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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147299
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20241008BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241008BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241008BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20241008BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0587
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060222
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H028
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H028AA06
5H028CC12
5H028HH00
5H028HH06
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL06
5H029AM03
5H029AM05
5H029BJ14
5H029DJ08
5H029EJ04
5H029HJ00
5H029HJ04
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050DA10
5H050EA08
5H050FA05
5H050HA00
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】ハイレート特性の向上を図る。
【解決手段】二次電池は、セパレータを挟んで積層された正極用の電極シート及び負極用の電極シートを捲回してなる電極体を備える。各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層することにより形成される。また、電極シートとして捲回された状態で電極合材層に対して、所定時間、圧力を作用させた場合に、その電極合材層に作用する単位圧力あたり、単位体積あたりの電極合材層から流出する電解液の重さを液流れ量とする。更に、この液流れ量を、その電極合材層に含浸された電解液の流動性指標値とする。液流れ量は、電極合材層に圧力を作用させる所定時間を3分として、「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」に表される。そして、二次電池は、正極合材層の液流れ量Qpから、負極合材層の液流れ量Qnを減じた値(Qp-Qn)が、0.48×10^-6以上となるように構成される。
【選択図】図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを挟んで積層された正負の電極シートを捲回してなる電極体を備え、
前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるとともに、
前記電極シートとして捲回された状態で、前記電極合材層に対して、所定時間、圧力を作用させた場合に、前記電極合材層に作用する単位圧力あたり、前記電極合材層の単位体積あたりの前記電極合材層から流出する電解液の重さを前記電極合材層に含浸された前記電解液の流動性指標値とした場合に、
前記電極合材層に前記圧力を作用させる前記所定時間を3分として、
前記電解液の流動性指標値を「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」で表したときに、
正極合材層の前記流動性指標値から負極合材層の前記流動性指標値を減じた値が、0.48×10^-6以上である二次電池。
【請求項2】
前記正極合材層の前記流動性指標値が、
7.8×10^-7以上、8.8×10^-6以下である
請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極合材層の厚みが、0.034ミリメートル以上、0.050ミリメートル以下である請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極合材層の前記流動性指標値が、
2.4×10^-6以上、1.1×10^-5以下である
請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記負極合材層の厚みが、0.060ミリメートル以上、0.080ミリメートル以下である請求項1に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極合材層が導電性繊維状炭素材を含有する
請求項1~請求項5の何れか一項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セパレータを挟んで積層された正負の電極シートを捲回してなる電極体を備えた二次電池がある。このような電極体を備える二次電池においては、大きな電流が流れるハイレート充放電時、発熱により電解液、及び、その電極シートを構成する電極合材が膨張することで、この電極体に含浸された電解液が外部に流出する。更に、これにより、その電極体に含浸された電解液の塩濃度にムラが生じることで内部抵抗が増大する。その結果、充放電性能が劣化するという問題がある。
