m))となる。
【0043】
この(1)(2)を含む0≦t<trsの期間では、Emit[n]はオンの状態であるから、第1の出力トランジスタBCT1及び第2の出力トランジスタBCT2はオフであり、EL発光素子OLEDは非発光の状態にとどめられる。
【0044】
t
rs≦t<Tの期間のうち、(3)で示した期間は、
図2(b)で示した出力期間P3であり、第1の出力トランジスタBCT1および第2の出力トランジスタBCT2がオンとなり、EL発光素子OLEDがVsig[m]に応じた強度で発光する。しかしながら、1発光周期全体でみると、その初期は図示されているように、主として(1)のリセット期間P1でのストレスに起因する駆動トランジスタDRTのヒステリシス特性の影響で輝度が低くなり、時間の経過とともに輝度が上昇し飽和する輝度曲線となる。
【0045】
(4)で示した期間、すなわち、
図5の例では、t
i1≦t<t
f1、t
i2≦t<t
f2、及びt
i3≦t<t
f3の3つの期間が非発光期間である。非発光期間では、Emit[n]が一時的にオンの状態とされ、第1の出力トランジスタBCT1及び第2の出力トランジスタBCT2がオフとなり、EL発光素子OLEDは非発光の状態となる。非発光期間が終了すると、Emit[n]が再びオフとなり、第1の出力トランジスタBCT1及び第2の出力トランジスタBCT2がオンとなって、EL発光素子OLEDは再び保持容量Csの両端間電位差により規定される、Vsig[m]に応じた強度で発光する。この時、Emit[n]のオンオフは駆動トランジスタDRTに影響を与えないため、駆動トランジスタDRTのヒステリシス特性に起因する輝度曲線は、非発光期間の挿入前の形状を維持する。
【0046】
上述したように、EL発光素子OLEDの1発光周期中において、適切なタイミングでEmit[n]のオンオフを制御することにより、非発光期間を挿入することができる。なお、1発光周期中に挿入される非発光期間の数は、
図5で例示した3つに限られず、4以上、あるいは1又は2とすることもできる。
【0047】
また、一般に、表示装置100の水平走査期間Hは、EL発光素子OLEDの1発光周期T、すなわち、垂直走査期間に対して十分短いため、
図5における(1)(2)を含む0≦t<t
rsの期間は、これをほぼ無視して、t
rs≒0として取り扱うことができる。
【0048】
ここで、非発光期間を設けない場合のEL発光素子OLEDの1発光周期Tにおける輝度をL0(t)(0≦t<T;T≡2π/ω)と置き、1発光周期中にk回(1≦k)の非発光期間を挿入するものとする。m回目の非発光期間の開始時刻をtim、終了時刻をtfmとし、ここで、1≦m≦kであって、0<ti1<tf1<ti2<tf2<・・・<tik<tfk<Tとおくと、EL発光素子OLEDの1発光周期における輝度L(t)は次のとおり書ける。
【0049】
【0050】
L(t)は以下のようにフーリエ級数展開される。
【数9】
【0051】
この時、級数の係数はそれぞれ、次のとおりである。
【数10】
【0052】
係数a
n及びb
nは、数8より、L
0(t)が所与であるならば、次のとおり、t
im及びt
fm(1≦m≦k)の関数となる。
【数11】
【0053】
先にすでに説明したように、ちらつきによる表示装置100の表示品質の低下をもたらすのは、ヒトのフリッカ融合頻度より低い周波数の成分である。したがって、この低い周波数の成分を減じることができれば、ちらつきを抑制することができるはずである。そこで、ある閾周波数ωth/2πを定め、この閾周波数ωth以下の周波数成分を減じることを考える。ここで、閾周波数ωth/2πは、ヒトのフリッカ融合頻度を参酌して定められ、好ましくは、45Hz以上120Hz以下とする。
【0054】
閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数とする。例えば、
図4の例に示したように、EL発光素子OLEDの発光周波数ω/2π(≡1/T)が15Hzである場合に、閾周波数ω
th/2πを45Hzに定めると、l=3となる。また、EL発光素子OLEDの輝度L(t)の、閾周波数ω
th/2π以下の低周波数成分L
low(t)は、次の通りとなる。ここで、a
0を含む定数項はフリッカの原因とならないため考慮する必要はない。
【0055】
【0056】
したがって、n=1,2,・・・,lについての級数の係数である、a
n及びb
nを十分に小さい値とすることができるならば、表示装置100のちらつきが低減されることになる。そこで、自然数jを1≦j≦lとして、a
j及びb
jの各々について、十分に小さいある閾値ε
aj、ε
bjを与え、次式、
【数13】
を満たすように数11を解き、t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めることにより、EL発光素子OLEDの1発光周期中に具体的に非発光期間を設定でき、表示装置100の低周波駆動時のちらつきが低減される。
【0057】
ここで、数11は非線形連立方式であり、解析的にこれを解くことは通常困難であるから、計算機を用いた任意の数値解法によりtim及びtfm(1≦m≦k)を求めてよい。具体的には、tim及びtfmに任意の初期値、例えば、非発光期間が一定間隔かつ一定時間挿入されるようなものを与え、ニュートン法を用いた反復計算をすることによりtim及びtfmの値を更新し、上の数13が満足された時点でのtim及びtfmの値を解とすればよい。なお、以降では、数値解法によりtim及びtfmを数13を満足するまで更新することを、「非発光期間を最適化する」と称する。
