(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024147303
(43)【公開日】2024-10-16
(54)【発明の名称】吸油材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/24 20060101AFI20241008BHJP
D04H 1/02 20060101ALI20241008BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241008BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241008BHJP
【FI】
B01J20/24 C
D04H1/02
B01J20/30
B01J20/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060231
(22)【出願日】2023-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 直人
【テーマコード(参考)】
4G066
4L047
【Fターム(参考)】
4G066AC07B
4G066BA12
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA05
4G066DA07
4G066FA40
4L047AA08
4L047AB02
4L047CA20
4L047CC14
(57)【要約】
【課題】 良好な吸油性能を持つ吸油材を得る方法を提供する。
【解決手段】 木綿原綿を開繊機に通す。木綿原綿は、梱包され圧縮された状態の木綿である。開繊機は、シリンダの表面に多数の金属製スパイクピンが植え付けられ、このシリンダが回転する機械である。木綿原綿を開繊機に通すと、高速で回転するシリンダに植え付けられたスパイクピンによって、木綿原綿が掻き取られると共に引き裂かれて、木綿原綿が分塊して木綿小塊となる。この木綿小塊を不織布製袋に収納して吸油材を得る。この吸油材は、高吸油率、高保持率及び高吸油速度を持ち、吸油性能に優れている。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木綿塊を開繊機に通し分塊して木綿小塊を得る工程と、該木綿小塊を不織布製袋に収納する工程よりなる吸油材の製造方法。
【請求項2】
木綿塊を開繊機に複数回通す請求項1記載の吸油材の製造方法。
【請求項3】
木綿塊が原綿又は木綿製品である請求項1記載の吸油材の製造方法。
【請求項4】
木綿小塊の見掛け密度が0.0089~0.0136g/cm3である請求項1記載の吸油材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸油率等の吸油性能に優れた吸油材の製造方法に関するのである。
【背景技術】
【0002】
従来より、不織布製袋に木綿(コットン繊維)を収納した吸油材は知られている。たとえば、特許文献1には、未利用繊維コットンを不織布製袋に収納した吸油材が知られている。ここで、未利用繊維コットンとは、紡績時に発生する屑繊維等のことである(国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律〈グリーン購入法〉に基づいて定められた基本方針〈環境物品等の調達の推進に関する基本方針〉を参照のこと。)。また、特許文献2には、未脱脂木綿を不織布製袋に収納した吸油材も知られている。ここで、未脱脂木綿として、落綿(カード機に掛からなかった未脱脂木綿)を用いるのが好ましいと記載されている。
【0003】
しかしながら、未利用繊維コットンや落綿は繊維長が短く、繊維相互間の絡み合いが少ないため、吸油性能の良好な吸油材が得られないという欠点があった。このため、未利用繊維コットンや落綿に代えて、原綿を用いることが考えられるが、原綿は圧縮されすぎているため、吸油性能の良好な吸油材が得られなかった。また、原綿をカード機に掛けて開繊した繊維ウェブ、繊維スライバ又は不織布を用いることも考えられるが、繊維相互間の絡み合いが少なく、嵩高ではないため、吸油性能の良好な吸油材が得られなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2011-72929号公報
【特許文献2】特開2007-7529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等が木綿を用いて吸油材を得る研究を行っていたところ、原綿からカード機に掛ける前の状態の木綿小塊が比較的良好な吸油性能を持っていることが判明した。本発明はかかる知見に基づくものである。したがって、本発明の課題は、良好な吸油性能を持つ吸油材を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、原綿等の木綿塊を開繊機に通し分塊して木綿小塊を得る工程と、該木綿小塊を不織布製袋に収納する工程よりなる吸油材の製造方法に関するものである。ここで、「原綿」とは、梱包され圧縮された状態の木綿のことである。また、「開繊機」とは、シリンダの表面に多数の金属製スパイクピンが植え付けられ、このシリンダが回転する機械である。したがって、開繊機に低速で木綿塊が供給されると、スパイクピンによって木綿塊が掻き取られると共に引き裂かれ、木綿塊を木綿小塊に分塊しうるものである。なお、スパイクピンはシリンダ表面に規則的に植え付けられており、隣り合うスパイクピンの間隔は、シリンダの周方向において2~4cm程度であり、シリンダの幅方向において1~2cm程度である。