【0003】
このような問題を解決すべく、ハイレート通電時、電極合材から流出する電解液量が、正極側よりも負極側の方が多くなりやすいことに着目する。そして、例えば、特許文献1~特許文献4等に示すように、その正極側と負極側との流出液量差をバランスさせることで、ハイレート通電による充放電性能の低下を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-174648号公報
【特許文献2】特開2017-10882号公報
【特許文献3】特開2017-123236号公報
【特許文献4】特開2016-66461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、電動車両等、高水準の電池性能が求められる用途においては、常に、その更なる性能向上が模索されている。このため、上記のようなハイレート通電が二次電池の充放電性能に与える影響についてもまた、その更なる改善、つまりは所謂ハイレート特性の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する二次電池の各態様を記載する。
態様1は、セパレータを挟んで積層された正負の電極シートを捲回してなる電極体を備え、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるとともに、前記電極シートとして捲回された状態で、前記電極合材層に対して、所定時間、圧力を作用させた場合に、前記電極合材層に作用する単位圧力あたり、前記電極合材層の単位体積あたりの前記電極合材層から流出する電解液の重さを前記電極合材層に含浸された前記電解液の流動性指標値とした場合に、前記電極合材層に前記圧力を作用させる前記所定時間を3分として、前記電解液の流動性指標値を「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」で表したときに、正極合材層の前記流動性指標値から負極合材層の前記流動性指標値を減じた値が、0.48×10^-6以上である二次電池。
【0007】
上記構成によれば、ハイレート通電時においても、正極側と負極側とで、その電解液の塩濃度にムラが生じ難くなる。その結果、ハイレート通電による充放電性能の劣化が抑制される。そして、これにより、そのハイレート特性を向上させることができる。
【0008】
態様2は、前記正極合材層の前記流動性指標値が、7.8×10^-7以上、8.8×10^-6以下である態様1に記載の二次電池である。
態様3は、前記正極合材層の厚みが、0.034ミリメートル以上、0.050ミリメートル以下である態様1に記載の二次電池である。
【0009】
態様4は、前記負極合材層の前記流動性指標値が、2.4×10^-6以上、1.1×10^-5以下である態様1に記載の二次電池である。
態様5は、前記負極合材層の厚みが、0.060ミリメートル以上、0.080ミリメートル以下である態様1に記載の二次電池である。
【0010】
上記各構成によれば、効果的に、そのハイレート特性を向上させることができる。
態様6は、前記正極合材層が導電性繊維状炭素材を含有する態様1~態様5の何れか一つに記載の二次電池である。
【0011】
即ち、繊維状をなす導電性繊維状炭素材を含有することにより、正極合材層中に多くの微細な空隙が形成される。そして、これにより、その正極合材層に含浸された電解液の高い流動性を確保することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ハイレート特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】二次電池の斜視図である。
図2】電極体の分解図である。
図3】二次電池の側面図である。
図4】本実施形態の二次電池における正極合材層の構造を示す模式図である。
図5】参考例の二次電池における正極合材層の構造を示す模式図である。
図6】正負の電極及びセパレータの配置を示した模式図である。
図7】液流れ量の測定に用いるサンプルの作成工程を示す説明図である。
図8】液流れ量の測定に用いるサンプルの作成工程を示す説明図である。
図9】液流れ量の測定方法を示す説明図である。
図10】電解液流出量の測定方法を示すフローチャートである。
図11】液流れ量の測定方法を示す説明図である。
図12】参考例の二次電池について無通電状態におけるリチウムイオンの分布を示す説明図である。
図13】参考例の二次電池についてハイレート通電状態におけるリチウムイオンの分布を示す説明図である。
図14】参考例の二次電池についてハイレート通電状態におけるリチウムイオンの分布を示す説明図である。
図15】本実施形態の二次電池について無通電状態におけるリチウムイオンの分布を示す説明図である。
図16】本実施形態の二次電池についてハイレート通電状態におけるリチウムイオンの分布を示す説明図である。
図17】本実施形態の二次電池についてハイレート通電状態におけるリチウムイオンの分布を示す説明図である。
図18】正負の電極合材層について、その液流れ量が二次電池のハイレート特性に与える影響を示す表である。
図19】正負の電極合材層について、その液流れ量が二次電池のハイレート特性に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、二次電池及びその電極体に関する一実施形態を図面に従って説明する。