【0058】
この時、数13に示した閾値ε
aj、ε
bjは、十分に表示装置100のちらつきを十分に低減できるものに設定する必要がある。ここで、ヒトの目で見た際に、表示装置100のちらつきが気になるか否かは、EL発光素子OLEDの発光の低周波数成分L
low(t)が、EL発光素子OLEDの1発光周期中の全発光エネルギーに占める割合に依存するものと考えられる。すなわち、EL発光素子OLEDの1発光周期中の全発光エネルギーにおける低周波数成分L
low(t)の占めるエネルギーの割合が低いほど、ちらつきを認識することはできなくなると考えられる。ここで、EL発光素子OLEDの発光エネルギーを輝度波形の関数としてE(L)と置くと、フーリエ級数の係数a
n及びb
nの二乗和はエネルギーの次元を持つから、
【数14】
である。
【0059】
したがって、例えば、低周波数成分L
low(t)のエネルギーが全発光エネルギーの50%以下となるようにt
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めるには、
【数15】
すなわち、
【数16】
となるように閾値ε
aj、ε
bjを定めればよい。なお、ここで、数16の右辺の値は、パーセヴァルの等式により、
【数17】
から容易に求められる。
【0060】
あるいは、例えば、低周波数成分L
low(t)のエネルギーが全発光エネルギーの10%以下となるようにt
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めるには、同様に、
【数18】
となるように閾値ε
aj、ε
bjを定めればよい。
【0061】
図6は、上述の数18により定めた閾値ε
aj、ε
bjを用いて、t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めた際のEL発光素子OLEDの1発光周期Tにおける輝度変化の例を示す図である。また、
図7は、
図6の例におけるパワースペクトルを示す図である。
図6及び
図7において、(a)は非発光期間が挿入されない場合、(b)は非発光期間が最適化される前、(c)は非発光期間が最適化された後を示している。
図6及び
図7の例は、EL発光素子OLEDの1発光周期T中に、非発光期間を3回挿入し、閾周波数ω
th/2π=45Hzとした場合の例となっている。また、EL発光素子OLEDの発光周期は15Hzの低周波駆動である。なお、輝度L(t)は周波数ω/2πの周期関数であるから、パワースペクトルは、nω/2πごとのラインスペクトルとして現れるが(n=1,2,・・・)、
図7では、ラインスペクトルの値を直線でつないだ曲線として図示している。以降の
図9、
図11でも同様である。
【0062】
図7より容易に理解できるように、非発光期間を挿入しない(a)の場合は、パワースペクトルに45Hz以下の低周波の成分が多く、フリッカが生じていると考えられる。また、非発光期間を最適化することなく挿入した(b)の場合は、非発光期間を挿入することにより、パワースペクトルの60Hz及び120Hzの成分が増加しているものの、45Hz以下の低周波の成分に大きな変化は見られず、やはりフリッカは生じていると考えられる。これに対し、非発光期間を上述の方法により最適化した(c)の場合は、パワースペクトルの45Hz以下の低周波の成分は抑制されてほぼ存在せず、EL発光素子OLEDの発光は、事実上60Hz以上の成分のみにより構成されるようになっていることがわかる。したがって、この(c)の場合には、ヒトの目にフリッカはほとんど感じられることが無いと考えられる。また、
図6より見て取れるように、(c)の場合の非発光期間は、個々の非発光期間ごとにその挿入タイミング及び時間長さが異なっており、最適化されていることがわかる。
【0063】
図8は、同じく上述の数18により定めた閾値ε
aj、ε
bjを用いて、t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めた際のEL発光素子OLEDの1発光周期Tにおける輝度変化の別の例を示す図である。また、
図9は、
図8の例におけるパワースペクトルを示す図である。
図8及び
図9においても、(a)は非発光期間が挿入されない場合、(b)は非発光期間が最適化される前、(c)は非発光期間が最適化された後を示している。
図6及び7の例と同様に、
図8及び
図9の例においても、EL発光素子OLEDの1発光周期T中に、非発光期間は3回挿入され、閾周波数ω
th/2π=45Hz、EL発光素子OLEDの発光周期は15Hzである。
図8及び
図9の例では、画素回路の設計の都合等の事情により、EL発光素子OLEDの1発光周期Tの先頭または末尾(この例では先頭)に、黒表示期間が設けられている。
【0064】
このような場合であっても、上述した手順において、非発光期間を設けない場合のEL発光素子OLEDの1発光周期Tにおける輝度L
0(t)を黒表示期間を含むものとして与え、同様に非発光期間を最適化すればよい。