【0007】
本発明では、まず、木綿塊を準備する。木綿塊としては、原綿が好適である。具体的には、産地から梱包され搬送された木綿原綿や、漂白処理だけされて梱包され搬送された未脱脂木綿原綿等が用いられる。また、原綿の他に、木綿製不織布等の木綿製品を用いることもできる。なお、木綿塊の中には、木綿繊維以外の他種繊維が少量含有されていてもよい。そして、木綿塊を開繊機に掛ける。具体的には、開繊機の直前に設けられたフィードローラに木綿塊を供給し、木綿塊を開繊機に通す。フィードローラの直径は開繊機のシリンダの直径よりも小さく、かつ、フィードローラの回転速度は開繊機のシリンダの回転速度よりも遅いため、木綿塊はシリンダのスパイクピンによって掻き取られると共に引き裂かれて、木綿塊は分塊され、開繊機から木綿小塊として排出される。シリンダの直径はフィードローラの直径に対して約5~20倍であるのが好ましい。また、シリンダの回転速度はフィードローラの回転速度に対して約100~1000倍であるのが好ましい。なお、シリンダの直径は30~100cm程度とするのが好ましく、シリンダの回転速度は300~900rpm程度にするのが好ましい。
【0008】
木綿塊は開繊機に複数回通してもよい。すなわち、木綿塊を開繊機に通して排出されたものを、さらに1回又は2回以上開繊機に通してもよい。開繊機に複数回通すと、徐々に見掛け密度は低下する。しかしながら、開繊機であるため限度があり、カード機を通した場合のように、一本々々の木綿繊維がばらけた状態とならず、木綿小塊の状態を維持している。本発明においては、開繊機に10回程度通すのが上限であり、これ以上通すのは合理的ではない。
【0009】
開繊機を通して得られた木綿小塊の見掛け密度は、0.0089~0.0136g/cm3であるのが好ましい。この程度の見掛け密度の木綿小塊が良好な吸油性能を示すことが判明している。ここで、見掛け密度は以下の測定方法で測定及び算出されるものである。
(1)木綿小塊1gを秤量し、木綿小塊が潰れないように注意して100mLビーカー[PYREX(登録商標) 岩城硝子(現ACGテクノグラス)社製]にまんべんなく、やさしく入れる。
(2)あらかじめビーカーの内径に合わせて円状に切り出しておいた濾紙(ADVANTEC社製No.2)を、ビーカー内の木綿小塊の上にやさしく載せる。
(3)濾紙の上に、10gの分銅を濾紙が水平になるようにしてやさしく載せる。
(4)ビーカーの目盛り線に従って濾紙が示す目盛りを読み取り、その値を木綿小塊の容積(Xcm3)とする。
(5)木綿小塊の重量1gを木綿小塊の容積Xcm3 で除し、見かけ密度(g/cm3)とする。
【0010】
得られた木綿小塊を、不織布製袋に収納して吸油材とする。袋を構成する不織布としては、従来公知の不織布が用いられる。特に、透油性に優れた不織布を採用するのが好ましく、たとえば、低目付(10~20g/m2程度)で厚みが薄く(0.1~0.3mm程度)、かつ、高強度のスパンボンド不織布を採用するのが好ましい。また、スパンボンド不織布の構成繊維は、ポリプロピレン等の熱可塑性長繊維であるのが好ましい。袋の口を熱溶着して封しうるからである。不織布製袋に木綿小塊を収納する方法とては、口の開いた不織布製袋を作成し、口から木綿小塊を入れた後、その口を封すればよい。具体的には、二枚の不織布を重ねて三方を熱溶着し、熱溶着されていない口から木綿小塊を入れ、その口を熱溶着して封すればよい。また、一枚の不織布を筒状に曲げて両端を重ねて熱溶着し、さらに筒の下端を熱溶着し、筒の上端の口から木綿小塊を入れた後、その口を熱溶着して封すればよい。
【0011】
本発明に係る方法で得られた吸油材は、家庭、飲食店又は工場等で使用し排出した食用油又は機械油等を吸収し回収するために用いられる。また、船舶事故等で海上に流出した油を吸収し回収するために用いられる。その他、各種油を吸収し廃棄するためにも用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る方法で得られた吸油材は、特定の方法で得られた木綿小塊を吸収体とするものであるため、良好な吸油性能を示すという効果を奏する。
【実施例0013】
実施例1
木綿原綿を開繊機(大和機工社製OP-200、シリンダ直径:38cm、フィードローラ直径:5cm)に1回通して、見掛け密度0.0136g/m3の木綿小塊を得た。開繊機の駆動条件は、フィードローラの回転数を2rpmとし、シリンダの回転数を580rpmとした。一方、ポリプロピレン長繊維スパンボンド不織布(三井化学社製PS-103、目付16g/m2、厚さ0.18mm)を7.5cm角に2枚切り出し、4辺を重ね合わせ、うち3辺をヒートシーラー(富士インパルスシーラー社製FI-300)を用いて熱溶着して、袋を作製した。熱溶着されていない袋の口から、木綿小塊が潰れないように、木綿小塊0.5gを袋内にやさしく入れた。そして、袋の口を熱溶着して、木綿小塊を不織布製袋に収納して吸油材を得た。なお、熱溶着部の幅は0.5cmとした。