(二次電池)
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0015】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0016】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0017】
(電極シート及び電極体)
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極合材層32と、を備えた電極シート35としての構成を有する。
【0018】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだスラリー状の合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、その正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極合材層32P及び負極合材層32Nが形成される構成となっている。
【0019】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸10x周りに捲回される構成になっている。
【0020】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0021】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極合材層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これらの未塗工部39を利用して、その正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続され、及び、その負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0022】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸10xが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0023】
更に、このケース20内には、電解液50が注入される。即ち、リチウムイオン二次電池としての構成を有する二次電池1の電解液50には、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液50が含浸される構成になっている。
【0024】
(ハイレート特性対策)
図4に示すように、本実施形態の二次電池1において、電極体10を形成する正極合材層32Pには、導電性繊維状炭素材51としてのカーボンナノチューブCNTが含まれている。即ち、このカーボンナノチューブCNTは、合材ペースト37Pの状態で、正極活物質52Pとともに、その正極3用の基材36P上に塗工される(図2参照)。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、この正極合材層32P中に分散されたカーボンナノチューブCNTが、その近傍に位置する正極活物質52Pの導電経路を形成する導電材として機能する構成となっている。
【0025】
また、例えば、図5に示す参考例の正極合材層32BPのように、その導電材として、カーボンブラックCBのような粒状物質を含有する場合、その正極合材層32BPが密な構造を有するものとなる。そして、これにより、その正極合材層32BPに含浸された電解液50の流動性が低くなりやすい。
【0026】
これに対し、本実施形態の二次電池1においては、図4に示すように、繊維状をなすカーボンナノチューブCNTを含有することで、その正極合材層32P中に多くの微細な空隙が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、その正極合材層32Pに含浸された電解液50が高い流動性を有する構成となっている。
【0027】
また、図6に示すように、本実施形態の二次電池1においては、正極3を構成する正極合材層32P及び負極4を構成する負極合材層32Nが、それぞれ、固有の厚みDp,Dnを有している。更に、これらの正極合材層32P及び負極合材層32Nは、それぞれ、その含浸された電解液50の流動性を示す固有の流動性指標値を有している。そして、本実施形態の二次電池1は、これら正極合材層32P及び負極合材層32Nの各厚みDp,Dnを管理するとともに、その含浸された電解液50の流動性指標値を管理することで、そのハイレート特性の向上を図る構成となっている。
【0028】
詳述すると、本実施形態の二次電池1は、正負の電極シート35を構成するシート形状を有した基材36の両面に対し、それぞれ、電極合材層32が積層された所謂両面積層構造を有している。即ち、本実施形態の二次電池1においては、その基材36の表裏二面のうちの一方に積層された片面分が、それぞれ、その正極合材層32Pの片面厚みDhp及び負極合材層32Nの片面厚みDhnとなる。更に、これらの各片面厚みDhp,Dhnを、それぞれ、二倍した値が、その基材36に積層された電極合材層32の両面分、つまりは、正極合材層32Pの両面厚みDdp及び負極合材層32Nの両面厚みDdnとなる。そして、本実施形態の二次電池1は、これらの各両面厚みDdp,Ddnを、それぞれ、正極合材層32Pの厚みDp及び負極合材層32Nの厚みDnとして、その値を管理する構成となっている。