図9に示されるように、先の例と同様に、非発光期間を挿入しない(a)及び非発光期間を最適化することなく挿入した(b)の場合は、パワースペクトルに45Hz以下の低周波の成分が多く、フリッカが生じていると考えられるのに対し、非発光期間を上述の方法により最適化した(c)の場合は、パワースペクトルの45Hz以下の低周波の成分は抑制され、ヒトの目にフリッカはほとんど感じられることが無いと考えられる。また、
図8より見て取れるように、本例における(c)の場合の非発光期間は、先の例の
図6の(c)に示した場合とその挿入タイミング及び時間長さは異なり、輝度L
0(t)の波形によって、最適化された非発光期間の挿入タイミング及び時間長さは異なるものとなることがわかる。
【0065】
図10は、同じく上述の数18により定めた閾値ε
aj、ε
bjを用いて、t
im及びt
fm(1≦m≦k)を定めた際のEL発光素子OLEDの1発光周期Tにおける輝度変化のさらに別の例を示す図である。また、
図11は、
図10の例におけるパワースペクトルを示す図である。
図10及び
図11においても、(a)は非発光期間が挿入されない場合、(b)は非発光期間が最適化される前、(c)は非発光期間が最適化された後を示している。
図10及び
図11の例では、輝度波形は
図6及び
図7に示したのと同一であり、EL発光素子OLEDの発光周期は15Hzである。本例では、非発光期間は7回挿入するものとし、閾周波数ω
th/2π=110Hzとしている。
【0066】
図11の(c)に示されるように、本例では、パワースペクトルの105Hz以下の低周波の成分が抑制されており、先の2つの例に比べ、よりフリッカは感じられなくなっていると考えられる。なお、本例では閾周波数である110Hzに該当する周波数成分の発光はなく、105Hzが閾周波数に最も近い最大の周波数成分である。
図10の(b)より明らかなように、非発光期間の挿入数が多くとも、単に一定周期、一定時間での非発光期間の挿入によっては低周波成分を抑制することはできないが、(c)のように、非発光期間を最適化した場合は、パワースペクトルの105Hz以下の低周波の成分を十分に抑制できている。
【0067】
なお、より高い閾周波数に対してフリッカを抑制するためには、非発光期間の挿入数を増やす必要がある場合がある。数13を見ると、形式的にはこれは2l個の式を持つ連立不等式となっており、独立変数となるtim及びtfm(1≦m≦k)が2l個以上存在すれば、この連立不等式は有意に解かれ得ることから、k≧lとなるように非発光期間の挿入回数kを定めるとよい。なお、EL発光素子OLEDの1発光周期Tにおける輝度L0(t)の波形によっては、k<lの条件であっても、閾周波数以下の低周波成分のパワースペクトルを十分に抑制できる場合は有り得るが、そのような解の存在が必ずしも保証されるものではない。
【0068】
以上の説明より明らかなように、所与の閾周波数に対してフリッカを抑制できるtim及びtfmは、輝度L0(t)の形状に応じて定まるものである。したがって、EL発光素子OLEDの輝度L(t)の形状が、その発光の輝度レベルに対して線形であるならば、輝度レベルによらずtim及びtfmを一意に定めてよいが、輝度レベルに応じて輝度L(t)の形状が非線形に変化する場合には、輝度レベルごとに、その変化したL(t)の形状に基づいて互いに異なるtim及びtfmを定めるとよい。この場合、非発光期間の挿入タイミングは、EL発光素子OLEDの輝度レベルに応じて異なることになる。
【0069】
ここまで説明した方法により、EL発光素子OLEDの1発光周期中において非発光期間が挿入された表示装置100は、その発光制御方法に次のような特徴を持つと考えられる。すなわち、その1発光周期T≡2π/ωにおける輝度を測定しL(t)(0≦t<T)とするならば、L(t)は次のように複素フーリエ級数展開できる。
【数19】
ここで、nは整数、c
nは複素フーリエ係数であり、数9に示した級数の係数a
n,b
nに対して、
【数20】
であることに注意して数16を見れば、ある閾周波数ω
th/2πに対して、lをlω≦ω
thを満たす最大の自然数として、
【数21】
が成り立つ。
【0070】
あるいは、数18を見れば、同様に、
【数22】
が成り立つ。
【0071】
ここで、|c
n|
2はエネルギーの次元を持つから、表示装置100におけるEL発光素子OLEDの輝度変化を測定し、一般的なスペクトラムアナライザによりL(t)のパワースペクトルP(f)を測定すると、パワースペクトルP(f)は、周波数nω/2πごとのラインスペクトルとして現れ(n=1,2,・・・)、|c
n|
2に対し次の関係を持つ。
【数23】
【0072】
したがって、表示装置100に用いられている発光制御方法が数21あるいは数22の条件を満たしていることは、その輝度L(t)をスペクトラム解析することにより、容易に確認することができる。
【符号の説明】
【0073】
100 EL表示装置、101 画素領域、102 走査線駆動回路、103 データ線駆動回路、104 基板、PX 画素、DRT 駆動トランジスタ、OLED EL発光素子、SST 画素トランジスタ、RST リセットトランジスタ、BCT1 第1の出力トランジスタ、BCT2 第2の出力トランジスタ、TCT 第1のスイッチングトランジスタ、ICT 第2のスイッチングトランジスタ、Cs 保持容量。