【0014】
実施例2
木綿原綿を開繊機(大和機工社製OP-200)に10回通して,見掛け密度0.0089g/m3の木綿小塊を得た。この木綿小塊を実施例1と同一の方法で不織布製袋に収納して吸油材を得た。なお、開繊機の駆動条件は実施例1と同一であって、10回とも同一である。
【0015】
実施例3
未脱脂木綿原綿を開繊機(大和機工社製OP-200)に1回通して、見掛け密度0.0133g/m3の木綿小塊を得た。この木綿小塊を実施例1と同一の方法で不織布製袋に収納して吸油材を得た。なお、開繊機の駆動条件は実施例1と同一である。
【0016】
実施例4
未脱脂木綿原綿を開繊機(大和機工社製OP-200)に10回通して、見掛け密度0.0091g/m3の木綿小塊を得た。この木綿小塊を実施例1と同一の方法で不織布製袋に収納して吸油材を得た。なお、開繊機の駆動条件は実施例1と同一であって、10回とも同一である。
【0017】
比較例1
見掛け密度0.0164g/m3の木綿原綿0.5gを開繊機に通さずに、そのまま実施例1で用いた不織布製袋に収納して吸油材を得た。
【0018】
比較例2
見掛け密度0.0175g/m3の未脱脂木綿原綿0.5gを開繊機に通さずに、そのまま実施例1で用いた不織布製袋に収納して吸油材を得た。
【0019】
比較例3
5.0cm角に切り出した木綿製不織布(ユニチカ社製、コットンスパンレース不織布「CO50S/A01)を4枚重ねとしたものを、実施例1で用いた不織布製袋に収納して吸油材を得た。
【0020】
実施例1~4及び比較例1~3で得られた吸油材に関し、以下の吸油性能について、以下の方法で測定した。
[吸油率(g/g)]
(1)吸油材の重量W0(g)を測定する。
(2)この吸油材を油面に浮かべて、5分間油に浸す。
(3)5分後、油から取り出し、3分間吊るす。
(4)3分後、吸油材の重量W1(g)を測定する。
(5)[(W1-W0)/W0]なる式で算出した値を吸油率(g/g)とする。
【0021】
[保持率(g/g)]
上記の吸油率(g/g)の測定において、上記(3)の過程で吸油材から流れ落ちた油の重量をW2(g)を測定し、{(W1-W0)/[(W1-W0)+W2]}なる式で算出した値を保持率(g/g)とする。
【0022】
[吸油速度(g/10s)]
(1)吸油材の重量W3(g)を測定する。
(2)この吸油材を油面に浮かべて、10秒間油に浸す。
(3)10秒後、油から取り出し、吸油材の重量W4(g)を測定する。
(4)(W4-W3)なる式で算出した値を吸油速度(g/10s)とする。
【0023】
[食用油の吸油性能]
オリーブオイル(日清オイリオグループ社製 エキストラバージン・オリーブオイル「BOSCO(ボスコ)」)について、実施例1~4及び比較例1~3で得られた吸油材の吸油性能を評価した結果、表1のとおりであった。
【0024】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
吸油率(g/g) 保持率(g/g) 吸油速度(g/10s)
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実施例1 28.8 0.57 27.0
実施例2 39.6 0.63 33.5
実施例3 29.5 0.55 31.0
実施例4 41.6 0.64 36.9
比較例1 21.9 0.45 24.5
比較例2 19.4 0.47 24.2
比較例3 7.5 0.40 14.4
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【0025】
表1の結果から明らかなとおり、実施例に係る方法で得られた吸油材は、比較例に係る方法で得られた吸油材に比べて、高吸油率、高保持率及び高吸油速度であり、吸油性能に優れているものである。
【0026】
[機械油の吸油性能]
高真空ポンプ油(MORESCO社製 高真空ポンプ油「ネオバックMR-100」)について、実施例1~4及び比較例1~3で得られた吸油材の吸油性能を評価した結果(ただし、吸油速度は評価していない。)、表2のとおりであった。
【0027】
[表2]
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吸油率(g/g) 保持率(g/g)
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実施例1 28.9 0.58
実施例2 43.6 0.64
実施例3 28.1 0.62
実施例4 41.1 0.67
比較例1 22.5 0.50
比較例2 21.4 0.50
比較例3 7.9 0.41
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【0028】
表2の結果から明らかなとおり、実施例に係る方法で得られた吸油材は、比較例に係る方法で得られた吸油材に比べて、高吸油率及び高保持率であり、吸油性能に優れているものである。