【0029】
具体的には、本実施形態の二次電池1において、正極合材層32Pは、導電材となるカーボンナノチューブCNT、基材36Pに対して合材ペースト37Pを塗工する際のプレス圧や速度等を調整することにより、その厚みDpが制御される。
【0030】
例えば、本実施形態の二次電池1には、BET法を用いた比表面積値で、150以上、300以下のカーボンナノチューブCNTが用いられる。尚、この所謂BET比表面積値の単位は、[m^2/g](平方メートル/グラム)である。また、プレス圧については、例えば、40kN以上、100kN以下に設定される。更に、塗工速度については、例えば、分速6m以上、120m以下の範囲に設定される。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、その正極合材層32Pの厚みDpが、例えば、0.034mm以上、0.050mm以下に制御される構成となっている。
【0031】
また、本実施形態の二次電池1において、負極合材層32Nは、黒鉛等の炭素系材料とともに、その合材ペースト37Nに添加される結着材や増粘材、並びにプレス圧や塗工速度等を調整することにより、その厚みDnが制御される。
【0032】
例えば、本実施形態の二次電池1において、合材ペースト37Nに添加される結着材には、スチレン・ブタジエン・コポリマー(SBR)やスチレン・アクリル・コポリマー(SAR)等が用いられる。そして、増粘材には、カルボキシ・メチル・セルロース(CMC)等が用いられる。
【0033】
また、プレス圧については、例えば、10kN以上、50kN以下に設定される。更に、塗工速度については、例えば、分速6m以上、120m以下の範囲に設定される。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、その負極合材層32Nの厚みDnが、例えば、0.060mm以上、0.080mm以下に制御される構成となっている。
【0034】
更に、本実施形態の二次電池1においては、これら正極合材層32Pの厚みDp及び負極合材層32Nの厚みDnとともに、それぞれ、その密度や空隙率が制御される。例えば、正極合材層32Pの密度は、2.2g/cc以上、2.9g/cc以下に制御される。また、負極合材層32Nの密度は、0.9g/cc以上、1.2g/cc以下に制御される。更に、正極合材層32Pの空隙率は、例えば、37%以上、51%以下に制御される。そして、負極合材層32Nの空隙率は、例えば、45%以上、55%以下に制御される。
【0035】
また、本実施形態の電解液50には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が用いられる。更に、これらの組成比率は、例えば、EC=1、1≦EMC≦1.5、1≦DMC≦1.5のように設定される。尚、この場合、電解液50の比重は、1.1以上、1.3以下の範囲となる。そして、本実施形態の電解液50は、これにより、その組成に基づいた粘度を有するものとなっている。
【0036】
また、本実施形態の二次電池1において、電極合材層32に含浸された電解液50の流動性指標値には、液流れ量Qが用いられる。具体的には、この液流れ量Qは、電極シート35として捲回された状態の電極合材層32に対して、所定時間、圧力を作用させることで、その作用する単位圧力あたり、単位体積あたりに、この電極合材層32から流出する電解液50の重さを示すものである。更に、本実施形態の二次電池1において、この液流れ量Qは、その電極合材層32に圧力を作用させる所定時間を3分として、[g(@3min)/kPa・mm^3](「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」)に表される。これにより、本実施形態の二次電池1においては、その正極3側の液流れ量Qpが、7.8×10^-7以上、8.8×10^-6以下の値を有する。尚、「×10^-7」は「10のマイナス7乗」であり、「×10^-6」は「10のマイナス6乗」である(以下、同様)。そして、本実施形態の二次電池1は、その負極4側の液流れ量Qnが、2.4×10^-6以上、1.1×10^-5以下の値を有する構成となっている。
【0037】
さらに詳述すると、本実施形態の二次電池1は、次式に示すように、電極合材層32に含浸された電解液50の流動性指標値としての液流れ量Qが、その負極4側よりも正極3側の方が大きくなるように構成されている。
【0038】
Qp>Qn ・・・(1)
具体的には、正極3側の液流れ量Qpから、その負極4側の液流れ量Qnを減じた値が、次の(2)式を満たすことが好ましい。
【0039】
Qp-Qn≧0.48×10^-6 ・・・(2)
更には、同じく、正極3側の液流れ量Qpから、その負極4側の液流れ量Qnを減じた値が、次の(3)式を満たすことが、より好ましい。
【0040】
Qp-Qn≧0.66×10^-6 ・・・(3)
そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのハイレート特性の向上を図る構成となっている。
【0041】
(液流れ量の測定方法)
図7及び図8に示すように、液流れ量Qを測定する際には、二次電池1の電極体10を構成する正負の電極シート35から、それぞれ、その液流れ量Qの測定に用いるサンプル60を作成する。
【0042】
具体的には、先ず、実際の電極シート35から、所定の長さL及び所定の幅Wを有した帯状のサンプルシート62を切り出す。次に、このサンプルシート62を棒状部材63に巻き付けるとともに、その捲回形状を図示しない巻き止めテープで固定する。そして、この状態で、そのサンプルシート62が巻き付けられた棒状部材63を抜脱することにより、二次電池1の電極体10と同様に捲回体としての構成を有した測定用のサンプル60を形成する。
【0043】
図9に示すように、本実施形態の二次電池1においては、上記のように形成されたサンプル60が、密閉容器として構成された測定用のケース64内に配置される。そして、この状態で、このサンプル60に対して所定時間、圧力Pを作用させることにより、その電極合材層32から流出する電解液50の重さを測定する。
【0044】
具体的には、図10に示すように、先ず、サンプル60を入れたケース64内に電解液50を充填することにより、このサンプル60に電解液50を含浸、詳しくは、その電極合材層32に電解液50を含浸させる(ステップ101)。尚、上記のように棒状部材63を抜脱することにより形成されたサンプル60の孔部は、例えば、棒状のゴム栓65を挿入する等により液密に封止される。次に、ケース64内の電解液50を排出することにより、そのケース64内に、電解液50が含浸されたサンプル60のみが配置された状態にする(ステップ102)。そして、この状態で、ケース64に接続された加圧装置66を用いて、そのケース64内を所定の圧力Pに加圧する(ステップ103)。
【0045】
次に、この加圧状態を所定時間t維持する(ステップ104:NO)。尚、上記のように、本実施形態の二次電池1において、この所定時間tは「3分」である。更に、所定時間tの経過後(ステップ104:YES)、そのケース64に溜まった電解液50、つまりは、加圧によりサンプル60から流出した電解液50の重さを電解液流出量Fwとして測定する(ステップ105)。そして、本実施形態の二次電池1においては、このステップ105で測定された電解液流出量Fwに基づいて、そのサンプル60一つあたりの液流れ量Qsが演算される。
【0046】
詳述すると、図11に示すように、本実施形態の二次電池1においては、上記のような加圧による電解液流出量Fwの測定を、そのケース64内のサンプル60に作用させる所定の圧力Pを変えて実行する。例えば、第1の所定圧力P1を「37kPa」、第2の所定圧力P2を「104kPa」、第3の所定圧力P3を「165kPa」として、それぞれ、その加圧による電解液流出量Fwの測定を実行する。また、これらの所定圧力P1,P2,P3での加圧測定は、例えば、サンプル60を交換することなく、その圧力Pが低い方から順に、各所定圧力P1,P2,P3について、それぞれ、3分ずつ実行される。そして、これにより、その所定圧力P1,P2,P3毎に得られた電解液流出量Fw1,Fw2,Fw3を、その各所定圧力P1,P2,P3と関連付けてX-Y座標上にプロットする。
【0047】
即ち、加圧によりサンプル60から流出した電解液50の重さである電解液流出量Fwは、そのサンプル60に作用させた所定の圧力Pに応じた値となる。従って、上記のように、その測定結果をX-Y座標上にプロットすることで、これらの関係を示す一次近似式(y=ax+b)が得られる。そして、本実施形態の二次電池1においては、この一次近似式の傾きから、その[g(3min)/kPa]に表されるサンプル60一つあたりの液流れ量Qsを演算する。
【0048】
また、図7及び図8に示すように、本実施形態の二次電池1において、サンプル60における電極合材層32の体積Vは、次式のように、このサンプル60を構成するサンプルシート62の長さL及び幅W、並びに、その電極合材層32の厚みDにより決定される。
【0049】
V=D×L×W ・・・(4)
具体的には、本実施形態の二次電池1において、サンプルシート62の長さLは「500mm」、幅Wは「55mm」に規定されている。更に、上記のように、二次電池1の電極体10を構成する電極合材層32に含浸された電解液50の流動性指標値としての液流れ量Qは、「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」に表される。つまり、液流れ量Qは、電極シート35として捲回された状態の電極合材層32に対して、所定時間t、圧力Pを作用させることで、その作用する単位圧力あたり、単位体積あたりに、この電極合材層32から流出する電解液50の重さを示す値である。このため、流動性指標値としての液流れ量Qは、次式のように、サンプル60一つあたりの液流れ量Qsを、そのサンプル60における電極合材層32の体積Vで除した値となる。
【0050】
Q=Qs/V ・・・(5)
そして、本実施形態の二次電池1においては、これを利用することで、上記のような図7図11に示す各工程を経て、その二次電池1の電極体10を構成する電極合材層32に含浸された電解液50の流動性指標値としての液流れ量Qの測定が行われる。
【0051】
(作用)
図12図14に示す参考例の二次電池1Bのように、通常、ハイレート通電時には、正極3側と負極4側とで、その電解液50の塩濃度にムラが生じやすくなる。即ち、図13に示すようなハイレート放電時には、負極4側のリチウムイオン濃度が高くなりやすい。また、図14に示すようなハイレート充電時には、負極4側のリチウムイオン濃度が低くなりやすい。そして、これにより生ずる塩濃度のムラにより内部抵抗が増大することで、その充放電性能が劣化することになる。
【0052】
この点、本実施形態の二次電池1においては、上記のように、その電極体10を構成する正極合材層32P及び負極合材層32Nについて、それぞれ、その各厚みDp,Dn、が管理される。更に、これらの各正極合材層32P及び負極合材層32Nについて、それぞれ、その含浸された電解液50の流動性指標値となる液流れ量Qp,Qnが管理される。
【0053】
その結果、図15図17に示すように、ハイレート通電時においても、その正極3側と負極4側とで、その電解液50の塩濃度にムラが生じ難くなる。そして、これにより、そのハイレート通電による充放電性能の劣化が抑制される。
【0054】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)二次電池1は、セパレータ5を挟んで積層された正極3用の電極シート35P及び負極4用の電極シート35Nを捲回してなる電極体10を備える。各電極シート35P,35Nは、集電体31となる基材36に電極合材層32を積層することにより形成される。また、電極シート35として捲回された状態で電極合材層32に対して、所定時間t、圧力Pを作用させた場合に、その電極合材層32に作用する単位圧力あたり、単位体積あたりの電極合材層32から流出する電解液50の重さを液流れ量Qとする。更に、この液流れ量Qを、その電極合材層32に含浸された電解液50の流動性指標値とする。液流れ量Qは、電極合材層32に圧力Pを作用させる所定時間tを3分として、「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」に表される。そして、二次電池1は、正極合材層32Pの液流れ量Qpから、負極合材層32Nの液流れ量Qnを減じた値(Qp-Qn)が、0.48×10^-6以上となるように構成される。
【0055】
上記構成によれば、ハイレート通電によって、その電極体10に含浸された電解液50に生ずる塩濃度のムラを抑えることができる。そして、これにより、そのハイレート特性を向上させることができる。
【0056】
(2)正極合材層32Pは、その液流れ量Qpが、7.8×10^-7以上、8.8×10^-6以下の値を有する。また、正極合材層32Pは、その厚みDpが、0.034ミリメートル以上、0.050ミリメートル以下の値を有する。更に、負極合材層32Nは、その液流れ量Qnが、2.4×10^-6以上、1.1×10^-5以下の値を有する、そして、負極合材層32Nは、その厚みDnが、0.060ミリメートル以上、0.080ミリメートル以下の値を有する。これにより、効果的に、そのハイレート特性を向上させることができる。
【0057】
(3)正極合材層32Pは、導電性繊維状炭素材51としてのカーボンナノチューブCNTを含有する。
即ち、繊維状をなすカーボンナノチューブCNTを含有することにより、正極合材層32P中に多くの微細な空隙が形成される。そして、これにより、その正極合材層32Pに含浸された電解液50の高い流動性を確保することができる。
【0058】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
・上記実施形態では、二次電池1は、正負の電極シート35を構成するシート形状を有した基材36の両面に対し、それぞれ、電極合材層32が積層された所謂両面積層構造を有する。このため、正極合材層32P及び負極合材層32Nについて、それぞれ、その両面厚みDdp,Ddnを、これら正極合材層32Pの厚みDp及び負極合材層32Nの厚みDnとした。しかし、これに限らず、正負の電極シート35が、その基材36の片面のみに電極合材層32が積層された所謂片面積層構造を有する構成に適用してもよい。そして、この場合、正極合材層32Pの片面厚みDhp及び負極合材層32Nの片面厚みDhnを、これら正極合材層32P及び負極合材層32Nの各厚みDp,Dnとするとよい。
【0060】
・上記実施形態では、電解液50の流動性指標値となる液流れ量Qを[g(@3min)/kPa・mm^3](「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」)に表す。この場合、正極合材層32Pは、その液流れ量Qpが、7.8×10^-7以上、8.8×10^-6以下の値を有する。また、負極合材層32Nは、その液流れ量Qnが、2.4×10^-6以上、1.1×10^-5以下の値を有する。更に、正極合材層32Pは、その厚みDpが0.034mm以上、0.050mm以下である。そして、負極合材層32Nは、0.060mm以上、0.080mm以下であることとした。しかし、これに限らず、これらの値は、上記(2)式の関係を満たす範囲で任意に変更してもよい。望ましくは、上記(3)式の関係を満たす範囲であるとよい。
【0061】
・更に、ハイレート特性の要求水準によっては、上記(1)式の関係を満たす範囲まで拡張してもよい。つまりは、「電極合材層32に含浸された電解液50の流動性指標値が、負極4側よりも正極3側の方が大きい」構成としてもよい。そして、この場合、例えば、その流動性指標値として、流出速度の概念を含む値等、上記実施形態に詳述した液流れ量Q以外の指標値を用いてもよい。
【0062】
・また、正極合材層32P及び負極合材層32Nの密度や空隙率についても任意に変更してもよい。基材36に対して合材ペースト37を塗工する際のプレス圧や速度等についても任意に変更してもよい。そして、導電材や結着材及び増粘材についてもまた、任意に変更してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、正極合材層32Pは、導電性繊維状炭素材51としてのカーボンナノチューブCNTを含有することとした。しかし、これに限らず、例えば、カーボンナノファイバー(CNF)等、その他、導電性を有する繊維状の炭素材を導電材に用いる構成としてもよい。更に、例えば、所謂BET比表面積値等、その諸元についてもまた、任意に変更してもよい。そして、必ずしも、このような導電性繊維状炭素材51を含有していなくともよい。
【0064】
・上記実施形態では、液流れ量Qの測定に用いるサンプル60は、長さLが「500mm」、幅Wが「55mm」のサンプルシート62を用いて形成されることとした。しかし、これに限らず、サンプルシート62の大きさ、即ち、このサンプルシート62を用いて形成されるサンプル60における電極合材層32の体積Vは、任意に変更してもよい。
【0065】
・上記実施形態では、液流れ量Qの測定する際、電極合材層32に圧力を作用させる所定時間tを3分として、その加圧によりサンプル60から流出した電解液50の重さである電解液流出量Fwを測定することとした。しかし、これに限らず、その所定時間tは、任意に変更してもよい。
【0066】
・また、上記実施形態では、第1の所定圧力P1を「37kPa」、第2の所定圧力P2を「104kPa」、第3の所定圧力P3を「165kPa」として、その加圧による電解液流出量Fwの測定を実行する。そして、その所定圧力P1,P2,P3毎に得られた電解液流出量Fw1,Fw2,Fw3を、その各所定圧力P1,P2,P3と関連付けてX-Y座標上にプロットすることにより、サンプル60一つあたりの液流れ量Qsを演算することとした。しかし、これに限らず、加圧による電解液流出量Fwの測定は、2回でもよく、4回以上、行ってもよい。そして、各施行回において、そのサンプル60の電極合材層32に作用させる圧力Pの値は任意に変更してもよい。
【0067】
・上記実施形態では、二次電池1は、リチウムイオン二次電池としての構成を有することとした。しかし、これに限らず、リチウムイオン二次電池以外の二次電池1に適用してもよい。
【0068】
・正極端子38P及び負極端子38Nの端子形状については、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【0069】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)セパレータを挟んで積層された正負の電極シートを捲回してなり、前記各電極シートは、集電体となる基材に電極合材層を積層してなるとともに、前記電極合材層に含浸された電解液の流動性指標値が、負極側よりも正極側の方が大きい電極体。
【実施例0070】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするための実施例等を記載する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
図18及び図19は、電極体10を構成する正極合材層32P及び負極合材層32Nについて、それぞれ、その液流れ量Qp,Qnが二次電池1のハイレート特性に与える影響に関する試験結果を一覧に示す表及びグラフである。
【0071】
詳述すると、表中の(1)(2)欄は、上記実施形態において詳述したサンプル60一つあたりの正極3側及び負極4側の各液流れ量Qsp,Qsnである。即ち、この特性試験において、これらサンプル60一つあたりの液流れ量Qsp,Qsnの測定は、その「実施例1」~「実施例4」及び「比較例1」~「比較例7」について、それぞれ、上記実施形態において詳述した方法により行われている。そして、これにより、これら表中の(1)(2)欄に示すサンプル60一つあたりの液流れ量Qsp,Qsnは、その単位が[g(3min)/kPa]となっている。
【0072】
さらに詳述すると、この特性試験において、「実施例1」~「実施例4」及び「比較例1」~「比較例7」に対応する各サンプル60は、それぞれ、その電極合材層32が固有の厚みDp,Dnを有している。尚、表中、(3)(4)の諸元欄に示す正極合材層32Pの厚みDp及び負極合材層32Nの厚みDnは、それぞれ両面厚みDdp,Ddnである。また、これらの各サンプル60は、全て、その長さLが「500mm」、幅Wが「55mm」のサンプルシート62を用いて形成されている。つまり、「実施例1」~「実施例4」及び「比較例1」~「比較例7」における各サンプル60の電極合材層32は、それぞれ、上記実施形態中の(4)式に示すように、その厚みDの違いに基づいた固有の体積Vを有している。更に、表中、(5)(6)欄に示す値は、それぞれ、上記(5)式により、そのサンプル60一つあたりの液流れ量Qsp,Qsnを、各サンプル60の電極合材層32に固有の体積Vで除することにより得られる単位体積あたりの各液流れ量Qp,Qnである。そして、これにより、これら各液流れ量Qp,Qnの単位は、[g(3min)/kPa・mm^3]となっている。
【0073】
また、表中の(7)欄は、(5)欄の値から(6)欄の値を減じた値、即ち、正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値である(Qp-Qn)。更に、表中の(8)欄に示すハイレート特性の評価指標については「抵抗増加率」を用いた。即ち、この抵抗増加率は、ハイレート通電に該当する大電流(数十アンペア以上)で一定時間の充放電を繰り返す充放電サイクル試験を実施した後の内部抵抗(CD-IR)の増加率[%]である。従って、各図中に示すハイレート特性は、その値が小さいほど、ハイレート通電による充放電性能の劣化が小さい。つまりは、より優れたハイレート特性を有することを示すものとなっている。
【0074】
図18及び図19に示すように、「実施例1」~「実施例4」は、何れも、表中の(7)欄に示す値が「正」である。即ち、正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が「正」となっている(Qp-Q>0)。つまり、その電解液50の流動性指標値となる液流れ量Qp,Qnを比較した場合、負極4側よりも正極3側の方が大きい(Qp>Qn)。そして、これらの「実施例1」~「実施例4」は、そのハイレート特性の評価指標値となる「抵抗増加率(%)」が、それぞれ、「107」「100」「107」「108」と、何れも優れた値となっている。
【0075】
これに対し、「比較例1」を除き、「比較例2」~「比較例7」は、何れも、正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が「負」である(Qp-Qn<0)。つまりは、その液流れ量Qp,Qnを比較した場合、負極4側よりも正極3側の方が小さい(Qp<Qn)。そして、これら「比較例2」~「比較例7」は、ハイレート特性の評価指標値となる「抵抗増加率(%)」の要求水準を「114」とした場合に、何れも、その値が要求水準値よりも大きな値である。つまりは、ハイレート特性の顕著な改善効果が得られない結果となった。尚、「比較例1」については、その正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が僅かに「正」となっているものの、その「抵抗増加率(%)」は「114」となっている。
【0076】
また、「実施例1」~「実施例4」を比較した場合、「実施例1」「実施例3」「実施例4」が、特に優れたハイレート特性を示している。更に、これらの「実施例1」~「実施例4」を比較した場合、その表中の(7)欄に示す値は、「実施例2」が最も小さい。そして、その値は「0.48×10^-6」であった。
【0077】
以上の試験結果から、上記実施形態において、好ましい数値範囲として示した(2)式の関係が導かれる。つまりは、液流れ量Qを「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」に表す場合に、その好ましい数値範囲を「Qp-Qn≧0.48×10^-6」とすることが妥当であることを確認することができる。
【0078】
更に、正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が「正」となる場合におけるハイレート特性の改善効果についてもまた、「実施例1」~「実施例4」の試験結果から、その変化点を見出することができる。
【0079】
詳述すると、図19中に、ハイレート特性の評価指標となる「抵抗増加率(%)」が「114」且つ正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が「0」となる点、及び「実施例2」の試験結果を示す点を基準とした補助線m1を記載する。これにより、その正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が大きくなるに従って、そのハイレート特性が比較的急峻に改善する領域が確認される。また、同図中には、「実施例1」「実施例3」「実施例4」の試験結果を示す各点を基準とする補助線m2に表されるような、高いハイレート特性が得られる領域が確認される。更に、これら2つの補助線m1,m2の交点から、そのハイレート特性の改善効果の変化点が見出される。そして、この変化点は、液流れ量Qを「グラム(@3分)/キロパスカル・立方ミリメートル」に表した場合に、その正極3側の液流れ量Qpから負極4側の液流れ量Qnを減じた値が「0.66×10^-6」となる位置にある。
【0080】
以上の試験結果から、上記実施形態において、より好ましい数値範囲として示した(3)式の関係が導出される。即ち、「Qp-Qn≧0.66×10^-6」の数値範囲が妥当であることを確認することができる。そして、ハイレート特性の要求水準が比較的緩い場合等には、測定誤差を考慮することにより、その「比較例1」を除外することで、上記(1)式に示す範囲(Qp-Qn>0)まで、その好ましい数値範囲を拡張可能であると推察される。
【0081】
また、「実施例1」~「実施例4」は、何れも、正極3側の液流れ量Qpが、「7.8×10^-7」以上、「8.8×10^-6」以下の範囲内にある。また、これらの「実施例1」~「実施例4」は、何れも、その正極合材層32Pの厚みDpが、「0.034mm」以上、「0.050mm」以下の範囲内にある。更に、これらの「実施例1」~「実施例4」は、何れも、負極4側の液流れ量Qnが、「2.4×10^-6」以上、「1.1×10^-5」以下の範囲内にある。そして、これらの「実施例1」~「実施例4」は、その負極合材層32Nの厚みDnが、何れも、「0.060mm」以上、「0.080mm」以下の範囲内にある。
【0082】
以上から、上記実施形態において、好ましい数値範囲として示した正極合材層32Pの液流れ量Qp及び厚みDp、並びに、負極合材層32Nの液流れ量Qn及び厚みDnが、何れも妥当であることを確認することができる。
【符号の説明】
【0083】
1…二次電池
3…正極
4…負極
5…セパレータ
10…電極体
31…集電体
32…電極合材層
35P…電極シート
35N…電極シート
36…基材
50…電解液
Q,Qp,Qn…液流れ量(流動性指標値)
t…所定時間
P…圧力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19